JP4415291B2 - 車両の自動変速装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、特にトラクタ等の大型車両に適用される車両の自動変速装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
最近ではドライバの負担を軽減するため、トラクタやトラック等の大型車両においても自動変速装置を採用する例が多く見られる。この場合、車速に応じた最適ギヤ段がマップに従って定められ、車両の加速・減速に合わせて自動的にシフトアップ・シフトダウンがなされる。
【0003】
ここで、変速機のアウトプットシャフトが駆動輪に連結され、アウトプットシャフト回転が車速に比例するため、実際にはアウトプットシャフト回転に基づいたマップを作成すると共に、実際のアウトプットシャフト回転をマップ上の値と比較してシフトアップ・シフトダウンを行うようになっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、雪道等の低μ路走行において駆動輪が空転(ホイルスピン)すると、アウトプットシャフト回転と車速とが符合しなくなり、実際には車速が出てないのに勝手にシフトアップしてしまうという問題がある。
【0005】
また、かかる自動変速装置にトラクションコントロールシステム(以下TCSという)を組み合わせる場合がある。TCSは周知の通り、駆動輪の空転を駆動輪と従動輪との回転差から求め、その回転差に応じてエンジン出力を減少し、空転を抑制するというものである。
【0006】
しかし、TCSでは実際の空転を検知してから空転を抑制するので、どうしても制御の遅れがあり、空転による自動シフトアップの問題は依然として残る。このように自動変速制御とトラクション制御との干渉により誤った自動変速が実行される虞がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、駆動輪の空転による自動シフトアップの問題を解消することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、駆動輪に連結されたアウトプットシャフトを有する変速機と、変速機の変速を制御するコントロールユニットと、コントロールユニットの信号に基づき変速を実行するアクチュエータと、アウトプットシャフト回転を検知する手段とを備え、少なくともアウトプットシャフト回転に基づき自動変速を実行する自動変速モードを有した車両の自動変速装置にあって、少なくともアクセル開度に基づくエンジン制御を実行するエンジン制御手段と、上記駆動輪の空転を検知する手段と、駆動輪の空転が検知されたとき上記アクセル開度の減少を行うトラクション制御手段と、上記自動変速モード中、上記トラクション制御手段により上記アクセル開度を一定以上減少したとき自動変速を禁止し、該自動変速を禁止後に上記アクセル開度が一定以上に復帰された状態が一定時間以上継続されたときに自動変速禁止を解除するアクセル開度減少時変速禁止・解除手段とを備えたものである。
【0009】
ここで、上記トラクション制御手段による上記アクセル開度の減少が所定値以下の場合は上記自動変速モードによる変速制御を行うのが好ましい。
【0011】
さらに本発明は、駆動輪に連結されたアウトプットシャフトを有する変速機と、変速機の変速を制御するコントロールユニットと、コントロールユニットの信号に基づき変速を実行するアクチュエータと、アウトプットシャフト回転を検知する手段とを備え、少なくともアウトプットシャフト回転に基づき自動変速を実行する自動変速モードを有した車両の自動変速装置にあって、実アクセル開度を検知する手段と、駆動輪の空転を検知してこれに応じた100(%)以下の係数を出力する係数出力手段と、実アクセル開度に上記係数を乗じて得られる値に基づきエンジン出力を制御するエンジン出力制御手段と、自動変速モード中、上記係数出力手段により上記係数が所定値以下になったとき自動変速を禁止し、該自動変速を禁止後に上記係数が一定以上に復帰された状態が一定時間以上継続されたときに自動変速禁止を解除する係数増加時変速禁止・解除手段とを備えたものである。
【0012】
ここで上記係数出力手段による上記係数の減少が所定値以下の場合は上記自動変速モードによる変速制御を行うのが好ましい。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0014】
