以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施の形態における車両1の上面視を模式的に示した模式図である。なお、図1の矢印FWDは、車両1の前進方向を示す。
まず、車両1の概略構成について説明する。車両1は、図1に示すように、車体フレームBFと、その車体フレームBFに支持される複数(本実施の形態では4輪)の車輪2と、それら各車輪2の内の一部(本実施の形態では左右の前輪2FL,2FR)を回転駆動する車輪駆動装置3と、各車輪2を車体フレームBFに懸架すると共に各車輪2のキャンバ角を独立に調整する懸架装置4と、ステアリング63の操作に伴って各車輪2の内の一部(本実施の形態では左右の前輪2FL,2FR)を操舵するステアリング装置5と、操作部材としてのブレーキペダル62の踏力を懸架装置4へ伝達する伝達機構としてのワイヤ71とを主に備えている。
かかる構成を有する車両1は、車輪2のキャンバ角を調整することで、加減速時および制動時における車体フレームBFの姿勢変化を抑制して、加減速性能および制動性能の向上を図ることができるように構成されている。特に、本実施の形態の車両1は、ブレーキペダル62が操作された場合に、その操作に応じた変位(踏力)をワイヤ71によって懸架装置4へ伝達し、車輪2にキャンバ角を付与できるように構成されている。
次いで、各部の詳細構成について説明する。車体フレームBFは、車両1の骨格をなすと共に各種装置(車輪駆動装置3など)を搭載するためのものであり、懸架装置4に支持されている。
車輪2は、図1に示すように、車体フレームBFの前方側(矢印FWD側)に配置される左右の前輪2FL,2FRと、車体フレームBFの後方側(反矢印FWD側)に配置される左右の後輪2RL,2RRとの4輪を備えている。また、左右の前輪2FL,2FRは、車輪駆動装置3から付与される回転駆動力により回転駆動される駆動輪として構成される一方、左右の後輪2RL,2RRは、車両1の走行に伴って従動する従動輪として構成されている。なお、車輪2の詳細構成については、図2などを参照して後述する。
車輪駆動装置3は、上述したように、左右の前輪2FL,2FRに回転駆動力を付与して回転駆動するための装置であり、それら左右の前輪2FL,2FRに回転駆動力を付与する電動モータ3aと、その電動モータ3aを制御装置(図示せず)からの命令に基づいて制御する制御回路とから主に構成されている。なお、電動モータ3aは、図1に示すように、ディファレンシャルギヤ(図示せず)及び一対のドライブシャフト31を介して、左右の前輪2FL,2FRに接続されている。
運転者がアクセルペダル61を操作した場合には、車輪駆動装置3から左右の前輪2FL,2FRに回転駆動力が付与され、それら左右の前輪2FL,2FRがアクセルペダル61の踏み込み状態に応じた回転速度で回転駆動される。なお、左右の前輪2FL,2FRの回転差は、ディファレンシャルギヤにより吸収される。
懸架装置4は、いわゆるサスペンションとして機能する装置であり、図1に示すように、各車輪2に対応して設けられている。また、本実施の形態における懸架装置4は、ストラット式のサスペンションであり、内在するキャンバ角可変機構40(図4参照)によって車輪2のキャンバ角を変位(変化)させることができるように構成されている。
詳細は後述するが、懸架装置4は、ワイヤ71を介してブレーキペダル62に接続されており、ブレーキペダル62が操作された場合に、その操作に応じた変位(踏力)がワイヤ71によって懸架装置4(より詳細には、キャンバ角可変機構40)へ伝達され、車輪2にプラス方向(ポジティブ)のキャンバ角が付与されるように構成されている。
ステアリング装置5は、ラックアンドピニオン式の機構により構成され、ステアリングシャフト51と、フックジョイント52と、ステアリングギヤ53と、タイロッド54と、連結部材55と、ナックル42(図4(b)参照)とを主に備えている。
このステアリング装置5によれば、運転者によるステアリング63の操作は、まず、ステアリングシャフト51を介してフックジョイント52に伝達されると共に、フックジョイント52により角度を変えられつつ、ステアリングギヤ53のピニオン53aに回転運動として伝達される。そして、ピニオン53aに伝達された回転運動は、ラック53bの直線運動に変換され、ラック53bが直線運動することで、ラック53bの両端に接続されたタイロッド54が移動して、連結部材55を介してナックル42を押し引きすることで、車輪2の操舵角が調整される。
