JP4929921B2 - ポリベンザゾール繊維 - Google Patents
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Description
(1)ポリベンザゾールマルチフィラメントを構成する各モノフィラメント繊維の各断面において、マルチフィラメント中の下記の凸型率(%)が少なくとも75%であることを特徴とするポリベンザゾール繊維。
凸型率(%)=(凸型断面繊維の本数/マルチフィラメントの構成本数)×100
(2)モノフィラメント繊維断面を光学顕微鏡によって観察した際、シース層とコア層の2層に識別可能な場合、コア層の平均直径r2の繊維断面直径r1に対する比率R(%)が90%以下である第1に記載のポリベンザゾール繊維。
(3)モノフィラメント繊維の表層部(表面〜1μm)から得られた電子線回折図において、赤道方向プロファイルにおける結晶(200)面由来の回折ピーク面積をS1、結晶(010)面及び(-210)面由来の回折ピーク面積をS2としたとき、S2/S1が0.1〜0.8を満足するポリベンザゾール結晶の存在状態である第1又は2に記載のポリベンザゾール繊維。
(4)モノフィラメント繊維の表層部(表面〜1μm)及び中心部から得られたポリベンザゾール結晶の(200)面の電子線回折の方位角プロファイルにおいて、表層部から得た回折ピークの半値幅を中心部から得た回折ピークの半値幅で割った値Tが0.75〜1.25である第1〜3のいずれかにに記載のポリベンザゾール繊維。
(5)モノフィラメント繊維の表層部(表面〜1μm)及び中心部から得られた赤道方向の電子線回折プロファイルから算出したポリベンザゾール結晶の(200)面の見かけの結晶サイズに関し、表層部の見かけの結晶サイズを中心部の見かけの結晶サイズで割った値Uが0.75〜1.25である第1〜4のいずれかに記載のポリベンザゾール繊維。
(6)モノフィラメント繊維の表層部(表面〜1μm)及び中心部から得られた赤道方向の電子線回折プロファイルから算出したポリベンザゾール結晶の(010)面の見かけの結晶サイズに関し、表層部の見かけの結晶サイズを中心部の見かけの結晶サイズで割った値Vが0.75〜1.25である第1〜5のいずれかに記載のポリベンザゾール繊維。
本発明に係るポリベンザゾール繊維とは、ポリベンザゾールポリマーよりなる繊維をいい、ポリベンザゾール(以下、PBZともいう)とは、ポリベンゾオキサゾール(以下、PBOともいう)、ポリベンゾチアゾール(以下、PBTともいう)、またはポリベンズイミダゾール(以下、PBIともいう)から選ばれる1種以上のポリマーをいう。本発明においてPBOは芳香族基に結合されたオキサゾール環を含むポリマーをいい、その芳香族基は必ずしもベンゼン環である必要はなく、ビフェニレン基、ナフチレン基などであってもよい。PBOは芳香族基に結合されたオキサゾール環を含むポリマーをいうが、その芳香族基は必ずしもベンゼン環である必要は無い。さらにPBOは、ポリ(p−フェニレンベンゾビスオキサゾール)のホモポリマーのみならず、ポリ(p−フェニレンベンゾビスオキサゾール)のフェニレン基の一部がピリジン環などの複素環に置換されたコポリマーや芳香族基に結合された複数のオキサゾール環の単位からなるポリマーが広く含まれる。このことは、PBTやPBIの場合も同様である。また、PBO、PBT及びPBIの二種またはそれ以上の混合物、PBO、PBT及びPBIの二種またはそれ以上のブロックもしくはランダムコポリマー及びこれらのポリベンザゾールポリマーの混合物、コポリマー、ブロックポリマーなども含まれる。
ポリマーのドープを形成するための好適溶媒としては、クレゾールやそのポリマーを溶解し得る非酸化性の酸が含まれる。好適な酸溶媒の例としては、ポリ燐酸、メタンスルホン酸及び高濃度の硫酸或いはそれ等の混合物があげられる。更に適する溶媒は、ポリ燐酸及びメタンスルホン酸である。また最も適する溶媒は、ポリ燐酸である。
