以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施の形態における車両1の上面視を模式的に示した模式図である。なお、図1の矢印U−D,L−R,F−Bは、車両1の上下方向、左右方向、前後方向をそれぞれ示している。
まず、車両1の概略構成について説明する。車両1は、図1に示すように、車体フレームBFと、その車体フレームBFに支持される複数(本実施の形態では4輪)の車輪2と、それら複数の車輪2の内の一部(本実施の形態では左右の前輪2FL,2FR)を回転駆動する車輪駆動装置3と、各車輪2を車体フレームBFに懸架する懸架装置4と、各車輪2のキャンバ角を調整するキャンバ角調整装置5(図2参照)と、複数の車輪2の内の一部(本実施の形態では左右の前輪2FL,2FR)を操舵するステアリング装置6とを主に備え、車輪2のキャンバ角を調整して車輪2の性能を発揮させることで、制動性能の向上を図ることができるように構成されている。
次いで、各部の詳細構成について説明する。車体フレームBFは、車両1の骨格をなすものであり、懸架装置4を支持すると共に、その懸架装置4を介して車輪2を支持している。
車輪2は、図1に示すように、車体フレームBFの前方側(矢印F側)に配置される左右の前輪2FL,2FRと、車体フレームBFの後方側(矢印B側)に配置される左右の後輪2RL,2RRとの4輪を備えている。また、左右の前輪2FL,2FRは、車輪駆動装置3によって回転駆動される駆動輪として構成される一方、左右の後輪2RL,2RRは、車両1の走行に伴って従動する従動輪として構成されている。なお、車輪2の詳細構成については、図6及び図7を参照して後述する。
車輪駆動装置3は、左右の前輪2FL,2FRを回転駆動するための装置であり、それら左右の前輪2FL,2FRに回転駆動力を付与するモータ3aを備えて構成されている。なお、モータ3aは、図1に示すように、ディファレンシャルギヤ(図示せず)及び一対のドライブシャフト31を介して左右の前輪2FL,2FRに接続されている。
例えば、運転者がアクセルペダル11を操作した場合には、モータ3aから左右の前輪2FL,2FRに回転駆動力が付与され、それら左右の前輪2FL,2FRがアクセルペダル11の踏み込み状態に応じた速度で回転駆動される。なお、左右の前輪2FL,2FRの回転差は、ディファレンシャルギヤにより吸収される。
懸架装置4は、いわゆるサスペンションとして機能する装置であり、図1に示すように、各車輪2に独立して設けられている。また、懸架装置4は、後述するように、車輪2のキャンバ角を可変とするキャンバ角可変機構47(図2参照)としての機能も兼ね備えている。
キャンバ角調整装置5は、懸架装置4のキャンバ角可変機構47を作動させて各車輪2のキャンバ角を調整するための装置であり、各懸架装置4のキャンバ角可変機構47に駆動力をそれぞれ付与するFL〜RRモータ51FL〜51RRと、それら各モータ51FL〜51RRの回転を許容または規制するFL〜RRブレーキ52FL〜52RRとを備えて構成されている(いずれも、図5参照)。
例えば、運転者がブレーキペダル12を操作した場合には、FL〜RRモータ51FL〜51RRから各懸架装置4のキャンバ角可変機構47に駆動力がそれぞれ付与され、キャンバ角可変機構47が作動されることで、各車輪2のキャンバ角が独立して調整される。また、各車輪2のキャンバ角が調整されると、FL〜RRブレーキ52FL〜52RRによってFL〜RRモータ51FL〜51RRの回転が規制され、車輪2のキャンバ角が保持される。
ここで、図2から図4を参照して、懸架装置4及びキャンバ角調整装置5の詳細構成について説明する。まず、図2及び図3を参照して懸架装置4の詳細構成について説明する。なお、各懸架装置4の構成はそれぞれ共通であるので、ここでは左の前輪2FRの懸架装置4を代表例として図2及び図3に図示する。