ステアリング63は、運転者により操作される操作部材であり、その操作に伴って、車輪2が上述したステアリング装置5により操舵される。また、アクセルペダル61及びブレーキペダル62は、運転者により操作される操作部材であり、各ペダル61,62の踏み込み状態(踏み込み量、踏み込み速度など)に応じて、車両1の加速量や制動量などが決定される。
また、ワイヤ71は、ブレーキペダル62と各懸架装置4との間に張設されており、ブレーキペダル62が操作(踏み込まれる)と、その操作に応じた変位を、各車輪2のキャンバ角を変位させるために各懸架装置4に伝達する伝達機構として機能する。
次に、図2及び図3を参照して、車輪2の詳細構成について説明する。図2は、車両1の上面視を模式的に示した模式図であり、図3は、車両1の正面視を模式的に示した模式図である。なお、図3では、車輪2のキャンバ角がプラス方向(ポジティブ)に調整された状態が図示されている。
車輪2は、図2に示すように、第1トレッド21及び第2トレッド22の2種類のトレッドを備え、各車輪2において、第1トレッド21が車両1の外側に配置され、第2トレッド22が車両1の内側に配置されている。
ここで、車輪2は、第1トレッド21と第2トレッド22とが互いに異なる特性に構成され、第1トレッド21が第2トレッド22に比して軟らかくグリップ力の高い特性(ゴム硬度の低い特性)に構成されている。なお、本実施の形態では、両トレッド21,22の幅寸法(図2左右方向寸法)が同一に構成されている。
詳細は後述するが、本実施の形態の車両1によれば、ブレーキペダル62が操作されると、その操作に応じた変位(踏力)がワイヤ71によって伝達され、その結果として、懸架装置4のキャンバ角可変機構40が作動されて車輪2のキャンバ角θL,θRがプラス方向(ポジティブ)に変位する(図3参照)。このとき、上記構成を有する車輪2によれば、車両1の外側に配置される第1トレッド21の接地(接地面積)が増加する一方、車両1の内側に配置される第2トレッド22の接地(接地面積)が減少し、第2トレッド22に対する第1トレッド21の接地比率が高くなる。
第2トレッド22に対する第1トレッド21の接地比率が高くなると、接地比率の高い第1トレッド21の特性による影響が大きくなるので、第1トレッド21の特性により得られる性能、即ち、高グリップ性能を車輪2に発揮させることができる。従って、本実施の形態の車両1によれば、ブレーキペダル62の操作に連動して、高グリップ性能を車輪2に発揮させることができるのである。
通常、タイヤトレッドのグリップ力が低い場合、高グリップトレッドに比べて転がり抵抗も低くなる。このため、比較的タイヤグリップ力が少なくてよい定常走行時では、転がり抵抗の低い特性の低いトレッドを使うことができ、高グリップ力が必要な減速時には、高グリップトレッドを接地させることができる。その結果、燃費と走行性能とを両立することができる。
一方、ブレーキペダル62を操作することなく直進走行する際には、車輪2のキャンバ角は定常角である略0°にされるので(図4(b)参照)、車輪2のグリップ力が比較的小さく抑制され、その分、転がり抵抗を小さくすることができ、燃費性能が向上する。
次に、図4を参照して、ブレーキペダル62の操作と車輪2のキャンバ角の変位とが連動する機構について説明する。図4(a)は、ブレーキペダル62と懸架装置4との間をワイヤ71で連結した状態を模式的に示す側面図であり、図4(b)は、車輪2のキャンバ角が定常角(本実施の形態では略0°)の状態にある懸架装置4を模式的に示す正面図であり、図4(c)は、ブレーキペダル62が操作されたことによって車輪2のキャンバ角がプラス方向(ポジティブ)に調整された状態にある懸架装置4を模式的に示す正面図である。なお、各懸架装置4の構成はそれぞれ共通であるので、ここでは左の前輪2FLに対応する懸架装置4を代表例として図4に図示する。
