JP5072885B2 - ショットピーニング加工条件の設定方法 - Google Patents

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Description

本発明は、ショットピーニング加工方法に関する。
ショットピーニング加工方法は、金属表面層に圧縮残留応力を付与するために用いられる。ショットピーニング加工方法において、被加工物にメディア(投射材)を投射する。
従来のショットピーニング加工方法においては、ショットピーニング加工装置とメディアの組み合わせを決定した後、被加工物に要求されるインテンシティ及びカバレージが得られるように加工条件を決定していた。ショットピーニング加工の所要時間を短縮するための有効で体系的な方法が必要とされている。
特許文献1は、従来のショットピーニング条件の設定方法を開示している。空気式ショットピーニング装置を用いて、単位時間に投射する投射材の重量とカバレージ100%が得られたときのアークハイト値との関係を求める。単位時間に投射する投射材の重量がある値より大きい領域では、単位時間に投射する投射材の重量が増加するとアークハイト値が大きく低下する。この値に基づいて単位時間に投射する投射材の重量の最適値が設定される。
特開2006−205342号公報
本発明の目的は、ショットピーニング加工の所要時間が短縮されるショットピーニング加工条件の設定方法及び金属部品の製造方法を提供することである。
以下に、(発明を実施するための形態)で使用される番号を用いて、課題を解決するための手段を説明する。これらの番号は、(特許請求の範囲)の記載と(発明を実施するための形態)との対応関係を明らかにするために付加されたものである。ただし、それらの番号を、(特許請求の範囲)に記載されている発明の技術的範囲の解釈に用いてはならない。
本発明のショットピーニング加工条件の設定方法は、ショットピーニング加工装置とメディアの組み合わせとしての第1組み合わせに対する複数の投射条件の各々において、アルメン試験片のアークハイト値の投射時間に対する変化を示す飽和曲線(10)に基づいて飽和時間を求めるステップ(S24、S212)と、前記第1組み合わせに対応する第1最適投射条件を前記飽和時間に基づいて決定するステップ(S26、S214)とを具備する。
前記複数の投射条件の条件因子は、第1条件因子と、第2条件因子とを含む。前記複数の投射条件は、第1投射条件と、前記第1投射条件と前記第1条件因子の水準のみが異なる第2投射条件と、第3投射条件と、前記第3投射条件と前記第2条件因子の水準のみが異なる第4投射条件とを含む。前記第1最適投射条件を前記飽和時間に基づいて決定する前記ステップは、前記第1投射条件における第1飽和時間と前記第2投射条件における第2飽和時間とに基づいて、前記第1最適投射条件における前記第1条件因子の水準を決定するステップと、前記第3投射条件における第3飽和時間と前記第4投射条件における第4飽和時間とに基づいて、前記第1最適投射条件における前記第2条件因子の水準を決定するステップとを含む。
前記ショットピーニング加工装置は、空気を用いてメディアをノズル(1)から投射する。前記第1条件因子及び前記第2条件因子は、メディア流量、空気の圧力、前記ノズルと被処理面との距離、前記ノズルと被処理面との角度、前記ノズルの内径、及び、前記ノズルの移動速度から選択される任意の二つである。
前記ショットピーニング加工装置は、インペラー(1)を用いてメディアを投射する。前記第1条件因子及び前記第2条件因子は、前記インペラーの回転速度、前記インペラーと被処理面との距離、前記インペラーと被処理面との角度、噴射口の大きさ、及び、被処理物の移動速度、及び被処理物の回転速度から選択される任意の二つである。
上記ショットピーニング加工条件の設定方法は、前記ショットピーニング加工装置が前記第1最適投射条件において試験片(5)にメディアを投射するステップ(S31)と、前記試験片における圧痕面積率の分布と投射時間の関係を求めるステップ(S31)と、前記圧痕面積率の分布と投射時間の関係に基づいて、前記試験片における前記圧痕面積率が飽和している領域の面積又は幅と前記投射時間との関係を求めるステップ(S32)とを更に具備する。前記圧痕面積率は、単位面積当たりのメディアによる圧痕が占める面積を示す。
上記ショットピーニング加工条件の設定方法は、前記面積又は前記幅と前記投射時間との関係に基づいてスポット移動条件を決定するステップ(S33)を更に具備する。前記スポット移動条件は、前記ショットピーニング加工装置が被加工物(3)を加工しているときにメディアが当たっている前記被加工物の領域としてのスポットが移動する互いに平行な移動軌跡(4A〜4C)のピッチを示す。
上記ショットピーニング加工条件の設定方法は、前記第1最適投射条件に対応するインテンシティが被加工物に要求されるインテンシティに合わないとき、ショットピーニング加工装置とメディアの組み合わせとしての第2組み合わせに対する複数の投射条件の各々において、飽和時間を求めるステップ(S24、S212)と、前記第2組み合わせに対応する第2最適投射条件を前記第2組み合わせに対応する前記飽和時間に基づいて決定するステップ(S26、S214)とを更に具備する。
