一般に、圧電層の圧電材料固有の圧電定数は温度によって変化する。具体的には、温度が高くなるほど圧電定数は大きくなり、温度が低くなるほど圧電定数は小さくなる。そのため、特許文献1に記載のインクジェットヘッドでは、個別電極と共通電極との間に同じ電圧を印加した場合には、温度によって圧電層の収縮量が異なり、振動板の圧力室と対向する部分の変形量が変動してしまう。すなわち、温度変化によって圧電アクチュエータの駆動特性が変化してしまう。その結果、圧力室に連通するノズルから吐出されるインクの体積や速度などが変化してしまい、印刷品質にばらつきが生じてしまう虞がある。
本発明の目的は、温度変化による駆動特性の変動を抑制することが可能な圧電アクチュエータ及び圧電アクチュエータの製造方法を提供することである。
第1の発明に係る圧電アクチュエータは、変形部と、その面方向と平行な一方向に関する前記変形部の両側に、前記変形部と隣接して配置された拘束部とを有する振動板と、前記変形部の一面に配置されており、前記振動板との積層方向と平行な方向に分極された、前記振動板よりも線膨張係数の小さい圧電層と、前記振動板の前記圧電層側の面における、前記変形部と前記拘束部との境界近傍に配置された、前記振動板よりも線膨張係数の大きい高膨張層、及び、前記振動板の前記圧電層と反対側の面における、前記変形部と前記拘束部との境界近傍に配置された、前記振動板よりも線膨張係数の小さい低膨張層の少なくともいずれか一方とを備えていることを特徴とするものである。
一般に、圧電層は、温度が高くなるほど圧電材料固有の圧電定数が大きくなり、温度が低くなるほど圧電定数は小さくなる。そのため、温度変化によって圧電アクチュエータの駆動特性が変動してしまう。
また、圧電層と振動板からなる圧電アクチュエータにおいては、圧電アクチュエータを作製する工程において圧電層に圧縮応力が作用し、その圧縮応力が圧電層に残留することが知られている。圧電層に圧縮応力が作用すると、圧電層の変形が抑制されるため、圧電層の見かけ上の圧電定数が低下する。
そこで、温度変化による圧電材料固有の圧電定数の変化と、圧電層に圧縮応力が作用することによる見かけ上の圧電定数の変化とを相殺させることで、温度変化による圧電特性の変動を抑制する。本発明では、圧電アクチュエータの温度が高くなった場合には、圧電層と振動板、および高膨張層と低膨張層の少なくともいずれか一方が配置された積層体における、線膨張係数の関係により、振動板が圧電層と反対側に凸となるように変形し、この変形により圧縮縁側の圧電層に圧縮応力が作用する。圧電層に圧縮応力が作用すると、みかけ上の圧電定数が低下する。これにより、温度上昇による圧電層の圧電材料固有の圧電定数の上昇と、圧電層に圧縮応力が加わることによる圧電層の見かけ上の圧電定数の低下とが相殺され、圧電アクチュエータの駆動特性の変動が抑制される。
一方、圧電アクチュエータの温度が低くなった場合には、圧電層と振動板、およびと高膨張層と低膨張層の少なくともいずれか一方が配置された積層体における、線膨張係数の関係により、振動板が圧電層側に凸となるように変形し、この変形により引張縁側の圧電層に引っ張り応力が作用する。そのため、圧電層に元々生じていた圧縮応力が緩和されるため、圧電層の見かけ上の圧電定数が上昇する。これにより、温度低下による圧電層の圧電材料固有の圧電定数の低下と、圧電層に引っ張り応力が加わることによる圧電層の見かけ上の圧電定数の上昇とが相殺され、圧電アクチュエータの駆動特性の変動が抑制される。
第2の発明に係る圧電アクチュエータは、第1の発明に係る圧電アクチュエータであって、前記高膨張層が、前記積層方向に関して、前記振動板の前記圧電層側の面における、前記高膨張層が配置されていない領域よりも前記振動板から突出しており、且つ、その突出量が前記圧電層の厚みよりも大きいことを特徴とするものである。
これによると、高膨張層が、振動板の高膨張層が形成されていない領域よりも突出しており、その突出高さが圧電層の厚みよりも大きいため、圧電層を外的要因による接触から保護することができ、圧電層が破壊されるのを防止することができる。
第3の発明に係る圧電アクチュエータは第2の発明に係る圧電アクチュエータであって、前記高膨張層の前記振動板と反対側に、配線部材に接続される接続端子が形成されていることを特徴とするものである。
配線部材と接続端子を接続する際には、一般に導電性バンプを形成し、その導電性バンプを介して接続する。しかし、本発明によると、突出している高膨張層上に接続端子を形成しているため、配線部材に接続するための導電性バンプを形成する必要がない。
第4の発明に係る圧電アクチュエータは、第1の発明に係る圧電アクチュエータであって、前記高膨張層が前記振動板に埋め込まれており、前記高膨張層の前記振動板と反対側の面と、前記振動板の前記圧電層側の面における前記高膨張層が配置されていない領域とが、前記積層方向に関して同じ位置にあることを特徴とするものである。
これによると、振動板と高膨張層との積層体の圧電層側の面を平らにすることができるため、この面に圧電層などを配置しやすい。
第5の発明に係る圧電アクチュエータは、第1〜第4のいずれかの発明に係る圧電アクチュエータであって、前記高膨張層が、前記振動板の前記圧電層側の面における、前記変形部により形成される領域と、前記拘束部により形成される領域とにまたがって延びていることを特徴とするものである。
高膨張層が、振動板の圧電層側の面における、変形部により形成される領域と、変形部に隣接する部分により形成される領域とにまたがって延びているため、圧電アクチュエータに温度変化が生じたときに、振動板がより変形しやすい。
第6の発明に係る圧電アクチュエータは、第1〜第5のいずれかの発明に係る圧電アクチュエータであって、前記低膨張層が前記振動板に埋め込まれており、前記低膨張層の前記振動板と反対側の面と、前記振動板の前記圧電層と反対側の面における前記低膨張層が配置されていない領域とが、前記積層方向に関して同じ位置にあることを特徴とするものである。
これによると、振動板と低膨張層との積層体の圧電層と反対側の面が平らになるため、この面に基材などを配置しやすい。