図2(a)は、懸架装置4の正面図であり、図2(b)は、図2(a)の矢印IIb方向視における懸架装置4の上面図である。図3は、懸架装置4の正面図であり、(a)は車輪2のキャンバ角がネガティブに調整された状態を、(b)は車輪2のキャンバ角がポジティブに調整された状態を、それぞれ図示している。なお、図2及び図3では、発明の理解を容易とするために、ドライブシャフト31を省略して図示すると共に、図2(b)では、懸架装置4の構成を一部省略して図示している。また、図2及び図3の矢印U−D,L−R,F−Bは、車両1の上下方向、左右方向、前後方向をそれぞれ示している。
懸架装置4は、図2に示すように、ストラット式のサスペンションとして構成され、キャンバプレート41と、ステアリングナックル42と、ロアアーム43とを主に備えて構成されている。
キャンバプレート41は、車輪2を回転可能に支持するためのものであり、図2(a)に示すように、ステアリングナックル42及びロアアーム43を介して車体フレームBFに連結されている。
ステアリングナックル42は、車輪2を操舵可能に支持するためのものであり、図2(a)に示すように、下端(図2(a)下側)がキャンバ軸44によってキャンバプレート41の下部(図2(a)下側)に軸支されると共に、上端(図2(a)上側)がショックアブソーバ45を介して車体フレームBFに連結されている。なお、ショックアブソーバ45は、走行路面から車体フレームBFに伝わる振動を減衰するためのものであり、懸架装置4の強度を確保する役割も担っている。
ロアアーム43は、キャンバプレート41及びステアリングナックル42を介して車輪2を車体フレームBFに連結するためのものであり、図2(a)に示すように、一端(図2(a)右側)が後述するブッシュ46を介して車体フレームBFに軸支されると共に、他端(図2(a)左側)がボールジョイントを介してステアリングナックル42の下部(図2(a)下側)に連結されている。
このように、ロアアーム43がボールジョイントを介してステアリングナックル42に連結されると共に、上述したように、ステアリングナックル42がキャンバ軸44によってキャンバプレート41に連結されることで、懸架装置4には、キャンバ軸44を揺動軸として車輪2のキャンバ角を可変とするリンク機構(キャンバ角可変機構47)が構成されている。
また、ロアアーム43にはキャンバ角調整装置5が配設されると共に、連結アーム48を介してFRモータ51FRの駆動力をキャンバ角可変機構47に付与することができるように構成されている。連結アーム48は、FRモータ51FRの駆動力をキャンバ角可変機構47に伝達するためのものであり、一端(図2(a)右側)がFRモータ51FRの回転子に連結されると共に、他端(図2(a)左側)がキャンバプレート41の上部(図2(a)上側)に連結されている。
これにより、図3(a)に示すように、FRモータ51FRの回転子が矢印R方向に回転すると、FRモータ51FRの駆動力が連結アーム48を介してキャンバ角可変機構47に付与され、キャンバ角可変機構47がキャンバ軸44を揺動軸として作動(変形)されることで、車輪2のキャンバ角がネガティブに調整される。
同様に、図3(b)に示すように、FRモータ51FRの回転子が矢印L方向に回転すると、FRモータ51FRの駆動力が連結アーム48を介してキャンバ角可変機構47に付与され、キャンバ角可変機構47がキャンバ軸44を揺動軸として作動(変形)されることで、車輪2のキャンバ角がポジティブに調整される。
ブッシュ46は、図2(b)に示すように、第1ブッシュ46a及び第2ブッシュ46bの2種類のブッシュを備え、第1ブッシュ46aが車両1の前方側(矢印F側)に配置され、第2ブッシュ46bが車両1の後方側(矢印B側)に配置されている。
また、ブッシュ46は、ゴム状弾性体から構成されると共に、第1ブッシュ46aと第2ブッシュ46bとが異なるゴム硬度で構成され、第1ブッシュ46aが第2ブッシュ46bに比して軟らかい特性(ゴム硬度の低い特性)に構成されている。