上記ショットピーニング加工条件の設定方法は、前記第1最適投射条件におけるインテンシティを求めるステップ(S26)を更に具備する。
上記ショットピーニング加工条件の設定方法は、前記飽和時間を求めるステップにおいて使用したアルメン試験片を用いて、前記複数の投射条件の各々においてカバレージが100%となる投射時間としてのカバレージ時間を求めるステップ(S221)と、前記第1組み合わせに対応する第3最適投射条件を前記カバレージ時間に基づいて決定するステップ(S223)と、前記第1最適投射条件及び前記第3最適投射条件に基づいて第4最適投射条件を決定するステップ(S224)とを更に具備する。
本発明によるショットピーニング加工条件の設定方法は、ショットピーニング加工装置が試験片(5)にメディアを投射するステップ(S31)と、前記試験片における圧痕面積率の分布と投射時間の関係を求めるステップ(S31)と、前記圧痕面積率の分布と投射時間の関係に基づいて、前記試験片における前記圧痕面積率が飽和している領域の面積又は幅と前記投射時間との関係を求めるステップ(S32)とを更に具備する。前記圧痕面積率は、単位面積当たりのメディアによる圧痕が占める面積を示す。
本発明によるショットピーニング加工条件の設定方法は、ショットピーニング加工装置とメディアの組み合わせとしての第1組み合わせに対する複数の投射条件の各々において、アルメン試験片のカバレージの投射時間に対する変化を示す飽和曲線に基づいてカバレージが100%となる投射時間としてのカバレージ時間を求めるステップ(S221)と、前記第1組み合わせに対応する最適投射条件を前記カバレージ時間に基づいて決定するステップ(S223)とを具備する。
前記複数の投射条件の条件因子は、第1条件因子と、第2条件因子とを含む。前記複数の投射条件は、第1投射条件と、前記第1投射条件と前記第1条件因子の水準のみが異なる第2投射条件と、第3投射条件と、前記第3投射条件と前記第2条件因子の水準のみが異なる第4投射条件とを含む。前記最適投射条件を前記カバレージ時間に基づいて決定する前記ステップは、前記第1投射条件における第1カバレージ時間と前記第2投射条件における第2カバレージ時間とに基づいて、前記最適投射条件における前記第1条件因子の水準を決定するステップと、前記第3投射条件における第3カバレージ時間と前記第4投射条件における第4カバレージ時間とに基づいて、前記最適投射条件における前記第2条件因子の水準を決定するステップとを含む。
本発明の金属部品の製造方法は、ショットピーニング加工条件を決定するステップ(S1)と、前記ショットピーニング加工条件に基づいて被加工物を加工するステップ(S2)とを具備する。前記ショットピーニング加工条件を決定する前記ステップは、ショットピーニング加工装置とメディアの組み合わせとしての第1組み合わせに対する複数の投射条件の各々において、アルメン試験片のアークハイト値の投射時間に対する変化を示す飽和曲線(10)に基づいて飽和時間を求めるステップ(S24、S212)と、前記第1組み合わせに対応する第1最適投射条件を前記飽和時間に基づいて決定するステップ(S26、S214)とを含む。
本発明の金属部品の製造方法は、ショットピーニング加工条件を決定するステップ(S1)と、前記ショットピーニング加工条件に基づいて被加工物(3)を加工するステップと(S2)を具備する。前記ショットピーニング加工条件を決定する前記ステップは、ショットピーニング加工装置が試験片(5)にメディアを投射するステップと、前記試験片における圧痕面積率の分布と投射時間の関係を求めるステップ(S31)と、前記圧痕面積率の分布と投射時間の関係に基づいて、前記試験片における前記圧痕面積率が飽和している領域の面積又は幅と前記投射時間との関係を求めるステップ(S32)と、前記面積又は前記幅と前記投射時間との関係に基づいてスポット移動条件を決定するステップ(S33)とを含む。前記スポット移動条件は、前記ショットピーニング加工装置が前記被加工物を加工しているときにメディアが当たっている前記被加工物の領域としてのスポットの移動条件を示す。
本発明の金属部品の製造方法は、ショットピーニング加工条件を決定するステップ(S1)と、前記ショットピーニング加工条件に基づいて被加工物を加工するステップ(S2)とを具備する。前記ショットピーニング加工条件を決定する前記ステップは、ショットピーニング加工装置とメディアの組み合わせとしての第1組み合わせに対する複数の投射条件の各々において、アルメン試験片のカバレージの投射時間に対する変化を示す飽和曲線に基づいてカバレージが100%となる投射時間としてのカバレージ時間を求めるステップ(S221)と、前記第1組み合わせに対応する最適投射条件を前記カバレージ時間に基づいて決定するステップ(S223)とを含む。
