JP4992275B2 - ファインブランキング加工性に優れた鋼板およびその製造方法 - Google Patents

ファインブランキング加工性に優れた鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、自動車部品等の用途に好適な鋼板に係り、とくに精密打抜き加工(以下、ファインブランキング加工、あるいはFB加工ともいう)を施される使途に好適な、ファインブランキング加工性に優れた鋼板に関する。
複雑な機械部品を製造するうえでは、寸法精度の向上、製造工程の短縮等の観点から、ファインブランキング加工が、切削加工に比べて極めて有利な加工方法であることが知られている。
通常の打抜き加工では、工具間のクリアランスは、被打抜き材である金属板の板厚の5〜10%程度であるが、ファインブランキング加工は、通常の打抜き加工とは異なり、工具間のクリアランスをほぼゼロ(実際は、被打抜き材である金属板の板厚の2%以下程度)と極めて小さく設定すると共に、さらに工具切刃付近の材料に圧縮応力を作用させて打抜く加工方法である。そして、ファインブランキング加工は、
(1)工具切刃からの亀裂発生を抑制して、通常の打抜き加工で見られる破断面がほぼゼロとなり、加工面(打抜き端面)がほぼ100%剪断面の、平滑な加工面が得られる、
(2)寸法精度がよい、
(3)複雑な形状を1工程で打抜ける
などの特徴を有している。しかし、ファインブランキング加工においては、材料(金属板)の受ける加工度は極めて厳しいものとなる。また、ファインブランキング加工では、工具間のクリアランスをほぼゼロとして行うため、金型への負荷が過大となり、金型寿命が短くなるという問題がある。
このため、ファインブランキング加工を適用される材料には、優れたファインブランキング加工性を具備するとともに、金型寿命の低下を防止することが要求されてきた。
このような要望に対し、例えば、特許文献1には、C:0.15〜0.90重量%、Si:0.4重量%以下、Mn:0.3〜1.0重量%を含有する組成と、球状化率80%以上、平均粒径0.4〜1.0μmの炭化物がフェライトマトリックスに分散した組織を有し、切欠き引張伸びが20%以上である、精密打抜き加工性に優れた高炭素鋼板が提案されている。特許文献1に記載された技術によれば、精密打抜き性が改善され、さらに金型寿命も改善されるとしている。しかし、特許文献1に記載された高炭素鋼板は、ファインブランキング加工後の成形加工性が劣るという問題があった。
また、特許文献2には、C:0.08〜0.19%、Si、Mn、Alを適正量含有し、Cr:0.05〜0.80%、B:0.0005〜0.005%を含有する鋼片に、適正な熱間圧延を施して鋼板とした、精密打抜き用鋼板が提案されている。特許文献2に記載された鋼板は、降伏強度が低く、かつ衝撃値が高くファインブランキング加工性に優れ、低歪域n値が高く複合成形加工性に優れ、さらに短時間急速加熱焼入性にも優れた鋼板であるとされる。しかし、特許文献2には、ファインブランキング加工性についての具体的な評価は示されていない。また、特許文献2に記載された鋼板は、ファインブランキング加工後の成形加工性が劣るという問題があった。
また、特許文献3には、C:0.15〜0.45%を含み、Si、Mn、P、S、Al、N含有量を適正範囲に調整した組成を有し、さらに、パーライト+セメンタイト分率が10%以下、かつフェライト粒の平均粒径が10〜20μmである組織を有する、転造加工やファインブランキング加工における成形性に優れた高炭素鋼板が提案されている。特許文献3に記載された高炭素鋼板では、ファインブランキング加工性に優れ、さらにファインブランキング加工における金型寿命も改善されるとしている。しかし、特許文献3に記載された高炭素鋼板は、ファインブランキング加工後の成形加工性が劣るという問題があった。
さらに、特許文献1、特許文献2、特許文献3に記載された鋼板は、いずれも、最近の厳しい加工条件のファインブランキング加工においては、満足できる十分なファインブランキング加工性を具備しているとはいえず、また金型寿命も十分に改善されているわけではないうえ、ファインブランキング加工後の成形加工性が劣るという問題が残されていた。
当初、ファインブランキング加工は、ギア部品などでも、ファインブランキング加工後に加工を施されない部品に適用されてきた。しかし、最近では、自動車部品(リクライニング部品など)へのファインブランキング加工の適用が拡大される傾向にあり、ファインブランキング加工後に伸びフランジ加工や張出し加工などを必要とする部品への適用が検討されている。このため、自動車部品として、ファインブランキング加工性に優れるうえ、ファインブランキング加工後の、伸びフランジ加工や張出し加工などの成形加工性にも優れた鋼板が熱望されている。
伸びフランジ加工性を改善する技術としては、これまで数多くの提案がなされている。例えば、特許文献4には、C:0.20〜0.33%を含み、Si、Mn、P、S、sol.Al、N含有量を適正範囲に調整し、さらにCr:0.15〜0.7%を含有する組成を有し、パーライトを含んでいてよいフェライト・ベイナイト混合組織を有する、伸びフランジ性にすぐれる耐摩耗用熱延鋼板が提案されている。特許文献4に記載された熱延鋼板では、上記した組織とすることにより、穴拡げ率が高くなり、伸びフランジ性が向上するとしている。また、特許文献5には、C:0.2〜0.7%を含有する組成を有し、炭化物平均粒径が0.1μm以上1.2μm未満、炭化物を含まないフェライト粒の体積率が15%以下である組織を有する伸びフランジ性に優れた高炭素鋼板が提案されている。特許文献5に記載された高炭素鋼板では、打抜き時の端面におけるボイドの発生を抑制し、穴拡げ加工におけるクラックの成長を遅くすることができ、伸びフランジ性が向上するとしている。
また、特許文献6には、C:0.2%以上を含む組成を有し、フェライトおよび炭化物を主体とし、炭化物粒径が0.2μm以下、フェライト粒径が0.5〜1μmである組織を有する打抜き性と焼入れ性に優れた高炭素鋼板が提案されている。これにより、バリ高さと金型寿命とで決定される打抜き性と、焼入れ性がともに向上するとしている。
