本発明のプラズマディスプレイパネル用材料は、PbOを含有しなくても、比較的容易にガラスの低融点化を行うことができ、しかも、ガラス基板に適合する熱膨張係数を得やすいZnO−B2O3−SiO2系のガラス粉末を主たる構成成分として含む。ZnO、B2O3及びSiO2の3成分だけではPbO系ガラスよりも融点が高いため、この系のガラスにLi2O、Na2O、K2Oのアルカリ金属酸化物成分を5質量%以上添加することにより、ガラスの軟化点を低下させて、600℃以下の温度での焼成を可能にしている。
尚、アルカリ金属酸化物成分の添加により、ガラスの耐アルカリ性及び耐水性が低下し、隔壁形成工程で使用するアルカリ溶液等によって材料が侵食されるため、隔壁材料として使用し難くなる。しかし、本発明では、アルカリ金属酸化物の含有量を16質量%以下に抑え、しかも、SiO2/B2O3の比率を、質量比で0.8〜1.3の範囲内になるように調整することにより、耐アルカリ性及び耐水性が改善され、アルカリ溶液等によって材料が侵食され難くなり、隔壁材料としての使用を可能にしている。
また、上記のガラス粉末を含む材料をガラス基板上に配置し焼成すると、ガラス基板に反りが生じやすくなるため、アドレス電極保護誘電体材料として使用し難くなる。しかし、本発明では、Na2O/K2Oの比率を、モル比で0.4〜4の範囲内になるように調整することにより、ガラス基板が反り難くなり、アドレス電極保護誘電体材料としての使用も可能にしている。
さらに、本発明のプラズマディスプレイパネル用材料をアドレス電極保護誘電体材料として使用し、アドレス電極保護誘電体材料を焼成せずに、その上に、サンドブラスト法により隔壁を形成しても、隔壁を形成する際に使用するアルカリ溶液等によって、アドレス電極保護誘電体の乾燥膜が劣化し難いため、アドレス電極保護誘電体材料と隔壁材料の同時焼成を可能にしている。
以下に、ガラス粉末組成を上記のように限定した理由を述べる。
ZnOは軟化点を下げると共に、熱膨張係数を低下させる成分であり、その含有量は25〜50%である。ZnOの含有量が少なくなると、軟化点が高くなりすぎて600℃以下の温度で焼成し難くなる。また、ガラスの熱膨張係数が大きくなる傾向にあり、特に、アドレス電極保護誘電体材料として使用した場合、焼成後に、ガラス基板に許容量以上の圧縮応力が残留しやすくなり、ガラス基板に反りが生じる虞がある。一方、含有量が多くなると、ガラスが不安定となりやすく、ガラスを溶融する際にガラスが失透したり、材料を焼成する際にガラス中に結晶が析出する傾向にあり緻密な焼成膜が得難くなる。ZnOの好ましい範囲は26〜49%であり、より好ましい範囲は27〜48%である。
B2O3はガラスの骨格を構成する成分であり、その含有量は15〜26%である。B2O3の含有量が少なくなるとガラス化が困難となる。一方、含有量が多くなると、また、ガラスの耐水性が低下する傾向にあり、隔壁材料として使用した場合、サンドブラスト法での隔壁形成が難しくなる。また、アドレス電極保護誘電体材料として用い、アドレス電極保護誘電体材料を焼成せずに、その上に、サンドブラスト法で隔壁を形成する場合、隔壁を形成する際に使用するアルカリ溶液等によって、アドレス電極保護誘電体の乾燥膜が劣化しやすくなるため、隔壁材料との同時焼成ができなくなる。B2O3の好ましい範囲は16〜25%であり、より好ましい範囲は17〜24%である。