第7の発明に係る圧電アクチュエータは、第1〜第6のいずれかの発明に係る圧電アクチュエータであって、前記低膨張層が、前記振動板の前記圧電層と反対側の面における、前記変形部により形成される領域と、前記変形部に隣接する部分により形成される領域とにまたがって延びていることを特徴とするものである。
これによると、低膨張層が、振動板の基材と反対側の面における、変形部により形成される領域と、変形部に隣接する部分により形成される領域とにまたがって延びているため、圧電アクチュエータに温度変化が生じたときに、振動板がより変形しやすい。
第8の発明に係る圧電アクチュエータは、第1〜第7のいずれかの発明に係る圧電アクチュエータであって、前記振動板に、前記高膨張層または前記低膨張層によりその開口が覆われた凹部が形成されていることを特徴とするものである。
これによると、振動板に凹部が形成されているため、温度が変化したときに、振動板が変形しやすい。
第9の発明に係る圧電アクチュエータの製造方法は、変形部と、その面方向と平行な一方向に関する前記変形部の両側に、前記変形部と隣接して配置された拘束部とを有する振動板における、前記変形部の一面に、前記振動板よりも線膨張係数が小さい圧電層を形成する圧電層形成工程と、前記振動板の前記圧電層側の面における前記変形部と前記拘束部との境界近傍に、前記振動板よりも線膨張係数の大きい高膨張層を形成する高膨張層形成工程、及び、前記振動板の前記圧電層と反対側の面における前記変形部と前記拘束部との境界近傍に、前記振動板よりも線膨張係数の小さい低膨張層を形成する低膨張層形成工程の少なくともいずれか一方を含む膨張層形成工程と、前記圧電層を、前記振動板と前記圧電層との積層方向と平行な方向に分極させる分極工程とを備えていることを特徴とするものである。
これによると、温度変化による圧電特性の変動を抑制することが可能な第1の発明に係る液体吐出装置を製造することができる。
第10の発明に係る圧電アクチュエータの製造方法は、第9の発明に係る圧電アクチュエータの製造方法であって、前記高膨張層形成工程において、前記積層方向に関して、前記振動板の前記圧電層側の面から突出し、その突出量が前記圧電層の厚みよりも大きくなるように、前記高膨張層を形成し、前記振動板の前記圧電層及び前記高膨張層と反対側に基材を配置した状態で、前記高膨張層を前記振動板と反対側から前記基材に向かって押圧することによって、前記振動板と前記基材とを接合して前記拘束部の変形を拘束する接合工程をさらに備えていることを特徴とするものである。
これによると、振動板の高膨張層が形成されていない領域から突出し、その突出量が圧電層の厚みよりも大きくなるように高膨張層を形成しているとともに、高膨張層を押圧することによって、振動板と所定の部材と接合しているため、高膨張層を押圧する治具などが、圧電層に接触してしまうのを防止することができる。
第11の発明に係る圧電アクチュエータの製造方法は、第10の発明に係る圧電アクチュエータの製造方法であって、前記高膨張層の前記振動板と反対側に、配線部材に接続される接続端子を形成する接続端子形成工程と、前記高膨張層の前記振動板と反対側に配置した前記配線部材と前記振動板とを互いに押し当てることにより、前記高膨張層に形成された前記接続端子と前記配線部材とを接続する接続工程とをさらに備えていることを特徴とするものである。
これによると、配線部材と接続端子とを接続する際に、配線部材が高膨張層に接触した状態よりも、振動板側に移動しないので、配線部材が圧電層に接触して、圧電層を破壊してしまうのを防止することができる。
第12の発明に係る圧電アクチュエータの製造方法は、第10の発明に係る圧電アクチュエータの製造方法であって、前記圧電層の前記振動板と反対側の面に、前記積層方向に関して前記高膨張層よりも突出した、配線部材との接続を行うための導電性バンプを形成するバンプ形成工程と、前記高膨張層の前記振動板と反対側に配置した前記配線部材と前記振動板とを互いに押し当てることにより、前記導電性バンプと前記配線部材とを接続する接続工程とをさらに備えていることを特徴とするものである。
これによると、導電性バンプと配線部材とを接続する際には、導電性バンプは配線部材に押しつぶされることになるが、高膨張層があるため、配線部材は、高膨張層と接触した状態からさらに振動板側に移動することがない。したがって、高膨張層の高さを調整することにより、導電性バンプを所望の高さにすることができる。
第13の発明に係る圧電アクチュエータの製造方法は、第9の発明に係る圧電アクチュエータの製造方法であって、前記高膨張層形成工程が、前記圧電層形成工程よりも前に行われる工程であって、前記高膨張層形成工程において、前記高膨張層が前記振動板に埋め込まれ、且つ、前記高膨張層の前記振動板と反対側の面と、前記振動板の前記高膨張層が配置される面における前記高膨張層が配置されていない領域とが、前記積層方向に関して同じ位置にくるように、前記高膨張層を形成することを特徴とするものである。
これによると、振動板と高膨張層との積層体の圧電層が配置される側の面を平らにすることができるため、この面に圧電層などを配置しやすい。
第14の発明に係る圧電アクチュエータの製造方法は、第9〜第13のいずれかの発明に係る圧電アクチュエータの製造方法であって、前記振動板がチタンを含む材料からなり、前記高膨張層形成工程が、前記圧電層形成工程よりも前に行われる工程であって、前記圧電層形成工程において、前記振動板の前記高膨張層側の面に、水熱合成法によりチタンを含む材料からなる圧電層を形成することを特徴とするものである。
これによると、圧電材料を構成するチタンを含む振動板の表面にチタンを含む材料からなる圧電層を形成する場合には、水熱合成法によりチタンを含む振動板の表面にはチタンを含む材料が析出されやすく、高膨張層の表面にはチタンを含む材料が析出されにくい。したがって、圧電層を、変形部と対向する部分に容易に形成することができる。
