JP2020070473A - 金型用鋼及び金型 - Google Patents

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Abstract

【課題】被削性およびシボ加工性に優れた汎用の金型用鋼と同等の被削性およびシボ加工性を備え、且つ耐食性を改善させた金型用鋼を提供する。【解決手段】金型用の鋼を、質量%で0.09≦C≦0.17,1.00≦Si≦2.00,0.15≦Mn≦0.85,0.78≦Cu≦1.08,2.40≦Ni≦2.90,0.78≦Al≦1.08,2.50≦Cr≦3.00,0.15≦Mo≦0.45を含有し、残部がFe及び不可避的不純物の組成を有するものとする。【選択図】 なし

Description

この発明は、プラスチックの射出成形等に用いる金型に適用して好適な金型用鋼及び金型に関する。
例えば、射出成形用金型(金型の一部を構成する部品も含む)は、溶解→精錬→鋳造→均質化熱処理→熱間加工→焼準→焼鈍(焼戻し)→焼入れ・焼戻し→切削加工→鏡面研磨さらに必要に応じてシボ加工、の工程を経て製造される。金型用の材料には様々な特性が求められるが、特に射出成形用金型に用いられる材料には、プリハードン状態での良好な被削性、金型が放置されても錆びないだけの耐食性のほか、シボ加工が施される場合にはシボ加工性に優れていることが求められる。
(被削性について)
樹脂の射出成形では、溶融状態の樹脂を金型内に高速で圧入し、金型で熱を奪って樹脂を固化させ、金型形状が転写された樹脂製品を製造する。生産の速度は、樹脂が固化する時間に律速される。所定時間内に多くの製品を製造するためには、樹脂が早く冷えて固化することが好ましい。
樹脂を早く固化させるためには、金型で熱を奪う速度を大きくする必要がある。このため、金型の内部には冷却水を流すための孔(水冷孔)が数多く設けられている。この水冷孔はドリル加工であけられる。金型を効率良く製造するには、ドリルで水冷孔を高速であけてゆく必要がある。このため、水冷孔のドリル加工では金型材の被削性が非常に重要となる。そのため、加工速度を大きくできる「被削性の良い金型材」が求められる。
(シボ加工性について)
樹脂の射出成形金型に対し、その表面に特定の模様(例えば、皮革の表皮に似た微細なシワ状の凹凸模様)を腐食液によるエッチングで付与することがある。このような工法をシボ加工という。ドリル被削性だけでなくシボ加工の良さも、樹脂の射出成形金型用鋼に求められる特性である。シボ加工は耐食性と背反し、耐食性が悪い鋼材はシボ加工性が良くなる。
(耐食性について)
製造した金型を使い始めるまでの期間、あるいは生産の中断期間のように放置される期間があると、金型表面に錆が発生することがある。錆の発生した金型をそのまま射出成形に使うと、製品の表面に錆の部分が転写されて表面品質が悪くなり、商品価値を失う。そこで、錆びた金型には研磨やシボ加工を再度行う必要が生じるが、この作業に要する費用と工数は莫大である。金型には、放置されても錆びないだけの耐食性が必要である。
そこで、耐食性がより高い鋼を射出成形金型に用いることがある。例えば、(1)C量が0.18〜0.28%でCr量が2.2〜2.5%の鋼、(2)C量が0.38%でCr量が5%の鋼(SKD61)、(3)C量が0.1%以下でCr量が3〜8%の鋼、(4)Cr量が12%以上のステンレス鋼、などである。このうち(1)の鋼では、シボ加工性が良いものの耐食性が依然として不足気味である。(2)〜(4)の鋼では、耐食性は実用的に充分であるもののシボ加工性が充分でない。また、Cr量の増加によってドリル被削性は悪くなる。
なお、下記特許文献1には、優れた被削性と鏡面性を備え、更に耐食性に優れたプラスチック成型用金型が得られる金型用鋼が開示されている。しかしながら、特許文献1の実施例で開示された鋼は、Cr量が2.05%以下もしくは3.70%以上であり、引用文献1には、本発明の請求項を満たす化学組成の実施例の開示はない。またシボ加工性と耐食性の両立についての言及もなされておらず、本発明とは異なるものである。
特開2004−59993号公報
本発明は以上のような事情を背景とし、被削性およびシボ加工性に優れた汎用の金型用鋼と同等の被削性およびシボ加工性を備え、且つ耐食性を改善させた金型用鋼及び金型を提供することを目的としてなされたものである。