SiO2はガラスの骨格を形成する成分であり、その含有量は15〜25%である。SiO2の含有量が少なくなると、ガラスが不安定となりやすく、ガラスを溶融する際にガラスが失透したり、材料を焼成する際にガラス中に結晶が析出する傾向にあり緻密な焼成膜が得難くなる。また、ガラスの耐アルカリ性が低下する傾向にあり、隔壁材料として使用した場合、サンドブラスト法での隔壁形成が難しくなる。また、アドレス電極保護誘電体材料として用い、アドレス電極保護誘電体材料を焼成せずに、その上に、サンドブラスト法で隔壁を形成する場合、隔壁を形成する際に使用するアルカリ溶液等によって、アドレス電極保護誘電体の乾燥膜が劣化しやすくなるため、隔壁材料との同時焼成ができなくなる。一方、含有量が多くなると、軟化点が高くなりすぎて600℃以下の温度で焼成し難くなる。SiO2の好ましい範囲は16〜25%であり、より好ましい範囲は16〜24%である。
尚、アルカリ金属酸化物成分の添加によるガラスの耐アルカリ性及び耐水性の低下を抑えて、サンドブラスト法での隔壁形成を可能にしたり、隔壁形成時に使用するアルカリ溶液等によるアドレス電極保護誘電体の乾燥膜の劣化を抑えて、アドレス電極保護誘電体材料と隔壁材料との同時焼成を可能にするには、SiO2/B2O3の比率を、質量比で0.8〜1.3の範囲内になるように調整する必要がある。SiO2/B2O3の比率が小さくなると、ガラスの耐アルカリ性及び耐水性が低下する傾向にあり、隔壁材料として使用した場合、サンドブラスト法での隔壁形成が難しくなる。また、アドレス電極保護誘電体材料として用い、アドレス電極保護誘電体材料を焼成せずに、その上に、サンドブラスト法で隔壁を形成する場合、隔壁を形成する際に使用するアルカリ溶液等によって、アドレス電極保護誘電体の乾燥膜が劣化しやすくなるため、隔壁材料との同時焼成ができなくなる。一方、SiO2/B2O3の比率が大きくなると、軟化点が高くなりすぎて600℃以下の温度で焼成し難くなる。SiO2/B2O3の好ましい範囲は0.85〜1.25であり、より好ましい範囲は0.87〜1.24であり、特に好ましくは0.87〜1.24である。
Al2O3はガラスの耐水性及び耐アルカリ性を高める成分であり、その含有量は0〜13%である。Al2O3の含有量が多くなると軟化点が高くなりすぎて600℃以下の温度で焼成し難くなる。Al2O3の好ましい範囲は0〜11%であり、より好ましい範囲は0〜8%である。
BaOは軟化点を下げると共に、ガラスを安定化させる成分であり、その含有量は0〜10%である。BaOの含有量が多くなると、ガラスの熱膨張係数が大きくなる傾向にあり、特に、アドレス電極保護誘電体材料として使用した場合、焼成後に、ガラス基板に許容量以上の圧縮応力が残留しやすくなり、ガラス基板に反りが生じる虞がある。BaOの好ましい範囲は0〜9%であり、より好ましい範囲は0〜8%である。
Li2O、Na2O及びK2Oのアルカリ金属酸化物成分は、ガラスの軟化点を低下させたり、熱膨張係数を調整する成分であり、これら成分の含有量は合量で5〜16%である。アルカリ金属酸化物の合量が少なくなると、ガラスの軟化点が十分に低下しないために、600℃以下の温度で焼成し難くなる。一方、アルカリ金属酸化物の合量が多くなると、ガラスの耐アルカリ性及び耐水性が低下する傾向にあり、隔壁材料として使用した場合、サンドブラスト法での隔壁形成が難しくなる。また、アドレス電極保護誘電体材料料として用い、アドレス電極保護誘電体材料を焼成せずに、その上に、サンドブラスト法で隔壁を形成する場合、隔壁を形成する際に使用するアルカリ溶液等によって、アドレス電極保護誘電体の乾燥膜が劣化しやすくなるため、隔壁材料との同時焼成ができなくなる。さらに、ガラスの熱膨張係数が大きくなる傾向にあり、特に、アドレス電極保護誘電体材料として使用した場合、焼成後に、ガラス基板に許容量以上の圧縮応力が残留しやすくなり、ガラス基板に反りが生じやすくなる。