JP4923348B2 - 生物脱窒方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アンモニア性窒素を含有する原水を、アンモニアを電子供与体とし、亜硝酸イオンを電子受容体とする脱窒微生物を含む汚泥を保持する脱窒槽に通液して亜硝酸性窒素の存在下に生物脱窒する方法に係り、特に、この脱窒槽の立ち上げを迅速にする、即ち脱窒槽内に早期に十分量の汚泥を増殖させて安定かつ効率的な脱窒処理を行う方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
排液中に含まれるアンモニア性窒素は河川、湖沼及び海洋などにおける富栄養化の原因物質の一つであり、排液処理工程で効率的に除去する必要がある。一般に、排水中のアンモニア性窒素は、アンモニア性窒素をアンモニア酸化細菌により亜硝酸性窒素に酸化し、更にこの亜硝酸性窒素を亜硝酸酸化細菌により硝酸性窒素に酸化する硝化工程と、これらの亜硝酸性窒素及び硝酸性窒素を従属栄養性細菌である脱窒菌により、有機物を電子供与体として利用して窒素ガスにまで分解する脱窒工程との2段階の生物反応を経て窒素ガスにまで分解される。
【0003】
しかし、このような従来の硝化脱窒法では、脱窒工程において電子供与体としてメタノールなどの有機物を多量に必要とし、また硝化工程では多量の酸素が必要であるため、ランニングコストが高いという欠点がある。
【0004】
これに対して、近年、アンモニア性窒素を電子供与体とし、亜硝酸性窒素を電子受容体とする独立栄養性微生物(自己栄養細菌)を利用し、アンモニア性窒素と亜硝酸性窒素とを反応させて脱窒する方法が提案された。この方法であれば、有機物の添加は不要であるため、従属栄養性の脱窒菌を利用する方法と比べて、コストを低減することができる。また、独立栄養性の微生物は収率が低く、汚泥の発生量が従属栄養性微生物と比較すると著しく少ないので、余剰汚泥の発生量を抑えることができる。更に、従来の硝化脱窒法で観察されるN2Oの発生がなく、環境に対する負荷を低減できるといった特長もある。
【0005】
この独立栄養性脱窒微生物(以下「ANAMMOX微生物」と称す場合がある。)を利用する生物脱窒プロセスは、Strous, M, et al., Appl. Microbiol. Biotechnol., 50, p.589-596 (1998) に報告されており、以下のような反応でアンモニア性窒素と亜硝酸性窒素が反応して窒素ガスに分解されると考えられている。
【0006】
【化1】
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記生物脱窒法では、反応に関与するANAMMOX微生物がその収率が低い分、増殖速度が遅く、脱窒槽の立ち上げに長時間がかかる。
【0008】
本発明は、脱窒槽の立ち上げを迅速化することができる生物脱窒方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の生物脱窒方法は、アンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素を含有する原水を脱窒槽に供給し、該脱窒槽に保持されたアンモニア性窒素を電子供与体とし、亜硝酸性窒素を電子受容体とする脱窒微生物の作用により亜硝酸性窒素の存在下に生物脱窒する方法において、該脱窒槽には、汚泥界面高さを検知するために、上澄液の濁度を測定する濁度計が付設されており、該脱窒槽の立ち上げ時には、(1)アンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素を含有する原水を脱窒槽へ供給する工程、(2)アンモニア性窒素を亜硝酸性窒素の存在下に前記脱窒微生物の作用により脱窒する工程、(3)上澄液と前記脱窒微生物を含む沈殿汚泥とを沈殿分離する工程、及び(4)前記濁度計を用いて汚泥界面高さが所定高さまで低下したことを検知したときに汚泥界面より上の上澄液を排出する工程からなる回分工程を1回又は複数回行い、該脱窒槽の立ち上げ後は、原水を連続通水することを特徴とするものである。
【0010】
本発明では、脱窒槽の立ち上げを回分式としているため、脱窒槽の立ち上げ時の汚泥の槽外への流出がない。このため、槽内に汚泥を速やかに蓄積することができる。
【0011】
本発明では、微生物は前述の独立栄養性脱窒微生物(ANAMMOX微生物)であることが好ましい。
【0012】
