JP2014189853A - ヒートチェックと水冷孔割れを抑制する金型用鋼 - Google Patents
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Abstract
【課題】耐ヒートチェック性に優れ且つ水冷孔からの割れを良好に抑制しつつ、δフェライトの析出による金型寿命の不安定化の問題を解決し、金型寿命を安定化することのできるダイカスト用の金型用鋼を提供する。
【解決手段】金型用鋼の組成を、質量%で0.10<C<0.22,0.10<Si<0.50,0.30<Mn<1.50,6.50<Cr<8.50,0.40<Mo<1.80,0.30<V<0.80,0.003<N<0.200であって、残部がFeと不可避的不純物から成り、以下の式(1)を満たす組成を有するものとする。X≧0・・・式(1)、但しX=PN−(1.52PC−14)・・・式(2)、PC=Cr+Mo+1.5Si+5V・・・式(3)、PN=Ni+30C+0.5Mn+0.3Cu+25N・・・式(4)。
【選択図】図1
【解決手段】金型用鋼の組成を、質量%で0.10<C<0.22,0.10<Si<0.50,0.30<Mn<1.50,6.50<Cr<8.50,0.40<Mo<1.80,0.30<V<0.80,0.003<N<0.200であって、残部がFeと不可避的不純物から成り、以下の式(1)を満たす組成を有するものとする。X≧0・・・式(1)、但しX=PN−(1.52PC−14)・・・式(2)、PC=Cr+Mo+1.5Si+5V・・・式(3)、PN=Ni+30C+0.5Mn+0.3Cu+25N・・・式(4)。
【選択図】図1
Description
この発明はアルミニウムダイカスト金型に使用される金型用鋼に関し、詳しくはダイカスト金型のキャビティ面(意匠面)のヒートチェック及び金型の大割れの主原因である水冷孔からの割れを抑制し、アルミニウムダイカスト製品の製造のハイサイクル化に対応可能なダイカスト用の金型用鋼に関する。
アルミニウムダイカスト金型では、熱疲労によるキャビティ面にクラック(ヒートチェック)が生ずることが従来から問題とされている。
このヒートチェックは、型開き後にキャビティ面に冷却水をかけたときに、キャビティ面の急速な冷却と加熱状態の内部との温度差によってキャビティ面に引張り応力が発生し、その繰返しによる熱疲労によってキャビティ面にクラックが発生する現象である。
このヒートチェックに対しては金型の硬さを高くすることが有利であるとされている。
このヒートチェックは、型開き後にキャビティ面に冷却水をかけたときに、キャビティ面の急速な冷却と加熱状態の内部との温度差によってキャビティ面に引張り応力が発生し、その繰返しによる熱疲労によってキャビティ面にクラックが発生する現象である。
このヒートチェックに対しては金型の硬さを高くすることが有利であるとされている。
一方、近年においてアルミニウムダイカスト製品の製造サイクルの短縮化(ハイサイクル化)の要請があり、これを実現するため、金型の型締め時間の短縮化を目的として金型内のアルミニウム鋳造製品に対する水冷を強化する傾向にある。
この水冷の強化は、具体的には水冷孔をキャビティ面に近付けることによって行われている。
この場合、アルミニウム製品鋳造時に水冷孔表面に発生する熱応力が増大し、水冷孔から割れが発生する現象が問題となる。
このような水冷孔からの割れは、鋳造時に繰返し負荷される熱応力のみにより発生するのではなく、水冷孔表面に発生する錆に起因した応力腐食割れとの複合的な遅れ破壊現象であるとされている。
この水冷の強化は、具体的には水冷孔をキャビティ面に近付けることによって行われている。
この場合、アルミニウム製品鋳造時に水冷孔表面に発生する熱応力が増大し、水冷孔から割れが発生する現象が問題となる。
このような水冷孔からの割れは、鋳造時に繰返し負荷される熱応力のみにより発生するのではなく、水冷孔表面に発生する錆に起因した応力腐食割れとの複合的な遅れ破壊現象であるとされている。
この水冷孔からの割れは金型の硬さが高いほど生じ易く、従ってこのような水冷孔からの割れに対しては金型の硬さを低くすることが有利である。
即ち、金型硬さを高くすればヒートチェックに対しては有利となるものの、水冷孔からの割れに対しては不利となり、また逆に金型硬さを低くすれば水冷孔からの割れに対しては有利となる一方で、ヒートチェックに対しては不利となり、耐ヒートチェック性は悪化してしまう。
即ち、金型硬さを高くすればヒートチェックに対しては有利となるものの、水冷孔からの割れに対しては不利となり、また逆に金型硬さを低くすれば水冷孔からの割れに対しては有利となる一方で、ヒートチェックに対しては不利となり、耐ヒートチェック性は悪化してしまう。
上記水冷孔からの割れを抑制する観点からは、金型硬さをHRC47未満としておくことが望ましい。
従来、アルミニウムダイカスト金型として、JIS−SKD61に代表される5Cr系熱間工具鋼が主として使用されて来たが、近年ではキャビティ面に発生するヒートチェックを抑制するために使用硬さが高くなって来ており、かかる5Cr系熱間工具鋼を用いた金型にあっては、アルミニウムダイカスト製品の製造のハイサイクル化に伴って水冷孔から割れる危険性が増大している。
従来、アルミニウムダイカスト金型として、JIS−SKD61に代表される5Cr系熱間工具鋼が主として使用されて来たが、近年ではキャビティ面に発生するヒートチェックを抑制するために使用硬さが高くなって来ており、かかる5Cr系熱間工具鋼を用いた金型にあっては、アルミニウムダイカスト製品の製造のハイサイクル化に伴って水冷孔から割れる危険性が増大している。
上記JIS−SKD61の場合Cを0.4%程度含有しており、焼入れ状態で硬さが例えばHRC53程度となる。