また、特許文献7には、圧延後に硬化処理を施し鋼板表面に硬化層を形成させ、打抜き性を向上させた、打抜き性に優れる鋼板の製造法が提案されている。これにより、打抜き加工時にバリ、かえりの発生を防止でき、打抜き性が向上するとしている。
また、特許文献8には、C:0.10%以下を含み、Si、Mn、P、S、Alを適正量に調整し、さらにTi、あるいはさらにNbおよび/またはBを含有させ、冷延−再結晶焼鈍後に塑性歪を与えることにより、表層部の平均硬度をHV:135〜200、内部の平均硬度をHV:100〜130とした耐バリ性および絞り性に優れた冷延鋼板が提案されている。これにより、プレス成形時にバリの発生を防止できるとしている。
特開2000−265240号公報 特開昭59−76861号公報 特開2001−140037号公報 特開平9−49065号公報 特開2001−214234号公報 特開平9-316595号公報 特開平2−133561号公報 特開平4−120242号公報
しかしながら、特許文献4、特許文献5に記載された技術はいずれも、従来の打抜き加工を施すことを前提にしたものであり、クリアランスがほぼゼロとなるファインブランキング加工の適用を考慮したものではない。したがって、厳しいファインブランキング加工後に、同様の伸びフランジ性を確保することは難しく、たとえ確保できても金型寿命が短くなるという問題がある。
また、特許文献6に記載された技術では、フェライト粒径を0.5〜1μmの範囲にする必要があり、このようなフェライト粒径を有する鋼板を安定して工業的に製造することは困難であり、製品歩留の低下に繋がるという問題があった。
また、特許文献7、特許文献8に記載された技術はいずれも、従来の打抜き加工を施すことを前提にしたものであり、ファインブランキング加工の適用を考慮したものではないうえ、鋼板表層を硬化させており、金型寿命の低下に繋がるという問題があった。
本発明は、上記した従来技術の問題に鑑みて成されたものであり、金型寿命を低下させることなく、ファインブランキング加工性に優れ、さらにファインブランキング加工後の成形加工性にも優れた鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記した目的を達成するために、ファインブランキング加工性(以下、FB加工性と略す)に及ぼす金属組織の影響、とくにフェライト、炭化物の形態および分布状態の影響について鋭意研究した。
FB加工では、クリアランスゼロ、圧縮応力状態で材料が加工される。そのため、材料には、大きな変形を受けたのちに、亀裂が発生する。大きな変形中に、多数の亀裂が発生すると、FB加工性は大幅に低下することになる。亀裂の発生防止には、炭化物の球状化や炭化物粒径の微細化が重要であるといわれている。しかし、FB加工においては、たとえ100%球状化した微細炭化物であっても、それらがフェライト粒内に存在する場合には、微小亀裂の発生は避けられない。そのため、FB加工後さらに伸びフランジ加工が施される場合には、FB加工時に発生した微小亀裂同士が連結して伸びフランジ性の低下をもたらすことになると本発明者らは考えた。また、金型寿命に関しても、フェライト粒内に炭化物が多数存在すると、工具切刃の摩耗が促進され、金型寿命が低下することになると本発明者らは推察した。
このようなことから、本発明者らは、FB加工性が、フェライト粒内に存在する炭化物およびフェライト粒径と密接な関係にあることを見出した。そして、所定範囲の組成を有する鋼素材に、熱間圧延の仕上圧延条件およびその後の冷却を適正条件として、ほぼ100%のパーライト組織を有する熱延鋼板とし、さらに適正条件の熱延板焼鈍を施して、金属組織を、フェライト平均粒径が20μm以下、炭化物の球状化率が80%以上とし、かつフェライト粒界に存在する炭化物の面積が全炭化物面積に対する比率で40%以上となる、フェライト粒内の炭化物量を制限した、フェライト+球状化セメンタイト(球状炭化物)組織とすることにより、FB加工性および金型寿命が顕著に向上することを見出した。また、フェライト粒内の炭化物量を制限することにより、FB加工後の成形加工性も顕著に向上することを新たに見出した。
さらに、本発明者らは、FB加工性に及ぼす、とくに鋼板表層組織の影響について検討した。その結果、FB加工時には、被加工材である鋼板の表層部がとくに大きな変形を受けるため、FB加工性および金型寿命を向上させるには、表層部が延性に富むこと、が重要であることに思い至った。延性に富む表層部とすることにより、FB加工時に表層部での亀裂発生が少なくなり、FB加工後の加工性向上に繋がることになる。というのは、とくに伸びフランジ加工時には、FB加工時に生じた鋼板表層部の微細な亀裂の連結により割れが発生する場合がほとんどであり、FB加工後の伸びフランジ性に対しては鋼板表層部の影響が大きいためである。本発明者らは、更なる研究により、鋼板表層部のうち、とくに表面から板厚の5%までの領域である表層の結晶粒径を、適正範囲に調整することにより、FB加工性、金型寿命およびFB加工後の成形加工性を適正にバランスさせることができることを知見した。
まず、本発明の基礎となった実験結果について説明する。
質量%で、0.34%C−0.2%Si−0.8%Mnを含有する高炭素鋼スラブ(S35C相当)に、1150℃に加熱後、5パスの粗圧延、7パスの仕上圧延からなる熱間圧延を施し、板厚4.0mmの熱延鋼板とした。なお、熱間圧延における仕上圧延では、最終圧延パスの摩擦係数を、潤滑条件の変更により、変化させて圧延した。仕上圧延の圧延終了温度はAr変態点〜850℃とし、仕上圧延後に平均冷却速度:60℃/sで冷却し、冷却停止温度を600〜650℃とし、巻取り温度:500〜550℃で巻き取った。ついでこれら熱延鋼板に酸洗を施した後、熱延板焼鈍としてバッチ焼鈍(720℃×40h)を行った。これら熱延板焼鈍を施された鋼板について、金属組織を観察するとともにFB加工時の金型寿命を評価した。