第15の発明に係る圧電アクチュエータの製造方法は、第9〜第13のいずれかの発明に係る圧電アクチュエータの製造方法であって、前記圧電層形成工程において、エアロゾルデポジション法により前記圧電層を形成し、その後、前記高膨張層と前記低膨張層の少なくともいずれか一方が形成された前記振動板と前記圧電層の積層体を加熱するアニール工程と、アニール工程後に、前記積層体を冷却する冷却工程とをさらに備えていることを特徴とするものである。
振動板上に、振動板よりも線膨張係数が小さい材料からなる圧電層が配置された積層体を加熱するアニール処理後、冷却すると、圧電層には圧縮応力が残留する。圧電層に圧縮応力が加わると圧電層の見かけ上の圧電定数が低下する。
しかしながら、本発明では、振動板上に、高膨張層と低膨張層の少なくとも何れか一方が形成されているため、加熱後、冷却されたときには、これらの線膨張係数の関係により、振動板の圧電層が形成された面が凸となるように変形し、これによって圧電層に引っ張り応力が生じることとなる。そして、この引っ張り応力により、圧電層に残留する圧縮応力低減させることができ、圧電層の見かけ上の圧電定数が低下してしまうのを防止することができる。なお、冷却工程には、積層体を積極的に冷却させることに加え、積層体を自然冷却させることも含まれる。
第16の発明に係る圧電アクチュエータの製造方法は、第9〜第15の発明に係る圧電アクチュエータの製造方法であって、前記低膨張層形成工程において、前記低膨張層が前記振動板に埋め込まれ、且つ、前記低膨張層の前記振動板と反対側の面と、前記振動板の前記低膨張層が配置される面における前記低膨張層が配置されていない領域とが、前記積層方向に関して同じ位置にくるように、前記低膨張層を形成することを特徴とするものである。
これによると、振動板と低膨張層との積層体の圧電層と反対側の面を平らにすることができるため、この面に基材などを配置しやすい。
本発明によれば、温度変化による圧電定数の変化と、振動板と高膨張層及び低膨張層の少なくともいずれか一方との線膨張係数の違いにより振動板が変形することによる見かけ上の圧電定数の変化とが相殺されるため、温度変化による圧電アクチュエータの駆動特性が変動することを抑制することができる。
以下、本発明の好適な実施の形態について説明する。
図1は、本実施の形態に係るプリンタの概略構成図である。図1に示すように、プリンタ1は、キャリッジ2、インクジェットヘッド3、搬送ローラ4などを備えている。
キャリッジ2は図1の左右方向(走査方向)に往復移動する。インクジェットヘッド3は、キャリッジ2の下面に配置されており、その下面に形成されたノズル15(図2参照)からインクを吐出する。搬送ローラ4は、記録用紙Pを図1の手前方向(紙送り方向)に搬送する。
そして、プリンタ1においては、搬送ローラ4により紙送り方向に搬送される記録用紙Pに、キャリッジ2とともに走査方向に往復移動するインクジェットヘッド3からインクを吐出することにより、記録用紙Pに印刷が行われる。また、印刷が行われた後の記録用紙Pは、搬送ローラ4により、さらに紙送り方向に搬送されて排出される。
次に、インクジェットヘッド3について説明する。図2は図1のインクジェットヘッド3の平面図である。図3は図2の部分拡大図である。図4は図3のIV−IV線断面図である。図5は図3のV−V線断面図である。
図2〜図5に示すように、インクジェットヘッド3は、後述する圧力室10やノズル15を含むインク流路が形成された流路ユニット31と、圧力室10内のインクに圧力を付与する圧電アクチュエータ32とを有している。
流路ユニット31は、キャビティプレート21、ベースプレート22、マニホールドプレート23及びノズルプレート24が互いに積層されることにより形成されている。これら4枚のプレート21〜24のうち、ノズルプレート24を除いた3枚のプレート21〜23は、ステンレスなどの金属材料により構成されており、ノズルプレート24はポリイミドなどの合成樹脂材料により構成されている。あるいは、ノズルプレート24も、他のプレート21〜23と同様、金属材料により構成されていてもよい。
キャビティプレート21には、複数の圧力室10が形成されている。圧力室10は走査方向(図2の左右方向)を長手方向とする略楕円の平面形状を有しており、走査方向に沿って2列に配列されている。
ベースプレート22には、平面視で圧力室10の長手方向の両端部と重なる部分に、それぞれ、略円形の平面形状を有する貫通孔12、13が形成されている。マニホールドプレート23には、マニホールド流路11が形成されている。マニホールド流路11は、図2の右側に配列された圧力室10の略右半分、及び、図2の左側に配列された圧力室10の略左半分とそれぞれ対向するように紙送り方向に2列に延びており、図2における下端部において互いに接続されている。また、マニホールド流路11には、インク供給口9からインクが供給される。
また、マニホールドプレート23には、平面視で貫通孔13と対向する部分に略円形の平面形状を有する貫通孔14が形成されている。ノズルプレート24には、平面視で貫通孔14と対向する部分にノズル15が形成されている。
そして、流路ユニット31においては、マニホールド流路11が貫通孔12を介して圧力室10に連通しており、さらに、圧力室10が貫通孔13、14を介してノズル15に連通している。このように、流路ユニット31においては、マニホールド流路11の出口から圧力室10を経てノズル15に至る複数の個別インク流路が形成されている。
圧電アクチュエータ32は、振動板41、高膨張層42、圧電層43及び個別電極44を有している。振動板41は、例えば、SUS430などからなり、複数の圧力室10を覆うように、流路ユニット31(キャビティプレート21)の上面に接合されている。そして、振動板41は、キャビティプレート21に接合されることにより、圧力室10と対向する部分が後述するように変形可能な変形部41aとなり、それ以外の部分がキャビティプレート21により変形が拘束された拘束部41bとなっている。このように、振動板41においては、振動板41の面方向と平行な任意の方向に関する変形部41aの両側に、変形部41aに隣接して拘束部41bが配置されている。また、導電性を有する振動板41は、共通電極を兼ねており、常にグランド電位に保持されている。
