JP4952888B2 - マルテンサイト鋼 - Google Patents

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Description

本発明は、マルテンサイト鋼に関し、さらに詳しくは、高硬度及び高耐食性を示し、プラスチック成型用金型、冷間金型、軸受等として好適なマルテンサイト鋼に関する。
プラスチックの射出成形は、溶融させた樹脂を金型のキャビティ内に圧入し、金型内で固化させる成形方法である。プラスチック製品には、主成分の樹脂に加えて、プラスチック製品の強度を改善するための硬質物質(例えば、ガラス繊維)が添加される場合がある。また、樹脂が混練の過程で分解し、腐食性のガスが発生する場合がある。この腐食性のガスは、金型への樹脂の充填の際に圧縮されて高温、高圧となり、金型を腐食させ、製品表面の肌荒れ、バリの発生等の原因となる。さらに、プラスチック製品は、筐体などに使用され、成型肌が良好なことが求められる。
そのため、プラスチック成型用金型に用いられる材料は、
(1) 高硬度・耐摩耗性に優れていること、
(2) 耐食性が高いこと、
(3) 鏡面性が高いこと、
などが求められる。
従来、この種の用途には、マルテンサイト系ステンレス鋼の一種であるSUS440C(17%Cr鋼)、SUS420J2(13%Cr鋼)又はこれらの改良材が用いられている。しかしながら、SUS440Cは、ステンレス鋼中、最高硬度が得られるが、母相の固溶Cr量が少ないために、十分な耐食性が得られない。一方、SUS420J2は、炭素量が相対的に少ないために十分な硬さが得られない。
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、重量%でC:0.25〜1.0、Si:最大1.0、Mn:最大1.6、N:0.10〜0.35、Al:最大1.0、Co:最大2.8、Cr:14.0〜25.0、Mo:0.5〜3.0、Ni:最大3.9、V:0.04〜0.4、W:最大3.0、Nb:最大0.18、Ti:最大0.2を含み、CとNの濃度の和が重量%で0.5〜1.2であり、残部が鉄及び不可避的不純物からなり、少なくとも45HRCの硬度及び高い耐食性を持ち、熱処理されるプラスチック用金型用の合金が開示されている。同文献には、CとNの濃度の和を上述の範囲内とすると、疲れ強度が著しく高まる点が記載されている。
また、特許文献2には、重量%でC:0.16〜0.27、N:0.06〜0.13(但し、C+Nの合計量が0.3≦C+N≦0.4)、Si:0.1〜1.5、Mn:0.1〜1.2、Cr:12.5〜14.5、Ni:0.5〜1.7、Mo:0.2〜0.8、及びV:0.1〜0.5を含み、場合により切削性を高めるために、S(最大0.15%)、Ca(最大0.01%)、及びO(最大0.01%)の1つ以上の元素を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなるスチール合金が開示されている。同文献には、このような組成にすることによって、焼入れ性及び靱性が向上する点が記載されている。
さらに、特許文献3には、重量%で、C:0.35〜0.65%、Si:1.0%以下、Mn:1.0%以下、Cr:12.0〜18.0%、Mo:0.2〜1.0%、さらに、V:0.05〜0.50%及びNb:0.05〜0.50%の1種又は2種を含有し、残部が実質的にFeからなる合金組成を有する工具鋼が開示されている。同文献には、このような組成にすることによって、SUS440Cの焼入れ焼戻し処理硬さ以上の硬さと、SUS420J2を超える耐食性が得られる点が記載されている。
特許第3438121号公報 特表2004−503677号公報 特開2001−294987号公報
一般に、鋼中の炭素量が多くなるほど、マルテンサイト変態終了温度(Mf)は低くなり、高炭素鋼では、Mfは室温以下にある。このような鋼を焼入れすると、全面マルテンサイトにならず、残留オーステナイトが生じ、必要な硬さが得られない。また、残留オーステナイトを室温で放置すると、次第に組織変化を起こし、寸法に狂いが生ずる。そのため、このような場合には、焼入れ後、速やかに0℃以下の温度まで冷却する処理(サブゼロ処理)が行われる。