本発明によれば、ショットピーニング加工の所要時間が短縮されるショットピーニング加工条件の設定方法及び金属部品の製造方法が提供される。
図1は、本発明の第1の実施形態に係るショットピーニング加工方法のフローチャートである。 図2は、ショットピーニング加工条件を決定するステップのフローチャートである。 図3は、装置及びメディアの組み合わせに対応する最適加工条件を決定するステップのフローチャートである。 図4は、最適投射条件を決定するステップのフローチャートである。 図5は、ショットピーニング加工装置の投射部と被加工物面の位置関係を示す概略図である。 図6は、投射条件を示すテーブルである。 図7は、アークハイトと投射時間の関係を示すグラフである。 図8Aは、インテンシティ及び飽和時間と圧力との関係を示すグラフである。 図8Bは、インテンシティ及び飽和時間とメディア流量との関係を示すグラフである。 図8Cは、インテンシティ及び飽和時間と投射角度との関係を示すグラフである。 図8Dは、インテンシティ及び飽和時間と投射距離との関係を示すグラフである。 図9は、スポット移動条件を決定するステップのフローチャートである。 図10は、圧痕面積率分布と投射時間との関係を求めるための試験片を示す。 図11は、圧痕面積率分布と投射時間との関係を示すグラフである。 図12は、有効処理幅と投射時間との関係を示すグラフである。 図13は、スポット移動軌跡を示す概略図である。 図14は、有効処理幅と投射時間との関係を示すグラフである。 図15は、単位面積当りの処理時間と投射時間との関係を示すグラフである。 図16は、本発明の第2の実施形態に係る最適投射条件を決定するステップのフローチャートである。 図17は、投射条件を示すテーブルである。 図18は、本発明の第3の実施形態に係る最適投射条件を決定するステップのフローチャートである。 図19は、カバレージと投射時間の関係を示すグラフである。
添付図面を参照して、本発明によるショットピーニング加工条件の設定方法及びショットピーニング加工方法を実施するための形態を以下に説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係るショットピーニング加工方法のフローチャートである。ショットピーニング加工方法は、ステップS1及びS2を含む。ステップS1において、ショットピーニング加工条件を決定する。ステップS2において、ステップS1で決定した条件に基づいて被加工物を加工する。
図2を参照して、ショットピーニング加工条件を決定するステップS1は、ステップS11〜S13を含む。ステップS11において、ショットピーニング加工装置とメディアの組み合わせを決定する。ここで、空気式ショットピーニング加工装置のどの機種、又は、機械式ショットピーニング装置のどの機種、というように評価対象となるショットピーニング加工装置を具体的に決定する。空気式ショットピーニング加工装置は、空気を用いてメディアをノズルから投射する。機械式ショットピーニング装置は、インペラーを用いてメディアを投射する。そして、決定されたショットピーニング加工装置で使用可能なメディアであって一定の品質基準にしたがって管理されているメディアの中から一つを決定する。一定の品質基準にしたがって管理されているメディアを用いることで、ショットピーニング加工の再現性が確保される。一定の品質基準にしたがって管理されているメディアとは、例えば、公共規格で規定されたメディアである。ステップS12において、ステップS11で決定した組み合わせに対応する最適加工条件を決定する。ステップS13において、ステップS11で決定したショットピーニング加工装置及びメディアを用いてステップS12で決定した最適加工条件に基づいて被加工物を加工した場合、被加工物に要求されるインテンシティが満足されるか判断する。インテンシティ要求が満足されない場合、ステップS11に戻る。インテンシティ要求が満足される場合、ステップS2に進む。
図3を参照して、最適加工条件を決定するステップS12は、ステップS20及びS30を含む。ステップS20において、ステップS11で決定したショットピーニング加工装置がステップS11で決定したメディアを投射するときの最適投射条件を決定する。ステップS30において、スポット移動条件を決定する。スポット移動条件は、ステップS11で決定したショットピーニング加工装置が被加工物を加工しているときにメディアが当たっている被加工物の領域としてのスポットの移動条件を示す。
図4を参照して、最適投射条件を決定するステップS20は、ステップS21〜S26を含む。
ステップS21において、評価対象条件因子を決定する。空気式ショットピーニング加工装置の場合における評価対象条件因子は、例えば、メディアの流量(kg/分)、空気圧力(MPa)、空気式ショットピーニング加工装置の投射部としてのノズルと被処理物面との距離(投射距離)、ノズルと被処理物面との角度(投射角度)、ノズル内径、及びノズルの移動速度である。機械式ショットピーニング加工装置の場合における評価対象条件因子は、例えば、機械式ショットピーニング装置の投射部としてのインペラーの回転速度(rpm)、インペラーと被処理物面との距離(投射距離)、インペラーと被処理物面との角度(投射角度)、メディアが被処理物に対して噴射される噴射口の大きさ、被処理物の移動速度、及び被処理物の回転速度(rpm)である。