金属組織観察は、得られた鋼板から試験片を採取し、該試験片の圧延方向に平行な断面を研磨し、ナイタール腐食したのち、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて組織を観察(倍率:1000倍、視野30個所)し、画像解析により、表面から板厚の5%までの領域(表層)の平均結晶粒径を測定した。なお、表層の組織はフェライトと炭化物を主体とする組織であり、フェライトの平均結晶粒径を測定した。
フェライト粒径は、各フェライト粒についてその面積を測定し、得られた面積から円相当径を求め、おのおのの粒径とした。得られた各フェライト粒径を算術平均し、その値を、その鋼板のフェライト平均粒径とした。
また、得られた鋼板から試験板(大きさ:100×80mm)を採取し、ファインブランキングテスト(FBテスト)を実施した。FBテストは、110t油圧プレス機を用いて、試験片から、大きさ:60mm×40mm(コーナー部半径R:10mm)のサンプルを、クリアランス:0.060mm(板厚の1.5%)、加工力:8.5ton、潤滑:有りの条件で打抜いた。50000回の打抜きテストを実施したのち、打抜かれたサンプルの端面(打抜き面)について、表面粗さ(十点平均粗さRz)、およびバリ高さを測定して、金型寿命を評価した。
表面粗さの測定は、R部を除く4つの端面とし、各端面で図3に示すように、パンチ側表面0.5mmから板厚方向に3.9mmまでの範囲でかつ表面に平行に(X方向)10mmの領域を、触針式表面粗度計で繰返し板厚方向(t方向)に100μmピッチで35回走査し、JIS B 0601-1994に準拠して、各走査線における表面粗さRzを測定した。さらに、測定面の表面粗さRzは、各々の走査線のRzを合計して、その平均値とした。上記と同様の方法で4つの端面を測定して、次式
Rz ave=(Rz 1+ Rz 2+ Rz 3+ Rz 4)/4
(ここで、Rz 1,Rz 2,Rz 3,Rz 4:各面のRz)
で定義される平均表面粗さ:Rz ave(μm)を算出した。
本発明では、50000回の打抜き加工後の加工端面の平均表面粗さ:Rz aveが、10μm以下と、小さくなるほど、FB加工性に優れるとする。
また、バリ高さの測定は、打抜き加工後の端面(4端面)について、発生したバリの高さを光学顕微鏡で測定し、その最大値をその鋼板のバリ高さとした。バリ高さの定義を図1に示す。なお、本発明では、50000回の打抜き加工後の加工端面のバリ高さが100μm以下と小さくなるほど、FB加工性に優れているとする。
得られた結果を図2に示す。
図2から、表層のフェライト平均結晶粒径を20μm以上とすることにより、FB加工による50000回打抜き後の加工端面の平均表面粗さRz aveが10μm以下と急激に小さくなり、50000回打抜き後にも、平滑なFB加工端面が維持されており、金型寿命の低下は認められないことがわかる。また、バリ高さは、表層のフェライト平均結晶粒径が小さいほど小さいが、表層のフェライト平均結晶粒径が50μmを超えて大きくなると、バリ高さが急激に大きくなり、FB材として工業生産上問題となるレベル(0.1mm)を超えることがわかる。
本発明は、上記した知見に基づき、さらに研究を重ねて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)質量%で、C:0.1〜0.5%、Si:0.5%以下、Mn:0.2〜1.5%、P:0.03%以下、S:0.02%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、表面から板厚の5%までの領域である表層と該表層以外の内層とからなる複層組織を有する鋼板であって、前記表層が、フェライトおよび炭化物を主体とし、該表層のフェライトの平均粒径が20〜50μmである組織を有し、前記内層が、フェライトおよび炭化物を主体とする組織を有し、該内層のフェライトの平均粒径が1〜20μm、該内層の板厚1/4位置について倍率:3000倍、視野数:30箇所の組織を走査型電子顕微鏡で観察し、各炭化物の最大長さaと最小長さbを求め、比a/bを計算し、a/bが3以下の炭化物粒数を、測定した全炭化物個数に対する割合(%)で表示した内層の炭化物の球状化率が80%以上で、かつ該内層の炭化物のうち、内層のフェライトの結晶粒界に存在する炭化物の量である、次(1)式
Sgb(%)={Son/(Son+Sin)}×100 ……(1)
(ここで、Son:単位面積あたりに存在する炭化物のうち、フェライト粒界上に存在する炭化物の総占有面積、Sin:単位面積あたりに存在する炭化物のうち、フェライト粒内に存在する炭化物の総占有面積)で定義される、内層のフェライト粒界炭化物量Sgbが40%以上であることを特徴とするファインブランキング加工性に優れた鋼板。
(2)(1)において、前記内層のフェライトの結晶粒界に存在する炭化物が、平均粒径で2μm以下であることを特徴とする鋼板。
(3)(1)または(2)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Al:0.1%以下を含有する組成とすることを特徴とする鋼板。
(4)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cr:3.5%以下、Mo:0.7%以下、Ni:3.5%以下、Ti:0.01〜0.1%およびB:0.0005〜0.005%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする鋼板。
(5)鋼素材を加熱し圧延を施し熱延板とする熱間圧延と、該熱延板にバッチ焼鈍を施す熱延板焼鈍と、を順次施す鋼板の製造方法において、前記鋼素材を、質量%で、C:0.1〜0.5%、Si:0.5%以下、Mn:0.2〜1.5%、P:0.03%以下、S:0.02%以下を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼素材とし、前記熱間圧延における仕上圧延を、Ar変態点〜850℃の温度域における累積圧下率を25%以上とし、かつ最終圧延パスにおける摩擦係数を0.2以上とし、圧延終了温度をAr変態点〜850℃とし、圧延終了後、50℃/s以上の平均冷却速度で冷却し、500〜700℃の温度域で冷却を停止し、巻取り温度を450〜700℃として巻き取る処理とすることを特徴とする鋼板の製造方法。