この図4では、発明の理解を容易とするために、ドライブシャフト31等の懸架装置4の構成を一部省略し、図面を簡素化している。特に、図4(a)では、ワイヤ71を介したブレーキペダル62の操作と懸架装置4の動きとの連動を理解し易くする目的で、懸架装置4としてロアアーム43のみを図示している。また、ブレーキペダル62の変位(踏力)の伝達経路を明確にする目的で、図4(a)では、ワイヤ71の延びる方向を、図4(b)及び(c)に示す方向とは異なるように図示している。
懸架装置4は、上述したようにストラット式のサスペンションとして構成され、図4(b)に示すように、車両1のほぼ上下方向に延びるストラット部材41と、車輪2を回動自在に支持する車輪支持部材としてのナックル42と、車両1のほぼ車幅方向に延びるロアアーム43とを有している。
ストラット部材41は、サスペンションスプリング41a及びそのサスペンションスプリング41aの振動を減衰させるショックアブソーバ41bなどから構成されている。ストラット部材41の上端41c(ショックアブソーバ41bのピストンロッド側)は、車体フレームBFに枢着されており、下端41d(ショックアブソーバ41bの筒体側)は、ナックル42に剛結合されている。また、ロアアーム43の車体側端部43aは、車体フレームBFに枢着されており、車輪側端部43bは、ボールジョイント44を介してナックル42の下方に連結されている。
上記のようにストラット部材41と、ナックル42と、ロアアーム43とが連結されることにより、車輪2のキャンバ角を可変とするリンク機構(キャンバ角可変機構40)が構成される。
ここで、ワイヤ71の一端側は、ブレーキペダル62が操作された(踏み込まれた)場合にワイヤ71を引っ張るようにブレーキペダル62に接続されている。例えば、図4(a)に示すように、ワイヤ71の一端側は、回動軸62aを介してブレーキペダル62の操作される側とは反対側の端部62bに接続されている。一方、ワイヤ71の他端側は、図4(a)に示すように、ワイヤ71が引っ張られた場合にロアアーム43の車輪側端部43bを引き上げるように接続されている。
このように、ブレーキペダル62と懸架装置4(ロアアーム43)との間に伝達機構としてのワイヤ71が配設されたことにより、ブレーキペダル62が操作されると、ワイヤ71がブレーキペダル62側へ引っ張られ、それに伴い、ロアアーム43の車輪側端部43側が上方へ引き上げられるので、車体BFが車輪2に対して沈み込む。その結果、キャンバ角可変機構40が作動(屈伸)して、図4(c)に示すように、車輪2が矢印A方向へ揺動する。つまり、ブレーキペダル62の操作に伴い、車輪2にプラス方向(ポジティブ側)のキャンバ角が付与される。
本実施の形態の車両1によれば、車輪2にプラス方向のキャンバ角が付与されると、上述のように、第2トレッド22に対する第1トレッド21の接地比率が高くなり、高グリップ性能が発揮される。よって、ブレーキペダル62の操作に連動して、車輪2が高グリップ性能を発揮するので、応答良く優れた制動性能を得ることができる。
以上説明したように、本実施の形態の車両1によれば、ブレーキペダル62の変位(踏力)を、ワイヤ71により機械的に懸架装置4へ伝達し、車輪2のキャンバ角を変位させることができる。よって、車輪2のキャンバ角を、ブレーキペダル62の操作に対して応答良く変位させることができる。
また、車輪2のキャンバ角を、アクチュエータを要することなく変位させることができるので、制動時に車輪のキャンバ角を変えることによって制動性能を高めることのできる車両の軽量化や低コストでの製造を可能にする。また、電気的な故障がないので、故障したとしても、故障の原因を突き止め易く、容易に修理を行い得る。
また、本実施の形態の車両1によれば、懸架装置4へブレーキペダル62の変位(踏力)を伝達する伝達機構がワイヤ71から主に構成されているので、伝達機構を軽量かつ低コストに構成できる上に、レイアウトの自由度が高く、小型の車両に対しても適用し易いという利点を有する。
次に、図5を参照して、第2実施の形態について説明する。上述した第1実施の形態では、ブレーキペダル62と懸架装置4との間に伝達機構としてワイヤ71が配設される場合を説明したが、第2実施の形態では、伝達機構が、ワイヤ71と変位量調整機構(より詳細には増幅機構)としてのギヤユニット81とから構成されている。
図5は、第2実施の形態の車両1においてブレーキペダル62と懸架装置4との間を伝達機構により連結した状態を模式的に示す側面図である。なお、上記した第1実施の形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明は省略する。
