JP4990685B2 - 蛍光材料、発光インク組成物および有機el素子 - Google Patents

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本発明は、低分子の蛍光材料、前記蛍光材料を含む発光インク組成物、および有機EL素子に関する。
現在、実用化されている有機エレクトロルミネセント(以下有機ELと略す)ディスプレイの殆どは、低分子の蛍光材料またはリン光材料からなる有機EL材料(正孔注入材料、正孔輸送材料、発光材料、電子輸送材料等)の膜を基板上に順次真空蒸着することにより製造されている。
有機ELディスプレイのカラー化は、青色発光素子をカラーフィルタで赤、緑、青のサブピクセルに分光する(非特許文献1)、または白色発光素子を赤、緑、青、白のサブピクセルに分光しピクセルを形成する(非特許文献2)、または赤、緑、青の独立した発光素子をマスク蒸着法により塗り分けてガラス板またはフィルム上に形成する(非特許文献3、4)等の方法で行なわれている。
しかし、真空蒸着法で大面積基板上に有機EL材料の膜を成膜するには大型の真空装置を必要とし高コストになる。また、蒸着マスクが大型化すると、上方蒸着の場合に基板とマスクの重力によるたわみにより位置精度が低下し、有機ELディスプレイの高精細化が難しかった。対角40インチの大型有機ELディスプレイも試作されているが画素欠陥の無い製品を歩留まり良く作るのが困難なため、現状では対角3インチ未満の大きさのディスプレイが商品化されているにすぎない。
近年、高い導電性や発光性を有する高分子からなるキャリア輸送材料、および有機溶媒に可溶な共役系高分子からなる発光材料の開発が盛んに行なわれている。大面積基板に対しても成膜が容易で、材料使用効率の高いインクジェット法(非特許文献5、6、7、8)や凸版印刷法(非特許文献9)を用いた発光層の赤、青、緑のサブピクセルの塗り分け技術の開発も行なわれている。
発光層を印刷法を用いて塗り分けることで、製造装置が真空蒸着法よりも低コストで済み、成膜速度も速いために大面積な有機ELカラーディスプレイの実現に有利と考えられる。しかし、現時点では印刷法に用いられている共役高分子系発光材料には幾つかの問題点を含んでおり、実用化はされていない。
高色純度の青色発光材料であって、テレビ等に使用することができる1000cd/mの輝度において6万時間以上の長寿命を有する共役系高分子材料は未だ開発途上である。また、高色純度化が不十分であるという問題が存在する。多くの高分子青色発光材料は発光色が青緑色であり、数百時間以下の半減寿命である。
ポリフルオレン系青色発光材料のEL発光の青色純度が悪い原因の1つとして、高分子主鎖上にキャリア輸送性基や発光基の機能性基が近接して存在するため、膜に電荷が注入されると機能性基同士が電気的に引き合い青緑色発光のエキシマを形成し易いことが挙げられる。また、コモノマーのカルバゾール環やトリフェニルアミンの芳香環同士が酸化カップリングし共役長が増すこと等が考えられる。
また、青緑発光素子を青画素として用いたディスプレイは、白色発光させる場合に緑の輝度を抑えなければ白の発光バランスが取れず高輝度の白色表示ができない。
さらに、色純度を悪くする別の原因として、高分子合成過程において酸化したモノマーや、不均一な連鎖構造が分子鎖中に取りこまれて消光中心や長波長発光中心となることが挙げられる。低分子化合物と異なり、高分子鎖中に取り込まれたこれらの不純物を後から精製により除くことは不可能であった。
一方、蒸着に好ましく用いられる分子量1000未満の低分子系材料を塗布・印刷して形成した膜はその耐熱性が低く、経時で膜が結晶化し易く、またインクを保存する間に低分子系材料が析出し安定性が悪いという問題点等を多く抱えており、蛍光材料として適する材料が存在しなかった。
また、共役系高分子発光材料は、剛直な芳香族環の繰り返し単位からなり、その分子量は数万〜数十万であるため溶解性が低くインク調製に時間がかかるという問題がある。そのため高分子発光材料をトルエン、キシレン等の芳香族系有機溶媒に溶解させ印刷インクを調製する際に、3重量%程度の濃度のインクを作る場合であっても、完全に高分子発光材料を溶解させるには数時間以上の長時間に渡り溶液を攪拌する必要があった。また、印刷中の乾燥、濃縮による析出を防ぐために高沸点の溶媒を用いた場合は、印刷後の乾燥に長時間の真空加熱を要するため、ディスプレイの製造時間が増し高コスト化するという問題があった。
共役系高分子蛍光材料を図4に示すような凸版印刷装置用のインクとする場合は、低沸点で蒸気圧の高い溶媒を用いるとアニロックスロール22や印刷用凸版16上で乾燥が進み、溶媒の揮発に伴いインク粘度が増加する。そのため、析出が生じたり印刷ムラが発生し連続印刷できなくなる。またインクジェット印刷法の場合でも析出等によりノズルが詰まる問題がある。そのため印刷では一般にスピンコートの場合に用いるトルエン(沸点111℃)よりも高沸点の溶媒を用いる。例えばp−キシレン(沸点138℃)、m−キシレン(139℃)、o−キシレン(144℃)、エチルベンゼン(136℃)、アニソール(154℃)、メシチレン(165℃)、2−メチルアニソール(170℃)が好んで用いられ、テトラリン(207℃)、シクロヘキシルベンゼン(238℃)等の沸点が200℃を超える高沸点溶媒も添加されて用いられる。これらの溶媒は単独で用いられるか、あるいは溶解性や基板への濡れ性や膜の平滑性を改善するため混合される。この溶媒に高分子蛍光材料を2〜3重量%程度の濃度で溶解させて印刷用インクとして用いる。また、安定した連続印刷を可能とするため、凸版印刷機のアニロックスロール22のインクパン20を循環するインク補充装置21にてインクの粘度を振動式粘度計等で測定し、粘度が一定範囲になるよう溶媒を添加し調整する。特許文献1では、ベンゼン環が3個以上縮合した縮合多環芳香族環、または縮合多環複素環の2つ以上が直接フルオレン環に結合した分子、およびそれらの分子を含む有機発光素子を記載している。特許文献1中の実施例54においては、(式3)で示す化合物および(式4)で示す化合物を発光層に用いている。(式3)で示すフルオレンのピレン置換化合物は電子輸送性であり、分子分散状態では青色発光材料である。しかし分子構造から、膜ではピレニル基同士が会合し長波長のエキシマ発光を生じるのは明らかである。発光層には正孔輸送性基を持たない化合物(式3)中に正孔輸送性の(式4)で示すアリールアミンをドーパントとして重量比で1%添加しているが、エキシマ発光のため色純度の良い青色発光は得られないのは明らかである。
Figure 0004990685
Figure 0004990685
また、(式3)の化合物は白色結晶であると特許文献1中に記載があり、(式4)で示す化合物も単純な低分子構造より低融点な材料であるのは明らかである。このように結晶化し易い化合物を含有するインクを用いて成膜すると、膜は結晶化し凸凹になる。そのため、印刷法で平滑性の良い膜を成膜することは困難と考えられる。基板温度が低い場合には、非平衡なアモルファス状態で分子の堆積が可能な真空蒸着法で成膜し、平滑な膜を得たと考えられる。
湿式法(スピンコート法)により結晶性材料を用いて発光層を成膜する場合の例としては、特許文献1中の実施例88で示すようにポリビニルカルバゾールを正孔輸送性バインダーとして用い、(式3)で示す発光材料を5重量%の濃度で分散して成膜を行なっている。しかし、分散することにより、発光成分の濃度が薄くなり発光成分がキャリアトラップとして働き高駆動電圧化等の発光特性が低下する問題も生じ易く、湿式法で単独膜でも平滑な膜が成膜できる高アモルファスな低分子材料が求められる。
特許文献1に記載の化合物はフルオレン環をコアとしているが、2,7位にピレン環、アントラセン環等の縮合芳香族環を導入し発光基としている。さらに、特許文献1における化合物の構造式例では、フルオレン環の9位の2つの置換基の具体例として、メチル基、エチル基、n−ブチル基、トリフルオロエチル基、ベンジル基、アリール基としてフェニル基、置換アリール基としてメチルチオフェニル基、ビフェニル基が挙げられている。
特許文献2では、蒸気圧が500Pa以下の高沸点溶媒を含むインキを印刷に用いることが開示されている。例えば室温20℃で20Paのニトロベンゼンのような高沸点溶媒を20℃で700Paのo−キシレンに添加することが開示されている。トルエン(2900Pa)やo−キシレンの単独溶媒では化合物が乾燥析出してしまい基板上に膜を印刷することができないと記載されている。しかし、ニトロベンゼンのような高沸点溶媒は膜中に残り易く乾燥が困難になる問題があると考えられる。
