以下に、本発明をさらに具体的に説明する。
本発明のマイクロアレイは、カバーの内側表面が帯電防止性を有するものである。カバーは、成形時に帯電防止性を有するもの、あるいは成形後に帯電防止性が付与されたもののいずれであってもよい。
本発明のマイクロアレイのカバーの材質としては、例えば、ガラス、セラミック、シリコンなどの無機材料、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PSt)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、酢酸セルロース、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリメチルペンテン(TPX)、ABS樹脂、AS樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリアセタール、シリコーンゴムなどの樹脂が好ましく用いられる。より好ましくは、成形が容易な樹脂材料が用いられる。特に、貫通孔を容易に形成できることから、PMMAやポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレートなどのポリマーがより好ましく用いられる。
本発明のマイクロアレイのカバーは、カバーと基板との間の空隙に面する内側表面が帯電防止性を有するものであって、カバー内側表面の少なくとも一部の表面が帯電防止性を有していればよいが、カバー内側表面の全面が帯電防止性を有していることが好ましい。カバー内側表面の全面が帯電防止性を有することで、摩擦が生じても静電気が蓄積する事態を効率よく避けることができる。
本発明のマイクロアレイのカバーに帯電防止性を付与するには、カバーの表面に親水性を付与して吸湿性を増したり、イオン性を付与して絶縁物表面の導電性を増加させたりすることで達成される。具体的には、カバーの表面に帯電防止性を付与する材料、すなわち帯電防止剤、親水性セグメントを持った高分子化合物又は金属類等を塗布、コーティング、真空蒸着、物理的吸着、スパッタリング、めっき等により表面を被覆する、あるいはカバーの材料に帯電防止性を付与する材料を混練してから成形することにより達成される。帯電防止性を付与する材料としては、例えば種々の帯電防止剤、親水性セグメントを持った高分子化合物、金属フィラー、カーボンフィラー、金属ウィスカ等が挙げられる。
本発明のマイクロアレイのカバーの内側表面の表面抵抗率は、好ましくは1012Ω以下であり、より好ましくは1010Ω以下である。カバーの内側表面の表面抵抗率が1012Ω以下であれば、帯電しない、あるいは帯電してもすぐに減衰する状態であるため、静電気の影響を受けることなく微粒子を封入することが可能となり、結果的に作業効率が著しく向上することになる。
ここで、表面抵抗率とは、電気絶縁性の指標の一つで、単位表面積あたりの抵抗を表すものであり、単位は[Ω](オーム)であるが、単なる抵抗と区別するために[Ω/□]あるいは[Ω/sq](ともにオーム・パー・スクエア)と表すこともある。表面抵抗率の測定は、例えばJIS K6911(1995)に記載された方法により行うことができる。なお、測定は、温度20±2℃、相対湿度65±5%の条件で行う。
表面抵抗率が1012Ω以下であるカバーは、後記するように、例えば、カバーの内側表面を帯電防止剤で被覆することによって得ることができる。また、樹脂製の場合は、特に帯電防止剤が混練された樹脂を用いて成形することによっても得ることができる。
本発明のマイクロアレイのカバーは、帯電防止剤、親水性セグメントを持った高分子化合物又は金属類等を、カバーの内側表面にコーティング、塗布、蒸着、めっき等を施して被覆処理することにより、あるいはカバーの材料にこれらが混練された樹脂、なかでも帯電防止剤が混練された樹脂を用いることにより、帯電防止性を付与することができる。帯電防止性を付与することによって、絶縁物の表面に親水性が付与されて吸湿性が増したり、イオン性が付与されて絶縁物表面の導電性が増加したりする。そのため、基板とその一部に接着されたカバーとの空隙に微粒子を封入する際に生じるカバーの帯電を防ぎ、微粒子の封入が困難になる事態を回避できる。したがって、カバーに設けられた貫通孔から基板とカバーの空隙に、微粒子を無理なく封入することが可能となる。なお、図1に示す空隙は、複数の貫通孔以外とは外部と連通しない閉じた空間である。
内側表面が帯電防止剤で被覆されたカバーは、帯電防止剤をコーティング、塗布等して被覆することで得ることができる。ここで用いられる帯電防止剤としては、低分子型帯電防止剤、高分子型帯電防止剤、π共役系導電性ポリマー等が利用される。
低分子型帯電防止剤としては、例えばグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アルキルジエタノールアミン、ヒドロキシアルキルモノエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン脂肪酸エステル、アルキルジエタノールアミド、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルホスフェート、テトラアルキルアンモニウム塩、トリアルキルベンジルアンモニウム塩、アルキルベタイン、アルキルイミダゾリウムベタイン等が好ましく利用できる。また、塩化ナトリウム、塩化カリウム等のアルカリ金属塩、塩化カルシウム、塩化バリウム等のアルカリ土類金属塩も好ましく用いられる。
高分子型帯電防止剤としては、例えばポリエチレンオキシド、ポリエーテルエステルアミド、エチレンオキシド−エピハロヒドリン共重合体、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート共重合体、4級アンモニウム塩基含有(メタ)アクリレート共重合体、4級アンモニウム塩基含有マレイミド共重合体、4級アンモニウム塩基含有メタクリルイミド共重合体、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、カルボベタイングラフト共重合体、ポリアクリル酸塩、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリスチレンスルホン酸アミン塩、スチレンを必須の構成単量体とするスチレンポリマーのブロックと親水性ポリマーのブロックの交互ブロック共重合体、ポリスチレン系樹脂にポリエチレングリコールを導入した(メタ)アクリル酸エステルをグラフトした樹脂、ポリエーテル化合物を帯電防止セグメントとした親水性ポリマー、ポリマレイン酸塩、ポリマレイン酸アミン塩が好ましく用いられる。
