JP4984319B2 - 被削性および靭性に優れたプリハードン鋼の製造方法 - Google Patents

被削性および靭性に優れたプリハードン鋼の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、極めて優れた被削性を有し、さらに靭性と硬さを兼ね備えた新しいプリハードンタイプの、主としてプラスチック成形用金型に使用される工具鋼の製造方法に関するものである。
主として、プラスチック成形用金型として使用されるプリハードン鋼は、金型等の製作期間の短縮と使用寿命の向上の観点から、被削性と同時に、強度、耐摩耗性に優れ適度の靭性が必要とされるものである。しかし、これらの要求特性は相反する性質であり、どの特性も十分に満足のいく鋼は得られているとは言えない。
上記の要求に対しては、例えば、低C−Mn−Ni−Mo(W)−Cu−Al系合金に対して、結晶粒度を粒度番号4〜6の範囲とすることによって被削性および靭性を兼ね備えるという提案がなされている(特許文献1を参照)。この鋼の組織は、主にCを低く規定することによって均一な上部ベイナイト組織に調整されており、この上部ベイナイト組織により被削性を確保するものである。一方で、本願出願人は、主にMn量を適正化し、均一な下部ベイナイト組織に調整することによって、被削性および靭性を兼ね備えた低C−Mn−Ni−Mo(W)−高Cu−Al系合金を提案している(特許文献2を参照)。
特開平05−070887号公報 特開平07−278737号公報
上述した提案はそれぞれ、プラスチック成形用プリハードン鋼の性能向上に貢献する一つの手段を提供しているものである。しかし、特許文献1の上部ベイナイト組織は被削性には優れているものの、靭性が十分であるとは言えない。一方、特許文献2の下部ベイナイト組織は靭性には優れているものの、被削性が若干劣っており、やはり十分とは言えない。この通り、従来の金型用鋼材では、金型制作期間の短縮および使用寿命の向上の要求を十分満足することにおいては、特性の改善に余地のあるものであった。本発明の目的は、上述した要求に鑑み、金型の制作期間の短縮および使用寿命の向上を共に達成できることで、特にはプラスチック成形用金型に供して最適な、プリハードン鋼の製造方法を提供することである。
本発明者は、低C−Mn−Ni−(Mo,W)−Cu−Al系合金や、低C−Mn−Ni−(Mo,W)−高Cu−Al系合金の組成および熱処理方法と、被削性および靭性との関係を鋭意検討したところ、極狭域でなる最適な組成に加えては、さらに焼入れ時の冷却速度をも調整することによって、優れた被削性と靭性を兼ね備えたプリハードン鋼が達成できることを見いだした。
発明は、焼入れ焼戻し熱処理によるプリハードン鋼の製造方法であって、質量%で、C:0.08〜0.17%、Si:0.4%以下、Mn:1.0〜2.0%、Ni:2.6〜3.5%、Cr:1.0%以下、WおよびMoの1種または2種を(1/2W+Mo):0.1〜0.7%、Al:0.5〜1.5%、Cu:0.7〜1.8%、残部Feおよび不可避的不純物よりなる工具鋼を、オーステナイト領域から600℃までを5〜0.06℃/sの冷却速度で、続く600℃から200℃までを5〜0.02℃/sの冷却速度で焼入れし、硬さが34〜45HRCになるよう焼戻すことを特徴とする被削性および靭性に優れたプリハードン鋼の製造方法である。使用する上記工具鋼は、Cr:0.3〜0.8%、Cu:1.2〜1.8%であることが好ましく、そしてFeの一部をS:0.3%以下で置換してもよい。N:0.01%未満、O:0.002%未満とすることが望ましい。
本発明のプリハードン鋼は、従来のプリハードン鋼にはない高いレベルで、優れた被削性および靭性を兼備する。したがって、他の特性を大きく劣化させず、例えばプラスチック成形用の工具寿命の延長化が達成でき、極めて有効である。また本発明鋼は靭性が高いため、金型などの加工に伴う熱応力によっても割れが発生しにくく、より精密な金型加工を行うのに特に適したものとなる。
