本発明の実施の形態に係る石英系ガラス用原料及び石英系ガラスの製造方法について添付図面に基づいて説明する。
実施の形態1.
本発明の実施の形態1に係る石英系ガラス用原料と、石英系ガラスの製造方法について説明する。まず、この石英系ガラス用原料について説明する。この石英系ガラス用原料は、珪素を含む有機化合物、添加元素を含む有機化合物、珪素と添加元素とを含む複合有機化合物のうち少なくとも一つの有機化合物を有機溶剤に溶解して用いる。このように、本来の形態が固体の原料であっても溶液化により液体原料としての扱いが可能となり原料が極めて扱いやすくなると共に、高濃度で均一な添加元素の添加が可能となる。また、珪素と添加元素の複合有機化合物を原料に用いることにより、添加元素が高濃度となる場合においても均一な添加が可能となる。また、この原料の少なくとも一つは、テトラヒドロフラン(C4H8O)(以下、「THF」ともいう)を含む有機溶剤に溶解させた液体原料である。なお、珪素又は添加元素を含む有機化合物が液相である場合にもテトラヒドロフランを含む有機溶剤と混合することで液体原料とすることができる。この場合にも、液相と液相とが互いに「溶解」すると考えられる。このように液体原料にテトラヒドロフランを含む有機溶剤を用いることによって、珪素や添加元素を含む有機化合物からなる原料を気化する気化工程において、テトラヒドロフランを原料分子に付加することによる気化促進効果により未気化残渣を減少させることができる。また、化学気相反応により石英系ガラス膜を堆積させる気相反応堆積工程においても、液体原料中に含まれるテトラヒドロフランが気化して存在しているので、基板表面へのテトラヒドロフラン分子の優先吸着による反応機構の変化が生じ、その結果、被覆埋め込み特性(カバレッジ特性)が良好になると共に、高速合成時において気泡の巻き込みを減少させることができ、透明な膜の製造が可能となる。
ここで、この石英系ガラス用原料における添加元素としては、硼素、リン、ゲルマニウムを用いることができる。この硼素、リン、ゲルマニウムを添加することによって、屈折率、熱膨張係数等を制御することができる。また、添加元素はこれらに限られず、La、Ca、Pb、Dy、Yb、Tm、Ti、Ba、Sr、Zr、Ta、Ce、Pr、Nd、Er、Al、Li、Nb、Ho、Cr、Te、Mg、Zn、Wの群から選ばれる一種以上の元素を用いることができる。なお、このうち、La、Ce、Pr、Nd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb等の希土類元素の添加によって増幅機能の付与及びその安定化させることができる。
さらに、この石英系ガラス用原料のいくつかの形態について説明する。第1の形態の石英系ガラス用原料は、珪素を含む有機化合物を、テトラヒドロフランを含む有機溶剤に溶解している。第2の形態の石英系ガラス用原料は、硼素、リン、ゲルマニウムのうち一種以上の元素を含む有機化合物を、テトラヒドロフランを含む有機溶剤に溶解している。第3の形態の石英系ガラス用原料は、珪素と硼素を含む複合有機化合物、珪素とリンを含む複合有機化合物及び珪素とゲルマニウムを含む複合有機化合物のうち少なくとも一つの複合有機化合物を、テトラヒドロフランを含む有機溶剤に溶解している。第4の形態の石英系ガラス用原料は、La、Ca、Pb、Dy、Yb、Tm、Ti、Ba、Sr、Zr、Ta、Ce、Pr、Nd、Er、Al、Li、Nb、Ho、Cr、Te、Mg、Zn、Wの群から選ばれた少なくとも一種類の元素を含む有機金属化合物を、テトラヒドロフランを含む有機溶剤に溶解している。第5の形態の石英系ガラス用原料は、La、Ca、Pb、Dy、Yb、Tm、Ti、Ba、Sr、Zr、Ta、Ce、Pr、Nd、Er、Al、Li、Nb、Ho、Cr、Te、Mg、Zn、Wの群から選ばれた少なくとも一種類の元素と珪素とを含む複合有機金属化合物を、テトラヒドロフランを含む有機溶剤に溶解している。
次に、この石英系ガラスの製造方法について説明する。この石英系ガラスの製造方法は、石英系ガラス用原料を気化させて原料ガスとする気化工程と、上記原料ガスに反応ガスを混合して化学反応により基体上に石英系ガラスを堆積させる気相反応堆積工程とを含んでいる。上記製造方法では、石英系ガラス用原料として、上述のテトラヒドロフランを含む有機溶剤を用いた石英系ガラス用原料を用いている。このようにテトラヒドロフランを含む有機溶剤を用いた石英系ガラス用原料を用いることによって、石英系ガラス用原料を気化して原料ガスとする気化工程において、テトラヒドロフランを含む有機溶剤の蒸気を混合することができ、テトラヒドロフランを原料分子に付加することによる気化促進効果により未気化残渣を減少させることができる。また、化学気相反応により石英系ガラス膜を堆積させる気相反応堆積工程においても、テトラヒドロフランを含む有機溶剤の蒸気を混合させることができ、基板表面へのテトラヒドロフラン分子の優先吸着による反応機構の変化が生じ、その結果、被覆埋め込み特性(カバレッジ特性)が良好になると共に、高速合成時において気泡の巻き込みが減少し透明な膜の製造が可能となる。
なお、石英系ガラス用原料としてテトラヒドロフランを含まない原料のみを用いた場合においても、気化工程でテトラヒドロフラン(THF)の蒸気を供給することによって、テトラヒドロフランを原料分子に付加することによる気化促進効果により未気化残渣を減少させることができる。また、気相反応堆積工程でテトラヒドロフランの蒸気を供給することによって、基板表面へのテトラヒドロフラン分子の優先吸着による反応機構の変化が生じ、その結果、被覆埋め込み特性(カバレッジ特性)が良好になると共に、高速合成時において気泡の巻き込みが減少し透明な膜の製造が可能となる。
この石英系ガラスの製造方法において用いる製造装置について説明する。図1は、この石英系ガラスの製造方法に用いる枚葉式CVD成膜装置のブロック図である。この枚葉式CVD成膜装置は、図1に示すように、液体原料タンク1〜5(A〜E)、液体流量制御装置6、バルブ7、気化装置8、原料ガス輸送管9、反応ガス供給管10、枚葉式CVD反応炉11、原料ガス吹き出しノズル12、基板加熱ヒータ13、基板14、排気管15から構成される。
この枚葉式CVD成膜装置における液体原料等の流れについて、図1のブロック図を用いて説明する。まず、液体原料タンク1〜5(A〜E)内の原料は液体流量制御装置6a〜6eとバルブ7a〜7eにより、所定量の原料が所定の流量で気化装置8に送り込まれ、ガス化される。ガス化した原料は原料ガスの凝縮を防止するために必要に応じて加熱された原料ガス輸送管9を通り、原料ガス吹き出しノズル(シャワーヘッド)12にて、反応ガス供給管10から供給される反応ガスと混合、整流され、基板加熱ヒータ13で加熱された基板14へ吹き付けられる。原料ガスと反応ガスとの化学気相反応により基板14上には石英系ガラス膜が堆積する。その後、反応生成ガスと未反応ガスは排気管15から排気される。なお、液体流量制御装置6、バルブ7、気化装置8からなる原料ガス(液体気化)供給系の構成としては、特に上記構成と同一である必要はなく、必要な流量の液体原料がガス化できれば良い。例えば、液体流量制御装置6は、液体原料タンクのガス加圧と液体用マスフローコントローラの組み合わせで行う方法と小型定量ポンプで行う方法を用いてもよい。
石英系ガラス用原料を充填した液体原料タンクについて説明する。この液体原料タンク1〜5には、珪素を含む有機化合物を有機溶剤に溶解した液体原料、各添加元素を含む有機化合物を有機溶剤に溶解した液体原料を充填している。この液体原料のうち少なくとも一つの液体原料は、テトラヒドロフランを含む有機溶剤を用いている。それぞれの液体原料タンクには、珪素、各添加元素の液体原料ごとに充填することができる。これによって、添加元素を所定の添加量に制御することができる。また、製造条件が決まっている場合は単一の液体原料タンクに複数の原料を多元混合溶液の状態で充填してもよい。この場合、この単一の液体原料タンクにはテトラヒドロフランを含む有機溶剤を用いる。さらに、有機溶剤としてテトラヒドロフラン以外の有機溶剤が含まれていてもよい。有機溶剤の中で、概ねテトラヒドロフランの割合は、溶剤の総容量の50%以上が好ましい。有機溶剤の中でのテトラヒドロフランの割合が大きくなる程、上述したテトラヒドロフランの効果は顕著となる。
気化工程について説明する。この気化工程で用いる気化方法としては、定量した液体原料をヒーターにより加熱気化する方法が一般的であるが、これに限られず、種々の気化方法を利用することができる。具体的には、例えば、ノズルから噴霧し、加熱壁面に当てて気化させる方法、液滴に噴霧ガス(キャリアガス)を吹き付けて加熱壁面へ噴霧して気化させる方法、液体原料を加熱した金属スポンジへ染みこませてスポンジ表面から気化させる方法、加熱した金属チューブに通して気化させる方法、複数枚の積層金属板を垂直に貫通する孔に液体原料を流し、孔に垂直な各金属板の間に液体原料を流通させて気化させる方法などを用いることができる。また、これらの方法を複数組み合わせても良い。なお、原料ガス吹き出しノズル12は、ガスの混合方法や基板14への吹き出し方によって様々な方法があり、通常、単数あるいは複数の混合室と、シャワーヘッドと呼ばれる多数の穴のあいた整流噴出板から構成されている。
気相反応堆積工程について説明する。この気相反応堆積工程において用いる反応ガスとしては、酸素、オゾン、亜酸化窒素、酸化窒素、水蒸気のうち少なくとも一種、あるいは2種以上の混合ガスを用いるのが特に効果的である。反応ガスとしてオゾンを用いる場合には、気相中での粒子の生成を抑えるために反応チャンバ内において全反応ガスに対してオゾン含有量を10重量%以下の濃度とすることが特に有効である。なお、反応ガスに対して有機溶剤蒸気の割合が増えると、石英系ガラス膜の堆積速度は相対的に低下する傾向にある。また、CVDチャンバ内において化学反応を起こさせる為の励起手段としては、上述のように熱励起法を用いることができるがこれに限られず、熱励起以外にプラズマ励起法、および、熱励起法とプラズマ励起法を併用したものも有効である。この他、反応のための励起手段として種々の方法を用いることができる。
実施の形態2.
次に、本発明の実施の形態2に係る石英系ガラスの製造方法について説明する。この石英系ガラスの製造方法は、実施の形態1に係る石英系ガラスの製造方法と比較すると、図2に示すように、枚葉式CVD成膜装置に代えてバッチ式CVD成膜装置を用いている点で相違する。このバッチ式CVD成膜装置を用いることで、同時に複数枚の基板に石英系ガラスを一括成膜することができる。図2は、この石英系ガラスの製造方法に用いるバッチ式CVD成膜装置のブロック図である。このバッチ式CVD成膜装置は、バッチ式CVD反応炉16、反応炉加熱ヒータ17とを備えている。なお、このバッチ式CVD成膜装置は、原料ガスの供給までのその他の構成は、図1の枚葉式CVD成膜装置の構成と実質的に同一である。基板14上には化学気相反応により石英系ガラス膜が両面または基板保持の方法によっては片面に堆積する。原料ガスと反応ガスの混合方法や基板14への吹き出し方には様々な方法があり、例えば、本構成のようにバッチ式CVD反応炉16において原料ガスと反応ガスを混合する方法に限られず、事前に原料ガスと反応ガスを混合器により混合する方法、シャワーヘッドの様な吹き出しノズルを用いる方法などを用いることができる。
実施の形態3.
さらに、本発明の実施の形態3に係る石英系ガラスの製造方法について説明する。この石英系ガラスの製造方法は、実施の形態1及び2に係る石英系ガラスの製造方法と比較すると、図3及び図4に示すように、テトラヒドロフランを含む有機溶剤の蒸気を、原料ガスに混合し、気相反応堆積工程でCVD反応炉11、16に導入している点で相違する。このように、化学反応により石英系ガラスを堆積させる気相反応堆積工程にテトラヒドロフランを含む有機溶剤の蒸気を混合することで、基板表面へのテトラヒドロフラン分子の優先吸着による反応機構の変化が生じる。その結果、被覆埋め込み特性(カバレッジ特性)が良好になると共に、高速合成時において気泡の巻き込みが減少し透明な膜の製造が可能となる。
次に、この石英系ガラスの製造方法において用いる製造装置について説明する。まず、図3は、枚葉式CVD成膜装置のブロック図である。また、図4は、バッチ式CVD成膜装置のブロック図である。この石英系ガラスの製造方法は、図3及び図4に示すように、液体原料タンク1にテトラヒドロフランを含む有機溶剤を入れ、溶剤専用気化装置18によってテトラヒドロフランの蒸気を原料ガスとは別に発生させ、原料ガスの生成以後に原料ガスと混合している。なお、液体原料タンク1に充填するテトラヒドロフランを含む有機溶剤は、テトラヒドロフラン以外の有機溶剤が含まれていてもよい。有機溶剤において概ねテトラヒドロフランの割合が溶剤の総容量の50%以上であれば上述のテトラヒドロフランの効果が得られる。また、テトラヒドロフランを含む蒸気と原料ガスとの混合は、図3、図4に示すように、それぞれのCVD反応炉11、16に原料ガスを導入する途中でテトラヒドロフランを含む蒸気を原料ガス輸送管9に合流させているが、これに限られず、原料ガス吹き出しノズル12で混合する方法、枚葉式CVD反応炉11またはバッチ式CVD反応炉16内に直接導入する方法のいずれを用いてもよい。また、これ以外にも化学気相反応時の雰囲気としてテトラヒドロフラン蒸気を含ませることができる種々の方法を用いてもよい。また、気相反応堆積工程において用いる反応ガスは、酸素、オゾン、亜酸化窒素、酸化窒素、水蒸気の少なくとも一種のガスを用いるのが好ましい。さらに、2種以上の混合ガスを用いるのが特に効果的である。また、反応ガスとしてオゾンを用いる場合には、気相での粒子の生成を抑えるために反応ガス全体のオゾン含有量として10重量%以下の濃度とすることが有効である。また、化学反応させる為の励起手段として熱励起によるもののみを記載したが、熱励起以外にプラズマ励起、及び熱励起とプラズマ励起を併用したものも有効である。なお、反応のための励起手段として上記以外の種々の方法を用いることができる。なお、反応ガスに対して溶剤蒸気の割合が増える程、ガラス膜の堆積速度は減少する傾向にある。
実施の形態4.
