JP5087898B2 - 分析チップ - Google Patents

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Description

本発明は、被検物質と選択結合性物質との反応による分析を行う際に用いうる分析チップあって、該被検物質の溶液を保持する空間に微粒子が封入された分析チップに関する。
各種生物の遺伝情報解析の研究が始められている。ヒト遺伝子をはじめとして、多数の遺伝子とその塩基配列、また遺伝子配列にコードされる蛋白質およびこれら蛋白質から二次的に作られる糖鎖に関する情報が急速に明らかにされつつある。配列の明らかにされた遺伝子、蛋白質、糖鎖などの高分子体の機能は、各種の方法で調べることができる。主なものとして、核酸は、ノーザンブロッティング、あるいはサザンブロッティングのように、各種の核酸/核酸間の相補性を利用した方法により、各種遺伝子とその生体機能発現との関係を調べることができる。一方、蛋白質は、ウエスタンブロッティングに代表される蛋白質/蛋白質間の反応を利用し蛋白質の機能および発現について調べることができる。
近年、多数の遺伝子発現を一度に解析する手法として、DNAチップ法(DNAマイククロアレイ法)と呼ばれる新しい分析法が開発され、注目を集めている。DNAチップは、数百〜数万という多数の遺伝子発現を同時に測定するための小型装置であり、ガラス、シリコンなどの基材の基板上にDNAなどの分子を高密度に配置したものである。DNAチップを使用することによって、各種疾患動物モデルや細胞生物学現象における体系的かつ網羅的な遺伝子発現解析を行うことができる。具体的には、遺伝子の機能、すなわち遺伝子がコードするタンパク質を明らかにするとともに、タンパク質が発現する時期や作用する場所を特定することが可能になる。生物の細胞又は組織レベルでの遺伝子発現の変動をDNAチップによって解析し、生理学的、細胞生物学的、生化学的事象データと組み合わせて遺伝子発現プロファイルデータベースを構築することによって、疾患遺伝子、治療関連遺伝子の検索や治療方法の探索が可能になると思われる。
現在、DNAチップの作製は、主に2つの基本的な方法、すなわちGeneChip法及びcDNAマイクロアレイ法が採用されている。
GeneChip法はAffymetrix社によって開発された方法で、フォトリソグラフ法によりガラス板上で25マー(mer)程度のオリゴDNAを合成し、1つの遺伝子あたり、塩基配列データから16カ所から20カ所の25マーを設定し、25マーの完全一致と13塩基目を意図的に違えた1塩基ミスマッチのオリゴマーセットを組にしてプローブDNAとする。この方法は、プローブDNAの長さが一定であり、配列が既知なため、ハイブリダイゼーションの強さに影響をあたえるGC含量を一定にすることができるので、発現量の定量的解析には理想的なアレイと考えられている。一方、cDNAマイクロアレイ法は、Stanford大学によって開発された方法で、キャピラリー状のペンによるスポッティング方式や、インクジェット方式などの手法により、ガラス板にDNAを固定するものである。いずれの方法も、あらかじめ蛍光標識した測定する試料(遺伝子)を、DNAチップ上のプローブとハイブリダイゼーションにより結合させ、スキャナーを用いてその蛍光強度を測定することにより、遺伝子の発現を測定するものである。
DNAチップデータの解析の1つとして、階層的クラスタリングがある。これは、発現パターンの類似した遺伝子を集めて系統樹を作製することができる方法であり、多数の遺伝子の発現レベルが色で模式的に表示されうる。このようなクラスタリングによって、ある疾患に関連する遺伝子を識別することができる。
DNAだけでなく、タンパク質や糖類などを基板に配置した分析チップも検査、解析手段としても利用されるようになってきた。とりわけ、タンパク質を配置したプロテインチップでは、抗体、抗原、酵素基質などのタンパク質が基板上に固定される。
一般的なガラスやシリコンではなくポリマーを基材とした、凹凸構造を有する特殊な形状のDNAチップを開発されている(特許文献1)。この方法により、基板の凸部上面にスポットされる物質量のばらつきが小さくなり、その結果、S/N比及び検出感度が大きく改善された。さらに、凹部内に微粒子を存在させることによって、反応液の攪拌効率を増大させることが可能となり、結果として反応促進効果も達成された(非特許文献1)。
特開2004−264289号公報 滝澤聡子ら、バイオテクノロジージャーナル:2005年7−8月号、418−420頁
上記のような、基板と該基板と接着されたカバー部材からなり、該基板と該カバー部材との間に空隙を有し、該空隙に微粒子が封入されている分析チップにおいては、この空隙に微粒子を封入する際、静電気の発生により、例えばカバーに設けられた貫通孔から空隙内への微粒子封入が困難となることがある。また、静電気の発生により十分量の微粒子を封入できない場合、溶液の攪拌効率が十分得られないことがある。さらに、封入された微粒子が固まって動かなくなることがあり、このような状態でカバーと基板に囲まれた空隙に検体溶液を注入した場合、微粒子が固まった箇所に検体溶液が染み渡らず、空隙内に気泡が混入する結果、反応ムラが生じることがある。
本発明は、空隙に微粒子を封入する際に生じる静電気を抑制し、また微粒子の封入操作を容易にする分析チップを提供することを目的とする。
上記課題に鑑みて、本発明者らは鋭意検討した結果、基板と該基板と接着されたカバー部材からなり、該基板と該カバー部材との間に空隙を有する分析チップにおいて、基板とカバーに囲まれた空隙に微粒子を封入するとき、微粒子の表面粗さを制御することで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち本発明は、基板と該基板と接着されたカバー部材からなり、該基板と該カバー部材との間に空隙を有する分析チップであって、該空隙に微粒子が封入されており、該微粒子の表面の中心線平均粗さ、すなわちRa値が40nm以上300nm以下である分析チップである。
