JP4937542B2 - 皮革様シート状物およびその製造方法 - Google Patents
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Description
さらに、高分子弾性体が多くなるとゴムライクな風合いになりやすく、天然皮革に似た充実感が得られにくくなることも指摘されている。加えて、高分子弾性体を含むことは、これらの風合い面での課題のみならず、近年の環境や資源の保護等の目的から重視されているリサイクル性に対しても好ましくない。例えばポリエステルの分解回収方法(例えば、特許文献1)やポリウレタンの分解方法(例えば、特許文献2)が検討されている。しかし、これらの方法はいずれも主として単一成分のものに適用され、上記のように繊維とポリウレタン等の高分子弾性体が不離一体化した複合素材においては、その分解方法が異なるため適用することが困難にある。そこで、それぞれの成分に分離する必要があるが、一般に非常にコストがかかり、また完全に分離することも困難である。
すなわち、本発明の皮革様シート状物は、単繊維繊度0.0001〜0.5デシテックスの極細繊維が極細化処理時もしくは極細化処理後、または極細化処理時および極細化処理後に施した高速流体流処理により相互に絡合した不織布で構成され、繊維素材からなり、かつ繊維の表面に存在する微粒子を含むことを特徴とするものである。
また、本発明の皮革様シート状物の製造方法は、本発明の皮革様シート状物を製造する方法であって、単繊維繊度0.0001〜0.5デシテックスの極細繊維が発生可能な単繊維繊度1〜10デシテックスの短繊維をニードルパンチにより絡合させた後に、極細繊維を発生させて極細短繊維不織布とし、次いで少なくとも10MPaの圧力で高速流体処理を行って再度絡合させ、その後に染色し、微粒子を付与することを特徴とするものである。
さらに、該微粒子の直径(D)と不織布を構成する極細繊維の平均直径(d)の関係式(1)において、kが0.001〜1.500であることが好ましく、0.001〜0.500であることがより好ましく、0.001〜0.100であることがさらに好ましく、0.002〜0.050であることが特に好ましい。
ここで、kの値が0.001以上であれば耐摩耗性向上効果が顕著になる。また1.500を超えると耐摩耗性向上効果はあるものの、洗濯等により脱落しやすくなり、耐久性が低下するため好ましくない。
これらの微粒子は、本発明の効果が発揮できる範囲で適宜使用量を調整することができるが、好ましくは0.01〜10%であり、より好ましくは0.02〜5%、さらに好ましくは0.05〜1%である。0.01%以上であれば、耐摩耗性の向上効果が顕著に発揮でき、量を増加させる程、その効果は大きくなる傾向がある。ただし、10%を越えると風合いが硬くなり、好ましくない。なお、微粒子の脱落を防ぎ、耐久性を向上させるためには、少量の樹脂を併用することが好ましい。
また、柔軟な風合いとなめらかな表面タッチを得るために、本発明の皮革様シート状物は柔軟剤を含むことが好ましい。柔軟剤としては特に限定されず、織編物に一般的に使用されているものを繊維種に応じて適宜選択する。例えば染色ノート第23版(発行所 株式会社色染社、2002年8月31日発行)においては、風合い加工剤、柔軟仕上げ剤の名称で記されているものを適宜選択することができ、その中でも柔軟性の効果が優れる点でシリコーン系エマルジョンが好ましく、アミノ変成やエポキシ変成されたシリコーン系エマルジョンがより好ましい。これらの柔軟剤が含まれると耐摩耗性は低下する傾向があるため、この柔軟剤の量と上記の微粒子の量は目標とする風合いと耐摩耗性のバランスを取りながら、適宜調整することが好ましい。従って、その量は特に限定されるものではないが、少なすぎると効果が発揮できず、多すぎるとべたつき感があるため、通常0.01〜10%の範囲となる。
目付は好ましくは100〜550g/m2であり、より好ましくは120〜450g/m2、さらに好ましくは140〜350g/m2である。100g/m2未満であると、物性が低下し、織物および/または編物を積層している場合は、表面に織物および/または編物の外観が見えやすくなり、品位が低下するため好ましくない。また550g/m2を越える場合は、耐摩耗性が低下する傾向があるため好ましくない。また、繊維見掛け密度は、好ましくは0.230〜0.700g/cm3であり、より好ましくは0.250〜0.650g/cm3、さらに好ましくは0.300〜0.500g/cm3である。0.230g/cm3未満であると、特に耐摩耗性が低下するため好ましくない。また0.700g/cm3を越えると風合いが堅くなり好ましくない。
