JP5009187B2 - CeO2薄膜の製造方法およびCeO2薄膜の製造装置 - Google Patents

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Description

本発明はCeO薄膜の製造方法、CeO薄膜およびCeO薄膜の製造装置に関し、より特定的には、配向性および表面平坦性に優れたCeO薄膜の製造方法、CeO薄膜およびCeO薄膜の製造装置に関する。
金属基板上に超電導層が形成された超電導薄膜材料においては、金属基板と超電導層との間で金属基板および超電導層を構成する原子が互いに拡散し、反応するという問題点がある。そのため、このような超電導薄膜材料においては、金属基板と超電導層との間に中間層が形成される場合が多い。この中間層の特性は中間層上に形成される超電導層の特性に大きな影響を与える。そのため、中間層には、特に結晶配向性が優れていること(結晶方位が揃っていること)および表面平坦性に優れること(表面粗さが小さいこと)が要求される。また、上述の超電導薄膜材料の実用化の観点から、当該中間層の製造コストの低減も求められている。
CeO(酸化セリウム;セリア)薄膜は、上述の中間層を構成する薄膜として有望な材料である。そのため、金属基板上にCeO薄膜を形成する方法については様々な研究が進められ、種々の提案がなされている(たとえば非特許文献1および2参照)。
M Bindi、外7名、"スーパーコンダクターサイエンスアンドテクノロジー(SUPERCONDUCTOR SCIENCE AND TECHNOLOGY)"(英国)、2004年1月26日、p.512−516 Luigia Gianni、外4名、"Long YBCO coated conductors by thermal co−evaporation"、International Workshop on Coated Conductors for Applications, in Japan, Kanagawa、Extended Abstracts,2004年11月19−20日
しかし、上述の非特許文献1および2に開示されたCeO薄膜の形成方法では、優れた配向性および表面平坦性を確保しつつ、成膜速度を向上させることは困難であった。すなわち、上述の非特許文献1および2に代表される従来のCeO薄膜の形成方法では、成膜速度は15nm/分程度が上限となるのが一般的であり、これを超えると優れた配向性や表面平坦性を確保することが困難であった。そのため、CeO薄膜の成膜速度が制限されてCeO薄膜の生産効率の向上が阻害され、CeO薄膜の製造コスト低減を困難なものとしていた。
そこで、本発明の目的は、優れた配向性および表面平坦性を確保しつつ、成膜速度を上昇させることが可能なCeO薄膜の製造方法、CeO薄膜およびCeO薄膜の製造装置を提供することである。
本発明に従ったCeO薄膜の製造方法は、隣接する結晶粒間の方位差が10°以内であって、全体としても三次元的に結晶の方位がほぼ揃っている金属基板である配向性金属基板を準備する工程と、配向性金属基板上にCeO膜を形成する工程とを備えている。そして、CeO膜を形成する工程におけるCeO膜の成膜速度は30nm/分以上150nm/分以下であり、CeO膜を形成する工程における、配向性金属基板の温度は750℃以上1100℃以下である。
従来から、結晶性に優れた薄膜を作製するためには、低い成膜速度を採用し、結晶成長に十分な時間をかけることが有効であること、および成膜時の基板温度が高い場合、薄膜の表面に荒れが生じること、が知られている。そのため、金属基板上にCeO薄膜を形成する場合、成膜時の基板温度は700℃未満、成膜速度は15nm/分以下とされるのが一般的である。そして、成膜時の基板温度を700℃未満とする成膜条件下では、CeO薄膜の成膜速度を15nm/分以上、特に30nm/分以上とすると、CeO薄膜の結晶配向性が低下するとともに、当該CeO薄膜を超電導薄膜材料の中間層として使用する場合に好適な(100)配向ではなく、中間層として好適ではない(111)配向のCeO薄膜が形成される。また、このような成膜条件下ではCeO薄膜の表面平坦性が低下し、当該CeO薄膜を超電導薄膜の中間層として使用することが困難となる。