本発明の根幹をなす特徴の一つは、低C−Mn−Ni−(Mo,W)−Cu−Al系や低C−Mn−Ni−(Mo,W)−高Cu−Al系のプリハードン鋼の組成について検討した結果として、最適な組成に調整すること、特には、従来具体的な認識にまでは及ばなかったMn,Cu,Cr量に調整する点にある。そして、更なる特徴は、上記の新規組成に加えては、或いは更に、その熱処理の際の焼入れ条件をも調整することにより、従来と同様の硬さであっても、さらに優れた被削性と靭性を同時に実現できる点にある。
まず、本発明鋼の基本成分としては、低C−Mn−Ni−Cr−(Mo,W)−中Cu−Al系合金を採用しなければならない。すなわち、優れた被削性と靱性を兼備させるという課題に対しては、本発明の技術思想の根幹は、下述する通りの上部ベイナイトと下部ベイナイトの混合組織への制御にある。そして、この狙い組織の達成においては、熱処理条件を厳しくすることで達成自体は可能であるものの、この時の鋼の基本組成、特にはMn,Cu,Crといった根幹元素が本発明の狭域を外れると、いくら狙いとする組織制御が達成できたとしても、本特性の達成が困難となるからである。
上部ベイナイトと下部ベイナイトの混合組織の効果について説明しておくと、従来の低C−Mn−Ni−(Mo,W)−Cu−Al系合金や低C−Mn−Ni−(Mo,W)−高Cu−Al系をプリハードン鋼として使用する場合には、その被削性を確保するために上部ベイナイト組織や下部ベイナイト組織の単相組織を狙って調製されていた。しかしながら、上部ベイナイト組織は、被削性の優れた組織ではあるが、反面靭性の低い組織であり、また、下部ベイナイト組織は、逆に靭性の優れた組織ではあるが、被削性が若干劣る組織である。
そこで、本発明者らは、組織と被削性および靭性の関係を詳細に調査したところ、被削性に優れた上部ベイナイト組織に異なった組織である下部ベイナイト組織を所定量、具体的には20〜80%混合し、切削時に適度に脆化させることによって、均一な上部ベイナイト組織よりも優れた被削性および靭性を得ることができることを見いだした。更に、被削性は下部ベイナイト組織が60〜70%の時に最も優れるとともに、下部ベイナイト組織相当の靭性が得られることをも見いだした。そして、本発明鋼は、低C−Mn−Ni−Cr−(Mo,W)−中Cu−Al系合金とすることを必須要件として、その中でも最適組成域に制御することで、比較的管理が容易な熱処理条件において、狙いである上部ベイナイトと下部ベイナイトの混合組織を安定して得ることができ、金型の製作期間の短縮と使用寿命の向上を共に達成できることを見出したものである。
なお、鋼組織におけるベイナイトとは、オーステナイトを冷却した時に生ずる変態生成物の一つであり、パーライト生成温度とマルテンサイト生成温度との中間の温度範囲で生ずるものを言う。そして、パーライト変態温度近くで生じたものは羽毛状(塊状)、マルテンサイト生成温度近くで生じたものは針状を示し、前者を上部ベイナイト、後者を下部ベイナイトと言う。
以下、本発明で規定する鋼組成の規定理由について述べる。
Cは、低C−Mn−Ni−Mo(W)−Cu−Al系や、低C−Mn−Ni−(Mo,W)−高Cu−Al系のプリハードン鋼の焼入れ組織をベイナイト組織に保ち、かつ焼戻しにおけるCu−Fe固溶体、Ni−Al金属間化合物やMo、W炭化物の析出に基づく析出硬化をもたらすための基質を与えるための基本的添加元素である。多すぎると基地をマルテンサイト組織化して被削性を減じ、また過度の炭化物を形成して被削性を低下させる。そのため本発明においては0.08〜0.17質量%に規定した(以下、単に%で表記)。
Siは、鋼製品として使用時の雰囲気に対する耐食性を高める元素であるが、多すぎるとフェライトの生成を招き、また被削性を低下させる。そして、Siを低減すると異方性が低減され、また縞状偏析が低減され、優れた鏡面加工性が得られるため、本発明においては0.4%以下とする。