そこで水冷孔からの割れを抑制するために、その硬さをHRC47未満に低下させようとすると、600℃以上の高温での焼なましを行うことが必要となる。
そこで水冷孔からの割れを抑制するために、その硬さをHRC47未満に低下させようとすると、600℃以上の高温での焼なましを行うことが必要となる。
ところがこのような高温での焼なましを行うと耐食性が著しく低下してしまう。
この材料にはCrが5%程度含まれており、本来耐食性が良好な材料であるが、600℃以上の高温で焼なましを行うと、含有されているCrの殆どが高温焼戻しによってCr炭化物として析出してしまい、含有されているCrが耐食性の向上に寄与しなくなってしまう。
この材料にはCrが5%程度含まれており、本来耐食性が良好な材料であるが、600℃以上の高温で焼なましを行うと、含有されているCrの殆どが高温焼戻しによってCr炭化物として析出してしまい、含有されているCrが耐食性の向上に寄与しなくなってしまう。
何れにしてもアルミニウムダイカスト金型として主として用いられて来たJIS−SKD61に代表される鋼では、水冷孔からの割れの問題を良好に解決できない。
水冷孔からの割れの問題とキャビティ面におけるヒートチェックの問題の何れをも良好に解決するためには、水冷孔内で発生する錆を防止するとともに、水冷孔の存在する金型内部の硬さを低くし、一方でヒートチェックが発生する金型のキャビティ面の硬さを高くすることが有効であるが、そうした相反する特性を満たす材料は従来提供されていなかった。
水冷孔からの割れの問題とキャビティ面におけるヒートチェックの問題の何れをも良好に解決するためには、水冷孔内で発生する錆を防止するとともに、水冷孔の存在する金型内部の硬さを低くし、一方でヒートチェックが発生する金型のキャビティ面の硬さを高くすることが有効であるが、そうした相反する特性を満たす材料は従来提供されていなかった。
このような事情の下で、上記課題を解決することを狙いとした金型用鋼が下記特許文献1において開示されている。
この特許文献1に開示の金型用鋼は、Cの含有量を少なくする一方でCr,Mo含有量を多くした点を特徴としている。
この特許文献1に開示の金型用鋼では、C含有量を低減し、500℃以下の低温焼きなましで水冷孔からの割れが発生し難い低硬度が得られるようにする一方、Moを適量添加することにより、アルミニウム溶湯からの熱を利用して金型キャビティ面を部分的に硬くするようになしている。
この特許文献1に開示の金型用鋼は、Cの含有量を少なくする一方でCr,Mo含有量を多くした点を特徴としている。
この特許文献1に開示の金型用鋼では、C含有量を低減し、500℃以下の低温焼きなましで水冷孔からの割れが発生し難い低硬度が得られるようにする一方、Moを適量添加することにより、アルミニウム溶湯からの熱を利用して金型キャビティ面を部分的に硬くするようになしている。
Moはアルミニウム溶湯からの熱によりキャビティ面が加熱されることによって炭化物を析出し、キャビティ面の硬さを部分的に硬くする働きをなす。
即ち特許文献1に開示の金型用鋼は、金型使用中に時効硬化によってキャビティ面の硬さを硬くし、キャビティ面におけるヒートチェックを抑制するようにしている。
即ち特許文献1に開示の金型用鋼は、金型使用中に時効硬化によってキャビティ面の硬さを硬くし、キャビティ面におけるヒートチェックを抑制するようにしている。
そして特許文献1の金型用鋼では、低温での焼きなましによって金型の硬さを低くする一方で、多量に添加したCrが焼戻し時に炭化物として析出するのを防ぎ、多量に添加したCrをマトリックスに固溶した状態に保って鋼の耐食性を高め、そのことによって水冷孔での錆の発生及びこれを起点とした応力腐食割れを伴う水冷孔からの割れを抑制しつつ、Mo炭化物の析出による2次硬化にて金型のキャビティ面におけるヒートチェックを抑制するようにしている。
ところで、低C且つ高Crの鋼では、鋼組成によっては鋼組織中にデルタフェライト(以下、δフェライトと表記)が生じ易い問題のあることが判明した。
このδフェライトは溶湯の凝固時に析出するものと考えられるが、一旦析出したδフェライトは、金型用ブロック素材の熱間加工工程や金型の焼入れでも消失しない。このようにして金型に残存したδフェライトは破壊の起点となり、金型の靭性を低下させる。
このδフェライトは溶湯の凝固時に析出するものと考えられるが、一旦析出したδフェライトは、金型用ブロック素材の熱間加工工程や金型の焼入れでも消失しない。このようにして金型に残存したδフェライトは破壊の起点となり、金型の靭性を低下させる。
δフェライトは素材の軸方向(長手方向)に伸長している事が多く、このためδフェライトが存在する金型は、素材の軸方向と、軸方向に対し直交する方向とで靭性が大きく異なる。
従って金型として使用中に作用する力の方向によっては、金型が容易に破壊してしまうことがある。
それ故δフェライトを析出させないことが、金型寿命を安定化する上で重要となる。
従って金型として使用中に作用する力の方向によっては、金型が容易に破壊してしまうことがある。
それ故δフェライトを析出させないことが、金型寿命を安定化する上で重要となる。
本発明は以上のような事情を背景とし、耐ヒートチェック性に優れ且つ水冷孔からの割れを良好に抑制しつつ、δフェライトの析出による金型寿命の不安定化の問題を解決し、金型寿命を安定化することのできるダイカスト用の金型用鋼を提供することを目的としてなされたものである。
而して請求項1のものは、質量%で0.10<C<0.22,0.10<Si<0.50,0.30<Mn<1.50,6.50<Cr<8.50,0.40<Mo<1.80,0.30<V<0.80,0.003<N<0.200であって、残部がFeと不可避的不純物から成り、以下の式(1)を満たすことを特徴とする。
X≧0・・・式(1)
但し
X=PN−(1.52PC−14)・・・式(2)