プラスチック成型用金型に用いられる材料は、一般に、高硬度が要求されるので、相対的に炭素量が多い。そのため、高い寸法精度と必要な硬さを得るためには、焼入れ後にサブゼロ処理を行うのが好ましい。
しかしながら、マルテンサイト変態は、体積膨張を伴うので、焼入れ・サブゼロ処理を行うと、材料中に割れ(焼割れ、置き割れ)が発生する場合がある。プラスチック成型用金型に割れが発生すると、割れが製品表面に転写されたり、あるいは、金型の強度が低下し、カケなどの問題が生ずる。また、鋼中に粗大な炭化物、窒化物等が含まれると、鏡面性を低下させる原因となる。
さらに、高硬度・高耐食性を示し、焼入れ・サブゼロ処理の際に割れが発生しにくく、かつ、鏡面性に優れた材料が提案された例は、従来にはない。
本発明が解決しようとする課題は、高硬度・高耐食性を示すマルテンサイト鋼を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、焼入れ・サブゼロ処理後に割れが発生しにくいマルテンサイト鋼を提供することにある。
さらに、本発明が解決しようとする他の課題は、鏡面性に優れたマルテンサイト鋼を提供することにある。
上記課題を解決するために本発明に係るマルテンサイト鋼は、
0.15mass%≦C<0.70mass%、
0.05mass%≦Si≦1.00mass%、
0.05mass%≦Mn≦1.00mass%、
P≦0.030mass%、
S≦0.030mass%、
0.001mass%≦Cu≦0.50mass%、
0.05mass%≦Ni≦0.50mass%、
11.0mass%≦Cr≦18.0mass%、
0.05mass%≦Mo≦2.0mass%、
0.01mass%≦W≦0.50mass%、
0.01mass%≦V≦0.50mass%、
0.05mass%≦N≦0.40mass%、
O≦0.02mass%、
Al≦0.080mass%、及び、
0.0005mass%≦B≦0.0050mass%
を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、
0.4mass%<C+N<0.7mass%、かつ
C/N≧0.75
であることを要旨とする。
侵入型原子としてCに加えてNを添加し、かつ、C+N量及びC/N比を最適化すると、焼入れ温度でのCの固溶限を大きくする(すなわち、オーステナイト領域を広くする)ことができる。そのため、マルテンサイト変態後に高硬度が得られる。また、耐食性を向上させる各種の元素を添加することに加えて、マトリックス中に適量のNを固溶させると、耐食性がさらに向上する。さらに、鋼中にBを添加することによって粒界が強化され、焼入れ・サブゼロ処理の際の割れを低減することができる。
以下に、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
本発明に係るマルテンサイト鋼は、以下のような元素を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる。添加元素の種類、その成分範囲、及び、その限定理由は、以下の通りである。
(1) 0.15mass%≦C<0.70mass%。
Cは、強度及び耐摩耗性を確保するのに必要な元素であり、Cr、Mo、W、V、Nb等の炭化物形成元素と結合して炭化物を形成する元素である。また、焼入れ時にマトリックスに固溶し、マトリックスをマルテンサイト組織化することによって硬度を確保する元素である。このような効果を得るためには、C量は、0.15mass%以上が好ましい。
一方、C量が過剰になると、Cが炭化物形成元素と結合して炭化物を形成し、母相中のCr、Mo等の固溶量が低下する。母相中のCr、Mo等の固溶量の低下は、耐食性を低下させる原因となる。従って、C量は、0.70mass%未満が好ましい。
(2) 0.05mass%≦Si≦1.00mass%。
Siは、主に脱酸剤又は窒素添加のために添加される。そのためには、Si量は、0.05mass%以上が好ましい。
一方、Si量が過剰になると、熱間での加工性を低下させたり、靱性を低下させる。従って、Si量は、1.00mass%以下が好ましい。
(3) 0.05mass%≦Mn≦1.00mass%。
