JP6866692B2 - 金型用鋼及び金型 - Google Patents

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Description

この発明は金型用鋼及び金型に関し、特に硬度と耐食性に優れた金型用鋼及び金型に関する。
近年、プラスチック製品にあっては、高強度化のために硬質なガラス繊維を混入させたものが増えて来ている。このようなプラスチック製品の射出成形においては、金型の摩耗が顕在化する。金型が摩耗すると、それが製品に転写されて製品の表面品質を悪化させる。表面品質の悪い製品は商品にならず、廃棄処分となる。従って、金型は摩耗しないことが重要であり、耐摩耗性を確保するため、金型には高硬度が求められる。
従来、硬質なガラス繊維を混入させたプラスチックの射出成形に使用される金型の硬度は45〜55HRCがメインである(加工性の観点から、上記よりも硬さの低い状態に調質して使う場合もある)。
プラスチック製品を成形する金型にあっては、一般にその内部に温度調整用の流路を設け、その流路に冷水・温水・蒸気などを流して金型の温度調節を行う。しかし耐食性の低い金型では流路が錆びで狭くなり、所定の流量(冷水・温水・蒸気など)を確保できなくなって温度調節に支障をきたすことになる。更に錆びが進行した場合には流路が錆びで詰まってしまい、流路が用をなさなくなってしまう。また、耐食性の低い金型では錆びの部分を起点として亀裂が発生し、その進展によって金型が割れたり、意匠面に貫通した亀裂から冷水・温水・蒸気などが漏れて樹脂製品に悪影響を及ぼすことがある。また、成形する樹脂から発生するガスによって金型表面が腐食することがある。腐食部が製品に転写されると表面品質が劣化する。このような理由から金型には高耐食性が求められる。
また金型としての使用中には、熱応力や機械応力が繰り返し付与される。このような過酷な使用環境下での割れを回避するため、金型には結晶粒の微細さが求められる。
プラスチック射出成形用の、硬度と耐食性が要求される金型(金型の一部を構成する部品も含む)は一般に、溶解→精錬→鋳造→均質化熱処理→熱間加工→中間熱処理→焼鈍→機械加工1(粗加工)→焼入れ→焼戻し→機械加工2(仕上げ加工)→鏡面研磨あるいはシボ加工の工程を経て製造される。
また必要に応じて表面改質(PVD、CVD、窒化、ショットブラスト、ショットピーニングなど)を適用する場合もある。
この製造工程において金型用鋼には、(1)熱間加工後に粒界炭化物が析出しないこと、(2)焼鈍性が良いこと、(3)焼入れ時にパーライトが析出しないこと、が求められる。
熱間加工ではγ単相状態にあり、炭素や炭化物形成元素は全て母相中に固溶している。熱間加工後の冷却中、温度の低下によって元素の固溶度が下がり、γ粒界に炭化物が析出することがある。熱間加工後に析出した粒界炭化物は後続する熱処理(焼鈍,焼入れ,焼戻し)で解消することが出来ない。粒界炭化物はマトリックスに分散する異物となり、鏡面研磨によって均一で滑らかな表面を得る際の障害となる。また粒界炭化物は、金型として使用中の繰り返し応力による破壊の起点にもなる。従って「(1)粒界炭化物の析出し難さ」が求められる。
焼鈍性が悪い場合、軟質化のために複雑で長時間に亘る焼鈍条件が必要となり、素材コストの上昇を招く。従って上記機械加工1が可能な状態にまで簡単な熱処理で軟質化する「(2)焼鈍性の良さ」が求められる。
焼入れで析出したパーライトも、その後の焼戻しで解消することができない。パーライトはマトリックスに分散する異物となり、鏡面研磨によって均一で滑らかな表面を得る際の障害となる。またパーライトは、金型として使用中の繰り返し応力による破壊の起点にもなる。従って「(3)パーライトの析出し難さ」が求められる。
従来、耐食性と52HRC程度の高硬度が要求される金型や部品には、JIS SUS420J2が多用される。その成分は、0.4C−0.9Si−0.4Mn−0.2Ni−13Cr−0.015Nである。このSUS420J2は上記(2)焼鈍性が良いことの条件を満たし、850〜950℃から15〜60℃/Hrで650℃まで冷却し以降は放冷、という簡単な焼鈍処理をするだけで87〜96HRBに軟質化する。
しかしながら、SUS420J2は上記(1)(3)の条件を満たさない。
特に、焼入れ温度1030℃から50℃/minという高速で焼入れ冷却してもパーライトの析出を回避することが出来ない。
一般に金型内部の焼入れ冷却速度は10〜40℃/minであることから(パーライトが析出する550〜850℃の温度域)、SUS420J2の金型内部ではパーライトの析出が不可避となり、金型として使用中の破壊の危険性が高まる。
上記の問題に対し、SUS420J2の成分を大幅に変更した高Nステンレス鋼が用いられることがある。この鋼では、Cを低減することで上記(1)の問題を回避している。低C化で強度が下がる分は高N化で補っている。またこの鋼では低C化と併せMnやNiを増量することで上記(3)の問題を回避している。しかし、このような成分調整の結果として焼入れ性が過度に高くなるため今度は上記(2)を達成出来ない。この結果、焼鈍や機械加工1(粗加工)のコスト増や納期延長を余儀なくされる。更に焼鈍性が悪いことから焼入れ時にγメモリー効果が発現し、熱間加工時の粗大粒が焼入れ時にも引き継がれ、金型として使用中の割れを生じ易くなっている。