PC=Cr+Mo+1.5Si+5V・・・式(3)
PN=Ni+30C+0.5Mn+0.3Cu+25N・・・式(4)
とする(式中の元素記号は対応する元素の含有質量%を表す)。
X≧0・・・式(1)
但し
X=PN−(1.52PC−14)・・・式(2)
PC=Cr+Mo+1.5Si+5V・・・式(3)
PN=Ni+30C+0.5Mn+0.3Cu+25N・・・式(4)
とする(式中の元素記号は対応する元素の含有質量%を表す)。
請求項2のものは、請求項1において、質量%で0.30<Cu≦1.50,0.30<Ni≦2.00の少なくとも1種を更に含有していることを特徴とする。
請求項3のものは、請求項1,2の何れかにおいて、質量%で0.1<Al<0.7を更に含有していることを特徴とする。
請求項4のものは、請求項1〜3の何れかにおいて、質量%で0.10<W≦4.00,0.10<Co≦3.00の少なくとも1種を更に含有していることを特徴とする。
請求項5のものは、請求項1〜4の何れかにおいて、質量%で0.004<Nb≦0.100,0.004<Ta≦0.100,0.004<Ti≦0.100,0.004<Zr≦0.100の少なくとも1種を更に含有していることを特徴とする。
請求項6のものは、請求項1〜5の何れかにおいて、質量%で0.0001<B≦0.0050を更に含有していることを特徴とする。
請求項7のものは、請求項1〜6の何れかにおいて、質量%で0.003<S≦0.050,0.0005<Ca≦0.2000,0.03<Se≦0.50,0.005<Te≦0.100,0.01<Bi≦0.30,0.03<Pb≦0.50の少なくとも1種を更に含有していることを特徴とする。
請求項8のものは、請求項1〜7の何れかにおいて、焼入れ後に鋼を焼戻したときの硬さHRCの最小値Hmin及び最大値Hmaxが以下の式(5),式(6)を満たすことを特徴とする。
Hmin<47・・・式(5)
Hmax≧47・・・式(6)
但しHminは、鋼の小試験片を1030℃で1Hr均熱保持した後、550℃までを50℃/分以上で冷却かつ550℃から100℃以下までを20℃/分以上で冷却して焼入れし、200℃,300℃,400℃,450℃の各温度で1Hr均熱保持する焼戻し後に室温まで冷却し、HRC硬さを測定した時の最低値とし、Hmaxは、前記条件での焼入れ後、475℃,500℃,525℃,550℃,575℃の各温度で1Hr均熱保持する焼戻し後に室温まで冷却し、HRC硬さを測定した時の最大値とする。
Hmin<47・・・式(5)
Hmax≧47・・・式(6)
但しHminは、鋼の小試験片を1030℃で1Hr均熱保持した後、550℃までを50℃/分以上で冷却かつ550℃から100℃以下までを20℃/分以上で冷却して焼入れし、200℃,300℃,400℃,450℃の各温度で1Hr均熱保持する焼戻し後に室温まで冷却し、HRC硬さを測定した時の最低値とし、Hmaxは、前記条件での焼入れ後、475℃,500℃,525℃,550℃,575℃の各温度で1Hr均熱保持する焼戻し後に室温まで冷却し、HRC硬さを測定した時の最大値とする。
本発明者らはδフェライトを析出させないことが金型寿命を安定化する上で重要であるとの観点の下に、低C且つ高Crの成分系で、どのような条件の下でδフェライトが生成し易いかを研究した。
ステンレス鋼の分野においては、Cr当量とNi当量によってフェライトの生成のし易さの目安とする評価方法がある。
ここでCr当量はフェライト安定化の程度を、Ni当量はオーステナイト安定化の程度を示す。
同様の考え方がδフェライトの存否にも適用可能と考え、鋼の組成をCr当量に相当する以下のPCと、Ni当量に相当する以下のPNで整理し、δフェライトの発生状況との関連性を検証した。
ここでPCとPNとは以下の式(3),式(4)で表される。
尚、請求項1は、CuとNiを必須添加成分として含んでいないが、不可避的不純物として含まれ得るCu,Niの量が下記の式(4)に及ぼす影響が大きいため、式(4)には、Cu,Niの量も規定している。
PC=Cr+Mo+1.5Si+5V・・・式(3)
PN=Ni+30C+0.5Mn+0.3Cu+25N・・・式(4)
ここでCr当量はフェライト安定化の程度を、Ni当量はオーステナイト安定化の程度を示す。
同様の考え方がδフェライトの存否にも適用可能と考え、鋼の組成をCr当量に相当する以下のPCと、Ni当量に相当する以下のPNで整理し、δフェライトの発生状況との関連性を検証した。
ここでPCとPNとは以下の式(3),式(4)で表される。
尚、請求項1は、CuとNiを必須添加成分として含んでいないが、不可避的不純物として含まれ得るCu,Niの量が下記の式(4)に及ぼす影響が大きいため、式(4)には、Cu,Niの量も規定している。
PC=Cr+Mo+1.5Si+5V・・・式(3)
PN=Ni+30C+0.5Mn+0.3Cu+25N・・・式(4)
検証に用いた下記の表1に示す14鋼種は、以下の手順で製造した。まず、溶鋼を7ton(トン)のインゴットに鋳込んだ後、1250℃で均質化処理を施した。そして、熱間鍛造によって300×700mmの矩形断面のブロックに仕上げた。引き続き、1050℃に加熱して急冷する焼きならしと、700℃の加熱による焼戻しを施した。さらに、900℃に加熱した後に徐冷して焼き鈍した。
上記のブロックから切り出した素材(サイズは10mm×20mm×30mmの直方体)を1030℃に加熱し、急冷して焼入れた。そして、素材表面を滑らかに研磨した後、腐食して組織観察し、δフェライトの析出の有無を調べた。ここで組織観察は光学顕微鏡にて行った(倍率は200倍)。得られた結果が表1に示してある。
表1には、鋼の組成によるδフェライトの析出の有無をPC,PNの値とともに示してある。表1中「○」はδフェライト析出が無いことを、「×」はδフェライトが析出していたことを示す。
