本発明は、上記事実を考慮して、スパイラルベルト部材を設けたことによるタイヤ諸性能の低下を抑えた二輪車用空気入りタイヤを提供することを課題とする。
本発明者は、本発明を完成するにあたり、以下の検討を行った。
二輪車用空気入りタイヤでは、2輪車が車体を傾けて旋回することから、直進時と旋回時とでは、トレッド部が地面と接する場所が異なる。つまり、直進時にはトレッド部の中央部分を使い、旋回時にはトレッド部の端部を使う特徴がある。そのためにタイヤの形状が乗用車用のタイヤに比べて非常に丸い。この丸いクラウン形状(タイヤのトレッド部分の形状)によって、特に旋回中は次のような独特な特性が見られる。
二輪車用空気入りタイヤでは、特に車体を大きく倒した場合の旋回性能については、タイヤのトレッドの片側の端部が接地してグリップ力を発生させている。車体を大きく倒して旋回する場合、図6に示すような接地状態となる。接地している範囲の幅はトレッド全体の幅の25%程度である。このときの接地形状について考察すると、図6のように、接地形状のセンター寄りと、接地形状のトレッド端部寄りとでトレッド部の変形状態が異なる。トレッド部108のタイヤの回転方向(タイヤ周方向、またはタイヤ前後方向とも呼ばれる)の変形を見てみると、センター寄りのトレッド部分108Cではドライビング状態であり、トレッド端部寄りのトレッド部分108Eではブレーキング状態である。
ここで、ドライビングとは、タイヤを赤道方向にそって輪切りにした場合に、そのトレッド部分の変形が、トレッド下面(タイヤ内部の骨格部材に接している面)がタイヤ進行方向後方にせん断される力を受け、路面に接地しているトレッド表面がタイヤ進行方向前方に変形しているせん断状態のことであり、ちょうどタイヤに駆動力をかけたときに起こる変形である。一方、ブレーキングはドライビングの逆であり、ブレーキングでは、トレッドの変形はタイヤ内部側(ベルト)が前方にせん断される力を受け、路面に接地しているトレッド表面が後方に変形しているせん断状態となっており、制動したときのタイヤの動きとなる。図6のように、キャンバ角45度のように大きな角度で傾いて旋回するときには、タイヤに駆動力や制動力が加わっていない状態での回転でも、トレッドセンター寄りの接地領域にドライビング状態が現れ、トレッド端部寄りにブレーキング状態が現れる。これは、タイヤのベルト部の半径の差(径差)による。二輪車用空気入りタイヤでは、タイヤのクラウン部が大きな丸みを帯びているため、回転軸からベルトまでの距離がトレッドセンター部とトレッド端部とで大きく異なる。図6の場合では、接地部分のセンター寄りの位置での半径RCは、接地部分のトレッド端部寄りの位置での半径RAよりも明らかに大きい。タイヤが回転する角速度は同じであるので、ベルト部の速度(タイヤが路面に接触している場合では、路面に沿ったタイヤ周方向の速度をいう。ベルト半径にタイヤ角速度をかけたもの)は、半径の大きいRAの部分の方が速い。タイヤのトレッド表面は、路面に接触した瞬間では前後方向にせん断される力を受けていないが、路面に接触したままタイヤ回転にあわせて進み、路面から離れるときには前後方向のせん断変形を受けている。このとき、ベルトの速度が速いタイヤセンター寄りのトレッド部分108Cではドライビング状態のせん断変形が生じており、タイヤのトレッド端部側(トレッド端部寄りのトレッド部分108E)ではベルトの速度が遅いのでブレーキング変形が生じている。これが、トレッド部108の前後方向の変形形態である。
このような旋回中の余計な変形によって、タイヤショルダー部では偏摩耗を起こしやすい。特にトレッド端から10%未満の領域である領域A(図6参照)では、ブレーキング変形が大きいため、蹴り出し部分でタイヤ周方向に滑りやすく摩耗が起こり易い。
また、トレッドが前方や後方の逆の剪断変形を起こすことから、無駄な挙動を含み、旋回時のタイヤグリップ力に無駄が生じる。図6に示した領域Aは、既にタイヤ周方向にせん断変形を受けており、横力が加わってトレッドが横に変形しようとしても、既にタイヤ周方向に摩擦係数を使っているため、横方向に100%の摩擦係数を使えずに非効率となる。理想的には接地しているトレッド部分の変形が周方向には生じずに全て横方向に発生すれば横力は最大となる。また、周方向のトレッドの変形にバラツキがあると、滑り方にもバラツキが発生する。例えば、タイヤが傾いたままタイヤに駆動力を加えて加速するときでは、すでにドライビング状態にあるセンター寄りのトレッド部分108Cでは駆動力がタイヤに加わるとすぐに駆動グリップ力が発揮されるが、すでにブレーキング状態にあるトレッド端寄りのトレッド部分108Eでは、一度ブレーキング変形がニュートラルに戻り、それから駆動側の変形へとシフトするため、なかなか駆動力に寄与できない。トレッド端寄りのトレッド部分108Eをドライビング状態にするためには、大きなトラクション力が必要であり、このようなトラクション力を加えるためにアクセルを開いてタイヤに駆動力を加えると、もともとドライビング状態にあるタイヤセンター側のトレッドが滑って空転状態に陥りやすい。
このような問題に対して、もともとブレーキング側にあるタイヤショルダー部のトレッド変形を、少しでもドライビング側にしておけば、トレッド端部でもトラクション力を大きく発揮できると考えられる。このためには、トレッド端部でのベルトの速度を速めることが解決方法の1つであるが、このベルトの速度は先に述べたようにベルト半径によって決まっており、ベルト半径を大きくし過ぎると二輪車用空気入りタイヤとして用いることができなくなる。
そこで、トレッド端部については、接地してからタイヤ周方向にベルトが伸びやすい構造にすることで、ベルト速度を速めることが考えられる。すなわち、大キャンバ角度が付く旋回時(以下、大キャンバ時という)において、接地部分のうちセンター側半部はベルトがタイヤ周方向(赤道方向)に伸びない構造で、トレッド端側の半部はベルトがタイヤ周方向に伸び得る構造とすれば、接地してからトレッド端側のベルトが伸びることでトレッド端側のベルト速度が増し、トレッド端側のブレーキング変形を少なくすることができる。その結果、大キャンバ時のトラクション性能(バイクを大きく傾けた旋回からの加速性能)が向上する。
従来の技術では、スパイラルベルト層をトレッドの全領域に巻きつけることが普通である。このようなタイヤであるとトレッドのショルダー部のベルトを赤道方向に伸ばすことはできない。そこで、スパイラルベルトをトレッド端部付近に巻かずに、センター側だけの配置とすれば、大キャンバ時にトレッド端部のべルト速度が増して、トラクション性能を向上させることができる。また、大キャンバ時にトレッドショルダー部のベルトの速度が増すということは、トレッドセンター側のベルトの速度に近づくことであり、これによって、接地しているトレッド部分の余計な動きが抑制される。つまり、これまで逆方向の剪断力を受けるトレッドが、同じ方向の剪断力を受けることになり、無駄な動きが排除されて、偏摩耗の発生を抑制することができる。またトレッドセンター部にはスパイラルベルト層が配置されているため、高速走行時(速度が速いので、二輪車用空気入りタイヤを装着している車両(バイクなど)が直立している時)でのタイヤの遠心力による膨張を抑制することができ、結果として高速時の操縦安定性能が、全幅のスパイラルベルト層を持つタイヤ並みに維持される。
一方、直進時の変形挙動について確認した。図6に、CA0で直立してバイクが直進する場合のタイヤの断面形状を示す。接地している範囲は、加速時やブレーキング時に荷重変動した場合は変動するが、ほぼトレッド幅の25%程度である。このとき、トレッド部で屈曲を受けているのは、接地幅の接地端部近傍であり、この領域でトレッドが曲がりやすければ乗り心地性能が向上する。この接地端部近傍にスパイラルベルトが存在する場合では、スパイラルベルトが十分に固く、さらにスパイラルベルトに併せて使用している交錯ベルトの動きを拘束するため、タイヤの骨格部材が硬くなりすぎて乗り心地性能が悪化する場合がある。