Mnは、靭性の高い混合組織、好ましくは下部ベイナイト組織を20〜80%含む基地とした混合組織を付与するには、最も重要な元素のうちの一つである。Mnは基本的には基地の靭性を高める元素であり、ベイナイト焼入れ性を高め、本発明の望ましい組織の特徴である20〜80%の下部ベイナイト組織を得やすくする元素である。また、フェライトの生成を抑制し、適度の焼入れ焼戻し(時効)硬さを与えるという効果もある。そのため1.0%以上、さらに望ましくは1.25%以上添加する。しかしながら、Mnは多すぎると靭性が高くなりすぎ、優れた被削性を保つことが困難となるため、2.0%以下に規定する。
Niは、ベイナイト焼入性を高め、またフェライトの生成を抑制し、さらに焼戻し(時効)の際、Ni−Al金属間化合物を析出させ、所要の硬さを得るとともに延性を適度に低下させ、被削性の向上を得るために添加される。本発明においては、2.6%以上とする。しかし、多すぎるとベイナイト変態温度を低下させ、ベイナイト組織を過度に微細化させ、さらにマルテンサイト変態化に働き、また基地の粘さを上げて被削性を低下させるので3.5%以下とする。
Crは、上記の混合組織、さらにはその望ましい上部ベイナイトと下部ベイナイトの混合比率を得るために最も重要な元素のうちの一つであり、焼入れの熱処理工程時における管理が比較的容易な冷却速度範囲であっても、適度にベイナイト組織を微細化させる効果がある。また、耐食性を高め、窒化する場合の硬さを高め、さらに研磨加工時あるいは製品保管時の発錆を抑制する効果もある。しかし、多すぎるとベイナイト組織を過度に微細化し、さらにマルテンサイト変態化にも働いて被削性を劣化する。よって、本発明においては、好ましくは0.3〜0.8%とする。
W、Moは、本発明鋼の焼戻し(時効)処理、特には500℃を越える高温焼戻し(時効)処理において、微細炭化物を析出し、析出(時効)硬化をもたらし、また製品使用時の雰囲気に対する耐食性を高める作用を有する元素である。本発明の場合、多量の添加は必要なく、多すぎると被削性の低下をまねくので、WおよびMoの1種または2種を(1/2W+Mo)で0.1〜0.7%とする。なお、上記の効果においてWとMoは同等に扱えるものの、WはMoに比べて拡散速度が遅いことから、Wを多く添加した場合は熱間加工時や焼入れ時に未固溶炭化物が残留する可能性が高くなる。よって、この点においては、本発明鋼はMoのみを採用することが好ましい。
Alは、焼戻し(時効)処理においてNi−Al金属間化合物の微細析出による析出(時効)硬化をもたらし、本発明の優れた被削性を達成する重要な元素の一つである。またAlは、所要の硬さを得るための添加元素でもあり、窒化を行うとなればその時の窒化硬さを上昇させる効果をもたらすものでもある。多すぎるとアルミナ系介在物の生成量が増加し、鏡面仕上性を低下させ、また耐孔食性を低下させ、さらには延性の過度の低下を招くので1.5%以下とし、低すぎると被削性が低下するため0.5%以上とする。好ましくは、特に20〜80%の下部ベイナイト組織とした時の被削性をより高めるため0.95%以上とする。
Cuは、Crと同様に、上記の混合組織、さらにはその望ましい上部ベイナイトと下部ベイナイトの混合比率を得るために最も重要な元素のうちの一つであり、焼入れの熱処理工程時における管理が比較的容易な冷却速度範囲であっても、適度にベイナイトを微細化させる効果がある。また、焼戻し(時効)処理において、Fe−Cu固溶体の微細析出による析出(時効)硬化をもたらし、本発明鋼の基本的な被削性を付与するための、また所要の硬さを得るための元素であり、さらには、優れた耐食性をもたらすものである。しかし、多すぎると熱間加工性を低下させ、またベイナイトを過度に微細化させ、さらにマルテンサイト変態化にも働いて、かえって被削性を低下させる。本発明においては、好ましくは1.2〜1.8%とする。
そして、本発明鋼において特に被削性を高めるためには、0.3%以下のSを添加してもよい。しかしながら、Sの添加は被削性の向上には極めて有効であるが、添加によって鏡面加工性が劣化するため、鏡面性が特に要求される場合は、その利用を0.005%以下に低減することが望ましい。
