図1は、本発明に係る自動変速機の過回転防止制御装置の一実施の形態を示す。パワートレイン制御ユニット100内には、車両に有する各センサ検出値及び運転状態を示す車両情報が入力される。ギア位置判定手段a1では、前記車両情報に含まれる運転者によるシフトレンジ操作信号,アクセル開度,ブレーキ信号,車速信号等に基づき、目標とするギア位置がニュートラル状態であるかの算出を行う。例えば運転者がシフトレンジ操作によるNレンジを選択した場合は、目標ギア位置がニュートラルと算出される。また変速機構成部品及びセンサ・アクチュエータ系の故障といったフェール状態を検出した際にも運転状態・故障状態に応じてニュートラル状態が要求さる場合がある。回転数算出手段a2は、前記車両情報に基づき、変速機入力軸の回転数算出を行う手段であり、センサにより検出される実入力軸回転数の算出,摩擦クラッチ及び噛合いクラッチを解放動作とした場合での推定入力軸回転数の算出を行う。過回転判定手段a3では、ギア位置判定手段a1で判定する目標ギア位置がニュートラル状態要求とするときに、回転数算出手段a2で算出された入力軸回転数が変速機強度・耐久性能上許容される所定の入力軸回転数以上に過回転するか否かの判定を実施する。過回転発生が発生すると判定された場合には、過回転防止手段a4により、シフトアクチュエータ,クラッチアクチュエータ,潤滑アクチュエータといった変速機構成アクチュエータ群a5を過回転を防止制御により駆動させる。
アクチュエータ群a5駆動により、変速機制御として過回転の防止を行うとともに、運転者に過回転が発生する運転状態(運転者操作含め)にあることを報知する手段として警告表示灯a6の点灯を必要に応じて行うように構成する。
所定変速ギア段にて走行で運転者によるNレンジ操作によってニュートラル状態が要求されたときに、通常であれば摩擦クラッチ及び噛合いクラッチを解放動作とさせるが、両クラッチを共に解放動作としたときに変速機入力軸の過回転が発生する場合には、何れか一方のクラッチを締結動作となるよう制御指令を行い、入力軸回転数が、摩擦クラッチを介してエンジン回転数となる状態、もしくは噛合いクラッチを締結して出力軸回転数に現変速ギア段のギア比を乗算した回転数となるように入力軸回転数を拘束する。また、摩擦クラッチの潤滑量を増加させて摩擦クラッチの引き摺りトルクを増加可能なシステムにおいては、摩擦クラッチ及び噛合いクラッチは通常状態同様に共に解放動作とし、摩擦クラッチへの潤滑流量を潤滑アクチュエータにより引き摺りトルクが増加するよう操作し、入力軸回転数をエンジン回転数に引き摺られて回転するような状態を確保する。
これにより、車両状態としてはエンジンと変速機出力軸の間を遮断したニュートラル状態(伝達経路が遮断)を確保しつつ、入力軸回転数の過回転を防止することが可能となる。
図2に本発明に係る制御装置の一実施の形態を示すシステム構成例のスケルトン図Aである。
駆動力源であるエンジン7,エンジン7の回転数を計測するエンジン回転数センサ(図示しない),エンジントルクを調節する電子制御スロットル(図示しない),吸入空気量に見合う燃料量を噴射するための燃料噴射装置(図示しない)が設けられており、エンジン制御ユニット101により、吸入空気量,燃料量,点火時期等を操作することで、エンジン7のトルクを高精度に制御することができるようになっている。前記燃料噴射装置には、燃料が吸気ポートに噴射される吸気ポート噴射方式あるいはシリンダ内に直接噴射される筒内噴射方式があるが、エンジンに要求される運転域(エンジントルク,エンジン回転数で決定される領域)を比較して燃費が低減でき、かつ排気性能が良い方式のエンジンを用いるのが有利である。駆動力源としては、ガソリンエンジンのみならず、ディーゼルエンジン,天然ガスエンジンや、電動機などでも良い。
自動変速機51には、第1クラッチ208,第2クラッチ209,変速機第1入力軸241,変速機第2入力軸243,変速機出力軸242,第1ドライブギア201,第2ドライブギア202,第3ドライブギア203,第4ドライブギア204,第5ドライブギア205,第1ドリブンギア211,第2ドリブンギア212,第3ドリブンギア213,第4ドリブンギア214,第5ドリブンギア215,第1噛合い伝達機構221,第2噛合い伝達機構222,第3噛合い伝達機構223,変速機第1入力軸回転センサ31,変速機出力軸回転センサ32,変速機第2入力軸回転センサ33が設けられている。
