JP3447077B2 - 薄膜積層体と酸化物超電導導体およびそれらの製造方法 - Google Patents

薄膜積層体と酸化物超電導導体およびそれらの製造方法

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JP3447077B2
JP3447077B2 JP06018893A JP6018893A JP3447077B2 JP 3447077 B2 JP3447077 B2 JP 3447077B2 JP 06018893 A JP06018893 A JP 06018893A JP 6018893 A JP6018893 A JP 6018893A JP 3447077 B2 JP3447077 B2 JP 3447077B2
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【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は結晶配向性の優れた配向
制御多結晶薄膜を有する薄膜積層体と超電導特性の優れ
た酸化物超電導層を有する酸化物超電導導体およびそれ
らの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年になって発見された酸化物超電導体
は、液体窒素温度を超える臨界温度を示す優れた超電導
体であるが、現在、この種の酸化物超電導体を実用的な
超電導体として使用するためには、種々の解決するべき
問題点が存在している。その問題点の1つが、酸化物超
電導体の臨界電流密度が低いという問題である。
【0003】前記酸化物超電導体の臨界電流密度が低い
という問題は、酸化物超電導体の結晶自体に電気的な異
方性が存在することが大きな原因となっており、特に酸
化物超電導体はその結晶軸のa軸方向とb軸方向には電
気を流し易いが、c軸方向には電気を流しにくいことが
知られている。このような観点から酸化物超電導体を基
材上に形成してこれを超電導体として使用するために
は、基材上に結晶配向性の良好な状態の酸化物超電導体
を形成し、しかも、電気を流そうとする方向に酸化物超
電導体の結晶のa軸あるいはb軸を配向させ、その他の
方向に酸化物超電導体のc軸を配向させる必要がある。
【0004】従来、基板や金属テープなどの基材上に結
晶配向性の良好な酸化物超電導層を形成するために種々
の手段が試みられてきた。その1つの方法として、酸化
物超電導体と結晶構造の類似したMgOあるいはSrT
iO3などの単結晶基材を用い、これらの単結晶基材上
にスパッタリングなどの成膜法により酸化物超電導層を
形成する方法が実施されている。前記MgOやSrTi
3の単結晶基材を用いてスパッタリングなどの成膜法
を行なえば、酸化物超電導層の結晶が単結晶基材の結晶
を基に結晶成長するために、その結晶配向性を良好にす
ることが可能であり、これらの単結晶基材上に形成され
た酸化物超電導層は、数万〜数十万A/cm2程度の十
分に高い臨界電流密度を発揮することが知られている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところで、酸化物超電
導体を導電体として使用するためには、テープ状などの
長尺の基材上に結晶配向性の良好な酸化物超電導層を形
成する必要がある。ところが、金属テープなどの基材上
に酸化物超電導層を直接形成すると、金属テープ自体が
多結晶体でその結晶構造も酸化物超電導体と大きく異な
るために、結晶配向性の良好な酸化物超電導層は到底形
成できないものである。しかも、酸化物超電導層を形成
する際に行なう熱処理によって金属テープと酸化物超電
導層との間で拡散反応が生じるために、酸化物超電導層
の結晶構造が崩れ、超電導特性が劣化する問題がある。
【0006】そこで従来、金属テープなどの基材上に、
スパッタ装置を用いてMgOやSrTiO3などの中間
薄膜を被覆し、この中間薄膜上に酸化物超電導層を形成
することが行なわれている。ところがこの種の中間薄膜
上にスパッタ装置により形成した酸化物超電導層は、単
結晶基材上に形成された酸化物超電導層よりもかなり低
い臨界電流密度(例えば数千A/cm2程度)しか示さ
ないという問題があった。これは、以下に説明する理由
によるものと考えられる。
【0007】図12は、金属テープなどの基材1上にス
パッタ装置により多結晶中間薄膜2を形成し、この多結
晶中間薄膜2上にスパッタ装置により酸化物超電導層3
を形成した酸化物超電導導体の断面構造を示すものであ
る。図12に示す構造において、酸化物超電導層3は多
結晶状態であり、多数の結晶粒4が無秩序に結合した状
態となっている。これらの結晶粒4の1つ1つを個々に
見ると各結晶粒4の結晶のc軸は基材表面に対して垂直
に配向しているものの、a軸とb軸は無秩序な方向を向
いているものと考えられる。
【0008】このように酸化物超電導層の結晶粒毎にa
軸とb軸の向きが無秩序になると、結晶配向性の乱れた
結晶粒界において超電導状態の量子的結合性が失なわれ
る結果、超電導特性、特に臨界電流密度の低下を引き起
こすものと思われる。また、前記酸化物超電導体がa軸
およびb軸配向していない多結晶状態となるのは、その
下に形成された多結晶中間薄膜2が、a軸およびb軸配
向していない状態であるために、酸化物超電導層3を成
膜する場合に、多結晶中間薄膜2の結晶に整合するよう
に酸化物超電導層3が成長するためであると思われる。
【0009】そこで本発明者らは、ハステロイテープな
どの金属テープの上にYSZなどの多結晶中間薄膜を形
成し、この多結晶中間薄膜上に酸化物超電導体の中でも
安定性に優れたYBaCuO系の超電導層を形成するこ
とで超電導特性の優れた超電導導体を製造する試みを種
々行なっている。このような試みの中から本発明者らは
先に、結晶配向性に優れた中間薄膜を形成するために、
あるいは、超電導特性の優れた超電導テープを得るため
に、特願平3ー126836号、特願平3ー12683
7号、特願平3ー205551号、特願平4ー1344
3号、特願平4ー293464号などにおいて特許出願
を行なっている。
【0010】これらの特許出願に記載された技術によれ
ば、ハステロイテープなどの金属テープの基材上にスパ
ッタ装置により多結晶中間成薄膜を形成する際に、スパ
ッタリングと同時に基材成膜面の斜め方向からイオンビ
ームを照射しながら多結晶速成薄膜を成膜することによ
り、結晶配向性に優れた多結晶速成薄膜を形成すること
ができるものである。この方法によれば、多結晶速成薄
膜を形成する多数の結晶粒のそれぞれの結晶格子のa軸
あるいはb軸で形成する粒界傾角を30度以下に揃える
ことができ、結晶配向性に優れた多結晶速成薄膜を形成
することができる。そして更に、この配向性に優れた中
間薄膜上に酸化物超電導層を成膜するならば、酸化物超
電導層の結晶配向性も優れたものになり、これにより、
結晶配向性に優れた臨界電流密度の高い酸化物超電導層
を形成することができる。
【0011】ところが前記特許出願に係る方法にあって
は、スパッタ粒子の堆積を行なって多結晶中間薄膜を形
成する際に、斜め方向からイオンビームで堆積膜の一部
をスパッタしながらスパッタ粒子の堆積を行なっている
ので、多結晶中間薄膜を成膜する際の成膜速度が遅くな
り、通常のスパッタリングによる成膜よりも成膜速度が
遅くなる問題があった。
【0012】ところで、前記酸化物超電導体の応用分野
以外において、多結晶体などの基材上に、各種の配向膜
を形成する技術が利用されている。例えば光学薄膜の分
野、光磁気ディスクの分野、配線基板の分野、高周波導
波路や高周波フィルタ、空洞共振器などの分野である