而して請求項1は、金型用鋼に関するもので、質量%で0.09≦C≦0.17,1.00≦Si≦2.00,0.15≦Mn≦0.85,0.78≦Cu≦1.08,2.40≦Ni≦2.90,0.78≦Al≦1.08,2.50≦Cr≦3.00,0.15≦Mo≦0.45を含有し、残部がFe及び不可避的不純物の組成を有することを特徴とする。
なお、金型用鋼において、下記に示す成分が下記範囲で不可避的不純物として含まれ得る。
P≦0.05,S≦0.008,V≦0.03,N≦0.05,O≦0.05,W≦0.30,Co≦0.30,Nb≦0.004,Ta≦0.004,Ti≦0.004,Zr≦0.004,B≦0.0001,Ca≦0.0005,Se≦0.03,Te≦0.005,Bi≦0.01,Pb≦0.03,Mg≦0.02,REM≦0.10などである。
請求項2のものは、請求項1において、質量%で0.03<V≦1.00,0.30<W≦2.00の少なくとも1種を更に含有することを特徴とする。
請求項3のものは、請求項1,2の何れかにおいて、質量%で0.30<Co≦1.00を更に含有することを特徴とする。
請求項4のものは、請求項1〜3の何れかにおいて、質量%で0.008<S≦0.200,0.0005<Ca≦0.2000,0.03<Se≦0.50,0.005<Te≦0.100,0.01<Bi≦0.50,0.03<Pb≦0.50の少なくとも1種を更に含有することを特徴とする。
請求項5のものは、請求項1〜4の何れかにおいて、質量%で0.05<P≦0.20を更に含有することを特徴とする。
請求項6のものは、請求項1〜5の何れかにおいて、質量%で0.0001<B≦0.0050を更に含有することを特徴とする。
請求項7のものは、請求項1〜6の何れかにおいて、質量%で0.004<Nb≦0.200,0.004<Ta≦0.200,0.004<Ti≦0.200,0.004<Zr≦0.200の少なくとも1種を更に含有することを特徴とする。
請求項8は、金型に関するものであって、請求項1〜7の何れかに記載の鋼から成り、室温における硬さが32〜44HRCであることを特徴とする。
なお、本発明において「金型」には金型本体はもとより、これに組み付けられて使用されるピン等の金型部品も含まれる。更に、本発明の鋼からなる金型で、表面処理やシボ加工が施されたものも含まれる。
本発明者は、上記課題を解決するため、被削性、耐食性およびシボ加工に及ぼす鋼材成分の影響を調査した結果、Cr量2.5〜3%の高Cr化であれば、シボ加工性はそれほど悪化しないこと、更に、一般には被削性が低下すると言われている高Cr化(Cr量が2.5〜3%)においても、Si−Cu−Ni−Alの調整でドリル被削性を良好なレベルに維持できることを見出した。
本発明はこのような知見の下になされたもので、Cr量を狭い範囲(2.5〜3.0%)に規定するとともに、Si−Cu−Ni−Alの量を適正化したものである。比較対象である被削性およびシボ加工性に優れた汎用の金型用鋼のCr量が0.3%であるのに対して、本発明鋼のCr量は2.5〜3.0%であるため、耐食性が良い。更に、Cr量が3%超の鋼で問題となるシボ加工性の悪さも本発明鋼には無い。
また、本発明の鋼から成り、硬さを32〜44HRCに調整された本発明の金型によれば、焼入れ・焼戻し処理後のプリハードン状態で良好な被削性およびシボ加工性が発揮されるため、製造工程の簡略化が実現できる。また、金型使用時においては、樹脂成形時の摩耗や割れの発生が抑制され、金型の寿命を高めることができる。一方、金型が一定期間放置された場合でも金型表面は錆びにくいため、低Cr鋼から成る金型の場合に行われていた再研磨を廃止もしくは軽減することができる。
以上のような本発明の金型用鋼および金型は、樹脂(プラスチックやビニール)の射出成形やブロー成形、ゴムの成形や加工、炭素繊維強化プラスチックの成形や加工等の用途に用いて好適である。
次に本発明における各化学成分の限定理由等を以下に説明する。なお、各化学成分の値は何れも質量%である。
「請求項1の化学成分について」
0.09≦C≦0.17
C<0.09では、焼戻し温度が高い場合や、粉末の積層造形に適用した場合に32HRC以上を得ることが難しい。
一方、0.17<Cでは、溶接性が低下する。硬さの焼戻し温度依存性が顕在化し、焼戻し硬さの調整が難しくなる。また、炭化物が増え、鏡面研磨性に悪影響を及ぼす。
