JP5538168B2 - 成膜方法および酸化物超電導導体の製造方法 - Google Patents

成膜方法および酸化物超電導導体の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、成膜方法および酸化物超電導導体に関し、より詳しくは、酸化物超電導導体用基材の岩塩構造の中間層を、イオンビームアシストデポジション法により成膜するに際し、該中間層の結晶配向の対称性を制御することのできる成膜方法、及びこの成膜方法により成膜された中間層を備えてなる酸化物超電導導体に関する。
RE−123系酸化物超電導体(REBaCu7−n:REはYを含む希土類元素のいずれか)は、液体窒素温度以上で優れた超電導特性を示すことから、実用上極めて有望な素材とされており、この酸化物超電導体を線材に加工して電力供給用の導体として用いることが強く要望されている。
このRE−123系酸化物超電導導体の作製には、結晶配向性の高い基材上に結晶配向性の良好な酸化物超電導層を形成する必要がある。これは、この種の希土類系酸化物超電導体の結晶が、その結晶軸のa軸とb軸方向には電気を流しやすいが、c軸方向には電気を流し難いという電気的異方性を有しているので、基材上に酸化物超電導層を形成する場合、電気を流す方向にa軸あるいはb軸を配向させ、c軸をその他の方向に配向させる必要があるためである。従って、酸化物超電導層を成膜する場合の下地となる基材においても、結晶配向性を良好とする必要がある。
このようなRE−123系酸化物超電導導体に用いる基材として、図8に示す如くテープ状の金属基材100上に、IBAD(Ion Beam Assisted Deposition:イオンビームアシストデポジション)法によって中間層110を積層形成した構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
上述のIBAD法により形成される中間層110とは、熱膨張率や格子定数等の物理的な特性値が金属基材100と酸化物超電導層との中間的な値を示す材料、例えばMgO、YSZ(イットリア安定化ジルコニウム)、SrTiO等によって構成されている。このような中間層110は、金属基材100と酸化物超電導層との物理的特性の差を緩和するバッファー層として機能する。また、IBAD法によって成膜されることにより、中間層110の結晶は高い結晶配向性を有している。
中間層110は、例えば図8に示す如く立方晶系の結晶構造を有する微細な結晶粒120が、多数、結晶粒界を介し接合一体化されてなり、各結晶粒120の結晶軸のc軸は基材100の上面(成膜面)に対し直角に向けられ、各結晶粒120の結晶軸のa軸同士及びb軸同士は、互いに同一方向に向けられて面内配向されている。そして、各結晶粒120のa軸(あるいはb軸)同士は、それらのなす角(図9に示す粒界傾角K)を30度以内にして接合一体化されている。
この中間層110の結晶面内配向性が高い方がその上に成膜される酸化物超電導層も高い結晶配向性となり、この結晶面内配向性が高く有るほど、臨界電流、臨界磁場、臨界温度等の超電導特性が優れた酸化物超電導導体を得ることができる。
また、金属テープの基材上に中間層と金属酸化物からなるキャップ層と酸化物超電導層を積層し、キャップ層の結晶配向性を中間層より更に高めることにより、優れた結晶配向性を有する酸化物超電導層を形成する技術も知られている(特許文献2参照)。
特開2004−71359号公報 特開2008−130255号公報
上述の如く高配向度の基材を得ることは、酸化物超電導導体を作製する上で重要な役割を果たすので、本発明者らは鋭意研究開発を進めており、その過程において、IBAD法を用い、極めて薄い厚さであっても優れた配向性を示すMgOの中間層を形成する技術を開発している。
IBAD法により作成可能なMgO膜(以下、「IBAD−MgO膜」と称する。)としては、基板法線方向にMgO<111>軸が向く3回対称性のMgO膜(以下、「3回対称MgO膜」と称する。)と、基板法線方向にMgO<001>軸が向く4回対称性のMgO膜(以下、「4回対称MgO膜」と称する。)が知られている。
このMgO膜よりなる中間層の結晶配向性は、その上に積層されるキャップ層や酸化物超電導層の配向性の優劣に深く影響を及ぼす。そのため、IBAD−MgO膜が3回対称MgO膜か、4回対称MgO膜かにより、IBAD−MgO膜上の積層構造及び各層の構成材料を選択し、結晶配向性を整合させて酸化物超電導導体を作製する必要がある。例えば、4回対称MgO膜を中間層として用いる場合は、この中間層上にCeO等のキャップ層を介して酸化物超電導層を積層する構成とされる。一方、3回対称MgO膜を中間層として用いる場合は、この3回対称MgO層上に<100>配向である層を形成し、さらにその上にキャップ層と酸化物超電導層を積層する技術を本発明者らは開発している。
このように、優れた超電導特性の酸化物超電導導体の作製には、中間層であるIBAD−MgO膜の結晶配向性を制御することが非常に重要であるが、その制御は非常に難しい。そのため、IBAD法により3回対称MgO膜と4回対称MgO膜を作り分ける技術の開発が望まれている。