Mu Hyun Kim, Myung Won Song, Seong Taek Lee, Hye Dong Kim, Jun Sik Oh,and Ho Kyoon Chung,SID 06 DIGEST, 11.3(2006). Jeffrey P. Spindler, Tukaram K. Hatwar, Michael E. Miller, Andrew D. Arnold,Michael J. Murdoch, Paul J. Kane, John E. Ludwicki, and Steven A. Van Slyke, SID 05 DIGEST, 4.3(2005). Ayako Yoshida, Sou Fujimura, Takako Miyake, Tatsuya Yoshizawa, Hideo Ochi,Akira Sugimoto, Hirofumi Kubota, Toshiyuki Miyadera, Shinichi Ishizuka,Masami Tsuchida and Hitoshi Nakada,SID 03 DIGEST, 21.1(2003). Sumio Utsunomiya, Tomoyuki Kamakura, Masashi Kasuga, Mutsumi Kimura,Wakao Miyazawa, Satoshi Inoue and Tatsuya Shimoda,SID 03 DIGEST, 21.3(2003). T.FUNAMOTO, Y. Matsueda, O. Yokoyama, A. Tsuda, H. Takeshita, A. Miyashita, SID 02 DIGEST, 27.5L(2002). T. Shimoda, SID 03 DIGEST, 39.1(2003). David Albertalli, SID 05 DIGEST, 30.3(2005). Tadashi Gohda, Yuhki Kobayashi, Kiyoshi Okano, Satoshi Inoue, Ken Okamoto,Satoshi Hashimoto, Emi Yamamoto, Haruyuki Morita, Seiichi Mitsui and Mitsuhiro Koden, SID 06 DIGEST, 58.3(2006). E. Kitazume, K. Takeshita, K. Murata, Y. Qian, Y. Abe, M. Yokoo, K. Oota, T. Taguchi,SID06DIGEST, 41.2(2006). 特開2004−83481号公報 特開2001−155861号公報
本発明の目的は、耐熱性、アモルファス性が極めて高く、加熱乾燥や駆動によって色が変化し難い低分子系青色蛍光膜を湿式法で成膜可能な蛍光材料を提供することにある。
また、本発明の目的は、有機溶媒に高い溶解性を持つ上記蛍光材料を含有する発光インク組成物を提供することにある。
さらに、本発明の目的は、上記低分子系蛍光材料を含む組成物の塗布・印刷により発光層を成膜した有機EL素子を提供することにある。
本発明の一態様によれば、下記式(1)
Figure 0004990685
(式中、Rは未置換若しくは炭素数が1から8個の置換基を有する環の合計が4個以下の芳香族基若しくは縮合多環芳香族基、または未置換若しくは炭素数が1から8個の置換基を有する環の合計が4個以下の複素環基若しくは縮合多環複素環基を示し、ここでR基同士が直接または酸素を介して結合してカルバゾール環またはフェノキサジン環(これらは置換されていてもよい)を形成していてもよく、Rは、オルト位に置換基を有するフェニル基を示す)
で表されることを特徴とする蛍光材料が提供される。
本発明の他の態様によれば、少なくとも1種の芳香族系有機溶媒を含む溶媒中に、上記蛍光材料を固形分中の割合が少なくとも0.5重量%以上となる濃度で含むことを特徴とする発光インク組成物が提供される。
本発明の他の態様によれば、陽極と陰極との間に少なくとも発光層を有する有機EL素子において、前記発光層が上記蛍光材料を含むことを特徴とする有機EL素子が提供される。
本発明のさらに他の態様によれば、陽極と陰極との間に少なくとも正孔注入輸送層と発光層とを有する有機EL素子において、前記発光層が上記蛍光材料を含むことを特徴とする有機EL素子が提供される。
本発明によれば、低分子量でありながら耐熱性が高い蛍光材料を得ることができる。本発明の蛍光材料は高度なアモルファス状態であるため、また有機溶媒への溶解度が高いため、湿式法で成膜した際にも結晶化せず、平滑なアモルファス膜を得ることができる。また、本発明の蛍光材料を用いて形成される膜を発光層として有する有機EL素子は、電圧を印加した際に、エキシマ発光等を生じることなく色純度のよい青色蛍光を生じ、この膜を加熱乾燥した後もその色が変化し難い。
以下、本発明をさらに詳しく説明する。
本発明の蛍光材料は、式(1)で表される構造を有する
Figure 0004990685
(式中、Rは未置換若しくは炭素数が1から8個の置換基を有する環の合計が4個以下の芳香族基若しくは縮合多環芳香族基、または未置換若しくは炭素数が1から8個の置換基を有する環の合計が4個以下の複素環基若しくは縮合多環複素環基を示し、ここでR基同士が直接または酸素を介して結合してカルバゾール環またはフェノキサジン環(これらは置換されていてもよい)を形成していてもよく、Rは、オルト位に置換基を有するフェニル基を示す)。
本発明の蛍光材料は、365nmの紫外線励起により440nm±20nmの青色蛍光ピークを有し、ガラス転移温度が100℃以上であり、かつ分子量が1000以上2000以下であることを特徴とする。ここで、本発明における分子量とは、同位体を数平均した分子量を指す。
上記式(1)における置換基Rとしては、フェニル基、ピリジル基、チオフェニル基、ナフチル基、キノリニル基、ビフェニル基、p−テルフェニル基、3’,5’−ビス(4−t−ブチルフェニル)ビフェニル基(これらは未置換であっても、置換されていてもよい)が好ましくは用いられ、窒素原子に結合し正孔輸送単位となる芳香族3級アミンを形成する。中でも、Rが、未置換若しくは炭素数が1から8個の置換基を有する環の合計が4個以下のフェニル基、または未置換若しくは炭素数が1から8個の置換基を有する環の合計が4個以下のナフチル基である化合物がより好ましい。また、2つのR基同士は直接結合してカルバゾール環を形成しても良く、または酸素を介してフェノキサジン環を形成していてもよい。さらにRを置換する置換基を1つ以上有することにより、有機溶媒への溶解度をさらに高めることができる。Rを置換する置換基の例としては、炭素数8以下の直鎖または分岐のアルキル基やアルコキシ基、トリフルオロメチル基、フェニル基、チオフェニル基、ピリジル基、ピリミジニル基等を挙げることができる。炭素数が8より長い直鎖状アルキル基は、分子の会合を促進する場合があるため好ましくない。
また、式(1)の蛍光材料のガラス転移温度を高めるために、Rとしてナフチル基、キノリル基等の芳香環が2つ縮合した縮合芳香環基を用いることができるが、3つ以上の芳香族環が同一平面上に共役した縮合環を用いると色純度の良い青色発光が得られなくなる傾向があるため好ましくない。
置換基Rは、オルト位に置換基を有するフェニル基である。フェニル基のオルト位に置換基を有することで、アントラセン環の面と立体障害により同一平面を形成しない。R置換基をアントラセン環に対して非平面的に導入することにより、アントラセン環同士の近接および重なりを防ぎ、アントラセン環同士の会合によるエキシマ発光と結晶化を防ぐことができる。Rは、炭素数1以上10以下の置換基をオルト位に有するフェニル基であることが好ましい。特にオルト位の置換基が芳香環構造を有し、2つ以上の剛直な環を連結した形の置換基Rは、その立体障害によりアントラセン環と非平面構造を形成することを確実にする。例えばオルト−ビフェニル基、2’−ピリジルベンゼン−2−イル基等のオルト位の置換基としてフェニル基またはピリジル基等のヘテロアリール基を有するRが好ましい。
従来の塗布型材料である共役系高分子材料は、分子量が数万〜数十万と大きいため溶解し難い。そのため、芳香族化合物に対して比較的高い溶解性を有する安定なトルエン等の芳香族有機溶媒に2〜3重量%以上の濃度で溶解させるにも長時間の攪拌が必要であった。しかし、本発明の式(1)で示す蛍光材料は、分子量が1000以上2000以下の低分子化合物であるため高分子化合物に比べ粘性が低く、20℃〜25℃の室温においてトルエン等の芳香族系溶媒に10重量%以上容易に溶解することができる。材料によっては20重量%以上であっても容易に溶解することができる。また、フルオレン環の2,7位の一方のみを立体的に大きく剛直な芳香族3級アミン誘導体で置換することにより、分子構造の非対称性が増し、本発明の蛍光材料は分子間の会合が困難となり膜は結晶化せず、溶媒が分子間に容易に入り込むことができるために芳香族有機溶媒への溶解性が極めて高い。トルエン、キシレン、エチルベンゼン、アニソール、メシチレン、2−メチルアニソール、テトラリン、シクロヘキシルベンゼン等の広い範囲の芳香族有機溶媒に容易に溶解するため、プロセスに応じた沸点、誘電率、表面張力の任意の単独および混合有機溶媒に溶かして発光インク組成物を調製することができる。さらに好ましくは、光安定性の点から塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を含まない芳香族有機溶媒を用いて発光インク組成物を調製することが望ましい。その結果、従来、膜が結晶化しやすいために困難であった湿式法による低分子化合物のアモルファス膜の成膜を極めて容易に行うことができるようになる。本発明の蛍光材料を芳香族有機溶媒に溶解させて作製した印刷用の発光インク組成物は、樹脂凸版を用いた凸版印刷を行う際に、アニロックスロールや凸版ロール上でインク中の溶媒が揮発し濃度が濃くなった場合でも、本発明の蛍光材料が析出せず、平滑性の良い膜を成膜することが可能である。
