以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態では、半導体レーザ素子の一例である窒化物系半導体レーザ素子に本発明を適用した例について説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の全体斜視図である。図2は、本発明の第1実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の平面図である。図3は、図2のA−A線に沿った断面図である。図4および図5は、本発明の第1実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の構造を説明するための図である。まず、図1〜図5を参照して、本発明の第1実施形態による窒化物系半導体レーザ素子10の構造について説明する。
第1実施形態による窒化物系半導体レーザ素子10は、図1および図2に示すように、劈開により形成され、互いに対向する一対の共振器面30を有している。この一対の共振器面30は、レーザ光が出射される光出射面30aと、光出射面30aと反対側の光反射面30bとを含んでいる。また、第1実施形態による窒化物系半導体レーザ素子10は、図2に示すように、共振器面30と直交する方向([1−100]方向)に、約800μmの長さL(共振器長L)を有するとともに、共振器面30に沿った方向([11−20]方向)に、約400μmの幅W(共振器幅W)を有している。
また、第1実施形態による窒化物系半導体レーザ素子10は、図1および図3に示すように、n型GaN基板11の(0001)面上に、約0.1μm〜約10μm(たとえば約4μm)の厚みを有するn型GaNからなる下部コンタクト層12が形成されている。下部コンタクト層12上には、約0.5μm〜約3.0μm(たとえば約2μm)の厚みを有するn型Al0.05Ga0.95Nからなる下部クラッド層13が形成されている。下部クラッド層13上には、0〜約0.2μm(たとえば約0.1μm)の厚みを有するn型GaNからなる下部ガイド層14が形成されている。下部ガイド層14上には、活性層15が形成されている。
この活性層15は、図4に示すように、Inx1Ga1-x1Nからなる3つの量子井戸層15aと、Inx2Ga1-x2Nからなる4つの障壁層15b(但しx1>x2)とが交互に積層された多重量子井戸(MQW)構造を有している。なお、量子井戸層15aは、たとえば、約4nmの厚みを有するInx1Ga1-x1N(x1=0.05〜0.1)から構成されており、障壁層15bは、たとえば、約8nmの厚みを有するInx2Ga1-x2N(x2=0〜0.05)から構成されている。
活性層15上には、図1および図3に示すように、0〜約0.02μm(たとえば約0.01μm)の厚みを有するp型Al0.3Ga0.7Nからなる蒸発防止層16が形成されている。蒸発防止層16上には、0〜約0.2μm(たとえば0.01μm)のp型GaNからなる上部ガイド層17が形成されている。上部ガイド層17上には、凸部と、凸部以外の平坦部とを有するp型Al0.05Ga0.95Nからなる上部クラッド層18が形成されている。
上部クラッド層18の凸部上には、約0.01μm〜約1.0μm(たとえば約0.05μm)の厚みを有するp型GaNからなる上部コンタクト層19が形成されている。この上部コンタクト層19と上部クラッド層18の凸部とによって、約1μm〜約3μm(たとえば約1.5μm)の幅を有するストライプ状(細長状)のリッジ部20が構成されている。このリッジ部20は、図2に示すように、共振器面30と直交する方向([1−100]方向)に延びるように形成されている。そして、リッジ部20の下方に位置するストライプ状(細長状)の活性層15の部分が光導波路40となっている。なお、n型GaN基板11は、本発明の「基板」の一例であり、下部コンタクト層12、下部クラッド層13、下部ガイド層14、活性層15、蒸発防止層16、上部ガイド層17、上部クラッド層18および上部コンタクト層19は、それぞれ、本発明の「半導体層」および「窒化物系半導体層」の一例である。
リッジ部20を構成する上部コンタクト層19上には、図1〜図3に示すように、厚みd(図3参照)を有するp側オーミック電極21がストライプ状(細長状)に形成されている。このp側オーミック電極21は、上部コンタクト層19と直接接触するように形成されている。なお、p側オーミック電極21の厚みdは、5nm(0.005μm)以上100nm(0.1μm)以下の厚み(たとえば約15nm)に設定されている。また、窒化物系半導体は、p型半導体の抵抗率が大きくp型キャリアが生じ難いため、オーミック接触が取り難いという不都合がある。このため、p側オーミック電極21は、上部コンタクト層19とオーミック接触を取るために、仕事関数の大きい金属材料であるPdから構成されている。また、p側オーミック電極21は、長手方向([1−100]方向)における一方端および他方端が、それぞれ、光出射面30aおよび光反射面30bに達するように形成されている。すなわち、p側オーミック電極21は、長手方向の長さが共振器長Lと実質的に同一となるように構成されている。なお、p側オーミック電極21は、本発明の「第2電極層」の一例である。
リッジ部20の両脇には、電流狭窄を行うための埋め込み層22が形成されている。具体的には、上部クラッド層18上、上部コンタクト層19の側面上、およびp側オーミック電極21の側面上に、約0.1μm〜約0.3μm(たとえば約0.15μm)の厚みを有するとともにSiO2を主成分とする埋め込み層22が形成されている。このような構成により、水平および垂直横モードの光閉じ込めを行うことが可能となる。なお、埋め込み層22は、厚みが50nm未満では光吸収による導波ロスが生じる可能性があるため、その性質(光吸収)を積極的に利用する場合以外は、厚みが50nm以上に設定されているのが好ましい。
