以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
(第1実施形態)
1−1.堤体の構成
図1は、本発明の第1実施形態に係る堤体の斜視図である。ただし、図示をわかりやすくする都合上、本来は見えない内部の構造を記載した箇所もあり、当該個所では、本来隠れ線として破線で記載すべき線も実線で記載している箇所もある。また、内部の構造をわかりやすく図示する都合上、記載を省略した輪郭線もある。
本実施形態に係る堤体10は、海側鋼管杭12と、陸側鋼管杭14と、プレキャストフーチング16と、下段プレキャスト壁体18と、上段プレキャスト壁体20と、を備えてなる。
海側鋼管杭12および陸側鋼管杭14は鋼製の円筒部材であり、所定の支持力が確保できる深さまで地中に打ち込まれており、プレキャストフーチング16を下方から支持して堤体10を安定させて、大津波に対しても堤体10全体が転倒することのないようにする役割を有する。
また、海側鋼管杭12は陸側鋼管杭14よりも長くなっており、海側鋼管杭12はプレキャストフーチング16の海側フーチングさや管16Aと下段プレキャスト壁体18の壁体さや管18Aと上段プレキャスト壁体20の壁体さや管20Aに差し込まれ、プレキャストフーチング16と下段プレキャスト壁体18と上段プレキャスト壁体20を連結する役割も有する。このため、海側鋼管杭12の長さは、上段プレキャスト壁体20の天端よりもわずかに下の位置にまで達する長さとなっている。
プレキャストフーチング16は、プレキャスト化されたフーチングであり、図2はプレキャストフーチング16を海側鋼管杭12の中心と陸側鋼管杭14の中心を通る鉛直面で切断した縦端面図である。ここで、海側鋼管杭12の中心とは海側鋼管杭12をその長手方向に対する垂直面で切断して得られる円形断面の中心のことである。本明細書では、円柱形状の立体について「中心」と記載したときには以下同様に考える。
図2に示すように、プレキャストフーチング16は海側フーチング貫通孔16X(以下、海側貫通孔16Xと記すことがある。)と陸側フーチング貫通孔16Y(以下、陸側貫通孔16Yと記すことがある。)を有し、海側貫通孔16Xの内面に海側フーチングさや管16A(以下、海側さや管16Aと記すことがある。)を備え、陸側貫通孔16Yの内面に陸側フーチングさや管16B(以下、陸側さや管16Bと記すことがある。)を備えている。海側さや管16Aには海側鋼管杭12が差し込まれ、陸側さや管16Bには陸側鋼管杭14が差し込まれる。
図1、図2に示すように、海側さや管16Aは、プレキャストフーチング16を厚さ方向に貫通し、かつ、プレキャストフーチング16の上面よりも上方の位置まで延伸している。一方、陸側さや管16Bもプレキャストフーチング16を厚さ方向に貫通しているが、プレキャストフーチング16の上面よりも上方の位置までは延伸しておらず、陸側さや管16Bの上端の位置はプレキャストフーチング16の上面と同じ高さ位置となっている。また、海側さや管16Aおよび陸側さや管16Bの下端位置は、どちらもプレキャストフーチング16の下面と同じ高さ位置となっている。
なお、図1、図2では、海側さや管16Aおよび陸側さや管16Bの下端位置は、どちらもプレキャストフーチング16の下面と同じ高さ位置となるようにし、陸側さや管16Bの上端の位置はプレキャストフーチング16の上面と同じ高さ位置となるようにしているが、図3、図4に示すように、海側さや管16Aおよび陸側さや管16Bの下端位置は、どちらもプレキャストフーチング16の下面よりも上方に位置してもよく、また、陸側さや管16Bの上端の位置はプレキャストフーチング16の上面よりも下方に位置してもよい。即ち、海側さや管16Aは海側貫通孔16Xの内面を全面覆っていなくてもよく、陸側さや管16Bは陸側貫通孔16Yの内面を全面覆っていなくてもよい。さや管16A、16Bの腐食を防止する観点からは、海側さや管16Aおよび陸側さや管16Bの下端位置は、どちらもプレキャストフーチング16の下面よりも上方に位置した方が好ましく、陸側さや管16Bの上端位置は、プレキャストフーチング16の上面よりも下方に位置した方が好ましい。即ち、さや管16A、16Bが外界に暴露しないようにある程度のかぶりを設けておくことが好ましい。
また、図3は、海側貫通孔16Xおよび陸側貫通孔16Yの内面にそれぞれ海側さや管16Aおよび陸側さや管16Bの厚さの分だけ凹部を生じさせ、海側貫通孔16Xおよび陸側貫通孔16Yの内面にそれぞれ海側さや管16Aおよび陸側さや管16Bを取り付けた状態で、海側貫通孔16Xおよび陸側貫通孔16Yの内面に見かけ上段差がなくなるようにした場合であり、図4は、海側貫通孔16Xおよび陸側貫通孔16Yの内面に凹部を設けず、海側貫通孔16Xおよび陸側貫通孔16Yの内面にそれぞれ海側さや管16Aおよび陸側さや管16Bを取り付けた状態で、海側貫通孔16Xおよび陸側貫通孔16Yの内面にそれぞれ海側さや管16Aおよび陸側さや管16Bの厚さの分だけ見かけ上段差が生じている場合である。本明細書では、図1〜図4の全ての場合、即ち、フーチング貫通孔(海側貫通孔16Xおよび陸側貫通孔16Y)の内面全面をフーチングさや管(海側さや管16Aおよび陸側さや管16B)が覆っている場合(図1、図2の場合)、フーチング貫通孔(海側貫通孔16Xおよび陸側貫通孔16Y)の内面全面を覆っていない場合(図3、図4の場合)、フーチング貫通孔(海側貫通孔16Xおよび陸側貫通孔16Y)の内面に見かけ上段差がない場合(図1〜図3の場合)、見かけ上段差がある場合(図4の場合)のいずれの場合も、フーチング貫通孔(海側貫通孔16Xおよび陸側貫通孔16Y)の内面にフーチングさや管(海側さや管16Aおよび陸側さや管16B)を備えているものとする。
