以下、本発明の選択結合性物質の固定化担体の製造方法について説明する。
本発明の選択結合性物質が固定化される担体には凹凸部があり、凸部上面に選択性適合物質が固定化されるものである。このような構造を取ることにより、検出の際、後述のように非特異的に吸着した検体を検出することがないので、ノイズが小さく、結果的によりS/Nが良好な選択結合性物質物質が固定化された担体を提供することができる。
この基材の凸部上面に選択結合性物質の固定化用ピンを用いて固定化するとき、本発明では、固定化用ピンのピンヘッドの面積が凸部上面の面積よりも小さいことが必要である。その効果について、図1と図2を用いて説明する。図1は複数のピンを用いてDNAなどの選択結合性物質の溶液を基板の凸部上面にスポットする場合であり、ピンヘッドの面積と凸部上面の面積とが同一の場合を示している。12aのピンとその直下の凸部14aの上面との位置合わせを行った場合について示している。12aのピンヘッドと14aの基板の凸部上面との位置を合わせても、基板13やピンを固定するピンブロック11の誤差によりもう一つのピンヘッドの位置(12bで示す)と14bで示す凸部上面の位置がずれることが多い。このようにピンヘッドと凸部上面の位置がずれると、スポット形状が不良となり、製造時の歩留まりが非常に悪いといった問題点が生じる。凸部上面が円の場合その直径は概ね50〜400μmであるので、ピンヘッドの位置や基板の位置に数十ミクロンの誤差があると上記で述べた問題点が生じる。
このような問題点は、図2で示すように、ピンヘッドの面積を小さくすれば一挙に解決できる。ピンヘッドの面積を凸部上面の面積より小さくすることにより、多少の位置誤差は吸収可能である。なお、ピンヘッドの面積Spと凸部上面の面積Ssとの関係は、Sp/Ss≦0.7が好ましい。この数字は、仮に凸部上面の形状とピンヘッドの形状が円である場合、それぞれの直径のRpとRsの範囲は、概ねRp/Rs≦0.85となる。この範囲であれば、ピンブロックなどによる位置誤差をより吸収でき、歩留まりを向上できる。特に好ましくは、Sp/Ss≦0.5、すなわちRp/Rs≦0.7である。このようにすることにより、凸部の上面内にピンヘッドの大きさとほぼ同じ大きさのスポットを打つことが可能となり、スポット形状の不良による歩留まりの低下を著しく抑えることが可能となる。
また、ピンの形状としては、万年筆のようにピン自体に毛管を形成し、その中に選択結合性物資の溶液を保持するようにしたもの使用可能であるし、このような毛管を形成していないピンも使用可能である。毛管を形成していないピンの場合は、凸部上面に一定の液量を滴下できるということから、ピンヘッドに一文字や十文字の溝を形成したものを好ましく用いることができる。
そして、実際にスポットする時は、多数の基板をスポット用装置(スポッター)のステージ上に並べる。次いで、ピン先を選択結合性物質の溶液(以下プローブ溶液)に浸し、そのピンを目的の凸部まで移動させ、ピン先と凸部上面を軽く接触させることにより、選択結合性物質のスポッティングを行う。毛管を形成していないピンの場合は、一箇所スポットするたびに、「ピン先をプローブ溶液に浸す→凸部上面にスポット」の動作を繰り返し、全ての基板に同一種類のプローブ溶液をスポットした後は、ピンの洗浄を行い、次のプローブ溶液のスポットを行う。一方、毛管を形成したピンの場合は、ピンをプローブ溶液に浸し、そして、毛管の中に溶液を保持する。しかし、このままで基板と接触させると大過剰のプローブ溶液が流れ出てしまうので、ダミーの基板を数回軽く叩き、余剰なプローブ溶液を捨てる(タッピング)。次いで、ピン先を所望の凸部まで移動し、凸部上面とピン先を軽く接触させることにより、プローブ溶液のスポットを行う。そして、連続して次の基板の凸部にスポットを行う。全ての基板に同一種類のプローブ溶液をスポットした後は、ピンの洗浄を行い残ったプローブ溶液を捨て、「毛管中に次のプローブ溶液の保持→タッピング→スポットDNAのスポット→洗浄」の動作を繰り返すことになる。
ピンヘッドと基板の凸部の位置合わせは、カメラ等の撮像手段を具備したスポッターを用いて、この撮像手段からの画像情報から位置情報を算出し、この位置情報を元に、ピンヘッドの位置を制御できるスポッターを使用しても良いし、マイクロカメラなどで、ピンヘッドと凸部上面の位置を撮影し、目視で確認しながら微調整を行っても良い。
