以下添付図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書において、「記録(印刷)」とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わず、また人間が知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わない。また、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または媒体の加工を行う場合も表すものとする。
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
さらに、「インク」とは、上記「記録」の定義と同様広く解釈されるべきものである。よって、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、或いはインクの処理(例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を表すものとする。
始めに、本発明の実施形態における記録システムの概略構成について説明する。記録システムは、記録ヘッドを用いて記録媒体に記録を行う記録装置と、この記録装置へ画像データを供給する外部機器(ホスト装置)とを含んで構成される。
図1(a)および(b)は、本発明に適用可能なインクジェット記録装置の概略構成を説明するための斜視図および側断面図である。また、先にも説明した図2は、当該インクジェット記録装置の記録部の仕組みを説明するための構成図である。
図1(a)において11はキャリッジである。キャリッジ11は、記録ヘッド22と各記録ヘッド22にインクを供給するインクタンク21とから構成されたヘッドカートリッジを、着脱可能に搭載することが出来る。図1(b)で示される記録部50は、これらキャリッジ11、記録ヘッド22、インクタンク21を含んで構成される。12は、キャリッジモータである。ベルト4とこれを張架する2つのプーリ5a、5bを介することによってキャリッジモータ12の駆動力がキャリッジ11に伝達され、キャリッジ11はガイドシャフト6に案内支持されながら主走査方向(図2のB方向)に往復移動する。この際、キャリッジ11は、エンコーダフィルム16に記録されたパターンを認識することにより、その現在位置を把握することが出来る。更に、キャリッジ11には、その動きに追従可能なフレキシブルケーブル13が接続されており、記録装置本体に設置された回路基板より記録ヘッド22に記録信号を伝達している。15は、記録済みの記録媒体が排出される排紙トレイ(排紙部)である。
141は記録ヘッド22からインクを吸引したり、非記録時の記録ヘッドの乾燥を抑制したりするためのキャップである。また、143は記録ヘッド22の吐出口面を拭掃し、余分に付着したインクを除去するためのワイパブレードである。キャリッジ11は必要に応じて記録ヘッド22をホームポジションに戻し、ここで記録ヘッドに対する吸引回復やワイピングなどの回復処理が施される。また、ここには図示していないが、ホームポジションの片側には、記録とは無関係に吐出されるインクを受容するための予備吐出受けが備えられている。記録を行なわない状態がある程度続くと、吐出口近傍ではインク中の揮発成分が蒸発してインクが変質してしまうことがある。よって、定期的にあるいは必要に応じて、記録ヘッドは予備吐出受けの位置まで移動し、ここで予備的な吐出を実行する。これにより、記録ヘッドの吐出特性を良好な状態に維持することが出来る。
図1(b)に示されるように、本実施形態の記録装置は、記録媒体を反転させて記録媒体の両面に対する記録を可能とするための両面記録機構を備えている。図において、122は給紙トレイ(給紙部)、50は記録部、15は排紙トレイ(排紙部)、44は反転機構、45は切り換え部、6はプラテン、7は搬送経路である。また、3は搬送ローラ、33は排紙ローラ、126は給紙ローラ、10は反転ローラである。給紙トレイ122上には記録媒体が積載されており、給紙ローラ126により記録媒体が1枚ずつ給送される。給送された記録媒体には記録部2によって画像が形成(記録)され、片面記録の場合にはそのまま排紙ローラ33を用いて排紙トレイ3へ記録媒体が排出される。
両面記録を行う場合には、表面の記録が終了後、記録媒体を反転させる。その際、記録媒体を乾燥させる必要がある場合は、反転機構4へ記録媒体を搬送する前にプラテン6上で記録媒体を待機させる。つまり、インクの定着に要する時間が経過するまでは記録媒体の反転動作が行われないように制御する。
少なくともインクの定着に要する時間だけ記録媒体を待機させたら、反転動作を開始する。切り換え部45を回転させて搬送経路7を切り換え、排紙ローラ33および搬送ローラ3を逆回転させて記録媒体を反転機構4へ搬送する。反転機構4では、反転ローラ10を用いて記録媒体を搬送していく。反転された記録媒体は再び記録部2へと給送され、裏面の記録が行われる。裏面の記録が終了した記録媒体は排紙トレイ15へ排出される。
図3は、記録ヘッド22上に配列されているインク吐出口の様子を示した模式図である。同一の記録ヘッド上に配列する複数の吐出口は、ここでは1200dpi(ドット/インチ;参考値)の間隔で1200個ずつ副走査方向に配列している。つまり、本実施形態のヘッドは、副走査方向に約1インチの幅を有する。本実施形態の記録ヘッドでは、高画質記録を実現するために吐出量を極力抑えるように開口面積が設計されており、各吐出口からは1回の駆動で約4ngのインクが滴として吐出されるものとする。
(インクの特性)
