JP4033945B2 - 酸化物超電導導体およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、テープ状などの基材上に結晶配向性に優れた中間層を備え、更にその上に超電導特性の優秀な酸化物超電導層を備えた酸化物超電導導体とその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年になって発見された酸化物超電導体は、液体窒素温度を超える臨界温度を示す優れた超電導体であるが、現在、この種の酸化物超電導体を実用的な超電導導体として使用するためには、種々の解決するべき問題点が存在している。その問題点の1つが、酸化物超電導体の臨界電流密度が低いという問題である。
【0003】
酸化物超電導体の臨界電流密度が低いという問題は、酸化物超電導体の結晶自体に電気的な異方性が存在することが大きな原因となっており、特に酸化物超電導体はその結晶軸のa軸方向とb軸方向には電気を流し易いが、c軸方向には電気を流しにくいことが知られている。このような観点から酸化物超電導体を基材上に形成してこれを超電導導体として使用するためには、基材上に結晶配向性の良好な状態の酸化物超電導体を形成し、しかも、電気を流そうとする方向に酸化物超電導体の結晶のa軸あるいはb軸を配向させ、その他の方向に酸化物超電導体のc軸を配向させる必要がある。
【0004】
ところで、酸化物超電導体を導電体として使用するためには、テープ状などの長尺の基材上に結晶配向性の良好な酸化物超電導層を形成する必要がある。ところが、金属テープなどの基材上に酸化物超電導層を直接形成すると、金属テープ自体が多結晶体でその結晶構造も酸化物超電導体と大きく異なるために、結晶配向性の良好な酸化物超電導層は到底形成できないものである。しかも、酸化物超電導層を形成する際に行なう熱処理によって金属テープと酸化物超電導層との間で拡散反応が生じるために、酸化物超電導層の結晶構造が崩れ、超電導特性が劣化する問題がある。
そこで本発明者らは、ハステロイテープなどの金属テープからなる図4に示すような基材10の上にイットリウム安定化ジルコニア(YSZ)などの多結晶薄膜(中間層)11を形成し、この多結晶薄膜11上に、酸化物超電導体の中でも臨界温度が約90Kであり、液体窒素(77K)中で用いることができる安定性に優れたY1Ba2Cu3Ox系の超電導層12を形成することで超電導特性の優れた超電導導体13を製造する試みを種々行なっている。
このような試みの中から本発明者らは先に、結晶配向性に優れた多結晶薄膜を形成するために、あるいは、超電導特性の優れた超電導テープを得るために、特願平3−126836号、特願平3−126837号、特願平2−205551号、特願平4−13443号、特願平4−293464号、特願平5−210777号などにおいて特許出願を行なっている。
【0005】
これらの特許出願に記載された技術によれば、成膜処理容器内に設けたターゲットの構成粒子をハステロイテープなどのテープ状の基材上に堆積させる際に、イオンソースから発生させたイオンビームを基材の成膜面の法線に対して斜め方向からある特定の入射角度(50〜60度)で照射しつつ堆積させ、基材上に多結晶薄膜を形成する方法(イオンビームアシスト蒸着法:IBAD法)により、結晶配向性に優れた多結晶薄膜を形成することができる。
この多結晶薄膜は、立方晶系の結晶構造を有する微細な結晶粒が、多数、結晶粒界を介して接合一体化されてなり、各結晶粒の結晶軸のc軸は基材の上面(成膜面)に対して直角に配向されており、各結晶粒の結晶軸のa軸どうしおよびb軸どうしが互いに同一方向に向けられて基材の成膜面と平行な面に沿って面内配向されており、また、図6に示すように多結晶薄膜11を構成する各結晶粒20のa軸(あるいはb軸)どうしは、それらのなす角度(粒界傾角K)を30度程度以下に揃えて配向しているものである。