π共役系導電性ポリマーとしては、例えばポリアセチレン、ポリ(パラフェニレン)、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリ(フェニレンビニレン)が好ましく用いられる。
本発明のマイクロアレイのカバー内側表面を被覆するのに用いられる具体的な帯電防止剤としては、例えばファインケミカルジャパン(株)のEP−8、ファインESDコート、ショーワ(株)のSB−8、コルコート(株)のノンダスト、コルコート、ティーエーケミカル(株)のコニソル、ナガセケムテックス(株)のデナトロンシリーズ等が挙げられるが、これらに限定されない。
本発明のマイクロアレイのカバーは、帯電防止剤が混練された樹脂で成形されてもよい。このとき用いられる帯電防止剤としては、カバーに帯電防止性を付与できるものであれば特に限定されず、例えば、上記に記載した低分子型帯電防止剤、高分子型帯電防止剤、π共役系導電性ポリマー等を用いることができる。
本発明のマイクロアレイのカバーの材料に混練する具体的な帯電防止剤としては、ペレスタット(登録商標、三洋化成工業)、アーモスタット(ライオン・アクゾ)、エレガン、ニューエレガン(日本油脂)、ECX(登録商標、三菱化学)、エレクトロストリッパー(登録商標、花王)、エレストマスター(登録商標、花王)、TPAEシリーズ(富士化成工業)等の市販品を利用できる。また、金属フィラー(例えば金属粉、金属フレーク、金属ファイバー)、カーボンフィラー(例えばカーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、活性炭)、導電性ウィスカ(例えばチタン酸カリウム、ホウ酸アルミニウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛)が混練された樹脂を用いて、本発明のマイクロアレイのカバーを成形することも好ましい。
また、本発明のマイクロアレイのカバーは、種々の親水性高分子をアロイ化した永久帯電防止樹脂を用いて成形しても良い。このとき使用される永久帯電防止樹脂は特に限定されず、例えばトヨラックパレル(登録商標、東レ)、アディオン(登録商標、旭化成)、バイヨン(登録商標、クレハ)、STAT−RITE(登録商標、BF Goodrich)等を用いることができる。
本発明のマイクロアレイのカバーは、基板内部の状態を確認可能なように、その全体又は一部が透明性を有することが好ましい。透明であれば、検体溶液をアプライする際に、液が注入される様子を確認でき、また微粒子による攪拌状態を確認することが可能になるため好ましい。このとき、無色透明でも有色透明でもよい。
本発明のマイクロアレイは、製造工程で基板とカバーの空隙に微粒子を封入してもよいし、ユーザーが製品を使用する際に封入してもよいが、ユーザーの利便性を考慮すると、製造工程で微粒子が封入されていることが好ましい。カバーに帯電防止剤が塗布されるなどして、帯電防止性を有することにより、空隙内で微粒子をスムーズに動かすことが可能である。よって、例えば検体溶液を貫通孔を通してアプライする前に、マイクロアレイを傾けるなどして、封入されている微粒子を空隙内に均一に分散させることが可能であり、検体溶液のアプライ時に気泡の混入を防ぐことが可能となるため好ましい。
本発明の基板は、微細な凹凸構造を有することが好ましい。凹凸構造を有する本発明のマイクロアレイの例を図2及び図3に示す。凹部及び凸部の形状は特に限定されないが、特に凸部は角柱、円柱、円錐台などの柱状構造が好ましい。また凸部の上面の形状は、円形又は三〜八角形などの角形が好ましい。凹部又は凸部は完全に又は実質的に同一の構造を有しており、また交互に規則的に配列していることが好ましい。このような規則的な配列の場合、凸部の形状に応じて凹部の形状が決まる。
凸部のサイズは、例えば高さ10〜200μm、幅50〜150μmであるが、このような範囲に限定されない。凸部と凸部の間隔は、例えば50〜600μmであるが、好ましくは複数の微粒子が入ることが可能なサイズである。また、ハイブリダイゼーション後にスキャナでスキャンする際に、各シグナルのレベルに強度差が殆ど生じないことから、凸部の高さについては、その周りの平坦部と同じ高さであることが好ましい。凸部と平坦部の関係については、図2および図3に例を示す。
凸部の上面には、図3に示すように、選択結合性物質が固定化される。それゆえ、凸部の上面とカバーとの間には、選択結合物質と被検物質とが結合しうるための空間を設ける必要がある。そのような空間のサイズは、例えば高さ方向で、1〜500μmである。1μmより小さいと、固定された選択結合性物質に被検物質が接触する機会が極端に少なくなり、ハイブリダイゼーション後のシグナルが著しく小さくなるため、一方空間サイズが500μmを超えると、多くの液量が必要となり、微量な検体を用いる場合、検体液の濃度が薄くなってハイブリダイゼーションの反応性が低下し、検出時のシグナルが弱くなるため、それぞれ好ましくない。
基板の材質としては、例えば、ガラス、セラミックス、シリコンなどの無機材料、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート、酢酸セルロース、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリジメチルシロキサン、シリコンゴムなどのポリマーを挙げることができる。好ましくは、成形が容易な合成ポリマー、例えばPMMAである。
本発明の基板の成形方法は、例えば、樹脂の場合は射出成形法、ホットエンボス法等、ガラスやセラミックの場合はサンドブラスト法など、シリコンの場合は公知の半導体プロセスで使用される方法がそれぞれ好ましく用いられる。