本構成例はツインクラッチ自動MTで構成している変速機を示している。第1クラッチ208,第2クラッチ209が上述のエンジン駆動力を断・接可能な摩擦クラッチに該当し、第1噛合い伝達機構221,第2噛合い伝達機構222,第3噛合い伝達機構223が変速ギア段を選択可能な噛合いクラッチを示す。
第1クラッチ208の係合(締結)によって、エンジン7のトルクを変速機第1入力軸241に伝達し、また第2クラッチ209の係合(締結)によって、エンジン7のトルクを変速機第2入力軸243に伝達する。変速機第2入力軸243は中空になっており、変速機第1入力軸241は、変速機第2入力軸243の中空部分を貫通し、変速機第2入力軸243に対し回転方向への相対運動が可能な構成となっている。
変速機第2入力軸243には、第1ドライブギア201と第3ドライブギア203と第5ドライブギア205が固定されており、変速機第1入力軸241に対しては、回転自在となっている。また、変速機第1入力軸241には、第2ドライブギア202と第4ドライブギア204が固定されており、変速機第2入力軸243に対しては、回転自在となっている。
第1クラッチ208の係合,解放は、第1クラッチアクチュエータ254によって行われ、第2クラッチ209の係合,解放は、第2クラッチアクチュエータ255によって行われる。
また、変速機第1入力軸241の回転数を検出する手段として、センサ31が設けられており、変速機第2入力軸243の回転数を検出する手段として、センサ33が設けられている。
一方、変速機出力軸242には、第1ドリブンギア211,第2ドリブンギア212,第3ドリブンギア213,第4ドリブンギア214,第5ドリブンギア215が設けられている。第1ドリブンギア211,第2ドリブンギア212,第3ドリブンギア213,第4ドリブンギア214,第5ドリブンギア215は変速機出力軸242に対して遊転ギアとして回転自在に設けられている。
また、変速機出力軸242の回転数を検出する手段として、センサ32が設けられている。
また、第1ドリブンギア211と第3ドリブンギア213の間には、第1ドリブンギ211を変速機出力軸242に係合させたり、第3ドリブンギア213を変速機出力軸242に係合させる、第1噛合い伝達機構221が設けられている。
また、第2ドリブンギア212と第4ドリブンギア214の間には、第2ドライブギア212を変速機出力軸242に係合させたり、第4ドリブンギア214を変速機出力軸242に係合させる、第3噛合い伝達機構223が設けられている。
また、第5ドリブンギア215には、第5ドリブンギア215を変速機出力軸242に係合させる、第2噛合い伝達機構222が設けられている。
ここで、前記噛合い伝達機構221,222,223は、摩擦伝達機構を備え、摩擦面を押し付けることによって回転数を同期させて噛合いを行う同期噛合い式を用いることが望ましい。
シフトアクチュエータ251によって、第1噛合い伝達機構221の位置を移動し、第1ドリブンギア211または、第3ドリブンギア213と係合させることで、変速機第2入力軸243の回転トルクを、第1噛合い伝達機構221を介して変速機出力軸242へと伝達することができる。
また、シフトアクチュエータ253によって、第3噛合い伝達機構223の位置を移動し、第2ドリブンギア212または、第4ドリブンギア214と係合させることで、変速機第1入力軸241の回転トルクを、第3噛合い伝達機構223を介して変速機出力軸242へと伝達することができる。
また、シフトアクチュエータ252によって、第2噛合い伝達機構222の位置を移動し、第5ドリブンギア215と係合させることで、変速機第2入力軸243の回転トルクを、第2噛合い伝達機構222を介して変速機出力軸242へと伝達することができる。
このように第1ドライブギア201,第2ドライブギア202,第3ドライブギア203,第4ドライブギア204,第5ドライブギア205から、第1ドリブンギア211,第2ドリブンギア212,第3ドリブンギア213,第4ドリブンギア214,第5ドリブンギア215を介して変速機出力軸242に伝達された変速機第1入力軸241,変速機第2入力軸243の回転トルクは、変速機出力軸242に連結されたディファレンシャルギア(図示しない)を介して車軸(図示しない)に伝えられる。