図1に本実施形態に係る車両の自動変速装置を示す。ここでは車両がトレーラを牽引するトラクタであり、エンジンがディーゼルエンジンである。図示するように、エンジン1にクラッチ2を介して変速機3が取り付けられ、変速機3のアウトプットシャフト4(図2参照)が図示しないプロペラシャフトを介して駆動輪としての後輪(図示せず)に連結される。エンジン1はエンジンコントロールユニット(ECU)6によって電子制御される。即ち、ECU6は、基本的にはエンジン回転センサ7とアクセル開度センサ8との出力信号に基づき、現在のエンジン回転及び負荷に見合った信号を燃料噴射ポンプ1aに出力し、燃料噴射時期及び噴射量を制御する。
【0015】
なお、変速中は、アクセル開度センサ8の出力値である実アクセル開度と無関係に、制御アクセル開度なるものに基づいてエンジン制御を実行する。これは後述のダブルクラッチ制御において必要である。
【0016】
図2に示すように、エンジンのクランク軸にフライホイール1bが取り付けられ、フライホイール1bの外周にリングギヤ1cが形成され、リングギヤ1cの歯が通過する度にエンジン回転センサ7が波形信号を出力し、ECU6がその波形信号を矩形パルスに整形し、単位時間当たりのパルス数をカウントしてエンジン回転数を算出する。
【0017】
図1に示すように、ここではクラッチ2と変速機3とがトランスミッションコントロールユニット(TMCU)9の制御信号に基づいて自動制御される。即ちかかる自動変速装置には自動クラッチ装置と自動変速機とが備えられる。ECU6とTMCU9とは互いにバスケーブル等を介して接続され、相互に連絡可能である。
【0018】
また、かかる自動変速装置にはTCSが具備される。TCSは、駆動輪(後輪)及び従動輪(前輪)の回転を検知するための駆動輪及び従動輪回転センサ62,63と、これらセンサの検出値から駆動輪及び従動輪の回転差、即ち駆動輪の空転(ホイルスピン)の度合いを検知し、後述するアクセル開度減少用係数信号を出力するTCS電子制御ユニット(以下TCSECUという)60とから主に構成される。TCSECU60とTMCU9とが互いにバスケーブル等で接続され、相互に連絡可能である。
【0019】
図1、図2、図3に示すように、クラッチ2は機械式摩擦クラッチであり、入力側をなすフライホイール1b、出力側をなすドリブンプレート2a、及びドリブンプレート2aをフライホイール1bに摩擦接触或いは離反させるプレッシャプレート2bから構成される。そしてクラッチ2は、クラッチブースタ(クラッチアクチュエータ)10によりプレッシャプレート2bを軸方向に操作し、基本的には自動断接され、ドライバの負担を軽減し得るものとなっている。一方、微低速走行に際しての微妙なクラッチワークや、非常時のクラッチ急断等を可能とするため、ここではクラッチペダル11によるマニュアル断接も可能となっている。所謂セレクティブオートクラッチの構成である。クラッチ位置(即ちプレッシャプレート2bの位置)を検知するためのクラッチストロークセンサ14と、クラッチペダル11の位置を検知するためのクラッチペダルストロークセンサ16とが設けられ、それぞれTMCU9に接続される。
【0020】
図3に分かりやすく示すが、クラッチブースタ10は実線で示す二系統の空圧通路a,bを通じてエアタンク5に接続され、エアタンク5から供給される空圧で作動する。一方の通路aがクラッチ自動断接用、他方の通路bがクラッチマニュアル断接用である。一方の通路aが二股状に分岐され、そのうちの一方に自動断接用の電磁弁MVC1,MVC2が直列に設けられ、他方に非常用の電磁弁MVCEが設けられる。分岐合流部にダブルチェックバルブDCV1が設けられる。他方の通路bに、クラッチブースタ10に付設される油圧作動弁12が設けられる。両通路a,bの合流部にもダブルチェックバルブDCV2が設けられる。ダブルチェックバルブDCV1,DCV2は差圧作動型の三方弁である。
【0021】
上記電磁弁MVC1,MVC2,MVCEはTMCU9によりON/OFF制御され、ONのとき上流側を下流側に連通し、OFF のとき上流側を遮断して下流側を大気開放する。まず自動側を説明すると、電磁弁MVC1は単にイグニッションキーのON/OFFに合わせてON/OFFされるだけである。イグニッションキーOFF 、つまり停車中はOFF となり、エアタンク5からの空圧を遮断する。電磁弁MVC2は比例制御弁で、供給又は排出エア量を自由にコントロールできる。これはクラッチの断接速度制御を行うためである。電磁弁MVC1,MVC2がともにONだとエアタンク5の空圧がダブルチェックバルブDCV1,DCV2をそれぞれ切り換えてクラッチブースタ10に供給される。これによりクラッチが分断される。クラッチを接続するときはMVC2のみがOFF され、これによりクラッチブースタ10の空圧がMVC2から排出されてクラッチが接続される。
