JP5017347B2 - 磁気抵抗効果素子、磁気ランダムアクセスメモリ、電子カード、電子装置、磁気抵抗効果素子の製造方法、及び、磁気ランダムアクセスメモリの製造方法 - Google Patents

磁気抵抗効果素子、磁気ランダムアクセスメモリ、電子カード、電子装置、磁気抵抗効果素子の製造方法、及び、磁気ランダムアクセスメモリの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、磁気抵抗効果素子、磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM:Magnetoresistive Random Access Memory)と、それを用いた電子カード及び電子装置に関する。
トンネル磁気抵抗効果(TMR:Tunneling Magneto Resistive)を利用する磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM:Magnetoresistive Random Access Memory)は、データをMTJ(Magnetic Tunnel Junction)素子の磁化状態により記憶する点に特徴を有する。この磁気ランダムアクセスメモリに関しては、実用化に向けて数々の技術が提案されている。
例えば、書き込み電流の低減を目的として、ヨーク配線構造が提案されている。また、MTJ素子の構造に関しては、GdFe合金からなる垂直磁化膜を用いた構造(例えば、非特許文献1参照)や、垂直磁化膜を用いた積層構造(例えば、非特許文献2参照)等が提案されている。これらは、基本的に電流により発生する磁場を利用して、磁性層の磁化の向きを反転させる磁場書き込み方式である。電流により発生する磁場は、当然、電流が大きければ大きな磁場を発生できるが、微細化が進むほど配線に流せる電流も制限される。配線と磁性層の距離を近づける、あるいは発生する磁場を集中させるヨーク構造を利用することで、磁性体を反転させるために必要な電流値を低減することはできるが、微細化により、磁性体の磁化反転に必要な磁場が増大するため、低電流化と微細化の両立が非常に難しい。微細化により磁性体の磁化反転に必要な磁場が増大するのは、熱擾乱に打ち勝つだけの磁気エネルギーを必要とするためである。磁気エネルギーは磁気異方性エネルギー密度と磁性体の体積を大きくすればよいが、微細化により体積が減少してしまうので、形状磁気異方性エネルギー、結晶磁気異方性エネルギーを利用するのが一般的である。しかし、上述したように磁性体の持つ磁気エネルギーの増大は反転磁場を増大させるため、低電流化と微細化を両立するのは非常に困難である。特許文献1には、結晶磁気異方性エネルギーの大きな垂直磁化膜を導入し、かつ究極的に大きな電流磁場の発生効率を有する完全閉磁路型のヨーク構造が提案されているが、ヨーク構造が磁性体素子に対して大きくなるため、セル面積が比較的大きくなり、微細化、低電流化、セル面積の縮小をすべて満たすことができない。
近年、スピン偏極電流による磁化反転が理論的に予想され、実験でも確認されるようになり、スピン偏極電流を利用した磁気ランダムアクセスメモリが提案されてきた(例えば、非特許文献3参照)。この方式によれば、磁性体にスピン偏極電流を流すだけで磁性体の磁化反転を実現でき、磁性体の体積が小さければ注入するスピン偏極電子も少なくて済むため、微細化、低電流化を両立できると期待されている。さらに、電流により発生する磁場を利用しないため、磁場を増加させるヨーク構造も必要ではなく、セル面積を縮小できるという利点を持つ。しかし、当然のことながらスピン偏極電流における磁化反転方式においても、熱擾乱の問題は微細化にともなって顕在化する。上述したように、熱擾乱耐性を確保するためには、磁気異方性エネルギー密度を増加させる必要がある。これまで主に検討されている面内磁化型の構成では、形状磁気異方性を利用するのが一般的である。この場合、形状を利用して磁気異方性を確保しているため、反転電流は形状敏感になり、微細化に伴い反転電流ばらつきが増加することが問題になる。MTJセルのアスペクトも少なくとも1.5以上は必要となるため、セルサイズも大きくなる。面内磁化型の構成で形状磁気異方性ではなく、結晶磁気異方性を利用する場合、大きな結晶磁気異方性エネルギー密度を有する材料(例えば、ハードディスク媒体で用いられているようなCo−Cr合金材料)を用いた場合、結晶軸が面内に大きく分散してしまうため、MR(Magneto Resistive)の低下、インコヒーレントな歳差運動が誘発され、結果として反転電流が増加してしまう。
垂直磁化型のMTJ構成は上述したようにいくつか報告例があるが、スピン偏極電流を利用した書き込み方式で大規模なアレイを構成するための具体的な手段が提案されていない。
以上のように、従来の磁気ランダムアクセスメモリは、書き込み電流の低減とビット情報の熱擾乱耐性の確保、セル面積の縮小を同時に満たすことが望ましいが、電流により発生する磁場を利用した書き込み方式では非常に困難である。また、従来のスピン偏極電流を利用した書き込み方式でも、微細化に伴って顕在化する、熱擾乱耐性の確保に対する具体的な手段が提案されていない。
特開2005-19464号公報
池田他、「GdFe合金垂直磁化膜を用いたGMR 膜及びTMR 膜」、日本応用磁気学会誌、Vol.24, No.4-2, 2000, p.563-566 N.Nisimura,et al., "Magnetic tunnel junction device with perpendicular magnetization films for high-density magnetic random access memory",JOURNAL OF APPLIED PHYSICS, VOLUME 91,NUMBER 8, 15 APRIL 2002 J.C. Slonczewski et al., "Current-driven excitation of magnetic multilayers", JOURNAL OF MAGNETISM AND MAGNETIC MATERIALS, VOLUME 159, NUMBER 1-2, L1-7 1996 K. Yagami et al., "Low-current spin-transfer switching and its thermal durability in a low-saturation-magnetization nanomagnet", APPLIED PHYSICS LETTERS, VOLUME 85, NUMBER 23, 5634-5636 2004
本発明は、メモリセルを微細化してもビット情報の高い熱擾乱耐性を保ち、大容量化を実現し得る磁気抵抗効果素子、磁気ランダムアクセスメモリとそれを用いた電子カード及び電子装置を提供する。
本発明の第1の視点による磁気抵抗効果素子は、スピン偏極電子を磁性体に流すことで情報が記録される磁気抵抗効果素子であって、磁性材料を備え、膜面に対して垂直方向に向く第1の磁化を有する第1の固定層と、磁性材料を備え、膜面に対して垂直方向に向く第2の磁化を有し、前記スピン偏極電子の作用により前記第2の磁化の方向が反転可能な記録層と、前記第1の固定層と前記記録層との間に設けられ、前記第1の固定層に対向する第1の面と前記記録層に対向する第2の面とを有する第1の非磁性層と、前記第1の非磁性層の前記第1の面と前記第1の固定層との間に設けられ、Fe、Co、Niのうち1つ以上の元素を含む第1の磁性金属層と、前記第1の非磁性層の前記第2の面と前記記録層との間に設けられ、Fe、Co、Niのうち1つ以上の元素を含む第2の磁性金属層とを備える。前記第1の非磁性層は、(001)面が配向したMgOを備え、前記第1及び第2の磁性金属層の少なくとも一方は、bcc構造を有し(001)面が配向した、Co、Fe、Co−Fe合金、Fe−Ni合金から選ばれる磁性材料を備え、前記記録層と前記第2の磁性金属層は、互いに交換結合し、前記第2の磁性金属層のダンピング定数は、前記記録層のダンピング定数より小さい。
そして、前記第1の固定層及び前記記録層の少なくとも一方は、(1) Coと、Cr、Ta、Nb、V、W、Hf、Ti、Zr、Pt、Pd、Fe、Niの少なくとも1つとを含む合金から構成されるか、又は、(2) Fe、Co、Niの少なくとも1つを含む第1の層と、Cr、Pt、Pd、Ir、Rh、Ru、Os、Re、Au、Cuの少なくとも1つを含む第2の層とが交互に積層される。
本発明の第2の視点による磁気ランダムアクセスメモリは、前記第1の視点による磁気抵抗効果素子と、前記磁気抵抗効果素子に電流を与える書き込み配線とを備える。
本発明の第3の視点による磁気ランダムアクセスメモリは、前記第1の視点による磁気抵抗効果素子と、前記磁気抵抗効果素子に電流を与える書き込み配線と、前記書き込み配線の少なくとも一部を被覆し、前記磁気抵抗効果素子から漏れた磁場を吸収する軟磁性膜とを備える。
本発明の第4の視点による磁気ランダムアクセスメモリは、前記第1の視点による磁気抵抗効果素子と、前記磁気抵抗効果素子に電流を与える書き込み配線と、前記磁気抵抗効果素子を厚さ方向から挟み、前記磁気抵抗効果素子から漏れた磁場を吸収する第1及び第2の軟磁性膜とを備える。
本発明の第5の視点による電子カードは、前記第1の視点による磁気抵抗効果素子を有する半導体チップと、前記半導体チップを収納し、前記半導体チップを露出する窓を有するカード部と、前記窓を開閉し、磁気遮蔽効果を有する材料を備えるシャッターと、前記カード部に設けられ、前記半導体チップを前記カード部の外部に電気的に接続する端子とを備える。
本発明の第6の視点による電子装置は、前記第5の視点による電子カードを収納する収納部と、前記収納部に設けられ、前記電子カードと電気的に接続され、前記電子カードのデータ書き換え制御信号を供給する端子とを備える。
本発明の第7の視点による磁気抵抗効果素子の製造方法は、スピン偏極電子を磁性体に流すことで情報が記録される磁気抵抗効果素子の製造方法であって、磁性材料を備え、膜面に対して垂直方向に向く第1の磁化を有する第1の固定層と、磁性材料を備え、膜面に対して垂直方向に向く第2の磁化を有し、前記スピン偏極電子の作用により前記第2の磁化の方向が反転可能な記録層と、前記第1の固定層と前記記録層との間に設けられ、前記第1の固定層に対向する第1の面と前記記録層に対向する第2の面とを有する第1の非磁性層と、前記第1の非磁性層の前記第1の面と前記第1の固定層との間に設けられ、Fe、Co、Niのうち1つ以上の元素を含む第1の磁性金属層と、前記第1の非磁性層の前記第2の面と前記記録層との間に設けられ、前記記録層と交換結合し、前記記録層のダンピング定数より小さいダンピング定数を有し、Fe、Co、Niのうち1つ以上の元素を含む第2の磁性金属層とを含む積層構造を形成する工程を具備し、(001)面が配向したMgOにより、前記第1の非磁性層を形成し、bcc構造を有し(001)面が配向した、Co、Fe、Co−Fe合金、Fe−Ni合金から選ばれる磁性材料により、前記第1及び第2の磁性金属層の少なくとも一方を形成し、Fe、Co、Niの少なくとも1つを含む第1の層と、Cr、Pt、Pd、Ir、Rh、Ru、Os、Re、Au、Cuの少なくとも1つを含む第2の層とを、交互に積層することにより、前記第1の固定層及び前記記録層の少なくとも一方を形成する。
本発明の第8の視点による磁気ランダムアクセスメモリの製造方法は、前記第7の視点による磁気抵抗効果素子を形成し、前記磁気抵抗効果素子に電流を与える書き込み配線を形成する。
本発明の第9の視点による磁気ランダムアクセスメモリの製造方法は、前記第7の視点による磁気抵抗効果素子を形成し、前記磁気抵抗効果素子に電流を与える書き込み配線を形成し、前記書き込み配線の少なくとも一部を被覆し、前記磁気抵抗効果素子から漏れた磁場を吸収する軟磁性膜を形成する。
本発明の第10の視点による磁気ランダムアクセスメモリの製造方法は、前記第7の視点による磁気抵抗効果素子を形成し、前記磁気抵抗効果素子に電流を与える書き込み配線を形成し、前記磁気抵抗効果素子を厚さ方向から挟み、前記磁気抵抗効果素子から漏れた磁場を吸収する第1及び第2の軟磁性膜を形成する。
本発明によれば、メモリセルを微細化してもビット情報の高い熱擾乱耐性を保ち、大容量化を実現し得る磁気抵抗効果素子、磁気ランダムアクセスメモリとそれを用いた電子カード及び電子装置を提供できる。
本発明の一実施形態に係るシングルピン構造のMTJ素子を示す概略図。 本発明の一実施形態に係るMTJ素子の具体例1−1を示す概略的な断面図。 本発明の一実施形態に係るMTJ素子の具体例1−2を示す概略的な断面図。 本発明の一実施形態に係るMTJ素子の具体例1−5を示す概略的な断面図。 本発明の一実施形態に係るMTJ素子の具体例1−5の他の例を示す概略的な断面図。 本発明の一実施形態に係るMTJ素子の具体例1−5の他の例を示す概略的な断面図。 本発明の一実施形態に係るMTJ素子の具体例1−6を示す概略的な断面図。 本発明の一実施形態に係るMTJ素子の具体例1−7を示す概略的な断面図。 本発明の一実施形態に係るデュアルピン構造1のMTJ素子を示す概略図。 本発明の一実施形態に係るMTJ素子の具体例2−1を示す概略的な断面図。 本発明の一実施形態に係るデュアルピン構造2のMTJ素子を示す概略図。 本発明の一実施形態に係るMTJ素子の具体例3を示す概略的な断面図。 本発明の一実施形態に係る記録層の膜厚、飽和磁化、磁気異方性エネルギー密度の関係(ダンピング定数=0.01)を示す図。 本発明の一実施形態に係る記録層の膜厚、飽和磁化、磁気異方性エネルギー密度の関係(ダンピング定数=0.002)を示す図。 本発明の一実施形態に係るダンピング定数、飽和磁化、磁気異方性エネルギー密度の関係を示す図。 本発明の一実施形態に係るダンピング定数の小さな材料とダンピング定数の大きな材料とが分散した形態を示す模式図。 本発明の実施形態1に係る磁気ランダムアクセスメモリを示す概略的な断面図。 本発明の実施形態2に係る磁気ランダムアクセスメモリを示す概略的な断面図。 本発明の一実施形態に係る磁気ランダムアクセスメモリがモデムに適用された適用例1を示すブロック図。 本発明の一実施形態に係る磁気ランダムアクセスメモリが携帯電話端末に適用された適用例2を示すブロック図。 本発明の実施形態に係る磁気ランダムアクセスメモリがメディアコンテンツを収納するMRAMカードに適用された適用例3を示す上面図。 図21のMRAMカードにデータを転写するためのカード挿入型のデータ転写装置を示す平面図。 図21のMRAMカードにデータを転写するためのカード挿入型のデータ転写装置を示す断面図。 図21のMRAMカードにデータを転写するためのはめ込み型のデータ転写装置を示す断面図。 図21のMRAMカードにデータを転写するためのスライド型のデータ転写装置を示す断面図。
本発明の実施の形態を以下に図面を参照して説明する。この説明に際し、全図にわたり、共通する部分には共通する参照符号を付す。
[1]MTJ素子
本発明の例では、磁気抵抗効果素子としてMTJ(Magnetic Tunnel Junction)素子を用いる。
[1−1]シングルピン構造
図1(a)及び(b)は、本発明の一実施形態に係るシングルピン構造のMTJ素子の概略図を示す。以下に、本発明の一実施形態に係るシングルピン構造のMTJ素子について説明する。
図1(a)及び(b)に示すように、MTJ素子10は、磁性層からなる記録層(自由層、フリー層)11と、磁性層からなる固定層(固定磁化層、ピン層)12と、記録層11及び固定層12の間に挟まれた非磁性層13とを有する積層構造である。そして、記録層11の磁化方向21及び固定層12の磁化方向22が膜面に対して垂直方向を向く、いわゆる垂直磁化型のMTJ素子10である。
MTJ素子10は、非磁性層13が絶縁体の場合はTMR(Tunneling Magneto Resistive)効果を有し、非磁性層13が金属の場合はGMR(Giant Magneto Resistive)効果を有する。ここで、非磁性層13が絶縁体の場合はMgO(酸化マグネシウム)、AlO(酸化アルミニウム、例えばAl)等が用いられ、非磁性層13が金属の場合はCu、Pt、Au等が用いられる。
(動作)
垂直磁化型のMTJ素子10では、2層の磁性層(記録層11及び固定層12)の磁化配列状態が平行配列(図1(a))又は反平行配列(図1(b))となる。この磁化配列状態により変化する抵抗値に、“0”、“1”の情報を対応させている。また、MTJ素子10にスピン偏極電流30を流し、記録層11の磁化方向21を変化させて情報を書き込む。但し、スピン偏極した電子(以下、スピン偏極電子と称す)は、スピン偏極電流30と逆向きに流れる。
具体的には、図1(a)に示すように、スピン偏極電流30を記録層11から固定層12へ流すと、スピン偏極電子は固定層12から記録層11へ注入され、固定層12の磁化方向22と記録層11の磁化方向21が平行配列となる。一方、図1(b)に示すように、スピン偏極電流30を固定層12から記録層11へ流すと、スピン偏極電子は記録層11から固定層12へ流れ、固定層12と平行なスピンを持つ電子は透過し、反平行のスピンを持つ電子が反射され、結果として、記録層11の磁化方向21と固定層12の磁化方向22が反平行配列となる。