これにより、少なくとも制動時には、車体フレームBFに作用する慣性力によって、第1ブッシュ46aの変形量が第2ブッシュ46bの変形量よりも大きくなり、車輪2のトウ角がトウアウトに変更される。
次いで、図4を参照して、FL〜RRブレーキ52FL〜52RRの詳細構成について説明する。なお、FL〜RRブレーキ52FL〜52RRの構成はそれぞれ共通であるので、ここではFRブレーキ52FRを代表例として図4に図示する。図4は、図2(a)のIV−IV線におけるFRブレーキ52FRの断面図である。
FRブレーキ52FRは、磁力によってFRモータ51FRの回転を許容または規制する電磁ブレーキとして構成され、図4に示すように、FRモータ51FRの回転子に連結されるアーマチュア組立体7と、FRモータ51FRの外郭に固定される励磁装置8とを主に備えて構成されている。
アーマチュア組立体7は、FRモータ51FRの回転子と一体に回転するものであり、回転子に取着されるハブプレート71と、そのハブプレート71に連結されると共に磁性体から構成されるアーマチュア72と、それらハブプレート71とアーマチュア72との間に設けられアーマチュア72をハブプレート71側(図4左側)へ付勢する板バネ73とを主に備えて構成されている。
励磁装置8は、アーマチュア組立体7の回転を許容または規制するための装置であり、外郭を形成するフィールドコア81と、そのフィールドコア81内に収容される永久磁石82と、通電されることで磁力を発生して永久磁石82の磁力を消磁するコイル83とを主に備えて構成されている。
これにより、コイル83に通電されている状態では、コイル83に発生する磁力によって永久磁石82の磁力が消磁されるので、板バネ73によってアーマチュア72がハブプレート71側へ付勢され、アーマチュア72とフィールドコア81との間に隙間が生じることで、アーマチュア組立体7の回転が許容される。その結果、FRモータ51FRの回転も許容される。
これに対し、コイル83に通電されていない状態では、永久磁石82の磁力によってアーマチュア72がフィールドコア81に吸着されることで、アーマチュア組立体7の回転が規制される。その結果、FRモータ51FRの回転も規制される。即ち、車輪2のキャンバ角が保持される。
このように、FRブレーキ52FR(永久磁石82)の磁力を、車輪2のキャンバ角を保持する保持力とするので、FRモータ51FRの回転を許容する際(即ち、キャンバ角可変機構47を作動させて車輪2のキャンバ角を調整する際)に限りFRブレーキ52FR(コイル83)への通電を行えば良く、キャンバ角調整装置5における消費エネルギの削減を図ることができる。
なお、フィールドコア81には、アーマチュア72が吸着される部位に対応して摩擦板84が配設されており、摩擦板84にアーマチュア72が摩擦係合することで、アーマチュア組立体7の回転をより強固に規制することができるように構成されている。
上記のように構成されるFRブレーキ52FRは、永久磁石82の磁力が、走行路面との間で車輪2の幅方向に作用する所定の大きさの摩擦力よりも小さく設定されている。これにより、かかる摩擦力が永久磁石82の磁力よりも大きくなると、FRブレーキ52FRによってFRモータ51FRの回転を規制することができなくなり(即ち、車輪2のキャンバ角を保持できなくなり)、車輪2のキャンバ角が変更される。
図1に戻って説明する。ステアリング装置6は、上述したように、左右の前輪2FL,2FRを操舵するための装置であり、図1に示すように、ステアリングシャフト61と、フックジョイント62と、ステアリングギヤ63と、タイロッド64と、ナックルアーム65とを主に備えて構成されている。なお、ステアリング装置6は、ステアリングギヤ63がピニオン63aとラック63bとを備えたラックアンドピニオン機構によって構成されている。
