以下、図面を参照して、本発明に係る衝突防止装置の実施の形態を説明する。
本実施の形態では、本発明に係る衝突防止装置を、一時停止線がある交差点での出会い頭衝突を未然に防止するための衝突防止装置に適用する。本実施の形態に係る衝突防止装置は、一時停止線における走行状態を予測し、一時停止線において減速不十分になると予測した場合には警報及び減速制御を行う。
図1〜図7を参照して、本実施の形態に係る衝突防止装置1について説明する。図1は、本実施の形態に係る衝突防止装置の構成図である。図2は、一時停止線手前走行中の自車両が存在する一時停止交差点の一例である。図3は、一時停止線手前走行中の自車両とその前方車両が存在する一時停止交差点の一例である。図4は、一時停止線手前走行中の自車両と交差車両が存在する一時停止交差点の一例である。図5は、一時停止交差点における自車両からの左右確認の説明図である。図6は、自車両からの見通しが異なる一時停止交差点の一例であり、(a)が見通しの良い交差点であり、(b)が見通しの悪い交差点である。図7は、一時停止交差点に進入する車両の一時停止線からの位置と車速との関係を示す一例である。
衝突防止装置1は、一時停止線での減速状態(停止を含む)を予測するために、一時停止線の手前の所定区間での車速状態に基づいて速度イリュージョン発生確率を設定し、速度イリュージョン発生確率に基づいて減速不十分になるか否かを判定する。さらに、衝突防止装置1は、判定精度を向上させるために、速度イリュージョン発生確率を求めるときにドライバの状況、自車両の状況、周辺車両の状況、交差点の状況に応じて各種補正処理を行う。そのために、衝突防止装置1は、ドライバ情報認識手段2、環境情報認識手段3、車両情報認識手段4、ディスプレイ5、スピーカ6、ブレーキ介入支援装置7、減速不十分判定ECU[Electronic Control Unit]8、ドライバ状態適応型運転支援ECU9を備えている。
車速が高い状態がある程度継続すると、ドライバは速度感覚が麻痺した状態となり、減速してもドライバが感じているほど車速が低下していない現象が発生する。本実施の形態では、このような現象を「速度イリュージョン」と呼ぶ。このような現象は高速道路を走行した後に発生することが良く知られているが、一般道路を走行中でもある程度高い車速での走行が継続すると速度イユージョンが発生する。速度イリュージョンが一時停止線の手間で発生している場合、一時停止交差点でドライバが十分に安全確認行動がとれる程度の極低車速まで減速していると感じていても、実際には減速が不十分な場合がある。このように、一時停止場面での減速不十分行動の要因としては、速度イリュージョンの発生が考えられる。
ちなみに、速度イリュージョンが発生していた場合でも、一時停止線で停止すると速度イリュージョンがリセットされ、運転者の速度感覚の麻痺が解消される。しかし、速度イリュージョンが発生していた場合に、一時停止線などで停止しないで通過すると速度イリュージョンが継続し、運転者の速度感覚が麻痺したままである。
ドライバ情報認識手段2としては、顔向き・視線認識センサ2aなどがある。顔向き・視線認識センサ2aでは、カメラによって撮像したドライバの顔周辺の撮像画像に基づいてドライバの顔向き及び視線方向を認識し、その顔向き視線情報を減速不十分判定ECU8に送信する。顔向きと視線方向は、自車両の進行方向を0°とし、正面から右側をプラス値とし、正面から左側をマイナス値として規定される。
環境情報認識手段3としては、カーナビゲーションシステム3a、前側方レーダセンサ3b、前側方カメラセンサ3cなどがある。カーナビゲーションシステム3aでは、自車両の現在位置や走行方向の検出及び目的地までの経路案内などを行うシステムであり、これらの情報を減速不十分判定ECU8に送信する。また、カーナビゲーションシステム3aでは、現在位置周辺の道路情報や標識情報を減速不十分判定ECU8に送信する。道路情報としては、例えば、交差点形状、交差点中心、車線数がある。標識情報としては、例えば、各種標識の種類(特に、一時停止線)とその位置がある。
前側方レーダセンサ3bでは、レーダによって自車両の前方の左右の所定範囲内にミリ波などを照射し、その照射光の送受信データを取得する。そして、前側方レーダセンサ3bでは、その送受信データに基づいて前方車両及び交差車両の有無を認識し、車両が存在する場合にはその車両の位置、車速、自車両との距離などを認識する。また、前側方レーダセンサ3bでは、送受信データに基づいて前方に存在する建物などの固定物の有無を認識し、固定物が存在する場合にはその位置や大きさなどを認識する。そして、前側方レーダセンサ3bでは、それらの情報をレーダ情報として減速不十分判定ECU8に送信する。
