JP5074645B2 - 励起光源装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は半導体レーザ素子とそれを用いた励起光源装置に関し、更に詳しくは、高光出力であり、波長合成して光ファイバ増幅器用の励起光源装置を組み立てるときに用いて有効なファブリ・ペロー型半導体レーザ素子と、それを用いた高光出力の励起光源装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
DWDM (Dense-Wavelength Division Multiplexing) の進展により、光ファイバ増幅器の高光出力化の要求が強まっているが、このことに伴い、光ファイバ増幅器用の励起光源装置に対しても高光出力化への要求が強まっている。
とくに、最近では、ごく普通のシングルモード光ファイバを用いて極めて広い帯域で利得が得られるラマン増幅に関する研究開発が盛んに行われているが、このラマン増幅に使用される励起光源装置としては、信号波長に対してラマンシフトだけ短い種々の波長のレーザ光を発振する多数の半導体レーザモジュールの光出力を合成した高出力の励起光源装置が必要とされる。
【0003】
励起光源装置の高出力化に関しては、米国特許第5,936,763号には次のような励起光源装置が開示されている。
この装置は、互いに異なる発振波長でレーザ光を発振する複数個の半導体レーザモジュールからの当該各発振波長のレーザ光を波長多重カプラで多重化して高光出力化する装置である。その具体例としては、図6で示したように、光出力が100mWであり、かつ1450〜1485nmの波長帯域において5nm間隔の各波長で発振する8個の半導体レーザモジュールMからの各発振波長のレーザ光を波長多重カプラCで多重化して680mWの光出力を得る励起光源装置が開示されている。
【0004】
上記した先行技術のように、各モジュールの光出力を波長多重化する場合、各モジュールに組み込まれているファブリ・ペロー型半導体レーザ素子からの発振レーザ光の発振波長は、当該半導体レーザ素子の駆動電流や環境温度と無関係に、一定の波長に固定されていることが好ましい。
このようなモジュールに組み込まれるファブリ・ペロー型半導体レーザ素子からの発振レーザ光の波長を固定する方法としては、従来から、当該レーザ素子に光結合させる光ファイバにファイバグレーティングを形成する方法が知られている。
【0005】
ここで、ファイバグレーティングとは、光ファイバのコアの長手方向における屈折率分布を所定の周期で繰返し変化させたものであって、図7で示したように、特定波長、つまり中心波長(図では1480nm)を中心とした波長帯域にのみ反射率を有する反射スペクトルを示すという特性を備えている。そして、反射率がピーク反射率(R)の1/2になるときの反射率のスペクトル幅は反射帯域幅と呼ばれ、この反射帯域幅はピーク反射率とともにファイバグレーティングを特徴づけるパラメータの1つになっている。
【0006】
このファイバグレーティングを半導体レーザ素子に光結合した状態で当該半導体レーザ素子を駆動すると、当該半導体レーザ素子から発振した各種波長のうち、前記特定波長を中心とする反射帯域幅内の波長のみが半導体レーザ素子に帰還するので、その半導体レーザ素子の発振レーザ光の波長が固定され、またその特定波長を中心とする狭い波長領域ではレーザ発振に必要な光出力利得を得ることができる。
【0007】
しかしながら、半導体レーザ素子の駆動電流や周囲の温度が変化すると、当該半導体レーザ素子からの発振レーザ光における縦モードがシフトし、そのことにより、電流−光出力特性には図8で示したようなキンクが発生する。
そして、半導体レーザモジュールは、そこから出力する励起用レーザ光の強度をモニターしながらこれが一定値となるように制御して使用されるため、そのレーザモジュールに組み込まれている半導体レーザ素子の発振レーザ光に上記したようなキンクが発生して電流−光出力特性に負の微分係数が存在すると、その半導体レーザ素子が組み込まれているモジュールからの光出力を、自動光出力制御(APC:Automatic Power Control)することが困難になるという問題が生ずる。
【0008】
このような問題を解決するために、米国特許第5,845,030号には次のような半導体レーザモジュールが開示されている。