本発明のマイクロアレイは、基板上面、凹凸構造を有する基板の場合は凸部の上面に、選択結合性物質を固定化することができる。選択結合性物質が固定される面は、選択結合性物質と結合可能な官能基(例えばアミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルデヒド基、エポキシ基など)を含むことができる。このような官能基を導入するために、例えば表面にプラズマ処理や放射線処理(例えばγ線、電子線など)を施し、この後さらにグラフト重合処理することによって極性基を導入したり、ポリカチオン(例えばポリ−L−リジン、シランカップリング剤など)をコートしたりすることができる。ここで用いられるシランカップリング剤としては、例えば3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルジエトキシメチルシラン、3−(2−アミノエチルアミノプロピル)トリメトキシシランなどが挙げられる。
基板は、その全体又は一部を黒色にすることができる。黒色とは、可視光範囲(波長400〜800nm)において、基板の黒色部分の分光反射率が特定のスペクトルパターンを持たず、一様に低い値、好ましくは7%以下であり、かつ、黒色部分の分光透過率も特定のスペクトルパターンを持たず、一様に低い値、好ましくは2%以下であることを意味する。基板の少なくとも一部を黒色にすることによって、S/N比を向上させることができる。黒色にする手段として、基板材料又は絶縁材料に黒色物質、例えばカーボンブラック、グラファイト、チタンブラック、アニリンブラック、金属(Ru,Mn,Ni,Cr, Fe,Co,Cuなど)の酸化物、Si,Ti,Ta,Zr,Crの炭化物を混入させることにより達成される。
本発明で使用可能な好ましい基板及びその製法は、例えば特開2004−264289、バイオテクノロジージャーナル:2005年7−8月号、418−420頁、などに記載されたものである。
さらに、基板とカバーの間の空隙に微粒子を含むことができる。その例を図3に示す。空隙に検体溶液を注入して攪拌を行う際に、微粒子が攪拌子の役割を担うため、攪拌効率が著しく高くなる。その結果、ハイブリダイゼーションの反応促進効果がもたらされる。ここで、本発明で用いられる微粒子のサイズは直径数十〜数百μmであることが好ましく、これは基板の凹部で複数個の微粒子が自由に動き得るサイズである。微粒子の材質は特に限定されないが、例えばガラス、セラミックス(例えばイットリア安定化ジルコニア)、ステンレス等の金属類、ナイロン、ポリスチレン等のポリマーなどが挙げられる。中でも、物理的、化学的に安定であり、かつ比重が大きいことから、セラミックの微粒子が好ましく用いられる。このような微粒子をハイブリダイゼーションの際に移動させることにより、検体溶液が効率よく撹拌される。なお、微粒子を移動させる手段としては、好ましくは基板を回転させて重力方向に微粒子を落下させる方法や、振盪機に微粒子を含んだ基板をセットし基板を振盪させる方法、磁性微粒子を用いて磁力により微粒子を移動させる方法が用いられるが、基板を振盪機にセットし、水平面内で旋回回転させる方法が、微粒子の移動範囲が大きくなり、その結果効率よく液を攪拌できるため好ましい。このとき、旋回回転の回転数は、好ましくは10〜1000回転/分、より好ましくは100〜500回転/分である。
微粒子にセラミックビーズを用いる場合、表面の粗さをコントロールすることにより、ビーズを封入する際の静電気の発生が抑制される。ここで、セラミックビーズの表面粗さの好ましい範囲としては、中心線表面粗さ(Ra)で0.04〜0.20μmである。カバーの表面抵抗率を1012Ω以下とし、上記のRaの範囲の表面粗さを有するセラミックビーズを封入することで、静電気がより発生しにくくなり、さらに効率よくビーズ封入作業を行うことが可能となる。
微粒子の大きさ(直径)は特に限定されないが、10〜500μmが好ましく、50〜300μmがより好ましい。10μmより小さいと撹拌の効果が十分得られない場合があるため、500μmより大きいと微粒子を封入するためにカバーと基板との間の空隙を大きくする必要があり、結果的に必要な液量が多くなるため、それぞれ好ましくない。また、基板とカバーとの間の空隙に検体等の溶液を入れて、封入された微粒子を移動させることで攪拌することを考えると、溶液や微粒子がカバーの貫通孔からこぼれてしまわないように、基板にカバーを密着させて、それらを保持しておくことが好ましい。また、操作性を考えると、あらかじめ基板とカバーの間に微粒子を封入しておくことが好ましい。さらに、ハイブリダイゼーション後にそのシグナル(蛍光)を測定することを考慮すると、カバーはハイブリダイゼーション後に脱離可能であることが好ましい。
カバーに帯電防止性が付与された基板には、貫通孔を通して微粒子を効率よく空隙に封入可能であり、また基板を傾けることで、封入された微粒子を動かすことができる。一方、帯電防止性が付与されていないカバーを接着した基板に微粒子を封入しようとすると、静電気により貫通孔付近で微粒子が動かなくなり、結局少量の微粒子しか封入できないことがあり、さらに封入された微粒子が静電気で固まってしまい、基板を傾けても動かないことがある。このとき、静電気は空隙の中で発生しているため、除電器などで取り除くことは容易ではない。したがって、カバーに帯電防止性が付与されていない場合、生産性が非常に低下することがある。さらに、帯電防止剤を塗布することにより、検体溶液をアプライする際に微粒子を空隙内に分散させることができるため、溶液の注入が容易となり、液中に気泡が混入又は残存する現象を防ぐ効果もある。
カバーは、基板の凹凸部の周囲に設けた平坦部に密着される。例えば、カバーがギャップ構造を有しているか、スペーサーを介して平坦部とカバーとが貼り付けられていれば、カバーを基板に密着させた後、凸部の上面との間に空間が生じる。密着は、基板の平坦部上部に接着剤層を設けて、この接着剤層を介してカバーを接着するなどの方法で行うことができる。接着剤層は、合成樹脂などのポリマー同士、ガラス同士、シリコーン同士、ポリマーとガラス、ポリマーとシリコーン、ガラスとシリコーン、等の材質間を接着可能なものであれば特に限定されないが、ハイブリダイゼーション後に脱離可能であることが好ましい態様であることを鑑みると、両面テープや、PDMS(ポリジメチルシロキサン)を好ましく用いることができる。