Mnは、焼入れ性向上元素として添加される。また、不可避的に含まれるSを固定し、靱性の低下を防止する効果もある。このような効果を得るためには、Mn量は、0.05mass%以上が好ましい。
一方、Mn量が過剰になると、熱間加工性を低下させる。従って、Mn量は、1.00mass%以下が好ましい。
(4) P≦0.030mass%。
(5) S≦0.030mass%。
P、Sは、鋼中に不可避的に含まれる。Pは結晶粒界への偏析、Sは硫化物を形成し、靱性を低下させる原因となる。従って、P量は、0.030mass%以下が好ましい。また、S量は、0.030mass%以下が好ましい。
(6) 0.001mass%≦Cu≦0.50mass%。
Cuは、耐食性を向上させる元素である。特に、塩酸による浸食を抑制する効果が大きい。このような効果を得るためには、Cu量は、0.001mass%以上が好ましい。
一方、Cu量が過剰になると、残留オーステナイト量が増加し、寸法の経年変化を引き起こす。また、熱間での加工性を低下させる。従って、Cu量は、0.50mass%以下が好ましい。
(7) 0.05mass%≦Ni≦0.50mass%。
Niは、窒素の溶解量を増加させる元素である。このような効果を得るためには、Ni量は、0.05mass%以上が好ましい。
一方、Ni量が過剰になると、残留オーステナイト量が増加し、寸法の経年変化を引き起こす。従って、Ni量は、0.50mass%以下が好ましい。
(8) 11.0mass%≦Cr≦18.0mass%。
Crは、耐食性を向上させる元素である。また、Crは、窒素の溶解量を増加させる。このような効果を得るためには、Cr量は、11.0mass%以上が好ましい。
一方、Cr量が過剰になると、サブゼロ処理を行っても残留オーステナイト量が増加し、硬さが低下する。従って、Cr量は、18.0mass%以下が好ましい。
(9) 0.05mass%≦Mo≦2.0mass%。
Moは、耐食性を向上させる元素である。このような効果を得るためには、Mo量は、0.05mass%以上が好ましい。
一方、Mo量が過剰になると、粗大な炭窒化物を形成し、鏡面性の低下を招く。従って、Mo量は、2.0mass%以下が好ましい。
(10) 0.01mass%≦W≦0.50mass%。
Wは、焼入れ性を向上させる元素である。このような効果を得るためには、W量は、0.01mass%以上が好ましい。
一方、W量が過剰になると、粗大な炭窒化物を形成し、鏡面性の低下を招く。従って、W量は、0.50mass%以下が好ましい。
(11) 0.01mass%≦V≦0.50mass%。
Vは、窒素の溶解量を増加させる元素である。このような効果を得るためには、V量は、0.01mass%以上が好ましい。
一方、V量が過剰になると、粗大な炭窒化物を形成し、鏡面性の低下を招く。従って、V量は、0.50mass%以下が好ましい。
(12) 0.05mass%≦N≦0.40mass%。
Nは、侵入型元素であり、マルテンサイト組織の硬さの上昇に寄与する。また、マトリックス中にNを固溶させると、耐食性が向上する。このような効果を得るためには、N量は、0.05mass%以上が好ましい。なお、シーベルトの法則(Sievert's law)に従って加圧溶解することで、大気溶解以上のNの添加が可能となる。
一方、N量が過剰になると、凝固中の窒素の濃化により、加圧による窒素ガス噴出抑制の限界を超えてしまい、窒素ガスが生じる。従って、N量は、0.40mass%以下が好ましい。
(13) O≦0.02mass%。
Oは、溶鋼中に不可避的に含まれる元素である。O量が過剰になると、Al、Siと粗大な酸化物を形成して介在物となり、靱性、鏡面性を低下させる。従って、O量は、0.02mass%以下が好ましい。
(14) Al≦0.080mass%。
Alは、脱酸剤として添加される元素である。Al量が過剰になると、粗大な窒化物を形成し、鏡面性を低下させる。従って、Al量は、0.080mass%以下が好ましい。
(15) 0.0005mass%≦B≦0.0050mass%。
Bは、粒界を強化させ、焼入れ・サブゼロ処理の際の割れを低減させる元素である。このような効果を得るためには、B量は、0.0005mass%以上が好ましい。
一方、B量が過剰になると、窒化物を形成し、耐食性を低下させる。従って、B量は、0.0050mass%以下が好ましい。