本発明者は、以上のような検討を行うとともに実験を重ねて更に検討を加え、本発明を完成するに至った。
請求項1に記載の発明は、一枚以上のカーカスプライで形成されたカーカス層のクラウン部のタイヤ径方向外側に、ベルト層とトレッド部とを順次備え、前記ベルト層は、単線または並列した複数本のコードを被覆ゴム中に埋設してなる帯状のゴム被覆コード層をタイヤ周方向に対して0〜5度の範囲内のコード角度をなすようにスパイラル状に巻回してなるスパイラルベルト層を少なくとも1枚有する二輪車用空気入りタイヤにおいて、タイヤセンターからトレッド端までのトレッド表面距離をLとした場合に、タイヤセンターからトレッド表面に沿って0.65L〜0.85Lの位置までの範囲内にのみ前記スパイラルベルト層が存在し、前記スパイラルベルト層は、タイヤセンターを跨るセンター側スパイラルベルト部材と、タイヤ幅方向両側のトレッドショルダー側にそれぞれ配置された一対のショルダー側スパイラルベルト部材と、を備え、前記センター側スパイラルベルト部材と前記ショルダー側スパイラルベルト部材との隣り合う端部同士は、トレッド表面に沿って0.1L〜0.42Lの範囲内の間隔で離れており、タイヤセンターから前記センター側スパイラルベルト部材の端部までのトレッド表面に沿った距離が0.08L〜0.25Lの範囲内であり、タイヤセンターから前記ショルダー側スパイラルベルト部材のタイヤセンター側の端部までのトレッド表面に沿った距離が0.25L〜0.5Lの範囲内であることを特徴とする。
スパイラルベルト層のコード角度をタイヤ周方向に対して0〜5度の範囲内としたのは、製造上の誤差を考慮したからである。
請求項1に記載の発明では、スパイラルベルト層を3分割して、タイヤセンター部に1つ、そしてトレッドの両側に一対、の合計3枚を配置することを規定している。センター側スパイラルベルト部材は、タイヤが直進時に高速回転したときのタイヤセンター部の膨張を防止する役目があり、タイヤセンター部が膨張しなければ、トレッドセンター部の接地圧が高速転動で上がらずにトレッドセンター部のゴムが故障することを防止できる。また、高速転動時にタイヤセンター部でタガ効果を発揮するため、高速転動時の操縦安定性能を確保できる。
また、請求項1に記載の発明では、センター側スパイラルベルト部材のペリフェリ方向幅を規定している。ここで、ペリフェリ方向幅とは、外周に沿った略円弧方向の幅のことである。上述したとおり、車体が直進して走行しているときの接地部分はタイヤセンター部の25%の領域である。つまり、トレッド全幅を2Lとすれば、センター部の0.5Lの幅について接地している。センター部に巻くスパイラルベルト部材(センター側スパイラルベルト部材)の幅がタイヤセンター(センターライン)から片側に0.08Lであれば、両側で0.16Lの幅となり、これは接地幅0.5Lの1/3である。このように、接地部位の少なくとも1/3の領域にセンター側スパイラルベルト部材を巻きつけることにより、タイヤが膨張するのを防止できる。下限の0.08Lは、センター側スパイラルベルト部材によって直進時でのタイヤセンター部の遠心力膨張を防止するための最低限の幅である。センター側スパイラルベルト部材の幅が0.08Lよりも小さいと、タイヤの遠心力膨張を防止する効果が少なくなる。上限の0.25Lは、すなわち直進時の接地部位の幅と同じである。タイヤセンターから0.25Lの幅であるため、両側で0.5Lとなり、これは接地幅となる。幅が0.5Lを超えると、最も変形の厳しい接地端部SE(図6参照)においてもスパイラルベルト部材が存在することになり、トレッド部のベルト骨格がたわみにくくなり、乗り心地性能が悪化する。
更に、請求項1に記載の発明では、トレッドショルダー部に配置された一対のショルダー側スパイラルベルト部材のタイヤセンター側の端部位置をタイヤセンターから0.25L〜0.5Lの範囲内とした。タイヤセンターから0.25Lよりも小さい位置からショルダー側スパイラルベルト部材を巻き始めると、図6での直進時のタイヤ断面において最も変形の大きい部位についてもスパイラルベルト部材が存在することになり、直進時の乗り心地性能が悪化する。市販のバイクでは、一般的な使い方をした場合では直進走行をしている時間が長く、直進時の乗り心地性能は重要である。また、タイヤセンターから0.5Lよりも幅の広い位置からスパイラルベルトを巻き始めると、トレッドショルダー部のスパイラルベルトの幅が狭くなりすぎる。即ち、図6において、CA50度で旋回するときの接地幅は、トレッド端部から0.5Lの範囲である。特に、図6において、領域Cにスパイラルベルト部材を巻いておかないと、CA50度のベルト面内剪断剛性が不足するだけでなく、領域Cのベルトも周方向に伸びやすくなるため、本発明の効果が発揮できなくなる。つまり、CA50度で旋回する領域にスパイラルベルト部材を巻くためには、タイヤセンターから0.5L以下の位置からスパイラルベルトを巻かなくてはならない。
なお、センター側スパイラルベルト部材と、ショルダー側スパイラルベルト部材とは異なる構成にされていてもかまわない。例えばセンター側スパイラルベルト部材を芳香族ポリアミドのような有機繊維からなるものとすれば直進時の乗り心地性能がさらに良くなる。また、ショルダー側スパイラルベルト部材をスチール製とすれば、ベルト面内剪断剛性を高めることができて、CA50度のような大CA時での旋回性能をさらに高めることが可能である。
また、請求項1に記載の発明では、タイヤセンター部を跨るセンター側スパイラルベルト部材と、タイヤ幅方向両側のトレッドショルダー側に配置された一対のショルダー側スパイラルベルト部材との間(隣り合う端部同士の間隔)は0.1L〜0.42Lの範囲内とされている。これにより、骨格部材の柔軟性を持たせ、タイヤが直進したときにたわみやすくしている。即ち、図7において、トレッドの変形が最も厳しくなる接地端部SEの近傍領域にこの隙間を設けることで、タイヤがたわみやすくなり、乗り心地性能が向上する。なお、この効果を顕著にするためには、この隙間(間隔)を少なくとも10mm確保することが好ましい。
また、請求項1に記載の発明では、スパイラルベルト層の幅、すなわち、左右一対のショルダー側スパイラルベルト部材の最もトレッドセンターから離れている端部の位置を規定している。そして、トレッド半分のトレッド表面の幅をL、つまり、タイヤセンターからタイヤの表面に沿ってトレッド端までの距離をLとしている。このとき、スパイラルベルト層の幅をタイヤセンターから0.65L〜0.85Lの位置までの範囲と規定している。つまり、何れのトレッド端側であってもトレッド端から幅0.35L〜0.15Lの範囲にはスパイラルベルト層は存在しない。
スパイラルベルト層の幅を0.65L〜0.85Lとした根拠は、バイクが最も大きく倒れるときであるキャンバ角50度付近での接地部分を考慮したことに基づく。キャンバ角50度の旋回時には、トレッド全幅2Lのうちの0.4〜0.5Lの幅部分のみが接地している。請求項1に記載の発明では、上記のように、トレッドセンター部にスパイラルベルト層を形成して大キャンバ時には骨格部材が接地範囲において周方向に伸びることを防止し、逆にトレッド端部側ではスパイラルベルト層を形成せずに骨格部材をタイヤ周方向に積極的に伸ばすことができる構成とする。接地部の半分は0.2〜0.25Lだけトレッド端から離れた位置であり、この付近にスパイラルベルト層の端部を配置するのが好ましい。ただし、厳密に接地の半分にするのではなく、接地部分のトレッドショルダー側にスパイラルベルトが巻かれていなければ、効果は認められる。それゆえ、0.65L〜0.85Lの位置までの範囲としている。