アルカリ金属酸化物の合量の好ましい範囲は6〜15%であり、より好ましい範囲は7〜14%である。尚、各成分の含有量は、Li2Oが0〜0.7%、Na2Oが0.1〜10%、K2Oが0.1〜12%であることが好ましい。特に、Li2Oを含有するガラス粉末をアドレス電極保護誘電体材料として使用すると、材料を焼成する際に、ガラス基板中にLi2Oイオンが拡散し、ガラス基板に許容量以上の圧縮応力が残留し、ガラス基板に反りが生じやすくなるため、Li2Oの含有量は0〜0.5%にすることがより好ましい。
尚、焼成後のガラス基板の反りとガラスの耐アルカリ性及び耐水性の低下を抑えるには、Na2O/K2Oの比率を、モル比で0.4〜4の範囲内になるように調整する必要がある。Na2O/K2Oの比率が小さくなると、ガラスの耐アルカリ性及び耐水性が低下する傾向にあり、隔壁材料として使用した場合、サンドブラスト法での隔壁形成が難しくなる。また、アドレス電極保護誘電体材料として用い、アドレス電極保護誘電体材料を焼成せずに、その上に、サンドブラスト法で隔壁を形成する場合、隔壁を形成する際に使用するアルカリ溶液等によって、アドレス電極保護誘電体の乾燥膜が劣化しやすくなるため、隔壁材料との同時焼成ができなくなる。一方、Na2O/K2Oの比率が大きくなると、アドレス電極保護誘電体材料として使用した場合、材料を焼成する際に、ガラス基板中にNa2Oイオンが拡散し、ガラス基板に許容量以上の圧縮応力が残留し、ガラス基板に反りが生じやすくなる。Na2O/K2Oの好ましい範囲は0.45〜3であり、より好ましい範囲は0.5〜2.5である。
CuOはガラスの耐アルカリ性及び耐水性を向上させる成分であり、その含有量は0〜2%である。CuOの含有量が多くなると、ガラスが不安定となりやすく、ガラスを溶融する際にガラスが失透したり、材料を焼成する際にガラス中に結晶が析出する傾向にあり緻密な焼成膜が得難くなる。CuOの好ましい範囲は0.01〜2%であり、より好ましい範囲は0.01〜1.5%である。
また、本発明のプラズマディスプレイパネル用材料は、上記成分以外にも、要求される特性を損なわない範囲で種々の成分を添加することができる。例えば、ガラスの耐アルカリ性及び耐水性を低下させることなくガラスの軟化点を低下させる成分であるBi2O3を10%まで、ガラスの耐アルカリ性及び耐水性を向上させる成分であるY2O3、La2O3、Ta2O5、SnO2、ZrO2、TiO2、Nb2O5をそれぞれ8%まで、ガラスを安定化させる成分であるP2O5を8%まで添加してもよい。但し、Bi2O3は、高価な原料であるため、原料コストを考慮すると、実質的に含有しないことが望ましい。
また、PbOは、ガラスの融点を低下させる成分であるが、環境負荷物質でもあるため、実質的に含有しないことが好ましい。
尚、本発明で言う「実質的に含有しない」とは、積極的に原料として用いず不純物として混入するレベルをいい、具体的には、含有量が0.1%以下であることを意味する。
また、本発明のプラズマディスプレイパネル用材料を構成するガラス粉末は、600℃以下の軟化点を有するガラスを用いることが好ましい。軟化点が高くなると、600℃以下の温度で緻密な焼成膜が得難くなるためである。但し、軟化点が低すぎると、前面ガラス基板と背面ガラス基板をフリットガラスを用いて封止する際の熱工程等で、誘電体や隔壁が軟化変形しやすくなる。それ故、ガラスの軟化点は540℃以上であることが好ましい。軟化点のより好ましい範囲は540〜590℃である。