次に、本発明の実施の形態4に係る石英系ガラスの製造方法について説明する。この石英系ガラスの製造方法は、実施の形態1から3の石英系ガラスの製造方法と比較すると、図5及び図6に示すように、CVD法に代えて火炎堆積法によって石英系ガラス微粒子を基板上に堆積させている点で相違する。この石英系ガラスの製造方法は、石英系ガラス用原料を気化させて原料ガスとする気化工程と、原料ガスを、酸素と水素を主成分とするガスの燃焼による火炎中に導入して石英系ガラスを基体上に堆積させる火炎堆積工程とを含んでいる。この石英系ガラスの製造方法において、石英系ガラス用原料の少なくとも一つにテトラヒドロフランを含む有機溶剤に溶解したものを用いることによって、本来の形態が固体の原料であっても溶液化により液体原料としての扱いが可能となる。これによって、原料が極めて扱いやすくなると共に、高濃度で均一な添加元素の添加が可能となる。
さらに、この石英系ガラスの製造方法について説明する。まず、この石英系ガラスの製造方法で用いる火炎堆積装置について説明する。図5、図6は、酸水素炎によりガラス微粒子を堆積させる火炎堆積装置のブロック図である。この火炎堆積装置は、図5に示すように、水素ガス輸送管19、酸素ガス輸送管20、ガスバーナー21を備えていることを特徴とする。なお、原料ガスの生成までの他の構成は、図1の上記実施の形態1の枚葉式CVD成膜装置と実質的に同一である。また、この火炎堆積装置において、ガスバーナー21は単一の場合に限られず、複数であってもよい。この火炎堆積法は、図5に示すように、気化装置8で気化させた原料ガスをガスバーナー21に導入し、水素輸送管19から供給される水素と、酸素輸送管20から供給される酸素とによる酸水素炎22の火炎中で加水分解反応によって石英系ガラス微粒子を生成させ、基板へ吹き付けて石英系ガラス微粒子を基板上に堆積させている。また、一部の希土類元素を含む原料のような高めの気化温度を必要とするものを添加する場合には、図6に示すように、高温気化原料タンク23、高温気化装置24を通常の気化装置8とは別に設けている。これによって他の液体原料とともに気化させるのが困難な場合にも高温で気化させてその後、他の原料ガスと合流させて用いることができる。また、原料ガスの供給が困難な希土類元素や金属元素のみを溶液原料とし、本構成の原料供給系で供給し、もともとガスとしての供給が容易な原料を別途ガスバーナーに送り込む構成でもよい。
また、この石英系ガラスの製造方法により基板上に堆積させた石英系ガラス微粒子は、その後、加熱溶融させることにより石英系ガラス膜を得ることができる。また、この石英系ガラス微粒子を円筒状に堆積させ、加熱溶融することにより、石英系ガラスファイバ製造用のプリフォームを製造することができる。
実施の形態5.
またさらに、本発明の実施の形態5に係る石英系ガラスの製造方法について説明する。この石英系ガラスの製造方法は、実施の形態4に係る石英系ガラスの製造方法と比較すると、原料ガスへの気化工程に代えて、原料をミスト化するミスト化工程を含む点において相違する。この石英系ガラスの製造方法は、石英系ガラス用原料をミスト化して原料ミストとするミスト化工程と、原料ミストを、酸素と水素を主成分とするガスの燃焼による火炎中に導入して石英系ガラス微粒子を基体上に堆積させる火炎堆積工程とを含んでいることを特徴とする。この石英系ガラスの製造方法において、上記石英系ガラス用原料の少なくとも一つにテトラヒドロフランを含む有機溶剤に溶解したものを用いることによって、本来の形態が固体で、しかも不揮発性の原料であっても溶液化により液体原料としての扱いが可能となる。これにより、原料が極めて扱いやすくなると共に、高濃度で均一な添加元素の添加が可能となる。あるいは、石英系ガラス用原料にテトラヒドロフランを含む有機溶剤を用いない場合には、別にテトラヒドロフランの蒸気を生成しておき、原料ミストとともに酸水素炎に導入することによって上述のテトラヒドロフランの効果を得ることができる。
さらに、この石英系ガラスの製造方法において、原料をミスト化させるミスト化工程について説明する。図7は、原料をミスト(霧)の状態でガスバーナー21に導入し、酸水素炎によりガラス微粒子を堆積させる火炎堆積装置のブロック図である。この火炎堆積装置は、ミスト化工程に関して、噴霧ノズル27、噴霧ガス輸送管28、ミスト輸送ガス導入管29、ミスト生成チャンバ30、ミスト輸送管31からなるミスト化装置を備えている。また、このミスト化工程では、種々のミスト化方法を用いることができる。例えば、図7に示すように、原料溶液をミスト化する方法としてガス噴霧による方法を用いることができる。このガス噴霧によるミスト化方法は、図7に示すように、噴霧ノズル27に原料溶液と噴霧ガスを吹き込むことにより、ミスト生成チャンバ30内にミストを生成させ、ミスト輸送ガス導入管29から供給するミスト輸送ガスによって上記ミストを運び、ミスト輸送管31を経てガスバーナー21に液体原料ミストを供給している。なお、液体原料をミスト化する方法としてガス噴霧による方法に限定されることなく、ポンプ押出しによる機械的加圧方法、超音波素子によるミスト化方法等のいずれか、またはこれらの組み合わせを用いることができる。ミスト化方法として、その他の種々のミスト化方法を用いることができる。また、噴霧ガスとして、窒素、アルゴン、酸素、水素のいずれかまたはそれらの組み合わせが特に有効であるが、特定のガスに限定するものではない。さらに、ミスト輸送ガスは、噴霧ガスと同一のガスを用いてもよく、あるいはその他のガスを用いてもよい。このミスト輸送ガスは、液体原料ミストと反応して気相中で粒子を生成しないガスであれば用いることができる。
次に、火炎堆積工程について説明する。この火炎堆積工程において、酸水素炎22の火炎中での加水分解反応により石英系ガラス微粒子を生成させている。なお、この火炎堆積装置では、ガスバーナー21を複数備えていてもよい。
なお、原料ガスの供給が困難な希土類元素や金属元素の液体原料を上記ミスト化方法によって原料ミストとし、一方、ガスとしての供給が容易な原料を気化させた原料ガスと原料ミストとを合流させて混合してからガスバーナー21に供給してもよい。また、原料ミストとは別に、テトラヒドロフランを含む有機溶剤の蒸気を酸水素炎22に導入する場合には、図7に示すように、液体原料タンク5にテトラヒドロフランを含む有機溶剤を充填し、ガス用マスフローコントローラ25、ガス原料輸送管26を介してガスバーナー21に供給する。なお、ガス化が容易な原料について、上記のテトラヒドロフランを含む有機溶剤と同様に気化して原料ガスとしてガスバーナーに供給し、原料ガスの供給が困難な希土類元素や金属元素等の原料について原料ミストとして供給してもよい。
この製造方法により基板上に堆積させた石英系ガラス微粒子を、加熱溶融させることにより石英系ガラス膜を得ることができる。また、この石英系ガラス微粒子を円筒状に堆積させ、加熱溶融することにより、石英系ガラスファイバ製造用のプリフォームを製造することができる。
[実施例]
以下、本発明の実施例に係る石英系ガラス用原料及び該石英系ガラス用原料を用いた石英系ガラスの製造方法を図面に基づいて詳細に説明する。
実施例1.
本発明の実施例1に係る石英系ガラス用原料と石英系ガラスの製造方法について説明する。まず、この石英系ガラス用原料について説明する。この石英系ガラス用原料は、珪素を含む有機化合物であるテトラエトキシシラン(TEOS)、珪素と硼素とを含む複合有機化合物であるトリストリメチルシリルボレート(B(OSi(CH3)3)3)、珪素とリンとを含む複合有機化合物であるジメチルトリメチルシリルホスファイト((CH3)3SiOP(OCH3)2)/THF溶液(テトラヒドロフランにより3倍容量希釈)、ゲルマニウムを含む有機化合物であるテトラメトキシゲルマニウム/THF溶液(テトラヒドロフランにより5倍容量希釈)である。この石英系ガラス用原料のうち、ジメチルトリメチルシリルホスファイトと、テトラメトキシゲルマニウムについて、それぞれテトラヒドロフランを含む有機溶剤で溶解している。これによって、気化工程では、テトラヒドロフランが原料分子に付加することによる気化促進効果により未気化残渣を減少させることができる。また、気相反応堆積工程においてもテトラヒドロフランを含む蒸気を存在させることができ、基板表面へのテトラヒドロフラン分子の優先吸着による反応機構の変化が生じる。その結果、被覆埋め込み特性(カバレッジ特性)が良好になるとともに、高速合成時において、気泡の巻き込みが減少し、透明な膜を形成することができる。
次に、この石英系ガラスの製造方法について説明する。この石英系ガラスの製造方法は、石英系ガラス用原料を気化させて原料ガスとする気化工程と、原料ガスに反応ガスを混合して化学反応により基体上に石英系ガラスを堆積させる気相反応堆積工程とを含むいわゆるCVD成膜法である。この石英系ガラスの製造方法において用いる製造装置は、図1の枚葉式CVD成膜装置である。この枚葉式CVD成膜装置を用いて、硼素−リン−ゲルマニウム添加シリカガラス厚膜を製造する場合の具体的な手順を示す。まず、気化工程について説明する。図1に示すように、液体原料タンク(A〜E)1〜5に、それぞれ、テトラヒドロフラン、テトラエトキシシラン(TEOS)、トリストリメチルシリルボレート(B(OSi(CH3)3)3)、ジメチルトリメチルシリルホスファイト((CH3)3SiOP(OCH3)2)/THF溶液(テトラヒドロフランにより3倍容量希釈)、テトラメトキシゲルマニウム/THF溶液(テトラヒドロフランにより5倍容量希釈)を充填し、各原料を毎分0.1〜2mlの範囲の流量で混合し、気化装置8へ送り込んだ。なお、テトラヒドロフラン溶液原料の供給量を変えずに、テトラヒドロフランの供給量を増やしたい場合は、テトラヒドロフランタンクからのテトラヒドロフラン供給量で調節した。また、硼素とリンの原料はそれぞれ珪素を含む複合有機化合物を用いた。さらに、気化装置8はガス噴霧ノズルから加熱壁面に液体原料を噴霧して加熱壁面から気化させる加熱気化器を用いた。この噴霧ガスとしてアルゴンガスを用い、毎分100〜1000mlの範囲の流量で使用した。ここで、気化装置8、および原料ガス輸送管9の温度は70〜160℃とした。ただし、ガス噴霧ノズル部分は冷却して室温とした。
次に、気相反応堆積工程について説明する。この気相反応堆積工程で用いる反応ガスは1〜10%オゾン添加の酸素ガスを毎分1〜4lの流量で用いた。原料ガスと反応ガスは原料ガス輸送管9と反応ガス供給管10により原料ガス吹き出しノズル12へ送入し、混合、整流した後、基板14へ吹き付けた。この基板14は、直径150mmのシリコンウエハ又は石英基板を用い、基板加熱ヒータ13で400〜900℃に加熱した。枚葉式CVD反応炉11の圧力は660〜40000Paの範囲とした。上記製造条件により、毎時1〜30μmの堆積速度で気泡のない透明な硼素−リン−ゲルマニウム添加シリカガラス厚膜を基板上に形成することができた。また、同じ条件で、深さ3〜15μm、幅1〜5μmの直線、及び曲線の溝を含む基板に対しても、ボイドのない良好な埋め込みが得られた。
ここで、この石英系ガラス膜を形成する際の成膜条件の一般的な傾向を列記する。気化装置8は噴霧ガス流量が増えるほど、チャンバ内の原料ガス濃度が減少するため、堆積速度が減少する傾向にあった。気化装置8と原料ガス輸送管9の温度は各原料の気化温度以上であれば良いが、気化装置8に関しては、温度の低い原料が壁面に吹き付けられるために設定温度よりも実温度が低くなる傾向にあるので、原料の気化温度よりもやや高めに設定する方が未気化残渣の生成が少なかった。ただし、温度を200℃以上に上げると気化器内での原料の分解による残渣の生成が顕著に起こり始めた。従って、使用する原料に応じて、適宜、気化装置8と原料ガス輸送管9の温度を設定する必要がある。反応ガスは原料ガス吹き出しノズル内において原料ガスと混合され、この部分の温度が高いと予備反応による中間体の生成が起こり易くなり、堆積速度が急激に増大したがパーティクルが生成し易くなった。傾向として、原料ガス吹き出しノズルの温度が高くオゾン濃度が高い程堆積速度は増大するが、この部分の温度とオゾン濃度が高すぎる場合は気相での反応が進行しすぎて成膜不良を引き起こすパーティクルが生成し易くなることが分かった。従って、原料ガス吹き出しノズル12の温度と、反応ガス中のオゾン濃度は相補的に設定する必要がある。例えば、原料ガス吹き出しノズルの温度が200℃程度の場合は、オゾン濃度1〜5%程度が適しており、原料ガス吹き出しノズルの温度が100℃程度の場合はオゾン濃度7〜10%程度でもパーティクルの生成は無かった。CVD反応炉の圧力は、この値が高いほど堆積速度が大きくなるがパーティクルが生成しやすくなる傾向が見られた。ただし、圧力が高い場合でも、基板温度が低くなるとパーティクルは生成されにくくなった。従って、他の製造条件との関係で適宜圧力値を選定すればよい。また、本実施例では、反応炉の圧力として660〜40000Paの減圧CVDの条件下で実施したが、この圧力を大気圧近くに設定した場合は基板温度を300〜500℃とすれば良好な石英系ガラス膜が形成できた。この場合はオゾン濃度が5〜12%とやや高めの方が良好な石英系ガラス膜が得られた。なお、以上の条件は、一実施例であって、好ましい値ではあるが、特定の値に制限するものではない。
