本発明は、前記課題、つまり耐熱性、耐衝撃性に優れ、さらには、バイオマス度の高い成形体を得ることができるポリ乳酸系樹脂積層シートおよびそれを用いた成形体について、鋭意検討した結果、特定な樹脂を特定な量関係で含有するポリ乳酸系樹脂からなる層A、層B、層Cを、特定の順に積層してみたところ、かかる課題を一挙に解決することを究明したものである。
本発明に用いられるポリ乳酸系樹脂の重量平均分子量は、適度な製膜、延伸適性および実用的な機械特性を満足させるため、5万〜50万であることが好ましく、より好ましくは10万〜25万である。なお、ここでいう重量平均分子量とは、ゲルパーミテーションクロマトグラフィーでクロロホルム溶媒にて測定を行い、ポリメチルメタクリレート換算法により計算した分子量をいう。
本発明に用いられるポリ乳酸系樹脂とは、L−乳酸および/またはD−乳酸を原料として得ることができる構造を主たる構成成分とするポリマーであるが(つまりポリ乳酸を主体とするポリマーであるが)、乳酸以外の他の共重合成分を含んでいてもよい。
かかる他の共重合成分(単量体)としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオ−ル、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノ−ルA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリテトラメチレングリコールなどのグリコール化合物、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4´−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸などのジカルボン酸、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸、カプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5−オキセパン−2−オンなどのラクトン類を挙げることができる。上記他の共重合成分(単量体)の共重合量は、ポリ乳酸を主体とするポリマーの全単量体成分100モル%に対し、0〜30モル%であることが好ましく、0〜10モル%であることがより好ましい。
本発明において、特に高い耐熱性を有する成形品を得るためには、ポリ乳酸系樹脂として乳酸成分の光学純度が高いものを用いることが好ましい。ポリ乳酸系樹脂の総乳酸成分のうち、L体が80%以上含まれるかあるいはD体が80%以上含まれることが好ましく、L体が90%以上含まれるかあるいはD体が90%以上含まれることがより好ましく、L体が95%以上含まれるかあるいはD体が95%以上含まれることが特に好ましい。
ポリ乳酸系樹脂の製造方法としては、詳細は後述するが、既知の重合方法を用いることができ、乳酸からの直接重合法、ラクチドを介する開環重合法などを挙げることができる。
ポリ乳酸系樹脂の融点は、特に制限されるものではないが、120℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましい。ポリ乳酸系樹脂の融点は通常、乳酸成分の光学純度を高くすることにより高くなり、融点120℃以上のポリ乳酸系樹脂は、L体が90%以上含まれるかあるいはD体が90%以上含まれることにより、また融点150℃以上のポリ乳酸系樹脂は、L体が95%以上含まれるかあるいはD体が95%以上含まれることにより得ることができる。
本発明におけるポリ(メタ)アクリレート系樹脂とは、アクリレートおよびメタクリレートから選ばれる少なくとも1種の単量体を構成単位とするものであり、2種以上の単量体を共重合して用いても構わない。ポリ(メタ)アクリレートを構成するアクリレートおよびメタクリレートとしては、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、シアノエチルアクリレート、シアノブチルアクリレートなどのアクリレート、およびメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレートなどのメタクリレートが挙げられるが、より高い高温剛性を付与するには、ポリメチルメタクリレートを用いることが好ましい。
これらの単量体を重合あるいは共重合する方法については特に限定されるものではなく、塊状重合、溶液重合、懸濁重合等の公知の重合方法を用いることができる。
ポリ(メタ)アクリレート系樹脂としてポリメチルメタクリレートを用いる場合、ポリ乳酸系樹脂との相溶性の観点、また、積層製膜時における各層の粘度調整の観点から、JIS K7210に準じて230℃で測定したポリメチルメタクリレートの流動性が、1〜22g/(10min)であるものが好ましく、1.5〜15g/(10min)であるものがさらに好ましく、2〜10g/(10min)であるものが特に好ましい。
本発明で用いられるポリ(メタ)アクリレート系樹脂は、重量平均分子量が2万〜50万であることが好ましく、10万〜20万であることがより好ましい。重量平均分子量が2万未満ではシートまたは成形品の強度が低下する場合があり、重量平均分子量が50万を超えると積層製膜時に粘度斑の発生や、成形時の流動性が低下する場合がある。
本発明の成形体に用いるポリ乳酸系樹脂積層シートは、上記したポリ(メタ)アクリレート系樹脂とポリ乳酸系樹脂組成物からなる層A、層B及び層Cを有し、かつ、該層A、該層B、該層Cが、以下の条件を満たし、かつ、層A/層B/層C/層B/層Aの順に、順次積層されたことを特徴とする、ポリ乳酸系樹脂積層シートである。
7≧Xa(PLA)≧0、30≧Xb(PLA)≧10、100≧Xc(PLA)≧95
ただし、
Xa(PLA):該層Aを構成するポリ(メタ)アクリレート系樹脂とポリ乳酸系樹脂組成物の総量(重量)に対するポリ乳酸系樹脂の含有量(重量%)
Xb(PLA):該層Bを構成するポリ(メタ)アクリレート系樹脂とポリ乳酸系樹脂組成物の総量(重量)に対するポリ乳酸系樹脂の含有量(重量%)
Xc(PLA):該層Cを構成するポリ(メタ)アクリレート系樹脂とポリ乳酸系樹脂組成物の総量(重量)に対するポリ乳酸系樹脂の含有量(重量%)
Xa(PLA)、Xb(PLA)、Xc(PLA)のいずれかが上記関係式を満たさない場合、シートの耐熱性、耐衝撃性、また植物度を全て満足させることができなくなることがある。
つまり、所望の耐熱性を持たせるために、シートの全層にポリ(メタ)アクリレート系樹脂を高比率で配合すると、植物度が低くなってしまい、耐衝撃性も低下する。一般的にポリ乳酸系樹脂にポリ(メタ)アクリレート系樹脂を配合し均一に混合させると、ポリ乳酸系樹脂全体としての耐熱性は向上するが、耐衝撃性は悪化することが多い。
ポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレートの含有量に関しての具体的な値を記す。
該層Aについては、該層Aを構成するポリ(メタ)アクリレート系樹脂とポリ乳酸系樹脂組成物の総量(100重量%)に対するポリ乳酸系樹脂の含有量(重量%)をXa(PLA)とした時に、Xa(PLA)は0重量%以上7重量%以下が好ましく、より好ましくは、0重量%以上2重量%以下、さらに好ましくは0重量%以上1重量%以下である。Xa(PLA)が7重量%を上回った場合、耐熱性が低くなってしまうことがあるために好ましくない。さらに耐熱性の観点からは、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂に比べ耐熱性が低い特性を有するポリ乳酸系樹脂組成物において、Xa(PLA)が0重量%であることがもっとも好ましい。
また、該層Bについては、該層Bを構成するポリ(メタ)アクリレート系樹脂とポリ乳酸系樹脂組成物の総量(100重量%)に対するポリ乳酸系樹脂の含有量(重量%)をXb(PLA)とした時に、Xb(PLA)は10重量%以上30重量%以下が好ましく、より好ましくは、10重量以上20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以上15重量%以下である。Xb(PLA)が30重量%より大きい場合、シートの耐熱性が不十分となることがあるために好ましくない。またXb(PLA)が10重量%より小さい場合、粘度斑が発生し外観が悪くなることがあるために好ましくない。