スパイラルベルト層の幅が0.65L未満だと、大キャンバ時における接地面のタイヤセンター側でもスパイラルベルト層が伸びてしまい、センター側のベルト速度も増してしまって効果が得られにくくなる。スパイラルベルト層の幅が0.85Lを超えると大キャンバ時における接地面のショルダー側(トレッド端側)でベルトが伸びにくくなってしまい、ショルダー側のベルト速度を速めることができず、効果が得られにくい。
スパイラルベルト層の幅は、好ましくは、0.7L〜0.8Lの範囲内であり、更に好ましくは0.75L〜0.8Lの範囲内である。
また、カーカスプライ(ボディプライ)は1層以上としている。1層の場合ではタイヤ周方向に対して90度をなす方向、つまりラジアル方向に配置することが殆どである。2層の場合では、ラジアル方向に2枚重ねても良いし、タイヤ周方向に対して70度のように角度をつけて互いに交錯させて配置しても良い。また、カーカスのビード部での係止方法は、ビードコアに巻きまわして折り返す形で係止しても良いし、ビード先端でカーカスを切断し、そのコード端部の両側にビードワイヤーを配置してビードワイヤーでカーカスを挟み込む形で係止しても良い。
スパイラルベルト層を持つタイヤでは、スパイラルベルト層の他に交錯層をトレッド部に配置する方が良い。交錯層とスパイラルベルト層とが組み合わさることでベルトの面内剪断剛性を高めることができるからである。カーカスプライ(ボディプライ)が1層の場合では、カーカスプライはラジアル(赤道に90度)で配置するため交錯層を構成しないので、スパイラルベルト層の他に2枚以上のベルト層を設けることが良い。カーカスプライが2枚配置されている場合では、カーカスプライを2枚交錯させて交錯層として機能させれば、ベル卜層を配置しなくてもベルトの面内剪断剛性を高く保つことができる。もちろん、カーカスプライが2枚交錯している上に、さらにベルト交錯層を設けてもかまわない。また、カーカスプライが交錯層として機能し、スパイラルベルトと組み合わせることで、ベルトの面内剪断剛性を高めることができ、操縦安定性能が向上する。
スパイラルベルト部材の素材は、芳香族ポリアミド(商品名は例えばケブラー)のような有機繊維でも良いし、スチールコードでも良い。スパイラルベルト部材を製造するには、例えば、1本または2本以上の並列したコードを被覆ゴム中に埋設した帯状体を、略タイヤ赤道方向に沿って螺施状にタイヤ回転軸方向に巻きつけて製造する。
請求項2に記載の発明は、前記スパイラルベル卜層の他に、少なくとも2枚の互いに交錯する有機繊維から成る交錯ベルト部材で構成される交錯ベルト層が配置され、前記交錯ベルトのタイヤ周方向に対するコード角度が30〜80度の範囲内とされていることを特徴とする。
請求項2に記載の発明では、2枚の交錯ベル卜部材が存在することを規定している。2枚の交錯ベルト部材がスパイラルベルト部材と組み合わさることで、ベルトの面内剪断剛性を高めることができる。タイヤ周方向に対するコード角度は30度〜80度である。80度よりも大きいと、2枚のベルトが交錯する角度が小さく、面内剪断剛性の向上が期待できず、操縦安定性能が悪化する。30度未満であると、これはすなわちスパイラルベルト層に近づく方向であり、タイヤ周方向(タイヤ赤道方向)にベルトが伸びにくい特性を持ってくる。こうなると、ショルダー部のベルトを接地領域でタイヤ赤道方向に伸ばすという本発明の趣旨に反して、トレッドショルダー部で骨格部材がタイヤ赤道方向に伸び難くなり、トレッドショルダー部のベルト速度が増し難くなる。従って、トレッドショルダー部がブレーキング変形のままであり、トラクショングリップを得にくいことに加え、偏摩耗を発生しやすい。さらに、30度未満であると、スパイラルベルト部材との交錯角度が小さくなる。このため、スパイラルベルト部材と組み合わせたときの面内剪断剛性の向上度合いが少ないことに加えて、タイヤ赤道方向に近いコードが3層重なるため、幅方向を折り目とする周方向面外曲げ剛性が高くなりすぎて、トレッド部の骨格部材がたわみにくくタイヤがゴツゴツする、すなわち乗り心地性能が悪化する。
なお、角度については、好ましくは45度以上であることが、骨格部材が赤道方向に伸びやすいため良い。また面内剪断剛性を発揮する上でも好ましくは70度以下が良い。ここで、角度はタイヤのセンター部で計測した角度を意味する。
2枚の交錯ベルト部材が存在する場合のカーカスプライは、ラジアルでも良いし、2枚交錯させて角度を持たせても良い。ラジアルの場合は、1枚のカーカスプライを赤道方向に対して90度で配置しても良いし、2枚の90度のカーカスプライを重ねて配置しても良い。
2枚の交錯ベル卜部材は、トレッド全幅に対して広く入れることが好ましい。具体的にはトレッド全幅の90%以上105%以下の幅で入れると、スパイラルベルト層が存在しないトレッド端部に交錯ベルト層が存在して、CA50度の旋回時にも十分な面内剪断剛性が確保できて、操縦安定性能が高まる、つまり、横力が高くなる。ここで、トレッド全幅とは、トレッド部のペリフェリ方向幅のことである。トレッド部のペリフェリ方向幅とは、トレッド部の外周に沿った略円弧方向の幅のことであり、走行時にあらゆるキャンバ角(CA)で接地する領域の幅のことである。
なお、交錯ベルト部材の材質は有機繊維コードが好ましい。スチールコードのようにコードの圧縮方向にも剛性を持つコードを交錯層として配置すると、骨格部材が面外に曲がりにくい特性をもち、接地面積が小さくなってグリップ力が低下するからである。有機繊維コードであれば、コード方向の圧縮については大きな剛性を持たずに、骨格部材の面外剛性を低下させて接地面積を大きくすることができ、かつ、コードの引っ張り方向には非常に強い剛性をもつため、効果的に面内剛性を高めることができるからである。なお、スパイラルベルトについては、スチールでも有機繊維でもかまわない。スパイラルベルト同士は交錯していないため、必要以上にベルトの面外曲げ剛性を高める心配がないからである。交錯ベルトのように交錯させる場合は、スチールの使用は避けるほうが良い。交錯ベルトの材質としては、芳香族ポリアミド(商品名は例えばケブラー)のような引っ張り剛性が高く、熱にも強い繊維が好ましい。
請求項3に記載の発明は、前記スパイラルベルト層を構成するベルト部材が、全て前記交錯ベルト層よりもタイヤ半径方向内側に配置されていることを特徴とする。
請求項3では、2枚の交錯ベル卜層が存在する場合に、スパイラルベルト層を構成するベルト部材が2枚の交錯ベルト層よりも半径方向内側に配置されていることを規定した。スパイラルベルト部材が分割されて配置されている場合、スパイラルベルト部材が存在する場所と存在しない場所とでタイヤのベルト剛性が異なる。バイクは車体を倒して旋回する特徴から、車体を倒していく過程でタイヤの接地部位がトレッド部を移動する。スパイラルベルト部材がある部分とない部分との境目を接地部分が越えるときに、ベルトの剛性が異なることによってライダーは違和感を感じる場合がある。請求項4のように、スパイラルベルト層の半径方向外側に交錯ベルト層を配置する構成とすることにより、スパイラルベルト層が分断されてスパイラルベルト部材が存在しない部分を交錯ベル卜層で包むことができて、段差をぼやかすことができる。そのため、ライダーは、円滑な車体の倒し込み、及び、加速時の車体の円滑な起こしをすることが可能となる。
請求項4に記載の発明は、タイヤ周方向に対するコード角度が85〜90度の範囲内とされた有機繊維コードを含むベルト補強層を、トレッド全幅2Lの90%以上の幅で前記スパイラルベルト層と前記トレッド部との間に配置したことを特徴とする。