好ましいCの範囲は、0.09≦C≦0.16であり、より好ましくは0.10≦C≦0.15である。
1.00≦Si≦2.00
Si<1.00では、ドリル被削性が著しく劣化する。焼戻し温度が高い場合に32HRC以上を安定して得にくい。
一方、2.00<Siでは、熱伝導率の低下が大きい。インゴットから熱間加工で成形してゆく際に割れを生じやすくなる。
好ましいSiの範囲は、1.05≦Si≦1.90であり、より好ましくは1.10≦Si≦1.80である。
0.15≦Mn≦0.85
Mn<0.15では、焼入れ性が不足し、フェライトの混入による硬さ不足を招く。また焼入れ性が不足し、ベイナイトの混入による靭性の低下を招く。マルテンサイト変態点が高くなり粗大な焼入れ組織となるため、衝撃値が低下する。
一方、0.85<Mnでは、熱伝導率の低下が大きい。焼戻し温度が高い場合に、室温での衝撃値が低下する(SiやPが高い場合に顕著である)。
好ましいMnの範囲は、0.25≦Mn≦0.75であり、より好ましくは0.30≦Mn≦0.70である。
0.78≦Cu≦1.08
Cu<0.78では、ドリル被削性が低下する。solute drag効果によって焼入れ時のオーステナイト結晶粒の成長を抑制する効果に欠ける。焼入れ性が不足し、ベイナイトの混入による靭性の低下を招く。マルテンサイト変態点が高くなり粗大な焼入れ組織となるため、衝撃値が低下する。焼戻し温度が高い場合に32HRC以上を安定して得にくい。
一方、1.08<Cuでは、熱伝導率の低下が大きい。インゴットから熱間加工で成形してゆく際に割れを生じやすくなる。またコスト上昇が大きい。
好ましいCuの範囲は、0.80≦Cu≦1.05であり、より好ましくは0.82≦Cu≦1.02である。
2.40≦Ni≦2.90
Ni<2.40では、Alとの金属間化合物の量が減少して、32HRC以上を安定して得にくいうえ、ドリル被削性が低下する。焼入れ性が不足し、フェライトの混入による硬さ不足を招く。また焼入れ性が不足し、ベイナイトの混入による靭性の低下を招く。マルテンサイト変態点が高くなり粗大な焼入れ組織となるため、衝撃値が低下する。熱間加工時の割れ(Cuの粒界偏析が原因)を防止する効果が小さい。
一方、2.90<Niでは、熱伝導率の低下が大きい。またコスト上昇が大きい。
好ましいNiの範囲は、2.46≦Ni≦2.83であり、より好ましくは2.52≦Ni≦2.76である。
0.78≦Al≦1.08
Al<0.78では、Niとの金属間化合物の量が減少して、32HRC以上を安定して得にくいうえ、ドリル被削性が低下する。AlNが少なくなるため焼入れ時の結晶粒が粗大化しやすく、衝撃値の低下を招く。
一方、1.08<Alでは、多量に生成する酸化物や窒化物が異物となり、鏡面研磨性や衝撃値を低下させる。また、熱伝導率の低下が大きい。
好ましいAlの範囲は、0.80≦Al≦1.05であり、より好ましくは0.82≦Al≦1.02である。
2.50≦Cr≦3.00
耐食性とシボ加工性を両立させるためには、特にCr量の範囲が重要である。
Cr<2.50では、耐食性が悪くなるため、金型を放置した際に錆びやすい。また、金型内部の水冷孔が顕著に錆び、そこからの割れを誘発する。また、Cr<2.50では、2次硬化量が不足し、32HRC以上を安定して得にくい。焼入れ性が不足し、ベイナイトの混入による靭性の低下を招く。マルテンサイト変態点が高くなり粗大な焼入れ組織となるため、衝撃値が低下する。
一方、3.00<Crでは、シボ加工性が悪化する。また熱伝導率の低下が大きい。硬さの焼戻し温度依存性が顕在化し、焼戻し硬さの調整が難しくなる。
好ましいCrの範囲は、2.60≦Cr≦2.95であり、より好ましくは2.65≦Cr≦2.90である。
0.15≦Mo≦0.45
Mo<0.15では、2次硬化の寄与が小さく、焼戻し温度が高い場合に32HRC以上を安定して得ることが困難となる。高温強度が不足する。耐食性を改善する効果に乏しい。
一方、0.45<Moでは、C量が少ないため、2次硬化による硬さ増加の効果が飽和に近づく。また、素材コストの上昇が顕著となる。
好ましいMoの範囲は、0.17≦Mo≦0.42であり、より好ましくは0.20≦Mo≦0.40である。