前側方カメラセンサ3cでは、カメラによって自車両の前方の左右の所定範囲内を撮像し、撮像画像を取得する。そして、前側方カメラセンサ3cでは、その撮像画像に基づいて前方車両及び交差車両の有無を認識し、車両が存在する場合にはその車両の位置、車速、自車両との距離などを認識する。また、前側方カメラセンサ3cでは、撮像画像に基づいて前方に存在する建物などの固定物の有無を認識し、固定物が存在する場合にはその位置や大きさなどを認識する。そして、前側方カメラセンサ3cでは、それらの情報を画像情報として減速不十分判定ECU8に送信する。
車両情報認識手段4としては、車速センサ4a、ウィンカスイッチ4bなどがある。車速センサ4aでは、自車両の車速を検出し、その検出した車速情報を減速不十分判定ECU8に送信する。ウィンカスイッチ4bでは、ウィンカ情報(OFF、右方向指示、左方向指示)を減速不十分判定ECU8に送信する。
ディスプレイ5では、ドライバ状態適応型運転支援ECU9からの画像信号を受信すると、その画像信号の表示画像を表示する。スピーカ6では、ドライバ状態適応型運転支援ECU9から音声信号を受信すると、その音声信号の音声を出力する。ブレーキ介入支援装置7では、ドライバ状態適応型運転支援ECU9からブレーキ制御信号を受信すると、そのブレーキ制御信号に示される制御タイミングやブレーキ油圧などに応じてブレーキ制御を行う。
減速不十分判定ECU8は、CPU[Central Processing Unit]、ROM[ReadOnly Memory]、RAM[Random Access Memory]などからなり、ROMに保持されるソフトウエアをCPUで実行することによって基本処理、第1〜第4速度イリュージョン発生確率補正処理、第1〜第2速度イリュージョン判定車速補正処理を行う。減速不十分判定ECU8では、各情報認識手段2,3,4からの情報を取り入れる。そして、減速不十分判定ECU8では、これら取り入れた情報に基づいて上記各処理を行い、一時停止交差点で減速不十分となるか否かを判定する。さらに、減速不十分判定ECU8では、その判定結果をドライバ状態適応型運転支援ECU9に送信する。
基本処理について説明する。減速不十分判定ECU8では、ナビ情報により自車両MCが一時停止線SLの(A+B)m手前の地点になった否かを判定する(図2参照)。一時停止線SLの(A+B)m手前の地点になると、減速不十分判定ECU8では、一定時間毎に、車速情報に基づいて自車両MCの車速を記録する。そして、減速不十分判定ECU8では、ナビ情報により自車両MCが一時停止線SLのBm手前の地点になった否かを判定する(図2参照)。一時停止線SLの手前の(A+B)〜Bmの区間は、速度イリュージョン発生確率を求めるために自車両MCの車速を監視する区間である。一時停止線SLの手前のBmの位置は、速度イリュージョン発生確率を求め、速度イリュージョン発生確率に基づいて一時停止交差点で減速不十分になるか否か判定する位置である。この一時停止線SLのBm手前の位置から警報や減速制御を行うことによって、一時停止線SLまでに極低速(十分に安全確認行動がとれる程度の車速)まで減速可能である。A、Bは、実験などによって設定され、例えば、Aが200mであり、Bが50mである。
一時停止線SLのBm手前の地点になると、減速不十分判定ECU8では、一定時間毎に記録した車速データに基づいて、一時停止線SLの手前の(A+B)〜Bmの区間で速度イリュージョン判定車速J以上の車速となっている経過時間Tをカウントする。速度イリュージョン判定車速Jは、速度イリュージョンが発生する可能性のある車速で自車両MCが走行していたか否かを判定するための判定値である。速度イリュージョン判定車速Jは、基準判定車速としてαkm/hが設定され、このαkm/hを基準にして第1〜第2速度イリュージョン判定車速補正処理によって必要に応じて補正される。基準判定車速αは、実験などによって設定され、例えば、60km/hである。
そして、減速不十分判定ECU8では、経過時間Tが速度イリュージョン判定時間S以上か否かを判定する。速度イリュージョン判定時間Sは、速度イリュージョンとなっている可能性が高いと判定してよい程度に、速度イリュージョン判定車速J以上で自車両MCがある程度の時間走行したか否かを判定するための判定値である。速度イリュージョン判定時間Sは、実験などによって設定され、例えば、2秒である。