前記第1クラッチ208の係合,解放動作により伝達トルクを制御する第1クラッチアクチュエータ254,第2クラッチ209の係合,解放動作により伝達トルクを制御する第2クラッチアクチュエータ255は、モータ制御ユニット104によって、各アクチュエータに設けられたモータ(図示せず)の電流を制御することで各クラッチの伝達トルクの制御を行っている。
また、モータ制御ユニット104によって、シフトアクチュエータ251,252,253に設けられたモータ(図示せず)の電流を制御することによって、第1噛合い伝達機構221,第2噛合い伝達機構222,第3噛合い伝達機構223のいずれかを動作させる荷重またはストローク位置(シフト位置)を制御できるようになっている。
そして、前記モータ制御ユニット104とエンジン制御ユニット101は、パワートレイン制御ユニット100によってコントロールされている。前記パワートレイン制御ユニット100,エンジン制御ユニット101,モータ制御ユニット104は、通信手段103によって相互に情報を送受信する。
また本実施例においては、第1クラッチアクチュエータ254,第2クラッチアクチュエータ255,シフトアクチュエータ251,252,253にはモータアクチュエータを用いているが、油圧源と油圧シリンダ及び電磁弁等により構成する油圧アクチュエータによって構成してもよい。同様にモータ制御ユニット104も油圧制御ユニットに置き換わることになる。
前記第1クラッチ208,第2クラッチ209が湿式クラッチで構成されるときにはパワートレイン制御ユニット100により駆動される電動潤滑油ポンプ260から第1クラッチ208,第2クラッチ209に潤滑油が供給される。ここでは電動ポンプにより供給する方式を図示したが、供給及び流量制御方式を限定するものではなく、エンジン駆動ポンプ,流量レギュレータ等でもよく、湿式クラッチに潤滑油を供給可能であればよい。
図3は、本実施例の電気的制御系統を説明するブロック図の一例である。本例では自動変速機制御装置として、エンジン制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)101,パワートレイン制御ユニット(ECU)100の2つのECUで構成されており、各ECU間は通信回線を介して必要な情報をやり取りする。これらのECU100,101は、何れもマイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行う。なお、記憶機能に書き換え可能なROMを使用し、必要に応じて書き換えながら使用することも可能である。
エンジン用ECU101には、イグニッションスイッチ71,エンジン回転数センサ72,出力軸回転数センサ73,アクセル開度センサ74,空気量センサ75,吸気温センサ76,冷却水温センサ77,ブレーキスイッチ78などが接続され、それぞれイグニッションスイッチ71の操作位置,エンジン回転数Ne,出力軸回転数No,アクセル開度APS,吸入空気量Q,吸気温Ta,エンジン冷却水温Tw,ブレーキスイッチ78の操作位置などを表す信号が供給されるようになっており、それ等の信号に従ってスタータ79を回転駆動してエンジン7を始動したり、燃料噴射弁80の燃料噴射量や噴射時期を制御したり、イグナイタ81により点火プラグの点火時期を制御したり、また変速機用ECU100から必要な信号を取り込むことにより、スロットルアクチュエータ82を駆動してスロットル開度を制御したりする。
変速機用ECU100には、イグニッションスイッチ71,シフトレバースイッチ(シフトレンジ)86,オートモードスイッチ87,ブレーキスイッチ78,入力軸回転数センサ31,33,出力軸回転数センサ32,シフト位置センサ91などが接続させる。さらには変速機状態を検出する油圧センサ85,油温センサ97,油量センサ93が設けられている。
そして、それ等の信号や前記エンジン制御用ECU101から必要な信号を取り込むことにより、前述の過回転防止制御による湿式クラッチ(摩擦クラッチ)及びシフト(噛合いクラッチ)アクチュエータに該当するモータアクチュエータ251〜255の駆動を実現している。
