JP4924975B2 - 破骨細胞形成を制御する方法 - Google Patents
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Description
本発明は破骨細胞形成シグナルを制御する方法に関する。より具体的には、破骨細胞形成を制御する方法に関する。
背景技術
骨形成と骨吸収の微妙なバランスは、骨強度や統合性を維持するために極めて重要であり、骨吸収を起こす破骨細胞と骨形成を起こす骨芽細胞はその中心的な役割を果たしている(Manolagas,S.C.,Endocr.Rev.21,115−137(2000);Rodan,G.A.& Martin,T.J.,Science 289,1508−1514(2000))。骨リモデリングと呼ばれるこの生理学的過程は厳密に調節されており、バランスが崩れ破骨細胞が優勢となると、慢性関節リウマチ(rheumatoid arthritis;RA)を含む自己免疫性関節炎、歯周病、閉経後骨粗鬆症、パジェット病、および骨癌などの病的骨吸収に至る(Rodan,G.A.& Martin,T.J.,Science 289,1508−1514(2000);Kong,Y.Y.et al.,Nature 402,304−309(1999);Takayanagi,H.et al.,Arthritis Rheum.43,259−269(2000);Honore,P.et al.,Nat.Med.6,521−528(2000))。従って、破骨細胞による骨吸収を効果的に調節することが極めて重要であるが、病的骨吸収を制御できる有効な治療法は確立されていない。
TNF(tumor necrosis factor)ファミリーメンバーの1つであるRANKL(receptor activator of nuclear factor κB ligand,別名TRANCE/OPGL/ODF)によるシグナル伝達は、単球/マクロファージ前駆細胞から破骨細胞への分化に必須である(Yasuda,H.et al.,Proc.Natl Acad.Sci.USA 95,3597−3560(1998);Kong,Y.Y.et al.,Nature 397,315−323(1999);Suda,T.et al.,Endocrine Rev.20,345−357(1999))。RANKLがその受容体であるRANKに結合すると、TRAF6などのTRAFファミリー蛋白質が動員され、NF−κBおよびJun N−terminal kinase(JNK)経路を活性化する(Darnay,B.G.et al.,J.Biol.Chem.274,7724−7731(1999);Wong,B.R.et al.,J.Biol.Chem.273,28355−28359(1998))。メカニズムはまだ解明されていないが、RANKL自身もc−Fosの発現を誘導する(Matsuo,K.et al.,Nat.Genet.24,184−187(2000))。c−Fosは、Fos、Jun、およびATFファミリー蛋白質からなる二量体を形成する転写因子のグループに属するAP−1の成分である。破骨細胞形成におけるTRAF6およびc−Fos経路の重要性は、遺伝子破壊実験により詳細に解析されている(Lomaga,M.A.et al.,Genes Dev.13,1015−1024(1999);Naito,A.et al.,Genes Cells4,353−362(1999);Wang,Z.Q.et al.,Nature 360,741−745(1992);Johnson,R.S.et al.,Cell 71,577−586(1992);Grigoriadis,A.E.et al.,Science 266,443−448(1994);Teitelbaum,S.L.,Science 289,1504−1508(2000))。生理学的に正常な骨リモデリングを維持するには、RANKLシグナル伝達は高度に調節される必要がある。これに関して、RANKLの可溶性デコイ受容体であるosteoprotegerin(OPG)は破骨細胞形成のネガティブ調節因子として機能する(Simonet,W.S.et al.,Cell 89,309−319(1997);Tsuda,E.et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.234,137−142(1997))。実際、OPGを欠失したマウスでは重篤な骨減少症が発症し、RANKLレベルとOPGレベルのバランスが骨吸収調節における鍵となるメカニズムの1つであることが示されている(Bucay,N.et al.,Genes Dev.12,1260−1268(1998);Mizuno,A.et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.247,610−615(1998))。それに加えて、この過程は他のメディエーターによっても影響され得ることが報告されている(Suda,T.et al.,Endocrine Rev.20,345−357(1999);Roodman,G.D.,Exp.Hematol.27,1229−1241(1999);Chambers,T.J.,J.Pathol.192,4−13(2000))が、生体内(in vivo)におけるそれらの特異的な機能はよくわかっていない。例えば、骨ホメオスタシスを維持するために、破骨細胞形成においてRANKLシグナル伝達自身がネガティブ調節機構(群)を活性化し得るのかは知られていない。
ところで、インターフェロン(IFN)−αおよびIFN−β(以下IFN−α/βとも記す)はウイルス感染における宿主防御に重要な役割を果たしており、また抗増殖効果や様々な免疫調節機能を有している。このためIFN−α/βは、肝炎ウイルス感染、ある種の癌、および多発性硬化症などの自己免疫疾患に対して臨床適用がなされている。しかしながら、IFN−α/β系がRANKLシグナル伝達および骨代謝に関連しているのかは知られていない。また、IFN−α/βが生体内において骨格系を調節しているのかは明らかになっておらず、また骨疾患に対するIFN−α/βの有効性は全く知られていない。
発明の開示
本発明は、破骨細胞形成シグナルを制御する方法を提供することを課題とする。本発明の方法により、破骨細胞形成を制御することができる。具体的には、本発明は破骨細胞形成に関与するRANKLシグナル伝達の作用を制御する方法を提供する。さらに本発明は、破骨細胞形成に関与するc−Fos蛋白質レベルもしくはその機能、またはその両方を制御する方法を提供する。本発明により、骨吸収および骨破壊を制御することが可能となる。また本発明は、これらの制御に用いるための薬剤を提供することを課題とする。また本発明は、破骨細胞形成または骨破壊を制御するための医薬を提供することを課題とする。
骨ホメオスタシスの制御におけるI型IFN(IFN−αおよびIFN−βを含む)の生理学的な役割を解明し、骨代謝におけるI型IFNの有効性を検証するため、本発明者らは野生型マウス由来の骨髄単球・マクロファージ系前駆細胞(bone marrow monocyte/macrophage precursor cells;BMMs)を用いて、RANKLによる破骨細胞形成に及ぼすIFN−α/βの効果を調べた。その結果、I型IFNはBMMからの破骨細胞形成を顕著に阻害することが判明した。さらにIFN−γR−/−、Stat1−/−、またはIRF−1−/−マウス由来のBMMを用いて、RANKLによる破骨細胞形成に及ぼすIFN−α/βの効果を検証したところ、IFN−γR−/−マウスまたはIRF−1−/−マウスでは野生型マウスと同様にIFN−α/βによる阻害効果が観察されたが、Stat1−/−マウスではIFN−α/βによる破骨細胞形成の抑制能が顕著に低下した(図1)。この事実は、Stat1(signal transducer and activator of transcription−1)を介するシグナル伝達の活性化が、IFN−α/βによる破骨細胞形成の抑制に本質的な役割を果たすことを示している。このことから、RANKLシグナル伝達経路のIFN−α/βによる抑制には、Stat1を介し、IRF−1に非依存的な遺伝子誘導経路が重要であることが示された。
また本発明者らは、IFN−α/βの受容体成分の1つを欠損したマウス(INFAR1−/−マウス)の骨格系の評価を行った。INFAR1−/−マウスでは、破骨細胞による骨吸収が亢進しており、骨量の著しい減少が観察された(図2a)。INFAR1−/−マウス由来のBMMsを用いたin vitro破骨細胞形成においても、野生型マウス由来のBMMsに比べRANKL/M−CSFによる破骨細胞形成の誘導が亢進していた(図2bおよび3)。
組み換えマウスIFN−βは、BMMsの破骨細胞形成を阻害するのみならず、M−CSF非依存性のRAW264.7細胞からの破骨細胞形成に対しても顕著な阻害効果を示したことから、IFN−βはRANKLシグナル伝達を妨害することが示された。IFN−βを欠失するマウス(IFN−β−/−マウス)においても、INFAR1−/−マウスと同様、破骨細胞形成の増強による重篤な骨減少症を発症したことから、骨ホメオスタシスにおいてRANKLにより誘導されるIFN−βが必須の役割を果たすことが示された(図4b)。興味深いことに、RANKLは破骨細胞前駆細胞においてIFN−β遺伝子を誘導することが判明した(図4a)。このことは、IFN−βがRANKLシグナル伝達におけるネガティブフィードバック調節因子としての生理的機能を果たしていることを示している。RANKLによるIFN−β遺伝子誘導はc−Fosの発現に依存しており、ウイルス感染におけるIFN−β遺伝子の誘導の機構とは異なっていた(図11)。IFN−βはそのレセプター複合体に結合し、Stat1、Stat2、およびIRF−9(p48/ISGF3γ)で構成される転写因子複合体が活性化される。IFN−βによる破骨細胞形成の阻害効果は、IFNAR1−/−マウス、Stat1−/−マウス、およびIRF−9−/−マウスでは失われたが、IRF−1−/−マウスでは認められた(図5)。
大理石骨病の表現型を示す遺伝子改変マウスにより、RANKL、そのレセプターであるRANK、TRAF6(tumor necrosis factor receptor−associated factor 6)、NF(nuclear factor)−κB成分であるp50/p52、およびAP−1(activator protein−1)成分であるc−Fosを含む破骨細胞形成に必須な分子が明らかとなっている。RANKLがRANKに結合すると、TRAF6が動員され、これがNF−κB経路およびJNK/SAPK(c−JunN−terminal kinase/stress−activated protein kinase)経路を活性化する。RANKLがどのようにc−Fos経路を活性化するのかは知られていないが、c−fos−/−マウスにおける大理石骨病は、c−Fosの転写標的であるFra−1の過剰発現によりレスキューできることから、Fosファミリー蛋白質もまた、破骨細胞形成に本質的な役割を果たしていることが示唆される。本発明において、IFN−βはc−Fos蛋白質のRANKL依存的な誘導を強く阻害し、同時にFra−1およびFra−2の転写を低下させることが判明した(図6および7)。レトロウイルスを用いてc−Fos、Fra−1、またはFra−2を過剰発現させたところ、IFN−βによる破骨細胞の分化抑止が解除されたことから、c−Fosおよびその転写のターゲット分子がIFN−βによる破骨細胞形成の阻害の原因であることが示された(図9および10)。これらの結果から、RANKLとIFN−α/βとの間の新規なシグナル伝達のクロストークが明らかとなり、骨変性疾患におけるIFN−α/β投与の治療的有効性に関する分子的基盤が提供された。