ドープ中のポリマー濃度は好ましくは少なくとも約7質量%であり、より好ましくは少なくとも10質量%、特に好ましくは少なくとも14質量%である。最大濃度は、例えばポリマーの溶解性やドープ粘度といった実際上の取り扱い性により限定される。それらの限界要因のために、ポリマー濃度は通常では20質量%を越えることはない。
本発明において、好適なポリマーまたはコポリマーとドープは公知の方法で合成される。例えばWolfeらの米国特許第4,533,693号明細書(1985.8.6)、Sybertらの米国特許第4,772,678号明細書(1988.9.22)、Harrisの米国特許第4,847,350号明細書(1989.7.11)またはGregoryらの米国特許第5,089,591号明細書(1992.2.18)に記載されている。要約すると、好適なモノマーは非酸化性で脱水性の酸溶液中、非酸化性雰囲気で高速撹拌及び高剪断条件のもと約60℃から230℃までの段階的または一定昇温速度で温度を上げることで反応させられる。
この様にして重合されるドープは紡糸部に供給され、紡糸口金から通常100℃以上の温度で吐出される。口金細孔の配列は通常円周状、格子状に複数個配列されるが、その他の配列であっても良い。口金細孔数は特に限定されないが、紡糸口金面における紡糸細孔の配列は、紡出糸条(ドープフィラメント)間の融着などが発生しないような孔密度を保つことが肝要である。
紡出糸条は十分な延伸比(SDR)を得るため、米国特許第5296185号に記載されたように十分な長さのドローゾーン長が必要で、かつ比較的高温度(ドープの固化温度以上で紡糸温度以下)の整流された冷却風で均一に冷却されることが望ましい。ドローゾーンの長さ(L)は非凝固性の気体中で固化が完了する長さが要求され、大雑把には単孔吐出量(Q)によって決定される。良好な繊維物性を得るにはドローゾーンの取り出し応力がポリマー換算で(ポリマーのみに応力がかかるとして)2.2g/dtex以上が望ましい。
本発明においては、上記で得られたポリベンザゾールのドープフィラメント(延伸又は未延伸)は、凝固浴に浸漬する前に、ポリベンザゾールが非相溶性である液体の蒸気に接触させることが重要であり、この処理によって、ポリベンザゾールマルチフィラメントを構成する各モノフィラメント繊維の各断面が、円形に近い断面を形成しやすくなり、マルチフィラメント中での凸型率を75%以上に高くすることができる。
本発明における凸型率とは、ポリベンザゾール繊維のマルチフィラメント中の各繊維断面において、凸型断面の繊維がマルチフィラメント中に占める割合である。また、凸型断面とは、断面の輪郭線のどの場所で接線を引いても1点でしか接することができない形状であり、輪郭線の主要部に凹部やへこみを有さず、全体に凸型形状で、概ね円形と見做せるような断面である。凸型断面に該当しない断面とは、断面の輪郭線の主要部に凹部やへこみを有し、2点以上で共通の接線が引ける断面である(図1)。
本発明においては、概ね円形から真円に近い断面の繊維が75%以上であるため、繊維間の摩擦抵抗性が低減できる。凸型率は、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上である。
本発明において凸型率を高くする方法としては、繊維の断面の変形が大きくならないうちに、急速に凝固剤に接触させればよく、上記で得られたポリベンザゾールのドープフィラメント(延伸又は未延伸)を、凝固浴に浸漬する前に、ポリベンザゾールが非相溶性である液体、すなわち、凝固剤の蒸気などに積極的に接触させる蒸気処理を施す方法が推奨できる。
ポリベンザゾールの凝固剤としては、水、メタノール、エタノール、アセトン、エチレングリコールの少なくとも1種が好ましく、簡便性の点で、水がより好ましい。
