以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明し、本発明の理解に供する。尚、以下の実施の形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
図1は本発明の一実施例に係るトラクタ1の全体的な構成を示した右側面図、図2はトラクタ1の制御系に関するブロック図、図3はトラクタ1における油圧回路図である。
先ず、図1、図2および図3を用いて本発明の農用作業車の一例であるトラクタの概略構成について説明する。1はトラクタで、機体の前後部に夫々前輪2・2と後輪3・3とを備え、ミッションケース4の後上部には油圧シリンダケース5を固着して設けている。該油圧シリンダケース5内には、単動式油圧シリンダ6が設けられており、油圧シリンダケース5の左右両側には該油圧シリンダ6の伸縮により回動するリフトアーム7・7を配置している。
また、トップリンク10、ロワーリンク11・11からなる3点リンク機構12の後端部には、対地作業機の一例であるロータリ耕耘装置14がリフトアーム7・7にて昇降自在に連結されている。したがって、上記単動式油圧シリンダ6を伸縮させることによって、リフトアーム7・7に連結されるロータリ耕耘装置14が上昇又は下降制御されることになる。リフトアーム7・7とロワーリンク11・11との間にはリフトロッド15と傾倒シリンダ18が介装されている。
また、傾倒シリンダ18は複動式とし、後述する制御弁の切換で伸縮され、ロータリ耕耘装置14をローリング方向(左右方向)に傾動させることが可能となり、ロータリ耕耘装置14の水平(姿勢)制御を行うことが可能となる。また、17は本機と作業機の間の左右相対を検出する手段であり、トラクタ1とロータリ耕耘装置14との間の相対的回動量を検出するストロークセンサで構成して、具体的には直線式のポテンショメータで構成されている。このストロークセンサ17は、上記傾倒シリンダ18の横側部に配設され、該傾倒シリンダ18の伸縮量を検出することによって、上記相対的回動量を検出するものである。16は、本機の任意位置、例えば、油圧シリンダケース5の横側部に取り付けられた傾斜センサであって、トラクタ1の左右の傾斜角度(即ち対地角度)を検出する対地検出手段の一例である。
また、片側のリフトアーム7の回動基部にはポテンショメータからなる対地高さセンサ23(図2参照)が設けられている。該対地高さセンサ23は回転型のポテンショメータやロータリエンコーダ等の回転センサにより、リフトアーム7の回動角度を検知することにより、ロータリ耕耘装置(作業機)14の高さと3点リンク機構12の状態を検出するようにしている。
ロータリ耕耘装置14について簡単に説明すると、ロータリ耕耘装置14は、耕耘爪を回動して耕耘する耕耘部34と、耕耘部34の上方を覆う耕耘カバー35と、耕耘カバー35の後部にリヤカバー36を枢支し、該リヤカバー36の回動基部に、リヤカバー36の角度を検出して、後述する油圧リンク102にリヤカバー36の回動量を伝達するプッシュプルワイヤ37の一端が取り付けられている。
次に、油圧回路について図3を用いて説明する。油圧ポンプ25から送り出された作動圧油は、分流弁26により一部は上述した水平制御用の傾倒シリンダ18側に送られ、他はトラクタ1の後部に連結可能な作業機(例えば、上述したロータリ耕耘装置14)を昇降するためのリフトアーム7・7に連結される単動式油圧シリンダ6側に送られる。ロータリ耕耘装置14の水平制御用の切換弁27は、3位置4ポート式の弁にて構成され、左側のソレノイド27aが励磁されると傾倒シリンダ18は伸長し、逆に右側のソレノイド27bが励磁されると短縮する。前記切換弁27は、制御装置60(図2参照)からパルス信号を受信した場合に、ソレノイド27a又はソレノイド27bにパルス信号を流すことによって、制御される比例式電磁弁であって、電流値に比例するものである。また、上記切換弁27は常態においては中立位置を保っており、傾斜センサ16によってトラクタ1の傾斜が検出された場合に、制御装置60は、ロータリ耕耘装置14を水平に維持すべく、上記何れかのソレノイド(27a・27b)を励磁することによって切換弁27を切り替える。