図1は、表1に示す結果を横軸にPC,縦軸にPNをとって、δフェライトの析出の有無をPC及びPNで整理して表したものである。
図1に示しているように、δフェライトの析出する領域と析出しない領域とが、図中破線で示す斜め右上りの直線Sを境として明確に分かれている。直線Sは図1からPN=1.52PC−14で表される。
つまりパラメータX=PN−(1.52PC−14)とすれば、X≧0でδフェライトが生じない、と判断できる。
本発明は以上の知見に基づいてなされたものである。
図1に示しているように、δフェライトの析出する領域と析出しない領域とが、図中破線で示す斜め右上りの直線Sを境として明確に分かれている。直線Sは図1からPN=1.52PC−14で表される。
つまりパラメータX=PN−(1.52PC−14)とすれば、X≧0でδフェライトが生じない、と判断できる。
本発明は以上の知見に基づいてなされたものである。
因みに表2は、特許文献1において表1中に開示されている各発明鋼の成分からPNとPCとXとを計算してそれらの値を示したものである。
同表に示しているように、何れの鋼もX≧0を満たしていない。以上から本発明の鋼は特許文献1に開示のものとは明らかに異なっている。
同表に示しているように、何れの鋼もX≧0を満たしていない。以上から本発明の鋼は特許文献1に開示のものとは明らかに異なっている。
以上のような本発明によれば、特許文献1に開示の先願発明の有する優れた耐ヒートチェック性能と耐水冷孔割れの性能とを保有しつつ、更に加えてδフェライトの析出の抑制により、金型寿命を安定化でき、金型寿命に対する信頼性を高めることができる。
次に本発明における化学成分等の限定理由を各請求項ごとに以下に詳しく説明する。
[請求項1における限定理由]
0.10<C<0.22
C≦0.10では、ヒートチェックの抑制に有効な47HRC以上の硬度を得ることが難しい。また、C≦0.10では、PNが小さくなることからδフェライトを生じやすい。
0.22≦Cでは、200〜450℃で焼戻した後の硬さが47HRCを超えるようになり、高硬度化すなわち靭性低下、という意味で割れ易くなる。
好適なCの範囲は、これらの特性のバランスに優れた0.13≦C≦0.21である。
[請求項1における限定理由]
0.10<C<0.22
C≦0.10では、ヒートチェックの抑制に有効な47HRC以上の硬度を得ることが難しい。また、C≦0.10では、PNが小さくなることからδフェライトを生じやすい。
0.22≦Cでは、200〜450℃で焼戻した後の硬さが47HRCを超えるようになり、高硬度化すなわち靭性低下、という意味で割れ易くなる。
好適なCの範囲は、これらの特性のバランスに優れた0.13≦C≦0.21である。
0.10<Si<0.50
Si≦0.10では、被削性の劣化が著しい。一方0.50≦Siでは、熱伝導率の低下が大きい。また、0.50≦Siでは、200〜450℃で焼戻した後の硬さが高くなり、高硬度化という意味で被削性を劣化させる。さらに、0.50≦SiではPCが大きくなることから、δフェライトを生じやすい。
好適なSiの範囲は、これらの特性のバランスに優れた0.20≦Si≦0.40である。
Si≦0.10では、被削性の劣化が著しい。一方0.50≦Siでは、熱伝導率の低下が大きい。また、0.50≦Siでは、200〜450℃で焼戻した後の硬さが高くなり、高硬度化という意味で被削性を劣化させる。さらに、0.50≦SiではPCが大きくなることから、δフェライトを生じやすい。
好適なSiの範囲は、これらの特性のバランスに優れた0.20≦Si≦0.40である。
0.30<Mn<1.50
Mn≦0.30ではPNが小さくなることから、δフェライトを生じやすい。また、Mn≦0.30では焼入れ性が不足し、大きな金型を焼入れた場合にフェライトやパーライトや粗大ベイナイトが析出しやすくなる。
一方1.50≦Mnでは、熱伝導率の低下が著しいだけでなく、焼きなましで充分に軟質化させることが困難になる。
好適なMnの範囲は、これらの特性のバランスに優れた0.50≦Mn≦1.30である。
Mn≦0.30ではPNが小さくなることから、δフェライトを生じやすい。また、Mn≦0.30では焼入れ性が不足し、大きな金型を焼入れた場合にフェライトやパーライトや粗大ベイナイトが析出しやすくなる。
一方1.50≦Mnでは、熱伝導率の低下が著しいだけでなく、焼きなましで充分に軟質化させることが困難になる。
好適なMnの範囲は、これらの特性のバランスに優れた0.50≦Mn≦1.30である。
6.50<Cr<8.50
Cr≦6.50では、耐食性を改善する効果が小さい。また、Cr≦6.50では焼入れ性が不足し、大きな金型を焼入れた場合にフェライトやパーライトや粗大ベイナイトが析出しやすくなる。
一方8.50≦Crでは、熱伝導率の低下が顕著である。また、8.50≦CrではPCが大きくなることから、δフェライトを生じやすい。
好適なCrの範囲は、これらのバランスに優れた7.00≦Cr≦8.20である。
Cr≦6.50では、耐食性を改善する効果が小さい。また、Cr≦6.50では焼入れ性が不足し、大きな金型を焼入れた場合にフェライトやパーライトや粗大ベイナイトが析出しやすくなる。
一方8.50≦Crでは、熱伝導率の低下が顕著である。また、8.50≦CrではPCが大きくなることから、δフェライトを生じやすい。
好適なCrの範囲は、これらのバランスに優れた7.00≦Cr≦8.20である。
0.40<Mo<1.80
Mo≦0.40では、ヒートチェックの抑制に有効な47HRC以上の硬度を得ることが難しい。
一方1.80≦Moでは、硬度上昇の効果が飽和する。また、1.80≦Moでは破壊靭性値の低下が著しい。さらに、1.80≦MoではPCが大きくなることからδフェライトを生じやすい。