引張強力がこの式を満足しない範囲であると、特に実質的に高分子弾性体を含まない皮革様シート状物においては、やぶれ等の問題が発生する可能性があるため好ましくない。また上限は特に限定されるものではないが、通常250N/cm以下となる。
さらにまた、タテおよびヨコ方向のいずれの引張強力も、以下の式(3)を満足することがさらに好ましい。
本発明の皮革様シート状物は、JIS L 1096(1999)8.17.5 E法(マーチンデール法)家具用荷重(12kPa)に準じて測定される耐摩耗試験において、20000回の回数を摩耗した後の試験布の摩耗減量が20mg以下、好ましくは15mg以下、より好ましくは10mg以下であり、かつ毛玉が5個以下存在することが好ましく、3個以下であることがより好ましく、1個以下であることがさらに好ましい。摩耗減量が20mgを越える場合、実使用において毛羽が服等に付着する傾向があるため好ましくない。一方、下限は特に限定されず、本発明の皮革様シートであればほとんど摩耗減量がないものも得ることができる。また発生する毛玉については、5個を越えると、使用した時の外観変化によって品位が低下するため好ましくない。
一般に合成皮革や人工皮革と称される皮革様シート状物はポリウレタン等の高分子弾性体と繊維材料から構成される。本発明の皮革様シート状物においても本発明の効果を逸脱しない範囲で、ウレタン等の高分子弾性体が含まれたものとすることも可能である。かかる高分子弾性体としては、適宜目的とする風合い、物性、品位が得られるものを種々選択して使用することができ、例えばポリウレタン、アクリル、スチレン−ブタジエン等が挙げられる。この中で柔軟性、強度、品位等の点でポリウレタンであることが好ましい。しかしながら、本発明の皮革様シート状物の特徴がより明確であり、微粒子による耐摩耗性向上効果が顕著になり、従来と比較してより優れる点で、実質的に高分子弾性体を含まず、主として繊維素材からなることが好ましい。さらに、繊維素材についても実質的に非弾性ポリマーの繊維からなることが好ましく、例えば、ポリエーテルエステル系繊維やいわゆるスパンデックス等のポリウレタン系繊維などのゴム状弾性に優れる繊維を除くポリマーであることが好ましい。具体的には、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン等からなる繊維が挙げられる。実質的に非弾性ポリマーの繊維素材からなることにより、ゴム感がなく充実感のある風合いを達成することができる。また、さらには、易リサイクル性、高発色性、高耐光性、耐黄変性等種々の効果が達成できる。特にケミカルリサイクルを行うためには、繊維素材が単一成分であることが好ましく、例えばポリエステルやポリアミドからなるものが好ましい。
これらのポリマーには、隠蔽性を向上させるためにポリマー中に酸化チタン粒子等の無機粒子を添加してもよいし、その他、潤滑剤、顔料、熱安定剤、紫外線吸収剤、導電剤、蓄熱材、抗菌剤等、種々目的に応じて添加することもできる。
本発明の皮革様シート状物は、少なくとも不織布で構成されている必要があり、これにより天然皮革のような風合いや表面感を得ることが可能となる。なお、不織布を含むものであれば、織編物を積層してもよいが、織編物のみからなるものであると、良好な風合いや表面感を得ることが困難になる。
また品位や風合いが優れる点で、不織布が主として短繊維で構成されていることが好ましく、またその繊維長は主として0.1〜10cmであることが好ましく、1〜7cmであることがより好ましく、2〜6cmであることがさらに好ましい。10cmを超える繊維が主体として含まれると、表面品位が低下するため好ましくない。下限は特に限定されず、不織布の製造方法によって適宜設定できるが、0.1cm未満であると脱落が多くなり、また強度や摩耗等の特性が低下する傾向があるため、好ましくない。主として1cm以上であると飛躍的に耐摩耗性は向上する。なお、本発明の効果が損なわれない範囲で、この範囲外の繊維長の繊維が含まれていてもよい。