(磁性材料)
MTJ素子10において、固定層12として反転電流の大きな磁性層を用い、記録層11として固定層12よりも反転電流の小さい磁性層を用いることによって、高性能なMTJ素子10を実現することができる。スピン偏極電流30により磁化反転を起こす場合、その反転電流は飽和磁化、異方性磁界、体積に比例するため、これらを適切に調整して、記録層11と固定層12の反転電流に差をつけることができる。
垂直磁化を実現する記録層11及び固定層12を構成する磁性材料としては、例えば5×10erg/cc以上の高い結晶磁気異方性エネルギー密度をもつ材料が望ましく、具体例を以下にあげる。
(1)不規則合金
Coを主成分とし、Cr、Ta、Nb、V、W、Hf、Ti、Zr、Pt、Pd、Fe、Niのうち1つ以上の元素を含む合金。例えば、CoCr合金、CoPt合金、CoCrTa合金、CoCrPt合金、CoCrPtTa合金、CoCrNb合金等があげられる。これらの合金は、非磁性元素の割合を増加させて磁気異方性エネルギー密度、飽和磁化を調整することができる。
(2)規則合金
Fe、Co、Niのうち1つ以上の元素とPt、Pdのうち1つ以上の元素とからなる合金であり、この合金の結晶構造がL1型の規則合金。例えば、Fe50Pt50、Fe50Pd50、Co50Pt50、Fe30Ni20Pt50、Co30Fe20Pt50、Co30Ni20Pt50等があげられる。これらの規則合金は上記組成比に限定されない。これらの規則合金に、Cu(銅)、Cr、Ag(銀)等の不純物元素あるいはその合金、絶縁物を加えて磁気異方性エネルギー密度、飽和磁化を低く調整することができる。
(3)人工格子
Fe、Co、Niのうちいずれか1つの元素あるいは1つ以上の元素を含む合金と、Cr、Pt、Pd、Ir、Rh、Ru、Os、Re、Au、Cuのうちいずれか1つの元素あるいは1つ以上の元素を含む合金とが交互に積層された構造。例えば、Co/Pt人工格子、Co/Pd人工格子、CoCr/Pt人工格子、Co/Ru人工格子、Co/Os、Co/Au、Ni/Cu人工格子等があげられる。これらの人工格子は、磁性層への元素の添加、磁性層と非磁性層の膜厚比を調整することで、磁気異方性エネルギー密度、飽和磁化を調整することができる。
(4)フェリ磁性体
希土類金属と遷移金属との合金からなるフェリ磁性体。例えば、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Gd(ガドリニウム)と、遷移金属のうちのうち1つ以上の元素とからなるアモルファス合金。例えば、TbFe、TbCo、TbFeCo、DyTbFeCo、GdTbCo等があげられる。これらの合金は、組成を調整することで磁気異方性エネルギー密度、飽和磁化を調整することができる。
尚、磁性層は、非磁性体部が偏析することにより、磁性体部と非磁性体部とが分離した構造としてもよい。例えば、SiO、MgO、SiN、SiC等の酸化物、窒化物、炭化物を非磁性体部としてもよいし、例えばCr濃度が25at%以上と大きい非磁性CoCr合金のような合金でもよい。
また、MTJ素子10の非磁性層13に接する磁性層(記録層11、固定層12)の界面には、高分極率材料として、Fe、Co、Niのうち1つ以上の元素あるいはこの1つの元素を含む合金からなる磁性金属層を配置して、磁気抵抗(Magneto Resistive:MR)比を上昇させた構成でもよい。但し、通常、これらの磁性層は単層では面内磁化となるため、垂直磁化の安定性を損なわないように積層する垂直磁気異方性材料との磁気的な膜厚比を調整する必要がある。
その他、記録層11及び固定層12は、磁性層を積層した構造からなり、その一方の磁性層は磁性体が分散した、いわゆるグラニュラー構造であってもよい。
(効果)
本発明の一実施形態に係るシングルピン構造のMTJ素子10では、記録層11及び固定層12の磁化方向21,22を膜面垂直方向に向けるためには、垂直方向の磁気異方性が必要となる。この磁気異方性を結晶磁気異方性に頼る場合は形状には左右されないので、磁性膜のパターンサイズが小さくなっても原理的に形状異方性による異方性磁界は変わらない。従って、磁性膜を垂直磁化膜とすることで初めて反転電流密度を増加させることなく微細化が可能になる。
また、上記したようにMTJ素子10を微細化しても反転電流密度が増加しないため、従来の磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM:Magnetoresistive Random Access Memory)では実現できなかった90nm以下の微細なMTJ素子10を有する大容量(例えば256Mビット以上)の磁気ランダムアクセスメモリを具現化することができる。
以下に、シングルピン構造のMTJ素子10の具体例について説明する。
(a)具体例1−1
具体例1−1のMTJ素子10は、記録層11が人工格子からなり、固定層12が規則合金からなる。
図2は、本発明の一実施形態に係るMTJ素子の具体例1−1の概略的な断面図を示す。以下に、MTJ素子10の具体例1−1について説明する。
図2に示すように、MTJ素子10は、結晶配向用下地15、固定層12、トンネルバリア層TB(非磁性層13)、記録層11、キャップ層16が順に積層された構造を有する。そして、結晶配向用下地15の底面に下部電極14が設けられ、キャップ層16の上面に上部電極17が設けられている。
ここで、固定層12は、記録層11に比べて磁化反転する電流が大きければよく、上述したように飽和磁化、異方性磁界、膜厚を調整すればよい。例えば、固定層12としてFePt、CoPt規則合金を用いる場合は、垂直磁気異方性を発現させるにはfct(face centered tetragonal:面心正方晶)構造の(001)面を配向させる必要がある。そのためには、結晶配向用下地15として、数nm程度のMgO(酸化マグネシウム)からなる極薄下地を用いればよい。他にも、結晶配向用下地15として、格子定数が2.8Å、4Å、5.6Å程度のfcc(face centered cubic:面心立方晶)構造、bcc(body centered cubic:体心立方晶)構造を持つ元素、化合物、例えば、Pt、Pd、Ag、Au、Al、Cr等、あるいはそれらを主成分とした合金を用いることができる。
記録層11は、固定層12に比べて磁化反転する電流が小さくなければならない。上述したように、飽和磁化、異方性磁界、膜厚を固定層12に比べて電流が小さくなるように調整すればよい。例えばCo/Pt人工格子を用いる場合は、CoとPtの膜厚を調整することにより保磁力を調整することが可能となる。
そこで、MTJ素子10の具体例1−1の積層構成は、以下のようになっている。下部電極14は、膜厚が10nmのTaからなる。結晶配向用下地15は、膜厚が0.5nmのMgO上に形成した膜厚が3nmのPtからなる。ここで、MgO/Pt積層膜は、(001)面が配向している。固定層12は、膜厚が10nmの(001)面が配向したFe50Pt50からなる。トンネルバリア層TBは、膜厚が1.5nmのMgOからなる。記録層11は、膜厚が0.45nmのCoと膜厚が1.5nmのPtとを1周期として5周期積層した積層膜[Co/Pt]5からなる。キャップ層16は、膜厚が3nmのPtからなる。上部電極17は、膜厚が10nmのTa上に膜厚が10nmのRuを形成した積層膜からなる。
このような具体例1−1によるMTJ素子10において、振動試料型磁力計で保磁力、飽和磁化を測定した場合、固定層12は5kOe、700emu/cc、記録層11は130Oe、340emu/ccである。
尚、トンネルバリア層TBと記録層11のCoの界面に、MR比を損なわない程度にPt層を挿入してもよい。また、固定層12として、上述したFe50Pt50規則層の代わりに、Co50Pt50規則層、Co30Fe20Pt50規則層等を用いてもよい。さらに、固定層12として、これらをSiO、MgO等で分断した構造となる、(Fe50Pt5088−(SiO12等を用いてもよい。記録層11として、Co/Pt人工格子の代わりに、Co/Pd人工格子を用いてもよい。トンネルバリア層TBとして、Al−Oを用いてもよい。
記録層11と固定層12の積層順が逆になっていてもよい。この場合、MTJ素子10は次のような積層構成になる。下部電極14は、膜厚が10nmのTaからなる。結晶配向用下地15は、膜厚が0.5nmのMgO上に形成した膜厚が3nmのPtからなる。記録層11は、膜厚が0.3nmのCoと膜厚が1.5nmのPtを1周期として5周期積層した[Co/Pt]4/Co人工格子からなる。結晶配向用下地15により、人工格子はPtが(001)面に配向している。トンネルバリア層TBは、膜厚が1.5nmのMgOからなり、記録層11である人工格子の配向性を反映して、(001)面に配向している。固定層12は、膜厚が10nmのFe50Pt50からなり、MgO(001)面を反映してFe50Pt50(001)面が配向している。キャップ層16は、膜厚が3nmのPtからなる。上部電極17は、膜厚が10nmのTa上に膜厚が10nmのRuを形成した積層膜からなる。このような積層順においても、記録層11及び固定層12の保磁力及び飽和磁化は上記と同様の値を示す。この積層順の場合、固定層12としてFe50Pt50を用いているため、トンネルバリア層TBは(001)面が配向したMgOが特によい。記録層11である人工格子[Co/Pt]4/Coは必ずしも(001)面に配向している必要は無く、(111)面に配向してもよい。この場合、例えば、膜厚が10nmのTaからなる下部電極14上に膜厚が5nmのPtからなる結晶配向用下地15を形成することにより、Ptは(111)面が配向する。記録層11上のトンネルバリア層TBのMgOを(001)面に配向させるには、記録層11である人工格子[Co/Pt]4/Coのトンネルバリア層TBの界面側のCoを膜厚が0.5nmのCo60Fe2020とし、人工格子[Co/Pt]4/Co60Fe2020とすればよい。
固定層12を一方向に固着するために、隣接して反強磁性層を設けてもよい。この反強磁性層としては、MnとFe、Ni、Pt、Pd、Ru、Os、Irの合金であるFeMn、NiMn、PtMn、PdMn、PtPdMn、RuMn、OsMn、IrMnやCrPtMn等を用いることができる。
(b)具体例1−2
具体例1−2のMTJ素10は、具体例1−1の変形例であり、トンネルバリア層TBと記録層11の界面及びトンネルバリア層TBと固定層12の界面に高分極率層をそれぞれ設けている。
図3は、本発明の一実施形態に係るMTJ素子の具体例1−2の概略的な断面図を示す。以下に、MTJ素子10の具体例1−2について説明する。
図3に示すように、具体例1−2のMTJ素子10では、固定層12とトンネルバリア層TBとの界面に第1の高分極率層18が設けられ、記録層11とトンネルバリア層TBとの界面に第2の高分極率層19が設けられている。第1の高分極率層18は固定層12と交換結合し、第2の高分極率層19は記録層11と交換結合している。第2の高分極率層19の膜厚は、第1の高分極率層18の膜厚より薄いことが望ましい。これは、記録層11は固定層12よりも小さい電流密度で反転させるためであり、記録層11の体積と飽和磁化Msの積で表される磁気的な膜厚を固定層12の磁気的な膜厚よりも小さくする。そのために、飽和磁化Msを小さくする、膜の厚みを小さくする、あるいは異方性エネルギー密度を小さくすることが望ましい。
第1及び第2の高分極率層18,19は、例えば、Fe、Co、Niのうち1つ以上の元素を含む磁性金属層からなる。また、第1及び第2の高分極率18,19の少なくとも一方は、Fe、Co、Niのうち1つ以上の元素とB、Nb、Zr、Ta、V、Wのうち1つ以上の元素とを含む強磁性合金であって、この強磁性合金の結晶構造がbcc構造からなってもよい。
MTJ素子10の具体例1−2の積層構成は、以下の通りである。下部電極14は、膜厚が10nmのTaからなる。結晶配向用下地15は、膜厚が0.5nmのMgO上に形成した膜厚が3nmのPtからなる。ここで、MgO/Pt積層膜は、(001)面が配向している。固定層12は、膜厚が15nmの(001)面が配向したCo50Pt50からなる。第1の高分極率層18は、膜厚が1.5nmのCo62Fe2216からなる。トンネルバリア層TBは、膜厚が1.5nmのMgOからなる。第2の高分極率層は、膜厚が1.0nmのCo62Fe2216からなる。記録層11は、膜厚が0.7nmのPdと膜厚が0.3nmのCoとを1周期として4周期積層した積層膜[Pd/Co]4からなる。キャップ層16は、膜厚が3nmのPdからなる。上部電極17は、膜厚が10nmのTa上に膜厚10nmのRuを形成した積層膜からなる。
このような具体例1−2によるMTJ素子10において、動試料型磁力計で保磁力、飽和磁化を測定した場合、固定層12は3.5kOe、750emu/cc、記録層11は250Oe、500emu/ccである。但し、固定層12と第1の高分極率層18は交換結合し、記録層11と第1の高分極率層19は交換結合しているため、それぞれ1つの磁性層として振舞うので、上述した保磁力、飽和磁化は1つの磁性体として見た場合の値である。高分極率層18,19の寄与により、MTJ素子10の磁気抵抗比は120%になる。
尚、固定層12をSiO、MgO等で分断した構造となる、(Co50Pt5090−(MgO)10等を用いてもよい。記録層11として、Co/Pd人工格子の代わりに、CoCr/Pd人工格子を用いてもよい。トンネルバリア層TBとして、Al−Oを用いてもよい。記録層11と固定層12の積層順が逆になっていてもよい。固定層12を一方向に固着するために、隣接して反強磁性層を設けてもよい。この反強磁性層としては、MnとFe、Ni、Pt、Pd、Ru、Os、Irの合金であるFeMn、NiMn、PtMn、PdMn、PtPdMn、RuMn、OsMn、IrMnやCrPtMn等を用いることができる。
(c)具体例1−3
具体例1−3のMTJ素10は、図3に示す具体例1−2の積層と同様であり、トンネルバリア層TBと記録層11の界面及びトンネルバリア層TBと固定層12の界面に高分極率層をそれぞれ設けている。そして、高分極率層が、bcc構造の(001)面が配向して積層されたCo、Fe、Co−Fe合金、Fe−Ni合金からなり、さらに(001)面が配向したL1型の規則合金が積層されている。このL10型の規則合金は、記録層であっても固定層であっても良い。
MTJ素子10の具体例1−3の積層構成は、以下の通りである。下部電極14は、膜厚が10nmのTaからなる。結晶配向用下地15は、膜厚が0.5nmのMgO上に形成した膜厚が3nmのPtからなる。ここで、MgO/Pt積層膜は、(001)面が配向している。固定層12は、膜厚が15nmの(001)面が配向したFe50Pt50からなる。第1の高分極率層18は、膜厚が1.0nmのFeからなる。Feは、bcc構造の(001)面が配向している。トンネルバリア層TBは、膜厚が1.5nmの(001)面が配向したMgOからなる。第2の高分極率層は、膜厚が0.5nmのCo50Fe50からなる。Co50Fe50は、bcc構造の(001)面が配向している。記録層11は、膜厚が0.7nmのPdと膜厚が0.3nmのCoを1周期として4周期積層した積層膜[Pd/Co]4からなる。キャップ層16は、膜厚が3nmのPdからなる。上部電極17は、膜厚が10nmのTa上に膜厚が10nmのRuを形成した積層膜からなる。
このような具体例1−3によるMTJ素子10において、振動試料型磁力計で保磁力、飽和磁化を測定した場合、固定層12は4.5kOe、800emu/cc、記録層11は200Oe、550emu/ccである。但し、固定層12と第1の高分極率層18は交換結合し、記録層11と第1の高分極率層19は交換結合しているため、それぞれ1つの磁性層として振舞うので、上述した保磁力、飽和磁化は1つの磁性体として見た場合の値である。高分極率層18,19の寄与により、MTJ素子10の磁気抵抗比は120%になる。
(d)具体例1−4
具体例1−4のMTJ素子10は、図3に示す具体例1−2の積層と同様であり、トンネルバリア層TBと記録層11の界面及びトンネルバリア層TBと固定層12の界面に高分極率層をそれぞれ設けている。そして、記録層11及び固定層12の少なくとも一方が希土類金属(RE)と遷移金属(TM)とを有するRE−TMアモルファス合金からなる。
MTJ素子10の具体例1−4の積層構成は、以下の通りである。下部電極14は、膜厚が10nmのTaからなる。結晶配向用下地15は、膜厚が5nmのRuからなる。固定層12は、膜厚が30nmの(002)面が配向した(Co78Pt12Cr1085−(SiO15からなる。第1の高分極率層18は、膜厚2.0nmのCo62Fe2216からなる。トンネルバリア層TBは、膜厚が1.0nmのMgOからなる。第2の高分極率層19は、膜厚が1.0nmのCo60Fe2020からなる。記録層11は、膜厚が10nmのTb27(Fe71Co2973からなる。キャップ層16は、膜厚が3nmのPtからなる。上部電極17は、膜厚が10nmのTa上に膜厚が10nmのRuを形成した積層膜からなる。