好適なMoの範囲は、これらのバランスに優れた0.60≦Cr≦1.70である。
Mo≦0.40では、ヒートチェックの抑制に有効な47HRC以上の硬度を得ることが難しい。
一方1.80≦Moでは、硬度上昇の効果が飽和する。また、1.80≦Moでは破壊靭性値の低下が著しい。さらに、1.80≦MoではPCが大きくなることからδフェライトを生じやすい。
好適なMoの範囲は、これらのバランスに優れた0.60≦Cr≦1.70である。
0.30<V<0.80
V≦0.30では、ヒートチェックの抑制に有効な47HRC以上の硬度を得ることが難しい。また、V≦0.30では、焼入れ時の炭化物や炭窒化物が少なくなるためオーステナイト結晶粒が粗大化し易く、焼戻し後の機械的性質に悪影響を及ぼす。
一方0.80≦Vでは、粗大な炭化物や炭窒化物を生じやすく、やはり機械的性質に悪影響を及ぼす。また、0.80≦Vでは、PCが大きくなることからδフェライトを生じやすい。
好適なVの範囲は、これらのバランスに優れた0.45≦V≦0.65である。
V≦0.30では、ヒートチェックの抑制に有効な47HRC以上の硬度を得ることが難しい。また、V≦0.30では、焼入れ時の炭化物や炭窒化物が少なくなるためオーステナイト結晶粒が粗大化し易く、焼戻し後の機械的性質に悪影響を及ぼす。
一方0.80≦Vでは、粗大な炭化物や炭窒化物を生じやすく、やはり機械的性質に悪影響を及ぼす。また、0.80≦Vでは、PCが大きくなることからδフェライトを生じやすい。
好適なVの範囲は、これらのバランスに優れた0.45≦V≦0.65である。
0.003<N<0.200
N≦0.003では、焼入れ時の炭化物や窒化物が少なくなるためオーステナイト結晶粒が粗大化し易く、焼戻し後の機械的性質に悪影響を及ぼす。また、N≦0.003ではPNが小さくなることからδフェライトを生じやすい。
一方0.200≦Nでは、粗大な炭化物や炭窒化物を生じやすく、機械的性質に悪影響を及ぼす。
好適なNの範囲は、これらのバランスに優れた0.006≦N≦0.180である。
N≦0.003では、焼入れ時の炭化物や窒化物が少なくなるためオーステナイト結晶粒が粗大化し易く、焼戻し後の機械的性質に悪影響を及ぼす。また、N≦0.003ではPNが小さくなることからδフェライトを生じやすい。
一方0.200≦Nでは、粗大な炭化物や炭窒化物を生じやすく、機械的性質に悪影響を及ぼす。
好適なNの範囲は、これらのバランスに優れた0.006≦N≦0.180である。
尚本発明の不可避的不純物としては以下のものが含まれ得る(数値は質量%)。
P≦0.05
S≦0.003
Cu≦0.30
Ni≦0.30
Al≦0.10
W≦0.10
O≦0.01
Co≦0.10
Nb≦0.004
Ta≦0.004
Ti≦0.004
Zr≦0.004
B≦0.0001
Ca≦0.0005
Se≦0.03
Te≦0.005
Bi≦0.01
Pb≦0.03
Mg≦0.02
P≦0.05
S≦0.003
Cu≦0.30
Ni≦0.30
Al≦0.10
W≦0.10
O≦0.01
Co≦0.10
Nb≦0.004
Ta≦0.004
Ti≦0.004
Zr≦0.004
B≦0.0001
Ca≦0.0005
Se≦0.03
Te≦0.005
Bi≦0.01
Pb≦0.03
Mg≦0.02
[請求項2における限定理由]
0.30<Cu≦1.50
0.30<Ni≦2.00
PNを更に大きくしてδフェライトをより発生し難くするため、Cu-Niを選択的に添加することができる。
これら元素の添加は焼入れ性の向上にも有効で、非常に大きな金型を冷却強度の弱い焼入れ方法で処理した場合にも、フェライトやパーライトや粗大ベイナイトの析出を回避できる。具体的には、0.30<Cu≦1.50,0.30<Ni≦2.00の少なくとも1元素を含有させれば良い。
Cuには時効析出で硬度を高める効果もあり、特に低Cの場合には、ヒートチェックの抑制に有効な47HRC以上の硬度を得る手段としてCu添加は有効である。
好適なCuとNi範囲は、0.50≦Cu≦1.20,0.50≦Ni≦1.80である。いずれの元素も、所定量を越えると著しいコスト上昇を招くだけでなく、焼きなましによる軟質化が著しく困難になる。
0.30<Cu≦1.50
0.30<Ni≦2.00
PNを更に大きくしてδフェライトをより発生し難くするため、Cu-Niを選択的に添加することができる。
これら元素の添加は焼入れ性の向上にも有効で、非常に大きな金型を冷却強度の弱い焼入れ方法で処理した場合にも、フェライトやパーライトや粗大ベイナイトの析出を回避できる。具体的には、0.30<Cu≦1.50,0.30<Ni≦2.00の少なくとも1元素を含有させれば良い。
Cuには時効析出で硬度を高める効果もあり、特に低Cの場合には、ヒートチェックの抑制に有効な47HRC以上の硬度を得る手段としてCu添加は有効である。
好適なCuとNi範囲は、0.50≦Cu≦1.20,0.50≦Ni≦1.80である。いずれの元素も、所定量を越えると著しいコスト上昇を招くだけでなく、焼きなましによる軟質化が著しく困難になる。
[請求項3における限定理由]
0.10<Al<0.70
本発明鋼は低Cのため、ヒートチェックの抑制に有効な47HRC以上の確保が難しい事もある。そのような場合に、Alを添加し、NiとAlから成る金属間化合物を析出させ、硬度を確保することができる。具体的には、0.10<Al<0.70を含有させることができる。AlはNと化合物を形成し、焼入れ時のオーステナイト結晶粒の成長を抑制する効果もある。
Alを過度に添加すると、靭性や熱伝導率が低下する。
0.10<Al<0.70
本発明鋼は低Cのため、ヒートチェックの抑制に有効な47HRC以上の確保が難しい事もある。そのような場合に、Alを添加し、NiとAlから成る金属間化合物を析出させ、硬度を確保することができる。具体的には、0.10<Al<0.70を含有させることができる。AlはNと化合物を形成し、焼入れ時のオーステナイト結晶粒の成長を抑制する効果もある。
