JP4967997B2 - 熱可塑性樹脂フィルムの製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、熱可塑性樹脂フィルムの製造方法に関し、特に、シート状熱可塑性樹脂を縦方向に延伸する工程を含む熱可塑性樹脂フィルムの製造方法に関する。更に詳細には、擦り傷が少なく平滑で高品位の熱可塑性樹脂フィルムを効率良く製造する方法に関する。
熱可塑性樹脂フィルムは、その機械的特性から光学用および電子機器用に広く利用されている。これらの用途では、特に擦り傷などの欠点は致命的な欠陥となる。また、近年の表示装置の高画質化および高精細化ならびに電子機器の精密化に伴い、欠点となりうる微小な傷が従来以上に少ないフィルムを安定的に供給することが強く求められている。
熱可塑性樹脂フィルムを製造する際には、冷却、延伸および巻き取りなど一連の工程においてフィルムはロールに接しながら流れ方向(縦方向)に進行する。しかしながら、このようにフィルムとロールとが接するときの最大の問題点は、ロールの表面速度(周速度)とフィルムの線速度とが完全には一致しないことにより、フィルムがロール上を微小に滑り、フィルム表面に擦り傷が生じることである。特に、予熱、延伸および冷却などのステップを含む縦延伸工程では、フィルムに急激な温度変化が加わるため、フィルムの膨張および変形等に起因するフィルムの線速度の変動が生じやすい。加えて、縦延伸工程では多数のロールが使用されており、ロールによる擦り傷が生じやすい。
縦延伸工程におけるロールの駆動方法としては、従来、たとえばロールを一定速度で回転させる方法が採用されている。しかしながら、常に一定速度でロールを回転させる方法では、縦延伸工程において発生するフィルムの線速度の変動にロールを追従させることができない。すなわち、フィルムの進行速度とフィルムを送るロールの回転速度とが一致しなくなるため、フィルムとロールとの間で滑りが生じることによりフィルム表面に擦れ傷が生じてしまう。
このような問題点を解決するために、摩擦の少ないフリーロールを用いる方法が提案されている(たとえば、特許文献1および特許文献2参照)。
なお、フィルムを製造するための構成ではないが、特許文献3および特許文献4には、ロールを用いてシートを送る構成が開示されている。
特開2005−329720号公報 特開2003−251692号公報 特開平5−213505号公報 特許第2591396号公報
しかしながら、フリーロールを用いる方法では、長期連続運転および老朽化により生じたロールのメカロス(機械損失)の変化に対応できないため、フィルムの進行速度とロールの回転速度とが一致しなくなる状況が生じ、フィルムの傷が発生しやすくなる。また、このようなメカロスの変化に対応するために、定期的にメカロスを測定して問題のあるロールを交換する必要があり、管理コストが増大してしまう。さらに、縦延伸工程でフィルムを予熱するためのロールおよび冷却するためのロールにおいて、シャフトとロール外筒間に特殊なロール構造を持たせる必要があり、フィルム製造装置が複雑化してしまう。また、フリーロールを用いても完全に回転抵抗をゼロにすることはできず、特に大型のフィルム製造装置では回転抵抗は大きくなる。そのため、ロールを一定速度で回転させる方法と比べてフィルムに対する張力が大きくなり、厚みの薄いフィルムおよび機械的強度の低いフィルムでは、ロールによる張力に耐えることができず、フリーロールが適用できない場合があった。
それゆえに、本発明の目的は、フィルムの傷の発生を抑制し、管理コストの増大を防ぎ、かつフィルム製造装置の複雑化を防ぎ、広い適用範囲を実現する、安定で効率的な熱可塑性樹脂フィルムの製造方法を提供することである。
上記課題を解決するために、この発明のある局面に係わる熱可塑性樹脂フィルムの製造方法は、熱可塑性樹脂を溶融しながら押し出すことによりシート状熱可塑性樹脂を形成する工程と、形成されたシート状熱可塑性樹脂を縦方向に延伸する工程と、形成されたシート状熱可塑性樹脂を横方向に延伸する工程と、縦方向および横方向に延伸されたシート状熱可塑性樹脂を熱固定する工程とを含み、シート状熱可塑性樹脂を縦方向に延伸する工程は、第1のロール群を比例制御により回転させてシート状熱可塑性樹脂を送ることにより、シート状熱可塑性樹脂を予熱する工程と、各々のロールの回転速度が異なる第2のロール群を比例積分制御で回転させることにより、予熱されたシート状熱可塑性樹脂を延伸する工程とを含む。