経過時間Tが速度イリュージョン判定時間S以上の場合、速度イリュージョンになっている可能性が高いので、減速不十分判定ECU8では、速度イリュージョン発生確率Pを求める。速度イリュージョン発生確率Pは、0〜100%の値であり、値が大きいほど速度イリュージョンになっている可能性が高い。速度イリュージョン発生確率Pは、基準確率としてR0%が設定され、このR0%を基準にして第1〜第4速度イリュージョン発生確率補正処理によって必要に応じて補正される。基準確率R0は、実験などによって設定され、例えば、75%である。
そして、減速不十分判定ECU8では、速度イリュージョン発生確率Pが減速不十分判定確率M以上か否かを判定する。減速不十分判定確率Mは、速度イリュージョンが要因となって一時停止交差点を減速不十分な車速で通過するか否かを判定するための閾値である。減速不十分判定確率Mは、実験などによって設定され、例えば、75%である。速度イリュージョン発生確率Pが減速不十分判定確率M以上の場合、減速不十分判定ECU8では、自車両MCが一時停止交差点(一時停止線SL)を減速不十分な車速で通過すると判定する。一方、速度イリュージョン発生確率Pが減速不十分判定確率M未満の場合、減速不十分判定ECU8では、自車両MCが一時停止交差点を減速不十分な車速で通過しない(停止又は減速十分な車速で通過)と判定する。
一方、経過時間Tが速度イリュージョン判定時間S未満の場合、速度イリュージョンになっている可能性が低いので、減速不十分判定ECU8では、速度イリュージョン発生確率Pを求めず、速度イリュージョン発生確率Pによる判定も行わない(一時停止交差点で停止又は減速十分な車速で通過すると判定する)。
そして、減速不十分判定ECU8では、一時停止交差点で減速状態の判定結果を判定信号としてドライバ状態適応型運転支援ECU9に送信する。
第1速度イリュージョン発生確率補正処理について説明する。速度イリュージョン発生確率Pに基準確率R0を設定すると、減速不十分判定ECU8では、ウィンカ情報(ナビ情報の経路案内情報でもよい)により、自車両MCが一時停止交差点で右折又は左折するか否かを判定する(図2参照)。交差点を右左折する場合、一般に十分な減速を行うので、交差点を直進する場合よりも一時停止線を通過するときに十分な減速を行っている可能性が高い。そこで、自車両MCが一時停止交差点で右折又は左折すると判定した場合、減速不十分判定ECU8では、速度イリュージョン発生確率PからR1%減算する。R1は、実験などによって設定され、例えば、10%である。
第2速度イリュージョン発生確率補正処理について説明する。速度イリュージョン発生確率Pに基準確率R0を設定すると、減速不十分判定ECU8では、レーダ情報及び画像情報により自車両MCの前方を走行する前方車両FCが存在するか否かを判定する(図3参照)。前方車両FCが存在する場合、減速不十分判定ECU8では、レーダ情報及び画像情報により前方車両FCが一時停止線SLで停止したか否かを判定する。前方車両FCが一時停止線SLで停止した場合、自車両MCのドライバもそれにつられて一時停止線SLで停止あるいは十分な減速を行う可能性が高くなる。そこで、前方車両FCが一時停止線SLで停止したと判定した場合、減速不十分判定ECU8では、速度イリュージョン発生確率PからR2%減算する。逆に、前方車両FCが一時停止線SLを停止せずに通過した場合、自車両MCのドライバもそれにつられて一時停止線SLで停止あるいは十分な減速を行わない可能性が高くなる。そこで、前方車両FCが一時停止線SLで停止しなかったと判定した場合、減速不十分判定ECU8では、速度イリュージョン発生確率PにR3%加算する。R2、R3は、実験などによって設定され、例えば、R2は15%、R3は10%である。
第3速度イリュージョン発生確率補正処理について説明する。速度イリュージョン発生確率Pに基準確率R0を設定すると、減速不十分判定ECU8では、ナビ情報により一時停止線SLの手前のCm以内の区間になったと判定した場合、レーダ情報及び画像情報により一時停止交差点において交差する道路を走行する交差車両CCを検出したか否かを判定する(図4参照)。横断しようとしている道路を交差車両CCが走行している場合、その交差車両CCを見た自車両MCのドライバは交差道路を通過するときには注意を払う必要であると認識するので、一時停止線SLで停止あるいは十分な減速を行う可能性が高くなる。そこで、交差車両CCを検出した場合、減速不十分判定ECU8では、速度イリュージョン発生確率PからR4%減算する。R4は、実験などによって設定され、例えば、20%である。Cは、実験などによって設定され、例えば、50mである。