以上のように、プラスチックを射出成形する金型には、高硬度と高耐食性のほかに(1)熱間加工後に粒界炭化物が析出しないこと、(2)焼鈍性が良いこと、(3)焼入れ時にパーライトが析出しないこと、が求められるが、従来これらの特性を満たす金型用鋼及び金型は提供されていない。
尚、本発明の範囲である10.5〜12.5Crを含む鋼が、下記の特許文献1から特許文献7に開示されている。しかしながら以下に示すように、これらの鋼はいずれもプラスチックの射出成形金型用鋼ではなく、本発明とは用途が異なっている。また、必須元素や着目する特性も異なっている。
特許文献1には40〜47HRCの快削工具鋼が開示されている。しかしながら特許文献1に記載のものは、高硬度,高耐食性のプラスチックの射出成形金型としての言及がなく、また快削化のためSを必須添加としている点、硬さレベルが本発明より低い点で本発明とは異なっている。仮にこの鋼をプラスチックの射出成形金型に適用すれば、快削成分の影響で所定の鏡面性を確保できないこと、耐磨耗性に劣ること、が容易に推定される。
また、Crを7.05〜15.0%の範囲で含有した実施例は開示されておらず、同範囲内でCrを含有することの効果が証明されていない。焼鈍性や粒界炭化物及びパーライトの析出についての着眼もない。
特許文献2には45〜63HRCの快削工具鋼が開示されている。しかしながら特許文献2に記載のものも、高硬度,高耐食性のプラスチックの射出成形金型としての言及がなく、快削化のためSを必須添加としている点で本発明とは異なっている。仮にこの鋼をプラスチックの射出成形金型に適用すれば、快削成分の影響で所定の鏡面性を確保できないことが容易に推定される。焼鈍性や粒界炭化物及びパーライトの析出についての着眼もない。
特許文献3には熱間加工用合金鋼が開示されている。しかしながら特許文献3に記載のものも、高硬度,高耐食性のプラスチックの射出成形金型としての言及がなく、基本成分がCとSiとREMとNの場合もあり、これでは焼きが入らないうえ耐食性も得られないことが容易に推定される。また、選択元素としてのCrについては、2.5〜13.0Crの範囲内の実施例の開示がなく、同範囲内でCrを含有することの効果が実施例で証明されていない。焼鈍性や粒界炭化物及びパーライトの析出についての着眼もない。
特許文献4には炭化物の面積率が5.5〜30%で溶損性に優れたダイカスト金型用鋼が開示されている。しかしながら特許文献4に記載のものは、Niが必須ではなく、添加されても0.2%(実施例)と低く、高Niの効果が証明されていない点、Mo+0.5Wは必須だが最低でも1.95%(実施例)と多く、低Moの効果が証明されていない点で本発明と異なっている。また、多量の炭化物を形成させるためCが非常に多い。プラスチックの射出成形金型に適用すれば、炭化物の影響で鏡面性や耐食性の低下、炭化物を起点にした破壊が起こると容易に推定される。焼鈍性や粒界炭化物及びパーライトの析出についての着眼もない。
特許文献5にはバネ用の直径4.5〜20mmの鋼線が開示されている。しかしながら特許文献5に記載のものは、プラスチックの射出成形金型としての言及がなく、またVが必須でない点で本発明とは異なっている。
Vは選択添加された場合でも0.5%(実施例)と多く、低Vの効果が証明されていない。当然ながら直径4.5〜20mmの鋼線では金型に適用することはできない。焼鈍性や粒界炭化物及びパーライトの析出についての着眼もない。
特許文献6及び特許文献7では油井用ステンレス鋼管が開示されている。これら特許文献に記載のものは、プラスチックの射出成形金型としての言及がない点、Ni,Mo,Vが必須でない点で本発明とは異なっている。また、Siは0.31%(実施例)以下と低く、高Siの効果が証明されていない。選択添加のNiは最低でも1.63%(実施例)と高く、低Niの効果が証明されていない。選択添加のMoは最低でも0.75%(実施例)と高く、低Moの効果が証明されていない。当然ながら鋼管では金型に適用することはできない。焼鈍性や粒界炭化物及びパーライトの析出についての着眼もない。
一方、プラスチックの射出成形金型用の高Cr鋼については下記の特許文献8及び特許文献9に開示されている。しかしながらこれら特許文献に記載のものは、Cr添加量が12.5%以上と高く、本発明とは異なっている。
また、Crの添加量が本発明と重複するプラスチックの射出成形金型用鋼については、特許文献10に開示されている。しかしながら本発明は、この特許文献10の実施例として開示の無いSi・Mn・Niの成分範囲を対象としており、この特許文献に開示の技術には無い効果を見出している。
特開昭57−73171号公報 特開昭57−73172号公報 特開昭58−113352号公報 特開2007−197784号公報 特開2007−314815号公報 特開2008−297602号公報 特開2009−167476号公報 特開平8−253846号公報 特表2004−503677号公報 特表2010−539325号公報