図5を参照して、ショットピーニング加工装置の投射部1と被加工物面2との距離Dと、投射部1と被加工物面2との角度θとが示されている。
ステップS22において、複数の投射条件を決定する。例えば、複数の投射条件の条件因子は、ステップS21で決定した条件因子としての流量、圧力、角度、距離などを含む。図6は、複数の投射条件に含まれる投射条件1−1〜1−3を示す。投射条件1−1〜1−3は、流量の水準のみが互いに異なり、他の条件因子の水準は同じである。複数の投射条件は、圧力の水準のみが異なる投射条件群、角度の水準のみが異なる投射条件群、距離の水準のみが異なる投射条件群などを含む。
ステップS23において、ステップS22で決定した複数の投射条件の各々において、アルメン試験片のアークハイト値の投射時間に対する変化を示す飽和曲線を作成する。図7は、ある投射条件において投射時間を5秒、10秒、20秒、40秒としたときのアークハイト値に基づいて得られた飽和曲線10を示す。
ステップS24において、ステップS23において得られた飽和曲線に基づいて、ステップS22で決定した複数の投射条件の各々におけるインテンシティ及び飽和時間を求める。図7を参照して、インテンシティ及び飽和時間を求める方法を説明する。米国の航空宇宙規格であるAMS‐S‐13165Aによれば、投射時間を2倍にしてもアークハイト値の増分が10%以下である飽和曲線10上の点11を飽和点11と呼び、飽和点11におけるアークハイト値がインテンシティI、飽和点11における投射時間が飽和時間Sである。
ステップS25において、飽和時間が最短になるように、各条件因子での最適水準を決定する。例えば、図8Aは、上述のようにして得られたインテンシティと圧力との関係及び飽和時間と圧力との関係を示す。飽和時間と圧力との関係に基づいて、圧力の最適水準を0.3MPa以上と決定する。図8Bは、上述のようにして得られたインテンシティと流量との関係及び飽和時間と流量との関係を示す。飽和時間と流量との関係に基づいて、流量の最適水準を4kg/分と決定する。図8Cは、上述のようにして得られたインテンシティと角度との関係及び飽和時間と角度との関係を示す。飽和時間と角度との関係に基づいて、角度の最適水準を90度と決定する。図8Dは、上述のようにして得られたインテンシティと距離との関係及び飽和時間と距離との関係を示す。飽和時間と距離との関係に基づいて、距離の最適水準を200mm以下と決定する。
ステップS26において、ステップS11で決定したショットピーニング加工装置及びメディアの組み合わせに対応する最適投射条件を決定する。最適投射条件は、ステップS25で決定した各条件因子の最適水準を組み合わせたものである。
図6に示す投射条件1−2は、ステップS26で決定された最適投射条件に該当する。したがって、図8Bから、最適投射条件におけるインテンシティを求める。したがって、ステップS11で決定したショットピーニング装置及びメディアの組み合わせによって効率的に(短い処理時間で)得ることが可能なインテンシティは図8Bから0.011inchNである。なお、あらためて試験を行って最適投射条件におけるインテンシティを求めてもよい。
ステップS26の後、ステップS30に進む。
上述したように、飽和時間に基づいて、ステップS11で決定した組み合わせを用いて加工を行うときの処理時間が短くなる最適投射条件が決定される。一般的には、飽和時間が短いほどカバレージが100%となるカバレージ時間が短いと考えられる。飽和時間はカバレージ時間に比べて決定が容易である。
スポットの移動条件を最適化すれば、処理時間を更に短くすることができる。スポット移動条件を決定するステップS30を以下に説明する。
図9を参照して、ステップS30は、ステップS31〜S33を含む。
ステップS31を説明する。図10は、ステップS31で用いられる試験片5を示す。試験片5は、アルメン試験片、又は、被処理物と同じ材質で形成された板である。試験片5は、後述する有効処理幅(面積)に対して十分大きいことが好ましい。ステップS31において、ステップS11で決定したショットピーニング加工装置がステップS20で決定した最適投射条件においてステップS11で決定したメディアを試験片5に投射する。このときの投射時間は、例えば、最適投射条件における飽和時間を含む範囲内において3水準程度を設定する。ここで、ショットピーニング加工装置の投射部と試験片5とは、一定条件で相対的に移動していてもよい。この場合、例えば、メディアが当たる領域としてのスポットが試験片5の中心線4に沿って往復するように投射部が平行移動又は首振りする。試験片5の中心線4の方向の長さはXである。
