ここで、図1は、本実施例に係るトロイダル式無段変速機の概略断面図であり、図2は、本実施例に係るトロイダル式無段変速機の一対のパワーローラ周りの概略断面図である。また、図3は、エンジン始動時における変速制御ピストンの一連の動作を示した説明図であり、図4は、エンジン始動時における変速制御ピストンの一連の制御に係るフローチャートである。
先ず、図1を参照して、トロイダル式無段変速機8を搭載した車両1について説明する。車両1は、駆動源となるエンジン5と、エンジン5に連結されたトルクコンバータ6と、トルクコンバータ6に連結された前後進切換機構7と、前後進切換機構7に連結されたトロイダル式無段変速機8とを備えている。また、トロイダル式無段変速機8には減速装置9が連結されると共に、減速装置9には差動装置10が連結され、さらに、差動装置10には駆動輪11が連結されている。そして、トルクコンバータ6、前後進切換機構7およびトロイダル式無段変速機8は油圧制御装置26に接続されており、油圧制御装置26は、作動油の油圧をコントロールすることにより、トルクコンバータ6、前後進切換機構7およびトロイダル式無段変速機8を制御する。また、車両1は、エンジン5および油圧制御装置26を制御するECU90を備えており、ECU90により車両1が統括制御される。
エンジン5は、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等が用いられており、円筒形状に形成されるシリンダの中心軸方向にピストンが往復運動し、ピストンの往復運動を回転運動に変換するクランクシャフト15から駆動力を出力する。なお、上記の構成に限らず、モータなどの電動機を用いてもよく、また、エンジン及び電動機を併用してもよい。
トルクコンバータ6は、流体クラッチの一種であり、エンジン5から出力された駆動力を、作動油を介して前後進切換機構7に伝えるものである。また、トルクコンバータ6は、例えば、ロックアップ機構を有するものがあり、エンジン5からの出力トルクを増加させて、あるいはそのままの出力トルクで、前後進切換機構7に伝達する。
前後進切換機構7は、トルクコンバータ6からの回転の回転方向を切り替えてトロイダル式無段変速機8へ前記回転を伝えるものである。
トロイダル式無段変速機8は、前後進切換機構7から入力される駆動力の回転速度を、車両の運転状態に応じて所望の回転速度に変更して出力する。なお、トロイダル式無段変速機8の詳細な説明は後述する。
減速装置9は、トロイダル式無段変速機8から入力された駆動力の回転速度を減速して差動装置10に駆動力を伝達し、差動装置10は、車両1が旋回する際に生じる旋回の中心側、つまり内側の駆動輪11と、外側の駆動輪11との速度差を吸収する。
従って、車両1において、エンジン5が駆動すると、エンジン5から出力された駆動力は、クランクシャフト15を介してトルクコンバータ6に伝達される。そして、トルクコンバータ6によって出力トルクが増幅された駆動力は、前後進切換機構7に伝達され、前後進切換機構7によって所望の回転方向に変更される。所望の回転方向となった駆動力は、トロイダル式無段変速機8に入力され、入力された駆動力は、トロイダル式無段変速機8の所定の変速比に応じて、回転速度が変更される。トロイダル式無段変速機8によって、回転速度が変更された駆動力は、減速装置9に入力され、入力された駆動力は、減速装置9によって減速された後、差動装置10に出力される。そして、差動装置10は、入力された駆動力を駆動輪11に伝達することにより、駆動輪11が回転し、これにより、車両1が走行する。
次に、トロイダル式無段変速機8について説明する。トロイダル式無段変速機8は、車両に搭載されたエンジン5からの駆動力を、車両1の走行状態に応じて、適切な駆動力に変換して駆動輪11に伝達するものであり、変速比を無段階(連続的)に制御することができる、いわゆるCVTである。