炎症性骨破壊のエンドトキシン誘導モデルを用いて、IFN−βの局所注入の治療効果を調べた。炎症部位へのIFN−β投与を毎日行った結果、破骨細胞形成および骨吸収が顕著に阻害された(図12)。これは骨破壊疾患におけるIFN−βの臨床適用の可能性を示唆している。IFN−βは既に数種のヒト癌および多発性硬化症などの自己免疫疾患に対して適用が行われている。骨破壊は、複数の骨髄腫および転移性骨癌を含む腫瘍、並びに自己免疫性関節炎などの炎症状態にしばしば付随していることから、IFN−βは癌や関節炎で誘導される骨破壊に対する治療に特に効果を有する可能性がある。骨破壊部位へのIFN−α/βの局所送達は投与量を低く抑えることができるため、副作用を低減することが可能である。
また本発明者らは、ヒト破骨細胞形成における組み換えIFN−βの効果を確認した(図13)。RANKLおよびM−CSFで刺激したヒト末梢血単核細胞からのin vitro破骨細胞形成において、組み換えヒトIFN−βはマウスにおける場合と同様に強い抑制効果を示した。さらに本発明者らは、慢性関節リウマチ患者由来の培養滑膜細胞からのin vitro破骨細胞形成の系を利用して、ヒト疾患における病的骨吸収に対するIFN−βの有益な効果を実証した。具体的には、慢性関節リウマチ患者より滑膜組織を単離し、ビタミンD3活性代謝物および組み換えヒトM−CSFにより誘導されるex vivo破骨細胞形成におけるIFN−βの効果を検証した。その結果、組み換えIFN−βは滑膜細胞からの破骨細胞形成を強く阻害することが実証され、I型IFNが慢性関節リウマチにおける骨破壊を抑制する医薬として有効であることが明確に示された。これらの結果は、I型IFNを局所的または全身的に適用することは、ヒト骨疾患における骨吸収を抑制するための新たな戦略となることを示している。
本発明により、以下のような骨代謝疾患に対する新たな治療的アプローチが可能となる。
1)破骨細胞の生成および活性の制御は骨代謝疾患の予防および治療に有効である。特に自己免疫性関節炎に対して効果を有する。
2)RANKLシグナル伝達経路の阻害は、自己免疫性関節炎を含む骨代謝疾患における有効な治療戦略となる。
3)c−Fosは、RANKLシグナルによる破骨細胞形成の制御における重要なターゲット分子である。
4)I型IFN(例えばIFN−αおよびIFN−β)は自己免疫性関節炎を含む骨代謝疾患の予防および治療に有効である。
このように本発明者らは、破骨細胞形成の新規な調節機構を解明し、破骨細胞による異常な骨吸収を制御する方法を開発するに至った。すなわち本発明は、破骨細胞形成シグナルを制御する方法、並びに該制御に用いるための薬剤および医薬に関し、より具体的には、
(1)破骨細胞前駆細胞におけるI型IFNシグナル伝達を促進または抑制する工程を含む、破骨細胞形成シグナルを制御する方法、
(2)破骨細胞前駆細胞におけるI型IFNシグナル伝達を促進または抑制する工程を含む、下記(a)から(d)のいずれかを制御する方法、
(a)破骨細胞形成
(b)RANKシグナル伝達
(c)c−Fos蛋白質レベルまたはその機能
(d)骨吸収
(3)破骨細胞前駆細胞におけるI型IFNシグナル伝達を促進する工程を含む、炎症性骨破壊の抑制方法、
(4)I型IFNシグナル伝達がStat1、IRF−9、またはISGF3を介するシグナル伝達である、(1)から(3)のいずれかに記載の方法、
(5)I型IFNシグナル伝達の促進または抑制が、I型IFN受容体とそのリガンドとの相互作用の促進または抑制である、(1)から(3)のいずれかに記載の方法、
(6)I型IFN受容体とそのリガンドとの相互作用の促進を、下記(a)または(b)に記載の工程により行う、(5)に記載の方法、
(a)I型IFN受容体リガンドの投与
(b)I型IFN受容体リガンドを発現するベクターの投与
(7)リガンドがIFN−αまたはIFN−βである、(5)または(6)に記載の方法、
(8)(1)破骨細胞形成、(2)RANKシグナル伝達、(3)c−Fos蛋白質レベルもしくはその機能、または(4)骨吸収に及ぼす化合物の効果を検出する方法であって、
(a)被検化合物を含む試料の存在下で、破骨細胞前駆細胞におけるRANKシグナル伝達、並びにI型IFNシグナル伝達を促進する工程、
(b)(1)破骨細胞形成、(2)RANKシグナル伝達、(3)c−Fos蛋白質レベルもしくはその機能、または(4)骨吸収を検出する工程、を含む方法、
(9)(1)破骨細胞形成、(2)RANKシグナル伝達、(3)c−Fos蛋白質レベルもしくはその機能、または(4)骨吸収を調節する化合物をスクリーニングする方法であって、
(a)被検化合物を含む試料の存在下で、破骨細胞前駆細胞におけるRANKシグナル伝達、並びにI型IFNシグナル伝達を促進する工程、
(b)(1)破骨細胞形成、(2)RANKシグナル伝達、(3)c−Fos蛋白質レベルもしくはその機能、または(4)骨吸収を検出する工程、
(c)対照の条件下に比べ、該(1)破骨細胞形成、(2)RANKシグナル伝達、(3)c−Fos蛋白質レベルもしくはその機能、または(4)骨吸収を調節する化合物を選択する工程、を含む方法、
(10)I型IFNシグナル伝達がStat1、IRF−9、またはISGF3を介するシグナル伝達である、(8)または(9)に記載の方法、
(11)I型IFNシグナル伝達の促進が、I型IFN受容体とそのリガンドとの相互作用の促進である、(8)または(9)に記載の方法、
(12)I型IFN受容体とそのリガンドとの相互作用の促進を、下記(a)または(b)に記載の工程により行う、(11)に記載の方法、
(a)I型IFN受容体リガンドの投与
(b)I型IFN受容体リガンドを発現するベクターの投与
(13)リガンドがIFN−αまたはIFN−βである、(11)または(12)に記載の方法、
(14)I型IFN受容体リガンドまたは該リガンドを発現するベクターを含む、下記(a)から(d)のいずれかに記載の薬剤、
(a)破骨細胞形成抑制剤
(b)RANKシグナル伝達抑制剤
(c)c−Fos抑制剤
(d)骨吸収抑制剤
(15)I型IFN受容体のリガンドがIFN−αまたはIFN−βである、(14)に記載の薬剤、
(16)I型IFN受容体リガンドまたは該リガンドを発現するベクターを含む、骨破壊を抑制するための医薬組成物、
(17)自己免疫性関節炎における骨破壊の予防または治療に用いられる、(16)に記載の医薬組成物、に関する。
本発明はI型IFNシグナル伝達を促進または抑制することにより、破骨細胞形成シグナルを制御する方法に関する。本発明において「破骨細胞形成シグナル」とは、破骨細胞形成を誘導する過程および破骨細胞形成により誘導される過程における作用または該作用の一部を指す。これらの作用には、遺伝子の発現、細胞の形態および機能変化を含む表現型の変化、ならびにこれらの表現型の変化により引き起こされる代謝活動などが含まれる。I型IFNシグナル伝達を促進することによって、破骨細胞形成シグナルは阻害され骨吸収が抑制される。逆にI型IFNシグナル伝達を抑制することによって、破骨細胞形成シグナルの阻害が低下し骨吸収が促進される。
破骨細胞は、造血幹細胞を起源とするマクロファージ・単球系細胞(CFU−M)より分化した単核の破骨細胞前駆細胞が融合して形成される多核巨細胞である(Udagawa,N.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:7260,1990)。一般に成熟した破骨細胞は、酒石酸抵抗性酸フォスファターゼ(TRAP)、カルシトニン受容体、ヴィトロネクチン受容体、およびM−CSF受容体(c−Fms)を発現し、骨吸収能を示す。破骨細胞形成は、これらの指標の少なくとも1つをもとに判断することができる。in vitro培養系において、骨髄単球・マクロファージ系前駆細胞(bone marow monocyte/macrophage precursor cells;BMMs)は、H−CSF(macrophage−colony stimulating factor;マクロファージコロニー刺激因子)存在下でRANKLの刺激により破骨細胞に分化する。これらの因子以外にも、炎症性関節炎などにおける骨破壊には、IL(interleukin)−1、IL−6、TNF(tumour necrosis factor)−α、FGF(fibroblast growth factor)−2、およびPDGF(platelet−derived growth factor)などのサイトカインや増殖因子が関与している。破骨細胞が骨吸収を行う際には、明帯(clear zone)と呼ばれるアクチンに富んだ部位で骨に接触し、波状縁(ruffled border)という膜陥入構造を形成し、プロトンポンプによる酸性環境下でマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)、カテプシンなどの基質分解酵素を自ら産生することにより骨基質が分解される。本発明によれば、このような破骨細胞の分化および骨吸収などを誘導する破骨細胞形成シグナルを、I型IFNシグナル伝達の調節により制御することができる。すなわち、I型IFNシグナル伝達を促進することにより骨破壊を抑制し、逆にI型IFNシグナル伝達を抑制することによって、骨破壊を促進することができる。
また、上記のように、一般に破骨細胞の形成は、M−CSF存在下、RANKLにより誘導される。RANKLは細胞表面に発現するRANK(receptor activator of nuclear factor κB)のリガンドであり、RANKを介したシグナル伝達を誘導する。RANKの活性化により、シグナルはTRAF2、TRAF6、および他のTRAFファミリー因子を含むエフェクター分子を介して下流に伝達され、c−Fos、Fra−1、およびFra−2を含むFosファミリー蛋白質の発現を介して、結果的に破骨細胞への分化および活性化を促し破骨細胞を形成させる。破骨細胞の形成には、RANKL以外にTNFαおよびIL−1も関与しており、TNFαはI型およびII型TNF受容体を介して、またIL−1はIL−1受容体を介して破骨細胞形成シグナルを伝達する。また、TRAFファミリー因子は、TNF受容体およびIL−1受容体を介するシグナルにも関与しており、例えばTRAF6はIL−1受容体のアダプター分子としても機能する。I型IFNシグナル伝達を促進または抑制することにより、これらの破骨細胞形成シグナルをそれぞれ抑制または促進することが可能である。
実施例4に示されるように、I型IFNシグナル伝達を促進または抑制することにより、特にRANKシグナル伝達を効果的に制御することができる。IFN−βは、M−CSFおよびRANKLに依存して分化するBMMsの破骨細胞形成を阻害するのみならず、M−CSF非依存性のマクロファージ細胞株RAW264.7のRANKLによる破骨細胞形成も阻害する。この知見は、I型IFNシグナル伝達を促進することにより、RANKシグナル伝達を特に選択的に抑制することができることを示している。逆にI型IFNシグナル伝達を抑制することにより、RANKシグナル伝達の阻害を低下させることができる。「RANKシグナル伝達」とは、RANKを介した一連のシグナル伝達またはその一部を指し、RANKの下流のシグナル分子の活性化や発現の上昇、標的遺伝子発現の誘導、RANKの活性化により引き起こされる細胞の形質変化などを含む。これらには、特にc−Fos蛋白質レベルの上昇、fra−1およびfra−2のようなfosファミリー遺伝子の発現の誘導、ならびにその下流のシグナル伝達が挙げられる。また、破骨細胞形成、並びにTRAP、カルシトニン受容体、およびヴィトロネクチン受容体等の破骨細胞で発現される遺伝子の発現誘導、さらには骨吸収能の獲得などが挙げられる。