そして更に、この結晶配向性に優れた多結晶薄膜上にYBaCuO系の超電導層をレーザー蒸着法等により成膜するならば、酸化物超電導層の結晶配向性も優れたものになり、これにより、77Kで臨界電流密度が105A/cm2以上と高い酸化物超電導導体を得ることができる。
【0006】
ところで、先に説明したIBAD法を利用して製造された酸化物超電導導体13の他に、図5に示すようなNiあるいはAgからなる配向性金属テープを基材15とし、その上に反応防止中間層16と酸化物超電導層17を積層してなる構造の酸化物超電導導体18が知られている。この種の酸化物超電導導体においては、NiあるいはAgからなる金属テープに圧延加工を施してその組織を集合組織として組織的な配向性を高め、この配向性金属テープを基に反応防止中間層と酸化物超電導層の結晶配向性を高めようとした構造である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らが開発したIBAD法による酸化物超電導導体13は、優れた臨界電流密度を示すものとして知られているが、中間層として用いる多結晶薄膜11を成膜するために時間がかかり製造効率が悪いという問題があった。
これはIBAD法が、イオンビームを斜め方向から照射しながらYSZの原子の堆積を行う際に、並びの悪い配向性の悪いエネルギー的に不安定な原子をイオンビームのスパッタ効果で弾き飛ばして除去し、並びの良い配向性の良好なエネルギー的に安定な原子のみを選択的に残して堆積させることで配向性の良好な多結晶薄膜を得ようとする技術であるので、スパッタによる原子の堆積効率が低下するために、通常のスパッタによる成膜に比べて成膜レートが悪いことに起因している。
なおここで、本発明者らが原子の堆積の状態を観察した結果、IBAD法による原子の堆積の進行は、初期において特に遅く、ある程度の厚さの配向性の良好な原子が堆積した後では比較的速いことが判明した。これは、原子の堆積の初期段階においては特に並びの悪い配向性の悪い状態の原子が堆積しようとするが、これら多くの並びの悪い原子をイオンビームが弾きとばす結果、堆積の初期段階において特に成膜レートが悪く、ある程度配向性が整った状態で原子堆積が進行した後は、その後に堆積される原子は良好な配向性で堆積する確立が高いためであると思われる。
今回本発明者らは、このようなIBAD法に基づき、結晶配向性に優れた多結晶薄膜を基材上に従来よりも速い成膜速度で堆積させることができることを目的として本願発明に到達した。
【0008】
次に、図5に示すような配向性金属テープの基材15を用いた従来構造の酸化物超電導導体18は、基材15の圧延による集合組織を利用した構造であるために、Ni、Agなどの比較的柔らかい基材(AgはHv=20〜30、NiはHv=80程度)を用いる必要があった。ここで、超電導導体の適用技術は超電導磁石あるいは超電導発電機などのように強大な磁力や大きな機械力が作用する部材に適用されるので、基材はできる限り硬度や強度の高いものが好ましいがNiやAgでは強度不足になるおそれがある。また、Niはそれ自身強磁性を有するために、磁場応用の基材には適用できない問題がある。
本発明者らはこのような従来構造の問題に鑑み、強度や硬度の高い基材を用いてその上に結晶配向性の高い多結晶薄膜を形成し、配向性に優れた多結晶薄膜を有すると同時に強度の高い基材を備えた酸化物超電導導体を製造する技術の提供を目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は前記課題を解決するために、Ni−Cr系、W−Mo系、Fe−Cr系、Fe−Ni系の何れかから選択される立方晶系の高融点のHv150以上の高硬度金属からなり、圧延集合組織とされた基材と、この基材上に形成された配向性多結晶中間層と、この配向性多結晶中間層上に形成された酸化物超電導層とを具備してなる酸化物超電導導体であって、前記配向性多結晶中間層が、イットリウム安定化ジルコニア、酸化セリウム、酸化イットリウムのいずれかからなり、それら配向性多結晶中間層の構成粒子を前記基材上に堆積させて成膜する際、イオンビームを成膜面の法線から50〜60度の入射角度で照射しながら成膜された配向性多結晶中間層であって、その配向性多結晶中間層の配向性を示す粒界傾角が10度以下であることを特徴とする。
