JP4531461B2 - モノ不飽和脂肪酸の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、滑剤、可塑剤、油剤、乳化剤、洗浄剤等の原料として、広く使用されている高品質なモノ不飽和脂肪酸の製造方法、並びにその製造に用いられる水素化触媒前駆体の活性化方法及びその活性化方法で得られる水素化触媒に関する。
モノ不飽和脂肪酸、例えばオレイン酸は、一般的に牛脂等の油脂を加水分解して得られる脂肪酸を液体酸と固体酸に分別後、得られた液体酸を蒸留し、全留出物を取得することにより製造されている。しかしながら、この方法により製造されたオレイン酸は、リノール酸などの多不飽和脂肪酸を含有し、それがオレイン酸の純度を低下させるばかりでなく、色相、匂い、酸化安定性など品質低下の原因となっており、従来より改善が望まれていた。
オレイン酸中のリノール酸などの多不飽和脂肪酸を除去する方法としては、オレイン酸の精製による除去と、触媒を用いた多不飽和脂肪酸の選択水素化による方法がある。
オレイン酸の精製法としては、クロマトグラフィー分離法、尿素付加法(特許文献1、特許文献2)等があるが、製造コスト、処理能力等の点で工業的製造法として満足できる方法ではない。
一方、触媒を使用した選択水素化によるオレイン酸の製造法としては、原料として油脂、脂肪酸またはそのエステルを用いて、触媒としてニッケル、パラジウム、ロジウム、銅等の固体触媒を用いる方法が検討されている。銅触媒は他の固体触媒と比較すると、安価であり、飽和脂肪酸の生成が極めて少ない(以降、モノ不飽和選択性が高いと表現する)という長所を有している。
しかしながら、酸化銅は水素化原料である脂肪酸に溶出しやすく、銅石鹸を形成しやすい。また、形成された銅石鹸が水素化されて生成する金属銅は凝集しやすく、触媒活性を低下させるため、脂肪酸中での還元活性化は困難であった。この課題を克服するために、銅含有触媒の使用方法として、脂肪族アルコール、脂肪酸エステル等の不活性な液体中で、予め還元活性化する方法が開示されている(特許文献3)。しかしながら、この方法では、反応原料以外の液体を使用することで、還元活性化のための反応槽などの設備、並びに、還元活性化後の触媒の分離(ろ過)設備が必要となり、コスト、労力、生産能力等に問題があった。
特開昭61−297号公報 特開昭62−148449号公報 特開平8−99036号公報
本発明の課題は、脂肪族アルコールや脂肪酸エステル等、別途還元活性化工程が必要となる液体を使用することなく、リノール酸などの多不飽和脂肪酸の選択水素化反応に対して、高い活性と高いモノ不飽和選択性を有する触媒を得るための水素化触媒前駆体の活性化方法、並びに安価で高品質なモノ不飽和脂肪酸の効率的な製造方法を提供することにある。
本発明は、酸化銅を含有する水素化触媒前駆体を、還元時に生成する水を系外に除去しながら脂肪酸中で還元活性化し、得られた触媒を使用して多不飽和脂肪酸を水素化する、モノ不飽和脂肪酸の製造方法、並びに酸化銅を含有する水素化触媒前駆体を、還元時に生成する水を系外に除去しながら脂肪酸中で還元活性化を行う、水素化触媒前駆体の活性化方法、及びこの活性化方法により得られる水素化触媒を提供する。
本発明の水素化触媒前駆体の活性化方法により、従来必要であった別設備での予備還元を省略することができ、多不飽和脂肪酸から、オレイン酸等のモノ不飽和脂肪酸を高品質で、安価に且つ労力を抑えて製造することができる。
[水素化触媒前駆体]
本発明において使用される水素化触媒前駆体は、酸化銅を含有するものである。酸化銅の含有量は1〜80重量%が好ましく、10〜70重量%がより好ましく、20〜60重量%が更に好ましい。酸化銅含有量が1重量%以上において十分な水素化活性を奏することが可能であり、また80重量%以下の場合に、銅の分散が良好となり高活性と長寿命が実現される。
本発明において用いられる水素化触媒前駆体としては、性能を損なわない限りにおいて、銅以外の金属が含まれていても良く、又は担体に担持されていても良い。具体的には、担体として、シリカ、珪藻土、シリカアルミナ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、活性炭等が例として挙げられ、銅以外の金属成分としては、鉄、コバルト、マンガン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、アルミニウム、亜鉛、クロム等が挙げられる。具体的には、シリカ担持銅触媒、珪藻土担持銅触媒、珪藻土担持銅−バリウム触媒、銅−クロム触媒、銅−クロム−マンガン触媒、銅−鉄−アルミニウム触媒等が好ましく用いられる。