このモジュールは、ファイバグレーティング付きのモジュールであって、ファイバグレーティングの反射帯域幅を、組み込まれている半導体レーザ素子の共振器長で定まる、発振レーザ光における縦モードの波長間隔よりも大きい値に設定するものである。具体的には、半導体レーザ素子として、共振器長が900μmで1480nmの波長帯域で発振する半導体レーザ素子を用い、ファイバグレーティングの反射帯域幅は2nm以上であるモジュールが例示されている。
【0009】
ところで、半導体レーザ素子の発振レーザ光における縦モードの波長間隔(Δλ)は、次式:
Δλ=λ2/2n・L ……(1)
(ただし、λはレーザ光の発振波長、nは活性層の実効屈折率、Lは共振器長を表す。)
で与えられる。
【0010】
上記米国特許第5,845,030号で例示されているファブリ・ペロー型半導体レーザ素子の場合、λ=1480nm、n=3.5、L=900μmであるから、その縦モードの波長間隔(Δλ)は(1)式から約0.35nmになる。
ところで、このモジュールでは、ファイバグレーティングの反射帯域幅は、発振レーザ光における縦モードの波長間隔よりも大きくなるように設計されている。そのため、ファイバグレーティングの反射帯域幅(2nm以上)の中には、図9で示したように、半導体レーザ素子の縦モードが約5.8個含まれていることになる。
【0011】
このような場合には、半導体レーザ素子の駆動電流や周囲の温度が変化して発振レーザ光の縦モードがシフトし、当該縦モードが反射帯域幅から出たり入ったりしても、反射帯域幅内には常に複数個の縦モードが存在しているので光出力に与える影響は小さくなり、その結果、電流−光出力特性におけるキンク発生は低減することになる。
【0012】
ところで、上記したようなファイバグレーティング付きの半導体レーザモジュールからの発振レーザ光を波長多重化して高光出力の励起光源装置を組み立てる場合には、透過帯域が狭い波長多重カプラにおける損失を低減させるために、モジュールの光ファイバから出力されるレーザ光のスペクトル幅を狭くすることが必要になる。そのためには、ファイバグレーティングの反射帯域幅をできるだけ狭くすることが必要になる。
【0013】
しかしながら、ファイバグレーティングの反射帯域幅を狭くすると、図9から明らかなように、この反射帯域幅内に、常時、含まれている縦モードの個数は減少することになる。その結果、電流−光出力特性にキンクが発生しやすくなり、モジュールからの光出力のAPC制御は困難になるという問題が生じてくる。
このようなことから、従来の励起光源装置においては、モジュールからの光出力の電流−光出力特性におけるキンク発生を抑制しつつ、しかもファイバグレーティングの反射帯域幅を狭くすることができないので、波長多重カプラにおける損失を抑制しながら同時に波長多重化度を高めることができず、高光出力化が制限を受けるという問題があった。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、従来のファイバグレーティング付きの半導体レーザモジュールにおける上記した問題を解決し、高光出力であり、キンク発生が抑制されていて、しかも波長多重化度を高めることができるレーザ光を出力する半導体レーザモジュールの提供を目的とする。
【0015】
また、本発明は、複数の上記したレーザモジュールからのレーザ光を波長多重化することにより、非常に高光出力の励起用レーザ光を出力することができ、光ファイバ増幅器用として有効な励起光源装置の提供を目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】
上記した目的を達成するために、本発明においては、
ファブリ・ペロー型半導体レーザ素子とファイバグレーティングが光結合されている半導体レーザモジュールにおいて、
前記ファブリ・ペロー型半導体レーザ素子の共振器長は1800μm以上であり、前記ファイバグレーティングの反射帯域幅は3nm以下、好ましくは2nm以下であり、しかも、前記ファブリ・ペロー型半導体素子からの発振レーザ光の縦モードの波長間隔よりも大きい値になっていることを特徴とする半導体レーザモジュール、または、
前記ファブリ・ペロー型半導体素子の共振器長は1800μm以上であり、前記ファイバグレーティングの反射帯域幅内には、前記ファブリ・ペロー型半導体レーザ素子からの発振レーザ光の縦モードが2〜20個含まれていることを特徴とする半導体レーザモジュールが提供される。
【0017】