請求項4では、スパイラルベルトの半径方向外側に、角度がタイヤ赤道方向に対して90度の有機繊維部材を配置することを規定した。これは、トレッド部で、スパイラルベルトが存在する部分とスパイラルベルトが存在しない部分があるため、その両者の境界でタイヤの骨格部材の剛性が急激に変わり、この部分を接地端が乗り越すとき(すなわち、タイヤをどんどん傾けて旋回するときに接地部分が移動してこの境界を乗り越えるとき)に、ライダーがタイヤの段差を感じて、違和感を覚えることを防止するためである。トレッドゴムに比べて内部のベルト等のコードは剛性が非常に大きい。そのため、内部の骨格部材に不連続な部分があるとその段差をライダーは感じる。そこで、請求項4のように、骨格部材に不連続な部分のタイヤ径方向外側のベルト(最外層のベルトであることが多い)をタイヤセンターからタイヤショルダーまで連続させることでこの段差を感じにくくしている。角度がタイヤ赤道方向に対して90度としているのは、幅方向に沿ってコードを配置することで段差を最も効果的に感じさせなくすることができるからである。なお、請求項4において、角度に85度〜90度のように幅を持たせたのは製造上の誤差を含むからである。また、幅についてはトレッド全幅2Lの90%以上とした。このベルト補強層の配置目的は段差を感じさせなくすること、つまりスパイラルベルト層の端部をベルト補強層で覆って、最外層のベルトが分断されないようにしている点にある。そのため、幅を広くして、トレッドの全領域を覆う配置が好ましい。90%以上とすれば、十分にスパイラルベルトの段差を覆うことができる。なお、上限については請求項4には規定していないが、トレッド幅を超えてサイドウォール部に達してもかまわない。つまり、110%となってもかまわない。好ましくは、タイヤのサイドウォール部の最大幅に達しない程度の110%が上限である。
また、請求項3では分割されたスパイラルベルト部材を交錯ベルト層が覆っているが、この交錯ベルト層に、ベルト補強層のような更に1枚の90度ベルト(タイヤ周方向に対するコード角度が90度のベルト)を配置すれば、段差を更に感じにくくできるので意味を持つ。請求項4では90度ベルトとして上記のベルト補強層を配置している。効果が高いのは、分割されたスパイラルベルト部材が交錯ベルト層よりもタイヤ半径方向外側に存在するときであり、このようなときは分割したスパイラルベルトをベルト補強層で覆えば、段差を効果的に感じにくさせることができる。
また90度ベルト(ベルト補強層)は、タイヤの幅方向には強く、タイヤの周方向には伸びやすい特性がある。そのため、タイヤのトレッド端部に達するように90度ベルト(ベルト補強層)を配置すれば、タイヤショルダー部の横方向の剛性を高めることができる。
請求項4では、90度ベルトとして配置したベルト補強層のコード材質は有機繊維とした。二輪車用空気入りタイヤは断面形状が非常に丸いため、タイヤ幅方向にコードの圧縮側に剛性を持つスチールコードを用いると、タイヤがたわみにくくなり、接地面積が減少するからである。有機繊維コードでは、コードの圧縮側には剛性が低く、接地面積を減少させる心配がない。
なお、請求項4には規定していないが、ベルト補強層の配置目的がスパイラルベルトの端部の段差を解消することにあるため、コードの直径が細すぎては意味がない。また、逆にコードの直径が太すぎると、いくら有機繊維とはいえコードの圧縮側に剛性を持つため、あまりに太すぎるコードも好ましくない。ベルト補強層のコードの直径については0.5mm以上1.2mm以下が好ましい。
請求項5に記載の発明は、前記ベルト補強層のタイヤ径方向内側に、厚みが0.3〜3mmの範囲内の緩衝ゴム層を配置したことを特徴とする。
請求項5では、タイヤ周方向に対して85度〜90度のコード角度とされたベルト補強層と、スパイラルベルト層との間に、緩衝ゴム層を配置することを規定している。この緩衝ゴム層はトレッドショルダー部の摩耗を抑制する効果がある。図6にタイヤがCA50度で旋回する時のトレッドの周方向の変形を示した。図6に示す領域Aと領域Cとでトレッド部の周方向の変形が異なっていることは既に述べた。これは、接地形状のセンター寄りの領域Cと、接地形状のトレッド端部寄りの領域Aとでベルトの速度が異なるからである。二輪車用空気入りタイヤは幅方向断面において大きな丸みを持っている。そのため、回転軸からベルトまでの距離であるベルト半径が、領域Aよりも領域Cのほうが大きい。従って、ベルトの速度、つまりトレッドが路面に接触してから、タイヤの回転が進み、トレッドが路面から離れるまでのベルト速度が、領域Cの方が速い。ベルト半径にタイヤの回転角速度を乗算したものがベルトの速度になるからであり、タイヤの回転速度は領域Aも領域Cも同じだからである。このベルトの周方向の速度差により、タイヤのセンター寄りであるC領域ではトレッドがドライビング状態であり、タイヤのトレッド端部寄りである領域Aではブレーキング状態である。ドライビングとは、タイヤを赤道方向にそって輪切りにした場合に、そのトレッドの変形が、トレッド内面(タイヤ内部の骨格部材に接している面)ではタイヤ進行方向後方にせん断され、路面に接地しているトレッド表面ではタイヤ進行方向前方に変形しているせん断状態であり、ちょうどタイヤに駆動力をかけたときに起こる変形である。一方、ブレーキングはドライビングの逆であり、トレッドの変形は、タイヤ内部側(ベルト)では前方にせん断され、路面に接地しているトレッド表面では後方に変形しているせん断状態であり、制動したときのタイヤの動きとなる。この周方向のトレッドの変形は、タイヤが駆動力も制動力も受けずに、遊輪状態で転がるだけで発生する。そして、この周方向の剪断変形によって、領域Aと領域Cとでトレッドが路面から滑りやすくなり、摩耗が進む。このような旋回中の余計な変形は、タイヤのショルダー部に偏摩耗を起こしやすいので、無い方が良い。
請求項5のように、緩衝ゴム層を設けると、緩衝ゴム層が周方向に剪断変形するため、上記のドライビング変形、ブレーキング変形をトレッドの代わりに肩代わりして、トレッドの周方向の変形が緩和される。一方で、緩衝ゴム層のタイヤ径方向外側には幅方向に沿ったベルト(90度のベルト)であるベルト補強層が配置されているため、幅方向には剪断変形されにくい。そのため、幅方向に対しては緩衝ゴム層はトレッドの変形を肩代わりせず、トレッドの横剪断変形は緩衝ゴム層を配置しても大きいままである。すなわち、緩衝ゴム層は周方向のみの変形を肩代わりし、トレッドの周方向変形を小さくして偏摩耗を防止する一方で、幅方向の変形は肩代わりせずにトレッドの横変形は大きいまま維持し横力を高く保てる効果がある。
緩衝ゴム層の材質を、スパイラルコードのコーティングゴムや、90度ベルトのコーティングゴムと同じ材質とすることにより、緩衝ゴム層とこれらのベルト部材との間で亀裂が発生せずに有効である。また、緩衝ゴム層は柔らかいゴム(弾性率の小さいゴム)を用いると、トレッドの変形を、より多く肩代わりするために摩耗を抑制する効果が高まる。
請求項6に記載の発明は、サイドウォール部に、タイヤ周方向に対する角度が0〜20度の範囲内の有機繊維コードまたはスチールコードが配列されたサイド補強部材を、サイドウォール高さの20%以上100%以下の範囲で配置したことを特徴とする。