埋め込み層22の上面上には、p側オーミック電極21よりも大きい平面積を有するp側パッド電極23が、p側オーミック電極21の一部を覆うように形成されている。このp側パッド電極23は、図2および図3に示すように、p側オーミック電極21の一部を覆っている部分において、p側オーミック電極21と直接接触している。また、p側パッド電極23は、埋め込み層22側からTi層(図示せず)、Mo層(図示せず)、およびAu層(図示せず)が順次積層された多層構造からなる。また、p側パッド電極23は、外部からp側オーミック電極21に電流供給を行うため、電気抵抗(膜抵抗)が低くなるように構成されている。具体的には、p側パッド電極23は、上記したp側オーミック電極21の厚みdよりも大きい厚みに構成されている。より具体的には、p側パッド電極23は、約0.2μmの合計厚みに設定されている。これにより、電圧降下を生じさせることなく、p側オーミック電極21に実質的に均一に電流注入を行うことが可能となる。なお、p側パッド電極23は、本発明の「第1電極層」の一例である。
ここで、第1実施形態では、図2に示すように、p側パッド電極23は、平面的に見て、略矩形状に形成されているとともに、光出射面30a側の端部において、リッジ部20(光導波路40)の上方に位置する部分を含む所定部分に切欠部23aが形成されている。この切欠部23aは、[11−20]方向に、リッジ部20の幅の1倍〜10倍程度の幅W1を有しており、[1−100]方向にL1(たとえば約22.5μm)の長さを有している。このため、p側パッド電極23は、リッジ部20(光導波路40)上以外の領域における光出射面30aからp側パッド電極23までの距離L2が、リッジ部20(光導波路40)上における光出射面30aからp側パッド電極23までの距離L3よりも小さくなるように形成されている。具体的には、p側パッド電極23は、上記距離L2が、たとえば約2.5μm〜約10μm、上記距離L3が、たとえば約25μm〜約32.5μmとなるように形成されている。そして、上記距離L3が、上記距離L2よりも大きくなるようにp側パッド電極23が形成されることによって、光出射面30a側に電流注入制限領域24が設けられている。なお、リッジ部20上における光出射面30aからp側パッド電極23までの距離L3は、共振器長L(光出射面30aと光反射面30bとの間の距離)の20%以下に設定されているのが好ましい。
また、第1実施形態では、p側パッド電極23の光反射面30b側の端部には、切欠部が形成されない構成となっている。そして、光反射面30bからp側パッド電極23までの距離L4(p側パッド電極23の光反射面30b側の他方端面から光反射面30bまでの距離)が、リッジ部20(光導波路40)上以外の領域における光出射面30aからp側パッド電極23までの距離L2(p側パッド電極23の光出射面30a側の一方端面から光出射面30aまでの距離)と略等しくなるように、p側パッド電極23が配置されている。このため、リッジ部20(光導波路40)上の領域において、光反射面30bからp側パッド電極23までの距離L4よりも、光出射面30aからp側パッド電極23までの距離L3の方が大きくなっている。
n型GaN基板11の裏面上には、図1および図3に示すように、n型GaN基板11の裏面側から順に、Hf層(図示せず)およびAl層(図示せず)が順次積層された多層構造からなるn側電極25が形成されている。また、n側電極25上には、n側電極25側から順に、Mo層(図示せず)、Pt層(図示せず)およびAu層(図示せず)が順次積層された多層構造からなるn側パッド電極26が形成されている。このn側パッド電極26は、サブマウント(図示せず)などへのマウントを容易にするために形成されている。
光出射面30aには、図2に示すように、光出射面30a側から、たとえば、窒化アルミニウム層(図示せず)および酸化アルミニウム層(図示せず)が積層された2層からなるAR(Anti−Reflection)コーティング層27が形成されている。一方、光反射面30bには、たとえば、酸化シリコン層(図示せず)と酸化チタン層(図示せず)とが交互に全9層積層されたHR(High−Reflection)コーティング層28が形成されている。
このように構成された第1実施形態による窒化物系半導体レーザ素子10では、光出射面30a側に電流注入制限領域24が設けられているので、光出射面30a近傍におけるCODの発生が抑制される。また、p側オーミック電極21が光出射面30a(共振器面30)にまで達するように形成されている一方、リッジ部20(光導波路40)上においてp側パッド電極23が光出射面30aから距離L3だけ隔てられているので、p側オーミック電極21を介して、光出射面30aの近傍領域(光出射面30aからp側パッド電極23までの間の領域(距離L3間の領域))にも電流が注入される。
すなわち、窒化物系半導体の抵抗率は、p型GaNで1Ω・cm程度とかなり大きいため、窒化物系半導体中でのミクロンオーダの電流拡がりは期待できない。このため、光出射面30aの近傍領域に注入される電流量は、p側オーミック電極21によって制御されることになり、注入される電流はそのまま活性層15を駆動すると考えることができる。このことから、図5に示すように、p側パッド電極23の端面(切欠部23aの端部)から光出射面30a方向に電流が拡がる過程において、光出射面30aの近傍領域(p側パッド電極23から光出射面30aまでの間の領域(距離L3間の領域))には、p側オーミック電極21の抵抗による電圧降下量にしたがって電流注入量が変化することになる。
したがって、p側オーミック電極21の厚みdおよびp側パッド電極23から光出射面30aまでの距離L3を調整することによって、光出射面30aの近傍領域に注入される電流量を調整することが可能となる。そして、第1実施形態による窒化物系半導体レーザ素子10では、p側オーミック電極21の厚みdと光出射面30aからp側パッド電極23までの距離L3とが調整されることによって、光出射面30aにおける活性層15への電流注入量が、p側パッド電極23直下での活性層15への電流注入量の20%以上70%以下となるように設定されている。ここで、光出射面30aにおける活性層15への電流注入量が20%よりも小さい場合には、共振器面30の可飽和吸収領域の光ロスを小さくすることが困難となる。このため、光吸収量を効果的に減少させることが困難となるので、急激にレーザ発振が生じるのを抑制することが困難となり、I−L特性の立ち上がりが急峻になるという不都合が生じる。一方、光出射面30aにおける活性層15への電流注入量が70%よりも大きい場合には、CODレベルの向上効果を得ることが困難になる。したがって、光出射面30aにおける活性層15への電流注入量が、p側パッド電極23直下での活性層15への電流注入量の20%以上70%以下となるように設定することにより、CODレベルを向上させながら、I−L特性における立ち上がりが急峻になるのを抑制することが可能となる。