好ましくは、前記半導体レーザ素子の発振レーザ光の波長が1000〜1700nm、好ましくは1200〜1550nmであり、前記半導体レーザ素子の活性層が歪量子井戸構造から成り、かつ前記量子井戸構造が歪量が0.5%以上の圧縮歪量子井戸構造であり、前記活性層における量子井戸の個数が10個以下であり、前記半導体レーザ素子は、共振器長が1800〜3500μmであり、一方の端面(前端面)の反射率が2%以下、他方の端面(後端面)の反射率は90%以上であるファブリ・ペロー型半導体レーザ素子と、そのレーザ素子とファイバグレーティングとを組み合わせた半導体レーザモジュールが提供される。
【0018】
更に、本発明においては、互いに異なる波長のレーザ光を出力する、上記半導体レーザモジュールの複数と、各半導体レーザモジュールから出力する複数のレーザ光を波長多重化する手段とを備えている励起光源装置が提供される。
【0019】
【発明の実施の形態】
図1に、本発明のモジュールの1例Aを示す。
図1において、パッケージ1の中には、ペルチェモジュール2が配置され、そのペルチェモジュール2の上には、更に、後述する半導体レーザ素子3とサーミスタ4とレンズ5aを固定した基板6が固定配置されている。そして、パッケージ1の側壁1aに形成されている貫通孔1bには、レンズ5bと、後述するファイバグレーティング7aを有する光ファイバ7が固定されている。
【0020】
図1のモジュールAにおいて、半導体レーザ素子3の前端面S1からの発振レーザ光はレンズ5a,5bで集光されて光ファイバ7の端面に入射し、光ファイバのコア内を導波していく。そして、導波するレーザ光のうち、特定波長のレーザ光のみがファイバグレーティング7aで反射して半導体レーザ素子に帰還する。
【0021】
このとき、レーザ素子3の駆動過程で、駆動電流によりレーザ素子3が発熱して素子温度が上昇し、そのことにより、レーザ素子3からの発振レーザ光の波長と光出力が変動する。そのため、レーザ素子3の近傍に配置されたサーミスタ4で素子温度を測定し、その測定値を用いて外部の制御回路(図示しない)を作動してペルチェモジュール2の動作電流を調整することにより、レーザ素子3の温度が一定となるように制御される。
【0022】
このモジュールAに組み込まれている半導体レーザ素子はファブリ・ペロー型のものであって、その1例を図2と図2のIII−III線に沿う断面図である図3に示す。
このレーザ素子3は、例えば有機金属気相成長法、液相法、分子線エピタキシャル成長法、ガスソース分子線エピタキシャル成長法、化学線エピタキシャル成長法などの公知のエピタキシャル成長法により、所定の半導体から成る基板11の上に所定の半導体のエピタキシャル結晶成長を行って後述する積層構造を形成したのち、劈開を行って所定の共振器長(L)とし、更に一方の劈開面に後述する低反射膜を成膜して前端面S1を形成し、他方の劈開面に高反射膜を成膜して後端面S2を形成し、更に基板11の裏面に下部電極19、積層構造の上面に上部電極18を形成した構造になっている。
【0023】
図3で示した積層構造は埋込み型BH構造になっていて、例えばn−InPから成る基板11の上に、例えばn−InPから成る下部クラッド層12、例えばノンドープGaInAsPから成る下部GRIN−SCH層13、例えばGaInAsPから成る格子不整合系の多重量子井戸構造の活性層14、例えばノンドープGaInAsPから成る上部GRIN−SCH層15が順次積層されており、更に、上部GRIN−SCH層15の上に、例えばp−InPから成る上部クラッド層16、例えばp−GaInAsPから成るキャップ層17が積層されている。そして、このキャップ層17の上に上部電極18が形成され、また基板11の裏面には下部電極19が形成されている。
【0024】
また、上記した下部クラッド層12、下部GRIN−SCH層13、活性層14、および上部GRIN−SCH層15の側面に例えばp−InP層21とn−InP層22をこの順序で積層することにより、活性層14への電流注入用の狭窄部が形成されている。
この積層構造において、活性層14は歪み多重量子井戸構造で構成されている。具体的には、基板11に対して格子不整合率が0.5%以上となるような圧縮歪み多重量子井戸構造になっている。
【0025】
なお、ここでは、歪み量子井戸構造を採用したが、本発明は格子整合系の量子井戸構造を採用して実現することもできる。しかしながら、格子不整合系、すなわち歪み量子井戸構造を採用した方が、レーザ共振器内の内部吸収が小さくなるためレーザ素子の高出力化にとって好適であり、そして、この効果を得るには、格子不整合率が0.5%以上であることが好適である。
【0026】