【0022】
ところでもし仮にクラッチ分断中に電磁弁MVC1又はMVC2に異常が生じ、いずれかがOFF となると、ドライバの意思に反してクラッチが急接されてしまう。そこでこのような異常がTMCU9の異常診断回路で検知されたら、即座に電磁弁MVCEをONする。すると電磁弁MVCEを通過した空圧がダブルチェックバルブDCV1を逆に切り換えてクラッチブースタ10に供給され、クラッチ分断状態が維持され、クラッチ急接が防止される。
【0023】
次にマニュアル側を説明する。クラッチペダル11の踏込み・戻し操作に応じてマスタシリンダ13から油圧が給排され、この油圧が破線で示す油圧通路13aを介して油圧作動弁12に供給される。これによって油圧作動弁12が開閉され、クラッチブースタ10への空圧の給排が行われ、クラッチ2のマニュアル断接が実行される。油圧作動弁12が開くと、これを通過した空圧がダブルチェックバルブDCV2を切り換えてクラッチブースタ10に至る。
【0024】
図2に詳細に示すように、変速機3は基本的に常時噛み合い式の多段変速機で、前進16段、後進2段に変速可能である。変速機3はメインギヤ18と、その入力側及び出力側にそれぞれ副変速機としてのスプリッタ17及びレンジギヤ19を備える。そして、インプットシャフト15に伝達されてきたエンジン動力をスプリッタ17、メインギヤ18、レンジギヤ19へと順に送ってアウトプットシャフト4に出力する。
【0025】
変速機3を自動変速すべくギヤシフトユニットGSUが設けられ、これはスプリッタ17、メインギヤ18、レンジギヤ19それぞれの変速を担当するスプリッタアクチュエータ20、メインアクチュエータ21及びレンジアクチュエータ22から構成される。これらアクチュエータもクラッチブースタ10同様空圧作動され、TMCU9によって制御される。各ギヤ17,18,19の現在ポジションはギヤポジションスイッチ23(図1参照)で検知される。
【0026】
カウンタシャフト32の回転がカウンタシャフト回転センサ26で検知され、アウトプットシャフト4の回転がアウトプットシャフト回転センサ28で検知される。これらセンサは近接センサで、前者はカウンタギヤCHの歯が通過する度に、後者はアウトプットシャフト4に固設された歯付リングの歯が通過する度に、それぞれ波形信号を出力する。TMCU9はこれら信号を矩形パルスに整形し、単位時間毎のパルス数をカウントしてカウンタシャフト回転及びアウトプットシャフト回転を算出する。
【0027】
この自動変速機ではマニュアルモードが設定され、ドライバのシフトチェンジ操作に基づくマニュアル変速が可能である。この場合、図1に示すように、クラッチ2の断接制御及び変速機3の変速制御は運転席に設けられたシフトレバー装置29からの変速指示信号を合図に行われる。即ち、ドライバが、シフトレバー装置29のシフトレバー29aをシフト操作すると、シフトレバー装置29に内蔵されたシフトスイッチが作動(ON)し、変速指示信号がTMCU9に送られ、これを基にTMCU9はクラッチブースタ10、スプリッタアクチュエータ20、メインアクチュエータ21及びレンジアクチュエータ22を適宜作動させ、一連の変速操作(クラッチ断→ギヤ抜き→ギヤ入れ→クラッチ接)を実行する。そしてTMCU9は現在のシフト段をモニター31に表示する。
【0028】
図示するシフトレバー装置29において、Rはリバース、Nはニュートラル、Dはドライブ、UPはシフトアップ、DOWNはシフトダウンをそれぞれ意味する。シフトスイッチはこれら各ポジションに応じた信号を出力する。また運転席に、変速モードを自動とマニュアルに切り換えるモードスイッチ24と、変速を1段ずつ行うか段飛ばしで行うかを切り換えるスキップスイッチ25とが設けられる。
【0029】
自動変速モードのとき、シフトレバー29aをDレンジに入れておけば車速に応じて自動的に変速が行われる。またこの自動変速モードでも、ドライバがシフトレバー29aをUP又はDOWNに操作すれば、マニュアルでのシフトアップ又はシフトダウンが可能である。この自動変速モードにおいて、スキップスイッチ25がOFF (通常モード)なら、シフトレバー29aの1回のUP又はDOWNの操作により、変速は1段ずつ行われる。これはトレーラ牽引時等、積載荷重が比較的大きいときに有効である。またスキップスイッチ25がON(スキップモード)なら変速は1段飛ばしで行われる。これはトレーラを牽引してないときや荷が軽いときなどに有効である。
【0030】