本発明は以上のような事情を背景とし、金型を製造する際の粒界炭化物の析出し難さ、良好な焼鈍性,パーライトの析出し難さを備え、且つ金型となった場合に高硬度で耐食性に優れ、旧オーステナイト結晶粒が微細な金型用鋼及び金型を提供することを目的としてなされたものである。
而して請求項1のものは、金型用鋼に関するもので、質量%で0.220≦C≦0.360,0.65≦Si<1.05,0.43≦Mn≦0.92,0.43≦Ni≦0.92,0.67≦0.5Mn+Ni≦1.30,10.50≦Cr<12.50,0.05≦Mo<0.50,0.002≦V<0.50,0.001≦N≦0.160,0.300≦C+N≦0.420を含有し、残部がFe及び不可避的不純物の組成を有することを特徴とする。
尚、通常、金型用鋼において、下記に示す成分が下記範囲で不可避的不純物として含まれ得る。
P≦0.05,S≦0.006,Cu≦0.30,Al≦0.10,W≦0.30,O≦0.01,Co≦0.30,Nb≦0.004,Ta≦0.004,Ti≦0.004,Zr≦0.004,B≦0.0001,Ca≦0.0005,Se≦0.03,Te≦0.005,Bi≦0.01,Pb≦0.03,Mg≦0.02,REM≦0.10などである。
請求項2のものは、請求項1において、質量%で0.30<W≦5.00,0.30<Co≦4.00の少なくとも1種を更に含有することを特徴とする。
請求項3のものは、請求項1,2の何れかにおいて、質量%で0.004<Nb≦0.100,0.004<Ta≦0.100,0.004<Ti≦0.100,0.004<Zr≦0.100の少なくとも1種を更に含有することを特徴とする。
請求項4のものは、請求項1〜3の何れかにおいて、質量%で0.10<Al≦1.20を更に含有することを特徴とする。
請求項5のものは、請求項1〜4の何れかにおいて、質量%で0.30<Cu≦3.0
を更に含有することを特徴とする。
請求項6のものは、請求項1〜5の何れかにおいて、質量%で0.0001<B≦0.0050を更に含有することを特徴とする。
請求項7のものは、請求項1〜6の何れかにおいて、質量%で0.006<S≦0.050,0.01<Bi≦0.50,0.03<Pb≦0.50の少なくとも1種を更に含有することを特徴とする。
請求項8のものは、金型に関するものであって、請求項1〜7の何れかに記載の鋼から成ることを特徴とする。
尚本発明において、「金型」には金型本体はもとより、これに組み付けられて使用されるピン等の金型部品も含まれる。更に、本発明の鋼からなる金型で、表面処理が施されたものも含まれる。
以上のような本発明は、SUS420J2に対して低C化、低Cr化、高Mn化、高Ni化及びMo添加を行い、粒界炭化物及びパーライトの析出を抑制した点を特徴としたものである。
かかる本発明によれば、硬度,耐食性,焼鈍性をSUS420J2並みに確保したうえで、粒界炭化物及びパーライトの析出を抑制することができる。
SUS420J2において、析出する炭化物はCr系炭化物であることから、炭化物の析出を抑制するためにはCrの低量化が有効であるが、反面、Crを過度に減らすと耐食性や焼鈍性が悪化してしまう。
そこで本発明では、Crを過度に減らすことなく10.50≦Cr<12.50とし、このCr量の下でMn,Ni,Moを適量添加することで、良好な焼鈍性を確保しつつ粒界炭化物及びパーライトの析出を抑制した。
本発明では、低C化による硬度低下を補うため、高N化した。更にMo添加によりMoの2次硬化で硬度を補う効果をもたせた。
またSUS420J2並みの焼鈍性は、Mn,Ni,Moを過度に高めないことで確保し、SUS420J2並みの耐食性は、低C化と、Crを過度に減らさないこと、NiとMoの増量で確保した。
本発明では、更に、焼入れ時にオーステナイト粒界を炭化物でピン止めし、微細な結晶粒を維持するためにVを増やした。CとCrを低減したことによる焼入れ時のCr系炭化物の減少をV系炭化物で補うためである。尚、焼入れ時に固溶する一部のVは2次硬化によって硬度を補う効果を発揮する。
以上の本発明は、特にプラスチックの射出成形金型用鋼や射出成形を含むゴム成形金型用鋼として適したものであるが、鋼板の冷間プレス成形金型,鋼板のホットスタンプ金型,薬剤の粉末を錠剤に固める打錠杵金型等の金型用鋼としても好適なものである。
次に本発明における各化学成分の限定理由を以下に説明する。
「請求項1の化学成分について」
0.220≦C≦0.360
C<0.220では、高い耐摩耗性の確保に必要な高硬度(45HRC以上)を安定して得にくい。0.360<Cでは、耐食性や溶接性が低下する。また0.360<Cでは粒界炭化物やパーライトが析出し易くなる。また0.360<Cでは焼入れ時の残留オーステナイトが増え、焼戻しの硬さや寸法の調整が難しくなる。
好適なCの範囲は、諸特性のバランスに優れた0.230≦C≦0.350、Nが多い場合は0.230≦C≦0.290、Nが少ない場合は0.290≦C≦0.350である。
0.65≦Si<1.05
Si<0.65では機械加工時の被削性が劣化する。またSi<0.65では焼鈍状態の金属組織における炭化物分布のムラが大きくなるという不都合もある。