Alを過度に添加すると、靭性や熱伝導率が低下する。
[請求項4における限定理由]
0.10<W≦4.00
0.10<Co≦3.00
本発明鋼は低Cのため、ヒートチェックの抑制に有効な47HRC以上の確保が難しい事もある。そのような場合には、WやCoを選択的に添加し、強度確保を図ればよい。Wは、炭化物の析出によって強度を上げる。Coは、母材への固溶によって強度を上げると同時に、炭化物形態の変化を介して析出硬化にも寄与する。具体的には、0.10<W≦4.00,0.10<Co≦3.00の少なくとも1元素を含有させれば良い。
いずれの元素も、所定量を越えると、高硬度化という意味で被削性や靭性を劣化させる。また、著しいコスト増を招く。
好適な範囲は、0.30≦W≦3.00,0.30≦Co≦2.00である。
0.10<W≦4.00
0.10<Co≦3.00
本発明鋼は低Cのため、ヒートチェックの抑制に有効な47HRC以上の確保が難しい事もある。そのような場合には、WやCoを選択的に添加し、強度確保を図ればよい。Wは、炭化物の析出によって強度を上げる。Coは、母材への固溶によって強度を上げると同時に、炭化物形態の変化を介して析出硬化にも寄与する。具体的には、0.10<W≦4.00,0.10<Co≦3.00の少なくとも1元素を含有させれば良い。
いずれの元素も、所定量を越えると、高硬度化という意味で被削性や靭性を劣化させる。また、著しいコスト増を招く。
好適な範囲は、0.30≦W≦3.00,0.30≦Co≦2.00である。
[請求項5における限定理由]
0.004<Nb≦0.100
0.004<Ta≦0.100
0.004<Ti≦0.100
0.004<Zr≦0.100
予期せぬ設備トラブルなどによって、焼入れ加熱温度が高くなったり焼入れ加熱時間が長くなれば、結晶粒の粗大化による各種特性の劣化が懸念される。そのような場合に備え、Nb-Ta-Ti-Zrを選択的に添加し、これらの元素が形成する微細な析出物でオーステナイト結晶粒の粗大化を抑制することが出来る。具体的には、0.004<Nb≦0.100,0.004<Ta≦0.100,0.004<Ti≦0.100,0.004<Zr≦0.100の少なくとも1元素を含有させる。
いずれの元素も、所定量を越えると炭化物や窒化物や酸化物が過度に生成し、衝撃値や疲労強度の低下を招く。
0.004<Nb≦0.100
0.004<Ta≦0.100
0.004<Ti≦0.100
0.004<Zr≦0.100
予期せぬ設備トラブルなどによって、焼入れ加熱温度が高くなったり焼入れ加熱時間が長くなれば、結晶粒の粗大化による各種特性の劣化が懸念される。そのような場合に備え、Nb-Ta-Ti-Zrを選択的に添加し、これらの元素が形成する微細な析出物でオーステナイト結晶粒の粗大化を抑制することが出来る。具体的には、0.004<Nb≦0.100,0.004<Ta≦0.100,0.004<Ti≦0.100,0.004<Zr≦0.100の少なくとも1元素を含有させる。
いずれの元素も、所定量を越えると炭化物や窒化物や酸化物が過度に生成し、衝撃値や疲労強度の低下を招く。
[請求項6における限定理由]
0.0001<B≦0.0050
焼入れ性の改善策として、Bの添加も有効である。具体的には、0.0001<B≦0.0050を含有させる。
なお、BはBNを形成すると焼入れ性の向上効果が無くなるため、鋼中にB単独で存在させる必要がある。具体的には、BよりもNとの親和力が強い元素で窒化物を形成させ、BとNを結合させなければ良い。そのような元素の例としては、請求項5に列挙された各元素が挙げられる。請求項5の元素は不純物レベルで存在してもNを固定する効果はあるが、N量によっては請求項5の範囲を添加する場合もある。
0.0001<B≦0.0050
焼入れ性の改善策として、Bの添加も有効である。具体的には、0.0001<B≦0.0050を含有させる。
なお、BはBNを形成すると焼入れ性の向上効果が無くなるため、鋼中にB単独で存在させる必要がある。具体的には、BよりもNとの親和力が強い元素で窒化物を形成させ、BとNを結合させなければ良い。そのような元素の例としては、請求項5に列挙された各元素が挙げられる。請求項5の元素は不純物レベルで存在してもNを固定する効果はあるが、N量によっては請求項5の範囲を添加する場合もある。
[請求項7における限定理由]
0.003<S≦0.050
0.0005<Ca≦0.2000
0.03<Se≦0.50
0.005<Te≦0.100
0.01<Bi≦0.30
0.03<Pb≦0.50
本発明鋼は、ダイカスト金型に用いられる熱間ダイス鋼の代表であるSKD61(1.0Si)に比べてSi量が少ない(0.1<Si<0.5)ため、被削性もSKD61よりやや劣る傾向にある。このような問題への対処として、S-Ca-Se-Te-Bi-Pbを選択的に添加し、被削性を改善すれば良い。具体的には、0.003<S≦0.050,0.0005<Ca≦0.2000,0.03<Se≦0.50,0.005<Te≦0.100,0.01<Bi≦0.30,0.03<Pb≦0.50の少なくとも1元素を含有させれば良い。
いずれの元素も、所定量を越えた場合は被削性の飽和と熱間加工性の劣化、靭性の低下を招く。
0.003<S≦0.050
0.0005<Ca≦0.2000
0.03<Se≦0.50
0.005<Te≦0.100
0.01<Bi≦0.30
0.03<Pb≦0.50