本実施の形態では、ギヤユニット81は、図5に示すように、2つのギヤからなるギヤ減速機として構成されている。より具体的には、ギヤユニット81は、第1ギヤ82と、その第1ギヤ82に噛合し該第1ギヤ82より歯数の少ない第2ギヤ83とから構成される。
第1ギヤ82のギヤ回転中心82aには、ブレーキペダル62側のワイヤ71が巻回されており、ブレーキペダル62が操作された(踏み込まれた)ことによってワイヤ71がブレーキペダル62側へ引っ張られると、第1ギヤ82が矢印B方向へ回動される。なお、第1ギヤ82は、図示されないばね機構によって矢印B方向とは逆回転方向に付勢されており、ブレーキペダル62が戻されると、第1ギヤ82は矢印B方向とは逆方向に回動してワイヤ71を巻き戻す。
第2ギヤ83のギヤ回転中心83aには、懸架装置4(ロアアーム43)側のワイヤ71が巻回可能に接続されている。第2ギヤ83は、ブレーキペダル62が操作されて第1ギヤ82が回動されると、それに伴って矢印C方向に回動される。すると、懸架装置4(ロアアーム43)側のワイヤ71がギヤ回転中心83a周りに巻回されるので、ロアアーム43の車輪側端部43側が上方へ引き上げられ、その結果として、キャンバ角可変機構40が作動(屈伸)して、車輪2にプラス方向(ポジティブ側)のキャンバ角が付与される(図4(c)参照)。
なお、ブレーキペダル62が戻されると、第1ギヤ82は矢印B方向とは逆方向に回動されるので、それに伴って第2ギヤ83も矢印C方向に回動される。その結果、懸架装置4(ロアアーム43)側のワイヤ71は元に戻され、車輪2のキャンバ角が定常角(本実施の形態では略0°)に戻される(図4(b)参照)。
ここで、ギヤユニット81は、第1ギヤ82の回転数より第2ギヤ83の回転数が多く構成(即ち、所謂「減速ギヤ」的に構成)されているので、第1ギヤ82側のワイヤ71の引っ張り量より、第2ギヤ83によるワイヤ71の巻回量の方が大きくなる。よって、ギヤユニット81を介さない第1実施の形態に比べ、ブレーキペダル62の操作量(踏み込み量)に対する車輪2のキャンバ角の変位量を大きくすることができる(図6参照)。
なお、図6は、変位量調整機構としてのギヤユニット81を有する第2実施の形態の伝達機構を用いた場合、及び、後述する第3実施の形態の伝達機構を用いた場合について、ブレーキペダル62の操作量に対する車輪2のキャンバ角の変位量の変化を示すグラフである。図6において、横軸はブレーキペダル62の操作量を示し、縦軸は車輪2のキャンバ角の変位量を示す。直線101は、第2実施の形態の伝達機構を用いた場合のプロットであり、曲線102は、後述する第3実施の形態の伝達機構を用いた場合のプロットである。一方、直線100は、変位量調整機構としてのギヤユニット81を有さない第1実施の形態の伝達機構を用いた場合のプロットである。
以上説明したように、第2実施の形態の車両1によれば、ブレーキペダル62と懸架装置4(キャンバ角可変機構40)との間に伝達機構の一部となる変位量調整機構としてのギヤユニット81が介設されているので、かかるギヤユニット81によってブレーキペダル62の操作量に対する車輪2のキャンバ角の変位量を調整することができる。
ここで、本実施の形態では、ギヤユニット81が、ブレーキペダル62の操作量に対する車輪2のキャンバ角の変位量を増幅するギヤ構成(即ち、増幅機構として構成)とされているので、その分、ブレーキペダル62の操作量を小さくしても、それに対する車輪2キャンバ角の変位量を大きくできる。
次に、図7を参照して、第3実施の形態について説明する。上述した第1実施の形態では、ブレーキペダル62と懸架装置4との間に伝達機構としてワイヤ71が配設される場合を説明したが、第3実施の形態では、伝達機構が、ワイヤ71と変位量調整機構(より詳細にはカム機構)としてのカムユニット85とから構成されている。
図7(a)は、第3実施の形態の車両1においてブレーキペダル62と懸架装置4との間を伝達機構により連結した状態を模式的に示す側面図であり、図7(b)は、第3実施の形態の伝達機構の一部である変位量調整機構としてのカムユニット85の模式的な断面図である。なお、上記した第1実施の形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明は省略する。