さらに、振動板41の上面における、変形部41aにより形成される領域と拘束部41bにより形成される領域とにまたがった、圧力室10の縁の近傍と対向する部分(変形部41aと拘束部41bとの境界近傍)には、それぞれ、圧力室10の全周にわたって凹部41cが形成されている。
高膨張層42は、例えば、SUS304など、振動板41よりも線膨張係数の大きい材料からなり、振動板41の上面(圧電層43側の面)における、変形部41aにより形成される領域と拘束部41bにより形成される領域とにまたがった、圧力室10の縁の近傍(変形部41aと拘束部41bとの境界近傍)と対向する部分に、圧力室10の全周にわたって個別に配置されており、凹部41cの上面の開口を覆っている。また、高膨張層42は、振動板41の上面における高膨張層42が配置されていない領域よりも上方に突出している。
圧電層43は、チタン酸鉛とジルコン酸鉛との混晶であるチタン酸ジルコン酸鉛を主成分とする圧電材料からなり、振動板41の上面(一面)における、圧力室10と対向する部分に配置されている。なお、圧電層43を構成する上記圧電材料は、振動板41を構成する材料(SUS430)よりも線膨張係数の小さいものとなっている。
ここで、高膨張層42の、振動板41の上面における高膨張層42が配置されていない領域からの突出量は、圧電層43の厚みよりも大きくなっている。また、図4に示すように、高膨張層42における、圧電層43の、走査方向(図4の左右方向)に関するノズル15と反対側の端と隣接する部分は、走査方向に関して圧電層43に近づくほどその高さが低くなっており、圧電層43と接続された部分において圧電層43と同じ高さとなっている。これにより、高膨張層42の上面と圧電層43の上面とが、この部分において滑らかにつながっている。
個別電極44は、圧力室10よりも一回り小さい略楕円の平面形状を有しており、圧電層43の上面における、圧力室10の略中央部と対向する部分に配置されている。また、個別電極44は、走査方向(図4の左右方向)に関するノズル15と反対側の端部が、上述の高膨張層42の上面と圧電層43の上面とが滑らかにつながった部分を通って、高膨張層42の上面における圧力室10と対向しない部分まで延びており、その先端部が接続端子44aとなっている。また、圧電層43の個別電極44と共通電極としての振動板41とに挟まれた部分は、その厚み方向(振動板41と圧電層43との積層方向と平行)に分極されている。
圧電アクチュエータ32の上方には、フレキシブル配線部材(FPC)45(配線部材)が配置されており、FPC45は、熱硬化性樹脂材料46により高膨張層42の上面に接合されている。これにより、高膨張層42の上面に配置された接続端子44aとFPC45の図示しない配線とが電気的に接続されている。そして、個別電極44は、FPC45を介して図示しないドライバICと接続されており、ドライバICにより駆動電位が付与される。
ここで、圧電アクチュエータ32の駆動方法について説明する。圧電アクチュエータ32においては、複数の個別電極44が予めグランド電位に保持されている。そして、ドライバICにより複数の個別電極44のいずれかに駆動電位が付与されると、個別電極44と共通電極としての振動板41との間に電位差が生じ、圧電層43のこれらの電極に挟まれた部分にその厚み方向に電界が発生する。この電界の方向は圧電層43の分極方向と一致するため、圧電層43のその厚み方向と直交する水平方向に収縮する。これに伴って、振動板41及び圧電層43の圧力室10と対向する部分が全体として圧力室10側に凸となるように変形し、圧力室10の容積が減少する。これにより、圧力室10内のインクの圧力が上昇し(圧力室10内のインクに圧力が付与され)、圧力室10に連通するノズル15からインクが吐出される。
一般に圧電層43は、温度が高くなるほど圧電材料固有の圧電定数が大きくなり、温度が低くなるほど圧電定数は小さくなる。そのため、温度変化によって圧電アクチュエータ32の駆動特性が変動してしまう。その結果、圧電アクチュエータ32を駆動させてインクを吐出するインクジェットヘッド3においては、ノズル15から吐出されたインクの速度や体積が温度によって異なることとなる。
また、圧電層43と振動板41を接合する工程において、圧電層43には圧縮応力が作用し、その圧縮応力が圧電層43に残留する。圧電層43に圧縮応力が作用すると、圧電層43の変形が抑制されるため、圧電層43の見かけ上の圧電定数が低下する。
しかしながら、本実施の形態では、振動板41の上面における圧力室10の縁の近傍に、振動板41よりも線膨張係数の大きい高膨張層42が配置されているため、圧電アクチュエータ32の温度が上昇したときには、高膨張層42が振動板41よりも大きく膨張して、図6(a)に示すように、振動板41が圧力室10側に凸となるように変形する。
これにより、振動板41の上面に配置された圧電層43は、紙送り方向(図6(a)の左右方向)両側から圧縮されることになり、すなわち、圧電層43には、圧縮応力が加わることとなり、この圧縮応力により圧電層43の見かけ上の圧電定数が低下する。したがって、圧電アクチュエータ32の温度が上昇することによる圧電層43の圧電材料固有の圧電定数の上昇と、圧電層43に圧縮応力が加わることによる圧電層43の見かけ上の圧電定数の低下とが相殺され、圧電アクチュエータ32の駆動特性、つまり、ノズル15からのインクの吐出特性が変動してしまうのを抑制することができる。
一方、圧電アクチュエータ32の温度が低下した場合には、振動板41と高膨張層42との線膨張係数の差により高膨張層42が振動板41よりも大きく収縮して、上述したのとは逆に、図6(b)に示すように、振動板41が圧力室10と反対側に凸となるように変形する。これにより、振動板41の上面に配置された圧電層43は、紙送り方向(図6(b)の左右方向)両側に引っ張られる、すなわち、圧電層43には、引っ張り応力が加わることになる。