これに対し、本発明者は、配向性金属基板上にCeO薄膜を形成する場合の配向性金属基板の温度と、形成されるCeO薄膜の結晶配向性および表面平坦性との関係を詳細に検討した。その結果、本発明者は、CeO薄膜の成膜速度を上昇させた場合、特に30nm/分以上とした場合、成膜時の配向性金属基板の温度を従来よりも高い750℃以上とすることにより、CeO薄膜の結晶配向性および表面平坦性が向上することを見出した。一方、成膜時の配向性金属基板の温度を800℃以上に上昇させると、CeO薄膜の結晶配向性および表面平坦性はさらに向上する傾向にあるが、1100℃を超えるとほとんど向上しなくなる。また、配向性金属基板を巻き取りながら配向性金属基板上にCeO薄膜を連続的に形成する場合、1100℃を超える温度で成膜を実施すると、配向性金属基板が軟化して伸びたり、場合によっては破断したりするおそれがある。そのため、成膜時における配向性金属基板の温度は1100℃以下であることが好ましい。なお、配向性金属基板とは、隣接する結晶粒間の方位差がたとえば10°以内であって、全体としても三次元的に結晶の方位がほぼ揃っている金属基板をいう。
本発明のCeO薄膜の製造方法においては、CeO薄膜の成膜速度を30nm/分以上としつつ、CeO膜を形成する工程における、配向性金属基板の温度を750℃以上1100℃以下とすることにより、結晶配向性および表面平坦性に優れたCeO薄膜を製造することができる。その結果、本発明のCeO薄膜の製造方法によれば、優れた特性を有するCeO薄膜を低コストで製造することができる。
なお、CeO薄膜の結晶配向性および表面平坦性をより向上させるためには、上述の検討結果に鑑み、CeO膜を形成する工程における配向性金属基板の温度を800℃以上とすることが好ましい。また、成膜速度とは、CeO薄膜の形成時における単位時間あたりの膜厚の増加量である。
上記CeO薄膜の製造方法において好ましくは、配向性金属基板を準備する工程よりも後であって、CeO膜を形成する工程よりも前に、配向性金属基板を加熱する工程(プレアニール工程)をさらに備えている。そして、プレアニール工程では、配向性金属基板が750℃以上1100℃以下に加熱される。
プレアニール工程は、配向性金属基板上へのCeO薄膜の形成に先立って、配向性金属基板表面の金属酸化物などの異物を除去すること等を目的として、配向性金属基板を加熱する工程である。本発明者は、このプレアニール工程における基板の加熱温度に着目し、当該加熱温度が成膜速度を30nm/分以上とした場合のCeO薄膜の結晶配向性および表面平坦性に及ぼす影響について鋭意検討した。その結果、プレアニール工程において、配向性金属基板を750℃以上に加熱することにより、CeO薄膜の結晶配向性および表面平坦性をさらに向上させることが可能であるとの知見を得た。一方、プレアニール工程における配向性金属基板の加熱温度をさらに800℃以上に上昇させると、CeO薄膜の結晶配向性および表面平坦性はさらに向上する傾向にあるが、1100℃を超えるとほとんど向上しなくなる。また、配向性金属基板を巻き取りながら配向性金属基板を連続的に加熱する場合、1100℃を超える温度で加熱を実施すると、上述のように、配向性金属基板が軟化して伸びたり、場合によっては破断したりするおそれがある。よって、プレアニール工程における配向性金属基板の温度は1100℃以下であることが好ましい。
以上より、プレアニール工程において、配向性金属基板を750℃以上1100℃以下に加熱することにより、CeO薄膜の成膜速度を30nm/分以上としつつ、一層結晶配向性および表面平坦性に優れたCeO薄膜を製造することができる。
上記CeO薄膜の製造方法において好ましくは、CeO膜を形成する工程において、CeO膜は、電子ビーム蒸着法またはRF(Radio Frequency)スパッタ法のいずれか一方の手法により形成される。