ここで、本実施形態で適用するインクの特性並びに成分について具体的に説明する。本実施形態では、ブラックとカラーでそのインク特性が大きく異なっている。ブラックインクは、顔料を色材として顔料を含有し、相対的に浸透速度が遅い性質(低浸透性)を有するものとする。一方、カラーインクは、染料を色材として染料を含有し、相対的に浸透速度が速い性質(高浸透性)を有するものとする。
インクの浸透性は、ブリストウ法によって求められるKa値(mL/m2・ms1/2)によって表すことができる。このKa値が大きいほど浸透性が高いことを示す。従って、本実施形態の一例としては、ブラックインクのKa値<カラーインクのKa値という関係を満たすインク組合せを適用することができる。
以下にブリストウ法について簡単に説明する。ブリストウ法は、JAPANTAPPI紙パルプ試験方法No.51の『紙及び板紙の液体吸収性試験方法』に記載されている。インクの浸透性を1m2あたりのインク量Vで表わすと、インク滴を吐出してから時間tが経過した後における、インクの記録媒体への浸透量V(mL/m2=μm)は、下記に示すブリストウの式(式1)によって示される。この式の吸収曲線は図14のようになる。
V=Vr+Ka(t−tw)1/2・・・(式1)
ただし、t>tw。
記録媒体に吐出された直後のインクは、そのほとんどが記録媒体表面の凹凸部分(記録媒体表面の粗さの部分)に吸収され、記録媒体の内部(深さ方向)へは殆ど浸透していない。その間の時間がtw(ウェットタイム)、その間の凹凸部への吸収量がVrである。インク吐出後の経過時間がtwを超えると、超えた時間(t−tw)の2分の1乗に比例した分だけ浸透量Vが増加する。Ka(mL/m2・ms1/2)はこの増加分の比例係数であり、浸透速度に応じた値を取る。
Ka値は、ブリストウ法による液体の動的浸透性試験装置(例えば、商品名:動的浸透性試験装置S;東洋精機製作所製)を用いて測定することができる。尚、本実施形態におけるブリストウ法によるKa値は、普通紙(例えば、インクジェットプリンタ用のPB紙(キヤノン製)や、電子写真方式を用いた複写機用の紙であるPPC用紙等)を記録媒体として用いて測定する。又、測定環境は、通常のオフィス等の環境、例えば、温度20℃〜25℃、湿度40%〜60%を想定している。
ところで、インクの浸透性は、Ka値ではなく、表面張力(mN/m)によっても表すことができる。この表面張力が低いほど浸透性が高いことを示す。従って、本実施形態の一例としては、ブラックインクの表面張力>カラーインクの表面張力という関係を満たすインク組合せを適用することもできる。
なお、インクの浸透性を調整するには、界面活性剤等の浸透促進剤の含有量を調整する、あるいは高浸透性の有機溶剤の含有量を調整する等、従来から公知の手法を用いればよい。例えば、カラーインクに含有される界面活性剤の量をブラックインクよりも多くすることで、カラーインクの浸透性をブラックインクの浸透性よりも高くすることができる。
本実施形態においては、浸透特性の異なるインクを用いる。ここで、浸透特性の異なるインクとは、例えば、Ka値が異なるインク、あるいは表面張力が異なるインクを指す。
また、本実施形態で適用するカラーインクのうち少なくとも1種のインク(例えば、シアンインク)は、ブラックインクと反応する成分(反応剤)を含む。反応剤としては従来から公知のものを適用できる。例えば、反応剤は、ブラックインクの顔料自体と反応し、あるいは顔料の分散剤と反応し、ブラックインク中の顔料の分散状態を破壊し、顔料を凝集させるものである。
反応剤としては、多価金属塩、ポリアミンが好適に用いられる。多価金属塩は多価金属イオンとこれら多価金属イオンに結合する陰イオンとから構成される。多価金属イオンの具体例としては、例えば、Ca2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Zn2+、及びBa2+等の二価の金属イオンや、Al3+、Fe3+、Cr3+、及びY3+等の三価の金属イオンが挙げられるが、これに限定されるものではない。又、塩を形成するための陰イオンとしては、例えば、Cl−、NO3−、I−、Br−、ClO3 −、SO4 2−、CO3 2−、CH3COO−、及びHCOO−等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
以下、本実施形態で適用可能なブラックインクとカラーインクの組成の一例を示す。なお、以下では、ブラック(Bk)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)の4色のインクの組成について記載する。ライトマゼンタ(LM)、ライトシアン(LC)は、マゼンタ(M)、シアン(C)のインクを希釈したものを用いる。
ブラックインク(Bk)
アニオン性カーボンブラック 3部
ジエチレングリコール 15部
グリセリン 10部
アセチレノールEH(川研ファインケミカル)0.1部
水 残部
シアンインク(C)
C.I.ダイレクトブルー199 3部
ジエチレングリコール 15部
イソプロピルアルコール 2部
ペンタンジオール 10部
2ピロリドン 10部
アセチレノールEH(川研ファインケミカル) 1部
硝酸マグネシウム 2部
水 残部
マゼンタインク(M)
C.I.アシッドレッド289 3部
ジエチレングリコール 15部
イソプロピルアルコール 2部
尿素 5部
アセチレノールEH(川研ファインケミカル) 1部
水 残部
イエローインク(Y)
C.I.ダイレクトイエロー 3部
ジエチレングリコール 15部
イソプロピルアルコール 2部
尿素 5部
アセチレノールEH(川研ファインケミカル) 1部
水 残部
上記例では、浸透促進剤である界面活性剤としてアセチレノール(商品名)を用いている。そして、ブラックインクとカラーインクでアセチレノールの含有量を変えることで、ブラックインクとカラーインクの浸透性を調整している。詳しくは、ブラックインクよりもカラーインクの方がアセチレノール含有率を多くすることによって、カラーインクの浸透性がブラックインクよりも高くなるように調整している。
