JP4947635B2 - 同期式タップ - Google Patents

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本願発明は、工作機械によって回転と同期して送り移動されてめねじの加工を行う切削タップに関する。
切削タップは更なる高能率化のため、工作機械を使用して回転と完全同期して送り移動させて高速切削することがアルミ等の延削材のめねじ加工に適用されている。また、近年、上記高速切削を鋼に応用することが行われており、そのような切削タップとして、タップの振れを極力抑え、高速加工に適用させたもの(特許文献1参照)がある。タップ母材の超硬合金の表面に耐摩耗性の膜を被覆して高速加工に適用させたもの(特許文献2参照)がある。
特表2006−519113号公報 特表2006−519114号公報
切削タップは、回転と送りにより切削速度が決まるため、高速加工を行うと切れ刃に負担が大きく、構造用鋼やHRC50以上の高硬度鋼等の鋼のめねじ加工ではチッピングや欠損に対して不十分であった。高速加工を行うと切り屑が溝の中で延びやすく、切り屑が詰まりやすく、それにより折損や欠損を生ずるという問題があった。本願発明は以上のような背景のもとになされたものであり、工作機械を使用して回転と送りが完全同期して高速切削する同期式タップの鋼加工において、切れ刃のチッピングや摩耗を抑制しつつ、切り屑処理を向上させ、安定したねじ立てを行うことを目的とする。
本願発明は、工作機械によって回転と同期して送り移動されねじ部の切れ刃で切削加工を行う同期式タップにおいて、前記ねじ部の溝は、軸直角断面で、切れ刃から、すくい面、溝底曲面、背面と構成され、前記すくい面のすくい角は0°〜−20°とし、前記溝底曲面は、その曲率半径がタップ径の10%〜15%とし、すくい面長さの端より、80°〜120°の円弧面を設け、前記背面は、溝幅比0.6〜0.8で設けたヒールに向かい、その曲率半径がタップ径の30%〜50%、としたことを特徴とする同期式タップである。本願発明を適用することにより、安定したねじ立てを行うことができる。更に、前記ねじ部のすくい角は、食い付き部から完全ねじ部へ向かうに従って、5°の範囲内で、0°側へ変化させた同期式タップであり、前記すくい面長さは、前記食付き部の先端に位置する山でタップ径の8%〜12%、前記完全ねじ部の山でタップ径の10%〜15%とし、前記食付き部の山数を3〜5、前記ねじ部に硬さがHV30GPa以上の高硬度膜を被覆した同期式タップである。
本願発明によれば、構造用鋼やHRC50以上の高硬度鋼等の鋼加工で切れ刃のチッピングや摩耗を抑制し、切り屑処理を向上させて寿命を向上させた高速加工用の同期式タップを提供できた。
図1より、本願発明のタップは、シャンク1の一端にねじ部2を有し、ねじ部2に回転軸と平行に溝3が複数設けられ、ねじ部2の後端側に完全ねじ山部4、先端側に食付き部5を有する。完全ねじ山部4と食付き部5は切れ刃6を持ち、食付き部5の切れ刃が主にねじ山形状を形成する。更に、溝3は、図2に示すように、回転中心軸に直角断面視で、、切れ刃6から、すくい面7、溝底曲面8、背面9と構成する。
先ず、食付き部5のすくい角は、0°〜−20°に設ける。これにより、切れ刃強度を高め、鋼の切削においてチッピングを抑制することができる。一方すくい角が0°より大きいと、切れ刃強度が低下し、チッピングや欠損を招く。すくい角が−20°より小さいと切削トルクが過大となり、折損の可能性が高くなる。更に、すくい面7は、切り屑を溝底曲面8へ最短距離で流すため、直線状が好ましい。