また、実施例5に示されるように、I型IFNシグナル伝達の促進は、c−Fos蛋白質の発現を顕著に阻害することが判明した。イムノブロット解析の結果は、I型IFNシグナル伝達の促進が、c−Fos蛋白質レベルを有意に低下させることを示している(図6)。従って、I型IFNシグナル伝達を促進することにより、RANKシグナルによるc−Fos蛋白質の発現誘導を抑制することが可能である。c−Fosの発現を抑制することによりc−Fosの機能は抑制される。c−Fosの機能としては、例えばAP−1複合体の形成やその標的遺伝子の発現誘導などを含む、c−Fosを介するシグナル伝達が挙げられる。すなわち、I型IFNシグナル伝達を促進することにより、c−Fosが関与するシグナル伝達を抑制することができる。c−FosはRANKシグナル伝達以外にも様々なシグナル伝達に関与している。本発明の方法を用いてc−Fos蛋白質レベルを制御することにより、これらのc−Fosを介するシグナル伝達を制御し得る。
本発明において「I型IFNシグナル伝達」とは、I型IFNにより誘導されるシグナル伝達またはその一部を言う。すなわち、I型IFNにより誘導されるシグナル伝達、I型IFN受容体の活性化により誘導されるシグナル伝達、およびI型IFN受容体の下流のエフェクター分子により誘導されるシグナル伝達などは、I型IFNシグナル伝達に含まれる。本発明においてI型IFNシグナル伝達は、好適には、I型IFN受容体の活性化により誘導されるシグナル伝達を言う。
I型IFNとしてはIFN−αおよびIFN−β等が挙げられ、これらのI型IFNはI型IFN受容体のリガンドとして機能してI型IFNシグナル伝達を活性化する。これらのリガンドがI型IFN受容体に結合すると、JAK1およびTyk2が活性化され、細胞内の転写因子群ISGF3(IFN−stimulated gene factor 3)のチロシンリン酸化が起こる。ISGF3はStat1を含む成分であるISGF3α[p91/84(Stat1α/β)およびp113(Stat2)を含む複合体]とDNA結合成分であるISGF3γ(p48)とからなり、活性化により核に移行してISRE(IFN−stimulated response element)に結合し標的遺伝子群の転写を促進する。このように、I型IFNシグナル伝達としては、ISGF3を介するシグナル伝達が挙げられる。
I型IFNシグナル伝達を活性化するには、例えばI型IFN受容体のリガンドを作用させる。また、I型IFN受容体の下流のシグナル伝達を活性化することもできる。中でも、Stat1を介するシグナル伝達を促進することが好ましい。例えば、ISGF3形成を促進することによりI型IFNシグナル伝達を活性化することができる。また、ISRE応答性の遺伝子群の発現を促進することにより、I型IFNシグナル伝達を活性化することもできる。
I型IFNシグナル伝達を抑制するには、例えばI型IFN受容体のリガンドを取り除いたり、リガンドと受容体との結合を阻害する。例えば、リガンドに対する抗体を投与することによりリガンドを中和することができる。また、I型IFN受容体からのシグナル伝達を抑制することもできる。
また、例えば活性化型JAKやTykを細胞で発現させるなど、細胞内におけるJAKファミリーのチロシンキナーゼ活性を上昇させることにより、ISGF3(Stat1/Stat2/p48)の形成を促進してI型IFNシグナルを促進することも可能である。逆にJAKを阻害すればI型IFNシグナルを抑制することができる。また、Stat1は核内でCBP/p300等の転写コアクチベーターと結合して転写活性が促進される。そこで、CBP/p300等を過剰発現したり、これらとStat1との結合能を高めれば、I型IFNシグナルは亢進する。逆に、CBP/p300等とStat1との結合を阻害すれば、I型IFNシグナルを阻害することができる(Horvai,A.E.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 94:1074−1079(1997))。
I型IFNシグナル伝達の制御を行う標的となる細胞は、破骨細胞前駆細胞である。本発明において「破骨細胞前駆細胞」とは、破骨細胞に分化し得る細胞を指す。このような細胞としては、破骨細胞に分化し得るマクロファージ・単球系細胞等が含まれる。具体的には、骨髄マクロファージ系細胞や滑膜マクロファージなどの、骨軟骨組織に存在するマクロファージ系細胞(例えばマクロファージ・単球系前駆細胞など)などが挙げられる。また、造血幹細胞なども含まれる。細胞が由来する生物種に特に制限はない。RANKLシグナル伝達系およびI型IFNシグナル伝達系は、哺乳動物において広く保存されており、ヒト細胞等においても、これらのシグナル分子群はマウス細胞と共通しており、その機能についても同様であることが知られている。実際、本発明者らはヒト細胞において、I型IFNが破骨細胞形成を強く抑制することを実証した。従って、例えばヒトおよびサルを含む霊長類に由来する破骨細胞前駆細胞に対して、本発明に従いI型IFNシグナル伝達の制御を行うことにより、該細胞の破骨細胞形成を制御することが可能である。また本発明者らは、I型IFNが、慢性関節リウマチ患者滑膜からの破骨細胞形成を強く阻害できることを示した。この事実は、本発明の方法が慢性関節リウマチを含む炎症性骨破壊における処置に効果を有することを明確に示している。
I型IFN受容体のリガンドとは、I型IFN受容体に結合して受容体を活性化させる分子を指す。I型IFN受容体のリガンドを用いてシグナル伝達を促進する場合、用いられるI型IFN受容体のリガンドとしては、該受容体に結合し、受容体を活性化させる限り特に制限はない。リガンドには天然のリガンド、天然のリガンドの誘導体、リガンドとして作用する他の蛋白質、および人工的なリガンド等が含まれる。リガンドは蛋白質またはペプチドであっても、非ペプチド性化合物であってもよい。ペプチド性のリガンドは、組み換え体であってよく、また、修飾されていてもよい。また、リガンドは製剤化されたものであってもよい。また、グリコール結合体(glycol−conjugated IFN)など、他の化合物と結合したものであってもよい。
I型IFN受容体のリガンドとしては例えばIFN−αおよびIFN−βなどが挙げられる。本発明においてIFN−αおよびIFN−βには、野生型IFN−αおよびIFN−βのみならず、野生型分子の誘導体も含まれる。例えば、野生型IFN−αおよびIFN−βに1または複数のアミノ酸を付加、欠失、置換、および/または挿入した蛋白質や、主鎖または側鎖が修飾された蛋白質なども、本発明においてIFN−αおよびIFN−βに含まれる。天然のI型IFNには複数のファミリーまたはアイソフォームが存在するが、これらのいずれの分子も、I型IFNシグナル伝達の制御に利用することができる。また、本発明においてIFN−αには、IFN−ωとも呼ばれるものを含め、全てのIFN−α型サブタイプ、およびIFN−α様活性を示す誘導体などが含まれる。またIFN−βには、全てのIFN−β型サブタイプ、およびIFN−β様活性を示す誘導体などが含まれる。
これらのI型IFN受容体リガンドを投与して、I型IFN受容体にリガンドを相互作用させることにより、I型IFNシグナル伝達を促進することができる。リガンドの投与は、標的細胞の受容体に結合し得るように、適宜公知の投与方法に従って行えばよい。
リガンド自体を用いる代わりに、リガンドを発現するベクターを用いることも考えられる。ペプチド性のリガンドは、これをコードする核酸を発現させることにより産生させることができる。例えばIFN−α、IFN−β、またはこれらの派生体などを発現するベクターを細胞に導入すれば、導入細胞から産生されたこれらの分子がI型IFN受容体に結合してI型IFNシグナルを活性化する。本発明においてベクターは、I型IFN受容体リガンドを発現することができる限り制限はなく、DNAおよびRNAを含むポリヌクレオチド自体、および該ポリヌクレオチドを含む複合体の形態であってよい。リガンドを発現するベクターの作製には、プラスミドベクターおよびウイルスベクターを含む公知のベクター系を用いることができる。ウイルスベクターとしては、例えばレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターなどが挙げられる。生体へのベクターの投与は、直接ベクターを投与するin vivo法、またはベクターを導入した細胞を投与するex vivo法により行うことができる。
ex vivo法により遺伝子を導入する場合、例えばレトロウイルスベクターを好適に用いることができる。レトロウイルスベクターは、導入遺伝子を宿主染色体に組み込むため、長期間安定した発現が期待できる。例えば関節に対する遺伝子導入においては、体外に取り出した滑膜細胞に対して遺伝子導入を行い、遺伝子が導入された細胞を再び関節に移植することが考えられる。in vivo法により遺伝子を導入する場合、例えばアデノウイルスベクターを用いることができる。アデノウイルスは高濃度に濃縮が可能であり、導入遺伝子がホストのゲノムに組み込まれないため安全性も高い。実際に、滑膜細胞に対してのアデノウイルスベクターの遺伝子導入効率は高いことが報告されており、関節に対する遺伝子導入に用いることが可能である。その他、naked DNAの投与や、センダイウイルスリポソームを用いた方法などにより、非ウイルスベクターを用いた細胞または生体への遺伝子導入を行うこともできる。ベクターを投与する対象となる細胞は特に制限はない。ベクターやベクターを導入した細胞は、生産されたリガンドが破骨細胞前駆細胞に作用し得るように投与される。例えば骨軟骨部位へ局所投与することができる。
また、ベクターを導入した細胞に限らず、I型IFN受容体のリガンドを産生する細胞であれば、この細胞を投与することも考えられる。本発明におけるI型IFN受容体リガンドの投与には、そのリガンドを産生する細胞の投与などのリガンドの間接的な投与も含まれる。IFN−αおよびIFN−βは線維芽細胞、血管内皮細胞、B細胞、T細胞、マクロファージなど様々な細胞から産生されるが、特にIFN−αであれば非T細胞、NK細胞等が挙げられる。IFN−βであれば、線維芽細胞等が挙げられる。
また、体内にあるI型IFN産生細胞からのI型IFN産生を促進することにより、I型IFNシグナル伝達を促進することもできる。このためには、I型IFN産生細胞からのIFN産生を促進する刺激を与えればよい。一般にI型IFN産生は、ウイルスや微生物の感染、エンドトキシン、合成低分子、抗生物質、多糖体、核酸、マイトジェン、免疫増強剤の投与などによって誘導される(Mayer,E.D.et al.,”Interferons and Other regulatory cytokines”(インターフェロンおよび他の調節性サイトカイン),1998,John Wiley & Sons)。
以上のような方法により、I型IFN受容体リガンドを受容体に相互作用させれば、破骨細胞前駆細胞においてRANKLなどにより誘導される破骨細胞形成が阻害され、骨吸収を抑制することができる。本発明の方法によれば、例えば自己免疫性関節炎における骨破壊を抑制することができる。骨破壊を抑制する対象となる個体に制限はなく、例えばヒト、およびマウス、ラット、ウサギ、サルなどの非ヒト哺乳動物が挙げられる。非ヒト哺乳動物への適用は、ヒト骨破壊性疾患に対する予防法または治療法を開発するためのモデルとする上でも有用である。これにより、例えば自己免疫性関節炎における骨破壊を予防する新たな方法を開発することができる。
最近、蛋白質の機能抑制の方法の一つとして、抗体誘導療法や、DNAワクチンによる抗体誘導療法が開発されている。これらの免疫学的手法を用いて破骨細胞形成シグナルに関与する分子の機能を遮断することにより、骨吸収や骨破壊を制御することが可能である。本発明は、破骨細胞形成シグナルに関与する分子に対する抗体を誘導することにより、破骨細胞形成を調節する方法を提供する。好ましい一態様においては、RANKLシグナル伝達に関与する蛋白質に対する免疫反応を誘導することにより、破骨細胞形成の調節を行う。例えば、癌の骨転移やリウマチなどの病的骨破壊疾患一般に対して、RANKLシグナル伝達を行う蛋白質に対する免疫反応を誘導することにより、骨破壊を抑制するための抗体誘導療法を実施することができる。RANKLシグナル伝達に関与する蛋白質としては、例えばRANKL、RANK、TRAF6、c−Fos、NF−κB、JNK、Fra−1、およびFra−2などが挙げられるがこれらに制限されない。特に好ましい標的蛋白質としては、RANKLおよびRANKが挙げられる。
