しかしながら、特許文献1の除電装置は、除電エアとしてクリーンルーム内のエアを使用しており、製造装置内の清浄度がクリーンルームの清浄度よりも高い場合に、製造装置内の清浄度をかえって低下させるという問題があった。また、イオン発生方法としてコロナ放電を用いた場合には、放電電極に塵埃が付着し、イオン発生量が減少するため、除電性能が下がるという問題もあった。さらに、従来の方式では、イオン発生方法としてコロナ放電を用いた場合に、高圧電線の絶縁被覆が有機物によって腐食され、絶縁破壊によって火花放電が起こり、これが着火源となるおそれがあった。
また、従来の方式では、イオンが搬送路内面に接触することで搬送路内のイオンが減少するという問題があった。
本発明はこのような事情に鑑みて成されたもので、高い除電性能を得ることができ、且つ、安全性の高い除電装置及び除電方法を提供することを目的とする。
請求項1に記載の発明は前記目的を達成するために、クリーンルーム内に設置され、かつ、前記クリーンルーム内よりも清浄度の高い製造装置の内部に保持された除電対象物を除電する除電装置であって、前記クリーンルーム内に設置された、前記クリーンルーム内のエアを送気するためのファンと、前記ファンにより送気されたエア中の有機物を除去するための、前記クリーンルーム内に設置されたケミカルフィルタと、前記ファンにより送気されたエア中の塵埃を除去するための、前記クリーンルーム内に設置された塵埃除去フィルタと、前記ケミカルフィルタと、前記塵埃除去フィルタの両方を通過することにより、前記クリーンルーム内のエアよりも清浄度が高くなったエアである清浄エアから正イオンと負イオンを別々に発生させるイオン発生部と、前記クリーンルーム内に設置され、外面が絶縁され、内面が導電性を有し、前記イオン発生部で発生させた正イオンと負イオンとを別々に、前記清浄エアと共に搬送する搬送路と、前記クリーンルーム内に設置され、前記搬送路の先端に設けられ、該搬送路によって搬送された正イオンと負イオンとを混合して前記清浄エアと共に前記製造装置内に供給するイオン供給部と、前記搬送路を流れるイオンと同極性の直流電圧を、前記搬送路の内面に印加する直流電源と、を備えたことを特徴とする。
請求項1に記載の発明によれば、ケミカルフィルタによってエア中の有機物を除去してイオン発生部に送気するので、有機物によってイオン発生部(たとえばコロナ放電用の高圧電線の絶縁被膜)が腐食されることを抑制することができる。
また、請求項1に記載の発明は、塵埃除去フィルタによってエア中の塵埃を取り除いてイオン発生部に送気するので、塵埃がイオン発生部(たとえばコロナ放電用の放電電極)に付着することを抑制することができ、イオン発生部のメンテナンス回数を減らすことができる。
さらに請求項1に記載の発明によれば、ケミカルフィルタと除塵除去フィルタを設けたので、有機物と塵埃を除去したエアを供給することができる。したがって、たとえば供給先の製造装置の清浄度をその周囲の清浄度よりも高くすることができる。
また、請求項1に記載の発明によれば、搬送路の内面にイオンと同極性の直流電圧を印加するようにしたので、搬送路の内面とイオンとの間に反発力が生じ、イオンが搬送路の内面に接触することを防止できる。これにより、搬送路におけるイオンの減少を抑制することができる。
請求項2に記載の発明は請求項1の発明において、前記搬送路が、内側のダクトと外側のダクトとからなる2重構造で構成され、前記内側のダクトの内面は導電性を有し、外側のダクトの外面は絶縁性を有することを特徴とする。請求項2に記載の発明によれば、搬送路が導電ダクトと絶縁ダクトの二重構造になっているので、導電ダクトによってイオンの減少を確実に防止できる。
請求項3に記載の発明は、クリーンルーム内に設置され、かつ、前記クリーンルーム内よりも清浄度の高い装置の内部に保持された除電対象物を除電する除電方法であって、前記クリーンルーム内に設置された、エアを送気するファンを用いて前記クリーンルーム内のエアを送気する送気工程と、前記クリーンルーム内に設置されたケミカルフィルタを用いて、前記送気工程で送気されたエア中の有機物を除去する有機物除去工程と、前記クリーンルーム内に設置された塵埃除去フィルタを用いて、前記送気工程で送気されたエア中の塵埃を除去する塵埃除去工程と、前記有機物除去工程と、前記塵埃除去工程の両方を通過することにより前記クリーンルーム内のエアよりも清浄が高くなったエアである清浄エアから、前記クリーンルーム内に設置されたイオン発生部を用いて、正イオンと負イオンを別々に発生させるイオン発生工程と、前記クリーンルーム内に設置され、外面が絶縁され、内面が導電性を有する搬送路を用いて前記イオン発生工程で発生させた正イオンと負イオンとを別々に、前記清浄エアと共に搬送し、前記搬送路内を搬送されるイオンと同極性の直流電圧を、前記搬送路の内面に印加する搬送工程と、前記クリーンルーム内に設置され、前記搬送路の先端に設けられたイオン供給部を用いて、該搬送路によって搬送された正イオンと負イオンとを混合して前記清浄エアと共に前記装置内に供給するイオン供給工程と、を備えたことを特徴とする。