以上のように各元素の量を適正化した結果、ドリル被削性と耐食性とシボ加工性を高バランスで確保しただけでなく、本発明鋼の焼戻し硬さを32〜44HRCとすることに成功した。
「請求項2の化学成分について」
工具鋼としてはCrやMoが少ない本発明鋼は、高温強度があまり高くない。高温強度の確保には、VやWの選択的な添加が有効である。VやWは炭化物の析出や固溶によって強度を上げる。VはVCによるピンニング効果によって、Wは固溶した際のsolute drag効果によって、それぞれ焼入れ時のオーステナイト結晶粒の成長を抑制し、衝撃値や破壊靭性値を高める効果も有する。具体的には、
0.03<V≦1.00
0.30<W≦2.00
の少なくとも1種(1元素)を含有させれば良い。
いずれの元素も所定量を超えると特性の飽和と著しいコスト増を招く。
「請求項3の化学成分について」
工具鋼としてはCrやMoが少ない本発明鋼は、高温強度があまり高くない。高温強度の確保には、Coの添加も有効である。Coは母材への固溶によって強度を上げると同時に、炭化物形態の変化を介して析出硬化にも寄与する。また、Coはsolute drag効果によって焼入れ時のオーステナイト結晶粒の成長を抑制する効果もある。具体的には、
0.30<Co≦1.00
を含有させれば良い。
但し、Coが所定量を超えると特性の飽和と著しいコスト増を招く。
「請求項4の化学成分について」
本発明鋼は、Si−Cu−Ni−Alの適正化でドリル被削性を確保しているが、被削性の更なる向上には、S,Ca,Se,Te,Bi,Pbを選択的に添加することも有効である。具体的には、
0.008<S≦0.200
0.0005<Ca≦0.2000
0.03<Se≦0.50
0.005<Te≦0.100
0.01<Bi≦0.50
0.03<Pb≦0.50
の少なくとも1種を含有させれば良い。
いずれの元素も、所定量を超えると熱間加工性や衝撃値が大きく低下する。
「請求項5の化学成分について」
本発明鋼は、Si−Cu−Ni−Alの適正化でドリル被削性を確保しているが、被削性の更なる向上には、Pを添加することも有効である。Pには鋼を脆くして被削性を改善する効果がある。具体的には、
0.05<P≦0.20
を含有させれば良い。
但し、Pが所定量を超えると衝撃値の低下が著しい。
「請求項6の化学成分について」
Bには、焼入れ性向上と粒界強化の効果がある。この結果、衝撃値が高位安定化する。具体的には、
0.0001<B≦0.0050
を含有させれば良い。
なお、添加したBがBNを形成すると、B添加の本来の目的を果たせない。そこで、BよりもNとの親和力が強い元素で窒化物を形成させてNを固定し、BとNを結合させなければ良い。N量が多い場合は、このような措置を講じる。そのための添加元素の例としては、後述するNb、Ta、Ti、Zrが挙げられる。これらの元素は不純物レベルで存在してもNを固定する効果がある。
また、B添加は被削性の改善にも有効である。被削性を改善する場合にはBNを形成させれば良い。BNは性質が黒鉛に類似しており、切削抵抗を下げると同時に切屑破砕性を改善する。なお、B、FeとBの化合物、BNなどが鋼中に共存していても良い。その場合は、鋼中にBがどのような状態であるかによって、焼入れ性や衝撃値や被削性などが改善される。
「請求項7の化学成分について」
焼入れ時のオーステナイト結晶粒の成長を抑制するには、Nb,Ta,Ti,Zrの選択的な添加も有効である。これらの元素との結合によって生成した炭化物や窒化物や炭窒化物が結晶粒界の移動を抑制する。具体的には、
0.004<Nb≦0.200
0.004<Ta≦0.200
0.004<Ti≦0.200
0.004<Zr≦0.200
の少なくとも1種を含有させれば良い。
いずれの元素も、所定量を越えると炭化物や窒化物や酸化物が過度に生成し、それが金型の破壊起点となる。
VL1000の算出方法を説明するための図である。
表1に示す発明鋼および比較鋼(計20鋼種)について、ドリル被削性・シボ加工性・耐食性を評価する試験を行った。
なお、比較鋼1は市販品であり、樹脂(プラスチックやビニール)の射出成形やブロー成形に用いられる金型用として一般的なCu−Ni−Al系の鋼材である。比較鋼2は、比較鋼1と同様にCu−Ni−Al系の鋼材である。シボ加工性を確保しつつ耐食性を高めるためCr量が2.7%に高められている。比較鋼3は更に耐食性を高めた4%Cr鋼である。比較鋼4は比較鋼1と同様に市販されている金型用鋼であり、Cr量が2.2%である。