図1および図2に示すように、トロイダル式無段変速機8は、駆動力が入力される一対の入力ディスク20a,20bと、一対の入力ディスク20a,20bの間に配設されると共に、各入力ディスク20a,20bに対向するように配設された一対の出力ディスク21a,21bと、各入力ディスク20a,20bと各出力ディスク21a,21bとの間にそれぞれ設けられた対となる2組のパワーローラ22と、を備えており、各パワーローラ22は、各トラニオン23に回転自在に支持されている。また、トロイダル式無段変速機8は、各入力ディスク20a,20bと各出力ディスク21a,21bとを接近させて各パワーローラ22を挟持させるディスク押圧機構24(ディスク押圧手段)と、各トラニオン23を揺動軸61a,61b(図2参照)に沿って移動させて各パワーローラ22を中立位置と変速位置との間で移動させる油圧サーボ機構25(ローラストローク手段)と、を備えており、ディスク押圧機構24および油圧サーボ機構25は、上記の油圧制御装置26により制御されている。
従って、トロイダル式無段変速機8は、ディスク押圧機構24により各入力ディスク20a,20bと各出力ディスク21a,21bとの間に各パワーローラ22を挟み込み、この状態で、油圧サーボ機構25により各トラニオン23を揺動軸61a,61bに沿って移動させる。これにより、各パワーローラ22が中立位置から変速位置に移動することで、各パワーローラ22が傾転し、入力ディスク20a,20bと出力ディスク21a,21bとの回転数比である変速比が変更される。
一対の入力ディスク20a,20bは、トロイダル式無段変速機8の入力軸28に連結されたバリエータ軸30に軸支されており、軸線X1を中心にバリエータ軸30と一体となって回転する。そして、一対の入力ディスク20a,20bは、バリエータ軸30に対して、フロント側(エンジン5側)にフロント側入力ディスク20aが設けられ、フロント側入力ディスク20aに対して所定の間隔をあけてリア側(駆動輪11側)にリア側入力ディスク20bが設けられる。
各入力ディスク20a,20bは、バリエータ軸30の径方向外側に突出する円板形状に形成され、その軸心には、バリエータ軸30が挿通される開口が形成されている。そして、各入力ディスク20a,20bの各出力ディスク21a,21bと対向する面には、各パワーローラ22にそれぞれ接触するトロイダル面33aが形成されている。
フロント側入力ディスク20aは、ボールスプライン35を介してバリエータ軸30に支持されている。このため、フロント側入力ディスク20aは、バリエータ軸30に対して周方向への変位が規制される一方、バリエータ軸30に対して軸方向への変位が許容される。一方、リア側入力ディスク20bは、スプライン36を介してバリエータ軸30に支持されていると共に、バリエータ軸30のリア側端部に設けられたスナップリング37により軸方向への移動が規制されている。このため、リア側入力ディスク20bは、バリエータ軸30に対して周方向への変位が規制される一方、バリエータ軸30に対して軸方向リア側への変位が規制され、軸方向フロント側への変位が許容される。なお、詳細は後述するが、フロント側入力ディスク20aは、ディスク押圧機構24により軸方向リア側に押圧され、リア側入力ディスク20bは、ディスク押圧機構24により軸方向フロント側に押圧される。
一対の出力ディスク21a,21bは、バリエータ軸30に対し回転自在に軸支されており、軸線X1を中心に回転する。そして、一対の出力ディスク21a,21bは、一対の入力ディスク20a,20bの間に配設されており、バリエータ軸30に対して、フロント側にフロント側出力ディスク21aが設けられ、フロント側出力ディスク21aに対して所定の間隔をあけてリア側にリア側出力ディスク21bが設けられる。
各出力ディスク21a,21bも、各入力ディスク20a,20bと同様に、バリエータ軸30の径方向外側に突出する円板形状に形成され、その軸心には、バリエータ軸30が挿通される開口が形成されている。そして、各出力ディスク21a,21bの各入力ディスク20a,20bと対向する面には、各パワーローラ22にそれぞれ接触するトロイダル面33bが形成されている。