一方、1.05≦Siでは熱伝導率の低下が大きい。射出成形の生産性を高めるには金型内に射出されたプラスチックの固化時間を短くする必要があり、そのためには高熱伝導率の金型材が求められる。Siには鋼からCを排出させる作用があるため、1.05≦Siでは粒界炭化物やパーライトが析出しやすくなる。またデルタフェライトも生じやすい。デルタフェライトが残存すると、鏡面研磨性に悪影響を及ぼし、金型の破壊の起点となる虞もある。デルタフェライトは高温になるほど析出しやすくなるため、高Cr高Si鋼はデルタフェライトを避けるために低温での均質化熱処理や熱間加工をせざるを得ず、低温度化によって偏析の軽減が困難となるため、鏡面研磨性やシボ加工性に悪影響を及ぼす。
好適なSiの範囲は、これらの特性のバランスに優れた0.68≦Si≦1.02であり、より好ましくは0.72≦Si≦0.98である。
図1は被削性に及ぼすSi量の影響を示す。
0.32C−0.67Mn−0.71Ni−12.2Cr−0.22Mo−0.24V−0.040Nを基本成分とし、Si量を変化させた素材を、915℃から15℃/Hrで650℃まで冷却し、以降を放冷する焼鈍で97HRB以下に軟質化している。この成分系はSUS420J2よりも低C低Crで炭化物が少ないため、同じSi含有量1%で比較すればSUS420J2よりも被削性が良い。0.65≦SiではSUS420J2系以上の被削性となる。そこで本発明では0.65≦Siと規定した。
図2は熱伝導率に及ぼすSi量の影響を示す。
0.32C−0.67Mn−0.71Ni−12.2Cr−0.22Mo−0.24V−0.040Nを基本成分とし、Si量を変化させた素材を、1030℃から焼入れ、505℃で焼戻しした後に室温で熱伝導率を測定した。この成分系はSUS420J2よりも低C低Crだが、高Mn高Niであるため、減量と増量の影響が相殺し、熱伝導率はSUS420J2に近い。1.05≦SiではSUS420J2よりも熱伝導率が悪くなる。そこで本発明ではSi<1.05と規定した。
0.43≦Mn≦0.92
Mn<0.43ではオーステナイトを安定化してパーライトの析出を抑制する効果が小さい。またMn<0.43ではデルタフェライト析出の危険性が高まる。
一方、0.92<Mnでは焼鈍性が悪化する。また0.92<Mnでは熱伝導率の低下も大きい。また0.92<Mnでは焼入れ時の残留オーステナイトが増え、焼戻しの硬さや寸法の調整が難しくなる。
好適なMnの範囲は、諸特性のバランスに優れた0.46≦Mn≦0.90であり、より好ましくは0.50≦Mn≦0.88である。
オーステナイトの安定化(パーライトの析出抑制)に対しては、高Cr鋼の場合Ni添加が非常に効果的である。ただしNiの多量添加は著しいコスト上昇を招く。そこでNiと同様にオーステナイトを安定化する元素で、且つ安価なMnを利用することで、素材コストの上昇を抑制している。
図3はパーライト析出の臨界冷却速度に及ぼすMn量の影響を示す。
0.31C−0.93Si−0.72Ni−12.3Cr−0.23Mo−0.22V−0.039Nを基本成分として、Mn量を変化させた素材に対して、1030℃からの冷却速度を変化させた時、パーライトが析出しなくなる最低の冷却速度を臨界冷却速度として評価した。臨界冷却速度が小さいほど、パーライトが析出し難く好ましい。
図3で示すように、臨界冷却速度はMnの増加につれて低下し、0.43Mnで10℃/minとなる。一般に金型内部の焼入れ速度は、パーライトが析出する550〜850℃の温度域で10〜40℃/minであることから、パーライト析出の臨界冷却速度が10℃/minであれば、実際の金型の焼入れでもパーライトを生じる危険性は非常に少なくなる。そこで本発明では0.43≦Mnと規定した。
図4は焼鈍性に及ぼすMn量の影響を示す。
0.31C−0.93Si−0.72Ni−12.3Cr−0.23Mo−0.22V−0.039Nを基本成分として、Mn量を変化させた素材に対して、915℃から15℃/Hrで650℃まで冷却し、以降を放冷した時の硬さをMn量に対して示した。97HRB以下になっていれば、軟質で機械加工し易く好ましい。硬さはMnの増加につれて上昇し0.92Mnで97HRBとなる。そこで本発明ではMn≦0.92を規定した。
0.43≦Ni≦0.92
Ni<0.43ではオーステナイトを安定化してパーライトの析出を抑制する効果が小さい。またデルタフェライト析出の危険性が高まる。
一方、0.92<Niでは焼鈍性が悪化する。また熱伝導率の低下も大きい。0.92<Niでは焼入れ時の残留オーステナイトが増え、焼戻しの硬さや寸法の調整が難しくなる。Niの効果はMnと類似している。
好適なNiの範囲は、諸特性のバランスに優れた0.45≦Ni≦0.90であり、より好ましくは0.48≦Ni≦0.88である。
0.67≦0.5Mn+Ni≦1.30
焼鈍性と焼入れ性を高い次元で両立するため、0.5Mn+Niの値を上記のように規定する。0.5Mn+Ni<0.67では焼鈍性は良いが焼入れ性が不足する。また0.5Mn+Ni<0.67ではデルタフェライト析出の危険も増す。
一方、1.30<0.5Mn+Niでは焼入れ性は良いが焼鈍性が悪い。1.30<0.5Mn+Niでは焼入れ時の残留オーステナイトが増え、焼戻しの硬さや寸法の調整が難しくなる。