[水素化触媒前駆体の活性化方法]
本発明においては、上記のような酸化銅を含有する水素化触媒前駆体を、還元時に生成する水を系外に除去しながら脂肪酸中で還元活性化する。
使用される脂肪酸は、炭素数8〜22の直鎖飽和又は不飽和脂肪酸が好ましく、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ヒラゴ酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等が例示される。
モノ不飽和脂肪酸としてオレイン酸を製造する場合は、リノール酸、オレイン酸及びステアリン酸の含有量の合計が50重量%以上の脂肪酸混合物が好ましく用いられる。パルミトレイン酸を製造する場合は、パルミチン酸、パルミトレイン酸及びヒラゴ酸の含有量の合計が50重量%以上の脂肪酸混合物が好ましく用いられる。
また、水素化反応によりモノ不飽和脂肪酸を製造するための原料脂肪酸を、水素化触媒前駆体の還元活性化に用いる脂肪酸として使用することができ、この場合、触媒前駆体の還元活性化と水素化を連続的に行うことができるため、より好ましい。
本発明においては、触媒前駆体を還元活性化する際に、生成する水を系外に除去することにより、脂肪酸中で還元活性化を行うにもかかわらず、高い触媒活性と高いモノ不飽和選択性を持つ水素化触媒を得ることができる。
還元活性化の際に生成する水を系外に除去する方法としては、脂肪酸と触媒前駆体の混合物中にガスを流通させる方法が簡便であり好ましい。ここで用いるガス(以下、流通ガスと呼ぶ)は、還元に用いる水素ガスを使用しても良く、あるいは水素ガスと不活性ガスの混合ガスを用いても良い。流通ガスの流量は、生成する水を十分に随伴する量であれば特に限定されないが、酸化銅1モルに対し1時間あたり5モル(以下、5mol/mol/hと表す)以上を流通させることが好ましく、10mol/mol/h以上がより好ましく、50mol/mol/h以上がさらに好ましい。流量の上限は特に限定されないが、経済性、脂肪酸の揮発あるいは飛沫同伴を考慮し、600mol/mol/h以下が好ましく、300mol/mol/h以下がより好ましい。
不活性ガスとしては、アルゴン、窒素等が好ましく、窒素ガスがより好ましい。水素ガスと不活性ガスとの混合ガスを使用する場合、水素ガスと不活性ガスの比は、水素ガス/不活性ガスの比が0.01mol/mol以上であることが好ましく、0.1mol/mol以上がより好ましい。
ガスの流通を開始する温度は、より低温で行うことが好ましく、触媒前駆体が還元を起こす温度以下であることが好ましいが、部分的に還元が起きていてもよい。流通を開始する温度が高すぎる場合は、流通開始以前に還元が起きるため水分が系内に残留し、触媒活性及びモノ不飽和選択性を悪化させる。かかる観点より、本発明の触媒前駆体においては、20〜190℃の範囲でガスの流通を開始することが好ましく、50〜180℃の範囲がより好ましい。
ガス流通開始後は、温度を一定に保ちながら還元活性化を行うことができるが、昇温を継続させながら還元活性化を行うことも可能である。この場合、急激な温度上昇は還元速度の上昇による水生成速度の増加あるいは触媒の熱的劣化をもたらすおそれがあるため、100℃/h以下が好ましく、70℃/h以下がより好ましい。
ガス流通終了時には還元活性化が実質的に完了していることが好ましいが、一部未還元の触媒が残存していてもよい。還元活性化を十分に行うために、ガス流通時の最高温度は、120℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましい。一方、高温においては触媒の熱的劣化が起こり得るため、300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましい。
還元活性化工程における圧力は特に限定されないが、常圧〜5MPa・Gが好ましく、さらに好ましくは常圧〜3MPa・Gである。還元活性化時間は、20分以上が好ましく、40分以上がさらに好ましい。上限は特に限定されないが、10時間以下が好ましい。