ところで、従属栄養性細菌である脱窒菌を利用する従来の硝酸脱窒法では、原水を反応槽の下部より上向流で流入させ、菌の付着担体を用いることなく、汚泥をブロック化又は粒状化させて粒径1〜数mmのグラニュール汚泥の汚泥層(スラッジブランケット)を形成させ、反応槽中に高濃度の微生物を保持して、高負荷処理を行うUSB(Upflow Sludge Bed;上向流汚泥床)方式で処理が行われている。
【0013】
本発明でも、脱窒槽としてこのUSB方式の槽を好適に用いることができるが、その他のエアリフト型(ただし、エアではなく非酸化性ガスを吹き込む。)、流動床型、浮遊汚泥型であってもよい。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下に図面を参照して本発明の生物脱窒方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0015】
図1(a),(b)は本発明の実施に好適な脱窒槽の実施例を示す模式的な断面図である。図1(a)の脱窒槽1は、内部にANAMMOX微生物の汚泥床を形成してUSB方式にて脱窒を行うものであり、円筒状の反応槽1の下部に原水が導入される。反応槽1内の上部には固液分離器2が設けられ、固液分離された処理水が上部の処理水流出部3から流出する。この脱窒槽では、反応槽1の上下方向の途中部分にも処理水の流出部4が設けられている。また、処理水の一部を原水供給側に循環する循環配管5が設けられている。
【0016】
図1(b)の脱窒槽にあっては、反応槽1内に同軸的に内筒6が設置され、該内筒6の下部に窒素ガスを散気する散気管7が設けられている。窒素ガスを散気すると、エアリフトと同等の機能が発揮され、液は内筒6内を上昇し、内筒6の外側を下降する循環流を形成する。なお、分離器2は気液固の分離機能を発揮する。この脱窒槽においても、反応槽1の上下方向の途中にも処理水の流出部4が設けられている。
【0017】
図1(a),(b)の脱窒槽では、それぞれ反応槽1の上下方向の途中部分に高さを異ならせて複数の流出部4が設けられているが、これは、槽1内の汚泥界面高さに応じて上澄水を流出させる流出部4を選択し、汚泥を流出させることなく上澄水のみを流出させるためのものである。
【0018】
この図1(a),(b)の脱窒槽を立ち上げるときには、
(1) アンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素を含有する原水を脱窒槽へ供給する工
程、
(2) アンモニア性窒素を亜硝酸性窒素の存在下に前記ANAMMOX微生物の
作用により脱窒する工程、
(3) 上澄液と前記ANAMMOX微生物を含む沈殿汚泥とを沈殿分離する工程
、及び
(4) 前記濁度計を用いて汚泥界面高さが所定高さまで低下したことを検知したときに汚泥界面より上の上澄液を排出する工程
からなる回分工程を1回又は複数回行う。
【0019】
具体的には、アンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素を含む原水を槽1の底部から導入する。なお、必要に応じ、グラニュール汚泥を形成するための核を槽1内に入れておく。
【0020】
図1(b)の場合は、その後、散気管7から窒素ガスを散気し、内筒6内に上昇流を形成し、内筒6外に下降流を形成し、循環流を形成する。そして、所定時間経過後、散気を停止し、汚泥を沈降させる。
【0021】
図1(a),(b)のいずれの場合も、汚泥界面が所定高さまで低下してきたときには、該界面よりも上側の上澄水を流出部4から流出させる。
【0022】
汚泥形成が十分でないときには、再び原水を槽1内に導入し、上記(1)〜(4)の工程を繰り返す。これにより、槽1内にANAMMOX微生物のグラニュールが形成されるので、その後は原水を連続的に反応槽1の底部から導入し、流出部3から処理水を連続的に取り出す。
【0023】
なお、汚泥界面高さを精度良く検知するために、槽1内の上澄液の濁度を測定する濁度計を槽1に設ける。
【0024】
図示はしないが、本発明では流動床型あるいは浮遊汚泥型の脱窒槽を用いてもよい。浮遊汚泥型の脱窒槽の場合は、脱窒槽流出液を固液分離する沈殿池等の固液分離手段を設け、立ち上げ後の連続通水時には脱窒槽に汚泥を返送する。
【0025】
本発明の生物脱窒方法において、処理対象となる原水は、アンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素を含む水であり、有機物及び有機性窒素を含むものであってもよいが、これらは脱窒処理前に予めアンモニア性窒素になる程度まで分解しておくことが好ましく、また、溶存酸素濃度が高い場合には、必要に応じて溶存酸素を除去しておくことが好ましい。原水は無機物を含んでいてもよい。また、原水はアンモニア性窒素を含む液と亜硝酸性窒素を含む液を混合したものであってもよい。例えば、アンモニア性窒素を含む排水をアンモニア酸化微生物の存在下に好気性処理を行い、アンモニア性窒素の一部、好ましくはその1/2を亜硝酸に部分酸化したものを原水とすることができる。更には、アンモニア性窒素を含む排水の一部をアンモニア酸化微生物の存在下に好気性処理を行い、アンモニア性窒素を亜硝酸に酸化し、アンモニア性窒素を含む排水の残部と混合したものを原水としても良い。