また、本発明の蛍光材料からなる膜は、200℃以上の高温で1時間加熱乾燥してもアモルファス膜を維持することができる。従来のポリフルオレン系青色発光材料は、乾燥時に長波長のエキシマ発光が生じ易かった。本発明の蛍光材料においては、加熱乾燥後も、発光ピーク440nm前後の高色純度の青色発光を維持することができる。
本発明の式(1)で示す蛍光材料は、フルオレン環の9位のスピロ炭素に立体的に大きく剛直なフェニルアントラセン誘導体を2置換としている。このフェニルアントラセン基がフルオレン環に直交することで、立体的で剛直な分子構造になり高い耐熱性を実現した。そのため本発明の蛍光材料では、示差走査熱量測定(DSC)により20℃/分で昇温測定した際に150℃以上のガラス転移温度(Tg)が容易に得られる。また本発明の蛍光材料では、結晶化ピークと融点を持たず、350℃に加熱しても結晶化せず、高度なアモルファス性を示す材料を得ることもできる。
また、発光基であるアントラセン環同士はRの説明において記載した通り、分子内では会合できない方向に固定されている。さらに分子間でも、大きな立体障害となるR基が会合を妨げている。そのため100%の固体膜であってもエキシマ発光を生じず、電圧を印加した際に青色純度の良い440±20nmの蛍光スペクトルピークの青色蛍光材料を得ることができる。
さらに本発明の蛍光材料は、分子内のアントラセン環が電子輸送性を有し、芳香族3級アミン構造が正孔輸送性を有しており1つの分子で正孔と電子を輸送できるアンバイポーラ特性を有している。従って、注入された電子と正孔を効率的に再結合させることができる。そのため単なる青色蛍光材料としてだけでなく、EL発光材料としても優れている。例えば、以下の式(2)で表される化合物において、2−(4−(ビス(p−イソプロピルフェニル)アミノ)フェニル)−9H−フルオレン部分が正孔輸送基となり、フルオレン環の9位を置換する2つの4−(10−オルトービフェニルアントラセン−9−イル)フェニル基部分が電子輸送性発光基となる。
ここで、式(1)で示す本発明の蛍光材料の具体的なRおよびRの例を表1に示す。
Figure 0004990685
中でも下記の式(2)で示す蛍光材料(表1における化合物1)は、トルエンに20重量%以上溶解することが可能であり、ガラス転移温度が177℃と高く、且つ分子量も1302.7と低めで好ましい。
Figure 0004990685
なお、表1以外にも、RとRを任意に組み合わせた蛍光材料を合成できる。これらの蛍光材料は2−ブロモフルオレノンを原料とし、鈴木宮浦カップリング等を利用して以下の式(5)に示すように合成可能である。
Figure 0004990685
本発明の式(1)で示す蛍光材料は上記した通り有機溶媒に対して高い溶解性を有するため、カラムクロマトグラフィーによる分取精製を効率的に行うことができる。また、必要に応じて不活性ガスをキャリアガスとして昇華精製を行う。そのためには、蛍光材料の分子量が低いことが必要とされる。分子量が2000を超える蛍光材料の場合は昇華を行い難く、加熱すると容易に熱分解または炭化する。本発明による式(1)の蛍光材料は、上記したように分子量が1000以上2000以下の低分子化合物であるため、このような昇華精製を行うことも材料によっては可能となる。なお、昇華精製を行う場合には、分子量が1350以下である式(1)の蛍光材料がより好ましい。
本発明の蛍光材料は、有機EL素子の発光層に単独で用いることができるが、本発明の蛍光材料をホスト材料として用い、他の蛍光またはリン光発光色素を混合しドーパントとした複数の種類の化合物の組成物とすることにより青の発光輝度を高めたり、緑、赤、白の発光層として広い用途に用いることができる。
本発明の発光インク組成物は、少なくとも1種の芳香族系有機溶媒を含む溶媒中に、式(1)で示す本発明の蛍光材料を固形分中の割合が少なくとも0.5重量%以上となる濃度で含むことが好ましい。本発明の蛍光材料は上記したように非常に高い有機溶媒溶解性を有するため、20重量%の濃度でもトルエンに溶かすことができる。しかし、20重量%を超える飽和溶液に近い濃度の場合は高粘度となり、均一に塗工、印刷することが難しくなるだけでなく印刷中の溶媒の蒸発により版上などで析出しやすくなる。そのため好ましくは10重量%以下の濃度、または飽和溶液の半分以下の濃度で調製することが望ましい。飽和溶液の半分以下の濃度では、溶媒が印刷中に蒸発し濃縮されても蛍光材料が析出し難く、適当な印刷性を保持することができ、印刷ムラ発生の抑制に効果がある。印刷工程でインクを循環する間に溶媒が蒸発する場合には、できるだけ溶媒を補充し溶液の濃度または粘度を一定に保ちながら印刷することが望ましい。また印刷法を用いて成膜する場合には、溶媒として低極性の芳香族有機溶媒を用いることが好ましい。
さらに、式(1)で表される本発明の蛍光材料を、他の高分子または低分子の正孔輸送性または電子輸送性キャリア輸送材料からなるホスト材料中で発光ドーパントとしてドープし用いることができる。本発明の蛍光材料を用いることにより、ホスト材料中でのドーパントの析出、結晶化を抑制することができる。この場合は膜の固形分中の濃度が0.5重量%以上50重量%未満となるように用いることが望ましい。0.5重量%未満の場合は濃度が薄くドーパントとして波長変換等の機能を十分に行えない場合がある。50重量%を超えると、化合物の析出を生じる傾向があり好ましくない。
式(1)で示す本発明の蛍光材料を溶解させる溶媒として単独溶媒を用いると、基板上でインクが弾けたり、レジストや無機材料で形成した隔壁に接する液膜にメニスカスが生じ乾燥時に平滑な膜ができない場合がある。その際は、表面張力、誘電率、ダイポールモーメント等が異なる2種の溶媒を混合して弾きやメニスカスの程度を減少するように割合を調整して用いることもできる。
本発明の有機EL素子は、陽極と陰極との間に発光層を有し、この発光層に式(1)で示す本発明の蛍光材料を含む。本発明の有機EL素子は、本発明の蛍光材料を固体発光層中に含有しても、液体発光層中に含有してもよく、電流駆動により発光する。
本発明の蛍光材料を液体中に含有し発光させる電解型有機EL素子の場合の例としては、本発明の蛍光材料をオルトジクロロベンゼンやトルエン等の有機溶媒に5重量%以上の濃度で溶かし、0.1重量%程度のLiCFSO等の支持電解質を加えるか、陽イオン伝導アシストドーパントとして1,2−ジフェノキシエタンを加えて発光層溶液とする。少なくとも一方が透光可能な基板を用い、対向する電極板間に発光層溶液を挟み数ミクロン以下のギャップの素子を作製するか、または櫛型電極を形成した基板と対向する基板により発光層溶液を挟み有機EL素子を作製する。これらの有機EL素子は直流または交流の連続またはパルス状の電流を発光層に印加することにより電解発光させることができる。
また、本発明の蛍光材料を固体膜中に含有し発光させる通常の有機EL素子の場合には、電極間の発光層が式(1)で示される蛍光材料を含む。
さらには陽極と陰極との間に少なくとも正孔注入輸送層と発光層とを有する本発明の有機EL素子においては、上記発光層が少なくとも一般式(1)で示される本発明の蛍光材料を含むことを特徴とする。有機EL素子をさらに低駆動電圧化、高発光効率化するため、電子輸送層を発光層と陰極との間に入れることもできる。
続いて、本発明の蛍光材料を固体の発光層に用いる、少なくとも陽極と、正孔注入輸送層と、発光層と、陰極から構成されている固体膜からなる有機EL素子を作製する場合について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一態様に係る有機薄膜EL素子の断面図を示す。図1中、基板1上には、透明電極等からなる陽極2が形成され、陽極2上には、正孔注入輸送層3、発光層4、および陰極5が順次積層されて有機薄膜EL素子が構成されている。陽極2は配線6を介して電源7に電気的に接続され、陰極5は基板上に形成された端子部8に接続され、さらに配線9を介して電源7に電気的に接続されている。任意に、陰極5の上にパッシベーション層12を設けてもよい。