また、該層Cについては、該層Cを構成するポリ(メタ)アクリレート系樹脂とポリ乳酸系樹脂組成物の総量(100重量%)に対するポリ乳酸系樹脂の含有量(重量%)をXc(PLA)とした時に、Xc(PLA)は95重量%以上100重量%以下が好ましく、より好ましくは97重量%以上100重量%以下、さらに好ましくは98重量%以上100重量%以下、最も好ましくは100重量%である。Xc(PLA)が95重量%より小さい場合、バイオマス度が低くなってしまい燃焼時発生する炭酸ガス量をあまり軽減できず、ポリ乳酸系樹脂を使用するメリットが薄れてしまうことがある。
また、本発明の成形体に用いるポリ乳酸系樹脂積層シートは、以下の条件を満たすポリ乳酸系樹脂積層シートである場合がより好ましい。
40≧Ya≧20、30≧Yb≧10、70≧Yc≧50
ただし、
Ya:シートの総厚みに対する該層Aの総厚み比率(%)
Yb:シートの総厚みに対する該層Bの総厚み比率(%)
Yc:シートの総厚みに対する該層Cの総厚み比率(%)
ポリ乳酸系樹脂積層シートの総厚みに対する該層Aの総厚み比率(%)をYaとした場合、Yaは20%以上40%以下であることが好ましい。より好ましくは20%以上30%以下であり、さらに好ましくは20%以上26%以下である。ここでYaは、樹脂積層シートの総厚みに対する2層の層Aを合計した厚みの比率(%)である。
Yaが40%より大きい場合は、シート全体の植物度が低くなることがあるために好ましくない。また、20%より小さい場合は、耐熱性が低くなってしまうことがあるために好ましくない。
ポリ乳酸系樹脂積層シートの総厚みに対する該層Bの総厚み比率(%)をYbとした場合、Ybは10%以上30%以下であることが好ましい。より好ましくは12%以上28%以下であり、さらに好ましくは15%以上25%以下である。ここでYbは、樹脂積層シートの総厚みに対する2層の層Bを合計した厚みの比率(%)である。
Ybが30%より大きい場合は、シート全体のバイオマス度が低くなることがあるために好ましくない。また、10%より小さい場合は、粘度斑が発生してしまうことがあるために好ましくない。
ポリ乳酸系樹脂積層シートの総厚みに対する該層Cの厚み比率(%)をYcとした場合、Ycは50%以上70%以下であることが好ましい。より好ましくは55%以上65%以下であり、さらに好ましくは58%以上63%以下である。Ycが50%より小さい場合は、シート全体のバイオマス度が低くなることがあるために好ましくない。また、70%より小さい場合は、耐熱性が低くなってしまうことがあるために好ましくない。
本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートは、層A/層B/層C/層B/層Aの順に順次積層されたことを特徴としている。
層C/層B/層A/層B/層Cのように、PLAの含有量が多い層を外層とした場合、シート表面の耐熱性が不足するために、溶融状態にて粘着性を生じることがあるために好ましくない。
また、層A/層C/層B/層C/層A、もしくは、層B/層A/層C/層A/層B とした場合、隣接する層間のPLA含有量が大きく異なるために、溶融状態にて各層間に大きな粘度差が生じ、厚み斑が大きく、外観品位が劣ることがある。
また層Bを欠き、2種3層構成とした場合、すなわち、層A/層C/層A、もしくは、層C/層A/層Cであった場合も、隣接する層間のPLA含有量が大きく異なるために、溶融状態にて各層間に極度の粘度差が生じ、フローマーク等極度の外観不良を発生させることがあるために好ましくない。
つまり本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートは、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂量が多い場合に発現する耐熱性と、ポリ乳酸系樹脂量が多い場合に発現する植物度・耐衝撃性、といった物性を両立するため、各層のポリ(メタ)アクリレート系樹脂とポリ乳酸系樹脂の配合量を特定範囲に制御した積層構成としている。さらに、外層(A層)と内層(C層)の粘度差の違いに起因する外観不良(フローマーク等)の発生を抑制するため、中間層(B層)を設けることで、隣り合う各層の粘度差を低減して外観を向上した発明である。
ポリ乳酸系樹脂はバイオマス、つまり再生可能な生物由来の資源であり、具体的には、トウモロコシやサツマイモなどの植物を原料として製造されている。よって、該樹脂の使用がそのままシートのバイオマス度向上につながる。バイオマスは空気中の二酸化炭素と水から植物が生み出すものなので、分解されても燃やされても大気中の二酸化炭素を増加させることがない。したがって、近年懸念されている地球温暖化防止に役立っており、また、石油資源の枯渇にも対応できる。
本発明では、シートを積層構成とし、耐熱性向上に寄与する成分であるポリ(メタ)アクリレート系樹脂の各層への含有割合の関係を規定することで、耐熱性を維持したまま、高いバイオマス度とすることが可能となった。
各層におけるポリ乳酸系樹脂やポリ(メタ)アクリレート系樹脂の正確な含有量を特定する方法の一つに、NMRによる特定が挙げられる。例えば、ポリ乳酸とポリメチルメタクリレートの配合量を特定するには、重クロロホルム溶媒中55℃で1H核のNMR測定を行い、ポリ乳酸に由来するピーク(例えばメチン基に由来するピーク)とポリメチルメタクリレートに由来するピーク(例えばメトキシ基に由来するピーク)の強度比から算出することができる。1H核のピークが重複して算出できない場合は、さらに13C核の測定を行い、特定することができる。
本発明にかかるポリ乳酸系樹脂組成物は、各成分を溶媒に溶かした溶液を均一混合した後、溶媒を除去して組成物を製造することも可能であるが、溶媒への原料の溶解、溶媒除去等の工程が不要で、実用的な製造方法である、各成分を溶融混練することにより組成物を製造する溶融混練法を採用することが好ましい。
その溶融混練方法については、特に制限はなく、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー、単軸または二軸押出機等の通常使用されている公知の混合機を用いることができる。中でも生産性の観点から、単軸または二軸押出機の使用が好ましい。またその混合順序についても特に制限はなく、例えばポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレート系樹脂をドライブレンド後、溶融混練機に供する方法や、予めポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレート系樹脂を溶融混練したマスターバッチを作製後、該マスターバッチとポリ乳酸系樹脂とを溶融混練する方法等が挙げられる。また必要に応じて、その他の添加剤を同時に溶融混練する方法や、予めポリ乳酸系樹脂とその他の添加剤を溶融混練したマスターバッチを作製後、該マスターバッチとポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレート系樹脂とを溶融混練する方法を用いてもよい。また溶融混練時の温度は190℃〜250℃の範囲が好ましく、またポリ乳酸の劣化を防ぐ意味から、200℃〜240℃の範囲とすることがより好ましい。
本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートの層Aおよび/または層Bおよび/または層Cには、本発明の目的、効果を損なわない範囲内で、必要に応じて、ポリ乳酸系樹脂、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂以外の樹脂を混合してもよい。例えば、ポリアセタール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリビニル化合物などの熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂、エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、エチレン/プロピレンターポリマー、エチレン/ブテン−1共重合体などの軟質熱可塑性樹脂が挙げられる。