ステップS31において、投射を行った後の試験片5の表面を拡大鏡を用いて観察し、試験片5の表面上に定義される複数の面積率算出領域7の各々について、圧痕面積率を算出する。複数の面積率算出領域7は、試験片5の中心線4の両側において中心線4と中心位置6で直交する直線に沿って配置される。各面積率算出領域7は、例えば、2.56mm角の矩形領域である。面積率算出領域7の測定位置を示す数字が図に示されている。この数字の絶対値は中心位置6から離れるほど大きく、この数字の符号は中心線4の一方側で正であり、中心線4の他方側で負である。圧痕面積率は、単位面積当たりのメディアにより形成された圧痕(ディンプル)が占める面積を示す。
ステップS31において、試験片5における圧痕面積率の分布と投射時間の関係を求める。図11は、試験片5における圧痕面積率の分布と投射時間の関係を示す。図11の縦軸及び横軸は、それぞれ圧痕面積率及び試験片5上の測定位置である。図11において、投射時間が1、2、3、4秒の場合の各々について、圧痕面積率と測定位置の関係が示されている。
ステップS32において、図11に示された圧痕面積率の分布と投射時間の関係に基づいて、投射時間が1、2、3、4秒の場合の各々について試験片5における圧痕面積率が飽和している領域の幅を求める。圧痕面積率が飽和している領域は、カバレージが100%以上に達している領域である。圧痕面積率が飽和している領域の幅は、有効処理幅と呼ばれる。なお、試験片5における圧痕面積率が飽和している領域の幅(有効処理幅)のかわりに、この領域の面積(有効処理面積)を用いることも可能である。図12は、有効処理幅と投射時間の関係を示す。図12の縦軸は有効処理幅であり、横軸は投射時間である。投射時間が増加すると有効処理幅が増加するが、投射時間が1秒を超えると、有効処理幅の増加が鈍くなる。
ステップS33において、図12の有効処理幅と投射時間の関係からスポット移動条件を決定する。図13を参照して、ステップS11で決定したショットピーニング加工装置が被加工物3を加工するとき、メディアが当たる被加工物3の領域としてのスポットを移動軌跡4A〜4Cの各々に沿って往復させる。移動軌跡4A〜4Cは互いに平行である。ここで、移動軌跡4A〜4Cの方向の被加工物3の長さはYであり、移動軌跡4A〜4CのピッチはPである。ピッチPは、移動軌跡4A〜4Cのうちの隣り合うものどうしの間隔である。図12において投射時間が1秒のときの有効処理幅が25mmであるから、ピッチPが25mmであり、且つ、移動軌跡4A〜4Cの各々に沿ってスポットを往復させる投射時間が1秒の(Y/X)倍であることを、スポット移動条件として決定する。
ステップS30の他の例を説明する。図14は、有効処理幅wと投射時間tの関係の他の例を示す。投射時間tにおいて、長さがX、幅がwの矩形の領域内のカバレージが100%以上になる。つまり、面積Xwが時間tで処理される。ここで、長さXは定数であるから、単位面積当たりの処理時間はt/wに比例する。図15は、図14の有効処理幅wと投射時間tの関係から求めたt/wとtの関係を示す。この場合、t/wの値が最小となるtの値1.5秒とそのときの有効処理幅9mmに基づいて、ピッチPが9mmであり、且つ、移動軌跡4A〜4Cの各々に沿ってスポットを往復させる投射時間が1.5秒の(Y/X)倍であることを、スポット移動条件として決定する。
なお、処理すべき被加工物が具体的に決まっているときは、ステップS20の後且つステップS30の前にステップS13を実行することが好ましい。
なお、ステップS20において、特定の条件因子の水準を固定した上で他の条件因子の最適水準を決定してもよい。例えば、被処理物の表面に凹凸が多く、投射角度が90度では被処理物の表面全体を投射できない場合、投射角度を45度に固定した上で、他の条件因子の最適水準を決定する。
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係るショットピーニング加工条件の設定方法は、ステップS20が最適投射条件を決定するステップS210で置き換えられている点を除いて第1の実施形態に係るショットピーニング加工条件の設定方法と同じである。
図16に示すように、ステップS210は、上述のステップS21〜S24と、ステップS211〜S214を備える。ステップS211において、ステップS25と同様に各条件因子で飽和時間が最短となる水準を判定する。ステップS212において、ステップS211において判定した水準の近傍において追加試験を実施する。
図17は、追加試験における投射条件の例を示す。投射条件1−4は、流量が3kg/分である点を除いて投射条件1−2と同じである。投射条件1−5は、流量が5kg/分である点を除いて投射条件1−2と同じである。投射条件1−6は、圧力が0.2MPaである点を除いて投射条件1−2と同じである。各投射条件についてインテンシティと飽和時間を求める。
ステップS213において、ステップS212において求めた飽和時間とステップS24において求めた飽和時間とに基づいて、各条件因子での最適水準を決定する。