プローブ溶液の組成としては、プローブとなる選択結合性物質をSSC(標準食塩-クエン酸緩衝液)などの緩衝液に溶かしたものを用いることができる。選択結合性物質の濃度としては、1〜100μMの範囲が好ましい。特に好ましくは10〜50μMの範囲である。プローブ溶液中には、基板表面の官能基と選択結合性物質の官能基の組合せにより、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチル−モルホリニウムクロリド(DMT−MM)等の縮合剤も好ましく含有させることができる。また、プローブ溶液にドデシル硫酸ナトリウム(SDS)などの界面活性剤を含有させると、凸部上面でのプローブ溶液の「延び」が良くなり、ムラのないスポットを得ることが可能であることから、特に好ましく用いることができる。
ステージ上への基板の設置法しては、図3に示すような方法を好ましく用いることができる。すなわち、基板の基準となる面を33のような突き当てに押しつける。突き当てへの押しつけは、例えば、34で示すようなバネで基板を押しつけることにより達成できる。このような形状の突き当てとバネのセットを多数ステージ上に並べ、これに基板をセットすることが好ましく用いられる。
次いで担体の形状について述べる。凹凸部の複数の凸部に選択結合性物質が固定化されるが、この高さに関しては、凸部の上面の高さが略同一であるであることが好ましい。ここで、高さが略同一とは、多少高さの違う凸部の表面に選択結合性物質を固定化し、これと蛍光標識した被検体とを反応させ、そして、スキャナーでスキャンした際、その信号レベルの強度差が問題とならない高さをいう。具体的に高さが略同一とは、高さの差が100μmより小さいことをいい、より好ましくは50μm以下である。
すなわち、一般にマイクロアレイは、蛍光標識化された検体と担体に固定化された選択結合性物質とを反応させ、スキャナーと呼ばれる装置で蛍光を読みとることが一般的である。スキャナーは励起光であるレーザー光を対物レンズで絞り込み、レーザー光を集光する。この集光された光をマイクロアレイの表面に照射して、レーザー光の焦点をマイクロアレイ表面に合わせる。そして、この条件のまま、対物レンズもしくは、マイクロアレイ自体を走査することによりマイクロアレイから発生する蛍光を読み込むような仕組みとなっている。
このような、スキャナーを用いて本発明の凸部上面に選択結合性物質を固定化した担体をスキャンすると、凹凸部の凹部に非特異的に吸着した検体DNAの蛍光(ノイズ)を検出しがたいという効果を発揮する。この理由は、凸部上面にレーザー光の焦点が合っているため、凹部ではレーザー光がデフォーカスされるからである。逆に言えば、選択結合性物質が固定化された複数の凸部の内、最も高い凸部上面の高さと、最も低い凸部上面の高さの差が50μm以下であることが好ましい。なぜなら、凸部上面の高さにこれ以上のばらつきがあると、スキャナーの焦点深度の関係で正確な蛍光強度を測定できないことが起こりうるし、スポッティングの際の高さの差が、思わぬばらつきの原因となりうるからである。
なお、選択結合性物質が固定化された複数の凸部の内、最も高い凸部上面の高さと、最も低い凸部上面の高さの差は、50μm以下であれば良いが、30μm以下であることがより好ましく、高さが同一であればなお好ましい。なお、本願でいう同一の高さとは、生産等で発生するばらつきによる誤差も含むものとする。
なお、選択結合性物質が固定化された複数の凸部とは、データとして必要な選択結合性物質(例えば核酸)が固定化された部分をいうのであって、ただ単にダミーの選択結合性物質を固定化した部分は除く。
また、一般にスキャナーの焦点を調整する方法は、以下の通りである。すなわち、スキャナーがマイクロアレイの表面に励起光の焦点を合わせる際には、マイクロアレイの隅で励起光の焦点を合わせるか、図6に示すように、治具にマイクロアレイを突き当て、レーザー光の焦点をマイクロアレイ表面に合わせる。そして、その条件のまま、マイクロアレイ全体をスキャンする。したがって、本発明の担体には、特に凹凸部と平坦部が設けられていることが好ましい。具体例を図4、図5に示す。41が平坦部であり、かつ、42で示される凹凸部の凸部上面に選択結合性物質(例えば核酸)が固定化されている。さらに、凹凸部の凸部の上面の高さと平坦部分の高さの差が50μm以下であることが好ましい。このようにしておけば、選択結合性物質が固定化された担体をスキャンする場合は、いったん平坦部の上面で励起光の焦点を合わせたり、平坦部を治具に突き当てることが可能である。すなわち、スキャナーの焦点合わせが容易になる。このようにして、平坦部で励起光の焦点を合わせるので、選択結合性物質が固定化された凸部の上面は、平坦であり、かつ、凸部上面の高さと平坦部の高さの差が50μm以下であることが好ましい。