図5は10℃/minの焼入れ時におけるパーライトの析出状況を示す。0.32C−0.91Si−12.2Cr−0.23Mo−0.23V−0.038Nを基本成分として、Mn量とNi量を変化させた。1030℃から10℃/minの冷却でパーライトが析出した領域を「×」、しなかった領域を「○」で示した。両者の境界は0.5Mn+Ni=0.67であり、これ以上であれば実際の金型の焼入れにおいてもパーライト析出の危険性はかなり低減できる。そこで0.67≦0.5Mn+Niと規定した。
図6は15℃/Hrの焼鈍における軟質化の状況を示す。0.32C−0.91Si−12.2Cr−0.23Mo−0.23V−0.038Nを基本成分として、Mn量とNi量を変化させた。915℃から15℃/Hrで冷却する焼鈍で97HRBを超えた領域を「×」、以下であった領域を「○」で示した。両者の境界は0.5Mn+Ni=1.30であり、これ以下であれば、簡単な焼鈍で軟質化させられる。そこで0.5Mn+Ni≦1.30と規定した。
このように、0.5Mn+Niは焼入性と焼鈍性のバランスを検討する際に非常に有用な指標である。
10.50≦Cr<12.50
Cr<10.50では耐食性が悪化する。またCr<10.50では焼鈍性も悪化する。
一方、12.50≦Crでは粒界炭化物やパーライトが析出しやすくなる。またデルタフェライトも析出しやすくなる。また12.50≦Crでは熱伝導率の低下が大きい。12.50≦Crでは焼入れ時の残留オーステナイトが増え、焼戻しの硬さや寸法の調整が難しくなる。
好適なCrの範囲は、諸特性のバランスに優れた10.70≦Cr≦12.45であり、より好ましくは10.90≦Cr≦12.40である。
0.05≦Mo<0.50
Mo<0.05では、パーライトの析出を抑制する効果に乏しい。また、Mo<0.05では2次硬化の寄与が小さく、高温で焼戻した場合に45HRC以上の硬度を安定して得ることが困難となる。
一方、0.50≦Moでは焼鈍性が悪化する。またデルタフェライトが析出しやすくなる。
好適なMoの範囲は、諸特性のバランスに優れた0.07≦Mo≦0.46であり、より好ましくは0.09≦Mo≦0.43である。
図7はデルタフェライト面積率に及ぼすMo量の影響を示す。
素材は0.23C−1.04Si−0.45Mn−0.44Ni−12.47Cr−0.46V−0.004Nを基本成分として、Mo量を変化させた。偏析を軽減するための均質化に相当する1280℃に加熱し、急冷で焼きを入れた組織のデルタフェライトの面積率を評価した。
図7で示すように、デルタフェライトはMoが少なくなると析出し難くなり、0.50%以下のMo量では面積率がゼロとなる。そこで本発明ではMo<0.50と規定した。
0.002≦V<0.50
V<0.002では、焼入れ時に微細なオーステナイト結晶粒を維持する効果に乏しく、靭性の低下によって金型が使用中に破壊する危険性が高まる。またV<0.002では2次硬化の寄与がほとんどないため、高温で焼戻した場合に45HRC以上を安定して得ることが困難となる。
一方、0.50≦Vでは微細結晶粒を維持する効果が飽和するだけでなくコスト増を招く。またVの炭窒化物が析出しやすくなり、かえって金型が割れ易くなる。0.50≦Vではデルタフェライトが析出し易い。
好適なVの範囲は、諸特性のバランスに優れた0.005≦V≦0.45であり、より好ましくは0.008≦V≦0.40である。
0.001≦N≦0.160
N<0.001では、硬度を高める効果に乏しく、45HRC以上を安定して得ることが困難となる。また、NはV系炭化物の固溶温度に大きく影響し、低NであるほどV系炭化物は低温で固溶するため、N<0.001では焼入れ時に微細なオーステナイト結晶粒を維持する効果にも乏しい。
一方、0.160<Nでは、高強度化や微細結晶粒を維持する効果が飽和する。また0.160<NではN添加に要する精錬の時間とコストが増加し、素材コストの上昇を招く。更に0.160<NではVの炭窒化物が析出しやすくなり金型が割れ易くなる。
好適なNの範囲は、諸特性のバランスに優れた0.003≦N≦0.155であり、より好ましくは0.005≦N≦0.150である。
0.300≦C+N≦0.420
C+N<0.300では硬度を高める効果に乏しく、45HRC以上を安定して得ることが困難となる。また焼入れ時のV系炭化物が少なくなるため、微細なオーステナイト結晶粒を維持する効果にも乏しい。
一方、0.420<C+Nでは、微細結晶粒維持の効果が飽和する。また0.420<C+NではV系の炭窒化物が増加し、金型が割れ易くなる。0.420<C+Nでは焼入れ時の残留オーステナイトが増え、焼戻しの硬さや寸法の調整が難しくなる。
好適なC+Nの範囲は、諸特性のバランスに優れた0.303≦C+N≦0.415であり、より好ましくは0.306≦C+N≦0.410である。
「請求項2の化学成分について」
本発明鋼はCrを多く含有するため軟化抵抗が低く、焼戻し温度が高い場合には45HRCの確保が難しい。そのような場合には、WやCoを選択的に添加し、強度確保を図ればよい。Wは炭化物の析出によって強度を上げる。Coは母材への固溶によって強度を上げると同時に、炭化物形態の変化を介して析出硬化にも寄与する。具体的には、