好ましくは、シート状熱可塑性樹脂を縦方向に延伸する工程は、さらに、第3のロール群を比例制御により回転させて延伸されたシート状熱可塑性樹脂を送ることにより、延伸されたシート状熱可塑性樹脂を冷却する工程を含む。
好ましくは、シート状熱可塑性樹脂を予熱する工程においては、第1のロール群の回転速度目標値と第1のロール群の回転速度との偏差に比例する第1の制御値を算出し、第1の制御値と第1のロール群の回転に対する機械損失を補償するための第2の制御値とに基づいて第1のロール群を回転させる。
またこの発明のさらに別の局面に係わる熱可塑性樹脂フィルムの製造方法は、熱可塑性樹脂を溶融しながら押し出すことによりシート状熱可塑性樹脂を形成する工程と、形成されたシート状熱可塑性樹脂を縦方向に延伸する工程と、形成されたシート状熱可塑性樹脂を横方向に延伸する工程と、縦方向および横方向に延伸されたシート状熱可塑性樹脂を熱固定する工程とを含み、シート状熱可塑性樹脂を縦方向に延伸する工程は、各々のロールの回転速度が異なる第1のロール群を比例積分制御で回転させることにより、予熱されたシート状熱可塑性樹脂を延伸する工程と、第2のロール群を比例制御により回転させて延伸されたシート状熱可塑性樹脂を送ることにより、延伸されたシート状熱可塑性樹脂を冷却する工程とを含む。
好ましくは、シート状熱可塑性樹脂を冷却する工程においては、第2のロール群の回転速度目標値と第2のロール群の回転速度との偏差に比例する第1の制御値を算出し、第1の制御値と第2のロール群の回転に対する機械損失を補償するための第2の制御値とに基づいて第2のロール群を回転させる。
本発明によれば、フィルムの傷の発生を抑制し、管理コストの増大を防ぎ、かつフィルム製造装置の複雑化を防ぎ、広い適用範囲を実現し、かつ熱可塑性樹脂フィルムを安定で効率的に製造することができる。
本発明の実施の形態に係る熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリメチレンテレフタレート、および共重合成分として、たとえば、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコールなどのポリエステルなどを用いることができる。また、ポリエステルについては、ポリアルキレングリコールなどのジオール成分、ならびにアジピン酸、セバチン酸、フタル酸、イソフタル酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸などのジカルボン酸成分などを共重合したものも好適に使用できる。これらのなかでも、本発明に用いる熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンテレフタレートおよびポリエチレン−2,6−ナフタレートが機械的特性の点で好ましい。
本発明の実施の形態に係る熱可塑性樹脂製造方法においてポリエステルを用いる場合は、極限粘度は、0.5〜0.8dl/gが好ましい。極限粘度が0.5dl/g未満の場合、フィルムを延伸する際に破断することがあるため好ましくない。逆に、0.8dl/gを超える場合、ポリエステルを押出機で溶融混練する際、せん断発熱により樹脂温度が上昇して、低分子量物が発生しやすくなるため好ましくない。なお、極限粘度はフェノール/テトラクロロエタン=60/40(重量比)の混合溶媒にポリエステルを溶解し、オストワルド粘度計を用いて、30℃で測定することにより求める。
本発明の実施の形態に係る熱可塑性樹脂フィルムの製造方法は、押出機から溶融した熱可塑性樹脂を押し出すことによりシート状熱可塑性樹脂を形成するフィルム化工程と、そのフィルム化工程で得られるシート状熱可塑性樹脂を縦方向に延伸する縦延伸工程と、横方向に延伸する横延伸工程と、二軸延伸後すなわち縦方向および横方向に延伸された後のシート状熱可塑性樹脂(本発明の実施の形態においては、延伸されたシート状熱可塑性樹脂を熱可塑性樹脂フィルムとも称する)を熱固定する熱固定工程とを含む。
本発明の実施の形態に係るフィルム化工程では、たとえば、押出機から吐出された溶融樹脂を押し出し、回転する冷却ロールにより溶融樹脂をシート状に冷却固化する。溶融樹脂を冷却ロールに密着させる方法としては、ポリエステル溶融樹脂シートに直流高電圧を印加することにより静電気力を発生し、この静電気力によりポリエステル溶融樹脂シートを冷却ロールに密着させて急冷固化する方法がある。また、エアーナイフ等の空気の静圧によりポリエステル溶融樹脂シートを冷却ロールに密着させて急冷固化する方法がある。また、2本以上の冷却ロールにてポリエステル溶融樹脂シートを挟むことにより物理的に冷却ロールに密着させて急冷固化する方法がある。