本発明では、トレッドショルダー部にはスパイラルベルトを巻いていない。そのため、トレッドショルダー部が高速回転したときに遠心力膨張しやすい。請求項6のように、タイヤのサイドウォール部にタイヤ周方向(タイヤ赤道方向)に対する角度が0度から20度の部材を配置すれば、サイドウォール部は遠心力によって膨張しにくくなり、さらにトレッドショルダー部については、その両側で膨張を妨げる部材を配置できるため、遠心力による膨張を防止できるようになる。すなわち、スパイラルベルトの巻かれていないトレッドショルダー部については、センター寄りではショルダー側スパイラルベルト部材が膨張を防ぎ、トレッド端部ではサイドウォール部に配置されたサイド補強部材が遠心力による膨張を防ぐことができる。サイドウォール部にこのサイド補強部材が配置されていない場合では、ショルダー側スパイラル部材が遠心膨張を防ぐ部材となり片持ち状態であるが、サイドウォール部にこのサイド補強部材が配置されていればショルダー側スパイラルベルト部材とこのサイド補強部材との両側で膨張を防止できて両持ち状態でトレッドショルダー部の膨張を防止できる。特に、自動二輪車レースのタイヤなどでは大CA時に速度が150キロ以上出ている場合も多く、このような時に特に有効となる。
本発明によれば、スパイラルベルト部材を設けたことによるタイヤ諸性能の低下を抑えた二輪車用空気入りタイヤとすることができる。
以下、実施形態を挙げ、本発明の実施の形態について説明する。なお、第2実施形態以下では、既に説明した構成要素と同様のものには同じ符号を付して、その説明を省略する。また、以下の説明では、ベルト等の幅はペリフェリ方向幅のことである。
[第1実施形態]
まず、第1実施形態について説明する。図1に示すように、本実施形態に係る二輪車用空気入りタイヤ10は、左右一対のビード部12と、ビード部12からトロイド状に延びるカーカス層14と、を備えている。
カーカス層14は、ビード部12のビードコア11にトロイド状に跨っている。カーカス層14を構成するカーカスプライ(ボディプライ)は一層であっても複数層であってもよい。カーカス層14が2枚のカーカスプライで構成される場合には、カーカスプライを構成するコードの方向がラジアル方向(タイヤ周方向に対する角度が90度である方向)であっても良いが、タイヤ周方向に対してコードがなす角度(コード角度)が30度〜80度の範囲のプライを互いに交錯させて使用するバイアス構造としても良い。またこの場合、各カーカスプライでは、ナイロン繊維を撚ってナイロンコードとしたものが所定間隔で配列されている構成することが多い。図1では、カーカス層14が1枚のカーカスプライ14Aで構成されている例を描いている。
カーカスプライ14Aの端部はビードコア11で係止され、両側からビードワイヤー13が挟みこんでいる。なお、カーカスプライ14Aの端部がビードコア11を折り返すように巻き上げられていても良い。
また、二輪車用空気入りタイヤ10は、カーカス層14のクラウン部14Cのタイヤ径方向内側にスパイラルベルト層20を備えている。このスパイラルベルト層20は、単線または並列した複数本のコードを被覆ゴム中に埋設してなる帯状のゴム被覆コード層21をタイヤ周方向に対して0〜5度の範囲内のコード角度をなすようにスパイラル状に巻回してなるものである。タイヤセンターCLからトレッド端Tまでのトレッド表面距離(すなわちトレッド部18のペリフェリ方向幅の1/2)をLとした場合に、タイヤセンターCLからのトレッド表面に沿った距離W3が0.65L〜0.85Lの位置までの範囲内にのみこのスパイラルベルト層20が存在する。
このスパイラルベルト層20は、タイヤセンター部を跨るセンター側スパイラルベルト部材20Cと、タイヤ幅方向両側のトレッドショルダー側にそれぞれ配置された一対のショルダー側スパイラルベルト部材20L、20Rとの3つに分割されて構成されている。
センター側スパイラルベルト部材20Cとショルダー側スパイラルベルト部材20L、20Rとの隣り合う端部同士は、トレッド表面に沿って0.1L〜0.42Lの範囲内の間隔Dで離れている。
そして、タイヤセンターCLからセンター側スパイラルベルト部材20Cの端部20CEまでのトレッド表面に沿った距離W1が0.08L〜0.25Lの範囲内である。更に、タイヤセンターCLからショルダー側スパイラルベルト部材20L、20Rのタイヤセンター側のそれぞれの端部20LI、20RIまでのトレッド表面に沿った距離W2が0.25L〜0.5Lの範囲内とされている。
更に、二輪車用空気入りタイヤ10は、カーカス層14のクラウン部14Cのタイヤ径方向外側に、2枚の交錯ベルト部材25A、25Bからなる交錯ベルト層24を備えている。この交錯ベルト部材25A、25Bは、タイヤ周方向に対するコード角度が30度以上80度未満である互いに交錯する有機繊維コードを含む。また、この交錯ベルト層24は、スパイラルベルト層20の幅方向端部20Eからトレッド端Tまでの範囲の少なくとも一部を覆うように、トレッド全幅2Lの90%以上の幅で配置されている。
交錯ベルト層24のタイヤ径方向外側にはトレッド部18が設けられている。
このように、本実施形態では、タイヤセンターCLからのトレッド表面に沿った距離W3が0.65L〜0.85Lの位置までの範囲内にのみスパイラルベルト層20が存在するように、スパイラルベルト層20の幅を規定している。
ここで、大キャンバ時となる旋回時には、トレッド端部付近のトレッド部分が接地部となっている。従って、スパイラルベルト層20が形成されていないトレッド部分では骨格部材をタイヤ周方向に積極的に伸ばすことができる構成となっているとともに、スパイラルベルト層20が形成されているトレッド部分では骨格部材が接地範囲においてタイヤ周方向に伸びることを防止している。
これにより、高速走行時の操縦安定性能を高く維持し、車体を大きく倒した旋回時の操縦安定性能(トラクション性能)を向上させた二輪車用空気入りタイヤ10とすることができる。また、ショルダー部の摩耗を抑制することができる。
また、このスパイラルベルト層20は、3つに分割されたスパイラルベルト部材で構成されている。そして、センター側スパイラルベルト部材20Cとショルダー側スパイラルベルト部材20L、20Rとの隣り合う端部同士は、トレッド表面の略円弧形状に沿って0.1L〜0.42Lの範囲内の間隔Dで離れている。これにより、骨格部材の柔軟性を持たせ、タイヤが直進したときにたわみやすくしている。即ち、トレッドの変形が最も厳しくなる接地端部近傍でスパイラルベルト層20が存在しない領域26を形成することで、タイヤがたわみやすくなり、乗り心地性能が向上する。
そして、タイヤセンターCLからセンター側スパイラルベルト部材20Cの端部20Eまでのトレッド表面に沿った距離W1が0.08L〜0.25Lの範囲内である。センター側スパイラルベルト部材の幅が0.08L以上であるので、タイヤの遠心力膨張を防止する効果を充分に発揮できる。また、0.25L以下であるので、最も変形の厳しい接地端部ではスパイラルベルト部材が存在しないので、トレッド部18のベルト骨格がたわみ易く、乗り心地性能が確保される。
更に、タイヤセンターCLからショルダー側スパイラルベルト部材20Lのタイヤセンター側の端部20LIまでのトレッド表面に沿った距離W2(この距離は、タイヤセンターCLからショルダー側スパイラルベルト部材20Rのタイヤセンター側の端部20RIまでのトレッド表面に沿った距離と同じ)が0.25L〜0.5Lの範囲内とされている。0.25L以上であるので、直進時のタイヤ断面において最も変形の大きい部位でスパイラルベルト部材が存在することがないので、直進時での乗り心地性能が確保される。また0.5L以下であるので、トレッドショルダー部TSでのスパイラルベルト部材の幅が狭くなりすぎることがない。
また、カーカスプライ15A、15Bとは別に交錯ベルト層24を配置している。これにより、交錯ベルト層の厚みの分だけ実質のトレッド部18の厚みが増すので、スパイラルベルト層20からトレッド表面までの厚みを更に大きく確保することができる。