本発明の好ましい形態は、微粒子の表面の中心線平均粗さ(Ra値)が40nm以上200nm以下である分析チップである。
本発明の好ましい形態は、微粒子の材質がセラミックまたはガラスである分析チップである。
本発明は、微粒子の最大径が50μm以上500μm以下である分析チップである。
本発明の分析チップにおいて、表面の中心線平均粗さ(Ra値)が40nm以上300nm以下の微粒子を用いると、基板とカバーに囲まれた空間に微粒子を封入する際に静電気の発生が抑えられて、微粒子封入時の作業効率が著しく向上する。さらに、基板とカバーに囲まれた空間に容易に十分量の微粒子を封入できることから、ハイブリダイゼーション時の溶液撹拌効率が著しく向上し、従来の分析チップと比較してS/N比および検出感度を大幅に改善することができる。
以下に、本発明をさらに具体的に説明する。
本発明の分析チップは、基板とその一部に接着されたカバー部材からなり、該基板と該カバー部材とで形成される空隙があって、該空隙に微粒子が封入されている分析チップである。
図1に、本発明の分析チップの1例を示す。図1の分析チップは、基板1とその一部に接着層3を介して接着されたカバー部材2とを含む分析チップであって、基板1とカバー2とで形成される空隙6に微粒子8が封入されている。
分析チップとは、被検物質を含む溶液を当該チップにアプライし、被検物質の存在の有無や、被検物質の量や、被検物質の性状等を測定するために用いるチップをいう。具体的には、基板表面に固定化された選択結合性物質と検体との反応により、検体の量や、検体の有無を調べるバイオチップが挙げられる。より具体的には、核酸を基板表面に固定化したDNAチップ、抗体に代表されるタンパク質を基板表面に固定化したタンパク質チップ、糖鎖を基板表面に固定化した糖鎖チップ、及び基板表面に細胞を固定化した細胞チップ等が挙げられる。選択結合性物質及びその固定化の態様については後述する。
本発明の基板は、微細な凹凸構造を有することが好ましい。凹部及び凸部の形状は特に限定されないが、特に凸部は角柱、円柱、円錐台などの柱状構造が好ましい。また凸部の上面の形状は、円形又は三〜八角形などの角形が好ましい。凹部又は凸部は完全に又は実質的に同一の構造を有しており、また交互に規則的に配列していることが好ましい。このような規則的な配列の場合、凸部の形状に応じて凹部の形状が決まる。
基板の材質としては、例えば、ガラス、セラミックス、シリコンなどの無機材料、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート、酢酸セルロース、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリジメチルシロキサン、シリコンゴムなどのポリマーを挙げることができる。好ましくは、成形が容易な合成ポリマー、例えばPMMAである。
基板の成形としては、ポリマーの場合、射出成形法、ホットエンボス法などの方法、ガラスやセラミックの場合、サンドブラスト法などの方法、シリコンの場合、公知の半導体プロセスで使用される方法が挙げられる。
基板は、その全体又は一部を黒色にすることができる。黒色とは、可視光範囲(波長400〜800nm)において、基板の黒色部分の分光反射率が特定のスペクトルパターンを持たず、一様に低い値、好ましくは7%以下であり、かつ、黒色部分の分光透過率も特定のスペクトルパターンを持たず、一様に低い値、好ましくは2%以下であることを意味する。基板の少なくとも一部を黒色にすることによって、S/N比を向上させることができる。黒色にする手段として、基板材料又は絶縁材料に黒色物質、例えばカーボンブラック、グラファイト、チタンブラック、アニリンブラック、金属(Ru,Mn,Ni,Cr,Fe,Co,Cuなど)の酸化物、Si,Ti,Ta,Zr,Crの炭化物を混入させることにより達成される。
凸部のサイズは、例えば高さ約10〜約200μm、幅約50〜約150μmであるが、このような範囲に限定されない。凸部と凸部の間隔は、例えば約50〜約600μmであるが、好ましくは複数の微粒子が入ることが可能なサイズである。また、特開2004−264289(特許文献1)に示す理由から、凸部の高さについては、その周りの平坦部と同じ高さであることが好ましい。凸部と平坦部の関係については、図2および図3に示す。
凸部の上面には、図3に示すように、選択結合性物質を固定化することができる。この場合、凸部の上面とカバーとの間には、選択結合物質と被検物質とが結合しうるための空間を設ける必要がある。そのような空間のサイズは、例えば高さ方向で、1〜500μmである。これより小さい範囲であると、固定された選択結合性物質に被検物質が接触する機会が極端に少なくなり、ハイブリダイゼーション後のシグナルが著しく小さくなるため、一方空間サイズが500μmを超えると、多くの液量が必要となり、微量な検体を用いる場合、検体溶液の濃度が薄くなってハイブリダイゼーションの反応性が低下し、検出時のシグナルが弱くなるため、それぞれ好ましくない。
基板の凸部の上面に選択結合性物質を固定化するために、凸部の上面は、選択結合性物質と結合可能な官能基(例えばアミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルデヒド基、エポキシ基など)を含むことができる。このような官能基を導入するために、例えば該表面にプラズマ処理や放射線処理(例えばγ線、電子線など)を施し、この後さらにグラフト重合処理することによって極性基を導入したり、ポリカチオン(例えばポリ−L−リシン、シランカップリング剤など)をコートしたりすることができる。
ここで用いられるシランカップリング剤としては、例えば3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルジエトキシメチルシラン、3−(2−アミノエチルアミノプロピル)トリメトキシシランなどが挙げられる。
本発明で使用可能な好ましい基板及びその製法は、例えば本出願人による特開2004−264289(特許文献1)、バイオテクノロジージャーナル:2005年7−8月号、418−420頁(非特許文献1)、などに記載されたものである。