フロント側出力ディスク21aおよびリア側出力ディスク21bは、ベアリングを介してバリエータ軸30に支持されている。一対の出力ディスク21a,21bの間には、出力ギア40が連結されており、この出力ギア40は、一対の出力ディスク21a,21bと一体となって回転する。また、出力ギア40には、カウンターギア41が噛み合わされており、このカウンターギア41に出力軸42が連結されている。従って、各出力ディスク21a,21bが回転することにより出力ギア40が回転し、出力ギア40からカウンターギア41に回転を伝達することで、出力軸42が回転する。そして、この出力軸42は、減速装置9、差動装置10等を介して駆動輪11に接続されている。
ここで、入力軸28周りには、各出力ディスク21a,21bに対し各入力ディスク20a,20bを接近させるディスク押圧機構24が配設されている。つまり、ディスク押圧機構24は、各入力ディスク20a,20bと各出力ディスク21a,21bとの間に一対のパワーローラ22を挟み込んで、挟圧力を作用させるものである。このディスク押圧機構24は、挟圧力発生油圧室45と、挟圧押圧力ピストン46とを有している。
挟圧力発生油圧室45は、フロント側入力ディスク20a側に設けられており、入力軸28とフロント側入力ディスク20aとの間に配置される。そして、挟圧力発生油圧室45には、油圧制御装置26から作動油が供給される。
挟圧押圧力ピストン46は、円板状に形成され、その中心が軸線X1とほぼ一致するようにバリエータ軸30のフロント側の一端部に設けられる。具体的に、バリエータ軸30のフロント側端部には、フランジ部47が形成され、このフランジ部47に挟圧押圧力ピストン46のフロント側端面の中央部を当接させると共に、挟圧押圧力ピストン46のフロント側端面の外周部には、入力軸28が連結されている。つまり、バリエータ軸30のフランジ部47は、入力軸28と挟圧押圧力ピストン46との間に配設されている。そして、挟圧押圧力ピストン46は、X1軸方向に対して、バリエータ軸30のフランジ部47とフロント側入力ディスク20aとの間に所定の間隔をあけて配置される。これにより、この挟圧押圧力ピストン46とフロント側入力ディスク20aとの間には、上述の挟圧力発生油圧室45が形成される。
また、挟圧押圧力ピストン46は、このバリエータ軸30と共に軸線X1を中心として回転可能に設けられると共に、軸線X1に沿った方向に移動可能に設けられる。これにより、リア側入力ディスク20b、バリエータ軸30および挟圧押圧力ピストン46は、入力軸28と一体となって軸線X1を中心に回転可能に構成され、軸線X1に沿った方向に移動可能に構成される。また、フロント側入力ディスク20aは、リア側入力ディスク20b、バリエータ軸30および挟圧押圧力ピストン46と共に一体となって軸線X1を中心として回転可能である一方で、ボールスプライン35によって、このリア側入力ディスク20b、バリエータ軸30および挟圧押圧力ピストン46に対して軸線X1に沿った方向に相対的に移動可能である。
また、フロント側入力ディスク20aは、そのフロント側端面が、フロント側入力ディスク20aを移動させるための油圧の第1作用面50となっており、挟圧押圧力ピストン46は、そのリア側端面が、リア側入力ディスク20bを移動させるための油圧の第2作用面51となっている。つまり、挟圧力発生油圧室45は、その一部が第1作用面50および第2作用面51により区画されている。