また、カラーインク(この例では、シアンインク)に含有される多価金属塩として、硝酸カルシウム塩を用いている。硝酸マグネシウムがブラックインクに含有されるアニオン性カーボンブラック(顔料)を凝集させる。これにより、ブラックインクの顔料は記録媒体の表層に多く残存し、高濃度のブラック画像領域が得られる。
本実施形態で適用可能なインクは、上記の例に限られないことは勿論である。例えば、特開2002−307671号公報に記載のインクセットを用いることもできる。
各吐出口からインクを吐出するための方法としては様々なものが採用可能である。例えば、発熱素子(電気−熱エネルギ変換素子)に電気信号を印加することにより、インクに急峻な体積変化(気泡の発生)を伴う状態変化を生じさせ、この状態変化に基づく作用力によって吐出口からインクを吐出させる方式を用いてもよい。また、圧電素子等の電気−機械変換素子を用い、機械的変動によるインクの圧力変化によって吐出口(ノズル)からインクを吐出させる方式を用いてもよい。
以下、具体的な記録動作について説明する。
図1(b)を参照するに、記録命令が入力されると、給紙ローラ126が回転し、給紙トレイ122に積載されている記録媒体のうち、最上部に位置しているものを装置内部に給紙する。給紙された記録媒体1は搬送ローラ対3などによって挟持されながら、記録ヘッド22による記録領域が平滑に保たれている。
記録装置の給紙位置近傍には、ペーパエンドセンサ(不図示)が配備されており、記録媒体の端部位置を検出する。この検出した位置に基づいて記録媒体を搬送することにより、画像の位置合わせを行うことが出来る。
記録媒体1が所定の位置まで搬送されると、キャリッジ11が矢印Bの往方向に移動しながら、記録ヘッド22は記録データに従ってインクを吐出する。この際、エンコーダフィルム16に示されたパターンによって、記録ヘッド22からの吐出タイミングがとられている。こうした記録ヘッドの1回の記録走査により、図13に示されるようなバンド(バンド1)が形成される。本実施形態では、図3で示した記録ヘッドを用いているため、単一のバンドの幅は1inchとなる。
往方向の1回の記録走査が終了すると、搬送ローラ3が回転し、記録媒体1を記録ヘッド22の記録幅(ここでは、1inch)に応じた分だけ矢印A方向に搬送する。記録媒体の搬送が終了すると、記録ヘッド22は矢印Bの復方向に移動しながら次のバンド(バンド2)の記録データに従った記録を実行する。これにより図13に示される、1inch幅のバンド2が形成される。このように1走査分の記録動作と記録媒体の所定量の搬送動作を繰り返すことによって、記録媒体1にバンド単位で順次画像が形成されていく。なお、「バンド」とは、記録ヘッドの1回の走査で記録される画像領域を指す。
1ページ分の記録が完了した記録媒体は、搬送ローラ3および排紙ローラ33などによって排紙トレイ15に排紙される。記録済みの複数の記録媒体は排紙トレイ15に順次積載されて行く。
図17(a)〜(c)は、記録装置が記録媒体を排紙トレイへ排紙する状態を示す図である。図17(a)は、前ページ(先行記録媒体)151が排紙され、現ページ(後続記録媒体)152に対する記録中に、後続記録媒体152が3インチ程度排紙されている状態を示す。図17(b)は、記録が進行し、後続記録媒体152に対する記録が更に6インチ程度進み、後続記録媒体152の先端が排紙済みの先行記録媒体152に接している状態を示す。図17(c)は、更に記録が進行し、ペーパエンドセンサが後続記録媒体152の後端を検知した頃の状態を示す。
図4は、本発明に適用可能なインクジェット記録装置の制御の構成を説明するためのブロック図である。本実施形態のインクジェット記録装置240は、USB等のインタフェイスにより接続されたホスト装置200(データ供給装置)より画像データを受信する。イメージコントローラ210は、ホスト装置200から入力された画像データを解析・展開し、各色について最終的に2値の画像データを生成する。また、装置本体に直接入力されたコマンドに従って、プリントエンジン220に制御コマンドなどを通知する。プリントエンジン220は、イメージコントローラ210から受信した制御コマンドや画像データを基に実際の記録動作を制御する。
イメージコントローラ210とプリントエンジン220とは専用のインタフェイスで接続されている。イメージコントローラ210からプリントエンジン220へ制御コマンドを通知するコマンド送信、プリントエンジン220からイメージコントローラ210へ装置の状態変化を通知するステータス送信、さらにイメージコントローラ210からプリントエンジン220へ画像データを転送する通信が、このインタフェイスを介して行われる。
プリントエンジン220は、ROM227に記憶記録されたプログラムに従って、MPU(Micro Processor Unit)221により制御される。この際、RAM228はMPU221の作業領域や一時的なデータ保存領域として利用される。MPU221は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)222を介することによって、キャリッジ駆動系223、搬送駆動系224、回復駆動系225、およびヘッド駆動系226の制御を行う。また、MPU221はASIC222を介することによって、プリントバッファ229への読み書きを行うことが出来る。プリントバッファ229は、記録ヘッドへ転送出来る形式に変換された画像データを一時的に保管する役割を果たしている。更に、MPU221は、装置内部に設けられた各種センサ230からの検出情報を取得し、この情報を利用して各種機構を制御することが出来る。
