JP5059224B2 - 部品の疲労破壊評価装置、部品の疲労破壊評価方法、及びコンピュータプログラム - Google Patents
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Description
<部品(機械部品)の疲労破壊評価装置のハードウェア構成>
図1は、部品の疲労破壊評価装置100のハードウェア構成の一例を示す図である。
図1に示すように、部品の疲労破壊評価装置100は、CPU(Central Processing Unit)101と、ROM(Read Only Memory)102と、RAM(Random Access Memory)103と、PD(Pointing Device)104と、HD(Hard Disk)105と、表示装置106と、スピーカ107と、通信I/F(Interface)108と、システムバス109とを有している。
ROM102は、CPU101の制御プログラムであるBIOS(Basic Input/Output System)やオペレーティングシステムプログラム(OS)、CPU101が後述する処理を実行するために必要なプログラム等を記憶する。
PD104は、例えば、マウスやキーボード等からなり、操作者が必要に応じて、製品搬送作業量予測装置100に対して操作入力を行うための操作入力手段を構成する。
HD105は、各種の情報やデータ、ファイル等を記憶する記憶手段を構成する。
表示装置106は、CPU101の制御に基づいて、各種の情報や画像を表示する表示手段を構成する。
スピーカ107は、CPU101の制御に基づいて、各種の情報に係る音声を出力する音声出力手段を構成する。
システムバス109は、CPU101、ROM102、RAM103、PD104、HD105、表示装置106、スピーカ107及び通信I/F108を相互に通信可能に接続するためのバスである。
図2は、部品の疲労破壊評価装置100の機能的な構成の一例を示す図である。
図2において、部品の疲労破壊評価装置100は、最大寸法介在物分布関数導出部201と、推定疲労強度導出部202と、作用応力振幅導出部203と、疲労強度超過領域導出部204と、指標導出部205と、疲労強度超過体積確率出力部206とを有している。
最大寸法介在物分布関数導出部201は、疲労設計を行う対象の機械部品(以下の説明では「疲労設計を行う対象の機械部品」を必要に応じて「部品」と略称する)の介在物寸法√areamax[μm]の確率分布を導出する。部品の介在物寸法√areamaxは、所謂「ルートエリア」と称されるものであり、部品の或る領域(基準体積)に存在する介在物の形状を平面に投影した場合の投影面積のうち、投影面積が最大である介在物の当該投影面積の平方根(√)をとった値である。しかしながら、現実的にはこのような面積を正確に求めることは困難であるため、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、この値は、部品の或る領域(基準体積)に存在する介在物のうち、最大の介在物の形状を四角形や楕円形などの簡単な図形(形状)に近似させてその図形の代表的な寸法から介在物の投影面積を推定して求め、この面積の平方根としても良い。具体例として、部品の或る領域(基準体積)で最大である介在物の形状を楕円形に近似した場合には、その長径と短径との積の平方根をとった値を介在物の投影面積の推定値としてもよい。
尚、本明細書において、√Xとは、X1/2(Xの1/2乗)。例えば、√areamaxはareamax 1/2を示す。
最大寸法介在物分布関数導出部201は、部品の介在物寸法√areamaxの最大値分布が一般極値分布に従うものとしている。
F(√areamax)=exp[−{1+ξ((√areamax−λ)/α)}-1/ξ] ξ≠0の場合・・・(1a)
F(√areamax)=exp[−exp{−(√areamax−λ)/α}] ξ=0の場合・・・(1b)
また、部品の介在物寸法√areamaxの確率分布関数f(√areamax)は、以下の(2a)式、(2b)式で表される。尚、部品の介在物寸法√areamaxの確率分布関数f(√areamax)は、(1)式を部品の介在物寸法√areamaxで微分することにより得られる。
f(√areamax)=(1/α){1+ξ((√areamax−λ)/α)}-1/ξ-1・exp[−{1+ξ((√areamax−λ)/α)}-1/ξ] ξ≠0の場合・・・(2a)