が、いずれの技術においても基材上に膜質の安定した配
向性の良好な多結晶薄膜を形成することが課題となって
いる。即ち、得られる多結晶薄膜の結晶配向性が良好で
あるならば、その上に形成される光学薄膜、磁性薄膜、
配線用薄膜などの膜質が向上するわけであり、基材上に
結晶配向性の良好な光学薄膜、磁性薄膜、配線用薄膜な
どを形成できることが好ましいとされている。
【0013】なお、高周波数帯域で使用される磁気ヘッ
ドのコア材として高透磁率を有し、熱的にも安定なパー
マロイ、あるいは、センダストなどの磁性薄膜が実用化
されている。これらの磁性薄膜は、従来、蒸着やスパッ
タにより所定の基板上に形成されるが、これらの磁性薄
膜の結晶方位の配向性が低いものであると、磁性薄膜の
磁気異方性の制御が困難になり、膜面内では結晶粒の方
位が無秩序になり、透磁率の高周波特性が損なわれる問
題があった。また、膜面内での結晶軸の軸方向が無秩序
であると、面内磁化にスキューやリップルと呼ばれる局
所的なゆらぎが発生し、前述のように透磁率の高周波特
性が損なわれることになるので、結晶配向性に優れた磁
性薄膜が望まれている。
【0014】本発明は前記課題を解決するためになされ
たもので、基材の成膜面に対して直角向きに結晶粒の結
晶軸のc軸を配向させることができると同時に、成膜面
と平行な面に沿って結晶粒の結晶軸のa軸およびb軸を
も揃えることができ、結晶配向性に優れた配向制御多結
晶薄膜を有する薄膜積層体とそれを利用した酸化物超電
導導体を提供すること、および、前記薄膜積層体と酸化
物超電導導体を早い成膜速度で製造することができる方
法を提供することを目的とする。
【0015】
【0016】
【0017】
【課題を解決するための手段】請求項記載の発明は前
記課題を解決するために、基材と、この基材の成膜面上
に形成されて多数の結晶粒が結合されてなる多結晶速成
薄膜と、この多結晶速成薄膜上に形成されて前記多結晶
速成薄膜よりも薄く形成された粒界傾角30度以下の配
向制御多結晶薄膜と、この配向制御多結晶薄膜上に形成
された酸化物超電導層を具備してなるものである。
【0018】請求項記載の発明は前記課題を解決する
ために、基材と、この基材の成膜面上に形成されて多数
の結晶粒が結合されてなり粒界傾角30度以下の配向制
御多結晶薄膜と、この配向制御多結晶薄膜上に形成され
て前記配向制御多結晶薄膜よりも厚く形成された多結晶
速成薄膜と、この多結晶速成薄膜上に形成された酸化物
超電導層を具備してなるものである。
【0019】請求項記載の発明は前記課題を解決する
ために、基材の成膜面上にスパッタなどの成膜法により
多数の結晶粒を結合させてなり、しかも前記多数の結晶
粒の各結晶粒のc軸を前記基材の成膜面に対して略直角
に向けてなる立方晶系多結晶速成薄膜を形成し、この多
結晶速成薄膜上に前記成膜面に対して斜め方向から50
〜60度の範囲の入射角度でイオンビームを照射しなが
ら成膜処理を行なって結晶粒の粒界傾角を30度以下と
した配向制御多結晶薄膜を前記多結晶速成薄膜よりも薄
く形成するものである。
【0020】請求項記載の発明は前記課題を解決する
ために、基材の成膜面に対して斜め方向から50〜60
度の範囲の入射角度でイオンビームを照射しながら成膜
処理を行なって基材成膜面上に多数の結晶粒を結合させ
た粒界傾角30度以下の配向制御多結晶薄膜を形成し、
この配向制御多結晶薄膜上にスパッタなどの成膜法によ
り多数の結晶粒を結合させた立方晶系多結晶速成薄膜を
前記配向制御多結晶薄膜より厚く形成するものである。
【0021】請求項記載の発明は前記課題を解決する
ために、請求項または記載の薄膜積層体の製造方法
において、イオンビームの入射角度を55〜60度の範
囲に設定して成膜し、配向制御多結晶薄膜の結晶粒の粒
界傾角を25度以内とするものである。
【0022】請求項記載の発明は前記課題を解決する
ために、請求項3、4または記載の薄膜積層体の製造
方法において、多結晶速成薄膜を高周波スパッタ法によ
り形成し、配向制御多結晶薄膜をイオンビームスパッタ
法により形成するものである。
【0023】請求項記載の発明は前記課題を解決する
ために、請求項3、4、5または記載の配向制御多結
晶薄膜上または多結晶速成薄膜上に、成膜法により酸化
物超電導層を形成するものである。
【0024】請求項記載の発明は前記課題を解決する
ために、請求項記載の酸化物超電導層を配向制御多結
晶薄膜あるいは多結晶速成薄膜上に成膜する場合に、酸
化物超電導層をエピタキシャル成長させるものである。
【0025】
【作用】粒界傾角を30度以下とした配向制御多結晶薄
膜を有するので、この配向制御多結晶薄膜を利用してこ
の上に成膜法により他の薄膜を形成すると、その薄膜の
結晶構造が良好になる。よってこの配向制御多結晶薄膜
を有する薄膜積層体は、結晶構造が整う必要性のある各
種の薄膜積層体の基本部分の構造として広く利用可能に
なる。
【0026】粒界傾角を30度以下とした配向制御多結
晶薄膜上に成膜された酸化物超電導層は結晶配向性が良
好になるので、優れた超電導特性を示す。また、配向制
御多結晶薄膜上に形成された多結晶速成薄膜は結晶配向
性が良好になるので、その上に成膜された酸化物超電導
層も結晶配向性が良好になり、優れた超電導特性を示
す。更に、配向制御多結晶薄膜を多結晶速成薄膜よりも
薄く形成すると、成膜に時間のかかる配向制御多結晶薄
膜の部分が少なくなり、成膜速度を早くできる多結晶速
成薄膜部分が多くなるので、成膜時間が短縮される。ま
た、多結晶速成薄膜を形成する方法として高周波スパッ
タを用いることができ、配向制御多結晶薄膜を形成する
方法としてイオンビームスパッタを用いることができ
る。
【0027】一方、成膜法により配向制御多結晶薄膜を
基材成膜面上あるいは多結晶速成薄膜上に堆積させる際
に、基材成膜面の斜め方向50〜60度の範囲からイオ
ンビームを照射するので、成膜時に堆積される多結晶薄
膜構成粒子が効率的に活性化される結果、基材の成膜面
に対してc軸配向性に加えてa軸配向性とb軸配向性も
向上するように配向制御多結晶薄膜が生成する。その結
果、結晶粒界が多数形成された多結晶薄膜であっても、
結晶粒ごとのa軸配向性とb軸配向性とc軸配向性のい
ずれもが良好になり、膜質の向上した配向制御多結晶薄
膜が得られ、この配向制御多結晶薄膜上に形成された酸
化物超電導層もその結晶配向性が良好になるので、超電
導特性の優れた酸化物超電導導体が得られる。
【0028】配向制御多結晶薄膜を成膜する際のイオン
ビームの入射角度を基材成膜面に対して55〜60度に
設定すると、配向制御多結晶薄膜の結晶粒の粒界傾角が
30度よりも更に揃うようになり、25度以下に揃った
配向性の優れたものが得られるようになる。また、多結
晶速成薄膜を高周波スパッタ法により形成し、配向制御
多結晶薄膜をイオンビームスパッタ法により形成する
と、成膜速度の早い高周波スパッタ法を有効に利用して
膜厚の大きな多結晶速成薄膜を形成し、イオンビーム斜
め照射利用の成膜速度の遅いスパッタ法で結晶配向性の
優れた薄い配向制御多結晶薄膜を得るので、薄膜積層体
全体の成膜時間が短縮される。
【0029】なお、前記多結晶薄膜の結晶配向性が整う
要因として本発明者らは、以下のことを想定している。
基板上に形成された立方晶の多結晶薄膜の結晶の単位格
子においては、基板法線方向が<100>軸であり、他
の<010>軸と<001>軸は、いずれも、<100
>軸に直交する方向となる。これらの方向に対し、基板
法線に対して斜め方向から入射するイオンビームを考慮
すると、単位格子の原点に対して単位格子の対角線方
向、即ち、<111>軸に沿って入射する場合は54.