本発明における蒸気処理は、ドープフィラメントを前記の液体の蒸気を含む気体(空気)に積極的に接触させるため、ドープフィラメント中に凝固剤が繊維内部全体にわたって急激に浸透、拡散し、凝固核のようなものが繊維中心部方向に形成されるのではないかと考えられる。繊維化した後に繊維断面を観察すると、驚くべきことに、構造形成開始のタイミングの違いに基づいて発生したと考えられる境界線が認められ、いわゆる、シース・コアと表現できる二層の発現が認められる。凝固剤が中心部までよく浸透するほど、コア層は小さくなり、最終的には境界線が認められなくなる。なお、蒸気処理をしない従来の繊維においても、シース・コア構造は認められない。
蒸気処理の温度は、凝固剤の種類によっても異なるが、水の場合は、水蒸気雰囲気の温度または噴きつける水蒸気の温度は50〜200℃が好ましく、さらに好ましくは60〜160℃である。50℃未満では強度を低下させる効果が小さくなる。一方、200℃を越えると糸切れが多発して生産性が著しく低下する傾向がある。水より低沸点の凝固剤であればより低温でもよく、水より高沸点の凝固剤であればより高温でもよく、沸点と蒸気圧とを考慮して適宜選定することができる。
蒸気相中の全気体成分に対する蒸気成分の含有率は、短時間処理のためには、50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上である。
蒸気相温度が低すぎると、シース層の厚みが発達せず、逆に温度が高すぎるとシース・コア構造は発現するが、通過中のフィラメントの温度が上昇し、糸切れが多発する傾向がある。蒸気の含有率についても、低すぎるとシース・コア構造を発現しにくくなる。
蒸気処理する装置は、ドープフィラメントが蒸気に接触し、少なくとも表層部の凝固を進行させることができるものであればよく、連続式、非連続式、密閉形、非密閉形など特に限定されない。
蒸気相を通過した後のフィラメントは、次に凝固(抽出)浴に導かれて、ポリベンザゾールの溶剤の抽出とフィラメントの完全な凝固がなされる。凝固浴は、特に限定されず、如何なる形式の凝固浴でも良い。例えばファンネル型、水槽型、アスピレータ型あるいは滝型などが使用出来る。最終的に凝固浴においてフィラメント中に残存する溶剤が1質量%以下、好ましくは0.5質量%以下になるように抽出する。本発明における抽出媒体として用いられる液体に特に限定はないが、好ましくはポリベンザゾールに対して実質的に相溶性を有しない水、メタノール、エタノール、アセトン、エチレングリコール等である。抽出液は燐酸水溶液や水が簡便で望ましい。また凝固(抽出)浴を多段に分離し燐酸水溶液の濃度を順次薄くし最終的に水で水洗する方法も採用できる。また、凝固(抽出)工程において、フィラメント束を水酸化ナトリウム水溶液などで中和処理して後、水洗することは好ましい方法である。この後乾燥、熱処理を施してシース・コア構造を持つ繊維とすることができる。
こののち繊維を乾燥させ、更に必要に応じて熱処理工程を通す。乾燥温度はポリベンザゾールの凝固剤や溶剤が飛びやすい温度であれば特に限定されないが、具体的には150〜400℃、好ましくは200〜300℃、更に好ましくは220〜270℃とする。弾性率を向上させる目的で、必要に応じて張力下にて熱処理を施しても良い。熱処理温度については、400〜700℃、好ましくは500〜680℃、更に好ましくは550〜630℃とする。かける張力は0.3〜1.2g/dtex、好ましくは0.5〜1.1g/dtex、さらに好ましくは0.6〜1.0g/dtexである。
本発明のポリベンザゾール繊維におけるシース層とコア層との簡便な判別は、繊維断面を光学顕微鏡で観察することによって可能である。すなわち、繊維断面を光学顕微鏡で観察できる厚さに切断し、光学顕微鏡で40倍程度に拡大して観察すると、シース層とコア層の境界が円形の線として認められる。この円形の線の外側がシース層で、内側がコア層である。