冷却固化させる際の冷却ロールの温度は、溶融樹脂シートを冷却できれば、特に限定しないが、冷却効率を高めることと冷却ロールへの水滴の結露を抑制することを両立させるため10〜40℃が好ましい。
本発明の実施の形態に係る縦延伸工程では、上記により得られた未延伸のシート状熱可塑性樹脂を縦方向(製造におけるフィルムの進行方向。長手方向ともいう。)に延伸する。ポリエステルフィルムの場合、具体的には、上記により得られたポリエステルシートを80〜120℃に加熱した後、ロールの周速差を利用して縦方向に2.5〜5.0倍延伸して、一軸延伸ポリエステルフィルムを得ることができる。この延伸は1段階で行なってもよく、また、多段階で行なってもよい。このような方式の縦延伸では、走行するシート状熱可塑性樹脂が接触するロールが、予熱、延伸および冷却の目的のために複数本配列される。これらロール群の制御方法については更に後述する。
次いで、必要に応じて一軸延伸ポリエステルフィルムの片面、若しくは両面に、樹脂塗布層を設ける。この樹脂塗布層により一軸延伸ポリエステルフィルムに易滑性を付与してもよく、また、光学用加工を施す際の加工性向上のため、接着性を付与してもよい。また、本発明の実施の形態に係る熱可塑性樹脂フィルムを透明性が高度に要求される用途に使用する場合、熱可塑性樹脂フィルム中には、透明性を低下させる原因となる粒子を実質的に含有させず、塗布層に粒子を含有させる構成とすることが好ましい。
前記の「熱可塑性樹脂フィルム中には、粒子を実質的に含有させず」とは、たとえば無機粒子の場合、ケイ光X線分析で無機元素を定量した場合に50ppm以下、好ましくは10ppm以下、最も好ましくは検出限界以下となる含有量を意味する。これは、積極的に粒子を基材フィルム中に添加させなくても、外来異物由来のコンタミ成分がフィルム中に混入する場合があるためである。また、原料樹脂あるいはフィルムの製造工程におけるラインおよび装置に付着した汚れが剥離して、フィルム中に混入する場合があるためである。基材フィルム中に粒子を添加せず、基材フィルムに滑り性を付与しない場合は、ロールによる擦り傷が生じやすくなるので、本発明の実施の形態に係る熱可塑性樹脂フィルムの製造方法を好適に用いることができる。
本発明の実施の形態に係る横延伸工程では、上記により得られた一軸延伸熱可塑性樹脂フィルムを横方向(製造におけるフィルムの進行方向に略直交する方向。幅方向ともいう)に延伸する。ポリエステルフィルムの場合、具体的には、上記により得られた一軸延伸熱可塑性樹脂フィルムの端部をクリップで把持して、80〜180℃に加熱された熱風ゾーンに導き、塗布液を乾燥後、横方向に2.5〜5.0倍に延伸することができる。
さらに、本発明の実施の形態に係る熱固定工程は、上記により得られた二軸延伸熱可塑性樹脂フィルムに熱処理を行なう。ポリエステルフィルムの場合、具体的には、上記により得られたフィルムを、引き続き220〜240℃の熱処理ゾーンに導き、1〜20秒間の熱固定処理を行なうことにより、二軸延伸ポリエステルフィルムを得ることができる。この熱固定処理工程中では、必要に応じて、横方向あるいは縦方向に1〜12%の緩和処理を施してもよい。また、熱固定処理工程後に、縦方向および/または横方向に再延伸することにより、フィルムの配向を高めてもよい。
本発明の実施の形態に係る熱可塑性樹脂フィルムの厚みの下限は、5μm以上が好ましく、10μm以上がさらに好ましい。本発明の実施の形態に係る熱可塑性樹脂フィルムの製造方法は、フリーロールを用いる方法と比べてフィルムに張力負荷が掛りにくいため、熱可塑性樹脂フィルムの厚みが50μm未満であっても、5μm以上であれば適用可能である。また、本発明の実施の形態に係る熱可塑性樹脂フィルムの厚みの上限は特に限定しないが、取り扱い性の点から300μm以下であることが好ましい。本発明の実施の形態に係る熱可塑性樹脂フィルムの層構成は限定しないが、単層および多層のいずれにおいても適用できる。
[本発明の縦延伸工程]
本発明の実施の形態に係る縦延伸工程は、シート状熱可塑性樹脂を熱可塑性樹脂の[ガラス転移点(Tg)−10]℃以上に予熱する予熱工程と、Tg以上の加熱下でロールの周速差を利用してシート状熱可塑性樹脂を延伸する延伸工程と、延伸後のシート状熱可塑性樹脂をTg以下に冷却する冷却工程とを有する。各工程では2本以上の複数のロール(ロール群)を用いる。本発明者は、前述の課題を解決する為に、鋭意検討を行なった結果、縦延伸工程のロール駆動の制御方法について以下に述べる手段をとることで、フィルム表面に発生する擦り傷の数が顕著に抑制されることを見い出し、本発明に至った。