一方、マニュアル変速モードのときは、変速は完全にドライバの意思に従う。シフトレバー29aがDレンジのときは変速は行われず、現在ギヤが保持され、ドライバの積極的な意思でシフトレバー29aをUP又はDOWNに操作したときのみ、シフトアップ又はシフトダウンが可能である。このときも前記同様、スキップスイッチ25がOFF なら1回の操作につき変速は1段ずつ行われ、スキップスイッチ25がONなら変速は1段飛ばしで行われる。このモードではDレンジは現ギヤ段を保持するH(ホールド)レンジとなる。
【0031】
なお、運転席に非常用変速スイッチ27が設けられ、GSUの電磁弁等が故障したときはスイッチ27の手動切換により変速できるようになっている。
【0032】
図2に示すように、変速機3にあっては、インプットシャフト15、メインシャフト33及びアウトプットシャフト4が同軸上に配置され、カウンタシャフト32がそれらの下方に平行配置される。インプットシャフト15がクラッチ2のドリブンプレート2aに接続され、インプットシャフト15とメインシャフト33とが相対回転可能に支持される。
【0033】
まずスプリッタ17とメインギヤ18の構成を説明する。インプットシャフト15にインプットギヤSHが回転可能に取り付けられる。またメインシャフト33にも前方から順にギヤM4,M3,M2,M1,MRが回転可能に取り付けられる。MRを除くギヤSH,M4,M3,M2,M1は、それぞれカウンタシャフト32に固設されたカウンタギヤCH,C4,C3,C2,C1に常時噛合される。ギヤMRはアイドルリバースギヤIRに常時噛合され、アイドルリバースギヤIRはカウンタシャフト32に固設されたカウンタギヤCRに常時噛合される。
【0034】
インプットシャフト15及びメインシャフト33に取り付けられた各ギヤSH,M4…に、当該ギヤを選択し得るようドグギヤ36が一体的に設けられ、これらドグギヤ36に隣接してインプットシャフト15及びメインシャフト33に第1〜第4ハブ37〜40が固設される。第1〜第4ハブ37〜40には第1〜第4スリーブ42〜45が嵌合される。ドグギヤ36及び第1〜第4ハブ37〜40の外周部と、第1〜第4スリーブ42〜45の内周部とにスプラインが形成されており、第1〜第4スリーブ42〜45は第1〜第4ハブ37〜40に常時係合してインプットシャフト15又はメインシャフト33と同時回転すると共に、前後にスライド移動してドグギヤ36に対し選択的に係合・離脱する。この係合・離脱によりギヤイン・ギヤ抜きが行われる。第1スリーブ42の移動をスプリッタアクチュエータ20で行い、第2〜第4スリーブ43〜45の移動をメインアクチュエータ21で行う。
【0035】
このように、スプリッタ17とメインギヤ18とは各アクチュエータ20,21によって自動変速され得る常時噛み合い式の構成とされる。特に、スプリッタ17のスプライン部には通常の機械的なシンクロ機構が存在するものの、メインギヤ18の各スプライン部にはシンクロ機構が存在しない。このため、シンクロ制御なるものを行ってドグギヤ回転とスリーブ回転とを同期させ、シンクロ機構なしで変速できるようにしている。ここでシンクロ制御とは、ドグギヤ回転>スリーブ回転のときはカウンタシャフトブレーキを行ってドグギヤ回転を下げ、ドグギヤ回転<スリーブ回転のときはダブルクラッチ制御を行ってドグギヤ回転を上げる制御をいう。
【0036】
なお、ここではメインギヤ18以外にスプリッタ17にもニュートラルポジションが設けられ、所謂ガラ音対策がなされている(特願平11-319915 号参照)。
【0037】
次にレンジギヤ19の構成を説明する。レンジギヤ19は遊星歯車機構34を採用しており、ハイ・ローいずれかのポジションに切り替えることができる。遊星歯車機構34は、メインシャフト33の最後端に固設されたサンギヤ65と、その外周に噛合される複数のプラネタリギヤ66と、プラネタリギヤ66の外周に噛合される内歯を有したリングギヤ67とからなる。各プラネタリギヤ66は共通のキャリア68に回転可能に支持され、キャリア68はアウトプットシャフト4に連結される。リングギヤ67は管部69を一体的に有し、管部69はアウトプットシャフト4の外周に相対回転可能に嵌め込まれてアウトプットシャフト4とともに二重軸を構成する。
【0038】
第5ハブ41が管部69に一体的に設けられる。また第5ハブ41の後方に隣接して、アウトプットシャフト4にアウトプットシャフトドグギヤ70が一体的に設けられる。第5ハブ41の前方に隣接して、ミッションケース側に固定ドグギヤ71が設けられる。第5ハブ41の外周に第5スリーブ46が嵌合される。これら第5ハブ41、アウトプットシャフトドグギヤ70、固定ドグギヤ71及び第5スリーブ46にも前記同様にスプラインが形成され、第5スリーブ46が第5ハブ41に常時係合すると共に、前後にスライド移動してアウトプットシャフトドグギヤ70又は固定ドグギヤ71に対し選択的に係合・離脱する。第5スリーブ46の移動がレンジアクチュエータ22で行われる。レンジギヤ19のスプライン部には機械的なシンクロ機構が存在する。