本実施の形態では、カムユニット85は、図7(b)に示すように、カム86と、ピストン87とを主に含んで構成されている。カム86の回転中心86aには、ブレーキペダル62側のワイヤ71が巻回されており、ブレーキペダル62が操作された(踏み込まれた)ことによってワイヤ71がブレーキペダル62側へ引っ張られると、カム86が矢印D方向へ回動される。なお、このカム86は、図示されないばね機構によって矢印D方向とは逆回転方向に付勢されており、ブレーキペダル62が戻されると、カム86は矢印D方向とは逆方向に回動してワイヤ71を巻き戻す。
ピストン87は、カム86に対する従動節であり、フランジ87aがカム86の側面に接している。ピストン87は、カム86の矢印D方向の回動に伴い、矢印E方向へ移動する。ピストン87が矢印E方向へ移動すると、ピストン87に接続されている懸架装置4(ロアアーム43)側のワイヤ71が引っ張られるので、ロアアーム43の車輪側端部43側が上方へ引き上げられる。その結果、キャンバ角可変機構40が作動(屈伸)して、車輪2にプラス方向(ポジティブ側)のキャンバ角が付与される(図4(c)参照)。
なお、ピストン87は、図示されないばね機構によって矢印E方向とは逆方向に付勢されている。よって、ブレーキペダル62が戻されたことによってカム86が矢印D方向とは逆方向に回動されると、それに伴ってピストン87は矢印E方向とは逆方向に移動する。その結果、懸架装置4(ロアアーム43)側のワイヤ71は元に戻され、車輪2のキャンバ角が定常角(本実施の形態では略0°)に戻される(図4(b)参照)。
ここで、本実施の形態では、カム86の形状が、ブレーキペダル62の操作量(踏み込み量)が大きくなる程、その操作量の増加量に対する車輪2のキャンバ角の変位量の増加量が大きくなるように構成されている。よって、図6のグラフにおける曲線102により示されるように、ブレーキペダル62の操作量が比較的小さい段階では車輪2のキャンバ角があまり大きく変位されないので、高グリップ面である第1トレッド21の摩耗を抑制することができる。一方で、ブレーキペダル62の操作量が大きくなる程、即ち、所望の制動量が大きくなる程に車輪2のキャンバ角の変位量が大きくなるので、車輪2のグリップ力を高くでき、十分な制動性能を得ることができる。
以上説明したように、第2実施の形態の車両1によれば、ブレーキペダル62と懸架装置4(キャンバ角可変機構40)との間に伝達機構の一部となる変位量調整機構としてのカムユニット85が介設されているので、かかるカムユニット85のカム86の形状に応じてブレーキペダル62の操作量に対する車輪2のキャンバ角の変位量を調整することができる。
次に、図8を参照して、第4実施の形態について説明する。上述した第2実施の形態では、ブレーキペダル62と懸架装置4との間に伝達機構としてワイヤ71及びギヤユニット81が配設される場合を説明したが、第4実施の形態では、伝達機構が、ワイヤ71とギヤユニット81と遊び機構としての遊びユニット91とから構成されている。
図8(a)は、第4実施の形態の車両1においてブレーキペダル62と懸架装置4との間を伝達機構により連結した状態を模式的に示す側面図であり、図8(b)及び(c)は、第4実施の形態の伝達機構の一部である遊び機構としての遊びユニット91の模式的な断面図である。なお、上記した第2実施の形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明は省略する。
本実施の形態では、遊びユニット91は、図8に示すように、ブレーキペダル62側のワイヤ71に一端側が接続されているピストン92と、そのピストン92のロッド92aを貫装する貫通穴(図示せず)を有し、懸架装置4(ロアアーム43)側のワイヤ71が接続されている従動部材93とから構成される。
ピストン92のワイヤ71が接続されていない他端側にはフランジ92bが形成されており、初期状態(図8(b))における従動部材93からフランジ92bまでの距離Lが、ブレーキペダル62の操作の開始から、その操作に応じた変位(踏力)が懸架装置4へ伝達され始めるまでの遊びとなる。
