以下に、本発明に係る作動ガス循環型エンジンの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
[実施形態]
図1は、実施形態に係る作動ガス循環型エンジンの模式的な概略構成図、図2は、実施形態に係る作動ガス循環型エンジンの運転時圧力制御の一例を説明するフローチャート、図3は、実施形態に係る作動ガス循環型エンジンの停止時圧力制御の一例を説明するフローチャート、図4は、実施形態に係る作動ガス循環型エンジンの動作の一例を説明するタイムチャートである。
図1に示す本実施形態の作動ガス循環型エンジン1は、エンジン本体10の燃焼室11に複数種類の反応ガスと空気より比熱比の高い作動ガスとが供給され、この燃焼室11にて複数種類の反応ガスの反応に伴って作動ガスが膨張することで動力を発生させる。そして、この作動ガス循環型エンジン1は、燃焼室11の吸気側と排気側とを繋ぐ循環経路20を介して、燃焼室11の排気側から吸気側に作動ガスを循環させ、基本的には大気へと放出することなく再びこの燃焼室11に供給可能に構成したいわゆるクローズドサイクルエンジンである。燃焼室11と循環経路20とは、ともに作動ガスが充填されており、作動ガスは、燃焼室11と循環経路20との間で循環する。
ここで、この作動ガス循環型エンジン1に用いられる複数種類の反応ガスは、酸化剤としての酸素(O2)と燃料としての水素(H2)との2種類である。また、この作動ガス循環型エンジン1に用いられる作動ガスは、空気よりも比熱比の高いものであり、ここでは、単原子ガスのアルゴン(Ar)である。アルゴンは、燃焼室11において、酸素と水素との反応に伴って発生する反応熱、すなわち、水素の燃焼(発熱反応)に伴って発生する燃焼熱により膨張する。つまり、この作動ガス循環型エンジン1は、燃焼室11内で水素を燃焼させ、この水素の燃焼に伴ってアルゴンを熱膨張させて動力を発生させることで熱効率を向上するものである。
具体的には、この作動ガス循環型エンジン1は、図1に示すように、酸素、水素が反応する燃焼室11が設けられるエンジン本体10と、燃焼室11の排気側と吸気側とを繋ぐ循環経路20と、酸素、水素を供給する供給装置30と、除去装置としての凝縮器40と、制御装置としての電子制御装置50とを備える。
エンジン本体10は、複数種類の反応ガスとしての酸素及び水素と作動ガスとしてのアルゴンとが供給され、酸素、水素の反応に伴ってアルゴンが膨張可能であると共に、水素の燃焼後のガスとして水蒸気と作動ガスとを排気可能な燃焼室11を含んで構成される。燃焼室11は、シリンダヘッド12の下面と、シリンダブロック13のシリンダボア壁面と、ピストン14の頂面とによって囲まれ区画された空間として形成される。ピストン14は、コネクティングロッド15を介してクランクシャフト16に連結される。
エンジン本体10は、シリンダヘッド12に吸気ポート17と排気ポート18とが形成されている。吸気ポート17と排気ポート18とは、ともに循環経路20の一部をなし、それぞれ一端が燃焼室11に開口しこの燃焼室11と連通している。エンジン本体10は、吸気ポート17に吸気弁17aが設けられ、排気ポート18に排気弁18aが設けられる。吸気弁17a、排気弁18aは、例えば、クランクシャフト16の回転に連動して開閉駆動する。
循環経路20は、アルゴンを含む循環ガスを燃焼室11の排気側から吸気側に循環させ再び燃焼室11に供給可能なものである。この循環経路20、燃焼室11は、全体として、種々のシール部材などにより基本的には閉塞された空間をなし、作動ガス循環型エンジン1は、この循環経路20と燃焼室11とからなる閉塞された空間内に作動ガスとしてのアルゴンが充填される。
循環経路20は、上述の吸気ポート17及び排気ポート18と、さらに、循環通路21とを含んで構成される。循環通路21は、例えば、流体が通過可能な筒状の配管内通路として形成され、吸気ポート17と排気ポート18とを燃焼室11の外側で接続する。ここでは、循環通路21は、複数に分割されており、この分割された循環通路21の間に後述する凝縮器40が設けられている。循環通路21は、吸気側(例えば吸気管)が吸気ポート17の燃焼室11とは反対側の開口端部に接続され、排気側(例えば排気管)が排気ポート18の燃焼室11とは反対側の開口端部に接続される。
ここで、循環ガスとは、循環経路20を介して燃焼室11の排気側から吸気側に循環されるガスであり、作動ガスとしてのアルゴンの他、燃焼室11での水素の燃焼後に燃焼室11から排気される排気ガス等を含むものである。ここで、排気ガスとは、例えば、燃焼室11での水素の燃焼後に残留する余剰の酸素、水素などからなる余剰ガスや水素の燃焼に伴って生成される生成物としての水蒸気(H2O)などを含むものである。つまり、ここでの循環ガスは、作動ガスとしてのアルゴン、燃焼後の余剰の酸素、水素などからなる余剰ガス、水蒸気などを含むものである。
循環経路20は、アルゴンを含む循環ガスを循環通路21、吸気ポート17を介して燃焼室11に供給する。循環経路20を循環する循環ガスは、後述する酸素供給装置31からの酸素と共に吸気弁17aの開弁時に燃焼室11に吸気される。一方、循環経路20は、アルゴンと共に排気ガスが燃焼室11から排気ポート18、循環通路21に排出される。燃焼室11での水素の燃焼後の排気ガスは、アルゴンと共に排気弁18aの開弁時に排気ポート18に排気され、排気ガスとアルゴンとは、循環ガスとして循環経路20を循環し再び燃焼室11に吸気される。この循環経路20は、その経路中に後述する凝縮器40が設けられており、循環ガス中の水蒸気は、この凝縮器40によって大部分が取り除かれ循環系の外に排出される。