従って、ディスク押圧機構24は、挟圧力発生油圧室45内に供給される作動油の油圧により、フロント側入力ディスク20aを軸線X1の軸方向リア側へ移動させると共に、挟圧押圧力ピストン46を軸線X1の軸方向フロント側へ移動させる。これにより、フロント側入力ディスク20aとフロント側出力ディスク21aとの間に配設された一対のパワーローラ22は、フロント側入力ディスク20aとフロント側出力ディスク21aとにより挟持される。一方、リア側入力ディスク20bとリア側出力ディスク21bとの間に配設された一対のパワーローラ22は、挟圧押圧力ピストン46が軸線X1の軸方向フロント側へ移動することにより、リア側入力ディスク20bがフロント側へ移動するため、リア側入力ディスク20bとリア側出力ディスク21bとにより挟持される。この結果、トロイダル式無段変速機8は、各パワーローラ22を介して各入力ディスク20a,20bと各出力ディスク21a,21bとの間で、動力伝達を行うことが可能となる。
次に、2組一対のパワーローラ22は、各入力ディスク20a,20bと各出力ディスク21a,21bとの間に配設され、具体的には、一方の一対のパワーローラ22は、フロント側入力ディスク20aとフロント側出力ディスク21aとの間に配設され、他方の一対のパワーローラ22は、リア側入力ディスク20bとリア側出力ディスク21bとの間に配設されている。そして、各パワーローラ22は、ディスク押圧機構24により各入力ディスク20a,20bおよび各出力ディスク21a,21bに挟持された状態で転動することにより、各入力ディスク20a,20bから各出力ディスク21a,21bに駆動力を、あるいは各出力ディスク21a,21bから各入力ディスク20a,20bに被駆動力を伝達する。このとき、各パワーローラ22は、トロイダル式無段変速機8に供給されるトラクションオイルにより各パワーローラ22と各入力ディスク20a,20bとの間および各パワーローラ22と各出力ディスク21a,21bとの間に形成される油膜のせん断力を用いて駆動力あるいは被駆動力を伝達する。
さらに具体的に、各パワーローラ22は、パワーローラ本体55と、外輪56とにより構成されている。パワーローラ本体55は、その外周面が各入力ディスク20a,20bおよび各出力ディスク21a,21bのトロイダル面33a,33bに対応した曲面状の接触面57に形成されている。パワーローラ本体55は、外輪56に形成された回転軸58に対し、ラジアルベアリングRBを介して回転自在に支持されている。また、パワーローラ本体55は、外輪56のパワーローラ本体55と対向する面に対して、スラストベアリングSBを介して回転自在に支持されている。従って、パワーローラ本体55は、外輪56の回転軸58の軸線X2を回転中心として回転可能となっている。
外輪56には、上述の回転軸58と共に偏心軸59が形成されている。偏心軸59は、その軸線X3が回転軸58の軸線X2に対してずれた位置となるように形成されている。偏心軸59は、後述するトラニオン23に対し、ラジアルベアリングRBを介して回転自在に支持されている。従って、外輪56は、偏心軸59の軸線X3を中心として回転可能である。つまり、各パワーローラ22は、軸線X3を中心として公転可能でかつ軸線X2を中心として自転可能となる。
2組一対のパワーローラ22をそれぞれ回転自在に支持する2組一対のトラニオン23は、各入力ディスク20a,20bおよび各出力ディスク21a,21bに対し、各パワーローラ22を中立位置と変速位置との間で移動させるものであり、より具体的には、各パワーローラ22を中立位置を挟んで増速側変速エンド位置と減速側変速エンド位置との間で移動させるものである。各トラニオン23は、本体部60と、揺動軸61a,61bとにより構成されている。