また、歪み量子井戸構造として、その障壁層を井戸層の歪みと反対の引張り歪みを導入して成る歪み補償構造にすれば、等価的に格子整合条件を満たすことができるため、井戸層の格子不整合率に対してはとくに上限を設けることは必要ではない。
しかしながら、歪み補償構造を使用しない場合は、活性層に蓄積される歪みエネルギーに起因する結晶性の劣化が問題となる。とくに、井戸数が多くなればなるほど、また井戸層が厚くなればなるほど、この歪みエネルギーは大きくなるので、結晶劣化は一層重要な問題となり、レーザ素子の高光出力化、高信頼性動作を妨げる原因になる。
【0027】
したがって、歪み補償構造を使用しない場合には、レーザ素子の動作特性および長期信頼性実現の観点から、圧縮歪み量子井戸層の格子不整合率は2%以下、好ましくは1.5%以下にするのがよい。
また、本発明においては、井戸数は活性層の体積を大きく変えない範囲で適宜選択することができるが、実質的にその値は10個以下にする。これは、活性層の体積が大きくなりすぎると、活性層において材料固有の内部損失の影響が大きくなり、高出力化の妨げとなるからである。
【0028】
本発明による半導体レーザ素子においては、後述するように共振器長(L)は1800μm以上と大きな値に設定されている。そのため、内部損失の影響が、共振器長が短いものよりも比較的大きい。しかし、とくに井戸層の厚みを17nm以下にした場合、井戸数を5個以下とすることにより、より確実に前記内部損失の影響を無視できるようになる。したがって、井戸数は10個以下であることが好適であり、1〜5個であることがより好適である。
【0029】
このレーザ素子3において、共振器長(L)は1800nm以上に設定される。
一般に共振器長(L)を長くすればするほど、素子の直列抵抗が小さくなり、放熱面積が大きくなる。そのため、素子の発熱に基づく光出力の飽和、すなわち熱飽和を抑制することができる。そして、そのことにより、駆動電流を大きくすることができ、レーザ素子の高光出力化が可能となる。
【0030】
また、共振器長(L)を長くすると、(1)式で与えられる縦モードの波長間隔(Δλ)が狭くなり、そのことによって、波長多重化して励起光源装置を組み立てるときに、合波して得られる励起用レーザ光の高光出力化が可能になるという効果が得られる。
すなわち、レーザ素子3からの発振レーザ光における縦モードの波長間隔(Δλ)が狭くなっているので、後述する光ファイバに形成したファイバグレーティングの反射帯域幅を狭くしたとしても、その反射帯域幅内に多数個の縦モードを常時含ませることが可能になる。そのため、光ファイバから出力する励起用レーザ光のスペクトル幅は狭くなり、狭い反射帯域幅のファイバグレーティングを使用しても電流−光出力特性におけるキンク発生を抑制することができる。
【0031】
一方、半導体レーザ素子の共振器長(L)を単純に長くしただけでは、ミラー損失が低減し、共振器の内部損失の影響が大きくなる。このため、外部微分量子効率が低下し、半導体レーザ素子の光出力は低くなる。このようなことから、この素子にファイバグレーティングを組み合わせてモジュールを構成したとしても、そのモジュールの高光出力動作は困難となる。
【0032】
このようなことから、本発明のファイバグレーティング付き半導体レーザモジュールの場合、従来のレーザ素子における低反射膜の反射率が共振器長(L)の長さとは関係なくほぼ一定の値(例えば4%程度)であったことと異なり、素子3の低反射膜の反射率を、共振器長(L)が1800μm以上の領域において従来の場合よりも低くし、更に共振器長(L)が長くなるにつれてより低くすることにより、上記したような問題を解決している。
【0033】
すなわち、本発明のファイバグレーティング付き半導体レーザモジュールに使用される半導体レーザ素子3は、その共振器長(L)が1800μm以上であり、かつ、前端面S1の反射率が2%以下、後端面S2の反射率が90%以上となるように構成されている。このような構成を採ることにより、共振器長(L)を1800μm以上とした場合であっても、半導体レーザ素子3の前端面S1から500mW以上の光出力を得ることができる。これは、共振器長1000μm程度の半導体レーザ素子の光出力が300mW程度であることに比べれば、1.7倍程度の高出力化を達成したことになる。
【0034】
更に、本発明においては、長共振器長化に伴ない、放熱面積が大きくなるので、優れた低消費電力のレーザ素子を実現することができる。