次に本発明は、立方晶系の高融点の高硬度金属からなる素材に対し、加工度90%以上の圧延加工を施した後に再結晶温度以上の温度に加熱する熱処理を施して基材を形成し、この基材上に中間層の構成粒子を堆積させると同時に斜め方向からイオンビームを照射して配向性多結晶中間層を形成するとともに、この配向性多結晶中間層上に酸化物超電導層を積層することを特徴とする。
更に本発明は、前記基材として、Ni−Cr系、W−Mo系、Fe−Cr系、Fe−Ni系の何れかから選択される立方晶系の高融点のHv150以上の高硬度金属を用い、前記配向性多結晶中間層として、イットリウム安定化ジルコニア、酸化セリウム、酸化イットリウムのいずれかを選択することを特徴とする。
【0010】
【発明の実施の形態】
図1は本発明に係る多結晶基材に酸化物超電導層を積層してなる酸化物超電導導体の一実施形態の断面構造を示すもので、この実施形態の酸化物超電導導体1は、テープ状などの基材1の上面に中間層(配向性多結晶薄膜)2が積層されて多結晶基材3が構成され、この多結晶基材3の上面に酸化物超電導層(配向性機能層)4が積層されてテープ状の酸化物超電導導体5が構成されている。
前記基材1は、Ni-Cr系(具体的には、Ni-Cr-Fe-Mo系のハステロイB、C、X等)、W-Mo系、Fe-Cr系(例えば、オーステナイト系ステンレス)、Fe-Ni系(例えば、非磁性の組成系のもの)などの材料に代表される立方晶系のHv=150以上の非磁性の合金からなることが好ましく、これらの系の合金に90%以上の熱間圧延加工が施され、更にその後に再結晶温度(1200〜1500℃)以上の温度で数時間、例えば、1500℃の温度で5時間の熱処理が施されて再結晶集合組織とされたものである。また、基材1の表面は表面粗さ±10〜20nm、面内配向性を示すFWHM(半値全幅)の値が10゜程度とされていることが好ましい。
【0011】
前記ハステロイは、Cr:1〜23.0%、Fe:4〜20%、Mo:8〜30%、Co:0.5〜2.5%、W:0.2〜4.5%、残部Niの組成を主体とすることで知られるもので、Hv=200〜400の範囲の硬度が高いものである。 これらのハステロイに代表されるNi-Cr系の合金は、いずれも、高硬度の合金であり、90%以上の強加工後に再結晶温度以上で熱処理されることで集合組織とされて良好な結晶配向性を示すようになる。
前記中間層(配向性多結晶薄膜)2は、イットリウム安定化ジルコニア(YSZ)、酸化セリウム(CeO2)、酸化イットリウム(Y2O3)などからなり、本発明者らが特許出願している前述のIBAD法により基材1上に成膜したものである。
【0012】
図3は、基材1上に形成される中間層2の製造に好適に用いられる多結晶薄膜の製造装置の一例を示す図である。
この多結晶薄膜の製造装置は、テープ状の基材1を支持するとともに所望温度に加熱することができる基材ホルダ23と、基材ホルダ23上にテープ状の基材1を送り出すための基材送出ボビン24と、多結晶薄膜が形成されたテープ状の基材1を巻き取るための基材巻取ボビン25と、前記基材ホルダ23の斜め上方に所定間隔をもって対向配置された板状のターゲット36と、このターゲット36の斜め上方においてターゲット36の下面に向けて配置されたスパッタビーム照射装置(スパッタ手段)38と、前記基材ホルダ23の側方に所定間隔をもって対向され、かつ、前記ターゲット36と離間して配置されたイオンソース39とが真空排気可能な成膜処理容器40内に収納された概略構成となっている。