上記のようなカバーの製造方法は特に限定されず、例えば、樹脂の場合は射出成形法、ホットエンボス法等、削り出し等の方法、ガラスやセラミックの場合はサンドブラスト法、シリコンの場合は公知の半導体プロセスで使用される方法等が用いられるが、量産性を考えると樹脂を射出成形して製造する方法が好ましい。
カバーは、前記選択結合性物質固定化基板の表面の少なくとも一面の一部を覆い、基板とカバーとの間に空隙を有するよう接着されることができる。そして、基板は、好ましくはその表面であって空隙内に位置する領域上に固定された選択結合性物質を有する。すなわち、好ましくは、選択結合性物質が固定された領域が空隙内に存在するように、カバーは選択結合性物質固定化基板に接着される。カバーは、空隙が形成される限りにおいて、どのような態様で接着されてもよいが、好ましくは、両面テープ、樹脂組成物等の接着層を介して接着される。
本発明のマイクロアレイのカバーは、空隙に連通する1つ以上の貫通孔を有する。この孔は、被検試料、結合用バッファなどの液体を注入するためのものであり、また同時に、基板内部の圧力を大気圧に保持するためのものでもある。貫通孔は、一つの空隙に対して複数あることが好ましく、中でも3〜6個とすることにより、検体溶液の充填が容易となるので特に好ましい。カバーが複数の貫通孔を有する場合、それらの孔径は、同一でも異なっていてもよいが、複数の貫通孔のうちの一つを注入口とし、他の貫通孔を空気の抜け口として機能させる場合、検体溶液のアプライの容易さ及び検体溶液の密閉保持性の点から、注入口を検体溶液の注入に必要となる広い孔径とし、その他の貫通孔をより狭い孔径とすることが好ましい。具体的には、注入口の貫通孔サイズは直径0.01〜2.0mmの範囲とし、その他の貫通孔の直径を0.01〜1.0mmの範囲とすることが好ましい。
貫通孔は、その少なくとも1つが、その径を変化させて、上端に径の広い部分、いわゆる液面駐止用チャンバーを備えてもよい。ここで駐止とは、必要部位にとどめることを意味する。液面駐止用チャンバーを備えることにより、貫通孔からアプライされ空隙に充填された検体溶液の液面の上昇を抑え、貫通孔を封止部材で封止する際に容易かつ確実に行うことが可能となるとともに、検体溶液の中に多数の気泡が入ったり、検体溶液が流出したりすることを防ぐことができるので好ましい。液面駐止用チャンバーの形状は特に限定されるものではなく、円柱形、角柱形、円錐形、角錐形、半球形、又はこれに近似した形状とすることができる。これらのうち、製造の容易さ及び検体溶液の上昇を抑制する効果の高さ等の観点から、円柱形が特に好ましい。
貫通孔の孔径サイズについては特に限定されるわけではないが、図4に示す縦断面形状の円筒形の貫通孔及び液面駐止用チャンバーとの組み合わせの場合を例に挙げると、貫通孔の孔径サイズ(直径)は、0.01〜2.0mmが好ましく、0.3〜1.0mmがより好ましい。孔径を0.01mm以上とすることにより、検体溶液のアプライを容易に行うことができる。一方、貫通孔の直径を1.5mm以下とすることにより、アプライ後封止前の検体溶液の蒸発などをより効果的に抑制することができる。液面駐止用チャンバーの孔径サイズ(直径)については、1.0mm以上が好ましい。1.0mm以上とすることにより、貫通孔とのサイズの差を十分に得ることができ、その結果、十分な液面駐止効果が得られるため好ましい。液面駐止用チャンバーの直径の上限は、特に限定されないが、10mm以下とすることができる。また、液面駐止用チャンバーの深さは、特に限定されないが、0.1〜5mmの範囲内とすることができる。
このようなカバーは、脱着可能な強度、態様で前述の選択結合性物質固定化基板に接着されていることが好ましい。本発明の分析用チップをDNAチップとして用いる場合、通常、DNAチップを専用スキャナーで読み取る必要があるが、カバーが接着された状態では、専用スキャナーにセットすることが難しく、セットできたとしてもスキャン操作を実施するとカバーとスキャナーの光学系部品が接触し、故障の原因となることがある。また、カバーを介しての読み取りが可能であっても、読み取り値が不正確となりうる。そのため、読み取りの工程においてカバーを取り外せるように、カバーが脱離可能であることが好ましい。
カバーを選択結合性物質を固定した基板に脱着可能な状態で接着する態様は、特に限定されないが、カバーと基板が損傷されることなく脱離することが可能である態様が好ましく、例えば、両面テープ、樹脂組成物等の接着層を介して接着することができる。
接着層として両面テープを用いる場合、両面テープの態様は特に限定されないが、両面で接着力の異なる両面テープを用いることが好ましく、具体的には、両面テープの接着力の弱い面を基板側に接着し、接着力の強い面をカバー側に接着することが好ましい。このような両面テープを用いることにより、カバーを剥離する際に、両面テープがカバーに接着した状態で同時に基板より脱離し易く、それにより、基板上への接着層の残存による読み取りの工程における不都合を回避することができる。このような両面テープとしては、日東電工株式会社製の製品番号No.535A、住友スリーエム株式会社製の製品番号9415PC及び4591HL、並びに株式会社寺岡製作所製の製品番号No.7691等が挙げられる。
接着層として樹脂組成物を用いる場合、当該樹脂組成物としては、アクリル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、及びこれらの混合物からなる群より選択されるポリマーを含む樹脂組成物等を用いることができる。これらの樹脂組成物を利用することにより、両面テープに比べて密閉性を高めることが可能となるとともに、両面テープに比べて、長期間のインキュベーションに対しても安定であるため、そのような長期間のインキュベーションが必要な分析系においては特に好ましい。特に、接着層としてシリコーン系のエラストマーを用いると、密閉性が良好であり、しかも、容易に脱離が可能な状態でカバーを接着することができる。このようなエラストマーとしては、具体的には、ダウコーニング社のシルガード(登録商標)や、信越化学工業社製の型取り用二液型RTVゴムを挙げることができる。