[モノ不飽和脂肪酸の製造方法]
本発明のモノ不飽和脂肪酸の製造方法は、上記の方法で還元活性化した水素化触媒を用いて、多不飽和脂肪酸を水素化してモノ不飽和脂肪酸を製造する方法であり、特にリノール酸等の多不飽和脂肪酸を水素化して高品質のオレイン酸を製造する場合に好適に用いられる。
オレイン酸の製造に用いられる原料油脂としては、牛脂、羊脂、豚脂、パーム油、パーム油を分別して得られるパームステアリンもしくはパームオレイン、ハイオレイックサフラワー油、ハイオレイックひまわり油、落花生油、大豆油、ヤシ油、パーム核油等の動植物油が挙げられるが、低融点のオレイン酸を得るためには、例えば、牛脂、羊脂、ハイオレイックひまわり油、パーム核油等の動植物油脂が好ましい。
オレイン酸製造用の原料脂肪酸は、これらの油脂を脂肪酸とグリセリンに加水分解することにより得ることができる。加水分解の方法としては、公知の方法で行うことが出来、具体的には高圧連続分解法、中圧法、酵素法等の一般的に工業化に利用されている方法で行うことができる。このようにして得られた脂肪酸は必要に応じ、公知の方法及び条件により蒸留してもよい。例えば炭素数18の脂肪酸以外の脂肪酸を多量に含む油脂を加水分解した場合には、この段階で蒸留を行い、炭素数18の脂肪酸を主成分とする脂肪酸を得て、それを分別工程に供することにより、より効率的に目的のオレイン酸製造用原料脂肪酸を製造することができる。
液体酸と固体酸に分別する方法としては、溶剤分別法、活性剤分別法等の一般的に工業的に利用されている方法で行うことができる。このようにして得られた液体酸は、必要に応じ、公知の方法及び条件により蒸留してもよい。
次にこのようにして得られた原料脂肪酸を、上記のような条件で還元活性化した水素化用触媒を用いて、水素化反応を行う。触媒量が多すぎたり、温度また水素圧力が高すぎると飽和脂肪酸の生成が増加し、温度が低すぎると水素化活性が低下し、反応に長い時間を要するので好ましくない。かかる観点より、触媒の使用量は、原料脂肪酸に対し、0.1〜5重量%が好ましく、0.2〜4重量%がより好ましい。水素化反応温度は、120〜250℃が好ましく、150〜230℃がより好ましい。水素圧力は常圧〜3MPa・Gが好ましく、常圧〜1MPa・Gがより好ましい。水素化反応は、水素ガスの流通下または、水素ガス雰囲気密閉条件とも利用することが可能である。反応の終了は、残存する多不飽和脂肪酸量並びに飽和脂肪酸量から、適宜判断することができる。
以下の実施例中のCm:nは、炭素数mで二重結合数nの脂肪酸を意味する。また以下の実施例及び比較例において、脂肪酸組成はジアゾメタンにより、メチル化後、ガスクロマトグラフィー分析を行うことにより求めた。
製造例1
牛脂を常法により高圧加水分解した牛脂脂肪酸を、常法により活性剤法で分別し液体酸を得た。その脂肪酸組成は表1に示した通りであった。
Figure 0004531461
実施例1
酸化銅/シリカ(堺化学工業(株)製、KC−1、銅含有量50重量%)を0.57重量%(対液体酸)用いて、製造例1において得られた表1の組成をもつ液体酸中で、水素0.01MPa・G(ゲージ圧力、以下同じ)密閉条件下、90℃/hの速度で室温から150℃まで昇温した。150℃到達後水素流通を開始し、水素/酸化銅=35mol/mol/hの水素流通下、常圧、30℃/hの昇温速度で1時間、触媒を還元活性化した。その後30℃/hの速度で200℃まで昇温して、200℃、0.40MPa・G密閉条件下で、4時間水素化を行うことにより、高純度のオレイン酸を得た。得られたオレイン酸の脂肪酸組成を表2に示した。
実施例2
製造例1において得られた表1の組成をもつ液体酸に、実施例1と同一のKC−1を0.57重量%(対液体酸)加え、水素0.01MPa・G密閉条件下、90℃/hの速度で室温から170℃まで昇温した。170℃到達後水素流通を開始し、水素/酸化銅=35mol/mol/hの水素流通下、常圧、30℃/hの昇温速度で1時間、触媒を還元活性化した。その後200℃、0.40MPa・G密閉条件下で、4時間水素化を行うことにより、高純度のオレイン酸を得た。得られたオレイン酸の脂肪酸組成を表2に示した。
実施例3