(6)(5)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Al:0.1%以下を含有する組成とすることを特徴とする鋼板の製造方法。
(7)(5)または(6)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cr:3.5%以下、Mo:0.7%以下、Ni:3.5%以下、Ti:0.01〜0.1%およびB:0.0005〜0.005%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする鋼板の製造方法。
(8)(5)ないし(7)のいずれかにおいて、前記熱延板焼鈍を、焼鈍温度:600〜750℃とする処理とすることを特徴とする鋼板の製造方法。
本発明によれば、金型寿命の低下やバリ高さの増大を伴うことなく、FB加工性に優れ、しかもFB加工後の成形加工性にも優れた鋼板を容易にしかも安価に製造でき、産業上格段の効果を奏する。また、本発明によれば、FB加工性に優れた鋼板となり、FB加工後の端面処理を行う必要がなくなり、製造工期の短縮が可能で生産性が向上するとともに、製造コストの削減が可能となるという効果もある。
まず、本発明鋼板の組成限定理由について説明する。なお、組成における質量%は、とくに断わらないかぎり、単に%と記す。
C:0.1〜0.5%
Cは、熱延板焼鈍後および焼入れ後の硬さに影響する元素であり、本発明では0.1%以上の含有を必要とする。Cが0.1%未満では、自動車用部品として要求される硬さを得ることができなくなる。一方、0.5%を超える多量の含有は、鋼板が硬質化するため、工業的に十分な金型寿命が確保できなくなる。このため、Cは0.1〜0.5%の範囲に限定した。
Si:0.5%以下
Siは、脱酸剤として作用するとともに、固溶強化により強度(硬さ)を増加させる元素であり、0.01%以上含有することが望ましいが、0.5%を超えて多量に含有するとフェライトが硬質化し、FB加工性を低下させる。また0.5%を超えてSiを含有すると、熱延段階で赤スケールと呼ばれる表面欠陥を生じる。このため、Siは0.5%以下に限定した。なお、好ましくは0.35%以下である。
Mn:0.2〜1.5%
Mnは、固溶強化により鋼の強度を増加するとともに、焼入れ性向上に有効に作用する元素である。このような効果を得るためには、0.2%以上の含有を必要とする。一方、1.5%を超えて過剰に含有すると、固溶強化が強くなりすぎてフェライトが硬質化し、FB加工性が低下する。このため、Mnは0.2〜1.5%の範囲に限定した。なお、好ましくは、0.2〜1.0%である。
P:0.03%以下
Pは、粒界等に偏析し加工性を低下させるため、本発明では極力低減することが望ましいが、0.03%までは許容できる。このようなことから、Pは0.03%以下に限定した。なお、好ましくは0.02%以下である。
S:0.02%以下
Sは、鋼中ではMnSなどの硫化物を形成して介在物として存在し、FB加工性を低下させる元素であり、極力低減することが望ましいが、0.02%までは許容できる。このようなことから、Sは0.02%以下に限定した。なお、好ましくは0.01%以下である。
上記した成分が基本組成であるが、本発明では上記した基本組成に加えて、Al、および/または、Cr、Mo、Ni、TiおよびBのうちから選ばれた1種または2種以上を含有できる。
Al:0.1%以下
Alは、脱酸剤として作用するとともに、Nと結合してAlNを形成し、オーステナイト粒の粗大化防止に寄与する元素である。Bとともに含有する場合には、Nを固定し、BがBNとなり焼入れ性向上に有効なB量の低減を防止する効果も有する。このような効果は0.02%以上の含有で顕著となるが、0.1%を超える含有は、鋼の清浄度を低下させる。このため、含有する場合には、Alは0.1%以下に限定することが好ましい。なお、不可避的不純物としてのAlは0.01%以下である。
Cr、Mo、Ni、Ti、Bはいずれも、焼入れ性の向上、あるいはさらに焼戻軟化抵抗の向上に寄与する元素であり、必要に応じて選択して含有できる。
Cr:3.5%以下
Crは、焼入れ性の向上に有効な元素であり、このような効果を得るためは0.1%以上含有することが好ましいが、3.5%を超える含有は、FB加工性が低下するとともに、焼戻軟化抵抗の過度の増大を招く。このため、Crは含有する場合には3.5%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.2〜1.5%である。
Mo:0.7%以下
Moは、焼入れ性の向上に有効に作用する元素であり、このような効果を得るためには0.05%以上含有することが好ましいが、0.7%を超える含有は鋼の硬質化を招き、FB加工性が低下する。このため、Moは含有する場合には0.7%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.1〜0.3%である。
Ni:3.5%以下、
Niは、焼入れ性を向上させる元素であり、このような効果を得るためには0.1%以上含有することが好ましいが、3.5%を超える含有は鋼の硬質化を招き、FB加工性が低下する。このため、Niは含有する場合には3.5%以下に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.1〜2.0%である。
Ti:0.01〜0.1%
Tiは、Nと結合しTiNを形成しやすく、焼入れ時のγ粒の粗大化防止に有効に作用する元素である。また、Bとともに含有する場合にはBNを形成するNを低減するため、焼入れ性向上に必要なBの添加量を少なくすることができるという効果も有する。このような効果を得るためには0.01%以上の含有を必要とする。一方、0.1%を超える含有は、TiCなどの析出によりフェライトが析出強化されて硬質化し、金型寿命の低下を招く。このため、含有する場合には、Tiは0.01〜0.1%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.015〜0.08%である。
