JP5035623B2 - 車両用伸縮軸およびこれを備える車両用操舵装置 - Google Patents
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しかしながら、両軸と樹脂棒の線膨張率の違いから、温度条件によっては樹脂棒と両軸との隙間が意図しない値になり、隙間が小さくなって摺動荷重が増加したり、隙間が大きくなって両軸間の周方向のガタが大きくなったりするという課題がある。
また、本発明において、各上記樹脂棒は、ポリオキシメチレンを用いて形成されている場合がある(請求項3)。この場合、温度変化に起因して寸法変化が生じたときでも、内軸および外軸のそれぞれに対する摩擦抵抗の変化を小さくでき、内軸と外軸との摺動抵抗が不用意に変化することを抑制できる。
また、本発明は、操舵部材(2)の操舵に応じて回転する車両操舵用伸縮軸として上記の車両用伸縮軸を含む車両用操舵装置(1)を提供するものである(請求項5)。この場合、大きな操舵トルクを伝達できるとともに温度条件に拘らず性能を維持でき、且つコスト安価な車両用操舵装置を実現できる。
図1は、本発明の一実施の形態にかかる車両操舵用伸縮軸を備える車両用操舵装置1の概略構成を示す模式図である。図1を参照して、車両用操舵装置1は、ステアリングホイール等の操舵部材2の位置を、運転者に対して略上下に調節するためのチルト調節機能、および操舵部材2の位置を運転者に対して略前後に調整するためのテレスコ調節機能の双方を備えている。
操舵部材2は、操舵軸3の一端部に取り付けられている。操舵軸3は、操舵部材2が取り付けられている一端部が上側(アッパ側)となるように傾けて配置されている。操舵軸3の他端部は、自在継手4、中間軸5および自在継手6を介して舵取り機構7に連結されている。
操舵軸3は、コラムチューブ12によって回転自在に支持されている。コラムチューブ12は、外軸11を取り囲む外筒13と、外筒13と軸方向に相対摺動可能に嵌合されて内軸10を取り囲む内筒14とを含んでいる。外筒13は、軸受15を介して外軸11を回転自在に且つ軸方向に同行移動可能に支持している。内筒14は、軸受16を介して、内軸10を回転自在に且つ軸方向に相対移動不能に支持している。
外筒13には第3のブラケット21が固定されており、車体18に固定された第4のブラケット22と対向している。第3のブラケット21は、ロック機構23によって第4のブラケット22にロックされる。
図2を参照して、操舵軸3の内軸10および外軸11は、それぞれ、金属製の高剛性部材である。これら内軸10および外軸11には、剛性連結要素としてのセレーション25が設けられている。セレーション25は、内軸10および外軸11の相対位相(内軸10の周方向Cに関する相対位置)が所定範囲を超えたときに、両軸10,11を内軸10の周方向Cに剛的に連結するものである。
外軸11の一端部の内周面28には、外軸11の周方向に沿って等間隔に3つの軸方向溝32,34,36が形成されている。また、内軸10の一端部の外周面26には、内軸10の周方向Cに沿って等間隔に3つの軸方向溝31,33,35が形成されている。
外軸11の各軸方向溝32,34,36は、滑らかに湾曲した円弧面を含んでいる。内軸10の各軸方向溝31,33,35は、内軸10の周方向Cに対向する一対の壁面37,38を有している。これらの壁面37,38は、平坦とされている。これらの壁面37,38間の間隔(溝幅)は、内軸10の径方向内方に進むに従い狭くなっている。
連結部44は、円板状をなす主体部45を含んでいる。主体部45には、挿通孔46が形成されている。挿通孔46には、内軸10の一端面に突設された円柱状の突部47が挿通している。突部47には、プッシュナット48が取り付けられており、このプッシュナット48と内軸10の一端面とによって、連結部44の主体部45が挟まれて固定されている。