制御系の構成としては、トラクタ1において、ロータリ耕耘装置14の相対角度のローリング制御等を行うための制御手段の一例である制御装置60には、図2に示すように、トラクタ1の左右の傾斜角度の変化速度を計測する角速度センサ19を具備している。その他、制御装置60には、トラクタ1の後部に取り付けられるロータリ耕耘装置14等の対地作業機の取り付け幅等の連結状態に応じて切り替えを設定するための設定手段の一例である取付切替スイッチ59、作業機の下降時に下降減速を開始するタイミングを決定する下降速度設定器56、対地作業機の昇降を簡便に行うためのスイッチとして上昇スイッチ81および下降スイッチ82が接続されている(以下、「スイッチ」を「SW」と記する)。更に、トラクタ1とロータリ耕耘装置14との相対角度やトラクタ1の傾斜角度を予め設定するための傾斜設定器52も接続されている。また、上記取付切替SW59、傾斜設定器52、上昇SW81、下降SW82等は、トラクタ1の運転席近傍のダッシュボードやメータパネルに設けられても良い。
また、制御装置60の入力側にはA/D変換器55が設けられており、該A/D変換器55を介して、傾斜設定器52、下降速度設定器56、耕深設定器51、対地高さセンサ23、ストロークセンサ17、傾斜センサ16、角速度センサ19等が制御装置60に接続されている。なお、上記A/D変換器55を介さずに該制御装置60に接続されるものとしては、取付切替SW59、モードSW61、上昇SW81、下降SW82等がある。また、上記制御装置60は、MPUやCPU等の中央演算装置より成るものであっても良い。
図4乃至図6に示す如く、油圧弁(ポジション制御バルブ)90が油圧シリンダ6を収納する油圧シリンダケース5近傍(本実施例では側面)に付設され、該油圧弁90は前後方向に伸縮動作可能とするスプール90aを具備しており、該スプール90aの一側が油圧弁90内に挿入されて油路を切換可能とし、他端にリンク機構を介して作業機を昇降操作する油圧昇降レバー20や作業機を設定深さ(高さ)に設定する耕深設定レバー70や昇降アクチュエータ(モータ95)と連結され、更に、フィードバックするためのリンク機構101・102を介してリフトアーム7とリヤカバー36に連結されている。耕深はリヤカバー36の回動により検知して油圧弁90を切り換える構成とし、後述するリンク動作に用いるモータ95と、モータ位置センサ85が制御装置60に接続される構成としている。このスプール90aが後方に移動(短縮)したときにはリフトアーム7が下降方向に回動駆動され、また前方に伸長されたときにはリフトアーム7が上昇方向に油圧シリンダ6により回動駆動される。このスプール90aは油圧弁90に内蔵された図示しないバネの作用により、常時短縮方向に力が付勢されている。またスプール90aにはトラクタ1の左右方向に貫通する孔90bが形成されており、この貫通孔90bに挿通したスプリングピン(第二リンク軸76)により後述する第一連動リンク91および第二連動リンク100を回動可能に枢支している。
次に、図4乃至図6および図11を用いて、油圧昇降レバー20によってリフトアーム7を昇降する方法について説明をする。図4乃至図6および図11に示す如く、油圧弁90の側面に取付プレート89が固設されて前方に突出され、該取付プレート89の上部に第一リンク軸75の一端が固定されている。そして、該第一リンク軸75上に前記油圧昇降レバー20が取り付けられるレバーアーム22とモータ昇降レバー73と耕深設定レバー70が取り付けられる耕深設定レバーアーム74が共通の軸心として回動自在に軸支されている。但し、レバーアーム22と耕深設定レバーアーム74は第一リンク軸75上に外嵌した皿バネにより付勢されて、回動した位置を維持できるようにしている。前記レバーアーム22の基部22aはモータ昇降レバー73の上部に係合させており、該モータ昇降レバー73の下部に枢支ピン73aを枢支して、第一連動リンク91の上部を枢支している。該第一連動リンク91の上下中途部が第二リンク軸76に枢支され、該連動リンク91の下部がリンクレバー92の上部に突設した枢支ピン92bに枢支されている。そして、前記第二リンク軸76は前記スプール90aの貫通孔90bに固定され、第二連動リンク100の中途部を枢支している。