また、Nは、鋼中に窒化物を形成する元素である。窒化物は過多に形成されると、金型の靱性、被削性、鏡面加工性を著しく劣化させるため、Nは0.01%未満に規制することが望ましい。
Oは、鋼中に酸化物を形成する元素である。酸化物は、冷間塑性加工性、鏡面加工性を著しく劣化させるため、Oは0.002%未満に規制することが望ましい。さらに望ましくは0.001%未満である。
次に、本発明の採用する低C−Mn−Ni−Cr−(Mo,W)−中Cu−Al系合金とは言っても、その中には、比較的管理が容易な熱処理条件においても、被削性と靱性のバランスに特に優れる該混合組織に調整できる最適な組成域があることは上述の通りである。つまり、この最適な組成域とは、本分野のニーズを満足させるためには極めて優れた被削性と靭性を兼備できる限定域である。そして、この限定域中の望ましい具体的成分バランスの達成となると、それはさらに調質硬さと狙い靱性値を明確にすることで、その優れた被削性と共に達成がされる。すなわち、本発明の重ねての特徴は、上記の成分系に併せて、具体的な狙い硬さと靱性値をも指定したことで、被削性にも優れたプリハードン鋼を特定できたところにある。
すなわち、上記の成分組成を有する本発明鋼においては、まず焼入れ焼戻し熱処理によって34〜45HRCのプリハードン硬さに調質することが、優れた強度および耐摩耗性に併せて、適度の被削性と靭性のバランスを確保する上で最適である。そして、このプリハードン状態で供給され、そのまま製品形状に加工、金型であれば型彫加工の後、研磨加工、さらに高度な鏡面仕上げやシボ加工等を施して使用されるものである。34HRC未満であると使用時(金型としての成形時)に摩耗等の損傷の問題が起こり、また、45HRCを超えると被削性に悪影響を及ぼす。
そして、上記の硬さに調質される本発明のプリハードン鋼に求められる靭性は、割れおよび折れを防止するために必要な特性であり、そのための具体的な靱性値はJIS−Z−2242(2005)の金属材料シャルピー衝撃試験方法に準じた2mmUノッチ試験片による衝撃値で、具体的には後述の実施例の条件で評価して、望ましくは24J/cm以上、さらに望ましく25J/cm以上で特定されなくてはならない。
よって、本発明のプリハードン鋼は、上記の成分域への調整に併せて、所定の硬さおよび靱性値を狙って具備させることで、被削性にも優れたプリハードン鋼となるが、その金型の製作期間の短縮を実現するために必要な特性である被削性の向上効果は、おおよそ次の試験方法によって数値評価が可能である。すなわち、プラスチック成形用金型への形状加工において一般的に適用されている以下の条件で切削加工を行った時の工具摩耗量を測定し、汎用鋼である合金工具鋼鋼材SKD61(JIS−G−04404)のそれに対する対比指数として評価するものである。そして、本発明のプリハードン鋼の達成する被削性は、この被削性指数で150以上であり、さらには180以上である。
・加工形態 :Φ80mmフェースミル(サーメット製切削チップ)
・切削速度 :116m/min
・送り :0.09mm/刃
・切り込み :1mm
・比較鋼 :SKD61(40HRC[空冷焼入れ])
・被削性指数:工具摩耗量が0.2mmに達した時の切削距離において、SKD61の切削距離を100とした時の比較値
次に、本発明のプリハードン鋼の製造方法について述べる。まず、本発明のプリハードン鋼は、特にMn、Cr、Cuの元素量を最適化することによって、その成分組成が十分な最適領域に調整されているため、成分変動による組織への影響度が、極力低く抑えられている。そして、もう一方の、熱処理条件による組織への影響度は、本発明の狙いである上部ベイナイトと下部ベイナイトの混合組織を達成するための熱処理条件を鑑みて、それが実に管理容易な条件となるよう、成分域を設定しているのである。