また、本発明のプラズマディスプレイパネル用隔壁形成材料におけるガラス粉末の粒度は、平均粒径D50が1.5〜4.5μm、最大粒径Dmaxが10〜35μmのものを使用することが好ましい。平均粒径D50や最大粒径Dmaxが小さくなると、隔壁材料として用いた場合、ガラス粉末からのアルカリ金属酸化物成分の溶出量が多くなり、ドライフィルムレジスト膜の感光性が阻害され、サンドブラスト法での隔壁形成が難しくなる。一方、平均粒径D50や最大粒径Dmaxが大きくなると、焼結性が低下し緻密な焼成膜が得難くなる。また、アドレス電極保護誘電体材料として用いた場合、焼成膜中に泡が残存しやすくなり安定した耐電圧を有する誘電体層が得難くなる。
本発明のプラズマディスプレイパネル用材料は、形状維持、熱膨張係数及び焼成後の強度の調節の目的で上記ガラス粉末に加えてセラミック粉末を含有する。この場合、その混合割合はガラス粉末50〜95質量%、セラミック粉末5〜50質量%、特にガラス粉末60〜95質量%、セラミック粉末5〜40質量%であることが望ましい。セラミック粉末が50%より多くなると焼結性が不十分となって緻密な焼成膜を形成することが困難になり、5%より少ないと焼成後の強度や形状維持効果が低下する。尚、セラミック粉末としては、例えばアルミナ、ジルコニア、ジルコン、チタニア、コージエライト、ムライト、シリカ、ウイレマイト、酸化錫、酸化亜鉛等を1種又は2種以上組み合わせて使用することができる。尚、材料の焼結性の低下を防止して緻密な焼成膜を得やすくするには、セラミック粉末は平均粒径が5.0μm以下、最大粒径が20μm以下であるものを用いることが望ましい。
上述のように、本発明のプラズマディスプレイパネル用材料は、乾燥膜の状態で優れた耐アルカリ性と耐水性を有するため、隔壁材料として使用することができる。しかも、ガラス基板上に形成した乾燥膜を焼成しても、ガラス基板の反りを抑えることができるため、アドレス電極保護誘電体材料しても使用することができる。また、アドレス電極保護誘電体材料として使用し、アドレス電極保護誘電体材料を焼成せずに、その上に、サンドブラスト法により隔壁を形成しても、隔壁形成工程で使用するアルカリ溶液等によって、アドレス電極保護誘電体の乾燥膜が劣化し難いため、隔壁材料と同時焼成するためのアドレス電極保護誘電体材料としての使用も可能にしている。さらに、上記用途以外にも、前面ガラス基板用の透明誘電体材料として使用することもできる。
尚、プラズマディスプレイパネル用背面ガラス基板を作製するにあたって、少なくともアドレス電極保護誘電体材料に本発明の材料を用いれば良いが、隔壁材料にも本発明の材料を用いることが好ましい。両方の材料に本発明の材料を用いる場合、上述のガラス組成範囲内であれば、アドレス電極保護誘電体材料及び隔壁材料のガラス組成は、異なっていても良いが、同一組成であることが好ましい。その理由は、両方の材料のガラス組成を同一組成とすることで、隔壁材料及びアドレス電極保護誘電体材料を統合することができ、コストを低減することが可能になるためである。
次に、本発明のプラズマディスプレイパネル用材料の使用方法を説明する。本発明の材料は、例えばペーストやグリーンシートなどの形態で使用することができる。
ペーストの形態で使用する場合、上述した粉末材料と共に、熱可塑性樹脂、可塑剤、溶剤等を使用する。尚、ペースト全体に占める粉末材料の割合としては、隔壁材料、アドレス電極保護誘電体材料共に、30〜90質量%程度が一般的である。
熱可塑性樹脂は、乾燥後の膜強度を高め、また柔軟性を付与する成分であり、その含有量は、隔壁材料の場合、0.1〜10質量%程度、アドレス電極保護誘電体材料の場合、1〜30質量%程度が一般的である。熱可塑性樹脂としてはポリブチルメタアクリレート、ポリビニルブチラール、ポリメチルメタアクリレート、ポリエチルメタアクリレート、エチルセルロース等が使用可能であり、これらを単独あるいは混合して使用する。