第4速度イリュージョン発生確率補正処理について説明する。速度イリュージョン発生確率Pに基準確率R0を設定すると、減速不十分判定ECU8では、自車両MCの一時停止率Qに応じて速度イリュージョン発生確率PをR5%減算する。普段から一時停止線で停止しているドライバの場合、安全走行に対する意識が高いので、一時停止線SLで停止あるいは十分な減速を行う可能性が高い。そこで、減速不十分判定ECU8では、一時停止率Qが高い場合にはR5として所定の値を設定し、一時停止率Qが低い場合にはR5として0を設定する。R5は、実験などによって設定され、例えば、一時停止率Qが50%以上の場合には20%、50%未満の場合には0%である。
一時停止率Qを求めるために、減速不十分判定ECU8では、ナビ情報により自車両MCが一時停止交差点を通過したか否かを判定する。一時停止交差点を通過したと判定した場合、減速不十分判定ECU8では、一定時間毎に記録した車速データに基づいて、一時停止線SLの手前のFmから通過後のGmまでの区間で自車両MCの車速が0km/hになったか否か(停止したか否か)を判定する。そして、減速不十分判定ECU8では、今回の一時停止線SLでの自車両MCの停止の有無を考慮して一時停止率Qを再計算し、その一時停止率Qを保持する。F、Gは、実験などによって設定され、例えば、Fが5m、Gが10mである。
第1速度イリュージョン判定車速補正処理について説明する。自車両MCの車速の記録を開始すると、減速不十分判定ECU8では、ナビ情報により自車両MCが一時停止線SLのEm手前の地点になった否かを判定する(図5参照)。一時停止線SLのEm手前の地点になると、減速不十分判定ECU8では、顔向き視線情報によりドライバの左右確認回数Nのカウントを開始する。ここでは、ドライバの顔向きあるいは視線が自車両MCの進行方向に対してθ°以上右方向又は左方向を向いた場合を確認1回とカウントする。そして、減速不十分判定ECU8では、ナビ情報により自車両MCが一時停止線SLのBm手前の地点になった否かを判定する(図5参照)。一時停止線SLのBm手前の地点になると、減速不十分判定ECU8では、左右確認回数Nのカウントを終了する。そして、減速不十分判定ECU8では、ドライバの左右確認回数Nに応じて目標車速率Y1を設定する。目標車速率Y1(%)は、速度イリュージョン判定車速Jの基準判定車速αに対する補正率である。Eは、実験などによって設定され、例えば、100mである。θは、実験などによって設定され、例えば、15°である。
ドライバの左右確認回数が多いほど、ドライバの安全確認レベルが高いので、一時停止線SLの手前での車速が高くても一時停止線SLで停止あるいは十分な減速を行う可能性が高くなる。そこで、減速不十分判定ECU8では、ドライバの左右確認回数Nが多い場合、速度イリュージョン判定車速Jを高くするために、目標車速率Y1として100%より大きい値を設定する。逆、ドライバの左右確認回数が少ないほど、ドライバの安全確認レベルが低いので、一時停止線SLで停止あるいは十分な減速を行う可能性が低くなる。そこで、減速不十分判定ECU8では、ドライバの左右確認回数Nが少ない場合、速度イリュージョン判定車速Jを低くするために、目標車速率Y1として100%より小さい値を設定する。それ以外の左右確認回数Nの場合、減速不十分判定ECU8では、目標車速率Y1として100%を設定する。そして、減速不十分判定ECU8では、基準判定車速αに目標車速率Y1を乗算し、その乗算値を速度イリュージョン判定車速Jに設定する。目標車速率Y1は、実験などによって設定され、例えば、左右確認回数Nが2回より多い場合には120%、左右確認回数Nが0回の場合には80%、左右確認回数Nが1回又は2回の場合には100%である。
第2速度イリュージョン判定車速補正処理について説明する。自車両MCの車速の記録を開始すると、減速不十分判定ECU8では、ナビ情報により自車両MCが一時停止線SLのCm手前の地点になった否かを判定する(図6参照)。一時停止線SLのCm手前の地点になると、減速不十分判定ECU8では、レーダ情報及び画像情報により一時停止交差点における見通しを判定する。ここでは、一時停止交差点において交差する道路より自車両MC側に建物などの固定物O1,O2の有無及び固定物O1,O2が存在する場合にはその位置や大きさに基づいて見通しを判定する(図6(b)参照)。そして、減速不十分判定ECU8では、見通しの悪さに応じて目標車速率Y2を設定する。目標車速率Y2(%)は、速度イリュージョン判定車速Jの基準判定車速αに対する補正率である。