なお、光出射面30a側を規定するのは、以下の理由による。すなわち、共振器面30に形成されたコーティングにより、光出射面30aの反射率は、光反射面30bの反射率に比べて小さくなる。このため、光導波路内における光強度分布は光出射面30a付近で最大となる。CODは光出力が大きいほど起こり易いため、光反射面30bに比べて光出力が大きい光出射面30a側の電流注入量を規定する方が、光出射面30a側の電流注入量を規定するよりも好ましいためである。
また、光出射面30aに注入される電流量を制御するためには、p側オーミック電極21の電気抵抗(膜抵抗)が重要なパラメータとなる。すなわち、電力供給源(p側パッド電極23)に対して遠い位置での電流注入量は、電極の抵抗が高ければ高いほど小さくなる。このため、厚みdが大き過ぎるp側オーミック電極21を設けて電極の膜抵抗を極端に低くした場合には、レーザ素子の他の特性に悪影響を与えることなく光出射面30aの電流注入量を下げてCODレベルの向上を図ることが困難となる。よって、p側オーミック電極21の厚みdの最大値は、レーザ素子の作製中または駆動中にp側オーミック電極21が共振器面30にだれたりする(干渉する)ことを防ぐことも考慮して、上記のように、100nm(0.1μm)以下とするのが好ましい。
一方、p側オーミック電極21の厚みdの最小値は、三次元成長せずに膜として安定に形成できるとともに、駆動中の高温によっても変質しないなどの条件を考慮して、上記のように、5nm(0.005μm)以上とするのが好ましい。
なお、製造プロセス中の熱処理やレーザ駆動中の電流注入による電極の電気抵抗率の変化、動作電圧(駆動電圧)の上昇などを抑制するためには、p側オーミック電極21の厚みdは、10nm(0.01μm)以上50nm(0.05μm)以下に設定するのがより好ましい。また、p側オーミック電極21の厚みdは、10nm(0.01μm)以上25nm(0.025μm)以下に設定されているとさらに好ましい。このように設定されている場合には、後述する製造工程において、p側オーミック電極21のエッチングにばらつきが生じるのを抑制することが可能となるので、p側オーミック電極21の形成不良を抑制することができる。また、エッチングされたp側オーミック電極21の付着を防止して、窒化物系半導体レーザ素子10の作製を容易にし、歩留を向上させることが可能となる。
第1実施形態による窒化物系半導体レーザ素子10では、上記のように、リッジ部20(光導波路40)上以外の領域における光出射面30aからp側パッド電極23までの距離L2を、リッジ部20(光導波路40)上における光出射面30aからp側パッド電極23までの距離L3よりも小さい所定の距離となるようにp側パッド電極23を形成することによって、光出射面30a側に電流注入制限領域24を設けながら、光出射面30aからp側パッド電極23までの距離L2が大きくなり過ぎるのを抑制することができる。すなわち、上記のように構成することによって、光出射面30a近傍におけるCODの発生を抑制するために、光出射面30a側に電流注入制限領域24を設けることによって光出射面30aにおける電流注入量を低減(制限)する必要がある場合でも、光出射面30aからp側パッド電極23までの距離L2が大きくなり過ぎるのを抑制することができる。このため、p側パッド電極23を、劈開により共振器面30を形成する際の分割マージンの指標となるマーカとして機能させることができる。また、p側パッド電極23をマーカとして機能させた場合でも、光出射面30aからp側パッド電極23までの距離L2が大きくなり過ぎることに起因して、劈開に起因する素子不良の判定が困難になるという不都合が生じるのを抑制することができる。
また、第1実施形態では、p側パッド電極23の光反射面30b側の端部に、切欠部を形成しないように構成することによって、光出射面30a側と異なり、光反射面30b側には電流注入制限領域が設けられないので、光反射面30b側にも電流注入制限領域を設ける場合に比べて、動作電圧を低減することができる。
図6は、本発明の第1実施形態による半導体ウェハの平面図である。次に、図2、図3および図6を参照して、本発明の第1実施形態による半導体ウェハ50の構造について説明する。
第1実施形態による半導体ウェハ50は、上記した窒化物系半導体レーザ素子10を複数含んでおり、この半導体ウェハ50が劈開により分割されることによって、上記窒化物系半導体レーザ素子10が得られる。このため、半導体ウェハ50は、n型GaN基板11(図3参照)と、このn型GaN基板11上に形成される複数の窒化物系半導体層とを備えている。また、半導体ウェハ50は、図6に示すように、[1−100]方向に互いに平行に延びるストライプ状のリッジ部20を有している。
また、半導体ウェハ50は、複数のp側パッド電極23を有している。この複数のp側パッド電極23は、互いに分離されているとともに、窒化物系半導体層上にマトリクス状に配列されている。また、p側パッド電極23の一方の端部には、上記した切欠部23aが形成されている。これにより、半導体ウェハ50の所定領域に電流注入制限領域24が設けられている。そして、p側パッド電極23は、リッジ部20(光導波路40)の延びる方向([1−100]方向)に、間隔L5を隔てて配列されている。これにより、半導体ウェハ50は、リッジ部20(光導波路40)上以外の領域における互いに隣り合うp側パッド電極23間の間隔L5が、リッジ部20(光導波路40)上における互いに隣り合うp側パッド電極23間の間隔L6よりも小さくなるように構成されている。