ブレーキペダル62が操作された(踏み込まれた)ことによってワイヤ71がブレーキペダル62側へ引っ張られると、ピストン92が矢印F方向に移動する。しかし、遊び機構91によって遊びが設けられているので、操作量(踏み込み量)が比較的小さい場合には、従動部材93が移動されないので、懸架装置4(ロアアーム43)側のワイヤ71も引っ張られず、車輪2のキャンバ角は変位しない。
そして、ブレーキペダル62の操作量がさらに大きくなり、フランジ92bが従動部材93に到達すると、ピストン92と共に従動部材93が移動し始め、ロアアーム43の車輪側端部43側の上方への引き上げを開始する。その結果、車輪2のキャンバ角がプラス方向(ポジティブ側)に変位し始める。
なお、ピストン92は、図示されないばね機構によって矢印F方向とは逆方向に付勢されており、ブレーキペダル62が戻されると初期状態に戻るように構成されている。よって、ブレーキペダル62が戻されることにより、ピストン92と共に従動部材93が初期状態に戻され、その結果、懸架装置4(ロアアーム43)側のワイヤ71は元に戻され、車輪2のキャンバ角が定常角(本実施の形態では略0°)に戻される(図4(b)参照)。
以上説明したように、第4実施の形態の車両1によれば、ブレーキペダル62と懸架装置4(キャンバ角可変機構40)との間に伝達機構の一部となる遊び機構としての遊びユニット91が介設されているので、比較的小さい操作量でブレーキペダル62が操作された場合、即ち、所望とする制動量が比較的小さい場合には、車輪2のキャンバ角が変更されない。よって、所望とする制動量が比較的小さい場合には第1トレッド21の接地比率が増加されず、高グリップ面である第1トレッド21の余計な摩耗を抑制できる。
次に、図9を参照して、第5実施の形態について説明する。上述した第1実施の形態では、ブレーキペダル62と懸架装置4との間に伝達機構としてワイヤ71が配設される場合を説明したが、第5実施の形態では、伝達機構の一部として、ブレーキの油圧配管501を利用する構成とされている。
図9は、第5実施の形態の車両1においてブレーキペダル62と懸架装置4との間を伝達機構により連結した状態を模式的に示す側面図である。なお、上記した第1実施の形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明は省略する。
油圧配管501は、ブレーキペダル62の操作に応じた変位(踏力)に応じてブレーキマスタシリンダ500により発生される油圧を、図示されないブレーキ部材(ディスクブレーキなど)を作動させる力として伝達するものである。本実施の形態では、図9に示すように、この油圧系統501が途中で2系統に分岐されており、一方の配管501aがブレーキ部材を作動させる配管として使用され、他方の配管501bが車輪2のキャンバ角を変位させる力を伝達するための配管として使用される。
具体的には、配管501bの端部には、油圧に応じて移動するピストン502が設けられており、ブレーキペダル62が操作されて油圧が生じると、その油圧によってピストン502が矢印G方向に移動し、レバー503を作動する。レバー503が作動されると、作用点に接続された懸架装置4(ロアアーム43)側のワイヤ71が引き上げられ、その結果として、キャンバ角可変機構40が作動(屈伸)して、車輪2にプラス方向(ポジティブ側)のキャンバ角が付与されることになる(図4(c)参照)。
なお、レバー503は図示されないばね機構により矢印Gとは逆方向に付勢されており、ブレーキペダル62が戻されたことによってピストン502が初期位置へ戻されると、レバー503もまた初期状態に戻される。その結果、懸架装置4(ロアアーム43)側のワイヤ71は元に戻され、車輪2のキャンバ角が定常角(本実施の形態では略0°)に戻される(図4(b)参照)。
以上説明したように、第5実施の形態の車両1によれば、ブレーキペダル62と懸架装置4(キャンバ角可変機構40)との間に伝達機構の一部として、ブレーキの油圧配管501を使うことができるので、ブレーキペダル62の操作と車輪2のキャンバ角の変位との連動を少ない変更で実現することができる。また、油圧を利用するので、車輪2のキャンバ角がブレーキペダル62の操作に対して応答良く変位される。
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