図4にスケルトン図Aにおける引き摺りトルク発生部位を示す。エンジン出力軸と変速機入力軸とを断・接可能な摩擦クラッチを湿式クラッチの第1クラッチ208,第2クラッチ209で構成する場合には湿式クラッチによる引き摺りトルク(フリクション)が発生する(図中点線丸印A部)。このためクラッチ解放状態においても、このクラッチ引き摺りトルク(フリクション)により、変速機第1入力軸241,変速機第2入力軸243に対してトルク伝達が行われ、所定の回転数で回ろうとする力が働いている。
一方、第1ドリブンギア211,第2ドリブンギア212,第3ドリブンギア213,第4ドリブンギア214,第5ドリブンギア215は、変速機出力軸242に対して回転自在な遊転ギアとなっており、噛合いクラッチである第1噛合い伝達機構221,第2噛合い伝達機構222,第3噛合い伝達機構223が解放(非係合)状態のときは、変速機出力軸242の回転とは独立して、各ドリブンギアは遊転状態にある。しかし、ギア潤滑油が低温、または油量過多の状態等では各噛合い伝達機構が解放状態であっても出力軸とギア遊転部の摺動(図中丸印B部)によりギア引き摺りトルク(フリクション)が発生してしまう。このギア引き摺りトルクにより、各ドリブンギアは出力軸242の回転数で連れ回され、各ドリブンギアに噛合う第1ドライブギア201,第2ドライブギア202,第3ドライブギア203,第4ドライブギア204,第5ドライブギア205を介して変速機第1入力軸241,変速機第2入力軸243を回転させることになる。このときの変速機第1入力軸241,変速機第2入力軸243は、各軸が有するもっとも低速ギア段のギア比で出力軸回転数を増速した回転数を上限に引き摺られて回ろうとする。
例えば、第5ドライブギア205,第5ドリブンギア215のギア列を5速ギア段(高速段)、第1ドライブギア201,第1ドリブンギア211のギア列を1速ギア段(低速段)とすると、第2噛合い伝達機構222で5速ギア段を選択して高車速で走行中に、噛合い伝達機構222及び摩擦クラッチである第2クラッチ209が解放状態となると、変速機第2入力軸243は、出力軸242の回転数がギア引き摺りトルク(フリクション)により第1ドリブンギア211を回し、噛合う第1ドライブギア201の1速ギア比で増速された回転数で回されることになり、出力軸回転数が高い場合には、過回転となる可能性がある。
図5にクラッチ/ギア引き摺りトルクの関係を示す。入力軸回転数が過回転となるには前述のクラッチ引き摺りトルクとギア引き摺りトルクの大小関係が重要となる。摩擦クラッチ及び噛合いクラッチを共に解放とした状態で、クラッチ引き摺りトルクがギア側より大きければ、入力軸回転数は摩擦クラッチを介して、エンジン回転数を上限として回されるため、入力軸の過回転は発生しない。逆にギア側引き摺りがクラッチ側に対して大きいときには、前述のように出力軸回転数×低速ギア比を上限とした回転数に入力軸が連れ回されることになり、過回転に至る可能性がある。
ここで、クラッチ引き摺りトルクがギア引き摺りトルクより常に大きければ、入力軸はエンジン回転数以上にはならず過回転は発生しないが、摩擦クラッチとして乾式クラッチを採用したときには、上述の湿式クラッチ特有の引き摺りトルク自体が存在しないため、過回転に至る可能性があり、本発明の過回転防止制御が有効となる。
図7に変速機入力軸が過回転となるタイムチャート例を示す。
D(ドライブ)レンジ選択で高速ギア段で高車速で走行中は、エンジンと変速機入力軸を断・接する摩擦クラッチが締結、噛合いクラッチによる高速ギア段係合状態であるため、エンジン駆動力は摩擦クラッチ→変速機入力軸→高速ギア段→出力軸へと伝達され、このときの入力軸回転数は、エンジン回転数相当(=出力軸回転数×高速ギア段のギア比)となっている。ここで、時間T0で運転者がシフトレンジをD→N(ニュートラル)レンジ操作した場合、一般的にはエンジンと変速機入力軸を断・接する摩擦クラッチはDレンジ締結状態から解放状態と制御される。
これにより、エンジンと変速機の伝達経路は遮断されるため、エンジン回転数Neは摩擦クラッチ解放に伴い、所定回転数(例えばアイドル回転数相当)まで低下する。
また、変速ギア段も同様に、Dレンジ走行中の高速ギア段係合状態から、変速ギア段を選択している噛合いクラッチの解放動作により、ギアニュートラル状態へと制御される。これにより、出力軸へは駆動力の伝達が遮断されるため、出力軸回転数は徐々に低下していくことになる。