上記カバーの形状は、前記選択結合性物質固定化基板の表面の少なくとも一面の一部を覆い、基板とカバーとの間に空隙を有するよう接着できるものであれば特に限定されないが、その外周部分において、基板に近い部分より基板に遠い部分において突出した部分を有する構造、すなわちオーバーハング構造が設けられたものとすることができる。オーバーハング構造を設けることにより、基板を損傷せずにカバーを脱離することが容易となるので好ましい。本発明のマイクロアレイにおいては、基板の凸部上面に選択結合性物質が固定化される。
本発明の選択結合性物質は、被検物質と直接的又は間接的に、選択的に結合しうる物質をいう。その例として、核酸、タンパク質、糖類、又は他の抗原性化合物が挙げられる。核酸は、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、ペプチド核酸(PNA)、相補的DNA(cDNA)、相補的RNA(cRNA)などを含む。タンパク質は、抗体およびその断片、抗原、酵素基質を含む。糖類は、オリゴ糖、多糖類を含む。他の抗原性化合物は、ペプチド、小分子を含む。好ましい選択性化合物は、核酸及びタンパク質(特に抗体、抗原など)である。この点で、本発明の好ましいマイクロアレイの例は、DNAマイクロアレイ(DNAチップともいう)又はプロテインマイクロアレイである。また、このような選択結合性物質は、市販のものでもよいし、あるいは、合成するか、生体組織又は細胞などの天然源から調製したものでもよい。
特性及び一次構造(塩基配列)が明らかな遺伝子などのDNAについては、その配列に基づいてプローブ又はプライマーを作製し、例えば生物組織から調製したcDNAライブラリーから目的のDNAを選抜することができる。あるいは、生物組織から全RNAを抽出し、オリゴdTカラムを使用してpolyA RNA(すなわち、mRNA)を精製し、cDNAクローニングによってcDNA、さらにはcRNAを作製することができる。得られた核酸の検出は、サザン又はノザンブロット法、サザン又はノザンハイブリダイゼーション法などの公知の方法、制限酵素による切断及びマップ化、配列決定などの方法で行うことができる。また、得られた核酸の増幅は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、遺伝子組換え技術(例えばベクターの使用)などによって行うことができる。あるいは、100マー以下のDNAを、DNA合成装置を用いて合成することも可能である。上記の一連の技術は、例えばAusbelら, Current Protocols in Molecular Biology, John Willey & Sons, US (1993); Sambrookら, Molecular Cloning A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, US (1989)などを参照することができる。
タンパク質は、天然から文献記載の方法に従って精製するか、あるいは、遺伝子組換え技術(ベクター/宿主系)によって合成することができる。タンパク質を抗原として、ウサギ、マウス、ヤギなどの非ヒト哺乳動物を免疫することによって、該タンパク質に対する抗体を作製することができる。また、マウスなどのネズミにおいては、目的の抗原による免疫刺激を受けた脾臓細胞と骨髄腫細胞との融合を含む方法によりモノクローナル抗体を作製することができる。抗体には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、抗ペプチド抗体などが含まれる。これらの抗体の作製は周知の方法を利用して行うことができる。
モノクローナル抗体については、例えばMonoclonal Antibodies, Hybridomas: A New Dimension in Biological Analyses, Plenum Press, US (1980);岩崎辰夫ら, 単クローン抗体 ハイブリドーマとELISA, 講談社サイエンティフィク(1987)など、また、ポリクローナル抗体については、例えば松橋直ら, 免疫学実験入門(生物化学実験法15), 学会出版センター(1982)を参照することができる。
抗ペプチド抗体については、例えばタカラバイオ(株)などが合成委託をしているのでそれを利用して入手することも可能である。簡単に説明すると、タンパク質の一次配列について可動予測、親水・疎水性予測、二次構造予測、極性予測などを行い、タンパク質表面に位置する部位を予測するとともに、免疫動物が本来もたない配列であることをホモロジー検索(DNASISソフト)によって予測し、ペプチド配列を決定する;次いで、その配列に基づいて、ペプチド合成によりペプチドを合成し;ウサギなどの動物に免疫し;血液から抗ペプチド抗体を分離し、親和性カラムなどを用いて精製する。
糖類は、化学的に合成するか、あるいは、糖タンパク質からグリコシダーゼにより切り出すことによって得ることができる。
選択結合性物質を基板に固定化するには、例えばキャピラー状のペンでスポッティングする方式、インクジェット方式などの公知の手法を利用することができる。スポッティング方式は、スポッターまたはアレイヤーと呼ばれる高密度分注機を用いて選択結合性物質をスポットする方法である。具体的には、例えば多数のウエルをもつプレートの各ウエルに異なる溶液を入れておき、この溶液をピン(針)で取り上げて基板上に順番にスポットする。インクジェット方式は、ノズルから微少な液滴を圧電素子などにより噴射し、選択結合性物質を基板に吹き付ける方法である。具体的には、ノズルより遺伝子を噴射し、基板上に高速度で選択結合性物質を整列配置する。あるいは、選択結合性物質が核酸の場合、フォトリソグラフ法により基板上で順次ヌクレオチド合成を行うことができる。
本発明のマイクロアレイは、それに固定化された選択結合性物質と直接的又は間接的に結合しうる被検試料中の物質の存在又は量の測定に使用することができる。ここでいう選択結合性物質とは、上記の核酸、タンパク質、糖類又は他の抗原性化合物である。