供給装置30は、複数種類の反応ガス、すなわち、酸素と水素とを燃焼室11又は循環経路20に供給するものである。供給装置30は、複数種類の反応ガスのうちの1つとして酸素を循環経路20に供給する酸素供給装置31と、複数種類の反応ガスのうちの1つとして酸素によって燃焼する水素を燃焼室11に供給する水素供給装置32とを含んで構成される。
酸素供給装置31は、循環経路20、ここでは吸気ポート17に酸素を供給する。酸素供給装置31は、酸素タンク31aに貯留されている高圧酸素を供給配管31b上のレギュレータ31c、サージタンク31dなどを介して噴射弁31eに供給し、この噴射弁31eから吸気ポート17内に向けて噴射して供給する。噴射弁31eは、吸気ポート17内を燃焼室11に向かって流れる循環ガス中に酸素を噴射する。また、酸素供給装置31は、サージタンク31dに酸素温度センサ31f、酸素圧力センサ31gが取り付けられている。
水素供給装置32は、燃焼室11に直接的に水素を供給する。水素供給装置32は、水素タンク32aに貯留されている高圧水素を供給配管32b上のレギュレータ32c、サージタンク32dなどを介して噴射弁32eに供給し、この噴射弁32eから燃焼室11内に向けて直接噴射して供給する。噴射弁32eは、燃焼室11内のガス中に水素を噴射する。また、水素供給装置32は、サージタンク32dに水素温度センサ32f、水素圧力センサ32gが取り付けられている。
凝縮器40は、循環経路20に設けられ、循環経路20を循環する循環ガスから酸素、水素の反応に伴って生成される生成物、すなわち、水蒸気を取り除くものである。凝縮器40は、冷却水循環路41に設けられた冷却水ポンプ42が駆動しラジエータ43にて冷却された冷却水が冷却水循環路41を流動してこの凝縮器40内部に移動することで、この冷却水と循環経路20を流れる循環ガスとが熱交換しこの循環ガスを冷却する。これにより、凝縮器40は、循環ガス中に含まれる水蒸気を液化・凝縮し凝縮水とし、循環ガスから水蒸気を分離する。そして、凝縮器40によって水蒸気が分離された循環ガスは、このまま循環経路20を循環し、凝縮器40内の底部に溜まった凝縮水は、排水制御弁44などを介して循環経路20の系外に排出される。
電子制御装置50は、CPU、ROM、RAM及びインターフェースを含む周知のマイクロコンピュータを主体とする電子回路であり、作動ガス循環型エンジン1の各部を制御するものである。電子制御装置50は、アクセル開度センサ60、クランク角度センサ61、酸素温度センサ31f、酸素圧力センサ31g、水素温度センサ32f、水素圧力センサ32gなどが検出したアクセル開度、クランクシャフト16の回転角度であるクランク角度、酸素温度、酸素供給圧力、水素温度、水素供給圧力などに対応した電気信号が入力される。例えば、電子制御装置50は、クランク角度に基づいて作動ガス循環型エンジン1の各気筒における吸気、圧縮、膨張(爆発)、排気の各行程を判別すると共に回転数を算出することができる。そして、電子制御装置50は、種々のセンサの検出結果に応じて噴射弁31e、32e、冷却水ポンプ42、排水制御弁44などに駆動信号を出力しこれらの駆動を制御する。
上記のように構成される作動ガス循環型エンジン1は、燃焼室11内に水素と酸素とを供給し、水素を拡散燃焼させるものとして例示する。すなわち、この作動ガス循環型エンジン1は、燃焼室11内に形成された高温の圧縮ガス(酸素及びアルゴン)の中に高圧の水素を噴射することにより、この水素の一部が自己着火し、水素と圧縮ガス(酸素)とが拡散混合しながら燃焼する。この燃焼室11内での水素の燃焼によって、燃焼室11の中では、水素と酸素が結合して水蒸気が生成されると共に、比熱比の大きいアルゴンが熱膨張を起こす。この結果、この作動ガス循環型エンジン1は、水素の拡散燃焼とアルゴンの熱膨張とによってピストン14が押し下げられ、このピストン14がシリンダボア内で往復運動を繰り返すことにより、吸気行程、圧縮行程、燃焼行程、排気行程を1つのサイクルとしてこのサイクルを繰り返し、この間、コネクティングロッド15とクランクシャフト16との作用によりピストン14の往復運動がクランクシャフト16の回転運動に変換され、これにより、作動ガス循環型エンジン1は、動力を発生する。
そして、作動ガス循環型エンジン1は、水素の燃焼とアルゴンの熱膨張とが一通り終わった際、排気弁18aの開弁に伴って、燃焼室11内から余剰ガスや水蒸気を含む排気ガスがアルゴンと共に排気ポート18に排出される。作動ガス循環型エンジン1は、余剰ガスや水蒸気を含む排気ガスとアルゴンとが循環ガスとして燃焼室11に向けて循環経路20を循環する際には、この循環ガス中の水蒸気が凝縮器40にて液化・凝縮され分離される。これにより、作動ガス循環型エンジン1は、比熱比の小さい水蒸気が燃焼室11に供給されず、比熱比の大きいアルゴンが燃焼室11へと再び供給されるので、作動ガスとしてのアルゴンによる熱効率の高い運転を行うことができる。
