本発明の好適な一実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
実施形態のエネルギー回収装置が適用された車両の内燃機関システムの概念を図1に示す。本実施形態における内燃機関10は、燃料である軽油を燃料噴射弁12から圧縮状態にある燃焼室内に直接噴射することにより自然着火させる型式の内燃機関、すなわちディーゼル機関である。
気筒14の燃焼室に臨むと共に吸気通路16の一部を区画形成する吸気ポートは、シリンダヘッドに形成されていて、吸気弁によって開閉される。シリンダヘッドには、吸気通路16の一部を区画形成する吸気マニフォルド18が接続され、さらにその上流側には同じく吸気通路16の一部を区画形成する吸気管20が接続されている。吸気管20の上流端側には、吸気通路16に導かれる空気中の塵埃などを除去するべくエアクリーナ22が設けられている。また、スロットルアクチュエータ24によって開度が調整されるスロットルバルブ26が、吸気管20の途中に設けられている。
他方、気筒14の燃焼室に臨むと共に排気通路28の一部を区画形成する排気ポートは、シリンダヘッドに形成されていて、排気弁によって開閉される。シリンダヘッドには、排気通路28の一部を区画形成する排気マニフォルド30が接続され、さらにその下流側には同じく排気通路28の一部を区画形成する排気管32が接続されている。なお、排気ガス浄化触媒が充填された触媒コンバータ34が排気管32の途中に設けられている。
さらに、排気ガスにより回転駆動されるタービンホイールを含むタービン36が排気管32の途中に設けられている。ただし、タービン36は、触媒コンバータ34よりも上流側に配置されている。これに対応して、タービンホイールに同軸で連結され、タービンホイールの回転力で回転するようにしたコンプレッサホイールを含むコンプレッサ38が吸気管20の途中に設けられている。すなわち、内燃機関10には、排気エネルギーを取り出すタービン36と、タービン36により取り出された排気エネルギーによって内燃機関10に過給するコンプレッサ38とを有する過給器40が設けられている。そして、コンプレッサ38により圧縮された空気を冷却すべく、インタークーラ42がコンプレッサ38よりも下流側に設けられている。
内燃機関10には、排気通路28を流れる排気ガスの一部を吸気通路16に導く排気ガス還流(EGR)システム44が設けられている。EGRシステム44は、排気通路28と吸気通路16とをつなぐEGR通路46を区画形成するEGR管48と、EGR通路46の連通状態調節用のEGR弁50と、還流される排気ガス(EGRガス)冷却用のEGRクーラ52とを有している。ここでは、EGR管48上流側の一端は排気マニフォルド30に接続され、その下流側の他端は吸気マニフォルド18に接続されている。EGR弁50はEGRクーラ52よりも下流側に設けられていて、その開度はアクチュエータ54により調節される。ただし、ここではEGR弁50はポペット式バルブである。
さらに、排気通路28の途中には、排気絞り弁56が設けられている。本実施形態では排気絞り弁56はバタフライ式バルブである。排気絞り弁56は、その閉弁時には排気通路28を流れる排気ガスすなわち燃焼ガスや空気である流体を効果的にせき止め、そのような流体の排気絞り弁56よりも下流側への流れを概ね遮断する遮断弁として機能する。排気絞り弁56は、アクチュエータ58により開閉駆動される。なお、排気絞り弁56は、閉弁時に、排気通路の断面積を50%程度減少させるような構成を有する弁であってもよく、あるいは、閉弁時に、排気通路28を完全に閉塞するような構成を有する弁であってあってもよい。
図1から明らかなように、排気通路28とEGR通路46との連通箇所は排気絞り弁56よりも上流側である。したがって、EGR通路46は、排気絞り弁56上流側の排気通路、すなわち、排気絞り弁56と排気弁との間の排気通路(弁間通路)Pに連通する。なお、後述するように、エネルギー回収に際して排気絞り弁56が閉弁制御されたとき、弁間通路Pの圧力は、圧力調節弁として用いられるEGR弁50の開度が制御されることで、調節される。