前記カバーの形状は、前記選択結合性物質固定化基板の表面の少なくとも一面の一部を覆い、基板と、カバー部材との間に空隙を有するよう接着されることができる。そして、基板は、好ましくはその表面であって前記空隙内に位置する領域上に固定化された選択結合性物質を有する。即ち、好ましくは、前記選択結合性物質が固定化された領域が、当該空隙内に存在するように、前記カバー部材は前記基板に接着される。前記カバー部材は、前記空隙が形成される限りにおいて、どのような態様で接着されてもよいが、好ましくは、両面テープ、樹脂組成物等の接着部材を介して接着される。
カバーは、空隙に連通する1つ以上の貫通孔を有するものとすることができ、複数の貫通孔を有することが好ましい。この孔は、微粒子、被検試料、反応用バッファなどの液体を注入するためのものであり、また同時に、チップ内部の圧力を大気圧に保持するためのものでもある。貫通孔は、一つの空隙に対して複数あることが好ましく、中でも3〜6個とすることにより、検体溶液の充填が容易となるので特に好ましい。なお、後述するように、空隙が互いに連通しない複数の空間に分かれている場合は、各空間あたりに複数個、より好ましくは3〜6個の貫通孔を有することが好ましい。カバーが複数の貫通孔を有する場合、それらの孔径は、同一でも異なっていてもよいが、複数の貫通孔のうちの一つを注入口とし、他の貫通孔を空気の抜け口として機能させる場合、検体溶液のアプライの容易さ及び検体溶液の密閉保持性の点から、注入口を検体溶液の注入に必要となる広い孔径とし、その他の貫通孔をより狭い孔径とすることが好ましい。具体的には、注入口の貫通孔サイズは直径0.01〜2.0mmの範囲とし、その他の貫通孔の直径を0.01〜1.0mmの範囲とすることが好ましい。
貫通孔は、その少なくとも1つが、その径を変化させて、上端に径の広い部分、いわゆる液面駐止用チャンバーを備えるものとしても良い。(ここで駐止とは、必要部位にとどめることを意味する。)液面駐止用チャンバーを備えることにより、貫通孔からアプライされ空隙に充填された検体溶液の液面の上昇を抑え、貫通孔を封止部材で封止する際に容易かつ確実に行うことが可能となるとともに、検体溶液の中に多数の気泡が入ったり、検体溶液の流出を防ぐことができるので好ましい。液面駐止用チャンバーの形状は特に限定されるものではなく、円柱形、角柱形、円錐形、角錐形、半球形、又はこれに近似した形状とすることができる。これらのうち、製造の容易さ及び検体溶液の上昇を抑制する効果の高さ等の観点から、円柱形が特に好ましい。
貫通孔の孔径サイズについては特に限定されるわけではないが、図4に示す縦断面形状の円筒形の貫通孔及び液面駐止用チャンバーとの組み合わせの場合を例に挙げると、貫通孔の孔径サイズ(直径)は、0.01〜2.0mmが好ましく、0.3〜1.0mmがより好ましい。孔径を0.01mm以上とすることにより、検体溶液のアプライを容易に行うことができる。一方、貫通孔の直径を1.5mm以下とすることにより、アプライ後封止前の検体溶液の蒸発などをより効果的に抑制することができる。液面駐止用チャンバーの孔径サイズ(直径)については、1.0mm以上が好ましい。1.0mm以上とすることにより、貫通孔とのサイズの差を十分に得ることができ、その結果、十分な液面駐止効果が得られるため好ましい。液面駐止用チャンバーの直径の上限は、特に限定されないが、10mm以下とすることができる。また、液面駐止用チャンバーの深さは、特に限定されないが、0.1〜5mmの範囲内とすることができる。
このようなカバーは、脱着可能な強度、態様で前述の選択結合性物質固定化基板に接着されていることが好ましい。本発明の分析用チップをDNAチップとして用いる場合、通常、DNAチップを専用スキャナーで読み取る必要があるが、カバーが接着された状態では、専用スキャナーにセットすることが難しく、セットできたとしてもスキャン操作を実施するとカバーとスキャナーの光学系部品が接触し、故障の原因となることがある。また、カバーを介しての読み取りが可能であっても、読み取り値が不正確となりうる。そのため、読み取りの工程においてカバーを取り外せるように、カバーが脱離可能であることが好ましい。
本発明の分析チップは、基板とカバーに囲まれた空隙に微粒子を含む(図3)。微粒子が存在することによって、注入された検体溶液を効率よく攪拌することが可能となり、その結果、ハイブリダイゼーションの反応促進効果がもたらされる。
微粒子の材質は特に限定されないが、例えばガラス、セラミック、ステンレス等の金属類、ナイロン、ポリスチレン等のポリマーなどが挙げられる。中でも、物理的、化学的に安定であり、かつ比重が大きいことから、セラミックの微粒子が好ましく用いられる。セラミックには、アルミナ、ジルコニア、窒化アルミ、窒化珪素、炭化珪素、サイアロン、チタニア系、フェライト等のファインセラミックが含まれる。これらのなかでさらに好ましく用いられるのは、イットリア部分安定化ジルコニアである。
本発明の分析チップに用いる微粒子としては、既知または市販のものをそのまま使用することができる。イットリア部分安定化ジルコニアからなる微粒子は、次のようにして製造することができる。出発原料となる粉末は、例えば、加水分解法、中和共沈法、熱分解法、水熱合成法、アルコキシド法などの化学合成法や酸化物混合法など、公知の粉末合成方法により製造された粉末を使用することができる。かかる粉末を微粒子に成形する手段としては、例えば、公知の転動造粒成形法、プレス成形法、噴霧造粒成形法、撹拌造粒成形法、CIP成形法、鋳込み成形法、押し出し成形法等を採用することができる。前記成形法で所望の大きさに成形した後、得られた成形体を酸化性雰囲気中または大気中で焼結する。焼結温度は1350〜1500℃で、焼結時間は2時間〜3時間が好ましい。さらに、前記焼結後にHIP(Hot Isostatic Pressing)処理してもよい。必要により粒径を調整する場合は、振動篩い機等により所定の粒度に分級すればよい。焼結後において、微粒子の表面粗さRaを調整する場合、例えば研磨や熱処理あるいは薬液処理等により本発明の範囲に調整すれば良く、焼結後の表面粗さが本発明の範囲であれば、そのまま使用することも可能である。