0.30<W≦5.00
0.30<Co≦4.00
の少なくとも1種(1元素)を含有させれば良い。
いずれの元素も、所定量を越えると特性の飽和と著しいコスト増を招く。
「請求項3の化学成分について」
予期せぬ設備トラブルなどによって、焼入れ加熱温度が高くなったり焼入れ加熱時間が長くなれば、結晶粒の粗大化による各種特性の劣化が懸念される。そのような場合に備え、Nb−Ta−Ti−Zrを選択的に添加し、これらの元素が形成する微細な析出物でオーステナイト結晶粒の粗大化を抑制することが出来る。具体的には、
0.004<Nb≦0.100
0.004<Ta≦0.100
0.004<Ti≦0.100
0.004<Zr≦0.100
の少なくとも1種を含有させれば良い。
いずれの元素も、所定量を越えると炭化物や窒化物や酸化物が過度に生成し、衝撃値や鏡面研磨性の低下を招く。
「請求項4の化学成分について」
同様に、オーステナイト結晶粒の粗大化を抑制するため
0.10<Al≦1.20
を含有させることが出来る。AlはNと結合してAlNを形成し、オーステナイト結晶粒界の移動(すなわち粒成長)を抑制する効果を有し、微細粒の維持に有効である。
また、Alは鋼中で窒化物を形成して析出強化に寄与するため、窒化処理された鋼材の表面硬さを高くする作用も有する。より高い耐摩耗性を求めて窒化処理をする金型には、Alを含む鋼材を使う事が有効である。
但し、Alが所定量を超えると、熱伝導率や靭性の低下を招く。
「請求項5の化学成分について」
近年、部品の大型化や一体化によって、金型のサイズは大きくなる傾向にある。大きな金型は冷却され難い。このため、焼入れ性が低い鋼材の大きな金型を焼入れると、焼入れ中にフェライトやパーライトや粗大ベイナイトが析出して各種特性が劣化する。本発明鋼はかなり高い焼入れ性を有しており、そのような懸念は少ない。しかし、非常に大きな金型を冷却強度の弱い焼入れ方案で処理した場合にも備え、Cuを添加して焼入れ性を更に高めることが出来る。具体的には、
0.30<Cu≦3.0
を含有させれば良い。Cuには時効析出で硬度を高める効果もある。Cuが所定量を越えると偏析が顕著となり、鏡面研磨性やシボ加工性の低下を招く。
「請求項6の化学成分について」
焼入れ性の改善策として、Bの添加も有効である。具体的には、
0.0001<B≦0.0050
を含有させる。
なお、BはBNを形成すると焼入れ性の向上効果が無くなるため、鋼中にB単独で存在させる必要がある。具体的には、BよりもNとの親和力が強い元素で窒化物を形成させ、BとNを結合させなければ良い。そのような元素の例としては、請求項3に掲げる元素が挙げられる。請求項3の元素は不純物レベルで存在してもNを固定する効果はあるが、N量によっては請求項3に規定する範囲で添加する場合もある。Bが鋼中のNと結合してBNが形成されても、余剰のBが鋼中に単独で存在すればそれが焼入れ性を高める。
Bはまた被削性の改善にも有効である。被削性を改善する場合にはBNを形成させれば良い。BNは性質が黒鉛に類似しており、切削抵抗を下げると同時に切屑破砕性を改善する。尚、鋼中にBとBNがある場合には焼入れ性と被削性が同時に改善される。
「請求項7の化学成分について」
被削性の改善には、S−Bi−Pbを選択的に添加することも有効である。具体的には、
0.006<S≦0.05
.01<Bi≦0.50
0.03<Pb≦0.50
の少なくとも1種を含有させれば良い。
いずれの元素も、所定量を越えた場合は被削性の飽和と熱間加工性の劣化、衝撃値や鏡面研磨性の低下を招く。
以上のような本発明によれば、金型を製造する際の粒界炭化物の析出し難さ、良好な焼鈍性,パーライトの析出し難さを備え、且つ金型となった場合に高硬度で耐食性に優れ、旧オーステナイト結晶粒が微細な金型用鋼及び金型を提供することができる。
被削性に及ぼすSi量の影響を示した図である。 熱伝導率に及ぼすSi量の影響を示した図である。 パーライト析出に及ぼすMn量の影響を示した図である。 焼鈍性に及ぼすMn量の影響を示した図である。 パーライト析出に及ぼすMn量及びNi量の影響を示した図である。 焼鈍性に及ぼすMn量及びNi量の影響を示した図である。 デルタフェライト析出に及ぼすMo量の影響を示した図である。
表1に示す20鋼種について、粒界炭化物の析出し難さ・焼鈍性・パーライトの析出し難さ・焼入れ時の結晶粒度・焼入れ焼戻し硬さ・耐食性を調査した。
尚、比較鋼の5鋼種は何れも硬度や耐食性を必要とする用途で使われるもので、比較鋼1はJIS SUS420J2、比較鋼2はJIS SUS403、比較鋼3はJIS SUH1、比較鋼4はJIS SUH600、比較鋼5は市中で販売されていた鋼である。
表1に示す20鋼種の素材は以下の手順で製造した。まず、溶鋼を50Kgのインゴットに鋳込んだ後、1240℃で12Hrの均質化処理を施した。そして熱間鍛造によって60mm×45mmの矩形断面の棒状に仕上げた。引き続き1020℃に加熱して急冷する焼きならしと、620℃の加熱による焼戻しを施した。更に860℃あるいは915℃に加熱した後に15℃/Hrで徐冷して焼鈍した。この棒鋼から試験片を切出し、各種の調査に用いた。