【0013】
前記基材ホルダ23は、内部に加熱ヒータを備え、基材ホルダ23の上に送り出されたテープ状の基材1を必要に応じて所望の温度に加熱できるようになっている。この基材ホルダ23はピン等により支持体23aに回動自在に取り付けられており、傾斜角度を調整できるようになっている。このような基材ホルダ23は、成膜処理容器40内のイオンソース39から照射されるイオンビームの最適照射領域に配設されている。
【0014】
この例の多結晶薄膜の製造装置においては、前記基材送出ボビン24から基材ホルダ23上にテープ状の基材1を連続的に送り出し、前記最適照射領域で多結晶薄膜が成膜された基材1を基材巻取ボビン25で巻き取ることで基材1上に連続成膜することができるようになっている。この基材巻取ボビン25は、前記最適照射領域の外に配設されている。
【0015】
前記ターゲット36は、目的とする多結晶薄膜を形成するためのものであり、目的の組成の多結晶薄膜と同一組成あるいは近似組成のものなどを用いる。ターゲット36として具体的には、MgOあるいはY2O3で安定化したジルコニア(YSZ)、酸化セリウム(CeO2)、酸化イットリウム(Y2O3)などを用いる。このようなターゲット36は、ピン等によりターゲット支持体36aに回動自在に取り付けられており、傾斜角度を調整できるようになっている。前記スパッタビーム照射装置(スパッタ手段)38は、容器の内部に、蒸発源を収納し、蒸発源の近傍に引き出し電圧をかけるためのグリッドを備えて構成されているものであり、ターゲット36に対してイオンビームを照射してターゲット36の構成粒子を基材22に向けて叩き出すことができるものである。
【0016】
前記イオンソース39は、スパッタビーム照射装置38と略同様の構成のものであり、容器の内部に蒸発源を収納し、蒸発源の近傍に引き出し電圧をかけるためのグリッドを備えて構成されている。そして、前記蒸発源から発生した原子または分子の一部をイオン化し、そのイオン化した粒子をグリッドで発生させた電界で制御してイオンビームとして照射する装置である。
前記イオンソース39は、図3に示すようにその中心軸線Sを基材ホルダ23上の基材1の成膜面(表面)に対して入射角度θ(基材1の垂線(法線)Hと中心線Sとのなす角度)でもって傾斜させて対向されている。この入射角度θは50〜60度の範囲が好ましいが、より好ましくは55〜60度の範囲、最も好ましくは55度前後である。従ってイオンソース39は基材22の成膜面の法線Hに対してある入射角度θでもってイオンビームを照射できるように配置されている。
【0017】
なお、前記イオンソース39によって基材22に照射するイオンビームは、YSZの中間層2を形成する場合はHe+、Ne+、Ar+、Xe+、Kr+などの希ガスのイオンビーム、あるいは、それらと酸素イオンの混合イオンビームなどで良いが、CeO2を形成する場合はXe+、Kr+あるいはこれら2元素の混合イオンビームを用いる。
また、前記成膜処理容器40には、この容器40内を真空などの低圧状態にするためのロータリーポンプ51およびクライオポンプ52と、ガスボンベなどの雰囲気ガス供給源がそれぞれ接続されていて、成膜処理容器40の内部を真空などの低圧状態で、かつ、アルゴンガスあるいはその他の不活性ガス雰囲気または酸素を含む不活性ガス雰囲気にすることができるようになっている。
さらに、前記成膜処理容器40には、この容器40内のイオンビームの電流密度を測定するための電流密度計測装置55と、前記容器40内の圧力を測定するための圧力計55が取り付けられている。
【0018】
