JP4966777B2 - A/d変換器 - Google Patents

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Description

本発明は、アナログ信号の入力部にスイッチトキャパシタ回路を有する積分回路を備えるアナログ・ディジタル変換器(A/D変換器)に関するものである。
アナログ信号をデルタシグマ(ΔΣ)変調によって1ビットのディジタル信号に変換する技術は、アナログ・ディジタル変換器(A/D変換器)の分野で広く知られている。デルタシグマ変調回路は、積分回路および量子化器を含んで構成されるが、従来よりその積分回路としては、スイッチトキャパシタ積分回路が多く用いられている(例えば下記の非特許文献1)。
アナログデバイセズ著「OPアンプによる信号処理の応用技術 OPアンプ大全第2巻」CQ出版社、2005年2月1日、p.115
アナログ信号の入力部にスイッチトキャパシタ積分回路が用いられたA/D変換器では、当該A/D変換器にアナログ信号を入力するドライバ回路が、そのスイッチトキャパシタ回路に接続される。その場合、スイッチトキャパシタ回路内のサンプリングキャパシタを急速に充電する際に、スパイク状のノイズ(「キックバックノイズ」と呼ばれる)が生じ、それがアナログ信号波形に重畳するという問題が生じる(詳細は後述する)。そうなると入力されるアナログ信号の精度が損なわれるため、A/D変換の精度劣化を引き起こす。
この問題を解決する手法としては、上記ドライバ回路の駆動能力を上げることや、非特許文献1で提案されているようにA/D変換器の入力部に、電荷の過渡的な流出入を補うための容量素子およびこの容量素子に起因して前段のアンプ出力が発振することを防止するための抵抗から成る回路(図8の回路「LPF」参照)を設けること等が考えられる。しかしそのいずれの手法も、回路の形成面積の増大を伴う点で好ましくない。なお本明細書では、上記の容量素子(C)および抵抗素子(R)からなる回路を、説明の便宜上「RCローパスフィルタ」と称する。
本発明は以上のような課題を解決するためになされたものであり、スイッチトキャパシタ積分回路を備えるA/D変換器において、回路の形成面積の増加を抑制しつつ、キックバックノイズの影響を抑制することを目的とする。
本発明に係るA/D変換器には、差動入力信号を構成する第1および第2アナログ信号が入力される。その入力初段部となる積分器は、第1および第2アナログ信号がそれぞれ入力される第1および第2スイッチトキャパシタ回路と、そのスイッチング動作に起因して発生するキックバックノイズを打ち消す信号を生成するノイズキャンセル回路とを備える。
本発明によれば、第1および第2スイッチトキャパシタ回路で発生するキックバックノイズはノイズキャンセル回路が発生する信号により打ち消される。よって第1および第2入力信号におけるキックバックノイズの影響は抑制される。
<実施の形態1>
図1は、本発明に係るA/D変換器の一例を示すブロック図である。同図の如く当該A/D変換器は、デルタシグマ変調回路DSM、ディジタルフィルタDFにより構成されている。それらの動作タイミングは、クロックドライバCDにより生成されるクロック信号により規定される。デルタシグマ変調回路DSMは、図1の如く、積分器M1〜M3、加算器K1,K2、アンプA1〜A3、量子化器QおよびフィードバックD/A変調回路FBから構成されている。なお図1のブロック図においては、アンプA1〜A3を図示しているが、実際にはそれらに代えて、例えば電圧変化を容量比を用いて増幅する回路など、アンプと等価な機能を有するものに置き換えてもよい。つまり本発明が適用されるA/D変換器は、図1のようにアンプを使用したもの限定されない。
A/D変換の対象となるアナログ入力信号は、ドライバ回路DRを介して当該A/D変換回路に入力される。つまりドライバ回路DRは、アナログ入力信号に対してA/D変換器よりも前段に設けられ、当該アナログ入力信号をA/D変換器に送るものである。A/D変換器のデルタシグマ変調回路DSMに入力されたアナログ入力信号は、縦続接続した積分器M1〜M3にて積分される。最後段の積分器M3の出力は加算器K2へと入力される。当該加算器K2へはさらに、積分器M1,M2の出力がそれぞれアンプA2,A3を通して入力されると共に、後述するフィードバックD/A変換器FBの出力がアンプA1を通して入力される。そして加算器K2がそれらを加算して得た信号は、量子化器Qへと入力される。量子化器Qは、例えば加算器K2の出力電圧が0V以上であるとき「1」、同じく0V未満のとき「0」の出力するコンパレータである。また量子化器Qの出力は、フィードバックD/A変換器FBを通して、初段の積分器M1の入力側に設けられた加算器K1に帰還される。量子化器Qの出力はさらに、ディジタルフィルタDFに入力され、それを通してディジタルの出力信号として出力される。