[第2実施形態]
次に、第2実施形態について説明する。図2に示すように、本実施形態に係る二輪車用空気入りタイヤ30は、第1実施形態に比べ、交錯ベルト層24とスパイラルベルト層20との配置位置を逆にし、更に、交錯ベルト層24とトレッド部18との間にベルト補強層32を設けている。ベルト補強層32は、タイヤ周方向に対するコード角度が85〜90度の範囲内とされた有機繊維コードを含み、トレッド全幅2Lの90%以上の幅でトレッド部18のタイヤ径方向内側に隣接するように配置されている。
また、タイヤ幅方向両側のサイドウォール部34には、厚みが0.3〜3mmの範囲内のサイド補強部材36がそれぞれ配置されている。
ベルト補強層32を設けることによって、スパイラルベルト層が存在する部分とスパイラルベルト層が存在しない部分との境界でタイヤの骨格部材の剛性が急激に変わっていても、この部分をトレッド部18の接地端が乗り越すときときに、ライダーがタイヤの段差を感じて違和感を感じることが防止される。
また、サイド補強部材36を配置することによって、サイドウォール部34にこのサイド補強部材36が配置されていることによって、ショルダー側スパイラルベルト部材20L、20Rとこのサイド補強部材36との両側で膨張を防止できて両持ち状態でトレッドショルダー部TSの膨張を防止できる。
[第3実施形態]
次に、第3実施形態について説明する。図3に示すように、本実施形態に係る二輪車用空気入りタイヤ40は、第2実施形態に比べ、ベルト補強層32のタイヤ径方向内側に緩衝ゴム層42が配置されている。
これにより、トレッドショルダー部TSの摩耗が抑制される。
[第4実施形態]
次に、第3実施形態について説明する。図4に示すように、本実施形態に係る二輪車用空気入りタイヤ50は、カーカス層14が2枚のカーカスプライ15A、15Bによって構成されている。カーカスプライ15A、15Bは互いに交錯するように配置されている。
カーカス層14のタイヤ径方向外側にはスパイラルベルト層20が配置されている。上述したように、スパイラルベルト層20は、センター側スパイラルベルト部材20C及び一対のショルダー側スパイラルベルト部材20L、20Rで構成されている。
また、スパイラルベルト層20のタイヤ径方向外側にはベルト補強層32が配置されている。このベルト補強層32はトレッド部18に隣接している。従って、二輪車用空気入りタイヤ50には交錯ベルト層24(図1参照)は配置されていない簡素な構成である。
<試験例>
本発明の効果を確かめるために、本発明者は、本発明に係る二輪車用空気入りタイヤの18例(以下、実施例1〜18という)、比較のための二輪車用空気入りタイヤの3例(以下、比較例1〜3という)、及び、従来の二輪車用空気入りタイヤの二例(以下、従来例1、2という)について、性能試験を行って性能を評価した。
タイヤサイズは全て190/50ZR17である。また、各タイヤでは、カーカス層には1枚のカーカスプライが配置されている。また、各タイヤでは、トレッド部に溝を配置していない。
(実施例1〜12)
実施例1〜12は、第1実施形態に係る二輪車用空気入りタイヤ10の一例であり、図1に示す構造にされた二輪車用空気入りタイヤである。カーカスプライ15A、15Bのコード材質はナイロンである。本実施例では、ナイロン繊維を撚って0.6mmφのコードとし、これを打ち込み間隔65本/50mmで平行に並べ、未加硫ゴムでシート状にしたものをカーカスプライとしている。また、このナイロンコードのコード角度はタイヤ赤道方向に対し90度(ラジアル方向)である。
カーカス層14のタイヤ径方向外側には、センター側スパイラルベルト部材20C、ショルダー側スパイラルベルト部材20L、20Rの合計3枚の分割されたスパイラルベルト部材が存在することによってスパイラルベルト層20が形成されている。各スパイラルベルト部材は、タイヤ赤道方向に対する角度が0度〜5度のベルトであり、1本または複数本のコードをゴムで被覆して、これをタイヤの製造過程において、トレッド部分に螺旋巻きするように赤道方向にほぼ平行になるようにぐるぐると巻きつけて形成させたものである。本試験例では、スパイラル層は、芳香族ポリアミド(商品名:ケブラー)の繊維を撚って直径0.7mmにしたものを、打ち込み間隔が60本/50mmになるようにして配置した。なお、スパイラルベルトはスチールで構成しても構わず、例えば、直径0.21mmのスチール単線を1×3タイプで撚ったスチールコードを打ち込み間隔30本/50mmでスパイラル状に巻きつけて形成されるなどが可能である。本試験例では、有機繊維(芳香族ポリアミド)のコードをスパイラルベルトとして使用した。
トレッド全幅2Lは240mmである。本試験例では、W1、W2、W3をパラメータとして変更したものを実施例1〜12として準備した。
3分割したスパイラルベルト部材で構成されるスパイラルベルト層20のタイヤ径方向外側には、2枚の交錯ベルト部材25A、25Bで構成される交錯ベルト層24が存在する。交錯ベルト層24を設ける際、芳香族ポリアミド(商品名:ケブラー)の繊維を撚って直径0.7mmにしたものを、打ち込み間隔が40本/50mmになるようにして配置した。これを、赤道方向に対して60度の角度をなすように2枚をお互いに交錯させて配置した。1枚目(タイヤ径方向内側)の交錯ベルト部材25Bの幅は240mm、2枚目(タイヤ径方向外側)の交錯ベルト部材25Aの幅は230mmである。
この交錯ベルト層24のタイヤ径方向外側には、厚さ7mmのトレッド部18が配置される。
(従来例1)
従来例1を図8に示す。従来例1では、実施例1に比べ、スパイラルベルト層20(図1参照)に代えて分割されていない1枚のスパイラルベルト層80が配置されている。スパイラルベルト層80の幅は2L(240mm)である。
(比較例1)
比較例1では、従来例1と同様に、分割されていないスパイラルベルト層が配置されている。比較例1は、従来例1に比べ、スパイラルベルト層の幅が異なっている。比較例1ではスパイラルベルト層の幅が180mmであり、タイヤセンターからスパイラルベルト層の端部までのトレッド表面に沿った距離は0.75Lである。
(実施例13)
実施例13は、実施例1に比べ、スパイラルベルト層20の位置と交錯ベルト層24の位置とを逆転させたものである。
(実施例14)
実施例14は、実施例13に比べ、スパイラルベルト層のタイヤ径方向外側にベルト補強層(90度ベルト)32(図2参照)を配置している。ベルト補強層32は、ケブラー製のベルトであり、芳香族ポリアミド(商品名はケブラー)の繊維を撚って直径0.7mmとしたコードを、タイヤ赤道方向に対して90度をなすように、打ち込み間隔50本/50mmで配置している。ベルト補強層32の幅は240mmである。
(実施例15)
実施例15は、実施例14に比べ、ベルト補強層32のタイヤ径方向内側に、ベルト補強層32に接するように、すなわち、スパイラルベルト層20(センター側スパイラルベルト部材20C及びショルダー側スパイラルベルト部材20L、20R)とベルト補強層32との間に、厚さ0.5mmの緩衝ゴム層42(図3参照)を配置している。
(実施例16)
実施例16は、実施例14に比べ、図2に示すように、サイドウォール部34に、タイヤ赤道方向と同じ方向に巻いた(すなわちセンター側スパイラルベルト部材20C及びショルダー側スパイラルベルト部材20L、20Rと同じ方向に巻いた)ケブラースパイラルの幅狭部材を、サイド補強部材36として配置している。サイド補強部材36の幅は20mmであり、20本の直径0.7mmのケブラーを撚ったコードが打ち込まれている。サイド補強部材36の配置位置はタイヤ最大幅付近であり、より具体的には、サイドウォール部34の高さ方向の中心位置(高さ方向の中間位置)に配置している。本試験例では左右対称となるようにサイド補強部材36を配置した。