図2および図4を参照して、各樹脂棒41,42,43は、連結部44の主体部45から内軸10の軸方向Sに平行に延びている。これらの樹脂棒41,42,43は、対応する一対の軸方向溝31,32;33,34;35,36間にそれぞれ跨っている。各樹脂棒41,42,43は、対応する一対の軸方向溝31,32;33,34;35,36間でシメシロ嵌合(圧入)されており、圧縮されることにより弾性変形している。
円弧面54は、対応する一対の軸方向溝31,32;33,34;35,36にそれぞれ接触することにより、接触部55,56,57,58を形成している。接触部55は、対応する壁面37に線接触している。接触部56は、対応する壁面38に線接触している。接触部57,58は、対応する軸方向溝32,34,36に線接触している。
図6に示す断面において、接触部57,58は、外軸10の軸線Bを中心とし且つ所定の曲率半径Rを有する円D上に並んでいる。これらの接触部57,58は、それぞれ、外軸11の対応する軸方向溝32,34,36(図6において、軸方向溝32のみ図示)に対して、所定の接触角αをなして接触している。
換言すると、接触角αは、接触部57(58)において、対応する軸方向溝32,34,36から円弧面54に作用する力の作用線γ(垂直抗力γ)と、外軸11の軸線Bを含み且つ接触部57(58)を通る仮想の平面Fとのなす角に相当する。上記接触角αの値は、30°〜60°の範囲に設定されることが好ましく、40°〜50°の範囲に設定されることがより好ましい。
図7を参照して、各樹脂棒41,42,43の基端部および先端部には、それぞれ、面取り部63,64,65,66が形成されている。面取り部63は、各樹脂棒41,42,43の先端部のうち、径方向外側の端部に形成されており、滑らかな傾斜面を構成している。面取り部64は、各樹脂棒41,42,43の先端部のうち、径方向内側の端部に形成されており、滑らかな傾斜面を構成している。
図3および図7を参照して、上記の構成により、各樹脂棒41,42,43は、対応する一対の軸方向溝31,32;33,34;35,36間に挿入されるときや、外軸11の対応する軸方向溝32,34,36に対して摺動するとき等において、対応する軸方向溝31,32;33,34;35,36に引っ掛かり難くされている。
図3および図4を参照して、上記の構成により、操舵部材の操舵角θが−θ1≦θ≦θ1(θ1は、所定の操舵角であり、例えば、数分程度)のとき、両軸10,11の相対位相は、所定の範囲内にある。なお、操舵角θがゼロのときは、操舵中立状態となっている。また、操舵角θは、周方向Cの一方に関して正であり、周方向Cの他方に関して負である。
このとき、内軸10の雄セレーション部27および外軸11の雌セレーション部29は、互いに噛み合っていない。各樹脂棒41,42,43が、両軸10,11を周方向Cに弾性的に連結している。また、各樹脂棒41,42,43が、内軸10と外軸11との間で圧縮されて弾性変形する。
図5を参照して、操舵部材の操舵角θが−θ1≦θ≦θ1のとき、各セレーション部27,29間には、内軸10の周方向Cに関して所定の隙間Jが設けられている。これにより、操舵角θが−θ1≦θ≦θ1のとき、雄セレーション部27と、雌セレーション部29とは、互いに噛み合わない。
θ<−θ1となるか、または、θ1<θとなることにより、両軸10,11の相対位相が所定の範囲を超えると、対応するセレーション部27,29間の隙間がなくなり、例えば、図8に示すように、雄セレーション部27と、雌セレーション部29とが互いに噛み合う。これにより、両軸10,11は、セレーション部27,29を介して互いにトルク伝達可能となる。
−40℃〜85℃のときの各樹脂棒41,42,43の圧縮弾性率の平均値が2000MPa未満であると、各樹脂棒41,42,43が柔らかくなり過ぎる結果、両軸10,11の相対位相が所定範囲内にあるときに両軸10,11の連結の剛性が低くなり、トルクの伝達遅れが生じて操舵フィーリングに欠けてしまう。また、各樹脂棒41,42,43の圧縮弾性率の平均値が3500MPaを超えると、各樹脂棒41,42,43が消音部材としての効果を十分に発揮し難い。
半芳香族ポリアミドは、芳香環と高級脂肪族鎖とを含む化学構造を有している。この半芳香族ポリアミドとしては、ポリアミド9T(PA9T)が挙げられる。
