JP4943140B2 - モノ不飽和脂肪酸の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、滑剤、可塑剤、油剤、乳化剤、洗浄剤等の原料として、広く利用されている高品質なモノ不飽和脂肪酸の製造方法に関する。
モノ不飽和脂肪酸、例えばオレイン酸は、一般的に牛脂等の油脂を加水分解して得られる脂肪酸を液体酸と固体酸に分別後、得られた液体酸を蒸留し、全留出物を取得することにより製造されている。しかしながら、この方法により製造されたオレイン酸は、リノール酸などの多不飽和脂肪酸を含有し、それがオレイン酸の純度を低下させるばかりでなく、色相、匂い、酸化安定性など品質低下の原因となっており、従来より改善が望まれていた。
オレイン酸中のリノール酸などの多不飽和脂肪酸を除去する方法としては、クロマトグラフィー分離法、尿素付加法等の精製による方法と、触媒を用いて多不飽和脂肪酸を選択的に水素化する方法がある。
しかし、クロマトグラフィー分離法、尿素付加法等の精製による方法は、製造コスト、処理能力等の点で工業的製造法として満足できる方法ではない。
一方、触媒を使用した水素化によるオレイン酸の製造法としては、原料として油脂、脂肪酸またはそのエステルを用いて、触媒としてニッケル、パラジウム、ロジウム、銅等の固体触媒を用いる方法が検討されている。銅触媒は他の固体触媒と比較すると、安価であり、飽和脂肪酸の生成が極めて少ないという長所を有している。
しかしながら、銅触媒は脂肪酸と反応させる際に金属銅の結晶子が生成しやすく、活性の低下が著しい。このため、銅含有触媒の使用方法として、脂肪族アルコール、脂肪酸エステル等の不活性な液体中で、予め還元活性化する方法が開示されている(特許文献1)。しかしこの方法では、反応原料以外の液体を使用することで、還元活性化のための反応槽などの設備、並びに、還元活性化後の触媒の分離設備が必要となり、コスト、労力、生産能力等に問題があった。
特開平8−99036号公報
本発明の課題は、リノール酸などの多不飽和脂肪酸含量が少なく、飽和脂肪酸含量、トランス酸含量も少ない、高品質なモノ不飽和脂肪酸の製造方法を提供することにある。
本発明者らは、一般に凝集しやすく結晶子の成長が激しいと考えられている銅化合物に、モリブデン化合物を共存させて反応を行うことで、銅金属の結晶成長を抑制し、選択的水素化反応に高い活性を発揮できることを見出した。
即ち、本発明は、銅化合物とモリブデン化合物の共存下に、多不飽和脂肪酸を含有する原料脂肪酸を水素化する、モノ不飽和脂肪酸の製造方法を提供する。
本発明によると、多不飽和脂肪酸含量が低減され、飽和脂肪酸含量、トランス酸含量も少ない高品質なモノ不飽和脂肪酸を製造することができる。
本発明のモノ不飽和脂肪酸の製造方法は、銅化合物及びモリブデン化合物の共存下に、多不飽和脂肪酸を含有する原料脂肪酸を水素化して、モノ不飽和脂肪酸を製造する方法であり、特にリノール酸等の多不飽和脂肪酸を含有する原料脂肪酸を水素化して、リノール酸の低減されたオレイン酸を製造する場合に好適に用いられる。
本発明に用いられる多不飽和脂肪酸を含有する原料脂肪酸は、原料油脂を脂肪酸とグリセリンに加水分解することにより得ることができる。原料油脂としては、牛脂、羊脂、豚脂、鶏脂、パーム油、パーム油を分別して得られるパームステアリンもしくはパームオレイン、ハイオレイックサフラワー油、ハイオレイックひまわり油、落花生油、大豆油、ヤシ油、綿実油、なたね油、パーム核油等の動植物油が挙げられるが、低融点のオレイン酸を得るためには、例えば、牛脂、羊油、鶏脂、ハイオレイックひまわり油、パーム核油等の動植物油が好ましい。
原料油脂の加水分解の方法としては、公知の方法で行うことが出来、具体的には高圧連続分解法、中圧法、酵素法等の一般的に工業化に利用されている方法で行うことができる。このようにして得られた脂肪酸は必要に応じ、公知の方法及び条件により蒸留してもよい。例えば、炭素数18の脂肪酸以外の脂肪酸を多量に含む油脂を加水分解した場合には、この段階で蒸留を行い、炭素数18の脂肪酸を主成分とする脂肪酸を得て、それを液体酸と固体酸に分別する工程に供することにより、より効率的に目的のオレイン酸製造用原料脂肪酸を製造することができる。