次に前記構成の製造装置を用いてテープ状の基材1上にYSZの多結晶薄膜を形成する場合について説明する。
テープ状の基材22上に多結晶薄膜を形成するには、YSZからなるターゲット36を用い、基材22を収納している成膜処理容器40の内部を真空引きして減圧雰囲気とするとともに、基材送出ボビン24から基材ホルダ23に基材1を所定の速度で送り出し、さらにイオンソース39とスパッタビーム照射装置38を作動させる。
【0019】
スパッタビーム照射装置38からターゲット36に対してイオンビームを照射するとターゲット36の構成粒子が叩き出されて基材1上に飛来する。そして、基材ホルダ23上に送り出された基材1上にターゲット36から叩き出した構成粒子を堆積させると同時にイオンソース39から、例えば、Arイオンと酸素イオンの混合イオンビームを照射して所望の厚みの多結晶薄膜を成膜し、成膜後のテープ状の基材1を基材巻取ボビン25に巻き取る。
【0020】
ここでイオンビームを照射する際の入射角度θは、50〜60度の範囲が好ましく、より好ましくは55度前後である。ここでθを90度とすると、多結晶薄膜のc軸は基材22上の成膜面に対して直角に配向するものの、基材22の成膜面上に(111)面が立つので好ましくない。また、θを30度とすると、多結晶薄膜はc軸配向すらしなくなる。前記のような好ましい範囲の入射角度でイオンビーム照射するならば多結晶薄膜の結晶の(100)面が立つようになる。このような入射角度でイオンビーム照射を行ないながらスパッタリングを行なうことで、基材1上に形成されるYSZの多結晶薄膜の結晶軸のa軸どうしおよびb軸どうしは互いに同一方向に向けられて基材1の上面(成膜面)と平行な面に沿って面内配向させることができる。
【0021】
ここで、イオンビームの照射を行いながら通常の無配向の基材上に原子の堆積を行っていると、原子の堆積の初期段階においては並びの良い配向性の良好な原子と並びの悪い配向性の悪い状態の原子の両方が堆積しようとするが、これら多くの並びの悪い原子をイオンビームが弾きとばす結果、堆積の初期段階において特に成膜レートが悪くなる。
しかし、この形態において用いるのは、予め再結晶集合組織として配向性を高めた基材1であるで、この基材1の上に堆積しようとするYSZの原子は、無配向基材上に堆積しようとする場合よりも良好に配向しようとする結果、配向性の良好な安定な位置に存在する原子の割合が高くなり、堆積の初期段階において並びの良い配向性の良好な原子が堆積しやすくなり、成膜レートが向上するので、配向性の良好な中間層としての多結晶薄膜2が早く生成する。
【0022】
そして、前述のようにして形成された多結晶薄膜2上には酸化物超電導層4が積層され、例えば、前述のようにして粒界傾角が精度良く揃えられた多結晶薄膜2上にスパッタリングやレーザ蒸着法などの成膜法により形成するならば、この多結晶薄膜2上に積層される酸化物超電導層4も多結晶薄膜2の配向性に整合するようにエピタキシャル成長して結晶化する。よって前記多結晶薄膜2上に形成された酸化物超電導層4は、結晶配向性に乱れが殆どなく、この酸化物超電導層4を構成する結晶粒の1つ1つにおいては、基材1の厚さ方向に電気を流しにくいc軸が配向し、基材1の長さ方向にa軸どうしあるいはb軸どうしが配向している。従って、得られた酸化物超電導層は、結晶粒界における量子的結合性に優れ、結晶粒界における超電導特性の劣化が殆どないので、基材1の長さ方向に電気を流し易くなり、MgOやSrTO3の単結晶基材上に形成して得られる酸化物超電導層と同じ程度の十分に高い臨界電流密度が得られる。
【0023】