なお、図1では、正孔注入輸送層3が1層のみ形成されているが、この上に正孔輸送層を積層してもよい。図2は、本発明の他の態様に係る有機薄膜EL素子の断面図を示す。図2に示す有機薄膜EL素子では、図1に示す有機薄膜EL素子の正孔注入輸送層3の上に、正孔輸送層10が積層されている。
なお、本発明の有機薄膜EL素子は、電子注入輸送層が設けられていてもよい。図3は、本発明のさらに他の態様に係る有機薄膜EL素子の断面図を示す。図3に示す有機薄膜EL素子は、図2に示す素子の発光層4と陰極5との間に、電子輸送層11が形成された構造を有している。
これら図1〜図3に示す本発明の有機薄膜EL素子は、発光層中に式(1)に示す本発明の蛍光材料を含有している。
以下、本発明の有機薄膜EL素子について、より詳細に説明する。
本発明の有機薄膜EL素子で用いられる基板としては、金属箔基板、半導体基板、および絶縁性透明基板を挙げることができる。
金属箔基板を構成する材料としては、銅材、アルミニウム材、インバー材及びステンレス材等の箔、鉄合金系またはジルコニウム合金系等のアモルファス金属テープ等の基板を挙げることができる。この基板にポリイミド等の有機絶縁膜、または窒化アルミニウム等の窒化膜、アルミナ等の酸化膜、酸窒化シリコン等の酸窒化膜、無機ガラス膜等の無機絶縁膜を形成することにより、フレキシブルであり、高い水蒸気バリア性および酸素バリア性、高熱伝導性を有する基板とすることができる。
半導体基板の例としては、シリコン、シリコンカーバイト等の単結晶ウエハー基板を挙げることができる。p型およびn型の半導体層をエピタキシャル成膜し、微細なCMOS駆動回路等を形成してマイクロディスプレイ等に用いることができる。
絶縁性透明基板の例としては、ガラスやポリエーテルスルホン等のプラスチックフィルム等の透明絶縁性基板を挙げることができる。
以下、絶縁性透明基板1を用いて、有機EL素子を陽極側から順に作製する場合を例にしてさらに詳しく説明する。ここで、光を取り出す絶縁性透明基板1は、色のコントラストの調整や耐性向上のために着色されていてもよい。あるいは絶縁性透明基板1上に円偏光フィルタ、多層膜反射防止フィルタ、紫外線吸収フィルタ、RGBカラーフィルタ、蛍光波長変換フィルタ、およびシリカコーティング層等を設けてもよい。
陽極2としては、黒色電極、不透明反射電極、ハーフミラー電極、および透明電極を用いることができる。
黒色電極の例としては、グラファイト等の炭素系膜や白金黒膜等が挙げられる。
不透明反射電極の例としては、ガラス等の透明基板、半導体ウエハー等の不透明基板上にアルミニウム、クロム、ニッケル、プラチナ等の光反射性金属膜を成膜し、さらにそれらの金属膜上に仕事関数4.8eV以上のITO(インジウム錫複合酸化物)透明電極膜や、IGZO(インジウムガリウム亜鉛錫複合酸化物)等を積層した構成のものを挙げることができる。黒色電極および不透明反射電極は、陰極側から光を取り出すトップエミッション構造の素子の陽極に主に用いられる。
絶縁性透明基板側から光を出す場合は、陽極をメッシュ状またはストライプ状に形成し、光が陽極間から出るようにする。
ハーフミラー電極の例としては、金やプラチナを10nm程度で薄く蒸着することにより形成されるハーフミラー状の電極が挙げることができ、これらは意匠性の優れたディスプレイに用いることができる。
透明電極の例としては、ITO(仕事関数4.6〜4.8eV)やアルミニウムをドープした酸化亜鉛の非晶質または微結晶の透明酸化物導電体からなる膜や、アクセプターをドープしたポリアニリン、ポリピロールおよびポリチオフェン等の低抵抗な導電性高分子膜等を挙げることができる。透明電極は基板側から表示を見る場合に用いられ、可視光線透過率が80%以上で表面抵抗が1〜50Ω/□程度の透明導電膜が通常用いられるが、単純マトリクス駆動のためには、より低抵抗の膜を用いることが望ましい。より低抵抗の膜とするために、銀と銅等との合金からなる10nm程度の厚さの層を、ITO、インジウム亜鉛複合酸化物、酸化チタン、酸化錫等からなる非晶質または微結晶の透明導電膜で挟み、1Ω/□以下の透明電極として用いてもよい。これらの透明電極は、真空蒸着法やスパッタリング法等の方法により、上記絶縁性透明基板上に形成される。また、透明電極のラインに接して、Cr、Cu、Al、Ag等を主成分とする金属からなる金属バスラインを設け低抵抗化することもできる。
本発明の有機EL素子の正孔注入輸送層3に用いる材料は、次に積層する発光層4を蒸着で形成する場合は有機溶媒可溶な既知の材料を使うことができるが、発光層4を印刷法等の芳香族溶媒を用いた湿式法で形成する場合には、印刷に用いる芳香族溶媒に難溶な材料を用いることが望ましい。例えば青色の銅フタロシアニンおよびその誘導体、緑色の塩素化および臭素化銅フタロシアニン誘導体、赤色のキナクリドンおよびそのN−アリール誘導体等の、トルエン等の低極性芳香族溶媒に難溶の顔料を蒸着し正孔注入輸送層として用いることができる。これらの有色材料を適当な厚さで成膜することにより、本発明の有機EL素子の発光色を補正するための青、緑、赤のカラーフィルタ層としても機能する正孔注入輸送層として用いることもできる。
その他、正孔注入輸送層3に用いる材料として、低極性芳香族有機溶媒に難溶であるか、架橋して不溶化することが可能な低分子正孔注入輸送材料を用いることができる。例えば、ポリアニリン誘導体、またはポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との複合体(以後、PEDOT:PSSと略する)等の低極性芳香族有機溶媒に難溶または不溶の高分子正孔輸送材料を塗布または印刷して用いることができる。また、正孔注入輸送層3として、低極性芳香族有機溶媒に不溶または難溶な無機のアモルファスシリコン膜、アモルファスカーボン膜、アモルファス窒化カーボン膜、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化チタン膜等のイオンプレーティング、CVD、スパッタリング若しくはゾルゲル法により成膜された膜、バックミンスターフラーレン等のフラーレン類の蒸着膜、また有機のCHFプラズマ重合膜が好ましく用いられる。
本発明の有機EL素子は、各層間の密着性の向上、素子の劣化防止、および吸収や干渉による色調の調整等の目的で、正孔注入輸送層3上に1層以上のインターレイヤー層(図示せず)または正孔輸送層10を積層した構造であってもよい。
インターレイヤー層や正孔輸送層に用いる材料が、芳香族有機溶媒に難溶な低分子の場合には、陽極を形成した基板上に蒸着することにより成膜することができる。また、トルエン等の有機溶媒に可溶で、かつ架橋性の低分子材料や高分子材料の場合には、スピンコート、ディップコート、ロールコート、ブレードコート、インクジェット印刷、凸版印刷法等の方法により陽極を形成した基板上に塗布・印刷し成膜した後に加熱や光照射により架橋不溶化処理を行ない次の発光層の湿式成膜時の溶媒に溶解しないようにする。さらに必要に応じて、溶剤による洗浄や真空加熱により未架橋成分の除去処理を行う。
正孔輸送層10を積層させる場合は、例えば陽極2、正孔注入輸送層3、正孔輸送層10、発光層4の各材料のイオン化エネルギーの値が、陽極<正孔注入輸送層<正孔輸送層<発光層となるように調整することが好ましい。例えば正孔注入輸送層3は5.0〜5.4eV程度、正孔輸送層10は5.4〜5.8eV程度、発光層4は5.8〜6.2eV程度のイオン化エネルギーの材料が用いられる。このような積層構造とすると、陽極2と発光層4間のイオン化エネルギーの段差が小さくなり正孔注入障壁が減少し発光効率が向上する。
本発明の有機EL素子において、発光層4とは、式(1)で示す本発明の蛍光材料を固形分中0.5重量%以上の濃度で1種以上含む層である。
本発明の蛍光材料は、固体状態で強い青色蛍光を有し、単独で成膜性を有するため、塗布・印刷により発光層4を構成することが可能である。また、分子量が1000から2000程度であり蒸着可能な化合物の場合は、真空蒸着法で成膜を行なうこともできる。また、キャリアバランスを調整するために、他の正孔輸送材料、電子輸送材料と混合した組成物として発光層を構成してもよい。正孔輸送材料としては、ポリビニルカルバゾールを挙げることができる。電子輸送材料については下記に列挙するものを用いることができる。
また、青色発光の輝度増強や発光色の調整、緑、赤、白、赤外線等への発光色変換のために他の蛍光材料、リン光材料色素を好ましくは0.1重量%〜50重量%未満の濃度で、より好ましくは0.1重量%〜20重量%以下の濃度で本発明の蛍光材料にドープした組成物を発光層に用いることもできる。但し、ドーパント材料によってはドーパント濃度を高くすると膜が結晶化し易くなるため、その場合には0.5重量%以上10重量%以下の濃度で添加する。
本発明においては、一般式(1)で示される化合物に、発光輝度増強・変換のための1種類以上の発光性色素、さらに正孔輸送材料および電子輸送材料を添加した組成物を固形物として、または有機溶剤に溶かしたインクとして提供することができる。