また、海側さや管16Aおよび陸側さや管16Bは、プレキャストフーチング16のコンクリート打設時にはそれぞれ海側貫通孔16Xおよび陸側貫通孔16Yの型枠の役割を果たし、海側さや管16Aおよび陸側さや管16Bの外面はコンクリート打設と同時にプレキャストフーチング16に埋め込まれ、コンクリートとの付着力により、プレキャストフーチング16と一体化している。換言すれば、海側さや管16Aおよび陸側さや管16Bはそれぞれコンクリートとの付着力により海側貫通孔16X内面および陸側貫通孔16Y内面へ取り付けられている。コンクリートとの付着力を向上させる点で、海側さや管16Aおよび陸側さや管16Bの外面にはずれ止め(シアキー)を設けることが好ましい。ずれ止め(シアキー)としては、例えば丸鋼、溶接ビード、角鋼等を用いることができる。海側さや管16Aは、大津波を受けた時の断面力を確実にフーチングに伝達できるようにするのに必要な長さ以上プレキャストフーチング16の中に入り込んでいることが好ましい。
また、フーチングさや管(海側さや管16Aおよび陸側さや管16B)の材質は特に限定されず、所定以上の強度、弾性率、およびグラウト材との所定以上の接着力等を有する材料であればよく、例えば鉄鋼材料を好適に用いることができる。
また、プレキャストフーチング16の上面と地表面との位置関係は特に限定されず、プレキャストフーチング16の上面が地表面とほぼ一致するようにしてもよい。また、プレキャストフーチング16の上面に盛土があってもよく、この場合はプレキャストフーチング16の上面は地表面よりも下方になる。また、プレキャストフーチング16の海側前面に遮水矢板を設ける場合は、プレキャストフーチング16の下面が地表面とほぼ一致するようにしてもよく、この場合はプレキャストフーチング16の上面は地表面よりも上方になる。
下段プレキャスト壁体18および上段プレキャスト壁体20は、どちらもプレキャスト化された壁体である。図5は下段プレキャスト壁体18の正面図であり、図6は図5のVI−VI線断面図である。図7は上段プレキャスト壁体20の正面図であり、図8は図7のVIII−VIII線断面図である。図5、図6に示すように、下段プレキャスト壁体18は面内方向(堤体10完成後の鉛直方向)に貫通した壁体貫通孔18Xを両端部に有し、壁体貫通孔18Xの内面には壁体さや管18Aを有する。両端部の壁厚は中央部の壁厚よりも厚くなっており、テーパー部18Bにおいて壁厚が変化している。壁体さや管18Aの上端の高さ位置は下段プレキャスト壁体18の上端面と同じ高さ位置となっており、壁体さや管18Aの下端の高さ位置は下段プレキャスト壁体18の下端面と同じ高さ位置となっている。また、図7、図8に示すように、上段プレキャスト壁体20は面内方向(堤体10完成後の鉛直方向)に貫通した壁体貫通孔20Xを両端部に有し、壁体貫通孔20Xの内面には壁体さや管20Aを有する。両端部の壁厚は中央部の壁厚よりも厚くなっており、テーパー部20Bにおいて壁厚が変化している。壁体さや管20Aの上端の高さ位置は上段プレキャスト壁体20の上端面と同じ高さ位置となっており、壁体さや管20Aの下端の高さ位置は上段プレキャスト壁体20の下端面と同じ高さ位置となっている。
なお、図5、図7では、壁体さや管18A、20Aの下端位置は、それぞれプレキャスト壁体18、20の下面と同じ高さ位置となるようにし、壁体さや管18A、20Aの上端位置は、それぞれプレキャスト壁体18、20の上面と同じ高さ位置となるようにしているが、図9(下段プレキャスト壁体18の縦端面図の一部拡大図)、図10(下段プレキャスト壁体18の縦端面図の一部拡大図)に示すように、壁体さや管18Aの下端位置は、下段プレキャスト壁体18の下面よりも上方に位置してもよく、また、壁体さや管18Aの上端の位置は下段プレキャスト壁体18の上面よりも下方に位置してもよい。即ち、壁体さや管18Aは壁体貫通孔18Xの内面を全面覆っていなくてもよい。図示および説明は省略するが、上段プレキャスト壁体20の壁体さや管20Aも下段プレキャスト壁体18の壁体さや管18Aと同様、壁体さや管20Aは壁体貫通孔20Xの内面を全面覆っていなくてもよい。壁体さや管18A、20Aの腐食を防止する観点からは、壁体さや管18A、20Aの下端位置は、それぞれプレキャスト壁体18、20の下面よりも上方に位置した方が好ましく、壁体さや管18A、20Aの上端位置は、それぞれプレキャスト壁体18、20の上面よりも下方に位置した方が好ましい。即ち、壁体さや管18A、20Aが外界に暴露しないようにある程度のかぶりを設けておくことが好ましい。
また、図9は、壁体貫通孔18Xの内面に壁体さや管18Aの厚さの分だけ凹部を生じさせ、壁体貫通孔18Xの内面に壁体さや管18Aを取り付けた状態で、壁体貫通孔18Xの内面に見かけ上段差がなくなるようにした場合であり、図10は、壁体貫通孔18Xの内面に凹部を設けず、壁体貫通孔18Xの内面に壁体さや管18Aを取り付けた状態で、壁体貫通孔18Xの内面に壁体さや管18Aの厚さの分だけ見かけ上段差が生じている場合である。図示は省略するが、上段プレキャスト壁体20の場合も下段プレキャスト壁体18の場合と同様に壁体貫通孔20Xの内面に見かけ上段差が生じている場合と生じていない場合のどちらも取り得る。本明細書では、図5、図7、図9、図10のいずれの場合、即ち、壁体貫通孔18X、20Xの内面全面を壁体さや管18A、20Aが覆っている場合(図5、図7の場合)、壁体貫通孔18X、20Xの内面全面を覆っていない場合(図9、図10の場合)、壁体貫通孔18X、20Xの内面に見かけ上段差がない場合(図5、図7、図9の場合)、見かけ上段差がある場合(図10の場合)のいずれの場合も、壁体貫通孔18X、20Xの内面に壁体さや管18A、20Aを備えているものとする。