本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたものであり、イオンビームアシストデポジション法による結晶配向の対称性が制御された岩塩構造の中間層の成膜方法の提供、すなわち、4回対称の岩塩構造の中間層と3回対称の岩塩構造の中間層を選択的に作り分けることのできる成膜方法を提供することを目的とする。また、本発明は、4回対称の岩塩構造の中間層を用いた酸化物超電導導体及び3回対称の岩塩構造の中間層を用いた酸化物超電導導体を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため、本発明の成膜方法は、イオンビームアシストデポジション法により、金属基材の上方に岩塩構造の中間層を成膜する方法であって、成膜時の水蒸気圧を制御することにより前記中間層の結晶配向の対称性を3回対称又は4回対称に制御することを特徴とする。
本発明の成膜方法において、成膜時の水蒸気圧を5.8×10−4Pa以下として前記中間層である4回対称性のMgO膜を成膜することが好ましい。
本発明の成膜方法において、成膜時の水蒸気圧を1.5×10−4Pa以下として前記中間層である4回対称性のMgO膜を成膜することがより好ましい
本発明の成膜方法において、成膜時の水蒸気圧を6.3×10−4Pa以上として前記中間層である3回対称性のMgO膜を成膜することが好ましい
本発明の成膜方法において、成膜時の水蒸気圧を7.8×10−3Pa以上として前記中間層である3回対称性のMgO膜を成膜することがより好ましい
本発明の成膜方法において、前記金属基材上に、ベッド層を介して前記中間層を成膜することが好ましい。
また、本発明は、上記本発明の成膜方法により得られた中間層と、キャップ層と、酸化物超電導層とを備えた酸化物超電導導体を提供する。
本発明の成膜方法によれば、成膜時の水蒸気圧を制御してイオンビームアシストデポジション法(IBAD法)により岩塩構造の中間層を成膜することにより、成膜面の法線方向に岩塩構造<001>軸が向いた4回対称性の中間層と、成膜面の法線方向に岩塩構造<111>軸が向いた3回対称性の中間層とを選択的に形成することができる。従って、所望の積層構造の酸化物超電導導体を得るために、必要に応じて、3回対称性の中間層と4回対称性の中間層を作り分けることが可能となる。
また、本発明の成膜方法において、MgO膜より中間層を成膜する場合、成膜時の水蒸気圧を5.8×10−4Pa以下に設定してIBAD法により成膜を行うことにより、MgO<001>軸が成膜面の法線方向に向いて配向した4回対称MgO膜を選択的に形成することができる。従って、MgO膜の上に積層されるキャップ層や酸化物超電導層等の積層構造及び種類などにより、4回対称のMgO膜が望まれる場合に、本発明を好適に適用することができる。さらに、成膜時の水蒸気圧を1.5×10−4Pa以下に設定して成膜することにより、面内配向度ΔΦが7°以下の4回対称MgO膜を成膜することができる。
また、本発明の成膜方法において、MgO膜よりなる中間層を成膜する場合、成膜時の水蒸気圧を6.3×10−4Pa以上に設定してIBAD法により成膜を行うことにより、MgO<111>軸が成膜面の法線方向に向いて配向した3回対称MgO膜を選択的に形成することができる。従って、MgO膜の上に積層されるキャップ層や酸化物超電導層等の積層構造及び種類などにより、3回対称のMgO膜が望まれる場合に、本発明を好適に適用することができる。さらに、成膜時の水蒸気圧を7.8×10−3Pa以上に設定して成膜することにより、面内配向度ΔΦが良好な3回対称MgO膜を成膜することができる。
また、本発明の成膜方法により形成された中間層であるMgO膜は、結晶配向性が制御されているため、このMgO膜を酸化物超電導導体に適用することにより、MgO層上に形成される酸化物超電導層の結晶配向性を向上させて、良好な超電導特性の酸化物超電導導体を提供することができる。
本発明に係る第1実施形態の成膜方法を適用して製造される酸化物超電導導体用基材の一例構造を示す概略構成図である。 図1に示す酸化物超電導導体用基材を備える酸化物超電導導体の一例構造を示す概略構成図である。 本発明に係る第2実施形態の成膜方法を適用して製造される酸化物超電導導体用基材の他の例構造を示す概略構成図である。 図3に示す酸化物超電導導体用基材を備える酸化物超電導導体の一例構造を示す概略構成図である。 図5(a)は3回対称MgO膜の結晶配向を説明するための模式図であり、図5(b)は4回対称MgO膜の結晶配向性を説明するための模式図である。 イオンビームアシストデポジション法により成膜する装置の一例を示す概略構成図である。 図6に示す装置に適用されるイオンガンの構造の一例を示す概略構成図である。 金属テープ上にIBAD法により形成した中間層の一例を示す構成図である。 IBAD法により形成した中間層の結晶粒を示す構成図である。
以下、図面を参照しながら、本発明について詳細に説明する。
本発明の成膜方法は、イオンビームアシストデポジション法により、金属基材の上方に岩塩構造の中間層を成膜する方法であって、成膜時の水蒸気圧を制御することにより前記中間層の結晶配向の対称性を3回対称又は4回対称に制御することを特徴とする。
本発明の成膜方法により金属基材の上方に成膜される岩塩構造の中間層は、酸化物超電導導体用基材において、その上に形成される酸化物超電導層の結晶配向性を高めるために設けられるものである。本発明において、岩塩構造の中間層としては、MgO、NiO、CaOなどの金属酸化物が挙げられる。以下の実施形態においては、MgO膜よりなる中間層を成膜する場合を例に挙げて説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の成膜方法は、岩塩構造を有する他の材料を成膜する場合にも適用することができる。
[第1実施形態]
まず、本発明の成膜方法において、岩塩構造の中間層として3回対称性のMgO膜を成膜する方法、この成膜方法を適用して製造される酸化物超電導導体用基材及び酸化物超電導導体について説明する。