以下に、発光層において本発明の蛍光材料にドープすることができる発光増強・変換色素の化合物例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
青色発光の輝度を増強する化合物の例としては、例えば式(6)、式(7)のアントラセン誘導体、および式(8)のペリレン誘導体が挙げられる。
Figure 0004990685
(式中、Rは炭素数4以下のアルキル基またはアルコキシ基またはトリフルオロメチル基を表す)
Figure 0004990685
(式中、Rは炭素数4以下のアルキル基またはアルコキシ基またはトリフルオロメチル基を表す)
Figure 0004990685
(式中、Rは炭素数4以下のアルキル基またはアルコキシ基またはトリフルオロメチル基を表す)。
式(1)の化合物の青色発光を緑色発光に変換するために添加する蛍光ドーパントの化合物の例としては、式(9)のキナクリドン誘導体、式(10)、式(11)、式(12)および式(13)のベンゾアントラセン誘導体が挙げられる。
Figure 0004990685
(式中、Rは炭素数4以下のアルキル基またはアルコキシ基またはトリフルオロメチル基を表す)
Figure 0004990685
Figure 0004990685
(式中、Rは炭素数4以下のアルキル基またはアルコキシ基またはトリフルオロメチル基を表す)
Figure 0004990685
Figure 0004990685
式(1)の化合物の青色発光を黄色発光に変換する蛍光ドーパントの化合物の例としては、式(14)のルブレンが挙げられる。
Figure 0004990685
式(1)の化合物の青色発光を赤色発光に変換する蛍光ドーパントの例としては、式(15)に構造を示す9,14−ジフェニル−ベンズ[5,6]インデノ[1,2,3−cd]ペリレンを挙げることができる。
Figure 0004990685
式(1)の化合物の青色発光を白色発光に変換するために、緑色、黄色、赤色に変換するドーパントを1種以上、濃度を調整して添加してもよい。複数の変換用色素を添加する場合のドーパント濃度は概ね、緑>黄色>赤の順とする。
式(1)の化合物の青色発光を黄色発光に変換するリン光ドーパントの例としては、式(16)、式(17)のイリジウム錯体が挙げられる。
Figure 0004990685
(式中、acacはアセチルアセトネート配位子を表す)
Figure 0004990685
(式中、acacはアセチルアセトネート配位子を表す)。
式(1)の化合物の青色発光を赤色発光に変換するリン光ドーパントの例としては、式(18)、式(19)のイリジウム錯体が挙げられる。
Figure 0004990685
(式中、acacはアセチルアセトネート配位子を表す)
Figure 0004990685
(式中、acacはアセチルアセトネート配位子を表す)。
さらに、式(1)で示される青色発光材料中に、発光を増強するまたは色を変換する発光色素以外に、駆動電圧の低減および/または発光効率の向上の目的で、電子輸送性を増強するための電子輸送材料をドープしてもよい。
電子輸送材料としては既知の化合物を用いることができる。例としては、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、ピリミジン誘導体、バソフェナントロリン等の1,10−フェナントロリン誘導体、1,3,5−トリス(N−フェニルベンズイミダゾール−2−イル)ベンゼン(以下、TPBIと略する)等のベンズイミダゾール誘導体、ビス(2−メチル−8−キノリナート)−4−フェニルフェノレートアルミニウム(以下、BAlqと略する)等の金属錯体、4,4’−ビスカルバゾールビフェニル等を挙げることができる。中でも、電子輸送材料としてトリアジン誘導体が好ましく用いられ、例としては特開平7−157473号公報、特開2003−303689号公報、特開2004−284971号公報、特開2005−306862号公報、特開2005−340183号公報、特開2006−111854号公報、特開2006−225320号公報、特開2006−225321号公報、特開2006−225322号公報、米国特許第6057048号明細書、米国特許第6229012号明細書、および米国特許第6225467号明細書に記載されているトリアジン誘導体等を挙げることができる。その他、以下の式(20)および式(21)で示されるトリアジン誘導体を挙げることができる。
Figure 0004990685
(式中、Rは炭素数1から4のアルキル基、またはトリフルオロメチル基を表す)
Figure 0004990685
(式中、Rは炭素数1から4のアルキル基、またはトリフルオロメチル基を表す)。
また、式(1)の化合物を青色発光用ドーパント材料とし、当該ドーパントのHOMO(最高被占軌道)のエネルギーレベルより低く、且つLUMO(最低空軌道)のエネルギーレベルよりも高いLUMOを有するワイドエネルギーギャップな高分子や、低分子からなる電子輸送材料および電子輸送性発光材料をホストとした組成物を発光層4として用いることもできる。この際に用いる低分子からなる電子輸送材料および電子輸送性発光材料の例としては、上記の式(20)および式(21)等の高アモルファス性を有し、成膜性と耐熱性の高い材料を挙げることができる。これらのホスト電子輸送材料中に式(1)の化合物を0.5重量%〜50重量%未満の割合でドープし、発光層4とすることができる。
また、真空蒸着法で成膜する場合や、架橋性置換基を導入した材料を用い湿式法で積層する毎に順次架橋処理を行うことにより発光色の異なる発光材料からなる1以上の膜を順次積層した多層膜からなる発光層4とすることもできる。
発光層4の厚さは、単層構造においては、塗布、印刷、真空蒸着等の方法で100nm以下であることが好ましく、以下に記載するように電子輸送層11を積層させる場合には、5〜80nmであることが好ましい。
インクジェット法、スリットコート法、凸版印刷、オフセット印刷等の塗布印刷法で発光層4を成膜する場合において、正孔輸送層10に架橋性材料を用いず発光層4の溶媒に対して不溶性が不十分な場合においても、発光層4のインクの濃度をできるだけ飽和溶液に近い高濃度にして正孔輸送層10を溶かし難いようにすることも場合によっては可能である。また、オフセット印刷法や凸版印刷法等の印刷版上で溶媒がある程度蒸発し濃縮された膜を転写する方法により、正孔輸送層10が発光層4に溶け込むことを抑制することもできる。
本発明の有機薄膜EL素子において、本発明の蛍光材料を単独で用いて発光層4とする場合、または他の発光材料のホスト材料として用いる場合には、発光層4と陰極5との間に、1層以上の電子輸送層11が設けられていることがより好ましい。
電子輸送層11に用いられる材料は、電子移動度が大きく、LUMOの状態密度が大きく、LUMOのエネルギーレベルが発光層4における発光材料のLUMOのエネルギーレベルと同程度から陰極材料のフェルミレベル(仕事関数)の間にあることが好ましい。また、発光層4と接する電子輸送層11のイオン化エネルギーは発光層4における発光材料以上であり、成膜性が良い材料が好ましい。
このように、電子輸送層11を設けると、発光層4への電子注入効率が高まり、正孔を閉じ込め、かつ励起子が陰極5へ拡散し失活するのを抑制することができる。
電子輸送層11には、既知の電子輸送材料を用いることができる。また、前述の電子輸送材料から選んで用いることもできる。また、ホスト材料中にゲスト発光材料をドーピングした発光層構成とする場合、発光材料のドーピング無しのホスト材料を電子注入輸送材料として機能させることもできる。
電子輸送層11は、単層構造においても、積層構造においても、塗布、印刷、真空蒸着等の方法で100nm以下で形成することが好ましい。有機EL素子の発光色により陰極金属による反射光との干渉効果が異なり最適な厚さは異なるが、青色発光有機EL素子の場合、色純度を良くしたい場合は20nm程度の厚さが望ましい。電子輸送層11を塗布・印刷して成膜する場合は、発光層4を溶かさないアルコール系溶媒等に溶ける材料を用いることが好ましい。または、発光層4を溶かす芳香族有機溶媒を用いる場合には、発光層4を溶かし難い飽和溶液に近い高濃度のインクを用いる必要がある。より好ましくは発光層4が何らかの手段で架橋不溶化されていることであるが、一般的には真空蒸着で電子輸送層11を積層することが容易である。
本発明の有機EL素子において陰極5は、仕事関数が4eV以下、好ましくは2〜3eVの低仕事関数材料で構成されることが電子注入効率を高める上で好ましい。
この低仕事関数の材料の例としては、Al、MgおよびYb等の空気中で比較的安定な金属元素と、Li、Ca、Sr、Ba、Cs、Eu等の電子放出性の高い低仕事関数金属元素を1種以上含有する合金またはそれらの酸化物を含有する電極材料を挙げることができる。