ここで、上述のクラッチ引き摺りトルクよりも遊転ギア摺動部のギア引き摺りトルクが大きい場合では、摩擦クラッチ及び噛合いクラッチ解放動作により、変速機入力軸がフリー状態となったとき(時間T1)に、ギア引き摺りトルクによって出力軸回転数×低速ギア段のギア比を上限とする回転数に引き上げられ、時間T2で変速機入力軸の強度・耐久上許容される回転数を超えて過回転する可能性がある。
引き上げられる入力軸回転数はあくまでギア引き摺りトルクによるものであり、直結状態ではないため、上限を出力軸回転数×低速ギア段のギア比とするそれ以下の所定回転数でバランスするが、ギア引き摺りトルクの絶対値検出は実質不可能であるため、変速機入力軸の強度・耐久上の許容回転数は、上記上限回転数とする必要があり、結果的に部品点数の増加及びコストアップとなってしまう。
次に、本発明の過回転防止制御実行時のタイムチャート例Aを図8に示す。Dレンジ走行中の状態は図7同様である。
まず過回転防止制御として、摩擦クラッチを締結保持とする一例について説明する。通常であれば、時間T0のD→Nレンジ操作時に摩擦クラッチを締結状態から解放状態への制御するが、過回転防止制御時には摩擦クラッチの締結状態を保持(図中一点鎖線)させる。一方、変速ギア段については、通常時同様に噛合いクラッチを係合状態から解放状態へと制御し、ギア自体はニュートラルとする。これにより、エンジン駆動力の出力軸への伝達は、噛合いクラッチの解放動作によって遮断が確保される。
このとき入力軸回転数は、摩擦クラッチが締結保持であるため、噛合いクラッチ解放により出力軸との接続が遮断される時間T1付近からエンジン回転数Neで回されることになり、図7で示したような過回転の発生は回避することができる。
次に過回転防止制御として、噛合いクラッチを締結(係合)保持とする一例について説明する。通常であれば、時間T0のD→Nレンジ操作時に噛合いクラッチを締結状態から解放状態へ制御するが、過回転防止制御時には噛合いクラッチの締結状態を保持(図中点線)させ、Dレンジ走行時の変速ギア段を保持する。一方、摩擦クラッチについては、通常時同様に締結状態から解放状態へと制御することにより、エンジン駆動力の出力軸への伝達は、摩擦クラッチの解放動作によって遮断が確保される。
このとき入力軸回転数は、噛合いクラッチが締結(係合)保持であるため、摩擦クラッチ解放によりエンジンとの接続が遮断される時間T1付近から出力軸回転数×保持された変速ギア段のギア比の回転数で回されることになり、図7で示したような過回転の発生は回避することができる。
このように摩擦クラッチ及び噛合いクラッチのいずれかを締結保持にすることにより、エンジンと出力軸間の伝達経路遮断を確保しつつ、入力軸の過回転を防止することが可能となる。
ここでは、D→Nレンジ操作時にDレンジ走行時のクラッチ状態を保持する例を挙げたが、摩擦クラッチ及び噛合いクラッチを締結状態とするタイミングは、一旦摩擦クラッチ及び噛合いクラッチを解放動作させ、その後に再度締結状態とすることでもよい。
本発明では、いずれかのクラッチを締結状態とすることで、入力軸回転数をエンジン回転数,出力軸回転数×ギア比のいずれかで拘束することを特徴とするものである。
図9に本発明の過回転防止制御実行時のタイムチャート例Bを示す。Dレンジ走行中の状態は図7同様である。
摩擦クラッチに湿式クラッチを有する自動MTシステムでは、摩擦クラッチ冷却のため、潤滑油がクラッチ部に供給されている。この潤滑油の供給流量は、クラッチ発熱状態及び運転状態に応じて可変とされることが一般的である。
上述のクラッチ引き摺りトルク(フリクション)は、上記潤滑油の供給流量に感度を持ち、湿式クラッチへの潤滑油の供給流量を増やすと、クラッチ引き摺りトルクは大きくなる傾向にあることが公知である。
図9では、潤滑流量を増やすことで過回転を防止する制御の一例を示している。
時間T0のD→Nレンジ操作時に通常時同様に摩擦クラッチ及び噛合いクラッチを締結状態から解放状態に制御する。これにより、変速機入力軸は、エンジン及び出力軸から切り離され、フリー状態となる。このとき、摩擦クラッチである湿式クラッチへの潤滑流量を増加させることにより、クラッチ引き摺りトルクが増加し、ギア引き摺りトルクとの大小関係がクラッチ>ギア引き摺りトルクとなれば、入力軸回転数は、エンジン回転数で引き摺られることになり、過回転の発生を回避することができる。