例えば、上記各実施の形態で挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。また、上記各実施の形態における構成の一部または全部を他の実施の形態における構成の一部または全部と組み合わせることは当然可能である。
また、上記各実施の形態では、懸架装置4がストラット式のサスペンションとして構成されている場合を説明したが、ダブルウィッシュボーン式のサスペンションに対しても適用可能である。
ここで、図10を参照して、ダブルウィッシュボーン式のサスペンションに対して本発明を適用する場合について説明する。図10(a)は、車輪2のキャンバ角が定常角(本実施の形態では略0°)の状態にある懸架装置400を模式的に示す正面図であり、図10(b)は、ブレーキペダル62が操作されたことによって車輪2のキャンバ角がプラス方向(ポジティブ)に調整された状態にある懸架装置400を模式的に示す正面図である。なお、上記した第1実施の形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明は省略する。
本実施の形態の懸架装置400は、上述したようにダブルウィッシュボーン式のサスペンションとして構成され、図10(a)に示すように、車両1のほぼ上下方向に延びるショックアブソーバ401bと、サスペンションスプリング401aと、車輪2を回動自在に支持する車輪支持部材としてのナックル402と、車両1のほぼ車幅方向に延びるロアアーム403及びアッパーアーム405とを有している。
ショックアブソーバ401aの上端401c(ショックアブソーバ401bのピストンロッド側)は、車体フレームBFに枢着されており、下端401d(ショックアブソーバ41bの筒体側)は、アッパーアーム404に枢着されている。
ロアアーム403の車体側端部403aは、車体フレームBFに枢着されており、車輪側端部403bは、ボールジョイント404を介してナックル402の下方に連結されている。一方、アッパーアーム405の車体側端部405aは、車体フレームBFに枢着されており、車輪側端部405bは、ボールジョイント406を介してナックル402の上方に連結されている。
図10(a)に示すように、本実施の形態の懸架装置400では、アッパーアーム405の長さが、ロアアーム403より短く構成されている。かかる構成によって、ロアアーム403と、アッパーアーム405と、ナックル402とから、車輪2のキャンバ角を可変とするリンク機構(キャンバ角可変機構410)が構成される。
ワイヤ71は、図10(a)に示すように、ブレーキペダル62の操作(踏み込み)によってワイヤ71が引っ張られた場合にアッパーアーム405の車輪側端部405bを引き上げるように接続されている。ブレーキペダル62が操作されると、ワイヤ71によってアッパーアーム405の車輪側端部405bが引き上げられ、その結果、キャンバ角可変機構410が作動(屈伸)して、図10(b)に示すように、車輪2が矢印Z方向へ揺動する。つまり、ブレーキペダル62の操作に伴い、車輪2にマイナス方向(ネガティブ側)のキャンバ角が付与される。
図10に示すように、アッパーアーム405の長さが、ロアアーム403より短く構成されている場合には、ブレーキペダル62の操作に伴い、車輪2にマイナス方向(ネガティブ側)のキャンバ角が付与されるので、車輪2の第1トレッド21を車体フレームBF側に配置することが好ましい。なお、ロアアームの長さをアッパーアームより短く構成した場合には、車輪2にプラス方向(ポジティブ側)のキャンバ角を付与できる。
また、上記各実施の形態では、ブレーキペダル62の操作に応じた変位(踏力)を、ワイヤ71により機械的に懸架装置4へ伝達し、車輪2のキャンバ角を変位させることを例示したが、操作部材としてのアクセルペダル61と懸架装置4との間に同様の伝達機構(ワイヤなど)を配設するように構成してもよい。かかる構成により、ブレーキペダル62の場合と同様に、アクセルペダル61の操作(踏み込み)に対して応答良く車輪2のキャンバ角を変位させることができる。また、加速時又は加速中に、車輪2における高グリップ性能面(第1トレッド21)の接地比率の増大による高グリップ力を得ることができ、よりスムーズな加速を可能とする。