微粒子をハイブリダイゼーションの際に移動させることにより、液が効率よく撹拌される。微粒子を移動させる手段としては、好ましくはチップを回転させて重力方向に微粒子を落下させる方法や、振とう機に微粒子を含んだチップをセットし基板を振とうさせる方法、磁性微粒子を用いて磁力により微粒子を移動させる方法が用いられるが、チップを振とう機にセットし、水平面内で旋回回転させる方法が、微粒子の移動範囲が大きく、偏り無く移動するため、その結果効率よく液を攪拌できるため好ましい。このとき、旋回回転の回転数は、好ましくは10〜1000回転/分、より好ましくは100〜500回転/分である。
本発明の分析チップに用いる微粒子は、その表面の中心線平均粗さ(Ra値)が40nm以上300nm以下である。この範囲の表面粗さを有する微粒子を封入することで、静電気が発生しにくくなり、効率よく微粒子の封入作業を行うことが可能となる。セラミックス製微粒子の場合、材質の強度を考慮すると、Ra値が40nm以上200nm以下であることが好ましい。表面の中心線平均粗さ(Ra値)が40nm未満の微粒子を用いると、静電気が発生してしまい封入効率が非常に低下する。また、微粒子の表面の中心線平均粗さ(Ra値)が300nmより大きい場合、ハイブリダイゼーション後に検体溶液に濁りが見られ、検出結果にムラが生じてしまう。
微粒子の表面粗さを表す中心線平均粗さ、すなわちRa値は、JIS B0601:2001で規定された粗さ曲線の算術平均粗さである。Ra値は、JIS規格においては、以下のように触針法により測定される。測定には、JIS B0651 2001に従って作られた触針電気式表面粗さ測定機が使用される。本装置は、測定する対象面と触針先端との接触に関係する機械的各要素(位置決め装置、対象物の固定具、測定スタンド、送り装置、プローブ)から成る。測定は対象表面をプローブ先端の触針で曲線的になぞり、触針が対称面の粗さに従って曲線に対して上下方向に動くことを電気信号に変換し、「粗さ曲線」を描くことから始まる。このとき、測定距離(曲線の長さ)はJIS B0651 2001によって規定されており、それを基準長さl(エル)と呼称する。粗さ曲線の算術平均粗さRa値は、基準長さl内の任意の位置xにおける粗さ曲線の高さZ(x)の絶対値の平均である。
また、微粒子の表面の中心線平均粗さ(Ra値)は、本発明の微粒子を測定対象とする場合は、走査型電子顕微鏡を使用し、微粒子の表面プロファイル像を観察し、その像からRa値を算出することによっても測定することができる。この方法は、より高精度なRa値を得ることができるので、好ましく用いられる。
微粒子の大きさ(直径)は50μm〜500μmであり、50μm〜300μmが好ましい。これより小さい範囲だと、撹拌の効果が十分得られない場合があるため、逆にこれより大きい範囲だと、微粒子を封入するためにカバーと基板との間の空隙を大きくする必要があり、結果的に必要な液量が多くなるため、それぞれ好ましくない。また、基板とカバーに囲まれた空間に検体等の溶液を入れて、封入された微粒子を移動させることで攪拌することを考えると、溶液や微粒子がカバーの貫通孔からこぼれてしまわないように、貫通孔を塞ぐことが好ましい。
カバーを選択結合性物質が固定化された基板に脱着可能な状態で接着する態様は、特に限定されないが、前述したように、カバーと基板が損傷されることなく脱離することが可能である態様が好ましく、例えば、両面テープ、樹脂組成物等の接着層を介して接着することができる。
接着層として両面テープを用いる場合、両面で接着力の異なる両面テープを用いることが好ましく、具体的には、両面テープの接着力の弱い面を基板側に接着し、接着力の強い面をカバー側に接着することが好ましい。このような態様とすることにより、カバーを剥離する際に、両面テープがカバーに接着した状態で同時に基板より脱離し易く、それにより、基板上への接着層の残存による読み取りの工程における不都合を回避することができる。このような両面テープとしては、日東電工株式会社製の製品番号No.535A、住友スリーエム株式会社製の製品番号9415PC及び4591HL、並びに株式会社寺岡製作所製の製品番号No.7691等が挙げられる。
接着層として樹脂組成物を用いる場合、当該樹脂組成物としては、アクリル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、及びこれらの混合物からなる群より選択されるポリマーを含む樹脂組成物等を用いることができる。これらの樹脂組成物を利用することにより、両面テープに比べて密閉性を高めることが可能となるとともに、両面テープに比べて、長期間のインキュベーションに対しても安定であるため、そのような長期間のインキュベーションが必要な分析系においては特に好ましい。特に、接着層としてシリコーン系のエラストマーを用いると、密閉性が良好であり、しかも、容易に脱離が可能な状態でカバーを接着することができる。このようなエラストマーとしては、具体的には、ダウコーニング社のシルガード(登録商標)や、信越化学工業社製の型取り用二液型RTVゴムを挙げることができる。
選択結合性物質とは、被検物質と直接的又は間接的に、選択的に結合しうる物質をいう。その例として、核酸、タンパク質、糖類、又は他の抗原性化合物が挙げられる。核酸は、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、ペプチド核酸(PNA)、相補的DNA(cDNA)、相補的RNA(cRNA)などを含む。タンパク質は、抗体およびその断片、抗原、酵素基質を含む。糖類は、オリゴ糖、多糖類を含む。他の抗原性化合物は、ペプチド、小分子を含む。好ましい選択性化合物は、核酸及びタンパク質(特に抗体、抗原など)である。この点で、本発明の好ましい分析チップの例は、DNAチップ(DNAマイクロアレイともいう)又はプロテインチップである。また、このような選択結合性物質は、市販のものでもよいし、あるいは、合成するか、生体組織又は細胞などの天然源から調製したものでもよい。