摩擦クラッチ及び噛合いクラッチは共に解放状態であるため、エンジンと出力軸間の伝達経路は通常時同様に遮断されていることになる。
本例は、過回転が発生するクラッチ・ギア引き摺りトルクの大小関係に着目し、クラッチ引き摺りトルクが、ギア引き摺りトルクに対して大きくなるように制御するものである。
図6には、図8,図9で示した過回転防止制御パターンを示す。
過回転防止制御としては、いずれかのパターンを実行してもよいし、運転状態及び車両状態に応じて運転性・燃費性能等への影響を加味し、使い分けを行ってもよい。
図11には、過回転防止制御フローチャートAを示す。処理c1にて、入力軸回転数の算出を行う。この入力軸回転数は、センサにて検出する回転数でもよいし、現在の運転状態で摩擦クラッチ及び噛合いクラッチを解放状態とした場合の推定入力軸回転数でもよい。センサで検出した入力軸回転数に図10に示す補正係数Kを乗算及び加算して推定入力軸回転数を算出するなどの例があげられる。図10の補正係数Kはギア引き摺りトルクにより過回転が発生すると想定される変速機の油温が低く且つ車速(出力軸回転数)が高い状態で大きくなるよう設定される。この補正係数Kは、油温・車速に限らず、変速機油量及び推定・検出されるギア引き摺りトルクに応じて算出することでもよい。
処理c2では運転者のシフトレンジ操作により、Nレンジが要求されたか否かを判定する。ここでは、Nレンジによるニュートラル要求に関わらず、運転状態及びフェール時のニュートラル状態要求でもよい。状態要求があった場合、処理c3において過回転が発生するか否か判定を行う。処理c1で算出された入力軸回転数が変速機入力軸として許容される回転数以上になるかを判定し、過回転発生を判定したときに処理c4に示す過回転防止制御を発動させる。ここでは過回転発生の判定を制御発動のトリガとしたが、ニュートラル状態要求時には常に過回転防止制御を実行させることでも問題ない。
図12には、過回転防止制御フローチャートBを示す。処理c1で、変速機の車速・油温・油量等の各運転状態パラメータを算出する。処理c2では運転者のシフトレンジ操作により、Nレンジが要求されたか否かを判定する。ここでは、Nレンジによるニュートラル要求に関わらず、運転状態及びフェール時のニュートラル状態要求でもよい。状態要求があった場合、処理c3において過回転防止制御を発動(実行)させる運転領域・状態にあるかを判定し、処理c4に示す過回転防止制御を発動させる。前記運転領域・状態として、ギア引き摺りトルクにより過回転の発生が想定・予想される低温かつ高車速状態、または油量過多状態等が挙げられる。
図13は、本発明に係る自動変速機を備えた自動車の制御装置一実施の形態を示す第2のシステム構成例スケルトン図Bである。なお、図2と同一符号は、同一部分を示している。
自動変速機50には、入力軸クラッチ8,アシストクラッチ9,変速機入力軸41,変速機出力軸42,第1ドライブギア1,第2ドライブギア2,第3ドライブギア3,第4ドライブギア4,第5ドライブギア5、および第6ドライブギア6,第1ドリブンギア11,第2ドリブンギア12,第3ドリブンギア13,第4ドリブンギア14,第5ドリブンギア15、および第6ドリブンギア16,第1噛合い伝達機構21,第2噛合い伝達機構22,第3噛合い伝達機構23,回転センサ31,回転センサ32が設けられている。
前記エンジン7には、入力軸クラッチ入力ディスク8aが連結されており、入力軸クラッチ入力ディスク8aと入力軸クラッチ出力ディスク8bを係合,開放することで、前記エンジン7のトルクを変速機入力軸41に伝達,遮断することが可能である。入力軸クラッチ8には、一般に乾式単板クラッチが用いられるが、湿式多板クラッチや電磁クラッチなどすべてのクラッチを用いることが可能である。前記入力軸クラッチ入力ディスク8aと前記入力軸クラッチ出力ディスク8b間の押付け力(入力軸クラッチトルク)の制御には、電動機(モータ)によって駆動する作動装置(アクチュエータ)2011が用いられており、この押し付け力(入力軸クラッチトルク)を調節することで、前記エンジン7の出力を入力軸41へ伝達,遮断を行うことができるようになっている。