7度の入射角度となる。ここで前記のようにイオンビー
ムの入射角度が50〜60度の範囲、特に55〜60度
の範囲で良好な結晶配向性を示すことは、イオンビーム
の入射角度が前記54.7度と一致するかその前後にな
ることが関連していると思われ、これらの角度が一致す
るか、近似した場合にイオンチャンネリングが最も効果
的に起こり、基材上に堆積している結晶において、基材
の上面で前記角度に一致する配置関係になった原子のみ
が選択的に残り易くなり、その他の乱れた原子配列のも
のは斜めに入射されるイオンビームが発生させるスパッ
タ効果によりスパッタされて除去される結果、配向性の
良好な原子の集合した結晶のみが選択的に残って堆積
し、これが原因となって結晶配向性が整うものと推定し
ている。
【0030】また、前記配向制御多結晶薄膜上に、ある
いは、配向制御多結晶薄膜上の多結晶速成薄膜上に酸化
物超電導層を成膜する際に、これをエピタキシャル成長
させるならば、酸化物超電導層が配向制御多結晶薄膜あ
るいは多結晶速成薄膜の結晶に沿って結晶成長する結
果、酸化物超電導層もa軸配向性とb軸配向性とc軸配
向性の良好なものが得られる。
【0031】
【実施例】以下、図面を参照して本発明の実施例につい
て説明する。図1は、本発明に係る薄膜積層体5の一実
施例を示すものであり、図1においてAは基材、Bはこ
の基材A上に形成された多結晶速成薄膜、Cはこの多結
晶速成薄膜B上に形成された配向制御多結晶薄膜をそれ
ぞれ示している。前記基材Aは、この例では基板状のも
のであるが、その他に例えば、線状、テープ状、ディス
ク状などの種々の形状のものを用いることができ、基材
Aの構成材料として、銀、白金、銅などの各種金属材料
あるいはステンレス、銅合金などの合金、または、ガラ
ス、セラミックスなどの材料から、更には、各種合金や
セラミックスのクラッド板や複合板などから適宜選択さ
れるものを用いることができる。
【0032】前記多結晶速成薄膜Bは、立方晶系の結晶
構造を有する結晶の集合した微細な結晶粒6が多数相互
に結晶粒界を介して接合一体化されてなるものである。
この多結晶速成薄膜Bの各結晶粒の結晶軸においてa軸
とb軸は特別には配向されていないが、c軸は基材Aの
上面(成膜面)に対してほぼ直角に向けられていること
が好ましい。
【0033】前記配向制御多結晶薄膜Cは、立方晶系の
結晶構造を有する結晶の集合した微細な結晶粒7が多数
相互に結晶粒界を介して接合一体化されてなり、各結晶
粒7の結晶軸のc軸は基材Aの上面(成膜面)に対して
ほぼ直角に向けられ、各結晶粒7の結晶軸のa軸どうし
およびb軸どうしは、互いに同一方向に向けられて面内
配向されている。そして更に、各結晶粒7の結晶のa軸
(あるいはb軸)どうしは、それらのなす角度(図2に
示す粒界傾角K)を30度以内にして接合一体化されて
いる。
【0034】次に、前記多結晶速成薄膜Bと配向制御多
結晶薄膜Cを製造する装置と製造方法について説明す
る。図2は、前記多結晶速成薄膜Bを製造する装置の一
例を示すものであり、この例の装置は、高周波スパッタ
装置である。本例の装置は、基材Aを保持する基材ホル
ダ11と、この基材ホルダ11の上方に所定間隔をもっ
て対向配置された板状のターゲット12を主体として構
成されている。また、図中符号13は、ターゲット12
を保持したターゲットホルダを示し、このターゲットホ
ルダ13は高周波電源14に接続され、この高周波電源
14と前述の基材ホルダ11はそれぞれ接地されてい
る。
【0035】また、基材ホルダ11とターゲットホルダ
13は図示略の真空容器に収納されていて、基材ホルダ
11とターゲットホルダ13の周囲を真空雰囲気に保持
できるようになっている。更に前記真空容器には、ガス
ボンベなどの雰囲気ガス供給源が接続されていて、必要
に応じて真空容器の内部を真空などの低圧状態で、か
つ、アルゴンガスあるいはその他の不活性ガス雰囲気ま
たは酸素を含む不活性ガス雰囲気にすることができるよ
うになっている。以上の構成により、真空容器の内部を
減圧してから高周波電源14を作動させることによって
基材Aの上方空間にプラズマを発生させることができ、
このプラズマの作用によりターゲット12の粒子をスパ
ッタして基材A側に向けて飛ばすことができるようにな
っている。
【0036】なお、基材Aとして長尺の金属テープ(ハ
ステロイ製あるいはステンレス製などのテープ)を用い
る場合は、真空容器の内部に金属テープの送出装置と巻
取装置を設け、送出装置から連続的に基材ホルダ11上
に金属テープを送り出し、続いて巻取装置で巻き取るこ
とで金属テープ上に連続成膜することができるように構
成することが好ましい。
【0037】前記基材ホルダ11は内部に加熱ヒータを
備えて構成され、基材ホルダ11上に配置された基材A
を必要に応じて所望の温度に加熱できるようになってい
る。前記ターゲット12は、目的とする多結晶速成薄膜
Bを形成するためのものであって、目的の組成の多結晶
薄膜と同一組成あるいは近似組成のものなどが用いられ
る。ターゲット12として具体的には、MgOあるいは
23で安定化したジルコニア(YSZ)、MgO、S
rTiO3などを用いることができるがこれらに限るも
のではなく、形成しようとする多結晶速成薄膜Bに見合
うターゲッを適宜用いれば良い。
【0038】次に前記構成の装置を用いて基材A上にY
SZの多結晶速成薄膜Bを形成する場合について説明す
る。基材A上に多結晶速成薄膜Bを形成するには、YS
Zのターゲットを用いるとともに基材Aを収納している
真空容器の内部を真空引きして減圧雰囲気とする。そし
て、高周波電源14を作動させる。これによりターゲッ
ト12の構成粒子がスパッタされて基材A上に飛来す
る。この粒子を所用時間かけて堆積させるならば、基材
A上に所望の厚さの多結晶速成薄膜Bを形成することが
できる。このようにして得られた多結晶速成薄膜Bを構
成する多数の結晶粒の結晶軸のa軸とb軸とc軸は、い
ずれも任意な方向を向いていても良いし配向性があるも
のでも良い。
【0039】次に、図4は前述の配向制御多結晶薄膜C
を製造する装置の一例を示すものであり、この例の装置
は、イオンビームスパッタ装置にイオンビームアシスト
用のイオンガンを設けた構成となっている。
【0040】本例の装置は、基材Aを保持する基材ホル
ダ15と、この基材ホルダ15の斜め上方に所定間隔を
もって対向配置された板状のターゲット16と、前記基
材ホルダ15の斜め上方に所定間隔をもって対向され、
かつ、前記ターゲット16と離間して配置されたイオン
ガン17と、前記ターゲット16の斜め下方においてタ
ーゲット16の下面に向けて配置されたスパッタビーム
照射装置18を主体として構成されている。また、図中
符号19は、ターゲット16を保持したターゲットホル
ダを示している。
【0041】また、本実施例の装置は図示略の真空容器
に収納されていて、基材Aの周囲を真空雰囲気に保持で
きるようになっている。更に前記真空容器には、ガスボ
ンベなどの雰囲気ガス供給源が接続されていて、真空容
器の内部を真空などの低圧状態で、かつ、アルゴンガス
あるいはその他の不活性ガス雰囲気または酸素を含む不
活性ガス雰囲気にすることができるようになっている。
【0042】前記基材ホルダ15は内部に加熱ヒータを
備え、基材ホルダ15の上に位置された基材Aを必要に
応じて所望の温度に加熱できるようになっている。ま
た、基材ホルダ15の底部には角度調整機構Dが付設さ
れている。この角度調整機構Dは、基材ホルダ15の底
部に接合された上部支持板20と、この上部支持板20
にピン結合された下部支持板21と、この下部支持板2
1を支持する基台22を主体として構成されている。前
記上部支持板20と下部支持板21とはピン結合部分を
介して互いに回動自在に構成されており、基材ホルダ1
5の傾斜角度を調整できるようになっている。なお、本
例の装置では基材ホルダ15の角度を調整する角度調整