しかしながら、共振器長(L)を長くしすぎると、高光出力化にとっての上記した不都合な問題が生ずるとともに、素子3の製造時においてチップ化するときに、共振器の途中で割れや折損などが起こりはじめて製造歩留まりの低下を招くようになる。また、1枚のウエハから製造されるレーザ素子の個数も、共振器長(L)が長くなればなるほど減少する。このようなことを考慮して、本発明では共振器長(L)の上限を3500μmに設定することが好ましい。
【0035】
したがって、このレーザ素子3をファイバグレーティング付き半導体レーザモジュールに組み込んだ場合、高光出力動作が可能なモジュールを製作できるとともに、反射帯域幅の狭いファイバグレーティングを使用しても、電流−光出力特性におけるキンク発生が抑制されるため、出力するレーザ光の発振スペクトル幅を狭くすることができる。すなわち、透過帯域の狭い波長多重カプラに接続した場合であっても、当該カプラにおける損失は抑制されるので、波長多重化度が高まり、高光出力の励起光源装置の組み立てが可能となる。
【0036】
次に、図1で示したモジュールAの場合、半導体レーザ素子3の前端面S1からの発振レーザ光はレンズ5a,5bで集光されて光ファイバ7の端面に入射し、光ファイバのコア内を導波していく。そして、導波するレーザ光のうち、特定波長のレーザ光のみがファイバグレーティング7aで反射してレーザ素子に帰還する。
【0037】
本発明のモジュールAにおいては、上記したファイバグレーティング7aは、そのピーク反射率が例えば2〜10%になっていて、反射帯域幅が3nm以下、好ましくは2nm以下、更に好ましくは1.5nm以下、更により好ましくは1nm以下で、かつ、前記したレーザ素子3からの発振レーザ光における縦モードの波長間隔(Δλ)よりも大きい値に設定されている。
【0038】
とくに、このモジュールAをラマン増幅器用として使用する場合には、使用温度条件、使用駆動条件の全てにおいて、励起用レーザ光のスペクトル幅2nmの領域に光出力の大部分(例えば90%)を含ませるということが必要になってくるが、この必要性を満たすためにも、ファイバグレーティングの反射帯域幅を2nm以下にすることが好適である。
【0039】
ここで、例えば、レーザ素子の共振器長(L)が、1800μm、2500μm、3200μm、3500μmである各場合につき、組合せるファイバグレーティングの反射帯域幅が1nm、1.5nm、2nm、3nmであると想定すると、レーザ素子からの発振レーザ光の縦モードの波長間隔(Δλ)、およびファイバグレーティングの反射帯域幅内に存在する縦モードの数は表1で示したようになる。
なお、表1の数値は、前記式(1)において、λ=1480nm、n=3.5としたときの値である。
【0040】
【表1】
【0041】
例えば、共振器長(L)が1800μmのレーザ素子と、反射帯域幅が3nm以下のファイバグレーティングを組み合わせて使用した場合には、ファイバグレーティングの反射帯域幅の中に最大で17.3個の縦モードを含ませることができる。
したがって、このモジュールの場合、レーザ素子3の駆動電流や周囲の温度が変化して縦モードが変動しても、上記反射帯域幅内には常に複数個の縦モードが存在しているので、電流−光出力特性におけるキンク発生の抑制が可能となる。
【0042】
また、光ファイバからの発振レーザ光のスペクトル幅を狭くするために、ファイバグレーティングの反射帯域幅を2nm,1.5nm、更には1nmと狭く設定した場合であっても、ファイバグレーティングの反射帯域幅内には、少なくとも前記した米国特許第5,845,030号の場合と同じように、約5.8個の縦モードが含まれていることになり、電流−光出力特性におけるキンク発生が抑制されることになる。
【0043】
更に、共振器長(L)を1800μmよりも長くすると、表1のようにファイバグレーティングの反射帯域幅内に含まれる縦モードの数を更に多くすることができるため、電流−光出力特性におけるキンク発生の防止効果を更に確実に得ることができる。
なお、上記した表1において説明した各例において、電流−光出力特性におけるキンクの発生を防止するという効果が発揮されるためには、ファイバグレーティングの反射帯域幅の大きさはレーザ素子の縦モード間隔よりも大きいこと、またはファイバグレーティングの反射帯域幅内に縦モードが2個以上存在することが必要であることは言うまでもない。
【0044】
このように、本発明では、モジュールAに組み込むレーザ素子3の共振器長(L)に基づいて反射帯域幅を適切に設計することにより、当該反射帯域幅内に複数個の縦モードを存在させて、電流−光出力特性におけるキンク発生の抑制が可能となる。