本体部60には、パワーローラ22が配置される空間部が形成されている。また、本体部60には、パワーローラ22の移動方向における両端部に揺動軸61a,61bがそれぞれ一体形成されている。揺動軸61a,61bは、柱状に形成されており、軸線X4を回転中心として本体部60を傾転方向に回転可能に軸支している。図示下方に延びる一方の揺動軸61aは、ロアリンク62を介してケーシング(不図示)に支持されており、図示上方に延びる他方の揺動軸61bは、アッパリンク63を介してケーシング(不図示)に支持されている。また、揺動軸61aは、ラジアルベアリングRBを介してロアリンク62に傾転方向に回転自在かつX4軸方向(ストローク方向)に移動自在に支持され、揺動軸61bは、ラジアルベアリングRBを介してアッパリンク63に傾転方向に回転自在かつストローク方向に移動自在に支持されている。従って、各トラニオン23は、本体部60が揺動軸61a,61bと共に軸線X4を中心として傾転方向に回転自在に支持され、また、軸線X4に沿ったストローク方向に移動自在に支持されている。
ここで、各トラニオン23の揺動軸61a周りには、各トラニオン23をX4軸方向に移動させる油圧サーボ機構25が配設され、また、揺動軸61bの一方の周りには、ストロークセンサ64が配設されている。ストロークセンサ64は、一方のトラニオン23のX4軸方向(ストローク方向)への移動量(ストローク量)を検出するものであり、上記のECU90に接続されている。これにより、ECU90は、ストロークセンサ64による検出結果に基づいて、油圧サーボ機構25を制御することにより、各トラニオン23のX4軸方向への移動を制御している。油圧サーボ機構25は、各トラニオン23を介して各パワーローラ22を中立位置を挟んで増速側変速エンド位置と減速側変速エンド位置との間で移動させるものである。この油圧サーボ機構25は、変速制御油圧室65と、変速制御ピストン66とを有しており、変速制御油圧室65に導入される作動油の油圧を変速制御ピストン66により受圧することで、各トラニオン23を軸線X4に沿った増速側および減速側の2方向(A1方向およびA2方向)に移動させる。なお、前後進切換機構7により各入力ディスク20a,20bの回転の切換が行われると、増速側方向または減速側方向であるA1方向は減速側方向または増速側方向となり、減速側方向または増速側方向であるA2方向は増速側方向または減速側方向となる。
変速制御ピストン66は、ピストンベース70とフランジ部71とにより構成されている。ピストンベース70は、円筒形状に形成され一方の揺動軸61aに挿入されて固定されている。フランジ部71は、ピストンベース70から揺動軸61aの径方向外側に突出して円板状に形成されると共にピストンベース70に固定的に設けられている。
変速制御油圧室65は、シリンダボディ75内に形成されており、シリンダボディ75は、ボディ本体76と、ボディ本体76の底部に配設されたロアカバー77とにより構成されている。ボディ本体76は、その底部に変速制御油圧室65となる円柱中空状の凹部が形成されている。そして、ロアカバー77は、ボディ本体76の凹部の開口を塞ぐようにボディ本体76の底部に固定される。これにより、変速制御油圧室65は、ボディ本体76とロアカバー77とにより軸線X4を中心とした円柱状(シリンダ状)に区画される。このとき、各変速制御油圧室65のA1方向およびA2方向における両壁面は、各変速制御ピストン66のストッパ78としてそれぞれ機能している。このストッパ78は、A1方向またはA2方向へ向けてストロークした変速制御ピストン66を移動規制することにより、各パワーローラ22を変速エンド位置(増速側変速エンド位置または減速側変速エンド位置)に移動規制する。
そして、変速制御ピストン66のフランジ部71は、変速制御油圧室65内に収容されると共に、変速制御油圧室65を第1油圧室OP1と第2油圧室OP2とに区分けする。このとき、一対のパワーローラ22を支持する一対のトラニオン23において、各トラニオン23の揺動軸61a周りに形成された第1油圧室OP1は、軸線X4に沿ったA2方向側に形成され、第2油圧室OP2は、軸線X4に沿ったA1方向側に形成されており、一対のトラニオン23の揺動軸61a周りに形成された第1油圧室OP1および第2油圧室OP2は、それぞれ位置関係が逆となっている。