機構Dを設けたが、角度調整機構Dをイオンガン17の
支持部分に取り付けてイオンガン17の傾斜角度を調整
し、イオンビームの入射角度を調整するようにしても良
い。また、角度調整機構は本実施例の構成に限るもので
はなく、種々の構成のものを採用することができるのは
勿論である。
【0043】前記ターゲット16は、目的とする配向制
御多結晶薄膜を形成するためのものであり、目的の組成
の配向制御多結晶薄膜と同一組成あるいは近似組成のも
のなどを用いる。ターゲット16として具体的には、M
gOあるいはY23で安定化したジルコニア(YS
Z)、MgO、SrTiO3などを用いるがこれに限る
ものではなく、形成しようとする配向制御多結晶薄膜に
見合うターゲッを適宜用いれば良い。
【0044】前記イオンガン17は、容器の内部に、蒸
発源を収納し、蒸発源の近傍に引き出し電極を備えて構
成されている。そして、前記蒸発源から発生した原子ま
たは分子の一部をイオン化し、そのイオン化した粒子を
引き出し電極で発生させた電界で制御してイオンビーム
として照射する装置である。粒子をイオン化するには直
流放電方式、高周波励起方式、フィラメント式、クラス
タイオンビーム方式などの種々のものがある。フィラメ
ント式はタングステン製のフィラメントに通電加熱して
熱電子を発生させ、高真空中で蒸発粒子と衝突させてイ
オン化する方法である。また、クラスタイオンビーム方
式は、原料を入れたるつぼの開口部に設けられたノズル
から真空中に出てくる集合分子のクラスタを熱電子で衝
撃してイオン化して放射するものである。本実施例にお
いては、図5に示す構成の内部構造のイオンガン17を
用いる。このイオンガン17は、筒状の容器25の内部
に、引出電極26とフィラメント27とArガスなどの
導入管28とを備えて構成され、容器25の先端からイ
オンをビーム状に平行に照射できるものである。
【0045】前記イオンガン17は、図4に示すように
その中心軸線Sを基材Aの上面(成膜面)に対して入射
角度θ(基材Aの垂線(法線)と中心線Sとのなす角
度)でもって傾斜させて対向されている。この入射角度
θは50〜60度の範囲が好ましいが、55〜60度の
範囲が最も好ましい。従ってイオンガン17は基材Aの
上面に対して入射角度θでもってイオンビームを照射で
きるように配置されている。なお、前記イオンガン17
によって基材Aに照射するイオンビームは、He+、N
+、Ar+、Xe+、Kr+などの希ガスのイオンビー
ム、あるいは、それらと酸素イオンの混合イオンビーム
などで良い。だだし、形成しようとする配向制御多結晶
薄膜の結晶構造を整えるためには、ある程度の原子量が
必要であり、あまりに軽量のイオンでは効果が薄くなる
ことを考慮すると、Ar+、Kr+などのイオンを用いる
ことが好ましい。前記スパッタビーム照射装置18は、
イオンガン17と同等の構成をなし、ターゲット16に
対してイオンビームを照射してターゲット16の構成粒
子を基材Aに向けて叩き出すことができるものである。
【0046】次に前記構成の装置を用いて多結晶速成薄
膜B上にYSZの配向制御多結晶薄膜Cを形成する場合
について説明する。多結晶速成薄膜B上に配向制御多結
晶薄膜Cを形成するには、YSZのターゲットを用いる
とともに、角度調整機構Dを調節してイオンガン17か
ら照射されるイオンビームを多結晶速成薄膜Bの上面に
50〜60度の範囲の角度で照射できるようにする。次
に基材Aを収納している容器の内部を真空引きして減圧
雰囲気とする。この際の真空容器内の圧力は、イオンビ
ームを使用する関係から図3に示す高周波スパッタ装置
の真空容器内の圧力よりも低い値となる。そして、イオ
ンガン17とスパッタビーム照射装置18を作動させ
る。
【0047】スパッタビーム照射装置18からターゲッ
ト16にイオンビームを照射すると、ターゲット16の
構成粒子が叩き出されて基材A上に飛来する。そして、
多結晶速成薄膜B上に、ターゲット16から叩き出した
構成粒子を堆積させると同時にイオンガン17からAr
イオンと酸素イオンの混合イオンビームを照射して配向
制御多結晶薄膜Cを形成する。ただしこの場合に、配向
制御多結晶薄膜Cの膜厚を多結晶速成薄膜Bよりも薄く
形成する。このイオン照射する際の入射角度θは、50
〜60度の範囲が好ましく、55〜60度の範囲が最も
好ましい。ここでθを90度とすると、多結晶薄膜のc
軸は基材A上の成膜面(多結晶速成薄膜Bの上面)に対
して直角に配向するものの、基材Aの成膜面上に(11
1)面が立つので好ましくない。また、θを30度とす
ると、多結晶薄膜はc軸配向すらしなくなる。前記のよ
うな好ましい範囲の角度でイオンビーム照射するならば
多結晶薄膜の結晶の(100)面が立つようになる。
【0048】このような入射角度でイオンビーム照射を
行ないながらスパッタリングを行なうことで、多結晶速
成薄膜B上に形成されるYSZの配向制御多結晶薄膜C
の結晶軸のa軸とb軸とを配向させることができるが、
これは、堆積されている途中のスパッタ粒子に対して適
切な角度でイオンビーム照射されたことによるものと思
われる。
【0049】なお、この配向制御多結晶薄膜Cの結晶配
向性が整う要因として本発明らは、以下のことを想定し
ている。YSZの配向制御多結晶薄膜Cの結晶の単位格
子は、図6に示すように立方晶系であり、この結晶格子
においては、基板法線方向が<100>軸であり、他の
<010>軸と<001>軸はいずれも図6に示す方向
となる。これらの方向に対し、基板法線に対して斜め方
向から入射するイオンビームを考慮すると、図6の原点
Oに対して単位格子の対角線方向、即ち、<111>軸
に沿って入射する場合は54.7度の入射角度となる。
【0050】ここで、前記のように入射角度50〜60
度の範囲内でイオンビームを照射する際に最も良好な結
晶配向性を示すということは、イオンビームの入射角度
が前記54.7度と一致するかその前後になった場合、
イオンチャンネリングが最も効果的に起こり、多結晶速
成薄膜B上に堆積しつつある結晶において、多結晶速成
薄膜Bの上面で前記角度に一致する配置関係になった原
子のみが選択的に残り易くなり、その他の乱れた原子配
列のものは斜め方向からのイオンビームのスパッタ効果
によりスパッタされて除去される結果、配向性の良好な
原子の集合した結晶のみが選択的に残って堆積してゆく
ことによるものと推定している。ただし、このように堆
積された結晶のうち、乱れた原子配列のものをイオンビ
ームで除去しながら成膜するので、成膜レートは悪くな
り、成膜速度は通常のスパッタリングで成膜するよりも
遅くなる。
【0051】図1に、前記の方法で基材A上にYSZの
多結晶速成薄膜Bと配向制御多結晶薄膜Cが堆積された
薄膜積層体5を示す。なお、図1では結晶粒7が1層の
み形成された状態を示しているが、結晶粒7を多層構造
としても差し支えないのは勿論である。前記のようにイ
オンビームを斜め方向から照射しながらスパッタリング
することによって配向制御多結晶薄膜Cを形成する場
合、その成膜速度は通常のイオンビームスパッタや高周
波スパッタリングによって多結晶速成薄膜Bを形成する
場合に比べて低下することになる。例えば、高周波スパ
ッタリングによれば、通常、0.5μm/時間程度の速
度で成膜処理できるが、斜め方向からイオンビームを照
射しながらのスパッタリングによれば、0.1μm/時
間程度の速度での成膜処理となる。
【0052】よって、多結晶速成薄膜Bを厚く形成して
膜厚をかせぎ、その上に、結晶配向性を良好にした配向
制御多結晶薄膜Cを薄く形成するならば、多結晶速成薄
膜Bと配向制御多結晶薄膜Cとを合わせた膜厚分を全て
配向制御多結晶薄膜Cとするよりも短時間で成膜処理で
きるようになる。また、多結晶速成薄膜Bと配向制御多
結晶薄膜Cを同一材料から構成すると、両薄膜B、Cの
接合性は良好になり、両者の接合強度も十分に高いもの
となる。
【0053】以上のように構成された薄膜積層体5にあ