また、この石英系ガラスの製造方法によって得られる硼素−リン−ゲルマニウム添加シリカガラス厚膜の組成調整について説明する。この硼素−リン−ゲルマニウム添加シリカガラス厚膜の組成は、各液体原料の供給量を適宜調節することで制御可能であり、これにより石英系ガラス膜の屈折率制御が可能であった。例えば、リンとゲルマニウムを増やし、硼素を減らすことで高屈折率化させることができる。一方、リンとゲルマニウムを減らし、硼素を増やすことで低屈折率化させることができる。このような組成制御によって、例えば、無添加の石英に対して屈折率差をおよそ−0.2(硼素のみ添加)〜5%の範囲で制御可能であった。なお、各添加元素の添加量を増やすことによって、石英系ガラス膜の熱膨張係数は、概ね増加する傾向にあり、基板との熱膨張係数差が大きい場合は、膜のクラック発生を防止するために堆積速度を小さくするなどの処置が必要であった。堆積速度を小さくするには反応炉中での原料ガス濃度を下げる方法によって行うことができるが、これに限られず、反応ガス流量を増やす、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの希釈ガスを導入する方法、送入原料を減らす方法、反応炉圧力を下げる方法、または基板温度を低下させるなどの方法等によって実現することができる。
さらに、得られた石英系ガラスへの熱処理について説明する。形成した硼素−リン−ゲルマニウム添加シリカガラス厚膜はそのままでも安定なガラス膜であったが、この試料を700〜1000℃で空気中又は酸素中で熱処理することによって、赤外光の伝搬損失をやや低下させることができた。これは、熱処理によって成膜時に形成された膜中のOH基が減少するためと思われる。このガラス膜の深さ方向の組成分析を行ったところ、膜表面から垂直に基板までの深さ方向に渡って組成変化の少ない極めて安定した値が得られた。この分析値は、後熱処理の有無での変化は無かった。
またさらに、この石英系ガラスへの添加元素の添加濃度について説明する。この硼素−リン−ゲルマニウム添加シリカガラス厚膜は、添加元素を高濃度で添加した場合でも空気中での安定性が優れていた。一般に、添加元素を高濃度にすると、添加元素がクラスタ的となりガラスとして不安定になりやすい。それに対してこの石英系ガラス膜は、添加元素である硼素とリンの原料に、珪素と硼素を含む複合有機化合物、珪素とリンとを含む複合有機化合物をそれぞれ使用している。このように、原料自身としてすでに酸素を介して珪素と硼素あるいは珪素とリンとがそれぞれ結合した状態を持つことから、高濃度添加時においても均一なガラスを形成しやすいため、添加元素のクラスタ化が生じないものと考えられる。また、ゲルマニウム原料は、珪素との複合有機物ではなく、単体元素のアルコキシドであるが、テトラヒドロフラン溶液であるために、気化後のガス中での分散が良好となり、膜中への均一な添加が可能になったものと思われる。
次に、この石英系ガラスの製造方法において、原料にテトラヒドロフラン溶液を用いたことによる効果について説明する。この実施例においては、リンおよびゲルマニウム原料の有機化合物の有機溶剤としてテトラヒドロフラン溶液を使用している。これにより、原料の気化時、および基板上での反応時の雰囲気にテトラヒドロフラン蒸気が存在することになり、気化工程では原料の気化促進効果による気化器内残渣を低減させることができ、気相反応堆積工程では基板へのテトラヒドロフラン分子の優先吸着が起こり、埋め込み被覆性改善の効果が得られている。さらに、例えば開口幅よりも深さの方が大きい(アスペクト比が大きい)形状の溝の埋め込みが容易となる。また、高速で膜を堆積した場合においても気泡が取り込まれにくくなる。この効果は、原料にテトラヒドロフラン溶液を用いない場合でも、単独にテトラヒドロフラン溶剤タンクを用意し独立にテトラヒドロフランを気化装置へと供給することによっても得ることができる。また、埋め込み被覆性のみの改善であれば、図3の構成のようにテトラヒドロフラン蒸気を原料ガス吹き出しノズルまたはCVD反応炉へ直接送入しても、その効果を得ることができた。なお、原料ガスおよび反応ガスに対して溶剤蒸気の割合が増える程、ガラス膜の堆積速度は減少する傾向にあった。
実施例2.
本発明の実施例2に係る石英系ガラスの製造方法について説明する。まず、この石英系ガラスの製造方法に用いる石英系ガラス用原料について説明する。この石英系ガラス用原料は、珪素を含む有機化合物であるヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、珪素と硼素とを含む複合有機化合物であるトリストリメチルシリルボレート(B(OSi(CH3)3)3)とを用いている。
次に、この石英系ガラスの製造方法は、実施例1に係る石英系ガラスの製造方法と比較すると、珪素及び添加元素の原料にはテトラヒドロフランを含む有機溶剤を用いていない点で相違する。この石英系ガラスの製造方法では、気化工程において、液体原料タンクに充填したテトラヒドロフランを含む有機溶剤からのテトラヒドロフラン蒸気を導入して用い、実施例1と同様にテトラヒドロフランによる気化促進効果を得ている。また、気相反応堆積工程では、基板表面へのテトラヒドロフラン分子の優先吸着による反応機構の変化が生じている。これによって、被覆埋め込み特性(カバレッジ特性)が良好になると共に、高速合成時において気泡の巻き込みが減少し、透明な膜の形成が可能となる。
さらに、この石英系ガラスの製造方法において、図1の枚葉式CVD成膜装置を用いて硼素添加シリカガラス厚膜を製造する具体的な手順を示す。まず、液体原料タンク(A〜C)1〜3にそれぞれ、テトラヒドロフラン、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、トリストリメチルシリルボレート(B(OSi(CH3)3)3)を充填し、各原料を毎分0.1〜2mlの流量で混合し気化装置8へ送り込んだ。気化装置8は液体原料をガス噴霧ノズルから加熱壁面に噴霧し、加熱壁面から気化させる加熱気化器を用いた。この噴霧ガスとして窒素ガスを用い、毎分100〜1000mlで使用した。気化装置8、および原料ガス輸送管9の温度は70〜160℃とした。ただし、ガス噴霧ノズル部分は冷却により室温とした。反応ガスは1〜10%オゾン添加の酸素ガスを用いた。原料ガスと反応ガスは原料ガス輸送管9と反応ガス供給管10により原料ガス吹き出しノズル12へ送入し、混合、整流した後、基板14へ吹き付けた。基板14は直径200mmのシリコンウエハ又は結晶性ガラス板(アルミナ・シリカ系)を用い、基板加熱ヒータ13により400〜900℃に加熱した。枚葉式CVD反応炉11の圧力は660〜40000Paとした。この製造条件により、毎時1〜30μmの堆積速度で気泡のない透明な硼素添加シリカガラス厚膜を基板上に形成することができた。また、同じ条件で、深さ3〜15μm、幅1〜5μmの直線、及び曲線の溝を含む基板に対しても、ボイドのない良好な埋め込みが得られた。
ここで、石英系ガラス膜を形成する際の成膜条件の一般的な傾向を列記する。気化装置8は噴霧ガス流量が増えるほど、チャンバ内の原料ガス濃度が減少するため、堆積速度が減少する傾向にあった。気化装置8と原料ガス輸送管9の温度は各原料の気化温度以上であれば良いが、気化装置8に関しては温度の低い原料が壁面に吹き付けられるために設定温度よりも実温度が低下する傾向にあるので、原料の気化温度よりもやや高めに設定する方が未気化残渣の生成が少なかった。ただし、温度を200℃以上に上げると気化器内での原料の分解による残渣の生成が顕著に起こり始めた。従って、使用する原料に応じて、適宜気化装置と原料ガス輸送管温度を設定する必要がある。反応ガスは原料ガス吹き出しノズル内において原料ガスと混合され、この部分の温度が高いと予備反応による中間体の生成が起こり易くなり、堆積速度が急激に増大したがパーティクルが生成し易くなった。傾向として、原料ガス吹き出しノズルの温度が高くオゾン濃度が高い程堆積速度は増大するが、この部分の温度とオゾン濃度が高すぎる場合は気相での反応が進行しすぎて成膜不良を引き起こすパーティクルが生成し易くなることが分かった。従って、原料ガス吹き出しノズル12の温度と反応ガスのオゾン濃度は相補的に設定する必要がある。例えば、原料ガス吹き出しノズルの温度が200℃程度の場合はオゾン濃度1〜5%程度が適しており、原料ガス吹き出しノズルの温度が100℃程度の場合はオゾン濃度7〜10%程度でもパーティクルの生成は無かった。CVD反応炉の圧力は、この値が高いほど堆積速度が大きくなるがパーティクルが生成しやすくなる傾向が見られた。ただし、圧力が高い場合でも、基板温度が低くなるとパーティクルは生成されにくくなった。従って、他の製造条件との関係で適宜圧力値を選定すればよい。また、本実施例では、反応炉の圧力として660〜40000Paの減圧CVDの条件で実施したが、この圧力を大気圧近くに設定した場合は基板温度を300〜500℃とすれば良好な石英系ガラス膜が形成できた。この場合はオゾン濃度が5〜12%とやや高めの方が良好な石英系ガラス膜が得られた。ただし、以上の条件は一設定例であって、好ましい値ではあるが、特定の値に制限するものではない。
さらに、この石英系ガラスの添加元素の濃度調整について説明する。ここで硼素添加シリカガラス厚膜の各添加元素の組成は、液体原料の供給量を適宜調節することで制御できる。例えば、硼素を減らすことで高屈折率化でき、また逆に、硼素を増やすことで低屈折率化させることができる。この様な組成制御によって、例えば、無添加の石英に対して屈折率差がおよそ−0.2〜0%(添加無し)の範囲で制御可能であった。なお、硼素の添加量を増やすことによって、ガラス膜の熱膨張係数は、一部の変曲点領域を除いて増加する傾向にあった。従って、基板との熱膨張係数差が大きい場合は、堆積速度を小さくするなどの処置が必要な場合があった。堆積速度を小さくするには反応炉中での原料ガス濃度を下げる方法によって実現することができるが、これに限られず、反応ガス流量を増やす方法、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの希釈ガスを導入する方法、送入原料を減らす方法、反応炉圧力を下げる方法、または基板温度を低下させるなどの方法を用いることができる。
またさらに、この石英系ガラスの製造方法における熱処理について説明する。この実施例で形成した硼素添加シリカガラス厚膜はそのままでも安定なガラス膜であったが、この試料を700〜1000℃で空気中か酸素中で熱処理することによって、赤外光の伝搬損失はやや低下する傾向にあった。これは、熱処理によって膜中のOH基が減少するためと思われる。また、このガラス膜の深さ方向の組成分析を行ったところ、膜表面から基板まで垂直に深さ方向に渡って組成変化が小さい極めて安定した値が得られた。この分析値は、後熱処理の有無での変化は無かった。また、添加元素を高濃度で添加した場合でも空気中での安定性が優れていた。一般に、高濃度で硼素を添加すると、硼素がクラスタ的となりガラスとして不安定になりやすく、後熱処理を施さないと空気中の水分のと反応により変質し易い。これに対して本ガラス膜は、硼素を高濃度で添加した場合においても、後熱処理をしなくとも比較的安定であった。これは、硼素原料として珪素と硼素とを含む複合有機化合物を使用しており、原料自身としてすでに酸素を介して珪素と硼素が結合した状態を持つことから、硼素を高濃度で添加した場合においても均一な石英系ガラスを形成しやすいためと考えられる。
次に、この石英系ガラスの製造方法において、気化工程においてテトラヒドロフラン蒸気を導入する効果について説明する。この実施例においては、単独にテトラヒドロフラン溶剤タンクを用意し、気化工程において独立にテトラヒドロフランを気化装置へと供給している。これにより、原料の気化時、および基板上での反応時の雰囲気にテトラヒドロフラン蒸気を存在させることができる。これによって、気化工程では原料の気化促進効果による気化器内残渣を低減させることができる。また、気相反応堆積工程では基板へのテトラヒドロフラン分子の優先吸着が起こり、埋め込み被覆性改善の効果が得られている。さらに、例えば開口幅よりも深さの方が大きい(アスペクト比が大きい)形状の溝の埋め込みが容易となる。また、高速で膜を堆積した場合においても気泡が取り込まれにくくなる。また、埋め込み被覆性のみの改善であれば、図3の構成の様にテトラヒドロフラン蒸気を原料ガス吹き出しノズル、またはCVD反応炉へ直接送入しても、その効果を得ることができた。なお、原料ガス、および反応ガスに対して溶剤蒸気の割合が増える程、石英系ガラス膜の堆積速度は減少する傾向にあった。
実施例3.