電子ビーム蒸着法およびRFスパッタ法は、高い成膜速度での成膜が比較的容易な成膜方法である。そのため、電子ビーム蒸着法およびRFスパッタ法は、30nm/分以上の成膜速度での成膜が必要な、本発明のCeO薄膜を形成する工程において採用される成膜方法として好適である。なお、30nm/分以上の成膜速度を達成できるものであれば、他の物理蒸着法などの成膜方法を成膜工程における成膜方法に採用することもできる。
本発明に従ったCeO薄膜は、上述のCeO薄膜の製造方法により製造されている。本発明のCeO薄膜によれば、優れた配向性および表面平坦性を確保しつつ、成膜速度を上昇させることが可能な上述のCeO薄膜の製造方法により製造されていることにより、優れた特性を有し、かつ低コストなCeO薄膜を提供することができる。
本発明に従ったCeO薄膜の製造装置は、上述のCeO薄膜の製造方法を実施するためのCeO薄膜の製造装置である。このCeO薄膜の製造装置は、配向性金属基板を保持するためのサプライ室と、サプライ室から供給された配向性金属基板を加熱するためのプレアニール炉と、プレアニール炉において加熱された配向性金属基板上にCeO膜を形成するための成膜室と、CeO膜が形成された配向性金属基板を巻き取るための巻き取り室とを備えている。
本発明のCeO薄膜の製造装置によれば、上記構成を有することにより、上述の本発明のCeO薄膜の製造方法を容易に実施することができる。その結果、優れた配向性および表面平坦性を有し、かつ低コストなCeO薄膜を製造することができる。
以上の説明から明らかなように、本発明のCeO薄膜の製造方法によれば、優れた配向性および表面平坦性を確保しつつ、成膜速度を上昇させることが可能なCeO薄膜の製造方法を提供することができる。また、本発明のCeO薄膜によれば、優れた配向性および表面平坦性を確保しつつ、低コストなCeO薄膜を提供することができる。また、本発明のCeO薄膜の製造装置によれば、優れた配向性および表面平坦性を確保しつつ、成膜速度を上昇させることが可能なCeO薄膜の製造装置を提供することができる。
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
図1は、金属基板上に形成された本発明の一実施の形態におけるCeO薄膜である単結晶性CeO薄膜の概略断面図である。また、図2は、図1の単結晶性CeO薄膜上に超電導層が形成されることにより構成される超電導薄膜材料の概略断面図である。図1および図2を参照して、本発明の一実施の形態における単結晶性CeO薄膜を説明する。なお、単結晶性CeO薄膜とは、隣接する結晶粒間の方位差がたとえば10°以内であって、全体としても三次元的に結晶の方位がほぼ揃っているCeO薄膜をいう。
図1を参照して、本実施の形態の単結晶性CeO薄膜1は、配向性金属基板としての配向性Ni(ニッケル)合金基板2上に形成されている。この単結晶性CeO薄膜1は、図2に示すように、たとえば酸化物系超電導薄膜材料10の中間層の一部として利用することができる。すなわち、図2を参照して、酸化物系超電導薄膜材料10は、配向性Ni合金基板2上に形成された中間層5と、中間層5上に形成された酸化物系超電導層としてのHoBCO(ホルミウム系超電導材料;HoBaCu)層6と、HoBCO層6上に形成された安定化層としてのAg(銀)安定化層7とを備えている。そして、中間層5は、単結晶性CeO薄膜1と、単結晶性CeO薄膜1上に形成されたYSZ(イットリア安定化ジルコニア)層3と、YSZ層3上に形成された第2の単結晶性CeO薄膜4とを含んでいる。第2の単結晶性CeO薄膜4は本発明に従ったCeO薄膜であってもよいし、本発明の範囲外の単結晶性CeO薄膜であってもよい。また、単結晶性CeO薄膜1を本発明の範囲外の単結晶性CeO薄膜とし、第2の単結晶性CeO薄膜4を本発明に従ったCeO薄膜としてもよい。