っては、更にその上に酸化物超電導層、磁性薄膜、光学
薄膜、配線用薄膜などの種々の薄膜を形成することで実
用に供される。そして、薄膜積層体5の最上部には配向
制御多結晶薄膜Cが形成されているので、この上に成膜
される各種薄膜はいずれも結晶配向性に優れたものとな
り、これにより各種薄膜の特性が向上する。
【0054】次に、前記薄膜積層体5の上に酸化物超電
導層を形成して酸化物超電導導体を製造する装置と製造
する方法について説明する。図7は酸化物超電導層を成
膜法により形成する装置の一例を示すもので、図7はレ
ーザ蒸着装置を示している。この例のレーザ蒸着装置3
0は、処理容器31を有し、この処理容器31の内部の
蒸着処理室32に基材Aとターゲット33を設置できる
ようになっている。即ち、蒸着処理室32の底部には基
台34が設けられ、この基台34の上面に基材Aを設置
できるようになっているとともに、基台34の斜め上方
に支持ホルダ36によって支持されたターゲット33が
傾斜状態で設けられている。また、処理容器31は、排
気孔37aを介して真空排気装置37に接続されて蒸着
処理室32を所定の圧力に減圧できるようになってい
る。
【0055】前記ターゲット33は、形成しようとする
酸化物超電導層と同等または近似した組成、あるいは、
成膜中に逃避しやすい成分を多く含有させた複合酸化物
の焼結体あるいは酸化物超電導体などの板体からなって
いる。従ってターゲット33は、Y1Ba2Cu3Ox、Y2
Ba4Cu8Ox、Y3Ba3Cu6Oxなる組成、(Bi,P
b)2Ca2Sr2Cu3Ox、(Bi,Pb)2Ca2Sr3
Cu4Oxなる組成、あるいはTl2Ba2Ca2Cu3
x、Tl1Ba2Ca2Cu3Ox、Tl1Ba2Ca3Cu4
xなる組成などに代表される臨界温度の高い酸化物超電
導層を形成するために使用するので、これと同一の組成
か近似した組成のものを用いることが好ましい。
【0056】前記基台34は加熱ヒータを内蔵したもの
で、基材Aを必要に応じて所望の温度に加熱できるよう
になっている。なお、基材Aとして長尺の金属テープ
(ハステロイ製あるいはステンレス製などのテープ)を
用いる場合は、真空容器の内部に図7の2点鎖線に示す
ように金属テープの送出装置45と巻取装置46を設
け、送出装置45から連続的に基台34上に金属テープ
47を送り出し、続いて巻取装置46で巻き取ることで
金属テープ上に連続成膜することができるように構成す
ることが好ましい。
【0057】一方、処理容器31の側方には、レーザ発
光装置38と第1反射鏡39と集光レンズ40と第2反
射鏡41とが設けられ、レーザ発光装置38が発生させ
たレーザビームを処理容器31の側壁に取り付けられた
透明窓42を介してターゲット33に集光照射できるよ
うになっている。レーザ発光装置38はターゲット33
から構成粒子を叩き出すことができるものであれば、Y
AGレーザ、CO2レーザ、エキシマレーザなどのいず
れのものを用いても良い。
【0058】次に前記YSZの配向制御多結晶薄膜Cの
上に、酸化物超電導層Eを形成する方法について説明す
る。まず、配向制御多結晶薄膜Cが形成された基材Aを
図7に示すレーザ蒸着装置30の基台34上に設置し、
蒸着処理室32を真空排気装置37で減圧する。ここで
必要に応じて蒸着処理室32に酸素ガスを導入して蒸着
処理室32を酸素雰囲気としても良い。また、基台34
の加熱ヒータを作動させて基材Aを所望の温度に加熱し
ても良い。
【0059】次にレーザ発光装置38から発生させたレ
ーザビームを蒸着処理室32のターゲット33に集光照
射する。これによってターゲット33の構成粒子がえぐ
り出されるか蒸発されてその粒子が配向制御多結晶薄膜
C上に堆積する。ここで構成粒子の堆積の際に配向制御
多結晶薄膜Cが予めc軸配向し、a軸とb軸でも配向し
ているので、配向制御多結晶薄膜C上に形成される酸化
物超電導層Eの結晶のc軸とa軸とb軸も配向制御多結
晶薄膜Cに整合するようにエピタキシャル成長して結晶
化する。これにより結晶配向性の良好な酸化物超電導層
Eが得られる。なお、成膜後に必要に応じて酸化物超電
導層Eの結晶構造を整えるための熱処理を施しても良
い。
【0060】図8は、薄膜積層体5の上に前述の方法に
より酸化物超電導層Eが形成されてなる酸化物超電導導
体50を示す。前記配向制御多結晶薄膜C上に形成され
た酸化物超電導層Eは、多結晶状態となるが、この酸化
物超電導層Eの結晶粒の1つ1つにおいては、基材Aの
厚さ方向に電気を流しにくいc軸が配向し、基材Aの面
方向にa軸どうしあるいはb軸どうしが配向している。
従って得られた酸化物超電導層Eは結晶粒界における量
子的結合性に優れ、結晶粒界における超電導特性の劣化
が少ないので、基材Aの面方向に電気を流し易く、臨界
電流密度の優れたものが得られる。また、多結晶速成薄
膜Bは、配向制御多結晶薄膜Cよりも十分に厚く形成さ
れているので、前記熱処理の際に耐熱バッファ層となる
効果があり、熱ストレスを解消するために有効である。
更に、基材Aと酸化物超電導層Eとの間に厚い多結晶速
成薄膜Bを設けているので、熱処理時に酸化物超電導層
Eの元素を基材A側に拡散させてしまうおそれが少なく
なり、酸化物超電導層Eの成分組成が崩れるおそれが少
ない。
【0061】図9は、本発明に係る酸化物超電導導体の
他の例を示すものである。この例の酸化物超電導導体5
1は、薄膜積層体52上に酸化物超電導層Eを形成した
ものであり、この例の薄膜積層体52は、基材Aと、こ
の基材A上に形成された配向制御多結晶薄膜Cと、この
配向制御多結晶薄膜C上に形成された多結晶速成薄膜
B'を具備して構成されている。この例の配向制御多結
晶薄膜Cは、先に説明した例の配向制御多結晶薄膜Cと
同等に結晶粒の粒界傾角が30度以下のものであり、先
に説明した方法と同等の方法で形成されるが、先の例の
ものと異なっているのは、配向制御多結晶薄膜Cが基材
A上に直接形成されている点である。そして、この配向
制御多結晶薄膜C上に、多結晶速成薄膜B’が形成され
ているが、この多結晶速成薄膜B’は先の例で説明した
多結晶速成薄膜Bとは異なり、多結晶速成薄膜B’を構
成する多数の結晶粒のそれぞれの結晶軸のa軸とb軸が
それらの粒界傾角を小さくして配向され、結晶配向性に
優れている点に特徴がある。
【0062】これは、配向制御多結晶薄膜C上にスパッ
タリングにより多結晶速成薄膜B’を形成すると、配向
制御多結晶薄膜Cの結晶に整合するように多結晶速成薄
膜B’の結晶をエピタキシャル成長させ得るので、これ
により多結晶速成薄膜B’の結晶配向性を整えることが
できることに起因している。よって、多結晶速成薄膜
B’上に形成した酸化物超電導層Eも前述の例の場合と
同様に結晶配向性に優れさせることができ、臨界電流密
度の高い酸化物超電導導体51を得ることができるよう
になる。なお、この例においても、配向制御多結晶薄膜
Cを薄く、多結晶速成薄膜B’を厚く形成しておくこと
により、成膜速度が遅くなる配向制御多結晶薄膜Cの部
分の処理時間を短縮できるので、多結晶速成薄膜B’と
配向制御多結晶薄膜Cの全てをイオンビームアシストに
よるイオンビームスパッタで製造する場合よりも成膜時
間を短縮できる。
【0063】図10は、本発明に係る酸化物超電導導体
の更に他の例を示すものである。この例の酸化物超電導
導体53は、薄膜積層体54上に酸化物超電導層Eを形
成したものであり、この例の薄膜積層体54は、基材A
と、この基材A上に形成された配向制御多結晶薄膜C
と、この配向制御多結晶薄膜C上に形成された多結晶速
成薄膜B’’を具備して構成されている。この例の配向
制御多結晶薄膜Cは、図9を基に先に説明した例の配向
制御多結晶薄膜Cと同等のものであり、図4に示す装置
を用いて斜め方向からのインビーム照射を行なって形成
された多結晶体であって、配向制御多結晶薄膜Cを構成
する多数の結晶粒のそれぞれが結晶配向性に優れたもの