例えば、運転者がステアリング13を操作した場合には、ステアリング13の操作がステアリングシャフト61を介してフックジョイント62に伝達されると共にフックジョイント62によって角度を変えられ、ステアリングギヤ63のピニオン63aに回転運動として伝達される。そして、ピニオン63aに伝達された回転運動がラック63bの直線運動に変換され、ラック63bが直線運動することで、ラック63bの両端に接続されたタイロッド64が移動し、ナックルアーム65を介して車輪2が操舵される。
アクセルペダル11、ブレーキペダル12及びステアリング13は、いずれも運転者により操作される操作部材であり、各ペダル11,12の踏み込み状態(踏み込み量、踏み込み速度など)に応じて車両1の加速力や制動力が決定されると共に、ステアリング13の操作状態(操作量、操作方向)に応じて車両1の旋回半径や旋回方向が決定される。
制御装置100は、上記のように構成される車両1の各部を制御するための装置であり、例えば、各ペダル11,12の踏み込み状態を検出し、その検出結果に応じて車輪駆動装置3を制御する。或いは、ブレーキペダル12の踏み込み状態を検出し、その検出結果に応じてキャンバ角調整装置5を制御する。
ここで、図5を参照して、制御装置100の詳細構成について説明する。図5は、制御装置100の電気的構成を示したブロック図である。制御装置100は、図5に示すように、CPU91、ROM92及びRAM93を備え、それらがバスライン94を介して入出力ポート95に接続されている。また、入出力ポート95には、車輪駆動装置3等の複数の装置が接続されている。
CPU91は、バスライン94によって接続された各部を制御する演算装置であり、ROM92は、CPU91によって実行される制御プログラムや固定値データ等を記憶するための書き換え不能な不揮発性のメモリである。また、RAM93は、制御プログラムの実行時に各種のデータを書き換え可能に記憶するメモリである。
車輪駆動装置3は、上述したように、左右の前輪2FL,2FR(図1参照)を回転駆動するための装置であり、左右の前輪2FL,2FRに回転駆動力を付与する電動モータ3aと、その電動モータ3aをCPU91からの命令に基づいて制御する制御回路(図示せず)とを主に備えて構成されている。
キャンバ角調整装置5は、上述したように、懸架装置4のキャンバ角可変機構47(図2参照)を作動させて各車輪2のキャンバ角を調整するための装置であり、各懸架装置4のキャンバ角可変機構47に駆動力をそれぞれ付与するFL〜RRモータ51FL〜51RRと、それら各モータ51FL〜51RRの回転を許容または規制するFL〜RRブレーキ52FL〜52RRと、それら各モータ51FL〜51RR及び各ブレーキ52FL〜52RRをCPU91からの命令に基づいて制御する制御回路(図示せず)とを主に備えて構成されている。
CPU91からの指示に基づいて、FL〜RRモータ51FL〜51RRが制御されると、それらFL〜RRモータ51FL〜51RRから各懸架装置4のキャンバ角可変機構47に駆動力がそれぞれ付与され、キャンバ角可変機構47が作動されることで、各車輪2のキャンバ角が独立して調整される。
キャンバ角調整装置5の制御回路は、各FL〜RRモータ51FL〜51RRの回転量を角度センサ(図示せず)によって検出し、CPU91から指示された目標値(回転量)に達すると、FL〜RRモータ51FL〜51RRの回転駆動を停止する。同時に、FL〜RRブレーキ52FL〜52RRによってFL〜RRモータ51FL〜51RRの回転を規制して、車輪2のキャンバ角を保持する。なお、角度センサによる検出結果は、制御回路からCPU91に出力され、CPU91は、その検出結果に基づいて各車輪2の現在のキャンバ角を得ることができる。
アクセルペダルセンサ装置11aは、アクセルペダル11の踏み込み状態を検出すると共に、その検出結果をCPU91に出力するための装置であり、アクセルペダル11の踏み込み量を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU91に出力する処理回路(図示せず)とを備えている。