この弁間通路Pには、さらに、管部材60により区画形成された管路62が連通され、その管路62により排気通路28と蓄圧容器である蓄圧タンク64内とは連通している。蓄圧タンク64は、弁間通路Pであればいずれの場所、例えば排気マニフォルド30に接続されてもよいが、本実施形態の蓄圧タンク64は、排気通路28の内、排気絞り弁56上流側であって、タービン36上流側の箇所に接続されている。管路62の径は排気通路28の径に比べて小さい。蓄圧タンク64内と排気通路28との連通状態の調節用に、管路62に流量制御弁66が設けられている。なお、流量制御弁66が開弁されることで蓄圧タンク64内と排気通路28とは連通し、他方、流量制御弁66が閉弁されることで蓄圧タンク64内と排気通路28との連通は遮断され、蓄圧タンク64内は概略的に密閉状態になる。ただし、流量制御弁66はアクチュエータ68により開閉駆動される。なお、ここでは流量制御弁66はポペット式バルブである。
なお、後述するように排気通路28の圧力エネルギーは、流体の移動を伴いつつ、管路62を介して排気通路28から蓄圧タンク64内に回収される。他方、蓄圧タンク64内に蓄えられた圧力エネルギーを有する流体は、管路62を介して、蓄圧タンク64内から排気通路28に放出されて利用に供される。すなわち、本実施形態では、蓄圧タンク64内へのエネルギー回収およびそこからのエネルギーの放出利用は、同じ管路62を介して行われる。
なお、本実施形態では、蓄圧タンク64内に回収された流体、すなわちその流体の有する圧力エネルギーは、加速要求が求められたときに、特にその初期に管路62を介して排気通路28へ解放される。解放された流体すなわち圧力エネルギーは過給器40のタービン36の駆動に用いられる。これにより、過給器40の応答性向上が図られる。
内燃機関10は、電子制御ユニット(ECU)70に、各種値を検出(導出あるいは推定)するための信号を電気的に出力する各種センサ類を備えている。ここで、その内のいくつかを具体的に述べる。吸入空気量を検出するためのエアフローメーター72が吸気管20に備えられている。また、エアフローメーター72近傍に吸入空気の温度を検出するための吸気温度センサ74が、そしてインタークーラ42下流側にも温度を検出するための吸気温度センサ76が備えられている。また、過給圧を検出するための圧力センサ78が吸気管20の途中に設けられている。また運転者によって操作されるアクセルペダル80の踏み込み量に対応する位置、すなわちアクセル開度を検出するためのアクセル開度センサ82が備えられている。また、スロットルバルブ26の開度を検出するためのスロットルポジションセンサ84も備えられている。さらに、EGR弁50の開度を検出するための、ここではそのリフト量を検出するためのバルブリフトセンサ86も備えられている。また、ピストンが往復動する、シリンダブロックには、連接棒を介してピストンが連結されているクランクシャフトのクランク回転信号を検出するためのクランクポジションセンサ88が取り付けられている。ここでは、このクランクポジションセンサ88は機関回転数(機関回転速度)を検出するための機関回転数センサとしても利用される。さらに、弁間通路Pの排気ガスすなわち燃焼ガスや空気である流体の圧力を検出するための圧力センサ90が備えられている。また、蓄圧タンク64内の圧力を検出するための圧力センサ92も備えられている。さらに、内燃機関10の冷却水温を検出するための温度センサ94が備えられている。さらに、車速を検出するための車速センサ96も備えられている。
ECU70は、CPU、ROM、RAM、A/D変換器、入力インタフェース、出力インタフェース等を含むマイクロコンピュータで構成されている。入力インタフェースには、前記各種センサ類が電気的に接続されている。これら各種センサ類からの出力信号(検出信号)に基づき、予め設定されたプログラムにしたがって円滑な内燃機関10の運転がなされるように、ECU70は出力インタフェースから電気的に作動信号(駆動信号)を出力する。こうして、燃料噴射弁12の作動、スロットルバルブ26、EGR弁50、排気絞り弁56および流量制御弁66の各開度などが制御される。ただし、ECU70は、スロットルバルブ26、EGR弁50、排気絞り弁56、流量制御弁66の各開度を制御するため、各アクチュエータ24、54、58、68に作動信号を出力する。