また、好ましい他の態様においては、I型IFNシグナル伝達に関与する蛋白質に対する免疫反応を誘導することにより、破骨細胞形成の調節を行う。I型IFNシグナルは破骨細胞形成に抑制的に働くことから、このシグナル伝達を抑制することにより、破骨細胞形成を促進することができる。骨形成が亢進する病態に対してI型IFNシグナル伝達に関与する蛋白質に対する免疫療法を実施することにより、破骨細胞形成を促進して骨量の増加を抑制することが可能である。I型IFNシグナル伝達に関与する蛋白質としては、IFN−α/βを含むI型IFN、その受容体、Stat1、Stat2、IRF−9、およびPKRなどが挙げられるがこれらに制限されない。特に、IFN−βおよびIFN−β受容体は、免疫反応の誘導のための標的として好ましい。
破骨細胞形成シグナルに関与する蛋白質を標的とした免疫反応は、これらの蛋白質または抗原性を有する部分蛋白質を抗原として投与することにより誘導される。抗原蛋白質は、適宜アジュバントと組み合わせて投与することができる。例えば、RANKLまたはRANKあるいはそれらの部分蛋白質を抗原として投与し、抗体を誘導する。RANKLまたはRANKに対する免疫反応を誘導する方法を利用してRANKL−RANKの結合を抑制すること(抗RANKL抗体、抗RANK抗体の誘導療法を含む)により、破骨細胞形成は抑制され、骨吸収を低下させることができる。また、I型IFNまたはその受容体に対する免疫反応を誘導する方法を利用してI型IFN−I型IFN受容体の結合を抑制すること(抗I型IFN抗体、抗I型IFN受容体抗体の誘導療法を含む)により、破骨細胞形成の抑制が解除され、骨吸収を促進することができる。本発明は、このような阻害抗体の誘導法による骨吸収の制御により、病的骨破壊または骨形成を病態とする疾患に対する治療を行う方法を提供する。
また、破骨細胞形成を調節するために、抗体以外の可溶性因子を利用することも可能である。例えば、RANKLに対するデコイ受容体として知られるOPGは、RANKLとRANKの結合を阻害することによりRANKLシグナル伝達を遮断する。OPGが関節炎に対して治療効果を有することは、in vitro(Takayanagi,H.et al.,Arthritis Rheum.43,259−269(2000)およびin vivo(Kong,Y.Y.et al.,Nature 402:304−309(1999))で示されている。これらのデコイを利用すれば、破骨細胞形成に関わるRANKやI型IFN等のリガンドの作用を阻害することができる。デコイとして機能する蛋白質は、天然の可溶性受容体などを用いることもできるし、また、膜結合型受容体の細胞外領域の部分蛋白質を製造して利用することもできる。例えば、RANKのリガンド結合領域を含む部分ペプチドによりRANKLを捕捉すれば、RANKLのRANKへの結合を阻害し、破骨細胞形成を抑制することができる。また、I型IFNに結合するデコイを用いれば、I型IFNシグナルを遮断して破骨細胞形成を促進することができる。また、リガンドに結合する蛋白質ではなく、受容体に結合するが受容体を活性化しない因子を用いてシグナルを遮断することもできる。このような因子は、リガンドの変異体や受容体結合部を含む部分ペプチドであってもよく、また非ペプチド性化合物などであってもよい。本発明は、デコイなどによりRANK−RANKL間、あるいはI型IFN−I型IFN受容体間の結合を阻害することにより、骨吸収を制御して病的骨破壊または骨形成を病態とする骨疾患に対する治療を行う方法に関する。また、生体が内因性に持つデコイに対する阻害抗体を上記のように誘導させれば、骨吸収をより多様に制御することも可能と考えられる。
I型IFNシグナル伝達の制御により破骨細胞形成シグナルを調節する方法を利用すれば、これに影響を与え得る化合物のアッセイ系やスクリーニング系を構築することができる。これらの系では、例えば破骨細胞形成、RANKシグナル伝達、c−Fos蛋白質レベルもしくはその機能、または骨吸収に対する調節を指標として、化合物の効果が検証される。例えば、被検化合物の存在下において、I型IFNシグナル伝達による上記の調節効果がどのように変化するかを調べれば、I型IFNシグナル伝達によるこれらの制御を促進または抑制する化合物を見出すことができる。
具体的には、(1)破骨細胞形成、(2)RANKシグナル伝達、(3)c−Fos蛋白質レベルもしくはその機能、または(4)骨吸収に及ぼす化合物の効果を検出する方法は、
(a)被検化合物を含む試料の存在下、破骨細胞形成を誘導し得る条件で破骨細胞前駆細胞におけるI型IFNシグナル伝達を促進する工程、
(b)(1)破骨細胞形成、(2)RANKシグナル伝達、(3)c−Fos蛋白質レベルもしくはその機能、または(4)骨吸収を検出する工程、を含む方法である。
この検出における「破骨細胞を誘導し得る条件」とは、I型IFNシグナル伝達が活性化されなければ、破骨細胞形成が誘導される条件を指す。このような条件とは、例えば破骨細胞前駆細胞においてRANKシグナル伝達を促進する条件である。
この検出方法は、特にI型IFNシグナル伝達による(1)破骨細胞形成、(2)RANKシグナル伝達、(3)c−Fos蛋白質レベルもしくはその機能、または(4)骨吸収、の抑制に及ぼす化合物の促進または抑制効果を検出するために有用である。例えば、I型IFNシグナル伝達を促進する条件下においても、(1)破骨細胞形成、(2)RANKシグナル伝達、(3)c−Fos蛋白質レベルもしくはその機能、または(4)骨吸収が誘導されるならば、用いた被検化合物は、I型IFNシグナル伝達によるこれらの抑制作用を低下させる活性を有していると判断される。また、I型IFNシグナル伝達を促進する条件下において、被検化合物が、(1)破骨細胞形成、(2)RANKシグナル伝達、(3)c−Fos蛋白質レベルもしくはその機能、または(4)骨吸収の阻害をさらに上昇させるならば、用いた被検化合物は、I型IFNシグナル伝達によるこれらの抑制作用を上昇させる活性を有している可能性がある。さらにI型IFNシグナル伝達が阻害されている条件下で同様の検出を行えば、化合物の効果がI型IFNシグナルに依存しているのかを知ることもできる。このような検出のためには、例えばI型IFNの中和抗体によりIFNを中和したり、実施例で用いられたようなIFNAR−/−やIRF−9−/−の個体や細胞を用いることができる。
用いられる細胞は、破骨細胞に分化し得る細胞であれば制限はなく、例えば骨髄マクロファージ系細胞等が利用される。RANKシグナル伝達を促進するには、例えばRANKのリガンドであるRANKLを投与すればよい。IFNシグナルを活性化しなければ破骨細胞形成が誘導されるように、必要に応じてM−CSFや他のサイトカイン・増殖因子を投与する。I型IFNシグナル伝達を促進する方法は、上記した方法により行えばよい。具体的には、例えばIFN−αまたはIFN−βなどのI型IFN受容体リガンドを投与することができる。被検化合物を含む試料としては特に制限はなく、例えば、合成低分子化合物のライブラリー、精製タンパク質、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成ペプチドのライブラリー、細胞抽出液、細胞培養上清などが挙げられる。
本発明の検出方法を用いれば、(1)破骨細胞形成、(2)RANKシグナル伝達、(3)c−Fos蛋白質レベルもしくはその機能、または(4)骨吸収を調節する化合物のスクリーニングを行うことができる。このスクリーニング方法は、
(a)被検化合物を含む試料の存在下、破骨細胞形成を誘導し得る条件で破骨細胞前駆細胞におけるI型IFNシグナル伝達を促進する工程、
(b)(1)破骨細胞形成、(2)RANKシグナル伝達、(3)c−Fos蛋白質レベルもしくはその機能、または(4)骨吸収を検出する工程、
(c)対照の条件下と比べ、該(1)破骨細胞形成、(2)RANKシグナル伝達、(3)c−Fos蛋白質レベルもしくはその機能、または(4)骨吸収を調節する化合物を選択する工程、を含む方法である。
上記の検出方法と同様に、「破骨細胞を誘導し得る条件」とは、I型IFNシグナル伝達が活性化されなければ、破骨細胞形成が誘導される条件を指す。このような条件とは、例えば破骨細胞前駆細胞においてRANKシグナル伝達を促進する条件である。また、このスクリーニング方法は、上記の検出方法と同様に、I型IFNシグナル伝達による(1)破骨細胞形成、(2)RANKシグナル伝達、(3)c−Fos蛋白質レベルもしくはその機能、または(4)骨吸収、の抑制作用を上昇または低下させる化合物をスクリーニングするために利用できる。
対照の条件としては特に制限はないが、例えば被検化合物を含む試料の非存在下における場合が挙げられる。すなわち、上記の工程(c)において、被検化合物を含む試料の非存在下における場合と比べ、該(1)破骨細胞形成、(2)RANKシグナル伝達、(3)c−Fos蛋白質レベルもしくはその機能、または(4)骨吸収を上昇または低下させる化合物を選択することにより、これらを調節する化合物を得ることができる。また、対照の条件としては、破骨細胞形成、RANKシグナル伝達、c−Fos蛋白質レベルもしくはその機能、または骨吸収を調節し得る他の化合物の存在下における場合を挙げることもできる。このような態様も、工程(a)における被検化合物を含む試料の非存在下における場合に含まれる。この場合、上記の工程(c)において、対照の化合物の存在下における場合と比べ、該(1)破骨細胞形成、(2)RANKシグナル伝達、(3)c−Fos蛋白質レベルもしくはその機能、または(4)骨吸収を上昇または低下させる化合物を選択する。このようなスクリーニングにおいては、ある化合物に比べより高い効果を有する化合物を得ることができる。また、工程(c)において、工程(a)よりも低い用量の被検化合物を用いた場合を挙げることもできる。これにより化合物の用量依存性が明らかとなる。
本発明の検出方法およびスクリーニング方法は、例えば実施例1に記載したような破骨細胞形成のin vitroアッセイ系を用いて行うことができる。具体的には、例えば、非接触性骨髄細胞(24穴プレートの1ウェル当たり5×105細胞)を10ng/mlのM−CSFを含むα最小必須培地(α−MEM)で2日間培養し、100ng/mlの可溶性RANKL、10ng/mlのM−CSF、さらに適当な濃度のIFN−αまたはIFN−βの存在下でさらに3日間培養して破骨細胞を形成させる系を利用できる。ここに被検化合物を含む試料を添加して培養する。また、in vivoの系であれば、例えば実施例で用いたようなエンドトキシン誘導性骨吸収動物モデルを用いた系が挙げられる。
破骨細胞形成は、例えば文献(Yasuda,H.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95,3597−602(1998))に従って観察することがでる。具体的には、例えば個体であれば、骨切片を作成して骨吸収を観察することができる。また、顕微鏡観察により多核巨細胞を同定したり、TRAP染色や、カルシトニン受容体またはヴィトロネクチン受容体の発現の検出などの公知の検出法により、in vivoおよびin vitro両方で破骨細胞形成を検出することができる。RANKシグナル伝達であれば、例えばNF−κBやJNKの活性化などを実施例に記載の方法等により検出することができる。また、c−Fos蛋白質レベルであれば、イムノブロットや免疫沈降、ELISA等によりc−Fos蛋白質を検出することができる。c−Fos蛋白質の機能であれば、例えばfra−1やfra−2の発現を、ノーザンブロットやRT−PCR、イムノブロットなどによりRNAレベルまたは蛋白質レベルで検出することができる他、c−Fos蛋白質を介する下流のシグナル伝達の活性化を検出することによって評価することもできる。骨吸収であれば、例えば象牙切片上での骨吸収活性を公知の方法により検出することができる。