シース層が凝固剤蒸気の浸透に起因して形成された場合、シース層の厚みはできるだけ厚く、コア層の直径はできるだけ小さい方が好ましい。蒸気がよく浸透、拡散するような蒸気処理条件を選択すれば、コア層の比率が低くなり、ついにはコア層の比率は0%にすることができる。
本発明のポリベンザゾール繊維においてコア層が占める割合、すなわち、繊維断面方向におけるコア層の平均直径(r2)の、繊維断面直径(r1)に対する比率であるR(%)は、90%以下であることが好ましく、より好ましくは80%以下、さらに好ましくは60%以下であり、0%に近づくことが最も好ましい。
また、本発明のポリベンザゾール繊維は、表層部(表面〜1μm)から得られたポリベンザゾール結晶の電子線回折図において、赤道方向プロファイルにおける結晶(200)面由来の回折ピーク面積を(S1)、結晶(010)面及び(-210)面由来の回折ピーク面積を(S2)としたとき、S2/S1が0.1〜0.8であることが好ましい。
S2/S1は、より好ましくは0.2〜0.7である。0.1未満では繊維の強度低下が不十分になりやすく、逆に0.8を超えると後加工性は高くても繊維の強度低下が大きくなりすぎて、操業性、工程通過性などが悪くなることがある。
また、ポリベンザゾール繊維の表層部(表面から1μm)及び中心部から得られたポリベンザゾール結晶の(200)面の電子線回折の方位角プロファイルにおいて、表層部から得た回折ピークの半値幅を中心部から得た回折ピークの半値幅で割った値(T)が0.75〜1.25であることが好ましい。
Tは、より好ましくは0.85〜1.15である。0.75未満では繊維の強度低下が不十分になることがあり、逆に1.25を超えると繊維の強度低下が大きくなりすぎて、操業性、工程通過性などが悪くなることがある。
さらに、ポリベンザゾール繊維の表層部(表面〜1μm)及び中心部から得られた赤道方向の電子線回折プロファイルから算出したポリベンザゾール結晶の(200)面の見かけの結晶サイズに関し、表層部の見かけの結晶サイズを中心部の見かけの結晶サイズで割った値(U)が0.75〜1.25であることが好ましい。
Uは、より好ましくは0.85〜1.15である。1.25を超えると繊維の強度低下が不十分になることがあり、逆に1.25を超えると繊維の強度低下が大きくなりすぎて、操業性、工程通過性などが悪くなることがある。
さらにまた、ポリベンザゾール繊維の表層部(表面から1μm)及び中心部から得られた赤道方向の電子線回折プロファイルから算出したポリベンザゾール結晶の(010)面の見かけの結晶サイズに関し、表層部の見かけの結晶サイズを中心部の見かけの結晶サイズで割った値(V)が0.75〜1.25であることが好ましい。
Vは、より好ましくは0.85〜1.15である。1.25を超えると繊維の強度低下が不十分になることがあり、逆に1.25を超えると繊維の強度低下が大きくなりすぎて、操業性、工程通過性などが悪くなることがある。
本発明におけるポリベンザゾール繊維について、電子線回折法による分析法で回折図や解析結果を得るには、公知の方法が採用でき、測定用繊維は、繊維軸(長さ)方向で、かつ繊維の表層部と中心部とを含むように、厚さ70nm程度の超薄切片としたものを使用する。
すなわち、単繊維をLuft法(J. Biophys. Biochem.Cytol., 9, 409 (1961))に従って調製したエポキシ樹脂に包埋し、60℃オーブン中で一夜放置し固化固定して繊維を包埋させたレジンブロックを得る。次に、このレジンブロックをライヘルト社製のウルトラマイクロトームに取り付け、ガラスナイフを用いて、包埋した繊維がブロック表面近傍に現れるまで研磨し、次いでダイアトーム社製ダイアモンドナイフを用いて単繊維の繊維軸方向に平行な方向に切削する。