上述の陰極5は、用いる材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、およびイオンプレーティング法等により、または合金ターゲット等を用いるスパッタリング法等により形成することができる。陰極5を多成分合金で構成する場合は、抵抗加熱法により10−2Paオーダー以下の真空下で、成分ごとに別々の蒸着源から、水晶振動子式膜厚計でモニターしながら共蒸着法により形成するか、あるいは、合金材料を少量ずつフラッシュ蒸着することにより形成することができる。
本発明の有機EL素子を単純マトリクス駆動ディスプレイにおいて用いる場合であって、陰極5をストライプ状に形成する必要がある場合には、スリット状に穴の開いたマスクを基板に密着させて蒸着するか、陰極形成部全面に蒸着した後、レーザーアブレーション法や、イオンビームエッチング法や、リアクティブエッチング法、逆テーパー隔壁法等により、陰極金属のパターニングを行うことにより、陰極5を形成することができる。
陰極5は、通常数10〜数100nmの厚さで成膜するが、5〜10nmの厚さに形成した場合は、可視光が透過し、陰極側を表示面とすることもできる。
陰極側から表示が行われる構成とする場合は、本発明の有機EL素子において用いられる電子輸送層11は、少なくとも本発明の蛍光材料の蛍光波長領域において、実質的に透明である必要がある。
以上、基板1側から順に、陽極2、正孔注入輸送層3、正孔輸送層10(任意)、発光層4、電子輸送層11(任意)、および陰極5を積層した構造について示したが、本発明の有機EL素子は、基板側から順に、陰極、電子輸送層、発光層、正孔輸送層、正孔注入輸送層、及び陽極を積層した構造であってもよい。
本発明の有機EL素子には、水分や酸素による有機層や電極の劣化を防止するために、有機層および電極上を覆うパッシベーション層12を形成してもよい。
このパッシベーション層12に用いられる材料は、ガスバリア性および水蒸気バリア性の高い材料であれば特に制限はないが、SiO2、SiOx、GeOx、MgO、Al23、TiO2、ITO、InZnxOy、およびInGaxZnyOz等のアモルファス酸化物を挙げることができる(添字のx、y、zは組成比を表す。これら酸化物の組成は、化学量論比からずれていることもある)。その他、MgF2、LiF、BaF2、AlF3、及びFeF2等のフッ化物、ZnS等の硫化物等の無機化合物を挙げることができる。よりバリア性を高めるためにはAl等の難腐食性の高バリア性金属をパッシベーション層12上にさらに蒸着することが望ましい。
パッシベーション層12は、これら材料を、蒸着法、反応性蒸着法、CVD法、スパッタリング法、およびイオンプレーティング法等の方法により、単体でまたは複合化させて積層して成膜することにより形成される。
さらにこのパッシベーション層12が傷付くのを保護するために、このパッシベーション層12を覆うように、プラスチック板およびプラスチックフィルム、金属箔とプラスチックのラミネートフィルム、金属板および金属箔、またはガラス板等の封止板13を、十分水分を除いた低吸湿性の光硬化性接着剤、エポキシ系接着剤、架橋エチレン−酢酸ビニル共重合体接着剤シート等の接着性樹脂、または低融点ガラス等の接着材料14で接着しても良い。
また、パッシベーション層12の表面や、封止板13の発光層4側の面に、酸化カルシウム、酸化バリウム等の乾燥剤や、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類、および有機金属類等からなるゲッター剤の層(図示せず)を形成してもよい。
以上のように構成される本発明の有機薄膜EL素子は、正孔注入輸送層2の側を正として直流電圧を印加することにより発光するが、交流電圧を印加した場合でも正孔注入輸送層2側に正の電圧が印加されている間は発光する。
また、本発明の有機薄膜EL素子を、基板1の上に2次元的に配列することにより、文字や画像を表示することが可能な薄型ディスプレイを形成することができる
さらに、図5の模式図に示すように赤、青、緑の3色の発光層のサブピクセルライン(26、27、28)またはドットを印刷で塗り分け、3色の発光素子を2次元配列したカラーディスプレイ、または赤、青、緑、白の4色の発光素子のサブピクセルラインまたはドットを2次元配列したカラーディスプレイ、または白色発光素子に赤、青、緑若しくは赤、青、緑、透明のサブピクセルに対応するカラーフィルタを積層し2次元配列したカラーディスプレイを作製することができる。
また、青色発光有機EL素子を作製した場合は、吸収型カラーフィルタに変えて青を緑、および青を赤に変換する蛍光変換型フィルタを積層することによって、より効率の良いカラーディスプレイを作製することができる
以下、本発明の実施例について説明する。
実施例1
2−(4,4’−ジイソプロピルトリフェニルアミン−4’’−イル)−9,9’−ビス(4−(9−(2−ビフェニル)−アントラセン−10−イル)−フェニル)フルオレン(式(2))(化合物1)
(合成例1)
2−ブロモ−9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(式22)(中間体)の合成
Figure 0004990685
4.0g(15.4mmol)の2−ブロモフルオレノン、14.5g(0.15mol)のフェノール、および0.53g(3.85mmol)の塩化亜鉛を混合し、塩化水素気流下において60℃で10時間攪拌した。反応終了後、反応混合物を水に注ぎ入れた後に、有機層を塩化メチレンで抽出した。分取した有機層を、水、希炭酸水素ナトリウム水溶液、および水により順次洗浄した後に、無水硫酸ナトリウムにて乾燥した。溶媒を留去し、残渣をヘキサン/塩化メチレン(体積比2/1〜0/1)を溶離液として用いるシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、2−ブロモ−9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(式22)5.65g(収率85.5%)を得た。
DI−MS(m/z):429(M),431(M+1)
H NMR(400MHz,d−CDCl):δ4.65(s,1H),6.69(d,J=8.0Hz,4H),7.04(d,J=8.0Hz,4H),7.25−7.38(m,3H),7.46(d,J=7.3Hz,1H),7.47(s,1H),7.60(d,7.3Hz,1H),7.71(d,J=7.3Hz,1H)。
(合成例2)
2−(4,4’−ジイソプロピルトリフェニルアミン−4’’−イル)−9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(式23)(中間体)の合成
Figure 0004990685
アルゴン雰囲気下、1.0g(2.33mmol)の2−ブロモ−9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(式22)、1.12g(2.79mmol)の4,4’−ジイソプロピルトリフェニルアミン−4’’−ボロン酸メチルエステル、0.59g(5.58mmol)の炭酸ナトリウム、10mLの水、および30mLのエチレングリコールジメチルエーテルを混合し、室温で10分間攪拌した後、脱酸素操作を行った。ここに、0.32g(0.28mmol)のテトラキストリフェニルフォスフィンパラジウム(0)を加え、85℃で18時間攪拌した。反応終了後、反応混合物を水に注ぎ入れ、有機層を塩化メチレンで抽出した。分取した有機層を水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を留去した。得られた残渣をヘキサン/塩化メチレン(体積比2/1〜0/1)を溶離液とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、2−(4,4’−ジイソプロピルトリフェニルアミン−4’’−イル)−9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(式23)1.38g(収率87.3%)を得た。
DI−MS(m/z):678(M
H NMR(400MHz,d−CDCl):δ1.23(s,6H),1.25(s,6H),2.87(br,2H),4.61(br,2H),6.67(d,J=8.3Hz,4H),6.96−7.16(br,10H),7.10(d,J=8.3Hz、4H),7.30−7.40(m,5H),7.50−7.59(br,2H),7.75(t,J=8.7Hz,2H)。
(合成例3)
2−(4,4’−ジイソプロピルトリフェニルアミン−4’’−イル)−9,9’−ビス(4−トリフルオロメタンスルホニルフェニル)フルオレン(式24)(中間体)の合成
Figure 0004990685