凸部の上面の高さと平坦部の高さの差が50μmより大きいと、以下のような問題点が生じることがある。すなわち、励起光の焦点は平坦部の上面で調整されているので、凸部の上面の高さが異なると、凸部上面での励起光の焦点がぼやけてしまい、最悪の場合、選択結合性物質と検体が反応したことによる蛍光が全く検出されないことが起こりうる。同様なことは、凸部上面と高さが同じ平坦部が設けられていない場合でも起こりうる。
なお、凸部の上面の高さと平坦部分の高さの差は、50μm以下であればよいが、30μm以下であることがより好ましく、凸部の上面の高さと平坦部分の高さが同一であればなお好ましい。なお、本願でいう同一の高さとは、生産等で発生するばらつきによる誤差も含むものとする。
また本発明では、平面状の担体に選択結合性物質を点着するのではなく、凹凸部分の凸部上面にのみ選択結合性物質を固定化している。したがって、凸部上面以外の部分に非特異的に検体試料が吸着しても、凸部上面以外の部分では、励起光の焦点がぼやけてるため、望まざる非特異的な吸着をした検体試料からの蛍光を検出することがない。このため、ノイズが小さくなり、結果的にS/Nが良くなるという効果を発揮する。
また、凸部の上面の面積は略同一であることが好ましい。このようにすることにより、多種の選択結合性物質が固定化される部分の面積を同一にできるので、後の解析に有利である。ここで、凸部の上部の面積が略同一とは、凸部の中で最も大きい上面面積を、最も小さい上面面積で割った値が1.2以下であることを言う。
凸部の上面の面積は、特に限定される物ではないが、選択結合性物質の量を少なくすることができる点とハンドリングの容易さの点から、4mm2以下、10μm2以上が好ましい。
凹凸部における凸部の高さとしては、0.01mm以上、1mm以下が好ましい。凸部の高さがこれより低いと、スポット以外の部分の非特異的に吸着した検体試料を検出してしまうことがあり、結果的にS/Nが悪くなることがある。また、凸部の高さが1mm以上であると、凸部が折れて破損しやすいなどの問題が生じる場合がある。
本発明の選択結合性物質の固定化担体は、選択結合性物質を固定化するため、担体表面が低自家蛍光樹脂からなることが好ましい。ここで、低自家蛍光樹脂とは、Axon Instruments社のGenePix 4000Bを用いて、厚み1mmの清浄な平板を、励起波長532nm、フォトマルチプライヤーの設定ゲインを700、レーザーパワーを33%の条件で測定したとき、蛍光強度が1000以下であるものを言う。これを満たさない樹脂は、検出の際のS/Nが悪化するので、好ましくない。このような低自家蛍光樹脂としては、例えば下記一般式(1)で表されるポリマーを挙げることができる。
(一般式(1)のR1、R2、R3は、アルキル基、アリール基もしくは水素原子を表す。)
前記ポリマーとしては、単独重合体あるいは共重合体が用いられる。前記ポリマーは、少なくとも一つのタイプのモノマーを原料に用いており、そのモノマーは、重合に関与し得る二重結合および重縮合に関与し得る官能基ならびに、ケトンもしくはカルボン酸またはそれらの誘導体の形態で存在する。また前記ポリマーは、一般式(1)の構造を有することがより好ましい。
なお、前記ポリマーが共重合体の場合、一般式(1)で表される構造単位を全モノマー単位の10%以上含有していることが好ましい。一般式(1)で表される構造単位の含有量が10%以上であると、後に説明するようなステップにて、表面に多くのカルボキシル基を生成でき、プローブ核酸を多く固定化できるので、結果的にS/N比がより向上する。
本発明において、ポリマーとは、数平均重合度が50以上のものを言う。このポリマーの数平均重合度の好ましい範囲は、100から1万である。特に好ましくは、200以上、5000以下である。なお、数平均重合度はGPC(ゲルパーメイションクロマトグラフ)を用い定法にてポリマーの分子量を測定することにより、容易に測定できる。
一般式(1)において、R1およびR2はアルキル基、アリール基または水素原子を表し、それぞれ同一であっても異なっていても良い。前記アルキル基は直鎖状であってもまたは枝別れしていても良く、好ましくは1から20の炭素数を有する。前記アリール基は、好ましくは6から18、さらに好ましくは6から12の炭素数を有する。官能基XはO、NR3 、またはCH2の中から任意に選ばれる。R3は前記R1およびR2と同様に定義される官能基である。