このような具体例1−4によるMTJ素子10において、振動試料型磁力計で保磁力、飽和磁化を測定した場合、固定層12は4.0kOe、500emu/cc、記録層11は500Oe、300emu/ccである。但し、固定層12と第1の高分極率層18は交換結合し、記録層11と第1の高分極率層19は交換結合しているため、それぞれ1つの磁性層として振舞うので、上述した保磁力、飽和磁化は1つの磁性体として見た場合の値である。高分極率層18,19の寄与により、MTJ素子10の磁気抵抗比は100%になる。
尚、固定層12を膜厚50nmのTb22(Fe71Co2978としてもよい。この場合、Tb22(Fe71Co2978等のRE−TM合金はアモルファス合金であるので、結晶配向用下地15として用いた膜厚が5nmのRuは必ずしも必要ではない。但し、RE−TM合金を平滑に形成するバッファ層として、Pt、Ru、SiN等があってもよい。この場合の保磁力、飽和磁化は振動試料型磁力計で測定した結果、8kOe、200emu/ccであった。但し、固定層12と第1の高分極率層18は交換結合しているため、1つの磁性層として振舞うので、上述した保磁力、飽和磁化は1つの磁性体として見た場合の値である。
また、固定層12に積層フェリ構造(磁性層/金属層が交互に積層された構造)を用いてもよい。積層フェリ構造の磁性層としては、Fe、Co、Ni、それらの合金等があげられ、積層フェリ構造の金属層としては、Ru、Ir、Rh、Re、Os等があげられる。積層フェリ構造の具体例としては、Co/Ru、Co/Ir、Co/Rh等がある。この場合、固定層12は、膜厚が0.8nmのRuと膜厚が0.3nmのCoを1周期として15周期積層した人工格子[Ru/Co]15からなる。
トンネルバリア層TBとして、Al−Oを用いてもよい。記録層11と固定層12の積層順が逆になっていてもよい。固定層12を一方向に固着するために、隣接して反強磁性層を設けてもよい。この反強磁性層としては、MnとFe、Ni、Pt、Pd、Ru、Os、Irの合金であるFeMn、NiMn、PtMn、PdMn、PtPdMn、RuMn、OsMn、IrMnやCrPtMn等を用いることができる。
(e)具体例1−5
具体例1−5のMTJ素子は、固定層12を構成する2つの磁性層が反強磁性的に交換結合したシンセティックアンチフェロ(Synthetic AntiFerro:SAF)構造である。
図4は、本発明の一実施形態に係るMTJ素子の具体例1−5の概略的な断面図を示す。以下に、MTJ素子10の具体例1−5について説明する。
図4に示すように、具体例1−5のMTJ素子10では、固定層12が第1の磁性層34と第2の磁性層36と第1及び第2の磁性層34,36間に設けられた第1の非磁性層35とからなり、第1及び第2の磁性層34,36が反強磁性的に交換結合したSAF構造である。この場合、第1及び第2の磁性層34,36の磁化22−1,22−2が反平行状態であるので、第1及び第2の磁性層34,36からの漏れ磁場を相殺し、結果として固定層12の漏れ磁場を低減する効果がある。また、交換結合した磁性層34,36は体積が増加する効果として、熱擾乱耐性を向上させる。
このようなMTJ素子10の具体例1−5の積層構成は、以下の通りである。下部電極14は、膜厚が10nmのTaからなる。結晶配向用下地15は、膜厚が5nmのRuからなる。固定層12は、第1の磁性層34として膜厚が20nmの(002)面が配向した(Co78Pt12Cr1085−(SiO15からなり、第1の非磁性層35として膜厚が0.9nmのRuからなり、第2の磁性層36として膜厚が15nmの(Co78Pt12Cr1085−(SiO15からなる。第1の高分極率層18は、膜厚が1.0nmのCo62Fe2216からなる。トンネルバリア層TBは、膜厚が1.0nmのMgOからなる。記録層11は、膜厚が0.4nmのCoと膜厚が0.8nmのPtを1周期として5周期積層した積層膜[Co/Pt]5からなる。ここで、MgO上に形成した積層膜[Co/Pt]5の第1層目のCoが第2の高分極率層19として機能する。キャップ層16は、膜厚が3nmのPtからなる。上部電極17は、膜厚が10nmのTa上に膜厚10nmのRuを形成した積層膜からなる。
ここで、上下の磁性層34,36を反強磁性的に結合させる第1の非磁性層35の材料としては、Ru、Os、Re、Rhのうち1つ以上の元素あるいは主成分とする合金があげられる。
尚、第1及び第2の磁性層34,36がRE−TM合金のフェリ磁性体からなる場合も、反強磁性結合を実現することができる。この場合、第1の非磁性層35は必ずしも用いなくてもよい。その一例を、図5(a)及び(b)を用いて以下に説明する。
RE−TM合金は、希土類金属(RE)の磁気モーメントと遷移金属(TM)の磁気モーメントが反強磁性的に結合した状態にある。RE−TM合金を積層した場合、RE同士、TM同士が強磁性的に結合することが知られている。RE及びTMの磁気モーメントが互いに相殺するため、RE−TM合金としての磁気モーメントは、組成により調整することができる。
例えば、図5(a)に示すように、REの磁気モーメント41がTMの磁気モーメント42より大きいRE−TM合金層51の場合、残った磁気モーメント43はREの磁気モーメント41と同じ方向になる。このようなRE−TM合金層51上に、REの磁気モーメント44がTMの磁気モーメント45より大きいRE−TM合金層52が積層されると、REの磁気モーメント41,44、TMの磁気モーメント42,45がそれぞれ同じ向きになり、2つのRE−TM合金層51,52の磁気モーメント43、46は同じ方向を向き、平行な状態となる。
これに対し、図5(b)に示すように、REの磁気モーメント47がTMの磁気モーメント48より小さいRE−TM合金層53をRE−TM合金層51上に積層した場合、2つのRE−TM合金層51,53の磁気モーメント43、49は反平行な状態となる。
例えば、Tb−Co合金の場合、Tbが22at%でTbの磁気モーメントとCoの磁気モーメントの大きさが同じになり、磁気モーメントが0になるいわゆる補償組成である。10nmのTb25Co75と10nmのTb20Co80を積層した場合、これらの磁気モーメントは反平行となる。
このような形態を利用して、固定層12を形成する2つの磁性層が反平行に結合したMTJ素子10を作製することができる。具体的には、図4の固定層12を、RE−TM合金からなる第1及び第2の磁性層34,36の2層を積層した構成とすればよい。例えば、第1の磁性層34は膜厚が20nmのTb22(Fe71Co2978からなり、第2の磁性層36は膜厚が15nmのTb26(Fe71Co2974からなる。ここで、Tb24(Fe71Co2976が補償組成である。
また、第1及び第2の磁性層34,36がRE−TM合金からなる場合に、第1及び第2の磁性層34,36間に第1の非磁性層35を設けて反強磁性結合を実現することも可能である。その一例を、図6(a)及び(b)を用いて以下に説明する。
図6(a)に示す第1及び第2の磁性層51,52のTMの磁気モーメント42,45は、非磁性層54を介して交換結合すると考えられる。同様に、図6(b)に示す第1及び第2の磁性層51,53のTMの磁気モーメント42,48は、非磁性層54を介して交換結合すると考えられる。
例えば、図6(a)に示すように、Coを反強磁性的に結合させる金属及びその合金を非磁性層54として用いた場合は、RE−TM合金層51のREの磁気モーメント41をTMの磁気モーメント42より大きくし、RE−TM合金層52のREの磁気モーメント44をTMの磁気モーメント45より大きくする。すなわち、非磁性層54が反強磁性結合に寄与する場合、TMの磁気モーメント42とREの磁気モーメント41の大小関係とTMの磁気モーメント45とREの磁気モーメント44の大小関係を同じに設定すれば、TMとREの磁気モーメントが互いに相殺され、磁気モーメント43,46が第1及び第2の磁性層51,52で反平行となる。尚、Coを反強磁性的に結合させる非磁性層54の材料としては、Ru、Rh、Os、Reのうち1つ以上の元素、あるいは当該元素を主成分とする合金があげられる。
また、図6(b)に示すように、Coを強磁性的に結合させる金属及びその合金を非磁性層54として用いた場合は、RE−TM合金層51のREの磁気モーメント41をTMの磁気モーメント42より大きくし、RE−TM合金層53のREの磁気モーメント47をTMの磁気モーメント48より小さくする。すなわち、非磁性層54が強磁性結合に寄与する場合、TMの磁気モーメント42とREの磁気モーメント41の大小関係とTMの磁気モーメント48とREの磁気モーメント47の大小関係を逆に設定すれば、TMとREの磁気モーメントが互いに相殺され、磁気モーメント43,49が第1及び第2の磁性層51,53で反平行となる。尚、Coを強磁性的に結合させる非磁性層54の材料としては、Pt、Pd等のうち1つ以上の元素、あるいは当該元素を主成分とする合金があげられる。
このような形態を利用して、図6(a)及び(b)の第1の磁性層51、非磁性層54、第2の磁性層52,53を、図4の固定層12の第1の磁性層34、非磁性層35、第2の磁性層36に対応させればよい。
尚、固定層12を一方向に固着するために、隣接して反強磁性層を設けてもよい。この反強磁性層としては、MnとFe、Ni、Pt、Pd、Ru、Os、Irの合金であるFeMn、NiMn、PtMn、PdMn、PtPdMn、RuMn、OsMn、IrMnやCrPtMn等を用いることができる。
このほか、REの磁気モーメントがTMの磁気モーメントよりも大きいRE−TM合金と遷移金属を主成分とする金属、合金を積層してもよい。
(f)具体例1−6
具体例1−6のMTJ素子は、記録層11がSAF構造の人工格子からなる。
図7は、本発明の一実施形態に係るMTJ素子の具体例1−6の概略的な断面図を示す。以下に、MTJ素子10の具体例1−6について説明する。
図7に示すように、具体例1−6のMTJ素子10では、記録層11が第1の磁性層31と第1の非磁性層32と第2の磁性層33とからなり、第1及び第2の磁性層31,33が反強磁性的に交換結合したSAF構造である。この場合、第1及び第2の磁性層31,33の磁化21−1,21−2が反平行状態であるので、第1及び第2の磁性層31,33からの漏れ磁場を相殺し、結果として記録層11の漏れ磁場を低減する効果がある。また、交換結合した磁性層31,33は体積が増加する効果として、熱擾乱耐性を向上させる。
このようなMTJ素子10の具体例1−5の積層構成は、以下の通りである。下部電極14は、膜厚が10nmのTaからなる。結晶配向用下地15は、膜厚が0.5nmのMgO上に形成した膜厚3nmのPtからなる。ここで、MgO/Pt積層膜は、(001)面が配向している。固定層12は、膜厚が20nmの(001)面が配向したCo50Pt50からなる。第1の高分極率層18は、膜厚が1.5nmのCo62Fe2216からなる。トンネルバリア層TBは、膜厚が1.2nmのMgOからなる。第2の高分極率層19は、膜厚が0.8nmのCo63Fe1710からなる。記録層11の第1の磁性層31は、膜厚が0.7nmのPdと膜厚が0.3nmのCoを1周期として4周期積層した人工格子[Pd/Co]4からなる。記録層11の第1の非磁性層32は、膜厚が0.9nmのRuからなる。記録層11の第2の磁性層33は、膜厚が0.3nmのCoと膜厚が0.7nmのPdを1周期として3周期積層した人工格子[Co/Pd]3からなる。キャップ層16は、膜厚が3nmのPdからなる。上部電極17は、膜厚が10nmのTa上に膜厚10nmのRuを形成した積層膜からなる。
尚、固定層12を一方向に固着するために、隣接して反強磁性層を設けてもよい。この反強磁性層としては、MnとFe、Ni、Pt、Pd、Ru、Os、Irの合金であるFeMn、NiMn、PtMn、PdMn、PtPdMn、RuMn、OsMn、IrMnやCrPtMn等を用いることができる。
このほか、第1及び第2の磁性層31,33が人工格子ではなく、規則合金や不規則合金でもよい。REの磁気モーメントがTMの磁気モーメントよりも大きいRE−TM合金と遷移金属を主成分とする金属、合金を積層してもよい。
(g)具体例1−7
具体例1−7のMTJ素子は、記録層11及び固定層12の両方がSAF構造になっている。
図8は、本発明の一実施形態に係るMTJ素子の具体例1−7の概略的な断面図を示す。以下に、MTJ素子10の具体例1−7について説明する。
図8に示すように、具体例1−7のMTJ素子10では、記録層11が第1の磁性層31と第1の非磁性層32と第2の磁性層33とからなり、第1及び第2の磁性層31,33が反強磁性的に交換結合したSAF構造である。さらに、固定層12が第1の磁性層34と第1の非磁性層35と第2の磁性層36とからなり、第1及び第2の磁性層34,36が反強磁性的に交換結合したSAF構造である。この場合、第1及び第2の磁性層31,33の磁化21−1,21−2が反平行状態であるので、第1及び第2の磁性層31,33からの漏れ磁場を相殺し、結果として記録層11の漏れ磁場を低減する効果がある。同様に、第1及び第2の磁性層34,36の磁化22−1,22−2が反平行状態であるので、第1及び第2の磁性層34,36からの漏れ磁場を相殺し、結果として固定層12の漏れ磁場を低減する効果がある。また、交換結合した磁性層31,33、磁性層34,36は体積が増加する効果として、熱擾乱耐性を向上させる。
このようなMTJ素子10の具体例1−7の積層構成は、以下の通りである。下部電極14は、膜厚が10nmのTaからなる。結晶配向用下地15は、膜厚が5nmのRuからなる。固定層12は、第1の磁性層34として膜厚が20nmの(002)面が配向した(Co78Pt12Cr1085−(SiO15からなり、第2の非磁性層35として膜厚が0.9nmのRuからなり、第2の磁性層36として膜厚が15nmの(Co78Pt12Cr1085−(SiO15からなる。第1の高分極率層18は、膜厚が1.0nmのCo62Fe2216からなる。トンネルバリア層TBは、膜厚が1.2nmのMgOからなる。第2の高分極率層は、膜厚が0.8nmのCo63Fe1710からなる。記録層11の第1の磁性層31は、膜厚が0.7nmのPdと膜厚が0.3nmのCoを1周期として4周期積層した人工格子[Pd/Co]4からなる。記録層11の第2の非磁性層32は膜厚が0.9nmのRuからなる。記録層11の第2の磁性層33は膜厚が0.3nmのCoと膜厚が0.7nmのPdを1周期として3周期積層した人工格子[Co/Pd]3からなる。キャップ層16は、膜厚が3nmのPdからなる。上部電極17は、膜厚が10nmのTa上に膜厚10nmのRuを形成した積層膜からなる。
尚、固定層12を一方向に固着するために、隣接して反強磁性層を設けてもよい。この反強磁性層としては、MnとFe、Ni、Pt、Pd、Ru、Os、Irの合金であるFeMn、NiMn、PtMn、PdMn、PtPdMn、RuMn、OsMn、IrMnやCrPtMn等を用いることができる。
反平行結合の形態は、前述したようにREの磁気モーメントとTMの磁気モーメントの大小関係が逆のRE−TM合金の積層膜、REの磁気モーメントがTMの磁気モーメントよりも大きいRE−TM合金と遷移金属を主成分とする金属、合金を積層してもよいし、Ru等の非磁性層を挟んだいわゆるSAF構造としてもよい。
[1−2]デュアルピン構造1
図9(a)及び(b)は、本発明の一実施形態に係るデュアルピン構造1のMTJ素子の概略的な断面図を示す。以下に、本発明の一実施形態に係るデュアルピン構造1のMTJ素子について説明する。
図9(a)及び(b)に示すように、MTJ素子10は、磁性層からなる記録層11と、磁性層からなる第1及び第2の固定層12a,12bと、記録層11及び第1の固定層12aの間に挟まれた第1の非磁性層13aと、記録層11及び第2の固定層12bの間に挟まれた第2の非磁性層13bとを有する積層構造である。そして、記録層11の磁化方向21及び固定層12a,12bの磁化方向22a,22bが膜面に対して垂直方向を向く、いわゆる垂直磁化型のMTJ素子10である。ここで、第1及び第2の固定層12a,12bは、磁化22a,22bが異なる方向に向く反平行の磁化配列である。
MTJ素子10は、第1及び第2の非磁性層13a、13bが絶縁体の場合はTMR効果を有し、第1及び第2の非磁性層13a、13bが金属の場合はGMR効果を有する。ここで、第1及び第2の非磁性層13a、13bが絶縁体の場合はMgO(酸化マグネシウム)、AlO(酸化アルミニウム、例えばAl)等が用いられ、第1及び第2の非磁性層13a、13bが金属の場合はCu、Pt、Au等が用いられる。
(動作)