前記入力軸41には、第1ドライブギア1,第2ドライブギア2,第3ドライブギア3,第4ドライブギア4,第5ドライブギア5、および第6ドライブギア6が設けられている。前記第1ドライブギア1,前記第2ドライブギア2は変速機入力軸41に固定されており、前記第3ドライブギア3,前記第4ドライブギア4,前記第5ドライブギア5,前記第6ドライブギア6は、変速機入力軸41に対して回転自在に設けられている。また、前記変速機入力軸41の回転数である、入力軸回転数を検出する手段として、回転センサ31が設けられている。
一方、変速機出力軸42には、第1ドリブンギア11,第2ドリブンギア12,第3ドリブンギア13,第4ドリブンギア14,第5ドリブンギア15、および第6ドリブンギア16が設けられている。第1ドリブンギア11,第2ドリブンギア12は変速機出力軸42に対して回転自在に設けられており、第3ドリブンギア13,第4ドリブンギア14,第5ドリブンギア15,第6ドリブンギア16は前記変速機出力軸42に固定されている。
また、前記変速機出力軸42の回転数を検出する手段として、回転センサ32が設けられている。
前記第1ドライブギア1と、前記第1ドリブンギア11とが、前記第2ドライブギア2と、前記第2ドリブンギア12とが、前記第3ドライブギア3と、前記第3ドリブンギア13とが、前記第4ドライブギア4と、前記第4ドリブンギア14とが、前記第5ドライブギア5と、前記第5ドリブンギア15とが、前記第6ドライブギア6と、前記第6ドリブンギア16とが、それぞれ噛合している。
そして、入力軸41には、摩擦伝達機構の一方式であるアシストクラッチ9が備えられており、前記アシストクラッチ9の伝達トルクを制御することによって、前記エンジン7のトルクを前記変速機出力軸42に伝達することが可能である。
前記アシストクラッチ9の伝達トルクの制御には、モータによって駆動するアクチュエータ2014が用いられており、この伝達トルク(アシストクラッチトルク)を調節することで、前記エンジン7の出力を伝達することができるようになっている。
ここで、前記摩擦伝達機構は、摩擦面の押し付け力によって摩擦力を発生させてトルクを伝達する機構であり、代表的なものとして、乾式単板クラッチ,乾式多板クラッチ,湿式多板クラッチ等がある。本実施例ではアシストクラッチには湿式多板クラッチを用いている。
また、第1ドリブンギア11と第2ドリブンギア12の間には、第1ドリブンギア11を変速機出力軸42に係合させたり、第2ドリブンギア12を変速機出力軸42に係合させる、第1噛合い伝達機構21が設けられている。したがって、第1ドライブギア1から第1ドリブンギア11へ、または第2ドライブギア2から第2ドリブンギア12へと伝達された回転トルクは、第1噛合い伝達機構21を介して変速機出力軸42に伝達されることになる。
また、第3ドライブギア3と第4ドライブギア4の間には、第3ドライブギア3を変速機入力軸41に係合させたり、第4ドライブギア4を変速機入力軸41に係合させる、第2噛合い伝達機構22が設けられている。したがって、第3ドライブギア3、または第4ドライブギア4に伝達された回転トルクは、第2噛合い伝達機構22を介して第3ドリブンギア13または第4ドリブンギア14に伝達され、変速機出力軸42に伝達されることになる。
また、第5ドライブギア5には、第5ドライブギア5を変速機入力軸41に係合させる、第3噛合い伝達機構23が設けられている。したがって、第5ドライブギア5に伝達された回転トルクは、第3噛合い伝達機構23を介して第5ドリブンギア15に伝達され、変速機出力軸42に伝達されることになる。
ここで、前記噛合い伝達機構21,22,23は、常時噛合い式を用いても良いし、摩擦伝達機構を備え、摩擦面を押しつけることによって回転数を同期させて噛合いを行う同期噛合い式を用いても良い。
このように、変速機入力軸41の回転トルクを、変速機出力軸42に伝達するためには、第1噛合い伝達機構21、または第2噛合い伝達機構22、または第3噛合い伝達機構23のうちいずれか一つを変速機入力軸41もしくは変速機出力軸42の軸方向に移動させ、第1ドリブンギア11,第2ドリブンギア12,第3ドライブギア3,第4ドライブギア4,第5ドライブギア5のいずれか一つと係合する必要がある。セレクトアクチュエータ2013によって、シフト/セレクト機構24を動作させ、第1噛合い伝達機構21、または第2噛合い伝達機構22、または第3噛合い伝達機構23のいずれを移動させるかを選択し、シフトアクチュエータ2012によって、シフト/セレクト機構24を動作させることによって、前記第1噛合い伝達機構21、または第2噛合い伝達機構22、または第3噛合い伝達機構23のうち、選択されたいずれか一つの噛合い伝達機構の位置を移動し、第1ドリブンギア11,第2ドリブンギア12,第3ドライブギア3,第4ドライブギア4,第5ドライブギア5のいずれか一つに係合させ、変速機入力軸41の回転トルクを、第1噛合い伝達機構21、または第2噛合い伝達機構22、または第3噛合い伝達機構23のいずれか一つを介して変速機出力軸42へと伝達することができる。