ここで、振動板41と圧電層43との線膨張係数の関係により、これらの接合後に、圧電層43には圧縮応力が発生しているが、この引っ張り応力により圧電層43の上記圧縮応力が緩和され、圧電層43の見かけ上の圧電定数が上昇する。したがって、圧電アクチュエータ32の温度が低下することによる圧電層43の圧電材料固有の圧電定数の低下と、圧電層43に引っ張り応力が加わることによる圧電層43の見かけ上の圧電定数の上昇とが相殺され、圧電アクチュエータ32の駆動特性、つまり、ノズル15からのインクの吐出特性が変動してしまうのを抑制することができる。
さらに、振動板41の上面に凹部41cが形成されており、高膨張層42が、振動板41の上面における変形部41aにより形成される領域と拘束部41bにより形成される領域とにまたがって、圧力室10の全周にわたって配置されているため、温度が変化したときに圧電アクチュエータ32の振動板41がさらに変形しやすい。したがって、振動板41の変形による圧電層43の見かけ上の圧電定数の変化により、温度変化による圧電層43の圧電材料固有の圧電定数の変化を効果的に相殺することができ、圧電アクチュエータ32の駆動特性の変動を確実に抑制することができる。
次に、インクジェットヘッド3の製造方法について説明する。図7は、インクジェットヘッド3の製造工程を示す工程図である。
インクジェットヘッド3を製造する際には、まず、予め凹部41cを形成した振動板41の上面における、上述した圧力室10の縁の近傍となる部分に、拡散接合などにより高膨張層42を接合する(高膨張層形成工程)。
次に、エアロゾルデポジション法(AD法)により振動板41上に圧電材料を堆積させることで、振動板41の上面における圧力室10と対向することとなる領域に、圧電層43を形成する(圧電層形成工程)。
次に、図7(c)に示すように、印刷などにより、圧電層43の上面に個別電極44を形成し、続いて、振動板41、高膨張層42、圧電層43及び個別電極44の積層体を800〜1000度程度で加熱して、圧電層43を結晶化させる、いわゆるアニールを行い(アニール工程)、その後、上記積層体を冷却する(冷却工程)。なお、上記積層体の冷却は、冷却装置などを用いて積極的に行ってもよく、アニールのための加熱をやめることにより自然冷却させてもよい。
ここで、アニールにおいて、振動板41、高膨張層42及び圧電層43を加熱すると、図7(d)に示すように、高膨張層42が振動板41よりも大きく膨張するため、振動板41は、下側に凸となるように変形し、圧電層43はこの状態で結晶化される。
このとき、振動板41の上面に高膨張層42が配置されていないとすると、アニール後、振動板41及び圧電層43を冷却したときに、振動板41が圧電層43よりも大きく収縮し、その結果、圧電層43には圧縮応力が加わる。そして、圧電層43に圧縮応力が加わると、圧電層43の見かけ上の圧電定数が低下してしまう。
これに対して、本実施の形態では、振動板41の上面おける圧力室10の縁の近傍に、振動板41よりも線膨張係数の大きい高膨張層42が配置されているため、アニール後、振動板41、高膨張層42及び圧電層43を冷却したときに、高膨張層42が振動板41よりも大きく収縮し、下側に凸となる前の状態(図7(c)の状態)に近づく。これにより、圧電層43に生じる上記圧縮応力が抑制される。
次に、図7(e)に示すように、圧電アクチュエータ32の下面、又は、別工程で製造した流路ユニット31(キャビティプレート21)の上面に熱硬化性の接着剤を塗布した後、圧電アクチュエータ32を流路ユニット31の上方に配置し、この状態で、ヒータHにより圧電アクチュエータ32を上方から流路ユニット31に向かって押圧しながら加熱する。これにより、圧電アクチュエータ32と流路ユニット31とが接着剤により接合され、流路ユニット31により、振動板41の拘束部41bの変形が拘束される(接合工程)。
このとき、高膨張層42が振動板41の上面の高膨張層42が配置されていない領域よりも上方に突出しているとともに、その突出量が圧電層43の厚みよりも大きくなっているため、ヒータHは、高膨張層42に接触して、高膨張層42を下方に押圧することになり、圧電層43には接触しない。圧電層43を直接押圧すると圧電層43にクラックが発生する虞があるが、圧電層43を直接押圧することがないため、圧電層43にクラックが発生するのを防止することができる。
次に、図7(f)に示すように、圧電アクチュエータ32の上方に、その下面に熱硬化性樹脂材料46を形成したFPC45を配置し、この状態で、上方から、ヒータHによりFPC45を圧電アクチュエータ32に向かって押圧し(FPC45と振動板41とを互いに押し当て)ながら加熱する。なお、図7(f)のヒータHは、図7(e)に示すヒータHと同じものであってもよいし、別のものであってもよい。
これにより、高膨張層42と対向する部分に位置する熱硬化性樹脂材料46が、振動板41の上面の高膨張層42が配置されていない領域よりも上方に突出した高膨張層42により押し出され、押し出された熱硬化性樹脂材料46が高膨張層42の側面に回りこんで圧電層43の上面に達する。そして、この状態で熱硬化性樹脂材料46が硬化することにより、FPC45が圧電アクチュエータ32に接合されるとともに、図4に示すように、高膨張層42の上面に配置された接続端子44aがFPC45の下面に接触し、これにより、接続端子44aがFPC45の図示しない配線と電気的に接続される(接続工程)。
このとき、振動板41の上面に、振動板41の上面における高膨張層42が配置されていない領域よりも上方に突出した高膨張層42が形成されており、高膨張層42の上面に接続端子44aが配置されているため、圧電層43とFPC45との間に十分な間隔を設けるために、別途、圧電層43の上面から突出したバンプなどを形成する必要がない。
なお、上述の実施の形態では、高膨張層42は、圧力室10の全周にわたって個別に配置されていたが、圧力室10の周囲の一部に配置されているだけでもよい。また、複数の圧力室10に対して個別に配置されているものに限られず、高膨張層42が連続的に配置されていてもよい。
次に、本実施の形態に種々の変更を加えた変形例について説明する。ただし、本実施の形態と同様の構成を有するものについては同じ符号を付し、適宜その説明を省略する。