次に、溝底曲面8の溝底曲率半径R1は、タップ径の10%〜15%に設け、溝底曲面8は、角度A1で示す80°〜120°に設ける。これにより、切れ刃6で生成された切り屑は、被削材により、例えば、アルミ等の延性の切り屑では、溝底曲率半径R1をタップ径の11%、角度A1は100°前後に設け、ブリハードン鋼等の比較的切り屑が分断されやすい被削材では、溝底曲率半径R1をタップ径の15%、角度A1は80°前後に設けて、溝底曲面8に到達してカールし、細かく分断されるので、切り屑長さを短くでき、切り屑詰まりを抑制し、折損や欠損、皮膜の剥離といった問題を回避できる。ここで、溝底曲率半径R1がタップ径の10%未満であると、切り屑が急激に屈曲するため、切り屑の流れが悪化して切り屑詰まりを招く。溝底曲率半径R1が15%を超えると、切り屑を十分にカールさせることができず、切り屑詰まりを抑制できない。更に、角度A1が80°未満であると、切り屑が十分カールせずに溝内に溜まり、切り屑詰まりを抑制できない。角度A1が120°を超えると、切り屑が溝底曲面と擦過する距離が長くなり、切り屑流れを阻害するため、切削トルクが増大し、折損の危険が高まる。
更に、溝幅比は、図2より、ヒール10の位置は、切れ刃6とヒール10とが回転軸を中心として成す角を溝幅角度A2、切れ刃6と切れ刃6より回転方向前方に位置する切れ刃11とが回転軸を中心として成す角を切れ刃間角度A3としたとき、溝幅比A2/A3であり、溝幅比0.6〜0.8となるように設ける。これにより、切り屑収容スペースを大きく設けることができる。溝幅比率が0.6未満であると、切り屑収容スペースが小さく、溝幅比が0.8を超えると、食付き部5のランドの強度が弱くなり、欠損を起こしやすい。更に、前記溝底曲面8の終端とヒールとを結んだ背面9は、図2より、曲率半径R2でタップ回転方向前方側に凸状に設けることにより、切り屑収容スペースをより大きく設けることができる。曲率半径R2はタップ径の30%〜50%とし、曲率半径R2が30%未満であると、切り屑収容スペースを拡げることができず、曲率半径R2が50%を超えると、隣合う切れ刃のすくい面との距離が小さくなる。食付き部5における曲率半径R2は、先端側から後端へ向かうに従って変化させず、背面の長さは、長くなるように設けることが好ましい。曲率半径R2が回転中心軸方向で変化しないため、タップが下穴の中へ入るに従って切り屑が溝内に溜まっても、切り屑は回転軸方向への移動を妨げられず、切り屑が下穴の奥へ落ちやすい。背面長さがタップ後端へ向かって長くなっているため、下穴の壁面とタップの逃げ面の間に切り屑が詰まるのを抑制でき、切り屑詰まりによる欠損や折損を抑制できる。
本願発明の実施態様として、本願発明の同期式タップにおいて、前記ねじ部のすくい角は、食い付き部から完全ねじ部へ向かうに従って、5°の範囲内で、0°側へ変化させたことにより、タップが下穴に入る際、不安定な先端側の切れ刃強度を高めることができ、チッピングを抑制できる。タップが下穴に入り、食付き部5の山が複数切削に関与すると切削トルクが大きくなるので、後端側のすくい角は0°側へ変化させると良い。また、剛性を高めるため、タップの溝底の径はタップの外径の45%〜55%の範囲に設ける。溝底の径が45%未満であると、剛性が不足し、高速加工では、振動、ビビリ等様々なトラブルを生じる。溝底の径が55%を超えると、溝3の深さが不足する。
次に、前記すくい面長さは、前記食付き部の先端に位置する山でタップ径の8%〜12%、前記完全ねじ部の山でタップ径の10%〜15%に設けることにより、切り屑を溝底へ向かって良好に流すことができ、溝底曲面を同じ状態にでき、切り屑をカールさせ、切り屑詰まりを抑制できる。すくい面長さが10%未満であると、切り屑収容スペースが小さくなり、すくい面長さが15%を超えると、タップ溝底の径が減少し、剛性が不足するので、すくい面長さは、前記の通りとした。