次に、本実施の形態における単結晶性CeO薄膜の製造装置、および本実施の形態における単結晶性CeO薄膜および当該単結晶性CeO薄膜を中間層の一部として利用した酸化物系超電導薄膜材料の製造方法を説明する。図3は、本実施の形態における単結晶性CeO薄膜の製造方法に使用される本発明の一実施の形態における単結晶性CeO薄膜の製造装置の概略図である。また、図4は、本発明の一実施の形態における単結晶性CeO薄膜の製造方法を含む酸化物系超電導薄膜材料の製造工程の概略を示す図である。
図3を参照して、本実施の形態における単結晶性CeO薄膜の製造装置30は、サプライ室31と、プレアニール炉32と、成膜室33と、巻き取り室34とを備えている。サプライ室31は、処理対象物である配向性金属基板を保持する機能を有している。配向性金属基板としての配向性Ni合金基板2は、図3に示すように長尺のテープ状の形状を有しており、コイル状(渦巻状)に巻かれた状態でサプライ室31に保持される。プレアニール炉32は、サプライ室31に接続されており、サプライ室31から供給された配向性金属基板(配向性Ni合金基板2)を加熱部材32Aにより加熱する機能を有している。成膜室33は、接続部としての接続管35によりプレアニール炉32に接続されており、プレアニール炉32において加熱された配向性金属基板(配向性Ni合金基板2)上にCeO膜を形成する機能を有している。そして、巻き取り室34は、成膜室33に接続されており、CeO膜が形成された配向性金属基板(配向性Ni合金基板2)を巻き取り、保持する機能を有している。
なお、図3においては、プレアニール炉32と成膜室33とを接続管35により接続しているが、このような接続管35を用いず、プレアニール炉32と成膜室33とを隔壁を隔てて形成し、当該隔壁に貫通穴を形成して当該貫通穴を接続部としてもよい。また、サプライ室31とプレアニール炉32との間、および/または成膜室33と巻き取り室34との間を接続管により接続してもよい。また、サプライ室31に加熱部材32Aを配置して、プレアニール炉としての機能をサプライ室31に持たせてもよい。また、図3においては、テープ状の配向性金属基板を用いた場合の製造装置が示されているが、本発明によるCeO薄膜の製造方法はテープ状の配向性金属基板を用いる場合に限られず、プレート状の配向性金属基板を用いる場合にも適用することができる。この場合、製造装置は、サプライ室31から巻き取り室34に対応する取り出し室まで、コンベアやロボットアームなどの移動部材で当該基板を移動可能とした構成とすることができる。
次に、本実施の形態における単結晶性CeO薄膜および当該単結晶性CeO薄膜を中間層の一部として利用した酸化物系超電導薄膜材料の製造方法の具体的手順を説明する。
図4を参照して、まず、配向性金属基板を準備する基板準備工程が実施される。具体的には、図3に示すように、渦巻状に巻き取られた配向性金属基板としての配向性Ni合金基板2が、サプライ室31内に供給され、配向性Ni合金基板2を周方向に回転させることが可能なサプライリール31Aに保持される。そして、配向性Ni合金基板2の外周側の端部は、プレアニール炉32、接続管35および成膜室33を通して、巻き取り室34内に配置されるとともに配向性Ni合金基板2を渦巻状に巻き取ることが可能な巻き取りリール34Aに接続される。すなわち、巻き取りリール34Aにより配向性Ni合金基板2を巻き取ることで、サプライ室31に保持された配向性Ni合金基板2を、外周側から順次、プレアニール炉32、接続管35、成膜室33を経て巻き取り室34の巻き取りリール34Aに巻き取ることが可能な状態とされる。以上の手順により、基板準備工程は完了する。