ところで、図2に示すように、基材1上に多結晶薄膜2を成膜した後に、IBAD法ではない通常のスパッタ法(イオンビームアシストを行わないスパッタ法やバイアススパッタ法)により多結晶薄膜2上に更に同一材料製の多結晶薄膜6を成膜して2層構造の中間層を形成しても良い。ここで、IBAD法による結晶配向性の良好な多結晶薄膜2の上に多結晶薄膜6を成膜するならば、多結晶薄膜6は多結晶薄膜2に対してエピタキシャル成長して容易に成長するので、多結晶薄膜6の結晶配向性も充分に高いものとすることができる。
このようにするならば、成膜速度の遅いIBAD法の欠点を補う形で充分な厚さの中間層(多結晶薄膜2と多結晶薄膜6を合わせた分の層厚のもの)を容易に得ることができ、充分な厚さの多結晶薄膜2、6を備えた多結晶基材3'を得ることができるとともに、その上に酸化物超電導層4を設けることで図2に示す構造の酸化物超電導導体を得ることができる。
【0024】
【実施例】
(実施例1)
ハステロイA(Ni58%、Mo20%、Mn2.0%、Fe20%)からなる厚さ1mmの金属テープを用い、超硬合金の加圧ロールを用いてこの金属テープを熱間圧延加工(600℃)数パスで厚さ80μmに強圧延加工した。続いてこの金属テープを再結晶温度以上の1500℃に5時間加熱後に冷却する熱処理を施し、再結晶集合組織を有する金属テープ基材を得た。この圧延後の金属テープの表面粗さの平均値は±20nm以下であった。
続いて、図3に示す構成の多結晶薄膜の製造装置を使用し、この製造装置の成膜処理容器内部をロータリーポンプおよびクライオポンプで真空引きして3.0×10-4トールに減圧した。また、ターゲットはYSZ(安定化ジルコニア)製のものを用い、スパッタ電圧1000V、スパッタ電流100mA、イオンソースから発生させるイオンビームの入射角度を基材の成膜面の法線に対して55度に設定し、イオンソースのアシスト電圧を300Vに、イオンソースの電流を60mAに設定して、基材上にターゲットの構成粒子を堆積させると同時にイオンビームを照射して厚さ0.5μmの膜状のYSZの多結晶薄膜を1時間かけて成膜した。
【0025】
得られたYSZの多結晶薄膜について、CuKα線を用いたθ−2θ法によるX線回折試験を行った結果、YSZの(200)面あるいは(400)面のピークが認められ、YSZの多結晶薄膜の(100)面が基材表面と平行な面に沿って配向しているものと推定することができ、YSZの多結晶薄膜がそのc軸を基材の成膜面に垂直に配向させて形成されていることが判明した。
【0026】
次に、このYSZの多結晶薄膜においてYSZの多結晶薄膜のa軸あるいはb軸が配向しているか否かを測定した。その測定のためには、図6に示すように、基材1上に形成された多結晶薄膜2にX線を角度θ1で照射するとともに、入射X線を含む鉛直面において、入射X線に対して2θ1の角度の位置にX線カウンター58を設置し、入射X線を含む鉛直面に対する水平角度φの値を適宜変更して、即ち、基材1を図6において矢印に示すように回転角φだけ回転させることにより得られる回折強さを測定することにより多結晶薄膜2のa軸どうしまたはb軸どうしの配向性を計測した。その結果、この例の多結晶薄膜の場合、φを90度と0度とした場合、即ち、回転角φに対して90度おきにYSZの(111)面のピークが現われた。これは、基板面内におけるYSZの(011)ピークに相当しており、YSZの多結晶薄膜のa軸どうしまたはb軸どうしが配向していることが明らかになった。
【0027】
さらに、得られたYSZの多結晶薄膜の多結晶層の各結晶粒における結晶配向性を測定した。この測定では図6を基に先に説明した方法でX線回折を行なう場合に、φの角度を−10度〜+10度まで1度刻みの値に設定した際の回折ピークを測定した。その結果から、得られたYSZの多結晶薄膜の回折ピークは、粒界傾角±3〜5度以内では表われるが、±8〜10度では消失していることが判明した。従って、得られた多結晶薄膜の結晶粒の粒界傾角は、10度以内に収まっていることが判明し、良好な配向性を有することが明らかになった。