(1)予熱工程および/または冷却工程のロール群の比例制御
本発明の実施の形態に係る熱可塑性樹脂フィルムの製造方法では、予熱工程および/または冷却工程で用いるロール群の各ロールを比例制御により回転駆動させることを特徴とする。予熱工程および冷却工程ではフィルムの温度変化が大きくなるため、フィルムの膨張および収縮などに起因する張力変化が生じやすい。そこで、かかる工程のロールについて、比例制御を行なうことで、ロールの周速度の速度偏差があってもこの速度偏差を補正するような制御動作が行われないようにした。これにより、フィルムの張力変動が生じても、この張力変動に応じてロールが連れ回り、ロールの表面速度(周速度)とフィルムの線速度とが同調するため、滑り傷の発生が抑制される。また、張力変化がない場合は、ロールは一定速度で回転駆動する。このため、フリーロールと異なり、フィルムの保持張力でロールを駆動する必要がなく、フィルムの薄膜化およびフィルム製造装置の大型化が可能になる。さらに、フリーロールと異なり、特殊なロール構造を必要とせず、メンテナンスが簡便で、個別のロールの取り付けが容易となる。
(2)延伸工程のロール群の比例積分制御
本発明の実施の形態に係る熱可塑性樹脂フィルムの製造方法では、延伸工程で用いるロール群の各ロールを比例積分制御により回転駆動させる。延伸工程では、加熱装置による加温下で回転速度の異なる複数のロールによりフィルムを延伸する。均一な特性を有するフィルムを安定的かつ連続的に製造する為には、フィルムの延伸倍率を正確に制御する必要がある。その為、延伸工程のロール群については比例積分制御により各ロールが一定の回転速度で駆動されることが重要である。これにより、本発明の実施の形態に係る熱可塑性樹脂フィルムの製造方法では、フィルムの厚みを正確に設定することが可能となる。なお、比例積分制御により各ロールを回転駆動する場合は、ニップロールなどを設置することでフィルムとロールの滑りを生じ難くすることにより、フィルムの滑り傷を生じ難くする構成も好ましい実施形態である。
(3)比例制御におけるメカロス補償
本発明の実施の形態に係る熱可塑性樹脂フィルムの製造方法では、比例制御によるロールの回転駆動においてメカロス補償を行なうことが望ましい。比例制御方式では連続運転および機台の劣化によりメカロスの変化によるモータートルクの過不足が生じる。そこで、本発明の実施の形態に係る熱可塑性樹脂フィルムの製造方法では、あらかじめモータ速度に応じたメカロスを測定し、速度制御の結果をトルクの出力に加えることでメカロスの影響が0になるようにメカロスの補償を行なうことが望ましい。これにより、長期に安定したフィルムの生産が可能になる。また、かかるメカロス制御では、各モータの回転速度を変化させ、各回転速度におけるメカロスに関するデータを収集し、自動学習を行なうことが可能である。そのため、フリーロールにおけるような煩雑なトルク管理が不要であり、メカロス変化に応じて定期的にロールを交換する必要がなく経済的である。
次に、縦延伸工程について具体的な態様を詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る二軸延伸フィルム製造装置における縦延伸機8の構成を示す図である。
図1を参照して、縦延伸機8は、インバータIA1〜IA3,IB1〜IB3,IC1〜IC3と、モータMA1〜MA3,MB1〜MB3,MC1〜MC3と、速度センサPA1〜PA3,PB1〜PB3,PC1〜PC3と、ロールRA1〜RA3,RB1〜RB3,RC1〜RC3と、温度調整ユニット21,23と、加熱装置22とを含む。以下、インバータIA1〜IA3,IB1〜IB3,IC1〜IC3の各々をインバータINVと称する場合がある。また、速度センサPA1〜PA3,PB1〜PB3,PC1〜PC3の各々を速度センサPGと称する場合がある。また、ロールRA1〜RA3,RB1〜RB3,RC1〜RC3の各々をロールRと称する場合がある。また、モータMA1〜MA3,MB1〜MB3,MC1〜MC3の各々をモータMと称する場合がある。
縦延伸工程は、予熱工程と、延伸工程と、冷却工程とを含む。予熱工程においては、ロールRA1〜RA3を回転させてシート状熱可塑性樹脂FLを把持しながら送ることによりシート状熱可塑性樹脂FLを予熱する。また、ロールRA1〜RA3の回転速度を比例制御する。