その中でも特に、ガラス転移温度が60℃以上となるポリビニル化合物は、ポリ乳酸系樹脂組成物の耐熱性を向上させる効果があるために好ましい。ガラス転移温度が60℃以上となるポリビニル化合物の具体例としては、ポリスチレン、ポリ(4−アセチルスチレン)、ポリ(2−メチルスチレン)、ポリ(3−メチルスチレン)、ポリ(4−メチルスチレン)、ポリ(4−メトキシスチレン)、ポリ(4−ヒドロキシスチレン)(ポリビニルフェノール)、ポリ(2−ヒドロキシメチルスチレン)、ポリ(3−ヒドロキシメチルスチレン)、ポリ(4−ヒドロキシメチルスチレン)等の各種スチレン系重合体、およびポリ(ベンゾイルオキシエチレン)、ポリ(シクロヘキサノイルオキシエチレン)、ポリ(4−エトキシベンゾイルオキシエチレン)、ポリ(2−メトキシベンゾイルオキシエチレン)、ポリ(4−メトキシベンゾイルオキシエチレン)、ポリ(4−フェニルベンゾイルオキシエチレン)等の各種ポリビニルエステル等が挙げられるが、これらの中でもポリ乳酸系樹脂との相溶性の観点からポリ(4−ヒドロキシスチレン)(ポリビニルフェノール)を用いるのが好ましい。
本発明の成形体に用いるポリ乳酸系樹脂積層シートは、さらなる耐衝撃性付与、成形性向上の観点から、ガラス転移温度が60℃以下のポリエステル系樹脂を、積層された各層を構成するポリ乳酸系樹脂組成物100重量%に対して、各層毎に好ましくは0.1重要%以上40重量%以下、より好ましくは0.2重量%以上30重量%以下、さらに好ましくは0.5重量%以上20重量%以下含有する層を少なくとも1層有するのがよい。
該層は前記層Aおよび/または前記層Bおよび/または前記層Cおよび/または前記層A、層B、層C以外の第4の層Dのいずれであっても構わない。かかるガラス転移温度が60℃以下のポリエステル系樹脂の含有量が、該ガラス転移温度が60℃以下のポリエステル系樹脂を含有する層におけるポリ乳酸系樹組成物100重量%に対して、40重量%を超える層を有すると、耐熱性、透明性が低下することがあるために好ましくない。またかかるガラス転移温度が60℃以下のポリエステル系樹脂の含有量が、該ガラス転移温度が60℃以下のポリエステル系樹脂を含有する層におけるポリ乳酸系樹組成物100重量%に対して、0.1重量%未満である層を有すると、耐衝撃性の改良効果が低くなることがあるために好ましくない。
ポリマーの耐衝撃性と柔軟性は相関しており、ポリマーの柔軟性を評価する一つの目安としてガラス転移温度があげられる。本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートの耐衝撃性を向上させるために、該ポリエステル系樹脂は、ポリ乳酸のガラス転移温度を考慮して、ガラス転移温度が60℃以下であることが好ましい。
該ガラス転移温度が60℃以下のポリエステル系樹脂の重量平均分子量には特に制限は無いが、主に耐熱性を維持する観点とポリ乳酸系樹脂との相溶性の観点から、それぞれ下限と上限の好ましい値が存在し、2,000〜200,000であることが好ましく、より好ましくは5,000〜100,000、さらに好ましくは10,000〜80,000である。
このガラス転移温度が60℃以下のポリエステル系樹脂の種類については特に制限は無いが、芳香族および/または脂肪族ポリエステル、ポリエーテル系および/またはポリエステル系セグメントとポリ乳酸セグメントで構成される樹脂組成物であることが好ましい。
ガラス転移温度が60℃以下のポリエステル系樹脂の具体例としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンセバケート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート/テレフタレート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリブチレンアジペート/サクシネート、ポリプロピレンセバケート、ポリプロピレンサクシネート、ポリプロピレンサクシネート/テレフタレート、ポリプロピレンアジペート/テレフタレート、ポリプロピレンアジペート/サクシネートなどが挙げられる。
ポリエーテル系および/またはポリエステル系セグメントとポリ乳酸セグメントで構成される樹脂組成物は、ポリエーテル系および/またはポリエステル系樹脂とポリ乳酸系樹脂のブロック共重合体であることがさらに好ましい。またこのブロック共重合体一分子中に数平均分子量が1,500以上のポリ乳酸セグメントを一つ以上有することが好ましい。この場合、該ポリ乳酸セグメントが、母材であるポリ乳酸系重合体から形成される結晶中に取り込まれることで母材につなぎ止められる作用を生じ、該ブロック共重合体のブリードアウトを十分に抑制することができる。
ポリエーテルの具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール共重合体などが挙げられる。
ポリエステルの具体例としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンセバケート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート/テレフタレート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリブチレンアジペート/サクシネート、ポリプロピレンセバケート、ポリプロピレンサクシネート、ポリプロピレンサクシネート/テレフタレート、ポリプロピレンアジペート/テレフタレート、ポリプロピレンアジペート/サクシネートなどが挙げられる。
本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートはさらなる耐衝撃性付与の観点から、耐衝撃改良剤を含有する層を少なくとも1層有し、該耐衝撃改良剤を含有する層の全てが、各々該層に含まれるポリ(メタ)アクリレート系樹脂とポリ乳酸系樹脂組成物の合計100重量%に対し、耐衝撃改良剤を0.1〜40重量%含有し、該耐衝撃改良剤を含有する層の全てが、各々以下の(a)、(b)、(c)のいずれか1つの条件を満たすことを特徴とするポリ乳酸系樹脂積層シートであることが好ましい。
(a)層Aに含まれる耐衝撃改良剤の屈折率naが、
1.52−0.0004×Xa(PLA)≧na≧1.46−0.0004×Xa(PLA)
(b)層Bに含まれる耐衝撃改良剤の屈折率nbが、
1.52−0.0004×Xb(PLA)≧nb≧1.46−0.0004×Xb(PLA)
(c)層Cに含まれる耐衝撃改良剤の屈折率ncが、
1.52−0.0004×Xc(PLA)≧nc≧1.46−0.0004×Xc(PLA)
さらにより透明性に優れるという点から、該耐衝撃改良剤を含有する層の全てが、各々以下の(a)、(b)、(c)のいずれか1つの条件を満たすことを特徴とするポリ乳酸系樹脂積層シートであることがさらに好ましい。
(a)層Aに含まれる耐衝撃改良剤の屈折率naが、
1.51−0.0004×Xa(PLA)≧na≧1.47−0.0004×Xa(PLA)
(b)層Bに含まれる耐衝撃改良剤の屈折率nbが、
1.51−0.0004×Xb(PLA)≧nb≧1.47−0.0004×Xb(PLA)
(c)層Cに含まれる耐衝撃改良剤の屈折率ncが、
1.51−0.0004×Xc(PLA)≧nc≧1.47−0.0004×Xc(PLA)
上述のように、耐衝撃改良剤を含有する層の全ては、各々該層に含まれるポリ(メタ)アクリレート系樹脂とポリ乳酸系樹脂組成物の合計100重量%に対し、耐衝撃改良剤を0.1〜40重量%含有する場合である。そして、耐衝撃改良剤のより好ましい含有量は、耐衝撃性に優れるという点から、該耐衝撃改良剤を含有する全ての層に含まれるポリ(メタ)アクリレート系樹脂とポリ乳酸系樹脂組成物の合計100重量%に対し、各々の層が耐衝撃改良剤を1〜30重量%含有する場合であり、特に好ましくは、耐衝撃改良剤を5〜20重量%含有する場合である。耐衝撃改良剤の含有量が、各層毎に40重量%を越える場合、植物度が低くなったり、耐熱性が損なわれたりすることがある。
上述のように、本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートは、耐衝撃改良剤を含有する層を少なくとも1層有することが好ましいが、特に耐衝撃性に優れるという点から、層A、層B、層Cのすべての層に耐衝撃改良剤を有することがもっとも望ましい。