この間、電子制御装置50は、基本的には、運転者によるアクセルペダルの操作量に相当するアクセル開度やエンジン回転数等の運転状態に応じて、現在のエンジン回転数において、運転者が要求する駆動力(エンジン出力)を得ることができる水素、酸素の供給量を決定し、これに応じて酸素供給装置31、水素供給装置32による酸素、水素の供給量(噴射量)や供給時期(噴射時期)を制御する。
ところで、作動ガス循環型エンジン1は、例えば、エンジン本体10の暖機状態や運転負荷状態の変化、あるいは、外部環境温度の変化に伴って循環経路20内を循環する循環ガスの温度が変化した場合に、当該ガスが膨張あるいは収縮することで基本的には閉じた系をなす循環経路20内の圧力が過剰に変化するおそれがある。作動ガス循環型エンジン1は、例えば、運転が繰り返されることによってエンジン本体10が冷間状態から暖機された状態になったり、エンジン本体10が高負荷運転状態となり酸素と水素との燃焼で発生する発熱量が相対的に増加し燃焼室11から排気される排気ガスの温度が上昇したりすることで、循環経路20内を循環する循環ガスの温度が相対的に上昇する。逆に、作動ガス循環型エンジン1は、例えば、エンジン本体10の運転が停止しエンジン本体10が冷間状態になったり、エンジン本体10が低負荷運転状態となり酸素と水素との燃焼で発生する発熱量が相対的に減少し燃焼室11から排気される排気ガスの温度が低下したりすることで、循環経路20内を循環する循環ガスの温度が相対的に低下する。そして、この作動ガス循環型エンジン1は、燃焼室11から排出された作動ガスを燃焼室11の排気側から吸気側に循環させ再び燃焼室11に供給する際に、燃焼室11から排出された高温の作動ガスや排気ガスを含む循環ガスが基本的には循環経路20から系外へと放出されない構成であるから、上記のように循環ガスの温度が変化しこれに伴ってガスが膨張あるいは収縮すると、循環経路20内の圧力が変化することとなる。
そして、作動ガス循環型エンジン1は、例えば、循環経路20内の圧力が過剰に上昇し循環経路20の外部の圧力、すなわち、大気圧より過剰に大きくなると、循環経路20を構成する吸気ポート17、排気ポート18、循環通路21の各種通路配管やエンジン本体10を構成するシリンダヘッド12、シリンダブロック13などの繋ぎ目を介して、循環経路20の内部から循環経路20の外部へのアルゴンなどの意図しない漏洩を招くおそれがある。逆に、作動ガス循環型エンジン1は、例えば、循環経路20内の圧力が過剰に低下し大気圧より過剰に小さくなると、上記繋ぎ目を介して、循環経路20の外部から循環経路20の内部への空気の吸引、混入を招くおそれがある。ここで、このエンジンにおける理論熱効率ηeをあらわす式は、例えば、下記の数式(1)で表すことができる。数式(1)において、εは圧縮比、κは作動ガスの比熱比を表す。
ηe=1−ε(1−κ) ・・・ (1)
このため、作動ガス循環型エンジン1は、上記のように循環経路20内の圧力が過剰に変化することで、循環経路20からのアルゴンの漏洩や循環経路20への空気の混入が生じ、循環ガス中のアルゴンの比率が低下すると、結果的に作動ガス循環型エンジン1における熱効率が悪化するおそれがある。
そこで、本実施形態の作動ガス循環型エンジン1は、図1に示すように、電子制御装置50が循環経路20内の圧力に基づいて供給装置30から供給される少なくとも1種類の反応ガスの供給量を制御しこの循環経路20内の圧力を調節する圧力制御を実行することで、循環経路20内の過剰な圧力変化を抑制している。
電子制御装置50は、供給装置30から供給される複数種類の反応ガスのうちの1つの反応ガスの供給量を制御することでエンジン出力を目標の出力となるように調節し、他の1つの反応ガスの供給量を制御することで循環経路20内の圧力を目標の圧力となるように調節する。本実施形態の電子制御装置50は、水素供給装置32から供給される水素の供給量を制御しエンジン本体10の出力を調節する出力制御を実行し、酸素供給装置31から供給される酸素の供給量を制御し循環経路20内の圧力を調節する圧力制御を実行することで、エンジン出力の変化を抑制しつつ循環経路20内の過剰な圧力変化を抑制している。
具体的には、作動ガス循環型エンジン1は、圧力検出装置としての圧力センサ62と、濃度センサ63とを備える。電子制御装置50は、圧力センサ62が検出した循環経路20内の圧力に基づいて圧力制御を実行する。作動ガス循環型エンジン1は、電子制御装置50に機能概念的に取得判定部51と、水素供給制御部52と、酸素供給制御部53とが設けられている。
圧力センサ62は、循環経路20内の圧力を検出可能なものである。ここでは、圧力センサ62は、循環経路20内の圧力と共に、循環経路20の外部の大気圧も検出するものであり、例えば、循環経路20内の圧力と大気圧との差圧を検出可能な差圧センサであってもよい。濃度センサ63は、循環経路20を循環する循環ガス中の少なくとも1種類の反応ガスの濃度を検出可能なものである。ここでは、濃度センサ63は、圧力制御によってその供給量が制御される反応ガスの濃度、すなわち、循環ガス中の酸素濃度を検出する。圧力センサ62、濃度センサ63は、ともに循環経路20の圧力、濃度を検出する。電子制御装置50は、圧力センサ62、濃度センサ63が検出した循環経路20内の圧力と大気圧、酸素濃度などに対応した電気信号が入力される。