製造例1において得られた表1の組成をもつ液体酸に、実施例1と同一のKC−1を0.57重量%(対液体酸)加え、水素0.01MPa・G密閉条件下、180℃/hの速度で室温から170℃まで昇温した。170℃到達後水素流通を開始し、水素/酸化銅=35mol/mol/hの水素流通下、常圧、30℃/hの昇温速度で1時間、触媒を還元活性化した。その後200℃、0.40MPa・G密閉条件下で、4時間水素化を行うことにより、高純度のオレイン酸を得た。得られたオレイン酸の脂肪酸組成を表2に示した。
実施例4
製造例1において得られた表1の組成をもつ液体酸に、実施例1と同一のKC−1を0.57重量%(対液体酸)加え、水素0.01MPa・G密閉条件下、90℃/hの速度で室温から170℃まで昇温し、170℃到達後水素流通を開始し、水素/酸化銅=70mol/mol/hの水素流通下、常圧、30℃/hの昇温速度で1時間、触媒を還元活性化した。その後200℃、0.40MPa・G密閉条件下で、4時間水素化を行うことにより、高純度のオレイン酸を得た。得られたオレイン酸の脂肪酸組成を表2に示した。
比較例1
製造例1において得られた表1の組成をもつ液体酸に、実施例1と同一のKC−1を0.57重量%(対液体酸)加え、水素0.01MPa・G密閉条件下、180℃/hの速度で、室温から200℃まで昇温した。水素流通は行わなかった。200℃、0.40MPa・G密閉条件下で、4時間水素化を行うことにより、オレイン酸を得た。得られたオレイン酸の脂肪酸組成を表2に示した。
実施例5
酸化銅/珪藻土(堺化学工業(株)製、SC−1、銅含有量=50重量%)を0.57重量%(対液体酸)用いて、製造例1において得られた表1の組成をもつ液体酸中で、水素0.01MPa・G密閉条件下、90℃/hの速度で室温から170℃まで昇温した。170℃到達後水素流通を開始し、水素/酸化銅=35mol/mol/hの水素流通下、常圧、30℃/hの昇温速度で1時間、触媒を還元活性化した。その後200℃、0.40MPa・G密閉条件下で、4時間水素化を行うことにより、高純度のオレイン酸を得た。得られたオレイン酸の脂肪酸組成を表3に示した。
比較例2
製造例1において得られた表1の組成をもつ液体酸に、実施例5と同一のSC−1を0.57重量%(対液体酸)加え、水素0.01MPa・G密閉条件下、180℃/hの速度で、室温から200℃まで昇温した。水素流通は行わなかった。200℃、0.40MPa・G密閉条件下で、4時間水素化を行うことにより、オレイン酸を得た。得られたオレイン酸の脂肪酸組成を表3に示した。
Figure 0004531461
Figure 0004531461
表2及び表3に示す結果から、実施例で得られたオレイン酸は、いずれもリノール酸(C18:2)含有量が低く、触媒が十分な水素化活性を有していることがわかる。また、ステアリン酸(C18)の増加は小さく、良好なモノ不飽和選択性を有していることがわかる。これに対して、比較例1及び2では、リノール酸の減少は小さく、触媒活性が低いことがわかる。

Claims (8)

  1. 酸化銅を含有する水素化触媒前駆体を、還元時に生成する水を系外に除去しながら脂肪酸中で還元活性化し、得られた触媒を使用して多不飽和脂肪酸を水素化する、モノ不飽和脂肪酸の製造方法。
  2. 還元時に生成する水の除去を、流通ガス/酸化銅=5〜600mol/mol/hの範囲の流量でガスを流通することで行う、請求項1記載のモノ不飽和脂肪酸の製造方法。
  3. ガスの流通を開始する温度が20〜190℃の範囲である請求項2記載のモノ不飽和脂肪酸の製造方法。
  4. ガス流通時の最高温度が120〜300℃の範囲である請求項2又は3記載のモノ不飽和脂肪酸の製造方法。
  5. ガス流通時の昇温速度が、100℃/h以下である請求項2〜4いずれかに記載のモノ不飽和脂肪酸の製造方法。
  6. 還元活性化に使用する脂肪酸が、モノ不飽和脂肪酸製造用の原料脂肪酸である、請求項1〜5いずれかに記載のモノ不飽和脂肪酸の製造方法。
  7. 酸化銅を含有する水素化触媒前駆体を、還元時に生成する水を系外に除去しながら脂肪酸中で還元活性化を行う、水素化触媒前駆体の活性化方法。
  8. 酸化銅を含有する水素化触媒前駆体を、還元時に生成する水を系外に除去しながら脂肪酸中で還元活性化して得られる水素化触媒。
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