ステップS214において、ステップS11で決定したショットピーニング加工装置及びメディアの組み合わせに対応する最適投射条件を決定する。最適投射条件は、ステップS213で決定した各条件因子の最適水準を組み合わせたものである。
(第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態に係るショットピーニング加工条件の設定方法は、ステップS20がステップS220で置き換えられ、ステップS30が除かれている点を除いて第1又は第2の実施形態に係るショットピーニング加工条件の設定方法と同じである。
図18を参照して、ステップS220は、上述のステップS21〜S26と、ステップS221〜S224を備える。ステップS221において、ステップS23で使用したアルメン試験片を用い、ステップS22で決定した複数の投射条件の各々において、アルメン試験片全面のカバレージと投射時間の関係を求める。カバレージは、例えば、JIS B 2711の付録にあるようなカバレージ判定用の写真とアルメン試験片表面との比較に基づいて判断される。そして、各投射条件について、図19に示すようなカバレージの投射時間に対する変化を示す飽和曲線を求める。図19の縦軸はカバレージであり、横軸は投射時間である。そして、飽和曲線に基づいて、カバレージが100%になる投射時間としてのカバレージ時間Cを求める。このように、複数の投射条件の各々において、カバレージ時間を求める。
ステップS222において、カバレージ時間が最短になるように、各条件因子での最適水準を決定する。
ステップS223において、ステップS11で決定したショットピーニング加工装置及びメディアの組み合わせに対応する最適投射条件を決定する。最適投射条件は、ステップS222で決定した各条件因子の最適水準を組み合わせたものである。
ステップS224において、ステップS26で決定した最適投射条件とステップS223で決定した最適投射条件とに基づいて、一つの最適投射条件を決定する。例えば、ステップS26で決定した最適投射条件及びステップS223で決定した最適投射条件の一方を選択することでステップS224における最適投射条件を決定してもよく、ステップS26で決定した最適投射条件をステップS223で決定した最適投射条件に基づいて修正してステップS224における最適投射条件を決定してもよい。
本実施形態においては、ステップS2において、ステップS224で決定した最適投射条件に基づいて被加工物を加工する。
飽和時間だけに基づいて決定された最適投射条件におけるカバレージ時間が長いことが起こる可能性がある。本実施形態によれば、カバレージ時間が確実に短くなるように最適投射条件が決定される。
なお、飽和時間に基づいて最適投射条件を決定せずに、カバレージ時間だけに基づいて最適投射条件を決定してもよい。
上記各実施形態に係るショットピーニング加工方法を金属部品の製造方法に適用することが可能である。
1…投射部
2…被加工物面
3…被加工物
4…中心線
4A〜4C…移動軌跡
5…試験片
6…中心位置
7…面積率算出領域
10…飽和曲線
11…飽和点

Claims (13)

  1. ショットピーニング加工装置とメディアの組み合わせとしての第1組み合わせに対する複数の投射条件の各々において、アルメン試験片のアークハイト値の投射時間に対する変化を示す飽和曲線に基づいて飽和時間を求めるステップと、
    前記第1組み合わせに対応する第1最適投射条件を前記飽和時間に基づいて決定するステップと
    を具備し、
    前記複数の投射条件の条件因子は、第1条件因子と、第2条件因子とを含み、
    前記複数の投射条件は、第1投射条件と、前記第1投射条件と前記第1条件因子の水準のみが異なる第2投射条件と、第3投射条件と、前記第3投射条件と前記第2条件因子の水準のみが異なる第4投射条件とを含み、
    前記第1最適投射条件を前記飽和時間に基づいて決定する前記ステップは、
    前記第1投射条件における第1飽和時間と前記第2投射条件における第2飽和時間とに基づいて、前記第1最適投射条件における前記第1条件因子の水準を決定するステップと、
    前記第3投射条件における第3飽和時間と前記第4投射条件における第4飽和時間とに基づいて、前記第1最適投射条件における前記第2条件因子の水準を決定するステップと
    を含む
    ショットピーニング加工条件の設定方法。
  2. 前記ショットピーニング加工装置は、空気を用いてメディアをノズルから投射し、
    前記第1条件因子及び前記第2条件因子は、メディア流量、空気の圧力、前記ノズルと被処理面との距離、前記ノズルと被処理面との角度、前記ノズルの内径、及び、前記ノズルの移動速度から選択される任意の二つである
    請求項1のショットピーニング加工条件の設定方法。
  3. 前記ショットピーニング加工装置は、インペラーを用いてメディアを投射し、