なお、本発明において、上記屈折率は、アッベ屈折計を用い、23℃、589nmの波長で測定した値である。
本発明で用いられる耐衝撃改良剤とは、熱可塑性樹脂の耐衝撃性改良に用いることのできるものであれば特に制限されないが、室温でゴム弾性を示すゴム状物質のことであり、例えば、下記の各種耐衝撃改良剤などから選ばれる少なくとも1種のものを用いることができる。
すなわち、耐衝撃改良剤の具体例としては、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、各種アクリルゴム、エチレン−アクリル酸共重合体およびそのアルカリ金属塩(いわゆるアイオノマー)、エチレン−グリシジル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン−アクリル酸アルキルエステル共重合体(たとえば、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸ブチル共重合体)、酸変性エチレン−プロピレン共重合体、ジエンゴム(例えばポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン)、ジエンとビニル単量体との共重合体(たとえばスチレン−ブタジエンランダム共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレンランダム共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、ポリブタジエンにスチレンをグラフト共重合せしめたもの、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体)、ポリイソブチレン、イソブチレンとブタジエンまたはイソプレンとの共重合体、天然ゴム、チオコールゴム、多硫化ゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、ポリウレタンゴム、ポリエーテルゴム、エピクロロヒドリンゴム、ポリエステル系エラストマーおよびポリアミド系エラストマーなどが挙げられる。
さらに、各種の架橋度を有するものや、各種のミクロ構造、例えばシス構造、トランス構造などを有するもの、コア層とそれを覆う1以上のシェル層から構成される多層構造重合体などを使用することができる。
また、本発明において、耐衝撃改良剤としては、上記具体例に挙げた各種の(共)重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体およびグラフト共重合体などのいずれも用いることができる。さらに、これらの(共)重合体を製造するに際し、他のオレフィン類、ジエン類、芳香族ビニル化合物、アクリル酸、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルなどの単量体を共重合することも可能である。
これらの耐衝撃改良剤の中でも、アクリル単位を含む重合体や、酸無水物基および/またはグリシジル基を持つ単位を含む重合体が好ましい。ここでいうアクリル単位の好適例としては、メタクリル酸メチル単位、アクリル酸メチル単位、アクリル酸エチル単位およびアクリル酸ブチル単位を挙げることができ、酸無水物基やグリシジル基を持つ単位の好適例としては、無水マレイン酸単位およびメタクリル酸グリシジル単位を挙げることができる。
また、本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートに用いられる耐衝撃改良剤は、コア層とそれを覆う1層以上のシェル層から構成される多層構造重合体からなる耐衝撃改良剤を用いることが特に好ましい。つまり本発明において特に好ましく用いられる耐衝撃改良剤は、コア層とそれを覆う1層以上のシェル層から構成され、また、隣接する層が異種の重合体から構成される、いわゆるコアシェル型と呼ばれる構造を有する多層構造重合体である。
また、多層構造重合体を構成する層の数は、特に限定されるものではなく、1層のコア層と少なくとも1層のシェル層の2層以上であればよく、1層のコア層と2層のシェル層を有する3層、または1層のコア層と3層のシェル層を有する4層であってもよい。
さらに、本発明の耐衝撃改良剤として好ましく用いられる多層構造重合体としては、内部のコア層として少なくとも1層以上のゴム層を有する多層構造重合体であることが好ましい。
ここで、コア層に好ましく用いられるゴム層の種類は、特に限定されるものではなく、ゴム弾性を有する重合体成分から構成されるものであればよい。例えば、(メタ)アクリル成分、シリコーン成分、スチレン成分、ニトリル成分、共役ジエン成分、ウレタン成分またはエチレンプロピレン成分などを重合させたものから構成されるゴムが挙げられる。好ましいゴムとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エチル単位、(メタ)アクリル酸ブチル単位、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル単位および(メタ)アクリル酸ベンジル単位などの(メタ)アクリル成分、ジメチルシロキサン単位やフェニルメチルシロキサン単位などのシリコーン成分、スチレン単位やα−メチルスチレン単位などのスチレン成分、アクリロニトリル単位やメタクリロニトリル単位などのニトリル成分またはブタンジエン単位やイソプレン単位などの共役ジエン成分を重合させたものから構成されるゴムである。また、これらの成分の他に、ジビニルベンゼン単位、(メタ)アクリル酸アリル単位またはブチレングリコールジアクリレート単位などの架橋性成分を共重合し架橋させた架橋ゴムも好ましい。
これらの中でも、透明性、耐衝撃性の点から、コア層に好ましく用いられるゴム層としては、架橋ゴムが好ましく、ガラス転移温度が0℃以下の架橋ゴムであることがより好ましく、このようなゴム層の種類としては、アクリル酸エチル単位、アクリル酸−2−エチルヘキシル単位、アクリル酸ブチル単位、アクリル酸ベンジル単位、メタクリル酸アリル単位を適宜選択し併用して用いることがさらに好ましく、メタクリル酸アリル単位をゴム層構成単位の0.005〜3重量%の範囲で用いるのが特に好ましい。
本発明の多層構造重合体において、コア層であるゴム層以外の層(つまりシェル層)の種類は、熱可塑性を有する重合体成分から構成されるものであれば特に限定されるものではないが、透明性、耐熱性および耐衝撃性の点から、ゴム層よりもガラス転移温度が高い重合体成分であることが好ましい。シェル層に用いられる熱可塑性を有する重合体としては、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位、グリシジル基含有ビニル系単位、不飽和ジカルボン酸無水物系単位、脂肪族ビニル系単位、芳香族ビニル系単位、シアン化ビニル系単位、マレイミド系単位、不飽和ジカルボン酸系単位またはその他のビニル系単位などから選ばれる少なくとも1種以上の単位を含有する重合体が挙げられ、中でも、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位、不飽和グリシジル基含有単位または不飽和ジカルボン酸無水物系単位から選ばれる少なくとも1種以上の単位を含有する重合体が好ましく、さらに不飽和グリシジル基含有単位または不飽和ジカルボン酸無水物系単位から選ばれる少なくとも1種以上の単位を含有する重合体がより好ましい。
不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位としては、特に限定されるものではないが、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく使用される。具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6−ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5−テトラヒドロキシペンチル、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸エチルアミノプロピル、メタクリル酸フェニルアミノエチルまたはメタクリル酸シクロヘキシルアミノエチルなどが挙げられ、耐衝撃性を向上する効果が大きいという観点から、(メタ)アクリル酸メチルが好ましく使用される。これらの単位は単独ないし2種以上を用いることができる。