後の説明で明らかになるが、この実施の形態において本発明は、オーバーサンプリング方式のデルタシグマ変調回路DSMのアナログ入力部、すなわちドライバ回路DR、加算器K1および初段の積分器M1から成る回路に適用される。以下では、加算器K1および初段の積分器M1の機能を含む回路を「初段積分器MM1」と称する。また本発明に係る積分器M1は差動入力型のものである。つまり積分器M1へ入力されるアナログ信号は、アナログの差動信号である。
即ち、図1での説明は省略したが、実際には、例えば図2に示すように初段積分器MM1の前段には、差動信号を生成するドライバ回路DRが設けられる。このドライバ回路DRは、シングルエンドのアナログ信号Viを受けて、それと同相の信号Vipおよび逆相の信号Vinから成る差動信号を生成して初段積分器MM1に入力する。
図3は、本発明に係るA/D変換器の入力部に用いられる初段積分器MM1の構成を示す図である。上記のように、ドライバ回路DRは通常のアナログ入力信号Viに基づいて差動信号Vip,Vinを生成するものである。より詳細には、ドライバ回路DRは反転アンプ等(不図示)を用いてアナログ入力信号Viから差動信号Vip0,Vip0を生成し、バッファ回路B1,B2によりそれらの駆動能力が高められた差動信号Vip,Vinを初段積分器MM1に供給する。
以下、説明の便宜上、初段積分器MM1に入力される信号Vipを「第1入力信号」と称し、その逆相の信号Vinを「第2入力信号」と称する。なお、第1および第2入力信号Vin,Vinの基準電圧Vcomは、例えばアナログ電源電圧の1/2等の電圧が考えられる。
図3に示すように、初段積分器MM1は、演算増幅器OP、第1および第2スイッチトキャパシタ回路SC1,SC2並びにフィードバックコンデンサCf1,Cf2から成る、差動入力型の積分回路を備えている。第1入力端子IN1に入力される第1入力信号Vipは、第1スイッチトキャパシタ回路SC1に供給され、第2入力端子IN2に入力される第2入力信号Vinは、第2スイッチトキャパシタ回路SC2に供給される。第1スイッチトキャパシタ回路SC1は、サンプリングキャパシタCs1およびスイッチSW1〜SW4により構成され、第2スイッチトキャパシタ回路SC2は、サンプリングキャパシタCs2およびスイッチSW5〜SW8により構成される。
第1スイッチトキャパシタ回路SC1において、スイッチSW1は、第1入力端子IN1とサンプリングキャパシタCs1の一端との間に接続される。スイッチSW2はサンプリングキャパシタCs1の当該一端と基準電圧Vcomの電源(基準電源)との間に接続される。スイッチSW3は、サンプリングキャパシタCs1の他端と基準電源との間に接続する。スイッチSW4は、サンプリングキャパシタCs1の当該他端と演算増幅器OPの非反転入力端子との間に接続される。
また第2スイッチトキャパシタ回路SC2において、スイッチSW5は、第2入力端子IN2とサンプリングキャパシタCs2の一端との間に接続される。スイッチSW6はサンプリングキャパシタCs2の当該一端と基準電源との間に接続される。スイッチSW7は、サンプリングキャパシタCs2の他端と基準電源との間に接続する。スイッチSW8は、サンプリングキャパシタCs2の当該他端と演算増幅器OPの反転入力端子との間に接続される。
スイッチSW1〜SW8は、互いに相補な関係の(活性期間が重ならない)クロック信号φ,/φに基づいて駆動される。本実施の形態では、スイッチSW1,SW3,SW5,SW7は、クロック信号φがHレベルのときにオンし、スイッチSW2,SW4,SW6,SW8は、クロック信号/φがHレベルのときにオンするものとする(図4および図6参照)。クロック信号φ,/φは互いに相補であるので、スイッチSW1,SW3,SW5,SW7と、スイッチSW2,SW4,SW6,SW8とは交互にオンすることとなる。
ここで第1および第2スイッチトキャパシタ回路SC1,SC2による第1および第2入力信号Vip,Vinのサンプリング動作について説明する。サンプリング周期は、クロック信号φ,/φの周期となるが、その1周期のうちクロック信号φがHレベルになる期間を「サンプリング周期の前半」、クロック信号/φがHレベルになる期間を「サンプリング周期の後半」と定義する。