この検出の結果、被検化合物を含む試料の添加により、対照の条件下(例えば試料非存在下で検出した場合など)と比較して(1)破骨細胞形成、(2)RANKシグナル伝達、(3)c−Fos蛋白質レベルもしくはその機能、または(4)骨吸収が有意に促進または抑制されていれば、用いた被検試料はI型IFNシグナル伝達によるこれらの制御を調節する化合物の候補となる。このスクリーニング方法により単離される化合物は、破骨細胞形成を制御するために有用であり、骨代謝疾患の予防薬や治療薬の開発の上でも有用である。
スクリーニングにより選択された医薬候補化合物は、上記本発明の検査方法を用いて、臨床適用のための詳細な投与条件を決定することができる。すなわち、上記検査方法を用いて投与量、投与間隔、投与ルートを含む投与条件を検討し、適切な予防または治療効果を得られる条件を決定することができる。同様に、I型IFN受容体リガンドの臨床適用のための詳細な投与条件を決定するには、(a)破骨細胞形成を誘導し得る条件で破骨細胞前駆細胞にI型IFN受容体リガンドを接触させる工程工程、(b)(1)破骨細胞形成、(2)RANKシグナル伝達、(3)c−Fos蛋白質レベルもしくはその機能、または(4)骨吸収を検出する工程、を含むI型IFN受容体リガンドの効果を検出する方法を用いることができる。具体的には、本明細書に記載された方法を利用して実施することができる。
また、本発明は、I型IFN受容体リガンド、または該リガンドを発現するベクターを含む、破骨細胞形成シグナルの制御に用いられる薬剤に関する。本発明は、I型IFN受容体リガンド、または該リガンドを発現するベクターを含む、以下の薬剤を提供する。
(a)破骨細胞形成抑制剤
(b)RANKLシグナル伝達抑制剤
(c)c−Fos抑制剤
(d)骨破壊抑制剤
I型IFN受容体リガンド、および該リガンドを発現するベクターは、先に記載したものを用いることができる。本発明において薬剤には、試薬および医薬が含まれる。これらの薬剤は、リガンドやベクター自体を用いる他、滅菌水、生理食塩水、緩衝剤、塩、安定剤、保存剤、界面活性剤、他の蛋白質(BSAなど)、トランスフェクション試薬(リポフェクション試薬、リポソーム等を含む)等と適宜組み合わせて組成物としてもよい。これらは混ぜ合わさっていてもよく、使用時に混合されるまで分離されていてもよい。本発明の薬剤は、破骨細胞形成を抑制する作用を有すること、RANKLシグナル伝達を抑制する作用を有すること、c−Fos蛋白質の発現またはその活性を抑制する作用を有すること、または骨破壊抑制を抑制する作用を有することが、該薬剤の容器、包装箱、または添付される説明書等に記載されているか、あるいは該薬剤に関連付けられていることが好ましい。関連付けられているとは、該薬剤、その容器、包装箱、または添付される説明書等から、該薬剤が上記作用を有するという情報を直接的または間接的に入手可能であることを言う。例えばこれらの薬剤の作用または用途が別途発行される印刷物に記載されていたり、あるいはウェブ上に開示されている場合などが含まれる。本発明の薬剤は、培養細胞系や個体に適用することができる。対象となる個体は、ヒト、サル、マウス、ラット、ウサギなどの哺乳動物、およびその他の脊椎動物が挙げられる。特に、I型IFN受容体リガンド、または該リガンドを発現するベクターを含む本発明の医薬組成物は、ヒト骨破壊疾患に対する予防薬および治療薬として有用である。
I型IFN受容体リガンド、該リガンドを発現するベクター、または上記薬剤を医薬組成物として用いる場合は、リガンドやベクター自体を直接患者や個体に投与する以外に、公知の製剤学的方法により製剤化することも可能である。例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、徐放剤などと適宜組み合わせて製剤化して投与することが考えられる。医薬組成物は、水溶液、錠剤、カプセル、トローチ、バッカル錠、エリキシル、懸濁液、シロップ、点鼻液、または吸入液などの形態であり得る。組成物におけるリガンドやベクターの含有率は適宜決定すればよい。
患者への投与は、有効成分の性質に応じて、例えば経皮的、鼻腔内的、経気管支的、筋内的、腹腔内、静脈内、関節内、皮下、脊髄腔内、脳室内、または経口的に行われうるがそれらに限定されない。また、全身的または局所的に投与され得る。IFN等の薬剤の投与による全身的な副作用が問題となる場合には、局所投与により投与量を抑えることができる。投与量、投与方法は、医薬組成物の有効成分の組織移行性、治療目的、患者の体重や年齢、症状などにより変動するが、当業者であれば適宜選択することが可能である。実施例に示すように、in vitro系において1U/mlのIFN−βが破骨細胞形成をほぼ完全に抑制した。また、IFN−αにおいては10U/mlの濃度において、IFN−α非存在下に比べ破骨細胞形成を約1/10に抑制した。例えばin vivoにおいても、標的とする破骨細胞前駆細胞周辺で、このような有効濃度を維持できるように薬剤の投与量を決定することができる。投与は1回から数回に分けて行うことができる。
本発明の医薬組成物は、特に炎症性骨吸収および炎症性骨破壊の防止に有用である。「炎症性骨吸収および骨破壊」とは、炎症を伴う骨吸収および骨破壊を言う。例えば関節炎においては、滑膜に含まれる滑膜マクロファージからの破骨細胞形成が促進され、パンヌスが骨へと侵入する前線領域で活発な骨吸収が起こっている。特に慢性関節炎においては、この骨吸収により長期的な関節破壊が進行する。本発明の医薬組成物を投与することにより、この病的骨吸収を抑制することができる。このような炎症症骨吸収を伴う関節炎としては、特に慢性関節リウマチ(rheumatoid arthritis;RA)を含む自己免疫性関節炎が挙げられる。慢性関節リウマチは、自己免疫性の慢性炎症性疾患であり、増殖した滑膜が活発に骨軟骨へと侵入し、多発性の関節破壊をもたらす。本発明の医薬組成物は、この関節炎性骨破壊を防止するために好適に用いられる。また、本発明の医薬組成物が適用され得る他の炎症性骨吸収としては、歯周病が挙げられる。
また、本発明の医薬組成物は、巨細胞腫、癌骨転移、および色素性絨毛結節滑膜炎(pigmented villonodular synovitis;PVS)を含む、破骨細胞による骨吸収亢進を病態とする様々な疾患に対しても適用され得る。また、骨粗鬆症および癌の高カルシウム血症の治療への適用も期待される。さらに、Paget病、肝炎やエイズに伴う骨量減少、白血病や多発性骨髄腫に伴う骨吸収・骨破壊、人工関節周囲の骨吸収(ルースニング)に対する予防および治療にも適用され得る。本発明の医薬組成物は、該組成物が上記に示した疾患の少なくとも1つに対して適用できることがその容器、包装箱、または添付される説明書等に記載されているか、あるいは該組成物に関連付けられていることが好ましい。本発明により、破骨細胞の形成および機能の制御による新たな治療介入が可能となる。
発明を実施するための最良の形態
以下実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、本明細書において引用された文献は、全て本明細書の一部として組込まれる。
実験に用いたIFN−γR−/−マウス、IRF−1−/−マウス、およびIRF−9−/−マウスの作製は以前記載されている(Huang,S.et al.,Science 259,1742−5(1993);Matsuyama,T.et al.,Cell 75,83−97(1993);Kimura,T.et al.,Genes Cells 1,115−124(1996))。IFNAR1−/−マウスの作製は文献(Muller,U.et al.,Science 264(5167):1918−21,1994)に記載されている。IFN−β−/−マウスの作製は、文献(Takaoka,A.et al.,Science 288,2357−2360(2000))に記載されている。これらのマウスは、C57BL/6のバックグランドで維持した。これらの変異マウスと遺伝的に同一のバックグランドを持つC57BL/6マウスを野生型コントロールとして用いた。Stat1−/−マウス(Meraz,M.A.et al.,Cell 84,431−42(1996))はTaconic社から購入した。PKR−/−マウスの作製は文献(Yang,Y.L.et al.,EMBO J.14,6095−6106(1995))に記載されている。Fos−/−マウスの作製は文献(Wang,Z.Q.et al.,Nature 360,741−745(1992))に記載されている。IRF−3/IRF−9−/−マウスの作製は文献(Sato,M.et al.,Immunity 13,539−548(2000))に記載されている。全てのマウスは、病原体除去条件下で産仔、維持した。
[実施例1] 破骨細胞形成に対するI型IFNの効果
I型IFN(IFN−αおよびIFN−β)の破骨細胞形成に対する効果を、野生型マウス由来の骨髄単球・マクロファージ系前駆細胞(bone marrow monocyte/macrophage precursor cells;BMMs)を用いて調べた。
in vitro破骨細胞形成を観察するため、非接触性骨髄細胞(24穴プレートの1ウェル当たり5×105細胞)を10ng/mlのM−CSF(R&D社)を含むα−最小必須培地(α−MEM)で2日間培養し、BMMとして用いた。これらのBMMは100ng/mlの可溶性RANKL(Peprotech社)および10ng/mlのM−CSFの存在下でさらに3日間培養し破骨細胞を形成させた。多核細胞の観察は以前記載したように行った(Yasuda,H.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95,3597−602(1998))。培地は48時間おきに交換した。このアッセイ系に、組み換えマウスIFN−αおよび組み換えマウスIFN−βを添加しその効果を検証した。組み換えIFN−α/βの添加は、BMM培養へのRANKLの添加と同時に行った。
図1に示したように、IFN−αまたはIFN−βの添加は破骨細胞形成に対し強い阻害効果を示した。さらに、IFN−γR、Stat1、またはIRF−1を欠損したマウス由来のBMMにおける破骨細胞形成に対するI型IFN(IFN−αおよびIFN−β)の効果を検証した。その結果、RANKLにより誘導される破骨細胞形成のI型IFNによる阻害には、Stat1を介し、IRF−1に非依存的な遺伝子誘導経路が重要であることが示された(図1)。
[実施例2] I型IFN受容体欠損マウスにおける骨格系の評価
骨ホメオスタシスの制御におけるIFN−α/βの生理学的な役割を調べるため、IFN−α/βの受容体成分の1つを欠損したマウス(INFAR1−/−マウス)の骨格系の評価を行った。INFAR1−/−マウスでは、厳密な病原体除去条件下で海綿骨梁(trabecular bone)の骨量の著しい減少が観察された(図2a)。また、野生型マウスに比べ、INFAR1−/−マウスの骨では破骨細胞マーカーであるTRAPに陽性の多核細胞(TRAP+ MNC)が顕著に増加していた(図2b)。さらに骨の形態計測学的解析からも、海綿骨梁の骨量の有意な減少が明らかとなった(図3a)。これには破骨細胞による骨吸収の亢進を伴っていたが、骨芽細胞による骨形成のマーカーに顕著な違いはなかった。これらの結果は、破骨細胞による骨吸収を負に調節することを通して正常な骨量を維持するために、IFN−α/βシグナル伝達は生理学的に必須であることを示唆している。INFAR1−/−マウス由来の骨髄単球・マクロファージ系前駆細胞(bone marrow monocyte/macrophage precursor cells;BMMs)においても、RANKL/M−CSFによるin vitro破骨細胞形成の誘導が亢進している(図3b)ことから、破骨細胞形成の亢進はストローマ細胞ではなく、BMMsに依存することが示唆された。これに一致して、野生型(WT)由来のBMMsを用いた場合、BMMsと骨芽細胞との共培養における破骨細胞形成は、骨芽細胞がどちらに由来するものであっても違いは見られなかった(データ省略)。さらに、頭蓋骨の細胞における骨芽細胞分化をALP活性およびアリザリンレッド染色により評価したが、INFAR1−/−とWTとの間で違いはなかった(図3c)。インビトロで得られたこれらの結果は、上記のインビボにおける観察と一致しており、INFAR1−/−マウスにおける破骨細胞形成の増強は、BMMの細胞自律性の異常によることを示唆している。