壁体さや管18A、20Aはプレキャスト壁体18、20の耐力に寄与する。また、壁体さや管18A、20Aは海側鋼管杭12の外周を取り囲んで、壁体さや管18A、20Aと海側鋼管杭12との間のグラウト材を拘束し、大津波を受けた時の断面力を確実にプレキャスト壁体18、20から海側鋼管杭12に伝達できるようにする役割も果たす。したがって、壁体さや管18Aの高さは下段プレキャスト壁体18の高さの2分の1以上あることが好ましく、壁体さや管20Aの高さは上段プレキャスト壁体20の高さの2分の1以上あることが好ましい。
また、壁体さや管18A、20Aの材質は特に限定されず、所定以上の強度、弾性率、およびグラウト材との所定以上の接着力等を有する材料であればよく、例えば鉄鋼材料を好適に用いることができる。
また、プレキャスト壁体18、20はそれぞれテーパー部18B、20Bを有するが、テーパー部18B、20Bはなくてもよく、プレキャスト壁体18、20の形状は、図6、図8と同様の切断面で切断したときの断面が長方形となるような形状であってもよい。
大津波を受けた時に上段プレキャスト壁体20に生じる断面力は、下段プレキャスト壁体18に生じる断面力よりも小さくなると考えられるので、安全性を確保できる範囲で上段プレキャスト壁体20の厚さを下段プレキャスト壁体18の厚さよりも薄くしてもよい。また、安全性を確保できる範囲で上段プレキャスト壁体20の壁体さや管20Aの径を下段プレキャスト壁体18の壁体さや管18Aの径よりも小さくしてもよい。ただし、下段プレキャスト壁体18と上段プレキャスト壁体20との間で段差が生じないように、上段プレキャスト壁体20の最下部の壁厚は下段プレキャスト壁体18の壁厚と同じにし、図11に示すように上段プレキャスト壁体20の下部にテーパー部20Cを設けて、最下部から上方に向かって徐々に壁厚が薄くなるようにしておくことが好ましい。
次に、プレキャストフーチング16と下段プレキャスト壁体18との接合部をさらに詳細に説明する。プレキャストフーチング16と下段プレキャスト壁体18との接合部にはプレキャストフーチング16の海側さや管16Aが配置されている。なお、本明細書においては、プレキャストフーチング16と下段プレキャスト壁体18との接合部とは、堤体10の完成後においてプレキャストフーチング16の海側さや管16Aが存在する高さ範囲の下段プレキャスト壁体18の部位を意味し、図11において符号18Cで示す範囲である。
図12は、図1の堤体10を海側さや管16Aを切断するように水平面で切断した断面(即ち、プレキャストフーチング16と下段プレキャスト壁体18との接合部18Cを水平面で切断した断面)において海側さや管16Aの部位付近を拡大した拡大断面図である。図12に示すように、大津波を受けた時に大きな断面力の生じるプレキャストフーチング16と下段プレキャスト壁体18との接合部18Cは、海側鋼管杭12の周囲を海側さや管16Aが囲み、さらに海側さや管16Aの周囲を壁体さや管18Aが囲んだ構造となっている。大津波を受けた時に生じる断面力は、プレキャストフーチング16と下段プレキャスト壁体18との接合部18Cで最も過大となるが、接合部18Cでは海側鋼管杭12の周囲を海側さや管16Aが囲んでおり、海側鋼管杭12と海側さや管16Aとの間のグラウト材22は海側鋼管杭12と海側さや管16Aとによりはさまれて強力に拘束されており、海側さや管16Aからグラウト材22を介して海側鋼管杭12へと効率的に断面力は伝達され、大津波に抵抗することができる。また、本実施形態では海側さや管16Aの周囲をさらに壁体さや管18Aが囲んでおり、海側さや管16Aと壁体さや管18Aとの間のグラウト材22も海側さや管16Aと壁体さや管18Aとによりはさまれて強力に拘束されており、壁体さや管18Aから海側さや管16Aへも断面力が効率的に伝達され、そしてその伝達された断面力は海側鋼管杭12へと効率的に伝達される。したがって、大津波を受けた時に生じる断面力はプレキャストフーチング16ならびに海側鋼管杭12および陸側鋼管杭14に効率的に伝達され、大津波に抵抗することができる。
なお、大津波によって海側鋼管杭12に加わる断面力の多くは、海側鋼管杭12→グラウト材22→海側さや管16A→プレキャストフーチング16のように伝達していくが、海側鋼管杭12と海側さや管16Aとの間の応力伝達は、主にグラウト材22を介しての付着力によりなされるので、海側鋼管杭12とグラウト材22との付着力および海側さや管16Aとグラウト材22との付着力は向上させておくことが好ましい。このため、海側鋼管杭12の外面および海側さや管16Aの内面にはずれ止め(シアキー)を設けることが好ましい。ずれ止め(シアキー)としては、例えば丸鋼、溶接ビード、角鋼等を用いることができる。