本発明に係るマルテンサイト鋼は、添加元素が上述した範囲にあることに加えて、C量及びN量の間に、以下の関係を有していることを特徴とする。
(A) 0.4mass%<C+N<0.7mass%。
(B) C/N≧0.75。
Nは、耐食性と硬さの双方を向上させる元素である。しかしながら、N単独では、十分な硬さが得られない。これに対し、Cを含む鋼中にさらにNを添加すると、焼入れ温度でのCの固溶限が大きくなり、マルテンサイト変態後に高硬度が得られる。このような効果を得るためには、C+N量は、0.4mass%より大きいことが好ましい。
一方、C+N量が過剰になると、粗大な炭窒化物を形成し、鏡面性を低下させる。従って、C+N量は、0.7mass%未満が好ましい。
また、Nに対してCが相対的に少ないと、焼入れ時の硬さが確保できない。従って、C/Nは、0.75以上が好ましい。
本発明に係るマルテンサイト鋼は、上述した各種の元素に加えて、以下の第1添加元素を含んでいても良い。
(16) 0.001mass%≦Co≦0.50mass%。
Coは、焼入れ性を向上させるために添加することができる。このような効果を得るためには、Co量は、0.001mass%以上が好ましい。
一方、Coを過剰に添加しても、効果が飽和し、実益がない。従って、Co量は、0.50mass%以下が好ましい。
本発明に係るマルテンサイト鋼は、上述した第1添加元素に加えて、又は、これに代えて、以下のいずれか1以上の第2添加元素をさらに含んでいても良い。
(17) 0.001mass%≦Se≦0.3mass%。
(18) 0.001mass%≦Te≦0.3mass%。
(19) 0.0002mass%≦Ca≦0.10mass%。
(20) 0.001mass%≦Pb≦0.20mass%。
Se、Te、Ca、Pb及びBiは、いずれも被削性を向上させるために添加することができる。このような効果を得るためには、各元素の添加量は、上述した下限値以上が好ましい。
一方、これらの元素を過剰に添加すると、靱性の低下を招く。従って、各元素の添加量は、上述した上限値以下が好ましい。
本発明に係るマルテンサイト鋼は、上述した第1添加元素及び/若しくは第2添加元素に加えて、又は、これらに代えて、以下のいずれか1以上の第3添加元素をさらに含んでいても良い。
(21) 0.001mass%≦Nb≦0.30mass%。
(22) 0.001mass%≦Ta≦0.30mass%。
(23) Ti≦0.20mass%。
(24) 0.001mass%≦Zr≦0.30mass%。
Ti、Nb、Ta及びZrは、いずれもC、Nと結合して炭窒化物を形成し、結晶粒の粗大化抑制に効果がある。このような効果を得るためには、これらの元素の添加量は、上述した下限値以上が好ましい。
一方、これらの元素を過剰に添加すると、被削性を劣化させる。従って、これらの元素の添加量は、上述した上限値以下が好ましい。
本発明に係るマルテンサイト鋼は、通常、溶解・鋳造後、焼入れ処理、サブゼロ処理、及び焼戻し処理(又は、時効処理)を施して使用される。
焼入れ処理は、一般に、鋼材を焼入れ温度又は溶体化温度(1020〜1150℃)に加熱した後、油焼入れ、ガス冷却等の方法を用いて、所定の冷却速度で急冷することにより行う。
また、サブゼロ処理は、焼入れした後、速やかに0℃以下の寒剤(例えば、ドライアイス、ドライアイス+アルコール(−80℃)、炭酸ガス(−130℃)、液体窒素(−196℃)など)を用いて再急冷することにより行う。
さらに、焼戻し処理(又は、時効処理)は、必要に応じてサブゼロ処理が行われた鋼材を200℃〜450℃に加熱することにより行う。
このような処理を施すことにより、焼入れ・サブゼロ処理−焼戻し後の硬さ(HRC)が55以上、58以上、あるいは、59以上であり(すなわち、SUS440Cと同等以上の硬さを有し)、かつ、SUS420J2を超える耐食性を有するマルテンサイト鋼が得られる。また、焼入れ・サブゼロ処理の際の割れが無く、鏡面性の高いマルテンサイト鋼が得られる。
次に、本発明に係るマルテンサイト鋼の作用について説明する。