内燃機関10では、エアフローメーター72からの出力信号に基づいて導出される吸入空気量、クランクポジションセンサ88からの出力信号に基づいて導出される機関回転数など、すなわち機関負荷および機関回転数で表される運転状態に基づいて燃料噴射量(燃料量)、燃料噴射時期が設定される。そして、それら燃料噴射量、燃料噴射時期に基づいて、燃料噴射弁12からの燃料の噴射が行われる。
なお、内燃機関10では、クランクポジションセンサ88からの出力信号に基づいて導出される機関回転数が所定回転数(燃料カット回転数)以上であり、且つアクセル開度センサ82からの出力信号に基づいて導出されるアクセル開度が0%、すなわちアクセルペダル80が踏まれていないときに、燃料噴射弁12からの燃料噴射が停止(燃料カット)されるように設定されている。ただし、このような燃料カット状態が続いて、機関回転数が低下して別の所定回転数(燃料カット復帰回転数)に達すると、燃料噴射は再開される。また、燃料カットが行われているときに、アクセルペダル80が踏まれてアクセル開度が0%を超えるようになった場合にも、燃料噴射は再開される。なお、燃料カットが行われているときは、概ね減速時に対応する。
そして、このように燃料カットをする運転状態のとき、上記スロットルバルブ26が閉状態に保持されるように、予め上記プラグラムは設定されている。ただし、後述するエネルギー回収のときには、強制的にスロットルバルブ26は全開の開状態になるように制御される。なお、スロットルバルブ26は内燃機関10の始動時は全開に制御され、他方、内燃機関10の停止時は全閉に制御される。そして、通常走行時には、機関状態および冷却水温などに応じて、スロットルバルブ26の開度は適切な開度になるように制御される。
また、上記各種センサ類からの出力信号に基づいて定まる内燃機関10の運転状態に基づいてEGR弁50の開度は制御される。ここでは、高負荷領域(全負荷領域を含む。)がEGR弁50が全閉状態に閉弁される領域(EGR外領域)として定められ、それ以外の低・中負荷領域がEGR弁50が開かれる領域(EGR領域)として定められている。本実施形態では、燃料カットをする運転状態のときには、EGR弁50の開度は全閉になるように設定されているが、このときEGR弁50は所定開度の開状態にされてもよい。
ただし、後述するエネルギー回収に際しては、EGR弁50も、運転状態にかかわらず、強制的に後述される開度に制御される。本明細書において、上記の如く運転状態に基づいて制御されるEGR弁50の開度を以下「通常開度」と、これに対してエネルギー回収に際してその通常開度に優先して強制的に制御されるEGR弁50の開度を以下「回収開度」と称する。
ところで、通常走行時、排気絞り弁56は全開の開状態に保持制御されるので、排気通路28を流れる排気ガスすなわち流体は触媒コンバータ34を通過して外気に放出される。これに対して、エネルギー回収の所定条件が満たされたとき、排気絞り弁56は全閉の閉状態になるように制御され、排気通路28を流れる流体は概ねせき止められる。そして、このようにしてせき止めた流体を有効に活用してエネルギー回収が行われる。
ここで、蓄圧タンク64にさらにエネルギー回収をする余裕があり、且つ、燃料カットをする運転状態にあるとき、初めから排気絞り弁56およびEGR弁50を閉弁してエネルギー回収を行った場合の実験結果例を図2に示す。図2には、車速、弁間通路Pの圧力および機関回転数の各変化が同一時間軸上に表されている。図2から、図中の「アクセルOFF」時に燃料カットがされる運転状態で、排気絞り弁56およびEGR弁50が閉弁されると、弁間通路Pの圧力は急激に上昇して450kPa程度にまで高まることが分かる(図2中の曲線PP)。その圧力上昇にはわずか1秒程度しかかかっていない。
このように排気絞り弁56およびEGR弁50を閉弁することで弁間通路Pの圧力が急激に上昇する場合には、車両の減速度が急激に増大し、運転者等に違和感を与えるほどの減速ショックが生じる虞がある。そこで、排気絞り弁56およびEGR弁50を同時に閉弁することで弁間通路Pの圧力が急激に高まる可能性があるときには、以下のようにEGR弁50の開度を制御して、点線で表した曲線NPの如くに弁間通路Pの圧力を緩やかに高めるようにする。