グリシジル基含有ビニル系単位としては、特に限定されるものではなく、(メタ)アクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、イタコン酸ジグリシジル、アリルグリシジルエーテル、スチレン−4−グリシジルエーテルまたは4−グリシジルスチレンなどが挙げられ、耐衝撃性を向上する効果が大きいという点から、(メタ)アクリル酸グリシジルが好ましく使用される。これらの単位は単独ないし2種以上を用いることができる。
不飽和ジカルボン酸無水物系単位としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水グルタコン酸、無水シトラコン酸または無水アコニット酸などが挙げられ、耐衝撃性を向上する効果が大きいという観点から、無水マレイン酸が好ましく使用される。これらの単位は単独ないし2種以上を用いることができる。
また、脂肪族ビニル系単位としては、エチレン、プロピレンまたはブタジエンなど、芳香族ビニル系単位としては、スチレン、α−メチルスチレン、1−ビニルナフタレン、4−メチルスチレン、4−プロピルスチレン、4−シクロヘキシルスチレン、4−ドデシルスチレン、2−エチル−4−ベンジルスチレン、4−(フェニルブチル)スチレンまたはハロゲン化スチレンなど、シアン化ビニル系単位としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルまたはエタクリロニトリルなど、マレイミド系単位としては、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−(p−ブロモフェニル)マレイミドまたはN−(クロロフェニル)マレイミドなど、不飽和ジカルボン酸系単位として、マレイン酸、マレイン酸モノエチルエステル、イタコン酸、フタル酸など、その他のビニル系単位としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、N−プロピルメタクリルアミド、N−ビニルジエチルアミン、N−アセチルビニルアミン、アリルアミン、メタアリルアミン、N−メチルアリルアミン、p−アミノスチレン、2−イソプロペニル−オキサゾリン、2−ビニル−オキサゾリン、2−アクロイル−オキサゾリンまたは2−スチリル−オキサゾリンなどを挙げることができ、これらの単位は単独ないし2種以上を用いることができる。
本発明の耐衝撃改良剤として好ましく用いられる多層構造重合体において、最外層のシェル層の種類は、特に限定されるものではなく、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位、グリシジル基含有ビニル系単位、脂肪族ビニル系単位、芳香族ビニル系単位、シアン化ビニル系単位、マレイミド系単位、不飽和ジカルボン酸系単位、不飽和ジカルボン酸無水物系単位および/またはその他のビニル系単位などを含む重合体が挙げられ、透明性および耐衝撃性に優れるという点から、メタクリル酸メチル単位および/またはアクリル酸メチル単位を含む重合体から構成されることが好ましい。
なお本発明の耐衝撃改良剤として用いられる多層構造重合体において、特に好ましく用いられる多層構造重合体のシェル層は、メタクリル酸メチル単位および/またはアクリル酸メチル単位を含む重合体から構成されるシェル層を有する多層構造重合体である。
本発明において、耐衝撃改良剤の平均一次粒子径は、特に限定されるものではないが、透明性および耐衝撃性に優れるという点から、10〜10000nmであることが好ましく、さらに、20〜1000nmであることがより好ましく、50〜700nmであることが特に好ましく、100〜500nmであることが最も好ましい。
また、多層構造重合体としては、1種または2種以上を用いることができ、耐衝撃性と流動性の点で、平均一次粒子径が異なる多層構造重合体を2種以上用いることが好ましく、例えば、平均一次粒子径が小さい多層構造重合体と平均一次粒子径が大きい多層構造重合体を併用することが好ましい。
なお、本発明において、上記平均一次粒子径は、電子顕微鏡を用いて2万倍で観察し、任意の100個について一次粒子径を測定し、平均した数平均一次粒子径であり、具体的には、耐衝撃改良剤中の多層構造重合体の分散形態を電子顕微鏡により観察することにより求めることができる。
本発明の耐衝撃改良剤として使用される多層構造重合体は、上述した条件を満たすものとして、市販品を用いてもよく、また、公知の方法により作製することもできる。
市販品としては、例えば、三菱レイヨン製”メタブレン”、カネカ製”カネエース”、ロームアンドハース製”パラロイド”、ガンツ化成製”スタフィロイド”またはクラレ製”パラフェイス”などが挙げられ、これらは、単独ないし2種以上を用いることができる。
公知の多層構造重合体の製造方法としては、乳化重合法がより好ましい。この製造方法としては、まず所望の単量体混合物を乳化重合させてコア粒子を作った後、他の単量体混合物をそのコア粒子の存在下において乳化重合させてコア粒子の周囲にシェル層を形成してコアシェル粒子を作る。さらに該粒子の存在下において他の単量体混合物を乳化重合させて別のシェル層を形成するコアシェル粒子を作る。このような反応を繰り返して所望のコア層とそれを覆う1以上のシェル層から構成される多層構造重合体を得る。各層の(共)重合体を形成させるための重合温度は、各層とも0〜120℃が好ましく、5〜90℃がより好ましい。
乳化重合において用いられる乳化剤は、特に限定されないが、重合安定性および所望の平均一次粒子径などによって選択され、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤などの公知の乳化剤を単独もしくは2種以上で使用することが好ましく、アニオン界面活性剤がより好ましい。アニオン界面活性剤としては、例えばステアリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、N−ラウロイルザルコシン酸ナトリウムなどのカルボン酸塩、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのスルホン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウムなどの硫酸エステル塩、モノ−n−ブチルフェニルペンタオキシエチレンリン酸ナトリウムなどのリン酸エステル塩などが挙げられる。上記乳化剤の添加量は、用いる単量体の合計100重量部に対し、0.01〜15重量部が好ましい。
また、乳化重合に用いられる重合開始剤は、特に限定されないが、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの無機過酸化物、過酸化水素−第一鉄塩系、過硫酸カリウム−酸性亜硫酸ナトリウム系、過硫酸アンモニウム−酸性亜硫酸ナトリウム系などの水溶性レドックス系開始剤、クメンハイドロパーオキシド−ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート系、tert−ブチルハイドロパーオキシド−ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート系などの水溶−油溶レドックス系の開始剤などが挙げられ、この中でも、無機過酸化物系開始剤、水溶−油溶レドックス系の開始剤が好ましい。上記重合開始剤の添加量は、用いる単量体の合計100重量部に対し、0.001〜5重量部が好ましい。
さらに、耐衝撃性に優れるという点から、耐衝撃改良剤は、ガラス転移温度が0℃以下の構成成分を含むものであることがより好ましく、−30℃以下の構成成分を含むものであることがさらに好ましい。なお、本発明において、上記ガラス転移温度は、示差走査熱量計を用い、昇温速度20℃/分で測定した値である。