ここで、第1実施形態では、上記間隔L5が分割マージンとなるように、たとえば、約5μm〜約20μmの幅に設定されている。一方、上記間隔L6は、たとえば、約27.5μm〜約42.5μmの幅に設定されている。なお、後述する製造方法において、半導体ウェハ50からバーへの劈開は、間隔L5の略中央で行う。これにより、共振器面30(図2参照)とp側パッド電極23との間の距離L2(図2参照)が一定範囲内に収まっていることが容易に見てとれる。
第1実施形態による半導体ウェハ50では、上記のように構成することによって、p側パッド電極23を、劈開により共振器面30を形成する際の分割マージンの指標となるマーカとして機能させることができる。また、リッジ部20(光導波路40)の延びる方向([1−100]方向)に互いに隣り合うp側パッド電極23において、リッジ部20(光導波路40)上以外の領域における一方のp側パッド電極23と隣り合う他方のp側パッド電極23との間の間隔L5を分割マージンとして規定することによって、劈開により共振器面30を形成する際に劈開に起因する素子不良の判定を容易に行うことができる。
なお、第1実施形態による半導体ウェハ50では、CODの発生を抑制するための電流注入制限領域24を設けた場合でも、分割マージンとして規定された互いに隣り合うp側パッド電極23間の距離(間隔L5)が大きくなり過ぎるのを抑制することができる。このため、半導体ウェハ50を劈開することにより個々の窒化物系半導体レーザ素子に個片化した際に、CODの発生を抑制することが可能な窒化物系半導体レーザ素子10を得ることができる。
図7〜図21は、本発明の第1実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の製造方法を説明するための図である。次に、図1、図3、図4および図6〜図22を参照して、本発明の第1実施形態による窒化物系半導体レーザ素子10の製造方法について説明する。
まず、図7に示すように、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法を用いて、n型GaN基板11上に、窒化物系半導体各層12〜19を積層させる。具体的には、n型GaN基板11の(0001)面上に、約0.1μm〜約10μm(たとえば約4μm)の厚みを有するn型GaNからなる下部コンタクト層12、約0.5μm〜約3.0μm(たとえば約2μm)の厚みを有するn型Al0.05Ga0.95Nからなる下部クラッド層13、0〜約0.2μm(たとえば約0.1μm)の厚みを有するn型GaNからなる下部ガイド層14、および活性層15を順次成長させる。なお、活性層15を成長させる際には、図4に示したように、約8nmの厚みを有するInx2Ga1-x2N(x2=0〜0.05)からなる4つの障壁層15bと、約4nmの厚みを有するInx1Ga1-x1N(x1=0.05〜0.1)からなる3つの量子井戸層15aとを交互に成長させる。これにより、下部ガイド層14上に、3つの量子井戸層15aと4つの障壁層15bとからなるMQW構造を有する活性層15が形成される。
続いて、図7に示すように、活性層15上に、0〜約0.02μm(たとえば約0.01μm)の厚みを有するp型Al0.3Ga0.7Nからなる蒸発防止層16、0〜約0.2μm(たとえば約0.1μm)の厚みを有するp型GaNからなる上部ガイド層17、約0.1μm〜約1.0μm(たとえば約0.5μm)の厚みを有するp型Al0.05Ga0.95Nからなる上部クラッド層18、約0.01μm〜約1.0μm(たとえば約0.05μm)の厚みを有するp型GaNからなる上部コンタクト層19を順次成長させる。
次に、図8に示すように、真空蒸着法などを用いて、上部コンタクト層19上に、Pdからなるp側オーミック電極21を形成する。この際、p側オーミック電極21は、その厚みd(図3参照)が5nm(0.005μm)以上100nm(0.1μm)以下(たとえば15nm)となるように形成する。そして、図9に示すように、フォトリソグラフィ技術を用いて、p側オーミック電極21上に、約1μm〜約3μm(たとえば約1.5μm)の幅を有するとともに、[1−100]方向に互いに平行に延びるストライプ状(細長状)のレジスト41を形成する。
次に、図10に示すように、SiCl4、Cl2などの塩素系ガスや、ArガスなどによるRIE(反応性イオンエッチング)法を用いて、レジスト41をマスクとして上部クラッド層18の途中の深さまでエッチングを行う。これにより、上部クラッド層18の凸部と上部コンタクト層19とによって構成されるとともに、約1μm〜約3μm(たとえば約1.5μm)の幅を有し、[1−100]方向に互いに平行に延びるストライプ状(細長状)のリッジ部20が形成される。
続いて、図11に示すように、リッジ部20上にレジスト41を残した状態で、スパッタ法などにより、約0.1μm〜約0.3μm(たとえば約0.15μm)の厚みを有するSiO2からなる埋め込み層22aを形成し、リッジ部20を埋め込む。そして、リフトオフによりレジスト41を除去することによって、リッジ部20の上部のp側オーミック電極21を露出させる。これにより、リッジ部20の両脇に、図12に示すような埋め込み層22が形成される。
次に、埋め込み層22が形成された基板(半導体ウェハ)の上面上の全面にレジスト42を形成するとともに、フォトリソグラフィ技術を用いて、図13および図14に示すように、リッジ部20(p側オーミック電極21)の一部を含む所定領域を露出させる開口部42aを複数形成する。この際、開口部42aは、図14に示すように、後の工程でp側パッド電極23(図6参照)が形成される際に、p側パッド電極23の一方の端部(後にチップ(半導体レーザ素子)の光出射面側となるリッジ部20(光導波路40)上)にリッジ部20の幅の1倍〜10倍程度の幅を有するとともに、[1−100]方向に長さL1(たとえば約22.5μm)を有する切欠部23a(図6参照)が形成される構成とする。また、開口部42aは、平面的に見て略矩形状に形成する。さらに、同一リッジ部20上に設けられる複数の開口部42aのうち、互いに隣り合う開口部42aの間の領域(間隔L5間の領域)は、後の工程で素子分割を行う際の分割領域となる。このため、互いに隣り合う開口部42a間の間隔は、分割マージンとなるように、間隔L5(たとえば約5μm〜約20μm)に設定する。