f(√areamax)=(1/α)exp[−(√areamax−λ)/α−exp{−(√areamax−λ)/α}] ξ=0の場合・・・(2b)
図3を参照しながら、尺度パラメータα、位置パラメータλ、及び形状パラメータξの概要について説明する。
図3において、形状パラメータξが0(ξ=0)となる場合、最大介在物確率分布関数は、グラフ301のように直線となる。このグラフ301は、(1b)式に対応する。(1b)式は、Gumbel(グンベル)型と呼ばれる極値分布を表すものである。(1b)式は、例えば、最大介在物寸法√areamaxの実測値の数が少ない場合に使用される。
一方、尺度パラメータαの値が(グラフ301に対応するものの値に比べて)小さくなると、最大介在物確率分布関数は、グラフ303bのようになる。グラフ303bでは、グラフ301に比べて傾きが緩やかになっている。グラフ303bに示すように、尺度パラメータαの値が小さくなることは、部品の基準体積(を有する領域)のそれぞれから抽出される最大介在物寸法√areamaxの値がばらつくことを表す。
一方、位置パラメータλの値が(グラフ301に対応するものの値に比べて)小さくなると、最大介在物確率分布関数は、グラフ304bのようになる。グラフ304bでは、グラフ301に比べて、累積確率F(√areamax)が0であるときの最大介在物寸法√areamaxの値が小さくなっている。グラフ304bに示すように、位置パラメータλの値が小さいことは、部品の基準体積(を有する領域)のそれぞれに、平均的に小さな寸法の介在物が存在することを表す。
また、最大介在物寸法√areamaxを測定するためのその他の方法として、同形状の疲労試験片を複数本用いて疲労試験を行い、その破面に表れる疲労破壊の起点となった介在物寸法を疲労試験片の高応力領域の体積に対する最大介在物寸法√areamaxとして評価し、同様の取り扱いをすることも可能である。これは、繰り返し応力の条件が同じであれば、小さい介在物よりも、大きな介在物を起点として疲労き裂が先に発生するためである。
最大寸法介在物分布関数導出部201は、以下の(3)式、(4)式から、それぞれのj(1〜n)に対して、累積確率Fj(√areamax,j)と、基準化変数yj[−]とを計算する。
Fj(√areamax,j)={j/(n+1)}・・・(3)
yj=−ln[−ln{j/(n+1)}] ・・・(4)
また、ここでの累積確率Fjの取り方は平均ランク法として説明しているが、メジアン・ランク法や対称ランク法など、実験結果の確率分布に応じて累積確率Fjの取り方を変えてもよい。
本実施形態では、部品内に存在する介在物を起点とする疲労強度であって、部品に所定の荷重を繰り返し負荷したときの所定の繰り返し数に対する疲労強度の応力振幅σw[N/mm2]は、介在物寸法√areamaxと、ビッカース硬さHvと、応力比R[−]の関数で表されるものとする。尚、以下の説明では、「鋼材等の部品内に存在する介在物を起点とする疲労強度であって、部品に所定の荷重を繰り返し負荷したときの所定の繰り返し数に対する疲労強度の応力振幅σw」を必要に応じて「疲労強度の応力振幅σw」と略称する。
本実施形態では、部品に繰り返し負荷する荷重の所定の繰り返し数を107回程度と想定して、以下の(5)式のように、疲労強度の応力振幅σwを表すものとする。
σw={1.56×(Hv+120)/(√areamax)1/6}×{(1−R)/2}γ ・・・(5)
尚、この(5)式は本来、疲労限を推定する式であるが、研究当時の試験機の能力などを考慮して107回程度での疲労強度の式として用いる。
R=(σm−σw)/(σm+σw) ・・・(6)
γ=0.226+Hv/10000 ・・・(7)
(6)式において、σmは、部品の平均応力の応力振幅[N/mm2]である。
推定疲労強度導出部202は、オペレータによる操作等に基づいて、これらの値を入力して(5)式の計算を行って、所定の繰り返し数の所定の繰り返し荷重を部品に与えたときの当該部品の内部の各位置での疲労強度の応力振幅σwをその位置での応力比Rに対して導出する。
σw={1.56×(Hv+120)/(√areamax)1/6}−0.5×σm ・・・(8)
また、(5)式や(8)式に示すビッカース硬さHvは、部品の材料の強度[N/mm2]と相関関係がある。よって、ビッカース硬さHvの代わりに、部品の材料の強度を用いて疲労強度の応力振幅σwを表すようにしてもよい。また、(5)式や(8)式は鉄鋼材料に関する一般的な式であるため、これらの式を修正し、応力比、硬さ、介在物寸法をパラメータにして、評価対象材料の疲労特性に合わせた関数を作成して用いればさらなる高精度化が可能である。