本発明の実施例3に係る石英系ガラス用原料と、石英系ガラスの製造方法について説明する。まず、この石英系ガラス用原料について説明する。この石英系ガラス用原料は、珪素を含む有機化合物であるテトラメトキシシラン(TMOS)、硼素を含む有機化合物であるトリイソプロポキシボロン(B(i−OC3H7)3)/THF溶液(テトラヒドロフランにより3倍容量希釈)、リンを含む有機化合物であるトリエチルホスフェート(PO(OC2H5)3)/THF溶液(テトラヒドロフランにより3倍容量希釈)、ゲルマニウムを含む有機化合物であるテトラエトキシゲルマニウム/THF溶液(テトラヒドロフランにより3倍容量希釈)を用いている。この石英系ガラス用原料のうち、トリイソプロポキシボロンと、トリエチルホスフェートと、テトラエトキシゲルマニウムについて、それぞれテトラヒドロフランを含む有機溶剤で溶解している。これによって、気化工程では、テトラヒドロフランが原料分子に付加することによる気化促進効果により未気化残渣を減少させることができる。また、気相反応堆積工程においてもテトラヒドロフランを含む蒸気を存在させることができ、基板表面へのテトラヒドロフラン分子の優先吸着による反応機構の変化が生じる。その結果、被覆埋め込み特性(カバレッジ特性)が良好になるとともに、高速合成時において、気泡の巻き込みが減少し、透明な膜を形成することができる。
次に、この石英系ガラスの製造方法について説明する。この石英系ガラスの製造方法は、実施例1に係る石英系ガラスの製造方法と比較すると、気化工程において、加熱によって気化させる気化装置を用いた点、及び、気相反応堆積工程において、反応ガスにオゾンを含有しない酸素ガスを用いた点で相違する。この石英系ガラスの製造方法によって、硼素−リン−ゲルマニウム添加シリカガラス厚膜を製造する場合の具体的な手順を示す。まず、気化工程について説明する。図1の枚葉式CVD成膜装置において、液体原料タンク(A〜E)1〜5にそれぞれ、テトラヒドロフラン、テトラメトキシシラン(TMOS)、トリイソプロポキシボロン(B(i−OC3H7)3)/THF溶液(テトラヒドロフランにより3倍容量希釈)、トリエチルホスフェート(PO(OC2H5)3)/THF溶液(テトラヒドロフランにより3倍容量希釈)、テトラエトキシゲルマニウム/THF溶液(テトラヒドロフランにより3倍容量希釈)を充填し、各原料を0.1〜2ml毎分の流量で混合し気化装置8へ送り込んだ。テトラヒドロフラン溶液原料の供給量を変えずに、テトラヒドロフランの供給量を増やしたい場合はテトラヒドロフランタンクからのテトラヒドロフラン供給量で調節した。また、気化装置8は加熱によって気化させるタイプを用いた。気化装置8、および原料ガス輸送管9の温度は70〜190℃とした。
次に、気相反応堆積工程について説明する。この気相反応堆積工程における反応ガスは酸素ガスを用いた。原料ガスと反応ガスは原料ガス輸送管9と反応ガス供給管10により原料ガス吹き出しノズル12へ送入し、混合、整流した後、基板14へ吹き付けた。この基板14はシリコンウエハ又は石英基板を用い、基板加熱ヒータ13により600〜900℃に加熱した。枚葉式CVD反応炉11の圧力は660〜40000Paとした。この製造条件により、毎時1〜10μmの堆積速度で気泡のない透明な硼素−リン−ゲルマニウム添加シリカガラス厚膜を基板上に形成することができた。また、同じ条件で、深さ3〜15μm、幅1〜5μmの直線、及び曲線の溝を含む基板に対しても、ボイドのない良好な埋め込みが得られた。
ここで、石英系ガラス膜を形成する際の成膜条件の一般的な傾向を列記する。気化装置8と原料ガス輸送管9の温度は各原料の気化温度以上であれば良いが、気化装置8に関しては温度の低い原料が流入するために設定温度よりも実温度が低下する傾向にあるので、原料の気化温度よりもやや高めに設定する方が未気化残渣の生成が少なかった。ただし、温度を200℃以上に上げると気化器内での原料の分解による残渣の生成が顕著に起こり始めた。従って、使用する原料に応じて、適宜気化装置と原料ガス輸送管温度を設定する必要がある。反応ガスは原料ガス吹き出しノズル内において原料ガスと混合されるので、この部分の温度が高いと予備反応による中間体の生成が起こり易くなり、堆積速度が増大した。反応ガスとして酸素を用いた為、オゾンを添加した場合と比較して、中間体の生成が起こりにくいために堆積速度は低めとなり、基板温度が低温の場合、成膜速度が極端に低下した。CVD反応炉の圧力が高いほど堆積速度が大きくなるがパーティクルが生成しやすくなる傾向があった。なお、基板温度が低くなると、パーティクルは生成されにくくなった。従って、他の製造条件との関係で適宜圧力値を選定すればよい。また、本実施例では、反応炉の圧力として660〜40000Paの減圧CVDの条件で実施したが、この圧力を大気圧近くに設定しても良好な石英系ガラス膜が形成できるが、基板面内の均一性がやや低下するので、大気圧より低い圧力下で実施することが好ましい。なお、以上の条件は一実施例であって、好ましい値ではあるが、これに限定するものではない。
また、この石英系ガラスの添加元素の濃度調整について説明する。ここで硼素−リン−ゲルマニウム添加シリカガラス厚膜の組成は各液体原料の供給量を適宜調節することで制御可能であり、これにより石英系ガラス膜の屈折率制御が可能であった。例えば、リンとゲルマニウムを増やし、硼素を減らすことで高屈折率化させることができる。また、リンとゲルマニウムを減らし、硼素を増やすことで低屈折率化させることができる。このような組成制御によって、例えば、無添加の石英に対して屈折率差がおよそ−0.2(硼素のみ添加)〜5%の範囲で制御可能であった。なお、各添加元素の添加量を増やすことによって、ガラス膜の熱膨張係数は、概ね増加する傾向にあるので、基板との熱膨張係数差が大きい場合は、膜のクラック発生を防止するために堆積速度を小さくするなどの処置が必要であった。堆積速度を小さくするには反応炉中での原料ガス濃度を下げる方法によって実現できるが、これに限られず、例えば、反応ガス流量を増やす方法、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの希釈ガスを導入する方法、送入原料を減らす方法、反応炉圧力を下げる方法、または基板温度を低下させる方法などの種々の方法によって堆積速度を低下させることができる。
次に、この石英系ガラスの製造方法における熱処理について説明する。この試料を700〜1000℃、酸素中で熱処理を行った。熱処理を行わない場合は、高湿環境下では膜の変質が見られる場合があるので熱処理を行うことが好ましい。この熱処理によって、赤外光の伝搬損失を低下させることができる。これは、熱処理によって膜中の添加元素および珪素の酸素との結合が安定化されるのと、膜中のOH基が減少するためと思われる。本ガラス膜の深さ方向の組成分析を行ったところ、膜表面から基板方向に渡って組成変化の少ない極めて安定した値が得られた。この分析値は、後熱処理の有無での変化は無かった。なお、添加元素を高濃度で添加した場合には空気中での安定性がやや劣るので、後熱処理を行うことが好ましい。一般に、添加元素を高濃度で添加すると、添加元素がクラスタ的となりガラスとして不安定になりやすく、これが後熱処理により改善されるためと思われる。また、本実施例においては、硼素、リンおよびゲルマニウム原料としてテトラヒドロフラン溶液を使用している。これにより、原料の気化時、および基板上での反応時の雰囲気にテトラヒドロフラン蒸気が存在することになり、気化工程では原料の気化促進効果による気化器内残渣の低減が、気相反応堆積工程では基板へのテトラヒドロフラン分子の優先吸着が起こり、埋め込み被覆性改善の効果が得られている。さらに、例えば開口幅よりも深さの方が大きい(アスペクト比が大きい)形状の溝の埋め込みが容易となる。また、高速で膜を堆積した場合においても気泡が取り込まれにくくなる。この効果は、原料にテトラヒドロフラン溶液を用いない場合でも、単独にテトラヒドロフラン溶剤タンクを用意し独立にテトラヒドロフランを気化装置へと供給することによっても得ることができる。また、埋め込み被覆性のみの改善であれば、図3の構成の様にテトラヒドロフラン蒸気を原料ガス吹き出しノズル、またはCVD反応炉へ直接送入しても、その効果を得ることができた。ただし、原料ガス、および反応ガスに対して溶剤蒸気の割合が増える程、ガラス膜の堆積速度は減少する傾向にあった。
実施例4.