B:0.0005〜0.005%
Bは、オーステナイト粒界に偏析し、微量で焼入れ性を改善させる元素であり、特にTiと複合添加した場合に効果的である。焼入れ性改善のためには、0.0005%以上の含有を必要とする。一方、0.005%を超えて含有しても、その効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できなくなり経済的に不利となる。このため、含有する場合には、Bは0.0005〜0.005%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは0.0008〜0.004%である。
上記した成分以外の残部はFeおよび不可避的不純物である。なお、不可避的不純物としては、例えば、N:0.01%以下、O:0.01%以下、Cu:0.1%以下が許容できる。
次に、本発明鋼板の組織限定理由について説明する。
本発明鋼板は、上記した組成を有し、表層と該表層以外の内層とからなる3層の複層組織を有する鋼板である。なお、ここでいう「表層」とは、表面から板厚の5%までの領域を言うものとする。
本発明鋼板では、表層は、フェライトおよび炭化物を主体とする組織とする。なお、フェライトおよび炭化物を主体とする組織とは、フェライトと炭化物とで体積率で95%以上となる組織をいうものとする。すなわち本発明鋼板は、ほぼフェライトおよび炭化物からなるものであるが、その他の組織として、体積率で5%程度までは許容することができる。
そして、表層におけるフェライトは、平均結晶粒径が20〜50μmである、内層に比べて粗大な結晶粒とする。表層におけるフェライトの平均結晶粒径が20μm未満では、図2に示すように50000回打抜き後の加工端面の平均表面粗さが粗くなり、金型寿命の低下が著しくなる。一方、50μmを超えて粗大化すると、バリ高さが高くなり、工業生産上問題となる。このため、表層におけるフェライトの平均結晶粒径を20〜50μmの範囲に限定した。なお、表層における炭化物についてはとくに限定する必要はない。
また、内層は、フェライトおよび炭化物を主体とする組織を有する。
本発明鋼板では、内層におけるフェライトの粒径は、平均結晶粒径で1〜20μmとする。平均フェライト結晶粒径が1μm未満では、鋼板が著しく硬化するとともに、フェライト粒内の炭化物量が増加し、FB加工性、金型寿命、さらにはFB加工後の穴拡げ性等の成形加工性が低下する。一方、20μmを超えると、軟質化して金型寿命が向上するものの、FB加工性が低下する。このため、内層におけるフェライトの平均結晶粒径を1〜20μmの範囲に限定した。なお、好ましくは1〜10μmである。
本発明鋼板では、内層の板厚1/4位置について倍率:3000倍、視野数:30箇所の組織を走査型電子顕微鏡で観察し、各炭化物の最大長さaと最小長さbを求め、比a/bを計算し、a/bが3以下の炭化物粒数を、測定した全炭化物個数に対する割合(%)で表示した内層の炭化物の球状化率を80%以上とする。球状化率が80%未満では、硬質化するうえ、変形能が小さくFB加工性が低下する。球状化率が80%未満では、FB加工端面のRz ave が10μmを超えて大きくなり、FB加工性が急激に低下する。このため、本発明では、十分なFB加工性を確保するために、内層における炭化物の球状化率を80%以上に限定した。なお、球状化率を大きくするためには長時間の焼鈍が必要になるため、好ましくは80〜85%である。
また、本発明鋼板では、内層におけるフェライト粒界炭化物量Sgbを40%以上とする。フェライト粒界炭化物量Sgbは、全炭化物の占有面積に対する、フェライト結晶粒界上に存在する炭化物の占有面積の比率であり、次(1)式
Sgb(%)={Son/(Son+Sin)}×100 ……(1)
(ここで、Son:単位面積あたりに存在する炭化物のうち、フェライト結晶粒界上に存在する炭化物の総占有面積、Son、Sin:単位面積あたりに存在する炭化物のうち、フェライト粒内に存在する炭化物の総占有面積)
で定義される値である。内層におけるフェライト粒界炭化物量Sgbが40%未満では、フェライト粒内に存在する炭化物量が多くなり、FB加工端面のRz ave が10μmを超えて大きくなり、FB加工性が急激に低下する。これは、微細で球状化された炭化物でもフェライト粒内に存在すると、FB加工時に炭化物の周りに微細な亀裂が発生し、それらの連結によりFB加工性が低下するためであると考えられる。また、FB加工時に炭化物の周りに微細な亀裂が発生し残存することにより、その後の成形加工でそれらが連結し、成形加工性が低下すると考えられる。また、フェライト粒内に炭化物が存在するとフェライト粒自身が硬質化し、金型寿命の低下を招く。このため、本発明では、内層におけるフェライト粒界炭化物量Sgbを40%以上に限定した。なお、好ましくは60%以上である。
また、本発明鋼板では、内層におけるフェライトの結晶粒界上に存在する炭化物は、平均粒径で2μm以下とすることが好ましい。というのは、内層におけるフェライト粒界炭化物量Sgbが40%以上である場合は、フェライト粒界上に存在する炭化物は、その粒径が小さいほどFB加工性の向上、さらには金型寿命の向上に寄与することが大きいことを新たに見出したことによる。また、炭化物粒径は小さいほど、高周波焼入れにおける短時間加熱に際しても、炭化物をオーステナイト中に容易に固溶させることができ、所望の焼入れ硬さを確保することが容易になる。このようなことから、内層におけるフェライトの結晶粒界上に存在する炭化物の平均粒径は2μm以下に限定することが好ましい。
つぎに、本発明鋼板の好ましい製造方法について説明する。
本発明では、通常公知の溶製方法がいずれも適用できる。上記した組成を有する溶鋼を、転炉等の溶製方法で溶製し、さらに真空脱ガス炉等の二次精錬を行なうことが好ましい。また、溶製された溶鋼は、連続鋳造法等の常用の鋳造方法で鋼素材(スラブ)とすることが好ましい。本発明では、連続鋳造法に限定されることはなく、造塊−分塊法で鋼素材としてもよい。