より詳細には、速度センサPA1〜PA3は、モータMA1〜MA3の回転速度をそれぞれ検出する。本発明の実施の形態に係る二軸延伸フィルム製造装置における制御部(図示せず)は、操作部11から受けた操作信号に基づいて、回転速度目標値およびゲインをインバータIA1〜IA3へそれぞれ出力する。また、制御部は、操作部11から受けた操作信号および速度センサPA1〜PA3による速度検出結果に基づいて、メカロス補正値をインバータIA1〜IA3へそれぞれ出力する。
インバータIA1〜IA3は、制御部から受けた回転速度目標値、ゲインおよびメカロス補正値と、速度センサPA1〜PA3による速度検出結果とに基づいて、駆動電流をそれぞれモータMA1〜MA3に供給する。
モータMA1〜MA3は、インバータIA1〜IA3から受けた駆動電流に基づいてロールRA1〜RA3を回転させる。
また、温度調整ユニット21は、たとえばロールRA1〜RA3を通して温水を循環させることにより、ロールRA1〜RA3を加熱する。これにより、ロールRA1〜RA3に巻きついて送られるシート状熱可塑性樹脂FLが予熱される。
予熱工程の次の延伸工程においては、ロールRB1〜RB3を回転させてシート状熱可塑性樹脂FLを把持しながら送ることによりシート状熱可塑性樹脂FLを縦方向に延伸する。また、ロールRB1〜RB3の回転速度を比例積分制御する。
より詳細には、速度センサPB1〜PB3は、モータMB1〜MB3の回転速度をそれぞれ検出する。制御部は、操作部11から受けた操作信号に基づいて、回転速度目標値、ゲインおよび積分時間をインバータIB1〜IB3へそれぞれ出力する。また、制御部は、操作部11から受けた操作信号および速度センサPB1〜PB3による速度検出結果に基づいて、メカロス補正値をインバータIB1〜IB3へそれぞれ出力する。
インバータIB1〜IB3は、制御部から受けた回転速度目標値、ゲイン、積分時間およびメカロス補正値と、速度センサPB1〜PB3による速度検出結果とに基づいて、駆動電流をそれぞれモータMB1〜MB3に供給する。
モータMB1〜MB3は、インバータIB1〜IB3から受けた駆動電流に基づいてロールRB1〜RB3を回転させる。
また、制御部は、ロールRB1〜RB3の回転速度に差が生じるようにインバータIB1〜IB3への回転速度目標値SVをそれぞれ設定する。また、加熱装置22は、たとえば電気ヒータであり、ロールRB1〜RB3を予熱工程におけるロールRA1〜RA3と比べて高温に加熱する。これにより、ロールRB1〜RB3の回転速度差によってシート状熱可塑性樹脂FLに対する張力が高温下において生じ、この張力によってシート状熱可塑性樹脂FLが縦方向に延伸される。
延伸工程の次の冷却工程においては、ロールRC1〜RC3を回転させてシート状熱可塑性樹脂FLを把持しながら送ることによりシート状熱可塑性樹脂FLを冷却する。また、ロールRC1〜RC3の回転速度を比例制御する。
より詳細には、速度センサPC1〜PC3は、モータMC1〜MC3の回転速度をそれぞれ検出する。制御部は、操作部11から受けた操作信号に基づいて、回転速度目標値およびゲインをインバータIC1〜IC3へそれぞれ出力する。また、制御部は、操作部11から受けた操作信号および速度センサPC1〜PC3による速度検出結果に基づいて、メカロス補正値をインバータIC1〜IC3へそれぞれ出力する。
インバータIC1〜IC3は、制御部から受けた回転速度目標値、ゲインおよびメカロス補正値と、速度センサPC1〜PC3による速度検出結果とに基づいて、駆動電流をそれぞれモータMC1〜MC3に供給する。
モータMC1〜MC3は、インバータIC1〜IC3から受けた駆動電流に基づいてロールRC1〜RC3を回転させる。
また、温度調整ユニット23は、たとえばロールRC1〜RC3を通して冷水を循環させることにより、ロールRC1〜RC3を冷却する。これにより、ロールRC1〜RC3に巻きついて送られるシート状熱可塑性樹脂FLが冷却される。
次に、ロールRA1〜RA3,RB1〜RB3,RC1〜RC3の回転速度制御について詳細に説明する。
図2は、縦延伸工程におけるロールの回転制御の概要を示す図である。なお、図2〜図4において、Kpはゲインを示し、Kiは積分時間を示す。
予熱工程および冷却工程においては、回転速度目標値SVA,SVCと速度センサPGによるモータMの速度検出結果との偏差と、制御部から受けたゲインとに基づいて速度制御を行なう(ASR:Auto Speed Control)。そして、速度制御結果および制御部から受けたメカロス補正値MLCに基づいて電流制御を行なう(ACR:Auto Current Control)、すなわちモータMに駆動電流を供給する。