PA9Tは、ノナンジアミンを使用した半芳香族ポリアミド樹脂であり、融点が約306℃である。
靭性改質剤は、各樹脂棒41,42,43の靭性を向上させて繰り返し荷重に対する耐久性を高めるためのものである。靭性改質剤としては、ポリオレフィン、およびエラストマーからなる群より選ばれた少なくとも1種が用いられることが好ましい。
エラストマーとしては、天然ゴムの他、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリルニトリルブタジエンゴム、クロロプレンゴム、サントプレーン(登録商標、アドバンストエラストマーシステムズ社製)、エチレン−プロピレンゴム(EPDM)等の合成ゴムや、スチレン系、ウレタン系、エステル系、ポリアミド系等の熱可塑性エラストマー等が挙げられる。このうち、EPDMを用いることが好ましい。靭性改質剤は、それぞれ、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、上記の靭性改質剤を用いなくてもよい。この場合の各樹脂棒41,42,43の材料として、例えば、PA9Tを用いた、「(株)クラレ製、ジェネスタ(登録商標)、N1000A」を挙げることができる。
なお、ポリアミド66(PA66)は、−40℃〜85℃における、弾性率の平均値が2800MPa、線膨張率の平均値が約9.0×10−5/℃であることから、ポリアミド66を用いて各樹脂棒41,42,43を形成してもよい。
以下では、各樹脂棒41,42,43を、PA9Tで形成した場合と、POMで形成した場合のそれぞれについて説明する。
図9を参照して、グラフの横軸は、樹脂棒41の自由状態における直径Gと、軸方向溝31,32間に介装されたときの直径Gとの差としての直径差ΔGを示している。なお、上記軸方向溝31,32間に介装されたときの直径Gは、操舵中立状態のときの直径である。グラフの縦軸は、樹脂棒41と外軸11の軸方向溝32との間の摺動荷重Hである。
また、グラフの細実線は、POM製の樹脂棒41の、室温(20℃)時における直径差ΔGと摺動荷重Hとの関係を示しており、グラフの細破線は、POM製の樹脂棒41の、高温(80℃)時における直径差ΔGと摺動荷重Hとの関係を示している。
PA9Tを用いて樹脂棒41を形成した場合、室温時と高温時のそれぞれにおいて、直径差ΔGが許容下限値付近であるときの摺動荷重Hは、30N未満と極めて低い。また、直径差ΔGが許容下限値付近であるときの摺動荷重Hが極めて低いことから、直径差ΔGが許容上限値付近であるときも、摺動荷重Hは、60N未満の十分に低い値となっている。
樹脂棒42,43のそれぞれについても、図9を用いて説明した樹脂棒41の構成および作用と同様の構成および作用を有している。
POMを用いて樹脂棒41を形成した場合、−40℃のときの直径Gの変化量と、85℃のときの直径Gの変化量との差が、約0.06mmと十分に小さく、温度変化に対する直径Gの変化量が実用上、十分に小さい。
図9および図10を参照して、PA9Tを用いて各樹脂棒41,42,43を形成した場合には、POMを用いて各樹脂棒41,42,43を形成した場合と比べて、直径差ΔGの変化に対する摺動荷重Hの変化率が大きくなる傾向にある。
しかしながら、直径差ΔGの変化に対する摺動荷重Hの変化量が十分に小さいことにより、直径Gの変化量が大きくても、摺動荷重Hは大きく上昇しない。また、もともと摺動荷重Hが小さいので、摺動荷重Hを小さい値に維持できる。直径差ΔGの変化に対する摺動荷重Hの変化量が十分に小さいことにより、この摺動荷重Hのばらつきを小さくでき、量産性に優れている。
さらに、POMを用いて各樹脂棒41,42,43を形成した場合には、温度変化に起因して寸法変化が生じたときでも、内軸10および外軸11のそれぞれに対する摩擦抵抗の変化を小さくでき、内軸10と外軸11との摺動抵抗が不用意に変化することを抑制できる。
以上より、大きな操舵トルクを伝達できるとともに温度条件に拘らず操舵軸3の性能を維持でき、且つコスト安価な車両用操舵装置1を実現できる。