また、強度等の物性、品位等を考慮した場合、繊維長が均一でない方が好ましい。すなわち0.1〜10cmの繊維長の範囲内において、短い繊維と長い繊維が混在することが好ましい。例えば0.1〜1cm、好ましくは0.1〜0.5cmの短い繊維と、1〜10cm、好ましくは2〜7cmの長い繊維が混在する不織布を例示することができる。ここで例えば短い繊維は表面品位の向上や緻密化等のために、また長い繊維は高い物性を得るため等の役割がある。
次に本発明の皮革様シート状物の好ましい製造方法を述べる。
スエード調やヌバック調の立毛を有した皮革様シート状物を得る場合は、サンドペーパーやブラシ等による起毛処理を行うことが好ましい。かかる起毛処理は後述する染色の前または後、あるいは染色前および染色後に行うことができるが、染色後に行うとサンドペーパーやブラシに着色が生じるため、染色前に行うことが好ましい。また、後述する微粒子の付与後に行うこともできるが、立毛が出にくい傾向を示すことから、微粒子付与後に行うことが好ましい。
(1)目付、繊維見掛け密度
目付はJIS L 1096 8.4.2(1999)の方法で測定した。また、厚みをダイヤルシックネスゲージ((株)尾崎製作所製、商品名“ピーコックH”)により測定し、目付の値から計算によって繊維見掛け密度を求めた。
(2)引張強力
JIS L 1096 8.12.1(1999)により、幅5cm、長さ20cmのサンプルを採取し、つかみ間隔10cmで定速伸長型引張試験器にて、引張速度10cm/分にて伸長させた。得られた値を幅1cm当たりに換算して引張強力とした。
(3)引き裂き強力
JIS L 1096 8.15.1(1999)D法(ペンジュラム法)に基づいて測定した。
(4)マーチンデール摩耗試験
JIS L 1096(1999)8.17.5 E法(マーチンデール法)家具用荷重(12kPa)に準じて測定される耐摩耗試験において、20000回の回数を摩耗した後の試験布の重量減を評価すると共に外観から毛玉の数を数えた。
(5)洗濯耐久性
JIS L 1096(1999)8.23.1 A法(ライン乾燥)に準じて洗濯を5回行った後、(4)に規定する摩耗試験を行った。
(6)断面観察
ウォータージェットパンチ後の不織布シートを厚み方向に裁断し、厚み方向に対して中央部分の断面をSEMで観察した。
(7)繊維直径
不織布を3箇所サンプリングし、その横断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、各箇所それぞれ、無作為に単繊維繊度0.001〜0.5デシテックスの範囲にある50本の繊維(合計150本)を抽出して測定した。150本の測定で得られた値の平均値を直径とした。
海成分としてポリスチレン45部、島成分としてポリエチレンテレフタレート55部からなる単繊維繊度3デシテックス、36島、繊維長51mmの海島型複合短繊維を用い、カード、クロスラッパーを通してウェブを作製した。次いで1バーブ型のニードルパンチにて1500本/cm2の打ち込み密度で処理し、繊維見掛け密度0.21g/cm3の複合短繊維不織布を得た。次に約95℃に加温した重合度500、ケン化度88%のポリビニルアルコール(PVA)12%の水溶液に固形分換算で不織布重量に対し25%の付着量になるように浸積し、PVAの含浸と同時に2分間収縮処理を行い、100℃にて乾燥して水分を除去した。得られたシートを約30℃のトリクレンでポリスチレンを完全に除去するまで処理し、単繊維繊度約0.046デシテックスの極細繊維(直径2.8μm)を得た。次いで、室田製作所(株)製の標準型漉割機を用いて、厚み方向に対して垂直に2枚にスプリット処理した後、0.1mmの孔径で、0.6mm間隔のノズルヘッドからなるウォータージェットパンチにて、1m/分の処理速度で表裏ともに10MPaと20MPaで処理し、PVAの除去とともに絡合を行った。この断面をSEMにて観察した結果、極細繊維が相互に絡合した構造を有していた。この写真を図1に示した。
微粒子として“スノーテックスS”(日産化学工業株式会社製、平均粒子径0.008μm:BET法、k=0.003)を用いた以外は実施例1と同様に処理した。得られた皮革様シート状物は、実施例1と同様に極細繊維が相互に絡合した緻密な構造であり、非常に充実感のある風合であった。また物性も表1に示すように優れていた。
微粒子として“サイリシア420”(富士シリシア化学株式会社製、平均粒子径3.1μm:レーザー法、k=1.107)を用いた以外は実施例1と同様に処理した。得られた皮革様シート状物は、実施例1と同様に極細繊維が相互に絡合した緻密な構造であり、充実感に優れ、実施例1や2と比較してややきしみ感がなく柔軟な風合いであった。また物性も表1に示すように優れていた。