プレキャストフーチング16と下段プレキャスト壁体18との接合部18Cを耐力面から考えてみると、接合部18Cの水平断面には、海側鋼管杭12とプレキャストフーチング16の海側さや管16Aと下段プレキャスト壁体18の壁体さや管18Aが存在しており、これら3つの鋼管により鋼材量を稼ぐことができ、大津波を受けた時に生じる断面力に対しても十分な量の鋼材で抵抗することができる。また、海側鋼管杭12と海側さや管16Aと壁体さや管18Aによる鋼材量で足りない時でも、比較的少量の鉄筋を追加するだけで済むので、良好な施工性を確保できる。これに対して、鉄筋のみで必要な鋼材量を確保しようとすると、鉄筋の配置が密になりすぎ、グラウト材充填時の施工性を確保しつつ鉄筋を配置することが困難になることがある。また、鉄筋のみで必要な鋼材量を確保できたとしても、現場で鉄筋を配置する工程が必要となり、現地施工期間が長くなってしまう。
以上述べたように、プレキャストフーチング16の海側さや管16Aと下段プレキャスト壁体18の壁体さや管18Aは、グラウト材22を拘束する観点、および接合部18Cの水平断面における鋼材量を稼ぐ観点から、ある程度以上の板厚を有していることが好ましい。具体的には例えば、海側さや管16Aの板厚は海側さや管16Aの半径(中心から外縁までの距離)の70分の1以上9分の1以下、かつ最小板厚7.9mmとすることが好ましく、壁体さや管18Aの板厚は壁体さや管18Aの半径(中心から外縁までの距離)の70分の1以上9分の1以下、かつ最小板厚7.9mmとすることが好ましい。なお、好ましい範囲の上限値は効果と経済性の観点から定めたものである。
プレキャストフーチング16の海側さや管16Aの長さは、大津波を受けた時に生じる断面力を、海側鋼管杭12と海側さや管16Aとの間、および海側さや管16Aと壁体さや管18Aとの間で効率的に伝達するのに必要な長さに設定する。具体的には例えば、他の部位の破壊前に海側さや管16Aとグラウト材22との間で剥離が生じない長さに設定することが考えられる。また、海側さや管16Aとグラウト材22との間の接着力を向上させるために、海側さや管16Aの外面と内面の両面に機械的な凹凸等を設けたり、グラウト材22との間の接着力を向上させる下地剤等を塗布しておくことも好ましい。
海側さや管16Aよりも上側に位置する海側鋼管杭12と壁体さや管18A、20Aとの間の断面力の伝達、および海側さや管16Aと壁体さや管18Aとの間の断面力の伝達は、相互に水平方向の力の伝達ができればよいので、海側鋼管杭12と壁体さや管18A、20Aとの間および海側さや管16Aと壁体さや管18Aとの間にグラウト材22を注入してもよいが、図13(堤体の変形例の縦端面図)に示すように、海側鋼管杭12と壁体さや管18A、20Aとの間および海側さや管16Aと壁体さや管18Aとの間に支圧力を伝達する鋼製の支圧板23を設置することで断面力の伝達を図ってもよい。支圧板23の形状は、海側鋼管杭12の外面および壁体さや管18A、20Aの内面の形状、または海側さや管16Aの外面および壁体さや管18Aの内面の形状に合う形状になっており、かつ、所定以上の面積(例えば押し抜きせん断力によって座屈や破壊が起こらないのに必要な面積)で海側鋼管杭12の外面および壁体さや管18A、20Aの内面と接触するようになっており、海側鋼管杭12、海側さや管16Aと壁体さや管18A、20Aとの間で支圧力を良好に伝達できるようになっている。支圧板23は海側鋼管杭12の高さ方向の全長にわたって配置する必要はなく、断面力の伝達の必要に応じて離散的に配置すればよい。支圧板23は支圧力の伝達ができる材質であれば特に限定されず、鋼製に限られない。
次に、上段プレキャスト壁体20の天端の納まり(海側鋼管杭12の上端の納まり)について説明する。
図14は図11のXIV部の拡大縦断面図である。
図14に示すように、上段プレキャスト壁体20の壁体さや管20Aの上端は、上段プレキャスト壁体20の天端と同じ高さ位置であるかそれよりも少し低くし、海側鋼管杭12の上端は上段プレキャスト壁体20の天端よりも少し低くし、海側鋼管杭12の上端を上方から覆う取り外し可能なゴムパッキン24を配置し、さらにゴムパッキン24の上方には仮蓋25Aを設けて海側鋼管杭12に蓋をし、その上に砂、グラウト材、発泡ウレタン等の養生材25Bを配置し、さらにその養生材25Bを上方から覆う取り外し可能な蓋26を設ける。ゴムパッキン24は海側鋼管杭12の上端に直接接して海側鋼管杭12の上端を保護するが、海側鋼管杭12の上端を保護できる養生であればゴムパッキン24でなくてもよい。ただし、海側鋼管杭12の上端に直接接する養生材はゴムパッキン24のように柔軟性のある材質のものが好ましい。また、蓋26の材質は特に限定されず、例えばコンクリート製または鋼製とすることができる。
本第1実施形態に係る堤体10において、海側鋼管杭12を上方に延長できる構造である点、および海側鋼管杭12の上端の上方に設けた蓋26およびゴムパッキン24が取り外し可能になっている点が、堤体10の嵩上げを可能にする点で重要である。
海側鋼管杭12の上端の高さ位置は、海側鋼管杭12を上方に延長できる構造であれば特に限定されないが、海側鋼管杭12の上端を上方から保護する養生材の設置しやすさの点や、海側鋼管杭12の上端に新たな鋼管杭を溶接や機械的な接合により取り付けやすくする点で、海側鋼管杭12の上端の高さ位置が上段プレキャスト壁体20の天端から5〜30cm下方の高さ位置になるようにすることが好ましい。海側鋼管杭12の上端の高さ位置が上段プレキャスト壁体20の天端から5cm未満下方の高さ位置であると、海側鋼管杭12の上端を上方から保護する養生材を設置しにくくなる。一方、海側鋼管杭12の上端の高さ位置が上段プレキャスト壁体20の天端から下方に30cmを超えると、海側鋼管杭12の上端に新たな鋼管杭を溶接や機械的な接合により取り付けにくくなる。また、海側鋼管杭12の上端を上方から保護する養生材の量が多く必要になってしまう。