請求項3に記載の発明によれば、ケミカルフィルタによってエア中の有機物を除去してイオン発生部に送気するので、有機物によってイオン発生部(たとえばコロナ放電用の高圧電線の絶縁被膜)が腐食されることを抑制することができる。
また、請求項3に記載の発明は、塵埃除去フィルタによってエア中の塵埃を取り除いてイオン発生部に送気するので、塵埃がイオン発生部(たとえばコロナ放電用の放電電極)に付着することを抑制することができ、イオン発生部のメンテナンス回数を減らすことができる。
さらに請求項3に記載の発明によれば、ケミカルフィルタと除塵除去フィルタを用いてエア中の有機物と塵埃を除去する工程を備えているので、有機物と塵埃を除去したエアを供給することができる。したがって、たとえば供給先の製造装置の清浄度をその周囲の清浄度よりも高くすることができる。
また、請求項3に記載の発明によれば、搬送路の内面にイオンと同極性の直流電圧を印加するようにしたので、搬送路の内面とイオンとの間に反発力が生じ、イオンが搬送路の内面に接触することを防止できる。これにより、搬送路におけるイオンの減少を抑制することができる。
本発明によれば、ケミカルフィルタによってエア中の有機物を除去し、塵埃除去フィルタによってエア中の塵埃を取り除いてイオン発生部に送気するので、有機物による腐食や、塵埃による清浄度の低下などの不具合の発生を抑制することができる。また、本発明によれば、搬送路の内面にイオンと同極性の直流電圧を印加するようにしたので、搬送路中のイオンの減少を抑制することができる。したがって、本発明によれば、除電装置の除電性能と安全性を高めることができる。
以下添付図面に従って本発明に係る除電装置及び除電方法の好ましい実施形態について説明する。
図1は、本実施の形態の除電装置を模式的に示す構成図である。同図に示す除電装置10は、製造装置12の内部に設けられた被除電物14に、イオン化エアを吹きつけて除電
する装置であり、製造装置12とともにクリーンルーム16の内部に配置される。
クリーンルーム16の構成は特に限定するものではないが、たとえばその天井面にFFU(不図示)が配置され、FFUで除塵された清浄エアがクリーンルーム16内に供給され、この清浄エアがクリーンルーム16のグレーチング床から床下空間に吸い込まれることによって、クリーンルーム16内が清浄化される。このクリーンルーム16の内部に除電装置10と製造装置12が配置される。
製造装置12は、たとえば半導体の露光装置や描画装置であり、装置全体が不図示のチャンバで密閉されている。チャンバはクリーンルーム16よりも高い清浄度(すなわち低いクラス)に維持されており、たとえばクリーンルーム16がクラス1000の場合にはチャンバがクラス100、クリーンルーム16がクラス100の場合にはクラス10に維持される。このようにチャンバの中だけを局所的に高い清浄度にすることによって、クリーンルーム16の内部全体の清浄度を低くすることができ、クリーンルーム16のランニングコストを低減することができる。
一方、除電装置10は主として、イオン発生装置20、イオン搬送路30及びイオン供給部40によって構成される。イオン発生装置20は、製造装置12から離れて配置され、このイオン発生装置20で発生させたイオンがイオン搬送路30を介してイオン供給部40に搬送され、イオン供給部40から被除電物14にイオン化エアが吹き出される。以下に各構成部について説明する。
図2は、イオン発生装置20の構成を示す断面図である。同図に示すように、イオン発生装置20は、車輪23によって移動可能なケーシング21を有し、このケーシング21の内部に、ファン22、ケミカルフィルタ24、塵埃除去フィルタ26、イオン発生部28が下から順に設けられている。ケーシング21の下部には、エア取入口25が形成されており、ファン22を駆動することによって、このエア取入口25からケーシング21内にエアが吸引される。ケーシング21内に取り入れられたエアは、ケミカルフィルタ24、塵埃除去フィルタ26を順に通過する。
ケミカルフィルタ24は、有機物などの分子状汚染物質を除去するフィルタであり、たとえば、繊維状活性炭のフェルトをプリーツ化したものや、不織布に粒状活性炭を固定した活性炭フィルタが用いられる。このケミカルフィルタ24をエアが通過することによって、エア中の有機物、たとえばシロキサン、DOP(フタル酸エステル)、DBP(フタル酸ジブチル)、トルエンなどが所定の割合(80〜90%)で除去される。一方、塵埃除去フィルタ26は、エア中の塵埃を除去するフィルタであり、たとえばクリーンルーム16のFFU内のフィルタと同じフィルタ(通常HEPAフィルタ)が用いられる。この塵埃除去フィルタ26によってエア中の塵埃が除去される。