作用応力振幅導出部203は、予めオペレータにより設定された荷重条件Pで繰り返し荷重を部品に与えたときに当該部品の各位置に作用する作用応力の応力振幅σを導出する。尚、以下の説明では、「予めオペレータにより設定された荷重条件Pで繰り返し荷重を部品に与えたときに当該部品の各位置に作用する作用応力の応力振幅σ」を必要に応じて、「部品の各位置に作用する作用応力の応力振幅σ」又は「作用応力の応力振幅σ」と略称する。ここで、荷重条件Pは、部品にどのような繰り返し荷重を与えるのかを示すものである。
作用応力振幅導出部203は、部品の形状、荷重条件P、及び部品を構成する材料の強度(例えば、引張強さ、降伏応力、及び加工硬化特性)といった部品の情報を入力する。作用応力振幅導出部203は、これらの部品の情報を、オペレータの操作や、外部装置との通信等に基づいて取得する。
本実施形態では、このような作用応力の応力振幅σを、部品の位置を異ならせて複数導出する。これにより、部品の位置毎に、作用応力の応力振幅σを導出することができる。
尚、部品に与える荷重振幅の最大値から最小値を引いた値に基づく相当応力の1/2を作用応力の応力振幅σとしても、部品に与える荷重振幅の最大値に基づく相当応力から当該荷重振幅の最小値に基づく相当応力を引いた値の1/2を作用応力の応力振幅σとしてもよい。
作用応力振幅導出部203は、例えば、CPU101が、ROM102に記憶されているプログラムを実行して、PD104に対する操作内容の識別や、通信I/Fを介した外部装置との通信等を行うと共に必要なデータをHD105等から読み出して、作用応力の応力振幅σを導出し、RAM103等に記憶することにより実現される。
疲労強度超過領域導出部204は、「部品の各位置での疲労強度の応力振幅σw」と、「予めオペレータにより設定された荷重条件Pにおける部品の各位置での作用応力の応力振幅σ」とを読み出す。そして、疲労強度超過領域導出部204は、同一の位置におけるこれらの値を比較する。そして、疲労強度超過領域導出部204は、予めオペレータにより設定された荷重条件Pで荷重をかけた場合に、部品の各位置において、作用応力の応力振幅σが、疲労強度の応力振幅σwを超える「部品の領域」の大きさS(P,√areamax)を導出する。尚、以下の説明では、「予めオペレータにより設定された荷重条件Pで荷重をかけた場合に、部品の各位置において、作用応力の応力振幅σが、疲労強度の応力振幅σwを超える『部品の領域』の大きさS(P,√areamax)」を必要に応じて「部品の領域の大きさS(P,√areamax)」と称する。
疲労強度超過領域導出部204は、「部品の領域の大きさS(P,√areamax)」を、各介在物寸法√areamaxにおいて導出することにより、「部品の領域の大きさS(P,√areamax)」を、各介在物寸法√areamaxのそれぞれに対して導出する。
指標導出部205は、最大寸法介在物分布関数導出部201により導出された「尺度パラメータαと位置パラメータλ」を(2)式に代入して確率分布関数f(√areamax)を設定する。そして、指標導出部205は、以下の(9)式の計算を行って、指標FS(P)を導出する。
この指標FS(P)は、(ある残留応力が存在している条件下で)予めオペレータにより設定された荷重条件Pで荷重をかけた場合に部品のある部位に繰り返し作用する作用応力の応力振幅σに対する「部品の危険領域(体積又は面積)」の大きさを示す指標となる。(8)式に示すように、確率分布関数f(√areamax)と、「部品の領域の大きさS(P,√areamax)」とを掛け合わせることにより、「部品の領域の大きさS(P,√areamax)」を、介在物の存在確率を考慮して表現することができる。例えば、複数の条件で得られた指標FS(P)の値を比較し、指標FS(P)の値が最も小さい条件の部品を、疲労破壊の可能性が小さい部品と判断することができる。このように、指標FS(P)の値を小さくすることで、疲労に関する材料の強度、介在物の確率分布特性、部品を使用するときの応力の条件、及び残留応力の確率分布特性を総合的に考慮して、疲労破壊の可能性が小さい部品を設計することができる。ここで、危険領域とは、その部位での作用応力σが疲労強度の応力振幅σwの大きさを超える領域をいう。