ここでいう被検試料とは、生物学的試料である。生物学的試料は、例えば植物や動物由来の生物学的試料、ヒトを含む哺乳動物由来の組織、細胞、体液などの生物学的試料などを含む。具体的には、例えばヒト疾患関連遺伝子、その発現産物(タンパク質)などである。さらに、生物学的試料には、細菌などの原核生物、酵母、担子菌、藻類、昆虫などの上記以外の真核生物由来の生物学的試料、ウイルス由来の試料などが含まれる。
測定は、基板上に固定化された選択結合性物質と、被検試料中の物質との結合を検出することを含む。選択結合性物質が核酸の場合、測定はDNA/DNAハイブリダイゼーション、DNA/RNAハイブリダイゼーション又はRNA/RNAハイブリダイゼーションに基づく。また、選択結合性物質がタンパク質の場合、測定は抗原抗体反応、すなわち免疫学的反応に基づく。反応温度、時間、バッファなどの条件は、ハイブリダイズさせる核酸の種類や鎖長、免疫反応に関与する抗原及び/又は抗体の種類などに応じて適宜選択される。
ハイブリダイゼーションは、一般にはストリンジェントな条件下で行われる。そのような条件は特に限定されないが、例えば30〜50℃で、3〜4×SSC、0.1〜0.5%SDS中で1〜24時間のハイブリダイゼーション、その後の2×SSC及び0.1%SDSを含む溶液による洗浄を含むことができる。ここで、1×SSCは、150mM塩化ナトリウム及び15mMクエン酸ナトリウムを含む溶液(pH7.2)である。
DNAマイクロアレイでは、生物の細胞又は組織から抽出されたmRNAからcDNAを合成し、cDNAをCy等の染料で標識したのち、これを試料として基板上のDNAとハイブリダイゼーションを行うことができる。
免疫学的反応は、例えば基板上に固定化された抗体と、被検試料中の抗原との反応である。検出は、抗体と抗原との免疫複合体を、例えば分光学的方法を用いて測定することによって行われる。測定としては、例えば酵素免疫測定法(EIA、ELISA)、放射性免疫測定法、蛍光抗体法などの酵素、放射性同位元素又は発蛍光剤を標識とする方法が望ましいだろう。例えば、基板上の抗体と試料中の抗原とを結合させたのち、形成された免疫複合体の抗原と結合可能な標識抗体(すなわち二次抗体)を作用させることによって、標識の強度に基づいて、目的抗原の量又は存在を測定することができる。基板には、抗体ではなく抗原を予め固定化することも可能である。
上記のハイブリダイゼーションや免疫反応を行った後、マイクロアレイ上をスキャナーを用いてスキャンし、標識が発する蛍光などのシグナルの強度又は存在を測定する。必要に応じて、測定したデータをコンピュータで解析する。
本発明のマイクロアレイは、カバー表面又はその近傍での気泡の発生が実質的にないため、凹凸構造をもつ基板を特徴とするマイクロアレイが本来的にもつ良好なS/N比、高検出感度などの特性を維持し、測定値のばらつきを改善し、正確で信頼性の高い測定を可能にする。
本発明は、以下の実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されないものとする。
本発明を以下の実施例によってさらに詳細に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
なお、本実施例において、各評価は以下のように実施した。
(カバーの表面抵抗率)
カバーの表面抵抗率はJIS K6911(1995年)に従い、温度20℃、相対湿度60%の測定条件において、ハイレスタUP MCP−HT450(三菱化学)を使用して測定した。
(微粒子封入の操作性)
微粒子には直径180μmのジルコニア製微粒子(東ソー(株))を用い、それをカバーに設けられた貫通孔から、基板とカバーの空隙内に120mg封入した。操作性の評価基準は、微粒子の動きが固まることなく、容易かつスムーズに全量封入できた場合は「◎:封入が容易」、微粒子の動きが固まることがあっても、特に無理することなく全量封入できた場合は「○:封入が可能」、貫通孔付近で微粒子が固まり、全量封入するのに相当の時間がかかった場合は「△:封入がやや困難」、貫通孔付近で微粒子が固まり、全量封入できなかった場合は「×:封入が困難」、とした。
(封入後の微粒子の動き)
微粒子を封入したマイクロアレイを傾けて、側面を軽く叩いたとき、微粒子が動くかどうか観察した。評価基準は、微粒子全体がスムーズに動いたときは「○:動く」、大部分の微粒子は動くが、動かない微粒子もあるときは「△:一部が動く」、微粒子が殆ど動かないときは「×:動かない」、とした。
(気泡残存率)
マイクロアレイによりハイブリダイゼーションを行う際に、カバーの貫通孔から検体溶液をアプライした後、注入された検体溶液中に気泡がないか、目視で観察して判定した。それぞれの実施例において、全20枚のマイクロアレイのうち、気泡が観察されたマイクロアレイの枚数の割合を算定し、その割合を気泡残存率(%)とした。
(シグナルの蛍光強度、シグナルのCV値、バックグラウンドノイズ、蛍光強度/ノイズ)
ハイブリダイゼーション後、洗浄した基板を、マイクロアレイスキャナにより励起波長532nmでスキャンしたときの蛍光強度について、それぞれの実施例において、20枚の平均値を算定し、それをシグナルの蛍光強度とした。また、それぞれの実施例において、20枚のシグナルの蛍光強度の変動係数、すなわち「蛍光強度の平均値/標準偏差)×100」の計算値をシグナルのCV値とした。CV値が小さいほど、バラツキが小さいことを意味する。なお、プローブDNAが固定化されていない部分の蛍光強度をバックグラウンドノイズとし、それぞれの実施例において20枚の平均値を求め、さらに蛍光強度/ノイズの比(S/N比)を求めた。
実施例1
(DNA固定化基板の作製)
公知の方法であるLIGA(Lithographie Galvanoformung Abformung)プロセスを用いて、射出成形用の型を作製し、射出成型法により後述するような形状を有するPMMA製の基板を得た。なお、この実施例で用いたPMMAの平均分子量は5万であり、PMMA中には1重量%の割合で、カーボンブラック(三菱化学製 #3050B)を含有させており、基板は黒色である。この黒色基板の分光反射率と分光透過率を測定したところ、分光反射率は、可視光領域(波長が400nmから800nm)のいずれの波長でも5%以下であり、また、同範囲の波長で、透過率は0.5%以下であった。分光反射率、分光透過率とも、可視光領域において特定のスペクトルパターン(ピークなど)はなく、スペクトルは一様にフラットであった。なお、分光反射率は、JIS Z 8722の条件Cに適合した照明・受光光学系を搭載した装置(ミノルタカメラ製、CM−2002)を用いて、基板からの正反射光を取り込んだ場合の分光反射率を測定した。