その後、レジスト42が形成された基板(半導体ウェハ)上に、真空蒸着法などを用いて、基板(半導体ウェハ)側からTi層(図示せず)、Mo層(図示せず)、およびAu層(図示せず)を順次形成することにより、多層構造からなるp側パッド電極を形成する。そして、リフトオフによりレジスト42を除去することによって、p側パッド電極をパターニングする。これにより、図6および図15に示すように、上記したレジスト42の開口部42aに対応する埋め込み層22上の領域に、平面的に見て略矩形状のp側パッド電極23がマトリクス状に複数形成される。このp側パッド電極23は、図6に示したように、p側オーミック電極21の一部を覆うように(p側オーミック電極21の上面の一部と直接接触するように)形成される。また、複数のp側パッド電極23は、[1−100]方向に互いに分離して配置される。
次に、基板(半導体ウェハ)を分割し易くするために、n型GaN基板11の裏面を研削または研磨することにより、n型GaN基板11を約80μm〜約150μm(たとえば約130μm)の厚みまで薄くする。そして、研削または研磨した面にドライエッチングなどを施して表面を調整する。
次に、図16に示すように、n型GaN基板11の裏面上に、真空蒸着法などを用いて、n型GaN基板11の裏面側からHf層(図示せず)およびAl層(図示せず)を順次形成することにより、多層構造からなるn側電極25を形成する。そして、n側電極25上に、n側電極25側からMo層(図示せず)、Pt層(図示せず)およびAu層(図示せず)を順次形成することにより、多層構造からなるn側パッド電極26を形成する。また、n側パッド電極26は、n側電極25を覆うように形成する。なお、n側電極25の形成前に、n側の電気特性の調整などの目的で、ドライエッチングやウェットエッチングを行ってもよい。
このようにして上記した第1実施形態による半導体ウェハ50が形成される。
続いて、互いに隣り合うp側パッド電極23間の領域(間隔L5間の領域)に、[11−20]方向に延びるスクライブ傷(図示せず)を導入し、このスクライブ傷を起点として基板(半導体ウェハ、窒化物系半導体層)を劈開することによりバー状に分割する。ここで、第1実施形態では、図6、図17および図18に示すように、間隔L5の略中央に分割予定線P1に沿って、罫書きなどによりスクライブ傷を導入する。そして、このスクライブ傷を起点として基板を分割する。これにより、リッジ部20の延びる方向([1−100]方向)と直交する方向([11−20]方向)に基板(半導体ウェハ、窒化物系半導体層)が劈開され、共振器面30が形成される。その結果、分割予定線P1に沿って基板(半導体ウェハ、窒化物系半導体層)が分割され、図19に示すようなバー状の素子が得られる。
ここで、スクライブ傷を導入する際に、p側パッド電極23に切欠部23aが形成されていない場合には、光出射側と光反射側とを分離するために、左右非対称な位置(間隔L5の中央からいずれかのp側パッド電極23側にずれた位置)にスクライブ傷を導入せざるを得ない。このようにしなければ、光出射面30a側に電流注入制限領域24を設けることが困難になるからである。このような作業も不可能ではないが、製造上、妥当な倍率での観察像を基に作業を行う場合、[1−100]方向に互いに分離されたp側パッド電極23の中央(間隔L5の中央)にスクライブ傷を導入する方が、作業効率が高い上に、エラーも少なくなる。
なお、半導体ウェハの決められた領域にスクライブ傷を導入するためには、その上下左右に1チップずつ程度は装置のモニタ画面で確認できないと全体像がわかりづらいため、作業が行いにくくなる。また、[1−100]方向に互いに分離されたp側パッド電極23間の間隔L5がモニタ画面上で数センチも離れていては、間隔L5の中央を一目で判断することが難しくなる。一方、間隔L5があまりに狭すぎてはアライメントが行えなくなるので意味がなくなる。このため、モニタ画面の大きさ、p側パッド電極23間の間隔L5および上記の点を勘案すると、観察像の妥当な倍率は100倍〜250倍程度と言える。
また、p側パッド電極23間の間隔L5は、本質的には、チップ(半導体レーザ素子)に許容できる共振器長ばらつきにより決定されるが、5μm〜20μm程度とすると、作業上、隙間(間隔L5)が判別しやすく、かつ、スクライブ傷を導入する位置の位置決めが行いやすい。間隔L5が5μmより小さくなると、作業として現実的な倍率で拡大した場合に、隙間(間隔L5)を見ることが難しくなる。一方、間隔L5を20μmよりも大きくすると、分割ラインの揺らぎとして許容されるばらつきが大きくなるとともに、間隔L5の中央を見定めることが難しくなってくる。
その後、図20に示すように、蒸着法やスパッタ法などの手法を用いて、バー状の素子の端面(共振器面30)にコーティングを施す。具体的には、片側(切欠部23aが形成されている側)の端面に、たとえば、窒化アルミニウム層(図示せず)および酸化アルミニウム層(図示せず)が積層された2層からなるARコーティング層27を形成する。また、その反対側の端面に、たとえば、酸化シリコン層(図示せず)と酸化チタン層(図示せず)とが交互に全9層積層されたHRコーティング層28を形成する。
最後に、[1−100]方向に沿った分割予定線P2に沿ってバー状の素子を分割することにより、個々のチップ(半導体レーザ素子)に個片化する。このようにして、図1に示した本発明の第1実施形態による窒化物系半導体レーザ素子10が製造される。
第1実施形態による窒化物系半導体レーザ素子10の製造方法では、上記のように構成することによって、p側パッド電極23を、劈開により共振器面30を形成する際の分割マージンの指標となるマーカとして機能させることができる。また、リッジ部20(光導波路40)の延びる方向([1−100]方向)に互いに隣り合うp側パッド電極23において、リッジ部20(光導波路40)上以外の領域における一方のp側パッド電極23と隣り合う他方のp側パッド電極23との間の間隔L5を分割マージンとして規定することによって、劈開により共振器面30を形成する際に劈開に起因する素子不良の判定を容易に行うことができる。たとえば、図21に示すように、劈開による分割ラインQが、p側パッド電極23によって規定された分割マージンを超えてp側パッド電極23にかかった場合には、その素子を劈開に起因する素子不良として容易に判定することができる。なお、劈開後の分割ラインQがp側パッド電極23にかかった素子は、素子不良として取り除かれる。