また、前記リンクレバー92は、前記取付プレート89の略中央部に固定された第三リンク軸77を軸心として回動自在に枢支されており、該リンクレバー92の下端には第四リンク軸78を突設して第一リンクロッド93の前端を枢支している。一方、リフトアーム7の回動基部には軸支部7aが下方に突設されており、該軸支部7aにはピン孔7bが開口されている。そして、前記第一リンクロッド93後端に設けた枢支ピン93aの先端を前記ピン孔7bに挿入して回動自在に支持している。こうして、第一リンクロッド93の両端が各々回動自在に枢支されリンク機構101を構成している。このように構成することにより、第一リンクロッド93はリフトアーム7の上昇時には後方へ引っ張られ、反対にリフトアーム7の下降時には前方へ押されるようにしている。
このような構成において、油圧昇降レバー20(即ちレバーアーム22)を図5の如く反時計回りに回動させた場合、即ち、上昇方向に回動すると、モータ昇降レバー73も反時計回りに回動され、枢支ピン73aを介して第一連動リンク91を前方へ回動して、スプール90aをバネ力に抗して上昇側(前方)へ摺動させる。そして、このスプール90aの摺動により油圧弁90が切り換えられてリフトアーム7が上昇回動して作業機が持ち上げられる。このリフトアーム7の上昇回動に伴って、第一リンクロッド93が後方へ引っ張られ、リンクレバー92後方へ回動され、該リンクレバー92に連結された第一連動リンク91も後方へ回動され、スプール90aが後方へ摺動され、油圧弁90が中立位置に切り換えられると、リフトアーム7の上昇回動が停止される。つまり、油圧昇降レバー20により設定した高さまでリフトアーム7は回動して停止されるのである。また、図6に示す如く、油圧昇降レバー20(即ちレバーアーム22)を時計回り(下降側)に回動させた場合、モータ昇降レバー73も時計回りに回動され、第一連動リンク91が後方へ回動されて、該第一連動リンク91に連結されたスプール90aも後方へ摺動されて、油圧弁90が下降側に切り換えられる。前記油圧弁90の切り換えによりリフトアーム7が、図5の如く、下降すると、第一リンクロッド93は前方に押され、リンクレバー92が前方へ回動され、第一連動リンク91も前方へ回動してスプール90aは中立側に摺動され、油圧弁90が中立位置となると、下降は停止され、油圧昇降レバー20により設定した高さで停止されるのである。
次に、図7、図8および図11を用いて、モータ95の駆動によりリフトアーム7を昇降する方法について説明をする。図7および図11に示す如く、モータ95はミッションケースの側面等油圧弁90の下方に配置され、該モータ95のモータ軸(出力軸)95aにはモータアーム97の一端が固定されており、該モータアーム97の他端はモータリンクアーム96の下端に回動自在に枢支されている。該モータリンクアーム96は上方に延設されて、該モータリンクアーム96の上部にはその長手方向に沿って長孔96aが開口され、該長孔96aに前記モータ昇降レバー73の上部に設けた摺動ピン73bが挿入されている。このように構成することにより、図7に示す状態で、モータ95を駆動しない状態では、前述のように、油圧昇降レバー20を操作して、モータ昇降レバー73が回動されても摺動ピン73bは長孔96a内を摺動するだけであって、回動操作を制限するものではない。