ついで、得られた鋼素材には、鋼素材を加熱し圧延して熱延板とする熱間圧延を施す。
熱間圧延を施すに当り、鋼素材は熱間圧延のための加熱を施される。なお、加熱温度は、とくに限定する必要はないが、通常の1000〜1250℃とすることが好ましい。しかし、鋼素材が所定以上の温度を保持している場合には、加熱を施されることなく、鋳造後直ちに、または補熱を目的とした加熱を施され、そのまま熱間圧延を行う、いわゆる直送圧延を行なうことができる。また、鋳造後直ちに、粗圧延を施し、仕上げ圧延前に加熱を行ってもよい。また、鋳造後直ちに、あるいは鋼素材を加熱して、粗圧延を施しシートバーとした後に、シートバーを接合し連続熱間圧延を行っても、また、シートバーを加熱した後に、シートバーを接合し連続熱間圧延を行ってもよい。
本発明では、熱間圧延における仕上圧延は、Ar変態点〜850℃の温度域における累積圧下率を25%以上、かつ最終圧延パスにおける摩擦係数を0.2以上、圧延終了温度をAr変態点〜850℃とし、圧延終了後、50℃/s以上の平均冷却速度で冷却し、500〜700℃の温度域で冷却を停止し、巻取り温度を450〜700℃として巻き取る処理とする。
本発明における熱間圧延では、仕上圧延の圧延終了温度と、その後の冷却条件を調整することにより、ほぼ100%のパーライト組織を有する熱延板が得られる。さらに、本発明では、仕上圧延の最終圧延パスを摩擦係数が0.2以上の圧延パスとすることにより、表層を剪断変形させ、その後の熱延板焼鈍処理により表層の結晶粒のみを粗大化させ、表層を軟質化することに特徴がある。
Ar変態点〜850℃の温度域における累積圧下率:25%以上
熱間圧延における仕上圧延段階で、圧下率を大きくすることは、γ→α変態前のオーステナイト(γ)粒径を小さくすることができ、それに伴ってγ→α変態後のパーライトコロニーサイズを小さくすることができる。パーライトコロニーサイズを小さくしておくと、熱延板焼鈍中に炭化物が結晶粒界に凝集する傾向が強くなり、フェライト粒内の炭化物が減少し、フェライト粒界炭化物量を所望の値以上とすることができる。
フェライト粒界炭化物量を所望の値以上とするためには、熱間圧延の仕上圧延段階における、Ar変態点〜850℃の温度域における累積圧下率を25%以上とすることが好ましい。Ar変態点〜850℃の温度域における累積圧下率が25%未満では、γ→α変態前のオーステナイト(γ)粒を小さくすることができず、γ→α変態後のパーライトコロニーが粗大化し、フェライト粒内炭化物量が増大し、FB加工性が低下する。このため、熱間圧延の仕上圧延におけるAr変態点〜850℃の温度域の累積圧下率を25%以上に限定することが好ましい。なお、Ar変態点〜850℃の温度域の累積圧下率の上限は圧延荷重および表面性状の観点から50%以下とすることが好ましい。
仕上圧延の最終圧延パスにおける摩擦係数:0.2以上
本発明の製造方法では、最終圧延パスの摩擦係数を0.2以上に調整する。これにより、鋼板の表層に剪断変形による歪が蓄積されやすくなり、その後の熱延板焼鈍で、表層(表面から板厚の5%までの領域)組織を、フェライト平均結晶粒径が20μm以上の粗大粒組織とすることができる。最終圧延パスの摩擦係数を0.2未満では、上記したような表層のフェライト粒粗大化が達成できない。なお、最終圧延パスの摩擦係数の上限は限定する必要はないが、鋼板の表面性状を考慮すると、0.4程度が上限となる。また、最終圧延パスの摩擦係数は、圧延時の潤滑剤の種類および塗布量の調整により行なうことができる。
仕上圧延の圧延終了温度:Ar変態点〜850℃
仕上圧延の圧延終了温度は、Ar変態点〜850℃の範囲内の温度とすることが好ましい。仕上圧延の圧延終了温度が850℃を超えて高くなると、発生するスケールが厚くなり酸洗性が低下するうえ、鋼板表層で脱炭層を生じる場合がある。一方、仕上圧延の圧延終了温度がAr変態点未満では、圧延負荷の増大が著しくなり、圧延機への過大な負荷が問題となる。このため、仕上圧延の圧延終了温度はAr変態点〜850℃の範囲内の温度とすることが好ましい。
仕上圧延終了後の平均冷却速度:50℃/s以上
仕上圧延終了後、50℃/s以上の平均冷却速度で冷却する。なお、該平均冷却速度は仕上圧延の終了温度から該冷却(強制冷却)の停止温度までの平均冷却速度である。平均冷却速度が50℃/s未満では、冷却中に炭化物を含まないフェライトを生じ、冷却後の組織がフェライト+パーライトの不均一な組織となり、ほぼ100%のパーライトからなる均一な組織を確保できなくなる。熱延板組織がフェライト+パーライトの不均一な組織では、その後の熱延板焼鈍をいかに工夫しても、粒内に存在する炭化物が多くなり、結晶粒界に存在する炭化物量が減少する。このため、FB加工性が低下する。このようなことから、仕上圧延終了後の平均冷却速度を50℃/s以上に限定することが好ましい。
冷却停止温度:500〜700℃
上記冷却(強制冷却)を停止する温度は500〜700℃とすることが好ましい。冷却停止温度が500℃未満では、硬質なベイナイトやマルテンサイトを生じて熱延板焼鈍が長時間となるという問題や、巻取時に割れを生じるなど操業上の問題を生じる。一方、冷却停止温度が700℃を超えて高温となると、フェライト変態ノーズが700℃近傍であるため、冷却停止後の放冷中にフェライトを生じ、ほぼ100%のパーライトからなる均一な組織を確保できなくなり、その後の熱延板焼鈍の如何にかかわらず、熱延板焼鈍後のFB加工性が低下する。このようなことから、冷却の停止温度は、500〜700℃の範囲内の温度に限定することが好ましい。なお、より好ましくは500〜650℃、さらに好ましくは500〜600℃である。
巻取り温度:450〜700℃
冷却を停止したのち、熱延板は直ちにコイル状に巻取られる。巻取り温度は450〜700℃とすることが好ましい。巻取り温度が450℃未満では、巻取り時に鋼板に割れが発生する場合があり、操業上問題となる。一方、巻取り温度が700℃を超えると、巻取り中にフェライトが生成するという問題がある。なお、より好ましくは450〜600℃である。