    前記第1条件因子及び前記第2条件因子は、前記インペラーの回転速度、前記インペラーと被処理面との距離、前記インペラーと被処理面との角度、噴射口の大きさ、及び、被処理物の移動速度、及び被処理物の回転速度から選択される任意の二つである
    請求項1のショットピーニング加工条件の設定方法。
  4. ショットピーニング加工装置とメディアの組み合わせとしての第1組み合わせに対する複数の投射条件の各々において、アルメン試験片のアークハイト値の投射時間に対する変化を示す飽和曲線に基づいて飽和時間を求めるステップと、
    前記第1組み合わせに対応する第1最適投射条件を前記飽和時間に基づいて決定するステップと、
    前記ショットピーニング加工装置が前記第1最適投射条件において試験片にメディアを投射するステップと、
    前記試験片における圧痕面積率の分布と投射時間の関係を求めるステップと、
    前記圧痕面積率の分布と投射時間の関係に基づいて、前記試験片における前記圧痕面積率が飽和している領域の面積又は幅と前記投射時間との関係を求めるステップと
    を具備し、
    前記圧痕面積率は、単位面積当たりのメディアによる圧痕が占める面積を示す
    ョットピーニング加工条件の設定方法。
  5. 前記面積又は前記幅と前記投射時間との関係に基づいてスポット移動条件を決定するステップを更に具備し、
    前記スポット移動条件は、前記ショットピーニング加工装置が被加工物を加工しているときにメディアが当たっている前記被加工物の領域としてのスポットが移動する互いに平行な移動軌跡のピッチを示す
    請求項4のショットピーニング加工条件の設定方法。
  6. ショットピーニング加工装置とメディアの組み合わせとしての第1組み合わせに対する複数の投射条件の各々において、アルメン試験片のアークハイト値の投射時間に対する変化を示す飽和曲線に基づいて飽和時間を求めるステップと、
    前記第1組み合わせに対応する第1最適投射条件を前記飽和時間に基づいて決定するステップと
    を具備し、
    前記第1最適投射条件に対応するインテンシティが被加工物に要求されるインテンシティに合わないとき、
    ショットピーニング加工装置とメディアの組み合わせとしての第2組み合わせに対する複数の投射条件の各々において、飽和時間を求めるステップと、
    前記第2組み合わせに対応する第2最適投射条件を前記第2組み合わせに対応する前記飽和時間に基づいて決定するステップと
    を更に具備する
    ョットピーニング加工条件の設定方法。
  7. ショットピーニング加工装置とメディアの組み合わせとしての第1組み合わせに対する複数の投射条件の各々において、アルメン試験片のアークハイト値の投射時間に対する変化を示す飽和曲線に基づいて飽和時間を求めるステップと、
    前記第1組み合わせに対応する第1最適投射条件を前記飽和時間に基づいて決定するステップと、
    前記第1最適投射条件におけるインテンシティを求めるステップ
    を具備する
    ョットピーニング加工条件の設定方法。
  8. ショットピーニング加工装置とメディアの組み合わせとしての第1組み合わせに対する複数の投射条件の各々において、アルメン試験片のアークハイト値の投射時間に対する変化を示す飽和曲線に基づいて飽和時間を求めるステップと、
    前記第1組み合わせに対応する第1最適投射条件を前記飽和時間に基づいて決定するステップと、
    前記飽和時間を求めるステップにおいて使用したアルメン試験片を用いて、前記複数の投射条件の各々においてカバレージが100%となる投射時間としてのカバレージ時間を求めるステップと、
    前記第1組み合わせに対応する第3最適投射条件を前記カバレージ時間に基づいて決定するステップと、
    前記第1最適投射条件及び前記第3最適投射条件に基づいて第4最適投射条件を決定するステップと
    を具備する
    ョットピーニング加工条件の設定方法。
  9. ショットピーニング加工装置が試験片にメディアを投射するステップと、
    前記試験片における圧痕面積率の分布と投射時間の関係を求めるステップと、
    前記圧痕面積率の分布と投射時間の関係に基づいて、前記試験片における前記圧痕面積率が飽和している領域の面積又は幅と前記投射時間との関係を求めるステップと
    を具備し、
    前記圧痕面積率は、単位面積当たりのメディアによる圧痕が占める面積を示す
    ショットピーニング加工条件の設定方法。
  10. ショットピーニング加工装置とメディアの組み合わせとしての第1組み合わせに対する複数の投射条件の各々において、アルメン試験片のカバレージの投射時間に対する変化を示す飽和曲線に基づいてカバレージが100%となる投射時間としてのカバレージ時間を求めるステップと、
    前記第1組み合わせに対応する最適投射条件を前記カバレージ時間に基づいて決定するステップと
    を具備し、
    前記複数の投射条件の条件因子は、第1条件因子と、第2条件因子とを含み、