次に、図4を参照して、基板準備工程において準備された配向性金属基板を加熱するプレアニール工程が実施される。具体的には、図3に示すように、巻き取りリール34Aが回転することにより、サプライ室31から供給された配向性Ni合金基板2がプレアニール炉32内に進入する。そして、配向性Ni合金基板2が、プレアニール炉32内に配置された加熱部材32Aにより750℃以上1100℃以下に加熱される。ここで、加熱部材32Aとしては、たとえば電源に接続された石英ランプなどの発熱体を採用することができる。また、上記加熱時において、プレアニール炉32内は、減圧状態の非酸化性雰囲気とされており、たとえば10Pa以下のアルゴン水素雰囲気(アルゴンガスと水素ガスとの混合ガス雰囲気)とすることができる。このような雰囲気条件を達成するため、プレアニール炉32には排気部材としてのポンプ、圧力計測部材としての圧力センサ、雰囲気ガス供給部材としてのガス供給配管などが接続されていてもよい。ガス供給配管には、たとえばマスフローコントローラのようなガス流量調節部材を介してガス供給タンクが接続されていてもよい。そして、これらの部材は制御部により集中的に制御されていてもよい。
次に、図4を参照して、プレアニール工程において加熱された配向性Ni合金基板2上にCeO膜を形成する成膜工程としての第1のCeO成膜工程が実施される。具体的には、図3に示すように、巻き取りリール34Aが回転することにより、プレアニール炉32において加熱された配向性Ni合金基板2が接続管35を通って成膜室33内に進入する。そして、成膜室33内に配置された成膜装置33Aにより、配向性Ni合金基板2上に単結晶性CeO薄膜1が形成される。ここで、当該第1のCeO成膜工程におけるCeO膜の成膜速度は30nm/分以上であり、配向性Ni合金基板2の温度は750℃以上1100℃以下である。ここで、成膜装置33Aとしては、電子ビーム蒸着法により単結晶性CeO膜を形成可能な電子ビーム蒸着装置、RFスパッタ法により単結晶性CeO膜を形成可能なRFスパッタ装置などを選択することができる。また、上記成膜時において、成膜室33内は、減圧状態の非酸化性雰囲気とされており、たとえば10Pa以下のアルゴン水素雰囲気とすることができる。このような雰囲気条件を達成するため、成膜装置33Aには排気部材としてのポンプ、圧力計測部材としての圧力センサ、雰囲気ガス供給部材としてのガス供給配管などが接続されていてもよい。ガス供給配管には、たとえばマスフローコントローラのようなガス流量調節部材を介してガス供給タンクが接続されていてもよい。そして、これらの部材は制御部により集中的に制御されていてもよい。また、成膜室33には、プレアニール炉32と同様に加熱部材をその内部に配置することにより、配向性Ni合金基板2の温度を制御可能な構成としてもよい。
次に、図4を参照して、第1のCeO成膜工程においてCeO膜が形成された配向性Ni合金基板2を渦巻状に巻き取る巻き取り工程が実施される。具体的には、図3に示すように、巻き取りリール34Aが回転することにより、成膜室33において単結晶性CeO薄膜1が形成された配向性Ni合金基板2が巻き取り室34内に進入し、巻き取り室34内に配置された巻き取りリール34Aにより、渦巻状に巻き取られる。以上の手順により、図1に示す本実施の形態における単結晶性CeO薄膜1を製造することができる。
さらに、上述のようにして配向性Ni合金基板2上に形成された単結晶性CeO薄膜1を中間層5の一部として利用することにより、以下のように図2に示す酸化物系超電導薄膜材料10を製造することができる。
図4を参照して、上述の単結晶性CeO薄膜の製造方法が単結晶性CeO薄膜製造工程として実施された後、さらに単結晶性CeO薄膜1上にYSZ層3を形成するYSZ成膜工程と、YSZ層3上に第2の単結晶性CeO薄膜4を形成する第2の単結晶性CeO成膜工程とが順次実施される。これにより、図2に示す中間層5が形成される。ここで、YSZ成膜工程および第2の単結晶性CeO成膜工程は、たとえば物理蒸着(PVD;Physical Vapor Deposition)法により形成することができる。また、第2の単結晶性CeO成膜工程は、本発明の範囲外のCeO薄膜の製造方法により形成されてもよいが、本発明のCeO薄膜の製造方法により形成されてもよい。すなわち、第2の単結晶性CeO成膜工程においては、たとえば単結晶性CeO薄膜1上にYSZ層3が形成された配向性Ni合金基板2に対して、本実施の形態と同様の方法により単結晶性CeO薄膜4が形成されてもよい。これにより、優れた配向性および表面平坦性を確保しつつ、低コストな第2の単結晶性CeO薄膜4が形成できるため、酸化物系超電導薄膜材料10の高性能化および低コスト化が可能となる。なお、配向性Ni合金基板2上に本発明の範囲外のCeO薄膜の製造方法により単結晶性CeO薄膜を形成し、当該単結晶性CeO薄膜上に上述と同様の方法によりYSZ層3を形成した上で、本発明に従ったCeO薄膜の製造方法により、YSZ層3上に第2の単結晶性CeO薄膜4を形成してもよい。