特性及び一次構造(塩基配列)が明らかな遺伝子などのDNAについては、その配列に基づいてプローブ又はプライマーを作製し、例えば生物組織から調製したcDNAライブラリーから目的のDNAを選抜することができる。あるいは、生物組織から全RNAを抽出し、オリゴdTカラムを使用してpolyA RNA(すなわち、mRNA)を精製し、cDNAクローニングによってcDNA、さらにはcRNAを作製することができる。得られた核酸の検出は、サザン又はノザンブロット法、サザン又はノザンハイブリダイゼーション法などの公知の方法、制限酵素による切断及びマップ化、配列決定などの方法で行うことができる。また、得られた核酸の増幅は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、遺伝子組換え技術(例えばベクターの使用)などによって行うことができる。あるいは、100マー以下のDNAを、DNA合成装置を用いて合成することも可能である。上記の一連の技術は、例えばAusbelら, Current Protocols in Molecular Biology, John Willey & Sons, US (1993); Sambrookら, Molecular Cloning A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, US (1989)などを参照することができる。
タンパク質は、天然から文献記載の方法に従って精製するか、あるいは、遺伝子組換え技術(ベクター/宿主系)によって合成することができる。タンパク質を抗原として、ウサギ、マウス、ヤギなどの非ヒト哺乳動物を免疫することによって、該タンパク質に対する抗体を作製することができる。また、マウスなどのネズミにおいては、目的の抗原による免疫刺激を受けた脾臓細胞と骨髄腫細胞との融合を含む方法によりモノクローナル抗体を作製することができる。抗体には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、抗ペプチド抗体などが含まれる。これらの抗体の作製は周知の方法を利用して行うことができる。
モノクローナル抗体については、例えばMonoclonal Antibodies, Hybridomas: A New Dimension in Biological Analyses, Plenum Press, US (1980);岩崎辰夫ら, 単クローン抗体 ハイブリドーマとELISA, 講談社サイエンティフィク(1987)など、また、ポリクローナル抗体については、例えば松橋直ら, 免疫学実験入門(生物化学実験法15), 学会出版センター(1982)を参照することができる。
抗ペプチド抗体については、例えばタカラバイオ(株)などが合成委託をしているのでそれを利用して入手することも可能である。簡単に説明すると、タンパク質の一次配列について可動予測、親水・疎水性予測、二次構造予測、極性予測などを行い、タンパク質表面に位置する部位を予測するとともに、免疫動物が本来もたない配列であることをホモロジー検索(DNASISソフト)によって予測し、ペプチド配列を決定する;次いで、その配列に基づいて、ペプチド合成によりペプチドを合成し;ウサギなどの動物に免疫し;血液から抗ペプチド抗体を分離し、親和性カラムなどを用いて精製する。
糖類は、化学的に合成するか、あるいは、糖タンパク質からグリコシダーゼにより切り出すことによって得ることができる。
選択結合性物質を基板に固定化するには、例えばキャピラリー状のペンでスポッティングする方式、インクジェット方式などの公知の手法を利用することができる。スポッティング方式は、スポッターまたはアレイヤーと呼ばれる高密度分注機を用いて選択結合性物質をスポットする方法である。具体的には、例えば多数のウエルをもつプレートの各ウエルに異なる溶液を入れておき、この溶液をピン(針)で取り上げて基板上に順番にスポットする。インクジェット方式は、ノズルから微少な液滴を圧電素子などにより噴射し、選択結合性物質を基板に吹き付ける方法である。具体的には、ノズルより遺伝子を噴射し、基板上に高速度で選択結合性物質を整列配置する。あるいは、選択結合性物質が核酸の場合、フォトリソグラフ法により基板上で順次ヌクレオチド合成を行うことができる。
本発明はさらに、上で説明した本発明の分析チップの、それに固定化された選択結合性物質と直接的又は間接的に結合しうる被検試料中の物質の存在又は量の測定への使用方法を提供する。ここでいう選択結合性物質とは、上記の核酸、タンパク質、糖類又は他の抗原性化合物である。
ここでいう被検試料とは、生物学的試料である。生物学的試料は、例えば植物や動物由来の生物学的試料、ヒトを含む哺乳動物由来の組織、細胞、体液などの生物学的試料などを含む。具体的には、例えばヒト疾患関連遺伝子、その発現産物(タンパク質)などである。さらに、生物学的試料には、細菌などの原核生物、酵母、担子菌、藻類、昆虫などの上記以外の真核生物由来の生物学的試料、ウイルス由来の試料などが含まれる。
測定は、基板上に固定化された選択結合性物質と、被検試料中の物質との結合を検出することを含む。選択結合性物質が核酸の場合、測定はDNA/DNAハイブリダイゼーション、DNA/RNAハイブリダイゼーション又はRNA/RNAハイブリダイゼーションに基づく。また、選択結合性物質がタンパク質の場合、測定は抗原-抗体反応、すなわち免疫学的反応に基づく。反応温度、時間、バッファなどの条件は、ハイブリダイズさせる核酸の種類や鎖長、免疫反応に関与する抗原及び/又は抗体の種類などに応じて適宜選択される。
ハイブリダイゼーションは、一般にはストリンジェントな条件下で行われる。そのような条件は特に限定されないが、例えば30〜50℃で、3〜4×SSC、0.1〜0.5%SDS中で1〜24時間のハイブリダイゼーション、その後の2×SSC及び0.1%SDSを含む溶液による洗浄を含むことができる。ここで、1×SSCは、150mM塩化ナトリウム及び15mMクエン酸ナトリウムを含む溶液(pH7.2)である。
