JP3559332B2 - 磁性多層膜およびその製造方法ならびに光磁気記録媒体 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、磁気光学カー回転を示す磁性多層膜およびその製造方法と、この磁性多層膜を光磁気記録膜として有する光磁気記録媒体とに関する。
【0002】
【従来の技術】
異種金属を原子層レベルで交互に積層し得る今日の薄膜作製技術により、熱平衡状態では存在しないような規則的積層構造をもつ多層膜、すなわち金属人工格子の作製が可能となっている。一方、熱平衡状態でL10 型規則合金となるFePt合金は、垂直磁気異方性をもち、大きな磁気光学カー回転が得られるため、注目されている。
【0003】
Appl.Phys.Lett.62,639(1993) (以下、文献1)では、スパッタ法で100℃にて[Fe(16ML)/Pt(15ML)]8 薄膜を作製し、475℃で14時間アニールを施して正方晶FePt相を形成し、垂直磁化膜としている。ここで、MLは単原子層を示し、Fe(16ML)の厚さは23 A、Pt(15ML)の厚さは30 Aである。この垂直磁化膜は、(001)優先配向のFePt規則相を有するものであり、膜面に垂直な方向の保磁力Hc⊥が約1.8 kOe(FIG.4)、実効的な垂直磁気異方性定数が8×106 erg/cm3 以上であることが報告されている。
【0004】
しかし、文献1の膜では、X線回折チャート(FIG.2)の2θ=47度の位置にPtFe(200)面のピークが認められ、十分な配向性が得られているとはいえない。また、実効的な垂直磁気異方性定数も十分に大きくはないので、磁化曲線の角形比(残留磁化Mr/飽和磁化Ms)が低い。
【0005】
Appl.Phys.Lett.63,1438(1993)(以下、文献2)では、厚さ23 AのFe(001)と厚さ29 AのPt(001)とからなる積層膜を8層重ねた多層膜を作製し、アニール後にカー回転角を測定している。この結果を示すFIG.1(b)では、磁界強度と波長633nmでのカー回転角との関係を表わすヒステリシス曲線において、保磁力(カー回転角が0度となる磁界強度)が4 kOe、飽和カー回転角が0.6度、残留カー回転角(磁界強度ゼロでのカー回転角)が0.5度となっている。また、この文献には、[Fe(1ML)/Pt(1ML)]128 を作製したところ、均質で無秩序な合金となり、カー回転角がバルクのPtFe無秩序合金と同様となったことが記載されている。
【0006】
しかし、文献2の膜では、カーループの角形比(残留カー回転角/飽和カー回転角)が約0.85と小さく、カー回転角も十分に大きいとはいえない。また、文献2の膜のX線回折チャート{FIG.1(a)}には、文献1の膜のX線回折チャート(FIG.2)と同様に2θ=47度の位置にピークが認められる。これは、文献1の膜と同様にPtFe(200)面のピークであると考えられるので、やはり十分な配向性が得られているとはいえない。
【0007】
Phys.Rev.B.50,3419(1994)(以下、文献3)では、FeとPtとを超高真空中で共蒸着することにより、(001)高配向FePt規則相をもつ膜が得られたことが報告されている。500℃で蒸着されたFe52Pt48膜では、光子エネルギー2eV(波長633nm)におけるカー回転角が0.8度となっている。
【0008】
しかし、文献3の膜では、X線回折チャートにFePt(111)面のピークおよびFePt(200)面のピークがあり、配向の乱れが認められる。また、文献3では実効的な垂直磁気異方性定数を測定していないが、膜面に垂直な方向の保磁力Hc⊥は約1 kOe(FIG.2)にすぎず、また、カーループの角形比は約0.35(FIG.2)と小さいので、光磁気記録膜として実用化するには特性が不十分である。
【0009】
上記のように、従来のFe/Pt磁性多層膜では、大きなカー回転角と、カーループの高い角形比(1.0)と、大きな垂直磁気異方性とを共に得ることはできていない。また、従来のFe/Pt多層膜では、層厚比Fe/Ptを1/4〜1/3としなければ、カーループの角形比が1.0である垂直磁化膜にはならなかった。しかし、Fe層が薄いとカー回転角が小さくなってしまうため、層厚比Fe/Ptをより大きくした場合にも角形比が1.0となる垂直磁化膜が望まれている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、垂直磁気異方性が大きく、膜面に垂直な方向の保磁力が大きく、カーループの角形比が1.0であり、しかもカー回転角の大きい磁性多層膜と、この磁性多層膜を光磁気記録膜に用いた光磁気記録媒体とを提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