図1は、本発明に係る第1実施形態の成膜方法によって製造される酸化物超電導導体用基材の一例構造の概略構成図である。本実施形態の酸化物超電導導体用基材10は、金属基材11上に、順に成膜された拡散防止層12とベッド層13とを介して、イオンビームアシストデポジション法(IBAD法)により成膜された中間層である3回対称性のMgO膜(3回対称MgO膜)14が積層された積層構造を有している。
図2は、図1に示す本実施形態の成膜方法によって製造される酸化物超電導導体用基材10を備える酸化物超電導導体の一例構造を示す概略構成図である。図2に示す本実施形態の酸化物超電導導体20は、図1に示す酸化物超電導導体用基材10の3回対称MgO膜14の上に、配向調整層35、キャップ層36及び酸化物超電導層37が順次積層された積層構造を有している。
金属基材11を構成する材料としては、強度及び耐熱性に優れた、Cu、Ni、Ti、Mo、Nb、Ta、W、Mn、Fe、Ag等の金属又はこれらの合金を用いることができる。特に、好ましいのは、耐食性及び耐熱性の点で優れているステンレス、ハステロイ(米国ヘインズ社製商品名)、その他のニッケル系合金である。あるいは、これらに加えてセラミック製の基材、非晶質合金の基材などを用いても良い。なお、金属基材11は、本実施形態ではテープ状のものを用いているが、これに限定されず、例えば、板材、線材、条体等の種々の形状のものを用いることができる。
拡散防止層12は、金属基材11の構成元素拡散を防止する目的で形成されたもので、
窒化ケイ素(Si)、酸化アルミニウム(Al、「アルミナ」とも呼ぶ)、あるいはGZO(GdZr)等から構成され、その厚さは例えば10〜400nmである。
拡散防止膜12の厚さが10nm未満になると、金属基材12の構成元素の拡散を十分に防止できない虞がある。一方、拡散防止膜12の厚さが400nmを超えると、拡散防止膜12の内部応力が増大し、これにより、酸化物超電導導体用基材10を構成する各層が金属基材12から剥離しやすくなる虞がある。
また、拡散防止層12の結晶性は特に問われないので、通常のスパッタ法等の成膜法により形成すればよい。
なお、図1及び図2に示す酸化物超電導導体用基材10及び酸化物超電導導体20では、金属基材11上に拡散防止層12が積層された構造を例示しているが、本発明はこれに限定されず、必要に応じて拡散防止層12を有さない構造とすることも可能である。
ベッド層13は、耐熱性が高く、界面反応性をより低減するためのものであり、その上に配される皮膜の配向性を得るために機能する。ベッド層13としては、例えば、希土類酸化物や、希土類酸化物と金属酸化物との混合物から構成される膜を用いることができる。ベッド層13を構成する希土類酸化物として、組成式(α2x(β(1−X)で示されるものが挙げられる。ここで、αとβは希土類元素で0≦x≦1に属するものを指す。より具体的には、Y、CeO、Dy、Nd、Pr11、Sc、Sm、Tb、Tm等を例示することができる。また、ベッド層13を構成する希土類酸化物と金属酸化物との混合物としては、前述したベッド層13を構成する希土類酸化物と金属酸化物MO(Mは、Ti、Zr、又はHfを示す。)との混合物が挙げられる。
ベッド層13は、例えばスパッタリング法などにより形成され、その厚さは例えば10〜100nmである。
図1及び図2に示す如く、拡散防止層12とベッド層13の2層構造とする場合、拡散防止層12をアルミナから形成し、ベッド層13をYから形成する構造を例示できる。
なお、本発明においては、金属基材11と3回対称MgO膜14との間に介在する積層構造は、拡散防止層12とベッド層13の2層構造に限定されるものではない。必要に応じて、ベッド層13のみの1層構造、又は、拡散防止層12のみの1層構造とすることも可能である。
本実施形態の如く拡散防止層12とベッド層13の2層構造とするのは、ベッド層13の上に酸化物超電導層37やキャップ層36等の他の層を形成する場合に、必然的に加熱されたり、熱処理される結果として熱履歴を受ける場合、金属基材11の構成元素の一部がベッド層13を介して酸化物超電導層37側に拡散することを抑制するためであり、拡散防止層12とベッド層13の2層構造とすることで、金属基材11側からの元素拡散を効果的に抑制することができる。
岩塩構造の中間層である3回対称MgO膜14は、後述のIBAD法を用いた本発明の成膜方法により成膜され、図5(a)に示す如くMgO<111>軸が金属基材11の法線方向に向いて配向した3回対称性のMgO膜である。3回対称MgO膜14は、金属基材11と酸化物超電導層37との物理的特性(熱膨張率や格子定数等)の差を緩和するバッファー層として機能するとともに、この上に形成される配向調整層35、キャップ層36の結晶配向性を制御する配向制御膜として機能する。岩塩構造の中間層としては、MgOの他に、NiO、CaOが挙げられるが、MgOはIBAD法における配向度を表す指標であるΔΦ(FWHM:半値全幅)の値を小さくできるため、バッファー層の材料として特に適している。
岩塩構造の中間層である3回対称MgO膜14の膜厚は、1〜1000nmの範囲、例えば数nm程度とすることができるが、これらの範囲に制限されるものではない。
3回対称MgO膜14の膜厚が1000nmを超えると、3回対称MgO膜14の成膜方法として用いるIBAD法の成膜速度が比較的低速であることから、3回対称MgO膜14の成膜時間が長くなり経済的に不利となる。