以下、エネルギー回収の制御について、図3のフローチャートにしたがって詳細に説明する。ただし、図3のフローチャートは、およそ20ms毎に繰り返されるものである。
内燃機関10が起動されると、まずECU70は、ステップS301において、回収フラグが「1」、すなわちONであるか否かを判定する。ここで、回収フラグが「1」ということは、エネルギー回収が行われる所定条件が満たされていることを表す。これに対してそれが「0」ということは、エネルギー回収が行われる所定条件が満たされていないことを表す。初期状態では同回収フラグはリセットされているためここでは否定判定される。なお、本実施形態において、エネルギー回収のための所定条件が満たされるとは、以下の記載から明らかなように、燃料カット中であること、蓄圧タンク64内の圧力が所定圧以下であること、および、機関回転数が所定回転数以下であることの3つが満たされることである。
ステップS301で否定されると、次ぐステップS303で、燃料カット中か否かが判定される。具体的には、燃料カット中か否かは、燃料噴射量が「0」とされているか否かで判定される。なお、通常走行時には、概して、内燃機関10により所定出力を生み出すべく、「0」より大きな燃料噴射量が上述の如く導かれて燃料噴射が行われている。それ故、そのようなときには、ステップS303において否定判定されて、該ルーチンは終了する。
上記ステップS303で燃料カット中として肯定判定されると、次ぐステップS305で、蓄圧タンク64内の圧力(図3中の「タンク内圧」)が、蓄圧タンク64に許容される圧力であって、所定圧である予め決められてROMに記憶されている上限圧以下か否かが判定される。蓄圧タンク64内に十分な量の圧力エネルギーすなわち流体が蓄えられているときに、さらにエネルギー回収が行われることを防ぐためである。蓄圧タンク64内の圧力は圧力センサ92からの出力信号に基づいて導出される。なお、このステップS305で否定判定されると、該ルーチンは終了する。
ステップS305で肯定判定されると、次ぐステップS307で機関回転数が予めROMに記憶されている所定回転数以下か否かが判定される。機関回転数は上記の如くクランクポジションセンサ88からの出力信号に基づいて導出される。ここでは、所定回転数は2000rpmにされている。この判定が行われるのは、機関回転数が高いときに弁間通路Pの圧力が所定速度以上で上昇すると、運転者等に感じられるレベルの減速ショックが車両に生じる可能性が高くなるので、エネルギー回収を機関回転数が低回転側にあるときにのみ行うようにするためである。なお、ステップS307で否定判定されると、該ルーチンは終了する。
なお、本実施形態では機関回転数が低回転側にあるときにエネルギー回収を行うようにステップS307の判定を行うが、機関回転数が低回転側にあるときに限らず高回転側にあるときにもエネルギー回収を行うようにしても良い。すなわち、このステップS307を除くことは可能であり、その場合には、上記ステップS303およびS305で肯定判定されたとき、エネルギー回収の所定条件が満たされたとして、次ぐステップS309へ進む。
ステップS307で肯定判定されると、次ぐステップS309で、エネルギー回収の所定条件が満たされているとして、上記回収フラグが「1」にされる。これにより、内燃機関10の通常の上記制御よりも、エネルギー回収用の制御が優先して行われることになる。そして、ステップS311に至ると、EGR弁50の開度が回収開度にされ、流量制御弁66が閉弁され、且つ、スロットルバルブ26が開弁されるように、各アクチュエータ54、68、24に作動信号が出力される。
EGR弁50は通常、上記の如く運転状態に基づいて制御されるが、ステップS311に至って以降のエネルギー回収に際しては、予め実験により求めてROMに記憶されている、マップ化されたデータに基づいて定められる開度である回収開度にされる。このデータは、排気絞り弁56が閉弁制御されたとき(排気絞り弁56が閉弁されるおよび閉弁されたとき)に、弁間通路Pの圧力を、減速ショックが出ない圧力とするのに必要とされるEGR弁50の開度と、機関回転数や車速との関係を表したものである(図4参照)。このEGR弁50の回収開度に関しては後述する。また、流量制御弁66は基本的には閉弁されているので、流量制御弁66は閉状態に保たれることになる。さらに、排気通路28へ空気を送るべく、スロットルバルブ26は全開の開状態にされる。