ここで、油圧制御装置26は、ディスク押圧機構24による押圧力を調整するための押圧制御弁84と、油圧サーボ機構25によるトラニオン23(変速制御ピストン66)の移動を制御するための変速制御弁85と、を備えている。押圧制御弁84および変速制御弁85は、それぞれECU90に接続され、ECU90による制御信号により、挟圧力発生油圧室45内の油圧と、第1油圧室OP1および第2油圧室OP2内の油圧とをそれぞれ調整する。
従って、油圧制御装置26により、第1油圧室OP1の内部に作動油を供給すると共に、第2油圧室OP2の内部から作動油を図示しないオイルパンへ流出させると、各変速制御ピストン66のフランジ部71が軸線X4に沿ったA1方向に移動する。これにより、各トラニオン23は各パワーローラ22をA1方向における変速位置へ移動させる。このとき、A1方向に移動した各変速制御ピストン66の各フランジ部71が、変速制御油圧室65のストッパ78に当接することで、各パワーローラ22は、A1方向における変速エンド位置に規制される。一方、油圧制御装置26により、第2油圧室OP2の内部に作動油を供給すると共に、第2油圧室OP2の内部から作動油を図示しないオイルパンへ流出させると、各変速制御ピストン66のフランジ部71が軸線X4に沿ったA2方向に移動する。これにより、各トラニオン23は各パワーローラ22をA2方向における変速位置へ移動させる。このとき、A2方向に移動した各変速制御ピストン66の各フランジ部71が、変速制御油圧室65のストッパ78に当接することで、各パワーローラ22は、A2方向における変速エンド位置に規制される。
これにより、油圧サーボ機構25は、各トラニオン23を軸線X4に沿った方向に移動させることにより、各入力ディスク20a,20bおよび各出力ディスク21a,21bに対し、各パワーローラ22を中立位置から増速側または減速側の変速位置に移動させることで、各入力ディスク20a,20bおよび各出力ディスク21a,21bに対し、各パワーローラ22を傾転させることができる。そして、変速位置に臨んだ各パワーローラ22を、再び中立位置に戻すことで、変速比の変更を完了する。このとき、フランジ部71の径方向外側の先端部には、環状のシール部材Sが設けられており、環状のシール部材Sは、第1油圧室OP1および第2油圧室OP2の内部の作動油が互いに漏れないようにシールしている。
ところで、車両1の運搬時や車両1の被牽引時において、車両1に衝撃が加わってしまうと、各パワーローラ22が、例えばその自重により、ストローク方向にズレてしまう場合がある。このとき、一対のパワーローラ22が、A1方向とA2方向とにそれぞれ移動してしまうと、各パワーローラ22のストローク方向への移動を好適に行うことができず、トロイダル式無段変速機8による動力伝達が好適に行われない場合がある。このため、本実施例のトロイダル式無段変速機8では、各パワーローラ22のストローク方向における非同期状態を補正している。なお、上記したアッパリンク63およびロアリンク62により各パワーローラ22のストローク方向における同期を機械的にとってはいるが、アッパリンク63およびロアリンク62と各トラニオン23との間には、各種構成部品の寸法公差等により僅かなガタが生じてしまう。このため、このガタ分、ストローク方向において各パワーローラ22が非同期状態となってしまう。以下、図1および図2を参照して、トロイダル式無段変速機8の2組一対のパワーローラ22を同期させるための構成について説明する。
油圧制御装置26を制御するECU90(制御装置)は、各変速制御ピストン66をストローク方向において同期制御させるピストン同期制御部80(同期制御部)と、同期後の各変速制御ピストン66を制御して各パワーローラ22を中立位置に復帰させるピストン復帰制御部81(中立位置復帰制御部)と、中立位置に復帰した各パワーローラ22をディスク押圧機構24により挟持して各入力ディスク20a,20bと各出力ディスク21a,21bとの間で動力伝達させるディスク押圧制御部82と、を備えている。