第1スイッチトキャパシタ回路SC1における第1入力信号Vipのサンプリング動作では、サンプリング周期の前半で第1入力信号Vipに応じた電荷がサンプリングキャパシタCs1に蓄えられ、サンプリング周期の後半でその電荷が積分回路のフィードバックコンデンサCf1に伝達される。同様に、第2スイッチトキャパシタ回路SC2では、サンプリング周期の前半で第2入力信号Vinに応じた電荷がサンプリングキャパシタCs2に蓄えられ、サンプリング周期の後半でその電荷が積分回路のフィードバックコンデンサCf2に伝達される。
以上のスイッチトキャパシタ積分回路の構成は、従来から初段積分器MM1に用いられていたものと同様である。一方、本発明に係る初段積分器MM1は、それに加えて、図3の如く第1および第2入力端子IN2に接続したノイズキャンセル回路NCを備える。即ち、当該ノイズキャンセル回路NCは、初段積分器MM1の第1および第2スイッチトキャパシタ回路SC1,SC2とドライバ回路DRとの間に接続されている。このノイズキャンセル回路NCは、第1スイッチトキャパシタ回路SC1,SC2の動作に起因するキックバックノイズを打ち消すことで、第1入力信号Vipおよび第2入力信号Vinのそれぞれに対する当該ノイズの影響を抑えるものである。
なお、図3に示す容量成分Cpは、それぞれ第1および第2入力端子IN1,IN2が接続する配線に付随する寄生容量を表している。
ここで、上記「キックバックノイズ」について説明する。図4は従来の初段積分器MM1(即ち図3においてノイズキャンセル回路NCを有さないもの)の動作を示すタイミング図である。第1および第2スイッチトキャパシタ回路SC1,SC2は、基本的に同様の動作を行うため、ここでは第1スイッチトキャパシタ回路SC1の動作を代表的に示す。
先に述べたように、第1スイッチトキャパシタ回路SC1では、サンプリング周期Tsの後半で、スイッチSW1,SW3がオフ、スイッチSW2,SW4がオンになり、サンプリングキャパシタCs1の電荷がフィードバックコンデンサCf1に伝達される。そのときのサンプリングキャパシタCs1は、電荷が蓄積されていない状態になる。そのため、次のサンプリング周期Tsの先頭でスイッチSW1,SW3がオン、スイッチSW2,SW4がオフに切り換わったとき、第1入力信号Vipの電荷がサンプリングキャパシタCs1に移動し、図4の如くサンプリング周期の先頭で、第1入力信号Vipのレベルに瞬時的なスパイク状の変動KBが生じる。この変動KBが「キックバックノイズ」である。説明は省略するが、第2スイッチトキャパシタ回路SC2でも、スイッチSW5,SW7がオンするとき(サンプリング周期Tsの先頭)、第2入力信号Vinに同様のキックバックノイズが生じる。
スイッチSW1,SW3がオンしたときに第1入力端子IN1からサンプリングキャパシタCs1へ流出する電荷量は、Cs1・(Vip−Vcom)である。それにより生じるキックバックノイズKBの大きさをΔV[KB]とすると、
Figure 0004966777
と表すことができる。本発明に係る初段積分器MM1には、このキックバックノイズの対策として、ノイズキャンセル回路NCが設けられている。
上記のように、第1および第2スイッチトキャパシタ回路SC1,SC2は、サンプリング周期を規定するクロック信号に応じて各スイッチの接続が切り換わる際にキックバックノイズを発生させる。ノイズキャンセル回路NCも複数のスイッチを備えており、同じくクロック信号に応じてそれら各スイッチの接続を切り換えることにより、上記キックバックノイズとは逆極性のキックバックノイズを発生させ、それによって前者のノイズをキャンセルする。
図5は、実施の形態1に係るA/D変換器の入力部に用いられる初段積分器MM1の構成を示す図であり、第1ノイズキャンセル回路NC1の具体的な回路構成例を示している。本実施の形態において、ノイズキャンセル回路NCは、第1入力信号Vipにおけるキックバックノイズを打ち消す第1ノイズキャンセル回路NC1と、第2入力信号Vinにおけるキックバックノイズを打ち消す第2ノイズキャンセル回路NC2とから構成される。
本実施の形態では図5の如く、第1および第2ノイズキャンセル回路NC1,NC2は、第1および第2スイッチトキャパシタ回路SC1,SC2とほぼ同じ回路構成を有しており、それぞれ1つのキャパシタと4つのスイッチにより構成される。
即ち、第1ノイズキャンセル回路NC1は、キャパシタC1とそれに接続するスイッチSW9〜SW12により構成される。キャパシタC1の容量値は、サンプリングキャパシタCs1と同じに設定される。キャパシタC1の一端は、互いに並列接続したスイッチSW11,SW12を介して第1入力端子IN1に接続される。当該キャパシタC1の他端は、スイッチSW9を通して第2入力端子IN2に接続されると共に、スイッチSW10を通して基準電源(基準電圧Vcom)に接続される。