液体酸と固体酸に分別する方法としては、溶剤分別法、活性剤分別法等の一般的に工業的に利用されている方法で行うことができる。このようにして得られた液体酸は、必要に応じ、公知の方法及び条件により蒸留してもよい。
本発明では、上記のようにして得られた多不飽和脂肪酸を含む原料脂肪酸を、銅化合物とモリブデン化合物の共存下に水素化する。
本発明において、銅化合物としては、銅の無機酸塩、有機酸塩、酸化物、水酸化物等が使用可能であり、無機酸塩としては、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、アンモニウム錯塩、酢酸塩、シュウ酸塩、塩化物等が、有機酸塩としては、脂肪酸石鹸等が挙げられる。これらの中では、塩基性炭酸銅、酸化銅、水酸化銅、炭素数18の脂肪酸銅、又はそれらの混合物が好ましく、塩基性炭酸銅、酸化銅、水酸化銅、又はそれらの混合物がより好ましく、塩基性炭酸銅が特に好ましい。
銅化合物は市販品を用いても良いが、塩基性炭酸銅、水酸化銅、又は酸化銅、並びにそれらの混合物を製造する場合は、例えば次の方法により行うことができる。銅を含む金属塩水溶液と、沈殿剤を混合することにより沈殿物を得て、引き続き、ろ過、水洗、乾燥、焼成、又はそれらの工程を組み合わせて、塩基性炭酸銅、水酸化銅又は酸化銅、並びにそれらの混合物を得る。ここで用いられる沈殿剤としては、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、尿素等のアルカリ水溶液が挙げられる。使用される銅塩は水溶性のものであれば、全て使用可能である。例えば、硝酸塩、硫酸塩、アンモニウム錯塩、酢酸塩、シュウ酸塩、及び塩化物が用いられ、硝酸銅が好ましい。乾燥及び焼成は、20〜700℃で行うことが好ましく、20〜400℃で行うのが更に好ましい。圧力は、特に限定されないが、製造時間の観点から、低い温度、たとえば90℃以下で乾燥する場合、減圧下で行うことが好ましい。
本発明に用いられるモリブデン化合物としては、アンモニウム塩、ナトリウム塩、酸化物、塩化物、水酸化物又はそれらの混合物が挙げられ、モリブデン酸アンモニウム等のアンモニウム塩、モリブデン酸ナトリウム等のナトリウム塩、酸化モリブデン等の酸化物が好ましく、アンモニウム塩がより好ましい。
本発明において、銅化合物、モリブデン化合物は、原料脂肪酸に溶解するものがより好ましい。銅化合物の使用量は、原料脂肪酸に対し、銅として0.05〜4重量%が好ましく、0.15〜3重量%がより好ましい。また、銅化合物とモリブデン化合物の割合は、銅/モリブデンの重量比が100/0.1〜100/80となる範囲が好ましく、100/1〜100/50となる範囲がより好ましく、100/1〜100/10が更に好ましい。
本発明において、多不飽和脂肪酸を含有する原料脂肪酸の水素化に際し、銅化合物及びモリブデン化合物の活性化を行ってもよい。この活性化は、水素化反応によりモノ不飽和脂肪酸を製造するための原料脂肪酸中で行っても何ら問題はなく、この場合、銅化合物及びモリブデン化合物の活性化と水素化を連続的に行うことができるので好ましい。
水素化反応によりモノ不飽和脂肪酸を製造するための原料脂肪酸を、銅化合物及びモリブデン化合物の活性化用脂肪酸として使用する場合は、原料脂肪酸、銅化合物、モリブデン化合物の混合物中にガスを流通させる方法が簡便であり好ましい。