イメージコントローラ210がホスト装置200からの画像データを受信することにより、記録動作が開始される。イメージコントローラ210は、受信した画像データを解析し、記録モード、マージン情報等の記録に必要な情報を生成する。さらに画像データを解析・展開して各色について2値の画像データとなるように画像データを多値から2値へ変換する。記録モード、マージン情報等プリントエンジン220での記録動作に必要な情報は、プリントエンジン220に通知される。
プリントエンジン220では、通知された情報をMPU221で処理し、RAM228に一時的に保存する。この情報は、その後も必要に応じて参照され、処理の切り分けに利用される。
必要な情報の通知が終了すると、イメージコントローラ210は、上述のように変換された各色2値の画像データを、プリントエンジン220へ転送する。プリントエンジン220は、受け取った2値の画像データをプリントバッファ229に保存する。イメージコントローラ210から、2値の画像データの転送が繰り返されることにより、プリントエンジン220では、プリントバッファ229に2値の画像データが蓄積されていく。
プリントバッファ229に蓄積された2値の画像データが1回分の記録走査が可能な量に達すると、MPU221はASIC222を介して、搬送駆動系224により記録媒体の給紙および搬送を行い、キャリッジ駆動系223によりキャリッジ11を移動させる。また、回復駆動系225により回復系を駆動して記録動作前に必要な回復動作を実施する。さらにASIC222に対して、画像の出力位置等の設定を行い、キャリッジ11を駆動して、記録動作を開始する。キャリッジ1が移動して、ASIC222に設定した記録開始位置に到達すると、吐出タイミングに合わせて画像データが順次プリントバッファ229から読み出される。読み出された2値の画像データが最終的な記録データとなり、記録ヘッドに転送される。記録ヘッドは、ヘッド駆動系226の制御によって、転送された記録データに従ったインクの吐出を実行する。
図5は、ホスト装置200及び記録装置本体240における画像データの処理を説明するための図である。本実施形態では、ホスト装置200にインストールされているプリンタドライバ250によって、画像データは600×600dpiのRGB(レッド,グリーン,ブルー)の各8ビットの輝度データにまで変換される。この状態で、画像データは記録装置本体に転送される。
イメージコントローラ210では、記録装置にマッチした色空間に補正するため、RGBの8ビットデータからR’G’B’の8ビットデータへの色変換処理500を行う。続いて、R’G’B’のデータを記録装置で用いるインク色に分解するために、R’G’B’の8ビットデータを600×600dpiのK、LC、LM、C、M、Yの多値データ(ここでは、各8ビット)に変換する(色分解処理510)。以上の色変換処理500及び色分解処理510では、予め用意されているルックアップテーブルを用いた変換処理が行われる。ルックアップテーブルは記録装置本体のROM227に保持されていてもよいし、ホスト装置200から入力されて得られるものであってもよい。
続く量子化処理520では、K、LC、LM、C、M、Yの8ビット(255階調)データを各色4ビット(5階調)データに変換する。量子化処理520としては、公知の誤差拡散法やディザ法を採用することが出来る。量子化されたK、LC、LM、C、M、Yの4ビット(5階調)データは、次にインデックス展開処理530が施される。
図6は、インデックス展開処理530を説明するための模式図である。本実施形態では、イメージコントローラ210が600dpiの4ビット(5階調)データを1200dpiの1ビット(2階調)データにインデックス展開する構成となっている。図において、左側に示した入力データは、量子化処理後の4ビットデータであり5段階の階調情報を有している。それぞれの階調に対応付けて示した右側の出力データは、インデックス展開処理により得られる記録・非記録を示した2値データである。各出力データは2×2の4つのエリアで構成されており、1つのエリアは1200×1200dpiの1画素に対応している。各エリアはドットを記録するか記録しないかの2値で定められる。入力データが最も低レベルの(0000)の場合、出力データではどのエリアについてもドットの記録は行われない。入力データが上昇するにつれて、出力データの記録ドット数も徐々に増大し、入力データが0100では4つある全てのエリアでドットを記録するようになっている。このようなインデックスパターンは、装置内のROM227に格納されていても良いが、ホスト装置200から入力されて得られるものであってもよい。
本実施形態において、インデックス展開は、RGBの多値データでの処理の負荷を低減し、かつ階調性を向上させることで記録速度と画質の両立を図る目的で採用されている。但し、本発明において、このような処理を採用することは必須の条件ではない。
インデックス展開処理530によって、2値化されたデータはプリントエンジン220に転送され、上述した通りプリントバッファ229に順次蓄積されていく。プリントエンジン220では、K、LC、LM、C、M、Yの各色1ビット(2階調)のデータと各情報に従って、記録ヘッド22や各種駆動系を制御する。そして、プリントバッファ229から読み出された各色の2値データに従って記録ヘッド22がインクを吐出することにより、1200×1200dpiの解像度を有する画像が記録される。
(本実施形態の特徴的事項)
以上説明した構成のインクジェット記録装置を用い、以下に本実施形態における具体的なスミヤ対策方法を説明する。