このような目的は、下記(1)〜(5)のいずれかの構成により達成される。
(1)Fe単原子層とPt単原子層とが1層づつ積層されており、(001)面配向を有する磁性多層膜。
(2)X線回折チャートにおいて、(001)面配向を示すピークだけが認められる上記(1)の磁性多層膜。
(3)温度を500℃以上とした基板上に、蒸着法によりFe単原子層とPt単原子層とを交互に積層して規則合金膜を形成する磁性多層膜の製造方法。
(4)上記(1)または(2)の磁性多層膜が形成される上記(3)の磁性多層膜の製造方法。
(5)上記(1)または(2)の磁性多層膜を光磁気記録膜として有する光磁気記録媒体。
【0012】
【作用および効果】
本発明では、Fe単原子層とPt単原子層とを交互に1層づつ積層し、(001)面配向を有する規則合金と等価である磁性人工格子多層膜を得る。この磁性多層膜は、超高真空蒸着法により形成することが好ましい。蒸着時の基板温度は、500℃程度以上とすることが好ましい。
【0013】
このようにして作製された多層膜は、垂直磁気異方性、膜面に垂直な方向の保磁力Hc⊥およびカー回転角がいずれも大きく、しかもカーループの角形比が1.0であるため、光磁気記録膜として有用である。
【0014】
なお、上記した文献2記載の[Fe(1ML)/Pt(1ML)]128 膜は、実際にはFe単原子層とPt単原子層との積層膜ではなく、均質で無秩序な合金であり、カー回転角がバルクのPtFe無秩序合金と同様であるので、本発明の磁性多層膜とは全く異なるものである。
【0015】
【実施例】
以下、本発明の実施例を挙げ、本発明を詳細に説明する。
【0016】
到達真空度を3×10−10 Torrとし、MgO(001)基板上に、2×10−9Torr未満の圧力下で厚さ250 AのPt(001)バッファ層を蒸着により形成した。バッファ層形成時の基板温度(Ts)は500℃とした。基板としては、MgO(001)の他、GaAs(001)、Si(001)等を用いてもよい。バッファ層としては、Pt(001)の他、Au(001)、Ag(001)等を用いてもよい。バッファ層の厚さは、150〜3000 A程度とすることが好ましい。バッファ層形成時の基板温度は、通常、室温〜800℃とすることが好ましい。
【0017】
次いで、バッファ層の上に、前記圧力下で[Fe(1ML)/Pt(1ML)]100 多層膜を形成した。基板温度は500℃とした。蒸着装置には、2つの独立した電子銃をもつものを用いた。1MLは単原子層を意味する。Fe(1ML)の厚さは1.4 A、Pt(1ML)の厚さは2.0 Aであり、この多層膜は、Fe(1ML)+Pt(1ML)を1単位として100単位積層したものである。蒸着レートは0.1 A/min とした。蒸着中には、RHEED(Reflection High Energy Electron Diffraction )パターンをモニターし、(001)配向の単原子層が1層づつエピタキシャル成長した膜が形成されていることを確認した。
【0018】
多層膜形成時の基板温度は、通常、250〜800℃、好ましくは500〜800℃とする。また、Fe(1ML)+Pt(1ML)を1単位としたときの積層単位数は特に限定されないが、通常、10〜300程度とすることが好ましい。なお、多層膜形成時の圧力は、好ましくは1×10−8Torr以下とし、より好ましくは1×10−10 〜3×10−9Torr程度とする。
【0019】
図1(a)に、この多層膜の最上層であるPt層のRHEEDパターンを示す。縞状のパターンは、この多層膜の表面が、原子スケールでかなり平坦であることを意味する。基板温度500℃で蒸着したために、Fe単原子層およびPt単原子層は表面拡散によって一層づつエピタキシャル成長したと考えられる。図2に、この多層膜のX線回折チャートを示す。図2中には、一部のピークを拡大して示してある。このX線回折チャートには、図1(a)のRHEEDパターンから期待されるように、(001)面配向を示すピークが認められ、しかも他の配向を示すピークは認められない。このことから、原子レベルで規則構造をもつ膜が形成されていることがわかる。
【0020】