本発明の実施例4に係る石英系ガラス用原料と、石英系ガラスの製造方法について説明する。まず、この石英系ガラス用原料について説明する。この石英系ガラス用原料は、珪素を含む有機化合物であるテトラエトキシシラン(TEOS)/THF溶液(テトラヒドロフランにより2倍容量希釈)、硼素を含む有機化合物であるトリイソプロポキシボロン(B(i−OC3H7)3)/THF溶液(テトラヒドロフランにより3倍容量希釈)、リンを含む有機化合物であるトリエチルホスフェート(PO(OC2H5)3)/THF溶液(テトラヒドロフランにより3倍容量希釈)、ゲルマニウムを含む有機化合物であるテトラエトキシゲルマニウム/THF溶液(テトラヒドロフランにより3倍容量希釈)を用いている。この石英系ガラス用原料は、珪素及び添加元素の全ての原料について、それぞれテトラヒドロフランを含む有機溶剤で溶解している。これによって、気化工程では、テトラヒドロフランが原料分子に付加することによる気化促進効果により未気化残渣を減少させることができる。また、気相反応堆積工程においてもテトラヒドロフランを含む蒸気を存在させることができ、基板表面へのテトラヒドロフラン分子の優先吸着による反応機構の変化が生じる。その結果、被覆埋め込み特性(カバレッジ特性)が良好になるとともに、高速合成時において、気泡の巻き込みが減少し、透明な膜を形成することができる。
次に、この石英系ガラスの製造方法について説明する。この石英系ガラスの製造方法は、実施例3に係る石英系ガラスの製造方法と比較すると、珪素の原料にテトラヒドロフラン溶液を用いた点で相違する。この石英系ガラスの製造方法によって、硼素−リン−ゲルマニウム添加シリカガラス厚膜を製造する場合の具体的な手順を示す。まず、気化工程について説明する。図1の枚葉式CVD成膜装置において、液体原料タンク(A〜E)1〜5にそれぞれ、テトラヒドロフラン、テトラエトキシシラン(TEOS)/THF溶液(テトラヒドロフランにより2倍容量希釈)、トリイソプロポキシボロン(B(i−OC3H7)3)/THF溶液(テトラヒドロフランにより3倍容量希釈)、トリエチルホスフェート(PO(OC2H5)3)/THF溶液(テトラヒドロフランにより3倍容量希釈)、テトラエトキシゲルマニウム/THF溶液(テトラヒドロフランにより3倍容量希釈)を充填し、各原料を0.1〜2ml毎分の流量で混合し気化装置8へ送り込んだ。テトラヒドロフラン溶液原料の供給量を変えずに、テトラヒドロフランの供給量を増やしたい場合はテトラヒドロフランタンクからのテトラヒドロフラン供給量で調節した。また、気化装置8は、液体原料をガス噴霧ノズルから加熱壁面に噴霧して加熱壁面から気化させるタイプを用いた。この噴霧ガスには窒素ガスを用い、毎分100〜1000mlの流量で用いた。気化装置8、および原料ガス輸送管9の温度は70〜190℃とした。
次に、気相反応堆積工程について説明する。この気相反応堆積工程における反応ガスは1〜10%オゾン添加の酸素ガスを、毎分1〜4lの流量で用いた。原料ガスと反応ガスは原料ガス輸送管9と反応ガス供給管10により原料ガス吹き出しノズル12へ送入し、混合、整流した後、基板14へ吹き付けた。この基板14はシリコンウエハ又は石英基板を用い、基板加熱ヒータ13により400〜900℃に加熱した。枚葉式CVD反応炉11の圧力は660〜40000Paとした。この製造条件により、毎時1〜30μmの堆積速度で気泡のない透明な硼素−リン−ゲルマニウム添加シリカガラス厚膜を基板上に形成することができた。また、同じ条件で、深さ3〜15μm、幅1〜5μmの直線、及び曲線の溝を含む基板に対しても、ボイドのない良好な埋め込みが得られた。
ここで、石英系ガラス膜を形成する際の成膜条件の一般的な傾向を列記する。気化装置8と原料ガス輸送管9の温度は各原料の気化温度以上であれば良いが、気化装置8に関しては温度の低い原料が流入するために設定温度よりも実温度が低下する傾向にある。そこで、気化装置8の温度は原料の気化温度よりもやや高めに設定する方が未気化残渣の生成が少なかった。ただし、温度を200℃以上に上げると気化器内での原料の分解による残渣の生成が顕著に起こり始めた。従って、使用する原料に応じて、適宜気化装置と原料ガス輸送管温度を設定する必要がある。反応ガスは原料ガス吹き出しノズル内において原料ガスと混合されるので、この部分の温度が高いと予備反応による中間体の生成が起こり易くなり、堆積速度が増大した。その一方、パーティクルが生成しやすくなった。また、原料ガス吹き出しノズルの温度が高く、オゾン濃度が高いほど堆積速度は増大するが、この部分の温度とオゾン濃度とが共に高すぎると気相での反応が進行しすぎて成膜不良を引き起こすパーティクルが生成しやすくなる。したがって、原料ガス吹き出しノズル12の温度と反応ガスのオゾン濃度は相補的に設定する必要がある。例えば、原料ガス吹き出しノズルの温度が200℃程度の場合は、オゾン濃度1〜5%程度が適しており、原料ガス吹き出しノズルの温度が100℃程度の場合には、オゾン濃度7〜10%程度でもパーティクルの精製はなかった。CVD反応炉の圧力は、この値が高いほど堆積速度が大きくなるが、パーティクルが生成しやすくなる。なお、圧力が高い場合でも、基板温度が低くなると、パーティクルは生成されにくくなった。従って、他の製造条件との関係で適宜圧力値を選定すればよい。また、本実施例では、反応炉の圧力として660〜40000Paの減圧CVDの条件で実施したが、この圧力を大気圧近くに設定した場合は、基板温度を300〜500℃とすることによって良好な石英系ガラス膜が形成できた。この場合、オゾン濃度は5〜12%とやや高めの方が良好な石英系ガラス膜が得られた。なお、以上の条件は一実施例であって、好ましい値ではあるが、これに限定するものではない。
また、この石英系ガラスの添加元素の濃度調整について説明する。ここで硼素−リン−ゲルマニウム添加シリカガラス厚膜の組成は各液体原料の供給量を適宜調節することで制御可能であり、これにより石英系ガラス膜の屈折率制御が可能であった。例えば、リンとゲルマニウムを増やし、硼素を減らすことで高屈折率化させることができる。また、リンとゲルマニウムを減らし、硼素を増やすことで低屈折率化させることができる。このような組成制御によって、例えば、無添加の石英に対して屈折率差がおよそ−0.2(硼素のみ添加)〜5%の範囲で制御可能であった。なお、各添加元素の添加量を増やすことによって、ガラス膜の熱膨張係数は、概ね増加する傾向にあるので、基板との熱膨張係数差が大きい場合は、膜のクラック発生を防止するために堆積速度を小さくするなどの処置が必要であった。堆積速度を小さくするには反応炉中での原料ガス濃度を下げる方法によって実現できるが、これに限られず、例えば、反応ガス流量を増やす方法、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの希釈ガスを導入する方法、送入原料を減らす方法、反応炉圧力を下げる方法、または基板温度を低下させる方法などの種々の方法によって堆積速度を低下させることができる。
さらに、この石英系ガラスの製造方法における熱処理について説明する。この試料を700〜1000℃、酸素中で熱処理を行った。熱処理を行わない場合は、高湿環境下では膜の変質が見られる場合があるので熱処理を行うことが好ましい。この熱処理によって、赤外光の伝搬損失を低下させることができる。これは、熱処理によって膜中の添加元素および珪素の酸素との結合が安定化されるのと、膜中のOH基が減少するためと思われる。本ガラス膜の深さ方向の組成分析を行ったところ、膜表面から基板方向に渡って組成変化の少ない極めて安定した値が得られた。この分析値は、後熱処理の有無での変化は無かった。なお、添加元素を高濃度で添加した場合には空気中での安定性がやや劣るので、後熱処理を行うことが好ましい。一般に、添加元素を高濃度で添加すると、添加元素がクラスタ的となりガラスとして不安定になりやすく、これが後熱処理により改善されるためと思われる。
またさらに、この石英系ガラスの製造方法において、原料にテトラヒドロフラン溶液を用いることによる効果について説明する。この実施例においては、珪素及び添加元素の全ての原料にテトラヒドロフラン溶液を使用している。これにより、原料の気化時、および基板上での反応時の雰囲気にテトラヒドロフラン蒸気が存在することになり、気化工程においては、テトラヒドロフランによる原料の気化促進効果により気化器内残渣を低減させることができ、気相反応堆積工程では、基板へのテトラヒドロフラン分子の優先吸着が起こり、埋め込み被覆性改善の効果が得られている。さらに、例えば開口幅よりも深さの方が大きい(アスペクト比が大きい)形状の溝の埋め込みが容易となる。また、高速で膜を堆積した場合においても気泡が取り込まれにくくなる。以上のように原料としてテトラヒドロフラン溶液を使用することによって、気化工程における原料気化特性の改善と、気相反応堆積工程における埋め込み被覆性を改善することができる。また、本実施例では全ての原料にテトラヒドロフランを用いていたが、少なくとも一つの原料にテトラヒドロフラン溶液を用いることによって同様の効果を得ることができる。一方、比較例として、原料にテトラヒドロフラン溶液を使用しなかった場合は、気化器内残渣が多くなり、さらに埋め込み被覆性が明らかに劣っていた。また、この比較例について、熱処理の前後で深さ方向の組成分析を行ったところ、熱処理の前後ともに添加元素のクラスタ化によると思われるわずかな組成のふらつきが見られた。さらに、この比較例では、本実施例に比べて、熱処理の前後における屈折率の変化が大きかった。このように、本実施例では、原料にテトラヒドロフラン溶液を使用しているので、比較例と比べて気化工程における原料気化特性を改善し、気相反応堆積工程における埋め込み被覆性を改善することができる。さらに、テトラヒドロフラン溶液を用いているので原料ガスの総量が増えて流量制御を容易に行うことができ、深さ方向での膜組成変化を抑制することができる。
実施例5.
本発明の実施例5に係る石英系ガラス用原料と、石英系ガラスの製造方法について説明する。まず、この石英系ガラス用原料について説明する。この石英系ガラス用原料は、珪素を含む有機化合物であるテトラメトキシシラン(TMOS)、硼素を含む有機化合物であるトリイソプロポキシボロン(B(i−OC3H7)3)/THF溶液(テトラヒドロフランにより3倍容量希釈)、リンを含む有機化合物であるトリエチルホスフェート(PO(OC2H5)3)/THF溶液(テトラヒドロフランにより3倍容量希釈)、ゲルマニウムを含む有機化合物であるテトラエトキシゲルマニウム/THF溶液(テトラヒドロフランにより3倍容量希釈)を用いている。この石英系ガラス用原料のうち、トリイソプロポキシボロンと、トリエチルホスフェートと、テトラエトキシゲルマニウムについて、それぞれテトラヒドロフランを含む有機溶剤で溶解している。これによって、気化工程では、テトラヒドロフランが原料分子に付加することによる気化促進効果により未気化残渣を減少させることができる。また、気相反応堆積工程においてもテトラヒドロフランを含む蒸気を存在させることができ、基板表面へのテトラヒドロフラン分子の優先吸着による反応機構の変化が生じる。その結果、被覆埋め込み特性(カバレッジ特性)が良好になるとともに、高速合成時において、気泡の巻き込みが減少し、透明な膜を形成することができる。
次に、この石英系ガラスの製造方法について説明する。この石英系ガラスの製造方法は、実施例3に係る石英系ガラスの製造方法と比較すると、気相反応堆積工程において、化学反応として熱励起ではなく、プラズマ励起によって行っている点で相違する。この石英系ガラスの製造方法において、硼素−リン−ゲルマニウム添加シリカガラス厚膜を製造する場合の具体的な手順を示す。まず、気化工程について説明する。液体原料タンク(A〜E)1〜5にそれぞれ、テトラヒドロフラン、テトラメトキシシラン(TMOS)、トリイソプロポキシボロン(B(i−OC3H7)3)/THF溶液(テトラヒドロフランにより3倍容量希釈)、トリエチルホスフェート(PO(OC2H5)3)/THF溶液(テトラヒドロフランにより3倍容量希釈)、テトラエトキシゲルマニウム/THF溶液(テトラヒドロフランにより3倍容量希釈)を充填し、各原料を毎分0.1〜2mlの流量で混合し気化装置8へ送り込んだ。テトラヒドロフラン溶液原料の供給量を変えずに、テトラヒドロフランの供給量を増やしたい場合はテトラヒドロフランタンクからのテトラヒドロフラン供給量で調節した。気化装置8は加熱のみのタイプを用いた。気化装置8、および原料ガス輸送管9の温度は70〜190℃とした。
次に、気相反応堆積工程について説明する。気相反応堆積工程における反応ガスは酸素ガスを用いた。原料ガスと反応ガスは原料ガス輸送管9と反応ガス供給管10により原料ガス吹き出しノズル12へ送入し、混合、整流した後、基板14へ吹き付けた。基板14はシリコンウエハ又は石英基板を用い、基板加熱ヒータ13により200〜300℃に加熱した。CVD反応炉11の圧力は130〜2700Pa、励起プラズマは周波数13.56MHz、出力500Wとし、原料ガス吹き出しノズルと基板の間の空間をプラズマ化した。この製造条件により、毎時1〜5μmの堆積速度で透明な硼素−リン−ゲルマニウム添加シリカガラス厚膜を基板上に形成することができた。
また、この石英系ガラスの製造方法において、原料にテトラヒドロフラン溶液を用いることによる効果について説明する。この実施例においては、添加元素である硼素、リンおよびゲルマニウム原料にテトラヒドロフラン溶液を使用している。これにより、気化工程において原料を気化させる時、および気相反応工程において基板上での反応時の雰囲気にテトラヒドロフラン蒸気を存在させることができる。これによって、気化工程では原料の気化促進効果による気化器内残渣を低減させることができる。また、気相反応工程では基板へのテトラヒドロフラン分子の優先吸着が起こり、埋め込み被覆性改善の効果が得られている。
実施例6.