指標導出部205は、例えば、CPU101が、ROM102に記憶されているプログラムを実行して、必要なデータをRAM103やHD105等から読み出して、指標FS(P)を導出し、RAM103等に記憶することにより実現される。
指標出力部206は、指標導出部205で導出された指標FS(P)の値を、オペレータによる指示に基づいて、表示装置に表示したり、外部装置に送信したり、記憶媒体に記憶したりする。
指標出力部206は、例えば、CPUが、ROM102に記憶されているプログラムを実行して、RAM103等に記憶されている指標FS(P)の値を表示するための表示データを生成して表示装置に106に出力したり、RAM103等に記憶されている指標FS(P)を通信I/F108を介して外部装置に送信したり、RAM103等に記憶されている指標FS(P)をHD105や図示しない可搬型の記憶媒体に記憶したりすることにより実現される。
まず、ステップS1において、最大寸法介在物分布関数導出部201は、確率分布関数導出処理を実行する。具体的に、最大寸法介在物分布関数導出部201は、n個の介在物寸法√areamaxの値を取得して、累積確率Fj(√areamax,j)と、基準化変数yjとを計算し、累積確率Fj(√areamax,j)及び基準化変数yjと介在物寸法√areamaxとの関係を示す最大介在物確率分布関数を推定し、推定した最大介在物確率分布関数から尺度パラメータαと位置パラメータλ(又は尺度パラメータαと位置パラメータλと形状パラメータξ)を導出する。
次に、ステップS3において、作用応力振幅導出部203は、作用応力振幅導出処理を実行する。具体的に、作用応力振幅導出部203は、部品の情報を取得し、取得した部品の情報を用いて、予めオペレータにより設定された荷重条件Pで繰り返し荷重を部品に与えたときの部品の各位置での各応力成分の変化を導出し、導出した部品の各位置での各応力成分の変化から、予めオペレータにより設定された荷重条件Pで繰り返し荷重を部品に与えたときに当該部品の各位置に作用する作用応力の応力振幅σを導出する。
次に、ステップS5において、指標導出部205は、指標導出処理を実行する。具体的に、指標導出部205は、ステップS1で導出された「尺度パラメータαと位置パラメータλ」を(2)式に代入して確率分布関数f(√areamax)を設定し、設定した確率分布関数f(√areamax)と、ステップS4で導出された「部品の領域の大きさS(P,√areamax)」とを(9)式に与えて、指標FS(P)を導出する。
以上のように本実施形態では、部品の介在物寸法√areamaxの確率分布関数f(√areamax)と、予めオペレータにより設定された荷重条件Pで荷重をかけた場合に、部品の各位置にいて、作用応力の応力振幅σが疲労強度の応力振幅σwの大きさを超える「部品の領域」の大きさS(P,√areamax)との積を、介在物寸法√areamaxの確率分布が存在している評価範囲全域を積分範囲として、部品の介在物寸法√areamaxで積分した指標FS(P)を導出するようにした。部品の内部に存在する介在物の確率分布(大きさ毎の存在確率)と、部品内部の応力の分布との双方を考慮して部品の疲労設計を行うことができる。よって、疲労破壊を判定するための部品の疲労破壊を、従来よりも合理的に評価することが可能になる。
次に、本発明の実施例について説明する。まず、実施例1として、作用応力の応力振幅σが、せん断応力の応力振幅τa(r)である場合の実施例を説明する。
本実施例では、部品として、その表面に圧縮残留応力が導入されているコイルばねを用いた。コイルばねを構成する材料として、強度1800[MPa]級(ビッカース硬さHv=627)の高張力ばね鋼を用いた。この材料は、その内部に存在する介在物を起点とする疲労破壊が起こることが知られている材料である。ここで、せん断応力の応力振幅τa(r)のrは、コイルばねの素線の中心から、コイルばねの円周方向への距離を示す。
図5は、コイルばねの素線表面からの距離(深さ)と、コイルばねの残留応力の応力振幅との関係を示す図である。本実施例では、図5に示す残留応力501がコイルばねに導入されている。
最大寸法介在物分布関数導出部201は、このようにして測定された介在物寸法√areamax,jを入力し、(3)式及び(4)式から、累積確率Fj(√areamax,j)と、基準化変数yjとを計算する。
図6は、累積確率F(√areamax)及び基準化変数yと、介在物寸法√areamaxとの関係を示す図である。本実施例では、図6に示す最大介在物確率分布関数(直線)601が得られた。