デュアルピン構造1のMTJ素子10では、第1の非磁性層13aを挟持する磁性層(記録層11及び固定層12a)又は第2の非磁性層13bを挟持する磁性層(記録層11及び固定層12b)は、平行、反平行配列を取る。しかし、MTJ素子10全体として見た場合、図9(a)及び(b)は共に平行配列と反平行配列が同時に存在するため、両者の全体の磁気抵抗は変化しない。従って、このように固定層12a,12bを記録層11の両側に反平行の磁化配列で設けた場合、第1及び第2の非磁性層13a,13bを介した磁気抵抗の変化に差をつけておく必要がある。
例えば、第1の非磁性層13aをトンネルバリア層TBとし、第2の非磁性層13bを金属層とした場合、トンネルバリア層TBで生じる磁気抵抗の変化の方が金属層で生じる磁気抵抗の変化に比べて大きく、第1の非磁性層13aを介した磁化配列が“0”、“1”の情報に対応する。従って、図9(a)では平行配列、図9(b)では反平行配列となる。尚、第2の非磁性層13bをトンネルバリア層TB、第1の非磁性層13aを金属層としても構わない。
上述するように第1の非磁性層13aをトンネルバリア層TBとした場合、2層の磁性層(記録層11及び固定層12a)の磁化配列状態が平行配列(図9(a))又は反平行配列(図9(b))となる。この磁化配列状態により変化する抵抗値に、“0”、“1”の情報を対応させている。そして、MTJ素子10にスピン偏極電流30を流し、記録層11の磁化方向21を変化させて情報を書き込む。但し、スピン偏極電子は、スピン偏極電流30と逆向きに流れる。
具体的には、図9(a)に示すように、スピン偏極電流30を第2の固定層12bから第1の固定層12aへ流すと、スピン偏極電子は第1の固定層12aから第2の固定層12bへ流れる。この場合、第1の固定層12aからは上向きのスピンが主として注入されるため、記録層11のスピンを平行に揃えようとするトルクが働き、記録層11から第2の固定層12bにスピン偏極電子が流れる過程で、第2の固定層12bが下向きスピンを透過しやすいため、反射された上向きスピンの電子が記録層11に注入されることになり、記録層11の磁化方向21が第1の固定層12aの磁化方向22aと平行になる。一方、図9(b)に示すように、第2の固定層12bから第1の固定層12aに電流を流した場合は、同様に考えられ、記録層11の磁化方向21が第2の固定層22bの磁化方向22bと平行になる。
(磁性材料)
記録層11及び固定層12a,12bの磁性材料としては、上記シングルピン構造と同様の材料を用いることができる。
(効果)
本発明の一実施形態に係るデュアルピン構造1のMTJ素子10によれば、上記シングルピン構造と同様の効果を得ることができる。さらに、固定層12a,12bを記録層11の両側に設けたデュアルピン構造にすることで、スピン偏極電子の反射の効果をより利用できるため、シングルピン構造よりもさらに反転電流を低減することができる。
以下に、デュアルピン構造1のMTJ素子10の具体例について説明する。
(a)具体例2−1
具体例2−1のMTJ素子は、記録層11の両側に設けられた固定層12a,12bのうち一方の固定層12aがSAF構造になっている。
図10は、本発明の一実施形態に係るMTJ素子の具体例2−1の概略的な断面図を示す。以下に、MTJ素子10の具体例2−1について説明する。
図10に示すように、MTJ素子10は、結晶配向用下地15、第1の固定層12a、第1の非磁性層13a、記録層11、第1の高分極率層18、第2の非磁性層13b、第2の高分極率層19、第2の固定層12b、キャップ層16が順に積層された構造を有する。ここで、第1の固定層12aは、第1の磁性層34と非磁性層35と第2の磁性層36からなるSAF構造である。そして、結晶配向用下地15の底面に下部電極14が設けられ、キャップ層16の上面に上部電極17が設けられている。この場合、第1及び第2の磁性層34,36の磁化22a−1,22a−2が反平行状態であるので、第1及び第2の磁性層34,36からの漏れ磁場を相殺し、結果として固定層12aの漏れ磁場を低減する効果がある。また、交換結合した磁性層34,36は体積が増加する効果として、熱擾乱耐性を向上させる。
MTJ素子10の具体例2−1の積層構成は、以下の通りである。下部電極14は、膜厚が10nmのTaからなる。結晶配向用下地15は、膜厚が5nmのRuからなる。固定層12aは、第1の磁性層34として膜厚が20nmの(002)面が配向した(Co78Pt12Cr1085−(SiO15からなり、非磁性層35として膜厚が0.9nmのRuからなり、第2の磁性層36として膜厚が15nmの(Co78Pt12Cr1085−(SiO15からなる。第1の非磁性層13aは、膜厚が5nmのCuからなる。記録層11は、膜厚が0.3nmのCoと膜厚が0.7nmのPtを1周期として4周期積層した人工格子[Co/Pt]4からなる。第1の高分極率層18は、膜厚が0.5nmのCo62Fe2216からなる。トンネルバリア層TBは、膜厚が1.5nmのMgOからなる。ここで、MgOは、(001)面が配向している。第2の高分極率層19は、膜厚が1nmのFeからなる。このとき、Feは、(001)面が配向している。固定層12bは、膜厚が15nmの(001)面が配向したFe50Pt50からなる。キャップ層16は、膜厚が3nmのPtからなる。上部電極17は、膜厚が10nmのTa上に膜厚10nmのRuを形成した積層膜からなる。ここで、トンネルバリア層TBを介して生じる磁気抵抗比は、磁性層13aを介して生じる磁気抵抗比より大きくなっている。
この構成では、第1の非磁性層13aであるCuを介した磁気抵抗の変化より、トンネルバリア層TBであるMgOを介した磁気抵抗の変化が大きく、記録層11と第1の高分極率層18を一体とした磁性層と第2の高分極率層19と第2の固定層12bを一体とした磁性層の磁化配列によって、情報を記憶する。また、固定層12aの磁性層に膜厚差をつけたSAF構造とすることで、固定層12aの差し引きの磁気モーメントと、固定層12bの磁気モーメントの向きを逆向きに設定することができ、記録層11にかかる固定層12a、12bからの漏れ磁場を相殺することができる。
尚、固定層12aは、RE−TM合金を利用して形成することもできる。これは、具体例1−5で述べたように、REの磁気モーメントがTMの磁気モーメントより大きくなるRE−TM合金を用い、TMを主成分とする、例えばCoやCoFe合金を積層すれば、第2の非磁性層13aの界面にあるCo、CoFeの磁気モーメントをRE−TM合金におけるTMの磁気モーメントと平行にすることができるので、当該Co、CoFeの磁気モーメントをRE−TM合金の磁気モーメント(REの磁気モーメント)と反平行に設定することができるためである。
(b)具体例2−2
具体例2−2のMTJ素子は、図9のように記録層11の両側に設けられた固定層12a,12bがともに単層構造になっている。つまり、具体例2−2は、図10の固定層12aが単層構造となった例であるため、この図10を参照してMTJ素子10の具体例2−2について以下に説明する。
図10に示すように、MTJ素子10は、結晶配向用下地15、第1の固定層12a、第1の非磁性層13a、記録層11、第1の高分極率層18、第2の非磁性層13b、第2の高分極率層19、第2の固定層12b、キャップ層16が順に積層された構造を有する。そして、結晶配向用下地15の底面に下部電極14が設けられ、キャップ層16の上面に上部電極17が設けられている。
MTJ素子10の具体例2−2の積層構成は、以下の通りである。下部電極14は、膜厚が10nmのTaからなる。結晶配向用下地15は、膜厚が0.5nmのCo40Fe4020、膜厚が0.5nmのMgO、膜厚が2nmのPtが順次形成された積層膜からなる。固定層12aは膜厚が10nmの(001)面が配向したFe50Pt50からなり、第1の非磁性層13aは、膜厚が5nmの(001)面が配向したAuからなり、記録層11は、膜厚が2nmの(001)面が配向したFe38Cu12Pt50からなる。第1の高分極率層18は、膜厚が0.5nmのFeからなる。トンネルバリア層TBは、膜厚が1.2nmのMgOからなる。ここで、MgOは、(001)面が配向している。第2の高分極率層19は、膜厚が1nmのFeからなる。このとき、Feは、(001)面が配向している。固定層12bは、膜厚が5nmの(001)面が配向したFe50Pt50からなる。キャップ層16は、膜厚が3nmのPtからなる。上部電極17は、膜厚が10nmのTa上に膜厚10nmのRuを形成した積層膜からなる。
ここで、トンネルバリア層TBを介して生じる磁気抵抗比は、非磁性層13aを介して生じる磁気抵抗比より大きくなっている。
固定層12aの保磁力は固定層12bの保磁力よりも大きく、この保磁力の差を利用して固定層12aと固定層12bの磁化配列を反平行に設定することが可能になる。すなわち、2回の着磁を行えばよい。まず、1回目の磁場印加により、固定層12aの磁化と、一体化した記録層として振舞う記録層11と第1の高分極率層18の磁化と、一体化した固定層として振舞う第2の高分極率層19と固定層12bの磁化は、同じ方向に配列する。その後、2回目の磁場印加は、1回目と逆向きに行う。この2回目の印加磁場は、一体化した固定層として振舞う第2の高分極率層19と固定層12bの保磁力よりも大きく、固定層12aの保磁力よりも小さい。これにより、固定層12aの磁化方向に対して、一体化した記録層として振舞う記録層11と第1の高分極率層18の磁化と、一体化した固定層として振舞う第2の高分極率層19と固定層12bの磁化は逆方向になる。このようにして、図9のような磁化配列を実現する事ができる。
この構成では、第1の非磁性層13aであるAuを介した磁気抵抗の変化より、トンネルバリア層TBであるMgOを介した磁気抵抗の変化が大きく、記録層11と第1の高分極率層18を一体とした磁性層と第2の高分極率層19と第2の固定層12bを一体とした磁性層の磁化配列によって、情報を記憶する。Au等の金属膜を介した磁気抵抗は抵抗が低いため、高分極率層を設置しても磁気抵抗の変化はトンネルバリア層よりも小さいため、高分極率層を設置しても構わない。
同様に、上述のMTJ素子10の中で、固定層12aを膜厚が30nmのTb22(Fe71Co2978、固定層12bを膜厚が30nmのTb26(Fe71Co2974、記録層11を膜厚が5nmのTb22(Fe71Co2978にする。ここで、Tb24(Fe71Co2976が補償組成である。この場合、固定層12aはTMの磁気モーメントがREの磁気モーメントよりも大きく、固定層12bはREの磁気モーメントがTMの磁気モーメントよりも大きいため、一方向に一度だけ着磁することで、図9の固定層12a、12bの磁化配列と同等の磁化配列を実現できる。すなわち、固定層12bのTMの磁気モーメントはREの磁気モーメントと反対を向くため、固定層12b全体では着磁した方向(TMの磁気モーメントの方向)と逆向きを向き、さらに第2の高分極率層19であるFeはTMの磁気モーメントと交換結合するため、着磁した方向と逆向きになる。
各磁性層は、具体例1−1から具体例1−7で述べてきたように、規則合金、不規則合金、人工格子、RE−TM合金等から適宜選択することができる。
固定層12bをSAF構造としたり、固定層12aを単層構造としたりしてもよい。
本具体例では、高分極率層18,19は、トンネルバリア層TBと記録層11との間及びトンネルバリア層TBと固定層12bとの間にそれぞれ挿入し、非磁性層13aと記録層11との間及び非磁性層13aと固定層12aとの間には設けていない。しかし、非磁性層13aを介した記録層11及び固定層12aの間に高分極率層を設けてもよい。この場合も、トンネルバリア層TBを介して生じる磁気抵抗比を、磁性層13aを介して生じる磁気抵抗比より大きくする必要がある。ここで、非磁性層13a、13bは、トンネル磁気抵抗効果を示す絶縁体、トンネルバリアとしても良い。この場合、どちらか一方のみのトンネルバリアの界面に高分極率層を設けることにより、磁気抵抗比に差をつけることができる。
固定層12を一方向に固着するために、隣接して反強磁性層を設けてもよい。この反強磁性層としては、MnとFe、Ni、Pt、Pd、Ru、Os、Irの合金であるFeMn、NiMn、PtMn、PdMn、PtPdMn、RuMn、OsMn、IrMnやCrPtMn等を用いることができる。
[1−3]デュアルピン構造2
図11(a)及び(b)は、本発明の一実施形態に係るデュアルピン構造2のMTJ素子の概略的な断面図を示す。以下に、本発明の一実施形態に係るデュアルピン構造2のMTJ素子について説明する。
図11(a)及び(b)に示すように、MTJ素子10は、磁性層からなる記録層11と、磁性層からなる第1及び第2の固定層12a,12bと、記録層11及び第1の固定層12aの間に挟まれた第1の非磁性層13aと、記録層11及び第2の固定層12bの間に挟まれた第2の非磁性層13bとを有する積層構造である。さらに、記録層11は、第1の磁性層31と非磁性層32と第2の磁性層33からなるSAF構造である。そして、記録層11の磁化方向21−1,21−2及び固定層12a,12bの磁化方向22a,22bが膜面に対して垂直方向を向く、いわゆる垂直磁化型のMTJ素子10である。
ここで、具体例2−1とは、第1及び第2の固定層12a,12bの磁化22a,22bが平行の磁化配列である点が異なる。これに対応して、記録層11はSAF構造となることが望ましいが、具体例1−5等で述べたように、REの磁気モーメント41がTMの磁気モーメント42より大きいRE−TM合金層51とREの磁気モーメント47がTMの磁気モーメント48より小さいRE−TM合金層53とを積層して、2つのRE−TM合金の磁気モーメントを反平行な状態としてもよい。
MTJ素子10は、第1及び第2の非磁性層13a、13bが絶縁体の場合はTMR効果を有し、第1及び第2の非磁性層13a、13bが金属の場合はGMR効果を有する。ここで、第1及び第2の非磁性層13a、13bが絶縁体の場合はMgO(酸化マグネシウム)、AlO(酸化アルミニウム、例えばAl)等が用いられ、第1及び第2の非磁性層13a、13bが金属の場合はCu、Pt、Au等が用いられる。
(動作)
デュアルピン構造2のMTJ素子10では、第1の非磁性層13aを挟持する磁性層(記録層11の磁性層31及び固定層12a)又は第2の非磁性層13bを挟持する磁性層(記録層11の磁性層33及び固定層12b)は、平行、反平行配列を取る。しかし、MTJ素子10全体として見た場合、図11(a)及び(b)は共に平行配列と反平行配列が同時に存在するため、両者の全体の磁気抵抗は変化しない。従って、このように固定層12a,12bを記録層11の両側に平行の磁化配列で設けた場合、第1及び第2の非磁性層13a,13bを介した磁気抵抗の変化に差をつけておく必要がある。
例えば、第1の非磁性層13aをトンネルバリア層TBとし、第2の非磁性層13bを金属層とした場合、トンネルバリア層TBで生じる磁気抵抗の変化の方が金属層での変化に比べて大きく、第1の非磁性層13aを介した磁化配列が“0”、“1”の情報に対応する。従って、図11(a)では平行配列、図11(b)では反平行配列となる。尚、第2の非磁性層13bをトンネルバリア層TB、第1の非磁性層13aを金属層としても構わない。ここで、非磁性層13a、13bは、トンネル磁気抵抗効果を示す絶縁体、トンネルバリアとしても良い。この場合、どちらか一方のみのトンネルバリアの界面に高分極率層を設けることにより、磁気抵抗比に差をつけることができる。
上述するように第1の非磁性層13aをトンネルバリア層TBとした場合、2層の磁性層(記録層11の磁性層31及び固定層12a)の磁化配列状態が平行配列(図11(a))又は反平行配列(図11(b))となる。この磁化配列状態により変化する抵抗値に、“0”、“1”の情報を対応させている。そして、MTJ素子10にスピン偏極電流30を流し、記録層11の磁化方向21を変化させて情報を書き込む。但し、スピン偏極電子は、スピン偏極電流30と逆向きに流れる。
具体的には、図11(a)に示すように、スピン偏極電流30を第2の固定層12bから第1の固定層12aへ流すと、スピン偏極電子は第1の固定層12aから第2の固定層12bへ流れる。この場合、第1の固定層12aからは上向きのスピンが主として注入されるため、記録層11を形成する第1の磁性層31のスピンを平行に揃えようとするトルクが働き、記録層11を形成する第2の磁性層33から第2の固定層12bに電子が流れる過程で、第2の固定層12bが上向きスピンを透過しやすいため、反射された下向きスピンの電子が記録層11を形成する第2の磁性層33に注入されることになり、記録層11を形成する第1の磁性層31の磁化21−1の向きが固定層12aの磁化22aと平行になり、第2の磁性層33の磁化21−2の向きが固定層12bの磁化22bと反平行になる。一方、図11(b)に示すように、第2の固定層12bから第1の固定層12aに電流を流した場合も同様に考えられ、記録層11を形成する第1の磁性層31の磁化21−1の向きが固定層12aの磁化22aと反平行になり、第2の磁性層33の磁化21−2の向きが固定層12bの磁化22bと平行になる。
(磁性材料)
記録層11の磁性層31,33及び固定層12a,12bの磁性材料としては、上記シングルピン構造と同様の材料を用いることができる。