本発明の実施例6に係る石英系ガラス用原料と、石英系ガラスの製造方法について説明する。まず、この石英系ガラス用原料について説明する。この石英系ガラス用原料は、珪素を含む有機化合物であるテトラエトキシシラン(TEOS)、珪素と硼素とを含む複合有機化合物であるトリストリメチルシリルボレート(B(OSi(CH3)3)3)、珪素とリンとを含む複合有機化合物であるジメチルトリメチルシリルホスファイト((CH3)3SiOP(OCH3)2)/THF溶液(テトラヒドロフランにより3倍容量希釈)を用いている。この石英系ガラス用原料のうち、ジメチルトリメチルシリルホスファイトについて、テトラヒドロフランを含む有機溶剤で溶解している。これによって、気化工程では、テトラヒドロフランが原料分子に付加することによる気化促進効果により未気化残渣を減少させることができる。また、気相反応堆積工程においてもテトラヒドロフランを含む蒸気を存在させることができ、基板表面へのテトラヒドロフラン分子の優先吸着による反応機構の変化が生じる。その結果、被覆埋め込み特性(カバレッジ特性)が良好になるとともに、高速合成時において、気泡の巻き込みが減少し、透明な膜を形成することができる。
次に、この石英系ガラスの製造方法について説明する。この石英系ガラスの製造方法は、実施例1に係る石英系ガラスの製造方法と比較すると、図2に示すように、枚葉式CVD成膜装置に代えてバッチ式CVD成膜装置を用いている点で相違する。この石英系ガラスの製造方法によって、硼素−リン添加シリカガラス厚膜を製造する場合の具体的な手順を示す。まず、気化工程について説明する。図2に示すように、液体原料タンク(A〜D)1〜4にそれぞれ、テトラヒドロフラン、テトラエトキシシラン(TEOS)、トリストリメチルシリルボレート(B(OSi(CH3)3)3)、ジメチルトリメチルシリルホスファイト((CH3)3SiOP(OCH3)2)/THF溶液(テトラヒドロフランにより3倍容量希釈)を充填し、各原料を毎分1〜6mlの流量で混合し気化装置8へ送り込んだ。テトラヒドロフラン溶液原料の供給量を変えずに、テトラヒドロフランの供給量を増やしたい場合はテトラヒドロフランタンクからのテトラヒドロフラン供給量で調節した。気化装置8は、液体原料をガス噴霧ノズルから加熱壁面に噴霧し、加熱壁面から気化させる加熱気化器を用い、この噴霧ガスとしてヘリウムガスを、毎分100〜1000mlの流量で使用した。気化装置8および原料ガス輸送管9の温度は70〜160℃とした。ただし、ガス噴霧ノズル部分は冷却により室温とした。
次に、気相反応堆積工程について説明する。気相反応堆積における反応ガスは酸素ガスを用いた。原料ガスと反応ガスは原料ガス輸送管9と反応ガス供給管10によりバッチ式CVD反応炉16へ送入した。この基板14は直径150mmのシリコンウエハを用い、反応炉加熱ヒータ17により600〜900℃に加熱した。反応炉の圧力は660〜40000Paとした。この製造条件により、毎時1〜20μmの堆積速度で気泡のない透明な硼素−リン添加シリカガラス厚膜を一度に多数の基板に対して均一に形成することができた。各基板間での膜厚分布もほとんど見られなかった。
ここで、石英系ガラス膜を形成する際の成膜条件の一般的な傾向を列記する。気化装置8と原料ガス輸送管9の温度は各原料の気化温度以上であれば良いが、気化装置8に関しては温度の低い原料が流入するために設定温度よりも実温度が低下する傾向にあるので、原料の気化温度よりもやや高めに設定する方が未気化残渣の生成が少なかった。ただし、温度を200℃以上に上げると気化器内での原料の分解による残渣の生成が顕著に起こり始めた。従って、使用する原料に応じて、適宜気化装置と原料ガス輸送管温度を設定する必要がある。反応ガスとして酸素を用いた為、オゾンを添加した場合と比較して、中間体の生成が起こりにくいために堆積速度は低めであるが、基板間の膜厚均一性は良好となった。また、本実施例では、反応炉の圧力として660〜40000Paの減圧CVDの条件で実施したが、この圧力を大気圧近くに設定しても良好な石英系ガラス膜が得られた。なお、以上の製造条件は一実施例であって、好ましい値ではあるが、これに限定するものではない。
次に、この石英系ガラスの添加元素の濃度調整について説明する。ここで硼素−リン−ゲルマニウム添加シリカガラス厚膜の組成は各液体原料の供給量を適宜調節することで制御可能であり、これにより石英系ガラス膜の屈折率制御が可能であった。例えば、リンとゲルマニウムを増やし、硼素を減らすことで高屈折率化させることができる。また、リンとゲルマニウムを減らし、硼素を増やすことで低屈折率化させることができる。この様な組成制御によって、例えば、無添加の石英に対して屈折率差をおよそ−0.2(硼素のみ添加)〜5%の範囲で制御可能であった。なお、各添加元素の添加量を増やすことによって、ガラス膜の熱膨張係数は、概ね増加する傾向にあるので、基板との熱膨張係数差が大きい場合は、膜のクラック発生を防止するために堆積速度を小さくするなどの処置が必要であった。堆積速度を小さくするには反応炉中での原料ガス濃度を下げる方法によって実現できるが、これに限定されず、例えば、反応ガス流量を増やす方法、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの希釈ガスを導入する方法、送入原料を減らす方法、反応炉圧力を下げる方法、または基板温度を低下させる方法などの種々の方法を用いて堆積速度を低下させることができる。
また、この石英系ガラスの製造方法における熱処理について説明する。この試料を700〜1000℃、酸素中で熱処理を行った。熱処理を行わない場合は、高湿環境下では膜の変質が見られる場合があるので、熱処理を行うことが好ましい。この熱処理によって、赤外光の伝搬損失を低下させることができる。これは、熱処理によって膜中の添加元素および珪素の酸素との結合が安定化されるためと、膜中のOH基が減少するためと思われる。この石英系ガラス膜の深さ方向の組成分析を行ったところ、膜表面から基板方向に渡って組成変化の少ない極めて安定した値が得られた。この分析値は、後熱処理の有無での変化は無かった。なお、添加元素を高濃度で添加した場合には空気中での安定性がやや劣るので、後熱処理を行うことが好ましい。一般に、添加元素を高濃度で添加すると、添加元素がクラスタ的となりガラスとして不安定になりやすく、これが後熱処理により改善されるためと思われる。
さらに、この石英系ガラスの製造方法において、原料にテトラヒドロフラン溶液を用いている効果について説明する。この実施例においては、硼素、リンおよびゲルマニウム原料にテトラヒドロフラン溶液を使用している。これにより、気化工程において原料を気化させる時、および気相反応堆積工程において、基板上での反応時の雰囲気にテトラヒドロフラン蒸気を存在させることができる。これにより、気化工程では原料の気化促進効果による気化器内残渣を低減させることができる。また、気相反応堆積工程では基板へのテトラヒドロフラン分子の優先吸着が起こり、埋め込み被覆性改善の効果が得られている。さらに、例えば開口幅よりも深さの方が大きい(アスペクト比が大きい)形状の溝の埋め込みが容易となる。また、高速で膜を堆積した場合においても気泡が取り込まれにくくなる。なお、上述のテトラヒドロフランによる効果は、原料にテトラヒドロフラン溶液を用いない場合にも、単独にテトラヒドロフラン溶剤タンクを用意し、気化工程において独立にテトラヒドロフランを気化装置8へと供給することによって得ることができる。また、埋め込み被覆性のみを改善したい場合であれば、図4の構成のように、気相反応堆積工程において、テトラヒドロフラン蒸気を原料ガス吹き出しノズル、またはCVD反応炉へ直接送入しても、その効果を得ることができた。なお、原料ガス、および反応ガスに対して溶剤蒸気の割合が増える程、ガラス膜の堆積速度は減少する傾向にあった。
実施例7.
本発明の実施例7に係る石英系ガラスの製造方法について説明する。まず、この石英系ガラスの製造方法に用いる石英系ガラス用原料について説明する。この石英系ガラス用原料は、珪素を含む有機化合物であるテトラエトキシシラン(TEOS)、硼素を含む有機化合物であるトリエトキシボロン(B(OC2H5)3)を用いている。
次に、この石英系ガラスの製造方法について説明する。この石英系ガラスの製造方法は、実施例6に係る石英系ガラスの製造方法と比較すると、図3に示すように、気相反応堆積工程においてテトラヒドロフラン蒸気を導入している点で相違する。この石英系ガラスの製造方法によって、硼素添加シリカガラス厚膜を製造する場合の具体的な手順を示す。まず、気化工程について説明する。図3の枚葉式CVD成膜装置において、液体原料タンク(A〜C)1〜3にそれぞれ、テトラヒドロフラン、テトラエトキシシラン(TEOS)、トリエトキシボロン(B(OC2H5)3)を充填し、各原料を毎分0.2〜6mlの流量で混合し、気化装置8へ送り込んだ。気化装置8は、液体原料にキャリアガスを吹き付けて加熱壁面から気化させる加熱気化器を用い、キャリアガスとして毎分30〜500mlの窒素ガスを使用した。また、気化装置8および原料ガス輸送管9の温度は70〜160℃とした。
次に、気相反応堆積工程について説明する。気相反応堆積工程において、反応ガスは1〜10%オゾン添加の酸素ガスを毎分1〜4lの流量で用いた。原料ガスと反応ガスは混合チャンバで混合した後、バッチ式CVD反応炉16へ送入した。なお、テトラヒドロフラン蒸気は、気化工程ではなく、原料ガス輸送管で合流させてバッチ式CVD反応炉16に導入している。基板14は直径150mmのシリコンウエハ又は石英基板を用い、反応炉加熱ヒータ17により600〜1000℃に加熱した。反応炉の圧力は660〜40000Paとした。この製造条件により、一度に多数の基板に対して、毎時0.5〜10μmの堆積速度で気泡のない透明な硼素添加シリカガラス厚膜を均一に形成することができた。なお、各基板間での膜厚分布もほとんど見られなかった。
ここで、石英系ガラス膜を形成する際の成膜条件の一般的な傾向を列記する。気化装置8と原料ガス輸送管9の温度は各原料の気化温度以上であれば良いが、気化装置8に関しては温度の低い原料流入するために設定温度よりも実温度が低下する傾向にあり、原料の気化温度よりもやや高めに設定する方が未気化残渣の生成が少なかった。ただし、温度を200℃以上に上げると気化器内での原料の分解による残渣の生成が顕著に起こり始めた。また、噴霧式の気化装置よりもやや残渣が多くなる傾向があった。これは、原料が気化までに受ける熱履歴が緩慢であるために、原料の変質が起こりやすいからと思われる。本実施例では、反応炉の圧力として660〜40000Paの減圧CVDの条件で実施したが、この圧力を大気圧近くに設定しても良好な石英系ガラス膜が得られた。なお、以上の条件は一実施例であって、好ましい値ではあるが、これに限定するものではない。
次に、この石英系ガラスの添加元素の濃度調整について説明する。ここで硼素添加シリカガラス厚膜の各添加元素の組成は液体原料の供給量を適宜調節することで制御可能であった。例えば、硼素を減らすことで高屈折率化させることができる。また、硼素を増やすことで低屈折率化させることができる。この様な組成制御によって、例えば、無添加の石英に対して屈折率差がおよそ−0.2〜0%(添加無し)の範囲で制御可能であった。なお、硼素の添加量を増やすことによって、ガラス膜の熱膨張係数は、一部の変曲点領域を除いて増加する傾向にあった。従って、基板との熱膨張係数差が大きい場合は堆積速度を小さくするなどの処置が必要な場合があった。堆積速度を小さくするには反応炉中での原料ガス濃度を下げる方法によって実現できるが、これに限られず、反応ガス流量を増やす方法、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの希釈ガスを導入する方法、送入原料を減らす方法、反応炉圧力を下げる方法、または基板温度を低下させる方法などの種々の方法によって堆積速度を低下させることができる。
また、この石英系ガラスの製造方法における熱処理について説明する。この試料を700〜1000℃、酸素中で熱処理を行った。熱処理を行わない場合は、高湿環境下では膜の変質が見られる場合があるので、熱処理を行うことが好ましい。この熱処理によって、赤外光の伝搬損失を低下させることができる。これは、熱処理によって膜中の添加元素および珪素の酸素との結合が安定化されるためと、膜中のOH基が減少するためと思われる。この石英系ガラス膜の深さ方向の組成分析を行ったところ、膜表面から基板まで垂直の深さ方向に渡って組成変化が小さい極めて安定した値が得られた。この分析値は、後熱処理の有無での変化は無かった。なお、添加元素を高濃度で添加した場合には空気中での安定性がやや劣る場合があるので、後熱処理を行うことが好ましい。一般に、添加元素を高濃度で添加すると、添加元素がクラスタ的となりガラスとして不安定になりやすく、これが後熱処理により改善されるためと思われる。
さらに、この石英系ガラスの製造方法において、気相反応堆積工程でテトラヒドロフラン蒸気を導入する効果について説明する。この実施例においては、気相反応堆積工程において、テトラヒドロフラン蒸気をCVD反応炉へ直接送入している。これにより、気相反応堆積工程において、基板上での反応時の雰囲気にテトラヒドロフラン蒸気を存在させることができる。これによって、基板へのテトラヒドロフラン分子の優先吸着が起こり、埋め込み被覆性改善の効果が得られている。さらに、例えば開口幅よりも深さの方が大きい(アスペクト比が大きい)形状の溝の埋め込みが容易となる。また、高速で膜を堆積した場合においても気泡が取り込まれにくくなる。
実施例8.