一時停止交差点の見通しが良いほど、ドライバが安全確認を行い易い(図6(a)参照)。そこで、減速不十分判定ECU8では、見通しが良い場合、速度イリュージョン判定車速Jを高くするために、目標車速率Y2として100%より大きい値を設定する。逆、一時停止交差点の見通しが悪いほど、ドライバが安全確認を行い難い(図6(b)参照)。そこで、減速不十分判定ECU8では、見通しが悪い場合、速度イリュージョン判定車速Jを低くするために、目標車速率Y2として100%より小さい値を設定する。それ以外の見通し場合、減速不十分判定ECU8では、目標車速率Y2として100%を設定する。そして、減速不十分判定ECU8では、基準判定車速αに目標車速率Y2を乗算し、その乗算値を速度イリュージョン判定車速Jに設定する。目標車速率Y2は、実験などによって設定され、例えば、見通しが良い場合には120%、見通しが悪い場合には50%、見通しが普通の場合には100%である。
図7には、3台の車両について一時停止線手前の位置に応じた車速の変化の一例を示している。車両Aは、符号SAで示す車速変化であり、一時停止線手前の(A+B)〜Bの区間において比較的低車速で走行しており、一時停止線に近づくと小さな減速度で減速し、一時停止線で停止している。車両Bは、符号SBで示す車速変化であり、一時停止線手前の(A+B)〜Bの区間において比較的高車速で走行しており、一時停止線に近づくと中程度の減速度で減速し、一時停止線を減速不十分な車速で通過している。車両Cは、符号SCで示す車速変化であり、一時停止線手前の(A+B)〜Bの区間において高車速で走行しており、一時停止線に近づくと大きな減速度で減速するとともに一時停止線直前で減速を止め、一時停止線を減速不十分な車速で通過している。
車両Aの場合、一時停止線手前の(A+B)〜Bの区間で低車速で走行しているので、速度イリュージョンが発生する可能性が極めて低い。この場合、減速不十分判定ECU8では、速度イリュージョン発生確率Pを求めることなく、速度イリュージョン発生確率Pに基づく判定も行わず、一時停止線で停止又は減速十分な車速で通過すると判定する。この場合、一時停止線の手前のBm辺りでの減速度と一時停止線からの距離に基づく従来の判定でも、一時停止線で停止すると判定する。
車両Bの場合、一時停止線手前の(A+B)〜Bの区間で比較的高車速で走行しているので、速度イリュージョンが発生する可能性が高い。この場合、減速不十分判定ECU8では、速度イリュージョン発生確率Pを求め、速度イリュージョン発生確率Pに基づく判定によって一時停止線を減速不十分な車速で通過すると判定する。この場合、従来の判定でも、一時停止線で停止しないと判定する。
車両Cの場合、一時停止線手前の(A+B)〜Bの区間で高車速で走行しているので、速度イリュージョンが発生する可能性が非常に高い。この場合、減速不十分判定ECU8では、速度イリュージョン発生確率Pを求め、速度イリュージョン発生確率Pに基づく判定によって一時停止線を減速不十分な車速で通過すると判定する。この場合、従来の判定では、一時停止線の手前のBm辺りでの減速度が大きいので、一時停止線で停止すると判定する。このような判定結果になるのは、一時停止線の手前のBm辺りでの大きな減速度を一時停止線まで継続した場合、一点鎖線で示すように一時停止線の直前で車速が0km/hとなるからである。しかし、車両Cのドライバは、一時停止線の直前で十分な車速まで減速したと感じて減速を止め、その車速で一時停止線を通過している。しかし、速度イリュージョンが発生しているため、実際には車速はそれほど低下しておらず、減速不十分となっている。