微粒子として“サイリシア470”(富士シリシア化学株式会社製、平均粒子径14.1μm:レーザー法、k=5.036)を用いた以外は実施例1と同様に処理した。得られた皮革様シート状物は、実施例1と同様に極細繊維が相互に絡合した緻密な構造であり、充実感に優れ、実施例3と比較してさらにきしみ感がなく柔軟な風合いであった。また物性も表1に示すように優れていた。但し、洗濯により耐摩耗性が低下する傾向があった。
海成分としてポリスチレン45部、島成分としてポリエチレンテレフタレート55部からなる単繊維繊度3デシテックス、36島、繊維長51mmの海島型複合繊維を用い、カード、クロスラッパーを通してウェブを作製した。次いで1バーブ型のニードルパンチにて1500本/cm2の打ち込み密度で処理し、繊維見掛け密度0.21g/cm3の複合短繊維不織布を得た。次いで極細化することなく0.1mmの孔径で、0.6mm間隔のノズルヘッドからなるウォータージェットパンチにて、1m/分の処理速度で両面ともに10MPa、20MPaで処理し、絡合を行った。次に約95℃に加温したPVAの12%水溶液に固形分換算で不織布重量に対し25%の付着量になるように浸積し、PVAの含浸と同時に2分収縮処理を行い、100℃にて乾燥して水分を除去した。得られたシートを約30℃のトリクレンでポリスチレンを完全に除去するまで処理し、次いでPVAを除去して、単繊維繊度約0.046デシテックスの極細繊維を得た。この断面をSEMにて観察した結果、極細繊維束が多く存在し、極細繊維束が絡合した構造を有していた。この写真を図2に示した。
比較例1において、実施例3と同様の微粒子を用いて作製した。このようにして得られたシートは極細繊維束が絡合した構造であり、皮革様シートと呼べるような外観を呈さず、ペーパーライクな不織布状態であった。さらに、染色加工で破れたように、もみ操作によって容易に変形するほど形態保持性に劣るものであった。また比較例1と同様に洗濯後の評価を行うことができなかった。この物性を評価した結果を表1に示した。
Claims (8)
- 単繊維繊度0.0001〜0.5デシテックスの極細繊維が極細化処理時もしくは極細化処理後、または極細化処理時および極細化処理後に施した高速流体流処理により相互に絡合した不織布で構成され、繊維素材からなり、かつ繊維の表面に存在する微粒子を含むことを特徴とする皮革様シート状物。
- 目付が100〜550g/m2、繊維見掛け密度が0.230〜0.700g/cm3、引き裂き強力が3〜50Nであり、かつ下式(2)を満足することを特徴とする請求項1に記載の皮革様シート状物。
引張強力(N/cm)≧0.45×目付(g/m2)−40 (2) - マーチンデール法における摩耗試験において、20000回摩耗した時の摩耗減量が20mg以下であり、かつ毛玉の数が5個以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の皮革様シート状物。
- 少なくとも一方の面が立毛を有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の皮革様シート状物。
- 柔軟剤が含まれていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の皮革様シート状物。
- 該極細繊維が繊維長0.1〜10cmの短繊維であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の皮革様シート状物。
- 請求項1〜6のいずれかに記載の皮革様シート状物を製造する方法であって、単繊維繊度0.0001〜0.5デシテックスの極細繊維が発生可能な単繊維繊度1〜10デシテックスの短繊維をニードルパンチにより絡合させた後に、極細繊維を発生させて極細短繊維不織布とし、次いで少なくとも10MPaの圧力で高速流体処理を行って再度絡合させ、その後に染色し、微粒子を付与することを特徴とする皮革様シート状物の製造方法。
- 微粒子を付与する前に起毛処理を行うことを特徴とする請求項7に記載の皮革様シート状物の製造方法。
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