図3は、ロールの回転速度の比例積分制御を示す図である。
図3を参照して、比例積分制御では、ロールRの回転速度目標値SVとロールRの回転速度PVとの偏差DEVに対する比例演算要素Pおよび積分演算要素Iを加算することにより回転制御値CV1を算出する(ASR)。そして、回転制御値CV1にロールRの回転に対するメカロスを補償するための制御値すなわちメカロス補正値MLCを加算した回転制御値CV2に基づいてモータMの操作量MVすなわち駆動電流を算出する(ACR)。ここで、メカロス補正値MLCは、ロールRの回転速度PVに応じて決定される。したがって、操作量MVは以下の式で表わされる。
MV=P(DEV)+I(DEV)+MLC(PV)
図4は、ロールの回転速度の比例制御を示す図である。
図4を参照して、比例制御では、ロールRの回転速度目標値SVとロールRの回転速度PVとの偏差DEVに対する比例演算要素Pである回転制御値CV1を算出する(ASR)。そして、回転制御値CV1にロールRの回転に対するメカロスを補償するための制御値すなわちメカロス補正値MLCを加算した回転制御値CV2に基づいてモータMの操作量MVすなわち駆動電流を算出する(ACR)。ここで、メカロス補正値MLCは、ロールRの回転速度PVに応じて決定される。したがって、操作量MVは以下の式で表わされる。
MV=P(DEV)+MLC(PV)
比例積分制御においては、回転速度PVが平均的に一定の回転速度目標値SVになるように制御される。このため、モータMの負荷が大きくなるとトルクが大きくなる。したがって、モータ本位の制御となるため、シート状熱可塑性樹脂FL側の変動が無視されることになり、シート状熱可塑性樹脂FLとロールRとの間で滑りが生じてしまう。
比例制御においては、積分演算要素Iを用いず、回転速度目標値SVと回転速度PVとの偏差DEVに比例した駆動電流だけをモータMに供給する。このため、モータMの負荷が大きくなると偏差DEVも大きくなるが、トルクは比例演算要素Pおよびメカロス補正値MLCのみで決まるため、負荷が大きくなってもトルクの増加幅は小さい。したがって、モータMの回転速度はモータMの負荷に応じて変化することになり、フリーロールを用いる方式に近い動作となる。
ここで、比例制御では積分演算要素Iによる駆動電流が存在しない、すなわち、比例演算要素Pは偏差DEVに対して一定であるため、メカロスの変化によってモータMのトルクの過不足が生じる。そこで、本発明の実施の形態に係る2軸延伸フィルム製造方法では、モータMの回転速度に応じたメカロスを予め測定し、速度制御ASRによって算出された回転制御値CV1にメカロス補正値MLCを加えた回転制御値CV2を算出する。
ここで、メカロス補正値MLCについては、たとえば、二軸延伸フィルム製造装置における制御部が、モータMの回転速度を変化させ、各回転速度におけるメカロスに関するデータを収集し、メカロス補正値MLCを算出する自動学習を行なう。
図5は、シート状熱可塑性樹脂FLに傷が生じる原因を示す図である。
図5を参照して、V1はロールRの回転速度であり、V2はシート状熱可塑性樹脂FLの進行速度であり、MLはメカロスであり、FはロールRのシート状熱可塑性樹脂FLに対する把持力であり、T1はシート状熱可塑性樹脂FLの進行方向への張力であり、T2はシート状熱可塑性樹脂FLの進行方向と逆方向への張力である。
シート状熱可塑性樹脂FLの張力T1が大きくなることにより、張力T1と張力T2とのバランスが崩れ、ロールRの把持力Fによってシート状熱可塑性樹脂FLを抑えることができなくなると、ロールRの回転速度V1とシート状熱可塑性樹脂FLの進行速度V2とに差が生じるため、シート状熱可塑性樹脂FLの表面に擦れ傷が生じてしまう。
比例積分制御では、回転速度PVが平均的に一定の回転速度目標値SVになるように制御される。このため、張力T1がシート状熱可塑性樹脂FLの進行方向に大きく変動するとシート状熱可塑性樹脂FLの進行速度V2がロールの回転速度V1と比べて大きくなり、シート状熱可塑性樹脂FLとロールRとの間で滑りが生じてしまう。
また、張力T1がシート状熱可塑性樹脂FLの進行方向と逆方向に大きく変動するとシート状熱可塑性樹脂FLの進行速度V2がロールの回転速度V1と比べて小さくなり、シート状熱可塑性樹脂FLとロールRとの間で滑りが生じてしまう。
すなわち、ロールRの把持力Fを超えてシート状熱可塑性樹脂FLの張力T1が変動した場合、シート状熱可塑性樹脂FLとロールRとの間で滑りが生じてしまう。