【0028】
次に、前記YSZの多結晶薄膜上にレーザ蒸着装置を用いて厚さ1.0μmの酸化物超電導層を形成し、酸化物超電導導体を作製した。このレーザ蒸着装置に備えるターゲットとしては、Y1.0Ba2.0Cu3.0O7-xなる組成の酸化物超電導体からなるターゲットを用いた。成膜処理室の内部を1×10-6トールに減圧した後、内部に酸素を導入し2×10-3トールとした後、レーザ蒸着を行なった。ターゲット蒸発用のレーザとして波長193nmのArFレーザを用いた。この成膜後、400゜Cで60分間、酸素雰囲気中において薄膜を熱処理し、酸化物超電導導体を得た。
【0029】
この酸化物超電導導体を液体窒素で77Kに冷却し、外部磁場0T(テスラ)の条件で4端子法にて臨界電流密度の測定を行なった結果、臨界電流密度=8.2×10A/cm2を示し、極めて優秀な超電導特性を発揮することが確認できた。
【0030】
(比較例)
前記実施例の集合組織を有する配向性金属テープの代わりに、加工を施していない無配向のハステロイ製金属テープを用いて実施例と全く同じ処理を施し、基材テープ上に厚さ0.5μmのYSZの中間層を形成したが、厚さ0.5μmの中間層を成膜するために前記と同じ条件で5時間を要した。
この酸化物超電導導体を液体窒素で77K冷却し、外部磁場0T(テスラ)の条件で4端子法で臨界電流密度の測定を行なった結果、臨界電流密度=8.0×10A/cm2を示し、先の実施例と同等の優秀な超電導特性を発揮することを確認できたが、無配向金属テープを用いると中間層の成膜に5倍の時間を要することが明らかになった。
【0031】
【発明の効果】
以上説明したように本発明の酸化物超電導導体にあっては、Ni−Cr系、W−Mo系、Fe−Cr系、Fe−Ni系の何れかから選択される立方晶系の高融点のHv150以上の高硬度金属からなり、圧延集合組織とされた基材を有し、この基材上にイットリウム安定化ジルコニア、酸化セリウム、酸化イットリウムのいずれかからなり、基材上に粒子堆積により成膜する際に法線から50〜60度の入射角方向のイオンビームの照射により成膜される粒界傾角10度以下の配向性多結晶中間層を有し、前記配向性多結晶中間層上に形成された酸化物超電導層とを具備してなることを特徴とするので、圧延集合組織とされた配向性の良好な基材上に容易に配向性の良好な多結晶中間層を有するものが得られるとともに、配向性多結晶中間層上に形成する酸化物超電導層の結晶配向性も配向性多結晶中間層に合わせて容易に配向させることができ、結果的に結晶配向性に優れ、超電導特性の優れた酸化物超電導層を得ることができる。
また、基材は立方晶系の高融点の高硬度金属からなるので、強度が高く、機械的な応力が作用しやすい超電導磁石、超電導発電器等の磁場応用用途に対しても強度的な問題なく適用することができる。
更に、基材上に粒子堆積により成膜する際に法線から50〜60度の入射角方向のイオンビームの照射により成膜される粒界傾角10度以下の配向性多結晶中間層を有する構成である場合、基材上に原子の堆積を行っていると、原子の堆積の初期段階においては並びの悪い配向性の悪い状態の原子をイオンビームが除去するように作用する結果として成膜レートが悪くなるが、前記基材が圧延集合組織となっていると、堆積初期段階において並びの良い配向性の良好な原子が堆積しやすくなるので、成膜レートが上がり、配向性の良好な多結晶中間層を従来よりも早く成膜できる。
【0033】