ケミカルフィルタ24及び塵埃除去フィルタ26によって有機物と塵埃が除去されたエアは、イオン発生部28に送気される。イオン発生部28の中央位置には仕切り板29が設けられ、エアが仕切り板29の両側のエリアに均等に流れるようになっている。
イオン発生部28は、たとえば直流式コロナ放電によってエアをイオン化させる装置であり、エアを正イオン化する正イオン発生部28Aと、エアを負イオン化する負イオン発生部28Bとを備える。正イオン発生部28Aと負イオン発生部28Bは、仕切り板29を挟んで反対側に配置される。したがって、仕切り板29で仕切られた一方のエリアに流れるエアは正イオン発生部28Aによって正イオン化され、他方のエリアを流れるエアは負イオン発生部28Bによって負イオン化される。その際、ケミカルフィルタ24によって有機物が除去されたエアがイオン発生部28に供給されるので、イオン発生部28に設けられた高圧電線の絶縁被膜(不図示)が有機物によって腐食されることを防止できる。したがって、イオン発生部28において安全にイオン化することができる。
また、イオン発生部28には、塵埃除去フィルタ26によって有機物が除去されたエアが供給されるので、イオン発生部28の放電電極(不図示)に塵埃が付着することを抑制できる。したがって、イオン発生部28でイオン発生量が減少することを防止でき、除塵装置10として高い除電性能を維持することができる。
なお、イオン発生部28は、直流式コロナ放電に限定されるものではなく、交流式コロナ放電や軟X線を用い、片方のイオンを取り除くことによって正イオンと負イオンを別々に供給するようにしてもよい。
イオン発生部28の上方には、イオン搬送路30が接続されており、正イオン発生部28Aで正イオン化されたエアと、負イオン発生部28Bで負イオン化されたエアは、イオン搬送路30によって別々に搬送される。すなわち、イオン搬送路30は、正イオンを搬送する正イオン搬送路30Aと、負イオンを搬送する搬送路30Bを備えている。
図3はイオン搬送路30を長手方向に直交する面で切断した断面図であり、図4はイオン搬送路30を長手方向に切断した断面図である。これらの図に示すように、正イオン搬送路30Aは、内側のダクト32Aと、外側のダクト34Aから成る二重構造で構成されており、内側のダクト32Aの内部を正イオン化されたエアが通過するようになっている。外側のダクト34Aは、絶縁材料たとえば塩化ビニルによって構成されており、内側のダクト32Aの外面を完全に被覆するように構成される。ダクト32Aは、導電性を有する材料たとえばアルミによって構成されており、直流電源36Aに接続され、この直流電源36Aによって正の直流電圧が印加される。したがって、ダクト32Aの内部を流れるエア中の正イオンは、ダクト32Aの内面に近づいた際に反発力を受けるので、正イオンとダクト32Aの内面との接触回数を減らすことができる。これにより、搬送中の正イオンの減少を抑制することができるので、より多くの正イオンを搬送することができ、除電時間を短縮することができる。なお、ダクト32A、34Aは、形状を任意に変更できるフレキダクトを使用することが好ましい。
負イオン搬送路30Bは、正イオン搬送路30Aと同様に、内側のダクト32Bと、外側のダクト34Bから成る二重構造で構成されており、内側のダクト32Bの内部を負イオン化されたエアが通過するようになっている。外側のダクト34Bは、絶縁材料たとえば塩化ビニルによって構成されており、内側のダクト32Bの外面を完全に被覆するように設けられる。ダクト32Bは、導電性を有する材料たとえばアルミによって構成されており、直流電源36Bに接続され、この直流電源36Bによって負の直流電圧が印加される。したがって、ダクト32Bの内部を流れるエア中の負イオンは、ダクト32Bの内面に近づいた際に反発力を受けるので、負イオンとダクト32Bの内面との接触回数を減らすことができる。これにより、搬送中の負イオンの減少を抑制することができるので、より多くの負イオンを搬送することができ、除電時間を短縮することができる。なお、ダクト32B、34Bは、形状を任意に変更できるフレキダクトを使用することが好ましい。
上記の如く構成されたイオン搬送路30によって、正イオン化エアと負イオン化エアが別々に搬送され、図1のイオン供給部40に供給される。