上述したインクジェット記録装置を用いて本発明者らが検討を行ったところ、低浸透性ブラックインクと高浸透性カラーインクを同一領域に重ねて記録する場合、以下の事実が確認された。すなわち、カラーインクよりも先にブラックインクを付与する形態の方が、カラーインクを先に付与する形態よりも、記録媒体に定着するのにより多くの時間を有することが確認された。例えば、ブラックの高デュ−ティー領域(ブラックの記録率が50%以上である単位領域)においては、ブラックを先に付与した場合(以後上打ちと称す)が3秒、ブラックを後に付与した場合(以後下打ちと称す)は2秒程度の定着時間を要することも確認した。
本明細書において「定着時間」は2通りで定義される。
第1に、「定着時間」とは、先行記録媒体(前ページ)の記録済み単位領域に対して記録中の後続記録媒体(現ページ)が接触してもスミヤが起こらなくなるまでに要する時間をいう。この場合、「定着時間」とは、先行記録媒体(前ページ)の記録済み単位領域に後続記録媒体(現ページ)が接触することを許容するまでの期間、と定義することもできる。
第2に、「定着時間」とは、両面記録を行う場合に、第1の面(表面)に記録された記録媒体を反転させて、その第1の面(表面)の記録済み箇所が装置内の部品や搬送経路に接触してもスミヤが起こらなくなるまでに要する時間をいう。この場合、「定着時間」とは、記録媒体の第1の面(表面)の記録済み単位領域が装置内の部品や搬送経路の一部と接触することを許容するまでの期間、と定義することもできる。
なお、「定着時間」を計測する方法としては、インク付与済みの記録媒体を特定の用紙(例えば、シルボン紙)で擦り、その用紙にインクが転写したかを目視あるいは光学センサにより確認する方法(第1方法)がある。この第1方法においては、特定の用紙にインクが転写したことを目視や光学センサにより確認できなくなる程度まで、インクが記録媒体に定着するのに要する時間を定着時間とする。また、別の方法として、インク付与済みの記録媒体にこれと同じ種類の記録媒体を重ね、重ねた記録媒体の方にインクが転写したか否かを目視あるいは光学センサにより確認する方法(第2の方法)がある。第2方法によれば、重ねた記録媒体にインクが転写したことを目視や光学センサにより確認できなくなる程度まで、インクが記録媒体に定着するのに要する時間を定着時間とする。このように種々ある計測方法のうち、本実施形態では、インク付与済みの記録媒体をシルボン紙で擦り、そのシルボン紙にインクが転写したかを目視により確認する方法を採用している。
ここで、インクの付与順序(低浸透性インク→高浸透性インクの順、あるいは低浸透性インク→高浸透性インクの順)の違いにより定着時間が異なる理由(メカニズム)について、本発明者の推測ではあるが、図16(a)および(b)を用いて説明する。
図16(a)は、記録媒体に高浸透性のカラーインク2001を付与した後に、低浸透性のブラックインク2002を付与した場合の浸透状態を示す図である。この場合、カラーインク2001によって浸透性の高くなった記録媒体面上にブラックインク2002が付与されるため、ブラックインク2002の記録媒体内部への浸透は速くなる。従って、定着時間は比較的短い。
一方、図16(b)は、記録媒体に低浸透性のブラックインク2002を付与した後、高浸透性のカラーインク2001を付与した場合の浸透状態を示す図である。この場合、ブラックインク2002の浸透性が低いので、記録媒体の内部へあまり浸透していない状態のブラックインク2002の上に、高浸透性のカラーインク2001が付与されることになる。このとき、記録媒体表面は低浸透性ブラックインク2002で覆われているため、高浸透性のカラーインク2001を後から付与したとしても浸透性はあまり変わらない。詳しくは、先に付与したブラックインク2002に後から付与したカラーインク2001が接触すると、両者は図のように記録媒体面上で混ざり合い、この混ざり合った混合インク2003が記録媒体内部へ浸透していく。しかし、混ざり合い初期における混合インク2003の浸透性については、先に付与されたブラックインクの低浸透性が支配的となる。よって、混合インク2003の記録媒体内部への浸透はなかなか進行しない。従って、定着時間が比較的長くなってしまう。なお、混ざり合い開始からある程度の時間が経過すると、混合インク2003の浸透性は除々に高まり、媒体内部へ除々に浸透していく。しかし、浸透性が高まるまでの時間が比較的長いため、図16(a)の場合に比べて定着時間が長くなってしまう。
このように高浸透性のカラーインクの付与後に低浸透性のブラックインクを付与する形態は、低浸透性のブラックインクの付与後に高浸透性のカラーインクを付与する形態に比べて、定着時間が短いのである。すなわち、浸透特性の異なるインクを用いる形態においては、それらインクの付与順序によって定着時間が異なるのである。なお、ここで、浸透特性の異なるインクとは、例えば、Ka値が異なるインク、あるいは表面張力が異なるインクを指す。
図7は、記録媒体700に、50%以上の記録率を有する所定の画像702が形成されている状態を示している。右側に示された複数のバンドは、記録ヘッド701による1回の記録走査で記録される領域を示しており、画像702は1インチずつ11バンドによって形成されている。
図に示した例において、記録ヘッド701は往路走査でバンド1に対する記録を開始する。往路走査では、カラーインクが付与された後にブラックインクが付与される下打ちとなるので、定着時間は2秒となる。バンド1分の搬送動作が行われた後、記録ヘッドは復路走査によってバンド2に対する記録を開始する。復路走査では、ブラックインクが付与された後にカラーインクが付与される上打ちとなるので、定着時間は3秒となる。このような双方向の記録走査をバンド11まで継続することにより、画像702は記録される。本例において、奇数バンドすなわちバンド1、3、5、7、9および11は下打ちとなり、偶数バンドすなわちバンド2、4、6、8および10は上打ちとなる。