侵入型原子としてCに加えてNを添加し、かつ、C+N量及びC/N比を最適化すると、焼入れ温度でのCの固溶限を大きくする(すなわち、オーステナイト領域を広くする)ことができる。そのため、マルテンサイト変態後に高硬度が得られる。また、耐食性を向上させる各種の元素を添加することに加えて、マトリックス中に適量のNを固溶させると、耐食性がさらに向上する。さらに、鋼中にBを添加することによって粒界が強化され、焼入れ・サブゼロ処理の際の割れを低減することができる。
(実施例1〜16、及び、比較例1〜5、A〜I)
[1. 試料の作製]
表1に示す化学組成の鋼を加圧溶解炉で溶製後、50kgに鋳造し、熱間鍛造により60mm角の棒材を製造した。その後、焼鈍しを行った。得られた棒材から各種試験に供するための試験片を切り出し、表2に示す条件下で、焼入れ、サブゼロ処理(一部の試料を除く)、及び焼戻しを行った。
なお、焼入れは、各温度で保持後、油冷若しくはガス噴霧冷却することにより行った。
また、サブゼロ処理は、液体窒素又はドライアイス+アルコールに浸漬することにより行った。
さらに、焼戻しは、各温度で1時間保持後、空冷を2回繰り返すことにより行った。
Figure 0004952888
Figure 0004952888
[2. 試験方法(1)]
[2.1. 硬さ]
棒材から1辺10mmの立方体のブロックを切り出し、表2に示す条件下で熱処理を行った。次いで、測定面と接地面を#400まで研磨し、ロックウェルCスケールにより硬さを測定した。
[2.2. 耐摩耗性]
棒材からφ8mmのピンを2本切り出し、表2に示す条件下で熱処理を行った。熱処理後のピンを用いて、ピンオンディスク摩擦摩耗試験機により耐摩耗性を評価した。ディスクには、S45Cを用いた。試験条件は、すべり速度:1.6m/s、すべり距離:5000m、押し付け加重:10.5kgf、潤滑油なし、とした。
試験前後にピンの重量を測定し、摩耗重量を測定した。さらに、比較鋼3(SUS440C相当)の摩耗量を100として、各試料の摩耗量を相対値で表した。
[2.3. 鏡面性]
棒材から50×45×12の板材を切り出し、表2に示す条件下で熱処理を行った。次いで、試験片の鏡面を機械研磨により#14000まで研磨した。JIS B 0633に従い、試験片の表面粗さを測定し、鏡面性の評価とした。
[2.4. 塩水噴霧]
棒材からφ15×60の丸棒を切り出し、表2に示す条件下で熱処理を行った。次いで、仕上げ加工により表面を#400相当にして、JIS Z 2371に従い、塩水噴霧試験を行った。発錆は、A(発錆なし)、B(僅かに発生)、C(かなり発生)、D(全面腐食)で評価した。
[2.5. 孔食電位]
棒材から12×12×3mmの板を切り出し、表2に示す条件下で熱処理を行った。次いで、得られた試験片を用いて、JIS G 0577「ステンレス鋼の孔食電位測定」に従って、孔食電位Vc100を測定した。
[2.6. 焼割れ性]
棒材から1辺15mmの立方体のブロックを各10個づつ切り出し、表2に示す条件下で熱処理を行った。その後、鏡面まで研磨を行い、カラーチェックにより割れの有無を確認した。
[3. 結果(1)]
表3に、試験結果を示す。比較例1は、C+Nが0.4%未満であるために、硬さが低い。比較例2は、C+Nが0.7を超え、かつ、B無添加であるために、硬さ、耐食性は十分であったが、焼割れが生じた。比較例3(SUS440C相当)は、Nを含まず、かつ、C量が過剰であるために、耐食性が低い。比較例4(SUS420J2相当)は、C+Nが0.4未満であり、かつ、Nを含まないので、硬さ、耐食性が低い。さらに、比較例5(SUS630(析出硬化型ステンレス鋼)相当)は、Cuの析出による析出硬化型であるので、硬さが低い。
これに対し、実施例1〜16は、いずれも、C量及びN量が最適化され、かつ、適量のBを含んでいるので、SUS440Cと同等以上の硬さと、SUS420J2を超える耐食性を示した。また、耐摩耗性、鏡面性も、従来鋼と同等以上であり、焼割れも認められなかった。
Figure 0004952888
[4. 試験方法(2)]
実施例2、4、10において、B添加の効果を明らかにするために、それぞれ、他の成分がほぼ同一であり、かつ、B<0.0001mass%、0.0001mass%≦B<0.0005mass%、0.0005mass%≦B≦0.0050、0.0050mass%<Bの4種類の材料を作製し、焼割れ性及び孔食電位の測定を行った。