【0039】
第5スリーブ46が前方に移動するとこれが固定ドグギヤ71に係合し、第5ハブ41と固定ドグギヤ71とが連結される。これによりリングギヤ67がミッションケース側に固定され、アウトプットシャフト4が1より大きい比較的大きな減速比(ここでは4.5 )で回転駆動されるようになる。これがローのポジションである。
【0040】
一方、第5スリーブ46が後方に移動するとこれがアウトプットシャフトドグギヤ70に係合し、第5ハブ41とアウトプットシャフトドグギヤ70とが連結される。これによりリングギヤ67とキャリア68とが互いに固定され、アウトプットシャフト4が1の減速比で直結駆動されるようになる。これがハイのポジションである。このようにかかるレンジギヤ19ではハイ・ロー間の減速比が比較的大きく異なる。
【0041】
結局、この変速機3では、前進側において、スプリッタ17でハイ・ローの2段、メインギヤ18で4段、レンジギヤ19でハイ・ローの2段に変速可能であり、計2×4×2=16段に変速することができる。また後進側では、スプリッタ17のみでハイ・ローを切り替えて2段に変速することができる。
【0042】
次に、各アクチュエータ20,21,22について説明する。これらアクチュエータはエアタンク5の空圧で作動する空圧シリンダと、空圧シリンダへの空圧の給排を切り替える電磁弁とで構成される。そしてこれら電磁弁がTMCU9で選択的に切り替えられ、空圧シリンダを選択的に作動させるようになっている。
【0043】
スプリッタアクチュエータ20は、ダブルピストンを有した空圧シリンダ47と三つの電磁弁MVH,MVF,MVGとで構成される。スプリッタ17をニュートラルにするときはMVH/ON,MVF/OFF,MVG/ONとされる。スプリッタ17をハイにするときはMVH/OFF,MVF/OFF,MVG/ONとされる。スプリッタ17をローにするときはMVH/OFF,MVF/ON,MVG/OFFとされる。
【0044】
メインアクチュエータ21は、ダブルピストンを有しセレクト側の動作を担当する空圧シリンダ48と、シングルピストンを有しシフト側の動作を担当する空圧シリンダ49とを備える。各空圧シリンダ48及び49に対し複数ずつ電磁弁MVC,MVD,MVE及びMVB,MVAが設けられる。
【0045】
セレクト側空圧シリンダ48は、MVC/OFF,MVD/ON,MVE/OFFのとき図の下方に移動し、メインギヤの3rd、4th又はN3を選択可能とし、MVC/ON,MVD/OFF,MVE/ONのとき中立となり、メインギヤの1st、2nd又はN2を選択可能とし、MVC/ON,MVD/OFF,MVE/OFFのとき図の上方に移動し、メインギヤのRev又はN1を選択可能とする。
【0046】
シフト側空圧シリンダ49は、MVA/ON,MVB/ONのとき中立となり、メインギヤのN1、N2又はN3を選択可能とし、MVA/ON,MVB/OFFのとき図の左側に移動し、メインギヤの2nd,4th又はRevを選択可能とし、MVA/OFF,MVB/ONのとき図の右側に移動し、メインギヤの1st又は3rdを選択可能とする。
【0047】
レンジアクチュエータ22は、シングルピストンを有した空圧シリンダ50と二つの電磁弁MVI,MVJとで構成される。空圧シリンダ50は、MVI/ON,MVJ/OFFのとき図の右側に移動し、レンジギヤをハイとし、MVI/OFF,MVJ/ONのとき図の左側に移動し、レンジギヤをローとする。
【0048】
ところで、シンクロ制御に際してカウンタシャフト32を制動するため、カウンタシャフト32にはカウンタシャフトブレーキ27が設けられる。カウンタシャフトブレーキ27は湿式多板ブレーキであって、エアタンク5の空圧で作動する。この空圧の給排を切り替えるため電磁弁MV BRKが設けられる。電磁弁MV BRKがONのときカウンタシャフトブレーキ27に空圧が供給され、カウンタシャフトブレーキ27が作動状態となる。電磁弁MV BRKがOFFのときにはカウンタシャフトブレーキ27から空圧が排出され、カウンタシャフトブレーキ27が非作動となる。
【0049】