ドライバ状態適応型運転支援ECU9は、CPU、ROM、RAMなどからなり、ROMに保持されるソフトウエアをCPUで実行することによって運転支援処理を行う。ドライバ状態適応型運転支援ECU9では、減速不十分判定ECU8からの判定信号を受信する。そして、一時停止交差点で減速不十分になると判定された場合、ドライバ状態適応型運転支援ECU9では、減速が不十分であることを認識させるようなあるいは一時停止交差点での十分な減速を促すような表示画像及び音声を生成し、その表示画像データからなる画像信号をディスプレイ5に送信するとともにその音声データからなる音声信号をスピーカ6に送信する。さらに、ドライバ状態適応型運転支援ECU9では、自車両の車速、減速度及び一時停止線までの距離などに基づいて所定の制動力(自車両を一時停止交差点で十分に減速させるための制動力)を発生させるブレーキ油圧を示すブレーキ制御信号をブレーキ介入支援装置7に送信する。なお、介入ブレーキについては、自車両の車速、減速度及び一時停止線までの距離などから介入ブレーキが必要と判断した場合にだけ行うようにするとよい。
図1を参照して、衝突防止装置1における動作について説明する。特に、減速不十分判定ECU8における処理については図8、図9、図10のフローチャートに沿って説明する。図8は、減速不十分判定ECU8における処理の流れを示す第1フローチャートである。図9は、減速不十分判定ECU8における処理の流れを示す第2フローチャートである。図10は、減速不十分判定ECU8における処理の流れを示す第3フローチャートである。
顔向き・視線認識センサ2aでは、ドライバの顔向き及び視線方向を認識し、その認識情報を減速不十分判定ECU8に送信している。カーナビゲーションシステム3aでは、現在位置情報、経路案内情報、道路情報及び標識情報などを減速不十分判定ECU8に送信している。前側方レーダセンサ3bでは、レーダ情報に基づいて前方車両、交差車両、固定物の有無及びそれらが存在する場合にはそれらの各種情報を認識し、その認識情報を減速不十分判定ECU8に送信している。前側方カメラセンサ3cでは、撮像画像に基づいて前方車両、交差車両、固定物の有無及びそれらが存在する場合にはそれらの各種情報を認識し、その認識情報を減速不十分判定ECU8に送信している。車速センサ4aでは、自車両の車速を認識し、その認識した車速を減速不十分判定ECU8に送信している。ウィンカスイッチ4bでは、ウィンカ操作情報を減速不十分判定ECU8に送信している。
減速不十分判定ECU8では、ナビ情報により自車両MCが一時停止線SLの(A+B)m手前の地点になった否かを判定する(図8のS1)。S1にて(A+B)m手前の地点になっていないと判定した場合、減速不十分判定ECU8では、S1に処理に戻って、S1の判定を再度行う。
S1にて(A+B)m手前の地点になったと判定した場合、減速不十分判定ECU8では、車速情報により自車両MCの車速の記録を開始する(図8のS2)。続いて、減速不十分判定ECU8では、ナビ情報により自車両MCが一時停止線SLのEm手前の地点になった否かを判定し、Em手前の地点になると顔向き視線情報によりドライバの左右確認回数Nのカウントを開始する(図8のS3)。そして、減速不十分判定ECU8では、ナビ情報により自車両MCが一時停止線SLのBm手前の地点になった否かを判定する(図8のS4)。S4にてBm手前の地点になっていないと判定した場合、減速不十分判定ECU8では、S4に処理に戻って、S4の判定を再度行う。
S4にてBm手前の地点になったと判定した場合、減速不十分判定ECU8では、ドライバの左右確認回数Nのカウントを終了し、左右確認回数Nに応じて目標車速率Y1%を設定する(図8のS5)。さらに、減速不十分判定ECU8では、ナビ情報により自車両MCが一時停止線SLのCm手前の地点になった否かを判定し、Cm手前の地点になるとレーダ情報及び画像情報により一時停止交差点での見通しを判定する(図8のS6)。そして、減速不十分判定ECU8では、一時停止交差点での見通しの悪さに応じて目標車速率Y2%を設定する(図8のS7)。そして、減速不十分判定ECU8では、基準判定車速αに目標車速率Y1%と目標車速率Y2%を乗算し、その乗算値を速度イリュージョン判定車速Jに設定する(図8のS8)。さらに、減速不十分判定ECU8では、一定時間毎に記録した車速データに基づいて、一時停止線SLの手前の(A+B)〜Bmの区間で速度イリュージョン判定車速J以上の車速となっている経過時間Tをカウントする(図8のS8)。
次に、減速不十分判定ECU8では、経過時間Tが速度イリュージョン判定時間S以上か否かを判定する(図9のS9)。S9にて経過時間Tが速度イリュージョン判定時間S未満と判定した場合、減速不十分判定ECU8では、速度イリュージョンが発生しないと判断し、速度イリュージョン発生確率Pを求めない。