例えば単繊維の直径が10μmの場合、繊維表面から連続的に約70nmの厚さの超薄切片を切削すると、約140枚の切片に切り分けることができる。切削した全ての切片を、切削順に10枚ごとのグループとして銅グリッドに選択的に回収した。切削開始から10枚目までをグループ1とし、順次グループ1,グループ2・・・グループnと定義する。このグループのうちnが偶数の場合には(n/2)番目のグループを、奇数の場合には(n/2−0.5)番目のグループを制限視野電子線回折測定に供する。一本の単繊維を、ほぼ同じ厚さの超薄切片に全て切り分けると、上記のグループの繊維切片は、繊維の表層部(表面)と中心部との両方が含まれたものとなる。
厚さ約70nmで、繊維の表層部(表面)と中心部との両方が含まれた超薄切片を作成後、得られた超薄切片を、300メッシュの銅グリッド上に回収し薄くカーボン蒸着を施す。なお、本発明における中心部とは、繊維の断面を円とみなしたときに中心点とみなせる部分を含む場所であり、直径で数ミクロン程度までの芯部を意味し、超薄切片で言えば、両表面の中間部である。
次いで電子顕微鏡内に超薄切片を導入し、繊維の表層部と中心部の両方について制限視野電子線回折像を撮影し(この際、制限視野(アパチャー)の径は1μm以下とし、繊維の超薄切片に切削時に発生したアーティファクト(例えば、シワや切片のやぶれなど)の無い部分を回折像撮影部位に選択した)電子線回折図を得る。
得られた電子線回折図のうちの赤道方向のプロファイルを、ローレンツ関数を用いて近似して、(200)、(010)及び(−210)由来の回折ピークの積分強度(面積)と半値幅を算出し、(200)由来の面積をS1、(010)と(−210)由来の面積の和をS2とし、S2/S1を算出することができる。
また、見かけの結晶サイズ(ACS)は、次式を用いて算出することができる。
ACS=0.9λ/βcosθ
ここで、λは電子線の波長、βは半値幅(単位はラジアン)、θは回折角2θの半値である。
さらに(200)回折については、方位角方向の回折プロファイルをローレンツ関数で近似して半値幅を算出することができる。
本発明のポリベンザゾール繊維が、適度に強度低下し、後加工性が向上する理由は明確ではないが、上記したような電子線回折法によるポリベンザゾール結晶の電子線回折図から推定すると、少なくとも繊維表層部の結晶のa、b軸方向の選択配向が従来のものに比べてランダム化しており、繊維の表層部と中心部との結晶の配向の差が少なくなり、繊維全体として結晶の配向が従来のものに比べてランダム化し、このことにより、繊維強度が低下し、ポリベンザゾール繊維の後加工性が向上するものと考えられる。また、結晶の選択配向が適度に乱れて特定方向への応力集中が緩和され、繊維内部の潜在歪も少なくなるため、フィブリル化も抑制できるものと考えられる。
・測定方法:
(極限粘度)
メタンスルホン酸を溶媒として、0.5g/lの濃度に調製したポリマー溶液の粘度をオストワルド粘度計を用いて25℃恒温槽中で測定した。
(繊維断面観察の方法)
測定用繊維(マルチフィラメント)をエポキシ樹脂(ガタン社製G−2)に胞埋したものを、クロスセクションポリッシャー(日本電子(株)製、SM−09010)にてアルゴンイオンエッチングして、観察用繊維断面を得た。次いで、光学顕微鏡によってコア層とシース層との境界線を観察し、コア層の平均直径(r2)と繊維断面直径(r1)とを測定し、コア層の平均直径(r2)の繊維断面直径(r1)に対する比率R(%)を求めた。
R(%)=(r2/r1)×100
(凸型率)
上記方法にて作成したエポキシ樹脂に胞埋したマルチフィラメント中の繊維断面を走査電子顕微鏡で、繊維の外輪郭の形を観察した。なお、観察前にカーボン蒸着を施し、日立社製走査電子顕微鏡(型番S−4500)を使用し、加速電圧は5〜10kV、倍率は1000〜3000倍にて観察した。