このようにして得た熱延板(熱延鋼板)は、酸洗またはショットブラストなどにより表面の酸化スケールを除去した後、熱延板焼鈍を施される。ほぼ100%のパーライト組織を有する熱延板に適正な熱延板焼鈍を施すことにより、表層ではフェライトの粒成長が促進され、一方内層では炭化物の球状化が促進されるとともに、フェライトの粒成長が抑制され、炭化物の多くをフェライト結晶粒界上に存在させることができるようになる。
熱延板焼鈍の焼鈍温度:600〜750℃
熱延板焼鈍では、焼鈍温度を600〜750℃の範囲の温度とすることが好ましい。焼鈍温度が、600℃未満では、十分な炭化物の球状化の達成が困難となる。一方、750℃を超えて高温となると、冷却中にパーライトが再生し、FB加工性、その他の加工性が低下する。なお、熱延板焼鈍の保持時間はとくに限定する必要はないが、炭化物を十分球状化するためには8h以上とすることが好ましい。また、80hを超えるとフェライト粒が過度に粗大化する恐れがあるため、80h以下とすることが好ましい。
表1に示す組成の溶鋼を転炉で溶製したのち、真空脱ガス炉で二次精錬を行ない、連続鋳造法でスラブ(鋼素材)とした。これら鋼素材(スラブ)を1100℃に加熱したのち、表2に示す熱間圧延および熱延板焼鈍を施し、熱延鋼板(板厚:4.0mm)とした。なお、仕上圧延の最終圧延パスは、潤滑剤の種類、塗布量を調整して表2に示す摩擦係数の圧延とした。また、熱膨張試験機によりAr変態点温度を求め、表1に示す。また、表2に示した摩擦係数はOrowanの荷重式により求めた値である。
得られた熱延鋼板について、組織、FB加工性、FB加工後の伸びフランジ性を調査した。調査方法はつぎのとおりである。
(1)組織
得られた鋼板から組織観察用試験片を採取した。そして、試験片の圧延方向に平行な断面を研磨し、ナイタール腐食したのち、表層(表面から板厚の5%までの領域)および内層(板厚1/4位置)について、走査型電子顕微鏡(SEM)(倍率、フェライト:1000倍、炭化物:3000倍)で金属組織を観察(視野数:30個所)し、フェライトおよび炭化物の体積率、表層および内層のフェライト粒径、さらに内層における炭化物の球状化率、内層におけるフェライト粒界炭化物量およびフェライト粒界上の炭化物の平均粒径を測定した。
フェライト粒径は、各フェライト粒についてその面積を測定し、得られた面積から円相当径を求め、おのおのの粒径とした。得られた各フェライト粒径を算術平均し、その値を、その鋼板の表層または内層のフェライト平均結晶粒径とした。
フェライトおよび炭化物の体積率は、SEM(倍率:3000倍)で表層及び内層の金属組織を観察(視野数:30個所)し、フェライトの面積と炭化物の面積を合算した面積を、全面積で除して面積率を求め、これをフェライトおよび炭化物の体積率として判断した。
内層における炭化物の球状化率は、金属組織観察(倍率:3000倍)の各視野(視野数:30個所)で画像解析装置を用いて、各炭化物の最大長さaと最小長さbを求め、その比a/bを計算し、a/bが3以下の炭化物粒数を、測定した全炭化物個数に対する割合(%)で表示し、内層の炭化物の球状化率(%)とした。
内層のフェライト粒界炭化物量Sgbは、金属組織観察(倍率:3000倍)の各視野(視野数:各30個所)で、内層のフェライト粒界上に存在する炭化物および内層のフェライト粒内に存在する炭化物を識別し、画像解析装置を用いて、単位面積あたりの、内層のフェライト粒界上に存在する炭化物の占有面積Son、および内層のフェライト粒内に存在する炭化物の占有面積Sinを測定し、次(1)式
Sgb(%)={Son/(Son+Sin)}×100 ……(1)
を用いて算出した。
また、内層のフェライト粒界上の各炭化物について、炭化物の外周上の2点と炭化物の相当楕円(炭化物と同面積、かつ一次および二次モーメントが等しい楕円)の重心を通る径を2°刻みに測定して円相当径を求め、これを各々の炭化物粒径とし、得られた炭化物粒径を平均した値を内層のフェライト粒界上の炭化物の平均粒径とした。
(2)FB加工性
得られた鋼板から試験板(大きさ:100×80mm)を採取し、FBテストを実施した。FBテストは、110t油圧プレス機を用いて、試験片から、大きさ:60mm×40mm(コーナー部半径R:10mm)のサンプルを、工具間のクリアランス:0.060mm(板厚の1.5%)、加工力:8.5ton、潤滑:有りの条件で打抜いた。打抜かれたサンプルの端面(打抜き面)について、下記に示す方法で表面粗さ(十点平均粗さRz)を測定して、FB加工性を評価した。
表面粗さの測定は、R部を除く4つの端面とし、各端面(板厚面)で、図2に示すように、パンチ側表面0.5mmから板厚方向に3.9mmまでの範囲でかつ表面に平行に(X方向)10mmの領域を、触針式表面粗度計で板厚方向(t方向)に100μmピッチで35回走査し、JIS B 0601-1994に準拠して、各走査線における表面粗さRzを測定した。さらに、測定面の表面粗さRzは、各々の走査線のRzを合計して、その平均値とした。上記と同様の方法で4つの端面を測定して、次式
Rz ave=(Rz 1+ Rz 2+ Rz 3+ Rz 4)/4
(ここで、Rz 1,Rz 2,Rz 3,Rz 4:各面のRz)
で定義される平均表面粗さ:R z ave(μm)を算出した。
また、使用した工具(金型)の寿命を評価した。FB加工における打抜き回数が50000回に達した時点でのサンプル端面(打抜き面)の表面粗さ(十点平均粗さRz)およびバリ高さを測定し、金型寿命を評価した。なお、表面粗さの測定方法は上記した方法と同じとした。サンプル端面の平均表面粗さRz aveが10μm以下を○、10μm超えを×として金型寿命を評価した。なお、初回の打抜き時に、Rz aveが10μmを超えたものについては、金型寿命の評価は行なわなかった。また、バリ高さの測定は、打抜き加工後の端面(4端面)について、発生したバリの高さを光学顕微鏡で測定し、その最大値をその鋼板のバリ高さとした。なお、バリ高さの定義を図1に示す。
(3)FB加工後の伸びフランジ性
得られた熱延鋼板から、穴広げ用試験片(大きさ:t×130×130mm)を採取した。