DNAチップでは、生物の細胞又は組織から抽出されたmRNAからcDNAを合成し、cDNAをCy染料で標識したのち、これを試料として基板上のDNAとハイブリダイゼーションを行うことができる。
免疫学的反応は、例えば基板上に固定化された抗体と、被検試料中の抗原との反応である。検出は、抗体と抗原との免疫複合体を、例えば分光学的方法を用いて測定することによって行われる。測定としては、例えば酵素免疫測定法(EIA、ELISA)、放射性免疫測定法、蛍光抗体法などの酵素、放射性同位元素又は発蛍光剤を標識とする方法が望ましいだろう。例えば、基板上の抗体と試料中の抗原とを結合させたのち、形成された免疫複合体の抗原と結合可能な標識抗体(すなわち二次抗体)を作用させることによって、標識の強度に基づいて、目的抗原の量又は存在を測定することができる。基板には、抗体ではなく抗原を予め固定化することも可能である。
上記のハイブリダイゼーションや免疫反応を行った後、DNAチップ上をスキャナーを用いてスキャンし、標識が発する蛍光などのシグナルの強度又は存在を測定する。必要に応じて、測定したデータをコンピュータで解析する。
本発明の分析チップは、カバー表面又はその近傍での気泡の発生が実質的にないため、凹凸構造をもつ基板を特徴とする分析チップが本来的にもつ良好なS/N比、高検出感度などの特性を維持し、測定値のばらつきを改善し、正確で信頼性の高い測定を可能にする。
本発明を以下の実施例によってさらに詳細に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
実施例1
(DNA固定化基板の作製)
公知の方法であるLIGA(Lithographie Galvanoformung Abformung)プロセスを用いて、射出成形用の型を作製し、射出成型法により後述するような形状を有するPMMA製の基板を得た。なお、この実施例で用いたPMMAの平均分子量は5万であり、PMMA中には1重量%の割合で、カーボンブラック(三菱化学製 #3050B)を含有させており、基板は黒色である。この黒色基板の分光反射率と分光透過率を測定したところ、分光反射率は、可視光領域(波長が400nmから800nm)のいずれの波長でも5%以下であり、また、同範囲の波長で、透過率は0.5%以下であった。分光反射率、分光透過率とも、可視光領域において特定のスペクトルパターン(ピークなど)はなく、スペクトルは一様にフラットであった。なお、分光反射率は、JIS Z 8722の条件Cに適合した照明・受光光学系を搭載した装置(ミノルタカメラ製、CM−2002)を用いて、基板からの正反射光を取り込んだ場合の分光反射率を測定した。
基板の形状は、大きさが縦76mm、横26mm、厚み1mmであり、基板の中央部分を除き表面は平坦であった。基板の中央に、縦・横22mm、深さ0.15mmの凹んだ部分が設けてあり、この凹みの中に、直径0.15mm、高さ0.15mmの凸部を1296(36×36)箇所設けた。凹凸部分の凸部上面の高さ(1296箇所の凸部の高さの平均値)と平坦部分との高さの差を測定したところ、3μm以下であった。また、1296個の凸部上面の高さのばらつき(最も高い凸部上面の高さと最も低い凸部上面との高さの差)、さらには、凸部上面の高さの平均値と平坦部上面の高さの差を測定したところそれぞれ3μm以下であった。さらに、凹凸部凸部のピッチ(凸部中央部から隣接した凸部中央部までの距離)は0.5mmであった。
上記のPMMA基板を10Nの水酸化ナトリウム水溶液に70℃で12時間浸漬した。これを、純水、0.1NのHCl水溶液、純水の順で洗浄し、基板表面にカルボキシル基を生成した。
(プローブDNAの固定化)
配列番号1で表される塩基配列を有するDNA(60塩基、5’末端アミノ化)を合成した。なお、このDNAは5’末端がアミノ化されている。
このDNAを、純水に0.3nmol/μLの濃度となるよう溶解させて、ストックソリューションとした。基板に点着する際は、PBS(NaClを8g、Na2HPO4・12H2Oを2.9g、KClを0.2g、KH2PO4を0.2g純水に溶かし1LにメスアップしたものにpH調整用の塩酸を加えたもの、pH5.5)で10倍希釈して、プローブDNAの終濃度を0.03nmol/μLとし、かつ、基板表面のカルボン酸とプローブDNAの末端のアミノ基とを縮合させるため、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)を加え、この終濃度を50mg/mLとした。そして、これらの混合溶液をアレイヤー(日本レーザー電子製;Gene Stamp―II)で基板凸部上面の全てにスポットした。次いで、基板を密閉したプラスチック容器に入れて、37℃、湿度100%の条件で20時間程度インキュベートした。最後に純水で洗浄し、スピンドライヤーで遠心して乾燥した。この反応スキームを図5に示す。
(カバーの接着)
射出成形法により図6に示す貫通孔を4つ有するカバー(外周部にオーバーハング構造有り)を作製した。
カバーを洗浄剤(クリーンエース(アズワンカタログ、品番:4−078−01)25倍希釈溶液)に浸漬して5分間超音波洗浄した後、逆浸透水(RO水)で十分にすすぎ、エアブローにより乾燥させた後、上記で得られたプローブDNAを固定した基板に、洗浄済カバーをPDMSポリマー(東レダウコーニングシリコーン)により接着した。接着条件は、42℃2時間である。
(微粒子の調製と封入)