取得判定部51は、圧力制御や出力制御で用いられる種々の情報を取得したり、種々の判定を行ったりするものである。取得判定部51は、上記各種センサからの電気信号に応じてアクセル開度、エンジン回転数、循環経路20内の圧力と大気圧、循環経路20内の酸素濃度、供給配管31bの酸素温度及び酸素供給圧力、供給配管32bの水素温度及び水素供給圧力などを取得する。そして、取得判定部51は、これら取得した情報に基づいて種々の判定を行う。
水素供給制御部52は、取得判定部51が取得したアクセル開度、エンジン回転数、供給配管32bの水素温度及び水素供給圧力などに基づいて、水素供給装置32の噴射弁32eの駆動を制御し、水素供給装置32から供給される水素の供給量を制御するものである。水素供給制御部52は、水素供給装置32から供給される水素の供給量を制御することでエンジン本体10の出力を目標の出力となるように調節する出力制御を実行する。水素供給制御部52は、アクセル開度やエンジン回転数等の運転状態に応じて、現在のエンジン回転数において、運転者が要求する目標のエンジン出力を得ることができる水素の供給量を決定し、これに応じて水素供給装置32による水素の供給量(噴射量)や供給時期(噴射時期)を制御する。
酸素供給制御部53は、取得判定部51が取得した循環経路20内の圧力、大気圧、供給配管31bの酸素温度及び酸素供給圧力などに基づいて、酸素供給装置31の噴射弁31eの駆動を制御し、酸素供給装置31から供給される酸素の供給量を制御するものである。酸素供給制御部53は、酸素供給装置31から供給される酸素の供給量を制御することで循環経路20内の圧力を目標の圧力となるように調節する圧力制御を実行する。
ここで、圧力制御における循環経路20内の圧力の目標の圧力は、大気圧に対して、種々の繋ぎ目を介した循環経路20からのアルゴンの漏洩や循環経路20への空気の混入を防止できる程度で、所定の範囲を有して設定される。循環経路20内の圧力の目標の圧力は、例えば、大気圧に対して±数kPaから±10kpa程度の範囲を有して設定される。すなわち、酸素供給制御部53は、圧力センサ62が検出した循環経路20内の圧力と大気圧との差圧の絶対値が予め設定される所定値以下ここでは数kPaから10kpa以下となるように圧力制御を実行する。これにより、作動ガス循環型エンジン1は、圧力制御における目標の圧力の範囲を適正に設定することができ、繋ぎ目を介した循環経路20からのアルゴンの漏洩や循環経路20への空気の混入を防止した上で、圧力制御における目標の圧力の範囲が狭すぎることによる制御のばたつき、例えば、循環経路20内の圧力の急変化に対して酸素の供給量が急激に増減されることを抑制することができ、運転状態の急変に適正に対応することができる。
つまり、酸素供給制御部53は、圧力センサ62が検出した大気圧から循環経路20内の圧力を減算した差圧が所定値ここでは数kPaから10kpaより大きくなった場合、言い換えれば、圧力センサ62が検出した循環経路20内の圧力が大気圧から所定値を減算した圧力より低くなった場合に循環経路20内の圧力を上昇させる圧力制御を実行する。一方、酸素供給制御部53は、圧力センサ62が検出した循環経路20内の圧力から大気圧を減算した差圧が所定値ここでは数kPaから10kpaより大きくなった場合、言い換えれば、圧力センサ62が検出した循環経路20内の圧力が大気圧に所定値を加算した圧力より高くなった場合に循環経路20内の圧力を低下させる圧力制御を実行する。
そして、酸素供給制御部53は、循環経路20内の圧力を上昇させる圧力制御を実行する場合に、酸素供給装置31から供給される酸素(本発明の少なくとも1種類の反応ガスに相当)の供給量を燃焼室11での水素(本発明の他の反応ガスに相当)との反応の理論割合に応じた供給量より多い供給量に調節する。つまり、酸素供給制御部53は、循環経路20内の圧力が所定の範囲を有して設定される目標の圧力の下限値(上記の例では大気圧−数kPaから10kpa)より低くなった場合に、酸素供給装置31から供給される酸素を上記理論割合に応じた供給量より多い供給量に調節する。ここで、燃焼室11での水素との反応の理論割合に応じた酸素の供給量は、運転者が要求する目標のエンジン出力を得るべく水素供給制御部52がアクセル開度やエンジン回転数等に応じて決定した量の水素を過不足なく燃焼させることができる供給量である。燃焼室11での水素との反応の理論割合に応じた酸素の供給量は、典型的には、上記のように決定された水素の供給量に対してモル比で2分の1の供給量である。
この結果、作動ガス循環型エンジン1は、循環経路20内の圧力が所定より低下した場合に酸素供給制御部53が酸素供給装置31から供給される酸素を理論割合に応じた供給量より多い供給量に調節することで、燃焼室11での水素の燃焼後に残留する余剰の酸素の量が増加し燃焼室11から排気される排気ガス中の余剰ガスの量が増加する。よって、この作動ガス循環型エンジン1は、循環経路20を循環するガスの量を増加させることができ、これにより、循環経路20内の圧力を上昇させることができる。
一方、酸素供給制御部53は、循環経路20内の圧力を低下させる圧力制御を実行する場合に、酸素供給装置31から供給される酸素の供給量を燃焼室11での水素との反応の理論割合に応じた供給量より少ない供給量に調節する。つまり、酸素供給制御部53は、循環経路20内の圧力が所定の範囲を有して設定される目標の圧力の上限値(上記の例では大気圧+数kPaから10kpa)より高くなった場合に、酸素供給装置31から供給される酸素を上記理論割合に応じた供給量より少ない供給量に調節する。
