JP4947608B2 - フラボノイド誘導体の抽出方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、特にシロアリの忌避に有効な昆虫忌避材料、及びその主成分であるフラボノイド誘導体を抽出する方法に関するものである。本発明の昆虫忌避材料は、木材等の植物より抽出されたフラボノイド誘導体という天然成分を主成分として含有している為、従来の合成薬剤等を用いた昆虫忌避材料に比べ、燃焼等の廃棄に伴う有害ガスの発生、環境破壊・環境汚染等の問題もなく、シロアリ等の昆虫類を有効に忌避できる点で極めて有用である。また、本発明の抽出方法によれば、水のみを用いたとしても、有効成分であるフラボノイド誘導体を収率良く抽出することができ、しかもその程度は、有機溶剤を用いた抽出方法と概ね同程度であり、且つ、有機溶剤を用いた場合に比べ、抽出操作が簡易で、有機溶剤の回収作業も不要である、等の効果も奏する点で、極めて有用である。
【0002】
【従来の技術】
建築物や木質材料等へのシロアリによる被害を防止する為に、従来では、主に木質材料等に防蟻剤を塗布・含浸したり、床下土壌表面へ防蟻剤を散布したり、或いは防蟻成分含有シート材料を敷設する等の方法が採用されていた。
【0003】
このうち防蟻剤を塗布または散布する方法は、VOC(volatile organic compound)の発生という問題を抱えている為、有害物質使用に対する規制が強まる風潮のなか、使用が厳しく制限される傾向にある。一方、防蟻剤を含浸する方法(主に無機成分や金属成分を有効成分として含有する加圧注入処理方法)を用いれば、防蟻剤を塗布・散布する場合に見られたVOC発生問題は生じないものの、これら防蟻剤の廃棄に伴う環境汚染(例えば燃焼に伴う無機成分または重金属を含有する灰の発生等)をどの様に解決するかが新たな問題として提起される。更に従来の防蟻剤のなかには、近年問題となっている環境ホルモン様物質が含まれていることが指摘され、魚類を始めとする環境生物への悪影響、ひいては環境破壊への懸念が生じている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記事情に着目してなされたものであり、その目的は、人体や環境への悪影響がなく一定期間経過の後速やかに分解・消失するため蓄積性等の問題もなく安全で、しかも取扱いも容易な新規な昆虫忌避材料、及びその主成分であるフラボノイド誘導体を効率よく抽出する方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記課題を達成し得た本発明の昆虫忌避材料は、主成分としてフラボノイド誘導体を含有する点、特に植物より抽出されたフラボノイド誘導体を含有するところに要旨を有するものである。本発明において、上記フラボノイド誘導体がタキシフォリン、クエルセチン、ナリンゲニン、ミリセチン、アロマデンドリン、及びイソサクラチネンよりなる群から選択されるもの;上記フラボノイドを担体に担持させた忌避材料はいずれも好ましい態様である。本発明の昆虫忌避材料は、特にシロアリ忌避材料として有用である。
【0006】
また、上記課題を達成し得た本発明の抽出方法は、植物よりフラボノイド誘導体を抽出する方法であって、該植物から予め水可溶成分を除去した後、熱水で抽出するところに要旨を有するものである。
【0007】
【発明の実施の形態】
上述した通り、本発明の昆虫忌避材料は、主成分としてフラボノイド誘導体を含有するところに特徴を有するものである。上記フラボノイド誘導体はアカマツ、クロマツ、カラマツ等のマツ科の木材;バラ科の広葉樹等を始め植物界に広く分布しており、植物より抽出したフラボノイド誘導体を含有する忌避材料は本発明の範囲内に包含される。上記フラボノイド誘導体としては例えば下記の化合物が代表的に例示される。
【0008】
【化1】
Figure 0004947608
【0009】
本発明は、上記フラボノイド誘導体、特に植物より抽出されたフラボノイド誘導体が昆虫忌避材料、とりわけシロアリ忌避材料として有用であることを見出した点に最重要ポイントがあり、当該誘導体がこの様な作用を発揮することは今まで知られておらず新規である。フラボノイドについては、従来は、フラボノイド誘導体のうち例えばフラボノールは利尿作用のあるものが多いとか、瀉下作用、毛細血管強化作用を有するといった程度のことが知られているに過ぎないからである。
【0010】