一方、3回対称MgO膜14の膜厚が1nm未満であると、3回対称MgO膜14自身の結晶配向性を制御することが難しくなり、この上に形成される配向調整層35、キャップ層36の配向度制御が難しくなり、さらにキャップ層36の上に形成される酸化物超電導層37の配向度制御も難しくなる。その結果、酸化物超電導導体は臨界電流が不十分となる可能性がある。
配向調整層35は、蛍石構造を有し、<100>軸が基板表面の法線方向に配向(以下、「<100>配向」と称することがある。)している。本実施形態においては、3回対称MgO膜14上に、<100>配向した配向調整層35を設けることにより、その上に形成されるc軸垂直配向した酸化物超電導層37の面内配向制御を行い、酸化物超電導層37の結晶配向性を良好なものとし、その超電導特性を向上させることができる。
蛍石構造を有する配向調整層35としては、組成式(α 2x’(β (1−X’)で示されるものが挙げられる。ここで、αはZr、Hf、Ti又は4価の希土類元素(例えばCe等)であり、βは3価の希土類元素で、かつ0≦x’≦1に属するものを指すが、特にαがZr、Hfで、0.4≦x’≦1.0であるものが望ましく、例えばYSZ(イットリア安定化ジルコニア)、GZO(GdZr)等を例示することができる。
配向調整層35は、例えば、IBAD法等により形成され、その膜厚は10〜300nmの範囲が好ましい。
配向調整層35の膜厚の下限値は、その上に形成される後述するCeO層等のキャップ層36の膜厚にも依存し、10nm以上あればよいが、好ましくは20nm以上、更に好ましくは100nm以上である。10nm未満であるとこの上に成膜されるCeO層等のキャップ層36の結晶配向性が低下し、キャップ層36の上に成膜される酸化物超電導層37の結晶配向性も低下するため、その超電導特性が低下する虞がある。
また、配向調整層35は、<111>配向している初期部と、<100>配向している成長部とからなることが好ましい。これにより、<111>配向した3回対称MgO膜14と配向調整層35の界面が安定する。
なお、本実施形態においては、3回対称MgO膜14の上に配向調整層35が積層された構造を例示したが、本発明はこれに限定されない。3回対称MgO膜14と、その上に形成されるキャップ層36や酸化物超電導層37の配向性が整合する場合は、配向調整層35やキャップ層36を有さない構造とすることも可能である。
キャップ層36は、その上に設けられる酸化物超電導層37の配向性を制御する機能を有するとともに、酸化物超電導層37を構成する元素の3回対称MgO膜14側への拡散や、成膜時に使用するガスと3回対称MgO膜14及び配向調整層35との反応を抑制する機能などを有する。
キャップ層36としては、特に、その成膜面に対してエピタキシャル成長するととともに、横方向(面方向)に粒成長(オーバーグロース)して、結晶粒が面内方向に選択成長するという過程を経て成膜される自己配向化する膜であることが好ましい。このように選択成長しているキャップ層36は、3回対称MgO膜14及び配向調整層35よりも更に高い面内配向度が得られる。
キャップ層36を構成する材料としては、このような機能を発現し得るものであれば特に限定されないが、例えば、CeO、LaMnO、SrTiO、Y、Al等を用いるのが好ましい。
キャップ層36の構成材料としてCeOを用いる場合、キャップ層36は、全体がCeOによって構成されている必要はなく、Ceの一部が他の金属原子又は金属イオンで置換されたCe−M−O系酸化物を含んでいてもよい。
キャップ層36の適正な膜厚は、その構成材料によって異なり、例えばCeOによってキャップ層36を構成する場合には、50〜5000nmの範囲、より好ましくは100〜5000nmの範囲などを例示することができる。キャップ層36の膜厚がこれらの範囲から外れると、十分な配向度が得られない場合がある。
キャップ層36を成膜するには、パルスレーザ蒸着法(PLD法)、スパッタリング法などで形成することができるが、大きな成膜速度を得られる点でPLD法を用いることが望ましい。
酸化物超電導層37の材料としては、RE−123系酸化物超電導体(REBaCu7−n:REはY、La、Nd、Sm、Eu、Gd等の希土類元素)を用いることができる。RE−123系酸化物の中でも好ましくは、Y123(YBaCu7−n)又はGd123(GdBaCu7−n)等を用いることができるが、その他の酸化物超電導体、例えば、BiSrCan−1Cu4+2n+δなる組成等に代表される臨界温度の高い他の酸化物超電導体からなるものを用いても良いのは勿論である。
酸化物超電導層37の厚みは、0.5〜5μm程度であって、均一な厚みであることが好ましい。酸化物超電導層37は、PLD法、スパッタ法、TFA−MOD法(トリフルオロ酢酸塩を用いた有機金属堆積法、塗布熱分解法)等の成膜法で成膜することができる。また、酸化物超電導層37の膜質は均一であることが好ましく、酸化物超電導層37の結晶のc軸とa軸とb軸もキャップ層36の結晶に整合するようにエピタキシャル成長して結晶化しており、結晶配向性が優れたものとなっている。
次に、前述の構造の酸化物超電導導体用基材10の製造方法について説明する。
まず、前述の材料からなるテープ状などの長尺の金属基材11を用意し、この金属基材11上に、イオンビームスパッタ法、電子ビーム蒸着法、パルスレーザ蒸着法(PLD法)、化学気相蒸着法(CVD法)などの成膜法によってAlなどの拡散防止12を形成する。続いて、イオンビームスパッタ法、電子ビーム蒸着法、パルスレーザ蒸着法(PLD法)、化学気相蒸着法(CVD法)などの成膜法によって、Yなどのベッド層13を形成する。
次に、IBAD法によって岩塩構造の中間層である3回対称MgO膜14を形成する。