可塑剤は、乾燥速度をコントロールすると共に、乾燥膜に柔軟性を与える成分であり、その含有量は、隔壁材料、アドレス電極保護誘電体材料共に、0〜10質量%程度が一般的である。可塑剤としてはブチルベンジルフタレート、ジオクチルフタレート、ジイソオクチルフタレート、ジカプリルフタレート、ジブチルフタレート等が使用可能であり、これらを単独あるいは混合して使用する。
溶剤は材料をペースト化するための材料であり、その含有量は、隔壁材料、アドレス電極保護誘電体材料共に、10〜30質量%程度が一般的である。溶剤としては、例えばターピネオール、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタジオールモノイソブチレート等を単独または混合して使用することができる。
ペーストの作製は、上記の材料、熱可塑性樹脂、可塑剤、溶剤等を用意し、これを所定の割合で混練することにより行うことができる。
このようなペーストを用いて、プラズマディスプレイパネル用背面ガラス基板を作製するには、まず、アドレス電極が形成された背面ガラス基板上に、アドレス電極保護誘電体形成ペーストをスクリーン印刷法や一括コート法等を用いて塗布し、所定の膜厚の塗布層を形成した後、乾燥させ、アドレス電極保護誘電体材料層を形成する。その後、アドレス電極保護誘電体材料層の形成と同様の方法で、アドレス電極保護誘電体材料層の上に、隔壁形成ペーストを塗布し、所定の膜厚の塗布層を形成した後、乾燥させ、アドレス電極保護誘電体材料層に隔壁材料層を形成する。次いで、隔壁材料層の上に、ドライフィルムレジスト膜を形成し、露光、現像を行い、レジストパターンを形成する。続いて、サンドブラスト法を用いてレジストパターンの未感光部の隔壁材料層を除去し、隔壁材料層上に残存する感光部のドライフィルムレジレスト膜を剥離し、500〜600℃の温度で5〜20分間保持し焼成する。このようにして電極が形成されたガラス基板上に、アドレス電極保護誘電体層、隔壁を順に形成することにより、プラズマディスプレイパネル用背面ガラス基板を得ることができる。
本発明の材料をグリーンシートの形態で使用する場合、上述した粉末材料と共に、熱可塑性樹脂、可塑剤等を使用する。尚、グリーンシート中に占める粉末材料の割合は、隔壁材料、アドレス電極保護誘電体材料共に、60〜80質量%程度が一般的である。
熱可塑性樹脂及び可塑剤としては、上記ペーストの調製の際に用いられるのと同様の熱可塑性樹脂及び可塑剤を用いることができ、熱可塑性樹脂の混合割合としては、隔壁材料の場合、5〜30質量%程度、アドレス電極保護誘電体材料の場合、5〜35質量%程度が一般的である。可塑剤の混合割合としては、隔壁材料、アドレス電極保護誘電体材料共に、0〜10質量%程度が一般的である。
グリーンシートを作製する一般的な方法としては、上記の粉末材料、熱可塑性樹脂、可塑剤等を用意し、これらにトルエン等の主溶媒や、イソプロピルアルコール等の補助溶媒を添加してスラリーとし、このスラリーをドクターブレード法によって、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のフィルムの上にシート成形する。シート成形後、乾燥させることによって溶媒や溶剤を除去し、グリーンシートとすることができる。