[実施例3] RANKLによるIFN−β遺伝子の誘導
上記の知見は、IFN−α/β系は破骨細胞形成のネガティブフィードバック調節に必須であり、またRANKLはBMMにおけるIFN−α/β遺伝子の発現を誘導し得ることを示唆している。そこで、半定量的RT−PCRによりIFN−β mRNAの発現を観察した。M−CSF存在下で2日間BMMを培養後、RANKLで2または24時間刺激した。文献(Hida,S.et al.,Immunity 13:643−655,2000)に従ってRNAを抽出し、半定量的RT−PCRを行った。PCR産物はシークエンスを行ってIFN−β cDNAの増幅を確認した。定量的RT−PCRはLightCyclerとSyberGreen system(Roche)を用いて行った。RT−PCRにより、RANKLで刺激したBMMsでIFN−β mRNAの誘導が検出されたことから(図4a)、オートクラインに産生される因子であるIFN−βが、RANKLシグナル伝達のネガティブフィードバック調節因子であることが示唆される。しかし、同じ条件でIFN−α mRNAの誘導は見られなかったことから、これらの2つのIFNのサブタイプは抗ウイルス作用が共通するにも関わらず、IFN−βが選択的に破骨細胞形成に関与していることを示唆している。そこで、IFN−βが欠失したマウス(IFN−β−/−マウス)の骨格系を調べた。図4bに示したように、INFAR1−/−マウスと同様、これらのマウスはやはり破骨細胞形成の増強による重篤な骨減少症を発症したことから、RANKLにより誘導されるIFN−βが骨ホメオスタシスに必須の役割を果たすことが示された。INFAR1−/−マウスと同様、IFN−β−/−マウスの骨芽細胞性骨形成には異常はみられなかった。
[実施例4] I型IFNによる破骨細胞形成抑制機構の解析
in vitro破骨細胞形成におけるI型IFNの効果を調べた。in vitro破骨細胞形成は実施例1と同様にして行った。具体的には、非接触性骨髄細胞(24穴プレートの1ウェル当たり5×105細胞)を10ng/mlのM−CSF(R&D)を含むα−MEMで2日間培養し、BMMとして用いた。これらのBMMは100ng/mlの可溶性RANKL(Peprotech社)および10ng/mlのM−CSFの存在下でさらに培養し破骨細胞を形成させた。RANKLおよびM−CSFはこの実験においてこれらの濃度に固定して用いた。組み換えマウスIFN−βの添加は、BMM培養へのRANKLの添加と同時に行った。3日後にTRAP+多核細胞(TRAP+ MNCs)(3核より多い細胞)を計数した。全てのデータは平均±S.E.(n=6)で表した。TRAP+ MNCsは象牙質切片の骨吸収活性およびカルシトニン受容体の発現を調べて解析した。生体外(ex vivo)破骨細胞培養は以前記載したように行った(Ogata,N.et al.,J.Clin.Invest.105:935−943(2000))。
組み換えマウスIFN−βの破骨細胞形成に対する顕著な阻害効果が、RANKL/M−CSFで誘導されるBMMsからの破骨細胞形成(図5a)、およびRANKLで誘導されるRAW264.7細胞からの破骨細胞形成(データ省略)において観察されたことから、IFN−βはRANKLシグナル伝達を妨害することが示された。M−CSFの存在下、RANKLで誘導されるBMMからの破骨細胞形成に対する著明な阻害効果が、わずか1U/mlの濃度のIFN−βで観察された。この濃度では、M−CSFにより誘導される細胞増殖に対する効果はほとんどまたは全く見られなかった。IFN−β(およびIFN−αも同様)はそのレセプター複合体に結合し、ISGF3[Stat1、Stat2、およびIRF−9からなるヘテロ三量体複合体]、GAF/AAF(Stat1ホモダイマー)、およびIRF−1を含む転写因子の活性化および誘導を通して細胞応答を引き起こす(Stark,G.R.et al.,Annu.Rev.Biochem.67,227−246(1998))。IFN−βによる破骨細胞形成の阻害効果は、IFNAR1−/−マウス、Stat1−/−マウス、およびIRF−9−/−マウスでは失われたが、IRF−1−/−マウスでは認められた(図1および5b,c)。これらの知見は、IFN−βによる破骨細胞形成の阻害には、IFNAR1およびStat1に加え、IRF−9が必要であることを示し、この阻害作用がISGF3を介した遺伝子誘導経路と関連していることを示している。
[実施例5] I型IFNによる破骨細胞形成抑制機構の解析
大理石骨病の表現型を示す遺伝子改変マウスにより、RANKL、そのレセプターであるRANK、TRAF6、NF−κB成分であるp50/p52、およびAP−1成分であるc−Fosを含む破骨細胞形成に必須な分子が明らかとなっている。RANKLがRANKに結合すると、TRAF6が動員され、これがNF−κB経路およびJNK経路を活性化する。RANKLがどのようにc−Fos経路を活性化するのかは知られていないが、c−fos−/−マウスにおける大理石骨病は、c−Fosの転写標的であるFra−1の過剰発現によりレスキューできることから、Fosファミリー蛋白質もまた、破骨細胞形成に本質的な役割を果たしている可能性が示唆される。破骨細胞形成におけるIFN−βによる阻害の標的を調べるため、IFN−β処理したBMMsにおいて、RANKL誘導性のNF−κBおよびJNKの活性化を試験した。
RANKL(100ng/ml)で刺激し、同時にIFN−β(100U/ml)の存在下または非存在下で24時間プレインキュベートしたBMMsから細胞抽出液を調製し、IFN−βプロモーターのNF−κB結合部位を含むオリゴヌクレオチドプローブを用いて以前に記載した通りにEMSA(electrophoretic mobility shift assay)により解析した(Lomaga,M.A.et al.,Genes Dev.13,1015−24(1999))。抗Rel A抗体(Santa Cruz社)によりスーパーシフトを行った。またJNKアッセイのため、RANKLで刺激し、同時にIFN−β(100U/ml)の存在下または非存在下で24時間プレインキュベートしたBMMから細胞抽出液を調製し、抗リン酸化JNK抗体および抗JNK抗体(New England Biomeds社)を用いたイムノブロットにより解析した。
さらに破骨細胞形成におけるRANKLシグナル伝達の下流の分子の発現を評価するため、RANKL添加後24時間おきに、BMMの全細胞溶解物をRANK,TRAF6,TAK1,RelA,c−Fos,Fra−1,Fra−2,c−Jun(以上Santa Cruz社),およびリン酸化c−Jun(New England Biomeds)特異抗体を用いたイムノブロッティングにより解析した。
EMSAおよびイムノブロッティングにより、NF−κBおよびJNK経路の活性化はIFN−βによって障害されないことが示された(図6aおよび6b)。RANKLシグナル伝達経路の下流のエフェクター分子をイムノブロットにより解析したところ、c−Fos以外の分子の発現は影響されないが、IFN−βによりc−Fos蛋白質の発現が特異的にダウンレギュレートされることが判明した(図6c)。TRAF6の発現が正常であることは、この下流の分子であるNF−κBやJNKの活性化が正常に誘導されたという上記のEMSAおよびイムノブロット解析の結果と合致している。
さらに、破骨細胞形成時における様々なAP−1成分のmRNAレベルをRNAプロテクションアッセイにより調べた。RNAプロテクションアッセイは、RANKL添加後24時間おきにBMMから全RNAを抽出し、RNA protection assay kit(Pharmingen社)を用いて添付の説明書に従って解析した。興味深いことに、RANKLによるc−Fos mRNAの誘導は、IFN−βにより有意に変化しなかった(図7a)。このことは、c−Fosの蛋白質レベルは転写後制御を受けることを示唆している。IFN−βによるc−Fos蛋白質のダウンレギュレーションは、Fra−1およびFra−2 mRNA発現の低下を伴っていた(図7b)。Fra−1はc−Fosの制御下にあることが報告されているが、本実験の結果はFra−2 mRNA発現もまた、c−Fosに依存していることを示唆している。期待される通り、Fra−1およびFra−2蛋白質発現も著しくダウンレギュレートされていることがイムノブロッティングにより判明した(図7c)。
IFN−βによるc−Fos抑制機構を解析するため、パルス−チェイス実験によりc−Fos蛋白質の合成を調べた。RANKLの存在下、IFN−β(100U/ml)の存在下または非存在下で48時間BMMをプレインキュベートした。このBMMを、10%の透析ウシ胎児血清を含むメチオニン不含のダルベッコ改変イーグル培地中、100μCi/mlの[35S]メチオニンと共に30分間インキュベートした。標識された培地を除き、全細胞抽出液を調製した。c−Fosに対するポリクローナル抗体(Santa Cruz)またはβ−アクチンに対するポリクローナル抗体(Sigma)を用いて免疫沈降を行い、SDS−PAGEおよびオートラジオグラフィーを実施した。図8aに示したように、RANKLで刺激したBMMにおいて、IFN−βはc−Fos蛋白質合成を阻害することが判明した。
上記の結果からは、IFN−βの作用はISGF3を介し、さらにc−Fos合成の阻害を介していることを示している。このことから、メディエーターの候補の1つとしてdsRNA−activated protein kinase(PKR)が考えられる。PKR遺伝子はIFN−βによりISGF3の活性化を介して誘導され、PKRは、蛋白質合成のイニシエーション因子の1つであるeIF2αのリン酸化による蛋白質合成の阻害に関与している(Thomis,D.C.& Samuel,C.E.,J.Virol.67,7695−7700(1993);Samuel,C.E.,J.Biol.Chem.268,7603−7606(1993))。そこで、PKRを欠失したマウス(PKR−/−マウス)由来のBMMにおいてRANKLで誘導される破骨細胞形成に対するIFN−βの阻害効果を調べた(図8b)。その結果、PKRは一定の役割を果たしているものの、明らかにIFN−βの他の標的が存在していることが示され、それらの標的もまた、このシグナル伝達のクロストークに関わっていると予想された。
Fos蛋白質の発現が、IFN−βによる破骨細胞形成の阻害の原因であるかを決定するため、c−fos、fra−1、およびfra−2 cDNAを持つレトロウイルスベクター(それぞれpBabe−c−fos、pBabe−fra−1、およびpBabe−fra−2)をBMMsに感染させた。