ここで用いるガス(以下、流通ガスと呼ぶ)は、水素ガスを使用しても良く、あるいは水素ガスと不活性ガスの混合ガスを用いても良い。流通ガスの流量は、特に限定されないが、銅1モルに対し1時間あたり5モル(以下、5mol/mol/hと表す)以上を流通させることが好ましく、10mol/mol/h以上がより好ましく、20mol/mol/h以上がさらに好ましい。流通ガスの流量の上限は特に限定されないが、経済性、脂肪酸の揮発あるいは飛沫同伴を考慮し、600mol/mol/h以下が好ましく、300mol/mol/h以下がさらに好ましい。不活性ガスとしては、アルゴン、窒素等が好ましく、窒素ガスがより好ましい。水素ガスと不活性ガスの混合ガスを使用する場合、水素ガスと不活性ガスの比は、水素ガス/不活性ガスの比が0.01mol/mol以上であることが好ましく、0.1mol/mol以上がより好ましい。
ガスの流通を開始する温度は、20〜190℃の範囲が好ましく、50〜180℃の範囲がより好ましい。ガス流通を開始してからは、温度を一定に保ちながら活性化を行うことができるが、昇温を継続させながら活性化を行うことも可能である。この場合、昇温速度は、100℃/h以下が好ましく、70℃/h以下がより好ましい。活性化を十分に行うために、ガス流通時の最高温度は、120℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましい。一方、高温において銅の熱的劣化が起こり得るため、300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましい。活性化時間は特に限定されないが、20分以上が好ましく、40分以上がさらに好ましい。上限は特に限定されないが、10時間以下が好ましい。活性化工程における圧力は特に限定されないが、常圧〜5MPa・Gが好ましく、さらに好ましくは常圧〜3MPa・Gである。
本発明における水素化反応は、水素ガスの流通下または、水素ガス雰囲気密閉条件とも利用することが可能である。温度が高すぎる場合、飽和脂肪酸の生成が増加し、温度が低すぎる場合は水素化活性が低下し、反応に長い時間を要するので好ましくない。かかる観点より、水素化反応温度は、120〜280℃が好ましく、150〜230℃がより好ましい。
水素圧力が高すぎる場合には飽和脂肪酸の生成が増加し、圧力が低すぎる場合は水素化活性が低下し、反応に長い時間を要するので好ましくない。水素圧力は常圧〜3MPa・Gが好ましく、常圧〜1MPa・Gがより好ましい。反応の終了は、残存する多不飽和脂肪酸量並びに飽和脂肪酸量から、適宜判断することができる。
反応後、蒸留、吸着等公知の方法により、銅化合物及びモリブデン化合物を除去することで、モノ不飽和脂肪酸に富む脂肪酸を得ることができる。さらに精留を行うことにより、純度の高いモノ不飽和脂肪酸を得ることができる。
以下の例において、%は特記しない限り重量%である。また、Cm:nは、炭素数mで二重結合数nの脂肪酸を意味する。脂肪酸組成はジアゾメタンにより、メチル化後、ガスクロマトグラフィー分析を行うことにより求めた。
なお、以下の例において、銅の結晶子径は、粉末X線回折法で求めた2θ=43.3°のピークの半値幅を用い、シェーラーの式により求めた。また、C18:2の反応率は、次の式に従って求めた。
C18:2の反応率[%]=(原料脂肪酸中のC18:2の割合[%]−反応4時間後のC18:2の割合[%])/原料脂肪酸中のC18:2の割合[%]×100
以下の例で原料脂肪酸として使用した液体酸は、牛脂を常法により高圧加水分解した牛脂脂肪酸を、常法により活性剤法で分別することにより得た。その脂肪酸組成は表1に示した通りであった。
Figure 0004943140
実施例1
9%の炭酸ナトリウム水溶液に、15%の硝酸銅水溶液を室温で滴下した。滴下終了後のpHは7.0であった。次に、90℃まで昇温し、90℃で1時間攪拌してスラリーを得た。このスラリーより沈殿物をろ別し、十分水洗した後、120℃で14時間乾燥し、塩基性炭酸銅を得た。この塩基性炭酸銅を液体酸に対して0.74%(銅として0.42%)、モリブデン酸アンモニウム四水和物を液体酸に対して0.039%(モリブデンとして0.021%)用いて、表1に示した組成の液体酸1中で、水素0.01MPa・G密閉条件下、室温から170℃まで昇温した。170℃到達後、水素流通を開始し、水素/銅=25mol/mol/hの水素流通下、常圧、30℃/hの昇温速度で1時間、炭酸銅とモリブデン酸アンモニウム四水和物を活性化した。その後200℃、0.40MPa・G密閉条件下で、4時間水素化を行った。得られたオレイン酸に富む脂肪酸の組成を表2に示した。