以上のようにして得られたグリーンシートを用いてプラズマディスプレイパネル用背面ガラス基板を作製するには、まず、アドレス電極が形成された背面ガラス基板上に、アドレス電極保護誘電体形成用グリーンシートを配置し、熱圧着して、所定の膜厚のアドレス電極保護誘電体材料層を形成する。その後、アドレス電極保護誘電体材料層の形成と同様にして、アドレス電極保護誘電体材料層の上に、隔壁形成用グリーンシートを配置し、熱圧着して、アドレス電極保護誘電体材料層に隔壁材料層を形成する。次いで、上述のペーストの場合と同様にして所定の隔壁の形状に加工し、上記と同様に焼成することで、プラズマディスプレイパネル用背面ガラス基板を得ることができる。
尚、プラズマディスプレイパネル用背面ガラス基板を作製するにあたって、ガラス基板上にアドレス電極保護誘電体材料層を形成し、これを焼成した後、隔壁材料層を形成してサンドブラスト法により所定形状に加工した隔壁を焼成しても良いが、上記プラズマディスプレイパネル用背面ガラス基板の作製方法のように、ガラス基板上に形成したアドレス電極保護誘電体材料層を焼成せずに、隔壁材料層を形成してサンドブラスト法により所定形状に加工し、アドレス電極保護誘電体材料及び隔壁材料を同時焼成する方法を採用することが好ましい。その理由は、アドレス電極保護誘電体材料及び隔壁材料を同時焼成することにより、焼成回数を減らすことができ、コストを低減することが可能になるためである。
また、本発明のプラズマディスプレイパネル用背面ガラス基板を作製するにあたっては、アドレス電極保護誘電体材料層の形成はペーストを、隔壁材料層の形成はグリーンシートを用いて形成してもよいし、また、その逆でも良い。
以下、本発明のプラズマディスプレイパネル用誘電体材料を実施例に基づいて詳細に説明する。
表1は、プラズマディスプレイパネル用材料に用いるガラス粉末の組成及び特性を示している。
表2は、プラズマディスプレイパネル用材料に用いるセラミック粉末の種類とその特性を示している。
表3及び表4は、本発明のプラズマディスプレイパネル用材料の実施例(試料No.1〜8)及び比較例(試料No.9〜11)をそれぞれ示している。
表1に示す各ガラス粉末は、次のようにして調製した。
まず、質量%で表に示すガラス組成となるように原料を調合し、均一に混合した。次いで、白金ルツボに入れて1250℃で2時間溶融した後、溶融ガラスを薄板状に成形した。続いて、これをアルミナボールミルにて粉砕し、分級して平均粒径D50が1.5〜2.5μm、最大粒径Dmaxが15〜25μmのガラス粉末を得た。このようにして得られたガラス粉末について軟化点、熱膨張係数を評価した。
次に得られたガラス粉末試料と表2に示すセラミック粉末を、表3及び表4に示す割合で混合し、プラズマディスプレイパネル用材料とした。得られた各試料について、熱膨張係数、基板ストレス、誘電体焼結性、ドライフィルムレジスト膜の密着性、隔壁材料の密着性及び隔壁焼結性を評価した。
表1、3及び4から明らかなように、実施例である試料No.1〜8は、ガラスの軟化点が570〜590℃であり、ガラス粉末試料とセラミック粉末を混合した混合材料は600℃以下の温度で十分に焼成できるものであった。また、混合材料の熱膨張係数は70.2〜78.4×10−7/℃であり、ガラス基板の熱膨張係数と整合するものであった。さらに、ガラス基板上に材料層を形成し焼成しても、基板ストレスは+50〜+120psiの範囲であり、しかも、ΔL値が4.9以下と小さく誘電体焼結性にも優れており、誘電体材料として実用上問題なく使用できるものであった。また、ガラス基板上に誘電体材料、隔壁材料、ドライフィルムレジストを形成し、アルカリ溶液に浸漬しても、ドライフィルムレジスト膜、隔壁材料層等に剥離は認められず、良好なドライフィルムレジスト膜の密着性、隔壁材料の密着性を示し、隔壁焼結性の評価においても、焼成した隔壁に発泡は認められず、隔壁材料としても実用上問題なく使用できるものであった。