Figure 0006866692
<粒界炭化物の析出し難さ>
上記素材から切り出した15mm×15mm×25mmのブロックを試験片とし、工場の熱間加工工程を模擬した実験で評価した。粒界炭化物は、熱間加工後の800℃までの冷却中に析出する。そこで試験片のブロックを熱間加工模擬の1180℃に加熱し、5℃/minで800℃まで冷却し、以降は急冷して炭化物の状態を凍結した。
その後上記試験片を腐食し、粒界炭化物を着色した。組織は光学顕微鏡の倍率1000倍で観察した。顕著な粒界炭化物があれば不合格で「×」、粒界炭化物が僅かにあれば「△」、ほぼ無ければ合格で「○」とした。
結果は表2に示す通りである。C量とCr量の多い比較鋼1は×である。高CだがCrが約9%と低い比較鋼3は△、それ以外は○である。比較鋼1では実際の金型の製造工程でも粒界炭化物が顕著になり、鏡面研磨性の悪化や、金型使用中での割れが懸念される。比較鋼3も、熱間加工後の冷却速度が更に小さい場合やオーステナイト粒径が更に大きい場合にはかなりの粒界炭化物が析出する虞がある。
一方、発明鋼を含む他の鋼種については、実際の金型においても粒界炭化物の析出はほぼ無いと判断される。即ち、鏡面研磨性の低下や割れの危険性も低いと考えられる。
Figure 0006866692
<焼鈍性>
先述の15mm×15mm×25mmのブロックを試験片とし、工場の焼鈍工程を模擬した実験で評価した。試験片を860℃(比較鋼2・比較鋼3.比較鋼4)あるいは915℃(他の鋼種)に加熱して120分保持した後、15℃/Hrで650℃まで冷却し、以降は放冷とした。その後、試験片のHRB硬さを測定し、機械加工が容易に出来る硬さまで軟化しているかどうかを確認した。97HRB以下であれば合格で「○」、97HRBを超えていれば不合格で「×」とした。
結果は表2に示す通りである。比較鋼3と比較鋼5は、焼鈍後の硬さが97HRBを超えており軟化が十分でなく「×」である。比較鋼3は高Siのため固溶硬化の寄与が大きく焼鈍後においても高硬度となった。比較鋼5は高Niで焼入れ性が良いため、球状炭化物とフェライトの組織にならず、ベイナイトとなったために高硬度となった。
比較鋼3と比較鋼5については、実際の金型製造時においても金型の粗加工で工具寿命が短くなる、あるいは加工効率が下がる可能性が高い。
これに対し発明鋼を含む他の鋼種については、焼鈍後の硬さが97HRB以下で、このような問題は生じないと考えられる。
<パーライトの析出し難さ>
φ4mm×10mmの試験片を1030℃に加熱した後、10℃/minで100℃以下まで冷却する。冷却後は金属組織を400倍の倍率で観察し、パーライト析出の有無を確認した。パーライトが析出していなければ合格で「○」、わずかでも析出が認められれば不合格で「×」とした。
結果は表2に示す通りである。比較鋼1と比較鋼3は「×」である。金型内部の焼入れ冷却速度は、パーライトが析出する550〜850℃の温度域で10〜40℃/minであることから、比較鋼1又は比較鋼3を用いた金型の内部ではパーライトの析出が不可避となり、金型として使用中の破壊の危険性が高まる。
一方、発明鋼を含む他の鋼種については、パーライトの析出はなく、実際に金型を焼入れする場合においてもパーライトの析出は起こらないと判断できる。
<焼入れ時の結晶粒度>
実際の金型の焼入れでは、5Hr程度の長時間保持を受けることがある。そのような条件下におけるオーステナイト結晶粒径を調査した。先述の15mm×15mm×25mmのブロックを試験片とし、1030℃で5Hr保持した後に急冷してマルテンサイト化した。この組織を腐食し旧オーステナイト結晶粒界を現出させて結晶粒度番号を評価した。結晶粒度番号が5以上であれば合格で「○」、5未満を不合格で「×」とした。
結果は表2の通りである。Cが少ない比較鋼2,比較鋼4は、オーステナイト粒界の移動を抑制する炭化物も少なくなるため、結果「×」である。比較鋼5は、段落[0011]で述べた通り、焼鈍性が悪いためにメモリー効果が発現し、結果「×」である。実際の金型の焼入れにおいても比較鋼2,比較鋼4,比較鋼5は、結晶粒が粗大化し、金型として使用中に割れ易いことが懸念される。
一方、発明鋼を含む他の鋼種については、結果「○」であり、結晶粒の粗大化は起こらないと考えられる。
<焼入れ焼戻し硬さ>
上記「焼入れ時の結晶粒度」の評価で用いた試験片(マルテンサイト化している)を470〜520℃で2Hr焼戻した。この焼戻し温度の範囲において得られた最大硬さを評価した。焼入れ焼戻し硬さは耐摩耗性を確保するため45HRC以上であることが好ましい。硬さが45HRC以上あれば合格で「○」、45HRC未満を不合格で「×」とした。
結果は表2に示す通りである。比較鋼2と比較鋼4は低Cであるため45HRC以上の硬度は得られないが、他の鋼種は全て45HRC以上である。即ち発明鋼については耐摩耗性の確保に必要な45HRC以上が得られている。尚、当然ながら焼戻し条件を調整すれば低硬度にすることも可能である。
<耐食性>