同様に、第2ノイズキャンセル回路NC2は、キャパシタC2とそれに接続するスイッチSW13〜SW16により構成される。キャパシタC2の容量値は、サンプリングキャパシタCs2と同じに設定される。キャパシタC2の一端は、互いに並列接続したスイッチSW15,SW16を介して第2入力端子IN2に接続される。当該キャパシタC2の他端は、スイッチSW13を通して第1入力端子IN1に接続されると共に、スイッチSW14を通して基準電源(基準電圧Vcom)に接続される。
スイッチSW9〜SW16のうち、スイッチSW10,SW12,SW14,SW16は、スイッチSW1,SW3,SW5,SW7と同様に、サンプリング周期Tsの前半にオンする。またスイッチSW9,SW11,SW13,SW15は、スイッチSW2,SW4,SW6,SW8と同様に、サンプリング周期Tsの後半にオンする。
図6は、実施の形態1に係る初段積分器MM1の動作を示すタイミング図である。第1スイッチトキャパシタ回路SC1および第1ノイズキャンセル回路NC1の組と、第2スイッチトキャパシタ回路SC2および第2ノイズキャンセル回路NC2の組とは、基本的に同様の動作を行うので、ここでは前者の動作を代表的に示す。また説明の便宜のため、図5に示すように、キャパシタC1とスイッチSW9,SW10との間の接続ノードをノードN1、キャパシタC1とスイッチSW11,SW12との間の接続ノードをノードN2と定義する。
第1ノイズキャンセル回路NC1において、サンプリング周期Tsの後半では、スイッチSW9,SW11がオン、スイッチSW10,SW12がオフであるので、ノードN1は第2入力信号Vinのレベルになり、ノードN2は第1入力信号Vipのレベルになる。そして次のサンプリング周期TsになりスイッチSW9,SW11がオフ、スイッチSW10,SW12がオンに切り換わると、ノードN1の電圧は第2入力信号Vinのレベルから基準電圧Vcomに変化する。このときキャパシタC1を介するノードN1,N2間の容量結合により、ノードN1の電圧変化に応じてノードN2の電圧も変化する。その結果、スイッチSW12を通してノードN2から第1入力端子IN1へ電荷が流れ込む。その電荷量はC1・(Vcom−Vin)であり、当該電荷はサンプリング周期の先頭で、第1入力端子IN1に図6のような電圧変動KBCを生じさせようとする。
なお、後述するように、このときノードN2から第1入力端子IN1へ流れ込む電荷は、キックバックノイズKBに伴う電荷の第1入力端子IN1からの流出によって打ち消されるので、実際には電圧変動KBCもキックバックノイズKBも殆ど生じない。図6では説明の便宜上、電圧変動KBCの両方を明示している。
スイッチSW10,SW12がオンに切り換わるタイミングでは、スイッチSW1,SW3がオンになるので、上で説明した従来例と同様に、第1入力端子IN1からサンプリングキャパシタCs1に向けて、Cs1・(Vip−Vcom)の電荷が流出する。この電荷は、図6に示すキックバックノイズKBを生じさせようとする。
図6から分かるように、第1ノイズキャンセル回路NC1が第1入力端子IN1に生じさせようとする電圧変動KBCの正負の向きは、キックバックノイズKBとは逆である。キックバックノイズKBは第1入力端子IN1からサンプリングキャパシタCs1へ電荷が流れ出ることにより生じるが、それと同じタイミングで第1ノイズキャンセル回路NC1から第1入力端子IN1へ電荷が流れ込むため、キックバックノイズKBが打ち消される。よって電圧変動KBCは、キックバックノイズKBを打ち消す「ノイズキャンセル信号」として機能する。
上記のとおり、図6では説明の便宜上、キックバックノイズKBおよびノイズキャンセル信号KBCの両方を明示しているが実際にはその両者は相殺し合い、第1入力信号Vipは、キックバックノイズKBおよびノイズキャンセル信号KBCの影響の殆どない、なだらかな波形となる。以下、その詳細を説明する。
第1入力端子IN1において、キックバックノイズKBを生じさせる電荷の流出は、Cs1・(Vip−Vcom)であり、ノイズキャンセル信号KBCに伴う電荷の流入はC1・(Vcom−Vin)である。よって、それらの電荷の移動が生じたときの第1入力端子IN1の電圧の変化ΔV[IN1]は、
Figure 0004966777
と表される。
ここで、式(2)におけるVipはスイッチSW1がオンしたとき(サンプリング周期の先頭)の値であり、VinはスイッチSW9がオフになる直前(サンプリング周期Tsの後半)の値であるので、その間には最大でサンプリング周期Tsの1/2の時間的なずれを有し得る。しかし当該A/D変換器はオーバーサンプリング方式であるので、サンプリング周波数(1/Ts)は、第1および第2入力信号Vip,Vinの周波数の数倍〜数十倍である。よって1サンプリング周期Ts内での第1および第2入力信号Vip,Vinの値の変化は少ない。さらに第1および第2入力信号Vip,Vinは差動信号を構成しているので、式(2)においては(Vip−Vcom)≒(Vin−Vcom)の関係が成り立つ。