前記各種のような官能基を含むポリマーで、好ましいものとしては、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチルメタクリレート(PEMA)またはポリプロピルメタクリレートのポリメタクリル酸アルキル(PAMA)等がある。これらの中で最も好ましいものは、射出成形やホットエンボス法にて成形が容易であり、かつ、比較的ガラス転移温度が高い点からポリメチルメタクリレートである。さらに、ポリ酢酸ビニル、ポリメタクリル酸シクロヘキシルまたはポリメタクリル酸フェニル等も用いることができる。また、前記ポリマーの構成要素を組み合わせた、または前記ポリマーの構成要素に他の一種または複数種のポリマーの構成要素を加えた構造の、共重合体も用いることができる。前記他のポリマーとしては、ポリスチレン等がある。
共重合体の場合、各構成要素の比の範囲は、カルボニル基を含むモノマー、例えばメタクリル酸アルキルの割合は、10モル%以上が好ましい。こうすることにより、表面に多くのカルボン酸を生成できプローブ核酸を多く固定化できるので、結果的にS/N比がより向上するからである。ポリマーの構造単位のうち、より好ましい該モノマーの割合は50モル%以上である。
さらに本発明では、一般式(1)で表される構造単位を少なくとも1つ有するポリマーを有する担体に選択結合性物質を固定化するため、これにアルカリもしくは酸で前処理を施すことが好ましい。こうすることにより、担体表面にカルボキシル基を形成させることができる。担体表面にカルボキシル基を生成する手段としては、アルカリ、酸などで処理する方法を単独で用いるだけではなく、温中での超音波処理、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ、放射線に担体を晒す方法などと組み合わせても良い。これらの方法の中でも、担体の損傷が少なく、また、容易に実施できるという点から温度を上げたアルカリ、もしくは酸に担体を漬け込んで表面にカルボキシル基を生成させることが好ましい。具体的な例としては、水酸化ナトリウムや硫酸の水溶液(好ましい濃度は、1N〜20N)に担体を漬け込み、好ましくは30℃から80℃の温度にして、1時間から100時間の間保持すればよい。
上記の方法にて、カルボキシル基が担体表面に生成したかどうかは、XPS(X線光電子分光法)にて確認できる。具体的には、フッ素を含むラベル化試薬(例えばトリフルオロエタノール)を用いてカルボキシル基をフッ素でラベル化する。そして、ラベル化後の試料でのC1s、F1sピーク面積強度に反応率を考慮して官能基量を推定することが可能である。さらに精度を上げるためには、トリフルオロエタノールで標識化された試料の表面のフッ素分布をTOF−SIMS(飛行時間型二次イオン質量分析法)で観察することにより、カルボキシル基が担体表面に生成しているかどうかを確認すればよい。
このようにカルボキシル基を担体の表面に生成すれば、これを足がかりに、担体側をビオチンもしくはアビチン修飾し、選択結合性物質をアビチンもしくはビオチン修飾して、アビチン・ビオチン相互作用にて選択結合性物質を担体に固定化する方法や、担体側をエチレンジアミン等のリンカーと反応させて、さらにこのリンカーと選択結合性物質を反応させ固定化することも考えられる。しかし、これらの方法では、2段階の反応を行うため、反応収率の関係から、担体に固定化できる選択結合性物質が少なくなりがちである。従って、担体のカルボキシル基と選択結合性物質との官能基とを直接反応させ、選択結合性物質を固定化することが好ましい。すなわち、担体表面のカルボキシル基と選択結合性物質のアミノ基や水酸基とを共有結合により固定化することが好ましい。一般的には、これらの結合の反応を助長するため、ジシクロヘキシルカルボジイミド、N−エチル−5−フェニルイソオキサゾリウム−3’−スルホナートなどの様々な縮合剤が用いられている。これらの中でも、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)は、毒性が少ないことや、反応系からの除去が比較的容易なことから、選択結合性物質と担体表面のカルボキシル基との縮合反応にはもっとも有効な縮合剤の1つである。その他、有望な縮合剤としては4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチル−モルホリニウムクロリド(DMT−MM)がある。これらEDCなどの縮合剤は、選択結合性物質の溶液と混ぜて使用しても良いし、カルボキシル基が表面に生成された担体を予めEDCの溶液に浸漬しておき、表面のカルボキシル基を活性化しておいても良い。