【0026】
一般的には、下水、し尿、嫌気性硝化脱離液等のアンモニア性窒素、有機性窒素及び有機物を含む排水が処理対象となる場合が多いが、この場合、これらを好気性又は嫌気性処理して有機物を分解し、有機性窒素をアンモニア性窒素に分解し、さらに部分亜硝酸化或いは、一部についての亜硝酸化を行った液を原水とすることが好ましい。
【0027】
原水のアンモニア性窒素と亜硝酸性窒素の割合はモル比でアンモニア性窒素1に対して亜硝酸性窒素0.5〜2、特に1〜1.5とするのが好ましい。原水中のアンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素の濃度はそれぞれ5〜1000mg/L、5〜200mg/Lであることが好ましいが、処理水を循環して希釈すればこの限りではない。
【0028】
原水の生物脱窒条件としては、例えば反応槽内液の温度が10〜40℃、特に20〜35℃、pHが5〜9、特に6〜8、溶存酸素濃度が0〜2.5mg/L、特に0〜0.2mg/L、BOD濃度が0〜50mg/L、特に0〜20mg/L、窒素負荷が0.1〜10kg−N/m3・day、特に1〜5kg−N/m3・dayの範囲とするのが好ましい。
【0029】
グラニュール汚泥を形成する場合、微生物だけではグラニュール形成に期間を要するので、核となる物質を添加し、その核の周りにANAMMOX微生物の生物膜を形成させることが望ましい。この場合、核として、例えば微生物グラニュールや非生物的な担体を挙げることができる。
【0030】
核として用いられる微生物グラニュールとしては、メタン菌グラニュール等の嫌気性微生物や従属栄養性脱窒菌グラニュール等を挙げることができる。メタン菌グラニュールは、UASB(Upflow Anaerobic Sludge Blanket;上向流嫌気性汚泥床)法もしくはEGSB(Expanded Granule Sludge Bed;展開粒状汚泥床)法でメタン発酵が行われているメタン発酵槽で使用されているものを適用できる。また、従属栄養性脱窒グラニュールは、USB方式の通常の脱窒槽で利用されるものを適用できる。これらのグラニュールはそのままの状態で、又はその破砕物として用いることができる。独立栄養性脱窒微生物はこのような微生物グラニュールに付着しやすく、グラニュールの形成に要する時間が短縮される。また、核として非生物的な材料を用いるよりも経済的である。
【0031】
核として用いられる非生物的な材料としては、例えば、活性炭、ゼオライト、ケイ砂、ケイソウ土、焼成セラミック、イオン交換樹脂等、好ましくは活性炭、ゼオライト等よりなる、粒径50〜200μm、好ましくは50〜100μmで、平均比重1.01〜2.5、好ましくは1.1〜2.0の担体を挙げることができる。
【0032】
このようにして形成されるANAMMOX微生物のグラニュール汚泥は、平均粒径が0.25〜3mm、好ましくは0.25〜2mm、より好ましくは0.25〜1.5mm程度、平均比重が1.01〜2.5、好ましくは1.1〜2.0であることが望ましい。グラニュールの粒度が小さいほど比表面積が大きくなるので、高い汚泥濃度を維持し、脱窒処理を効率よく行う点で好ましい。
【0033】
本発明の生物脱窒方法は、具体的には、嫌気性処理で見られるようなUSB方式又はEGSB(Expanded Granule Sludge Bed;展開粒状汚泥床)方式で反応槽内のANAMMOX微生物のグラニュール汚泥を原水の上向流で展開させてグラニュール汚泥床を形成して行うのが、原水とグラニュール汚泥との接触効率を高くすることができ、好ましい。なお、処理水の一部は循環水として、反応槽の原水導入側へ戻す。
【0034】
この場合、USB方式であれば循環水量は原水量の0.5〜10倍とし、反応槽内の上向流速(原水と循環水との合計の流速)を0.5〜2m/hrとするのが好ましい。また、EGSB方式であれば循環水量は原水量の0.5〜20倍とし、反応槽内の上向流速(原水と循環水の合計の流速)を2〜15m/hrとしてグラニュール汚泥床を展開させて通液する。
【0035】
【実施例】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0036】