さらに本実施の形態では、C1,Cs1は同じ値に設定されている。よって式(2)において、{Cs1・(Vip−Vcom)−C1・(Vin−Vcom)}≒0とできるので、ΔV[IN1]≒0となる。
以上のように、本実施の形態によれば、第1スイッチトキャパシタ回路SC1の動作に起因して発生するキックバックノイズKBは、第1ノイズキャンセル回路NC1が発生するノイズキャンセル信号KBCにより打ち消さる。従って第1入力信号VipにおけるキックバックノイズKBの影響は抑制される。また説明は省略したが、同様に、第2スイッチトキャパシタ回路SC2により生じるキックバックノイズKBは、第2ノイズキャンセル回路NC2が発生するノイズキャンセル信号KBCにより打ち消される。従って第2入力信号VinにおけるキックバックノイズKBの影響も抑制される。
先に述べたように、キックバックノイズKBを抑える手法としては、ドライバ回路(バッファ回路B1,B2)の駆動能力を上げることや、A/D変換器の入力部にRCローパスフィルタを設けること等も考えられるが、それらの手法では、回路の形成面積の増大を伴っていた。
本実施の形態では、第1および第2ノイズキャンセル回路NC1,NC2を新たに設ける必要があるが、それらは駆動能力の大きなトランジスタや、大容量のキャパシタ等、大きな形成面積を必要とする素子を含まないため、比較的小さな面積で形成することができる。従って、回路面積の増大を抑制するという効果が得られる。
なお上記の例では、第1ノイズキャンセル回路NC1によって、キックバックノイズKBとほぼ同じ大きさのノイズキャンセル信号KBCが生成されることで、キックバックノイズKBの影響がほぼ0になる理想的な例を示した(上記式(2))。しかし各素子の電気的特性のばらつき等によって、例えばノイズキャンセル信号KBCの振幅がキックバックノイズKBの振幅とは異なる場合も充分にあり得る。その場合、キックバックノイズKBを完全に打ち消すことはできないであろうが、それでもキックバックノイズKBの影響を小さくする効果は得られる。
事実、取り扱う信号によってはある程度のノイズを許容できる場合もあり、キックバックノイズKBの影響が常に0にされる必要はない。従って、スイッチSW1〜SW16におけるスイッチング特性のズレや、キャパシタC1,C2と、サンプリングキャパシタCs1,Cs2との容量値のばらつきは、ある程度許容され得る。
<実施の形態2>
図7は実施の形態2に係る初段積分器MM1の構成を示す図である。当該初段積分器MM1は、図5の回路に対し、第1ノイズキャンセル回路NC1のスイッチSW11,SW12、並びに第1ノイズキャンセル回路NC1のスイッチSW15,SW16をそれぞれ省略したものである。つまり、キャパシタC1の一端(ノードN2)を第1入力端子IN1に直接接続し、またキャパシタC2の一端を第2入力端子IN2に直接接続させている。
そのように構成しても、第1ノイズキャンセル回路NC1はサンプリング周期Tsの先頭でスイッチSW10がオンになったときにノイズキャンセル信号KBCを第1入力端子IN1に供給できる。同様に第2ノイズキャンセル回路NC2はサンプリング周期Tsの先頭でスイッチSW14がオンになったときにノイズキャンセル信号KBCを第2入力端子IN2に供給できる。よって、実施の形態1とほぼ同様の効果が得られる。またスイッチSW11,SW12,SW15,SW16を省略した分だけ、回路の形成面積の縮小化を図ることができるという効果が得られる。
但し、実施の形態1では第1および第2スイッチトキャパシタ回路SC1,SC2と第1および第2ノイズキャンセル回路NC1,NC2とがほぼ同じ回路構成であったが、本実施の形態では、両者の回路構成が同じでなくなる。そのため、第1および第2スイッチトキャパシタ回路SC1,SC2と第1および第2ノイズキャンセル回路NC1,NC2との間で僅かな時定数の差が生じる。そのためキックバックノイズKBの波形と、ノイズキャンセル信号KBCの波形との差異が大きくなり、ノイズキャンセル信号KBCがキックバックノイズKBを打ち消す効果が、若干低下する可能性があることに留意すべきである。
<実施の形態3>
図8は実施の形態3に係るA/D変換器の入力部に用いられる初段積分器MM1の構成を示す図である。本実施の形態においては、実施の形態1(図5)の初段積分器MM1の前段すなわちドライバ回路DRと初段積分器MM1との間にローパスフィルタLPFを設ける。