これに対し、比較例である試料No.9は、ガラス基板上に材料層を形成し焼成すると、ΔL値が10.8と大きく、また、隔壁層には発泡が認められ、誘電体焼結性及び隔壁焼結性に劣っていた。また、ドライフィルムレジスト膜の密着性、隔壁材料の密着性の評価においては、ドライフィルムレジスト膜、誘電体材料層、隔壁材料層の剥離が認められた。試料No.10は、ガラス基板上に材料層を形成し焼成すると、基板ストレスは−120psiと大きな圧縮応力が残留し、ガラス基板に反りが生じるやすいものであった。また、ΔL値が10.8と大きく、誘電体焼結性が劣っていた。さらに、隔壁材料の密着性の評価において誘電体材料層、隔壁材料層の剥離が認められた。No.11は、ガラス基板上に材料層を形成し焼成すると、ΔL値が18.7と大きく、また、隔壁層には発泡が認められ、誘電体焼結性及び隔壁焼結性に劣っていた。また、ドライフィルムレジスト膜の密着性、隔壁材料の密着性の評価においては、ドライフィルムレジスト膜、誘電体材料層、隔壁材料層の剥離が認められた。
尚、ガラスの軟化点については、マクロ型示差熱分析計を用いて測定し、第四の変曲点の値を軟化点とした。
また、熱膨張係数については、各粉末を粉末プレス成型し、焼成した後、直径4mm、長さ20mmの円柱状に研磨加工し、JIS R3102に基づいて測定し、30〜300℃の温度範囲における値を求めた。尚、プラズマディスプレイパネルに用いられているガラス基板の熱膨張係数は83×10×10−7/℃程度であり、混合材料の熱膨張係数が60〜85×10−7/℃であれば、ガラス基板の熱膨張係数と整合するものとなる。
基板ストレスについては、ガラス基板上に誘電体材料を配置し焼成して誘電体を形成した後のガラス基板に残存する応力を測定することで評価した。評価方法は次の様にして測定した。まず、各試料をアクリル樹脂の15%含有するターピネオール溶液に混合し、3本ロールミルにて混練してアドレス保護誘電体形成用ペーストを作製した。次いで、このペーストを、約10μmの焼成膜が得られるように10cm角の高歪点ガラス基板(日本電気硝子株式会社製PP−8)上にスクリーン印刷法で塗布、乾燥し、電気炉中に入れた後、表3及び表4に示す温度で10分間保持して焼成し、ガラス基板上に誘電体を形成した。このようにして得られた試料を試料幅が10mmなるように切断し、その切断面を微小面積自動複屈折計:KOBRA−CCD(王子計測機器株式会社製)用いて、ガラス基板中のレタデーションを測定した。続けて、上記で測定したレタデーション(nm)の値を、((レタデーション)/(光弾性定数))×(1/(光路長))×14.2の式に代入し、基板ストレス(psi)を求めた。尚、光弾性定数は2.6((nm/cm)/(kg/cm2))、光路長は1(cm)を用いた。また、ガラス基板に圧縮応力が残存する場合「−」で表記し、引張応力が残存する場合「+」で表記した。この値が、−50〜+150psiの範囲であれば、アドレス電極保護誘電体材料として使用しても、ガラス基板に大きな反りは生じにくく、実用上問題ないと判断した。
誘電体焼結性については、基板ストレスの評価と同様にして、アドレス保護誘電体形成用ペーストを用いて、10cm角の高歪点ガラス基板(日本電気硝子株式会社製PP−8)上に約10μmのアドレス保護誘電体(焼成膜)を作製した。さらに得られたガラス膜の上に油性インクを塗りつけた後、アルコールで拭き取り、インクを塗る前とインクを拭き取った後のガラス膜のL値(明るさ)を色差計で測定し、比較することで焼結性を評価した。尚、ΔL値(インクを塗る前のL値−インクを拭き取った後のL値)が小さい程、焼結性が高く緻密な焼成膜となっていることを意味する。ΔL値が10以下であれば、優れた焼結性を有し、アドレス電極保護誘電体材料として使用可能であると判断した。