本実施形態の説明では、以下、イオンビームアシストデポジション装置とそれを用いたイオンビームアシストデポジション方法により3回対称MgO膜14を成膜する方法について説明する。
まず、本実施形態で用いるIBAD法による成膜装置について説明する。
図6は、IBAD法による膜(3回対称MgO膜14等)を製造する装置の一例を示すものであり、この例の装置は、スパッタ装置にイオンビームアシスト用のイオンガンを設けた構成となっている。
この成膜装置は、金属基材11上に拡散防止層12とベッド層13が順次成膜された基材Aを保持する基材ホルダ51と、この基材ホルダ51の斜め上方に所定間隔をもって基材Aに対向配置された板状のターゲット52と、基材ホルダ51の斜め上方に所定間隔をもって基材Aに対向し、かつ、ターゲット52と離間して配置されたイオンガン53と、ターゲット52の下方においてターゲット52の下面に向けて配置されたスパッタビーム照射装置54を主体として構成されている。また、図中符号55は、ターゲット52を保持したターゲットホルダを示している。
また、図6に示す装置は図示略の真空チャンバに収納されていて、基材Aの周囲を真空雰囲気に保持できるようになっている。前記真空チャンバは、外部と成膜空間とを仕切る容器であり、気密性を有すると共に、内部が高真空状態とされる為の耐圧性を有するものとされる。この真空チャンバには、ガスボンベ等の雰囲気ガス供給手段が接続されていて、真空チャンバの内部を真空等の低圧状態で、かつ、アルゴンガスあるいはその他の不活性ガス雰囲気または酸素を含む不活性ガス雰囲気にすることができるようになっている。また、この真空チャンバには、真空チャンバ内のガスを排気する真空ポンプ等のガス排気手段が接続されている。このようなガス排出手段を作動させることにより、真空チャンバ内の水蒸気圧を制御することができる。
ここで、本発明の明細書および特許請求の範囲において、成膜時の水蒸気圧は、電離真空計(キヤノンアネルバテクニクス社製、ゲージ球:ミニチュアB−A ゲージ球Mg−2、制御電源:M−430HG)により測定した圧力を、水蒸気の比感度に基づき校正した値である。
なお、基材Aとして長尺の金属テープを用いる場合は、真空チャンバの内部に金属テープの送出装置と巻取装置を設け、送出装置から連続的に基材ホルダ51に基材Aを送り出し、続いて巻取装置で巻き取ることでテープ状の基材上に多結晶薄膜を連続成膜することができるように構成することが好ましい。
基材ホルダ51は内部に加熱ヒータを備え、基材ホルダ51の上に位置された基材Aを所用の温度に加熱できるようになっている。また、基材ホルダ51の底部には、基材ホルダ51の水平角度を調整できる角度調整機構が付設されている。なお、角度調整機構をイオンガン53に取り付けてイオンガン53の傾斜角度を調整し、イオンの照射角度を調整するようにしても良い。
ターゲット52は、目的とする岩塩構造の中間層である3回対称MgO膜14を形成するためのものであり、目的の組成の多結晶薄膜と同一組成あるいは近似組成のもの等を用いる。ターゲット52として具体的には、MgOあるいはMgを用い、必要に応じて成膜雰囲気中に酸素ガスを供給して成膜すればよい。
イオンガン53は、容器に、イオン化させるガスを導入し、正面に引き出し電極を備えて構成され、ガスの原子または分子の一部をイオン化してイオンビームとして照射する装置である。
本実施形態においては、図7に示す構成の内部構造のイオンガン53を用いる。このイオンガン53は、筒状の容器56の内部に、引出電極57とフィラメント58とArガス等の導入管59とを備えて構成され、容器56の先端からイオンをビーム状に平行に照射できるものである。
イオンガン53は、図6に示すようにその中心軸を基材Aの上面(金属基材11上のベッド層13の上面;成膜面)に対して傾斜角度θでもって傾斜させて対向されている。この傾斜角度θは30〜60度の範囲が好ましいが、MgOの場合に特に45度前後が好ましい。従ってイオンガン53は基材Aの上面に対して傾斜角θでもってイオンを照射できるように配置されている。なお、イオンガン53によってベッド層等が形成された後の基材Aに照射するイオンは、He、Ne、Ar、Xe、Kr 等の希ガスのイオン、あるいは、それらと酸素イオンの混合イオン等で良い。
スパッタビーム照射装置54は、イオンガン53と同等の構成をなし、ターゲット52に対してイオンを照射してターゲット52の構成粒子を叩き出すことができるものである。なお、本装置ではターゲット52の構成粒子を叩き出すことができることが重要であるので、ターゲット52に高周波コイル等で電圧を印加してターゲット52の構成粒子を叩き出し可能なように構成し、スパッタビーム照射装置54を省略しても良い。また、本実施形態では、イオンビームスパッタ法によりターゲット52から基材Aの成膜面へとMgOを供給しているが、本発明はこれに限定されない。電子ビーム蒸着法、PLD法(パルスレーザ蒸着法)、CVD法(化学気相成長法)等の方法により、基材Aの成膜面上にMgOを供給してもよい。
次に前記構成の装置を用いて金属基材11上に拡散防止層12とベッド層13とが順次積層されたものを基材Aとして、基材Aの上面(金属基材11上のベッド層13の上面)に岩塩構造の中間層である3回対称MgO膜14を形成する場合について説明する。本実施形態においては、金属基材11上に、拡散防止層12とベッド層13とを介して3回対称MgO膜14を成膜する場合を例に挙げて説明するが、この積層構造は本発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