ブレーキペダルセンサ装置12aは、ブレーキペダル12の踏み込み状態を検出すると共に、その検出結果をCPU91に出力するための装置であり、ブレーキペダル12の踏み込み量を検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU91に出力する処理回路(図示せず)とを備えている。
ステアリングセンサ装置13aは、ステアリング13の操作状態を検出すると共に、その検出結果をCPU91に出力するための装置であり、ステアリング13の操作量を操作方向に対応付けて検出する角度センサ(図示せず)と、その角度センサの検出結果を処理してCPU91に出力する処理回路(図示せず)とを備えている。
なお、本実施の形態では、各角度センサが電気抵抗を利用した接触型のポテンショメータとして構成されている。CPU91は、各センサ装置11a,12a,13aから入力された各角度センサの検出結果によって各ペダル11,12の踏み込み量およびステアリング13の操作量を得ることができる。
なお、図5に示す他の入出力装置96としては、例えば、各車輪2のキャンバ角を非接触で計測する光学センサ等が例示される。
次いで、図6及び図7を参照して、車輪2の詳細構成について説明する。図6は、車両1の上面視を模式的に示した模式図である。図7は、車両1の正面視を模式的に示した模式図であり、(a)は車輪2のキャンバ角がネガティブに調整された状態を、(b)は車輪2のキャンバ角がポジティブに調整された状態を、それぞれ図示している。なお、図6の矢印U−D,L−R,F−Bは、車両1の上下方向、左右方向、前後方向をそれぞれ示している。
車輪2は、図6に示すように、第1トレッド21及び第2トレッド22の2種類のトレッドを備え、各車輪2において、第1トレッド21が車両1の外側に配置され、第2トレッド22が車両1の内側に配置されている。
また、車輪2は、第1トレッド21と第2トレッド22とが異なる特性に構成され、第2トレッド22が第1トレッド21に比してグリップ力の高い特性(ゴム硬度の低い特性)に構成されると共に、第1トレッド21が第2トレッド22に比して転がり抵抗の小さい特性(ゴム硬度の高い特性)に構成されている。
例えば、図7(a)に示すように、キャンバ角調整装置5によって懸架装置4のキャンバ角可変機構47が作動され、車輪2のキャンバ角θL,θRがネガティブに調整されると、車両1の内側に配置される第2トレッド22の接地(接地圧または接地面積)が増加する一方、車両1の外側に配置される第1トレッド21の接地(接地圧または接地面積)が減少し、第1トレッド21に対する第2トレッド22の接地比率が高くなる。これにより、第2トレッド22の特性、即ち、高グリップ性能を車輪2に発揮させて、走行性能(例えば、制動性能など)の向上を図ることができる。
これに対し、図4(b)に示すように、キャンバ角調整装置5によって懸架装置4のキャンバ角可変機構47が作動され、車輪2のキャンバ角θL,θRがポジティブに調整されると、車両1の外側に配置される第1トレッド21の接地(接地圧または接地面積)が増加する一方、車両1の内側に配置される第2トレッド22の接地(接地圧または接地面積)が減少し、第1トレッド21に対する第2トレッド22の接地比率が低くなる。これにより、第1トレッド21の特性、即ち、低転がり性能を車輪2に発揮させて、省燃費性能の向上を図ることができる。
このように、車両1によれば、車輪2のキャンバ角を調整して第1トレッド21の特性と第2トレッド22の特性とを使い分けることで、各トレッド21,22の特性から得られる性能を車輪2に発揮させて、走行性能と省燃費性能との2つの性能の両立を図ることができる。