ドライフィルムレジスト膜の密着性については、次のようにして評価した。まず、上記のアドレス保護誘電体形成用ペースト及び隔壁形成用ペーストを用意する。隔壁形成用ペーストは、各試料をエチルセルロース樹脂の3%含有するターピネオール溶液に混合し、3本ロールミルにて混練することで作製した。次に、アドレス保護誘電体形成用ペーストを10cm角の高歪点ガラス基板(日本電気硝子株式会社製PP−8)上にスクリーン印刷法で塗布し、膜厚15〜20μmのアドレス電極保護誘電体の塗布乾燥膜を形成した。次いで、その上に、隔壁形成用ペーストを用いて、スクリーン印刷法で膜厚200μmの隔壁の塗布乾燥膜を形成した。次に、ドライフィルムレジスト膜をラミネート後、露光し、80μm幅、ライン/スペース=1/2の感光ラインを形成した。続いて、0.5質量%のNa2CO3水溶液(30℃)に各試料を1分間浸漬して、現像、未感光部のドライフィルムレジスト膜の除去、乾燥を行った。このようにしてドライフィルムレジスト膜の密着性の評価用試料を作製した。その後、作製した試料表面を目視で観察し、感光ライン部における隔壁の塗布乾燥膜とドライフィルムレジスト膜の密着の状態を評価した。尚、感光ライン部のドライフィルムレジスト膜が全く剥離してないものを「○」、一部剥離しているものを「△」、全て剥離して全く密着してないものを「×」として表中に示した。
隔壁材料の密着性については、次のようにして評価した。ドライフィルムレジスト膜の密着性の評価で作製した試料を用い、まず、サンドブラスト法により、未感光部の隔壁材料層を除去した。次に、これを5%NaOH水溶液中(40℃)に各試料を7分間浸漬して、隔壁材料層上に残存する感光ライン部のドライフィルムレジレスト膜を剥離し、乾燥した。このようにして隔壁材料の密着性の評価用試料を作製した。その後、作製した試料を目視で観察し、アドレス電極保護誘電体の塗布乾燥膜と隔壁の塗布乾燥膜の密着の状態、ガラス基板とアドレス電極保護誘電体の塗布乾燥膜の密着の状態を評価した。尚、アドレス電極保護誘電体及び隔壁の塗布乾燥膜が全く剥離してないものを「○」、一部剥離しているものを「×」として表中に示した。
尚、ドライフィルムレジスト膜の密着性及び隔壁材料の密着性の評価において、ドライフィルムレジスト膜、アドレス電極保護誘電体及び隔壁の塗布乾燥膜に剥離が認められないものは、耐アルカリ性及び耐水性に優れていることを示す。
隔壁材料の焼結性については、隔壁材料の密着性の評価で作製した試料を表3及び表4に示す温度で10分間保持し、アドレス電極保護誘電体及び隔壁の塗布乾燥膜を同時に焼成し、ガラス基板上にアドレス電極保護誘電体及び隔壁を形成し、背面ガラス基板を作製した。得られた背面ガラス基板について、隔壁部分を断面方向から顕微鏡で観察し、発泡が全く認められなかったものを「○」、発泡が僅かに認められたものを「△」、発泡が著しく表面がポーラスになっているものを「×」として表中に示した。
尚、アドレス電極保護誘電体材料として使用できるか否かの判断については、上記の基板ストレス及び誘電体焼結性を評価することで行い、隔壁材料として使用できるか否かの判断については、ドライフィルムレジスト膜の密着性、隔壁材料の密着性及び隔壁焼結性を評価することで行った。また、隔壁材料と同時焼成するためのアドレス電極保護誘電体材料として使用できるか否かの判断については、隔壁材料の密着性を評価することで行った。