S9にて経過時間Tが速度イリュージョン判定時間S以上と判定した場合、減速不十分判定ECU8では、速度イリュージョン発生確率Pに基準確率R0%を設定する(図9のS10)。続いて、減速不十分判定ECU8では、ウィンカ情報により自車両MCが一時停止交差点で右折又は左折するか否かを判定する(図9のS11)。S11にて一時停止交差点で右折又は左折すると判定した場合、減速不十分判定ECU8では、速度イリュージョン発生確率PからR1%減算する(図9のS12)。
S11にて一時停止交差点で右左折しないと判定した場合又はS12の処理を行った場合、減速不十分判定ECU8では、レーダ情報及び画像情報により、自車両MCの前方を走行する前方車両FCが存在するか否かを判定し、前方車両FCが存在すると判定した場合には前方車両FCが一時停止線SLで停止したか否かを判定する。(図9のS13)。S13にて前方車両FCが一時停止線SLで停止したと判定した場合、減速不十分判定ECU8では、速度イリュージョン発生確率PからR2%減算する(図9のS14)。前方車両FCが一時停止線SLで停止しなかったと判定した場合、減速不十分判定ECU8では、速度イリュージョン発生確率PにR3%加算する(図9のS15)。
S13にて前方車両FCが存在しないと判定した場合又はS14かS15の処理を行った場合、減速不十分判定ECU8では、ナビ情報により一時停止線SLの手前のCm以内の区間であると判定している場合、レーダ情報及び画像情報により交差車両CCを検出したか否かを判定する(図9のS16)。S16にて交差車両CCを検出したと判定した場合、減速不十分判定ECU8では、速度イリュージョン発生確率PからR4%減算する(図9のS17)。
S16にて交差車両CCを検出しなかったと判定した場合又はS17の処理を行った場合、減速不十分判定ECU8では、自車両MCの一時停止率Qに応じて速度イリュージョン発生確率PからR5%減算する(図9のS18)。
そして、減速不十分判定ECU8では、速度イリュージョン発生確率Pが減速不十分判定確率M%以上か否かを判定する(図10のS19)。S19にて速度イリュージョン発生確率Pが減速不十分判定確率M%以上と判定した場合、減速不十分判定ECU8では、自車両MCが一時停止線SL(一時交差点)を減速不十分な車速(十分な安全確認行動を行うことができない車速)で通過すると判定する(図10のS20)。一方、S19にて速度イリュージョン発生確率Pが減速不十分判定確率M%未満と判定した場合又はS9にて経過時間Tが速度イリュージョン判定時間S秒未満と判定した場合、減速不十分判定ECU8では、自車両MCが一時停止線SLを停止又は減速十分な車速で通過と判定する。そして、減速不十分判定ECU8では、一時停止交差点での減速状態の判定結果を判定信号としてドライバ状態適応型運転支援ECU9に送信する。
さらに、減速不十分判定ECU8では、ナビ情報により自車両MCが一時停止交差点を通過したか否かを判定する(図10のS21)。S21にて一時停止交差点を通過していないと判定した場合、減速不十分判定ECU8では、S21に処理に戻って、S21の判定を再度行う。S21にて一時停止交差点を通過したと判定した場合、減速不十分判定ECU8では、自車両MCの車速の記録を終了する(図10のS22)。そして、減速不十分判定ECU8では、一定時間毎に記録した車速データに基づいて、一時停止線SLの(手前F〜通過後G)mまでの区間で自車両MCの車速が0km/hになったか否かで一時停止の有無を判定する(図10のS23)。減速不十分判定ECU8では、S23の判定結果に基づいて、今回の一時停止線SLでの停止の有無を自車両MCの一時停止率Qに反映する(図10のS24)。
ドライバ状態適応型運転支援ECU9では、減速不十分判定ECU8からの判定信号を受信する。減速不十分判定ECU8で一時停止交差点で減速不十分になると判定された場合、ドライバ状態適応型運転支援ECU9では、一時停止交差点での十分な減速を促すような表示画像及び音声を生成し、その表示画像データからなる画像信号をディスプレイ5に送信するとともにその音声データからなる音声信号をスピーカ6に送信する。この画像信号を受信すると、ディスプレイ5では、画像信号に応じて一時停止交差点での十分な減速を促すための警報画像を表示する。また、この音声信号を受信すると、スピーカ6では、音声信号に応じて一時停止交差点での十分な減速を促すための警報メッセージを出力する。これらの表示や音声によって、ドライバは、十分に減速していないことを認識し、一時停止線SLで十分な減速又は停止するための減速操作を行う。さらに、必要に応じて、ドライバ状態適応型運転支援ECU9では、一時停止線SLに到達するまでに十分な減速又は停止させるためのブレーキ制御信号をブレーキ介入支援装置7に送信する。このブレーキ制御信号を受信すると、ブレーキ介入支援装置7では、ブレーキ油圧を加圧し、一時停止線SLで十分の減速又は停止するための制動力を発生させる。これによって、自車両MCは、一時停止線SLで十分の減速又は停止する。