基板の形状は、大きさが縦76mm、横26mm、厚み1mmであり、基板の中央部分を除き表面は平坦であった。基板の中央に、縦・横22mm、深さ0.15mmの凹んだ部分が設けてあり、この凹みの中に、直径0.15mm、高さ0.15mmの凸部を1296(36×36)箇所設けた。凹凸部分の凸部上面の高さ(1296箇所の凸部の高さの平均値)と平坦部分との高さの差を測定したところ、3μm以下であった。また、1296個の凸部上面の高さのばらつき(最も高い凸部上面の高さと最も低い凸部上面との高さの差)、さらには、凸部上面の高さの平均値と平坦部上面の高さの差を測定したところ、それぞれ3μm以下であった。さらに、凹凸部分の凸部のピッチ(凸部中央部から隣接した凸部中央部までの距離)は0.5mmであった。
上記のPMMA基板を10Nの水酸化ナトリウム水溶液に70℃で12時間浸漬した。これを、純水、0.1NのHCl水溶液、純水の順で洗浄し、基板表面にカルボキシル基を生成した。
(プローブDNAの固定化)
配列番号1で表される塩基配列を有するDNA(60塩基、5’末端アミノ化)を合成した。なお、このDNAは5’末端がアミノ化されている。
このDNAを、純水に0.3nmol/μLの濃度となるよう溶解させて、ストックソリューションとした。基板に点着する際は、PBS(NaClを8g、Na2HPO4・12H2Oを2.9g、KClを0.2g、KH2PO4を0.2g純水に溶かし1LにメスアップしたものにpH調整用の塩酸を加えたもの、pH5.5)で10倍希釈して、プローブDNAの終濃度を0.03nmol/μLとし、かつ、基板表面のカルボン酸とプローブDNAの末端のアミノ基とを縮合させるため、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)を加え、この終濃度を50mg/mLとした。そして、これらの混合溶液をアレイヤー(日本レーザー電子製;Gene Stamp―II)で基板凸部上面の全てにスポットした。次いで、基板を密閉したプラスチック容器に入れて、37℃、湿度100%の条件で20時間程度インキュベートした。最後に純水で洗浄し、スピンドライヤーで遠心して乾燥した。
(カバーの作製)
射出成形法により図1に示す貫通孔を4つ有するカバー(外周部にオーバーハング構造有り)を作製した。
カバーを洗浄剤(クリーンエース(アズワンカタログ、品番:4−078−01)25倍希釈溶液)に浸漬して5分間超音波洗浄した後、逆浸透水(RO水)で十分にすすぎ、エアブローにより乾燥させた。この状態におけるカバーの表面抵抗率を、JIS K6911の方法で測定したところ、2×1016(Ω)であった。次いで、帯電防止剤EP−8(日本ファインケミカル(株))を直接吹き付けて塗布し、均一に塗り伸ばした後、室温にて風乾した。このとき、カバーの表面抵抗率は、5×108(Ω)であった。
(微粒子の封入)
上記で得られたプローブDNAを固定した基板20枚のプローブDNAの固定化領域の外側に、PDMSポリマー(東レダウコーニングシリコーン)を塗布し、上記の帯電防止加工を施したカバーを接着した。50gの重しを載せた状態で42℃で2時間キュアして、PDMSポリマーを硬化させた後、検体溶液の注入口から直径180μmのジルコニア製微粒子(東ソー(株))を、基板とカバーの空隙内に120mg封入した。このとき、すべての基板において、容易に微粒子封入作業を行うことができた。
(検体DNAの調製)
検体DNAとして、上記DNA固定化基板に固定化されたプローブDNAとハイブリダイズ可能な配列番号4で表される塩基配列を持つDNA(968塩基、以下、配列番号4のDNAともいう)を用いた。調製方法を以下に示す。
配列番号2で表される塩基配列を有するDNA(以下、配列番号2のDNAともいう)と配列番号3で表される塩基配列を有するDNA(以下、配列番号3のDNAともいう)を合成した。これを純水に溶解して濃度を100μMとした。次いで、pKF3 プラスミドDNA(タカラバイオ(株))(配列番号5で表される塩基配列を有するDNA:2264塩基)を用意して、これをテンプレートとし、配列番号2および配列番号3のDNAをプライマーとして、PCR反応(Polymerase Chain Reaction)により増幅を行った。
PCRの条件は以下の通りである。すなわち、ExTaq 2μl、10×ExBuffer 40μl、dNTP Mix 32μl(タカラバイオ(株)製)、配列番号2のDNAの溶液を2μl、配列番号3のDNAの溶液を2μl、テンプレート(配列番号5で表される塩基配列を有するDNA)を0.2μl加え、純水によりトータル400μlにメスアップした。これらの混合液を、4つのマイクロチューブに分け、サーマルサイクラーを用いてPCR反応を行った。これを、エタノール沈殿により精製し、40μlの純水に溶解した。PCR反応後の溶液の一部をとり電気泳動で確認したところ、増幅したDNAの塩基長は、およそ960塩基であり配列番号4のDNA(968塩基)が増幅されていることを確認した。
次いで、9塩基のランダムプライマー(タカラバイオ(株)製)を6mg/mlの濃度に溶かし、上記のPCR反応後精製したDNA溶液に2μl加えた。この溶液を100℃に加熱した後、氷上で急冷した。これらにKlenow Fragment(タカラバイオ(株)製)付属のバッファーを5μl、dNTP混合物(dATP、dTTP、dGTPの濃度はそれぞれ2.5mM、dCTPの濃度は400μM)を2.5μl加えた。さらに、Cy3−dCTP(GEヘルスケアバイオサイエンス製)を2μl加えた。この溶液に10UのKlenow Fragmentを加え、37℃で20時間インキュベートし、Cy3で標識された検体DNAを得た。なお、標識の際ランダムプライマーを用いたので、検体DNAの長さにはばらつきがある。最も長い検体DNAは配列番号4のDNA(968塩基)となる。なお、検体DNAの溶液を取り出して、電気泳動で確認したところ、960塩基に相当する付近にもっとも強いバンドが現れ、それより短い塩基長に対応する領域に薄くスメアがかかった状態であった。そして、これをエタノール沈殿により精製し、乾燥した。