試験片については上記「焼入れ焼戻し硬さ」を評価したものを流用した。硬さ測定後の試験片を鏡面研磨し、湿度98%で50℃の環境に24Hr晒した後の発錆状況を目視観察し、点状の腐食部が発生していなければ合格で「○」、1箇所でも発生していれば不合格で「×」とした。評価した鋼は何れもCr量が多いため、この条件では全面が腐食することは無く、点状で局部的に錆びた部分が発生するか否かの差が生じた。
結果は表2に示す通りである。比較鋼3は高C低Crであるため耐食性が悪く結果「×」である。他の比較鋼と発明鋼は高Crであるため高い耐食性を有している。
<総合判定>
以上の調査結果についてまとめると、比較鋼1は特に大きな金型で粒界炭化物やパーライトが析出し易いと判断でき、鏡面研磨性の悪化や割れの危険性が増加する問題がある。
比較鋼2,比較鋼3,比較鋼4は高硬度と高耐食性という基本性能の何れかに難がある。他の欠点として、比較鋼2は結晶粒度、比較鋼3は焼鈍性とパーライト析出、比較鋼4は結晶粒度、を挙げることができる。
比較鋼5は焼鈍性と焼入れ時の結晶粒度に難があり、機械加工における工具寿命や生産性の低下、金型になった場合の割れ易さが懸念される。このように何れの比較鋼にも少なくとも2項目に問題がある。
これに対し発明鋼15種は何れの項目にも問題はない。発明鋼は高硬度と高耐食性という基本性能を確保した上で、粒界炭化物の析出し難さ,焼鈍性,パーライトの析出し難さ,結晶粒の微細さ、を具備している。従って実際の金型においても、高硬度と高耐食性に加え鏡面性の高さや割れ難さを発揮することが期待できる。
以上のように本発明鋼はSUS420J2(0.4C-0.4Mn-0.2Ni-13Cr-0.01Mo-0.015N)をベースとして、粒界炭化物やパーライトの析出を抑制するため、低C化,低Cr化,高Mn化,高Ni化,Mo添加,を行なった。また、低C化による硬度低下を補うため、高N化した。Mo添加には、パーライト析出抑制や2次硬化量確保の効果もある。SUS420J2並みの焼鈍性はMn・Ni・Moを過度に高めないことで確保し、SUS420J2並みの耐食性は低C化とCrを過度に減らさないことで確保した。更に、焼入れ時のオーステナイト粒界を炭化物でピン止めし、微細な結晶粒を維持するためにVを添加した。CとCrの低減によって焼入れ時のCr系炭化物が減るため、それをV系炭化物で補うためである。なお、焼入れ時に固溶する一部のVは、2次硬化によって硬度を補う効果を発揮する。このような施策によって本発明鋼は、金型を製造する際の粒界炭化物の析出し難さ、良好な焼鈍性,パーライトの析出し難さを備え、且つ金型となった場合に高硬度で耐食性に優れ、旧オーステナイト結晶粒が微細に維持されており、プラスチック製品を成形する金型に適用して好適である。
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示である。
例えば本発明の鋼は、表面ショットブラスト,窒化処理,PVD処理,CVD処理,メッキ処理その他の表面改質処理を施して使用することも有効である。
また粉末や板の積層造形による金型作成に使う粉末や板にも適用でき、棒線状として金型の本体や部品の溶接補修に使用することも可能である等、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた態様で実施可能である。

Claims (8)

  1. 質量%で
    0.220≦C≦0.360
    0.65≦Si<1.05
    0.43≦Mn≦0.92
    0.43≦Ni≦0.92
    0.67≦0.5Mn+Ni≦1.30
    10.50≦Cr<12.50
    0.05≦Mo<0.50
    0.002≦V<0.50
    0.001≦N≦0.160
    0.300≦C+N≦0.420
    を含有し、残部がFe及び不可避的不純物の組成を有することを特徴とする金型用鋼。
  2. 請求項1において、質量%で
    0.30<W≦5.00
    0.30<Co≦4.00
    の少なくとも1種を更に含有することを特徴とする金型用鋼。
  3. 請求項1,2の何れかにおいて、質量%で
    0.004<Nb≦0.100
    0.004<Ta≦0.100
    0.004<Ti≦0.100
    0.004<Zr≦0.100
    の少なくとも1種を更に含有することを特徴とする金型用鋼。
  4. 請求項1〜3の何れかにおいて、質量%で
    0.10<Al≦1.20
    を更に含有することを特徴とする金型用鋼。
  5. 請求項1〜4の何れかにおいて、質量%で
    0.30<Cu≦3.0
    を更に含有することを特徴とする金型用鋼。
  6. 請求項1〜5の何れかにおいて、質量%で
    0.0001<B≦0.0050
    を更に含有することを特徴とする金型用鋼。
  7. 請求項1〜6の何れかにおいて、質量%で
    0.006<S≦0.05
    .01<Bi≦0.50
    0.03<Pb≦0.50
    の少なくとも1種を更に含有することを特徴とする金型用鋼。
  8. 請求項1〜7の何れかに記載の鋼から成ることを特徴とする金型。
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