このような縮合剤を用い、担体表面のカルボキシル基と選択結合性物質のアミノ基とを反応させた場合は、アミド結合により担体表面と選択結合性物質が固定化されることになり、担体表面のカルボキシル基と選択結合性物質の水酸基とを反応させた場合は、エステル結合により担体表面と選択結合性物質とが固定化されることになる。選択結合性物質を含む試料を担体に作用させる際の温度は、5℃〜95℃が好ましく、15℃〜65℃が更に好ましい。処理時間は通常5分〜24時間であり、1時間以上が好ましい。
前述した方法により、ポリマー表面に選択結合性物質を固定化することにより、スポット部分以外は、電荷がマイナスのカルボキシル基が存在しているので、検体(代表的にはDNA)の非特異的な吸着を抑え、さらに、共有結合で強固に、かつ、高密度に選択結合性物質を固定化でき、さらに、ガラスに比べ、固定化された選択結合性物質の空間的な自由度が高いという推定理由のために、検体とのハイブリダイゼーション効率が高い担体を得ることができる。空間的な自由度が高い利点は、特に固定化されている選択結合性物質がオリゴDNAと呼ばれる塩基長が10塩基から100塩基のDNAの場合に、検体とのハイブリダイゼーション効率が非常に向上するという優れた特性を与える。
上述の方法により得られた選択結合性物質固定化担体は、選択結合性物質を固定した後、適当な処理をすることができる。例えば、熱処理、アルカリ処理、界面活性剤処理などを行うことにより、固定された選択結合性物質を変性させることもできる。
また、選択結合性物質固定化担体は、蛍光標識化された検体と担体に固定化された選択結合性物質とをハイブリダイゼーション反応させ、スキャナーと呼ばれる装置で蛍光を読みとることが一般的である。スキャナーは励起光であるレーザー光を対物レンズで絞り込み、レーザー光を集光する。しかし、担体表面から自家蛍光が生じる場合、その発光がノイズとなり検出精度の低下に繋がることがある。これを防ぐため一般式(1)の構造単位を有するポリマーに黒色を呈し、またレーザー照射により発光を生じない物質を含有させて表面を黒色にすることにより、担体自身からの自家蛍光を低減させることができるので好ましい。このような担体を用いることにより、検出の際、担体からの自家蛍光を低減できるのでよりノイズが小さく、結果的にS/N比が良好な選択結合性物質物質が固定化された担体を提供することができる。
ここで、担体が黒色とは、可視光(波長が400nmから800nm)範囲において、担体の黒色部分の分光反射率が特定のスペクトルパターン(特定のピークなど)を持たず、一様に低い値であり、かつ、担体の黒色部分の分光透過率も、特定のスペクトルパターンを持たず、一様に低い値であることをいう。
この分光反射率、分光透過率の値としては、可視光(波長が400nmから800nm)の範囲の分光反射率が7%以下であり、同波長範囲での分光透過率が2%以下であることが好ましい。なお、ここでいう分光反射率は、JIS Z 8722 条件Cに適合した、照明・受光光学系で、担体からの正反射光を取り込んだ場合の分光反射率をいう。
黒色にする手段としては、担体に黒色物質を含有させることにより達成しうるが、この黒色物質の好ましいものを挙げると、カーボンブラック、グラファイト、チタンブラック、アニリンブラック、Ru、Mn、Ni、Cr、Fe、CoおよびCuの酸化物、Si、Ti、Ta、ZrおよびCrの炭化物などの黒色物質が使用できる。
これらの黒色物質は単独で含有させる他、2種類以上を混合して含有させることもできる。この中の黒色物質の中でも、カーボンブラック、グラファイト、チタンブラックを好ましく含有させることができ、ポリマーに一様に分散しやすいことから特にカーボンブラックを好ましく用いることができる。
また、担体の形状としてガラス、金属などの熱変形をし難い材料からなる支持体層の上に、一般式(1)で表される構造単位を少なくとも1つ有するポリマーからなる選択結合性物質固定化層を設けると、熱や外力による担体の形状変化を防げることから好ましい。支持体層としては、ガラスや、鉄、クロム、ニッケル、チタン、ステンレスなどの金属が好ましい。その他支持体層としては、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミドなどの比較的高温に耐えられる樹脂などを用いても良い。また、この支持体層と選択結合性物質固定化層との密着性を良くするため、支持体層の表面を、アルゴン、酸素、窒素ガスでのプラズマ処理やシランカップリング剤での処理を施すことが好ましい。