このように第1ドライブギア1,第2ドライブギア2,第3ドライブギア3,第4ドライブギア4,第5ドライブギア5,第6ドライブギア6から、第1ドリブンギア11,第2ドリブンギア12,第3ドリブンギア13,第4ドリブンギア14,第5ドリブンギア15,第6ドリブンギア6を介して変速機出力軸42に伝達された変速機入力軸41の回転トルクは、変速機出力軸42に連結されたディファレンシャルギア(図示しない)を介して車軸(図示しない)に伝えられる。
前記入力軸クラッチ8の伝達トルクを制御する入力軸クラッチアクチュエータ2011,前記アシストクラッチ9の伝達トルクを制御するアシストクラッチアクチュエータ2014は、モータ制御ユニット104によって、各アクチュエータに設けられたモータ(図示せず)の電流を制御することで各クラッチの伝達トルクの制御を行っている。前記入力軸クラッチアクチュエータ2011は、モータと、モータの回転運動を直線運動に変換する機構部分から構成され、ウォームギアおよびアームや、ボールネジといった部品で構成される。
また、モータ制御ユニット104によって、セレクトアクチュエータ2013に設けられたモータ(図示せず)の電流を制御することによって、第1噛合い伝達機構21,第2噛合い伝達機構22,第3噛合い伝達機構23のいずれを移動するか選択するためのセレクトレバー(図示しない)のストローク位置である、セレクト位置を移動し、第1噛合い伝達機構21,第2噛合い伝達機構22,第3噛合い伝達機構23のいずれを移動するか選択している。
また、モータ制御ユニット104によって、シフトアクチュエータ2012に設けられたモータ(図示せず)の電流を制御することによって、セレクトアクチュエータ2013によって選択された、第1噛合い伝達機構21,第2噛合い伝達機構22,第3噛合い伝達機構23のいずれかを動作させる荷重またはストローク位置(シフト位置)を制御できるようになっている。
セレクトアクチュエータ2013を制御してセレクト位置を制御し、第1噛合い伝達機構21を移動することを選択し、シフトアクチュエータ2012を制御してシフト位置を制御し、第1噛合い伝達機構21と第1ドリブンギア11が噛合して第1速段となる。
セレクトアクチュエータ2013を制御してセレクト位置を制御し、第1噛合い伝達機構21を移動することを選択し、シフトアクチュエータ2012を制御してシフト位置を制御し、第1噛合い伝達機構21と第2ドリブンギア12が噛合して第2速段となる。
なお、第1噛合い伝達機構21,第2噛合い伝達機構22,第3噛合い伝達機構23を動作させるシフト/セレクト機構24としては、セレクトレバーおよびシフトフォークなどによって構成しても良いし、ドラム式など、噛合い伝達機構21,22,23を移動させるための他の機構を用いても構成可能である。
なお、摩擦伝達機構の一方式であるアシストクラッチの連結する前記第6ドライブギアおよび第6ドリブンギアの減速比は、第3ドライブギア3および第3ドリブンギア13によって構成される第3速段の減速比と、第4ドライブギア4および第4ドリブンギア14によって構成される第4速段の減速比との間に設定しても良いし、第4速段と第5速段の間の減速比としても良いし、第3速段相当としても良いし、第4速段相当としても良いし、最高速段相当としても良い。また、例えば第5速段相当として、第5ドライブギア5および第5ドリブンギア15および第3噛合い伝達機構のかわり用いるなど、所定の変速段として設けられた噛合い伝達機構のかわりに摩擦伝達機構を設置することも可能である。さらには複数の摩擦伝達機構を用いて、複数の変速段へ設置することも可能である。
このような変速機においても、摩擦クラッチと噛合いクラッチ及びクラッチへの潤滑流量を制御することは可能であり、変速機入力軸の過回転防止を回避することができる。