(効果)
本発明の一実施形態に係るデュアルピン構造2のMTJ素子10によれば、上記シングルピン構造と同様の効果を得ることができる。さらに、固定層12a,12bを記録層11の両側に設けたデュアルピン構造にすることで、スピン偏極電子の反射の効果をより利用できるため、シングルピン構造よりもさらに反転電流を低減することができる。
以下に、デュアルピン構造2のMTJ素子10の具体例について説明する。
(a)具体例3
具体例3のMTJ素子は、記録層11がSAF構造になっており、第1及び第2の固定層12a,12bの磁化の向きが平行である。
図12は、本発明の一実施形態に係るMTJ素子の具体例3の概略的な断面図を示す。以下に、MTJ素子10の具体例3について説明する。
図12に示すように、MTJ素子10は、結晶配向用下地15、第1の固定層12a、第1の高分極率層18、トンネルバリア層TB、第2の高分極率層19、記録層11、第2の非磁性層13b、第2の固定層12b、キャップ層16が順に積層された構造を有する。ここで、記録層11は、第1の磁性層31と非磁性層32と第2の磁性層33からなるSAF構造である。そして、結晶配向用下地15の底面に下部電極14が設けられ、キャップ層16の上面に上部電極17が設けられている。この場合、第1及び第2の磁性層31,33の磁化21−1,21−2が反平行状態であるので、第1及び第2の磁性層31,33からの漏れ磁場を相殺し、結果として記録層11の漏れ磁場を低減する効果がある。また、交換結合した磁性層31,33は体積が増加する効果として、熱擾乱耐性を向上させる。
MTJ素子10の具体例3の積層構成は、以下の通りである。下部電極14は、膜厚が10nmのTaからなる。結晶配向用下地15は、膜厚が0.5nmのMgO上に形成した膜厚3nmのPtからなる。ここで、MgO/Pt積層膜は、(001)面が配向している。第1の固定層12aは、膜厚が20nmの(001)面が配向したFe50Pt50からなる。第1の高分極率層18は、膜厚が1.5nmのCo62Fe2216からなる。トンネルバリア層TBは、膜厚が1.5nmのMgOからなる。第2の高分極率層19は、膜厚が0.5nmのCo63Fe1710からなる。記録層11の第1の磁性層31は、膜厚が0.7nmのPdと膜厚が0.3nmのCoを1周期として4周期積層した人工格子[Pd/Co]4からなる。記録層11の第1の非磁性層32は、膜厚が0.9nmのRuからなる。記録層11の第2の磁性層33は、膜厚が0.3nmのCoと膜厚が0.7nmのPdを1周期として2周期積層した人工格子[Co/Pd]2からなる。第2の非磁性層13bは、膜厚が0.8nmのMgOからなる。第2の固定層12bは、膜厚が30nmのTb20(Fe80Co2080からなる。ここで、Tb20(Fe80Co2080は、REの磁気モーメントがTMの磁気モーメントより小さくなっており、第1の固定層12aと第2の固定層12bの磁化方向22a,22bが、平行になるように調整してある。キャップ層16は、膜厚が3nmのPtからなる。上部電極17は、膜厚が10nmのTa上に膜厚10nmのRuを形成した積層膜からなる。ここで、両界面に高分極率層が挿入されているトンネルバリア層TBを介して生じる磁気抵抗比は、高分極率層が挿入されていない非磁性層13bを介して生じる磁気抵抗比より大きくなっている。
尚、各磁性層は、具体例1−1から具体例1−7で述べてきたように、規則合金、不規則合金、人工格子、RE−TM合金等から適宜選択することができる。
本具体例では、高分極率層18,19は、トンネルバリア層TBと記録層11の磁性層31との間及びトンネルバリア層TBと固定層12aとの間にそれぞれ挿入し、非磁性層13bと記録層11の磁性層33との間及び非磁性層13bと固定層12bとの間には設けていない。しかし、非磁性層13bを介した記録層11の磁性層33及び固定層12bの間に高分極率層を設けてもよい。この場合も、トンネルバリア層TBを介して生じる磁気抵抗比を、非磁性層13bを介して生じる磁気抵抗比より大きくする必要がある。
固定層12a,12bを一方向に固着するために、隣接して反強磁性層を設けてもよい。この反強磁性層としては、MnとFe、Ni、Pt、Pd、Ru、Os、Irの合金であるFeMn、NiMn、PtMn、PdMn、PtPdMn、RuMn、OsMn、IrMnやCrPtMn等を用いることができる。
[1−4]記録層の飽和磁化等についての考察
上述した種々の具体例は、スピン注入磁化反転を実現する垂直磁化膜の構成の一例である。例えば、256Mbit以上の容量をもつ大容量メモリとするには、書き込み電流の低減が必須である。この書き込み電流は、書き込み用の選択トランジスタで流せる電流で制約され、それ以下のスピン偏極電流で磁化反転を起こさなければならない。微細化に伴い、選択トランジスタのゲート長が縮小されると、書き込み電流の電流値も小さくなる。このため、書き込み電流密度Jwは、5×10A/cm以下程度に抑えなければならず、より好ましくは、2×10A/cm以下程度に抑えることが望ましい。
非特許文献3、4によれば、反転電流は、概ね、(式1)で見積もることができる。但し、(式1)の反転電流は、磁化状態が平行(P)から反平行(AP)に反転する場合のものである。磁化状態が平行(P)から反平行(AP)に反転する場合の方が、磁化状態が反平行(AP)から平行(P)に反転する場合よりも反転電流が大きくなるので、前者の場合について考察をしている。
Figure 0005017347
ここで、eは電気素量、Msは反転する磁性層(記録層11)の飽和磁化、Vは体積、αdampはギルバートのダンピング定数、hはプランク定数を2πで割った定数、g’はg係数、g(θ)は2つの磁性体のなす角θのときのスピントランスファーの効率で分極率の関数である。磁化状態が平行(P)から反平行(AP)に反転する場合はθ=0、反平行(AP)から平行(P)に反転する場合はθ=πとする。Hextは外部磁場、Haniは異方性磁界である。異方性磁界Haniは、一般に形状磁気異方性と材料に起因する磁気異方性である。g’(g係数)は磁気モーメントと角運動量を結びつける係数の1つであり、軌道角運動量の場合はg’=1、スピン角運動量の場合はg’=2で表される。強磁性体の物理(上)、近角聰信著、p.73-79によれば、3d遷移金属の場合、g係数は2に近いことが示されている。
外部磁場Hextを0、形状異方性(∝Ms×t/w、tは膜厚、wは素子幅)が材料に起因する磁気異方性磁界(Hk)に比べて十分小さいとして、(式1)を変形すると、(式2)になる。
Figure 0005017347
(式2)において、括弧内の第1項は磁気異方性エネルギー密度Kuを表し、括弧内の第2項は反磁界エネルギーを表す。
体積Vをセル面積Sと膜厚tで表すと、V=S×tであるので、反転電流密度は(式3)のようになる。
Figure 0005017347
実際、垂直磁化膜を利用するには、材料に起因する磁気異方性エネルギー密度Ku、例えば結晶磁気異方性エネルギー密度が大きく、形状磁気異方性を利用せず、素子形状はアスペクト1程度を利用することが微細化には向いている。このため、上述したように形状異方性が材料に起因する磁気異方性磁界に比べて十分小さいとしてもよい。
(式3)において、g’、e、αdamp、h、g(0)からなる定数をAとし、Ms・Hk/2をKuとすることで、(式4)を得る。
Figure 0005017347
(式4)において、書き込み電流密度をJwとすると、以下の(式5)を満たす必要がある。
Figure 0005017347
さらに、磁化方向を膜面に垂直方向に設定するためには、以下の(式6)の関係を満たす必要がある。
Figure 0005017347
従って、(式5)及び(式6)より、磁気異方性エネルギー密度Kuは、(式7)の関係を満たす必要がある。
Figure 0005017347
(式7)の関係を具体的に図示したものが、図13(a)及び(b)、図14(a)及び(b)である。図13(a)及び(b)、図14(a)及び(b)は、本発明の一実施形態に係る記録層の磁気異方性エネルギー密度Ku、飽和磁化Ms、膜厚tの関係を示す。ここで、図13(a)及び図14(a)は、書き込み電流密度Jwが5MA/cmの場合を示し、図13(b)及び図14(b)は、書き込み電流密度Jwが2MA/cmの場合を示す。また、記録層11の膜厚tは、0.5nm、1nm、3nm、5nm、10nmの場合を検討している。
前述した5MA/cm、2MA/cmの書き込み電流密度Jwを実現するためには、(式7)より、図13(a)及び(b)、図14(a)及び(b)に示す斜線領域に、記録層11の磁気異方性エネルギー密度Ku、飽和磁化Ms、膜厚tを設定する必要がある。
非磁性層がCu、Au等の導電性の材料である巨大磁気抵抗(GMR)及び非磁性層がトンネルバリアであるトンネル磁気抵抗(TMR)のg(θ)と分極率Pの関係は、(式8)、(式9)でそれぞれ表せる。g係数g’は2とする。
Figure 0005017347
Figure 0005017347
図13(a)及び(b)の関係を得るにあたり、一例として、ダンピング定数αdampを0.01、g(0)を0.18とした。磁気異方性エネルギー密度Kuの上限は、(式7)で規定され、その第1項はJw/(2A・t)である。図14(a)及び図14(b)はダンピング定数αdampを0.002とした場合である。両者を同じ膜厚で比較すると、ダンピング定数αdampが1/5になると、上限の磁気異方性エネルギー密度Kuは5倍、飽和磁化Msは√5倍まで範囲が広がる。これは、(式7)からも分かる。同様に、効率g(0)も、上限の磁気異方性エネルギー密度Ku、飽和磁界Msの範囲を変化させる。従って、飽和磁化Ms及び磁気異方性エネルギー密度Kuの適正な範囲を決めるにあたり、上述したように、ダンピング定数αdamp、膜厚t、効率g(0)が重要であり、(式3)よりJcはαdamp×t/g(0)に比例する。
磁性体のダンピング定数αdampは、0.001〜0.5程度を考えればよい。効率g(0)は、(式8)、(式9)で示したように分極率Pから推定することができる。スピン注入による磁化反転を行うには少なくとも分極率Pが0.1以上であることが望ましく、効率g(0)はGMR、TMRの場合でそれぞれ0.026、0.05程度である。また、分極率Pが1のときは、GMR、TMRともに効率g(0)は0.25となる。
次に、記録層11の膜厚tについて検討する。(式7)より、磁気異方性エネルギー密度Kuの上限は膜厚tの増加に伴い減少するため、膜厚tが厚くなると磁気異方性エネルギー密度Kuを小さく設定する必要が生じ、さらに、垂直磁化を実現するため、飽和磁化Msも小さくする必要がある。このことは、図13(a)及び(b)、図14(a)及び(b)からも理解でき、記録層11の膜厚が5nmより大きくすることが難しいことが分かる。従って、記録層11の膜厚は、5nm以下に設定することが望ましい。また、面内均一性等の観点から、0.5nm以上であることが望ましい。
以上より、記録層11の膜厚tは、(式10)の関係を満たすことが望ましい。尚、記録層11が1周期の人工格子からなる場合を考えると、記録層11の膜厚の下限値を0.2nm以上と考えることも可能である。記録層11が非磁性層を介して交換結合した積層膜の場合は、交換結合している各層の膜厚に対応する。
0.5nm≦t≦5nm…(式10)
ダンピング定数αdamp、効率g(0)、膜厚tの上述した範囲からαdamp×t/g(0)の範囲を考慮すると、0.002≦αdamp×t/g(0)≦100となる。但し、膜厚tの単位はnmで表している。これらを考慮して、図13(a)及び(b)、図14(a)及び(b)と同様に、αdamp×t/g(0)をパラメータとして書き込み電流密度Jwが5MA/cmと2MA/cmの場合を、図15(a)、(b)にそれぞれ示す。
(式10)の記録層11の膜厚tを考慮した上で、磁気異方性エネルギー密度Kuについて検討する。磁気異方性エネルギー密度Kuは、垂直磁化膜となるためには、(式6)に示すように、Ku>2πMsである必要がある。飽和磁化Msを最も小さくできる磁性体はフェリ磁性体、反強磁性体であり、前述したRE−TM合金がこれに該当する。RE−TM合金の垂直磁気異方性エネルギー密度Kuは1×10erg/cc以上であるとされ、これが磁気異方性エネルギー密度Kuの下限値と言える。
一方、磁気異方性エネルギー密度Kuの上限値は、図15(a)及び(b)の関係から導き出せる。すなわち、図15(a)に示すように、書き込み電流密度Jwが5MA/cmの場合、斜線領域内で最大となる4.1×10erg/ccが磁気異方性エネルギー密度Kuの上限値となる。また、図15(b)に示すように、書き込み電流密度Jwが2MA/cmの場合、斜線領域内で最大となる1.6×10erg/ccが磁気異方性エネルギー密度Kuの上限値となる。
以上より、磁気異方性エネルギー密度Kuは、書き込み電流密度Jwが5MA/cm以下の場合は(式11)、書き込み電流密度Jwは2MA/cm以下の場合は(式12)の関係を満たすことが望ましい。
1×10erg/cc≦Ku≦4.1×10erg/cc…(式11)
1×10erg/cc≦Ku≦1.6×10erg/cc…(式12)
次に、(式10)の記録層11の膜厚tを考慮した上で、飽和磁化Msについて検討する。飽和磁化Msは、図15(a)及び(b)の関係から導き出せる。すなわち、図15(a)に示すように、書き込み電流密度Jwが5MA/cmの場合、飽和磁化Msは0〜2090emu/ccが望ましい。また、図15(b)に示すように、書き込み電流密度Jwが2MA/cmの場合、飽和磁化Msは0〜1320emu/ccが望ましい。
以上より、飽和磁化Msは、書き込み電流密度Jwが5MA/cm以下の場合は(式13)、書き込み電流密度Jwは2MA/cm以下の場合は(式14)の関係を満たすことが望ましい。
0≦Ms≦2090emu/cc…(式13)
0≦Ms≦1320emu/cc…(式14)
上述した内容をまとめると、書き込み電流密度Jwは5MA/cm以下であることが望ましく、(式10)の記録層11の膜厚tの範囲では、磁気異方性エネルギー密度Kuは1×10erg/cc〜4.1×10erg/ccの範囲にあることが望ましく、かつ飽和磁化Msは0〜2090emu/ccの範囲にあることが望ましい。より好ましくは、書き込み電流は2MA/cm以下であることが望ましく、磁気異方性エネルギー密度Kuは1×10erg/cc〜1.6×10erg/ccの範囲にあることが望ましく、かつ飽和磁化Msは0〜1320emu/ccの範囲にあることが望ましい。
尚、記録層11が高分極材料と磁性層が積層されてなる場合は、積層構造の全体を1つの磁性層、つまり記録層とみなす。この場合、記録層(高分極材料と磁性層)の飽和磁化Ms、磁気異方性エネルギー密度Ku、膜厚tは、高分極率材料及び磁性層の飽和磁化、磁気異方性エネルギー密度、膜厚をそれぞれMs1,Ku1,t1,Ms2,Ku2,t2とすると、以下のように見積もることができる。尚、3層以上の場合も同様に見積もることができる。
Ms=(Ms1×t1+Ms2×t2)/t…(式15)
Ku=(Ku1×t1+Ku2×t2)/t…(式16)
t=t1+t2…(式17)
実際、高分極率材料はFe、Co、Niあるいは、それらの元素のうち少なくとも1つ以上の元素を含む合金からなり、飽和磁化は少なくとも500emu/cc程度以上である。高分極率材料は、MR比を向上する役割を果たすが、そのためには0.5nm以上の膜厚とすることが望ましい。一方、垂直磁化膜となる磁性体のうち、飽和磁化を小さくできるのは、RE−TM合金であり、前述したようにREとTMの磁気モーメントがそれぞれ等しくなる補償点組成では飽和磁化は0である。一例として、飽和磁化Ms1が800emu/cc、膜厚t1が0.5nm、異方性エネルギー密度Ku1が1000erg/ccの高分極率材料と、飽和磁化Ms2が0emu/cc、異方性エネルギー密度Ku2が5×10erg/ccの磁性層が積層されたとする。この場合、上述した式で見積もると、磁性層の膜厚t2が1.2nmのとき、記録層(高分極材料と磁性層)としての異方性エネルギー密度が3.53×10erg/cc、飽和磁化が235emu/cc、膜厚1.7nmとなり、垂直磁化膜となる条件であるKu>2πMsを満たす。
次に、記録層11の飽和磁化Msに着目して検討する。上述した(式7)において、下限値と上限値が等しい場合を考える。すなわち、これは、図15(a)及び(b)の交点を求めることになる。そして、飽和磁化Msがこの交点よりも小さいことが望ましいことを考慮すると、(式18)の関係を導くことができる。
Ms<√{Jw/(6πAt)}…(式18)
さらに、上述するように、記録層11をRE−TM合金の積層構造とした場合、飽和磁化Msは0となる。従って、飽和磁化Msの下限値は0と言える。
以上より、記録層11の飽和磁化Msは、書き込み電流密度Jw、記録層11の膜厚t、定数Aを用いると、(式17)及び(式18)のようになる。
0≦Ms<√{Jw/(6πAt)}…(式19)