また、第1実施形態による窒化物系半導体レーザ素子10の製造方法では、CODの発生を抑制するための電流注入制限領域24を設けた場合でも、分割マージンとして規定された互いに隣り合うp側パッド電極23間の距離(間隔L5)が大きくなり過ぎるのを抑制することができる。このため、基板(半導体ウェハ、窒化物系半導体層)を劈開することにより個々の窒化物系半導体レーザ素子に個片化した際に、CODの発生を抑制することが可能な窒化物系半導体レーザ素子10を得ることができる。
また、第1実施形態では、上記のように、劈開に起因する素子不良の判定を容易に行うことができるので、検査工程における検査効率および作業効率を向上させることができる。すなわち、現実の技術では、検査すべき不良のパターンが多すぎるため判定を人力に頼らざるを得ず、特徴がはっきりしている方が素子不良の見落としが少なくなるとともに、判定も速くなる。これにより、製造工数を低減することができるので、製造効率を向上させることができる。なお、上記した構成では、素子不良の判定ミスが増加するという不都合が生じるのを抑制することができるので、製品(窒化物系半導体レーザ素子)の品質管理を容易に行うことができる。これにより、判定ミスによる不良品が市場に流出するのを抑制することができるので、市場において取引される製品(窒化物系半導体レーザ素子)の信頼性を向上させることができる。
また、第1実施形態では、上記のように、p側パッド電極23にマーカとしての機能を持たせることができるので、別途、マーカを設ける必要がない。このため、別途、マーカを設ける場合に比べて、製造工程が増加するのを抑制することができる。また、別途、マーカを設けた場合には、再アライメントによる誤差を考慮する必要があるので、窒化物系半導体レーザ素子の製造精度が低下するという不都合がある。これに対し、p側パッド電極23にマーカとしての機能を持たせた場合には、再アライメントが不要となるので、精度よくマーカを形成することができ、上記不都合が生じるのを抑制することができる。さらに、p側パッド電極23とマーカとが一体となっているため、微小なマーカを設けた場合に生じるマーカ欠損の問題も生じにくくすることができる。
また、第1実施形態では、p側パッド電極23のリッジ部20(光導波路40)の延びる方向([1−100]方向)の端部において、リッジ部20(光導波路40)の上方に位置する部分を含む所定部分に切欠部23aを形成することによって、製造工程を増加させることなく、劈開により共振器面30を形成する際に劈開に起因する素子不良の判定をより容易に行うことができるとともに、CODの発生に起因する信頼性の低下を抑制することが可能な窒化物系半導体レーザ素子10を製造することができる。
また、第1実施形態では、リッジ部20(光導波路40)の延びる方向([1−100]方向)に互いに隣り合うp側パッド電極23において、リッジ部20(光導波路40)上以外の領域における一方のp側パッド電極23と隣り合う他方のp側パッド電極23との間の間隔L5の略中央部で、基板(半導体ウェハ、窒化物系半導体層)を劈開することによって、劈開による基板(半導体ウェハ、窒化物系半導体層)の分割作業を容易に行うことができる。これにより、分割作業の作業効率を向上させることができるとともに、分割不良を低減することができる。したがって、これによっても、製造工数を低減することができるので、製造効率を向上させることができる。
(第2実施形態)
図22は、本発明の第2実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の全体斜視図である。図23は、本発明の第2実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の平面図である。図24は、図23のB−B線に沿った断面図である。次に、図22〜図24を参照して、本発明の第2実施形態による窒化物系半導体レーザ素子110の構造について説明する。
この第2実施形態による窒化物系半導体レーザ素子110では、図22〜図24に示すように、共振器幅Wの中央部から一方の側端面側に所定の距離だけずれた位置にリッジ部20が形成されている。また、p側パッド電極23は、平面的に見て、略矩形状に形成されているとともに、光出射面30a側の端部において、リッジ部20(光導波路40)の上方に位置する部分を含む所定部分に切欠部123aが形成されている。具体的には、p側パッド電極23の光出射面30a側の端面と一方の側端面との角部に、切欠部123aが形成されている。この切欠部123aは、[11−20]方向に、リッジ部20の幅の1倍〜10倍程度の幅W1を有しており、[1−100]方向にL1(たとえば約22.5μm)の長さを有している。これにより、p側パッド電極23は、リッジ部20(光導波路40)上以外の領域における光出射面30aからp側パッド電極23までの距離L2が、リッジ部20(光導波路40)上における光出射面30aからp側パッド電極23までの距離L3よりも小さくなるように形成されている。
また、上記距離L3が、上記距離L2よりも大きくなるようにp側パッド電極23が形成されることによって、光出射面30a側に電流注入制限領域24が設けられている。
第2実施形態による窒化物系半導体レーザ素子110のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
また、第2実施形態による窒化物系半導体レーザ素子110の効果は、上記第1実施形態と同様である。
図25は、本発明の第2実施形態による半導体ウェハの平面図である。次に、図23および図25を参照して、本発明の第2実施形態による半導体ウェハ150の構造について説明する。
第2実施形態による半導体ウェハ150は、上記した窒化物系半導体レーザ素子110を複数含んでおり、この半導体ウェハ150が劈開により分割されることによって、上記窒化物系半導体レーザ素子110が得られる。