ここで、アクセルペダル61と懸架装置4との間に同様の伝達機構を配設する場合には、図11に示す緩衝装置300を採用することができる。図11は、緩衝装置300を示す模式的な断面図である。図11に示すように、この緩衝装置300は、油OLで満たされた筐体301内に2枚の板状部材302,303が互いの面を対向させた状態で内在している。一方の板状部材302は、アクセルペダル61側のワイヤ72に接続されており、他方の板状部材303は、懸架装置4側のワイヤ73に接続されている。
アクセルペダル61が操作されると、ワイヤ72が引っ張られ、板状部材302が矢印H方向へ移動する。板状部材303は、板状部材302の移動に伴う油OLの流動により、板状部材302に追従して矢印H方向へ移動する。その結果、ワイヤ73がロアアーム43を引き上げることとなり、車輪2にプラス方向(ポジティブ側)のキャンバ角が付与される。その後、時間経過に伴い、アクセルペダル61を戻すか否かにかかわらず、板状部材303が自然に初期位置へ戻されることにより、車輪2に付与されていたキャンバ角も定常角に戻される。よって、かかる緩衝装置300を採用することにより、車輪2へのキャンバ角の付与をアクセルペダル61の操作開始付近に限定することができる。
また、上記各実施の形態では、第1トレッド21及び第2トレッドの2種類のトレッドを備える車輪2を使用する構成したが、第1トレッド221、第2トレッド222及び第3トレッド223の3種類のトレッドを備える車輪200を使用する構成であってもよい。図12は、車輪2に換えて車輪200を備える車両1の上面視を模式的に示した模式図である。
図12に示すように、車輪200において、第1トレッド221が車両1の内側に配置されると共に、第3トレッド223が車両1の外側に配置され、第2トレッド222が第1トレッド221と第3トレッド223との間に配置されている。ここで、車輪200は、第1トレッド221と第2トレッド222とが互いに異なる特性に構成され、第1トレッド221が第2トレッド222に比してグリップ力の高い特性に構成されている。また、第3トレッド223は、少なくとも第2トレッド222に比してグリップ力の高い特性に構成されている。なお、図12に示す例では、各トレッド221,222,223の幅寸法(図12左右方向寸法)が同一に構成されている。
車輪200を採用する場合には、ブレーキペダル62に操作に応じて付与されるキャンバ角の向きを左右両輪で異なるように構成(例えば、左車輪にはポジティブキャンバを付与し、右車輪にはネガティブキャンバを付与するように構成)してもよい。
また、上記各実施の形態では、車輪2の定常角を略0°に構成したが、定常角をマイナス方向のキャンバ(ネガティブキャンバ)とする構成であってもよい。
また、上記第2実施の形態にて採用した増幅機構としてのギヤユニット81は、単なる例示であり、平ギヤに限らず遊星ギヤなど他のギヤを利用する増幅機構であってもよいし、大小のプーリーとこれらに係回されるベルトを利用する構成など、ブレーキペダル62の操作量を増幅できる機構であれば、適宜採用可能である。
また、上記第3実施の形態にて採用したカム機構としてのカムユニット85におけるカム86の形状は、ブレーキペダル62の操作量に対して所望のキャンバ角変位量が得られる形状を採用できる。
また、上記第2及び第3実施の形態では、変位量調整機構として、ギヤユニット81及びカムユニット85を例示したが、てこなど他の機構を利用して、ブレーキペダル62の操作量に対する車輪2のキャンバ角の変位量を調整する構成としてもよい。
また、上記第4実施の形態では、伝達機構を、ワイヤ71とギヤユニット81と遊び機構としての遊びユニット91とから構成されるものとしたが、ギヤユニット81を設けることなく、伝達機構を構成(即ち、ワイヤ71と遊びユニット91とから構成)してもよい。また、上記第4実施の形態におけるギヤユニット81を、変位量調整機構の1つであるカムユニット85を採用して伝達機構を構成してもよい。
また、上記実施の形態では、車輪駆動装置3により左右前輪(2FL,2FR)を回転駆動させる構成としたが、車輪駆動装置の構成にかかわらず、車輪にキャンバ角を付与可能な車両であれば、本発明を適用できる。例えば、車輪駆動装置をホイールモータやエンジンとする車両であっても、車輪にキャンバ角を付与可能な車両であればよい。