この結果、作動ガス循環型エンジン1は、循環経路20内の圧力が所定より上昇した場合に酸素供給制御部53が酸素供給装置31から供給される酸素を理論割合に応じた供給量より少ない供給量に調節することで、燃焼室11での水素の燃焼において、酸素供給装置31から供給された酸素に加えて、上記理論割合に応じた酸素の供給量に対する不足分として、循環経路20を循環する循環ガス中に余剰ガスとして含有されている酸素が消費されることとなる。よって、この作動ガス循環型エンジン1は、循環ガス中の余剰ガスの量を減少させ循環経路20を循環するガスの量を減少させることができ、これにより、循環経路20内の圧力を低下させることができる。
このとき、作動ガス循環型エンジン1は、上記のように循環経路20内の圧力を低下させる圧力制御を実行することで、例えば、循環経路20内の圧力を上昇させる圧力制御を実行した際に増加した循環ガス中の余剰の酸素を循環経路20の外部に放出することなく、燃焼室11での水素の燃焼で消費することができることから、圧力制御に起因して酸素を無駄に消費してしまうことを防止することができる。
なお、酸素供給制御部53は、上記のように循環経路20内の圧力を低下させる圧力制御を実行する場合、循環経路20を循環する循環ガス中に、余剰ガスとして燃焼室11での水素の燃焼に必要な程度の所定量の酸素が含有されていることを条件に、酸素供給装置31から供給される酸素を上記理論割合に応じた供給量より少ない供給量に調節し循環経路20内の圧力を低下させる圧力制御を実行するようにするとよい。この場合、例えば、取得判定部51は、濃度センサ63からの電気信号に応じて循環経路20内の酸素濃度を取得し、この酸素濃度に基づいて循環ガス中に今回のサイクルの燃焼室11での水素の燃焼に必要な程度の所定量の酸素が含有されているか否かを判定する。そして、酸素供給制御部53は、取得判定部51が循環ガス中に上記所定量の酸素が含有されていると判定した場合に、循環経路20内の圧力を低下させる圧力制御を実行する。
上記のようにしてこの作動ガス循環型エンジン1は、電子制御装置50が酸素供給装置31からの酸素の供給量を調節し圧力制御を実行することで、例えば、エンジン本体10の暖機状態や運転負荷状態の変化、あるいは、外部環境温度の変化に伴って循環経路20内を循環する循環ガスの温度が変化し当該ガスが膨張あるいは収縮した場合であっても循環経路20内の過剰な圧力変化を抑制することができる。これにより、作動ガス循環型エンジン1は、循環経路20内の圧力が外部の圧力、すなわち、大気圧より過剰に高くなりすぎたりあるいは過剰に低くなりすぎたりすることを抑制し大気圧近傍で維持することができることから、種々の繋ぎ目を介した循環経路20の内部から循環経路20の外部へのアルゴンの漏洩や循環経路20の外部から循環経路20の内部への空気の吸引、混入を抑制することができる。この結果、作動ガス循環型エンジン1は、循環ガス中のアルゴンの比率が低下することを抑制することができ、この作動ガス循環型エンジン1における熱効率が悪化することを抑制することができる。
また、作動ガス循環型エンジン1は、例えば、循環経路20内の過剰な圧力変化を抑制するために循環ガスの一部を循環経路20から抜き取るための構成(例えば、ガス抜き通路や強制圧送手段としてのポンプ、貯留タンクなど)を別個に備えなくとも、酸素供給装置31から供給される酸素の供給量を調節するだけで圧力変化を抑制することができるので、作動ガス循環型エンジン1を構成する部品点数が多くなることを抑制することができる。このため、作動ガス循環型エンジン1は、大型化や重量の増加を抑制することができるので、車両への搭載性の悪化を抑制すると共に製造コストの増加を抑制することができる。
また、作動ガス循環型エンジン1は、循環経路20内の過剰な圧力変化を抑制することができることから、例えば、クランクシャフト16などの摺動部のシール性能を十分すぎるほどの余裕を有して確保する必要がない。一般に、このような作動ガス循環型エンジン1ではクランクシャフト16などの摺動部のシール性に比例してこの摺動部でのフリクションが増加する傾向にあるが、この作動ガス循環型エンジン1は、上記のように摺動部のシール性能を十分な余裕を有して確保する必要がないことから、この摺動部でのフリクションが増加することを抑制することができ、燃費を向上することができる。
また、作動ガス循環型エンジン1は、循環経路20内の圧力の過剰な上昇を抑制することができることから、例えば、循環経路20内の圧力の過剰な上昇に対して、循環通路21などの各種通路配管やエンジン本体10を構成するシリンダヘッド12、シリンダブロック13などの構造部材の耐圧強度を増すことでさらなる耐圧性能を確保する必要もない。よってこの点でも、作動ガス循環型エンジン1は、大型化や重量の増加を抑制することができるので、車両への搭載性の悪化を抑制すると共に製造コストの増加を抑制することができる。
また、作動ガス循環型エンジン1は、循環経路20内の圧力の過剰な上昇を抑制することができることから、例えば、燃焼室11内の最大筒内圧力が過剰に上昇することを抑制することができるので、構造部材の耐圧強度を増すことでさらなる耐圧性能を確保する必要もない。よってこの点でも、作動ガス循環型エンジン1は、大型化や重量の増加を抑制することができるので、車両への搭載性の悪化を抑制すると共に製造コストの増加を抑制することができる。