また、海側鋼管杭12の上端は、上段プレキャスト壁体20を安定して支持する点で、上段プレキャスト壁体20の高さの2分の1以上の高さ位置に達していることが好ましい。
また、陸側鋼管杭14の上端の納まりは海側鋼管杭12の上端の納まりと同様にしてもよく、同様にする場合、プレキャストフーチング16の陸側さや管16Bの上端は、プレキャストフーチング16の上面と同じ高さ位置であるかそれよりも少し低くし、陸側鋼管杭14の上端は上段プレキャスト壁体20の上面よりも少し低くし、陸側鋼管杭14の上端の上方にはゴムパッキン(図示せず)を配置し、さらにこのゴムパッキンの上方は蓋28でふさぐ。蓋28も蓋26と同様に材質は特に限定されず、例えばコンクリート製または鋼製とすることができる。ただし、陸側鋼管杭14は延長することがほとんど考えられないので、陸側鋼管杭14の上端の上方をゴムパッキンで養生しなくてもよい。また、プレキャストフーチング16の陸側は天端にまで至る陸側貫通孔16Yは設けなくてもよく、陸側貫通孔16Yに替えてプレキャストフーチング16の天端が閉塞されている非貫通孔にしてもよい。なお、図示をわかりやすくする都合上、図1には蓋26、28を記載していない箇所もある。
以上説明した実施形態では下段プレキャスト壁体18と上段プレキャスト壁体20を鉛直方向に2段に重ねたが、鉛直方向に重ねる壁体は2段に限定されるわけではなく、3段以上に重ねてもよい。また、壁体を1段のみ設置してもよい。壁体を何段に重ねるかは、必要な堤体の高さや適用可能なクレーンの種類等によって適宜に設定すればよい。
また、以上説明した実施形態ではプレキャストフーチング16を設置したが、到達が想定される津波の大きさによってはプレキャストフーチング16を設置せず、堤体を鋼管杭とプレキャスト壁体のみから構成するようにしてもよい。
また、本実施形態では、鋼管杭の列は海側に並んだ海側鋼管杭12の列と陸側に並んだ陸側鋼管杭14の列の2列になっているが、鋼管杭の列は2列でなくてもよく、1列であっても、3列以上であってもよい。例えば鋼管杭が3列に並んでいる場合は、例えば真ん中の列の鋼管杭の上に壁体を配置してもよい。また、本実施形態では、海側に並んだ海側鋼管杭12の列の上に壁体を配置しているが、設計条件によっては、陸側に並んだ陸側鋼管杭14の列の上に壁体を配置することもあり得る。
なお、プレキャスト部材(プレキャストフーチング16、下段プレキャスト壁体18、上段プレキャスト壁体20)の製作は、運搬の手間を少なくするため、現地近傍で行うのがよい。また、プレキャスト部材(プレキャストフーチング16、下段プレキャスト壁体18、上段プレキャスト壁体20)の重量は例えば20t程度を目安とすることができる。
次に、堤体10の設置手順の一例について説明する。
まず、海側鋼管杭12および陸側鋼管杭14を、所定の位置において、所定の支持力が確保できる深さまで地中に打ち込む。
そして、クレーンを用いてプレキャストフーチング16を持ち上げ、海側鋼管杭12に海側さや管16Aを通し、陸側鋼管杭14に陸側さや管16Bを通してプレキャストフーチング16を所定の位置に設置し、プレキャストフーチング16の海側さや管16Aの中心が海側鋼管杭12の中心と一致し、かつ、プレキャストフーチング16の陸側さや管16Bの中心が陸側鋼管杭14の中心と一致するようにプレキャストフーチング16を配置する。なお、海側さや管16Aの中心が海側鋼管杭12の中心と一致し、陸側さや管16Bの中心が陸側鋼管杭14の中心と一致していることが好ましいが、厳密に一致することまでは求める必要はない。納まればよいということを原則にしてもよい。
次に、クレーンを用いて下段プレキャスト壁体18を持ち上げ、下段プレキャスト壁体18の壁体さや管18Aを海側鋼管杭12およびプレキャストフーチング16の海側さや管16Aに通して下段プレキャスト壁体18を所定の位置に設置し、下段プレキャスト壁体18の壁体さや管18Aの中心が海側鋼管杭12の中心およびプレキャストフーチング16の海側さや管16Aの中心と一致するように下段プレキャスト壁体18を配置する。ここでも、下段プレキャスト壁体18の壁体さや管18Aの中心が海側鋼管杭12の中心およびプレキャストフーチング16の海側さや管16Aの中心と一致していることが好ましいが、厳密に一致することまでは求める必要はない。納まればよいということを原則にしてもよい。
次に、クレーンを用いて上段プレキャスト壁体20を持ち上げ、上段プレキャスト壁体20の壁体さや管20Aを海側鋼管杭12に通して上段プレキャスト壁体20を所定の位置に設置し、上段プレキャスト壁体20の壁体さや管20Aの中心が海側鋼管杭12の中心および下段プレキャスト壁体18の壁体さや管18Aの中心と一致するように上段プレキャスト壁体20を配置する。ここで、上段プレキャスト壁体20の壁体さや管20Aの中心が海側鋼管杭12の中心および下段プレキャスト壁体18の壁体さや管18Aの中心と一致していることが好ましいが、厳密に一致することまでは求める必要はない。納まればよいということを原則にしてもよい。