表面の中心線平均粗さ(Ra値)が20(nm)、平均粒径が197μmの市販ジルコニア製微粒子(東レ株式会社製)を、炭化珪素質研磨材(粒度#20)を用い遠心式バレル研磨機で1時間、水中にて研磨を行い、水洗して乾燥した。この研磨後の微粒子の表面粗さは、Ra=165nmであった。かかる微粒子の表面の中心線平均粗さの測定は、その表面をAuで真空蒸着した後、走査型電子顕微鏡(株式会社エリオニクス製、型式ESA−2000)で表面の中心線平均粗さ(Ra値)(nm)を測定した。前記中心線平均粗さは、観察倍率を10,000倍、カットオフ値を0とし、任意の10個について測定し、その平均値を求めた。かかる微粒子の粒径は、実体顕微鏡で任意の100個以上の微粒子の画像を50〜150倍で撮影した後、画像処理解析ソフト(三谷商事社株式会社製、Win Roof)により円相当径を求めて平均値を算出し、それを平均粒径とした。その後エタノール溶液に浸漬し、超音波洗浄を5分間行った。さらに同様の洗浄を2回繰り返した。この微粒子をカバーの貫通孔から、基板とカバーの空隙内に120mg封入した。
(検体DNAの調製)
検体DNAとして、上記DNA固定化基板に固定化されたプローブDNAとハイブリダイズ可能な配列番号4で表される塩基配列を持つDNA(968塩基、以下、配列番号4のDNAともいう)を用いた。調製方法を以下に示す。
配列番号2で表される塩基配列を有するDNA(以下、配列番号2のDNAともいう)と配列番号3で表される塩基配列を有するDNA(以下、配列番号3のDNAともいう)を合成した。これを純水に溶解して濃度を100μMとした。次いで、pKF3 プラスミドDNA(タカラバイオ(株))(配列番号5で表される塩基配列を有するDNA:2264塩基)を用意して、これをテンプレートとし、配列番号2および配列番号3のDNAをプライマーとして、PCR反応(Polymerase Chain Reaction)により増幅を行った。
PCRの条件は以下の通りである。すなわち、ExTaq 2μl、10×ExBuffer 40μl、dNTP Mix 32μl(タカラバイオ(株)製)、配列番号2のDNAの溶液を2μl、配列番号3のDNAの溶液を2μl、テンプレート(配列番号5で表される塩基配列を有するDNA)を0.2μl加え、純水によりトータル400μlにメスアップした。これらの混合液を、4つのマイクロチューブに分け、サーマルサイクラーを用いてPCR反応を行った。これを、エタノール沈殿により精製し、40μlの純水に溶解した。PCR反応後の溶液の一部をとり電気泳動で確認したところ、増幅したDNAの塩基長は、およそ960塩基であり配列番号4のDNA(968塩基)が増幅されていることを確認した。
次いで、9塩基のランダムプライマー(タカラバイオ(株)製)を6mg/mlの濃度に溶かし、上記のPCR反応後精製したDNA溶液に2μl加えた。この溶液を100℃に加熱した後、氷上で急冷した。これらにKlenow Fragment(タカラバイオ(株)製)付属のバッファーを5μl、dNTP混合物(dATP、dTTP、dGTPの濃度はそれぞれ2.5mM、dCTPの濃度は400μM)を2.5μl加えた。さらに、Cy3−dCTP(GEヘルスケアバイオサイエンス製)を2μl加えた。この溶液に10UのKlenow Fragmentを加え、37℃で20時間インキュベートし、Cy3で標識された検体DNAを得た。なお、標識の際ランダムプライマーを用いたので、検体DNAの長さにはばらつきがある。最も長い検体DNAは配列番号4のDNA(968塩基)となる。なお、検体DNAの溶液を取り出して、電気泳動で確認したところ、960塩基に相当する付近にもっとも強いバンドが現れ、それより短い塩基長に対応する領域に薄くスメアがかかった状態であった。そして、これをエタノール沈殿により精製し、乾燥した。
この標識化された検体DNAを、1重量%BSA(ウシ血清アルブミン)、5×SSC(5×SSCとは、20×SSC(シグマ製)を純水にて4倍に希釈した液を指す。同様に、20×SSCを純水で2倍に希釈した液を10×SSC、100倍に希釈した液を0.2×SSCと表記する)、0.1重量%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)、0.01重量%サケ精子DNAの溶液(各濃度はいずれも終濃度)、400μlに溶解し、ハイブリダイゼーション用のストック溶液とした。
以下の実施例、比較例において、ハイブリダイゼーション用の検体DNA溶液は、特に断りのない限り、上記で調製したストック溶液を、1重量%BSA、5×SSC、0.01重量%サケ精子DNA、0.1重量%SDSの溶液(各濃度はいずれも終濃度)で200倍に希釈したものを用いた。なお、この溶液の検体DNA濃度を測定したところ、1.5ng/μLであった。
(ハイブリダイゼーション)
マイクロピペットを用いて、基板とカバーの空隙(反応槽)にハイブリダイゼーション検体溶液165μLを貫通孔より注入した。このとき、容易に溶液を注入でき、気泡が混入することはなかった。封止材としてシリコンテープ(アズワン)を用い、4つの貫通孔を塞いだ。ハイブリダイゼーションチャンバー(Takara Hybridization chamber(タカラバイオ(株))をシート振盪台(東京理化器械(株)製 MMS FIT−S)に密着させて固定し、基板をハイブリダイゼーションチャンバー内にセットした。このとき、基板をセットする位置の両端の凹みに、15μLずつ超純水を滴下した。ハイブリダイゼーションチャンバーのふたを閉めて6本の固定ネジを締めて固定後、42℃に設定した恒温チャンバー(東京理化器械(株)製 FMS−1000)内に据え付けた振盪機(東京理化器械(株)製 MMS−310)の上に載せて固定した。恒温チャンバーの前面をアルミホイルで遮光して、250回転/分で旋回振盪しながら、42℃で16時間インキュベートした。インキュベート後、ハイブリダイゼーションチャンバーから基板を取り出し、基板に接着したカバーとPDMSポリマーを脱離した後、洗浄、乾燥した。
(測定)
DNAチップ用のスキャナー(Axon Instruments社製 GenePix 4000B)に上記処理後の基板をセットし、レーザー出力33%、フォトマルチプライヤーの電圧設定を500にした状態で測定を行った。ここで、蛍光強度とはスポット内の蛍光強度の平均値であり、バックグラウンドノイズとは、プローブDNAを固定化していない凸部の蛍光強度である。結果を表1に示す。十分な蛍光強度が得られ、バックグラウンドノイズも低く抑えられた。また、同様の実験を基板10枚を用いて行ったが、全てのチップにおいて、容易に微粒子を封入することができ、溶液アプライ時も気泡の混入等なく、簡便に行うことができた。