しかしながら、鋼の組織が、その成分組成によってのみ決まるものではなく、やはり熱処理条件によって大きく左右されることは当業者の知るところである。本発明のプリハードン鋼は、その狙いとする上記の混合組織を、比較的管理が容易な熱処理条件においても達成ができる様、成分組織が最適に調整されてはいるが、やはりその焼入れ時の冷却速度を管理することで、確実な組織制御に有効である。すなわち、本発明のプリハードン鋼の製造方法は、上記の成分組成でなる工具鋼を、オーステナイト領域から600℃までは5〜0.06℃/sの冷却速度で、続く600℃から200℃までは5〜0.02℃/sの冷却速度で焼入れし、硬さが34〜45HRCになるよう焼戻すものである。
なお、上記の冷却速度に制御すれば、先に規定した本発明鋼の成分組成域には若干の許容があり、具体的にはCr:1.0%以下、Cu:0.7〜1.8%が許容される。しかし、先に規定した本発明鋼の成分組成が好ましいことは言うまでもない。また、焼入れ冷却のタイミングについては、それが加工済みの鋼材に対して、オーステナイト領域まで加熱したものに行ってよいことは勿論であるが、例えば所定の鋼材形状に熱間加工した直後には、その温度状態から再加熱工程を経ずに焼入れを行う、いわゆる直接焼入れであってもよい。
表1に示す化学成分の残部Feおよび不可避的不純物からなる試料No.1〜5を熱間圧延した後、880℃のオーステナイト領域まで加熱保持して、空冷(放冷)の焼入れを行った。この時の冷却速度は、試料の寸法を調整することで制御を行い、600℃までが1℃/s、続く600℃から200℃までが0.5℃/sであった。そして、500〜590℃の温度範囲で焼戻して、これを供試材として用い、被削性および靭性の評価を行った。なお一方では、従来鋼のJIS−SKD61を用いて、これを1020℃のオーステナイト領域まで加熱後、上記に同様の空冷(放冷)の焼入れを行い、焼戻しにより硬さ40HRCに調整した試料No.6を準備した。これは、既述の被削性指数を評価するための対比試料でもある。
Figure 0004984319
被削性は、Φ80mmのフェースミル加工で、サーメット製の切削チップを用い、切削速度が116m/min、送りが0.09mm/刃、切り込みが1mmの加工条件において、工具摩耗量を測定して、0.2mmの摩耗が進行するまでの切削距離を求めた。そして、これらの切削距離を、試料No.6であるSKD61(40HRC)の空冷材の値を100として指数的に比較することで、被削性指数として評価した。
靭性の評価は、JIS−Z−2242(2005)にある金属材料シャルピー衝撃試験方法に準じて、2mmUノッチ試験片を用いてシャルピー試験を実施し、室温でのシャルピー衝撃値を測定した。試験片は、その長さが試料の圧延方向(L方向)となる位置で3本を採取し、これら各試験片の結果値を平均したものを衝撃値として評価した。以上の結果を表2に示す。
Figure 0004984319
表2より、本発明の好ましい鋼組成を満たすことを前提にしてかつ、オーステナイト領域からの冷却速度が比較的管理の容易な空冷であっても、最適な硬さと優れた靱性のバランスを達成している試料No.1は、最適な上部ベイナイトと下部ベイナイトの混合組織(被顕面において面積比率30:70)も得られ、工具摩耗量が少ない、優れた被削性をも兼備したプリハードン鋼である。これに対し、試料No.2は、組織としては理想のベイナイト混合組織を呈しており、被削性こそ試料No.1より若干劣る程度であるものの、前提かつ重要となる基本組成系においてCuが1%と少なく、靭性が低い。ちなみに、この時の試料No.2においては、その3本の試験片のうちの最小のシャルピー衝撃値は、17J/cmまで低下していた。
rが多く、やはり前提かつ重要となる本発明の好ましい基本組成系を満たさない試料No.3は、組織は若干下部ベイナイト主体であるが、最適な硬さと優れた靱性値に調整できたとしても、被削性が劣る結果であった。Niが低く、本発明の基本組成系を満たさない試料No.5は、上部ベイナイトが支配する組織となっており、被削性および靭性は比較的良好であるが、それはそもそも焼戻し時の硬さが低いからである。つまり、Ni、Al量が低いことから32.0HRCの最高硬さまでしか得られず、摩耗等の損傷が起こりやすい使用環境の場合は、その使用が困難である。