さらに、図4を参照して、中間層5上に酸化物系超電導層としてのHoBCO層6が形成される超電導層形成工程が実施される。ここで、HoBCO層6は、たとえばパルスレーザー蒸着(PLD;Pulsed Laser Deposition)法などの物理蒸着法、有機金属堆積(MOD;Metal Organic Deposition)法、あるいはこれらの組み合わせにより形成することができる。
さらに、図4を参照して、HoBCO層6上に安定化層としてのAg安定化層7を形成するAg安定化層形成工程が実施される。Ag安定化層形成工程は、たとえば蒸着法により、実施することができる。以上のようにして、図2に示す酸化物系超電導薄膜材料10を製造することができる。
本実施の形態における単結晶性CeO薄膜の製造方法によれば、単結晶性CeO薄膜1の成膜速度を30nm/分以上としつつ、結晶配向性および表面平坦性に優れた単結晶性CeO薄膜1を製造することができる。その結果、優れた特性を有する単結晶性CeO薄膜1を低コストで製造することができる。なお、単結晶性CeO薄膜1の結晶配向性および表面平坦性をより向上させるためには、第1のCeO成膜工程における、配向性Ni合金基板2の温度を800℃以上とすることが好ましい。これにより、単結晶性CeO薄膜1の結晶配向性および表面平坦性の向上が一層確実なものとなる。
また、単結晶性CeO薄膜1の結晶配向性および表面平坦性をより向上させるためには、プレアニール工程において、配向性Ni合金基板2の温度を800℃以上に加熱することが好ましい。これにより、単結晶性CeO薄膜1の結晶配向性および表面平坦性の向上が一層確実なものとなる。
以下、本発明の実施例1について説明する。図4に基づいて説明した上述の実施の形態と同様の単結晶性CeO薄膜の製造方法において、成膜工程における基板温度と、CeO薄膜の配向性および表面平坦性との関係を調査する試験を行なった。試験の手順は以下のとおりである。
まず、上述の実施の形態と同様に配向性Ni合金基板を準備し、当該配向性Ni合金基板を800℃に加熱することによりプレアニールを実施した。その後、基板温度を700℃〜850℃、成膜速度を30nm/min(毎分30nm)として、配向性Ni合金基板上に電子ビーム蒸着法によりCeO薄膜を形成した。そして、X線回折計により、形成されたCeO薄膜における結晶の(100)配向割合を測定することにより、CeO薄膜時の基板温度と形成されたCeO薄膜の(100)配向割合との関係を調査した。なお、配向割合は、CeO薄膜をX線回折により分析し、(200)面に対応する回折強度と(111)面に対応する回折強度との和に対する(200)面に対応する回折強度の割合から算出した。また、表面粗さ計により、形成されたCeO薄膜の表面粗さを測定することにより、CeO薄膜形成時の基板温度とCeO薄膜の表面粗さとの関係を調査した。
図5は、CeO薄膜形成時の基板温度と形成されたCeO薄膜の(100)配向割合との関係を示す図である。図5において、横軸は成膜時における基板の温度、縦軸は形成されたCeO薄膜の結晶のうち(100)配向している割合である。また、図6は、CeO薄膜形成時の基板温度と形成されたCeO薄膜の表面粗さとの関係を示す図である。図6において、横軸は成膜時における基板の温度、縦軸は形成されたCeO薄膜の表面粗さ(JIS規格 Ra)を示している。図5および図6を参照して、CeO薄膜の成膜工程における基板温度とCeO薄膜の結晶の配向性および表面平坦性との関係を説明する。