また、半導体ウェハ150は、上記第1実施形態と同様、複数のp側パッド電極23を有している。この複数のp側パッド電極23は、互いに分離されているとともに、窒化物系半導体層上にマトリクス状に配列されている。また、p側パッド電極23の一方の端部(一方の端面と一方の側端面との角部)には、それぞれ、上記した切欠部123aが形成されている。これにより、半導体ウェハ150の所定領域に電流注入制限領域24が設けられている。そして、p側パッド電極23は、リッジ部20(光導波路40)の延びる方向([1−100]方向)に、間隔L5を隔てて配列されている。これにより、半導体ウェハ150は、リッジ部20(光導波路40)上以外の領域における互いに隣り合うp側パッド電極23間の間隔L5が、リッジ部20(光導波路40)上における互いに隣り合うp側パッド電極23間の間隔L6よりも小さくなるように構成されている。
ここで、第2実施形態では、上記間隔L5が分割マージンとなるように、たとえば、約5μm〜約20μmの幅に設定されている。一方、上記間隔L6は、たとえば、約27.5μm〜約42.5μmの幅に設定されている。なお、後述する製造方法において、半導体ウェハ150からバーへの劈開は、間隔L5の略中央で行う。これにより、共振器面30(図23参照)とp側パッド電極23との間の距離L2(図23参照)が一定範囲内に収まっていることが容易に見てとれる。
第2実施形態による半導体ウェハ150では、上記のように構成することによって、第1実施形態と同様、p側パッド電極23を、劈開により共振器面30を形成する際の分割マージンの指標となるマーカとして機能させることができる。また、リッジ部20(光導波路40)の延びる方向([1−100]方向)に互いに隣り合うp側パッド電極23において、リッジ部20(光導波路40)上以外の領域における一方のp側パッド電極23と隣り合う他方のp側パッド電極23との間の間隔L5を分割マージンとして規定することによって、劈開により共振器面30を形成する際に劈開に起因する素子不良の判定を容易に行うことができる。
なお、第2実施形態による半導体ウェハ150では、CODの発生を抑制するための電流注入制限領域24を設けた場合でも、分割マージンとして規定された互いに隣り合うp側パッド電極23間の距離(間隔L5)が大きくなり過ぎるのを抑制することができる。このため、半導体ウェハ150を劈開することにより個々の窒化物系半導体レーザ素子に個片化した際に、CODの発生を抑制することが可能な窒化物系半導体レーザ素子110を得ることができる。
図26〜図28は、本発明の第2実施形態による窒化物系半導体レーザ素子の製造方法を説明するための図である。次に、図7〜図12、図22および図24〜図28を参照して、本発明の第2実施形態による窒化物系半導体レーザ素子110の製造方法について説明する。
まず、図7〜図12に示した第1実施形態と同様の方法を用いて、n型GaN基板11上に、窒化物系半導体各層12〜19(図24参照)を成長させるとともに、図25に示したように、[1−100]方向に互いに平行に延びるストライプ状(細長状)のリッジ部20を形成する。
次に、上記第1実施形態と同様の方法を用いて、窒化物系半導体層上に、マトリクス状に配列された複数のp側パッド電極23を形成する。この際、図25に示したように、複数のp側パッド電極23は、それぞれ、平面的に見て略矩形状に形成するとともに、p側オーミック電極21の一部を覆うように(p側オーミック電極21の上面の一部と直接接触するように)形成する。さらに、複数のp側パッド電極23は、[1−100]方向に互いに分離して配置する。
ここで、第2実施形態では、p側パッド電極23の一方の端部(一方の端面と一方の側端面との角部)に、上記した切欠部123aを形成する。
次に、基板(半導体ウェハ)を分割し易くするために、n型GaN基板11の裏面を研削または研磨することにより、n型GaN基板11を約80μm〜約150μm(たとえば約130μm)の厚みまで薄くする。そして、研削または研磨した面にドライエッチングなどを施して表面を調整する。
続いて、図24に示したように、n型GaN基板11の裏面上に、真空蒸着法などを用いて、n型GaN基板11の裏面側からHf層(図示せず)およびAl層(図示せず)を順次形成することにより、多層構造からなるn側電極25を形成する。そして、n側電極25上に、n側電極25側からMo層(図示せず)、Pt層(図示せず)およびAu層(図示せず)を順次形成することにより、多層構造からなるn側パッド電極26を形成する。また、n側パッド電極26は、n側電極25を覆うように形成する。なお、n側電極25の形成前に、n側の電気特性の調整などの目的で、ドライエッチングやウェットエッチングを行ってもよい。
このようにして上記した第2実施形態による半導体ウェハ150が形成される。
続いて、図26および図27に示すように、上記第1実施形態と同様にして基板(半導体ウェハ、窒化物系半導体層)を分割予定線P1に沿って劈開することによりバー状に分割する。
その後、上記第1実施形態と同様、蒸着法やスパッタ法などの手法を用いて、バー状の素子の端面(共振器面30)にコーティングを施す。
最後に、[1−100]方向に沿った分割予定線P2に沿ってバー状の素子を分割することにより、個々のチップ(半導体レーザ素子)に個片化する。このようにして、図22に示した本発明の第2実施形態による窒化物系半導体レーザ素子110が製造される。
第2実施形態による窒化物系半導体レーザ素子110の製造方法では、上記のように構成することによって、p側パッド電極23を、劈開により共振器面30を形成する際の分割マージンの指標となるマーカとして機能させることができる。また、リッジ部20(光導波路40)の延びる方向([1−100]方向)に互いに隣り合うp側パッド電極23において、リッジ部20(光導波路40)上以外の領域における一方のp側パッド電極23と隣り合う他方のp側パッド電極23との間の間隔L5を分割マージンとして規定することによって、劈開により共振器面30を形成する際に劈開に起因する素子不良の判定を容易に行うことができる。たとえば、図28に示すように、劈開による分割ラインQが、p側パッド電極23によって規定された分割マージンを超えてp側パッド電極23にかかった場合には、その素子を劈開に起因する素子不良として容易に判定することができる。なお、劈開後の分割ラインQがp側パッド電極23にかかった素子は、素子不良として取り除かれる。