最大寸法介在物分布関数導出部201は、最大介在物確率分布関数601から、尺度パラメータαと位置パラメータλとを導出した。ここでは、図6に示すように、入力した介在物寸法√areamaxをリニアで表示、累積確率F(√areamax)を二重対数で表示すると、直線的な分布が得られたため、この分布は、形状パラメータξが0(ξ=0)、つまりGumbel型の極値分布と考え、(1b)式を用いて、最大介在物確率分布関数のパラメータを推定した。
本実施例では、荷重条件P(最大せん断応力がばね表面の公称最大せん断応力τmaxとなり、且つ、最小せん断応力がばね表面の公称最大せん断応力τmaxの1/4となるようにコイルばねの伸縮方向に荷重をかけるという荷重条件)に基づいて作用応力の応力振幅σの(コイルばねにおける)分布を導出すると共に、残留応力の(コイルばねにおける)分布を入力してこれらを合成することによって、コイルばねの内部応力の応力振幅を求め、その分布から、コイルばねの内部の各位置における、最大主応力の平均と振幅とを求め、更に、それらから、応力比Rを求めるようにした。本実施例では、コイルばねには、繰り返し荷重による繰り返しねじりと残留応力だけが働くとし、且つ、残留応力σrは素線の半径方向には働かないとして、最大主応力の最大σp1と最小σp2は、それぞれ以下の(10)式、(11)式で表されるものとする。また、応力比Rは、以下の(12)式で表されるものとする。
σp1={(σ1+σθ)/2}+√[{(σ1−σθ)/2}2+τ2]=σr+τ ・・・(10)
σp2={(σ1+σθ)/2}+√[{(σ1−σθ)/2}2+(τ/4)2]=σr+τ/4 ・・・(11)
R=(σr+τ/4)/(σr+τ) ・・・(12)
本実施例の作用せん断応力の応力振幅τa(r)は相当応力による作用応力の応力振幅σに書き直すと、以下の(13)式となる。作用応力振幅導出部203は、この(13)式により、作用応力の応力振幅σを導出する。
σ=√3・(σp1−σp2)/2=√3・(τ−τ/4)/2=(3/4)・√3・τa(r) ・・・(13)
指標導出部205は、関数fS(√areamax)を、介在物寸法√areamaxの確率分布が存在している範囲全域を積分範囲として、部品の介在物寸法√areamaxで積分する。そして、指標導出部205は、積分した結果(すなわち、図8のグラフ803の面積と、前記素線の断面の断面積S0[μm2]とを掛け合わせた値を、コイルばねの素線をその素線の周回方向(螺旋方向)に積分した値)を、コイルばねの素線をその素線の周回方向に直交する方向から切ったときの当該素線の全体積で割った値に100を掛けた値を、指標FS(P)[%]として導出した。この指標FS(P)は、前述したばね表面の公称最大せん断応力τmaxから定まるせん断応力の応力振幅でコイルばねの伸縮方向に107回繰り返し荷重をかけた場合に素線の各位置に繰り返し作用するせん断応力の応力振幅τa(r)に対する「コイルばねの危険面積」の大きさを示す指標である。
図9は、指標FS(P)とばね表面での公称最大せん断応力τmaxとの関係を示す図である。図9において、グラフ901が、巻き数が30のコイルばねについてのグラフであり、グラフ902が、巻き数が6のコイルばねについてのグラフである。
まず、コイルばねの表面の最大せん断応力を1000[MPa]にすると共に、最小せん断応力を250[MPa]として、107[回]の繰り返し載荷試験を行った。その結果、巻き数が30のコイルばねでは、30本中30本が破断した。一方、巻き数が6のコイルばねでは、30本中6本が破断した。
次に、コイルばねの表面の最大せん断応力を950[MPa]にすると共に、最小せん断応力を237.5[MPa]として、107[回]の繰り返し載荷試験を行った。その結果、巻き数が30のコイルばねでは、30本中6本が破断した。一方、巻き数が6のコイルばねでは、30本中1本が破断した。
次に、コイルばねの表面の最大せん断応力を850[MPa]にすると共に、最小せん断応力を212.5[MPa]として、107[回]の繰り返し載荷試験を行った。その結果、巻き数が30のコイルばねでは、60本中0本が破断した。一方、巻き数が6のコイルばねでは、60本中0本が破断した。
図9と図10から、最大せん断応力τmaxが900[MPa]を境にして、指標FS(P)と破断本数が共に急激に大きくなる傾向となっており、指標FS(P)と破断本数とが同じ傾向を示すことが分かる。よって、指標FS(P)によって、コイルばねの介在物を起点とする疲労折損頻度の傾向を予測することができることが分かる。