更に、前記食付き部の山数を3〜5としたのは、切れ刃の負担を軽減し、ねじ立ての能率を向上して高速でタップ立てを行うことができる。食付き部の山数が3未満であると、1山当たりの切れ刃の負担が増加し、摩耗が進行しやすく、切り屑が繋がって生成されて切り屑詰まりを起こしやすい。また、前記ねじ部に硬さがHV30GPa以上の高硬度膜を被覆することにより、切れ刃6を摩耗や欠損から保護する。以下、本願発明を実施例に基づいて説明する。
(実施例1)
本願発明の特性を評価するため、本発明例1〜20、比較例21〜31は、呼び寸法M8(外径8mm)、ピッチ1.25mm、溝数5、食付き部の山数5、溝は直溝のタップを用いて、溝底の径、食付き部のすくい角、すくい面長さL1、曲率半径R1、角度A1、曲率半径R2、溝幅比A2/A3を表1に示すものを作成した。基材は、組成がCo10重量%、WC平均粒径が0.8μmの超硬合金を用い、ねじ部の表面を、硬さHV35GPaのTiSiN膜で被覆した。
Figure 0004947635
切削試験は、被削材、硬さHRC50のSKD61を用い、予め径が6.9mm、深さが8mmの下穴(通り穴)を設け、タップの回転数を800min−1(切削速度20m/min)、送り速度を1000mm/minに設定し、同期送り機能付き縦型マシニングセンタにてねじ立てを行った。クーラントは、極圧添加剤入り油剤を外部給油にて用いた。切削試験は、ねじ部にチッピング、欠損、剥離等の不具合が生じた時の穴数を、表1に併記する。
表1より、本発明例1〜20は、いずれも50穴以上加工ができ、チッピングや欠損等を抑制して切り屑処理が良好に行われたと推察される。特に、すくい角が−5°〜−15°で、先端から後端へ向かって5°の範囲内で変化させたもの、すくい面長さL1が10%〜15%のもの、角度A1が90°〜120°の範囲のものである、本発明例2〜3、本発明例7〜8、本発明例14〜20は加工数が70を超え、良好な結果を示した。
図1は、本発明例の同期式タップの正面図を示す。 図2は、図1の軸直角断面の要部拡大図を示す。
符号の説明
1 シャンク
2 ねじ部
3 溝
4 完全ねじ山部
5 食付き部
6 切れ刃
7 すくい面
8 溝底曲面
9 背面
10 ヒール
11 回転方向前方に位置する切れ刃
R1 溝底の曲率半径
R2 背面の曲率半径
A1 溝底の曲率半径R1を設けた角度
A2 溝幅の角度
A3 切れ刃7と切れ刃11のなす角度
L1 すくい面長さ

Claims (5)

  1. 工作機械によって回転と同期して送り移動されねじ部の切れ刃で切削加工を行う同期式タップにおいて、前記ねじ部の溝は、軸直角断面で、切れ刃から、すくい面、溝底曲面、背面と構成され、前記すくい面のすくい角は0°〜−20°とし、前記溝底曲面は、その曲率半径がタップ径の10%〜15%とし、すくい面長さの端より、80°〜120°の円弧面を設け、前記背面は、溝幅比0.6〜0.8で設けたヒールに向かい、その曲率半径がタップ径の30%〜50%、としたことを特徴とする同期式タップ。
  2. 請求項1記載の同期式タップにおいて、前記ねじ部のすくい角は、食い付き部から完全ねじ部へ向かうに従って、5°の範囲内で、0°側へ変化させたことを特徴とする同期式タップ。
  3. 請求項1又は2記載の同期式タップにおいて、前記すくい面長さは、前記食付き部の先端に位置する山でタップ径の8%〜12%、前記完全ねじ部の山でタップ径の10%〜15%としたことを特徴とする同期式タップ。
  4. 請求項1乃至3いずれかに記載の同期式タップにおいて、前記食付き部の山数を3〜5としたことを特徴とする同期式タップ。
  5. 請求項1乃至4いずれかに記載の同期式タップにおいて、前記ねじ部に硬さがHV30GPa以上の高硬度膜を被覆したことを特徴とする同期式タップ。
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