実施例2
実施例1と同様にして得られた塩基性炭酸銅を液体酸に対して0.74%(銅として0.42%)、酸化モリブデン二水和物を液体酸に対して0.040%(モリブデンとして0.021%)使用し、原料脂肪酸として表1に示した組成の液体酸2を用いる以外は、実施例1と同様の活性化処理の後、同様の条件下、水素化反応を行った。得られたオレイン酸に富む脂肪酸の組成を表2に示した。
実施例3
実施例1と同様にして得られた塩基性炭酸銅を液体酸に対して0.74%(銅として0.42%)、モリブデン酸二ナトリウム二水和物を液体酸に対して0.053%(モリブデンとして0.021%)使用し、原料脂肪酸として表1に示した組成の液体酸2を用いる以外は、実施例1と同様の活性化処理の後、同様の条件下、水素化反応を行った。得られたオレイン酸に富む脂肪酸の組成を表2に示した。
比較例1
実施例1と同様にして得られた塩基性炭酸銅を液体酸に対して0.74%(銅として0.42%)用いて、表1に示した組成の液体酸1中で、実施例1と同様の活性化処理の後、同様の条件下、水素化反応を行った。得られたオレイン酸に富む脂肪酸の組成を表2に示した。表2の結果から、モリブデン化合物を添加しないと、金属銅が凝集して結晶子径が大きくなっており、反応が進行しないことがわかる。
比較例2
モリブデン酸アンモニウム四水和物を液体酸に対して0.039%(モリブデンとして0.021%)用いて、表1に示した組成の液体酸2中で、水素0.01MPa・G密閉条件下、室温から170℃まで昇温した。170℃到達後、水素流通を開始し、水素/モリブデン=700mol/mol/hの水素流通下、常圧、30℃/hの昇温速度で1時間、モリブデン酸アンモニウム四水和物を活性化した。その後、実施例1と同様の条件下、水素化反応を行った。得られたオレイン酸に富む脂肪酸の組成を表2に示した。表2の結果からモリブデン化合物のみでは反応が進行しないことがわかる。
比較例3
パラジウム/シリカアルミナ触媒(エヌ・イー・ケムキャット(株)製、パラジウム含量5%)を0.40%(対液体酸)用いて、表1に示した液体酸3中で、50℃、0.10MPa・G密閉条件下で、4時間水素化を行った。得られたオレイン酸に富む脂肪酸の組成を表2に示した。表2の結果から、リノール酸の反応率は高いが、オレイン酸中のトランス体(エライジン酸)が非常に多いことがわかる。
Figure 0004943140
注)
*1:対原料脂肪酸
*2:全脂肪酸中の、C18:1トランス体(エライジン酸)の重量%を示す。

Claims (4)

  1. 銅化合物とモリブデン化合物の共存下に、多不飽和脂肪酸を含有する原料脂肪酸を水素化する、モノ不飽和脂肪酸の製造方法であって、
    前記モリブデン化合物が、アンモニウム塩、ナトリウム塩、塩化物、水酸化物及び三酸化モリブデン水和物から選ばれる少なくとも1種である、モノ不飽和脂肪酸の製造方法
  2. 銅化合物が塩基性炭酸銅、水酸化銅、及び又は酸化銅から選ばれる少なくとも1種である、請求項1記載のモノ不飽和脂肪酸の製造方法。
  3. モリブデン化合物が、モリブデン酸アンモニウム又はその水和物、モリブデン酸ナトリウム又はその水和物、及び三酸化モリブデン水和物から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2記載のモノ不飽和脂肪酸の製造方法。
  4. 銅化合物とモリブデン化合物の割合が、銅/モリブデンの重量比で100/0.1〜100/80となる範囲である、請求項1〜3いずれか1項に記載のモノ不飽和脂肪酸の製造方法。
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