金属基材11上のベッド層13上に3回対称MgO膜14を形成するには、まず、図6に示すイオンビームアシストデポジション装置の基材ホルダ51に、基材Aの上面である金属基材11上のベッド層13の上面が成膜面となるようにセットする。次いで、ターゲットホルダ55にターゲット52としてMgOをセットするとともに、角度調整機構を調節してイオンガン53から照射されるイオンを基材ホルダ51にセットされた基材Aの上面(金属基材11上のベッド層の上面)に45度前後の角度で照射できるようにする。
続いて、基材Aが収納された真空チャンバ内を図示略のガス排出手段により所定の圧力に減圧した後、真空チャンバに接続された図示略のガス供給手段により、真空チャンバ内にAr等のイオンソースガスや雰囲気ガスを導入する。この際、真空チャンバ内の水蒸気圧を6.3×10−4Pa以上、より好ましくは7.8×10−3Pa以上、さらに好ましくは7.8×10−3Pa以上、0.02Pa以下に設定する。
この様な範囲の水蒸気圧として成膜することにより、後述する工程により成膜されるMgO膜の結晶配向性を制御することができ、MgO<111>軸が基材A表面(ベッド層13の上面)の法線方向に向いて配向した3回対称MgO膜を選択的に形成することができる。上記水蒸気圧は、特に、7.8×10−3Pa以上に設定することにより、成膜される3回対称MgO膜の面内方向の結晶軸分散の半値幅ΔΦ(°)(以下、「面内配向度ΔΦ(°)」と称する。)を20°以下とすることができる。なお、水蒸気圧を含む真空チャンバ内の圧力は0.01Pa〜0.06Pa程度、具体的には、例えば0.04Pa程度に制御・保持する。
次に、金属基材11/拡散防止層12/ベッド層13の積層体である基材Aの温度を、所定の温度に設定する。成膜される基材Aの温度は100℃以下とすることが好ましく、30℃以下とすることがより好ましい。MgO成膜時の基材Aの温度(成膜温度)を前記範囲に設定することにより、形成される3回対称MgO膜の面内配向度ΔΦ(°)を良好なものにすることができる。なお、基材Aの温度制御は、必要に応じて、例えば、基材ホルダ51内部に備えられた加熱ヒータを作動させて、基材Aを加熱することにより行うことができる。
続いて、上記範囲に真空チャンバ内の水蒸気圧を制御した状態で、イオンガン53とスパッタビーム照射装置54を作動させる。
スパッタビーム照射装置54からターゲット52にイオンを照射すると、ターゲット52の構成粒子が叩き出されてベッド層13上に飛来する。そして、ベッド層13上に、ターゲット52から叩き出した構成粒子を堆積させると同時に、イオンガン53からArイオンと酸素イオンの混合イオンを照射する。このイオン照射する際の照射角度θは、例えばMgOを形成する際には、45度前後の範囲とすることができる。
以上の方法によりベッド層13上に薄くとも良好な結晶配向性で3回対称MgO膜を選択的に形成することができる。
このように、成膜時の水蒸気圧を6.3×10−4Pa以上に設定して成膜することにより、成膜されるMgO膜の結晶配向性が制御されて3回対称MgO膜のみを選択的に成膜することができる理由としては、次の理由が考えられる。3回対称MgO膜は、図5(a)に示すように、MgO<111>軸が成膜面の法線方向を向いて配向している。3回対称MgO膜において、MgO(111)面は陽イオンであるMgのみで構成される面と、陰イオンであるOのみで構成される面とが交互に配置した配向であり、各面は電荷が分極した分極面となっている。そのため、基材Aの表面である成膜面(金属基材11上のベッド層13の表面)に形成される3回対称MgO膜も分極しており、図5(a)に示す例では、Oのみで形成された面が成膜面に接することとなる。本実施形態のように、成膜時の水蒸気圧を6.3×10−4Pa以上に設定すると、成膜面には分極分子であるHO分子が付着した状態となり、この成膜面に付着したHO分子により、分極面である3回対称MgO膜の親和性が上がり、安定性が向上して基材A表面と3回対称MgO膜の界面自由エネルギー(表面自由エネルギー)が低くなるため、3回対称MgO膜が選択的に成膜されるものと考えられる。
本実施形態の成膜方法によれば、水蒸気圧6.3×10−4Pa以上に設定してIBAD法により成膜を行うことにより、MgO<111>軸が成膜面の法線方向に配向した3回対称MgO膜を選択的に形成することができる。従って、MgO膜の上に積層される配向調整層、キャップ層、酸化物超電導層等の積層構造及び種類などにより、3回対称のMgO膜が望まれる場合に、本発明を好適に適用することができる。
[第2実施形態]
次に、本発明の成膜方法において、岩塩構造の中間層として4回対称性のMgO膜を成膜する方法、この成膜方法を適用して製造される酸化物超電導導体用基材及び酸化物超電導導体について説明する。なお、以下の説明では、上述した第1実施形態と異なる部分について主に説明し、同様の部分については、その説明を省略する。また、図3及び図4において、図1及び図2と同一の構成要素には、同一の符号を付した。
図3は、本発明に係る第2実施形態の成膜方法によって製造される酸化物超電導導体用基材の一例構造の概略構成図である。本実施形態の酸化物超電導導体用基材30は、金属基材11上に、順に成膜された拡散防止層12とベッド層13とを介して、イオンビームアシストデポジション法(IBAD法)により成膜された中間層である4回対称性のMgO膜(4回対称MgO膜)24が積層された積層構造を有している。
図4は、図3に示す本実施形態の成膜方法によって製造される酸化物超電導導体用基材30を備える酸化物超電導導体の一例構造を示す概略構成図である。図4に示す本実施形態の酸化物超電導導体40は、図3に示す酸化物超電導導体用基材30の4回対称MgO膜24の上に、キャップ層36及び酸化物超電導層37が順次積層された積層構造を有している。