次ぐステップS313では、排気絞り弁56が閉弁するように、アクチュエータ58に作動信号が出力される。こうして当該ルーチンは終了する。
次のルーチンのステップS301では回収フラグが「1」であるので肯定判定される。ステップS301で肯定判定されると、次ぐステップS315で、上記ステップS303と同様に燃料カット中か否かが判定される。ここで肯定判定されると次ぐステップS317で、上記ステップS305と同様に蓄圧タンク64内の圧力が上記上限圧以下か否かが判定される。なお、ステップS315およびステップS317での判定が行われるのは、ステップS309で回収フラグが「1」にされた後、エネルギー回収の所定条件が満たされなくなったときに、エネルギー回収を終了する制御をするためである。
さてステップS317で肯定されると次ぐステップS319で、蓄圧タンク64内の圧力が、弁間通路Pの圧力(図3中の「通路圧力」)以下か否かが判定される。このとき既に、排気絞り弁56が閉弁されているので、時間の経過につれて、排気絞り弁56によってせき止められた流体の圧力(圧力エネルギー)は高くなる。そして、その圧力が回収可能なほど高まっているかを調べるために、ステップS319での判定が行われる。ステップS319で否定判定される場合には次ぐステップS321で、流量制御弁66が閉弁するようにアクチュエータ68に作動信号が出力される。これは、既に流量制御弁66が閉じられている場合には、流量制御弁66が閉じたままにされることを意味している。他方、ステップS319で肯定判定される場合には次ぐステップS323で、流量制御弁66が開弁するようにアクチュエータ68に作動信号が出力される。これにより、弁間通路Pの高められた圧力エネルギーが管路62を介して、蓄圧タンク64内に回収される。
高い圧力エネルギー、換言すると高い圧力エネルギーを有する流体(ここでは主に空気)が回収されることで、蓄圧タンク64内の圧力は増す。こうしたエネルギー回収は、上記ステップS315あるいはステップS317で否定判定されない限りは概ね続けて行われる。
エネルギー回収中に、ステップS315あるいはステップS317で否定判定されるに至ると、エネルギー回収を終了するための制御が行われる。それらのいずれかで否定判定されると次ぐステップS325で、EGR弁50が通常開度になるように、アクチュエータ54に作動信号が出力される。また、流量制御弁66が閉弁するように、アクチュエータ68へ作動信号が出力される。また、スロットルバルブ26の強制的な開弁が解除されると、スロットルバルブ26の開度が運転状態に基づいた開度になるようにアクチュエータ24へ作動信号が出力される。さらに、排気絞り弁56が開弁するようにアクチュエータ58へ作動信号が出力される。そして、次ぐステップS327で回収フラグが「0」にされる。この結果、内燃機関10はエネルギー回収を行わない通常の制御状態に復帰される。
ここで、図4、図5および図6に基づいて、エネルギー回収中の(エネルギー回収の所定条件が満たされているときの)EGR弁50の開度の制御に関して説明する。上記エネルギー回収中、EGR弁50の開度は回収開度にされるが、この回収開度は可変開度である。ステップS311でEGR弁50の開度として回収開度が設定されると、まず、ECU70は、そのときの機関回転数および車速に基づいて、図4に表した如きマップ化されたデータを検索することでEGR弁50の開度を導出する。そして、この導出された開度にEGR弁50の開度がなるように、(図5のT1時に)アクチュエータ54に作動信号が出力される。例えば、導出されたEGR弁50の開度が全開の開度であるとき、図5に示すように、燃料カットがされる運転状態であるが故に全閉に閉じられていたEGR弁50は全開にまで開かれる。このEGR弁50の開弁は、排気絞り弁56の閉弁に概ね同期するように行われる(図5参照)。つまり、EGR弁50の開弁と、排気絞り弁56の閉弁とが、概ね同じ期間(T1−T2期間)に行われるように、それらの開度の制御が各々行われる。このように、エネルギー回収開始時の排気絞り弁56の閉弁に関連付けて動かされるEGR弁50の目標とされる開度を、「初期開度」と称する。