また、この作動ガス循環型エンジン1は、酸素供給装置31から供給される酸素の供給量を制御し循環経路20内の圧力を調節する圧力制御を実行していることから、上述のように燃焼室11での水素の燃焼後に残留し循環ガス中に含有されうる余剰の反応ガスは酸素である。一般に、分子径が相対的に小さい水素よりも分子径が相対的に大きい酸素の方が繋ぎ目を介して漏れにくい傾向にある。この作動ガス循環型エンジン1は、循環経路20を循環する循環ガス中に含有されうる余剰の反応ガスが酸素であるため、上記繋ぎ目等におけるシールが比較的に容易であり、よって、この点でも製造コストの増加を抑制することができる。また、作動ガス循環型エンジン1は、循環経路20を循環する循環ガス中に含有されうる余剰の反応ガスが酸素であるため、反応ガスが循環経路20内で着火することがない。
また、この作動ガス循環型エンジン1は、供給装置30をなす酸素供給装置31が循環経路20内の圧力を調節するために供給量が制御される反応ガスすなわち酸素を循環経路20ここでは吸気ポート17に供給する。これにより、作動ガス循環型エンジン1は、噴射弁31eから噴射される酸素と吸気ポート17を通る循環ガスとを予め混ぜ合わせてから燃焼室11に送り込ませることができ、例えば、燃焼室11に直接供給する場合と比較して、燃焼室11での水素の燃焼に対する圧力制御の影響を抑制することができ、燃焼室11での水素の燃焼を安定させることができる。また、作動ガス循環型エンジン1は、循環経路20内の圧力を調節するために供給量が制御される酸素を循環経路20に供給することから、例えば、後述するように運転停止中に圧力制御を実行する場合であっても、循環経路20に酸素を供給することができる。
ここで、この本実施形態の電子制御装置50は、燃焼室11にて複数種類の反応ガスの反応が行われている運転状態と、燃焼室11にて複数種類の反応ガスの反応が行われていない運転状態との両方の運転状態で圧力制御を実行するようにしてもよい。電子制御装置50は、燃焼室11にて酸素と水素との反応が行われている運転状態、すなわち、作動ガス循環型エンジン1が動力を出力している運転状態では運転時圧力制御を実行する。一方、電子制御装置50は、燃焼室11にて酸素と水素との反応が行われていない運転状態、すなわち、作動ガス循環型エンジン1の運転が停止した運転状態では停止時圧力制御を実行する。
作動ガス循環型エンジン1は、動力を出力している運転状態から運転が停止した状態に運転状態が移行すると、基本的には、循環経路20内のガス(厳密に言えば運転が停止した状態では循環経路20内のガスは循環していない。)の温度が相対的に低下する側に変化し、循環経路20内の圧力が低下する側に変化することがほとんどである。よってここでは、電子制御装置50が実行する停止時圧力制御は、基本的には、単純に酸素供給装置31から酸素を供給することで循環経路20内の圧力を上昇させる圧力制御である。この結果、作動ガス循環型エンジン1は、運転が停止しエンジン本体10が暖機された状態から冷間状態に移行するのに伴って循環経路20内のガスの温度が低下し収縮しても、循環経路20内の圧力が大気圧に対して過剰に低下することを防止することができ、運転の停止時であっても種々の繋ぎ目を介した循環経路20の外部から循環経路20の内部への空気の吸引、混入を抑制することができる。これにより、作動ガス循環型エンジン1は、運転時に作動ガス循環型エンジン1における熱効率が悪化することを抑制することができる。
次に、図2、図3のフローチャートを参照して作動ガス循環型エンジン1の運転時圧力制御、停止時圧力制御の一例を説明する。なお、これらの制御ルーチンは、数msないし数十ms毎の制御周期で繰り返し実行される。また、図3の停止時圧力制御は、作動ガス循環型エンジン1の運転停止後に常時実行されていてもよいし、タイマなどに応じて所定時間毎に実行されてもよい。
図2に示す運転時圧力制御では、まず、取得判定部51は、アクセル開度センサ60、クランク角度センサ61からの電気信号に応じてアクセル開度、エンジン回転数を取得する(S100)。
次に、水素供給制御部52は、S100にて取得判定部51が取得したアクセル開度、エンジン回転数に基づいて、例えば、記憶部に予め記憶されている供給量マップ(不図示)から現在のエンジン回転数において運転者が要求する目標のエンジン出力を得ることができる水素の供給量Aを算出する(S102)。
次に、酸素供給制御部53は、S102にて水素供給制御部52が算出した供給量Aの水素を燃焼させるための理論割合に応じた酸素の供給量B(モル比で供給量Aの2分の1の供給量)を算出する(S104)。
次に、取得判定部51は、圧力センサ62からの電気信号に応じて循環経路20内の圧力と大気圧を取得する(S106)。
次に、取得判定部51は、S106で取得した大気圧から循環経路20内の圧力を減算した差圧が所定値ここでは数kPaから10kpaより大きいか否かを判定する(S108)。
酸素供給制御部53は、取得判定部51により大気圧から循環経路20内の圧力を減算した差圧が所定値より大きいと判定された場合(S108:Yes)、S104で算出した酸素の供給量Bを予め設定された量だけ増量して設定する(S110)。そして、水素供給制御部52、酸素供給制御部53は、S102で算出した水素の供給量A、S110で増量設定した酸素の供給量Bに基づいて、酸素供給装置31、水素供給装置32を制御し水素、酸素の供給を実行し(S112)、現在の制御周期を終了し、次の制御周期に移行する。