岩塩構造の中間層である4回対称MgO膜24は、後述のIBAD法を用いた本発明の成膜方法により成膜され、図5(b)に示す如く、MgO<001>軸が金属基材11の法線方向に向いて配向した4回対称性のMgO膜である。4回対称MgO膜24は、金属基材11と酸化物超電導層37との物理的特性(熱膨張率や格子定数等)の差を緩和するバッファー層として機能するとともに、この上に形成されるキャップ層36の結晶配向性を制御する配向制御膜として機能する。岩塩構造の中間層としてはMgOの他にNiO、CaOなどより形成されていてもよいが、MgOはIBAD法における配向度を表す指標であるΔΦ(FWHM:半値全幅)の値を小さくできるため、バッファー層の材料として特に適している。
4回対称MgO膜24の膜厚は、1〜50nmの範囲、例えば数nm程度とすることができるが、これらの範囲に制限されるものではない。
4回対称MgO膜24の膜厚が50nmを超えると、4回対称MgO膜24の成膜方法として用いるIBAD法の成膜速度が比較的低速であることから、4回対称MgO膜24の成膜時間が長くなり経済的に不利となる。
一方、4回対称MgO膜24の膜厚が1nm未満であると、4回対称MgO膜24自身の結晶配向性を制御することが難しくなり、この上に形成されるキャップ層36の配向度制御が難しくなり、さらにキャップ層36の上に形成される酸化物超電導層37の配向度制御も難しくなる。その結果、酸化物超電導導体は臨界電流が不十分となる可能性がある。
なお、本発明においては、金属基材11と4回対称MgO膜24との間に介在する積層構造は、拡散防止層12とベッド層13の2層構造に限定されるものではない。必要に応じて、ベッド層13のみの1層構造、又は、拡散防止層12のみの1層構造とすることも可能である。
次に、前述の構造の酸化物超電導導体用基材30の製造方法について説明する。
まず、上記第1実施形態と同様にして、金属基材11上に、拡散防止層12、ベッド層13を順次積層形成する。次に、IBAD法によって4回対称MgO膜24を形成する。
本実施形態においても、上記第1実施形態と同様の構成のイオンビームアシストデポジション装置を用いて4回対称MgO膜を成膜することができるため、成膜装置の説明は省略する。以下、上述したイオンビームアシストデポジション装置を用いたイオンビームアシストデポジション方法により4回対称MgO膜24を成膜する方法について説明する。
本実施形態においては、前記構成の装置を用いて金属基材11上に拡散防止層12とベッド層13とが順次積層されたものを基材Aとして、基材Aの上面(金属基材11上のベッド層13の上面)に4回対称MgO膜24を形成する場合について説明する。しかしながら、本実施形態の積層構造は本発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
まず、上記第1実施形態と同様にして、図6に示すイオンビームアシストデポジション装置の基材ホルダ51に基材Aをセットし、次いで、ターゲットホルダ55にターゲット52としてMgOをセットすると共に、イオンガン53の角度を調整する。
続いて、基材Aが収納された真空チャンバ内を図示略のガス排出手段により所定の圧力に減圧した後、真空チャンバに接続された図示略のガス供給手段により、真空チャンバ内にAr等のイオンソースガスや雰囲気ガスを導入する。この際、真空チャンバ内の水蒸気圧を5.8×10−4Pa以下、より好ましくは1.5×10−4Pa以下に設定する。
この様な範囲の水蒸気圧として成膜することにより、後述する工程により成膜されるMgO膜の結晶配向性を制御することができ、MgO<001>軸が基材A表面(ベッド層13の上面)の法線方向に向いて配向した4回対称MgO膜を選択的に形成することができる。成膜時の水蒸気圧を5.8×10−4Pa以下に設定することにより、成膜される4回対称MgO膜の面内配向度ΔΦ(°)を15°以下とすることができ、成膜時の水蒸気圧を1.5×10−4Pa以下に設定することにより4回対称MgO膜の面内配向度ΔΦ(°)を7°以下とすることができる。なお、水蒸気圧を含む真空チャンバ内の圧力は0.01〜0.06Pa程度、具体的には、例えば0.04Pa程度に制御・保持する。
続いて、前記第1実施形態の場合と同様に成膜することにより、ベッド層13上に薄くとも良好な結晶配向性で4回対称MgO膜を選択的に形成することができる。
このように、成膜時の水蒸気圧を5.8×10−4Pa以下に設定して成膜することにより、成膜されるMgO膜の結晶配向性が制御されて4回対称MgO膜のみを選択的に成膜することができる理由としては、次の理由が考えられる。岩塩構造の中間層の対称性は、結晶の表面自由エネルギーに関係しており、表面自由エネルギーが最小の面が基板Aに接着しやすい。岩塩構造のMgOでは、表面自由エネルギーはMgO(001)面が最小であり、このMgO(001)面が基材Aと接着すると、図5(b)に示すように、基材Aの法線方向にMgO<001>軸が向いて配向した4回対称MgO膜が成膜される。本実施形態のように、成膜時の水蒸気圧が5.8×10−4Pa以下の場合、前述した3回対称MgO膜が成膜される第1実施形態の成膜方法の場合とは異なり、真空チャンバ内に設置された基材Aの表面(成膜面)には分極分子であるHO分子はほとんど付着しておらず、MgO(001)面が基材Aの表面に接着して配向する方が、MgO(111)面が基材Aの表面に接着して配向するよりも、基材A表面とMgO膜の界面自由エネルギー(表面自由エネルギー)が低くなるため、4回対称MgO膜が選択的に成膜されるものと考えられる。