本発明に用いられるフラボノイド誘導体は特に限定されず、例えばナリンゲニン、イソサクラチネン、サクラネチン等のフラバノン;タキシフォリン、アロマデンドリン等のフラバノノール;クエルセチン、ミリセチン、フィセチン等のフラボノール;ゲニステイン等のイソフラボン;フロレチン等のカルコン;ジヒドロカルコン;カテキン等のフラバノール;カテキン酸;フラボン;フラバン−3,4−ジオール;フラバン−3−オール;アントシアニジン;オーロン等が挙げられる。これらは単独で使用しても良いし2種以上を併用しても構わない。このうち忌避作用等の点で好ましいのは、ナリンゲニン、イソサクラチネン等のフラバノン;タキシフォリン、アロマデンドリン等のフラバノノール;クエルセチン、ミリセチン等のフラボノールであり、このなかでも更に好ましいのはタキシフォリン、クエルセチン、ナリンゲニン、ミリセチン、アロマデンドリン、イソサクラチネンであり、特に好ましいのはタキシフォリンである。
【0011】
本発明の忌避材料は、シロアリ等の昆虫を殺傷するのではなく、当該シロアリ等が、建築物等へ侵入したり木質材料へ接触することを阻止するものであり、これにより所望の効果が発揮される。この様に本発明はシロアリ等を忌避するものであって生態系に影響を及ぼすものではないから、自然界のサイクルを破壊する恐れがない点で環境にも配慮したものと言える。
【0012】
本発明によれば、植物より抽出したフラボノイドをそのまま使用することができる。或いは、フラボノイドを担体に担持させて使用しても良い。この担持方法は特に限定されず、通常用いられる方法を採用することができる。以下、マツ科の木材を用いた代表的な抽出方法について説明する。
【0013】
まず、マツ科木材のうち特に心材を水及び熱水、または有機溶媒で抽出する。このうち前者の方法、即ち、予め水可溶成分を除去した後、熱水で抽出する、という水−熱水抽出方法を採用すれば、後者の方法(メタノール等の有機溶剤で抽出する方法)と概ね同程度の収率レベルで、有効成分であるフラボノイド誘導体を抽出することができ、しかも、有機溶剤を用いた場合に比べ、抽出操作が簡易で、有機溶剤の回収作業も不要である、等の効果も奏する点で、極めて有用である。
【0014】
上記の水−熱水抽出方法について、図1に基づき、具体的に説明する。図1は、カラマツからフラボノイド誘導体を水−熱水で抽出する工程を示す概略図であるが、これは本発明の水−熱水抽出法の代表例を示すものであって、これに限定する趣旨では決してない。
【0015】
まず、カラマツ等のマツ科木材等の植物を粉状にし、篩にかけて直径0.5mm(32メッシュ)以上の粒子を除去して木粉を得る(図示せず)。
【0016】
次いで冷水処理する。具体的には、木粉に水を加え、室温(約20℃前後)で12〜48時間(より好ましくは18〜24時間)抽出する工程を1〜3回(より好ましくは1〜2回)繰返す。ここで、木粉と水の比率は、重量比率で概ね、1:3〜1:8(より好ましくは1:5〜1:6)とすることが推奨される。
【0017】
この様にして得られた抽出液を濾過する。木粉中に含まれる糖類等の水可溶成分は濾液に移行し、フラボノイド類は残渣に残留することになる。この残渣に水を加え、洗浄する。濾液と洗浄液を合わせて減圧留去し、凍結乾燥して淡褐色の粉末抽出物を得る。
【0018】
この様にして得られた冷水からの抽出残渣を更に熱水抽出する。具体的には、抽出残渣に水を加え、60〜90℃(より好ましくは70〜80℃)で24〜96時間(より好ましくは24〜48時間)抽出する。ここで、抽出残渣と水の比率は、重量比率で概ね、1:5〜1:15(より好ましくは1:8〜1:10)とすることが推奨される。
【0019】
得られた抽出液を濾過し、残渣を水で洗浄する。濾液と洗浄液を合わせ、溶媒を減圧留去し、凍結乾燥すると、フラボノイド誘導体を主に含有する濃褐色の粉末抽出物が得られる。
【0020】
この様にして得られた抽出物はそのまま使用しても良いし、水溶液や乳化剤等により水分散系の形で使用しても良い。更に、当該抽出物を担体へ直接担持し、強力なフィジカルバリアー(物理的障害)として使用することもできる。本発明に用いられる担体としては特に限定されず、ゼオライト、シラス、軽石粉砕物等の無機担体;活性炭、活性炭素繊維等の有機担体;吸水性ポリマー、ポリビニルアルコール、グリコールエーテル等の高分子担体等が挙げられる。
【0021】