本発明の実施例8に係る石英系ガラス用原料と、石英系ガラスの製造方法について説明する。まず、この石英系ガラス用原料について説明する。この石英系ガラス用原料は、珪素を含む有機化合物であるテトラエトキシシラン(TEOS)、珪素とリンとを含む複合有機化合物であるジメチルトリメチルシリルホスファイト((CH3)3SiOP(OCH3)2)/THF溶液(テトラヒドロフランにより3倍容量希釈)、エルビウムを含む有機化合物であるEr(DPM:ジピバロイルメタナート)3/THF溶液(0.3mol/l)、アルミニウムを含む有機化合物であるAl(AcAc:アセチルアセトナート)3/THF溶液(0.1mol/l)を用いている。この石英系ガラス用原料のうち、ジメチルトリメチルシリルホスファイト、Er(DPM:ジピバロイルメタナート)3、Al(AcAc:アセチルアセトナート)3について、それぞれテトラヒドロフランを含む有機溶剤で溶解している。これによって、気化工程では、テトラヒドロフランが原料分子に付加することによる気化促進効果により未気化残渣を減少させることができる。また、気相反応堆積工程においてもテトラヒドロフランを含む蒸気を存在させることができ、基板表面へのテトラヒドロフラン分子の優先吸着による反応機構の変化が生じる。その結果、被覆埋め込み特性(カバレッジ特性)が良好になるとともに、高速合成時において、気泡の巻き込みが減少し、透明な膜を形成することができる。
次に、この石英系ガラスの製造方法について説明する。この石英系ガラスの製造方法は、実施例1に係る石英系ガラスの製造方法と比較すると、異なる気化温度を有する複数の液体原料について、それぞれ別々に気化させるように、気化装置を複数設けている点で相違する。それ以外の構成は図1の枚葉式CVD成膜装置と実質的に同じである。この石英系ガラスの製造方法によって、エルビウム(Er)−アルミニウム(Al)−リン添加シリカガラス厚膜を製造する場合の具体的な手順を示す。まず、気化工程について説明する。この気化工程では、図1の気化装置との相違点として、気化温度の異なる2系統の原料を安定に気化するために気化装置を2系統設けている。気化温度が低めの原料系として、テトラエトキシシラン(TEOS)、ジメチルトリメチルシリルホスファイト((CH3)3SiOP(OCH3)2)/THF溶液(テトラヒドロフランにより3倍容量希釈)を用いた。また、気化温度が高めの原料系として、Er(DPM)3/THF溶液(0.3mol/l)、Al(AcAc)3/THF溶液(0.1mol/l)を用いた。各系の原料を毎分0.1〜2mlの流量で混合し、各原料系を別々の気化装置へ送り込み、それぞれ、気化温度が低い系を70〜160℃、気化温度が高い系を180〜250℃で気化を行った。テトラヒドロフラン溶液原料の供給量を変えずに、テトラヒドロフランの供給量を増やしたい場合はテトラヒドロフランタンクを別途設け、そこからのテトラヒドロフラン供給量で調節した。各気化装置は、液体原料をガス噴霧ノズルから加熱壁面に噴霧して加熱壁面から気化させる加熱気化器を用い、噴霧ガスとして毎分100〜1000mlのアルゴンガスを使用した。原料ガス輸送管9の温度は180〜250℃とした。なお、ガス噴霧ノズル部分は冷却により室温とした。なお、それぞれの原料の気化温度が近い場合は、各原料の混合溶液を用いることもできる。また、気化温度が大きく異なる場合でも、高い方の気化温度に合わせることにより、単一の混合溶液として使用することもできる。なお、この場合は気化温度が低い方の原料が気化装置内で分解しやすくなり、未気化残渣が増加する場合があるため混合する温度や気化温度を適宜制御する必要がある。
次に気相反応堆積工程について説明する。気相反応堆積工程における反応ガスは1〜10%オゾン添加の酸素ガスを毎分1〜4lの流量で用いた。原料ガスと反応ガスは原料ガス輸送管9と反応ガス供給管10により原料ガス吹き出しノズル12へ送入し、混合、整流した後、基板14へ吹き付けた。この基板14は直径150mmのシリコンウエハ又は石英基板を用い、基板加熱ヒータ13で400〜900℃に加熱した。枚葉式CVD反応炉11の圧力は660〜40000Paとした。この製造条件により、毎時1〜30μmの堆積速度で気泡のない透明なエルビウム−アルミニウム−リン添加シリカガラス厚膜を基板上に形成することができた。
次に、この石英系ガラスの製造方法において、気相反応堆積工程での気相反応について説明する。気相反応堆積工程では、反応ガスは原料ガス吹き出しノズル内において原料ガスと混合され、この部分の温度が高いと予備反応による中間体の生成が起こり易くなり、堆積速度が急激に増大したがパーティクルが生成し易くなった。傾向として、原料ガス吹き出しノズルの温度が高くオゾン濃度が高い程堆積速度は増大するが、この部分の温度とオゾン濃度が高すぎる場合は気相での反応が進行しすぎて成膜不良を引き起こすパーティクルが生成し易くなることが分かった。従って、原料ガス吹き出しノズル12の温度と反応ガスのオゾン濃度は相補的に設定する必要がある。CVD反応炉の圧力は、この値が高いほど堆積速度が大きくなるがパーティクルが生成しやすくなる傾向が見られた。ただし、圧力が高い場合でも、基板温度が低くなるとパーティクルは生成されにくくなった。従って、他の製造条件との関係で適宜圧力値を選定すればよい。また、本実施例では、反応炉の圧力として660〜40000Paの減圧CVDの条件で実施したが、この圧力を大気圧近くに設定した場合は基板温度を400〜500℃とすれば良好な石英系ガラス膜が形成できた。この場合はオゾン濃度が5〜12%とやや高めの方が良好な石英系ガラス膜が得られた。なお、以上の条件は一実施例であって、好ましい値ではあるが、これに限定されない。
次に、この石英系ガラスの添加元素の濃度調整について説明する。この実施例で得られたエルビウム−アルミニウム−リン添加シリカガラス厚膜の組成は、各液体原料の供給量を適宜調節することで制御可能であった。例えば、エルビウム、アルミニウムの添加濃度は、いずれも5重量%以下の添加が可能であった。なお、1000ppm〜5000ppmの範囲が好ましい。この石英系ガラス膜の深さ方向の組成分析を行ったところ、膜表面から基板方向の深さ方向に渡って組成変化の小さい極めて安定した値が得られた。この分析値は、後熱処理の有無での変化は無かった。また、エルビウム原料としてジピバロイルメタナート(DPM)系金属錯体、アルミニウム原料としてアセチルアセトナート(AcAc)系金属錯体のテトラヒドロフラン溶液を用いた為に、気化工程において、原料の気化促進効果による気化器内残渣を低減させることができ、石英系ガラス膜中へ添加元素を高濃度で安定した添加を行うことができた。また、気相反応堆積工程において、基板上での反応時の雰囲気にテトラヒドロフラン蒸気を存在させることができる。これにより、基板へのテトラヒドロフラン分子の優先吸着が起こり、埋め込み被覆性改善の効果により高速で膜を堆積した場合においても気泡が取り込まれにくくなった。
なお、この石英系ガラスへの添加元素として、エルビウム、アルミニウム以外にも、La、Ca、Pb、Dy、Yb、Tm、Ti、Ba、Sr、Zr、Ta、Ce、Pr、Nd、Er、Al、Li、Nb、Ho、Cr、Te、Mg、Zn、Wの群から選択される少なくとも一種の元素を用いることができる。例えば、各元素のアルコキシド(メトキシド、エトキシド、イソプロポキシドなど)、金属錯体(AcAc、DPM、ヘキサフルオロアセトナート(HFA)、ジメチルヘプタジオナート(DMHD)、エチルジメチルデカネジオナート(EDMDD)など)、ジエン類(シクロペンタジエン、シクロオクタジエンなど)、およびそれらフ誘導体などで揮発性を有するものであれば、それが固体、液体の形態によらず、テトラヒドロフラン溶液とすることによって原料としての使用が可能になり、単独のみならず、混合溶液としても使用可能である。特に、もともとの原料が固体である場合には、テトラヒドロフラン溶液とすることによって液体原料としての扱いが可能になるとともに、気化特性が向上し、高濃度の添加が可能となる。また、添加元素として、Ge、La、Ca、Pb、Dy、Yb、Tm、Ti、Ba、Sr、Zr、Ta、Ce、Pr、Nd、Er、Al、Li、Nb、Ho、Cr、Te、Mg、Zn、Wの群から選ばれる少なくとも一種の元素と珪素とを含む複合有機金属化合物を、テトラヒドロフランを含む有機溶剤に溶解した液体原料を用いることにより、添加元素を高濃度に添加した場合においても均一な石英系ガラスを形成しやすい。これは、原料自身としてすでに酸素を介して珪素と添加元素が結合した状態を持つためと考えられる。
実施例9.
本発明の実施例9に係る石英系ガラス用原料と、石英系ガラスの製造方法について説明する。まず、この石英系ガラス用原料について説明する。この石英系ガラス用原料は、珪素を含む有機化合物であるテトラエトキシシラン(TEOS)、リンを含む有機化合物であるトリメチルホスファイトPO(OCH3)3/THF溶液(テトラヒドロフランにより3倍容量希釈)、エルビウムを含む有機化合物であるEr(EDMDD)3/THF溶液(0.3mol/l)、アルミニウムを含む有機化合物であるAl(i−OC4H9)3/THF溶液(0.1mol/l)を用いている。この石英系ガラス用原料のうち、トリメチルホスファイト、Er(EDMDD)3、Al(i−OC4H9)3について、それぞれテトラヒドロフランを含む有機溶剤で溶解している。これによって、気化工程では、テトラヒドロフランが原料分子に付加することによる気化促進効果により未気化残渣を減少させることができる。
次にこの石英系ガラスの製造方法について説明する。この石英系ガラスの製造方法は、実施例1に係る石英系ガラスの製造方法と比較すると、図5に示すように、CVD成膜装置に代えて、火炎堆積装置を用いて石英系ガラス微粒子を基板上に堆積させている点で相違する。この石英系ガラスの製造方法によって、エルビウム−アルミニウム−リン添加シリカガラス厚膜を製造する場合の具体的な手順を示す。まず、気化工程について説明する。図5に示す火炎堆積装置において、液体原料タンク(A〜E)1〜5にそれぞれ、テトラヒドロフラン、Er(EDMDD)3/THF溶液(0.3mol/l)、Al(i−OC4H9)3/THF溶液(0.1mol/l)、テトラエトキシシラン(TEOS)、トリメチルホスファイトPO(OCH3)3/THF溶液(テトラヒドロフランにより3倍容量希釈)を充填し、各原料を毎分1〜2mlの流量で混合し気化装置8へ送り込んだ。テトラヒドロフラン溶液原料の供給量を変えずに、テトラヒドロフランの供給量を増やしたい場合はテトラヒドロフランタンクからのテトラヒドロフラン供給量で調節した。気化装置8は、液体原料をガス噴霧ノズルから加熱壁面に噴霧して加熱壁面から気化させる加熱気化器を用い、噴霧ガスとして毎分100〜1000mlのアルゴンガスを使用した。気化装置8および原料ガス輸送管9の温度は100〜160℃、気化装置内圧力はほぼ大気圧とした。なお、ガス噴霧ノズル部分は冷却により室温とした。
次に、火炎堆積工程について説明する。この火炎堆積工程では、水素ガス輸送管19から毎分10〜50lの水素ガスをガスバーナー21に供給し、一方、酸素ガス輸送管20から毎分5〜25lの酸素ガスをガスバーナー21に供給し、水素ガスと酸素ガスとの混合ガスに着火して酸水素炎22を形成させた。次いで、気化装置にて生成した原料ガスを上記の酸水素炎22に送入し、原料ガスの加水分解反応により石英系ガラス微粒子を生成し、石英基板14上に堆積させた。石英系ガラス微粒子を堆積させた石英基板14をヘリウムガス中で950〜1100℃で熱処理し、微粒子を溶融させ透明膜化させた。この製造条件により、厚さ20μmの透明なエルビウム−アルミニウム−リン添加シリカガラス厚膜を基板上に形成することができた。この方法により、例えば、エルビウム、アルミニウム濃度共に5重量%以下の添加が可能であった。このように、エルビウム原料としてEDMDD系金属錯体、アルミニウム原料としてアルコキシドのテトラヒドロフラン溶液を用いることによって、気化工程において原料の気化促進効果により気化器内残渣を低減させることができ、膜中への高濃度での安定した添加が可能になった。
なお、エルビウム、アルミニウム以外にも、添加元素としてLa、Ca、Pb、Dy、Yb、Tm、Ti、Ba、Sr、Zr、Ta、Ce、Pr、Nd、Er、Al、Li、Nb、Ho、Cr、Te、Mg、Zn、Wが可能で、例えば各元素のアルコキシド(メトキシド、エトキシド、イソプロポキシドなど)、金属錯体(AcAc、DPM、HFA、DMHD、EDMDDなど)、ジエン類(シクロペンタジエン、シクロオクタジエンなど)、およびそれらの誘導体などで揮発性を有するものであれば、それが固体、液体の形態によらず、テトラヒドロフラン溶液とすることによって原料としての使用が可能になり、単独のみならず、混合溶液としても使用可能である。特に、元の原料が固体である場合には、テトラヒドロフラン溶液とすることによって液体原料としての扱いが可能になるとともに、気化特性が向上し、高濃度の添加が可能となった。
実施例10.