本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートの層Aおよび/または層Bおよび/または層Cには、ポリ乳酸系樹脂の結晶の過大な成長を抑制し、微細化するため、また、結晶化速度を促進するために透明核剤を混合してもよい。かかる透明核剤は、ポリ乳酸系樹脂との相溶性が良好である必要があり、また、結晶化速度を高め、結晶化した時は該樹脂の透明性を維持する必要がある。このような透明核剤としては、脂肪族カルボン酸アミド、脂肪族カルボン酸塩、脂肪族アルコール及び脂肪族カルボン酸エステルが挙げられる。
透明核剤として用いられる脂肪族カルボン酸アミドの具体例としては、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド、リシノール酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミドのような脂肪族モノカルボン酸アミド類、N−オレイルパルミチン酸アミド、N−オレイルオレイン酸アミド、N−オレイルステアリン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、メチロールステアリン酸アミド、メチロールベヘニン酸アミドのようなN−置換脂肪族モノカルボン酸アミド類、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスベヘニン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、ブチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、へキサメチレンビスステアリン酸アミド、へキサメチレンビスベヘニン酸アミド、へキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミド、m−キシリレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミドのような脂肪族ビスカルボン酸アミド類、N,N´−ジオレイルセバシン酸アミド、N,N´−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N´−ジステアリルアジピン酸アミド、N,N´−ジステアリルセバシン酸アミド、N,N´−ジステアリルイソフタル酸アミド、N,N´−ジステアリルテレフタル酸アミドのようなN−置換脂肪族カルボン酸ビスアミド類、N−ブチル−N´−ステアリル尿素、N−プロピル−N´−ステアリル尿素、N−ステアリル−N´−ステアリル尿素、N−フェニル−N´−ステアリル尿素、キシリレンビスステアリル尿素、トルイレンビスステアリル尿素、ヘキサメチレンビスステアリル尿素、ジフェニルメタンビスステアリル尿素、ジフェニルメタンビスラウリル尿素のようなN−置換尿素類が挙げられる。これらは一種類又は二種類以上の混合物であってもよい。この中でも、脂肪族モノカルボン酸アミド類、N−置換脂肪族モノカルボン酸アミド類、脂肪族ビスカルボン酸アミド類が好適に用いられ、特に、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド、リシノール酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、N−オレイルパルミチン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミド、m−キシリレンビス−12−ヒドロキシステアリン酸アミドが好適に用いられる。
透明核剤として用いられる脂肪族カルボン酸塩の具体例としては、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、ラウリン酸水素カリウム、ラウリン酸マグネシウム、ラウリン酸カルシウム、ラウリン酸亜鉛、ラウリン酸銀等のラウリン酸塩、ミリスチン酸リチウム、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸水素カリウム、ミリスチン酸マグネシウム、ミリスチン酸カルシム、ミリスチン酸亜鉛、ミリスチン酸銀等のミリスチン酸塩、パルミチン酸リチウム、パルミチン酸カリウム、パルミチン酸マグネシウム、パルミチン酸カルシウム、パルミチン酸亜鉛、パルミチン酸銅、パルミチン酸鉛、パルミチン酸タリウム、パルミチン酸コバルト等のパルミチン酸塩、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、オレイン酸マグネシウム、オレイン酸カルシウム、オレイン酸亜鉛、オレイン酸鉛、オレイン酸タリウム、オレイン酸銅、オレイン酸ニッケル等のオレイン酸塩、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸タリウム、ステアリン酸鉛、ステアリン酸ニッケル、ステアリン酸ベリリウム等のステアリン酸塩、イソステアリン酸ナトリウム、イソステアリン酸カリウム、イソステアリン酸マグネシウム、イソステアリン酸カルシウム、イソステアリン酸バリウム、イソステアリン酸アルミニウム、イソステアリン酸亜鉛、イソステアリン酸ニッケル等のイソステアリン酸塩、ベヘニン酸ナトリウム、ベヘニン酸カリウム、べヘニン酸マグネシウム、ベヘニン酸カルシウム、ベヘニン酸バリウム、ベヘニン酸アルミニウム、べヘニン酸亜鉛、ベヘニン酸ニッケル等のベヘニン酸塩、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸カリウム、モンタン酸マグネシウム、モンタン酸カルシウム、モンタン酸バリウム、モンタン酸アルミニウム、モンタン酸亜鉛、モンタン酸ニッケル等のモンタン酸塩等が挙げられる。これらは一種類又は二種類以上の混合物であってもよい。特に、ステアリン酸の塩類やモンタン酸の塩類が好適に用いられ、特に、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸亜鉛、モンタン酸カルシウムが好適に用いられる。
透明核剤として用いられる脂肪族アルコールの具体例としては、ペンタデシルアルコール、セチルアルコール、ヘプタデシルアルコール、ステアリルアルコール、ノナデシルアルコール、エイコシルアルコール、セリルアルコール、メリシルアルコール等の脂肪族モノアルコール類、1,6−ヘキサンジオール、1,7−へプタンジール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール等の脂肪族多価アルコール類、シクロペンタン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジオール等の環状アルコール類等が挙げられる。これらは一種類又は二種類以上の混合物であってもよい。特に脂肪族モノアルコール類が好適に用いられ、特にステアリルアルコールが好適に用いられる。
透明核剤として用いられる脂肪族カルボン酸エステルの具体例としては、ラウリン酸セチルエステル、ラウリン酸フェナシルエステル、ミリスチン酸セチルエステル、ミリスチン酸フェナシルエステル、パルミチン酸イソプロピリデンエステル、パルミチン酸ドデシルエステル、パルミチン酸テトラドデシルエステル、パルミチン酸ペンタデシルエステル、パルミチン酸オクタデシルエステル、パルミチン酸セチルエステル、パルミチン酸フェニルエステル、パルミチン酸フェナシルエステル、ステアリン酸セチルエステル、べヘニン酸エチルエステル等の脂肪族モノカルボン酸エステル類、モノラウリン酸グリコール、モノパルミチン酸グリコール、モノステアリン酸グリコール等のエチレングリコールのモノエステル類、ジラウリン酸グリコール、ジパルミチン酸グリコール、ジステアリン酸グリコール等のエチレングリコールのジエステル類、モノラウリン酸グリセリンエステル、モノミリスチン酸グリセリンエステル、モノパルミチン酸グリセリンエステル、モノステアリン酸グリセリンエステル等のグリセリンのモノエステル類、ジラウリン酸グリセリンエステル、ジミリスチン酸グリセリンエステル、ジパルミチン酸グリセリンエステル、ジステアリン酸グリセリンエステル等のグリセリンのジエステル類、トリラウリン酸グリセリンエステル、トリミリスチン酸グリセリンエステル、トリパルミチン酸グリセリンエステル、トリステアリン酸グリセリンエステル、パルミトジオレイン、パルミトジステアリン、オレオジステアリン等のグリセリンのトリエステル類等が挙げられる。これらは一種類又は二種類以上の混合物であってもよい。この中でもエチレングリコールのジエステル類が好適であり、特にエチレングリコールジステアレートが好適に用いられる。