第2実施形態の製造方法のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
たとえば、上記第1および第2実施形態では、窒化物系半導体レーザ素子に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限らず、窒化物系以外の材料系の半導体レーザ素子に本発明を適用してもよい。なお、窒化物系以外の材料系の半導体レーザ素子において、端面に窓構造(CODを防止するために、レーザ光よりもバンドギャップの大きな材料系を光出射面に設ける構造)を作製する場合、CODを十分に防止するために、光出射面側にはある程度大きな領域が必要となる一方、光反射面側にはほとんどなくてよい場合がある。また、全体の有効面積の観点から、トータルの窓領域の大きさは小さいほうが好ましい場合がある。窒化物系以外の材料系の半導体レーザ素子に本発明を適用すれば、このような場合にも有効である。
また、上記第1および第2実施形態では、基板にn型GaN基板を用いた例を示したが、本発明はこれに限らず、InGaN、AlGaN、および、AlGaInNなどからなる基板を用いてもよい。また、基板上に結晶成長される窒化物系半導体層の各層については、その厚みや組成等は、所望の特性に合うものに適宜組み合わせたり、変更したりすることが可能である。たとえば、半導体層を追加または削除したり、半導体層の順序を一部入れ替えたりしてもよい。また、導電型を一部の半導体層について変更してもよい。すなわち、窒化物系半導体レーザ素子としての基本特性が得られる限り自由に変更可能である。
また、上記第1および第2実施形態では、p側パッド電極の光反射面側の端部に切欠部を設けない構成にしたが、本発明はこれに限らず、p側パッド電極の光反射面側にも光出射面側の端部と同様の切欠部を形成してもよい。
また、上記第1および第2実施形態では、p側パッド電極を、略矩形状の平面形状に形成した例を示したが、本発明はこれに限らず、略矩形状以外の平面形状にp側パッド電極を形成してもよい。たとえば、略L字状または略T字状の平面形状にp側パッド電極を形成してもよい。
なお、p側パッド電極を略矩形状以外の平面形状に形成した場合には、p側パッド電極は、リッジ部(光導波路)上以外の少なくとも一部の領域における光出射面からp側パッド電極までの距離が、リッジ部(光導波路)上における光出射面からp側パッド電極までの距離よりも小さくなるように形成されていればよい。また、半導体ウェハを劈開によりバー状に分割する際には、リッジ部(光導波路)の延びる方向に互いに隣り合うp側パッド電極において、リッジ部(光導波路)上以外の領域における一方のp側パッド電極と隣り合う他方のp側パッド電極との間の間隔が最も小さくなる位置での間隔の略中央部で半導体ウェハを劈開すればよい。
また、上記第1および第2実施形態では、埋め込み層をSiO2から構成した例を示したが、本発明はこれに限らず、SiO2以外の絶縁性材料から構成してもよい。たとえば、SiN、Al2O3やZrO2などから埋め込み層を構成してもよい。
また、上記第1および第2実施形態では、p側オーミック電極をPdから構成した例を示したが、本発明はこれに限らず、仕事関数の大きい材料であればPd以外の材料によってp側オーミック電極を構成してもよい。たとえば、Ni、PtまたはAuなどからp側オーミック電極を構成してもよい。
また、上記第1および第2実施形態では、p側パッド電極を、埋め込み層側からTi層、Mo層、およびAu層を順次積層することにより形成した例を示したが、本発明はこれに限らず、埋め込み層側から、たとえば、Mo層およびAu層を順次積層することによりp側パッド電極を形成してもよい。
また、上記第1および第2実施形態では、n型電極を、n型GaN基板の裏面側からHf層およびAl層を順次積層することにより形成した例を示したが、本発明はこれに限らず、n型GaN基板の裏面側から、たとえば、Ti層およびAl層を順次積層することによりn側電極を形成してもよい。
また、上記第1および第2実施形態では、リッジ部を形成する際のマスク層としてレジストを用いた例を示したが、本発明はこれに限らず、SiO2などからなるマスク層を用いてリッジ部を形成することもできる。この場合、フォトリソグラフィ工程とフッ酸系溶液による溶解との組み合わせ等の方法で、リッジ部の頂上(上面)を露出させることが可能である。
なお、上記第1および第2実施形態において、p側オーミック電極の形成は、リッジ部の形成後であってもよい。この場合は、リッジ部および埋め込み層を形成した後、パターン化されたp側オーミック電極をリッジ部の上面に接するように作製すればよい。
また、上記第1および第2実施形態では、本発明をリッジ型のレーザ構造に適用した例を示したが、本発明はこれに限らず、リッジ型以外のBH(Buried Heterostructure)型やRiS(Ridge by Selective re−growth)型などのレーザ構造に本発明を適用することもできる。
また、上記第1および第2実施形態では、リッジ部を[1−100]方向に延びるように形成するとともに、共振器面を[11−20]方向に沿った方向に形成した場合について説明したが、本発明はこれに限らず、結晶として等価な方向に形成することが可能である。また、M面やA面等を利用した基板上においては、[0001]方向にリッジ部を形成すると、劈開により端面形成を行うのに都合がよい。
また、上記第1および第2実施形態では、MOCVD法を用いて、窒化物系半導体各層を結晶成長させた例を示したが、本発明はこれに限らず、MOCVD法以外の方法を用いて、窒化物系半導体各層を結晶成長させるようにしてもよい。MOCVD法以外の方法としては、たとえば、HVPE法(Hydride Vapor Phase Epitaxy)、および、ガスソースMBE法(Molecular Beam Epitaxy)などが考えられる。
また、本発明は、光ピックアップの光源として用いられる窒化物系半導体レーザ素子以外に、たとえば、照明用に用いられるブロードエリア半導体レーザ素子や、通信用レーザ素子などの高い光出力を要し、I−L特性の立ち上がりが重要となる、もしくは、動作電圧が重要となる素子にも適用することができる。