そして、運転席等に配置した上昇SW81を操作すると、モータ95が駆動されて、モータ軸95aが図8に示す時計方向に回転され、モータアーム97が下方へ回動することにより、モータリンクアーム96が下方へ引き下げられて、これによりモータリンクアーム96に設けられた長孔96aと該長孔96aに挿通された摺動ピン73bが当接して、モータ昇降レバー73が時計方向に回動して、前記上昇回動操作と同様の動作をし、リフトアーム7が上昇回動される。また、リフトアーム7が上昇位置にある時に、下降SW82を操作すると、モータ95は前記と逆方向に回動され、モータ軸95aが図8に示す反時計方向に回転され、モータアーム97が上方へ回動することにより、モータリンクアーム96が上方へ引き上げられて、これによりモータリンクアーム96に設けられた長孔96aと該長孔96aに挿通された摺動ピン73bが当接して、モータ昇降レバー73が時計方向に回動して、前記下降回動操作と同様の動作をし、リフトアーム7が下降回動される。
次に、図9、図10および図11を用いて、耕深の制御について説明を行う。図9、図10および図11に示す如く、ミッションケースの後面より後方に突設したトップリンクブラケット38の側面に第五リンク軸83が突設され、該第五リンク軸83にベルクランク状の連動アーム98の中途部が枢支されている。該連動アーム98の後側先端には、前記プッシュプルワイヤ37等を介してリヤカバー36の回動部と連結され、リヤカバー36の動き(上下回動)が伝えられるようにしており、耕深が変化するとリヤカバー36が回動して連動アーム98の角度も変更されるようにしている。
また、前記連動アーム98の他方(前側)の先端には第二リンクロッド99の後部が枢結され、該第二リンクロッド99の前端は、第二連動リンク100の下部に第六リンク軸79を軸心として回動自在に枢支されている。上下方向に配置した該第二連動リンク100の上下略中央部には略長方形の孔100aが開口されており、この孔100aに前記油圧弁90のスプール90aに枢支される第二リンク軸76が挿通されている。該孔100aは枢支軸80を中心として第二リンク軸76が円弧方向に移動可能な大きさとしている。該第二連動リンク100の上部に枢支軸80を介して耕深設定レバーアーム74の下端と回転自在に枢結されている。このような構成において、耕深設定レバーアーム74を回動することにより枢支軸80の位置が前後に変更されて、第二連動リンク100とスプール90aとリヤカバー36の角度との相対位置を変化させて耕深を設定することができる。具体的には、作業機を下降させた作業状態で、設定した深さで作業しているときに、圃場の土質等で作業機が設定深さよりも深くなると、リヤカバー36が上昇回動して、プッシュプルワイヤ37が引っ張られて、連動アーム98が図10に示すように下方へ回動される。該連動アーム98の下方回動により第二リンクロッド99が前方へ押され、第二連動リンク100が前方へ回動され、孔100aに係止された第二リンク軸76を介して油圧弁90のスプール90aが前方へ摺動され、油圧弁90は上昇側に切り換えられる。この油圧弁90の切り換えによりリフトアーム7が上昇回動して作業機が上昇される。この作業機の上昇によりリヤカバー36は下方に回動し、プッシュプルワイヤ37を介して連動アーム98は上方へ回動され、該連動アーム98に連結した第二リンクロッド99が後方へ引っ張られて、該第二リンクロッド99に連結した第二連動リンク100が後方へ回動する。そして、耕深設定レバー70で設定した位置まで戻ると、スプール90aは中立位置に戻り上昇は停止される。逆に、作業機が持ち上げられてリヤカバー36が下方へ回動すると、連動アーム98は上方へ回動され、第二リンクロッド99を介して第二連動リンク100は後方へ回動され、第二リンク軸76は孔100a内を摺動する。このとき、スプール90aはバネにより後方へ摺動するように付勢されているため、スプール90aは後方(下降方向)へ摺動し、油圧弁90は下降側に切り換えられる。この作業機の下降により、リヤカバー36は上昇回動し、連動アーム98が下方へ回動し、前記同様のリンク動作で、耕深設定レバー70により設定した位置で、スプール90aは中立に戻り、作業機は設定した深さに落ち着く。こうして耕深制御が行われる。なお、耕深制御時は前記油圧昇降レバー20は最下降位置に回動しておく。