そして、プレキャストフーチング16の海側さや管16Aと該海側さや管16Aに差し込まれた海側鋼管杭12との間隙、およびプレキャストフーチング16の海側さや管16Aと該海側さや管16Aが差し込まれた下段プレキャスト壁体18の壁体さや管18Aとの間隙にグラウト材22を充填し、一体化する。また、上段プレキャスト壁体20の壁体さや管20Aと該壁体さや管20Aに差し込まれた海側鋼管杭12との間隙にグラウト材22を充填し、一体化する。充填するグラウト材22は特に限定されず、セメント(モルタル)系グラウト材、ガラス系グラウト材、合成樹脂系グラウト材等を用いることができる。
グラウト材22の充填は、下段プレキャスト壁体18と上段プレキャスト壁体20の両方を所定の位置に配置した段階で行ってもよいし、下段プレキャスト壁体18を所定の位置に配置した段階で1回目の充填を行い、その後に上段プレキャスト壁体20を所定の位置に配置した段階で2回目の充填を行ってもよい。
また、プレキャストフーチング16の陸側についても、プレキャストフーチング16の陸側さや管16Bと該陸側さや管16Bに差し込まれた陸側鋼管杭14との間隙にグラウト材を充填して一体化を行う。
そして、海側鋼管杭12の上端の上方にはゴムパッキン24を配置し、さらにゴムパッキン24の上方には取り外し可能な蓋26を設ける。また、陸側鋼管杭14の上方にはゴムパッキン(図示せず)を配置し、さらにこのゴムパッキンの上方を蓋28でふさぐ。
以上のように施工することにより、図1に示すような堤体10を得ることができる。
1−2.堤体の嵩上げ方法
図15は本第1実施形態における堤体10の嵩上げの中途の段階を示す斜視図である。
本第1実施形態において、堤体10の嵩上げは、海側鋼管杭12に延長用鋼管杭12Aを溶接して海側鋼管杭12を上方に延長し、堤体10の上段プレキャスト壁体20の上に嵩上げ用プレキャスト壁体50を積み重ねることにより行う。
堤体10の嵩上げに用いる嵩上げ用プレキャスト壁体50を図16、図17に示す。図16は嵩上げ用プレキャスト壁体50の正面図であり、図17は図16のXVII−XVII線断面図である。
嵩上げ用プレキャスト壁体50は、プレキャスト化された壁体である。図16、図17に示すように、嵩上げ用プレキャスト壁体50は面内方向(堤体10の嵩上げ完了後の鉛直方向)に貫通した壁体貫通孔50Xを両端部に有し、壁体貫通孔50Xの内面には壁体さや管50Aを有する。両端部の壁厚は中央部の壁厚よりも厚くなっており、テーパー部50Bにおいて壁厚が変化している。壁体さや管50Aの上端の高さ位置は嵩上げ用プレキャスト壁体50の上端面と同じ高さ位置となっており、壁体さや管50Aの下端の高さ位置は嵩上げ用プレキャスト壁体50の下端面と同じ高さ位置となっている。
なお、図16では、壁体さや管50Aの下端位置は、嵩上げ用プレキャスト壁体50の下面と同じ高さ位置となるようにし、壁体さや管50Aの上端位置は、嵩上げ用プレキャスト壁体50の上面と同じ高さ位置となるようにしているが、図9(下段プレキャスト壁体18の縦端面図の一部拡大図)、図10(下段プレキャスト壁体18の縦端面図の一部拡大図)に示す下段プレキャスト壁体18と同様に、壁体さや管50Aの下端位置は、嵩上げ用プレキャスト壁体50の下面よりも上方に位置してもよく、また、壁体さや管50Aの上端の位置は嵩上げ用プレキャスト壁体50の上面よりも下方に位置してもよい。即ち、壁体さや管50Aは壁体貫通孔50Xの内面を全面覆っていなくてもよい。
また、下段プレキャスト壁体18と同様、嵩上げ用プレキャスト壁体50も、下段プレキャスト壁体18についての図9および図10のように、壁体貫通孔50Xの内面に見かけ上段差が生じている場合と生じていない場合のどちらも取り得る。本明細書では、図16、図9、図10のいずれの場合、即ち、壁体貫通孔50Xの内面全面を壁体さや管50Aが覆っている場合(図16の場合)、壁体貫通孔50Xの内面全面を覆っていない場合(図9、図10の場合)、壁体貫通孔50Xの内面に見かけ上段差がない場合(図16、図9の場合)、見かけ上段差がある場合(図10の場合)のいずれの場合も、壁体貫通孔50Xの内面に壁体さや管50Aを備えているものとする。
壁体さや管50Aは嵩上げ用プレキャスト壁体50の耐力に寄与する。また、壁体さや管50Aは海側鋼管杭12の外周を取り囲んで、壁体さや管50Aと海側鋼管杭12との間のグラウト材を拘束し、大津波を受けた時の断面力を確実に嵩上げ用プレキャスト壁体50から海側鋼管杭12に伝達できるようにする役割も果たす。したがって、壁体さや管50Aの高さは嵩上げ用プレキャスト壁体50の高さの2分の1以上あることが好ましい。
また、壁体さや管50Aの腐食を防止する観点からは、壁体さや管50Aの下端位置は、嵩上げ用プレキャスト壁体50の下面よりも上方に位置した方が好ましく、壁体さや管50Aの上端位置は、嵩上げ用プレキャスト壁体50の上面よりも下方に位置した方が好ましい。即ち、壁体さや管50Aが外界に暴露しないようにある程度のかぶりを設けておくことが好ましい。
また、壁体さや管50Aの材質は特に限定されず、所定以上の強度、弾性率、およびグラウト材との所定以上の接着力等を有する材料であればよく、例えば鉄鋼材料を好適に用いることができる。
また、嵩上げ用プレキャスト壁体50はテーパー部50Bを有するが、テーパー部50Bはなくてもよく、嵩上げ用プレキャスト壁体50の形状は、図17と同様の切断面で切断したときの断面が長方形となるような形状であってもよい。