(実施例17)
実施例17では、図4に示すように、2枚の互いに交錯したカーカスプライ15A、15Bからなるカーカス層14が設けられており、交錯ベルト層が配置されていない。カーカスプライ15A、15Bの端部はビードコア11で係止され、両側からビードワイヤーが挟み込んでいる。ナイロンのコードを撚って直径0.6mmのコードとし、これを打ち込み間隔65本/50mmで平行に並べ、未加硫ゴムでシート状としたものをカーカスプライとして使用した。この2枚のカーカスプライ15A、15Bは互いに交錯するように配置した。タイヤ赤道方向に対するコード角度はタイヤセンター部で50度である。
カーカス層14のタイヤ径方向外側には、センター側スパイラルベルト部材20Cと、一対のショルダー側スパイラルベルト部材20L、20Rとからなるスパイラルベルト層20が配置されている。実施例1〜16とは異なり、スパイラルベルト層20はスチールコード製とされている。実施例17では、直径0.21mmのスチール単線を1×3タイプで撚ったスチールコードを打ち込み間隔50本/50mmでスパイラル状に巻き付けてスパイラルベルト層20を形成した。
また、実施例17では、スパイラルベルト層20のタイヤ径方向外側にベルト補強層(90度ベルト)32が配置されている。ベルト補強層32はケブラー製のベルトであり、芳香族ポリアミドの繊維を撚って直径0.7mmとしたものを、打ち込み間隔が50本/50mmとなるように配置した。ベルト補強層32を配置する際、タイヤ赤道方向に対するコード角度を90度、幅を240mmとした。
(従来例2)
従来例2は、実施例17に比べ、スパイラルベルト層20に代えて1枚のスパイラルベルト部材で構成されるスパイラルベルト層が配置され、しかも、ベルト補強層が配置されていない。配置されたスパイラルベルト層の幅は2L(240mm)である。スパイラルベルト層のタイヤ径方向外側には厚さ7mmのトレッド部が形成されている。
(実施例18)
実施例18は、実施例17に比べ、緩衝ゴム層42(図3参照)を配置している。実施例17のベルト補強層32のタイヤ径方向内側に厚さ0.7mmのゴム層を配置して緩衝ゴム層42とした。緩衝ゴム層42のゴム材はベルト補強層32のゴム材と同じである。
なお、以上のタイヤ条件を表1、表2にまとめて示す。
(試験方法、及び、評価結果)
本試験例では、まず狙いの車体を傾けたときのトラクション性能がどれだけ向上しているかを評価するためにドラムを用いて以下のようにして規定の試験を行った。
本試験例では、全てのタイヤについて、標準リムに組み込み後、タイヤ内圧240kPaとした。ここで、標準リムとは、JATMAが発行する2006年版のYEAR BOOKに定められた適用サイズにおける標準リムを指す。
試験機としては、直径3mのスチール製のドラムに#40番の目の粗い紙やすりを貼り付け、紙やすりを路面に見立てる。そして、ドラムを100km/hで転動させ、ドラム上側から、タイヤをキャンバ角50度で荷重1500Nで紙やすりに押し付ける。本試験例では、タイヤには回転軸に動力を伝えるチェーンを掛けており、駆動力を掛けることが可能になっている。本試験例ではモーターを用いて駆動力を加えた。
本試験例では、タイヤを100km/hで回転させておき、駆動力を加えてタイヤを120km/hまで、2秒の時間で線形に加速させる。そのとき、ドラムは100km/hで転動しているため、タイヤに駆動力が掛かった状態となり、車体が傾いた状態におけるトラクションを測定できる。タイヤに働く力を、タイヤのホイール中心に設置した力センサーで読み取る。
読み取ったこの力を、横軸にFx(タイヤ進行方向に平行な方向に作用する力)、縦軸にFy(タイヤ進行方向に垂直な方向に作用する力)として描くと、図5に示すような波形P、Qが得られる。この波形P、Qは摩擦楕円と呼ばれるが、Fx=0においてのFyの切片は駆動力0での純粋な横力を示し、これがキャンバースラストと呼ばれる力である。本試験例では、このFyの切片であるキャンバースラストと、トラクションのピークチップを評価の対象とした。本試験例では、タイヤに駆動力を加えてタイヤの回転を速くする事でトラクション状態のタイヤのグリップ性能を評価している。時間と共に、グラフの波形はFxが正の方向に移動する。Fxの最大値がトラクショングリップの指標といえる。
本試験例では、従来例1のFxの最大値を指数100として、他のタイヤの性能(トラクション性能)を相対評価となる指数で評価した。評価結果を表1、表2に併せて示す。
次に、実車を用いた操縦性能比較試験を行った。本試験例で用いた各タイヤはリア用のタイヤであったため、フロントのタイヤを常に従来どおりとし、リアのみのタイヤを交換して実車試験を行った。試験方法、評価方法を次に記す。
供試タイヤを、1000ccのスポーツタイプの二輪車に装着して、テストコースで実車走行させ、乗り心地性と操縦安定性(コーナリング性能)とを、テストライダーのフィーリングによる10点法で総合評価した。コースでは自動二輪車レースを意識した激しい走行を行い、最高速度は220km/hに達した。
評価項目は以下の3つである。評価結果を表1、表2に併せて示す。
1)直進時での乗り心地性(高速道路の継ぎ目や、荒れた路面の走行によって評価)
2)旋回時のトラクション性能(速度100km/h程度で大きく車体を倒した状態からの加速性能、また速度150km/h以上での高速コーナー旋回時でのトラクション性能を総合的に判断)
3)旋回時のバイクを倒しこむときの連続性(倒しこみ時に異常な挙動をしないことの性能)
また、テストコースを10周走った時のタイヤショルダー部の偏摩耗状態を確認した。すなわち、タイヤショルダー部の摩耗量を測定し、従来例1のタイヤの摩耗量を指数100としたときの他のタイヤの摩耗量を相対評価となる指数で求めた。この指数を表1、表2に併せて示す。摩耗量については指数が小さいほど摩耗が少なくて良好であることを示す。
以上の評価結果から本発明者は以下の考察を行った。
(1)ショルダー部のスパイラルベルト幅の効果W3の幅の効果
従来例1、実施例1〜3、比較例2、3を比べることで、スパイラルベルト層の幅の効果(W3による幅の効果)が判る。
まず、実施例のいずれも、乗り心地が従来例よりも良くなっている。これは、スパイラルベルトを3分割して、直進時にベルトがたわみやすくしたからである。
W3の幅の効果については、70mmでは、トラクション指数が101と小さく、効果が少ない。これは、大CA時の接地状態(図6参照)において、接地している幅はセンター部から60mmの位置から120mmのトレッド端までであり、70mmの位置は、接地している部位の端に近く、接地部に殆どスパイラルベルトが存在しなくなっているからである。
また、110mmでは、トラクション向上効果が少ない。これは、接地部に殆どスパイラルベルトが巻かれており、トレッド端部でベルトが周方向に伸びにくくなっているからである。
90mm(0.75L)が最もトラクションの向上効果が高く、次いで80mm(0.67L)と100mm(0.83L)の効果が高い。以上のことから、W3の幅は0.7L以上0.9以下が良いと考えられる。また、好ましくは、0.65L〜0.85Lと考えられる。