また、上記抽出物を液体クロマトグラフィー等により精製し、得られた各フラボノイド成分を、水や有機溶媒で所定濃度に調整した後、そのまま使用したり、若しくは担体に担持して使用しても良い。或いは、上記フラボノイドをマイクロカプセル等に包埋させた態様で使用しても構わない。上記フラボノイドの濃度は、例えば担体に担持させる場合、担体に対し重量比で0.005%以上(より好ましくは0.05%以上)、10%以下(より好ましくは2%以下)に調整することが推奨される。また、担体を担持させずに抽出液を溶媒に希釈して使用する場合には3%以上(より好ましくは5%以上)に調整することが好ましい。
【0022】
本発明の忌避材料は上記フラボノイドを主成分として含有するものであり、その他、本発明の作用に悪影響を及ぼさない範囲で通常用いられる成分(固着剤、展着剤等)を添加することもできる。
【0023】
本発明の忌避材料を用いて昆虫の忌避を実施する具体的態様は以下の通りである。例えば水分散系の忌避材料であれば、床下土壌表面に散布したり木質材料に塗布して使用することができる。また、担体に担持させた忌避材料は、床下土壌表面に散布したり密閉空間に放置する等の方法が有用である。特にシロアリは、枠組壁工法住宅(所謂2×4工法住宅)やプレハブ住宅等の壁体内空間を侵入経路とするケースが多いことから、本発明の忌避材料を、当該壁体内空間に散布または投入する等の方法が有効である。また、近年の住宅は、居住空間の熱効率改善という目的で、多量の断熱材(発泡ウレタン、発泡スチレン等の発泡性樹脂等)を使用しているが、本発明の忌避材料は、これら断熱材製造段階で原料と混合しても良く、これにより、シロアリ等の昆虫を効率よく忌避することができる。上記発泡性樹脂は従来より特にシロアリが好んで営巣、活動することが知られており、本発明の忌避材料を用いれば、この様な発泡性樹脂の使用に基づく被害を完全に阻止できる点で極めて有用である。
【0024】
以下、実施例に基づいてこの発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例はこの発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することは全てこの発明の技術範囲に包含される。
【0025】
【実施例】
実施例1
実施例1及び後記する実施例2〜3は、フラボノイド抽出液を担体に担持させた忌避材料を用い、シロアリの忌避効果を調べたものである。
【0026】
マツ科カラマツ属のカラマツ心材を1mm以下の木粉にした後、水−熱水またはメタノールで抽出して得られた抽出物を精製し、タキシフォリンを得た。尚、「水−熱水による抽出法」及び「メタノールによる抽出法」の詳細は、後記する実施例5に記載の通りであり、「水−熱水による抽出法」における熱水抽出温度は80℃とした。
【0027】
この様にして得られたタキシフォリンを、ゼオライト(宇部興産製、粒度1.5〜3mm)に重量比で1%,0.5%,0.1%,0.05%のメタノール溶液となる様に含浸させた後、日本木材保存協会規格・第13号に規定する「土壌処理用防蟻剤の防蟻効力試験方法」に準拠した(処理区長さ3cm)土壌貫通による試験を実施した。散布量は3kg/m2とした。尚、比較の為に、ゼオライトのみの対照群についても同様に試験した。得られた結果を表1に示す。
【0028】
【表1】
Figure 0004947608
【0029】
表1の結果より、本発明忌避材料を担持せずゼオライトのみを用いた対照群(No.5)では、8時間以内にシロアリが全数貫通したのに対し、本発明の忌避材料をゼオライトに担持させたNo.1〜4では、シロアリの貫通を一部または完全に抑えることができた。特にタキシフォリン濃度が0.1%以上の場合には、シロアリの貫通は全く見られなかった。しかも、いずれの場合もシロアリは全数健全であり、生態系に全く悪影響を及ぼさないことも確認できた。
【0030】
実施例2
実施例1において、処理区長さを5cmとしたこと以外は実施例1と同様にして本発明のシロアリ忌避効果を調べた。尚、比較の為に、ゼオライトのみ対照群に加え、土壌のみの無処理群についても同様に試験した。得られた結果を表2に示す。
【0031】
【表2】
Figure 0004947608
【0032】
表2の結果より、本発明忌避材料を担持せずにゼオライトのみを用いた対照群(No.5)/土壌のみの無処理群(No.6)では、3日以内/1日以内にシロアリが全数貫通したのに対し、本発明の忌避材料をゼオライトに担持させたNo.1〜4では、シロアリの貫通を一部または完全に抑えることができた。特にタキシフォリン濃度が0.1%以上の場合には、シロアリの貫通は全く見られなかった。しかも、いずれの場合もシロアリは全数健全であり、生態系に全く悪影響を及ぼさないことも確認できた。