これら比較鋼は、少なくとも4種の主要元素において本発明の請求範囲を外れている。
Figure 2020070473
表1に示す20鋼種をそれぞれ150kgのインゴットに鋳込み、鋼塊を製造した。この鋼塊に1240℃で24時間の均質化処理を施した後、鋼塊を熱間鍛造によって60mm×45mmの矩形断面の棒状に成形し、この棒鋼を100℃以下まで冷却した。引き続き、棒鋼には、600℃で8時間の焼鈍を施し32HRC以下に軟質化させた。この焼鈍材から各種の試験片(ドリル被削性、シボ加工性、耐食性)を作製し、焼入れ焼戻しを行なった。焼入れ温度は920〜970℃で、Ac3変態点に応じて鋼種によって適正な温度を選定した。焼戻し温度は475〜575℃の範囲内で鋼種に応じて変化させ、全ての鋼種を38HRCに調質した。
<ドリル被削性についての評価>
38HRCに調質した試験片の形状は、55mm×28mm×200mmである。この試験片の55mm×200mmの面に、深さ20mmの孔を、直径5mmのSKH51製ドリルで、(潤滑は水溶性の切削油を用い)次々にあけてゆき、ドリルの摩耗や折損までに加工できた孔の数Aを評価するドリル穿孔試験を行なった。このAに孔の深さである20mmを乗じた20A[mm]を切削距離と定義し、孔をあける速度(ドリルの送り速度)に対して切削距離を評価した。
このようにして得られる結果の一例を図1に示す。ドリルの送り速度(切削速度)が小さくなるほど、切削距離は長くなる。1つの鋼種について、上記ドリル穿孔試験をn=8〜13回実施し、送り速度と切削距離の相関を示す近似線より、切削距離が1000mm(あけた孔の数が50個)となるドリルの送り速度をVL1000として求め、ドリル被削性の指標とした。ここでは、VL1000が大きいほど、高い効率で孔をあけられるため好ましい。鋼種ごとに求めたVL1000を表2に示す。先述の通り、いずれの鋼種も硬さは38HRCで共通である。
Figure 2020070473
比較鋼1はVL1000が25m/minと大きく、ドリル被削性の目標(VL1000が25m/min以上)を達成した。
比較鋼2は、VL1000が19m/minと小さく、比較鋼1よりも被削性が低下している。比較鋼1,2のように低Siの場合、Cr量を増加させると被削性の低下が顕著に認められる。
比較鋼3は、VL1000が比較鋼1と同じ25m/minである。比較鋼3はドリル被削性の目標を達成した。
比較鋼4は、VL1000が比較鋼1より大きい29minである。Sが添加されていることからMnSが多量に分散しており、これが被削性を大きく改善している。比較鋼4もドリル被削性の目標を達成した。
一方、16種の発明鋼はVL1000が25〜34m/minで、比較鋼1と同等かそれより大きなVL1000を確保しており、ドリル被削性の目標を達成した。快削元素を含む発明鋼12と発明鋼13は特にVL1000が大きい。Pの含有量が多い比較鋼14もVL1000は大きめである。
<シボ加工性についての評価>
38HRCに調質した試験片の形状は、55mm×55mm×20mmである。55mm×55mmの面を鏡面研磨後、通常の薬液で皮革模様をシボ加工した。この時、所要の模様が形成されたかどうかを目視で評価した。所要の模様が形成された場合を合格でS(Superior)、そうでない場合を不合格でI(Inferior)とした。シボ加工性評価の結果を下記表3に示す。
Figure 2020070473
比較鋼1は「S」である。比較鋼1は低Cr(0.21%)のため薬液の腐食による加工が容易である。
比較鋼2と比較鋼4も「S」である。Cr量が2.7%程度までは通常の薬液で問題なくシボ加工できることが分かった。一方で、比較鋼3は「I」となり、Cr量が4%になるとシボ加工性に難があることが分かった。
比較鋼の結果から想像される通り、Cr量2.5〜3%の発明鋼16種は、全てシボ加工性が「S」である。比較鋼1と同様に、発明鋼がドリル被削性とシボ加工性に優れていることを確認した。
<耐食性についての評価>