次いで、図8を参照して、上記のように構成される車両1の制動時の作用について説明する。図8(a)は、車両1の上面視を模式的に示した模式図であり、図8(b)は、図8(a)の矢印VIIIb方向視における車輪2の側面図である。また、図8(c)は、車両1の上面視を模式的に示した模式図であり、図8(d)は、図8(c)の矢印VIIId方向視における車輪2の側面図である。
上述したように、懸架装置4のロアアーム43は、ブッシュ46(第1ブッシュ46a及び第2ブッシュ46b)を介して車体フレームBFに軸支されると共に、ブッシュ46は、第1ブッシュ46aが第2ブッシュ46bに比して軟らかい特性(ゴム硬度の低い特性)に構成されているので、制動時には、車体フレームBFに作用する慣性力によって、第1ブッシュ46aの変形量が第2ブッシュ46bの変形量よりも大きくなり、図8(a)及び(b)に示すように、車輪2のトウ角がトウアウトに変更される。この場合、車輪2のトウ角がトウアウトとなることで、車輪2にスリップ角が生じ、走行路面との間で車輪2の幅方向に摩擦力Fが作用する。
また、上述したように、FL〜RRブレーキ52FL〜52RRは、永久磁石82の磁力が、走行路面との間で車輪2の幅方向に作用する所定の大きさの摩擦力よりも小さく設定されているので、摩擦力Fが永久磁石82の磁力よりも大きくなると、FL〜RRブレーキ52FL〜52RRによってFL〜RRモータ51FL〜52RRの回転を規制することができなくなり(即ち、車輪2のキャンバ角を保持できなくなり)、図8(c)及び(d)に示すように、摩擦力Fによって車輪2のキャンバ角がネガティブに変更される。
これにより、キャンバ角調整装置5によってキャンバ角可変機構47を作動させなくとも、第1トレッド21に対する第2トレッド22の接地比率を高くすることができる。その結果、第2トレッド22の特性、即ち、高グリップ性能を車輪2に発揮させて、制動性能の向上を図ることができる。更に、キャンバ角調整装置5が故障して車輪2のキャンバ角を調整できなくなった場合でも、制動性能の向上を図ることで、制動時の安全性を確保することができる。
また、制動時に車輪2のトウ角がトウアウトに変更されるので、走行路面との間で車輪2の幅方向に作用する摩擦力Fを車両1の外側へ向けて作用させることができ、トウ角がトウインに変更される場合と比較して、車両安定性の向上を図ると共に、制動性能の向上を図ることができる。
次いで、図9を参照して、第2実施の形態について説明する。第1実施の形態では、第1ブッシュ46aが第2ブッシュ46bに比して柔らかい特性(ゴム硬度の低い特性)に構成されることで、制動時に車体フレームBFに作用する慣性力によって、第1ブッシュ46aの変形量が第2ブッシュ46bの変形量よりも大きくなり、車輪2のトウ角がトウアウトに変更される場合を説明した。
これに対し、第2実施の形態では、車体フレームBFへのロアアーム243の連結構造を第1実施の形態とは異なる構造とすることで、制動時に車体フレームBFに作用する慣性力によって、車輪2のトウ角がトウアウトに変更されるように構成されている。
図9(a)は、第2実施の形態における懸架装置204の正面図であり、図9(b)は、図9(a)の矢印IXb方向視における懸架装置204の上面図である。なお、第1実施の形態と同一の部分には、同一の符号を付して説明を省略する。また、図9の矢印U−D,L−R,F−Bは、車両1の上下方向、左右方向、前後方向をそれぞれ示している。
第2実施の形態におけるロアアーム243は、図9(a)に示すように、一端(図9(a)右側)が連結軸246によって車体フレームBFに軸支されると共に、他端(図9(a)左側)がボールジョイントを介してステアリングナックル42の下部(図9(a)下側)に連結されている。
連結軸246は、図9(b)に示すように、第1連結軸246a及び第2連結軸246bの2つの連結軸を備え、第1連結軸246aが車両1の前方側(矢印F側)に配置され、第2連結軸246bが車両1の後方側(矢印B側)に配置されている。