である。
【0064】そして、この配向制御多結晶薄膜C上に、
多結晶速成薄膜B’’が形成されているが、この多結晶
速成薄膜B’’は図9を基に先に説明した例の多結晶速
成薄膜B’と同様に結晶配向性に優れたものである。た
だし、この例の多結晶速成薄膜B’’が先の例の多結晶
速成薄膜B’と異なっているのは、その製造方法であ
る。
【0065】この例の多結晶速成薄膜B’’は、図3に
示す高周波スパッタリング装置を用いて製造されたもの
ではなく、図4に示すイオンビーム照射型のスパッタリ
ング装置で製造されている。即ち、配向制御多結晶薄膜
C上に多結晶速成薄膜B’’を成膜する場合に、図4に
示す装置を用い、その基材ホルダ15に基材Aを設置し
たならば、イオンビーム照射装置18を作動させて成膜
処理するが、この成膜処理の際にイオンガン17は作動
させないでおく。これにより、ターゲット16からイオ
ンビームでスパッタされた粒子は配向制御多結晶薄膜C
上に順次堆積する。ここでイオンガン17を作動させな
いでおくことにより、基材A側に飛来するスパッタ粒子
の全てを堆積させることができるので、成膜レートは良
好になり、成膜速度はイオンガン17を作動させる場合
よりも早くなる。
【0066】ただしこの場合に、配向制御多結晶薄膜C
上にスパッタリングにより多結晶速成薄膜B’’を形成
するので、配向制御多結晶薄膜Cの結晶に整合するよう
に多結晶速成薄膜B’’の結晶をエピタキシャル成長さ
せることができ、これにより多結晶速成薄膜B’’の結
晶配向性を整えることができる。よって、多結晶速成薄
膜B’’上に形成した酸化物超電導層Eも前述の例の場
合と同様に結晶配向性に優れさせることができ、臨界電
流密度の高い酸化物超電導導体53を得ることができる
ようになる。なお、この例においても、配向制御多結晶
薄膜Cを薄く、多結晶速成薄膜B’’を厚く形成してお
くことにより、成膜速度が遅くなる配向制御多結晶薄膜
Cの部分の処理時間を短縮できるので、成膜時間を短縮
できる。
【0067】一方、図11は、多結晶速成薄膜Bと配向
制御多結晶薄膜Cを製造するための装置の他の例を示す
ものである。この例の装置において図4に記載した装置
と同等の構成部分には同一符号を付してそれらの説明を
省略する。この例の装置において図4に示す装置と異な
っているのは、ターゲット16を3個設け、スパッタビ
ーム照射装置18を3個設け、ターゲット16に高周波
電源14を接続した点である。
【0068】この例の装置では、3個のターゲット1
6、16、16をそれぞれ別の組成のターゲットとする
ことで各ターゲットから、それぞれ別種の粒子を叩き出
して基材A上に堆積させて多結晶薄膜を形成することが
できるので、より複雑な組成の多結晶薄膜でも製造でき
る特徴がある。また、高周波電源14を作動させてター
ゲット16からスパッタを行ない、多結晶速成薄膜Bを
形成し、この次に高周波電源14を停止させて真空容器
内部の圧力を調整し、次いでイオンビーム照射によるス
パッタリングとイオンビームガンによるイオンビームア
シストを行なって配向制御多結晶薄膜Cを形成すること
もできる。この例の装置を用いて薄膜積層体5を製造す
る場合も先に示した例による場合と同様に配向性に優れ
た配向制御多結晶薄膜を得ることができる。
【0069】なお、前記の例においては多結晶速成薄膜
Bを高周波スパッタとイオンビームスパッタにより形成
したが、他の成膜法、例えば、CVD法、真空蒸着法、
電子ビーム蒸着法などの通常知られている成膜法で多結
晶速成薄膜を形成しても良いのは勿論である。
【0070】(製造例1)図3に示す構成の高周波スパ
ッタ装置を使用し、この装置の真空容器の内部を真空ポ
ンプで真空引きして1×10-3トールに減圧した。基材
として、幅10mm、厚さ0.5mm、長さ10cmの
ハステロイC276テープを使用した。ターゲットはY
SZ(安定化ジルコニア)製のものを用い、スパッタ電
圧300V、スパッタ電流100mAに設定し、スパッ
タリングを1時間行なって基材上に厚さ0.5μmの膜
状のYSZの多結晶速成薄膜を形成した。
【0071】次に、図4に示す構成のイオンビームスパ
ッタ装置を使用し、この装置を収納した真空容器内部を
真空ポンプで真空引きして3.0×10-4トールに減圧
した。ターゲットはYSZ(安定化ジルコニア)製のも
のを用い、スパッタ電圧1000V、スパッタ電流10
0mA、イオン源のビームの入射角度を55度に各々設
定し、イオン源のアシスト電圧を300Vに、イオンビ
ームの電流密度を20μA/cm2にそれぞれ設定して
基材上にスパッタリングと同時にイオン照射を行なって
1時間成膜処理することで厚さ0.1μmのYSZ配向
性多結晶薄膜を形成し、薄膜積層体を得た。なお、前記
イオンビームの電流密度とは、試料近くに接地した電流
密度計測装置の計測数値によるものである。ここで前述
の多結晶速成薄膜は、厚さ0.5μmのものを1時間で
成膜したが、配向制御多結晶薄膜は、厚さ0.1μmの
ものを1時間で成膜できたので、高周波スパッタリング
により多結晶速成薄膜を形成する方が、イオンビームア
シストを適用したスパッタリングで配向制御多結晶薄膜
を製造するよりも5倍程度の速度で成膜できることが明
らかになった。
【0072】得られた各YSZの薄膜積層体試料につい
てCuKα線を用いたθ-2θ法による表面部分のX線
回折試験を行なった。図13は、イオンビーム入射角5
5度、イオンビーム電圧300V、イオンビームの電流
密度を20μA/cm2に測定した試料の回折強さを示
す図である。図13に示す結果から、YSZの(20
0)面あるいは(400)面のピークが認められ、YS
Zの多結晶薄膜の(100)面が基材表面と平行な面に
沿って配向しているものと推定することができ、YSZ
の多結晶薄膜がそのC軸を基材上面に垂直に配向させて
形成されていることが判明した。図14は、前記薄膜積
層体試料における極点図を示すものであるが同等の結果
が得られた。
【0073】図15は、イオンビームの入射角度90度
でイオンビーム電圧を300V、イオンビーム電流を2
0、40μA/cm2にそれぞれ設定して製造した比較
試料の回折強さを示す図である。図15に示す結果か
ら、イオン源の入射角度を90度に設定してもYSZの
(200)ピークと(400)ピークを認めることがで
き、c軸配向性に関しては十分な配向性が認められた。
【0074】次に、前記のようにc軸配向された各試料
において、YSZ多結晶薄膜のa軸あるいはb軸が配向
しているか否かを測定した。その測定のためには、図1
6に示すように、YSZの薄膜試料にX線を角度θで照
射するとともに、入射X線を含む鉛直面において、入射
X線に対して2θ(58.7度)の角度の位置にX線カ
ウンター60を設置し、入射X線を含む鉛直面に対する
水平角度φの値を適宜変更して、即ち、基材Aを図16
において矢印に示すように回転角φだけ回転させること
により得られる回折強さを測定することにより、配向制
御多結晶薄膜のa軸どうしまたはb軸どうしの配向性を
計測した。その結果を図17と図18に示す。
【0075】図17に示すようにイオンビームの入射角
度を55度に設定して製造した試料の場合、φを45度
とした場合は回折ピークが表われず、φを90度と0度
とした場合、即ち、回転角φに対して90度おきにYS
Zの(311)面のピークが現われている。これは、基
材面内におけるYSZの(011)ピークに相当してお
り、YSZ多結晶薄膜のa軸どうしまたはb軸どうしが
配向していることが明らかになった。これに対し、図1
8に示すように、イオンビーム入射角度を90度に設定
して製造した試料の場合、特別なピークが見られず、a
軸とb軸の方向は無秩序になってることが判明した。
【0076】以上の結果から、前記装置と前記製造方法
によって得られた試料の配向制御多結晶薄膜は、c軸配
向は勿論、a軸どうし、および、b軸どうしも配向して