採取した試験片に10mmφ(d0)のポンチ穴をFB加工(工具間のクリアランス:0.06mm)で打抜いたのち、該試験片を治具(円筒平底ポンチ:50mmφ、5R)にて押し上げる方法で行い、ポンチ穴縁に板厚貫通クラックが発生した時点での穴径dを測定し、次式
λf(%)={(d−d0)/d0}×100
で定義される穴拡げ率λf(%)を求めた。
得られた結果を表3に示す。なお、鋼板No.8は巻取時割れが発生したため、熱延板焼鈍以降の処理は行わなかった。
Figure 0004992275
Figure 0004992275
Figure 0004992275
本発明例はいずれも、打抜き面の表面粗さがRz ave:10μm以下であり、FB加工性に優れ、また、打抜き回数:50000回時の打抜き面表面も滑らか(評価:○)であり、バリ高さは小さくかつ金型寿命の低下も認められない。また、本発明例は、FB加工後の伸びフランジ性にも優れている。なお、前記した方法でフェライトおよび炭化物の体積率を確認したが、いずれも表層、内層ともフェライトと炭化物とで体積率で95%以上となっており、フェライトと炭化物を主体とする組織となっていることを確認した。一方、本発明の範囲を外れる比較例は、打抜き面の表面粗さがRz ave:10μmを超えて粗くなりFB加工性が低下しているか、あるいは打抜き回数:50000回時の打抜き面表面が粗くなり金型寿命の低下が認められるか、あるいは、FB加工後の伸びフランジ性が低下しているか、あるいはすべてが低下している。
バリ高さの定義を模式的に示す図である。 FB加工50000回打抜き後の打抜き面の平均表面粗さRz ave、バリ高さと表層(表面から板厚5%までの領域)におけるフェライト平均粒径との関係を示すグラフである。 FB加工後の打抜き面の表面粗さ測定領域を模式的に説明する説明図である。

Claims (8)

  1. 質量%で、
    C:0.1〜0.5%、 Si:0.5%以下、
    Mn:0.2〜1.5%、 P:0.03%以下、
    S:0.02%以下
    を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有し、表面から板厚の5%までの領域である表層と該表層以外の内層とからなる複層組織を有する鋼板であって、
    前記表層が、フェライトおよび炭化物を主体とし、該表層のフェライトの平均粒径が20〜50μmである組織を有し、
    前記内層が、フェライトおよび炭化物を主体とする組織を有し、該内層のフェライトの平均粒径が1〜20μm、該内層の板厚1/4位置について倍率:3000倍、視野数:30箇所の組織を走査型電子顕微鏡で観察し、各炭化物の最大長さaと最小長さbを求め、比a/bを計算し、a/bが3以下の炭化物粒数を、測定した全炭化物個数に対する割合(%)で表示した内層の炭化物の球状化率が80%以上で、かつ該内層の炭化物のうち、内層のフェライトの結晶粒界に存在する炭化物の量である、下記(1)式で定義されるフェライト粒界炭化物量Sgbが40%以上であることを特徴とするファインブランキン加工性に優れた鋼板。

    Sgb(%)={Son/(Son+Sin)}×100 ……(1)
    ここで、Son:単位面積あたりに存在する炭化物のうち、フェライト粒界上に存在する炭化物の総占有面積、
    Sin:単位面積あたりに存在する炭化物のうち、フェライト粒内に存在する炭化物の総占有面積
  2. 前記内層のフェライトの結晶粒界に存在する炭化物が、平均粒径で2μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の鋼板。
  3. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Al:0.1%以下を含有する組成とすることを特徴とする請求項1または2に記載の鋼板。
  4. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Cr:3.5%以下、Mo:0.7%以下、Ni:3.5%以下、Ti:0.01〜0.1%およびB:0.0005〜0.005%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の鋼板。
  5. 鋼素材を加熱し圧延を施し熱延板とする熱間圧延と、該熱延板にバッチ焼鈍を施す熱延板焼鈍と、を順次施す鋼板の製造方法において、
    前記鋼素材を、質量%で、
    C:0.1〜0.5%、 Si:0.5%以下、
    Mn:0.2〜1.5%、 P:0.03%以下、
    S:0.02%以下
    を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼素材とし、
    前記熱間圧延における仕上圧延を、Ar変態点〜850℃の温度域における累積圧下率を25%以上とし、かつ最終圧延パスにおける摩擦係数を0.2以上とし、圧延終了温度をAr変態点〜850℃とし、圧延終了後、50℃/s以上の平均冷却速度で冷却し、500〜700℃の温度域で冷却を停止し、巻取り温度を450〜700℃として巻き取る処理とすることを特徴とする鋼板の製造方法。
  6. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Al:0.1%以下を含有する組成とすることを特徴とする請求項5記載の鋼板の製造方法。
  7. 前記組成に加えてさらに、質量%で、Cr:3.5%以下、Mo:0.7%以下、Ni:3.5%以下、Ti:0.01〜0.1%およびB:0.0005〜0.005%のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項5または6に記載の鋼板の製造方法。
  8. 前記熱延板焼鈍を、焼鈍温度:600〜750℃とする処理とすることを特徴とする請求項5ないし7のいずれかに記載の鋼板の製造方法。
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