比較例1と実施例1を比べると、実施例1の方が実車試験によるトラクション性能の評点が1ポイント高い。評価ライダーに確認したところ、実施例1の方がCA50度のような大CA時に、タイヤのギャップ吸収性が良い、すなわちタイヤが適度に柔らかく、路面を捉えているとの評価であった。これは、実施例1には、20mmのスパイラルベルトを巻いていない隙間があり、これが図6に示す旋回において、ちょうどトレッドセンターから20〜40mmの部分がサイドウォールのような役目を持っているため、この部分がたわみやすいことで、タイヤの変形がしやすく、接地面積が増加したためである。そのため、タイヤがやわらかく感じられギャップ吸収に優れていたことになる。このように、スパイラルを3分割することで、直進時の乗り心地性能の向上以外にも、大CA時の旋回性能も向上することがわかった。
(2)センター部のスパイラルベルト幅の効果W1の幅の効果
実施例1、実施例4〜7を比べることで、センター部のスパイラルベルトの幅の効果(W1の幅の効果)がわかる。
実施例4は5mmであるが、トラクション指数が他のタイヤと比べると、やや低い。これはセンター部にスパイラルベルトが無くなったために、ベルトの剛性が低下してタイヤがねじれやすくなり、トラクションが加わったときにタイヤの骨格部材の剛性が不足したためである。また直進時の乗り心地性能は非常に柔らかいのであるが、振動した後の減衰が少し悪化したとの評価であった。また、高速転動時のセンター部のせり出し膨張に対するセンター部のタガの幅が5mm(両側で10mm)では少ないため、超高速転動時を想定した場合は、もう少し広いほうが良いと考える。
一方、実施例7は40mmの幅であるが、乗り心地性能が他と比べると悪化している。これは、図7に示すタイヤの断面において、接地している領域Sにスパイラルベルト部材が巻かれており、最も変形の大きい接地端部SEにもスパイラルベルト部材が存在したためである。以上のことから、W2は0.08L以上0.25L以下が好ましい。
(3)ショルダー部のスパイラルベルト幅の効果W2の幅の効果
従来例1と、実施例8〜12を比べることで、スパイラルベルトの幅の効果(W2の幅の効果)がわかる。
実施例8は、ショルダー部のスパイラルの端部が20mmの位置から巻き始められているが、乗り心地性能が悪化している。これは、図7に示すタイヤ断面において、ショルダー部のスパイラルベルトが最も変形の大きい部分Jに配置されているからである。実施例9では、乗り心地性能の改善も大きく、30mm以上のW2が良いと判断できる。
一方、実施例11や12のように、巻き位置が60mmや70mmになると、トラクション指数が低下している。これは、ショルダー部のスパイラルベルトの幅が狭くなりすぎて、ベルトの面内剪断剛性が低下するためである。
以上のことから、W2の値は0.25L〜0.5Lが好ましい。さらに好ましくは0.3L〜0.45Lの範囲である。
(3)交錯ベルトとスパイラルベルトの位置の関係
実施例1と実施例13の比較から、スパイラルベルトが交錯ベルトよりも半径方向内側に配置されているほうが好ましいことがわかる。スパイラルベルトが交錯ベルトよりも半径方向外側に配置されている実施例13では、倒し込み時にライダーが違和感を感じている。これはスパイラルベルトの巻いてあるところと巻いてないところとの境界を接地形状が移動する際に、段差が感じられるためである。一方、スパイラルベルトを内層として、半径方向外側に交錯ベルトを配置した場合は、スパイラルベルトの段差を幅広の交錯ベルトが包み込み、段差を感じにくくしている。そのため、スパイラルベルトを内層に巻いたほうがライダーの評価が高い。
(4)90度のベルトの効果
実施例13と実施例14の比較から、90度ベルトの効果がわかる。実車の倒し込みの連続性が90度ベルトによって改良されている。これは、先の交錯ベルトをスパイラルベルトの半径方向外側に巻いたのと同じで、スパイラルベルトの段差を緩和するからである。
(5)緩衝ゴム層の効果
実施例13、実施例14、実施例15の比較から緩衝ゴム層の効果がわかる。
実施例14と実施例15とでは、緩衝ゴム層があるかないかの比較である。緩衝ゴム層がある実施例15は、摩耗量が非常に少ない。これは、先に説明したとおり、緩衝ゴム層が周方向に剪断変形して、トレッドの変形を肩代わりし、トレッドの周方向の余計な剪断変形が少なくなるからである。そのため、トレッドが路面から滑りにくくなり、摩耗量が減る。またトレッドの周方向の余計な変形が少なくなるため、無駄な動きが排除され、トレッドがグリップに寄与できるようになる。即ち、図6において、領域Aはブレーキング、領域Bはニュートラル(変形がない)、領域Cはドライビングと、周方向のトレッドの変形状態を説明した。これにトラクションを加えると、トラクションによって、領域A〜Cもドライビング変形を受ける。このとき、領域Cはもともとドライビング状態であり、さらにトラクション(駆動力)によってドライビング変形が強まり、最も力を出す。一方で、領域Aはブレーキング状態にあるため、トラクションによって、まずニュートラルな状態に戻り、それからドライビング変形にシフトする。そのため、領域Cに比べて領域Aでは駆動力の発生量が少ない。さらにトラクションを加えると、領域Aの駆動力の発生量は増えるが、領域Cは滑ってしまいトラクションの発生量が頭打ちになる。また、滑ると一般的に摩擦係数は低下する(静止摩擦係数よりも動摩擦係数が小さいことは周知)。それゆえ、滑ると駆動力の発生が非効率になる。
実施例15のように緩衝ゴム層があると、もともとの領域Aと領域Cの変形の差が少ない。そのため、領域Cがトラクションによって大きなドライビング状態になったときに、領域Aもある程度ドライビング状態になれる。これが緩衝ゴム層を設けて、領域Aと領域Cの無駄な周方向の変形を緩和したことによる効果である。
尚、実施例13と実施例14を比較すると、実施例15ほどではないが、摩耗量低減の効果と、トラクション指数向上の効果がある。これは、90度ベルト(ベルト補強層)自体も緩衝ゴム層と同じように、周方向に変形できるからである。90度ベルトはコードの周りにコーティングゴムを配置しており、コード自体と周りのコーティングゴムがこのような変形を実現できる。
(6)サイド補強部材の効果
実施例14と実施例16の比較から、サイドウォール部に配置したコード角度0〜20度の部材(サイド補強部材)の効果がわかる。
サイドウォール部に部材を配置すると、実車のトラクションの評点が1ポイント向上した。評価ライダーに詳細を確認したところ、特に時速150km/hを超える高速旋回時に、実施例16のタイヤは剛性があり、安定感があるとのことであった。サイドウォール部にスパイラルベルト部材を巻いたことによって、スパイラルベルトが存在していないトレッド端部の膨張を両側から抑制でき、操縦安定性能が向上した。
(7)ベルトがなく、プライを交錯させることでトレッド部骨格部材の面内剪断剛性を確保したタイヤ
従来例2、実施例17、実施例18は、交錯ベルトを配置せずに、カーカスプライ(ボディプライ)を交錯させることで、トレッド部の骨格部材の剛性を確保したタイヤである。交錯ベルトが配置されているタイヤと同じように、本発明の効果が確認できる。
従来例2に比べて、実施例17は、乗り心地性能が改善され、トラクション指数も高い。また摩耗も抑制されていることがわかる。さらに、実施例18は緩衝ゴム層を配置したタイヤであるが、実施例15と同じように、トラクション指数が向上して、旋回時のトラクショングリップが向上するだけではなく、耐摩耗性能が向上している。
なお、スパイラルベルトにスチールを使っている点、また、プライを交錯させたためにサイドウォール部が硬くなっている点で、乗り心地性能の評点が全体的に低めになっている。
以上、実施形態を挙げて本発明の実施の形態を説明したが、これらの実施形態は一例であり、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲がこれらの実施形態に限定されないことは言うまでもない。