本実施形態の成膜方法によれば、成膜時の水蒸気圧を5.8×10−4Pa以下に設定してIBAD法により成膜を行うことにより、MgO<001>軸が成膜面の法線方向に配向した4回対称MgO膜を選択的に形成することができる。従って、MgO膜の上に積層されるキャップ層や酸化物超電導層等の積層構造及び種類などにより、4回対称のMgO膜が望まれる場合に、本発明を好適に適用することができる。
以上、説明したように、本発明によれば、成膜時の水蒸気圧を制御してIBAD法により岩塩構造の中間層を成膜することにより、成膜面の法線方向に岩塩構造<001>軸が向いた4回対称性の中間層と、成膜面の法線方向に岩塩構造<111>軸が向いた3回対称性の中間層とを選択的に形成することができる。従って、所望の積層構造の酸化物超電導導体を得るために、必要に応じて、3回対称性の中間層と4回対称性の中間層を作り分けることが可能となる。
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1:製造例1〜9)
長尺テープ状の幅1cmのハステロイ(米国ヘインズ社製商品名)金属基材上に、Alの拡散防止層(膜厚100nm)、Yのベッド層(膜厚20nm)が順に積層された試料を作製した。次いで、この試料のベッド層の上に、図6に示すイオンビームアシストデポジション装置を用いたIBAD法により、水蒸気圧を表1記載の値に変化させて、成膜面に対してアシストビームイオンを入射角45°で照射しながらMgOのターゲットにイオンビームを照射してターゲット粒子を叩き出し、膜厚5nmのMgO膜を成膜した。この際、成膜温度(試料温度)は30℃、成膜時圧力(動作真空度)は0.04Pa、アシストイオンガンの電流値は900mAとしてMgO膜の成膜を行った。なお、成膜時の水蒸気圧は、電離真空計(キヤノンアネルバテクニクス社製、ゲージ球:ミニチュアB−A ゲージ球Mg−2、制御電源:M−430HG)により測定した。
次に、これらの試料に対し、MgO(110)のX線正極点測定を行うために、IBAD法により形成したMgO膜上に、イオンビームスパッタ法により、厚さ200nmのMgO膜を成膜温度300℃でエピタキシャル成膜した。得られた各試料に対し、MgO(110)のX線正極点測定を行い、最上面のエピタキシャル成長MgO膜の面内配向度ΔΦを測定した。その結果を表1に示す。ここで、IBAD法により成膜したMgO膜(IBAD−MgO膜)上に、エピタキシャル膜を成膜した理由は、IBAD−MgO膜は極めて薄い膜であるため、直接X線を照射してその配向を測定することが困難であるためである。なお、本発明者らは、先の研究開発により、薄いIBAD−MgO膜上にMgO膜をエピタキシャル成膜すると、成膜されるMgO膜は下のIBAD−MgO膜の配向を保って成長することを確認済みである。例えば、背圧0.004Pa以下、成膜温度300℃、膜厚200nmで成膜を行うと、IBAD−MgO膜にエピタキシャル成長MgO膜の配向性が揃うので、最上面のエピタキシャルMgO膜の面内配向度ΔΦはIBAD−MgO膜の面内配向度ΔΦと同等となることを確認している。
Figure 0005538168
表1の結果より、IBAD法によるMgO膜の成膜において、水蒸気圧を6.3×10−4Pa以上に設定して成膜を行うことにより、3回対称MgO膜を成膜することができ、水蒸気圧を5.8×10−4Pa以下に設定して成膜を行うことにより、4回対称MgO膜を成膜することができることが明らかである。
10、30…酸化物超電導導体用基材、20、40…酸化物超電導導体、11…金属基材、12…拡散防止層、13…ベッド層、14…3回対称MgO膜(中間層)、24…4回対称MgO層(中間層)、36…キャップ層、35…配向調整層、37…酸化物超電導層、51…基材ホルダ、52…ターゲット、53…イオンガン、54…スパッタビーム照射装置、55ターゲットホルダ、A…基材。

Claims (6)

  1. イオンビームアシストデポジション法により、金属基材の上方に岩塩構造の中間層を成
    膜する方法であって、成膜時の水蒸気圧を5.8×10 −4 Pa以下として前記中間層で
    ある4回対称性のMgO膜を成膜することを特徴とする成膜方法。
  2. 成膜時の水蒸気圧を1.5×10−4Pa以下として前記中間層である4回対称性のM
    gO膜を成膜することを特徴とする請求項に記載の成膜方法。
  3. 前記金属基材上に、ベッド層を介して前記中間層を成膜することを特徴とする請求項1
    または請求項2に記載の成膜方法。
  4. 金属基材の上方に岩塩構造の中間層を成膜した後、前記中間層上にキャップ層を成膜し
    、次いで前記キャップ層上に酸化物超電導層を成膜する酸化物超電導導体の製造方法であ
    って、前記中間層を成膜する際に、イオンビームアシストデポジション法により、成膜時
    の水蒸気圧を5.8×10 −4 Pa以下として前記中間層である4回対称性のMgO膜を
    成膜することを特徴とする酸化物超電導導体の製造方法。
  5. 成膜時の水蒸気圧を1.5×10 −4 Pa以下として前記中間層である4回対称性のM
    gO膜を成膜することを特徴とする請求項4に記載の酸化物超電導導体の製造方法。
  6. 前記金属基材上に、ベッド層を介して前記中間層を成膜することを特徴とする請求項4
    または請求項5に記載の酸化物超電導導体の製造方法。
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