本発明の実施の形態に係る2軸延伸フィルム製造方法では、予熱工程および冷却工程において、ロールRの回転速度を比例制御する。比例制御では、シート状熱可塑性樹脂FLの張力T1の変動に応じてロールの回転速度V1およびシート状熱可塑性樹脂FLの進行速度V2が変化する。したがって、本発明の実施の形態に係る2軸延伸フィルム製造方法では、シート状熱可塑性樹脂FLとロールRとの間で滑りが生じることを防ぐことができる。
さらに、ロールの回転速度V1に応じて変化するメカロスMLに対して適切なメカロス補正値MLCがモータMのトルクτに反映されている。したがって、本発明の実施の形態に係る2軸延伸フィルム製造方法では、メカロスMLの変化によるモータMのトルクτの過不足を防ぐことができる。
また、V1とV2が一致するので、シート状熱可塑性樹脂FLの張力T1の変動は比例積分制御と比べて小さい。
次に、本発明の実施の形態に係る熱可塑性樹脂フィルムの製造方法について、実施例および比較例を用いて説明する。なお、本発明は当然これらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
粒子を含有していない極限粘度が0.62dl/gのポリエチレンテレフタレートを135℃で6時間減圧乾燥(133.3Pa)した後、押し出し機に供給し、約285℃で溶融しながら押し出すことでシート状にした。これを表面温度20℃の冷却ロールに静電印加法にて密着させて、未延伸ポリエステルシートを得た。なおこの際、溶融樹脂の異物除去用濾材として、濾過粒子サイズ(初期濾過効率95%)が15μmのステンレス製焼結濾材を用い、溶融樹脂の高精度濾過を行なった。
次いで、この未延伸ポリエステルシートを予熱工程、延伸工程および冷却工程を含む縦延伸工程により縦方向の延伸を行なった。ここで、予熱工程および冷却工程のロール群に対してメカロス補正を含む比例制御を行ない、延伸工程のロール群に対しては比例積分制御を行なった。延伸工程では電気ヒータで95℃に加熱し、周速差を有するロール群で長手方向に3.2倍延伸して一軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
次いで、固形分として、5質量%の共重合ポリエステルと1質量%の平均粒径40nmのシリカ粒子とを含む塗布液を、リバースロール法で一軸延伸ポリエステルフィルムの一方の表面に塗布し、そして乾燥した。なお、この塗布では二軸延伸ポリエステルフィルムの固形分濃度が0.08g/m2となるように調整した。
次いで、フィルムの端部をクリップで把持して温度120℃の熱風ゾーンに導き、幅方向に4.2倍に延伸した。次にその延伸された幅を保ったまま、温度220℃の熱風ゾーンにて熱固定処理を行ない、さらに温度200℃の熱風ゾーンにて幅方向に3%の緩和処理後、フィルム両端部をトリミングし、さらにワインダーで巻き取り、厚さ125μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
緩和処理後のフィルムについて、蛍光灯を含む投光器と、CCDカメラを含む受光器とを含む光学欠点検査装置により、フィルム表面の幅0.25mm以上、長さ0.35mm以上の傷の個数を測定した結果、かかる傷の個数は1.5個/mであった。
[実施例2]
添加剤としてシリカ粒子(富士シリシア化学(株)社製、サイリシア310)を0.03質量%含有した極限粘度が0.62dl/gのポリエチレンテレフタレートを用いることにより、引取速度を調整した以外は実施例1と同様にして、未延伸ポリエステルシートを得た。
次いで、延伸倍率を3.4倍にした以外は実施例1と同様にして、一軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
次いで、フィルムの端部をクリップで把持して温度120℃の熱風ゾーンに導き、幅方向に4.2倍に延伸した。次にその延伸された幅を保ったまま、温度220℃の熱風ゾーンにて熱固定処理を行なった。さらに温度200℃の熱風ゾーンにて幅方向に3.1%の緩和処理を行なった後、フィルム両端部をトリミングし、さらにワインダーで巻き取った。以上により、厚さ25μm二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
緩和処理を行なった後のフィルムについて、蛍光灯を含む投光器と、CCDカメラを含む受光器とを含む光学欠点検査装置により、フィルム表面の幅0.25mm以上、長さ0.35mm以上の傷の個数を測定した結果、かかる傷の個数は1.6個/m2であった。
[比較例1]