次に、請求項2に記載の発明では、立方晶系の高融点の高硬度金属からなる素材に対し、加工度90%以上の圧延加工を再結晶温度以上の温度で施して基材を形成することで再結晶集合組織とすることができ、結晶配向性の良好な基材とすることができる。そして、この基材上に中間層の構成粒子を堆積させると同時に斜め方向からイオンビームを照射して配向性多結晶中間層を形成することで、配向性多結晶薄膜を構成するべき原子を基材上に堆積させて並びの悪い不安定な位置にある原子をイオンビームで除去しながら並びの良い結晶配向性の良好な原子のみを選択的に残して堆積させる際に、堆積の初期段階で配向性基材の配向性に合わせて原子を並びの良い配向性の良い状態に優先的に堆積させることができるので、基材の配向性に沿うように配向性の良好な配向性多結晶中間層を従来よりも短い時間で成膜することができる。また、配向性多結晶中間層上に酸化物超電導層を成膜するならば、配向性多結晶中間層上に良好な結晶配向性でもって酸化物超電導層を成膜できるので、結果的に臨界電流特性の優れた超電導特性の優れた酸化物超電導導体を従来方法よりも短い時間で製造することができ、製造効率を向上できる効果がある。
また、請求項3に記載の発明では具体的に、前記基材として、Ni−Cr系、W−Mo系、Fe−Cr系、Fe−Ni系の何れかから選択される立方晶系の高融点のHv150以上の高硬度金属を用い、前記配向性多結晶中間層として、イットリウム安定化ジルコニア、酸化セリウム、酸化イットリウムのいずれかを選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る多結晶薄膜を備えた酸化物超電導導体の第1の実施形態を示す断面図である。
【図2】 本発明に係る多結晶薄膜を備えた酸化物超電導導体の第2の実施形態を示す断面図である。
【図3】 本発明の多結晶薄膜を製造する際に用いられる多結晶薄膜の製造装置の一例を示す概略構成図である。
【図4】 従来の多結晶薄膜の製造方法を実施して得られた多結晶薄膜の一例を示す断面図である。
【図5】 従来の多結晶薄膜の製造方法を実施して得られた多結晶薄膜の他の例を示す断面図である。
【図6】 多結晶薄膜の結晶配向性を測定するための装置の概念図である。
【図7】 多結晶薄膜を構成する結晶粒の結晶配向性を示す略図である。
【符号の説明】
1・・・基材、2・・・配向性多結晶薄膜(配向性多結晶中間層)、3、3'・・・多結晶基材、4・・・酸化物超電導層(配向性機能層)、5、5'・・・酸化物超電導導体。
Claims (3)
- Ni−Cr系、W−Mo系、Fe−Cr系、Fe−Ni系の何れかから選択される立方晶系の高融点のHv150以上の高硬度金属からなり、圧延集合組織とされた基材と、この基材上に形成された配向性多結晶中間層と、この配向性多結晶中間層上に形成された酸化物超電導層とを具備してなる酸化物超電導導体であって、
前記配向性多結晶中間層が、イットリウム安定化ジルコニア、酸化セリウム、酸化イットリウムのいずれかからなり、それら配向性多結晶中間層の構成粒子を前記基材上に堆積させて成膜する際、イオンビームを成膜面の法線から50〜60度の入射角度で照射しながら成膜された配向性多結晶中間層であって、その配向性多結晶中間層の配向性を示す粒界傾角が10度以下であることを特徴とする酸化物超電導導体。 - 立方晶系の高融点の高硬度金属からなる素材に対し、加工度90%以上の圧延加工を施した後に再結晶温度以上の温度に加熱する熱処理を施して基材を形成し、この基材上に中間層の構成粒子を堆積させると同時に斜め方向からイオンビームを照射して配向性多結晶中間層を形成するとともに、この配向性多結晶中間層上に酸化物超電導層を積層することを特徴とする酸化物超電導導体の製造方法。
- 前記基材として、Ni−Cr系、W−Mo系、Fe−Cr系、Fe−Ni系の何れかから選択される立方晶系の高融点のHv150以上の高硬度金属を用い、前記配向性多結晶中間層として、イットリウム安定化ジルコニア、酸化セリウム、酸化イットリウムのいずれかを選択することを特徴とする請求項2に記載の酸化物超電導導体の製造方法。
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