取得判定部51は、S108にて、大気圧から循環経路20内の圧力を減算した差圧が所定値以下であると判定した場合(S108:No)、次に、循環経路20内の圧力から大気圧を減算した差圧が所定値より大きいか否かを判定する(S114)。
取得判定部51は、循環経路20内の圧力から大気圧を減算した差圧が所定値より大きいと判定した場合(S114:Yes)、次に、濃度センサ63からの電気信号に応じて循環経路20内の酸素濃度を取得し、この酸素濃度に基づいて循環ガス中の酸素量が今回のサイクルの燃焼室11での水素の燃焼に必要な程度の所定量以上であるか否かを判定する(S116)。
酸素供給制御部53は、取得判定部51により循環ガス中の酸素量が所定量以上であると判定された場合(S116:Yes)、S104で算出した酸素の供給量Bを予め設定された量だけ減量して設定する(S118)。そして、水素供給制御部52、酸素供給制御部53は、S102で算出した水素の供給量A、S118で減量設定した酸素の供給量Bに基づいて、酸素供給装置31、水素供給装置32を制御し水素、酸素の供給を実行し(S112)、現在の制御周期を終了し、次の制御周期に移行する。
水素供給制御部52、酸素供給制御部53は、S114にて循環経路20内の圧力から大気圧を減算した差圧が所定値以下であると判定された場合(S114:No)、S116にて循環ガス中の酸素量が所定量より少ないと判定された場合(S116:No)、S102で算出した水素の供給量A、S104で算出した酸素の供給量Bに基づいて、酸素供給装置31、水素供給装置32を制御し水素、酸素の供給を実行し(S112)、現在の制御周期を終了し、次の制御周期に移行する。
図3に示す停止時圧力制御では、まず、取得判定部51は、種々の電気信号に基づいて、現在、作動ガス循環型エンジン1の運転が停止した状態であるか否か、すなわち、燃焼室11にて酸素と水素との反応が行われていない運転状態であるか否かを判定する(S200)。
取得判定部51は、作動ガス循環型エンジン1の運転が停止した状態であると判定した場合(S200:Yes)、圧力センサ62からの電気信号に応じて循環経路20内の圧力と大気圧を取得する(S202)。
次に、取得判定部51は、S202で取得した大気圧から循環経路20内の圧力を減算した差圧が所定値ここでは数kPaから10kpaより大きいか否かを判定する(S204)。
酸素供給制御部53は、取得判定部51により大気圧から循環経路20内の圧力を減算した差圧が所定値より大きいと判定された場合(S204:Yes)、酸素供給装置31を制御し予め設定された量の酸素の供給を実行し(S206)、現在の制御周期を終了し、次の制御周期に移行する。
取得判定部51は、S200にて作動ガス循環型エンジン1の運転が停止した状態でないと判定した場合(S200:No)、S204にて大気圧から循環経路20内の圧力を減算した差圧が所定値以下であると判定した場合(S204:No)、現在の制御周期を終了し、次の制御周期に移行する。
次に、図4のタイムチャートを参照して作動ガス循環型エンジン1の動作の一例を説明する。本図では、横軸を時間軸とし、縦軸を循環ガスの圧力、循環ガス中の酸素量、循環ガス温度としている。図中、実線は圧力制御有りの場合、点線は圧力制御無しの場合を示している。
この図4に示す例では、作動ガス循環型エンジン1は、時刻t4で始動(燃焼室11での酸素と水素との反応が開始)し時刻t9で停止(燃焼室11での酸素と水素との反応が停止)している。作動ガス循環型エンジン1は、時刻t4以前の停止状態では、外気温度の変化に伴った循環ガス温度の低下に応じて電子制御装置50が停止時圧力制御を実行する。ここでは、電子制御装置50は、時刻t1から時刻t2にかけた循環ガス温度の低下に伴って酸素供給装置31を制御し予め設定された量の酸素を供給する圧力制御を実行している。一方、電子制御装置50は、時刻t2から時刻t4までは酸素の供給を停止している。
そして、作動ガス循環型エンジン1は、時刻t4の始動から時刻t9の停止までの運転状態では、エンジン本体10の暖機状態や運転負荷状態の変化に伴った循環ガス温度の変化に応じて電子制御装置50が運転時圧力制御を実行する。ここでは、電子制御装置50は、時刻t4から時刻t5にかけた暖機運転時、時刻t6から時刻t7にかけた加速運転時の循環ガス温度の上昇に伴って酸素供給装置31を制御し酸素の供給量を水素との理論割合に対して減量する圧力制御を実行している。また、電子制御装置50は、時刻t7から時刻t8にかけた減速運転時の循環ガス温度の低下に伴って酸素供給装置31を制御し酸素の供給量を水素との理論割合に対して増量する圧力制御を実行している。また、電子制御装置50は、時刻t5から時刻t6にかけた定常運転時、時刻t8から時刻t9にかけた定常運転時には酸素供給装置31を制御し酸素の供給量を水素との理論割合と同等とする圧力制御を実行している。
そして、作動ガス循環型エンジン1は、時刻t9以降の停止状態では、エンジン本体10の自然徐冷に伴った循環ガス温度の低下に応じて電子制御装置50が停止時圧力制御を実行する。ここでは、電子制御装置50は、時刻t9から時刻t10にかけた循環ガス温度の低下に伴って酸素供給装置31を制御し予め設定された量の酸素を供給する圧力制御を実行している。