次に、前述のような構成の油圧システムに対する処理について説明をする。モータ軸95aの回転位置を検知するモータ位置センサ85(例えばポテンショメータなど)がモータ95の出力軸近傍に設置されている。
図12に示す如く、作業機の昇降制御は、モータ軸95aの回転位置(角度)を規定位置(角度)に一致させるように制御を行う。また、最後にSW操作されたのが下降SW82であったか、上昇SW81であったかを判別し、下降SW82であったならば下降操作側に、上昇SW81であったならば、上昇操作側にそれぞれモータ95を駆動する。下降時には目標停止位置近傍になるに従いPWM制御によって出力量を小さくして動作速度を遅くすることとする。
すると、作業機を上下に駆動するモータリンクアーム96の昇降速度も、リフトアーム7の回動速度も遅くなるためスプール90aの摺動速度も遅くなり、作業機が低速で下降されるために接地時のショックが小さく、運転者に負担をかけないとともに耕耘開始時にリヤカバー36の傾きが緩やかに変化するため、耕深制御が安定しやすい。
その後、モータ軸95aは目標角度まで回転するが、前述のリヤカバー36が接地すると上方へ回動されるので、フィードバックリンク機構102を介して第二連動リンク100が上昇側へ回動され、目標の耕深位置付近でスプール90aが中立位置となって収束すべくリヤカバーは上下動作をはじめる。
図12のフロー図に示す通り、制御装置60はまず、スイッチセンサ類の状態を読み込む(ステップS10)。次に最後に操作されたのが下降SW82であるか、上昇SW81であるかを判別し(ステップS30〜S40)、下降SW82が最後に操作される時、モータ95は下降操作方向に駆動し、上昇SW81が最後に操作される時は、上昇方向にする。上昇時には目標停止位置とモータ位置との偏差に応じ出力制御設定を行い(ステップS70)、モータ95に上昇方向の出力を行う(ステップS−80)。一方、下降時には目標停止位置近傍になるに従いPWM制御によって出力量を小さくして動作速度を遅くする(ステップS110)。図14に目標停止位置とモータ位置との偏差ごとにPWMのデューティを変化させた一例を示す。この場合は偏差ごとに階段状にPWMデューティすなわち出力量を変化させているが、比例制御などの線形的な関数を当てはめるなどでも良く限定するものではない。下降速度設定器56より得られる検出値によって、図14における最小の出力に至る偏差の範囲(図14の領域A)を変更し調整することができる。即ち、偏差が小さい領域A領域において、モータ95への最小出力量に至る範囲を広くすることによって、徐々に出力が小さくなる範囲が図の右側に移動する。よって、上昇位置から最終目標位置までの距離が離れた位置から減速されることになり、接地するまでゆっくり下降することができる。また、最小出力量に至る領域Aの範囲を狭くすることによって、最終目標位置に近い側で減速が始まることになり、上昇位置から速く下降させて目標位置近傍で減速が大きくなる。この偏差の計算は後述のステップS−M60で行われる。この最小出力に至る偏差範囲の変更により、作業機が上昇位置から下降位置に至るリフトアーム7の動作時間が変化するとともに、作業機の下降が減速されるタイミングが変化し、作業機に応じた調整が可能になる。