また、連結軸246は、第1連結軸246aが車両1の前後方向(矢印F−B方向)に沿って配設される一方、第2連結軸246bが車両1の上下方向(矢印U−D方向)に沿って配設されている。
これにより、少なくとも制動時には、車体フレームBFに作用する慣性力によって、ロアアーム243が第2連結軸246bを回転軸として回転され、車輪2のトウ角がトウアウトに変更される。
よって、第1実施の形態の場合と同様に、制動時には、キャンバ角調整装置5によってキャンバ角可変機構47を作動させなくとも、第1トレッド21に対する第2トレッド22の接地比率を高くすることができる。その結果、第2トレッド22の特性、即ち、高グリップ性能を車輪2に発揮させて、制動性能の向上を図ることができる。更に、キャンバ角調整装置5が故障して車輪2のキャンバ角を調整できなくなった場合でも、制動性能の向上を図ることで、制動時の安全性を確保することができる。
次いで、図10を参照して、第3実施の形態について説明する。第1実施の形態では、車輪2が第1トレッド21及び第2トレッド22の2種類のトレッドを備える場合を説明したが、第3実施の形態では、車輪302が3種類のトレッドを備えて構成されている。
図10は、第3実施の形態における車輪302を備えた車両1の上面視を模式的に示した模式図である。なお、第1実施の形態と同一の部分には、同一の符号を付して説明を省略する。また、図10の矢印U−D,L−R,F−Bは、車両1の上下方向、左右方向、前後方向をそれぞれ示している。
第3実施の形態における車輪302は、図10に示すように、第1トレッド21、第2トレッド22及び第3トレッド323の3種類のトレッドを備え、各車輪302において、第2トレッド21が車両1の内側に配置されると共に、第3トレッド323が車両1の外側に配置され、第1トレッド21が第2トレッド22と第3トレッド323との間に配置されている。
また、車輪302は、第3トレッド323が少なくとも第1トレッド21に比してグリップ力の高い特性(ゴム硬度の低い特性)に構成されている。
例えば、キャンバ角調整装置5によって懸架装置4のキャンバ角可変機構47が作動され、車輪302のキャンバ角θL,θRがネガティブに調整されると、車両1の内側に配置される第2トレッド22の接地(接地圧または接地面積)が増加する一方、第2トレッド22よりも車両1の外側に配置される第1トレッド21及び第3トレッド323の接地(接地圧または接地面積)が減少し、第1トレッド21及び第3トレッド323に対する第2トレッド22の接地比率が高くなる。これにより、第2トレッド22の特性、即ち、高グリップ性能を車輪302に発揮させることで、走行性能(例えば、制動性能など)の向上を図ることができる。
また、キャンバ角調整装置5によって懸架装置4のキャンバ角可変機構47が作動され、車輪302のキャンバ角θL,θRがポジティブに調整されると、車両1の外側に配置される第3トレッド323の接地(接地圧または接地面積)が増加する一方、第3トレッド323よりも車両1の内側に配置される第1トレッド21及び第2トレッド22の接地(接地圧または接地面積)が減少し、第1トレッド21及び第2トレッド22に対する第3トレッド323の接地比率が高くなる。これにより、第3トレッド323の特性、即ち、高グリップ性能を車輪302に発揮させることで、走行性能(例えば、制動性能など)の向上を図ることができる。
これに対し、キャンバ角調整装置5によって懸架装置4のキャンバ角可変機構47が作動され、車輪2のキャンバ角θL,θRが0°に調整されると、第2トレッド22の接地(接地圧または接地面積)が増加する一方、第2トレッド22及び第3トレッド323の接地(接地圧または接地面積)が減少し、第1トレッド21に対する第2トレッド22及び第3トレッド323の接地比率が低くなる。これにより、第2トレッド22及び第3トレッド323に比してグリップ力の低い特性に構成される第1トレッド21の特性、即ち、低転がり性能を車輪302に発揮させることで、省燃費性能の向上を図ることができる。