このように、嵩上げ用プレキャスト壁体50の構成および形状は、下段プレキャスト壁体18および上段プレキャスト壁体20と概ね同様である。
また、嵩上げ完了後、大津波を受けた時に嵩上げ用プレキャスト壁体50に生じる断面力は、下段プレキャスト壁体18および上段プレキャスト壁体20に生じる断面力よりも小さくなると考えられるので、安全性を確保できる範囲で嵩上げ用プレキャスト壁体50の厚さを下段プレキャスト壁体18および上段プレキャスト壁体20の厚さよりも薄くしてもよい。また、安全性を確保できる範囲で嵩上げ用プレキャスト壁体50の壁体さや管50Aの径を下段プレキャスト壁体18の壁体さや管18Aの径および上段プレキャスト壁体20の壁体さや管20Aの径よりも小さくしてもよい。嵩上げの際には堤体10の上に嵩上げ用プレキャスト壁体50を積み重ねるために、より高い位置までクレーンで嵩上げ用プレキャスト壁体50を吊り上げることになるので、嵩上げ用プレキャスト壁体50は安全性を確保できる範囲でなるべく壁厚を薄くして軽量化することが好ましい。ただし、上段プレキャスト壁体20と嵩上げ用プレキャスト壁体50との間で段差が生じないように、嵩上げ用プレキャスト壁体50の最下部の壁厚は上段プレキャスト壁体20の壁厚と同じにし、嵩上げ用プレキャスト壁体50の下部にテーパー部を設けて、該テーパー部において最下部から上方に向かって徐々に壁厚が薄くなるようにしておくことが好ましい。
また、嵩上げ用プレキャスト壁体50の天端の納まり(延長用鋼管杭12Aの上端の納まり)は、「1−1.堤体の構成」で説明した上段プレキャスト壁体20の天端の納まり(海側鋼管杭12の上端の納まり)と同様であるので説明は省略する。
次に、堤体10の嵩上げの手順について具体的に説明する。
まず、蓋26およびゴムパッキン24を取り外して海側鋼管杭12の上端を開放する。
そして、図15に示すように、海側鋼管杭12の上端に延長用鋼管杭12Aを溶接により取り付け、海側鋼管杭12の長さを上方に延長する。
海側鋼管杭12の上端に延長用鋼管杭12Aを溶接により取り付け、海側鋼管杭12の長さを上方に延長する際には、海側鋼管杭12の中心が延長用鋼管杭12Aの中心と一致していることが好ましいが、安全性を確保できれば海側鋼管杭12の中心が延長用鋼管杭12Aの中心と一致していなくてもよい。
例えば、図18(堤体の変形例の縦端面図)に示すように偏心させて溶接し、延長する鋼管杭の径を小さくするようにしてもよい。
海側鋼管杭12の長さを延長したら、図16、図17に示す嵩上げ用プレキャスト壁体50を上段プレキャスト壁体20の上にクレーンで設置する。
クレーンによって嵩上げ用プレキャスト壁体50を設置する手順は、先に「1−1.堤体の構成」で説明した下段プレキャスト壁体18および上段プレキャスト壁体20の設置手順と同様であり、クレーンを用いて嵩上げ用プレキャスト壁体50を持ち上げ、嵩上げ用プレキャスト壁体50の壁体さや管50Aを海側鋼管杭12の上端に溶接された延長用鋼管杭12Aに通して嵩上げ用プレキャスト壁体50を所定の位置に設置し、嵩上げ用プレキャスト壁体50の壁体さや管50Aの中心が延長用鋼管杭12Aの中心および上段プレキャスト壁体20の壁体さや管20Aの中心と一致するように嵩上げ用プレキャスト壁体50を配置する。なお、壁体さや管50Aの中心が海側鋼管杭12の中心と一致していることが好ましいが、厳密に一致することまでは求める必要はない。納まればよいということを原則にしてもよい。
そして、嵩上げ用プレキャスト壁体50の壁体さや管50Aと該壁体さや管50Aに差し込まれた延長用鋼管杭12Aとの間隙にグラウト材を充填し、一体化する。充填するグラウト材は特に限定されず、セメント(モルタル)系グラウト材、ガラス系グラウト材、合成樹脂系グラウト材等を用いることができる。
以上説明した堤体10の嵩上げにおいては、海側鋼管杭12の上端に延長用鋼管杭12Aを溶接により取り付け、海側鋼管杭12の長さを上方に延長したが、本実施形態において、海側鋼管杭12の長さを上方に延長する手法はこの延長方法に限定されず、例えば、延長用鋼管杭12Aを海側鋼管杭12に溶接ではなく機械的な接合で取り付けてもよい。
なお、壁体の嵩上げに伴う重量増等により、プレキャスト壁体18、20、プレキャストフーチング16、鋼管杭12、14等に強度上の問題が生じる場合には、条件が許せば例えば図19(上方から見た平面図)、図20(図19のXX−XX線断面図)に示すように、プレキャスト壁体18、20の中央部に、中間フーチング52および中間フーチング52を下方から支持する増設鋼管杭54を新たに設置して中間支点を設けるとともに、プレキャスト壁体18、20の中央部を背後(陸側)から支持する補強柱56をさらに設置して、既設のプレキャスト壁体18、20、プレキャストフーチング16、鋼管杭12、14の分担荷重を軽減させて対応してもよい。
(第2実施形態)
2−1.堤体の構成