一旦、EGR弁50の開度が初期開度にされると、以後、EGR弁50の開度調節は、排気絞り弁50の開度制御とは関係なく行われる。具体的には、時々刻々変化する機関回転数および車速に基づいて図4に表した如きマップ化されたデータを検索することで導出される開度になるように、EGR弁50の開度は制御される。このようにしてEGR弁50の開度が制御されることで、概略的に図5に表すように、最終的に目標とされる開度(最終開度)である全閉の開度まで、EGR弁50の開度は緩やかに変化する。このように変化されるEGR弁50の開度は、弁間通路Pの圧力を、その時々で減速ショックが出ない圧力であって迅速にエネルギー回収可能な圧力にするような、開度である。すなわち、図4に表した如きマップ化されたデータは、排気絞り弁56が閉弁制御されたときに、弁間通路Pの圧力を、減速ショックの低減および適切なエネルギー回収の両方を満足する圧力とするようなデータである。図4では、機関回転数が低く且つ車速が遅いほど左下の領域のEGR弁50の開度が導出されるように定められている。図4によれば、機関回転数が低くなるほどEGR弁50の開度が小さくなり、車速が遅くなるほどEGR弁50の開度は小さくなる。したがって、機関回転数が低いほど、また、車速が遅いほど、より高いエネルギーを回収することが可能になる。
図6に機関回転数と減速トルクとの関係を示す。図6には、燃料カットをする運転状態での実験データの一例が表されている。図6の一番上の曲線β1は、排気絞り弁56が全開に開弁されると共にEGR弁50が全閉に閉弁されている状態でのトルク曲線である。そして、曲線β1の下側に位置する曲線β2は、排気絞り弁56が全閉に閉弁されると共にEGR弁50が全開に開弁されている状態でのトルク曲線である。そして、排気絞り弁56を全閉の閉状態にしたまま、EGR弁の開度をより閉じ側に推移させていくと、トルク曲線は、曲線β2から曲線β8に順に移る。なお、曲線β8は、排気絞り弁56が全閉に閉弁されると共にEGR弁50が全閉に閉弁されている状態でのトルク曲線である。
図6の曲線β1からβ8を横断するように延びる曲線γは、エネルギー回収制御に伴う減速トルクの推移例を表している。ここで、曲線γにしたがって減速トルクの変化を説明する。ただし、以下の説明ではEGR弁50の開度を導出するために機関回転数のみを用いるが、以下の説明はその導出のために機関回転数および車速の両方を用いた場合にも当てはまる。
上記エネルギー回収の所定条件が満たされて回収フラグが「1」にされるとき、点C1での減速トルクが生じる。そして、このとき機関回転数に基づいて図4のα1領域の全開の開度が初期開度として導出される。その結果、排気絞り弁56の閉弁と同期してEGR弁50が初期開度としての全開の開度にまで開弁されると、減速トルクは点C2での減速トルクになる。次に、機関回転数が低くなると図4のα2領域の90%開度の開度が導出されるようになり、排気絞り弁56が閉弁されている状態でEGR弁50の開度が90%開度にされる。これにより減速トルクは点C3での減速トルクになる。さらに、機関回転数が低くなると図4のα3領域の80%開度の開度が導出されるようになり、排気絞り弁56が閉弁されている状態でEGR弁50の開度が80%開度にされる。これにより点C4での減速トルクが生じるようになる。このようにして機関回転数が低くなって図4のα4、α5、α6領域の65%、45%、25%開度の開度が導出されるようになると、排気絞り弁56が閉弁されている状態でEGR弁50の開度がそれらの開度にされる。こうして減速トルクが、図6での点C5の減速トルクから点C7の減速トルクへと徐々に大きくなる。最終的に、機関回転数が低くなって図4のα7領域の全閉の開度が導出されるようになると、排気絞り弁56が閉弁されている状態でEGR弁50の開度が全閉の開度にされる。こうして図6の点C8での減速トルクが生じるようになる。さらに、機関回転数が低くなると、図6の曲線β8にそって、生じる減速トルクが変化する。