1.23g(1.82mmol)の2−(4,4’−ジイソプロピルトリフェニルアミン−4’’−イル)−9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(式23)を10mLのピリジンに溶解させた。この溶液を氷冷した後、1.23g(4.36mmol)のトリフルオロメチルスルホン酸無水物を滴下し、室温にまで昇温させて24時間攪拌した。反応終了後、反応混合物を水に注ぎ入れた。析出した沈殿物をイソプロピルエーテル/塩化メチレンの混合溶媒で抽出し、飽和食塩水、希塩酸、および水で順次洗浄した後、無水硫酸ナトリウムにて乾燥した。溶媒を留去し、得られた残渣をヘキサン/塩化メチレン(体積比2/1)を溶離液としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、2−(4,4’−ジイソプロピルトリフェニルアミン−4’’−イル)−9,9’−ビス(4−トリフルオロメタンスルホニルフェニル)フルオレン(式24)1.58g(収率92.4%)を得た。
H NMR(400MHz,d−CDCl):δ1.23(s,6H),1.25(s,6H),2.87(m,2H),7.04(d,J=8.7Hz,4H),7.07(d,J=9.1Hz,2H),7.11(d,J=8.2Hz,4H),7.15(d,J=8.7Hz,4H),7.27−7.32(m,6H),7.37−7.44(m,3H),7.48(br,1H),7.61(dd,J=7.8Hz,1.3Hz,1H),7.80(t,J=8.5Hz,2H)。
(合成例4)
2−(4,4’−ジイソプロピルトリフェニルアミン−4’’−イル)−9,9’−ビス(4−(9−(2−ビフェニル)−アントラセン−10−イル)−フェニル)フルオレン(式2)(化合物1)の合成
Figure 0004990685
アルゴン雰囲気下、1.50g(1.59mmol)の2−(4,4’−ジイソプロピルトリフェニルアミン−4’’−イル)−9,9’−ビス(4−トリフルオロメタンスルホニルフェニル)フルオレン(式24)、2.19g(5.45mmol)の9−(2−ビフェニル)−アントラセン−10−ボロン酸メチルエステル、1.15g(10.92mmol)の炭酸ナトリウム、20mLの水、および40mLのエチレングリコールジメチルエーテルを混合し、室温で10分間攪拌した後、脱酸素操作を行った。ここに、0.42g(0.36mmol)のテトラキストリフェニルフォスフィンパラジウム(0)を加え、85℃で24時間攪拌した。反応終了後、反応混合物を水に注ぎ入れ、有機層を塩化メチレンで抽出した。分取した有機層を水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムにて乾燥した後、溶媒を留去した。得られた残渣をヘキサン/塩化メチレン(体積比8/1〜5/18)を溶離液としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。さらに、得られた精製物をヘキサン/塩化メチレン(体積比8/1)を溶離液としたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した後、塩化メチレン/メタノール混合溶媒で再沈殿を行い、2−(4,4’−ジイソプロピルトリフェニルアミン−4’’−イル)−9,9’−ビス(4−(9−(2−ビフェニル)−アントラセン−10−イル)−フェニル)フルオレン(式2)0.4g(収率19.3%)を得た。純度は、カラムとしてMightysilRP−18GPを、展開溶媒としてTHF/アセトニトリル(体積比30/70)を用いたHPLCによれば、99.4%であった。保持時間5分〜6分のフラクションを取ることにより、純度99.9%以上の高純度化が可能であった。
H NMR(400MHz,d−CDCl):δ1.22(s,6H),1.24(s,6H),2.86(m,2H),6.8−6.9(m,6H),6.96−6.99(m,4H),7.04−7.12(m,10H),7.22−7.28(m,9H),7.31(d,J=2.0Hz,1H),7.34(s,2H),7.36(d,J=1.7Hz,1H),7.40−7.56(m,10H),7.58−7.69(m,14H),7.73(d,J=7.3Hz,1H),7.90(t,J=7.8Hz,3H)。
Agilent Technology社のポストカラム高速液体クロマトグラフ質量分析装置によれば、1301.6〜1306.6の範囲の同位体の分子イオンピークの内、主なピークとして1302.6と1301.6が観測され、(式2)の構造式と一致した。
化合物1の特性を以下に示す。
<熱分析>
化合物1の熱分析を、セイコー電子工業製EXSTAR6000シリーズDSC6220により行った。20℃/分の条件で昇温して化合物1のガラス転移温度(Tg)を測定した。その結果、Tgは177℃(転移始め)〜205℃(転移終わり)であった。化合物1は、結晶化の発熱ピークおよび融解の吸熱ピークを350℃以上に加熱しても示さず、理想的なアモルファス材料であった。
<溶解度>
化合物1は、室温でトルエンに20wt%の濃度で直ちに溶解し、インクとすることが容易であった。また容器に栓をして溶液を長時間放置しても結晶が析出することはなく安定であった。また他の高沸点芳香族溶媒(単独または混合物)にも同様に良溶解性であった。
<膜の耐熱性>
化合物1を1wt%含むトルエン溶液を、ITO膜付ガラス上にスピンコートした。形成された膜は透明で平滑な膜であった。図6に、未加熱膜の蛍光スペクトル(三角印)と、膜を窒素雰囲気下で加熱し200℃で1時間保持した後冷却した熱処理膜の蛍光スペクトル(実線)を示す。具体的には、島津製分光蛍光光度計RF−5300PCにて365nmで励起させ、蛍光スペクトルを測定した後補正し、ピークで規格化した。未加熱膜と加熱処理膜のスペクトルは重なった。ポリジアルキルフルオレン膜等で生じる加熱による長波長のエキシマ発光成分の発生は全く無く、450nmの蛍光ピークを有する色純度の良い青色蛍光材料であった。
実施例2
化合物2〜14は、上記した表1のR、Rにそれぞれ対応する(式25)および(式26)に示すようなホウ酸エステルを用いることを除いては、化合物1と同様に合成することができる。
Figure 0004990685
Figure 0004990685
また、上記のホウ酸エステルとして、ピナコレートボレート等を使用してもよい。これらの化合物2〜14も、365nmの紫外線励起で青色発光を示す青色蛍光材料である。ガラス転移温度Tgは、化合物1と同様に100℃以上であった。また、芳香族有機溶媒に対して優れた溶解性を示し、インクとすることが容易である。このインクをスピンコートして形成した膜は、化合物1と同様に耐熱性を有する。
比較例1
2,7−ビス(4,4’−ジイソプロピルトリフェニルアミン−4’’−イル)−9,9’−ビス(4−(9−(2−ビフェニル)−アントラセン−10−イル)−フェニル)フルオレン(比較化合物1)
Figure 0004990685
(式27)で示す比較化合物1を、実施例1の合成例1における2−ブロモフルオレノンに代えて2,7−ジブロモフルオレノンを原料として用いることを除いては化合物1と同様に合成した。得られた比較化合物1は、化合物1と同様の250mg/mL以上のトルエンへの優れた溶解性を有していた。また、比較化合物1は、このトルエン溶液をITO膜付きガラス上にスピンコートして膜を形成すると、365nmの励起で440nmの蛍光ピークを有する青色蛍光材料であった。
また、化合物1と同様に、セイコー電子工業製EXSTAR6000シリーズDSC6220により行った。20℃/分の条件で昇温して化合物1のガラス転移温度(Tg)を測定した。その結果、Tgは207℃(転移初め)〜220℃(転移終わり)であり、比較化合物1は高いガラス転移温度を示した。しかし、結晶化の発熱ピークを298℃と400℃に生じることから、完全なアモルファス材料ではなく、高温で経時的に結晶化する可能性があることがわかった。
実施例3
化合物1を液体発光層に用いたEL素子の作製
ITO膜からなる透明電極を形成した厚さ0.7mmの2枚の無アルカリガラス板に、厚さ約1ミクロンのポリエステルフィルムからなるスペーサーを挟み、セルの3方を接着した。残りの1方からセル内に5wt%の化合物1と、0.1mol/LのLiCFSOを溶かしたオルトジクロロベンゼンを流し込んだ。両電極間に直流または交流電流を流すと青色発光を生じた。
実施例4
化合物1の膜を固体発光層に用いたEL素子の作製
厚さ0.7mmの青板ガラス板上に、スパッタリング法により厚さ150nmのITO膜を成膜し、常法によりウエットエッチングを行った基板を用いた。この基板をアルカリ洗剤により超音波洗浄後、さらに純水で洗浄し、乾燥させ、紫外線洗浄を行なった。続いて、ITO膜上に、PEDOT/PSS(Baytron P AI4083)をスピンコート法により塗布し、200℃で15分乾燥して厚さ90nmの正孔注入輸送層を成膜した。