このように出力を変化させることでモータ95が正常に動作し、図15、図16に示すように、低速で回転することが可能であれば、作業機を上下に駆動するモータリンクアーム96の昇降速度も遅くなる。また、それによって、スプール90aの摺動速度も遅くなり、リフトアーム7の回動速度(図17)も遅くなるため、作業機が低速で下降することとなり、接地時の衝撃が小さく、運転者に負担をかけない。また、耕耘開始時にリヤカバー36の傾きが緩やかに変化するため、耕深制御も安定しやすい。しかし、実際にはワイパモータなどに用いられる安価なDCモータをこのシステムに用いた場合、出力が小さい場合にはモータの動作特性にばらつきがあり、図18、図19の如く途中で停止してしまう場合がある。すると図20に示すようにリフトアーム7も途中で停止してしまうため目標位置まで作業機が下降しないことがある。このような不具合が発生することを防止するため、制御装置60はステップS110において図14のように定められたデューティで出力を行うのみならず、次のような処理を行う。
図13にステップS110における処理の詳細を示す。まず、モータが下降目標位置に到達していないと判定された場合(ステップS100)モータ95に対して動作出力をこれから行うか、または行っている最中である。このときモータの動作速度を判定するための、単位時間当たりのカウントを行っているか否かを判定し(ステップS−M10)、カウントが行われていないまたは一旦カウントが終了していると判定されたならば、モータ速度を判定する単位時間当たりのカウントを開始し(ステップS−M15)そのときのモータ位置を記憶する(S−M16)。
次に単位時間が経過したか否かを判定し(S−M20)、単位時間が経過していたならばステップS−M16で記憶したモータ位置と現在のモータ位置を比較した時間内でのモータ95の動作量を計算する(S−M30)。この計算結果に基づき動作量即ち単位時間当たりの動作速度がゆっくり接地できる程度の低速となる閾値S1以下であるならば(S−M40)、出力を現在の値より低下させる必要がないと判断して出力パラメータの再計算を行う。ここで、再計算の方法の一例について説明する。ステップS−M40でモータの動作量がS1以下であると判定されたならば、現在の動作スピードは十分に減速されていると判断し、ステップS−M45にて現在の出力量を最小出力として再計算を行う。例えば、図14における偏差領域Cにおいてモータ95の動作量がS1以下であったならば、最小出力として再計算を行う。つまり、図14における偏差領域Cにおいてモータ95の動作量がS1以下であったならば、最小出力量を出力Cに変更する。即ち領域Aでの出力量を出力Aから出力Cに変更する。それに伴って領域Bの出力量を出力D、領域Cの出力量を出力E、領域D以上の出力量は最大出力に変更する。変更後の出力特性を図21に示す。破線部が図14と同じくデフォルトの出力特性であり、実線部が変更後の出力特性を示す。パラメータは所定の割合で領域毎に階段状に増加(減少)する変数とする。
その後、ステップS−M60において下降速度設定器56、モータセンサ85の情報に応じて偏差に応じた出力量を計算し、計算結果に従って、モータ95に下降方向の出力を行う(S120)。これによって、モータ95が予め定められた動作速度、即ち単位時間あたりの動作量がS1以下であった場合はそのときの出力量を最小として出力パラメータを計算しなおし、モータ95が停止する前に速やかにパラメータの調整を行うのである。
このような処理を施した場合にモータ動作の例を図22、図23に示す。図22がモータセンサの変化を時系列的に記したもの、図23はその測定値を元にモータの動作速度をモータの回転位置別に記したものである。図23に示すように、モータは最大速度から急激に速度が低下し、前述のパラメータの計算が行われなければそのまま停止してしまうほど動作速度が低下する。しかし、途中からパラメータが変更され動作速度が復帰して徐々に速度が上昇し、その後動作目標値に近づくにつれ再度減速されて目標位置付近で停止している。図24に前述の如くモータが動作した場合におけるリフトアーム7の動作特性の変化を記す。横軸がリフトアーム角度、縦軸がそのときのリフトアーム下降速度である。モータの動作と同様にリフトアーム下降速度は最大速度から急激に減速され、その後は途中で停止することなく低速で下降を続けている。