上述の実施の形態では、個別電極44の接続端子44aが、高膨張層42の上面に配置されていたが、これには限られない。一変形例(変形例1)では、圧電アクチュエータ50において、図8〜図10に示すように、振動板41の上面における、圧力室10の縁と対向する部分のうち、紙送り方向(図8の上下方向)に関する両端部近傍の部分にのみ(変形部41aと拘束部41bとの境界近傍に)凹部41dが形成されており、凹部41dを覆うように、圧力室10の縁のうち、紙送り方向に関する両端部近傍の部分と対向する部分にのみ高膨張層52が配置されている。
そして、個別電極44の長手方向に関するノズル15と反対側の端部に設けられた接続端子44aが、圧電層43の上面に配置されている。接続端子44aの上面には、圧電層43の上面から上方に突出した導電性バンプ51が形成されており、熱硬化性樹脂材料46により導電性バンプ51とFPC45とが接合されることにより、導電性バンプ51を介して接続端子44aとFPC45の図示しない配線とが接続されている。
図11に示すように、圧電アクチュエータ50の製造方法においては、高膨張層52が配置された振動板41の上面に圧電層43を形成した(図11(a))後、スクリーン印刷などにより圧電層43の上面に個別電極44、接続端子44a、及び圧電層43の厚さ方向において、高膨張層52よりも突出した導電性バンプ51を形成する(図11(b))。その後、FPC45が高膨張層52に接触するまで導電性バンプ51を押しつぶしながら、FPC45を圧電アクチュエータ50に押し当てることで、接続端子44aとFPC45の図示しない配線を、導電性バンプ51を介して電気的に接続する(図11(c))。
これにより、導電性バンプ51の高さは、高膨張層52の圧電層43からの突出量と同じになり、押しつぶされすぎることがなく、複数の導電性バンプ51の高さを一定にすることができる。その結果、導電性バンプ51における電気抵抗のばらつきを抑えることができる。
なお、この場合にも、上述の実施の形態と同様にして、振動板41を流路ユニット31(キャビティプレート21)に接合するが、上述の実施の形態の場合のように、FPC45の接続前に、振動板41と流路ユニット31との接合を行う場合には、導電性バンプ51がつぶれてしまうのを防止するために、例えば、FPC45との接続に用いるヒータHとは別の、導電性バンプ51と対向する部分に溝が形成されたヒータを用いて振動板41と流路ユニット31とを接合する必要がある。あるいは、FPC45との接合後に、振動板41と流路ユニット31との接合を行ってもよい。
また、上述の実施の形態、および変形例1では、振動板41の上面に配置された高膨張層42が、振動板41の上面における高膨張層42が配置されていない領域よりも上方に突出しているとともに、その突出量が、圧電層43の厚みよりも大きくなっていたが、高膨張層の突出量は、圧電層43の厚みと同程度、あるいは、圧電層43の厚みよりも小さくてもよい。
さらに、別の一変形例(変形例2)では、圧電アクチュエータ70において、図12に示すように、高膨張層72は、振動板41に埋め込まれており、高膨張層72の上面と、振動板41の高膨張層72が配置されていない領域の上面とが、同じ高さとなっている(積層方向に関して同じ位置にある)。これにより、高膨張層72の上面と振動板41の上面の高膨張層72が配置されていない領域からなる面(以下、高膨張層72が埋め込まれた振動板41(振動板41と高膨張層72との積層体)の上面とする)が平らになっている。
次に、圧電アクチュエータ70の製造方法について説明する。圧電アクチュエータ70を製造する際には、まず、図13(a)に示すように、高膨張層72の上面と、振動板41の上面の高膨張層72が配置されていない領域とが同じ高さとなるよう(積層方向に関して同じ位置にくるように)に、振動板41に高膨張層72を埋め込む(高膨張層形成工程)。
高膨張層72を振動板41に埋め込む方法としては、例えば、振動板41の上面に高膨張層72を配置してから、圧延により高膨張層72を振動板41に埋め込む方法や、振動板41の高膨張層72を埋め込むべき部分に、エッチングなどにより高膨張層72とほぼ同じ高さを有する凹部を形成し、接着剤による接着や拡散接合などによって当該凹部内に高膨張層72を接合する方法などが挙げられる。なお、エッチングにより、凹部を形成する場合には、エッチングの精度により、平面視での凹部の大きさが高膨張層72よりも大きくなってしまう虞があるが、高膨張層72と凹部との隙間を接着剤により埋めるなどすれば、高膨張層72が埋め込まれた振動板41の上面を平らにすることができる。
次に、図13(b)に示すように、高膨張層72を埋め込んだ振動板41の上面に、AD法により圧電層73及び個別電極44を形成し、圧電層73をアニールした後、図13(c)に示すように、接着剤などにより、振動板41の下面に流路ユニット31(キャビティプレート21)を接合し、拘束部41bの変形を流路ユニット31により拘束させる。
別の一変形例(変形例3)では、図14に示すように、圧電アクチュエータ90において、振動板41がチタンを含む材料からなり、振動板41に高膨張層92が埋め込まれており、変形部41aの上面には、チタンを含む材料からなる圧電層93及び個別電極44が配置されている。なお、変形例4では、高膨張層92が埋め込まれた振動板41の上面の圧電層93が配置されていない領域に、圧電材料の層が配置されているが、その厚みは僅かなものであるので、ここでは図示を省略する。
ここで、このような圧電アクチュエータ90を製造するには、まず、図15(a)に示すように、変形例2と同様にして、高膨張層92の上面と振動板41の高膨張層92が配置されていない領域とが同じ高さとなるように、チタンを含む材料からなる振動板41に高膨張層92を埋め込む(高膨張層形成工程)。続いて、チタンを含む材料からなる圧電材料を含む液体が導入された空間内に、高膨張層92が埋め込まれた振動板41を配置するとともに、当該空間内を高圧にすることによって圧電材料を析出させる水熱合成法により、図15(b)に示すように、高膨張層92が埋め込まれた振動板41の上面に圧電層93を形成する(圧電層形成工程)。