よって、第1実施の形態の場合と同様に、車輪302のキャンバ角を調整して第1トレッド21の特性と第2トレッド22の特性と第3トレッド323の特性とを使い分けることで、車輪302の性能を発揮させて、走行性能と省燃費性能との2つの性能の両立を図ることができる。
また、制動時には、キャンバ角調整装置5によってキャンバ角可変機構47を作動させなくとも、第1トレッド21及び第3トレッド323に対する第2トレッド22の接地比率を高くすることができる。その結果、第2トレッド22の特性、即ち、高グリップ性能を車輪2に発揮させて、制動性能の向上を図ることができる。更に、キャンバ角調整装置5が故障して車輪302のキャンバ角を調整できなくなった場合でも、制動性能の向上を図ることで、制動時の安全性を確保することができる。
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
例えば、上記各実施の形態における構成の一部または全部を他の実施の形態における構成の一部または全部と組み合わせることは当然可能である。
上記実施の形態では、制動時に車体フレームBFに作用する慣性力によって、車輪2のトウ角がトウアウトに変更されると共に、車輪2のトウ角がトウアウトとなることで、走行路面との間で車輪2の幅方向に作用する摩擦力Fによって車輪2のキャンバ角がネガティブに変更される場合を説明したが(図8参照)、必ずしもこれに限られるものではなく、制動時に車体フレームBFに作用する慣性力によって、車輪2のトウ角がトウインに変更されると共に、車輪2のトウ角がトウインとなることで、走行路面との間で車輪2の幅方向に作用する摩擦力によって車輪2のキャンバ角がポジティブに変更されるように構成しても良い。
即ち、第1実施の形態では、第1ブッシュ46aが第2ブッシュ46bに比して軟らかい特性(ゴム硬度の低い特性)に構成されることで、制動時に車体フレームBFに作用する慣性力によって、車輪2のトウ角がトウアウトに変更される場合を説明したが、これに対して、第2ブッシュ46bを第1ブッシュ46aに比して軟らかい特性(ゴム硬度の低い特性)に構成することで、制動時に車体フレームBFに作用する慣性力によって、車輪2のトウ角をトウインに変更することができる。
また、この場合には、第1トレッド21を車両1の内側に配置すると共に、第2トレッド22を車両1の外側に配置することで、上記実施の形態の場合と同様に、制動時には、キャンバ角調整装置5によってキャンバ角可変機構47を作動させなくとも、制動性能の向上を図ると共に、制動時の安全性を確保することができる。
上記実施の形態では、FL〜RRブレーキ52FL〜52RRによってFL〜RRモータ51FL〜51RRの回転を規制することで、車輪2のキャンバ角を保持する場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、例えば、FL〜RRモータ51FL〜51RRの駆動力をキャンバ角可変機構47に付与し続けることで、FL〜RRモータ51FL〜51RRの駆動力によって車輪2のキャンバ角を保持するように構成しても良い。
この場合には、FL〜RRモータ51FL〜51RRの駆動力を、走行路面との間で車輪2の幅方向に作用する所定の大きさの摩擦力よりも小さく設定することで、上記実施の形態の場合と同様に、制動時には、キャンバ角調整装置5によってキャンバ角可変機構47を作動させなくとも、制動性能の向上を図ると共に、制動時の安全性を確保することができる。
上記実施の形態では、車輪2のトウ角の初期設定(即ち、停車時におけるトウ角)については説明を省略したが、かかる初期設定をトウアウト又はトウインとしても良い。この場合には、制動時に車体フレームBFに作用する慣性力によって、車輪2のトウ角がトウアウト又はトウインに変更し易くなるので、その分、より確実に制動性能の向上を図ると共に、制動時の安全性を確保することができる。