図8(a)〜(c)は、本発明の効果を説明するために、画像702を様々な走査方向で記録した場合の、印刷終了時(バンド11記録走査直後)の各バンドにおける定着残存時間を示した図である。図において、最も左の列はバンド番号(x)を表している。次の記録順の列は、当該バンドが上打ちによって記録されたか下打ちによって記録されたかを示している。さらに次の変更時間A(x)は、記録ヘッドの走査方向を変更するために要する時間を示している。この値は、今回の記録走査が前回の記録走査と同じ方向で行うか否かによって異なる。前回と異なる方向で記録する場合、キャリッジの方向を変換するのみの動作として、本実施形態の記録装置では0.1秒が要されるものとする。これに対し、前回と同じ方向で記録する場合には、キャリッジをバックスキャンする時間が余計にかかるので0.2秒要するものとする。図8(a)に示した場合では、バンド1〜バンド11まで全て双方向記録を行っているので、全てのバンドで走査方向変更時間は0.1秒となっている。本例において、各記録走査間に行われる記録媒体の搬送時間は、ここに含まれているものとする。
記録走査時間B(x)には、各バンドを記録走査するのに要する時間が示されている。本例の場合、バンド1〜バンド11まで記録媒体の全幅に渡って移動走査が行われるので、一律0.1秒要する内容となっている。インク定着時間D(x)は、バンドxが上打ちで記録されたか下打ちで記録されたかによって異なり、2秒あるいは3秒が記されている。
定着残存時間T(x)は、バンド11の記録走査が終了した時点において、バンドxが定着するのに更に要される時間を示している。例えば、バンド1(x=1)について考える。バンド1は下打ち記録であるのでインク定着時間は2秒である。しかし、バンド1は最も先行して記録走査が行われているので、バンド11の記録走査が終了後には既にある程度の時間が経過しており、定着も進行している。ここで、バンド1が記録されてからバンド11の記録が終了するまでの時間を考える。まず、各バンドを記録するために要される時間は、各バンドの走査方向変更時間A(x)と記録走査時間B(x)とを合計した値、すなわち0.1秒+0.1秒=0.2秒となる。バンド1の記録走査が終了してからバンド11の記録走査が終了するまでの間には、バンド2〜バンド11までの10バンド分の記録走査が行われるので、その時間は0.2秒×10=2.0秒となる。すなわち、バンド11の記録走査が終了した時点で、バンド1は記録走査終了後から2.0秒経過しており、この値はバンド1におけるインク定着時間と一致している。結果、バンド1においては、バンド11の記録走査終了時において既に定着が完了しているとみなすことが出来る。
以上では、全11バンド中の第1番目のバンドを例に説明したが、各バンドにおける印刷終了後の定着残存時間は一般式で表すことが出来る。すなわち、着目するバンド番号をx(x=1〜11)、バンドxのインク定着時間をD(x)、走査方向変更時間をA(x)、xバンドの印刷時間をB(x)とすると、印刷終了後のxバンドの定着残存時間T(x)は、
と表すことが出来る。図8の印刷終了後の定着残存時間には、このようにして得られた値が記されている。
図8(a)を参照するに、印刷終了後の定着残存時間が最も多きいバンドはバンド10である。当該バンドの定着残存時間は2.8秒であり、最後に記録されたバンド11の定着が終了しても、まだ定着していないことになる。本例において、1ページ分の記録動作に要する時間は、全バンドの走査方向変更時間と記録走査時間を合計したものとして算出でき、この値は2.1秒となる。しかしながら、結果的には、さらにバンド10の定着残存時間である2.8秒が上乗せされた4.9秒が、1ページ分の出力時間として要されることになる。
双方向記録が短時間で画像を出力できるのは、バックスキャンのための時間を削減できるからである。しかしながら、本例のような場合には、双方向記録を実行したがために、より大きな定着時間を有するバンドを発生してしまっており、これでは双方向記録を行っても出力時間は思うように短縮できてはいない。
本実施形態では、このような双方向記録における矛盾を取り除くために、定着残存時間が大きくなりそうなバンドに対する記録走査方向を、より定着時間が短い走査方向に変更することを特徴とする。
図8(b)は、バンド10の記録走査方向を復方向から往方向に変更した際の、各バンドにおける定着残存時間を説明するための図である。この場合、バンド9、バンド10、バンド11と続けて往路方向の記録走査が行われるので、バンド10およびバンド11の走査方向変更時間は0.1秒から0.2秒に増大する。但し、バンド10のインク定着時間は3秒から2秒に低減される。これにより、バンド10における定着残存時間は1.7秒となり、バンド10は最大の定着残存時間を有するバンドではなくなる。結果、1ページ分の記録動作時間は、2回のバックスキャン分の0.2秒が追加された2.3秒となるが、定着残存時間の最大値はバンド8の2.2秒となるので、1ページ分のトータル記録時間は4.5秒となる。これば、図8(a)の4.9秒に比べて0.4秒短縮された値となる。
図8(c)は、図8(b)と同様にしてバンド8に対する走査方向の変更を加えた際の、各バンドにおける定着残存時間を説明するための図である。この場合、バンド7〜バンド11まで連続して往路方向の記録走査が行われる。よって、図8(a)の場合に対しバンド8〜バンド11の走査方向変更時間Aは0.1秒から0.2秒に増大する。但し、バンド8およびバンド10のインク定着時間は3秒から2秒に低減される。これにより、バンド8における定着残存時間は1.1秒となり、バンド8は最大の定着残存時間を有するバンドではなくなる。結果、1ページ分の記録動作に要する時間は、2.5秒となるが、定着残存時間の最大値は最後に記録されたバンド11の2.0秒となるので、1ページ分の記録時間は4.5秒となる。これば、図8(b)の場合と同じ値となる。