このように、前述のパラメータ変更の結果、モータの動作停止を防止し、リフトアーム7が下降の途中で急激に停止するような動作は行わず、減速されて圃場面と接地することが実現される。ただし、この処理のみではいくつかの問題点が残る。まず、図16と図23を比較するように動作の停止を防止することはできるが、モータが減速される特性が異なり、結果リフトアーム7の下降時の動作速度の特性も図17と図24のように異なってしまうのである。図16では一旦最小速度付近まで早い段階(モータ位置が目標停止位置から離れた状態)に達しているが、このモータを再度下降操作した場合は図23に近い特性を示す。つまり前述の例で説明すれば領域Cまではデフォルト値である図14のパラメータで動作しており、その後再計算されて領域Cの出力量は出力Eとなり、その後徐々に出力D→出力Cと変化することとなる。次回に下降動作が行われるときは領域Cでは出力Eであるため、図23の如く急激に速度が低下することがない。偏差の変化に伴って徐々に動作速度が低下し領域Aで最小出力に至るため図23に比べ図16に近い動作を示す。しかし、この変更は制御装置60の処理が有効な場合、即ち電源を投入してから一旦下降動作を行った後に有効となるため、一旦電源を切断した後はこの処理は有効ではない。
また、もう一つの問題としてシステムは動作速度が速い状態から遅い状態に移行する過程において最小動作速度を決定するシステムとなっていることである。つまり、一旦最小速度に決定してしまうと、その速度が速すぎる(リフトアーム7の下降速度が速くなりすぎる)場合でもその後速度を修正する手段をもたないことである。また、停止に至る危険性のある速度で最小速度を決定した場合、つまり逆に出力量を小さく設定しすぎた場合はモータが一旦停止してしまう可能性がある。
これは極短時間にDCモータ動作速度の判定を行わなくてはならない本システムに固有の問題であり、モータの速度がS1を越える速度からS1以下に低下する過程にある出力を保持したとしても、その出力量がS1近傍の動作速度を維持するとは限らないためである。すなわち、モータ95は出力が低下して出力量を保持する前の大きな出力量による慣性力の影響を受けて動作しており、その慣性力の影響が低下するに従って出力量が保持されても動作速度は更に低下するおそれがある。DCモータの特性上慣性力は急激に低下しないため短時間での速度の認識ではその後のモータの速度低下を予測することは困難である。
このように、モータの動作速度を検出するには一定時間おきにその位置を比較する方法を取るため速度の変化過程において一回の判定でその速度を安定して捕らえることは困難である。これらの問題を解決し、モータの特性のばらつきを考慮して更に安定した動作特性の向上を得るために次のような処理を追加して行うこととする。まず、最小出力量となる領域でのモータ動作速度から、動作速度が一定の範囲内にない場合には出力の増減を行い、最適な出力量となるように調整する。また、これらの出力量の補正が安定し、補正を行わなくても適正なモータ動作が得られる場合、すなわち下降動作が出力パラメータの変更なしに正常に行われた回数が一定以上である場合そのときのパラメータをEEPROMなどのような不揮発性メモリ43に記憶して次回起動時にも同様の動作特性が得られるようにする。
このような機能を実現するべく、次のような一連の処理を行う。図25及び図26に昇降制御処理の全体を、図27に下降SW82の操作回数カウント処理のフロー図を示す。図27に示すように、下降SW82の操作が行われた場合、その回数を記録する(S90、S95)。そして一連のモータ動作処理のあと、下降SW82の操作回数が一定以上に達したならば不揮発性メモリ43に現在のモータ位置の偏差と出力量を計算するのに必要な情報を記録する(S136)。ただし、記録する前に、不揮発性メモリ43の値と現在用いている出力パラメータが同じ値であるか判定し(S135)、同じ値である時は不揮発性メモリ43に対する書き込みを行わない。これは、現状ではEEPROMなど多く用いられる不揮発性メモリ43ではその情報の上書き回数に限度があるため、システムの寿命を延ばすために不要な上書きは行わないようにするためである。また、不揮発性メモリ43に書き込みを行った後、下降SW82の操作回数を0に戻し(S137)、次回の処理ループで操作回数のカウントを再開することにする。