    前記複数の投射条件は、第1投射条件と、前記第1投射条件と前記第1条件因子の水準のみが異なる第2投射条件と、第3投射条件と、前記第3投射条件と前記第2条件因子の水準のみが異なる第4投射条件とを含み、
    前記最適投射条件を前記カバレージ時間に基づいて決定する前記ステップは、
    前記第1投射条件における第1カバレージ時間と前記第2投射条件における第2カバレージ時間とに基づいて、前記最適投射条件における前記第1条件因子の水準を決定するステップと、
    前記第3投射条件における第3カバレージ時間と前記第4投射条件における第4カバレージ時間とに基づいて、前記最適投射条件における前記第2条件因子の水準を決定するステップと
    を含む
    ショットピーニング加工条件の設定方法。
  11. ショットピーニング加工条件を決定するステップと、
    前記ショットピーニング加工条件に基づいて被加工物を加工するステップと
    を具備し、
    前記ショットピーニング加工条件を決定する前記ステップは、
    ショットピーニング加工装置とメディアの組み合わせとしての第1組み合わせに対する複数の投射条件の各々において、アルメン試験片のアークハイト値の投射時間に対する変化を示す飽和曲線に基づいて飽和時間を求めるステップと、
    前記第1組み合わせに対応する第1最適投射条件を前記飽和時間に基づいて決定するステップと
    を含み、
    前記複数の投射条件の条件因子は、第1条件因子と、第2条件因子とを含み、
    前記複数の投射条件は、第1投射条件と、前記第1投射条件と前記第1条件因子の水準のみが異なる第2投射条件と、第3投射条件と、前記第3投射条件と前記第2条件因子の水準のみが異なる第4投射条件とを含み、
    前記第1最適投射条件を前記飽和時間に基づいて決定する前記ステップは、
    前記第1投射条件における第1飽和時間と前記第2投射条件における第2飽和時間とに基づいて、前記第1最適投射条件における前記第1条件因子の水準を決定するステップと、
    前記第3投射条件における第3飽和時間と前記第4投射条件における第4飽和時間とに基づいて、前記第1最適投射条件における前記第2条件因子の水準を決定するステップと
    を含む
    金属部品の製造方法。
  12. ショットピーニング加工条件を決定するステップと、
    前記ショットピーニング加工条件に基づいて被加工物を加工するステップと
    を具備し、
    前記ショットピーニング加工条件を決定する前記ステップは、
    ショットピーニング加工装置が試験片にメディアを投射するステップと、
    前記試験片における圧痕面積率の分布と投射時間の関係を求めるステップと、
    前記圧痕面積率の分布と投射時間の関係に基づいて、前記試験片における前記圧痕面積率が飽和している領域の面積又は幅と前記投射時間との関係を求めるステップと、
    前記面積又は前記幅と前記投射時間との関係に基づいてスポット移動条件を決定するステップと
    を含み、
    前記圧痕面積率は、単位面積当たりのメディアによる圧痕が占める面積を示し、
    前記スポット移動条件は、前記ショットピーニング加工装置が前記被加工物を加工しているときにメディアが当たっている前記被加工物の領域としてのスポットの移動条件を示す
    金属部品の製造方法。
  13. ショットピーニング加工条件を決定するステップと、
    前記ショットピーニング加工条件に基づいて被加工物を加工するステップと
    を具備し、
    前記ショットピーニング加工条件を決定する前記ステップは、
    ショットピーニング加工装置とメディアの組み合わせとしての第1組み合わせに対する複数の投射条件の各々において、アルメン試験片のカバレージの投射時間に対する変化を示す飽和曲線に基づいてカバレージが100%となる投射時間としてのカバレージ時間を求めるステップと、
    前記第1組み合わせに対応する最適投射条件を前記カバレージ時間に基づいて決定するステップと
    を含み、
    前記複数の投射条件の条件因子は、第1条件因子と、第2条件因子とを含み、
    前記複数の投射条件は、第1投射条件と、前記第1投射条件と前記第1条件因子の水準のみが異なる第2投射条件と、第3投射条件と、前記第3投射条件と前記第2条件因子の水準のみが異なる第4投射条件とを含み、
    前記最適投射条件を前記カバレージ時間に基づいて決定する前記ステップは、
    前記第1投射条件における第1カバレージ時間と前記第2投射条件における第2カバレージ時間とに基づいて、前記最適投射条件における前記第1条件因子の水準を決定するステップと、
    前記第3投射条件における第3カバレージ時間と前記第4投射条件における第4カバレージ時間とに基づいて、前記最適投射条件における前記第2条件因子の水準を決定するステップと
    を含む
    金属部品の製造方法。
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