逆にいえば、共振器長(L)を適宜設計することにより、ファイバグレーティングの反射帯域幅を狭くしても、そこに複数個の縦モードを存在させることが可能になる。
【0045】
なお、反射帯域幅内に存在する縦モードの個数が多いほど、電流−光出力特性におけるキンク発生は有効に抑制されることになるが、本発明においては、上記個数が2〜20個となるように、共振器長(L)と反射帯域幅の大きさを設計することが好ましい。
例えば、半導体レーザ素子の共振器長(L)が1800μmである場合、縦モードの波長間隔(Δλ)は0.17nmになる。したがって、ファイバグレーティング7aの反射帯域幅を1.0nmとなるように形成すれば、その反射帯域幅内には、前記した米国特許第5,845,030号の場合と同じように、約5.8個の縦モードが含まれていることになり、電流−光出力特性におけるキンク発生が抑制されることになる。
【0046】
また、共振器長(L)を例えば3200μmにすると、共振器長(L)が長くなることによってその半導体レーザ素子3の前端面S1からの発振レーザ光は高光出力化し、同時に、その縦モードの波長間隔(Δλ)は0.98nmになる。したがって、ファイバグレーティング7aの反射帯域幅を例えば1nmにすると、その反射帯域幅内には約10個の縦モードが存在することになり、光ファイバ7から出力するレーザ光は高光出力化していると同時に、電流−光出力特性におけるキンク発生が抑制される。
【0047】
また、ファイバグレーティング7aの反射帯域幅を狭くすると、その光ファイバ7から出力するレーザ光のスペクトル幅は狭くなる。例えば、上記したように、反射帯域幅が1nmである場合には、光ファイバ7から出力するレーザ光(波長1480nm)のスペクトル幅は約1nmと狭くなる。したがって、このレーザ光を波長多重カプラで波長多重化した場合には、その損失が抑制されることになり、波長多重化度を高めることが可能となる。すなわち、このモジュールを用いることにより、波長多重化による高光出力の励起光源装置の組み立てが可能になる。
【0048】
なお、上記したスペクトル幅とは、レーザ光のスペクトル曲線においてピーク強度から強度が10dB低下する波長幅のことをいう。
次に、本発明の励起光源装置について説明する。
図4は、本発明の励起光源装置の1例B1を示す概略図である。
この装置B1は、既に説明した本発明の半導体レーザモジュールAの複数個と、それらモジュールから出力するレーザ光の波長を波長多重化する手段(波長多重カプラ)C1で構成されている。
【0049】
ここで、これらモジュールAは、組込まれている各ファイバグレーティングの中心波長が互いに2.5nm間隔で異なるように設計されていて、それぞれが異なった波長のレーザ光を出力する。そして、各モジュールにおけるレーザ素子は、その共振器長(L)が1800μm以上であり、ファイバグレーティングの反射帯域幅は3nm以下、好ましくは2nm以下、更に好ましくは1.5nm以下、更により好ましくは1nm以下の値になっていて、反射帯域幅内には、電流−光出力特性におけるキンク発生を抑制するに充分な個数の縦モードが存在するように設計されている。
【0050】
したがって、この装置B1の場合、各モジュールAの光ファイバから出力されるレーザ光のスペクトル幅は狭くなるため、波長多重化手段C1における損失が抑制される。
そのため、この装置B1の場合、波長多重手段C1に接続可能なモジュールAの台数を多くすることができるので、非常に高光出力の励起光源装置として機能することができる。
【0051】
図5は本発明の別の励起光源装置の例B2を示す概略図である。
この装置B2は、同一波長で発振し、かつ互いに直交する偏光方向を有するレーザ光を出力する2個のモジュールA1,A2と、これらモジュールから出力するレーザ光を合波する偏波多重化手段(PBS:Polarization Beam Splitter)C2と、その合波されたレーザ光を互いに波長をずらして複数組準備し、それらを波長多重化する前記した波長多重手段C1とで構成されている。
【0052】
この装置B2の場合も、装置B1の場合と同じように、非常に高光出力の励起光源装置として機能する。
なお、前記した米国特許第5,936,763号で例示されている波長多重化励起光源装置の場合は、1480nm帯域で発振し、共振器長が900μmで、光出力が100mWのDFBレーザ素子を組み込んだモジュールが用いられている。
【0053】
一方、本発明のモジュールの場合は、上記したDFBレーザ素子に比べれば格段に安価に製造することができ、しかも共振器長(L)が1800μm以上であって、500mW程度の光出力を発振するファブリ・ペロー型半導体レーザ素子が組み込まれている。