ここで、表1において、操作性(微粒子封入時)の「○」は、空隙内に容易に120mgの微粒子を封入可能であったことを示し、「×」はそれが困難であったことを示す。また、操作性(溶液アプライ時)の「○」は、容易に空隙内に気泡を残さずに中に注入可能であったことを示し、「×」は、それが困難であったことを示す。
実施例2
アルミナ質研磨材(粒度#220)で2時間研磨したジルコニア製微粒子を封入した以外は実施例1と同様の実験を行った。この微粒子の表面の中心線平均粗さは、Ra=43nmであった。結果を表1に示す。十分な蛍光強度が得られ、バックグラウンドノイズも低く抑えられた。また、同様の実験を基板10枚を用いて行ったが、全てのチップにおいて、容易に微粒子を封入することができ、溶液アプライ時も気泡の混入等なく、簡便に行うことができた。
実施例3
実施例1に記載の市販ジルコニア製微粒子を、20℃の55%フッ化水素酸(ステラケミファ株式会社製)に2時間浸漬後、水洗して乾燥した以外は実施例1と同様の実験を行った。この微粒子の表面の中心線平均粗さは、Ra=110nmであった。結果を表1に示す。十分な蛍光強度が得られ、バックグラウンドノイズも低く抑えられた。また、同様の実験を基板10枚を用いて行ったが、全てのチップにおいて、容易に微粒子を封入することができ、溶液アプライ時も気泡の混入等なく、簡便に行うことができた。
比較例1
研磨を行わずに表面の中心線平均粗さRa=20nmのジルコニア製微粒子をそのまま封入した以外は実施例1と同様の実験を行った。結果を表1に示す。基板10枚を用いて行ったが、全ての基板で微粒子を封入する際に静電気が発生してしまい、30mg程度しか封入することができなかった。また、溶液アプライにおいても静電気により動かなくなった微粒子の間に抜けきらない気泡が残ってしまいハイブリダイゼーションの反応ムラが生じてしまった。封入された微粒子が少なかったため、溶液の攪拌効果も不十分であり、蛍光強度は実施例1、2と比較して低かった。
比較例2
アルミナ質研磨材(粒度#220)で1時間研磨したジルコニア製微粒子を封入した以外は実施例1と同様の実験を行った。この微粒子の表面の中心線平均粗さは、Ra=32nmであった。結果を表1に示す。基板10枚を用いて実験を行ったが、全ての基板で微粒子を封入する際に静電気が発生してしまい、40〜60mg程度しか封入することができなかった。また、溶液アプライにおいても静電気により動かなくなった微粒子の間に抜けきらない気泡が残ってしまいハイブリダイゼーションの反応ムラが生じてしまった。封入された微粒子が少なかったため、溶液の攪拌効果も不十分であり、蛍光強度は実施例1と比較して低かった。
実施例4
実施例3のフッ化水素酸処理したジルコニア製微粒子を、炭化珪素質研磨材(粒度#20)を用い遠心式バレル研磨機で30分、水中にて研磨を行い、水洗して乾燥した以外は実施例1と同様の実験を行った。この微粒子の表面の中心線平均粗さは、Ra=254nmであった。結果を表1に示す。基板10枚を用いて行ったが、微粒子の封入、溶液のアプライ操作は、実施例1と同様に容易に行うことができ、バックグラウンドノイズが実施例1より大きくなったものの、蛍光強度は実施例1と同等であった。
Figure 0005087898
本発明の分析チップは、基板とカバーの空隙に微粒子を封入する作業を容易に行うことができるため、ハイブリダイゼーション反応に必要となる量の微粒子を容易に封入することが可能である。また、本発明の分析チップは、微粒子を空隙内を移動させて分散させてから検体溶液を注入できるため、カバー表面又はその近傍での気泡の発生が実質的にない。したがって、凹凸構造をもつ基板を特徴とする分析チップが本来的にもつ良好なS/N比、高検出感度などの特性を維持し、測定値のばらつきを改善し、正確で信頼性の高い測定を可能にする。このため、生物学、医学、微生物学などの分野で多用されている分析チップの精度向上が可能となり、産業上、非常に有用である。
本発明の分析チップの一例を概略的に示す斜視図とA1に沿った面で切断した部分断面図である。 本発明の分析チップを構成する基板の概略図及び縦断面図である。 本発明の分析チップの一例を概略的に示す縦断面図である。 本発明の分析チップを構成するカバーにおける貫通孔及び液面駐止チャンバーの一例を示す部分断面図である。 本願実施例及び比較例における、プローブDNAの固定化を示す概略図である。 本発明の分析チップの一例を概略的に示す斜視図とA2に沿った面で切断した部分断面図である。
符号の説明
1 基板
2 カバー部材
3 接着層
4 液面駐止チャンバー
5 貫通孔
6 空隙
7 基板に固定化された選択結合性物質
8 微粒子(ビーズ)
9 封止材
10 検体溶液
11 プローブDNA

Claims (7)

  1. 基板と該基板と接着されたカバー部材からなり、該基板と該カバー部材との間に空隙を有する分析チップであって、該空隙に微粒子が封入されており、該微粒子の表面の中心線平均粗さ(Ra値)が40nm以上300nm以下であり、該微粒子の最大径が50μm以上500μm以下である分析チップ。
  2. 前記微粒子の材質がセラミックス、ポリマーまたはガラスである請求項1に記載の分析チップ。
  3. 前記微粒子の表面の中心線平均粗さ(Ra値)が40nm以上200nm以下である請求項1または2に記載の分析チップ。
  4. 前記カバー部材が貫通孔を有する請求項1〜3のいずれかに記載の分析チップ。
  5. 前記基板が複数の凹凸構造を含む請求項1〜4のいずれかに記載の分析チップ。
  6. 前記基板の凸部の上面に選択結合性物質が固定化された請求項1〜5のいずれかに記載の分析チップ。
  7. 前記カバー部材が前記基板に脱着可能に接着されている請求項1〜6のいずれかに記載の分析チップ。
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