縦延伸工程の予熱工程および冷却工程のロール群に対して比例積分制御を行なった以外は、実施例1と同様にして二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。実施例1と同様にフィルム表面の幅0.25mm以上、長さ0.35mm以上の傷の個数を測定した結果、かかる傷の個数は8.0個/mであった。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
本発明の実施の形態に係る二軸延伸フィルム製造装置における縦延伸機8の構成を示す図である。 縦延伸工程におけるロールの回転制御の概要を示す図である。 ロールの回転速度の比例積分制御を示す図である。 ロールの回転速度の比例制御を示す図である。 シート状熱可塑性樹脂FLに傷が生じる原因を示す図である。
符号の説明
8 縦延伸機、21,23 温度調整ユニット、22 加熱装置、IA1〜IA3,IB1〜IB3,IC1〜IC3 インバータ、MA1〜MA3,MB1〜MB3,MC1〜MC3 モータ、PA1〜PA3,PB1〜PB3,PC1〜PC3 速度センサ、RA1〜RA3,RB1〜RB3,RC1〜RC3 ロール、FL シート状熱可塑性樹脂。

Claims (5)

  1. 熱可塑性樹脂を溶融しながら押し出すことによりシート状熱可塑性樹脂を形成する工程と、
    前記形成されたシート状熱可塑性樹脂を縦方向に延伸する工程と、
    前記形成されたシート状熱可塑性樹脂を横方向に延伸する工程と、
    前記縦方向および横方向に延伸された前記シート状熱可塑性樹脂を熱固定する工程とを含み、
    前記シート状熱可塑性樹脂を縦方向に延伸する工程は、
    第1のロール群を比例制御により回転させて前記シート状熱可塑性樹脂を送ることにより、前記シート状熱可塑性樹脂を予熱する工程と、
    各々のロールの回転速度が異なる第2のロール群を比例積分制御で回転させることにより、前記予熱された前記シート状熱可塑性樹脂を延伸する工程とを含む熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
  2. 前記シート状熱可塑性樹脂を縦方向に延伸する工程は、さらに、
    第3のロール群を比例制御により回転させて前記延伸された前記シート状熱可塑性樹脂を送ることにより、前記延伸された前記シート状熱可塑性樹脂を冷却する工程を含む請求項1記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
  3. 前記シート状熱可塑性樹脂を予熱する工程においては、前記第1のロール群の回転速度目標値と前記第1のロール群の回転速度との偏差に比例する第1の制御値を算出し、前記第1の制御値と前記第1のロール群の回転に対する機械損失を補償するための第2の制御値とに基づいて前記第1のロール群を回転させる請求項1記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
  4. 熱可塑性樹脂を溶融しながら押し出すことによりシート状熱可塑性樹脂を形成する工程と、
    前記形成されたシート状熱可塑性樹脂を縦方向に延伸する工程と、
    前記形成されたシート状熱可塑性樹脂を横方向に延伸する工程と、
    前記縦方向および横方向に延伸された前記シート状熱可塑性樹脂を熱固定する工程とを含み、
    前記シート状熱可塑性樹脂を縦方向に延伸する工程は、
    各々のロールの回転速度が異なる第1のロール群を比例積分制御で回転させることにより、前記予熱された前記シート状熱可塑性樹脂を延伸する工程と、
    第2のロール群を比例制御により回転させて前記延伸された前記シート状熱可塑性樹脂を送ることにより、前記延伸された前記シート状熱可塑性樹脂を冷却する工程とを含む熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
  5. 前記シート状熱可塑性樹脂を冷却する工程においては、前記第2のロール群の回転速度目標値と前記第2のロール群の回転速度との偏差に比例する第1の制御値を算出し、前記第1の制御値と前記第2のロール群の回転に対する機械損失を補償するための第2の制御値とに基づいて前記第2のロール群を回転させる請求項4記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
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