このようなシランカップリング剤としては3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルジエトキシメチルシラン、3−(2−アミノエチルアミノプロピル)トリメトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノプロピル)ジメトキシメチルシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ジメトキシ−3−メルカプトプロピルメチルシランなどが挙げられる。支持体層の上に選択結合性物質固定化層を設ける手段としては、ポリマーを有機溶媒に溶解し、スピンコートやディッピングなどの公知の手段を用いることができる。より簡単には、支持体層に接着剤で貼り付けることもできる。
ここで、「選択結合性物質」とは、被検物質と直接的又は間接的に、選択的に結合し得る物質を意味し、代表的な例として、核酸、タンパク質、糖類及び他の抗原性化合物を挙げることができる。核酸は、DNAやRNAでもPNAでもよい。特定の塩基配列を有する一本鎖核酸は、該塩基配列又はその一部と相補的な塩基配列を有する一本鎖核酸と選択的にハイブリダイズして結合するので、本発明でいう「選択結合性物質」に該当する。また、タンパク質としては、抗体及びFabフラグメントやF(ab')2フラグメントのような、抗体の抗原結合性断片、並びに種々の抗原を挙げることができる。抗体やその抗原結合性断片は、対応する抗原と選択的に結合し、抗原は対応する抗体と選択的に結合するので、「選択結合性物質」に該当する。糖類としては、多糖類が好ましく、種々の抗原を挙げることができる。また、タンパク質や糖類以外の抗原性を有する物質を固定化することもできる。本発明に用いる選択結合性物質は、市販のものでもよく、また、生細胞などから得られたものでもよい。「選択結合性物質」として、特に好ましいものは、核酸である。この核酸の中でも、オリゴ核酸と呼ばれる、長さが10塩基から100塩基までの核酸は、合成機で容易に人工的に合成が可能であり、また、核酸末端のアミノ基修飾が容易であるため、担体表面への固定化が容易となることから好ましい。さらに、20塩基未満ではハイブリダイゼーションの安定性が低いという観点から20〜100塩基がより好ましい。ハイブリダイゼーションの安定性を保持するため、特に好ましくは40〜100塩基の範囲である。
本発明の担体を用いた測定方法に供せられる被検物質としては、測定すべき核酸、例えば、病原菌やウイルス等の遺伝子や、遺伝病の原因遺伝子等並びにその一部分、抗原性を有する各種生体成分、病原菌やウイルス等に対する抗体等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。また、これらの被検物質を含む検体としては、血液、血清、血漿、尿、便、髄液、唾液、各種組織液等の体液や、各種飲食物並びにそれらの希釈物等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。また、被検物質となる核酸は、血液や細胞から常法により抽出した核酸を標識してもよいし、該核酸を鋳型として、PCR等の核酸増幅法によって増幅したものであってもよい。後者の場合には、測定感度を大幅に向上させることが可能である。核酸増幅産物を被検物質とする場合には、蛍光物質等で標識したヌクレオチド三リン酸の存在下で増幅を行うことにより、増幅核酸を標識することが可能である。また、被検物質が抗原又は抗体の場合には、被検物質である抗原や抗体を常法により直接標識してもよいし、被検物質である抗原又は抗体を選択結合性物質と結合させた後、担体を洗浄し、該抗原又は抗体と抗原抗体反応する標識した抗体又は抗原を反応させ、担体に結合した標識を測定することもできる。
固定化物質と被検物質を相互作用させる工程は、従来と全く同様に行うことができる。反応温度及び時間は、ハイブリダイズさせる核酸の鎖長や、免疫反応に関与する抗原及び/又は抗体の種類等に応じて適宜選択されるが、核酸のハイブリダイゼーションの場合、通常、50℃〜70℃程度で1分間〜十数時間、免疫反応の場合には、通常、室温〜40℃程度で1分間〜数時間程度である。
本発明を以下の実施例によって更に詳細に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
(DNA固定化担体の作製および処理)