これらの透明核剤の具体的な添加量は、各層を構成する組成物全体100重量%に対して、0.1〜2.5重量%が好ましく、より好ましくは0.3〜2重量%、さらに好ましくは0.5〜1.5重量%である。透明核剤の添加量が、各層を構成する組成物全体100重量%に対して0.1重量%より小さいと、透明核剤としての効果が不十分となり、耐熱性が低くなることがある。2.5重量%より大きいと、透明性が低下するばかりか、外観や物性の変化を来す場合がある。
本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートには、各種粒子を含有することができる。その平均粒子径は0.01〜10μmであることが好ましい。平均粒子径は、より好ましくは0.02〜5μm、さらに好ましくは0.03〜2μmである。各種粒子の含有量は、ポリ乳酸系樹脂100重量部に対して0.01〜10重量部であることが好ましい。混合する重量部は、より好ましくは0.02〜1重量部、さらに好ましくは0.03〜0.5重量部である。平均粒子径が0.01μmより小さいと、または含有量が0.01重量部より少ないと、成形金型とフィルムとの滑りが悪くなり、成形ムラが生じたり、フィルムが破断したり、また、金型からの離型性が悪くなるなど、成形性が不良となることがある。一方、平均粒子径が10μmより大きいと、または含有量が10重量部より多いと、フィルムの透明性が低下することがある。
かかる粒子の種類は、目的や用途に応じて適宜選択され、本発明の効果を損なわなければ特に限定されないが、無機粒子、有機粒子、架橋高分子粒子、重合系内で生成させる内部粒子などを挙げることができる。もちろん、各粒子は、それぞれ単独で使用しても、混合して用いても構わない。混合して用いる場合は、それぞれの種類の粒子が、上記平均粒子径の範囲内となるようにすればよく、また、全ての種類の粒子の総含有量が上記範囲内となるようにすればよい。
無機粒子としては、特に限定されないが、シリカ等の酸化ケイ素、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム等の各種炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の各種硫酸塩、カオリン、タルク等の各種複合酸化物、リン酸リチウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム等の各種リン酸塩、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム等の各種酸化物、フッ化リチウム等の各種塩等からなる微粒子を使用することができる。
また有機粒子としては、シュウ酸カルシウムや、カルシウム、バリウム、亜鉛、マンガン、マグネシウム等のテレフタル酸塩などからなる微粒子が使用される。架橋高分子粒子としては、ジビニルベンゼン、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸のビニル系モノマーの単独または共重合体からなる微粒子が挙げられる。その他、ポリテトラフルオロエチレン、ベンゾグアナミン樹脂、熱硬化エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化性尿素樹脂、熱硬化性フェノール樹脂などの有機微粒子も好ましく使用される。
重合系内で生成させる内部粒子としては、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物などを反応系内に添加し、さらにリン化合物を添加する公知の方法で生成される粒子も使用される。
本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートの全体の厚みは、特に限定されないが、好ましくは50〜2000μm、より好ましくは200〜1000μm、特に好ましくは250〜500μmである。かかるフィルム厚みが50μmより小さい場合は、成形時にフィルム破れが発生しやすくなり成形性が悪化するだけでなく、成形できた場合でも成形体の強度が弱くなってしまうといった問題が発生しやすくなる。また、フィルム厚みが2000μmより大きい場合は、成形前の加熱が長時間必要になってしまい、うまく成形できた場合でも脆くなりやすいといった問題が発生しやすくなる。
また、本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートには、本発明の効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて添加剤、例えば、難燃剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、着色防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、可塑剤、粘着性付与剤、脂肪酸エステル、ワックス等の有機滑剤またはポリシロキサン等の消泡剤、顔料または染料等の着色剤を適量配合することができる。
また、ブロッキング防止、帯電防止、離型性付与、耐傷付き性改良などの目的で、表面に主にシリコーン系のコーティング機能層を設けることが有効であり、この機能層の形成には、シートの製造工程内で行うインラインコーティング法、シートの巻き取り後に行うオフラインコーティング法を用いることができる。
本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートは、シートおよびこれを用いて得られる成形体の分解による強度低下を抑制し、耐熱性を良好とする点から、該積層シートのカルボキシル基末端濃度が30当量/(102kg)以下であることが好ましく、より好ましくは20当量/(102kg)以下、さらに好ましくは10当量/(102kg)以下である。ポリ乳酸系樹脂中のカルボキシル基末端濃度が30当量/(102kg)を超える場合には、該積層シートおよび成形体が高温多湿条件下あるいは熱水との接触条件下で使用される際に加水分解により強度が低下し、容器などの成形体が脆くなり割れやすい等といった問題が発生する場合がある。
該積層シートのカルボキシル基末端濃度を30当量/(102kg)以下とする方法としては、例えば、ポリ乳酸系樹脂の合成時の触媒や熱履歴により制御する方法、シート製膜時の押出温度を低下あるいは滞留時間を短時間化する等熱履歴を低減する方法、反応型化合物を用いカルボキシル基末端を封鎖する方法等が挙げられる。
反応型化合物を用いカルボキシル基末端を封鎖する方法では、シート中のカルボキシル基末端の少なくとも一部が封鎖されていることが好ましく、全量が封鎖されていることがより好ましい。反応型化合物としては、例えば、脂肪族アルコールやアミド化合物等の縮合反応型化合物やカルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物等の付加反応型化合物が挙げられるが、反応時に余分な副生成物が発生しにくい点で付加反応型化合物が好ましい。
本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートは、該積層シート100重量%中に含まれるラクチド量が0.5重量%以下であることが好ましい。より好ましくは0.4重量%以下、さらに好ましくは0.3重量%以下である。該積層シート100重量%中に含まれるラクチド量が0.5重量%を超えると、該積層シート中に残留しているラクチドが粉末状あるいは液状として析出したときに、ハンドリング性、透明性が悪化する場合がある。また、ポリ乳酸系樹脂の加水分解を進行させ、シートの耐経時性が悪化する場合がある。
本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートにおける、シート中に含まれるラクチドとは、上述したポリ乳酸を主体とするポリマーを構成する乳酸成分の環状2量体を意味するものであって、LL−ラクチド、DD−ラクチドおよびDL(メソ)−ラクチドが挙げられる。