断面の輪郭線のどの場所で接線を引いても1点でしか接することの出来ない場合を凸型断面とし、輪郭線の2点以上で共通の接線が引ける場合を、凹部を有する断面とした。マルチフィラメント中における凸型断面の繊維の割合を算出した。
凸型率(%)=(凸型断面繊維の本数/マルチフィラメントの構成本数)×100
(繊維物性の測定)
標準状態(温度:20±2℃、相対湿度(RH)65±2%)の試験室内に24時間以上放置後、繊維の引張強度、弾性率を、JIS L 1013に準じて引張試験機にて測定した。
(繊維の耐熱性の測定)
熱重量分析計(TA Instrument社のTGA Q50)を用いて、空気中、20℃/minの昇温速度で、常温から温度を上昇させたときに、重量保持率[(ある温度のときのサンプル重量/元のサンプル重量)×100]が90%となる温度で評価した。
(繊維の難燃性の測定)
JIS K 7201に準じ、限界酸素指数(Limiting Oxygen Index:LOI)にて評価した。
(電子線回折の測定)
電子線回折測定用試料は、以下に記載した方法で、測定用繊維を繊維軸(長さ)方向で、かつ繊維の表層部と中心部とを含むように、厚さ70nm程度の超薄切片にしたものを使用した。
すなわち、単繊維をLuft法(J. Biophys. Biochem.Cytol., 9, 409 (1961))に従って調製したエポキシ樹脂に包埋し、60℃オーブン中で一夜放置し固化固定して繊維を包埋させたレジンブロックを得た。次に、このレジンブロックをライヘルト社製のウルトラマイクロトームに取り付け、ガラスナイフを用いて、包埋した繊維がブロック表面近傍に現れるまで研磨し、次いでダイアトーム社製ダイアモンドナイフを用いて単繊維の繊維軸方向に平行な方向に切削して、厚さは約70nmで、繊維の表層部(表面)と中心部との両方が含まれた超薄切片を作成した。得られた超薄切片を、300メッシュの銅グリッド上に回収し薄くカーボン蒸着を施し、次いで電子顕微鏡内に超薄切片を導入し、繊維の表層部と中心部の両方について制限視野電子線回折像を撮影し(この際、制限視野(アパチャー)の径は1μm以下とし、繊維の超薄切片に切削時に発生したアーティファクト(例えば、シワや切片のやぶれなど)の無い部分を回折像撮影部位に選択した)電子線回折図を得た。
得られた電子線回折図のうちの赤道方向のプロファイルを、ローレンツ関数を用いて近似して、(200)、(010)及び(−210)由来の回折ピークの積分強度(面積)と半値幅を算出した。(200)由来の面積をS1、(010)と(−210)由来の面積の和をS2とし、S2/S1算出した。
また、見かけの結晶サイズ(ACS)は、次式を用いて算出した。
ACS=0.9λ/βcosθ
ここで、λは電子線の波長、βは半値幅(単位はラジアン)、θは回折角2θの半値である。
さらに(200)回折については、方位角方向の回折プロファイルをローレンツ関数で近似して半値幅を算出した。
(後加工性の評価方法)
押込捲縮法により座屈捲縮を与えた評価繊維を、カット長44mmにカットしてステープルとした。得られたステープルをオープナーにより開綿後、ローラーカードにより目付450g/m2のウェブを作製した。得られたウェブを順次9枚積層し、Foster社製ニードル(品番:15×18×40×3.5PB−A F20 2−18−3B/LI/CC/CONICAL)を用いて、針深度7mmで、フェルトの片側面からのみ、ニードルパンチング数が2000/cm2になるまでニードルパンチしてフェルトを得た。ウェブを順次積層してフェルトを得るまでの間に折れたニードルの本数(出来上がりのフェルト1m2当たりの本数に換算)を調べた。折れた本数が少ないほど後加工性が良好である。
(工程通過性)
紡糸から繊維ウェブ製造に至るまでの工程での製造トラブルの発生状況で工程通過性を判断した。
(摩擦帯電圧)