表3に示す化学成分の残部Feおよび不可避的不純物からなる試料No.7,8を熱間圧延した後、その900℃のオーステナイト領域状態から直接、空冷(放冷)の直接焼入れを行った。この時の冷却速度は、試料の寸法を調整することで制御を行い、600℃までが0.5℃/s、続く600℃から200℃までが0.5℃/sであった。そして、500〜590℃の温度範囲で焼戻したものを供試材として用い、被削性および靭性の評価を行った。被削性および靭性の評価は実施例1と同様の条件であり、その結果は表4に示す。
Figure 0004984319
Figure 0004984319
表4より、本発明の好ましい成分組成を満たした上で、最適な硬さと優れた靱性値のバランスに調整された試料No.7の被削性は、試料No.8より明らかに優れている。また、衝撃値においても、試料No.8の約2倍の値である。従って、本発明の条件を満たすプリハードン鋼は、優れた被削性と靭性を兼備していることが分かる。
(実施例3)
表5に示す化学成分の残部Feおよび不可避的不純物からなる試料No.9〜13を熱間圧延した後、880℃のオーステナイト領域まで加熱した。そして、試料No.9〜12については、600℃までを0.5℃/sの冷却速度で、続く600℃から200℃までを0.1℃/sの冷却速度で制御焼入れして、500〜590℃の温度範囲で焼戻しを行った。試料No.13は、600℃までを8℃/sとし、続く600℃から200℃までを5℃/sとする、速い冷却速度で制御焼入れし、同様に焼戻した。そして、これらを供試材として用い、被削性および靭性の評価を行った。被削性および靭性の評価は実施例1と同様の条件であり、その結果は表6に示す。
Figure 0004984319
Figure 0004984319
表6より、本発明製法の焼入れ冷却速度を適用した試料No.9〜12は、下部ベイナイトが20%〜80%の、上部/下部ベイナイト混合組織に調整されており、優れた被削性と、十分な靭性を兼備できることが分かる。そして、その上でも、本発明鋼としての好ましい成分組成を満たした試料No.11は、特に、被削性と靭性と硬さのバランスが優れたレベルで達成されている。もとより本発明の成分範囲を大きく外れる試料No.13は、若干のマルテンサイトを含んだ下部ベイナイト組織であり、靭性は優れているが、被削性に劣るものである。
被削性および靭性に優れた本発明のプリハードン鋼は、例えばプラスチック成形に使用される金型用鋼に最適である他には、射出成形機のスクリュ等、硬さが必要で切削性も重視される機械部品等にも適用が可能である。

Claims (4)

  1. 焼入れ焼戻し熱処理によるプリハードン鋼の製造方法であって、質量%で、C:0.08〜0.17%、Si:0.4%以下、Mn:1.0〜2.0%、Ni:2.6〜3.5%、Cr:1.0%以下、WおよびMoの1種または2種を(1/2W+Mo):0.1〜0.7%、Al:0.5〜1.5%、Cu:0.7〜1.8%、残部Feおよび不可避的不純物よりなる工具鋼を、オーステナイト領域から600℃までを5〜0.06℃/sの冷却速度で、続く600℃から200℃までを5〜0.02℃/sの冷却速度で焼入れし、硬さが34〜45HRCになるよう焼戻すことを特徴とする被削性および靭性に優れたプリハードン鋼の製造方法。
  2. 質量%で、Cr:0.3〜0.8%、Cu:1.2〜1.8%であることを特徴とする請求項に記載の被削性および靭性に優れたプリハードン鋼の製造方法。
  3. 質量%で、Feの一部を、S:0.3%以下で置換したことを特徴とする請求項またはに記載の被削性および靭性に優れたプリハードン鋼の製造方法。
  4. 質量%で、N:0.01%未満、O:0.002%未満であることを特徴とする請求項ないしのいずれかに記載の被削性および靭性に優れたプリハードン鋼の製造方法。
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