バンド11は当初の設定から下打ち記録であり、最大の定着残存時間である2・0秒をこれ以上低減することは出来ない。本実施形態においては、図7に示したような画像702を記録する場合には、図8(c)に示したような記録方法を採用する。但し、トータルの出力時間で考えると図8(b)の動作工程でも図8(c)の動作工程でも、本発明の効果は同等である。
以上では、図7で示したような全てのバンドに対し全幅への記録走査を実行する場合を説明したが、本実施形態の効果はこのような場合のみに限定されるものではない。
図9は、8バンドによって形成される画像1202を示した図である。本例の場合、奇数バンドすなわちバンド1、3、5および7は下打ちとなり、偶数バンドすなわちバンド2、4、6および8は上打ちとなる。
図10(a)〜(c)は、図8(a)〜(c)と同様、本発明の効果を説明するために、画像1202を様々な走査方向で記録した場合の印刷終了時(バンド8記録走査直後)の各バンドにおける定着残存時間を示した図である。図10(a)は、完全な双方向記録を実行した場合を示している。ここでは最終記録走査であるバンド8が最大の定着残存時間3.0を有している。すなわち、1ページ分の記録動作時間であるバンド1〜バンド8までの記録時間は1.5秒であるが、これに3.0秒を上乗せした4.5秒が、完全双方向記録を実行した場合の1ページ分のトータル出力時間となる。なお、本例のように、11バンドのうちの一部のバンドにしか記録を行わない場合、記録バンドに対する記録動作に加えて、非記録バンド(9〜11)に対する一括した搬送動作が要される。本例の場合、この搬送動作に関わる時間はほぼ0.2秒であるとする。但し、この搬送動作は乾燥のためのウエイト時間内に行うことが出来るので、あえて1ページ分の出力時間に加算されることはない。
図10(b)は、定着残存時間の最大値を有するバンド8の記録走査方向を復方向(上打ち)から往方向(下打ち)に変更した際の、各バンドにおける定着残存時間を説明するための図である。この場合、バンド7、バンド8と続けて往路方向の記録走査が行われるので、バンド8の走査方向変更時間は0.1秒から0.2秒に増大する。但し、バンド8のインク定着時間は3秒から2秒に低減される。これにより、バンド8における定着残存時間は2.0秒となり、最大の定着残存時間を有するバンドはバンド6となる。結果、1ページ分の記録動作に要する時間は、1回のバックスキャン分の0.1秒が追加された1.6秒となるが、定着残存時間の最大値はバンド6の2.5秒となるので、1ページ分のトータル出力時間は4.1秒となる。これば、図10(a)の4.5秒に比べて0.4秒短縮された値となる。
図10(c)は、図10(b)と同様にしてバンド6に対する走査方向の変更を加えた際の、各バンドにおける定着残存時間を説明するための図である。この場合、バンド5〜バンド8まで連続して往路方向の記録走査が行われる。よって、図10(a)の場合に対し、バンド6〜バンド8の走査方向変更時間は0.1秒から0.2秒に増大する。但し、バンド6およびバンド8のインク定着時間は3秒から2秒に低減される。結果、バンド6における定着残存時間は1.4秒となり、バンド6は最大の定着残存時間を有するバンドではなくなる。以上により、1ページ分の記録動作に要する時間は、1.8秒となるが、定着残存時間の最大値は最後に記録されたバンド11の2.0秒となるので、1ページ分のトータル出力時間は3.8秒となる。これば、図10(b)の4.1秒に比べて更に0.3秒短縮された値となる。
図10(c)において、最大の定着残存時間を有するバンド8は既に下打ち記録であり、最大の定着残存時間である2.0秒をこれ以上低減することは出来ない。よって、本実施形態において、図9に示したような画像を記録する場合には、図10(c)に示したような記録方法を採用する。
図11は、記録走査方向への幅が短く、8バンドによって記録される画像1402を示した図である。本例の場合、記録ヘッド701は往路走査においても復路走査においても、記録媒体の左半分程度の移動走査しか行わないものとする。
図12(a)〜(f)は、本発明の効果を説明するために、画像1402を様々な走査方向で記録した場合の、印刷終了時(バンド11記録走査直後)の各バンドにおける定着残存時間を示した図である。本例では、記録ヘッド701の走査距離が短いことから、変更時間Aおよび記録走査時間Bの値は、図8(a)〜(c)や図10(a)〜(c)の場合に比べ大幅に減少している。本例の走査方向変更時間Aとしては、前回と異なる方向で記録する場合は0.01秒、前回と同じ方向で記録する場合には0.02秒がそれぞれ要されるものとする。図12(a)に示した場合では、バンド1〜バンド11まで全て双方向記録を行っているので、全てのバンドで走査方向変更時間は0.01秒となっている。
一方、各バンドの記録走査時間Bは、一律0.03秒要する内容となっている。各バンドのインク定着時間は、前例と同様に、上打ちで記録されたか下打ちで記録されたかによって2秒あるいは3秒が記されている。
印刷終了後の定着残存時間について、本例でも前述した一般式を用いることが出来る。 図12(a)は、完全な双方向記録を実行した場合を示している。ここではバンド10が最大の定着残存時間2.96を有している。すなわち、1ページ分の記録動作時間すなわちバンド1〜バンド11までの記録時間は0.43秒であるが、これに2.96秒を上乗せした3.39秒が、完全双方向記録を実行した場合の1ページ分の出力時間となる。
図12(a)〜(f)は、図12(a)の状態から、順次、定着残存時間の最大値を有するバンドの記録走査方向を復方向(上打ち)から往方向(下打ち)に変更した際の、各バンドにおける定着残存時間を示した図である。各バンドの記録走査方向を徐々に往路方向に変更して行くにつれて、1ページ分の記録動作時間は増大するが、定着残存時間の最大値はこれ以上に減少している。すなわち、図11に示したような画像の場合には、全記録走査を往路方向で記録することが、本実施形態の記録装置において最も出力時間を抑える結果となる。