本発明の実施例10に係る石英系ガラス用原料と、石英系ガラスの製造方法について説明する。まず、この石英系ガラス用原料について説明する。この石英系ガラス用原料は、珪素を含む有機化合物であるテトラエトキシシラン(TEOS)/THF溶液(テトラヒドロフランにより1.5倍容量希釈)、珪素とリンとを含む複合有機化合物であるジメチルトリメチルシリルホスファイト((CH3)3SiOP(OCH3)2)/THF溶液(テトラヒドロフランにより3倍容量希釈)、ゲルマニウムを含む有機化合物であるテトラエトキシゲルマニウム/THF溶液(テトラヒドロフランにより5倍容量希釈)、エルビウムを含む有機化合物であるEr(DPM)3/THF溶液(0.3mol/l)を用いている。この石英系ガラス用原料のうち、テトラエトキシシラン、ジメチルトリメチルシリルホスファイト、テトラエトキシゲルマニウム、Er(DPM)3について、それぞれテトラヒドロフランを含む有機溶剤で溶解している。これによって、気化工程では、テトラヒドロフランが原料分子に付加することによる気化促進効果により未気化残渣を減少させることができる。
次にこの石英系ガラスの製造方法について説明する。この石英系ガラスの製造方法は、実施例9に係る石英系ガラスの製造方法と比較すると、図6に示すように、異なる気化温度の原料について複数の気化装置8、24を設けている点で相違する。この石英系ガラスの製造方法によって、エルビウム−ゲルマニウム−リン添加シリカガラスを製造する場合の具体的な手順を示す。まず、気化工程について説明する。図6の火炎堆積装置において、液体原料タンク(A〜D)1〜4にそれぞれテトラヒドロフラン、テトラエトキシシラン(TEOS)/THF溶液(テトラヒドロフランにより1.5倍容量希釈)、ジメチルトリメチルシリルホスファイト((CH3)3SiOP(OCH3)2)/THF溶液(テトラヒドロフランにより3倍容量希釈)、テトラエトキシゲルマニウム/THF溶液(テトラヒドロフランにより5倍容量希釈)を、液体原料タンク(F)23にEr(DPM)3/THF溶液(0.3mol/l)を充填した。各原料を毎分1〜2mlの流量で混合し、気化装置8、及び第二気化装置24へ送り込んだ。テトラヒドロフラン溶液原料の供給量を変えずに、テトラヒドロフランの供給量を増やしたい場合はテトラヒドロフランタンクからのテトラヒドロフラン供給量で調節した。第一気化装置8および第二気化装置24は、液体原料をガス噴霧ノズルから加熱壁面に噴霧して、加熱壁面から気化させる加熱気化器を用い、噴霧ガスとして毎分100〜1000mlの水素ガスをそれぞれ使用した。気化装置8の温度は100〜160℃とした。第二気化装置24、および原料ガス輸送管9の温度は200〜270℃とした。なお、ガス噴霧ノズル部分は冷却により室温とした。各気化装置内の圧力はほぼ大気圧とした。
次に、火炎堆積工程について説明する。この火炎堆積工程において、水素ガス輸送管19から毎分10〜50lの水素ガスをガスバーナー21に供給し、一方、酸素ガス輸送管20から毎分5〜25lの酸素ガスをガスバーナー21に供給し、この水素ガスと酸素ガスとの混合ガスに着火して酸水素炎22を形成させた。この酸水素炎22に第一気化装置8と、第二気化装置24にて生成した原料ガスをそれぞれ送入し、加水分解反応により石英系ガラス微粒子を生成し、石英基板14上に堆積させた。石英基板に堆積させた石英系ガラス微粒子を捕集し、ヘリウムガス中で1000〜1500℃で溶融熱処理を行った。この製造条件により、透明なエルビウム−ゲルマニウム−リン添加シリカガラスプリフォームを作製することができた。このプリフォームのエルビウムは5重量%以下の添加が可能であった。また、ゲルマニウムとリンは30重量%以下の添加が可能であった。このように、各原料共にテトラヒドロフラン溶液を用いることによって、気化工程において、原料の気化促進効果により気化器内残渣を低減させることができ、石英系ガラス中への高濃度での安定した添加が可能になった。
なお、石英系ガラスへの添加元素として、エルビウムに限られることなく、La、Ca、Pb、Dy、Yb、Tm、Ti、Ba、Sr、Zr、Ta、Ce、Pr、Nd、Er、Al、Li、Nb、Ho、Cr、Te、Mg、Zn、Wの群から選ばれる少なくとも一種の元素を添加することができる。また、石英系ガラス用原料として、例えば、この選択された少なくとも一種の元素を含む有機化合物を用いることができる。上記選択された少なくとも一種の元素の有機化合物として、アルコキシド(メトキシド、エトキシド、イソプロポキシドなど)、金属錯体(AcAc、DPM、HFA、DMHD、EDMDDなど)、ジエン類(シクロペンタジエン、シクロオクタジエンなど)、およびこれらの誘導体などで揮発性を有するものが好ましい。また、この添加元素の有機化合物は、固体、液体の形態によらず、テトラヒドロフラン溶液に溶解することによって液体原料として用いることができる。この液体原料は、単独のみならず、混合溶液としても使用可能である。特に、元の原料が固体である場合には、テトラヒドロフラン溶液とすることによって液体原料としての扱いが可能になるとともに、気化工程における気化特性が向上し、添加元素を高濃度で添加することができる。
実施例11.
本発明の実施例11に係る石英系ガラス用原料と、石英系ガラスの製造方法について説明する。まず、この石英系ガラス用原料について説明する。この石英系ガラス用原料は、珪素を含む有機化合物であるSiCl4、リンを含む有機化合物であるトリメチルホスファイトPO(OCH3)3/THF溶液(テトラヒドロフランにより3倍容量希釈)、エルビウムを含む有機化合物であるEr(EDMDD)3/THF溶液(0.3mol/l)、アルミニウムを含む有機化合物であるAl(i−OC4H9)3/THF溶液(0.1mol/l)を用いる。この石英系ガラス用原料のうち、トリメチルホスファイト、Er(EDMDD)3、Al(i−OC4H9)3について、それぞれテトラヒドロフランを含む有機溶剤で溶解している。これによって、原料ミストのまま火炎堆積工程に供給されるので添加元素を高濃度で添加する場合にも均一に添加することができる。
次に、この石英系ガラスの製造方法について説明する。この石英系ガラスの製造方法は、実施例9及び10に係る石英系ガラスの製造方法と比較すると、図7に示すように、気化工程に代えて、液体原料をミスト化するミスト化工程を含む点で相違する。この石英系ガラスの製造方法によって、エルビウム−アルミニウム−リン添加シリカガラスを製造する場合の具体的な手順を示す。まず、ミスト化工程について説明する。図7の火炎堆積装置において、液体原料タンク(A〜D)1〜4にそれぞれ、テトラヒドロフラン、Er(EDMDD)3/THF溶液(0.3mol/l)、Al(i−OC4H9)3/THF溶液(0.1mol/l)、トリメチルホスファイトPO(OCH3)3/THF溶液(テトラヒドロフランにより3倍容量希釈)を充填し、各原料を毎分1〜2ml毎分の流量で混合し、ガス噴霧によりミスト化しガスバーナー21に供給した。テトラヒドロフラン溶液原料の供給量を変えずに、テトラヒドロフランの供給量を増やしたい場合はテトラヒドロフランタンクからのテトラヒドロフラン供給量で調節した。一方、シリコン原料はSiCl4を原料タンク(E)に充填し、加熱により生成したSiCl4蒸気をガス用マスフローコントローラ25とガス原料輸送管26により、ガスバーナー21に供給した。ここで、噴霧ガス輸送管28、ミスト輸送ガス導入管29にはそれぞれ、アルゴンガスを毎分100〜1000mlの流量範囲で流した。ここで、噴霧ガスおよびミスト輸送ガスはアルゴン以外に、窒素、アルゴン、酸素、水素のいずれかまたはそれらの組み合わせでも良好な原料ミストが得られた。特に、酸素または水素を用いた場合は、ガスバーナーに供給される不燃性ガスを減らせるために、酸水素炎22がより安定となる。原料溶液をミスト化する方法としてガス噴霧による方法の他に、機械的加圧による方法、超音波素子によるミスト化する方法のいずれか、またはこれらの組み合わせにおいても良好な原料ミストが生成できた。
次に、火炎堆積工程について説明する。この火炎堆積工程で、水素ガス輸送管19から毎分10〜50lの水素ガスをガスバーナー21に供給し、一方、酸素ガス輸送管20から毎分5〜25lの酸素ガスをガスバーナー21に供給し、この水素ガスと酸素ガスの混合ガスに着火して酸水素炎22を形成させた。この酸水素炎22に原料ミストと原料ガスとを送入し、加水分解反応により石英系ガラス微粒子を生成し、石英基板14上に石英系ガラス微粒子を堆積させた。石英基板に堆積させたガラス微粒子を捕集し、ヘリウムガス中で1000〜1500℃で溶融熱処理を行った。この製造条件により、透明なエルビウム−アルミニウム−リン添加シリカガラスプリフォームを作製することができた。このプリフォームのエルビウムとアルミニウムは5重量%以下の添加が可能であった。また、リンは30重量%以下の添加が可能であった。このように、シリコン以外の原料としてテトラヒドロフラン溶液を用いたことによって、石英系ガラス中への高濃度で安定した添加が可能になった。
なお、エルビウム以外の添加元素として、La、Ca、Pb、Dy、Yb、Tm、Ti、Ba、Sr、Zr、Ta、Ce、Pr、Nd、Er、Al、Li、Nb、Ho、Cr、Te、Mg、Zn、Wの群から選ばれる少なくとも一種の元素を添加することができる。また、石英系ガラス用原料として、例えば、上記選択された少なくとも一種の元素を含む有機化合物を用いることができる。この上記選択された少なくとも一種の元素の有機化合物として、アルコキシド(メトキシド、エトキシド、イソプロポキシドなど)、金属錯体(AcAc、DPM、HFA、DMHD、EDMDDなど)、ジエン類(シクロペンタジエン、シクロオクタジエンなど)、およびこれらの誘導体などで揮発性を有するものが好ましい。また、この添加元素の有機化合物は、固体、液体の形態によらず、テトラヒドロフラン溶液に溶解することによって液体原料として用いることができる。この液体原料は、単独のみならず、混合溶液としても使用可能である。特に、元の原料が固体である場合には、テトラヒドロフラン溶液とすることによって液体原料としての扱いが可能になるとともに、原料ミストのまま火炎堆積工程に供給されるので添加元素を高濃度で添加する場合にも均一に添加することができる。
実施例12.
本発明の実施例12に係る石英系ガラスからなる光導波路について、図8を用いて説明する。この光導波路は、図8の断面図に示すように、シリコン基板14上に、硼素−リン−ゲルマニウム添加シリカガラス厚膜からなるコア層33を、硼素添加シリカガラス厚膜からなるクラッド層32、34で周囲を囲んで構成されている。このコア層を構成する硼素−リン−ゲルマニウム添加シリカガラス厚膜は、上記実施例1に記載の製造条件によって形成されている。また、クラッド層32、34を構成する硼素添加シリカガラス厚膜は実施例2に記載の製造条件によって形成されている。さらに、この光導波路の構成は、図8の断面図に示すように、シリコン基板14上に、アンダークラッド層32、コア層33、オーバークラッド層34が積層されている。なお、アンダークラッド層とオーバークラッド層を合わせてクラッド層とよぶ。ここで、コア層33の屈折率をクラッド層32、34よりも高くすることで、コア層33への光の閉じ込めによる光の導波が可能となる。また、この屈折率差とコア寸法には一定の関係があり、波長1.55μmの光の場合には、概ね屈折率差が0.3%の場合にはコア寸法を8μm角とし、屈折率差が0.7%でコア寸法を6μm角とする。また、クラッド層32、34の厚さはおよそ15μm以上あればよい。このコア層33は写真製版とイオンエッチングにより任意のパターンを形成でき、コア層33のパターン形成後にオーバークラッド層34を被せることで光導波路が完成する。このとき、コア同士を局部的に近接させることで方向性結合器が、長さの異なる導波路を弓状に束ねることで多波長を一度に合分波できるアレイ導波路が形成できる。また、ゲルマニウムなどのようなレーザ光により屈折率変調が誘起できる添加元素でコアを形成することにより、光導波路中に特定のパターンを焼き込むことで回折格子が形成できる。
次に、この光導波路を形成する実際の形成手順を説明する。まず、実施例2の手順により、シリコン基板14上にアンダークラッド層32として厚さ15μmの硼素添加シリカガラス厚膜を形成した。次に、実施例1の手順により、厚さ6μmの硼素−リン−ゲルマニウム添加シリカガラス厚膜をコア層33として形成した。このとき、アンダークラッド層32とコア層33の屈折率差を0.7%とした。次に写真製版とイオンエッチングによりコア層33を加工し、方向性結合器と直線導波路を含む光導波路パターンを形成した。さらに、実施例2の手順によりオーバークラッド層34として厚さ15μmの硼素添加シリカガラス厚膜を形成した。このとき、直線導波路および2〜3μmの間隔をもつ方向性結合器部分のいずれにおいても極めて良好な埋め込み特性が得られた。さらに、この光導波路を空気中で800℃の熱処理を行った後、波長1.55μmの光について光伝搬損失を計測したところ、直線導波路の光伝搬損失は0.02dB/cmと極めて良好であった。また、重水素処理による増感処理後、直線導波路部分にレーザ光による回折格子の書き込みを行った。その結果、極めて良好な回折格子を形成することができた。
実施例13.
本発明の実施例13に係る石英系ガラスからなる光導波路について説明する。この光導波路は、実施例12に係る光導波路と比較すると、コア層33にエルビウム−アルミニウム−リン添加シリカガラス厚膜を用いている点で相違する。その他の構成であるシリコン基板14及びクラッド層32、34に関しては実施例11に係る光導波路と同様である。この光導波路のコア層33として、実施例6の手順によって、エルビウム−アルミニウム−リン添加シリカガラス厚膜を形成した。このエルビウムの添加量は、0.5重量%、アルミニウムは0.1重量%とした。これによって形成した光導波路に、400mWの波長0.98μmのチタンサファイアレーザで励起し、波長可変レーザからの1.53μmの光信号を通したところ、0.7dB/cmの高利得が得られた。
実施例14.
本発明の実施例14に係る石英系ガラスからなる光ファイバについて説明する。この光ファイバは、実施例10で製造した石英系ガラスのプリフォームをコア材として作成されている。この光ファイバのコア材は、具体的には、実施例10において、エルビウムの添加量を0.5重量%としたエルビウム−ゲルマニウム−リン添加シリカガラスである。前記光導波路と同様に400mWの波長0.98μmのチタンサファイアレーザで励起し、波長可変レーザからの1.53μmの光信号を上記作製された光ファイバに通したところ、0.8dB/cmの高利得での光増幅作用が確認できた。
1 液体原料タンク(A)、2 液体原料タンク(B)、3 液体原料タンク(C)、4 液体原料タンク(D)、5 液体原料タンク(E)、6a、6b、6c、6d、6e 液体流量制御装置、7a、7b、7c、7d、7e バルブ
8 気化装置、9 原料ガス輸送管、10 反応ガス供給管、11 枚葉式CVD反応炉、12 原料ガス吹き出しノズル、13 基板加熱ヒータ、14 基板
15 排気管、16 バッチ式CVD反応炉、17 反応炉加熱ヒータ、18 溶剤専用気化装置、19 水素ガス輸送管、20 酸素ガス輸送管、21 ガスバーナー、22 酸水素炎、23 液体原料タンク(F)、24 第二気化装置、25 ガス用マスフローコントローラ、26 ガス原料輸送管、27 噴霧ノズル、28 噴霧ガス輸送管、29 ミスト輸送ガス導入管、30 ミスト生成チャンバ、31 ミスト輸送管、32 アンダークラッド層、33 コア層、34 オーバークラッド層