そのため、このレーザ素子と光ファイバとの結合効率が約85%であり、またファイバグレーティングによる挿入損失が約8%であると見込んだ場合でも、本発明のモジュールの光ファイバからは約390mWの光出力を得ることができる。
【0054】
このように、本発明によれば、前記した先行技術のモジュールやそれを用いた励起光源装置に比べて、格段に安価で、かつ格段に高光出力のモジュールと励起光源装置を組み立てることができる。
逆にいえば、本発明の励起光源装置では、所定の光出力を得ようとする場合、組み込むモジュールと波長多重化手段の数を従来に比べて少なくすることができ、そのことにより、装置の低コスト化や小型化を実現することができる。
【0055】
【発明の効果】
以上の説明で明らかなように、本発明の半導体レーザモジュールは、組み込まれている半導体レーザ素子の共振器長(L)を1800μm以上とし、かつファイバグレーティングの反射帯域幅を3nm以下に設定しているので、反射帯域幅内には多数の縦モードを存在させながら、出力するレーザ光のスペクトル幅を狭くすることができる。
【0056】
そのため、このモジュールは、電流−光出力特性におけるキンク発生が抑制されていて、同時に波長多重化に好適なレーザ光を出力する。
また、本発明の励起光源装置は、上記したモジュールが組み込まれているので、非常に高光出力であり、光ファイバ増幅器用の励起光源装置として有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の半導体レーザモジュールの1例Aを示す概略図である。
【図2】本発明のモジュールAに組み込まれる半導体レーザ素子を示す側面図である。
【図3】図2のIII−III線に沿う断面図である。
【図4】本発明の励起光源装置の1例B1を示す概略図である。
【図5】本発明の励起光源装置の別の例B2を示す概略図である。
【図6】米国特許第5,936,763号に例示されている波長多重化による励起光源装置を示す概略図である。
【図7】ファイバグレーティングの反射スペクトル例を示すグラフである。
【図8】レーザモジュールから出力したレーザ光の電流−光出力特性図である。
【図9】ファイバグレーティングの反射帯域幅と、半導体レーザ素子の発振レーザ光の縦モードとの関係を説明するためのグラフである。
【符号の説明】
1 パッケージ
1a パッケージ1の側壁
1b パッケージ1の貫通孔
2 ペルチェモジュール
3 半導体レーザ素子
4 サーミスタ
5a,5b レンズ
6 基板
7 光ファイバ
7a ファイバグレーティング
S1 前端面
S2 後端面
11 基板
12 下部クラッド層
13 下部Grin−SCH層
14 活性層
15 上部Grin−SCH層
16 上部クラッド層
17 キャップ層
18 上部電極
19 下部電極
Claims (3)
- 互いに異なる波長のレーザ光を出力する複数の半導体レーザモジュールと、
前記半導体レーザモジュールのそれぞれから出力される互いに波長の異なる複数のレーザ光を波長多重化する手段と
を備え、
前記複数の半導体レーザモジュールのそれぞれは、
ファブリ・ペロー型半導体レーザ素子とファイバグレーティングが光結合されている半導体レーザモジュールであって、
前記ファブリ・ペロー型半導体レーザ素子の共振器長は1800μm以上であり、
前記ファイバグレーティングの反射帯域幅は1nm以上、2nmより小さく、
前記ファブリ・ペロー型半導体レーザ素子の光出射端面である前端面の反射率は2%以下であり、
前記ファブリ・ペロー型半導体レーザ素子の光反射端面である後端面の反射率は90%以上であり、
前記ファブリ・ペロー型半導体レーザ素子からの発振レーザ光の波長は1200〜1550nmであり、
前記ファブリ・ペロー型半導体レーザ素子の活性層は量子井戸構造を有し、前記量子井戸構造は、歪量が0.5%以上である歪み量子井戸構造を含み、
前記活性層に含まれる量子井戸の個数は10個以下である
ラマン増幅器用の励起光源装置。 - 前記ファブリ・ペロー型半導体レーザ素子の共振器長は1800〜3500μmである、
請求項1に記載の励起光源装置。 - 前記ファイバグレーティングの反射帯域幅内には、前記ファブリ・ペロー型半導体レーザ素子からの発振レーザ光の縦モードが2〜20個含まれている、請求項1または2に記載の励起光源装置。
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