本発明鋼は、ダイカスト金型に用いられる熱間ダイス鋼の代表であるSKD61(1.0Si)に比べてSi量が少ない(0.1<Si<0.5)ため、被削性もSKD61よりやや劣る傾向にある。このような問題への対処として、S-Ca-Se-Te-Bi-Pbを選択的に添加し、被削性を改善すれば良い。具体的には、0.003<S≦0.050,0.0005<Ca≦0.2000,0.03<Se≦0.50,0.005<Te≦0.100,0.01<Bi≦0.30,0.03<Pb≦0.50の少なくとも1元素を含有させれば良い。
いずれの元素も、所定量を越えた場合は被削性の飽和と熱間加工性の劣化、靭性の低下を招く。
[請求項8の限定理由]
本発明鋼は200℃〜450℃の低温で焼戻し、Cr炭化物の過度な析出を抑制して耐食性を確保すると同時に、軟質で高靭性な状態で使う事を特徴の1つとする。この低温での焼戻し後の硬さは47HRC未満とするのが好適である。47HRC以上では、金型形状への機械加工が困難になる。また、47HRC以上では靭性の確保が困難となるため、ダイカスト金型となった場合に大割れの危険性が高まる。そこで、小試験片を用い、焼入れした後に200℃〜450℃で焼戻した時の硬さが47HRC未満であること、を規定した。
尚ここでの硬さは小試験片としてサイズが10mm×20mm×30mmの直方体のものを用いたときの硬さとする。
本発明鋼は200℃〜450℃の低温で焼戻し、Cr炭化物の過度な析出を抑制して耐食性を確保すると同時に、軟質で高靭性な状態で使う事を特徴の1つとする。この低温での焼戻し後の硬さは47HRC未満とするのが好適である。47HRC以上では、金型形状への機械加工が困難になる。また、47HRC以上では靭性の確保が困難となるため、ダイカスト金型となった場合に大割れの危険性が高まる。そこで、小試験片を用い、焼入れした後に200℃〜450℃で焼戻した時の硬さが47HRC未満であること、を規定した。
尚ここでの硬さは小試験片としてサイズが10mm×20mm×30mmの直方体のものを用いたときの硬さとする。
本発明鋼のもう1つの特徴は、ダイカスト中にAl溶湯で加熱された金型表面(キャビティ面)を硬化させ、ヒートチェックの発生を抑制することである(表面から深い部位の硬さは不変)。
ヒートチェックの抑制に必要な表面硬さは47HRC以上である。
ダイカストでは、金型表面の最高到達温度が475℃〜575℃である場合が多い。そこで、焼入れ後に475℃〜575℃で加熱した時の硬さを47HRC以上とするのが好適であること、を規定した。
ヒートチェックの抑制に必要な表面硬さは47HRC以上である。
ダイカストでは、金型表面の最高到達温度が475℃〜575℃である場合が多い。そこで、焼入れ後に475℃〜575℃で加熱した時の硬さを47HRC以上とするのが好適であること、を規定した。
次に本発明の実施例を以下に詳しくは説明する。
表3に示す化学組成の22種の鋼を溶解して溶鋼を7tonのインゴットに鋳込んだ後、1250℃で均質化処理を施した。そして、熱間鍛造によって300×700mmの矩形断面のブロックに仕上げた。引き続き、1050℃に加熱して急冷する焼きならしと、700℃の加熱による焼戻しを施した。さらに、900℃に加熱した後に徐冷して焼き鈍した。
表3に示す化学組成の22種の鋼を溶解して溶鋼を7tonのインゴットに鋳込んだ後、1250℃で均質化処理を施した。そして、熱間鍛造によって300×700mmの矩形断面のブロックに仕上げた。引き続き、1050℃に加熱して急冷する焼きならしと、700℃の加熱による焼戻しを施した。さらに、900℃に加熱した後に徐冷して焼き鈍した。
上記のブロックから素材を切り出し、請求項8に規定される処理によってHminとHmaxを調査した。また、ブロックの長手方向(L方向)と幅方向(T方向)から衝撃試験片を作成し、それらを1030℃に加熱した後に急冷し、引き続き300℃で焼戻して室温でシャルピー衝撃試験を行って衝撃値を評価した(試験片は2mmUノッチのJIS3号試験片を用いた)。
このようにして調査したHminとHmax、L方向とT方向の衝撃値を表4に示した。
このようにして調査したHminとHmax、L方向とT方向の衝撃値を表4に示した。
表3において、比較鋼は請求項1に規定する化学成分及びXのうちの少なくとも何れかが本発明の範囲から外れている。例えば、比較鋼17ではCr量及びMo量が過剰であるとともにパラメータXがマイナスで本発明の範囲を満たしていない。比較鋼22ではC量が過剰で、その結果Hminが高い。Xがマイナスで本発明の条件を満たさない比較鋼17〜19および比較鋼23,24では、δフェライトが観察された。尚、比較鋼23,24は、請求項1の成分規定を満たすが、請求項1の式(1)を満たさない。
表3に示した鋼を粗切削加工して得た金型を焼入れ、300℃で焼戻した後に仕上げ切削した際の加工性と、このようにして製造した型を装置に組み付けて30000ショットのダイカスト鋳造をおこなった時のヒートチェック、水冷孔割れ、大割れを比較した。結果が表5に示してある。
加工性は、工具寿命に問題が無く高効率で切削できた場合を「○」、工具寿命が短く加工効率も悪い場合を「×」とした。
ヒートチェックは、軽微な場合を「○」、かなり目立つが製品への極端な悪影響が無い場合を「△」、非常に損傷が激しく製品への転写が問題になるレベルを「×」とした。
水冷孔割れは、亀裂の進展があまり見られない場合を「○」、キャビティ面(意匠面)近くまで亀裂が進展している場合を「×」とした。
大割れは、金型コーナー部の割れが浅い場合を「○」、割れが深く入った場合を「×」とした。
ヒートチェックは、軽微な場合を「○」、かなり目立つが製品への極端な悪影響が無い場合を「△」、非常に損傷が激しく製品への転写が問題になるレベルを「×」とした。
水冷孔割れは、亀裂の進展があまり見られない場合を「○」、キャビティ面(意匠面)近くまで亀裂が進展している場合を「×」とした。
大割れは、金型コーナー部の割れが浅い場合を「○」、割れが深く入った場合を「×」とした。