pBabe−c−fos、pBabe−fra−1、pBabe−fra−2、およびpBabe−c−junの作製は以前記載されている(Matsuo,K.et al.,Nat.Genet.24:184−187,2000)。レトロウイルスのパッケージングは、これらのプラスミドとpPAMpsi2(Sato,M.et al.,FEBS Lett.441:106−110(1998))を293T細胞にコトランスフェクトすることにより行った。感染の2日後にRANKL(100ng/ml)/M−CSF(10ng/ml)およびIFN−β(10U/ml)をBMMに添加し、破骨細胞形成のアッセイを行った。RANKL添加の3日後に、TRAP染色および骨吸収アッセイ(Yasuda,H.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95,3597−602(1998))により破骨細胞形成を評価した。pBabe−c−fosから得たマウスFos遺伝子のBamHI/EcoRI断片が挿入されたpMX−c−fos−IRES−EGFPを構築し、トランスフェクション効率を決定するために用いた。
IFN−βによる分化抑止は、これらのいずれのウイルスによっても有意に減少したが、コントロールベクター(pBabe−IRES−EGFP)またはc−junウイルス(pBabe−c−jun)(図9および10)、さらにはTRAF6ウイルス(pMX−TRAF6−IRES−EGFP)(データ省略)では減少しなかった。これらの結果を合わせると、破骨細胞形成のIFN−βによる阻害において、c−Fosは重要なターゲットであることが示される。
[実施例6] RANKLによるIFN−β誘導におけるc−Fosの必要性
ウイルスが感染した細胞におけるIFN−αおよびIFN−βの誘導には、2つのIRF転写因子、すなわちIRF−3とIRF−7が必要であることがよく知られている(Wathelet,M.G.et al.,Mol.Cell 1,507−518(1998))。またIFN−βはNF−κBに依存することも知られている(Wathelet,M.G.et al.,Mol.Cell 1,507−518(1998))。しかしながら、上記のように、IFNで誘導される遺伝子群の誘導は、c−Fosを欠失した破骨細胞前駆細胞では観察されなかったことから、c−Fosには、RANKLのIFN−β遺伝子誘導に参与するという、これまで知られていなかった機能があることが示唆される。これをさらに調べるため、c−Fos欠失マウス(Fos−/−マウス)、あるいはIRF−3およびIRF−9の両方を欠失するマウス(IRF−3/IRF−9−/−マウス;IRF−9が欠損するとIRF−7の発現も喪失する)由来の破骨細胞前駆細胞におけるRANKLで誘導されるIFN−β mRNA発現を解析した。Fos−/−マウスの単球/マクロファージ系前駆細胞は脾臓から回収し、文献(Matsuo,K.et al.,Nat.Genet.24:184−187,2000)に従って培養した。IRF−3/IRF−9−/−マウスの脾細胞はウイルスによるIFN−β遺伝子の誘導は全く欠損するが、同じ欠損がBMMにおいても見られた(データ省略)。
興味深いことに、IRF−3/IRF−9−/−マウス由来の破骨細胞前駆細胞では、RANKLによるIFN−β mRNAの誘導は検出されたが、Fos−/−マウス由来の細胞では観察されなかった(図11a)。一方、ウイルスによるIFN−β遺伝子誘導は、Fos−/−マウス由来の脾細胞では影響されなかった(データ省略)。これらの知見は、RANKLによるIFN−β遺伝子の誘導は、ウイルス感染によるものとはそのメカニズムも生物学的機能も異なっていることを示唆している。IFN−β mRNA誘導の機構をさらに調べるため、IFN−βプロモーターにより誘導されるルシフェラーゼレポーター遺伝子(p125Mu−Luc)(Sato,M.et al.,Immunity 13,539−548(2000))をRAW264.7細胞にトランスフェクションすることにより、RANKLによるIFN−βプロモーターの活性化を調べた。トランスフェクション後、RAW264.7細胞はRANKLで42時間刺激した。ルシフェラーゼアッセイはトランスフェクションの48時間後に行った。全てのデータは平均±s.e.(n=4)で示した。図11bに示したように、トランスフェクトした細胞をRANKLで刺激すると、ルシフェラーゼ活性が有意に上昇した。興味深いことに、RANKL刺激の代わりにc−Fosを異所発現させた場合でも、同様の誘導が観察された(図11b)。さらにこの誘導は、このプロモーター中でc−Jun/ATF−2が結合することが知られているc−Fos結合部位(Falvo,J.V.et al.,Mol.Cell.Biol.20,4814−4825(2000))を変異させると失われた(p125Mu−Luc−mt)(図11b)。これらの結果は、RANKLシグナルは、IRFではなく、c−Fosを介してIFN−β遺伝子の転写を誘導することを示唆している。なお、P125Mu−Luc−mtは、IFN−β遺伝子プロモーターの予想されるc−Fos結合部位に変異を導入して作製した(−95TGACAGA−89→TCTGTCA)。
[実施例7] 骨疾患モデルにおけるI型IFNの治療効果
炎症性骨破壊のエンドトキシン誘導モデルを用いて、IFN−βの局所注入の治療効果を調べた。7〜8週齢のマウス(n=20)の頭蓋冠に、リポ多糖(LPS)(Sigma社)を25mg/kg−体重で局所投与した。LPS注入と同じ部位に、続く4日間にわたって組み換えマウスIFN−β(10000U/day)(n=10)または対照の生理食塩水(n=10)を皮下投与した。LPS注入の5日後に、以前の記載に従って海綿骨梁の骨面のミリメートルあたりの破骨細胞数、および破骨細胞で覆われた骨面(侵食面)の割合を解析した(Chiang,C.Y.et al.,Infect.Immun.67,4231−6(1999))。
炎症部位へのIFN−β投与を毎日行った結果、破骨細胞形成および骨吸収が顕著に阻害された(図12)。これは、IFN−βの外来適用が実際に骨破壊に対して有効であることを示しており、骨破壊疾患におけるIFN−βの臨床適用の可能性を示唆している。IFN−βは既に数種のヒト癌および多発性硬化症などの自己免疫疾患に対して適用が行われている。骨破壊は、複数の骨髄腫および転移性骨癌を含む腫瘍、並びに自己免疫性関節炎などの炎症状態にしばしば付随していることから、それぞれの疾患状態における効果を注意深く評価する必要はあるものの、IFN−βは癌や関節炎で誘導される骨破壊に対する治療に特に効果を有する可能性がある。骨破壊部位へのIFN−α/βの局所送達は投与量を低く抑えることができるため、副作用を低減することが可能である。
[実施例8] ヒト破骨細胞形成におけるI型IFNの効果
マウス破骨細胞形成における組み換えマウスIFN−βの強い抑制効果が、in vitroおよびin vivoにおいて見出されたことから、本発明者らはヒト破骨細胞形成における組み換えIFN−βの効果を確認した。まず、RANKLおよびM−CSFで刺激したヒト末梢血単核細胞からのin vitro破骨細胞形成におけるIFN−βの効果を調べた。健常者から末梢血を採取し、RPMI 1640で1:1に希釈し、フィコール/プラークに重層して400gで30分間遠心した。単離した末梢血単核細胞(106細胞/ウェル)を24ウェルのマルチウェルプレートに加えた。これらの細胞は20%ウマ血清を含むα−MEM中、100ng/ml RANKL(Peprotech)および10ng/ml M−CSF(R&D)の存在下、かつ組み換えヒトIFN−β(Peprotech)の存在下または非存在下で10日間培養した。その結果、ヒト破骨細胞形成に対し、マウスの場合と同様のIFN−βの強い抑制効果が観察された(図13a)。
ヒト疾患における病的骨吸収に対するIFN−βの有益な効果を示すため、慢性関節リウマチ患者由来の培養滑膜細胞からのin vitro破骨細胞形成の系を利用した。この系は、リウマチ滑膜(rheumatoid synovium)で観察される病的破骨細胞形成のex vivoモデルである(Takayanagi,H.et al.Arthritis Rheum.,43,259(2000))。滑膜組織を切り離し、1mg/mlコラゲナーゼ(Wako pure chemicals,Osaka,Japan)および0.15mg/ml DNaseI(Sigma,St.Louis,MO)を含むRPMI 1640を20倍の容量加えて混合し、振盪しながら37℃で90分間インキュベートした。細胞懸濁液を70mmのcell strainerを通して濾過した。細胞は、最終的に20%ウマ血清(Gibco BRL)を含むα−MEM中に懸濁した。単離した滑膜細胞(106細胞/ウェル)は24ウェルのマルチウェルプレートに撒き、1,25−dihydroxyvitamin D3[1,25(OH)2D3](10−7M)(Teijin Co.)および2ng/ml組み換えヒトM−CSF(Sigma)の存在下、かつ組み換えヒトIFN−βの存在下または非存在下で20日間培養した。3日おきに、培地の半分を交換した。このex vivo破骨細胞形成モデルにおいて、組み換えIFN−βの強い抑制効果が見出された(図13b)ことから、慢性関節リウマチなどのヒト疾患で見られる破骨細胞性の骨破壊に対して、IFN−βは有益な効果を有していることが示された。従って、IFN−α/βを局所的または全身的に適用することは、ヒト骨疾患における骨吸収を抑制するための新たな戦略となることが示唆される。
産業上の利用の可能性
本発明は、これまで知られていなかったIFN−α/βと骨のホメオスタシス、すなわち破骨細胞形成の抑制による骨量の維持との間の結びつきを明らかにした。ジーンターゲティングによりIFNAR1を破壊すると、破骨細胞形成が増強され全身性の骨粗鬆症を引き起こす。これは、元来、抗ウイルス応答に関してその効果が確立されたこれらのサイトカインの恒常的発現における生理機能の興味深い一例である。本発明により、I型IFNシグナルを介して破骨細胞形成を抑制する方法が提供された。本発明の方法によれば、IFN−αまたはIFN−βの投与などのI型IFNシグナル伝達の活性化により、破骨細胞形成を抑制することが可能となる。破骨細胞形成を制御することにより、異常な骨代謝を制御することができる。本発明の方法は、自己免疫性関節炎を含む、病的骨破壊を伴う疾患を予防または治療するために有用である。
IFN−α/βの外からの添加は、in vitroおよびin vivoの両者において、破骨細胞形成を顕著に抑制する効果を有していたことから、骨破壊疾患に対する臨床適用の可能性が強く示唆される。また、破骨細胞形成に必須であるc−Fosの蛋白質レベルを、IFN−βがダウンレギュレートすることを明らかにすることにより、本発明者らはこの抑制効果の分子基盤を提供した。骨疾患の治療へのIFN−α/βの新たな可能性に加え、本発明はまた、Fos(ファミリー)蛋白質の発現または機能を阻害する方法が、破骨細胞を抑制する創薬の際の1つの代替戦略ともなることを示唆している。
【図面の簡単な説明】
図1は、野生型マウス、あるいはIFN−γR、Stat1、またはIRF−1欠損マウス由来のBMMの破骨細胞形成におけるIFN−αおよびIFN−βの効果を示す図である。それぞれのマウスに由来するBMMの破骨細胞形成におけるIFN−αおよびIFN−βの効果を、RANKL(100ng/ml)およびM−CSF(10ng/ml)の存在下で調べた。破骨細胞数(%)は、IFN−αまたはIFN−β処理した培養中でのTRAP+多核細胞数を、IFN−α/βを含まないコントロールの培養中での数で除して求めた。
図2は、I型IFN受容体欠損マウス(IFNAR1−/−マウス)における骨格系の評価を示す写真である。マイクロX線撮影解析は、本質的に以前の記載(Bucay,N.et al.,Genes Dev.12:1260−1268(1998);Ogata,N.et al.,J.Clin.Invest.105:935−943(2000))に従って行った。
a,IFN−α/βシグナル伝達欠損マウスの骨表現型の解析。IFNAR1−/−マウス脛骨の組織学的および放射線学的解析を示す。12週齢のIFNAR1−/−マウスの骨幹端領域の縦断切片(トルイジンブルー染色)および横断切片(マイクロCT[微細コンピューター断層撮影])において、海綿骨梁(trabecular bone)の骨量の減少が明白に認められた。24週齢においても同程度の骨量の減少が観察された。