次に、この正孔輸送層上に、化合物1をトルエンに1wt%溶解した本発明の青色蛍光インク組成物をスピンコート法により塗布して厚さ50〜60nmの膜を成膜し、90分間減圧乾燥させて発光層とした。
最後にこの発光層上に、CsFを1nmの厚さで真空蒸着し、さらにAlを150nmの厚さで蒸着して陰極を形成した。
以上のようにして作製した有機EL素子に12Vの直流電圧を印加し発光させたところ、874cd/mの輝度が得られ、CIE1931色度図におけるxy色度座標は(0.18、0.15)の青色発光であった。
実施例5
化合物2〜14の膜を固体発光層に用いたEL素子の作製
ガラス板上にスパッタリング法により成膜した厚さ150nmのITO膜をエッチングし、ストライプ状にパターンニングして陽極基板とした。ポリイミド系レジストインクを用いて陽極基板上に格子状に開口を有する画素部(107μm角)を形成した。次に各画素を覆うように、ダイコート法でPEDOT/PSS膜(Baytron P CH8000)を厚さ50nmで形成し、不要部分を拭き取った。
次に化合物2〜14をo−キシレンにそれぞれ2wt%溶解させた青色蛍光インク組成物を作製した。この青色蛍光インク組成物を用いて、図4に示す凸版印刷装置により約80nmの厚さで発光層を成膜した。次に電子輸送層として、TPBIを真空蒸着により厚さ20nmで積層した。最後にストライプ状の開口部を有する蒸着マスクを、陽極のストライプの方向と直交するように配置し、CsFを1nmの厚さに真空蒸着し、さらにAlを150nmの厚さに蒸着し積層して陰極を形成した。以上のように、発光層がそれぞれ化合物2〜14を含むドットマトリクスからなる有機EL素子を作製した。各画素に直流電圧を印加すると各素子は約1000cd/m以上の輝度で青色発光を生じた。
実施例6
実施例4のトルエン溶媒に化合物1を1wt%溶解させた青色蛍光インク組成物を用いる代わりに、正孔輸送材料であるポリビニルカルバゾール中に化合物1を10wt%含む発光材料を1wt%の濃度でトルエンに溶解させた青色蛍光インク組成物を用いることを除いては、実施例4と同様に発光層までを作製した。次にこの発光層の上に電子輸送層としてTPBIを真空蒸着により厚さ20nmで積層した。最後にこの電子輸送層上に、CsFを厚さ1nmで真空蒸着し、さらにAlを厚さ150nmで蒸着して陰極を形成して有機EL素子を作製した。この素子は直流電圧印加により、約3000cd/m2の輝度で青色発光を生じた。
実施例7
実施例4のトルエン溶媒に化合物1を1wt%溶解させた青色蛍光インク組成物を用いる代わりに、化合物1に、2−t−ブチル−9,10−ジ(ナフチル−2−イル)アントラセンを青色発光増強ドーパントとして固形分比で10wt%含む発光材料を、22%のo−キシレン(沸点144℃)、44%のm−キシレン(沸点139℃)、19%のp−キシレン(沸点138℃)、および15%のエチルベンゼン(沸点136℃)を含む混合溶媒に溶解させた青色蛍光インク組成物を調製した。発光層にこの青色蛍光インク組成物を用いることを除いては、実施例4と同様に発光層までを作製した。さらに、この発光層上に電子輸送層としてTPBIを真空蒸着により厚さ20nmで積層した。最後にこの電子輸送層上に、CsFを厚さ1nmで真空蒸着し、さらにAlを厚さ150nmで蒸着して陰極を形成し、有機EL素子を作製した。この有機EL素子は、直流電圧印加により約5000cd/m2の輝度で青色発光を生じた。
実施例8
実施例4のトルエン溶媒に化合物1を1wt%溶解させた青色蛍光インク組成物を用いる代わりに、化合物1中に(式13)で示す化合物を緑色蛍光変換ドーパントとして5wt%含む発光材料をトルエンに溶解させた蛍光インク組成物を調製した。発光層にこの蛍光インク組成物を用いることを除いては、実施例4と同様に発光層までを作製した。さらに、この発光層上に電子輸送層としてTPBIを真空蒸着により厚さ60nmで積層した。最後にこの電子輸送層上に、CsFを厚さ1nmで真空蒸着し、さらにAlを厚さ150nmで蒸着して陰極を形成し、有機EL素子を作製した。この有機EL素子は、直流電圧印加により約10000cd/m2の輝度で緑色発光を生じた。
実施例9
実施例4のトルエン溶媒に化合物1を1wt%溶解させた青色蛍光インク組成物を用いる代わりに、化合物1中に(式15)で示す化合物を赤色蛍光変換ドーパントとして2wt%含む蛍光体組成物をトルエンに溶解させ蛍光インク組成物を調製した。発光層にこの発光材料を用いることを除いては、実施例4と同様に発光層までを作製した。さらに、この発光層上に電子輸送層としてTPBIを真空蒸着により厚さ20nmで積層した。最後にこの電子輸送層上に、CsFを厚さ1nmで真空蒸着し、さらにAlを厚さ150nmで蒸着して陰極を形成し、有機EL素子を作製した。この有機EL素子は、直流電圧印加により約5000cd/m2の輝度で赤色発光を生じた。
実施例10
実施例4のトルエン溶媒に化合物1を1wt%溶解させた青色蛍光インク組成物を用いる代わりに、化合物1中に(式14)で示す化合物を白色蛍光変換ドーパントとして1wt%含む発光材料をトルエンに溶解させて蛍光インク組成物を調製した。発光層にこの蛍光インク組成物を用いることを除いては、実施例4と同様に発光層までを作製した。さらに、この発光層上に電子輸送層としてTPBIを真空蒸着により厚さ20nmで積層した。最後にこの電子輸送層上に、CsFを厚さ1nmで真空蒸着し、さらにAlを厚さ150nmで蒸着して陰極を形成し、有機EL素子を作製した。この有機EL素子は、直流電圧印加により約5000cd/m2の輝度で白色発光を生じた。
実施例11
実施例5の有機EL素子の発光層を、昇華精製した化合物14を真空蒸着して発光層を形成することを除いては実施例4と同様に有機EL素子を作製すると、1000cd/m以上の輝度で青色発光を生じた。
本発明の一実施形態に係る有機EL素子の断面図。 本発明の他の実施形態に係る有機EL素子の断面図。 本発明のさらに他の実施形態に係る有機EL素子の断面図。 本発明の有機EL素子の製造の際に用いる凸版印刷装置の模式図。 本発明のさらに他の実施形態に係る有機EL素子の断面図。 本発明の一実施例に係る有機EL素子で用いられる化合物の蛍光スペクトル。
符号の説明
1…基板、2…陽極、3…正孔注入輸送層、4…発光層、5…陰極、6…配線、7…電源、8…端子部、9…配線、10…正孔輸送層、11…電子輸送層、12…パッシベーション層、13…封止板、14…接着材料、15…版胴、16…印刷用凸版、17…被印刷基板、18…版に転写されたインク、19…基板に印刷されたインク、20…インクパン、21…インク補充装置、22…アニロックスロール、23…ドクター、24…ステージ、25…レジスト隔壁、26…赤色発光層、27…緑色発光層、28…青色発光層

Claims (9)

  1. 下記式(1)
    Figure 0004990685
    (式中、Rは未置換若しくは炭素数が1から8個の置換基を有する環の合計が4個以下の芳香族基若しくは縮合多環芳香族基、または未置換若しくは炭素数が1から8個の置換基を有する環の合計が4個以下の複素環基若しくは縮合多環複素環基を示し、ここでR基同士が直接または酸素を介して結合してカルバゾール環またはフェノキサジン環(これらは置換されていてもよい)を形成していてもよく、Rは、オルト位に置換基を有するフェニル基を示す)
    で表されることを特徴とする蛍光材料。
  2. 365nmの紫外線励起により440nm±20nmの青色蛍光ピークを有し、ガラス転移温度が100℃以上であり、かつ分子量が1000以上2000以下であることを特徴とする請求項1に記載の蛍光材料。
  3. 20〜25℃でトルエンに10重量%以上溶解することができることを特徴とする請求項1に記載の蛍光材料。
  4. が、未置換若しくは炭素数が1〜8個の置換基を有する環の合計が4個以下のフェニル基、または未置換若しくは炭素数が1〜8個の置換基を有する環の合計が4個以下のナフチル基であることを特徴とする請求項1に記載の蛍光材料。
  5. 下記式(2)
    Figure 0004990685
    で表されることを特徴とする請求項1に記載の蛍光材料。
  6. 請求項1に記載の蛍光材料を固形分中に0.5重量%以上含有することを特徴とする発光インク組成物。
  7. 少なくとも1種の芳香族系有機溶媒を含む溶媒中に、請求項1に記載の蛍光材料を固形分中の割合が少なくとも0.5重量%以上となる濃度で含むことを特徴とする発光インク組成物。
  8. 陽極と陰極との間に少なくとも発光層を有する有機EL素子において、前記発光層が請求項1に記載の蛍光材料を含むことを特徴とする有機EL素子。
  9. 陽極と陰極との間に少なくとも正孔注入輸送層と発光層とを有する有機EL素子において、前記発光層が請求項1に記載の蛍光材料を含むことを特徴とする有機EL素子。
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