図5を参照して、基板温度が700〜750℃付近の条件下において、CeO薄膜の結晶の(100)配向割合は急激に上昇するとともに、基板温度が800℃以上の条件下で(100)配向割合はほぼ安定している。ここで、CeO薄膜を超電導薄膜材料の中間層として使用する場合、CeO薄膜は(100)に配向していることが好ましい。X線回折計による測定結果を分析したところ、基板温度が750℃未満の条件下では(100)配向の割合が低下するとともに、超電導薄膜材料の中間層として好ましくない(111)配向の割合が増加していることが分かった。
一方、図6を参照して、基板温度が700〜750℃付近の条件下において、CeO薄膜の結晶の表面粗さは急激に低下するとともに、基板温度が800℃以上の条件下で表面粗さはほぼ安定している。
以上の結果より、配向性および表面平坦性のいずれの観点からも、CeO薄膜の成膜時における基板温度は750℃以上が好ましく、800℃以上がより好ましいことが確認された。
以下、本発明の実施例2について説明する。図4に基づいて説明した上述の実施の形態と同様の単結晶性CeO薄膜の製造方法において、プレアニール工程における基板の加熱温度と、CeO薄膜の配向性および表面平坦性との関係を調査する試験を行なった。試験の手順は以下のとおりである。
まず、上述の実施の形態と同様に配向性Ni合金基板を準備した。そして、当該配向性Ni合金基板を700℃〜950℃に加熱することによりプレアニールを実施した。その後、基板温度を800℃、成膜速度を30nm/min〜150nm/min(毎分30〜150nm)として、配向性Ni合金基板上に電子ビーム蒸着法によりCeO薄膜を形成した。そして、X線回折計により、形成されたCeO薄膜における(100)配向割合を測定することにより、各成膜速度におけるプレアニール時の加熱温度(プレアニール温度)と(100)配向割合との関係を調査した。また、表面粗さ計を用いて、形成されたCeO薄膜における表面粗さを測定することにより、各成膜速度におけるプレアニール温度と表面粗さとの関係を調査した。
図7は、各成膜速度におけるプレアニール温度と形成されたCeO薄膜の(100)配向割合との関係を示す図である。図7において、横軸はプレアニール時の基板の温度、縦軸は形成されたCeO薄膜の結晶のうち(100)配向している割合である。また、図8は、各成膜速度におけるプレアニール温度と形成されたCeO薄膜の表面粗さとの関係を示す図である。図8において、横軸はプレアニール時の基板の温度、縦軸は形成されたCeO薄膜の表面粗さ(JIS規格 Ra)を示している。また、図7および図8において、菱形印は蒸着速度が30nm/min、丸印は蒸着速度が90nm/min、三角印は蒸着速度が150nm/minの場合をそれぞれ示している。図7および図8を参照して、CeO薄膜のプレアニール温度と、CeO薄膜の結晶の配向性および表面平坦性との関係を説明する。
図7を参照して、いずれの成膜速度においても、プレアニール温度が700〜750℃付近の条件下においてCeO薄膜の結晶の(100)配向割合は急激に上昇するとともに、プレアニール温度が800℃以上の条件下で(100)配向割合はほぼ安定している。
一方、図8を参照して、いずれの成膜速度においても、プレアニール温度が700〜750℃付近の条件下において、CeO薄膜の結晶の表面粗さは急激に小さくなるとともに、プレアニール温度が800℃以上の条件下で表面粗さはほぼ安定している。
以上の結果より、CeO薄膜の成膜時における基板温度を750℃以上、好ましくは800℃以上とすることに加えて、プレアニール温度を750℃以上、好ましくは800℃以上とすることにより、30nm/分以上の成膜速度を確保しつつ、配向割合および表面平坦性の一層高い単結晶性CeO薄膜を製造することが可能であることが確認された。さらに、上述の試験結果より、たとえば従来の10倍程度の成膜速度である150nm/分の成膜速度においても、(100)配向割合および表面平坦性の十分高い単結晶性CeO薄膜を製造することが可能であることが分かった。