表5に示すように、比較鋼には少なくとも1項目の「×」がある。鋼17と鋼18は大割れが「×」であるが、これはδフェライトの存在によって特定方向の衝撃値が低い事による。実際、衝撃値のT方向とL方向の比は0.8以下である。
鋼19のヒートチェックが「×」の理由は、Mo,Vが不純物レベルで過少であり、硬さHmax即ちキャビティ面の硬さが39HRC程度と低いためである。ただし、Hmax及びHminが低硬度であるため大割れは回避できている。とは言え、δフェライトの存在によって衝撃値のT方向とL方向の比が0.8以下と低いため、鋳造条件によっては大割れが懸念される。
鋼19のヒートチェックが「×」の理由は、Mo,Vが不純物レベルで過少であり、硬さHmax即ちキャビティ面の硬さが39HRC程度と低いためである。ただし、Hmax及びHminが低硬度であるため大割れは回避できている。とは言え、δフェライトの存在によって衝撃値のT方向とL方向の比が0.8以下と低いため、鋳造条件によっては大割れが懸念される。
鋼20は加工性と大割れが「×」であるが、C,Siが過剰でHminが52HRC程度と硬い事が理由である。鋼21も同様にHminの値が大で硬いために加工性と大割れが「×」、Cr量が少ないために水冷孔割れが「×」である。鋼23,24は大割れが「×」であるが、この理由はX≦0であるため、δフェライトが存在し、衝撃値のL方向とT方向の比が0.8以下と低いためであるからだと考えられる。
これに対し、本発明鋼は全ての項目が「○」である。これは、Hminが47HRC以下であること、Hmaxが47HRCを超える事、Cr量が多く耐食性が良い事、いずれの方向においても高衝撃値であること、が理由である。
これに対し、本発明鋼は全ての項目が「○」である。これは、Hminが47HRC以下であること、Hmaxが47HRCを超える事、Cr量が多く耐食性が良い事、いずれの方向においても高衝撃値であること、が理由である。
以上本発明の実施例を詳述したがこれはあくまで一例示であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた態様で実施可能である。
Claims (8)
- 質量%で
0.10<C<0.22
0.10<Si<0.50
0.30<Mn<1.50
6.50<Cr<8.50
0.40<Mo<1.80
0.30<V<0.80
0.003<N<0.200
であって、残部がFeと不可避的不純物から成り、以下の式(1)を満たすことを特徴とするヒートチェックと水冷孔割れを抑制する金型用鋼。
X≧0・・・式(1)
但し
X=PN−(1.52PC−14)・・・式(2)
PC=Cr+Mo+1.5Si+5V・・・式(3)
PN=Ni+30C+0.5Mn+0.3Cu+25N・・・式(4)
とする(式中の元素記号は対応する元素の含有質量%を表す)。 - 請求項1において、質量%で
0.30<Cu≦1.50
0.30<Ni≦2.00
の少なくとも1種を更に含有していることを特徴とするヒートチェックと水冷孔割れを抑制する金型用鋼。 - 請求項1,2の何れかにおいて、質量%で
0.1<Al<0.7
を更に含有していることを特徴とするヒートチェックと水冷孔割れを抑制する金型用鋼。 - 請求項1〜3の何れかにおいて、質量%で
0.10<W≦4.00
0.10<Co≦3.00
の少なくとも1種を更に含有していることを特徴とするヒートチェックと水冷孔割れを抑制する金型用鋼。 - 請求項1〜4の何れかにおいて、質量%で
0.004<Nb≦0.100
0.004<Ta≦0.100
0.004<Ti≦0.100
0.004<Zr≦0.100
の少なくとも1種を更に含有していることを特徴とするヒートチェックと水冷孔割れを抑制する金型用鋼。 - 請求項1〜5の何れかにおいて、質量%で
0.0001<B≦0.0050
を更に含有していることを特徴とするヒートチェックと水冷孔割れを抑制する金型用鋼。 - 請求項1〜6の何れかにおいて、質量%で
0.003<S≦0.050
0.0005<Ca≦0.2000
0.03<Se≦0.50
0.005<Te≦0.100
0.01<Bi≦0.30
0.03<Pb≦0.50
の少なくとも1種を更に含有していることを特徴とするヒートチェックと水冷孔割れを抑制する金型用鋼。 - 請求項1〜7の何れかにおいて、焼入れ後に鋼を焼戻したときの硬さHRCの最小値Hmin及び最大値Hmaxが以下の式(5),式(6)を満たすことを特徴とするヒートチェックと水冷孔割れを抑制する金型用鋼。
Hmin<47・・・式(5)
Hmax≧47・・・式(6)
但しHminは、鋼の小試験片を1030℃で1Hr均熱保持した後、550℃までを50℃/分以上で冷却かつ550℃から100℃以下までを20℃/分以上で冷却して焼入れし、200℃,300℃,400℃,450℃の各温度で1Hr均熱保持する焼戻し後に室温まで冷却し、HRC硬さを測定した時の最低値とし、
Hmaxは、前記条件での焼入れ後、475℃,500℃,525℃,550℃,575℃の各温度で1Hr均熱保持する焼戻し後に室温まで冷却し、HRC硬さを測定した時の最大値とする。
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JP2020537038A (ja) * | 2017-10-09 | 2020-12-17 | ウッデホルムズ アーベー | 熱間加工工具に適した鋼 |
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- 2013-03-27 JP JP2013067400A patent/JP2014189853A/ja active Pending
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