【0033】
実施例3
実施例1と同様に抽出し、液体クロマトグラフィーで精製することにより、含有量の多い順でタキシフォリン、アロマデンドリン、クエルセチンの三成分を主に含有する抽出液を得た。軽石の粉砕物(大江化学工業製「パミスター」、粒子径0.4〜2.4mm)に対し、上記三成分の合計量が重量比で0.5%,0.1%,0.05%のメタノール溶液となる様に含浸させた後、実施例1と同様にして試験した。得られた結果を表3に示す。
【0034】
【表3】
Figure 0004947608
【0035】
表3の結果より、上記三成分を主成分とする忌避材料を用いた場合には、0.05%以上の濃度でシロアリの貫通を完全に抑えられることが分かった。
【0036】
実施例4
本実施例は、フラボノイド抽出液を担体に担持させず直接使用し、シロアリの忌避効果を調べたものである。
【0037】
まず、実施例1と同様にして精製したタキシフォリンを、0.5%,0.1%,0.05%の濃度になる様メタノールで希釈した。得られた溶液を、日本木材保存協会規格・第11号に規定する「塗布・吹付け・浸せき処理用木材防蟻剤防蟻の防蟻効力試験方法」に準拠して試験を行った。尚、比較の為に、カラマツ心材のみ、アカマツ心材のみを用いた対照群についても同様に試験した。得られた結果を表4に示す。
【0038】
【表4】
Figure 0004947608
【0039】
表4の結果より、シロアリが好むアカマツを用いた場合(No.4)は、シロアリが積極的に食害したのに対し、本発明忌避材料を塗布ししたNo.1〜3は、いずれもシロアリの試験材への接近が少なく、その効果は、カラマツを用いた場合(No.5)と同程度に優れていた。
【0040】
実施例5
この実施例では、本発明による水−熱水抽出法による有用性を明らかにすべく、メタノールによる抽出法と比較検討した。
【0041】
まず、カラマツをWilleyミルで粉状にし、篩にかけて直径0.5mm(32メッシュ)以上の粒子を除去した。この木粉300gに脱イオン水(4.5dm3)を加え、室温(約20℃)で24時間抽出した。この様にして得られた抽出液を濾過し、残渣を脱イオン水で洗浄した。濾液と洗浄液を合わせ、30℃以下の温度で減圧留去し、凍結乾燥して冷水による淡褐色の粉末抽出物(CW−E)を得た。
【0042】
一方、冷水から抽出した残渣に脱イオン水6dm3を加え、表5に示す種々の温度(60℃、80℃、または100℃)で48時間抽出した。各抽出液を濾過した後、濾液と洗浄液を合わせて減圧留去し、凍結乾燥することにより熱水による濃褐色の粉末抽出物を得た(各抽出物を抽出温度に応じて夫々、60−E、80−E、および100−Eとする)。
【0043】
尚、比較の為にメタノール抽出を実施した。具体的には、上述したカラマツの木粉200gにメタノール1.2dm3を加え、12時間抽出する操作を4回繰返し、抽出物(M−E)を得た。
【0044】
この様にして得られた各抽出物を液体クロマトグラフィーで精製し、フラボノイド誘導体の収率(%)及び各フラボノイド誘導体の含有量(%)を測定した。これらの結果を表5に併記する。
【0045】
【表5】
Figure 0004947608
【0046】
表中、No.3〜4は、抽出温度を60〜80℃に制御して抽出した水−熱水による本発明例であるが、No.5の如く抽出温度を100℃に高めた場合に比べ、フラボノイド類の抽出率(収率)が非常に高く、各フラボノイド成分も多く含まれていた。
【0047】
また、抽出温度を80℃に制御して水−熱水抽出したNo.4のフラボノイド誘導体の収率は0.83%であり、メタノールで抽出したNo.1の収率(1.08%)と比較しても約80%の優れた抽出効果が得られた。
【0048】
【発明の効果】
本発明は上記の様に構成されており、人体や環境への悪影響がなく蓄積性等の問題もなく安全で、しかも取扱いも容易な優れた昆虫忌避材料を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】カラマツからフラボノイドを水−熱水抽出する工程を示す概略図である。

Claims (1)

  1. 植物よりフラボノイド誘導体を抽出する方法であって、該植物から予め水可溶成分を除去した後、熱水で抽出することを特徴とする抽出方法。
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