さらに、両軸10,11が各樹脂棒41,42,43を介した弾性連結からセレーション25を介した剛性連結となる際には、操舵反力がある程度生じているので、伝達トルクの急峻な変化を防止でき、入力トルクに等しい反作用としての反力トルクを滑らかに上昇できる。したがって、運転者に無用なトルク変動を与えず、路面状態・車両挙動等の運転者が必要とする情報のみを伝えることができる。その結果、操舵角θがゼロである操舵中立付近での操舵のふらつきがなくなり、操舵部材2から得られる操舵装置1の安定感を向上できる。
本発明は、以上の実施の形態の内容に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。
また、各樹脂棒41,42,43において、内軸10との接触部の一部を廃止して、内軸10との接触面積をより少なくしてもよい。また、外軸11との接触部の一部を廃止して、外軸11との接触面積をより少なくしてもよい。例えば、各樹脂棒41,42,43の長手方向の中間部をくびれさせることにより実現できる。
さらに、内軸10と外軸11の相対向する軸方向溝は、4対以上設けられていてもよい。また、各樹脂棒41,42,43を単品の状態で対応する軸方向溝31,32;33,34;35,36に圧入してもよい。さらに、連結部44を外軸11に連結してもよい。
この場合、操舵補助力の付与が開始される操舵角θの絶対値は、上記所定の操舵角θ1に相当するように設定される。すなわち、操舵角θが−θ1≦θ≦θ1である領域は、操舵部材2の操舵にかかわらず操舵補助力が生じない、いわゆる不感帯領域とされる。操舵補助力が付与されない程度の微小な操舵角(不感帯領域)のとき、各樹脂棒のみを介して内軸10と外軸11との間でトルクが伝達される。
図2に示すのと同様の内軸と外軸とを備え、内軸および外軸の対応する軸方向溝間のそれぞれに、図11に示すPA9T製の樹脂棒を圧入して実施例1を作製した。図11における樹脂棒の直径は、5.5mmである。
また、実施例1の各樹脂棒を廃止し、代わりに内軸の表面に樹脂コーティングを施して両軸を弾性連結するようにした比較例1を作製した。
図12に示されているように、比較例1では、回転角がゼロ付近では相対回転角の変化に対するトルクの変化が少ないが、相対回転角がゼロから所定量遠ざかると、トルクが急峻に立ち上がっている。
なお、実施例1と比較例1のそれぞれについて、内軸と外軸との間に約1N・mのトルクを負荷したときの、外軸に対する内軸の回転角とトルクとの関係を測定したが、その結果は、図13に示すものであり、図12に示されているのと同様の結果となった。
Claims (5)
- 軸方向に相対摺動可能に且つ互いにトルク伝達可能に嵌め合わされた内軸および筒状の外軸と、
内軸および外軸の相対位相が所定範囲を超えたときに、両軸を周方向に剛的に連結する剛性連結要素と、
内軸の外周面および外軸の内周面のそれぞれに形成されて互いに対向する少なくとも三対の軸方向溝と、
上記対をなす軸方向溝間にそれぞれ跨り、内軸および外軸の相対位相が上記所定範囲内にあるときに、両軸を周方向に弾性的に連結する複数の弾性連結要素としての長尺の樹脂棒と、を含み、
各上記樹脂棒は、−40℃〜85℃のときの弾性率が2000MPa〜3500MPaの範囲内に設定されており、且つ−40℃〜85℃のときの線膨張率が5×10−5/℃〜10×10−5/℃の範囲内に設定されていることを特徴とする車両用伸縮軸。 - 請求項1において、各上記樹脂棒は、半芳香族ポリアミドを用いて形成されている車両用伸縮軸。
- 請求項1において、各上記樹脂棒は、ポリオキシメチレンを用いて形成されている車両用伸縮軸。
- 請求項1,2または3において、各上記樹脂棒は靭性を改質する改質剤を用いて形成されている車両用伸縮軸。
- 操舵部材の操舵に応じて回転する車両操舵用伸縮軸として請求項1〜4の何れか1項に記載の車両用伸縮軸を含む車両用操舵装置。
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