この衝突防止装置1によれば、一時停止線の手前の所定区間での車速状況に応じた速度イリュージョンの発生を考慮することにより、一時停止線で減速不十分になるか否かを高精度に予測することができる。これによって、的確な警報や介入ブレーキ制御を行うことができ、一時停止交差点での出会い頭事故を未然に防止することができる。
さらに、衝突防止装置1では、交通環境要因として自車両の右左折状況、前方車両の一時停止線の一時停止状況及び交差車両の有無を速度イリュージョン発生確率に考慮することにより、より精度の高い速度イリュージョン発生確率を求めることができ、一時停止線で減速不十分になるか否かをより高精度に予測することができる。
また、衝突防止装置1では、ドライバ要因としてドライバの日常での一時停止状況を速度イリュージョン発生確率に考慮することにより、より精度の高い速度イリュージョン発生確率を求めることができ、一時停止線で減速不十分になるか否かをより高精度に予測することができる。
また、衝突防止装置1では、ドライバの安全確認が不十分な場合や一時停止交差点での見通しが悪い場合には一時停止線の手前での車速が低くても速度イリュージョンの影響を普段より強く考慮することにより、一時停止線で減速不十分になるか否かをより高精度に予測することができる。
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されることなく様々な形態で実施される。
例えば、本実施の形態では一時停止線を停止地点としたが、横断歩道の直前の地点などの他の地点を停止地点としてもよい。また、一時停止線で減速不十分になると予測した場合には警報と減速制御を行う構成としたが、いずれか一方を行うようにしてもよい。また、警報としてディスプレイとスピーカを用いたが、警報ブザーなどの他の手段を用いてもよい。
また、本実施の形態では速度イリュージョン発生確率を求め、速度イリュージョン発生確率に基づいて一時停止線を減速不十分な車速で通過するか否かを判定する構成としたが、一時停止線で停止するか否かを判定する構成としてもよいし、また、速度イリュージョン発生確率を求めることなく、一時停止線手前の所定の区間での車速状況から直接判定するようにしてもよい。
また、本実施の形態では一時停止線の走行状態を予測するために基本処理に加えて第1〜第4速度イリュージョン発生確率補正処理と第1〜第2速度イリュージョン判定車速補正処理を行う構成としたが、基本処理だけを行う構成としてもよいし、基本処理とこれらの補正処理のうちの1つ又は複数の補正処理だけを行う構成としてもよいし、あるいは、他の補正処理も行う構成としてもよい。
また、本実施の形態では速度イリュージョン発生確率と速度イリュージョン判定車速に対して補正する構成としたが、その一方だけを補正する構成としてもよいし、あるいは、速度イリュージョン判定時間などの他のパラメータを補正する構成としてもよい。
また、本実施の形態では速度イリュージョン発生確率に基づいて一時停止線で十分な減速が行われた否かを判定する構成としたが、従来の判定方法(例えば、減速度に基づく判定方法)によって一時停止線で十分な減速が行われた否かを判定する構成も加えてもよい。従来の判定も加えられている場合、本実施の形態の判定で一時停止線で十分な減速をすると判定したときでも、従来の判定で一時停止線で十分な減速が行われないと判定されたときには警報や介入ブレーキ制御を行うようにするとよい。
また、本実施の形態では速度イリュージョン発生確率の基準確率として固定値を設定する構成としたが、基準確率として自車両の走行状態や周辺環境などに応じて算出やマップなどで求めた可変値を設定する構成としてもよい。
1…衝突防止装置、2…ドライバ状態認識手段、2a…顔向き・視線認識センサ、3…環境情報認識手段、3a…カーナビゲーションシステム、3b…前側方レーダセンサ、3c…前側方カメラセンサ、4…車両情報認識手段、4a…車速センサ、4b…ウィンカスイッチ、5…ディスプレイ、6…スピーカ、7…ブレーキ介入支援装置、8…減速不十分判定ECU、9…ドライバ状態適応型運転支援ECU