次に、実施例2について説明する。実施例2では、曲げモーメントを負荷しつつ、回転させ、軸心から表面方向に大きくなる軸方向引張の繰り返し応力を発生させる回転曲げ試験を行った場合の実施例を説明する。
本実施例では、その表面に圧縮残留応力が導入されている丸棒試験片を用いた。丸棒試験片を構成する材料として、JISでばね鋼として規定されているSUP12(シリコンクロム鋼)を用いた。この材料のビッカース硬さHvは550である。
図11は、丸棒試験片の表面からの距離(深さ)と、丸棒試験片の残留応力の応力振幅との関係を示す図である。本実施例では、図11に示す残留応力1101が丸棒試験片に導入されている。
最大寸法介在物分布関数導出部201は、このようにして測定された介在物寸法√areamax,jを入力し、(3)式及び(4)式から、累積確率Fj(√areamax,j)と、基準化変数yjとを計算する。
R={−x×(σsuf/2)+σrs(x)}/{x×(σsuf/2)+σrs(x)} ・・・(14)
(14)式においてxは、丸棒試験片の中心からの距離[mm]であり、σsufは、丸棒試験片の表面での公称最大応力の応力振幅[N/mm2]であり、σrs(x)は、距離xにおける残留応力の応力振幅[N/mm2]である。
そして、疲労強度超過領域導出部204は、「丸棒試験片の表面からの各距離での疲労強度の応力振幅σwと荷重条件Pにおける丸棒試験片の表面からの各距離での作用応力の応力振幅σ」の値を比較して、荷重条件Pで繰り返し荷重をかけた場合の各位置での作用応力の応力振幅σが疲労強度の応力振幅σwを超える「丸棒試験片の領域の体積S(P,√areamax)」を導出する。本実施例では、1つの試験片表面応力振幅に対し、疲労強度の応力振幅σwを導出するために採用した介在物寸法√areamaxと対応して、体積S(P,√areamax)が導出される。尚、以下の説明では、「体積S(P,√areamax)」を「体積S」、「S(√areamax)」と称することがある。
そして、本実施例では、以上の指標FS(P)の導出を、試験片表面応力振幅が、690[MPa]、720[MPa]、750[MPa]のそれぞれの場合について行った。
まず、丸棒試験片の表面の応力振幅を690[MPa]として、107[回]の繰り返し回転曲げ試験を行った。その結果、平行部の長さが10[mm]の丸棒試験片では、30本中0本が破断した(1本も破断しなかった)。一方、平行部の長さが50[mm]の丸棒試験片では、30本中0本が破断した(1本も破断しなかった)。
次に、丸棒試験片の表面の応力振幅を720[MPa]として、107[回]の繰り返し回転曲げ試験を行った。その結果、平行部の長さが10[mm]の丸棒試験片では、30本中1本が破断した。一方、平行部の長さが50[mm]の丸棒試験片では、30本中5本が破断した。
図12は、以上のようにして得られた、指標FS(P)及び破断本数と、試験片表面応力振幅との関係を示す図である。図12において、グラフ1201が、平行部の長さが10[mm]の丸棒試験片における指標FS(P)を示し、グラフ1202が、平行部の長さが50[mm]の丸棒試験片における指標FS(P)を示す。また、グラフ1203が、平行部の長さが10[mm]の丸棒試験片における破断本数を示し、グラフ1204が平行部の長さが50[mm]の丸棒試験片における破断本数を示す。
図12に示すように、グラフ1201及びグラフ1203の傾向と、グラフ1202及びグラフ1204の傾向は概ね一致している。したがって、回転曲げ試験による疲労破壊の結果を指標FS(P)により推定可能であり、破壊に及ぼす丸棒試験片の体積の影響も明確にできることが分かる。
次に、実施例3について説明する。本実施例では、実施例2と同様に、曲げモーメントを負荷しつつ、回転させ、軸心から表面方向に大きくなる軸方向引張の繰り返し応力を発生させる回転曲げ試験を行った場合の実施例を説明する。
本実施例でも、その表面に実施例2とほぼ同等の圧縮残留応力が導入されている丸棒試験片を用いた。丸棒試験片を構成する材料は実施例2と同様の規格材を用いた。ただし、実施例2で使用した材料のビッカース硬さHvは550であるのに対し、この材料のビッカース硬さHvは530である。
実施例2と同様に、これら30本の疲労試験片の断面のそれぞれについて、介在物寸法√areamaxを測定した。ここでは、疲労破壊部の起点となっている介在物の形状を破断面に投影し楕円で近似した面積の平方根をとったものを、介在物寸法√areamaxとして測定した。