公知の方法であるLIGA(Lithographie Galvanoformung Abformung)プロセスを用いて、射出成形用の型を作製し、射出成型法により後述するような形状を有するPMMA製の基板を得た。なお、この実施例で用いたPMMAの平均分子量は15万であり、PMMA中には1重量%の割合で、カーボンブラック(三菱化学製 #3050B)を含有させており、基板は黒色である。この黒色基板の分光反射率と分光透過率を測定したところ、分光反射率は、可視光領域(波長が400nmから800nm)のいずれの波長でも5%以下であり、また、同範囲の波長で、透過率は0.5%以下であった。分光反射率、分光透過率とも、可視光領域において特定のスペクトルパターン(ピークなど)はなく、スペクトルは一様にフラットであった。なお、分光反射率は、JIS Z 8722の条件Cに適合した照明・受光光学系を搭載した装置(ミノルタカメラ製、CM−2002)を用いて、担体からの正反射光を取り込んだ場合の分光反射率を測定した。
基板の形状は、大きさが縦76mm、横26mm、厚み1mmであり、基板の中央部分を除き表面は平坦であった。基板の中央には、13×10mm、深さ0.2mmの凹んだ部分が設けてあり、この凹みの中に、直径0.2mm、高さ0.2mmの凸部を256箇所箇所設けた。256個の凸部の内訳は、64(8×8)個の凸部を1ブロックとし、このブロックが4つある形になっている。凹凸部分の凸部上面の高さ(256箇所の凸部の高さの平均値)と平坦部分との高さの差を測定したところ、5μm以下であった。また、256個の凸部上面の高さのばらつき(最も高い凸部上面の高さと最も低い凸部上面との高さの差)、さらには、凸部上面の高さの平均値と平坦部上面の高さの差を測定したところそれぞれ5μm以下であった。具体的な凸部のレイアウトを図7にしめす。図7で左上の網がけしている8×8の部分が1つのブロックに相当し、隣のブロックとのピッチは4.5mmとなっている。
上記のPMMA基板を10Nの水酸化ナトリウム水溶液に65℃で12時間浸漬した。これを、純水、0.1NのHCl水溶液、純水の順で洗浄し、基板表面にカルボキシル基を生成した。なお、Axon Instruments社のGenePix4000Bを用いて、本実施例で用いたカーボンブラック入りのPMMAの平板を、励起波長532nm、フォトマルチプライヤーの設定ゲインを700、レーザーパワーを33%の条件で測定したとき、この板の自家蛍光強度は250であった。
(プローブ溶液の調製)
配列番号1(70塩基、5’末端アミノ化)のDNAを合成した。このDNAを、純水に0.27nmol/μlの濃度で溶かして、ストックソリューションとした。基板に点着する際は、PBS(NaClを8g、Na2HPO4・12H2Oを2.9g、KClを0.2g、KH2PO4を0.2g純水に溶かし1lにメスアップしたものにpH調整用の塩酸を加えたもの、pH6.5)でプローブの終濃度を0.027nmol/μlとし、かつ、担体表面のカルボキシル基とプローブDNAの末端のアミノ基とを縮合させるため、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)を加え、この終濃度を50mg/mlとした。さらに、スポットムラを減らすためドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を0.005%で加えた。そして、これらの混合溶液を384ウェルマイクロタイタープレートの4箇所に30μlづつ分注した。
(スポッティング)
日本レーザー電子製のスポッター(Gene StampII)のピンブロックに、4.5mmの頂点の四隅にセットする形で、4本のステンレス製のピンをセットした。そして、上記で調製した基板20枚をスポッターのステージに並べにプローブ溶液をスポットした。なお、ピンには毛管は設けていないが、ピンヘッドに幅50μm、深さ30μmの一文字状の溝を刻んでいる。
そして、マイクロカメラで観察しながら、20枚それぞれの基板について、ある一つの凸部上面をスポッティングする時にピンが下降する位置が、この凸部上面の中央となるように微調整を行った後、、先に述べた384ウェルマイクロタイタープレートに入れた4つのプローブ溶液に一度に4つのピン先を浸漬し、そして、一度に4つの凸部の上にプローブ溶液をスポットした。「ピン先をプローブ溶液に浸漬」→「凸部上面にスポット」を64回繰り返し、計256個の凸部の上にプローブ溶液のスポッティングを行った。なお、ピンヘッドの大きさの検討のため直径170μm、140μm、100μm、とピンヘッドの大きさを変えた。
(検体DNAの調整)