次に、自動変速制御の内容を説明する。TMCU9には図4に示すシフトアップマップと図5に示すシフトダウンマップとがメモリされており、TMCU9は、自動変速モードのとき、これらマップに従って自動変速を実行する。例えば図4のシフトアップマップにおいて、ギヤ段n(nは1から15までの整数)からn+1へのシフトアップ線図がアクセル開度(%)とアウトプットシャフト回転(rpm )との関数で決められている。そしてマップ上では現在のアクセル開度(%)とアウトプットシャフト回転(rpm )とからただ1点が定まる。車両加速中は、車輪に連結されたアウトプットシャフト4の回転が次第に増加していく。そこで通常の自動変速モードでは、現在の1点が各線図を越える度に1段ずつシフトアップを行うこととなる。具体的には、現在の1点が各線図を越える度にTMCU9内部で変速要求が出され、これに従ってTMCU9が所定の変速制御を実行することになる。なお、このときスキップモードであれば線図を交互に1本ずつ飛ばして2段ずつシフトアップを行う。
【0050】
図5のシフトダウンマップにおいても同様に、ギヤ段n+1(nは1から15までの整数)からnへのシフトダウン線図がアクセル開度(%)とアウトプットシャフト回転(rpm )との関数で決められている。そしてマップ上では現在のアクセル開度(%)とアウトプットシャフト回転(rpm )とからただ1点が定まる。車両減速中はアウトプットシャフト4の回転が次第に減少していくので、通常の自動変速モードでは、現在の1点が各線図を越える度に1段ずつシフトダウンを行う。スキップモードであれば線図を交互に1本ずつ飛ばして2段ずつシフトダウンする。
【0051】
一方、マニュアルモードのときは、これらマップと無関係にドライバが自由にシフトアップ・ダウンを行える。通常モードなら1回のシフトチェンジ操作で1段変速でき、スキップモードなら1回のシフトチェンジ操作で2段変速できる。
【0052】
現在のアクセル開度はアクセル開度センサ8により検知され、現在のアウトプットシャフト回転はアウトプットシャフト回転センサ28により検知される。特に、TMCU9は、現在のアウトプットシャフト回転の値から現在の車速を換算し、これをスピードメータに表示する。つまり車速がアウトプットシャフト回転から間接的に検知され、アウトプットシャフト回転と車速とは比例関係にある。
【0053】
ところで、かかる自動変速装置ではアウトプットシャフト回転の増減に応じてシフトアップ・ダウンを行うが、アウトプットシャフトが駆動輪に連結されているため、駆動輪の空転が生じると実際には車速が上っていないのに勝手にシフトアップしてしまうという問題がある。またこの自動変速装置ではTCSが組み合わされているが、TCSに制御遅れがあるため同様の自動シフトアップの問題が発生する。そこで本装置ではかかる問題に対処するため以下の構成を採り、制御を実行している。
【0054】
まず、図6を用いてエンジン、変速及びトラクション制御系を簡単に説明する。ドライバによるアクセルペダル61の踏込量がアクセル開度センサ8により検知され、アクセル開度センサ8はその踏込量に応じた信号、即ち実アクセル開度AcをECU6に出力する。ECU6は通常この実アクセル開度Acに従ったエンジン制御ないしエンジン出力制御を実行し、その実アクセル開度Acに見合った燃料噴射量となるように燃料噴射ポンプ1aを制御する。なお、実アクセル開度AcはECU6からTMCU9及びTCSECU60にそれぞれ送られる。
【0055】
一方、変速中はシンクロ制御等の必要があるため、実アクセル開度Acから離れたエンジン制御が実行される。このための信号がTMCU9からECU6に出力される制御アクセル開度CAcである。ECU6は、通常実アクセル開度Acに基づくエンジン制御を行うが、TMCU9から制御アクセル開度CAcを受け取ったときは、この制御アクセル開度CAcに基づいたエンジン制御を行う。制御アクセル開度CAcを実アクセル開度Acに優先させるのである。
【0056】
さらに、駆動輪の空転を検知する手段を備えたTCSECU60は、駆動輪及び従動輪回転センサ62,63の出力から常に駆動輪の空転を監視しており、その空転の度合いに応じた 0〜100(%)の係数信号KをTMCU9に出力する(係数出力手段に相当する)。燃料減量要求を行うためである。空転が発生してないときはK=100(%)だが、空転が発生するとKは100(%)より小さい値となり、空転の程度が大きくなるほどKの値は小さくなる。最小は0(%)で、このときはアクセルペダルが全く踏込まれていないのと同じとなる。TMCU9はこの係数信号Kの値を、ECU6から受け取った実アクセル開度Acの値に乗じて制御アクセル開度CAcとして出力する。するとECU6側で、実アクセル開度Acに対し 0〜100(%)の値である制御アクセル開度CAcに基づきエンジン制御が実行される。こうして空転時はエンジン制御パラメータとしてのアクセル開度が減少され、エンジン出力は絞られ、空転が抑制される。