図28及び図29に図25におけるステップS110の処理の詳細を示す。ステップS−M10〜S−M40及びS−M45に至る処理は図13と同様である。モータ動作量がS1以下であり(S−M40)、ステップS−M45において出力パラメータの変更が行われた場合は下降SW82の操作回数のカウントをクリアする(S−M46)。その後、偏差領域が出力最小、すなわち偏差領域が図14領域Aに当たるか否かを判定し(S−M50)、領域Aである場合はステップS−M51以下の判定処理に移行する。領域Aではない場合はそのまま制御出力量を演算する(S−M60)。
領域Aではさらに動作量の判定を行い、モータの単位時間あたり動作量が、前記閾値S1よりも小さくモータが停止可能性のある閾値S2以下であれば(S−M51)、最小出力量を増加し(S−M52)、モータの単位時間あたりの動作量が前記閾値S2よりも大きく閾値S1よりも大きい値に設定変更された閾値S3以上であれば(S−M55)最小出力量を減少する(S−M56)ステップS−M52またはM55の処理が行われて出力パラメータが変更された場合は下降スイッチ82の操作回数のカウントをクリアして(S−M57)ステップS−M60において出力量を決定する。領域Aにおいてモータ単位時間あたりの動作量がS2より大きくS3未満であればパラメータの変更は行わず制御出力を設定する(S−M60)。なお、モータの単位時間あたりの動作量に対する閾値は、S2<S1≦S3となるように定める。すなわち制御装置60は、まず、領域Aにおけるモータの動作速度がS1近傍となるようパラメータの変更を行う。モータ位置が領域Aに到達したならば、S2<(モータ速度)≦S3の範囲の動作速度となっているか否かを判定し、この範囲を外れている場合は出力量を調整する。
図30にこのようにパラメータを変更した一例を示す。領域Cにおいて単位時間あたりの動作量がS1であった時、破線のデフォルト値から二点鎖線のパラメータに変更される。即ち、領域Cの値を領域Aの値として最小出力量として再計算されているのである。その後、モータが領域Aにて単位時間あたりの動作量がS2以下であると判定されてさらに最小出力を増加して全体の値を再計算し、実線のようになっている。
また、領域Aにおいて動作速度がS3以上であった場合のパラメータの変化の例を図31に示す。領域Cにおいて単位時間あたりの動作量がS1以下であると判定されて、破線のデフォルト値から二点鎖線のパラメータに変更される。その後モータが領域Aにて単位時間あたりの動作量がS3以上であると判定されて最小出力を減少させ、全体の値を再計算し、実線のようになっている。このように、領域Aにおける単位時間あたりのモータ動作量を判定して最小出力量を増減し、それをもとに全体のパラメータを修正することで、モータ固有のばらつきによらず次回に下降操作がなされたときの動作特性を図15、図16に示すような特性に安定して再現することができる。これによって、モータを用いて下降速度を制御する機能を量産的に安定して実現することが可能となる。さらに温度などの環境条件によるモータの特性変化や経時的なリンク抵抗の変化等に対しても前述の出力量の修正が有効に働き、安定した動作特性を再現することが可能になり、製品の寿命を延ばし動作の安定性を高めることができる。
また、前述のパラメータの変更が行われていない状態での下降スイッチ82の操作回数を判定し(S130)、それ以上であるならば、その時のパラメータを記憶する。これにより、速やかに最適な動作特性を得ることができる。また、工場出荷時に規定回数下降SW82を操作するなどでこれらの記憶を一旦行えば、簡便な調整で市場へ動作特性が異なる製品を供給することを排除できる。