上で説明したように機関回転数や車速の低下にともなってEGR弁50の開度が初期開度から最終開度にされるので、排気絞り弁50の閉弁開始から徐々に減速トルクが高められることになる。このように徐々に高められる減速トルクは車両に明らかな減速ショックを生じさせない。そして、この過程で、弁間通路Pの圧力が増大して、その弁間通路Pの圧力が蓄圧タンク64内の圧力を超えるようになると、流量制御弁66が開弁されてエネルギー回収が行われる(ステップS319、S323)。したがって、減速ショックが出ないようにしつつ、エネルギー回収を行うことが可能になる。
また、ここでは、上記したように、機関回転数が低くあるいは車速が遅くなるほど、EGR弁50の開度の変化量が大きくなるようにした。機関回転数が低いあるいは車速が遅いほど、運転者に体感され得る減速ショックを生じさせる減速度が大きくなるからである。それ故、機関回転数が低いほどあるいは車速が遅いほど、EGR弁50の開度が小さくされて弁間通路Pの圧力上昇速度が高められる。したがって、機関回転数が低いほどあるいは車速が遅いほど、減速ショックを生じさせないようにしつつ高いエネルギーを回収することが可能になる。
また、本実施形態では、EGR弁50の開度が最終開度になると概ね弁間通路Pの圧力が目標圧力(例えば500kPa)で一定になるように、EGR通路46および排気通路28の経路断面積、長さ等が定められている。したがって、図5のT3−T4期間では、より適切に、目標圧力のエネルギー(圧力エネルギー)を蓄圧タンク64内に回収することができる。
図7に弁間通路Pの圧力の変化を概略的に表す。図7の曲線IはEGR弁50をエネルギー回収開始時に全閉にした場合の圧力曲線を、曲線IIは機関回転数が低いときにエネルギー回収のための上記制御を開始した場合の圧力曲線を、曲線IIIは曲線IIの場合よりも機関回転数が高いときにエネルギー回収のための上記制御を開始した場合の圧力曲線を表している。上記したように、エネルギー回収中、機関回転数が高い程、EGR弁50の開度は開く方に大きくされる。したがって、弁間通路の圧力上昇速度は、エネルギー回収開始時の機関回転数が高いほど、あるいは、機関回転数の低下が遅いほど、遅くゆるやかになる。
なお、上記では例として初期開度を全開の開度にしたが、初期開度は全閉の場合もあり得、また、全閉と全開との間の任意の開度であり得る。また、上記では最終開度を全閉の開度にしたが、最終開度を全閉と全開との間の任意の開度にしてもよい。
以上、上記したように、エネルギー回収開始時に排気絞り弁56が閉弁されることに対応してEGR弁50の開度が初期開度にされ、それ以後EGR弁の開度が機関回転数および車速に基づいて変化されるので、排気絞り弁上流側の排気通路の圧力を、減速ショックが出ないようにしつつ上昇させることができる。したがって、減速ショックが出ないようにしつつ、排気絞り弁上流側の排気通路の圧力を高めて、エネルギー回収を行うことが可能になる。
そして、上記のように、減速ショックが出ない程度の減速トルク(減速度)がエネルギー回収により生じるのみであるので、排気ブレーキが生じることは抑制される。したがって、エネルギー回収により、車両の走行性能を損なうことはない。
以上、本発明に係るエネルギー回収装置を上記実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されない。上記実施形態では、排気通路28の内、排気絞り弁56上流側すなわち弁間通路PにはEGR通路46が連通され、このEGR通路46に設けられたEGR弁50の開度を制御することで、弁間通路Pの圧力が調節された。しかしながら、弁間通路Pに連通する他の連通路およびその連通路に設けられた別の圧力調節弁を用いて、弁間通路Pの圧力調節がなされてもよい。例えば、弁間通路Pと、排気絞り弁56下流側の排気通路とを連通するバイパス通路を設け、そのバイパス通路に設けられたバイパス弁の開度を制御することで、弁間通路Pの圧力調節が行われてもよい。なお、この場合、バイパス通路の下流側端部と排気通路28との連通箇所は、触媒コンバータ34上流側であるとなおよい。
上記では、エネルギー回収中のEGR弁50の開度(回収開度)は、機関回転数および車速に基づいて定められたが、機関回転数および車速の少なくとも一方に基づいて規定され、それら一方に基づいて導出設定されてもよい。そして、機関回転数にのみ基づいてEGR弁50の開度が制御される場合には、機関回転数が低くなるほどEGR弁50の開度が小さくされるとよい。また、車速にのみ基づいてEGR弁50の開度が制御される場合には、車速が遅くなるほどEGR弁50の開度が小さくされるとよい。