いることが明らかになった。よって配向性に優れた多結
晶薄膜を製造できることが明らかになった。
【0077】一方、図19は、図17と図18の計測に
用いた配向制御多結晶薄膜試料を用い、この試料の配向
制御多結晶薄膜の各結晶粒における結晶配向性を測定し
た結果を示す。この測定では、図17と図18を基に先
に説明した方法でX線回折を行なう場合、φの角度を−
10度〜45度まで5度刻みの値に設定した際の回折ピ
ークを測定したものである。図19に示す結果から、得
られたYSZの配向制御多結晶薄膜の回折ピークは、3
0度以内、即ち、粒界傾角30度以内では表われるが、
45度では消失していることが明らかである。従って、
得られた多結晶薄膜の結晶粒の粒界傾角は、30度以内
に収まっていることが判明し、良好な配向性を有するこ
とが明らかになった。
【0078】次に、図20は、イオンビーム電圧を30
0V、イオンビームの電流密度を40μA/cm2、イ
オンビームエネルギーを300eVに設定し、イオンビ
ームの入射角度を0度〜65度まで変更して配向制御多
結晶薄膜を製造した場合、得られた配向制御多結晶薄膜
の結晶の(111)方向の分布におけるイオンビーム入
射角度と半値全幅の関係を示すものである。なお、前記
の半値全値は、得られた各試料について、図14に示す
ような極点図を求め、この極点図の中心から図14に示
すような補助線e、fを引いた場合に、これらの補助線
eとfのなす角度αの半分の角度、即ち、ピーク比半分
にて求めた。図20に示す結果から、イオンビームの入
射角度が50〜60度の範囲で結晶配向性が良好になる
ことが明らかになった。また、特に、イオンビームの入
射角度を55〜60度にすることで、粒界傾角を25度
程度の極小値にできることも明らかになった。
【0079】次に、前記多結晶薄膜上に図7に示す構成
のレーザ蒸着装置を用いて酸化物超電導層を形成した。
ターゲットとして、Y0.7Ba1.7Cu3.07-xなる組成
の酸化物超電導体からなるターゲットを用いた。蒸着処
理室の内部を1×10-6トールに減圧し、室温にてレー
ザ蒸着を行なった。ターゲット蒸発用のレーザとして波
長193nmのArFレーザを用いた。この成膜後、4
00゜Cで60分間、酸素雰囲気中において薄膜を熱処
理した。以上の処理で得られた酸化物超電導導体は、幅
0.5mm、長さ10cmのものである。
【0080】この酸化物超電導導体を冷却し、臨界温度
と臨界電流密度の測定を行なった結果、臨界温度=90
K、 臨界電流密度=200000A/cm2を示し、
極めて優秀な超電導特性を発揮することを確認できた。
よって得られた酸化物超電導層は優れた結晶配向性を有
していることが明らかになった。これに対し、前記と同
等の基材上にYSZの多結晶速成薄膜を前記と同等の方
法で形成し、その上に前記と同等の酸化物超電導層を直
接形成した試料にあっては、臨界電流密度が20000
A/cm2を示した。
【0081】(製造例2)基材として、前記の製造例と
同等の大きさのハステロイC276テープを使用した。
この基材を図4に示す構成のイオンビームスパッタ装置
に装着し、この装置の真空容器の内部を真空ポンプで真
空引きして3.0×10-4トールに減圧した。ターゲッ
トはYSZ製のものを用い、スパッタ電圧1000V、
スパッタ電流100mA、イオンビームの入射角度を5
5度に設定し、イオン源のアシスト電圧を300V、イ
オンビームの電流密度を100μA/cm2にそれぞれ
設定して基材上にスパッタリングと同時にイオンビーム
照射を行なって厚さ0.1μmのYSZ配向制御多結晶
薄膜を1時間かけて形成し、配向制御多結晶薄膜を得
た。
【0082】次に、イオンガンを停止させた状態でスパ
ッタリングを行なって厚さ0.4μmのYSZ配向制御
多結晶薄膜を2時間かけて形成し、薄膜積層体を得た。
ここで前述の多結晶速成薄膜は、厚さ0.1μmのもの
を1時間で成膜したが、配向制御多結晶薄膜は、厚さ
0.4μmのものを2時間で成膜できたので、イオンガ
ンを作動させずに多結晶速成薄膜を形成する方が、イオ
ンビームガンを用いたスパッタリングで配向制御多結晶
薄膜を製造するよりも2倍程度の速度で成膜できること
が明らかになった。
【0083】続いて前記薄膜積層体に、前記の製造例と
同等のレーザ蒸着法により前記の製造例と同等の酸化物
超電導層を形成して酸化物超電導導体を得た。この酸化
物超電導導体を冷却し、臨界温度と臨界電流密度の測定
を行なった結果、臨界温度=90K、 臨界電流密度=
200000A/cm2を示し、極めて優秀な超電導特
性を発揮することを確認できた。
【0084】(製造例3)基材として、前記の製造例と
同等の大きさのハステロイC276テープを使用し、こ
の基材上に製造例2と同等の条件で厚さ0.1μmの配
向制御多結晶薄膜を形成した。次に、この配向制御多結
晶薄膜上に、製造例1で用いたものと同等の高周波スパ
ッタ装置を用いて厚さ0.4μmの多結晶速成薄膜を形
成し、薄膜積層体を得た。続いてこの薄膜積層体に、前
記の製造例と同等のレーザ蒸着法により前記の製造例と
同等の酸化物超電導層を形成して酸化物超電導導体を得
た。この酸化物超電導導体を冷却し、臨界温度と臨界電
流密度の測定を行なった結果、臨界温度=90K、 臨
界電流密度=200000A/cm2を示し、極めて優
秀な超電導特性を発揮することを確認できた。
【0085】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、基
材上に、多結晶速成薄膜とそれよりも薄い粒界傾角30
以下の配向制御多結晶薄膜を具備しているので、その上
に形成する薄膜の結晶構造を容易に整えることができ
る。よって配向制御多結晶薄膜上に酸化物超電導層を形
成すると、酸化物超電導層の結晶構造が良好になり、超
電導特性の優れた酸化物超電導導体が得られる。また、
配向制御多結晶薄膜の上に形成されるものが、磁性薄膜
や光学薄膜あるいは配線用薄膜である場合は、それらの
薄膜の結晶構造を整えることができる。更に、配向制御
多結晶薄膜を多結晶速成薄膜よりも薄く形成し、配向制
御多結晶薄膜よりも製造が容易で早く形成できる多結晶
速成薄膜を厚く形成しているので、全体の成膜時間を短
縮できる効果がある。
【0086】また、粒界傾角30度以下の配向制御多結
晶薄膜上に、厚い多結晶速成薄膜を形成したものは、多
結晶速成薄膜の結晶配向性をも容易に整えることができ
る。よって前記多結晶速成薄膜上に酸化物超電導層を形
成すると、酸化物超電導層の結晶構造が良好になり、超
電導特性の優れた酸化物超電導導体が得られる。また、
配向制御多結晶薄膜の上に形成されるものが、磁性薄膜
や光学薄膜あるいは配線用薄膜である場合は、それらの
薄膜の結晶構造を整えることができる。更に、配向制御
多結晶薄膜を多結晶速成薄膜よりも薄く形成し、配向制
御多結晶薄膜よりも製造が容易で早く形成できる多結晶
速成薄膜を厚く形成しているので、全体の成膜時間を短
縮できる効果がある。
【0087】一方、基材上に多結晶速成薄膜を形成した
後に、斜め方向から50〜60度の入射角度でイオンビ
ームを照射しながら成膜処理を行なうことにより、結晶
粒の粒界傾角を30度以下とした配向制御多結晶薄膜を
形成することができ、これにより、膜質の安定した結晶
配向性に優れた多結晶薄膜を有する薄膜積層体を得るこ
とができる。更に、基材上に配向制御多結晶薄膜を形成
した後に多結晶速成薄膜を形成することで多結晶速成薄
膜の結晶を配向制御多結晶薄膜に整合させることが容易
にできるようになる。以上の方法により得られた薄膜積
層体に酸化物超電導層を形成するならば、配向制御多結
晶薄膜の結晶に対して、あるいは、結晶配向性の良好な
多結晶速成薄膜の結晶に対して、酸化物超電導層の結晶
を整合させつつ良質のものを形成できるので、超電導特
性に優れた酸化物超電導導体を得ることができる。
【0088】一方、イオンビームの入射角度を55〜6