ピストン同期制御部80は、エンジン5の始動時において、変速制御弁85を制御することにより、油圧サーボ機構25を介して、各パワーローラ22を減速側変速エンド位置へ移動させて、各変速制御ピストン66を上記の各ストッパ78に当接させる同期制御を実行する。このとき、ピストン同期制御部80は、各パワーローラ22を減速側変速エンド位置へ移動させることで、エンジン5始動時おいて、例えば、車両1が動くことにより各出力ディスク21a,21bが回転しても、各パワーローラ22は減速側変速エンド位置に臨んでいるため、各パワーローラ22は減速方向に傾転する。これにより、トロイダル式無段変速機8の変速比が増速側へ不用意に変更してしまうことを防止することができる。なお、車両1の前進時における減速側の変速位置は、車両1の後進時における減速側の変速位置と逆方向となっており、ピストン同期制御部80は、前後進切換機構7による各入力ディスク20a,20bの回転の切換に応じて、各変速制御ピストン66が減速側の変速位置へ移動するように、A1方向またはA2方向へ適宜移動させる。
ピストン復帰制御部81は、ストロークセンサ64の検出結果に基づいてフィードバック制御しながら、各パワーローラ22が中立位置へ復帰するように、各ストッパ78に当接した各変速制御ピストン66を移動させる復帰制御を行う。そして、ピストン復帰制御部81は、ストロークセンサ64による検出結果から、各パワーローラ22が中立位置に復帰したことを検出すると、ディスク押圧制御部82は押圧制御を開始する。
各パワーローラ22が中立位置へ臨むと、ディスク押圧制御部82は、押圧制御弁84を制御することにより、ディスク押圧機構24を介して各入力ディスク20a,20bを各出力ディスク21a,21bへ向けて移動させる押圧制御を行う。これにより、各パワーローラ22は、各入力ディスク20a,20bの回転を各出力ディスク21a,21bへ動力伝達する。
次に、図4を参照して、エンジン5始動時における各変速制御ピストン66の一連の制御について説明する。エンジン5を始動させると(S1)、先ず、ECU90のピストン同期制御部80が同期制御を行う。つまり、ピストン同期制御部80は、車両1の前後進に応じて、変速制御弁85を制御して、第1油圧室OP1または第2油圧室OP2に油圧を導入する。これにより、ピストン同期制御部80は、2組一対の変速制御ピストン66を、A1方向またはA2方向に移動させて、第1油圧室OP1または第2油圧室OP2のストッパ78へ突き当てる(S2:同期工程)。
この後、ECU90のピストン復帰制御部81は、同期制御の開始から所定の時間経過後、つまり、同期制御を開始してから各変速制御ピストン66がストッパ78へ当接するまでの時間の経過後、復帰制御を開始する。つまり、ピストン復帰制御部81は、一対の変速制御ピストン66を、同期工程と逆方向へ移動させて、一対のパワーローラ22を中立位置に復帰させる(S3)。これにより、一対のパワーローラ22を中立位置に復帰させることで、各変速制御ピストン66とストッパ78との接触状態を解除することができる。そして、ピストン復帰制御部81は、ストロークセンサ64による検出結果から、一対のパワーローラ22が中立位置に臨んだか否かを判別し(S4)、中立位置に臨んでいない場合は、復帰制御を継続し、中立位置に臨んだ場合は、S5に移行する。
一対のパワーローラ22が中立位置に臨むと、今度は、ECU90のディスク押圧制御部82が押圧制御を行うことにより、それぞれの一対のパワーローラ22を各入力ディスク20a,20bと各出力ディスク21a,21bとの間に挟み込む(S5:押圧油圧上昇工程)。これにより、ディスク押圧制御部82は、各入力ディスク20a,20bの回転を各パワーローラ22を介して各出力ディスク21a,21bへ伝達する。この後、ECU90は、通常の変速制御を行う(S6)。