検体DNAとして、上記DNA固定化基板とハイブリダイズ可能な塩基配列を持つ配列番号2のDNA(968塩基)を用いた。調整方法を以下に示す。
配列番号3と配列番号4のDNAを合成した。これを純水にとかして濃度を100μMとした。次いで、pKF3 プラスミドDNA(タカラバイオ(株)製品番号;3100)(配列番号5:2264塩基)を用意して、これをテンプレートとし、配列番号3および配列番号4のDNAをプライマーとして、PCR反応(Polymerase Chain Reaction)により増幅を行った。
PCRの条件は以下の通りである。すなわち、ExTaq 2μl、 10×ExBuffer 40μl、 dNTP Mix 32μl(以上はタカラバイオ(株)製 製品番号RR001Aに付属)、配列番号5の溶液を2μl、配列番号6の溶液を2μl、 テンプレート(配列番号7)を0.2μlを加え、純水によりトータル400μlにメスアップした。これらの混合液を、4つのマイクロチューブに分け、サーマルサイクラーを用いてPCR反応を行った。これを、エタノール沈殿により精製し、40μlの純水に溶解した。PCR反応後の溶液の一部をとり電気泳動で確認したところ、増幅したDNAの塩基長は、およそ960塩基であり配列番号2(968塩基)が増幅されていることを確認した。
次いで、9塩基のランダムプライマー(タカラバイオ(株)製;製品番号3802)を6mg/mlの濃度に溶かし、上記のPCR反応後精製したDNA溶液にに2μl加えた。この溶液を100℃に加熱した後、氷上で急冷した。これらにKlenow Fragment(タカラバイオ(株)製;製品番号2140AK)付属のバッファーを5μl、dNTP混合物(dATP、dTTP、dGTPの濃度はそれぞれ2.5mM、dCTPの濃度は400μM)を2.5μl加えた。さらに、Cy3−dCTP(アマシャムファルマシアバイオテク製;製品番号PA53021)を2μl加えた。この溶液に10UのKlenow Fragmentを加え、37℃で20時間インキュベートし、Cy3で標識された検体DNAを得た。なお、標識の際ランダムプライマーを用いたので検体DNAの長さには、ばらつきがある。最も長い検体DNAは配列番号2(968塩基)となる。なお、検体DNAの溶液を取り出して、電気泳動で確認したところ、960塩基に相当する付近にもっとも強いバンドが現れ、それより短い塩基長に対応する領域に薄くスメアがかかった状態であった。。そして、これをエタノール沈殿により精製し、乾燥した。
この標識化された検体DNAを、1重量体積%BSA(ウシ血清アルブミン)、5×SSC(5×SSCとはNaClを43.8g、クエン酸3ナトリウム水和物22.1gを純水にとかし、1lにメスアップしたもの。またNaClを43.8g、クエン酸3ナトリウム水和物22.1gを純水にとかし、5lにメスアップしたものを1×SSCと表記し、これの10倍濃縮液を10×SSC、5倍希釈液を0.2×SSCと表記する。)、0.1重量体積%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)、0.01重量体積%サケ精子DNAの溶液(各濃度はいずれも終濃度)、400μlに溶解し、ハイブリダイゼーション用の溶液とした。
(ハイブリダイゼーション)
上記で得られたプローブDNAを固定化した基板に上記検体DNAをハイブリダイゼーションさせた。具体的には、先に用意したプローブ核酸が固定化されている担体にハイブリダイゼーション用の溶液を50μl滴下し、その上にカバーガラスをかぶせた。これを、プラスチック容器の中に入れ、65℃、湿度100%の条件で10時間インキュベートした。インキュベート後、カバーガラスを剥離後に洗浄、乾燥した。
(測定)
DNAチップ用のスキャナー(Axon Instruments社のGenePix 4000B)に上記処理後の担体をセットし測定を行った。そして、スポットに欠けがある場合、すなわち、ピンヘッドが凸部上面の一部にしか接触していない場合については、それを不良スポットとしてカウントした。ピンの直径1種類について、20×256=5120個のスポットをについて観察した結果を表1に示す。
(比較例1)
ピンヘッドの直径を200μmとした以外は、実施例1と全く同様な実験を行った。実施例1と同様にスポットの形状を観察した結果を表1に示す。
このように、凸部上面の面積よりピンヘッドの面積を小さくすると、正常スポット率が明らかに向上する。また、ピンヘッドと凸部上面の面積比を0.7倍以下にすると特に効果的なことが分かる。