0度に設定するならば、配向制御多結晶薄膜の粒界傾角
を25度以内に揃えることができるようになり、より配
向性に優れた多結晶薄膜を得ることができる。また、多
結晶速成薄膜を高周波スパッタで形成し、配向制御多結
晶薄膜をイオンビームスパッタで形成することで、早い
成膜速度で効率良く成膜処理することができる。更に、
酸化物超電導層を薄膜積層体上に形成する際に、酸化物
超電導層をエキタキシャル成長させることにより結晶配
向性を向上させることができ、超電導特性の優れた酸化
物超電導導体を得ることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明方法により形成された薄膜積層体
を示す構成図である。
【図2】図2は図1に示す薄膜積層体の結晶粒とその結
晶軸方向および粒界傾角を示す拡大平面図である。
【図3】図3は本発明方法を実施して基材上に多結晶速
成薄膜を製造する高周波スパッタ装置の一例を示す構成
図である。
【図4】図4は本発明方法を実施して基材上に配向制御
多結晶薄膜を製造するイオンビームスパッタ装置の一例
を示す構成図である。
【図5】図5は図4に示す装置に用いられるイオンガン
の一例を示す断面図である。
【図6】図6はイオンビーム照射とともに成膜処理を行
う場合に、イオンビームの入射角度と立方晶系の結晶格
子との角度関係を示す説明図である。
【図7】図7は配向制御多結晶薄膜上に酸化物超電導層
を形成するための装置の一例を示す構成図である。
【図8】図8は本発明に係る酸化物超電導導体の第1の
例を示す断面図である。
【図9】図9は本発明に係る酸化物超電導導体の第2の
例を示す断面図である。
【図10】図10は本発明に係る酸化物超電導導体の第
3の例を示す断面図である。
【図11】図11は本発明方法を実施して多結晶速成薄
膜と配向制御多結晶薄膜を製造する場合に用いるスパッ
タ装置の他の例を示す構成図である。
【図12】図12は従来方法で製造された多結晶速成薄
膜の結晶粒ごとの結晶配向性を示す構成図である。
【図13】図13はイオンビーム入射角度55度、イオ
ンビーム電圧300V、イオンビーム電流密度20μA
/cm2で製造した配向制御多結晶薄膜のX線回折結果
を示すグラフである。
【図14】図14はイオンビーム入射角度55度、イオ
ンビーム電圧300V、イオンビーム電流密度20μA
/cm2で製造した多結晶薄膜の極点図である。
【図15】図15はイオンビーム入射角度90度、イオ
ンビーム電圧300V、イオンビーム電流20μAと4
0μAで製造した多結晶薄膜のX線回折結果を示すグラ
フである。
【図16】図16は配向制御多結晶薄膜のa軸およびb
軸配向性を測定ために行なった試験を説明するための構
成図である。
【図17】図17はイオンビーム入射角55度で製造さ
れた配向制御多結晶薄膜試料の(311)面の回折ピー
クを示すグラフである。
【図18】図18はイオンビーム入射角90度で製造さ
れた配向制御多結晶薄膜試料の(311)面の回折ピー
クを示すグラフである。
【図19】図19はイオンビーム入射角55度で製造さ
れた配向制御多結晶薄膜試料の回転角度5度毎の回折ピ
ークを示すグラフである。
【図20】図20はイオンビームの入射角度と得られた
配向制御多結晶薄膜試料の半値全幅との関係を示すグラ
フである。
【符号の説明】
A…基材、 B、B’、B’’…多結晶速
成薄膜、C…配向制御多結晶薄膜、 E…酸化物超電
導層、 K…粒界傾角、θ…入射角、 φ
…回転角、5 …薄膜積層体 、 6、7…結晶
粒、11、15…基材ホルダ、12、16…ターゲッ
ト、 14…高周波電源、17…イオンガン、 1
8…イオンビーム照射装置、30…レーザ蒸着装置、
33…ターゲット、50、51、53…酸化物超電導導
体、 52、54…薄膜積層体、
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 平4−104411(JP,A) 特開 平5−24996(JP,A) 特開 平1−197396(JP,A) 特開 平2−54757(JP,A) 特開 平3−242396(JP,A) 特開 平4−72062(JP,A) 特開 平4−302506(JP,A) 特開 平4−329865(JP,A) 特開 平4−331795(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C30B 1/00 - 35/00 C23C 14/00 - 14/58 C01G 1/00 C01G 3/00 CA(STN)

Claims (8)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 基材と、この基材の成膜面上に形成され
    て多数の結晶粒が結合されてなる多結晶速成薄膜と、こ
    の多結晶速成薄膜上に形成されて前記多結晶速成薄膜よ
    りも薄く形成された粒界傾角30度以下の配向制御多結
    晶薄膜と、この配向制御多結晶薄膜上に形成された酸化
    物超電導層を具備してなることを特徴とする酸化物超電
    導導体。
  2. 【請求項2】 基材と、この基材の成膜面上に形成され
    て多数の結晶粒が結合されてなり粒界傾角30度以下の
    配向制御多結晶薄膜と、この配向制御多結晶薄膜上に形
    成されて前記配向制御多結晶薄膜よりも厚く形成された
    多結晶速成薄膜と、この多結晶速成薄膜上に形成された
    酸化物超電導層を具備してなることを特徴とする酸化物
    超電導導体。
  3. 【請求項3】 基材の成膜面上にスパッタなどの成膜法
    により多数の結晶粒を結合させてなり、しかも前記多数
    の結晶粒の各結晶粒のc軸を前記基材の成膜面に対して
    略直角に向けてなる立方晶系多結晶速成薄膜を形成し、
    この多結晶速成薄膜上に前記成膜面に対して斜め方向か
    ら50〜60度の範囲の入射角度でイオンビームを照射
    しながら成膜処理を行なって結晶粒の粒界傾角を30度
    以下とした配向制御多結晶薄膜を前記多結晶速成薄膜よ
    りも薄く形成することを特徴とする薄膜積層体の製造方
    法。
  4. 【請求項4】 基材の成膜面に対して斜め方向から50
    〜60度の範囲の入射角度でイオンビームを照射しなが
    ら成膜処理を行なって基材成膜面上に多数の結晶粒を結
    合させた粒界傾角30度以下の配向制御多結晶薄膜を形
    成し、この配向制御多結晶薄膜上にスパッタなどの成膜
    法により多数の結晶粒を結合させた立方晶系多結晶速成
    薄膜を前記配向制御多結晶薄膜より厚く形成することを
    特徴とする薄膜積層体の製造方法。
  5. 【請求項5】 請求項3または4記載の薄膜積層体の製
    造方法において、イオンビームの入射角度を55〜60
    度の範囲に設定して成膜し、配向制御多結晶薄膜の結晶
    粒の粒界傾角を25度以内とすることを特徴とする薄膜
    積層体の製造方法。
  6. 【請求項6】 請求項3、4または5記載の薄膜積層体
    の製造方法におい て、多結晶速成薄膜を高周波スパッタ
    法により形成し、配向制御多結晶薄膜をイオンビームス
    パッタ法により形成することを特徴とする薄膜積層体の
    製造方法。
  7. 【請求項7】 請求項3、4、5または6記載の製造方
    法で得られた配向制御多結晶薄膜上または多結晶速成薄
    膜上に、成膜法により酸化物超電導層を形成することを
    特徴とする酸化物超電導導体の製造方法。
  8. 【請求項8】 請求項7記載の酸化物超電導層を配向制
    御多結晶薄膜あるいは多結晶速成薄膜上に成膜する場合
    に、酸化物超電導層をエピタキシャル成長させることを
    特徴とする酸化物超電導層の製造方法。
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