次に、図3を参照して、図4に示す一連の制御に基づく、エンジン5始動時における各変速制御ピストン66の一連の動作について説明する。図3に示すように、エンジン5始動前における一対のパワーローラ22のストローク方向におけるそれぞれの位相は、非同期状態、すなわち異なる位相となっている。この状態において、ECU90が同期制御を行うと、一対のパワーローラ22はストッパ78に当接することで、ストローク量が略同一となる。これにより、一対のパワーローラ22は同期状態とすることができる。この後、ECU90が復帰制御を行うと、一対のパワーローラ22は、中立位置に移動しようとするが、惰性により中立位置を越えて移動してしまうため、中立位置を中心に減衰運動しながら中立位置へ移動する。
以上の構成によれば、2組一対のパワーローラ22がストローク方向に対し、それぞれ異なる位相(非同期状態)となっていた場合、エンジン5の始動時において、各変速制御ピストン66をA1方向またはA2方向に移動させ、上記のストッパ78に突き当てることで、各パワーローラ22の同期を一致させることができる。これにより、各入力ディスク20a,20bと各出力ディスク21a,21bとの間の動力伝達を好適に行うことができる。
また、同期制御時において、各パワーローラ22を減速側変速エンド位置へ向けて移動させることにより、エンジン5始動時において各パワーローラ22を増速させることはないため、車両1の発進に必要なエンジントルクを不足させることがない。
さらに、車両1の前後進に応じて、各パワーローラ22をA1方向またはA2方向に適宜ストロークさせることができるため、車両1の前後進に応じて、各パワーローラ22が減速側変速エンド位置へ向けて移動することが可能となる。
また、同期制御後に押圧制御を行うことで、各パワーローラ22の同期状態を維持することができ、この状態でトロイダル式無段変速機8の変速制御を行うことができる。このため、トロイダル式無段変速機8の変速制御を好適に行うことができる。
さらに、同期制御後に復帰制御を行うことで、一対のパワーローラ22を中立位置に復帰させることができるため、各変速制御ピストン66とストッパ78との接触状態を解除することができる。これにより、各変速制御ピストン66とストッパ78とが接触した状態で、各トラニオン23が揺動軸61a,61bを中心に回転することがないため、各変速制御ピストン66とストッパ78とが摺動することはない。
なお、本実施例において、ECU90は、ストロークセンサ64の検出結果から、一対のパワーローラ22が中立位置に臨んだことを検出した後、押圧制御を行ったが、これに限らず、復帰制御を開始してから所定の時間経過後に、押圧制御を行ってもよい。このとき、所定時間は、復帰制御を開始してから各パワーローラ22が中立位置に移動するまでの時間であり、作動油の温度に基づいて、任意に設定されることが好ましい。これにより、作動油の温度変化に伴う粘度変化を考慮した復帰制御を行うことが可能となる。また、本実施例において、ECU90は、同期制御の開始から所定の時間経過後、復帰制御を行ったが、これに限らず、ストロークセンサ64の検出結果により、各パワーローラ22が減速側変速エンド位置に臨んだことを検出してから、復帰制御を行ってもよい。
さらに、本実施例では、復帰制御を行ったが、この制御を省き、同期制御後、押圧制御を行ってもよい。この構成によれば、一対の変速制御ピストン66がストッパ78に当接した状態で、各パワーローラ22は、各入力ディスク20a,20bおよび各出力ディスク21a,21bに挟持される。つまり、各パワーローラ22を中立位置に復帰させることなく、各パワーローラ22の同期状態を維持することができる。
また、本実施例では、各変速制御油圧室65のA1方向およびA2方向における両壁面を、各変速制御ピストン66のストッパ78としてそれぞれ機能させていたため、トロイダル式無段変速機8の装置構成を大幅に変更する必要はなかったが、各パワーローラ22を増速側変速エンド位置および減速側変速エンド位置に移動規制するストッパを別途配設してもよい。