A=g’・e・α/(h/2π×g)…(式20)
ここで、g’はg係数、eは電気素量、αはギルバートのダンピング定数、hはプランク定数、gは2つの磁性体の磁化が平行に配列しているときのスピントランスファーの効率である。
以下に、上述した書き込み電流密度Jw等を勘案した具体例について説明する。
(a)具体例4−1
具体例4−1のMTJ素子は、図3に示す具体例1−4の積層に類似するものであり、記録層11、固定層12がRE−TM合金からなる。
MTJ素子10の具体例4−1の積層構成は、以下の通りである。下部電極14は、膜厚が5nmのTaと膜厚が5nmのRuからなる。本具体例では結晶配向用下地15に相当するものは存在しない。固定層12は、膜厚が30nmのTb21(Co84Fe1679からなる。第1の高分極率層18は、膜厚が2.0nmのCo40Fe4020からなる。トンネルバリア層TBは、膜厚が0.7nmのMgOからなる。第2の高分極率層19は、膜厚が1.0nmのCo40Fe4020からなる。記録層11は、膜厚が5nmのTb30(Co84Fe1670からなる。ここで、Tb23(Co84Fe1677は、補償組成である。キャップ層16は、膜厚が3nmのRuからなる。上部電極17は、膜厚が5nmのTa、膜厚が5nmのRu、膜厚が100nmのTaを順次形成した積層膜からなる。
このようなMTJ素子10を0.14um×0.28umの素子サイズに加工し、4端子法によりR−Hループを測定したところ、固定層12の保磁力は9.5kOe、記録層11の保磁力は6.5kOeであった。また、加工前に振動試料型磁力計でMHループから飽和磁化Msを測定したところ、固定層12は100emu/cc、記録層11は80emu/ccであった。但し、固定層12と第1の高分極率層18は交換結合し、記録層11と第2の高分極率層19は交換結合しているため、それぞれ1つの磁性層として振舞うので、上述した保磁力、飽和磁化は1つの磁性体として見た場合の値である。
ここで、記録層11と第2の高分極率層19のそれぞれの飽和磁化、磁気異方性エネルギー密度は、以下の通りである。記録層11の飽和磁化Ms2、磁気異方性エネルギー密度Ku2は、それぞれ−200emu/cc、5×10erg/ccであり、第2の高分極率層19の飽和磁化Ms1、磁気異方性エネルギー密度Ku1は、それぞれ1200emu/cc、1×10erg/ccである。記録層11の飽和磁化Ms2を負と表記したのは、TMの磁気モーメントの向きを正にしており、本具体例ではREの磁気モーメントがTMの磁気モーメントよりも大きいため、RE−TM合金としての磁気モーメントがTMの磁気モーメントと逆方向であるためである。そこで、(式15)乃至(式17)のように見積もると、全体としての飽和磁化Ms、磁気異方性エネルギー密度Kuは、それぞれ33emu/cc、4.2×10erg/ccとなる。これから、異方性磁界を見積もると、25kOeとなり、測定された保磁力よりも大きい。保磁力が異方性磁界よりも小さいのは膜質の不均一性等に起因して反転核が形成され、磁壁移動により磁化反転が起きていると考えられる。また、飽和磁化がずれているのは、CoFeBとTbCoFeの相互拡散により、組成が設定通りになっていないことも考えられる。
MTJ素子10の磁気抵抗比は、高分極率層18,19の寄与により、30%である。この素子をスピン注入磁化反転させたところ、反平行(AP)状態から平行(P)状態への反転電流密度は4.5×10A/cmである。ここで、反平行状態から平行状態への反転電流密度を測定したのは、(式9)より明らかなように、g(π)>g(0)であるため、平行状態から反平行状態への反転電流密度より小さくなることが予想され、評価上の素子の非可逆的な破壊を避けるためである。
RE−TMの一例であるGd−CoFeのダンピング定数αdampは、0.1程度であると報告されている。本具体例の記録層11のTb−CoFeも同程度であることが予想される。また、磁気抵抗比はそのバイアス電圧依存性のため、反転時には20%程度であり、g(π)は0.165程度であることが予想される。ダンピング定数αdampを0.1、g(π)を0.165、飽和磁化Msを117emu/cc、磁気異方性エネルギー密度Kuを4.2×10erg/cc、膜厚を6nmとして、反転電流密度を見積もると、9.4×10A/cm2である。一方、上述したように実際に測定された反転電流密度は、4.5×10A/cmであり、見積もりと大きく異なる。
本発明者は、この結果から鑑みて、Tb−CoFeからなる記録層11に積層した第2の高分極率層19の効果に着目した。すなわち、第2の高分極率層19であるCo40Fe4020のダンピング定数αdampは0.008程度であると言われており、そのまま反転電流密度を見積もると、8.2×10A/cmとなり、比較的良い一致を示す。つまり、ダンピング定数αdampの小さな磁性材料(第2の高分極率層19として用いたCo40Fe4020:αdamp=0.008)とダンピング定数αdampの大きな磁性材料(記録層11に用いたTb−CoFe:αdamp=0.1)とを積層した場合、ダンピング定数αdampの小さな磁性材料がダンピング定数αdampの大きな磁性材料に比べて大きなスピントルクを受けるため、反転するきっかけとなって反転電流密度を低減する効果があることを見出した。
上述したようにダンピング定数αdampの小さな磁性材料と大きな磁性材料を積層した場合、電流低減効果があることが見出されたが、ダンピング定数αdampが小さい材料としては例えばFeがあげられる。Feのダンピング定数αdampは0.002程度と報告されており、また、その分極率Pは0.4程度であると報告されている。このため、上述した指標αdamp×t/g(0)は膜厚t(nm)を1nmとして、0.01程度と見積もられる。このため、図15(a)、(b)よりそれぞれ指標αdamp×t/g(0)が0.01の場合から、飽和磁化Msと異方性エネルギー密度Kuを見積もると、Jw=5MA/cm2の場合、Ms<934emu/cc、Ku<8.2×106erg/cc、Jw=2MA/cm2の場合、Ms<591emu/cc、Ku<3.3×106erg/ccの範囲が好ましいことが分かる。
上述したようなダンピング定数αdampの小さな磁性材料とダンピング定数αdampの大きな磁性材料を積層した場合は一例であり、例えば、以下のような形態であってもよい。
ダンピング定数αdampの小さな磁性材料とダンピング定数αdampの大きな磁性材料が混合して形成された形態であってもよい。例えば、図16(a)及び(b)に示すように、ダンピング定数αdampの大きな材料を母材としてダンピング定数αdampの小さな材料が分散した形態でもよいし、図16(c)及び(d)に示すように、ダンピング定数αdampの小さな材料を母材としてダンピング定数αdampの大きな材料が分散した形態であってもよい。尚、図16(b)及び(d)では、分散している材料が円柱形であるが、これに限定されず、例えば球形、直方体、立方体のような形状でもよく、基本的にはその形状に制限されない。
また、更なる反転電流密度の低減のためには、記録層の体積を低減することが効果的であることが、(式1)から分かるが、例えば、ダンピング定数αdampの小さな材料が分散した膜(いわゆるグラニュラー膜)とダンピング定数αdampの大きな材料との積層膜でもよいし、ダンピング定数αdampの大きな材料が分散した膜(いわゆるグラニュラー膜)とダンピング定数の小さな材料との積層膜でもよい。さらに、ダンピング定数αdampの小さな材料が分散した膜(いわゆるグラニュラー膜)とダンピング定数の大きな材料が分散した膜(いわゆるグラニュラー膜)との積層膜でもよい。
垂直磁化膜となるためには、比較的大きな垂直磁気異方性エネルギーを有する必要があるが、大きな磁気異方性を示す材料は、高分極率材料として使用するCo,Fe、Niからなる合金材料に比べてダンピング定数αdampが大きい。従って、ダンピング定数αdampの小さな材料とダンピング定数αdampの大きな材料との積層形態は、垂直磁化膜のスピン注入磁化反転にはより望ましい。
上述したようなダンピング定数αdampの小さな磁性材料とダンピング定数αdampの大きな磁性材料とを用いる場合の具体例を以下に示す。
ダンピング定数αdampの小さな磁性材料としては、Feをベースとする低ダンピング定数の磁性合金がある。この磁性合金としては、例えば、少なくともFeを含む合金があげられ、Feは40at%以上含まれていることが望ましい。また、この磁性合金としては、ハーフメタル材料として知られるホイスラー合金でもよく、例えば、CoMnSi、CoMnGe、CoCrAl、Co(Cr-Fe)Al、CoFeSi等がある。
ダンピング定数αdampの大きな磁性材料としては、高い垂直磁気異方性を有するL1構造の磁性合金がある。この磁性合金としては、例えば、Fe−Pt、Fe−Pd、Co−Pt、Co−Pd、Mn−Alのいずれかを主成分とする合金があげられる。尚、この磁性合金としては、Fe−Pt−X、Fe−Pd−X、Co−Pt−X等の3元以上の合金でもよい。
ダンピング定数αdampの小さな磁性材料及び大きな磁性材料としては、MgO(100)面とのマッチングがよい格子定数aをもつ材料が好ましく、具体的には次のものがある。例えば、立方晶、正方晶の(001)面で、0.9a〜1.1a、0.9×√2a〜1.1×√2aの格子定数をもつ材料として、結晶構造が面心立方晶又は面心正方晶からなり、a軸の格子定数が3.79A〜4.63A、5.36A〜6.55Aの範囲にあるものが望ましい。また、0.9×√2/2a〜1.1×√2/2aの格子定数をもつ立方晶、正方晶の(001)面の材料として、結晶構造が体心立方晶又は体心正方晶からなり、a軸の格子定数が2.68A〜3.28Aの範囲にあるものが望ましい。
尚、上記において、ダンピング定数αdampの大きな材料とダンピング定数αdampの小さな材料との大小関係は、両者の材料のダンピング定数αdampの比較において成立してもよい。また、ダンピング定数αdampの基準値(例えば、0.01)を規定し、この基準値よりも大きい場合はダンピング定数αdampの大きな材料と規定し、基準値よりも小さい場合はダンピング定数αdampの小さな材料と規定してもよい。
具体例4−1で述べたように、ダンピング定数αdampの大きな磁性層とダンピング定数αdampの小さな磁性層とを積層させた場合、ダンピング定数αdampの大きな材料は、垂直磁気異方性エネルギーを有し、膜面に対して垂直方向に磁化していることが望ましい。ダンピング定数αdampの小さな材料は、ダンピング定数αdampの大きな磁性層が有する垂直磁気異方性に影響を受け易いように、異方性エネルギーが小さいことが望ましい。ダンピング定数αdampの小さな材料とダンピング定数αdampの大きな材料とは、交換結合していることが望ましい。また、垂直磁気異方性を有し、かつダンピング定数αdampが小さい材料であっても当然良い。
ダンピング定数αdampの大きな磁性層とダンピング定数αdampの小さな磁性層とを積層させた場合、ダンピング定数αdampの小さな磁性層がトンネルバリア層TB側に位置することが望ましい。例えば、図3の構造の場合、第2の高分極率層19の位置にダンピング定数αdampの小さな磁性層を設け、記録層11の位置にダンピング定数αdampの大きな磁性層を設けるとよい。これにより、反転電流密度を低減する効果を高めることができる。尚、ダンピング定数αdampの大きな磁性層をトンネルバリア層TB側に配置することも可能である。トンネルバリア層TB/第2の高分極率層19/ダンピング定数αdampの小さな磁性層/ダンピング定数αdampの大きな磁性層からなる積層構造にしてもよい。
ダンピング定数αdampの大きな磁性層とダンピング定数αdampの小さな磁性層とを積層させる場合、2層に限定されず、3層以上でもよい。この場合も、上述するように、ダンピング定数αdampの小さな磁性層をトンネルバリア層TB側に配置して積層させることが望ましい。
MTJ素子10がデュアルピン構造の場合、記録層11が非磁性層13a,13bで挟まれるが、ダンピング定数αdampの小さな磁性層が非磁性層13a、13bと記録層11の界面にそれぞれ位置することが望ましい。例えば、図10の構造の場合、トンネルバリア層TBに近接する高分極率層18の位置にダンピング定数αdampの小さな磁性層を設け、記録層11の位置にダンピング定数αdampの大きな磁性層を設けるとよい。磁気抵抗比の観点からトンネルバリア層TB側に高分極率材料があるが、記録層11と非磁性層13aとの間にダンピング定数αdampの小さな磁性層をさらに設けてもよい。記録層11の両界面で効果的にスピントルクが作用することが望ましく、非磁性層13a、13bで磁気抵抗比に差があればよい。
(b)具体例4−2
具体例4−2のMTJ素子は、図3に示す具体例1−2の積層と同様であり、記録層11がRE−TM合金からなり、固定層12がCoPtCrからなる。
MTJ素子10の具体例4−2の積層構成は、以下の通りである。下部電極14は、膜厚が10nmのTaからなる。結晶配向用下地15は、膜厚が5nmのRuからなる。固定層12は、膜厚が30nmの(002)面が配向した(Co78Pt12Cr1085−(SiO15からなる。第1の高分極率層18は、膜厚が2.0nmのCo62Fe2216からなる。トンネルバリア層TBは、膜厚が1.0nmのMgOからなる。第2の高分極率層19は、膜厚が1.0nmのCo60Fe2020からなる。記録層11は、膜厚が4nmのTb21(Co84Fe1679からなる。ここで、Tb23(Co84Fe1677は、補償組成である。キャップ層16は、膜厚が3nmのPtからなる。上部電極17は、膜厚が5nmのTa、膜厚が5nmのRu、膜厚が100nmのTaを順次形成した積層膜からなる。
このようなMTJ素子10を0.1um×0.1umの素子サイズに加工し、4端子法によりR−Hループを測定したところ、固定層12の保磁力は4.0kOe、記録層11の保磁力は1200Oeであった。また、加工前に振動試料型磁力計でMHループから飽和磁化Msを測定したところ、固定層12は500emu/cc、記録層11は400emu/ccであった。但し、固定層12と第1の高分極率層18は交換結合し、記録層11と第2の高分極率層19は交換結合しているため、それぞれ1つの磁性層として振舞うので、上述した保磁力、飽和磁化は1つの磁性体として見た場合の値である。
ここで、記録層11と第2の高分極率層19のそれぞれの飽和磁化、磁気異方性エネルギー密度は、以下の通りである。記録層11の飽和磁化Ms2、磁気異方性エネルギー密度Ku2は、それぞれ100emu/cc、7×10erg/ccであり、第2の高分極率層19の飽和磁化Ms1、磁気異方性エネルギー密度Ku1は、それぞれ1100emu/cc、1×10erg/ccである。そこで、(式15)乃至(式17)のように見積もると、全体としての飽和磁化Ms、磁気異方性エネルギー密度Kuは、それぞれ300emu/cc、5.6×10erg/ccとなる。これから、異方性磁界を見積もると、3.7kOeとなり、測定された保磁力よりも大きい。保磁力が異方性磁界よりも小さいのは膜質の不均一性等に起因して反転核が形成され、磁壁移動により磁化反転が起きていると考えられる。
MTJ素子10の磁気抵抗比は、高分極率層18,19の寄与により、120%である。この素子をスピン注入磁化反転させたところ、平均の電流密度は8.4×10A/cmである。
尚、さらなる低電流密度化を狙って、次のようなMTJ素子10について検討した。第2の高分極率層19は膜厚が0.5nmのNi80Fe20からなり、記録層11は膜厚が2nmのTb26(Co84Fe1674からなる。上記同様に、R−Hループ、MHループを測定したところ、記録層11の保磁力、飽和磁化は1400Oe、70emu/ccであった。Ni80Fe20の飽和磁化Ms1、磁気異方性エネルギー密度Ku1はそれぞれ800emu/cc、1000erg/cc、膜厚2.0nmのTb26(Co84Fe1674の飽和磁化Ms2、磁気異方性エネルギー密度はそれぞれ−100emu/cc、5.0×10erg/ccであった。前述した通りに見積もると、高分極率層19を含めた記録層11の全体としての飽和磁化Ms、磁気異方性エネルギー密度Kuはそれぞれ80emu/cc、4.0×10erg/ccとなり、同様に異方性磁界を見積もると、10kOeである。この場合、MTJ素子10の磁気抵抗比は高分極率層18,19の寄与により、60%である。この素子をスピン注入磁化反転させたところ、平均の電流密度は2.7×10A/cmである。
(c)具体例4−3
具体例4−3のMTJ素子は、図3に示す具体例1−2の積層と同様であり、記録層11が人工格子からなり、固定層12がFePtからなる。