なお、焼割れ性及び孔食電位の測定方法は、上述した[2.]と同一とした。また、比較例A〜C、比較例D〜F、及び比較例G〜Iの熱処理条件は、それぞれ、実施例2、4、10と同一とした。
[5. 結果(2)]
表4に、実施例2、4、10及び比較例A〜Iの成分組成を示す。また、表5に、試験結果を示す。なお、表5中、「測定不能」は、孔食が発生せず、全面腐食したことを意味する。表5より、B量が多くなるほど、耐焼割れ性は向上するが、B量が過剰になると、耐食性が低下することがわかる。
Figure 0004952888
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以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
本発明に係るマルテンサイト鋼は、
(1) プラスチック成形用金型(日曜雑貨品、家電製品外装・内装、OA機器外装・内装・部品、携帯電話外装、自動車やオートバイ等の内装部品や外装部品、及びその構造部材など)、ライト類の反射板成型用金型、光学レンズ用金型、食品容器用金型、医療機器用金型、化学容器用金型、精密成型品金型(受板、ペットボトル成形母型、ゴム型類)、樹脂類用金型、導光板用金型、フィルム成型用の金型、
(2) 治工具類、プラスチック成型機内の治工具、ダイス、化学繊維成型ノズル、
(3) 冷間において、鍛造、順送型プレスによって加工する冷間金型や構造部材(冷間金型としては、曲げ型、打ち抜き型、切り刃、転造型、パンチ部材、絞り型、鍛造型、歯車パンチ部材・ダイス、スエージングダイス等が相当する。構造部材としては、塑性加工工具、スクリュー部材、カム部品、シャフト、軸受、歯車、ピン、ボルト、ねじ、ロール、タービンブレード、シールプレート、ゲージ等が該当する)、
などに使用することができる。

Claims (4)

  1. 0.15mass%≦C<0.70mass%、
    0.05mass%≦Si≦1.00mass%、
    0.05mass%≦Mn≦1.00mass%、
    P≦0.030mass%、
    S≦0.030mass%、
    0.001mass%≦Cu≦0.50mass%、
    0.05mass%≦Ni≦0.50mass%、
    11.0mass%≦Cr≦18.0mass%、
    0.05mass%≦Mo≦2.0mass%、
    0.01mass%≦W≦0.50mass%、
    0.01mass%≦V≦0.50mass%、
    0.05mass%≦N≦0.40mass%、
    O≦0.02mass%、
    Al≦0.080mass%、及び、
    0.0005mass%≦B≦0.0050mass%
    を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、
    0.4mass%<C+N<0.7mass%、かつ
    C/N≧0.75
    であるマルテンサイト鋼。
  2. 0.001mass%≦Co≦0.50mass%
    をさらに含む請求項1に記載のマルテンサイト鋼。
  3. 0.001mass%≦Se≦0.3mass%、
    0.001mass%≦Te≦0.3mass%、
    0.0002mass%≦Ca≦0.10mass%、及び、
    0.001mass%≦Pb≦0.20mass%
    からなる群から選ばれるいずれか1以上をさらに含む請求項1又は2に記載のマルテンサイト鋼。
  4. 0.001mass%≦Nb≦0.30mass%、
    0.001mass%≦Ta≦0.30mass%、
    Ti≦0.20mass%、及び、
    0.001mass%≦Zr≦0.30mass%
    からなる群から選ばれるいずれか1以上をさらに含む請求項1から3までのいずれかに記載のマルテンサイト鋼。
JP2006106101A 2006-04-07 2006-04-07 マルテンサイト鋼 Active JP4952888B2 (ja)

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