なお、上記実施形態では、EGR弁50の開度を初期開度から全閉の最終開度まで閉じる方向に変化させた。しかしながら、EGR弁50の開度は全閉以外の最終開度にまで変化されてもよい。最終開度をエネルギー回収開始時の機関回転数や車速に基づいて設定することにしてもよく、例えば、エネルギー回収開始時の機関回転数が高回転側にあるときには、機関回転数が低回転側にあるときの0%開度の最終開度に対して、50%開度の最終開度にされる。これにより、より減速ショックが出ないようにすることができる。さらに、このように最終開度を変える場合、初期開度から最終開度までの到達時間を概ね同じにするようにしてもよい。例えば、エネルギー回収開始時の機関回転数が低いとき、機関回転数が200rpm下がるごとにEGR弁50の開度を20%閉じるのに対して、エネルギー回収開始時の機関回転数が高いとき、機関回転数が200rpm下がるごとにEGR弁50の開度を10%閉じるというように、エネルギー回収開始時の機関回転数に応じてEGR弁50の閉じ側への閉じ速度を変えてもよい。
図4に表された如きマップ化されたデータは、変速機の変速段ごとに設けられていた方がよい。そして、その時々の変速段に対応したデータを機関回転数や車速に基づいて検索することで、エネルギー回収を行っているときに、その時々でのEGR弁50の開度が導出されるとよい。こうすることで、より適切に減速ショックを出ないようにすることが可能になる。なお、1回のエネルギー回収中に変速段が変更される場合には、その変更時に、EGR弁50の開度導出に用いられるデータも切り換えられるとよい。それ故に、エネルギー回収中のEGR弁50の開度は、小さくなる方向ばかりでなく、大きくなる方にも変化し得る。
また、エネルギー回収を上記実施形態では燃料カット中に行うことにしたが、これ以外のときに行われてもよい。例えば燃料噴射をする運転状態のときにエネルギー回収が行われてもよい。
なお、上記実施形態では、蓄圧タンク64内に回収された圧力エネルギーを、過給器40の作動アシストに用いることとした。しかしながら、これは回収された圧力エネルギーの用途を制限するものではなく、回収された圧力エネルギーは、種々の機能部品の作動アシストなどに用いられ得る。なお、排気通路28と蓄圧タンク64とをつなぐエネルギー回収用の通路と、種々の機能部品と蓄圧タンク64とをつなぐエネルギー放出用の通路とは、分けられてもよい。
また、上記実施形態では、排気絞り弁56はバタフライ式バルブであったが、それ以外の形式のバルブであってもよい。排気絞り弁56は、例えば、ポペット式バルブ、シャッター式バルブであり得る。なお、排気絞り弁56として、排気ブレーキ用に設けられたバルブが用いられてもよい。また、EGR弁50や流量制御弁66は、ポペット式バルブ以外の形式のバルブであってもよく、バタフライ式バルブ、シャッター式バルブであり得る。なお、エネルギー回収用の通路とエネルギー放出用の通路とが分けられる場合には、エネルギー回収用の通路に設けられる弁は逆止弁であってもよい。
また、上記実施形態では、蓄圧タンク64を1つ設けることにしたが、それは複数個設けられてもよい。そして蓄圧タンク64を2つ以上複数個設ける場合には、それら蓄圧タンク64は車両に分散して配置され得る。
なお、上記実施形態では、本発明をディーゼル機関に適用して説明したが、これに限定されず、本発明は、ポート噴射型式のガソリン機関、筒内噴射形式のガソリン機関等の各種の内燃機関に適用可能である。また、用いられる燃料は、軽油やガソリンに限らず、アルコール燃料、LPG(液化天然ガス)等でもよい。また、本発明が適用される内燃機関の気筒数などはいくつであってもよい。
なお、上記実施形態およびその変形例では本発明をある程度の具体性をもって説明したが、本発明については、特許請求の範囲に記載された発明の精神や範囲から離れることなしに、さまざまな改変や変更が可能であることは理解されなければならない。すなわち、本発明は特許請求の範囲およびその等価物の範囲および趣旨に含まれる修正および変更を包含するものである。