このとき、上述したように、圧電層93が、チタンを含む材料であるチタン酸ジルコン酸鉛を主成分とする圧電材料により構成されているため、チタンを含む材料からなる振動板41の上面にこの圧電材料が析出されやすく、この部分に圧電層93が形成される。一方、チタンを含まない高膨張層92の上面には圧電材料が析出されにくく、高膨張層92の上面には図示しない僅かな厚みの圧電材料の層が形成される。
次に、図15(c)に示すように、圧電層43の上面に個別電極44を形成し、続いて、図15(d)に示すように、振動板41の下面に流路ユニット31(キャビティプレート21)を接合して、拘束部41bの変形を流路ユニット31により拘束させる。
また、変形例3では、高膨張層92の上面と振動板41の高膨張層92が配置されていない領域とが同じ高さとなるように高膨張層92が振動板41に埋め込まれているが、これには限られない。すなわち、高膨張層92の上面が振動板41の高膨張層92が配置されていない領域から突出していてもよく、また、上記実施の形態と同様に、振動板41上に高膨張層92が配置されていてもよい。
別の一変形例(変形例4)では、図16に示すように、圧電アクチュエータ100において、SUS304などからなる振動板41の下面には、変形部41aにより形成される領域と拘束部41bにより形成される領域とにまたがった、圧力室10の縁と対向する部分の近傍(変形部41aと拘束部41bとの境界近傍)の部分に、圧力室10の全周にわたって、SUS430、セラミックスなど振動板41よりも線膨張係数の小さい低膨張層102が配置されている。なお、この場合には、拘束部41bは、流路ユニット31(キャビティプレート21)との間に低膨張層102を挟んだ状態で、流路ユニット31に接合されることにより、その変形が拘束されている。
また、振動板41の上面には、その全域にわたって圧電層103が形成されており、圧電層103の上面における圧力室10の略中央部と対向する部分には、個別電極44が形成されている。
この場合にも、上述の実施の形態と同様、圧電アクチュエータ100の温度が高くなるほど、圧電層103の圧電材料固有の圧電定数が大きくなるが、圧電アクチュエータ100の温度が上昇すると、振動板41が低膨張層102よりも大きく膨張し、図17(a)に示すように、振動板41が圧力室10側に凸となるように変形する。
これにより、振動板41の上面に配置された圧電層103の圧力室10と対向する部分は、紙送り方向(図17(a)の左右方向)両側から圧縮されることになり、すなわち、圧電層103の圧力室10と対向する部分に圧縮応力が加わることとなり、この圧縮応力により圧電層103の見かけ上の圧電定数が低下する。
したがって、温度が上昇することによる圧電層103の圧電材料固有の圧電定数の上昇と、圧電層103に圧縮応力が加わることによる圧電層103の見かけ上の圧電定数の低下とが相殺され、圧電アクチュエータ100における駆動特性、つまり、ノズル15からのインクの吐出特性が変動してしまうのを防止することができる。
一方、圧電アクチュエータ100の温度が低下した場合には、振動板41が低膨張層よりも大きく収縮し、上述したのとは逆に、図17(b)に示すように、振動板41が圧力室10と反対側に凸となるように変形する。これにより、振動板41の上面に配置された圧電層103の圧力室10と対向する部分は、紙送り方向(図17(b)の左右方向)両側に引っ張られる、すなわち、圧電層103の当該部分に、引っ張り応力が加わることになる。そして、この引っ張り応力により、圧電層103の圧力室10と対向する部分に、圧電層103との線膨張係数の差により両者の接合の際に発生していた圧縮応力が緩和され、圧電層103のこの部分における見かけ上の圧電定数が上昇する。
したがって、温度が低下することによる圧電層103の圧電定数の低下と、圧電層103に引っ張り応力が加わることによる圧電層103の見かけ上の圧電定数の上昇とが相殺され、圧電アクチュエータ100の駆動特性、つまり、ノズル15からのインクの吐出特性が変動してしまうのを防止することができる。
このような、圧電アクチュエータ100を製造するには、金属拡散接合により、図18(a)に示すように、振動板41の下面における上記圧力室10の縁の近傍部分に、低膨張層102を接合し(低膨張層形成工程)、次に、図18(b)に示すように、振動板41の上面に、AD法により圧電層103を形成し、圧電層103上にスクリーン印刷等で個別電極44を形成する。そして、図18(c)に示すように、低膨張層102の下面に流路ユニット31(キャビティプレート21)を接合し、拘束部41bの変形を流路ユニット31により拘束させる。
また、変形例4では、振動板41の下面に低膨張層102が配置されており、低膨張層102が、振動板41の下面における低膨張層102が配置されていない領域よりも下方に突出していたが、これには限られない。
別の一変形例(変形例5)では、圧電アクチュエータ110において、図19に示すように、振動板41の下面における、平面視で低膨張層102(図18参照)が配置されていたのと同様の領域に低膨張層112が配置されているが、低膨張層112は、振動板41に埋め込まれており、低膨張層112の下面と、振動板41の下面の低膨張層112が配置されていない領域とが同じ高さとなっている(積層方向に関して同じ位置にある)。
この圧電アクチュエータ110を製造するには、図20(a)に示すように、低膨張層112の下面と、振動板41の低膨張層112が配置されていない領域とが同じ高さとなるように、振動板41に低膨張層112を埋め込む。振動板41に低膨張層112を埋め込む方法としては、変形例2と同様、圧延により振動板41に低膨張層112を埋め込む方法や、振動板41の下面に低膨張層112とほぼ同じ高さの凹部を形成し、凹部内に低膨張層112を接合することなどが挙げられる。
次に、図20(b)に示すように、振動板41の低膨張層112と反対側の面にAD法により圧電層113を形成し、圧電層113上にスクリーン印刷等で個別電極44を形成する。そして、圧電層113をアニールした後、図20(c)に示すように、接着剤などにより、振動板41の下面に流路ユニット31(キャビティプレート21)を接合し、拘束部41bの変形を流路ユニット31により拘束させる。