MTJ素子10の具体例4−3の積層構成は、以下の通りである。下部電極14は、膜厚が10nmのTaからなる。結晶配向用下地15は、膜厚が0.3nmのMgO上に形成した膜厚が10nmのPtからなる。ここで、MgO/Pt積層膜は、(001)面が配向している。固定層12は、膜厚が20nmの(001)面が配向したFe50Pt50からなる。第1の高分極率層18は、膜厚が1.5nmのCo62Fe2216からなる。トンネルバリア層TBは、膜厚が0.8nmのMgOからなり、MgOは(001)面が配向している。第2の高分極率層19は、膜厚が0.3nmのCoからなる。ここで、bcc構造のCo(001)面が形成されるように、成膜条件を調整している。記録層11は、膜厚が2.0nmのPtと膜厚が0.3nmのCo80Cr20を1周期として2周期積層した人工格子[Pt/CoCr]2からなる。キャップ層16は、膜厚が3nmのPtからなる。上部電極17は、膜厚が5nmのTa、膜厚が5nmのRu、膜厚が100nmのTaを順次形成した積層膜からなる。
このようなMTJ素子10を0.1um×0.1umの素子サイズに加工し、4端子法によりR−Hループを測定したところ、固定層12の保磁力は7.0kOe、記録層11の保磁力は1000Oeであった。また、加工前に振動試料型磁力計でMHループから飽和磁化を測定したところ、固定層12は1000emu/cc、記録層11は220emu/ccであった。但し、固定層12と第1の高分極率層18は交換結合し、記録層11と第2の高分極率層19は交換結合しているため、それぞれ1つの磁性層として振舞うので、上述した保磁力、飽和磁化は1つの磁性体として見た場合の値である。
ここで、記録層11と第2の高分極率層19のそれぞれの飽和磁化、磁気異方性エネルギー密度は、以下の通りである。記録層11の飽和磁化Ms2、磁気異方性エネルギー密度Ku2は、それぞれ140emu/cc、5×10erg/cc、第2の高分極率層19の飽和磁化Ms1、磁気異方性エネルギー密度Ku1は、それぞれ1400emu/cc、1×10erg/ccである。そこで、(式15)乃至(式17)のように見積もると、全体としての飽和磁化Ms、磁気異方性エネルギー密度Kuは、それぞれ220emu/cc、5.3×10erg/ccとなる。ここで、人工格子の飽和磁化はPt/CoCr全体の膜厚から換算した。これから、異方性磁界を見積もると、4.9kOeとなり、測定された保磁力よりも大きい。保磁力が異方性磁界よりも小さいのは膜質の不均一性等に起因して反転核が形成され、磁壁移動により磁化反転が起きていると考えられる。
MTJ素子10の磁気抵抗比は、高分極率層18,19の寄与により、80%である。この素子をスピン注入磁化反転させたところ、平均の電流密度は7.7×10A/cmである。
(d)具体例4−4
具体例4−4のMTJ素子は、図3に示す具体例1−2の積層と同様であり、記録層11、固定層12ともにFePt合金からなる。
MTJ素子10の具体例4−4の積層構成は、以下の通りである。下部電極14は、膜厚が10nmのTaからなる。結晶配向用下地15は、膜厚が0.5nmのCo40Fe4020、膜厚が0.5nmのMgO、膜厚が3nmのPtを順次形成した構成からなる。ここで、MgO/Pt積層膜は、(001)面が配向している。固定層12は、膜厚が10nmの(001)面が配向したFe50Pt50からなる。第1の高分極率層18は、膜厚が2nmのCo40Fe4020からなる。トンネルバリア層TBは、膜厚が0.8nmのMgOからなり、MgOは(001)面が配向している。第2の高分極率層19は、膜厚が0.5nmのFe8020からなり、(001)面が配向している。記録層11は、膜厚が2.0nmのFe15Ni35Pt50からなり、(001)面が配向している。キャップ層16は、膜厚が3nmのPtからなる。上部電極17は、膜厚が5nmのTa、膜厚が5nmのRu、膜厚が100nmのTaを順次形成した積層膜からなる。
このようなMTJ素子10を0.1um×0.1umの素子サイズに加工し、4端子法によりR−Hループを測定したところ、固定層12の保磁力は5.0kOe、記録層11の保磁力は1kOeであった。また、加工前に振動試料型磁力計でMHループから飽和磁化を測定したところ、固定層12は1000emu/cc、記録層11は450emu/ccであった。但し、固定層12と第1の高分極率層18は交換結合し、記録層11と第2の高分極率層19は交換結合しているため、それぞれ1つの磁性層として振舞うので、上述した保磁力、飽和磁化は1つの磁性体として見た場合の値である。
ここで、記録層11と第2の高分極率層19のそれぞれの飽和磁化、磁気異方性エネルギー密度は、以下の通りである。記録層11の飽和磁化Ms2、磁気異方性エネルギー密度Ku2は、それぞれ250emu/cc、2×10erg/cc、第2の高分極率層19の飽和磁化Ms1、磁気異方性エネルギー密度Ku1は、それぞれ1300emu/cc、1×10erg/ccである。そこで、(式15)乃至(式17)のように見積もると、全体としての飽和磁化Ms、磁気異方性エネルギー密度Kuは、それぞれ460emu/cc、1.6×10erg/ccとなる。ここで、人工格子の飽和磁化はPt/CoCr全体の膜厚から換算した。これから、異方性磁界を見積もると、7kOeとなり、測定された保磁力よりも大きい。保磁力が異方性磁界よりも小さいのは膜質の不均一性等に起因して反転核が形成され、磁壁移動により磁化反転が起きていると考えられる。
MTJ素子10の磁気抵抗比は、高分極率層18,19の寄与により、120%である。この素子をスピン注入磁化反転させたところ、平均の電流密度は5.7×10A/cmである。
尚、磁化反転の目安となる磁気パラメータに保磁力Hcがあるが、理想的に単磁区で磁化反転する場合は、HcとHkは等しい。しかし、現実には単磁区とはならず、HcはHkの0.3倍程度よりも小さくなると言われている。上述した具体例は、保磁力Hcであり、実際は、Hkは保磁力よりも大きく、Hk>4πMsを満たしている。Hkはトクルメーターにより磁気異方性エネルギー密度KuからHk=2Ku/Msで評価することができる。
上述する具体例4−1から具体例4−4では、シングルピン構造のMTJ素子10を例にあげているが、上記(式1)から(式20)、図13から図15の関係はデュアルピン構造についても適用できる。
[2]磁気ランダムアクセスメモリ
次に、上述する垂直磁化型のMTJ素子10をメモリセルの記憶素子として磁気ランダムアクセスメモリに適用した例を説明する。
(a)実施形態1
実施形態1は、選択トランジスタ型のメモリセルを備えた磁気ランダムアクセスメモリの例である。
図17は、本発明の実施形態1に係る磁気ランダムアクセスメモリの概略的な断面図を示す。以下に、実施形態1に係る磁気ランダムアクセスメモリについて説明する。
図17に示すように、半導体基板(例えばシリコン基板)61上にゲート絶縁膜62を介してゲート電極63が形成され、このゲート電極63の両側の半導体基板61内にソース/ドレイン拡散層64a,64bが形成されている。このように、読み出し用のスイッチング素子として機能するトランジスタTrが設けられている。
ドレイン拡散層64bには、コンタクト65を介して引き出し配線66が接続されている。この引き出し配線66上に下部配線14が形成され、この下部配線14上に垂直磁化型のMTJ素子10が形成されている。MTJ素子10上に上部配線17が形成され、この上部配線17上に配線67が形成されている。一方、ソース拡散層64bには、コンタクト68を介して配線69が接続されている。
尚、MTJ素子10を引き出し配線66上に形成する場合、上述するように、MTJ素子10の一端に下部電極14を形成することが望ましい。下部電極14は、MTJ素子10とトランジスタTrとの電気伝導が確保されればよく、抵抗率の低い材料が好ましい。また、下部電極14上にMTJ素子10を形成するため、できるだけ平滑性の高い材料を形成することが望ましく、例えば、Ta、TaN等や、これらの積層膜を用いればよい。また、下部電極14を形成した後、平滑性を向上させるためCMP(Chemical Mechanical Polish)による平坦化の工程があってもよい。
書き込み動作は、次のように行われる。まず、スイッチング素子を用いて、メモリセルアレイの複数のMTJ素子の中からMTJ素子10を選択する。すなわち、MTJ素子10につながるトランジスタTrのゲート電極63の電位をON状態にする。これにより、配線67から配線69へ又は配線69から配線67へ、書き込み電流が流れる。この書き込み電流によりスピン偏極電子がMTJ素子10に注入され、スピン注入書き込みが実現する。
一方、読み出し動作は、次のように行われる。読み出し動作は、上述する書き込み動作と同様の経路で、配線67から配線69へ又は配線69から配線67へ、読み出し電流を流す。ここで、MTJ素子10のトンネル抵抗を読み出し、“1”、“0”の判断を行う。
以上のような実施形態1によれば、垂直磁化型のMTJ素子10を用いることで、反転磁界Hswを増加させることなく、MTJ素子10の微細化が可能になる。また、上述するようにMTJ素子10を微細化しても反転磁界が増加しないため、従来の磁気ランダムアクセスメモリでは実現できなかった90nm以下の微細なMTJ素子10を有する大容量(例えば256Mビット以上)の磁気ランダムアクセスメモリを実現できる。さらに、スピン注入書き込みを採用することで、書き込みと読み出しを同じ経路で行うことができるため、セル面積を著しく縮小することができる。
(b)実施形態2
MTJ素子10を用いた場合、各磁性層からの漏れ磁場が隣接セルに影響を及ぼす可能性がある。そこで、実施形態2では、漏れ磁場の影響を低減するために、配線に軟磁性膜を設ける。
図18は、本発明の実施形態2に係る磁気ランダムアクセスメモリの概略的な断面図を示す。以下に、実施形態2に係る磁気ランダムアクセスメモリについて説明する。
図18に示すように、MTJ素子10の上下に位置する配線66,67,69に軟磁性膜71,72,73をそれぞれ設けている。具体的には、軟磁性膜73は配線66のMTJ素子10側の底面を覆い、軟磁性膜72は引き出し配線66のMTJ素子10側の上面を覆い、軟磁性膜71は配線69のMTJ素子10側の上面を覆っている。
このような軟磁性膜71,72,73は、MRAMで知られている磁性ヨーク配線構造とは異なる。すなわち、磁性ヨークは、書き込み配線に流す電流から発生する磁場を効率的にMTJ素子に供給するために設けるので、書き込み配線の周囲を全て覆わずに、書き込み配線のMTJ素子に対向する面には設けないようにする。これに対し、本実施形態の軟磁性膜71,72,73は、MTJ素子10から発生する漏れ磁場が近隣の配線に影響を及ぼすことを抑制するために設けられている。つまり、本実施形態の軟磁性膜71,72,73はMTJ素子10からの漏れ磁場を吸い込むことを目的とするため、MTJ素子10より上にある配線67に対しては配線67の底面に、MTJ素子10より下にある配線66,69には配線66,69の上面に、軟磁性膜71,72,73が設けられ、ヨーク配線とは異なる。
尚、軟磁性膜71,72,73は、配線66,67,69の上面又は底面のみに形成することに限定されない。例えば、軟磁性膜71,72,73は、配線66,67,69の側面にもさらに設けてもよいし、配線66,67,69の周囲の面の全てを周回してもよい。さらに、配線66,67,69に限らず、ベース等、MTJ素子10に近接してある部位に軟磁性膜を形成してもよい。例えば、MTJ素子10を上下(厚さ方向)から軟磁性膜で挟持してもよい。MTJ素子10の側面に接して軟磁性膜を形成してもよく、この場合、MTJ素子10の記録層と固定層とがショートしないように絶縁性の軟磁性膜を用いることが望ましい。
軟磁性膜71,72,73は、Ni、Fe、Coのうち、いずれか1つの元素あるいはそれらの元素を少なくとも1つ以上含む合金からなる磁性層からなり、例えば、NiFeが好ましいが、CoNi、FeCoでも使用することができる。また、軟磁性膜71,72,73は、NiFe/Ru/NiFeのようにいわゆるSAF構造になっていてもよい。
以上のような実施形態2によれば、上記実施形態1と同様の効果を得ることができる。さらに、配線66,67,69に軟磁性膜71,72,73を設けることで、MTJ素子10からの漏れ磁場を吸い込むことができるため、隣接セルへの影響を低減することが可能となる。
[3]磁気ランダムアクセスメモリの応用
上述した本発明の一実施形態に係る磁気ランダムアクセスメモリにおいて、メモリセルの構造は種々のタイプに適用できる。
(a)適用例1
図19は、本発明の一実施形態に係る磁気ランダムアクセスメモリの適用例1としてデジタル加入者線(DSL)用モデムのDSLデータパス部分のブロック図を示す。以下に適用例1について説明する。
図19に示すように、このモデムは、プログラマブルデジタルシグナルプロセッサ(DSP)100、アナログ−デジタル(A/D)コンバータ及びデジタル−アナログ(D/A)コンバータ110,120、送信ドライバ130、受信機増幅器140等を含む。
図19では、バンドパスフィルタを省略されている。その代わりに回線コードプログラム(DSPで実行される、コード化された加入者回線情報、伝送条件等(回線コード;QAM、CAP、RSK、FM、AM、PAM、DWMT等)に応じてモデムを選択、動作させるためのプログラム)を保持するための種々のタイプのオプションのメモリが設けられる。このメモリとして、上述する磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)170とEEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)180を示している。
尚、本適用例では、回線コードプログラムを保持するためのメモリとして磁気ランダムアクセスメモリ170とEEPROM180の2種類のメモリが用いられているが、EEPROM180がMRAMに置き換えられていてもよい。すなわち、2種類のメモリを用いず、MRAMのみを用いるように構成してもよい。
(b)適用例2
図20は、本発明の一実施形態に係る磁気ランダムアクセスメモリの適用例2として携帯電話端末における通信機能を実現する部分のブロック図を示す。以下に適用例2について説明する。
図20に示すように、通信機能を実現する通信部200は、送受信アンテナ201、アンテナ共用器202、受信部203、ベースバンド処理部204、音声コーデックとして用いられるDSP(Digital Signal Processor)205、スピーカ(受話器)206、マイクロホン(送話器)207、送信部208、及び周波数シンセサイザ209等を備えている。
また、この携帯電話端末300は、当該携帯電話端末の各部を制御する制御部220を有する。制御部220は、CPU(Central Processing Unit)221、ROM222、上記実施形態及び適用例1の磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)223、フラッシュメモリ224がCPUバス225を介して接続されて形成されたマイクロコンピュータである。ROM222には、CPU221において実行されるプログラムや表示用のフォント等に関して必要なデータが予め記憶されている。
MRAM223は、主に作業領域として用いられるものであり、CPU221がプログラムの実行中において計算途中のデータなどを必要に応じて記憶したり、制御部220と各部との間でやり取りするデータを一時記憶したりする場合などに用いられる。また、フラッシュメモリ224は、携帯電話端末300の電源がオフされても、例えば直前の設定条件などを記憶しておき、次の電源オン時に同じ設定にするような使用方法をする場合に、それらの設定パラメータを記憶しておくものである。これによって、携帯電話端末の電源がオフにされても、記憶されている設定パラメータを消失してしまうことがない。
また、携帯電話端末300は、音声データ再生処理部211、外部出力端子212、LCD(Liquid Crystal Display)コントローラ213、表示用のLCD214、呼び出し音を発生するリンガ215を有する。音声データ再生処理部211は、携帯電話端末300に入力された音声データ(あるいは後述する外部メモリ240に記憶された音声データ)を再生する。再生された音声データは、外部出力端子212を介してヘッドフォンや携帯型スピーカ等に伝えることにより、外部に取り出される。LCDコントローラ213は、例えばCPU221からの表示情報をCPUバス225を介して受け取り、LCD214を制御するためのLCD制御情報に変換する。この制御情報によって、LCD214が駆動され、情報が表示される。
また、携帯電話端末300は、インターフェース回路(I/F)231、233、235、外部メモリ240、外部メモリスロット232、キー操作部234、外部入出力端子236を有する。外部メモリスロット232にはメモリカード等の外部メモリ240が挿入される。外部メモリスロット232は、インターフェース回路231を介してCPUバス225に接続される。このように、携帯電話端末300にスロット232を設けることにより、帯電話端末300の内部の情報を外部メモリ240に書き込んだり、あるいは外部メモリ240に記憶された情報(例えば音声データ)を携帯電話端末300に入力したりすることが可能となる。キー操作部234は、インターフェース回路233を介してCPUバス225に接続される。キー操作部234から入力されたキー入力情報は、例えばCPU221に伝えられる。外部入出力端子236は、インターフェース回路235を介してCPUバス225に接続され、携帯電話端末300に外部から種々の情報を入力したり、あるいは携帯電話端末300から外部へ情報を出力したりする際の端子として機能する。