最大寸法介在物分布関数導出部201は、このようにして測定された介在物寸法√areamax,jを入力し、(3)式及び(4)式から、累積確率Fj(√areamax,j)と、基準化変数yjとを計算する。
そして、疲労強度超過領域導出部204は、「丸棒試験片の表面からの各距離での疲労強度の応力振幅σwと荷重条件Pにおける丸棒試験片の表面からの各距離での作用応力の応力振幅σ」の値を比較して、荷重条件Pで繰り返し荷重をかけた場合の各位置での作用応力の応力振幅σが疲労強度の応力振幅σwを超える「丸棒試験片の領域の体積S(P,√areamax)」を導出する。本実施例でも、実施例2と同様に、1つの試験片表面応力振幅に対し、疲労強度の応力振幅σwを導出するために採用した介在物寸法√areamaxの数だけ、体積S(P,√areamax)が導出される。尚、以下の説明では、「体積S(P,√areamax)」を「体積S」、「S(√areamax)」と称することがある。
そして、本実施例でも、実施例2と同様に、以上の指標FS(P)の導出を、試験片表面応力振幅が、690[MPa]、720[MPa]、750[MPa]のそれぞれの場合について行った。
まず、丸棒試験片の表面の応力振幅を650[MPa]として、107[回]の繰り返し回転曲げ試験を行った。その結果、平行部の長さが10[mm]の丸棒試験片では、30本中0本が破断した(1本も破断しなかった)。一方、平行部の長さが50[mm]の丸棒試験片では、30本中0本が破断した(1本も破断しなかった)。
次に、丸棒試験片の表面の応力振幅を680[MPa]として、107[回]の繰り返し回転曲げ試験を行った。その結果、平行部の長さが10[mm]の丸棒試験片では、30本中1本が破断した。一方、平行部の長さが50[mm]の丸棒試験片では、30本中5本が破断した。
図13は、以上のようにして得られた、指標FS(P)及び破断本数と、試験片表面応力振幅との関係を示す図である。図13において、グラフ1301が、平行部の長さが10[mm]の丸棒試験片における指標FS(P)を示し、グラフ1302が、平行部の長さが50[mm]の丸棒試験片における指標FS(P)を示す。また、グラフ1303が、平行部の長さが10[mm]の丸棒試験片における破断本数を示し、グラフ1304が平行部の長さが50[mm]の丸棒試験片における破断本数を示す。
図13に示すように、グラフ1301及びグラフ1303の傾向と、グラフ1302及びグラフ1304の傾向は概ね一致している。したがって、回転曲げ試験による疲労破壊の結果を指標FS(P)により推定可能であり、破壊に及ぼす丸棒試験片の体積の影響も明確にできることが分かる。
また、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。
201 最大寸法介在物分布関数導出部
202 推定疲労強度導出部
203 作用応力振幅導出部
204 疲労強度超過領域導出部
205 指標導出部
206 指標出力部
Claims (7)
- 繰り返し荷重を与えたときの機械部品の内部の疲労を評価する部品の疲労破壊評価装置であって、
前記機械部品の内部に存在する介在物のうち、基準体積中で最大である介在物の形状を平面に投影して得られる介在物の断面積の平方根をとった値、又は、前記機械部品の内部に存在する介在物のうち、基準体積中で最大である介在物の形状を所定の図形に近似させた場合の当該図形の代表的な寸法から得られる介在物の断面積の推定値の平方根をとった値である介在物寸法の値を複数入力し、入力した複数の介在物寸法に基づいて、前記介在物寸法の前記機械部品における最大値分布が一般極値分布に従うものとして、前記介在物寸法の確率分布関数を導出する最大寸法介在物分布関数導出手段と、
前記介在物寸法と、前記機械部品の硬さ又は前記機械の部品の材料の強度と、前記機械部品の応力比の値をそれぞれ入力し、前記機械部品に存在する介在物を起点とする疲労強度であって、繰り返し負荷する所定の荷重の所定の繰り返し数に対する疲労強度として、前記介在物寸法と、前記機械部品の硬さ又は前記機械の部品の材料の強度と、前記機械部品の応力比とで表される疲労強度の式に、入力した値を代入して、前記機械部品の各位置における当該疲労強度を導出する推定疲労強度導出手段と、
予め設定された荷重条件で繰り返し荷重を前記機械部品に与えたときに前記機械部品の内部の各位置に作用する作用応力の応力振幅を導出する作用応力導出手段と、