この結果、作動ガス循環型エンジン1は、燃焼室11にて酸素と水素との反応が行われている運転状態と燃焼室11にて酸素と水素との反応が行われていない運転状態との両方の運転状態で循環経路20内の過剰な圧力変化を抑制することができる。
以上で説明した本発明の実施形態に係る作動ガス循環型エンジン1によれば、複数種類の反応ガスと空気より比熱比の高い作動ガスとが供給され、複数種類の反応ガスの反応に伴って作動ガスが膨張可能である燃焼室11と、作動ガスを含むガスを燃焼室11の排気側から吸気側に循環させ再び燃焼室11に供給可能であると共に、循環するガスから反応に伴って生成される生成物を取り除く凝縮器40が設けられた循環経路20と、複数種類の反応ガスを燃焼室11又は循環経路20に供給可能な供給装置30と、循環経路20内の圧力を検出可能な圧力センサ62と、圧力センサ62が検出した循環経路20内の圧力に基づいて供給装置30から供給される少なくとも1種類の反応ガスの供給量を制御しこの循環経路20内の圧力を調節する圧力制御を実行する電子制御装置50とを備える。したがって、上記の作動ガス循環型エンジン1は、電子制御装置50が循環経路20内の圧力に基づいて酸素の供給量を制御し圧力制御を実行することで、循環経路20を循環するガスの量を調節することができ循環経路20内の圧力を調節することができるので、循環経路20内の過剰な圧力変化を抑制することができる。
なお、上述した本発明の実施形態に係る作動ガス循環型エンジンは、上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。
以上で説明した電子制御装置50は、例えば、圧力センサ62が検出した循環経路20内の圧力が大気圧より予め設定された所定値の範囲内で大きくなるように圧力制御を実行するように構成してもよい。図5は、変形例に係る作動ガス循環型エンジンの運転時圧力制御の一例を説明するフローチャートである。ここでは、図2で説明した運転時圧力制御と同様なステップについてはその説明をできるだけ省略する。この場合、電子制御装置50の取得判定部51は、圧力センサ62からの電気信号に応じて循環経路20内の圧力と大気圧を取得した後(S106)、S106で取得した循環経路20内の圧力と大気圧とを比較し循環経路20内の圧力が大気圧以下であるか否かを判定する(S108a)。酸素供給制御部53は、取得判定部51により循環経路20内の圧力が大気圧以下であると判定された場合(S108a:Yes)、S104で算出した酸素の供給量Bを増量して設定する(S110)。一方、取得判定部51は、循環経路20内の圧力が大気圧より大きいと判定した場合(S108a:No)、次に、循環経路20内の圧力から大気圧を減算した差圧が所定値より大きいか否かを判定する(S114)。
この場合、作動ガス循環型エンジン1は、電子制御装置50によって、循環経路20内の圧力が大気圧より予め設定された所定値の範囲内で大きくなるように圧力制御が実行されることから、繋ぎ目を介した循環経路20への空気の混入を確実に防止することができる。この作動ガス循環型エンジン1は、例えば、仮に循環経路20からアルゴンが漏洩した場合であっても比較的少量のアルゴン(すなわち漏洩した分のアルゴン)を循環経路20内に補充することで作動ガス循環型エンジン1における熱効率を回復することができるが、仮に循環経路20へ空気が混入した場合、熱効率を回復するためには比較的多量のアルゴンを循環経路20内に補充し置換する必要がある。この点、作動ガス循環型エンジン1は、電子制御装置50によって、循環経路20内の圧力が大気圧より予め設定された所定値の範囲内で大きくなるように圧力制御を実行した場合、繋ぎ目を介した循環経路20への空気の混入を確実に防止することができることから、仮に熱効率を回復するために循環経路20内へのアルゴンの補充が必要になった場合でもその補充量を比較的少量にすることができる。
以上で説明した制御装置は、循環経路内の圧力と大気圧との差圧に基づいて圧力制御を行うものとして説明したが、単純に圧力検出装置が検出した循環経路内の圧力に基づいて圧力制御を行ってもよい。以上で説明した制御装置は、酸素供給装置から供給される酸素の供給量を制御しエンジン出力を調節する出力制御を実行し、水素供給装置から供給される水素の供給量を制御し循環経路内の圧力を調節する圧力制御を実行するようにしてもよく、この場合であっても上記と同様に適正に循環経路20内の過剰な圧力変化を抑制することができる。
以上で説明した作動ガス循環型エンジンは、燃料としての水素を循環経路20の吸気ポート17に噴射する構成であってもよいし、酸化剤としての酸素を燃焼室11内に直接噴射する構成であってもよい。以上で説明した作動ガス循環型エンジンは、燃料としての水素を拡散燃焼させるものとして例示したが、燃料に対して図示しない点火プラグで点火して、いわゆる、火花点火燃焼させる形態のものであってもよく、その燃料に対して点火プラグで点火して着火の補助を行い拡散燃焼させる形態のものであってもよい。
以上で説明した複数種類の反応ガスは、酸化剤としての酸素と燃料としての水素とに限らず、燃焼室にて反応に伴って作動ガスを膨張させることができると共に反応に伴って生成物を生成する複数種類のガス(気体)であればよい。また、以上で説明した作動ガスは、アルゴンに限らず、例えば単原子ガスであるヘリウム(He)等の希ガスであってもよい。