本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートを構成する樹脂組成物全体に対するポリ乳酸系樹脂の含有量は、50重量%以上75重量%以下が好ましく、より好ましくは65重量%以上75重量%以下である。50重量%未満であるとバイオマス度が低くなってしまい燃焼時発生する炭酸ガス量をあまり軽減できず、ポリ乳酸系樹脂を使用するメリットが薄れてしまう。75重量%を超えてしまうと、耐熱性に劣る場合がある。
本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートは、ヘイズが0%以上10%以下であることが好ましい。より好ましくは0%以上5%以下である。ヘイズが10%を超えると、透明性が悪化し、本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートを容器類に用いた際に、容器の内容物を確認することができなくなる場合があるために好ましくない。ヘイズは低いほど透明性が向上するために好ましいが、ヘイズを10%以下とすることで、透明性としては十分なポリ乳酸系樹脂積層シートとすることができる。本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートのヘイズを0%以上10%以下とすることにより、本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートを通してシートの内容物を観察することが可能となるため、本発明のシートを商品の展示包装用に用いられる包装材料やお弁当箱、飲料カップなどの食品容器類などに好適に使用することができる。ポリ(メタ)アクリレート系樹脂とポリ乳酸系樹脂は相溶性に優れるため、これらから形成されるポリ乳酸系樹脂積層シートは低ヘイズのシートとすることができる。さらに本願発明では、中間層を設けることでシートの外観欠陥も低減しているため、低ヘイズ性に非常に優れたシートとすることができる。
本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートは、主に耐経時性の観点から、延伸シートとしてもよく、その場合は、二軸延伸シートとすることが好ましい。
延伸シートを得る場合は、インフレーション法、同時二軸延伸法、逐次二軸延伸法などの既存の延伸シート製造法により行うことができるが、成形性と耐熱性を両立するシートの配向状態を制御しやすいこと、また、製膜速度を高速にできることから逐次二軸延伸法が好ましい。
次に、ポリ乳酸系樹脂積層シートを製造する方法を具体的に説明する。
本発明のポリ乳酸系樹脂であるポリ乳酸を主体とするポリマーは、次のような方法で得ることができる。原料としては、L−乳酸またはD−乳酸の乳酸成分を主体とし、前述した乳酸成分以外のヒドロキシカルボン酸を併用することができる。またヒドロキシカルボン酸の環状エステル中間体、例えば、ラクチド、グリコリド等を原料として使用することもできる。更にジカルボン酸類やグリコール類等も使用することができる。
ポリ乳酸を主体とするポリマーは、上記原料を直接脱水縮合する方法、または上記環状エステル中間体を開環重合する方法によって得ることができる。例えば直接脱水縮合して製造する場合、乳酸類または乳酸類とヒドロキシカルボン酸類を好ましくは有機溶媒、特にフェニルエーテル系溶媒の存在下で共沸脱水縮合し、特に好ましくは共沸により留出した溶媒から水を除き実質的に無水の状態にした溶媒を反応系に戻す方法によって重合することにより高分子量のポリマーが得られる。
また、ラクチド等の環状エステル中間体をオクチル酸錫等の触媒を用い減圧下開環重合することによっても高分子量のポリマーが得られることも知られている。このとき、有機溶媒中での加熱還流時の水分および低分子化合物の除去の条件を調整する方法や、重合反応終了後に触媒を失活させ解重合反応を抑える方法、製造したポリマーを熱処理する方法などを用いることにより、ラクチド量の少ないポリマーを得ることができる。
以下に本発明の無延伸のポリ乳酸系樹脂積層シートを得る場合、さらにはテンター式逐次二軸延伸を行う場合の好ましい製膜方法を示すが、本発明は、かかる製膜方法に限定されるものではない。
ポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレート系樹脂を性状に応じた計量装置を用いて、層A用、層B用、層C用として、それぞれ所定の比率で、独立した別々の二軸押出機に供給する。二軸押出機としては、ポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレート系樹脂を未乾燥で供給可能であるため、ベント式二軸押出機を好ましく用いることができる。供給されたポリ乳酸系樹脂とポリ(メタ)アクリレート系樹脂は、溶融粘度に応じて150〜300℃で溶融し、ダイ外またはダイ内で複合化し、例えばTダイ法によりリップ間隔2〜3mmのスリット状の口金から金属製冷却キャスティングドラム上に、直径0.5mmのワイヤー状電極を用いて静電印加して密着させ、無配向キャストシートを得る。
金属製冷却ロールの表面温度の好ましい範囲は0〜30℃であり、より好ましい範囲は3〜25℃であり、さらに好ましい範囲は5〜20℃である。金属製冷却ロールの表面温度をこの範囲に設定することで良好な透明性を発現できる。
延伸シートを得る場合は、こうして得られた無延伸キャストシートを加熱ロール上に搬送することによって縦延伸を行う温度まで昇温する。昇温には赤外線ヒーターなど補助的な加熱手段を併用しても良い。延伸温度の好ましい範囲は80〜95℃であり、より好ましくは85〜90℃である。このようにして昇温した未配向シートを加熱ロール間の周速差を用いてシート長手方向に1段もしくは2段以上の多段で延伸を行う。合計の延伸倍率は1.2〜3.5倍が好ましく、より好ましくは1.5〜3.0倍である。
このように一軸延伸したシートをいったん冷却した後、シートの両端部をクリップで把持してテンターに導き、幅方向の延伸を行う。延伸温度は75〜90℃が好ましく、より好ましくは80〜85℃である。延伸倍率は1.2〜3.5倍が好ましく、より好ましくは1.5〜3.0倍である。
シートの幅方向の性能差を低減するためには、長手方向の延伸温度よりも1〜15℃低い温度で幅方向の延伸を行うことが好ましい。
さらに必要に応じて、再縦延伸および/または再横延伸を行ってもよい。
次に、この延伸シートを緊張下または幅方向に弛緩しながら熱固定する。主にシートに熱寸法安定性を付与する観点、また同時にシートに含有しているラクチドを飛散させラクチド量を低減させる観点から、好ましい熱処理温度は100〜160℃であり、より好ましくは120〜150℃である。時間は0.2〜30秒の範囲で行うのが好ましいが、特に限定されない。弛緩率は、幅方向の熱収縮率を低下させる観点から1〜8%であることが好ましく、より好ましくは2〜5%である。熱固定処理を行う前にいったんシートを冷却することがさらに好ましい。
さらに、シートを室温まで、必要ならば、長手および幅方向に弛緩処理を施しながら、シートを冷やして巻き取り、目的とするポリ乳酸系樹脂積層シートを得る。
上記のような製造方法を採用することにより、本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートを得ることができる。
本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートは、成形することにより成形体として用いることができる。本発明のポリ乳酸系樹脂積層シートを用いた成形体の成形法としては、真空成形、真空圧空成形、プラグアシスト成形、ストレート成形、フリードローイング成形、プラグアンドリング成形、スケルトン成形などの各種成形法を適用できる。また、罫線を入れて折り曲げ加工を行い、シアノアクリレート系接着剤等を用いて、箱状に加工しても良い。また、各種成形加工を行う前に、ポリエステルやポリスチレン等の他素材から成るフィルム、シートとラミネートし、耐熱性や帯衝撃性さらに向上させて用いても良い。本発明でいうポリ乳酸系樹脂積層シートを成形して得られる成形体は、公知、公用の成形法で得られるフィルム、袋、チューブ、シート、カップ、ボトル、トレー、糸等を包含し、その形状、大きさ、厚み、意匠等に関して何ら制限はない。