b,IFNAR1−/−マウスの増殖板(growth plate)の下のTRAP+MNC(赤く染色)数の増加。
図3は、I型IFN受容体欠損マウス(IFNAR1−/−マウス)における骨格系の評価を示す図および写真である。組織形態計測学的解析は、本質的に以前の記載(Bucay,N.et al.,Genes Dev.12:1260−1268(1998);Ogata,N.et al.,J.Clin.Invest.105:935−943(2000))に従って行った。
a,IFNAR1−/−マウスの組織形態計測学的解析を示す(n=6,データは平均±S.E.で示した)。海綿骨梁の骨量(BV/TV)の有意な減少が示され、破骨細胞による骨吸収の増強を示す指標を伴っていた(骨周囲あたりの破骨細胞数[N.Oc/B.Pm]、骨面あたりの破骨細胞面[Oc.S/BS])、侵食面[ES/BS])。しかしながら、骨芽細胞による骨形成のマーカーに変化はなかった(骨芽細胞面[OB/BS]、骨形成率[BFR/BS])。皮質骨量(cortex bone volume)の減少(ほぼ20%)も観察された。
b,IFNAR1−/−マウスBMMでは、破骨細胞のin vitro分化は細胞自律的にアップレギュレートされている。IFNAR1−/−細胞において、TRAP+MNC数の増加および多核化が見られた。
c,IFNAR1欠損破骨細胞および骨芽細胞のインビトロ(in vitro)分化を示す。IFNAR1−/−マウスでは、RANKL/M−CSFで刺激したBMMsにおけるTRAP陽性多核細胞(TRAP+MNCs)形成は増強した(左)が、アルカリホスファターゼ(ALP)活性およびアリザリンレッド染色で調べた骨芽細胞の分化に有意な差はなかった(右)。
図4は、RANKLで刺激後のBMMsにおけるIFN−β mRNA発現およびin vivoにおけるIFN−βの機能を示す図および写真である。
a,M−CSF存在下で2日間培養後、BMMsをRANKLで2または24時間刺激し、RNAを抽出して半定量的RT−PCRによりIFN−αおよびIFN−β mRNA発現を解析した。希釈倍数を各レーンの下に示した。RNA抽出および半定量的RT−PCRは以前記載したように行った(Hida,S.et al.,Immunity 13:643−655,2000)。半定量的RT−PCR解析により、RANKL刺激は破骨細胞前駆細胞のIFN−β mRNA発現を一過的に増加することが示された。IFN−β mRNAの誘導レベルは、定量的リアルタイムPCRシステムにより20倍より大きいと見積られた。この誘導は、ウイルス感染細胞のそれよりも(約一桁)弱い。
b,IFN−β−/−マウスにおける海綿骨梁の骨量の減少および破骨細胞数の増加を図2および3と同様に調べた。
図5は、野生型マウス、あるいはIFNAR1−/−、Stat1−/−、IRF−9−/−、およびIRF−1−/−マウス由来のBMMの破骨細胞形成におけるIFN−βの効果を示す図および写真である。
a,RANKL/M−CSFで刺激した野生型マウス由来のBMM培養に対するIFN−βの効果を示す図である。図示した濃度(U/ml)の組み換えIFN−βをBMM培養に添加した。組み換えIFN−βは、破骨細胞形成に対して用量依存的な強い阻害効果を有していた。IFN−αでも破骨細胞形成に対する阻害効果が観察されたが、その効果は比較的弱く、同じレベルの阻害効果を達成するには約10倍の濃度が必要であった。
b,野生型マウス、あるいはIFNAR1、Stat1、IRF−9、またはIRF−1欠損マウス由来のBMMsからの破骨細胞形成におけるIFN−β(10U/ml)の阻害効果を示す図である。
c,野生型マウス、あるいはStat1、IRF−9、またはIRF−1欠損マウス由来のBMMsからの破骨細胞形成におけるIFN−β(10U/ml)の効果の比較を示す。
図6は、破骨細胞形成に関与するシグナル分子に対するIFN−βの効果を解析した結果を示す写真である。
a,RANKLで誘導されるNF−κB活性化に対するIFN−β(100U/ml)処理の効果(EMSA)。複合体は、抗Rel A抗体(Santa Cruz社)によりスーパーシフトが起こり(7レーン目)、過剰量の非標識プローブにより複合体形成が阻害された(8レーン目)。
b,RANKLで誘導したJNKおよびc−Junのリン酸化に対して、IFN−β(100U/ml)処理は効果を持たないことを示す。抗リン酸化JNK抗体または抗リン酸化c−Jun抗体でイムノブロッティングを行った。
c,RANKLシグナル伝達に関与する下流のエフェクター分子の蛋白質レベルに対するIFN−β(100U/ml)の効果。
図7は、破骨細胞形成時におけるAP−1の様々な成分の発現レベルを解析した結果を示す写真である。
a,AP−1成分のmRNA発現に対するIFN−β(100U/ml)の効果(RNAプロテクションアッセイ)。c−fos mRNAはIFN−βにより変化しなかったが、Fra−1およびFra−2のmRNAレベルはIFN−β存在下で顕著に低下した。
b,半定量的RT−PCRによるFra−1 mRNAの発現解析。Fra−1 mRNAのダウンレギュレーションは半定量的RT−PCRによっても確認された。
c,Fra−1およびFra−2蛋白質のイムノブロット解析により、両蛋白質はIFN−βによりダウンレギュレートされることが判明した。
図8は、IFN−βによるRANKLシグナル伝達の阻害が、c−Fos蛋白質発現の抑制を介していることを示す図および写真である。
a,IFN−βによるc−Fos蛋白質合成の阻害を示す。
b,PKR−/−マウス由来のBMMからの破骨細胞形成におけるIFN−βの効果を示す。
図9は、IFN−βによる破骨細胞形成阻害に及ぼすFos蛋白質の過剰発現の効果を示す図および写真である。レトロウイルスによるc−Fos、Fra−1、およびFra−2の過剰発現は、IFN−βによる破骨細胞形成阻害をレスキューすることが示されている。レトロウイルスベクターを感染して2日後に、BMMsをRANKL(100ng/ml)およびIFN−β(10U/ml)で刺激し、さらに3日間培養した。コントロールウイルスを感染させたBMMsでは、TRAP+MNCsは形成しなかったが、c−Fos発現ウイルスを感染させた場合はTRAP+MNC形成が約20%に回復した。Fra−1およびFra−2ウイルスの場合も同程度にTRAP+MNC形成がレスキューされたが、c−Junウイルスではレスキューされなかった。
図10は、IFN−βによる破骨細胞形成阻害に及ぼすFos蛋白質の過剰発現の効果を示す図および写真である。コントロールウイルスベクター(pBabe−EGFP)、c−Fos発現ウイルスベクター(pBabe−c−Fos)、またはc−Jun発現ウイルスベクター(pBabe−c−Jun)を感染させたBMMの破骨細胞形成をpit吸収によりアッセイした。また、ウイルスを感染させた細胞におけるTRAP+細胞形成におけるレスキュー活性を、pMX−IRES−EGFPベクター系を用いることにより、c−Fosと共発現するEGFPを発現する細胞中のTRAP+細胞を計数することにより決定した。IFN−β(10U/ml)の存在下でも、c−Fos発現ウイルスが感染した細胞のうち50%を超える細胞がTRAP+となったが、同じ条件下でコントロールウイルスまたはc−Jun発現ウイルスを感染させた細胞でTRAP陽性となったのは5%に満たなかった。
図11は、RANKLによるIFN−β遺伝子のc−Fos依存的な誘導を示す図および写真である。
a,RANKLによるIFN−β mRNAの誘導(RT−PCR)。阻害はIRF−3/IRF−9−/−マウス由来のBMMでは観察されたが、Fos−/−マウス由来の破骨細胞前駆細胞では観察されなかった。
b,RANKLおよびc−FosによるIFN−βプロモーターの活性化。ルシフェラーゼ活性の誘導をグラフに示した。IFN−βプロモーター中のAP−1、IRF、およびNF−κBの結合部位の位置、およびAP−1部位の配列も図示した。これらの結合配列は、ヒトおよびマウスのIFN−βプロモーターにおいて全て保存されている(Wathelet,M.G.et al.,Mol.Cell 1,507−518(1998);Sato,M.et al.,Immunity 13,539−548(2000);Bonnefoy,E.et al.,Mol.Cell.Biol.19,2803−2816(1999))。
図12は、炎症で誘導される骨破壊におけるIFN−βの生体内(in vivo)投与の治療効果を示す図および写真である。生理食塩水(コントロール)またはLPSを注入、IFN−β処理または未処理の頭蓋骨の組織学的解析を示す(TRAP染色およびヘマトキシリン染色)。骨形態計測学的解析により、LPSにより誘導される髄腔(marrow cavity)、TRAP+ MNC数、および侵食表面の増加は、続く4日間のIFN−β(10000U/day)の局所投与により有意に抑制されることが判明した。
図13は、ヒト破骨細胞形成におけるIFN−βの効果を示す図である。a,RANKLおよびM−CSFで刺激したヒト末梢血単核細胞からの破骨細胞形成における組み換えヒトIFN−βの効果。b,慢性関節リウマチ患者由来の培養滑膜細胞からの破骨細胞形成における組み換えヒトIFN−βの効果。
Claims (7)
- (a)被検化合物を含む試料の存在下で、破骨細胞前駆細胞にRANKLとIFN−αまたはIFN−βとを接触させる工程、
(b)(1)破骨細胞形成、(2)c−Fos蛋白質レベルもしくはその転写活性化活性、または(3)骨吸収を検出する工程、を含む、該化合物のそれぞれ該(1)破骨細胞形成、(2)c−Fos蛋白質レベルもしくはその転写活性化活性、または(3)骨吸収を促進または抑制する活性を検出する方法。 - 請求項1に記載の方法であって、工程(b)においてc−Fos蛋白質レベルもしくはその転写活性化活性を検出する、該化合物のc−Fos蛋白質レベルもしくはその転写活性化活性を促進または抑制する活性を検出する方法。
- 化合物の破骨細胞形成または骨吸収を促進または抑制する活性を検出するための、請求項2に記載の方法であって、該蛋白質レベルまたは該転写活性化活性の上昇を該抑制作用、該蛋白質レベルまたは該転写活性化活性の低下を該促進作用の指標とする方法。
- (a)被検化合物を含む試料の存在下で、破骨細胞前駆細胞にRANKLとIFN−αまたはIFN−βとを接触させる工程、
(b)(1)破骨細胞形成、(2)c−Fos蛋白質レベルもしくはその転写活性化活性、または(3)骨吸収を検出する工程、
(c)対照の条件下に比べ、それぞれ該(1)破骨細胞形成、(2)c−Fos蛋白質レベルもしくはその転写活性化活性、または(3)骨吸収を調節する化合物を選択する工程、を含む該化合物の選択方法。 - 請求項4に記載の方法であって、工程(b)においてc−Fos蛋白質レベルもしくはその転写活性化活性を検出する、c−Fos蛋白質レベルもしくはその転写活性化活性を調節する化合物の選択方法。
- 破骨細胞形成または骨吸収を調節する化合物をスクリーニングするための、請求項5に記載の方法であって、該蛋白質レベルまたは該転写活性化活性を上昇させる化合物を、破骨細胞形成または骨吸収を抑制する化合物として、該蛋白質レベルまたは該転写活性化活性を低下させる化合物を、破骨細胞形成または骨吸収を促進する化合物として選択する方法。
- 破骨細胞前駆細胞にIFN−αまたはIFN−βを接触させる工程を、下記(a)または(b)に記載の工程により行う、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
(a)IFN−αまたはIFN−βの投与
(b)IFN−αまたはIFN−βを発現するベクターの投与
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