図8の如く、当該ローパスフィルタLPFは、抵抗素子R1,R2およびキャパシタC3から成る、いわゆる「RCローパスフィルタ」である。抵抗素子R1は、第1入力信号Vipを出力するバッファ回路B1の出力端子と初段積分器MM1の第1入力端子IN1との間に接続される。抵抗素子R2は、第2入力信号Vinを出力するバッファ回路B2の出力端子と初段積分器MM1の第2入力端子IN2との間に接続される。またキャパシタC3は、第1入力端子IN1と第2入力端子IN2との間に接続される。
つまり第1および第2入力信号Vip,Vinは、それぞれローパスフィルタLPFを通して、第1および第2入力端子IN1,IN2に入力される。この構成によれば、サンプリング周期の先頭でスイッチSW1,SW5がオンになり、第1および第2入力端子IN1,IN2からそれぞれサンプリングキャパシタCs1,Cs2への電荷の流出が生じたとき、その流出電荷の一部をキャパシタC3が補充するため、第1および第2入力信号Vip,VinキックバックノイズKBの影響をさらに抑制することができる。
なお上記したように、初段積分器MM1の入力部にRCローパスフィルタを設ける技術は従来より知られてる(非特許文献1)。またRCローパスフィルタによりキックバックノイズKBを充分に抑えるには、キャパシタや抵抗素子のサイズを大きくする必要があるため、それに伴う形成面積の増大が問題視されていた。
本実施の形態では、ローパスフィルタLPFと共に、第1および第2ノイズキャンセル回路NC1,NC2が併用されており、それがキックバックノイズKBをある程度小さいレベルにまで抑制する。従って、それと共に設けるローパスフィルタLPFとしては、抵抗素子R1,R2およびキャパシタC3のサイズがそれほど大きいものを使用する必要はない。よって従来のようにRCローパスフィルタのみを用いる場合に比べ、形成面積の縮小化を図ることができる。またローパスフィルタLPFと、本発明の第1および第2ノイズキャンセル回路NC1,NC2との併用により、より確実にキックバックノイズKBの発生を抑制することが可能になる。
なお本実施の形態は、実施の形態2(図7)の初段積分器MM1に対しても適用可能である。すなわち図9の如く、実施の形態2の初段積分器MM1の入力部にローパスフィルタLPFを設けてもよく、この場合も上記と同様の効果が得られる。
<実施の形態4>
本実施の形態では、本発明に係るA/D変換器を他のディジタル回路と共に1つのチップ上に搭載させる場合に有効な技術について説明する。図10は、本実施の形態に係る半導体装置の構成を示す図である。図10のように当該半導体装置では、同一のチップ100上に、2つのA/D変換器21A,21Bと共に、CPU(Central Processing Unit)およびDSP(Digital Signal Processor)を含むマイコン11がディジタル回路として形成されている。A/D変換器21Bは上で示した本発明に係る初段積分器MM1を備えるものであり、同じくチップ100上に形成されたドライバ回路DRを介してアナログ入力信号が入力される。マイコン11は、当該A/D変換器21Bが、入力されたアナログ入力信号に基づいて生成したディジタル信号を受ける。
マイコン11およびA/D変換器21A,21Bは、それぞれ所定のクロック信号によりその動作タイミングが規定される。当該半導体装置では、それらの各クロック信号は、チップ100の外部から入力されるマスタクロック信号MCKに基づいて生成される。例えばマイコン11用のクロック信号φ(MC)は、逓倍器10がマスタクロック信号φ(MST)を逓倍することにより生成される。またA/D変換器21A,21B用のクロック信号φ(ADC)は、分周器20がマスタクロック信号φ(MST)を分周することにより生成される。
なお実際の半導体装置では、1つのチップ上にはその他にも多くのデバイスが形成され得るが、ここでは説明の便宜上、以上の要素のみを図示している。
図11は従来の半導体装置における各クロック信号の位相の関係を示す図である。上記のようにマスタクロック信号φ(MST)を逓倍してマイコン11用のクロック信号φ(MC)を生成すると共に、それと同じマスタクロック信号φ(MST)を分周してA/D変換器21A,21B用のクロック信号φ(ADC)を生成する場合、通常はそれらの位相は互いに揃う。つまり従来の半導体装置では、図11の如く、マスタクロック信号φ(MST)およびクロック信号φ(MC),φ(ADC)の立ち上がりおよび立ち下がりのタイミング(エッジタイミング)は、互いに揃ったものとなる。
マイコン11(ディジタル回路)においては、マスタクロック信号φ(MST)およびクロック信号φ(MC)のエッジタイミングに、流れる電流が大きくなる傾向にあり、その電流の変動に起因するノイズがシリコン基板等を介してA/D変換器21A,21B(アナログ部)に回り込む場合がある。