尚、本適用例では、ROM222、MRAM223、フラッシュメモリ224が用いられているが、フラッシュメモリ224、ROM222の両方またはいずれか一方をMRAMに置き換えることもできる。
(c)適用例3
図21は、本発明の一実施形態に係る磁気ランダムアクセスメモリがスマートメディア等のメディアコンテンツを収納する電子カード(MRAMカード)に適用された適用例3を示す。以下に、適用例3について説明する。
図21に示すように、MRAMカード本体400には、MRAMチップ401が内蔵されている。カード本体400には、MRAMチップ401に対応する位置に開口部402が形成され、MRAMチップ401が露出されている。この開口部402にはシャッター403が設けられており、当該MRAMカードの携帯時にMRAMチップ401がシャッター403で保護されるようになっている。このシャッター403は、外部磁界を遮蔽する効果のある材料、例えばセラミックからなっている。データを転写する場合には、シャッター403を開放してMRAMチップ401を露出させて行う。外部端子404はMRAMカードに記憶されたコンテンツデータを外部に取り出すためのものである。
図22及び図23は、図21のMRAMカードにデータを転写するためのカード挿入型のデータ転写装置(電子装置)の上面図及び断面図を示す。以下に、カード挿入型のデータ転写装置について説明する。
図22及び図23に示すように、データ転写装置500は収納部500aを有している。この収納部500aには、第1のMRAMカード550が収納されている。収納部500aには、第1のMRAMカード550に電気的に接続された外部端子530が設けられており、この外部端子530を用いて第1のMRAMカード550のデータが書き換えられる。
エンドユーザの使用する第2のMRAMカード450をデータ転写装置500の挿入部510より挿入し、ストッパ520で止まるまで押し込む。ストッパ520は、第1のMRAMカード550と第2のMRAMカード450との位置合わせするための部材としても用いられる。第2のMRAMカード450が所定位置に配置されると、第1のMRAMカード550のデータ書き換え制御部から外部端子530にデータ書き換え制御信号が供給され、第1のMRAMカード550に記憶されたデータが第2のMRAMカード450に転写される。
図24は、図21のMRAMカードにデータを転写するためのはめ込み型のデータ転写装置の断面図を示す。以下に、はめ込み型のデータ転写装置について説明する。
図24に示すように、はめ込み型のデータ転写装置は、図の矢印で示すように、ストッパ520を目標に、第1のMRAMカード550上に第2のMRAMカード450をはめ込みように載置するタイプである。転写方法については、前述したカード挿入型のデータ転写装置と同一であるので、説明を省略する。
図25は、図21のMRAMカードにデータを転写するためのスライド型のデータ転写装置の断面図を示す。以下に、スライド型のデータ転写装置について説明する。
図25に示すように、スライド型のデータ転写装置は、CD−ROMドライブやDVDドライブと同様、データ転写装置500に受け皿スライド560が設けられており、この受け皿スライド560が図中矢印で示すように移動する。受け皿スライド560が図中破線で示す位置に移動した時に第2のMRAMカード450を受け皿スライド560に載置し、第2のMRAMカード450をデータ転写装置500の内部へ搬送する。ストッパ520に第2のMRAMカード450の先端部が当接するように搬送される点及び転写方法については前述したカード挿入型のデータ転写装置と同一であるので、説明を省略する。
その他、本発明は、上記各実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で、種々に変形することが可能である。さらに、上記実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
10…MTJ素子、11…記録層、12,12a,12b…固定層、13,13a,13b,32,35,54…非磁性層、14…下部電極、15…結晶配向用下地、16…キャップ層、17…上部電極、18,19…高分極率層、21,21−1,21−2…記録層の磁化方向、22,22a,22b,22−1,22−2…固定層の磁化方向、30…スピン偏極電流、31,33,34,36…磁性層、51,52,53…RE−TM合金層、61…半導体基板、62…ゲート絶縁膜、63…ゲート電極、64a…ソース拡散層、64b…ドレイン拡散層、65,68…コンタクト、66…引き出し配線、67,69…配線、71,72,73…軟磁性膜、TB…トンネルバリア層、Tr…トランジスタ、100…プログラマブルデジタルシグナルプロセッサ、110…アナログーデジタルコンバータ、120…デジタルーアナログコンバータ、130…送信ドライバ、140…受信機増幅器、170,223…MRAM、180…EEPROM、200…通信部、201…送受信アンテナ、202…アンテナ共用器、203…受信部、204…ベースバンド処理部、205…DSP、206…スピーカ、207…マイクロホン、208…送信部、209…周波数シンセサイザ、211…音声データ再生処理部、212…外部出力端子、213…LCDコントローラ、214…LCD、215…リンガ、220…制御部、221…CPU、222…ROM、224…フラッシュメモリ、231,233,235…インターフェース回路、232…外部メモリスロット、234…キー操作部、236…外部出力端子、240…外部メモリ、300…携帯電話端末、400…メモリカード、401…MRAMチップ、402…開口部、403…シャッター、404…外部端子、450…第2のMRAMカード、500…転写装置、510…挿入部、520…ストッパ、530…外部端子、550…第1のMRAMカード、560…受け皿スライド。

Claims (20)

  1. スピン偏極電子を磁性体に流すことで情報が記録される磁気抵抗効果素子であって、
    磁性材料を備え、膜面に対して垂直方向に向く第1の磁化を有する第1の固定層と、
    磁性材料を備え、膜面に対して垂直方向に向く第2の磁化を有し、前記スピン偏極電子の作用により前記第2の磁化の方向が反転可能な記録層と、
    前記第1の固定層と前記記録層との間に設けられ、前記第1の固定層に対向する第1の面と前記記録層に対向する第2の面とを有する第1の非磁性層と、
    前記第1の非磁性層の前記第1の面と前記第1の固定層との間に設けられ、Fe、Co、Niのうち1つ以上の元素を含む第1の磁性金属層と、
    前記第1の非磁性層の前記第2の面と前記記録層との間に設けられ、Fe、Co、Niのうち1つ以上の元素を含む第2の磁性金属層と
    を具備し、
    前記第1の非磁性層は、(001)面が配向したMgOを備え、
    前記第1及び第2の磁性金属層の少なくとも一方は、bcc構造を有し(001)面が配向した、Co、Fe、Co−Fe合金、Fe−Ni合金から選ばれる磁性材料を備え、
    前記第1の固定層及び前記記録層の少なくとも一方は、Coと、Cr、Ta、Nb、V、W、Hf、Ti、Zr、Pt、Pd、Fe、Niの少なくとも1つとを含む合金であり、
    前記記録層と前記第2の磁性金属層は、互いに交換結合し、
    前記第2の磁性金属層のダンピング定数は、前記記録層のダンピング定数より小さい
    ことを特徴とする磁気抵抗効果素子。
  2. スピン偏極電子を磁性体に流すことで情報が記録される磁気抵抗効果素子であって、
    磁性材料を備え、膜面に対して垂直方向に向く第1の磁化を有する第1の固定層と、
    磁性材料を備え、膜面に対して垂直方向に向く第2の磁化を有し、前記スピン偏極電子の作用により前記第2の磁化の方向が反転可能な記録層と、
    前記第1の固定層と前記記録層との間に設けられ、前記第1の固定層に対向する第1の面と前記記録層に対向する第2の面とを有する第1の非磁性層と、
    前記第1の非磁性層の前記第1の面と前記第1の固定層との間に設けられ、Fe、Co、Niのうち1つ以上の元素を含む第1の磁性金属層と、
    前記第1の非磁性層の前記第2の面と前記記録層との間に設けられ、Fe、Co、Niのうち1つ以上の元素を含む第2の磁性金属層と
    を具備し、
    前記第1の非磁性層は、(001)面が配向したMgOを備え、
    前記第1及び第2の磁性金属層の少なくとも一方は、bcc構造を有し(001)面が配向した、Co、Fe、Co−Fe合金、Fe−Ni合金から選ばれる磁性材料を備え、
    前記第1の固定層及び前記記録層の少なくとも一方は、Fe、Co、Niの少なくとも1つを含む第1の層と、Cr、Pt、Pd、Ir、Rh、Ru、Os、Re、Au、Cuの少なくとも1つを含む第2の層とが交互に積層され、
    前記記録層と前記第2の磁性金属層は、互いに交換結合し、
    前記第2の磁性金属層のダンピング定数は、前記記録層のダンピング定数より小さい
    ことを特徴とする磁気抵抗効果素子。
  3. 磁性材料を備え、膜面に対して垂直方向に向く第3の磁化を有する第2の固定層と、
    前記第2の固定層と前記記録層との間に設けられ、前記第2の固定層に対向する第3の面と前記記録層に対向する第4の面とを有する第2の非磁性層と
    をさらに具備することを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気抵抗効果素子。
  4. 磁性材料を備え、膜面に対して垂直方向に向く第3の磁化を有する第2の固定層と、
    前記第2の固定層と前記記録層との間に設けられ、前記第2の固定層に対向する第3の面と前記記録層に対向する第4の面とを有する第2の非磁性層と、
    前記第1の非磁性層を介して前記記録層及び前記第1の固定層間に生じる第1の磁気抵抗比は、前記第2の非磁性層を介して前記記録層及び前記第2の固定層間に生じる第2の磁気抵抗比より大きい
    ことを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気抵抗効果素子。
  5. 前記第1及び第2の非磁性層は絶縁体であり、トンネル磁気抵抗効果を示すことを特徴とする請求項3又は4のいずれかに記載の磁気抵抗効果素子。
  6. 前記磁性材料を備える層のうち1つ以上の層は、第1の磁性層と第2の磁性層と前記第1及び第2の磁性層間に設けられた第3の非磁性層とを有し、
    前記第1及び第2の磁性層が互いに反強磁性的に結合している
    ことを特徴とする請求項1乃至5のうちいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
  7. 前記第1の固定層及び前記記録層の少なくとも一方は、Coを含む層とPdを含む層とが交互に積層された構造を有することを特徴とする請求項2に記載の磁気抵抗効果素子。
  8. 前記記録層は、(111)面に配向していることを特徴とする請求項1乃至7のうちいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
  9. 前記磁性材料を備える層のうち1つ以上の層は、非磁性体部が偏析することにより、磁性体部と非磁性体部とが分離した構造であることを特徴とする請求項1乃至8のうちいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
  10. 前記第1及び第2の磁性金属層の少なくとも一方は、Fe、Co、Niのうち1つ以上の元素とB、Nb、Zr、Ta、V、Wのうち1つ以上の元素を含む強磁性合金を備え、前記強磁性合金の結晶構造がbcc構造であることを特徴とする請求項1乃至9のうちいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
  11. 前記第2の磁性金属層の膜厚は、前記第1の磁性金属層の膜厚より薄いことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子。
  12. 請求項1乃至11のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子と、
    前記磁気抵抗効果素子に電流を与える書き込み配線と
    を具備することを特徴とする磁気ランダムアクセスメモリ。
  13. 請求項1乃至11のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子と、
    前記磁気抵抗効果素子に電流を与える書き込み配線と、
    前記書き込み配線の少なくとも一部を被覆し、前記磁気抵抗効果素子から漏れた磁場を吸収する軟磁性膜と
    を具備することを特徴とする磁気ランダムアクセスメモリ。
  14. 請求項1乃至11のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子と、
    前記磁気抵抗効果素子に電流を与える書き込み配線と、
    前記磁気抵抗効果素子を厚さ方向から挟み、前記磁気抵抗効果素子から漏れた磁場を吸収する第1及び第2の軟磁性膜と
    を具備することを特徴とする磁気ランダムアクセスメモリ。
  15. 請求項1乃至11のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子を有する半導体チップと、
    前記半導体チップを収納し、前記半導体チップを露出する窓を有するカード部と、
    前記窓を開閉し、磁気遮蔽効果を有する材料を備えるシャッターと、
    前記カード部に設けられ、前記半導体チップを前記カード部の外部に電気的に接続する端子と
    を具備することを特徴とする電子カード。
  16. 請求項15に記載の電子カードを収納する収納部と、
    前記収納部に設けられ、前記電子カードと電気的に接続され、前記電子カードのデータ書き換え制御信号を供給する端子と
    を具備することを特徴とする電子装置。
  17. スピン偏極電子を磁性体に流すことで情報が記録される磁気抵抗効果素子の製造方法であって、
    磁性材料を備え、膜面に対して垂直方向に向く第1の磁化を有する第1の固定層と、
    磁性材料を備え、膜面に対して垂直方向に向く第2の磁化を有し、前記スピン偏極電子の作用により前記第2の磁化の方向が反転可能な記録層と、
    前記第1の固定層と前記記録層との間に設けられ、前記第1の固定層に対向する第1の面と前記記録層に対向する第2の面とを有する第1の非磁性層と、
    前記第1の非磁性層の前記第1の面と前記第1の固定層との間に設けられ、Fe、Co、Niのうち1つ以上の元素を含む第1の磁性金属層と、
    前記第1の非磁性層の前記第2の面と前記記録層との間に設けられ、前記記録層と交換結合し、前記記録層のダンピング定数より小さいダンピング定数を有し、Fe、Co、Niのうち1つ以上の元素を含む第2の磁性金属層と
    を含む積層構造を形成する工程を具備し、
    (001)面が配向したMgOにより、前記第1の非磁性層を形成し、
    bcc構造を有し(001)面が配向した、Co、Fe、Co−Fe合金、Fe−Ni合金から選ばれる磁性材料により、前記第1及び第2の磁性金属層の少なくとも一方を形成し、
    Fe、Co、Niの少なくとも1つを含む第1の層と、Cr、Pt、Pd、Ir、Rh、Ru、Os、Re、Au、Cuの少なくとも1つを含む第2の層とを、交互に積層することにより、前記第1の固定層及び前記記録層の少なくとも一方を形成する
    ことを特徴とする磁気抵抗効果素子の製造方法。
  18. 請求項17に記載の磁気抵抗効果素子を形成し、
    前記磁気抵抗効果素子に電流を与える書き込み配線を形成する
    ことを特徴とする磁気ランダムアクセスメモリの製造方法。
  19. 請求項17に記載の磁気抵抗効果素子を形成し、
    前記磁気抵抗効果素子に電流を与える書き込み配線を形成し、
    前記書き込み配線の少なくとも一部を被覆し、前記磁気抵抗効果素子から漏れた磁場を吸収する軟磁性膜を形成する
    ことを特徴とする磁気ランダムアクセスメモリの製造方法。
  20. 請求項17に記載の磁気抵抗効果素子を形成し、
    前記磁気抵抗効果素子に電流を与える書き込み配線を形成し、
    前記磁気抵抗効果素子を厚さ方向から挟み、前記磁気抵抗効果素子から漏れた磁場を吸収する第1及び第2の軟磁性膜を形成する
    ことを特徴とする磁気ランダムアクセスメモリの製造方法。
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