38HRCに調質した試験片の形状は、45mm×25mm×15mmである。この直方体の試験片の6面すべてを鏡面研磨した後、試験片を温度50℃で湿度98%の環境中に15分晒した。湿潤試験は、金型が高温湿潤な地域で使われた場合の耐食性を加速的に評価する方法である。ここでは、15分間の暴露で錆の発生がない、あってもわずかであれば合格で「S」、錆が目立つ場合は不合格で「I」と評価した。評価の結果を下記表4に示す。
Figure 2020070473
比較鋼1は評価が「I」である。Cr量が0.3%と低く、シボ加工性の良さの代償として耐食性の悪いことが再確認できた。
比較鋼2と比較鋼3は評価が「S」である。これらはCr量が2.7〜4%で、湿潤環境下での耐食性が充分に高いことが分かった。
比較鋼4は、Cr量が2.21%と充分でなくC量も高めであること、更にSを0.035%含有していることから比較鋼1ほどではないが錆が発生し、評価は「I」である。
比較鋼の結果から想像される通り、Crを2.5〜3%含有する発明鋼16種は、いずれも耐食性の評価が「S」である。
<特性のまとめ>
得られた結果を下記表5に総括して示す。ドリル被削性は、VL1000が30m/min以上を「S」、25m/min以上で30m/min未満を「A」、25m/min未満を「I」とした。
Figure 2020070473
表5に示すように、比較鋼1を含め比較鋼は、3つの特性のうち1つが「I」で、ある特性を高めると別の特性が低下することが分かる。
これに対し、発明鋼は「S」と「A」であり、「I」はない。以上より、発明鋼がドリル被削性とシボ加工性と耐食性に優れることを確認した。換言すれば、発明鋼は被削性とシボ加工性の良さを維持したまま、耐食性を高めており、市場のニーズに応えた鋼種である。
以上、本発明の実施例を詳述したがこれはあくまで一例示である。例えば、本発明の鋼及び金型は、ショットピーニング,窒化処理,PVD処理,CVD処理,PCVD処理,メッキ処理,DLCコーティング処理などの表面改質処理と組み合わせて使用することも有効である。また、本発明の鋼を棒状や線状として、金型や部品の溶接補修材として使用することも可能である。あるいは、本発明の鋼を板や粉末として、それらの積層造形によって金型や部品を製造することも可能である等、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた態様で実施可能である。

Claims (8)

  1. 質量%で
    0.09≦C≦0.17
    1.00≦Si≦2.00
    0.15≦Mn≦0.85
    0.78≦Cu≦1.08
    2.40≦Ni≦2.90
    0.78≦Al≦1.08
    2.50≦Cr≦3.00
    0.15≦Mo≦0.45
    を含有し、残部がFe及び不可避的不純物の組成を有することを特徴とする金型用鋼。
  2. 請求項1において、質量%で
    0.03<V≦1.00
    0.30<W≦2.00
    の少なくとも1種を更に含有することを特徴とする金型用鋼。
  3. 請求項1,2の何れかにおいて、質量%で
    0.30<Co≦1.00
    を更に含有することを特徴とする金型用鋼。
  4. 請求項1〜3の何れかにおいて、質量%で
    0.008<S≦0.200
    0.0005<Ca≦0.2000
    0.03<Se≦0.50
    0.005<Te≦0.100
    0.01<Bi≦0.50
    0.03<Pb≦0.50
    の少なくとも1種を更に含有することを特徴とする金型用鋼。
  5. 請求項1〜4の何れかにおいて、質量%で
    0.05<P≦0.20
    を更に含有することを特徴とする金型用鋼。
  6. 請求項1〜5の何れかにおいて、質量%で
    0.0001<B≦0.0050
    を更に含有することを特徴とする金型用鋼。
  7. 請求項1〜6の何れかにおいて、質量%で
    0.004<Nb≦0.200
    0.004<Ta≦0.200
    0.004<Ti≦0.200
    0.004<Zr≦0.200
    の少なくとも1種を更に含有することを特徴とする金型用鋼。
  8. 請求項1〜7の何れかに記載の鋼から成り、室温における硬さが32〜44HRCであることを特徴とする金型。
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