【0057】
なお、このようなトラクション制御の方法は他にも様々考えられ、TCSECU60の係数信号KをECU6に直接送ってエンジン出力ダウンすることも可能である。
【0058】
変速制御とトラクション制御とが干渉したときは、変速制御に必要な値と係数掛けした値とのいずれか小さい方を制御アクセル開度CAcとしてTMCU9から出力する。
【0059】
次に、図7を用いて本発明に係る空転時自動シフトアップ防止制御について説明する。図示するフローはTMCU9により所定の制御時間(ex.32ms )毎に繰り返し実行される。
【0060】
TMCU9はまずステップ101でTCSECU60から送られてきた係数信号Kが50(%) 以下かどうかを判断する。YES ならステップ102に、NOならステップ105に進む。ステップ102では現在自動変速モードが選択されているか否かをモードスイッチ24の信号から判断する。YES ならステップ103に、NO(マニュアル変速モード選択中)ならステップ109に進む。ステップ103では現在シフトレバー29aの位置が「D」か否かを判断する。YES ならステップ104に、NOならステップ109に進む。ステップ104では変速(自動変速)を禁止する(アクセル開度減少時変速禁止手段に相当する)。
【0061】
ステップ105ではTCSECU60から送られてきた係数信号Kが80(%) 以上かどうかを判断する。YES ならステップ106に、NOならステップ110に進む。ステップ106では現在変速禁止状態にあるか否かを判断する。YES ならステップ107に、NOならステップ110に進む。ステップ107では内蔵タイマをインクリメント(増加)する。ステップ108ではそのタイマ値を所定時間t(ここではt=1(s) )と比較し、タイマ値が所定時間tを越えたか否かを判断する。YES ならステップ109に、NOならENDに進む。ステップ109では変速禁止を解除する(制御アクセル開度復帰時変速禁止解除手段に相当)。ステップ110ではタイマをクリアする。
【0062】
このフローを実際の車両運転状況に当てはめてみる。駆動輪の空転が比較的大きく、一定以上となり、TCSECU60から50(%) 以下の係数信号Kが出力されると、YES に進んでステップ102において自動変速モード選択中か否かを判断する。自動変速モード選択中ならステップ103に進んでシフトレバー位置が「D」か否かを判断する。「D」ならステップ104で変速禁止とする。このように自動変速モード中、シフトレバーD固定で一定以上の空転が生じると直ちに自動変速が禁止される。これにより自動シフトアップの問題が解消され、勝手にシフトアップされることはなくなり、ギヤ段は変速禁止寸前のギヤ段に固定される。これから分かるように空転の度合いは係数信号Kの値により間接的に検知される。
【0063】
ここで、係数信号Kが50(%) 以下になるまでは変速が禁止されない。従ってその間空転による自動シフトアップが行われる可能性もある。しかし、空転が発生するのは主に雪道等低μ路の発進の場合であり、このとき1段程度なら自動シフトアップした方がむしろ好ましい場合もある。よってここではある程度空転の度合いが大きくなるまでは変速を許可している。
【0064】
また、ステップ102でマニュアル変速モード選択中と判断したとき、或いはステップ103でシフトレバー位置が「D」でないと判断したときはステップ109で変速禁止解除、即ち変速を許可している。これは、マニュアル変速モード選択中ということはドライバが自らの意思で変速したい場合であり、またシフトレバー位置が「D」でないということは、自動変速モード中であっても、ドライバが自らの意思でシフトレバーをUP又はDOWNに操作し、マニュアル変速したい場合だからである。よってこれらのような場合にはドライバの意思を優先させ、変速を許可するようにしている。
【0065】
一方、トラクション制御により駆動輪の空転がある程度収まってきて、TCSECU60から80(%) 以上の係数信号Kが出力されるようになると、ステップ105でYES に進み、ステップ106で現在変速禁止状態にあるか否かを判断する。ここでいう「変速禁止状態」とはステップ104における「変速禁止」がいまなお有効であることを意味する。本ステップ初回通過時は「変速禁止状態」にあるので、ステップ107に進んでタイマをインクリメントする。初期のうちはタイマ<tなのでNOに進み、変速禁止状態を維持する。本フローを繰り返していくうちにタイマ>tとなったら、YES に進んで変速禁止を解除する。このように駆動輪の空転が一定以上収まり、その状態が一定時間継続されたら変速禁止を解除する。これによりアウトプットシャフト回転の増減に応じた自由な自動変速が可能となる。もっともこのときは空転が殆ど収まっているのでアウトプットシャフト回転と車速とが符合し、自動変速は車速に応じて実行されることになる。