この標識化された検体DNAを、1重量%ウシ血清アルブミン(BSA)、5×SSC(5×SSCとは、20×SSC(シグマ製)を純水にて4倍に希釈した液を指す。同様に、20×SSCを純水で2倍に希釈した液を10×SSC、100倍に希釈した液を0.2×SSCと表記する)、0.1重量%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、0.01重量%サケ精子DNAの溶液(各濃度はいずれも終濃度)、400μlに溶解し、ハイブリダイゼーション用のストック溶液とした。
以下の実施例、比較例において、ハイブリダイゼーション用の検体DNA溶液は、特に断りのない限り、上記で調製したストック溶液を、1重量%BSA、5×SSC、0.01重量%サケ精子DNA、0.1重量%SDSの溶液(各濃度はいずれも終濃度)で200倍に希釈したものを用いた。なお、この溶液の検体DNA濃度を測定したところ、1.5ng/μLであった。
(ハイブリダイゼーション)
マイクロピペットを用いて、基板とカバーの空隙(反応槽)にハイブリダイゼーション検体溶液165μLを貫通孔より注入した。このとき、容易に溶液を注入でき、気泡が混入することはなかった。封止材としてカプトンテープ(アズワン)を用い、4つの貫通孔を塞いだ。ハイブリダイゼーションチャンバー(Takara Hybridization chamber(タカラバイオ(株))をシート振盪台(東京理化器械(株)製 MMS FIT−S)に密着させて固定し、基板をハイブリダイゼーションチャンバー内にセットした。このとき、基板をセットする位置の両端の凹みに、15μLずつ超純水を滴下した。ハイブリダイゼーションチャンバーのふたを閉めた後、6本の固定ネジを締めて固定し、42℃に設定した恒温チャンバー(東京理化器械(株)製 FMS−1000)内に据え付けた振盪機(東京理化器械(株)製 MMS−310)の上に載せて固定した。恒温チャンバーの前面をアルミホイルで遮光して、250回転/分で旋回振盪しながら、42℃で16時間インキュベートした。インキュベート後、ハイブリダイゼーションチャンバーから基板を取り出し、基板に接着したカバーと両面テープを脱離した後、洗浄、乾燥した。
(測定)
DNAチップ用のスキャナー(Axon Instruments社製 GenePix 4000B)に上記処理後の基板をセットし、レーザー出力33%、フォトマルチプライヤーの電圧設定を500にした状態において、前記のとおり、シグナルの蛍光強度、シグナルのCV値、バックグラウンドノイズ、蛍光強度/ノイズを測定した。結果を表1に示す。十分な蛍光シグナルが得られ、バックグラウンドノイズも低く抑えられた。20枚のDNAチップを使用したが、操作も簡便であって、気泡が残ることは全くなかった。ハイブリダイゼーション後の蛍光強度、CV値は良好であった。
実施例2
帯電防止剤にSB−8(ショーワ(株))を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果を表1に示す。処理後のカバーの表面抵抗率は、5×108(Ω)であった。このとき、20枚すべての基板において、容易に微粒子封入作業を行うことができた。また、容易に検体溶液を注入でき、気泡が混入することはなかった。ハイブリダイゼーション後の蛍光強度、CV値は良好であった。
実施例3
帯電防止剤にファインESDコート(日本ファインケミカル(株))を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果を表1に示す。処理後のカバーの表面抵抗率は、5×107(Ω)であった。このとき、20枚すべての基板において、容易に微粒子封入作業を行うことができた。また、容易に検体溶液を注入でき、1枚だけ少量の気泡が混入したが、他は気泡が混入することはなかった。ハイブリダイゼーション後の蛍光強度、CV値は良好であった。
実施例4
帯電防止剤にコルコートNR−121−X9(コルコート(株))を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。結果を表1に示す。処理後のカバーの表面抵抗率は、2×107(Ω)であった。このとき、20枚すべての基板において、容易に微粒子封入作業を行うことができた。また、容易に検体溶液を注入でき、気泡が混入することはなかった。なお、コルコートNR−121−X9は、刷毛を用いてカバー表面に均一に塗布後、風乾させた。ハイブリダイゼーション後の蛍光強度、CV値は良好であった。
実施例5
帯電防止剤にコニソル(ティーエーケミカル(株))を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。なお、コニソルはイソプロパノール/水(1/1)で2倍希釈してから、刷毛を用いてカバー表面に均一になるよう塗布後、風乾させた。結果を表1に示す。処理後のカバーの表面抵抗率は、1×106(Ω)であった。このとき、20枚すべての基板において、容易に微粒子封入作業を行うことができた。また、容易に検体溶液を注入でき、1枚だけ少量の気泡が混入したが、他は気泡が混入することはなかった。ハイブリダイゼーション後の蛍光強度、CV値は良好であった。
比較例1
帯電防止加工を行っていないカバーを基板に接着した場合の実験を行った。図1に示すカバーを何も処理をせずに基板に接着する以外は、全て実施例1と同様に実験を行った。結果を表1に示す。すべての基板において、微粒子封入作業中に帯電が生じ、微粒子が注入孔付近で固まってしまったため、非常に作業性が悪かった。また、検体溶液を注入したところ、20枚中14枚に気泡が残存した。さらに、気泡が生じた基板については、ハイブリダイゼーション後のシグナルにむらが生じ、CV値が実施例と比較して高い結果となった。実施例1〜4と比べて蛍光強度が低く、かつCV値が大きい結果であり、バラツキが大きかった。