実施例1
図1(a)に示すUSB反応槽に、嫌気消化液の上澄水にアンモニア及び亜硝酸を添加してNH4−N濃度150〜200mg/L、NO2−N濃度200〜250mg/Lに調整した液を原水として通水した。
【0037】
USB反応槽は内径10cm、高さ約120cmのPVCカラム(容量約7.5L)であり、内部には、脱窒汚泥から馴養した、平均粒径1.2mm、汚泥濃度30,000mg/LのANAMMOX微生物のグラニュール汚泥を約4L(約120g−VSS)充填した。反応槽は30℃に制御された恒温室に設置した。
【0038】
4倍に希釈した原水を槽1に充満させた後、20日保持した。次いで、反応槽1の底部から80cmの高さの流出部から上澄液を流出させた。
【0039】
この工程を3回繰り返した後、原水の連続通水に切り替えた。
【0040】
原水は2.5L/hr(60L/day)の通水量でポンプにより反応槽に通液した。
【0041】
処理水のうち約6.0L/hr(約100mL/min:原水の1.2倍の循環量)は循環水としてポンプにより反応槽の底部に循環した。反応槽内の上向流速は1.1m/hrであった。
【0042】
なお、このときの反応槽の窒素負荷は、NH4−N負荷として1.2kg−N/m3/day、NO2−Nも含めた全体の負荷として2.4kg−N/m3/dayであった。
【0043】
連続通水開始後100日間にわたり窒素除去速度の経時変化を計測した結果を図2に示す。
【0044】
実施例2
図1(b)の反応槽について実施例1と同様にして立ち上げ運転を行った。この場合、散気管7から窒素ガスを10L/Hrの割合で吹き込み、20日この状態に保持した後、静置し、反応槽1の底部から80cmの高さの流出部4から流出させた。
【0045】
この工程を3回繰り返した後、連続通水に切り替えた。窒素除去率の経時変化を図2に示す。
【0046】
比較例1
立ち上げ運転を行わずに最初から連続通水を行ったこと以外は実施例1と同様にして通水し、窒素除去率の経時変化を計測し、結果を図2に示した。
【0047】
比較例2
立ち上げ運転を行わずに最初から連続通水を行ったこと以外は実施例2と同様にして通水し、窒素除去率の経時変化を計測し、結果を図2に示した。
【0048】
図2より、立ち上げを回分式操作で行うと、立ち上げを連続式操作で行った場合に比べて、同一の窒素除去速度を得るのに要する日数が約半分ですみ、脱窒槽の窒素除去率が迅速に上昇することが明らかである。
【0049】
【発明の効果】
以上の通り、本発明によると、脱窒槽の立ち上げを迅速化することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施に好適な脱窒槽の実施例を示す模式的な断面図である。
【図2】 実施例1,2及び比較例1,2の結果を示すグラフである
【符号の説明】
1 反応槽
2 気液分離装置
3,4 流出部
6 内筒
7 散気管
Claims (3)
- アンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素を含有する原水を脱窒槽に供給し、該脱窒槽に保持されたアンモニア性窒素を電子供与体とし、亜硝酸性窒素を電子受容体とする脱窒微生物の作用により亜硝酸性窒素の存在下に生物脱窒する方法において、
該脱窒槽には、汚泥界面高さを検知するために、上澄液の濁度を測定する濁度計が付設されており、
該脱窒槽の立ち上げ時には、
(1) アンモニア性窒素及び亜硝酸性窒素を含有する原水を脱窒槽へ供給する工
程、
(2) アンモニア性窒素を亜硝酸性窒素の存在下に前記脱窒微生物の作用により
脱窒する工程、
(3) 上澄液と前記脱窒微生物を含む沈殿汚泥とを沈殿分離する工程、及び
(4) 前記濁度計を用いて汚泥界面高さが所定高さまで低下したことを検知したときに汚泥界面より上の上澄液を排出する工程
からなる回分工程を1回又は複数回行い、
該脱窒槽の立ち上げ後は、原水を連続通水することを特徴とする生物脱窒方法。 - 脱窒槽は、USB型、エアリフト型、流動床型、及び浮遊汚泥型のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の生物脱窒方法。
- 脱窒槽には、高さ方向に複数の上澄液排出管が設置されており、前記脱窒槽内の汚泥界面高さに応じて上澄水を流出させる排出管を選択し、汚泥を流出させることなく上澄水を流出させることを特徴とする請求項1又は2に記載の生物脱窒方法。
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