イオン供給部40は製造装置12に設けられる。イオン供給部40の構成は特に限定するものではないが、別々に搬送された正イオン化エアと負イオン化エアとを均一に混合し、被除電物14に向けて吹き出すように構成される。これにより、被除電物14にイオン化エアを吹きつけて除電することができる。このイオン化エアは、イオン発生装置20の
ケミカルフィルタ24で有機物を除去し、且つ、塵埃除去フィルタ26で塵埃を除去したエアをイオン化したものなので、製造装置12の内部に供給しても製造装置12内の清浄度を低下させるおそれがない。したがって、製造装置12の内部を高い清浄度に維持したまま、被除電物14の除電を行うことができる。
次に上記の如く構成された除電装置10の作用について説明する。
図5は、上述した除電装置10を用いて試験した結果を示している。この試験では、直流電源36Aの印加電圧値(V)を変化させて除電完了時間を測定した。試験は、イオン供給部40の吹出口から1.5mの位置と、0.3mの位置の二カ所で行った。また、試験の際、温湿度は29±1℃であり、イオン搬送路30Aの長さは5mであり、イオン搬送路30Aの入口でのイオン濃度は3.6×106個/cm3であった。
図5から分かるように、イオン搬送路30Aのダクト32Aに正の直流電圧を印加することによって、除電時間を短縮できる。これは上述したように、ダクト32Aに正の直流電圧を印加することによって、ダクト32Aの内面に近づいた正イオンが反発力を受け、内面に接触する回数が減るためである。同様の試験結果がイオン搬送路30Bでも得られた。
このように本実施の形態の除電装置10によれば、イオン搬送路30のダクト32A、32Bにそれぞれイオンと同極性の直流電圧を印加するようにしたのでイオンがダクト32A、32Bの内面に接触することを抑制でき、イオン搬送路30におけるイオンの減少を抑制することができる。したがって、単位時間あたりのイオンの搬送量が増加するので、被除電物14の除電時間を短縮することができる。
また、本実施の形態の除電装置10によれば、ケミカルフィルタ24によってエア中の有機物を除去してイオン発生部28に送気するので、イオン発生部28の高圧電線の絶縁被覆(不図示)が有機物によって腐食されることを抑制できる。よって、イオン発生装置20での発火等を確実に防止することができ、除電装置10の安全性を高めることができる。
また、除電装置10によれば、塵埃除去フィルタ26によってエア中の塵埃を取り除いてイオン発生部28に送気するので、イオン発生部28の放電電極に塵埃が付着することを抑制でき、イオン発生部28のメンテナンス回数を減らすことができる。
さらに本実施の形態によれば、ケミカルフィルタ24と塵埃除去フィルタ26で有機物と塵埃を除去したエアを製造装置12に供給するので、製造装置12の清浄度が低下することを防止することができる。
なお、上述した実施形態は、イオン搬送路30の構成として、導電性のダクト32A、32Bを絶縁性のダクト34A、34Bで被覆するようにしたが、イオン搬送路30の構成はこれに限定するものではない。たとえば図6、図7に示す正イオン搬送路50Aは、絶縁材料(たとえば塩化ビニル)から成るホース54Aと、そのホース54Aの内面に塗布された導線性塗料52Aと、その導電性塗料52Aに正の直流電圧を印加する直流電源56Aとによって構成される。同様にイオン搬送路50Bは、絶縁材料から成るホース54Bと、そのホース54Bの内面に塗布された導線性塗料52Bと、その導電性塗料52Bに負の直流電圧を印加する直流電源56Bとによって構成される。このように構成された正イオン搬送路50A、負イオン搬送路50Bの場合にも、搬送中の正イオン、負イオンの減少を抑制することができ、除電時間を短縮することができる。
また、上述した実施形態において、直流電源36A、36B、56A、56Bの電圧を制御する制御装置(不図示)を設け、イオン搬送路30の搬送条件に応じて印加電圧を変化させるとよい。搬送条件は例えば、搬送中のイオン濃度、温湿度、搬送風速、搬送路断面積(ダクト径など)、搬送路長、搬送路内面の材質などであり、これらの条件が変化することによって、搬送中のイオンの減衰を防止するのに最適な電圧値が変化する。したがって、これらの搬送条件に応じて直流電源36A、36B、56A、56Bの印加電圧を制御することによって、搬送中のイオンの減少をより確実に抑制することができる。
なお、上述した実施形態において、被除電物14の表面電位を表面電位計で計測したり、被除電物14の周囲のイオンバランスをイオンバランスセンサで計測したりし、それらの計測値に基づいて直流電源36A、36Bを制御するようにしてもよい。
また、上述した実施形態では、エアの流れ方向に対してケミカルフィルタ24、塵埃除去フィルタ26の順に配置したが、逆に塵埃除去フィルタ26、ケミカルフィルタ24の順に配置してもよい。