本実施形態においては、各バンドの記録走査方向を決定するために、ページ内の画像データの記録率や位置を記録動作に先立って認識することが要される。このような認識、および各バンドに対する記録走査方向の決定は、図4に示したイメージコントローラ210あるいはMPU221によって行うことが出来る。また、記録装置の外部に接続されたホスト装置200によって予め行うことも可能である。どのような機構によって実行される形態であっても本実施形態の効果は変わらない。往路走査で記録された画像と復路走査で記録された画像との間に定着時間の差がある場合、実際の記録動作に要される時間と定着のために追加される時間との和が最小となるように、事前に各バンドの記録走査方向が設定されれば、本実施形態の効果は発揮できる。
以上説明したような工程で記録された記録媒体は、定着残存時間に基づく処理がなされる。すなわち、片面記録であれば、定着残存時間の間、記録媒体をプラテン上で待機させ、その後、記録装置から記録済み記録媒体を排出する。このように、少なくとも定着残存時間だけ記録媒体の排出を遅延させることにより、定着残存時間が経過する前に記録済み記録媒体が排出されてしまうことを防止する。これにより、定着残存時間が経過する前に記録済みの記録媒体が排出されることで生じるスミヤを抑制することができる。
一方、両面記録であれば、定着残存時間の間、表面記録済みの記録媒体をプラテン上で待機させ、その後、裏面記録のために記録媒体を反転させる。このように、少なくとも定着残存時間だけ記録媒体の反転を遅延させることにより、定着残存時間が経過する前に表面記録済み記録媒体が反転されてしまうことを防止する。これにより、定着残存時間が経過する前に表面記録済みの記録媒体が反転されることで生じるスミヤを抑制することができる。
(第2の実施形態)
以下に、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態においても、第1の実施形態と同様の記録システムを適用する。但し、本実施形態の記録システムにおいては、1ページ分の全画像データを予め検出したり、当該画像データに応じて最適な記録走査方向を決定したりするような工程を有さないものとする。
本実施形態では、記録媒体の搬送方向のサイズが11インチである場合には、図7で説明したような画像702を前提として各記録走査の方向を予め決定しておく。すなわち、画像がいかなるものであったとしても、バンド8以降の記録走査は全て強制的に往路走査(下打ち)で実行するものとする。このような方法を採用した場合、例えば、記録する画像が図9に示したように縦方向に短い場合であっても、記録動作方法は図10(a)から図10(c)に変更され、結果的にはより短時間で画像を出力することが出来る。また、記録する画像が図11に示したように横方向に短い場合であっても、記録動作方法は図12(a)から図12(c)に変更され、第1の実施形態のように最短ではないが、より短時間で画像を出力することが出来る。更に、記録開始時の走査方向が往路方向でない場合であっても、本実施形態はその効果を発揮することが出来る。
図13(a)〜(c)は、図8(a)〜(c)と同様に図7に示した画像702を形成する際の記録走査方向と各バンドの定着残存時間を説明するための図である。但し、ここではバンド1に対する記録走査方向が復路方向(上打ち)となっており、結果としてこれに続く記録走査方向も図8(a)〜(c)に対し逆転している。このような場合であっても、図13(c)のようにバンド8以降を往路走査に切り替えることにより、図13(a)に示した当初の記録時間5.1秒に比べて、4.4秒まで出力時間を短縮することが出来る。
以上では11バンド分の大きさを有する記録媒体について説明したが、本実施形態の記録装置に適用可能な記録媒体のサイズが予め定められている場合は、強制的に往路方向で記録させるバンドを各サイズに応じて変更できるようにしても良い。
以上説明したような工程で記録された記録媒体は、通常の片面記録であれば定着残存時間の間待機した後、記録装置から排出される。一方、両面記録であれば、表面記録済み記録媒体は、定着残存時間の間待機した後、裏面記録のために反転される。
以上説明したように本実施形態においては、画像を形成する際の記録走査の方向を予め設定しておくことにより、画像が如何なる内容のものであっても双方向記録の高速性を極力損なわずに、画像を出力することが可能となる。
なお、以上説明した実施形態では、往路方向での記録が下打ちで定着時間が2秒、復路方向での記録が上打ちで定着時間が3秒として説明してきたが、無論本発明はこれに限定されるものではない。記録ヘッド上に配列するインク色の順番や、各インクの性質、また、記録する記録媒体の種類によって、定着に要される時間は大きく影響を受ける。例えば、ブラックインクは顔料インクでなくともよく、シアンインクも反応性を有するものでなくともよい。また、記録ヘッドに配列する記録素子数の数、各バンドの記録幅、1ページを形成するバンドの数、走査方向変更時間、記録走査時間などについても、上述した実施形態によって限定されるものではない。この様なパラメータは、記録装置によって様々に変動する。どのような条件下であっても、性質の異なるインクを用いて上記実施形態のようなシリアル型のインクジェット記録装置で双方向記録を実行した場合には、往路走査で形成された画像と復路走査で形成された画像との間には、多かれ少なかれ定着時間の差は生じる。本発明は、このような定着時間の差が大きすぎて、双方向記録時の高速性が損なわれるような場合に、トータルの出力時間が低減されるように、記録走査方向が設定されていれば、その効果を発揮することが出来る。