そこで本実施の形態では、分周器20に遅延機能を持たせ、クロック信号φ(ADC)のエッジタイミングを若干遅らせる。それにより図12の如く、クロック信号φ(ADC)のエッジタイミングをマスタクロック信号φ(MST)およびクロック信号φ(MC)のエッジタイミングからずらす。そうすることにより、A/D変換器21A,21Bが上記ノイズの影響を受け難くなる。
上記のように、A/D変換器21A,21Bは本発明に係る初段積分器MM1を含むものである。つまり当該初段積分器MM1は、第1および第2ノイズキャンセル回路NC1,NC2を備えている。その第1および第2ノイズキャンセル回路NC1,NC2もまた上記ノイズの影響を受け難くなるため、キックバックノイズKBのキャンセルの精度が向上するという効果が得られる。
<実施の形態5>
以上の各実施の形態においては、デルタシグマ変調回路を用いたA/D変換器について述べたが、本発明の適用はそれに限定されるものではない。例えばサンプルホールド回路を用いたA/D変換器(サンプルホールド型A/D変換器)など、その入力初段部(アナログ入力部)にスイッチドキャパシタ回路を備えたA/D変換器に対して広く適用可能である。
図13は、本実施の形態をサンプルホールド型A/D変換器の入力初段部に適用した場合の回路を示している。同図は、先に示した図3に対応しており、図3に示したものと同様の機能を有する要素にはそれと同一符号を付してあるので、それらの説明は省略する。またサンプルホールド型A/D変換器の全体構成としては、図1と同様でよいが、積分器M1〜M3のそれぞれがサンプルホールド回路に置き換えられることとなる。
図13の如く、サンプルホールド型A/D変換器の入力初段部の構成は、図3の初段積分器MM1とほぼ同様であるが、その構成に加えて、フィードバックコンデンサCf1,Cf2にそれぞれスイッチSW21,SW22が並列接続される。スイッチSW21は、スイッチSW1,SW3と同様にオン/オフが切り換わり、スイッチSW22は、スイッチSW5,SW7と同様にオン/オフが切り換わる。ノイズキャンセル回路NCは、サンプルホールド回路が備える第1および第2スイッチトキャパシタ回路SC1,SC2とドライバ回路DRとの間に接続される。
またここでの説明は省略するが、ノイズキャンセル回路NCの回路構成は、上で説明した実施の形態1のもの(図5)でも、実施の形態2のもの(図7)でも適用可能である。また、実施の形態3の如くローパスフィルタLPFと組み合わせることも可能であるし、もちろんマイコン等のディジタル回路と同一チップ上に形成する場合には、実施の形態4を適用することも可能である。
本発明に係るA/D変換器の一例を示すブロック図である。 本発明に係るA/D変換器のアナログ入力部を示すブロック図である。 本発明に係るA/D変換器の入力部に用いられる積分器の構成を示す図である。 従来の積分器の動作を示すタイミング図である。 実施の形態1に係るA/D変換器の入力部に用いられる積分器の構成を示す図である。 実施の形態1に係るA/D変換器の入力部に用いられる積分器の動作を示すタイミング図である。 実施の形態2に係るA/D変換器の入力部に用いられる積分器の構成を示す図である。 実施の形態3に係るA/D変換器の入力部に用いられる積分器の構成を示す図である。 実施の形態3に係るA/D変換器の入力部に用いられる積分器の構成を示す図である。 実施の形態4に係るA/D変換器の入力部に用いられる積分器の構成を示す図である。 従来の半導体装置の動作クロックを示す図である。 実施の形態4に係る半導体装置の動作クロックを示す図である。 実施の形態5に係るA/D変換器の入力部に用いられるサンプルホールド回路の構成を示す図である。
符号の説明
B1,B2 バッファ回路、C1〜C3 キャパシタ、CF1,CF2 フィードバックコンデンサ、Cs1,Cs2 サンプリングキャパシタ、DR ドライバ回路、DSM デルタシグマ変調回路、LPF ローパスフィルタ、M1〜M3 積分器、R1,R2 抵抗素子、SC1,SC2 スイッチトキャパシタ回路、SW1〜SW16 スイッチ、IN1 第1入力端子、IN2 第2入力端子、OP 演算増幅器、NC ノイズキャンセル回路、NC ノイズキャンセル回路、10 逓倍器、11 マイコン、20 分周器、21A,21B A/D変換器。

Claims (7)

  1. 互いに逆相の第1および第2アナログ信号がそれぞれ入力される第1および第2スイッチトキャパシタ回路を含む積分回路またはサンプルホールド回路を備える、差動入力型のA/D変換器であって、