【0066】
ところで、TCSECU60から送られてくる係数信号が50(%) <K<80(%) の範囲にあるとき、つまり変速禁止から解除に移行する段階では、ステップ105からステップ110に進んでタイマクリアするだけである。結局このときはステップ104の変速禁止状態が継続される。要は一旦変速が禁止されたら、K≧80(%) とならない限り変速は許可されない。
【0067】
以上、本発明の実施形態は上述のものに限られない。本実施形態ではTCSECU60から出力される係数信号Kに基づき駆動輪の空転を間接的に検知するようにしたが、当該空転を直接的に検知し、その検知された値に基づいて変速禁止を実行してもよい。
【0068】
【発明の効果】
本発明は、駆動輪の空転に伴う自動シフトアップの問題を解決できるという、優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態に係る車両の自動変速装置を示す構成図である。
【図2】自動変速機を示す構成図である。
【図3】自動クラッチ装置を示す構成図である。
【図4】シフトアップマップである。
【図5】シフトダウンマップである。
【図6】エンジン、変速及びトラクション制御系のシステム図である。
【図7】本発明に係る空転時自動シフトアップ防止制御の内容を示すフローチャートである。
【符号の説明】
3 変速機
4 アウトプットシャフト
8 アクセル開度センサ
9 トランスミッションコントロールユニット(TMCU)
17 スプリッタ
18 メインギヤ
19 レンジギヤ
20 スプリッタアクチュエータ
21 メインアクチュエータ
22 レンジアクチュエータ
23 ギヤポジションスイッチ
24 モードスイッチ
28 アウトプットシャフト回転センサ
60 TCS電子制御ユニット
61 アクセルペダル
62 駆動輪回転センサ
63 従動輪回転センサ
Ac 実アクセル開度
CAc 制御アクセル開度
GSU ギヤシフトユニット
K 係数信号

Claims (4)

  1. 駆動輪に連結されたアウトプットシャフトを有する変速機と、該変速機の変速を制御するコントロールユニットと、該コントロールユニットの信号に基づき変速を実行するアクチュエータと、アウトプットシャフト回転を検知する手段とを備え、少なくともアウトプットシャフト回転に基づき自動変速を実行する自動変速モードを有した車両の自動変速装置にあって、少なくともアクセル開度に基づくエンジン制御を実行するエンジン制御手段と、上記駆動輪の空転を検知する手段と、該駆動輪の空転が検知されたとき上記アクセル開度の減少を行うトラクション制御手段と、上記自動変速モード中、上記トラクション制御手段により上記アクセル開度を一定以上減少したとき自動変速を禁止し、該自動変速を禁止後に上記アクセル開度が一定以上に復帰された状態が一定時間以上継続されたときに自動変速禁止を解除するアクセル開度減少時変速禁止・解除手段とを備えたことを特徴とする車両の自動変速装置。
  2. 上記トラクション制御手段による上記アクセル開度の減少が所定値以下の場合は上記自動変速モードによる変速制御を行う請求項1記載の車両の自動変速装置。
  3. 駆動輪に連結されたアウトプットシャフトを有する変速機と、該変速機の変速を制御するコントロールユニットと、該コントロールユニットの信号に基づき変速を実行するアクチュエータと、アウトプットシャフト回転を検知する手段とを備え、少なくともアウトプットシャフト回転に基づき自動変速を実行する自動変速モードを有した車両の自動変速装置にあって、実アクセル開度を検知する手段と、駆動輪の空転を検知してこれに応じた100(%)以下の係数を出力する係数出力手段と、実アクセル開度に上記係数を乗じて得られる値に基づきエンジン出力を制御するエンジン出力制御手段と、自動変速モード中、上記係数出力手段により上記係数が所定値以下になったとき自動変速を禁止し、該自動変速を禁止後に上記係数が一定以上に復帰された状態が一定時間以上継続されたときに自動変速禁止を解除する係数増加時変速禁止・解除手段とを備えたことを特徴とする車両の自動変速装置。
  4. 上記係数出力手段による上記係数の減少が所定値以下の場合は上記自動変速モードによる変速制御を行う請求項記載の車両の自動変速装置。
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