図21は、本発明の第2実施形態における堤体70の嵩上げの中途の段階を示す斜視図である。第2実施形態の堤体70は第1実施形態の堤体10と概ね同様であるが、海側鋼管杭12の高さが若干短くてもよい点が異なる。即ち、本第2実施形態では、第1実施形態のように延長用鋼管杭12Aを海側鋼管杭12に溶接や機械的な接合で取り付けるのではなく、後述するように芯材60を海側鋼管杭12に差し込んで海側鋼管杭を延長するので、海側鋼管杭12の上端への溶接や機械的な接合による取り付け作業は不要であり、本第2実施形態の堤体70は第1実施形態の堤体10よりも海側鋼管杭12の高さが若干短くてもよい。具体的には、海側鋼管杭12の上端が上段プレキャスト壁体20の高さの2分の1以上の高さ位置にまで達していればよい(第1実施形態の堤体10の海側鋼管杭12の上端の納まりについて説明では、海側鋼管杭12の上端の高さ位置が上段プレキャスト壁体20の天端から5〜30cm下方の高さ位置になるようにすることが好ましいと記載し、海側鋼管杭12の上端の高さ位置が上段プレキャスト壁体20の天端から30cm下方よりも上方になるようにすることが好ましい旨を記載した。これは前述したように、海側鋼管杭12の上端の高さ位置が上段プレキャスト壁体20の天端から下方に30cmを超えると、海側鋼管杭12の上端に新たな鋼管杭を溶接や機械的な接合により取り付けにくくなることが理由の1つであるが、本第2実施形態では、芯材60を海側鋼管杭12に差し込んで海側鋼管杭を延長するので、海側鋼管杭12の上端に新たな鋼管杭を溶接や機械的な接合により取り付けにくくなるという理由が存在しなくなる。)。
ただし、海側鋼管杭12の中に設置する芯材60と海側鋼管杭12とが併存する高さ範囲を大きく取った方が、海側鋼管杭12と新たに配置した芯材60との間の応力伝達を良好にしやすくなるので、この点では、本第2実施形態の堤体70においても、海側鋼管杭12の上端の高さ位置が、第1実施形態の堤体10の海側鋼管杭12の上端の高さ位置と同様の位置にまで達していることが好ましい。
以上説明した点以外は、本第2実施形態に係る堤体70は第1実施形態の堤体10と同様である。
2−2.堤体の嵩上げ方法
第2実施形態の堤体70は第1実施形態の堤体10と概ね同様であるが、堤体の嵩上げ方法が第1実施形態で記載した方法とは異なる。
即ち、第1実施形態では、海側鋼管杭12の上端に延長用鋼管杭12Aを溶接により取り付けて海側鋼管杭を延長し、取り付けた延長用鋼管杭12Aに嵩上げ用プレキャスト壁体50の壁体さや管50Aを差し込んだ後、嵩上げ用プレキャスト壁体50の壁体さや管50Aと該壁体さや管50Aに差し込まれた延長用鋼管杭12Aとの間隙にグラウト材を充填し、一体化したが、本第2実施形態では、図21に示すように、海側鋼管杭12内に円柱状の芯材60を設置して海側鋼管杭を延長している。
芯材60はその上端が上段プレキャスト壁体20の天端よりも高い高さ位置となるよう海側鋼管杭12内に設置する。設置した芯材60の上端は、設置する嵩上げ用プレキャスト壁体50の安定性の観点から、設置する嵩上げ用プレキャスト壁体50の高さの半分以上の高さ位置に達していることが好ましい。
海側鋼管杭12内に円柱状の芯材60を設置して海側鋼管杭を延長する際には、海側鋼管杭12の中心が芯材60の中心と一致していることが好ましいが、厳密に一致することまでは求める必要はない。納まればよいということを原則にしてもよい。ただし、本第2実施形態では、海側鋼管杭12内に円柱状の芯材60を設置するので、海側鋼管杭12の内面と円柱状の芯材60の外面との間の遊びが少ないほど海側鋼管杭12と芯材60との間の応力伝達は良好になる。したがって、本第2実施形態では、海側鋼管杭12と芯材60との間の応力伝達は良好にするべく、海側鋼管杭12の内面と円柱状の芯材60の外面との間の遊びを少なくすることで自動的に海側鋼管杭12の中心が芯材60の中心と一致してくる方向に向かう。
そして、クレーンを用いて嵩上げ用プレキャスト壁体50を持ち上げ、嵩上げ用プレキャスト壁体50の壁体さや管50Aを芯材60に通して嵩上げ用プレキャスト壁体50を所定の位置に設置し、嵩上げ用プレキャスト壁体50の壁体さや管50Aの中心が芯材60の中心および上段プレキャスト壁体20の壁体さや管20Aの中心と一致するように嵩上げ用プレキャスト壁体50を配置する。なお、壁体さや管50Aの中心が芯材60の中心および上段プレキャスト壁体20の壁体さや管20Aの中心と一致していることが好ましいが、厳密に一致することまでは求める必要はない。納まればよいということを原則にしてもよい。
そして、海側鋼管杭12と該海側鋼管杭12に差し込まれた芯材60との間隙、および嵩上げ用プレキャスト壁体50の壁体さや管50Aと該壁体さや管50Aに差し込まれた芯材60との間隙にグラウト材を充填し、一体化する。
なお、本第2実施形態で用いた芯材は円柱状であるが、海側鋼管杭12に差し込むことができ、かつ安全性が確保できれば、形状は特に限定されず、円筒状であってもよいし、多角柱状であってもよい。
(第3実施形態)
3−1.堤体の構成
第1実施形態に係る堤体10および第2実施形態に係る堤体70では、別々にプレキャスト化された壁体およびフーチングを用いていたが、本第3実施形態に係る堤体では、壁体およびフーチングを現場打ちコンクリートで形成している。本第3実施形態に係る堤体と第1実施形態に係る堤体10および第2実施形態に係る堤体70との違いは、壁体およびフーチングを現場打ちコンクリートで形成しているかプレキャスト部材で形成しているかの違いだけであるので、本第3実施形態に係る堤体の説明は省略する。
3−2.堤体の嵩上げ方法
本第3実施形態の堤体においても、第1実施形態および第2実施形態と同様に、プレキャスト化された壁体を用いて堤体の嵩上げを行うことができる。堤体の嵩上げに用いるプレキャスト化された壁体の構成は第1実施形態および第2実施形態の嵩上げ用プレキャスト壁体50と同様であり、また、嵩上げの手順も第1実施形態および第2実施形態と同様の手法を取ることができるので説明は省略する。