なお、上述の実施の形態および実施例においては、配向性金属基板として配向性Ni合金基板が採用される場合について説明したが、本発明の配向性金属基板はこれに限られず、基板の素材としてたとえばNi、Cu(銅)、Cu合金、Cu/SUS(ステンレス鋼)クラッド材、Ni/Cu/SUSクラッド材、Ni/高強度合金クラッド材、Ni合金/高強度合金クラッド材などを採用することができる。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
本発明のCeO薄膜の製造方法、CeO薄膜およびCeO薄膜の製造装置は、優れた配向性および表面平坦性が要求されるCeO薄膜の製造方法、CeO薄膜およびCeO薄膜の製造装置に特に有利に適用され得る。
金属基板上に形成された本発明の一実施の形態におけるCeO薄膜である単結晶性CeO薄膜の概略断面図である。 図1の単結晶性CeO薄膜上に超電導層が形成されることにより構成される超電導薄膜材料の概略断面図である。 本発明の一実施の形態における単結晶性CeO薄膜の製造装置の概略図である。 本発明の一実施の形態における単結晶性CeO薄膜の製造方法を含む酸化物系超電導薄膜材料の製造工程の概略を示す図である。 CeO薄膜形成時の基板温度と形成されたCeO薄膜の(100)配向割合との関係を示す図である。 CeO薄膜形成時の基板温度と形成されたCeO薄膜の表面粗さとの関係を示す図である。 各成膜速度におけるプレアニール温度と形成されたCeO薄膜の(100)配向割合との関係を示す図である。 各成膜速度におけるプレアニール温度と形成されたCeO薄膜の表面粗さとの関係を示す図である。
符号の説明
1 単結晶性CeO薄膜、2 配向性Ni合金基板、3 YSZ層、4 第2の単結晶性CeO薄膜、5 中間層、6 HoBCO層、7 Ag安定化層、10 酸化物系超電導薄膜材料、30 単結晶性CeO薄膜の製造装置、31 サプライ室、31A サプライリール、32 プレアニール炉、32A 加熱部材、33 成膜室、33A 成膜装置、34 巻き取り室、34A 巻き取りリール、35 接続管。

Claims (4)

  1. 隣接する結晶粒間の方位差が10°以内であって、全体としても三次元的に結晶の方位がほぼ揃っている金属基板である配向性金属基板を準備する工程と、
    前記配向性金属基板上にCeO膜を形成する工程とを備え、
    前記CeO膜を形成する工程における前記CeO膜の成膜速度は30nm/分以上150nm/分以下であり、
    前記CeO膜を形成する工程における、前記配向性金属基板の温度は750℃以上1100℃以下である、CeO薄膜の製造方法。
  2. 前記配向性金属基板を準備する工程よりも後であって、前記CeO膜を形成する工程よりも前に、前記配向性金属基板を加熱する工程をさらに備え、
    前記配向性金属基板を加熱する工程では、前記配向性金属基板が750℃以上1100℃以下に加熱される、請求項1に記載のCeO薄膜の製造方法。
  3. 前記CeO膜を形成する工程において、前記CeO膜は、電子ビーム蒸着法またはRFスパッタ法のいずれか一方の手法により形成される、請求項1または2に記載のCeO薄膜の製造方法。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載のCeO薄膜の製造方法を実施するためのCeO薄膜の製造装置であって、
    前記配向性金属基板を保持するためのサプライ室と、
    前記サプライ室から供給された前記配向性金属基板を加熱するためのプレアニール炉と、
    前記プレアニール炉において加熱された前記配向性金属基板上にCeO膜を形成するための成膜室と、
    前記CeO膜が形成された前記配向性金属基板を巻き取るための巻き取り室とを備えた、CeO薄膜の製造装置。
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