    前記第1スイッチトキャパシタ回路は、
    第1サンプリングキャパシタと、
    前記第1アナログ信号が入力される前記第1入力端子と前記第1サンプリングキャパシタの一端との間に接続され第1のタイミングでオンする第1スイッチと、
    前記第1サンプリングキャパシタの前記一端と基準電源との間に接続され第2のタイミングでオンする第2スイッチとを含み、
    前記第2スイッチトキャパシタ回路は、
    第2サンプリングキャパシタと、
    前記第2アナログ信号が入力される前記第2入力端子と前記第2サンプリングキャパシタの一端との間に接続され前記第1のタイミングでオンする第3スイッチと、
    前記第2サンプリングキャパシタの前記一端と前記基準電源との間に接続され前記第2のタイミングでオンする第4スイッチとを含み、
    当該A/D変換器は、
    前記第1スイッチがオンしたときに前記第1入力端子に生じるキックバックノイズを打ち消す信号を、前記第1のタイミングで前記第1入力端子に供給する第1ノイズキャンセル回路と、
    前記第3スイッチがオンしたときに前記第2入力端子に生じるキックバックノイズを打ち消す信号を、前記第1のタイミングで前記第2入力端子に供給する第2ノイズキャンセル回路とをさらに備える、
    ことを特徴とするA/D変換器。
  2. 請求項1記載のA/D変換器であって、
    前記第1ノイズキャンセル回路は、
    第1キャパシタと、
    前記第1入力端子と前記第1キャパシタの一端との間に接続され、それぞれ前記第1および第2のタイミングでオンする第5および第6スイッチと、
    前記第2入力端子と前記第1キャパシタの他端との間に接続され前記第2のタイミングでオンする第7スイッチと、
    前記基準電源と前記第1キャパシタの前記他端との間に接続され前記第1のタイミングでオンする第8スイッチとを含み、
    前記第2ノイズキャンセル回路は、
    第2キャパシタと、
    前記第2入力端子と前記第2キャパシタの一端との間に接続され、それぞれ前記第1および第2のタイミングでオンする第9および第10スイッチと、
    前記第1入力端子と前記第2キャパシタの他端との間に接続され前記第2のタイミングでオンする第11スイッチと、
    前記基準電源と前記第2キャパシタの前記他端との間に接続され前記第1のタイミングでオンする第12スイッチとを含む
    ことを特徴とするA/D変換器。
  3. 請求項1記載のA/D変換器であって、
    前記第1ノイズキャンセル回路は、
    前記第1入力端子に接続する一端を有する第1キャパシタと、
    前記第2入力端子と前記第1キャパシタの他端との間に接続され前記第2のタイミングでオンする第5スイッチと、
    前記基準電源と前記第1キャパシタの前記他端との間に接続され前記第1のタイミングでオンする第6スイッチとを含み、
    前記第2ノイズキャンセル回路は、
    前記第2入力端子に接続する一端を有する第2キャパシタと、
    前記第1入力端子と前記第2キャパシタの他端との間に接続され前記第2のタイミングでオンする第7スイッチと、
    前記基準電源と前記第2キャパシタの前記他端との間に接続され前記第1のタイミングでオンする第8スイッチとを含む
    ことを特徴とするA/D変換器。
  4. オーバーサンプリング方式で動作するA/D変換器であることを特徴とする請求項2または請求項3記載のA/D変換器。
  5. 請求項4記載のA/D変換器であって、
    前記第1キャパシタの容量値は、前記第1サンプリングキャパシタの容量値とほぼ同じであり、
    前記第2キャパシタの容量値は、前記第2サンプリングキャパシタの容量値とほぼ同じである
    ことを特徴とするA/D変換器。
  6. 請求項1から請求項5のいずれか記載のA/D変換器であって、
    前記第1および第2スイッチトキャパシタそれぞれの前段にローパスフィルタをさらに備え、
    前記第1および第2アナログ信号はそれぞれ前記ローパスフィルタを介して前記第1および第2入力端子に入力される
    ことを特徴とするA/D変換器。
  7. 請求項1から請求項6のいずれか記載のA/D変換器であって、
    当該A/D変換器は、他のディジタル回路と同一のチップ上に形成されており、
    前記第1および第2のタイミングは、前記ディジタル回路の動作タイミングを規定するクロック信号のレベル遷移のタイミングからずらして設定されている
    ことを特徴とするA/D変換器。
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