これに対し、基板温度を室温(R.T.)とした以外は上記と同様にして形成した多層膜では、図1(b)に示されるようにRHEEDパターンが斑点状であった。これは、室温では島状成長が生じたことを示す。なお、図1は、すべて[110]入射のものである。また、このRHEEDパターンに一致して、X線回折では、FePt(001)面配向を示すピークは室温で成長させたこのFe/Pt多層膜では認められなかった。
【0021】
多層膜の磁気異方性を、室温でSQUID 磁気メータにより測定した。図3に、500℃で成長させた[Fe(1ML)/Pt(1ML)]100 膜の、膜面に対して平行(H//)および垂直(H⊥)方向の磁化カーブを示す。55 kOeにおいても飽和していない膜面内(H//)の磁化カーブは、この多層膜の大きな垂直磁気異方性を示す。
【0022】
多層膜の波長(λ)633nmでの磁気光学カー回転角(θk )を、室温で測定した。図4に、磁界強度とカー回転角との関係を示すカーループを示す。同図に示されるように、500℃で成長させた[Fe(1ML)/Pt(1ML)]100 膜の633nmでの飽和カー回転角は0.69度と大きい。また、このカーループでは、残留カー回転角(磁界強度ゼロでのカー回転角)が飽和カー回転角と同じで角形比が1.0であり、保磁力(カー回転角がゼロとなる磁界強度)が3 kOeと大きい。したがって、この多層膜では、光磁気磁気記録膜としての実用的な特性が得られていることがわかる。
【0023】
これに対し、室温で成長させた[Fe(1ML)/Pt(1ML)]100 多層膜の垂直磁気異方性およびカー回転角は、500℃で成長させたものに比べ非常に小さかった。
【0024】
垂直磁気異方性および633nmでのカー回転角は、[Fe(1ML)/Pt(1ML)]100 多層膜の規則度の増大に伴なって増大する。この規則度は、X線回折チャートのピーク強度比I001 /I002 によって評価される。I001 およびI002 は、それぞれFePt(001)面のピーク強度および(002)面のピーク強度である。I001 /I002 が0.1以上であれば、実用上十分な垂直磁気異方性およびカー回転角が得られる。
【0025】
図5に、[Fe(1ML)/Pt(1ML)]100 膜のI001 /I002 と、実効的な垂直磁気異方性定数Ku、このKuに形状異方性2πMs2 を加えた本質的な垂直磁気異方性定数K⊥および633nmでのカー回転角との関係を示す。なお、Msは飽和磁化である。この実施例では、K⊥=5.5×107 erg/cm3 、Ku=4.7×107 erg/cm3 、Ms=1160emu/ccが得られている。なお、前記文献1における実効的な垂直磁気異方性定数(8×106 erg/cm3 以上)は、この実施例におけるKuと比較されるものである。したがって、明らかに本発明において大きな値が得られていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【図1】結晶構造を表わす図面代用写真であって、(a)および(b)は、それぞれ基板温度500℃および室温で形成された[Fe(1ML)/Pt(1ML)]10。多層膜の最上層であるPt層のRHEEDパターンである。
【図2】基板温度500℃で形成された[Fe(1ML)/Pt(1ML)]100多層膜のX線回折チャートである。
【図3】基板温度500℃で形成された[Fe(1ML)/Pt(1ML)]100多層膜の磁化ループである。
【図4】基板温度500℃で形成された[Fe(1ML)/Pt(1ML)]100多層膜のカーループである。
【図5】[Fe(1ML)/Pt(1ML)]100多層膜のI001/I002と、実効的な垂直磁気異方性定数Ku、本質的な垂直磁気異方性定数K⊥および633nmでのカー回転角との関係を示すグラフである。
Claims (5)
- Fe単原子層とPt単原子層とが1層づつ積層されており、(001)面配向を有する磁性多層膜。
- X線回折チャートにおいて、(001)面配向を示すピークだけが認められる請求項1の磁性多層膜。
- 温度を500℃以上とした基板上に、蒸着法によりFe単原子層とPt単原子層とを交互に積層して規則合金膜を形成する磁性多層膜の製造方法。
- 請求項1または2の磁性多層膜が形成される請求項3の磁性多層膜の製造方法。
- 請求項1または2の磁性多層膜を光磁気記録膜として有する光磁気記録媒体。
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