後加工性の評価で得られたフェルトを用い、JIS L 1094に準拠して、摩擦帯電圧を測定した。大栄科学精器製作所製摩擦帯電圧測定器 RS−101Dを用いて測定した。試験片を400rpmで回転させながら摩擦布で摩擦させ、60秒後の静電気電位を測定した。
(実施例1〜6、比較例1〜3)
極限粘度〔η〕が29dl/gのポリ(p−フェニレンベンゾビスオキサゾール)(以下、PBOと略記)をポリリン酸に溶解させた紡糸ドープ(PBO濃度14質量%)を用いて、単糸フィラメント径が11.5μm、1.65dtexになるような条件で紡糸を行った。
すなわち、紡糸ドープを紡糸温度175℃で孔径0.20mm、孔数166のノズルから紡出し、紡出されたドープフィラメントをクエンチ温度60℃のクエンチチャンバー内を通過させて冷却し、クエンチチャンバーを通過後、マルチフィラメントに収束させながら第1凝固・洗浄浴中に浸漬し、フィラメントを凝固させるとともに、表1に示す蒸気付与条件で蒸気処理した。その後、フィラメント中の残留リン濃度が5000ppm以下になるまで水洗し、1%NaOH水溶液で5秒間中和し、さらに10秒間水洗した。その後、水分率が2%になるまで乾燥させて巻き取って評価用の繊維を得た。なお、後加工性の評価には、前記の座屈捲縮を与えたステープルを用いた。
得られた各繊維についての分析結果及び評価結果を表1及び表2に示す。
本発明の凸型率が高くほとんど円形に近い断面の繊維であると、繊維の摩擦抵抗性が低下し、工程通過性、後加工性に優れ、さらに、シース・コアの二層構造と認められる繊維であると、特に、摩擦帯電圧の低減効果が大きいことが分かる。
r2:コア層の直径
Claims (6)
- ポリベンザゾールマルチフィラメントを構成する各モノフィラメント繊維の各断面において、マルチフィラメント中の下記の凸型率(%)が少なくとも75%であることを特徴とするポリベンザゾール繊維。
凸型率(%)=(凸型断面繊維の本数/マルチフィラメントの構成本数)×100 - モノフィラメント繊維断面を光学顕微鏡によって観察した際、シース層とコア層の二層に識別可能な場合、コア層の平均直径r2の繊維断面直径r1に対する比率R(%)が90%以下である請求項1に記載のポリベンザゾール繊維。
- モノフィラメント繊維の表層部(表面〜1μm)から得られた電子線回折図において、赤道方向プロファイルにおける結晶(200)面由来の回折ピーク面積をS1、結晶(010)面及び(-210)面由来の回折ピーク面積をS2としたとき、S2/S1が0.1〜0.8を満足するポリベンザゾール結晶の存在状態である請求項1又は2に記載のポリベンザゾール繊維。
- モノフィラメント繊維の表層部(表面〜1μm)及び中心部から得られたポリベンザゾール結晶の(200)面の電子線回折の方位角プロファイルにおいて、表層部から得た回折ピークの半値幅を中心部から得た回折ピークの半値幅で割った値Tが0.75〜1.25である請求項1〜3のいずれかに記載のポリベンザゾール繊維。
- モノフィラメント繊維の表層部(表面〜1μm)及び中心部から得られた赤道方向の電子線回折プロファイルから算出したポリベンザゾール結晶の(200)面の見かけの結晶サイズに関し、表層部の見かけの結晶サイズを中心部の見かけの結晶サイズで割った値Uが0.75〜1.25である請求項1〜4のいずれかに記載のポリベンザゾール繊維。
- モノフィラメント繊維の表層部(表面〜1μm)及び中心部から得られた赤道方向の電子線回折プロファイルから算出したポリベンザゾール結晶の(010)面の見かけの結晶サイズに関し、表層部の見かけの結晶サイズを中心部の見かけの結晶サイズで割った値Vが0.75〜1.25である請求項1〜5のいずれかに記載のポリベンザゾール繊維。
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