前記推定疲労強度導出手段により導出された疲労強度と、前記作用応力導出手段により導出された作用応力の応力振幅とを比較した結果に基づいて、前記機械部品の領域のうち、前記作用応力の応力振幅が前記疲労強度を超える領域の大きさを導出する疲労強度超過領域導出手段と、
前記介在物寸法の確率分布関数と、前記作用応力の応力振幅が前記疲労強度を超える領域の大きさとの積に基づいて、前記機械部品の内部の疲労を評価するための指標を導出する指標導出手段と、
前記指標導出手段により導出された指標を出力する指標出力手段と、
を有することを特徴とする部品の疲労破壊評価装置。 - 前記指標導出手段は、前記介在物寸法の確率分布関数と、前記作用応力の応力振幅が前記疲労強度を超える領域の大きさとの積を、前記介在物寸法の確率分布が存在している範囲全域を積分範囲として、部品の介在物寸法で積分した値を前記指標として導出することを特徴とする請求項1に記載の部品の疲労破壊評価装置。
- 前記作用応力は、前記機械部品の各位置での相当応力の振幅、又は、前記機械部品の各位置での主応力の変動が最大となる方向での主応力の振幅であり、
前記応力比は、前記機械部品の各位置での相当応力の応力比、又は、前記機械部品の各位置での主応力の変動が最大となる方向での主応力の応力比であることを特徴とする請求項1又は2に記載の部品の疲労破壊評価装置。 - 繰り返し荷重を与えたときの機械部品の内部の疲労を、コンピュータを用いて評価する部品の疲労破壊評価方法であって、
前記機械部品の内部に存在する介在物のうち、基準体積中で最大である介在物の形状を平面に投影して得られる介在物の断面積の平方根をとった値、又は、前記機械部品の内部に存在する介在物のうち、基準体積中で最大である介在物の形状を所定の図形に近似させた場合の当該図形の代表的な寸法から得られる介在物の断面積の推定値の平方根をとった値である介在物寸法の値を複数入力し、入力した複数の介在物寸法に基づいて、前記介在物寸法の前記機械部品における最大値分布が一般極値分布に従うものとして、前記介在物寸法の確率分布関数を導出する最大寸法介在物分布関数導出工程と、
前記介在物寸法と、前記機械部品の硬さ又は前記機械の部品の材料の強度と、前記機械部品の応力比の値をそれぞれ入力し、前記機械部品に存在する介在物を起点とする疲労強度であって、繰り返し負荷する所定の荷重の所定の繰り返し数に対する疲労強度として、前記介在物寸法と、前記機械部品の硬さ又は前記機械の部品の材料の強度と、前記機械部品の応力比とで表される疲労強度の式に、入力した値を代入して、前記機械部品の各位置における当該疲労強度を導出する推定疲労強度導出工程と、
予め設定された荷重条件で繰り返し荷重を前記機械部品に与えたときに前記機械部品の内部の各位置に作用する作用応力の応力振幅を導出する作用応力導出工程と、
前記推定疲労強度導出工程により導出された疲労強度と、前記作用応力導出工程により導出された作用応力の応力振幅とを比較した結果に基づいて、前記機械部品の領域のうち、前記作用応力の応力振幅が前記疲労強度を超える領域の大きさを導出する疲労強度超過領域導出工程と、
前記介在物寸法の確率分布関数と、前記作用応力の応力振幅が前記疲労強度を超える領域の大きさとの積に基づいて、前記機械部品の内部の疲労を評価するための指標を導出する指標導出工程と、
前記指標導出工程により導出された指標を出力する指標出力工程と、
を有することを特徴とする部品の疲労破壊評価方法。 - 前記指標導出工程は、前記介在物寸法の確率分布関数と、前記作用応力の応力振幅が前記疲労強度を超える領域の大きさとの積を、前記介在物寸法の確率分布が存在している範囲全域を積分範囲として、部品の介在物寸法で積分した値を前記指標として導出することを特徴とする請求項4に記載の部品の疲労破壊評価方法。
- 前記作用応力は、前記機械部品の各位置での相当応力の振幅、又は、前記機械部品の各位置での主応力の変動が最大となる方向での主応力の振幅であり、
前記応力比は、前記機械部品の各位置での相当応力の応力比、又は、前記機械部品の各位置での主応力の変動が最大となる方向での主応力の応力比であることを特徴とする請求項4又は5に記載の部品の疲労破壊評価方法。 - 請求項4〜6の何れか1項に記載の部品の疲労破壊評価方法の各工程をコンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
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