このとき、低膨張層112が埋め込まれた振動板41の下面が平らになっているため、上述の変形例5の場合のように、低膨張層102が振動板41の下面から下方に突出している場合と比較して、流路ユニット31の接合を行いやすい。
別の一変形例(変形例6)では、圧電アクチュエータ60において、図21に示すように、振動板41の上面に、上述の凹部41cに加え、凹部41e〜41gが接続されている。凹部41eは、図12の左側に配列された圧力室10に対応する凹部41cと、右側に配列された圧力室10対応する凹部41cとを接続する。凹部41fは、図12の左側に配列された圧力室10に対応する凹部41cの左端から左方に延びている。凹部41gは、図12の右側に配列された圧力室10に対応する凹部41cの右端から右方に延びている。
さらに、高膨張層62が、振動板41の上面に、複数の圧力室10にまたがって配置されており、これにより、凹部41c、凹部41e、凹部41fの左端部を除いた部分、及び、凹部41gの右端部を除いた部分が高膨張層62により覆われている。そして、高膨張層62に覆われておらず振動板41の上面に開口した凹部41fの左端部、及び、凹部41gの右端部が、それぞれ、凹部41c、41e〜41g内に水、インクなどの液体を導入するための液体導入口、及び、凹部41c、41e〜41g内の液体を外部に排出するための液体排出口となっている。
この場合には、振動板41に形成した凹部41c、及び、凹部41e〜41gに液体を流すことにより、インクジェットヘッドの温度を調整することが可能となる。また、上記液体導入口及び液体排出口をインクジェットヘッドにインクを供給するための図示しないインクカートリッジに接続するなどして、印刷に用いられるインクを凹部41c、41
e〜41gに流すことにより、別途、インクジェットヘッドの温度調整を行うための液体が不要となる。
以上の実施の形態、変形例では、振動板41の上面に凹部41cが形成されており、凹部41cの開口を覆うように高膨張層42が配置されていたが、凹部41cは形成されていなくてもよい。また、振動板41の下面に凹部41cが形成されており、凹部41cの開口を覆うように、低膨張層(102、112)が配置されていてもよい。すなわち、凹部41cの開口が高膨張層または低膨張層のいずれかに覆われていればよい。
また、振動板41に高膨張層(42、52、72)または、低膨張層(102、112)を接合した後、振動板41の上面に圧電層(43、53、103、113)を形成したが、これに限られず、圧電層(43、53、103、113)を形成した後、高膨張層(42、52、72)を接合してもよい。
また、圧電層(43、53、103、113)はAD法により形成したが、他の成膜方法で形成されていてもよい。具体的には、ゾルゲル法、スパッタ法、CVDが挙げられる。また、振動板41上に直接成膜する方法ではなく、グリーンシートと電極を複数積層して焼成することにより圧電層(43、53、103、113)を形成してもよい。この場合には、振動板41上面に接着剤により圧電層(43、53、103、113)を接合する。
また、高膨張層、低膨張層が、振動板に埋め込まれることなく、振動板の面上に配置されることにより、高膨張層、低膨張層の全体が振動板の上面又は面から突出している例、及び、高膨張層、低膨張層が、振動板に完全に埋め込まれることにより、高膨張層、低膨張層が埋め込まれた振動板の表面が平らになっている場合について説明したが、高膨張層、低膨張層の一部だけが振動板に埋め込まれており、高膨張層、低膨張層の他の部分が、振動板上面又は下面から突出していてもよい。
この場合には、圧電アクチュエータの製造の際、振動板に高膨張層及び低膨張層よりも高さの低い凹部を形成し、凹部内に高膨張層、低膨張層を接合すればよい。
また、高膨張層、低膨張層の平面視における位置は、振動板41の変形部41aにより形成される部分と拘束部41bにより形成される部分とにまたがって配置されていることには限られず、圧力室10の縁近傍(変形部と拘束部との境界近傍)であれば、変形部41aに形成される部分にのみ配置されていてもよく、拘束部41bにより形成される部分にのみ配置されていてもよい。
また、振動板41に高膨張層または、低膨張層のみを形成しているが、これには限られず、振動板41の上面に高膨張層と下面に低膨張層の両方が形成されていてもよい。これによると、温度変化が生じたときに振動板41をさらに効率的に変形させることができる。この場合には、図22(a)〜(i)に示す高膨張層122a〜122i及び低膨張層123a〜123iのように、振動板41に高膨張層及び低膨張層が接合されていればよく、高膨張層および低膨張層の高さ、埋め込み量は種々の形態が適用できる。この場合、高膨張層の突出量が圧電層の厚みと同程度、あるいは、圧電層の厚みよりも小さくてもよい(変形例7)。なお、圧電層は上述の実施の形態の圧電層43である場合を示している。
さらに、図23(a)、(b)に示す高膨張層132a、132b、及び低膨張層133a、133bのように、振動板41の面に平行な一方向における、高膨張層および低膨張層の長さは種々の形態が適用可能である(変形例8)。なお、図23(a)、(b)では、圧電層が上述の実施の形態の圧電層43である場合を示している。
また、圧力室10と対向する変形部41aと、変形部41aに隣接しており、変形部41aをその全周にわたって取り囲む拘束部41bとを有する振動板41と、変形部41aの上面に配置された圧電層とを有する、ノズル15からインクを吐出するインクジェットヘッドに用いられる圧電アクチュエータに本発明を適用した例について説明したが、これには限られず、変形部と、振動板の面方向と平行な所定の一方向に関する変形部の両側に、変形部と隣接して配置された拘束部とを有する圧電アクチュエータであれば、インクジェットヘッド以外に用いられる圧電アクチュエータに本発明を適用することも可能である。
さらに、この場合には、振動板の拘束部は、基材に接合されることによりその変形が拘束されることには限られず、厚み方向の両側から挟まれた状態で担持されるなどすることにより、その変形が拘束されていてもよい。