JP4904582B2 - 長周期波低減対策構造物 - Google Patents

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Description

本発明は、主に船舶の荷役作業等が行われる港湾内において、岸壁、桟橋、護岸及び防波堤などの海洋構造物の港湾内側に設置し、長周期波を低減させるための長周期波低減対策構造物に関する。
従来、防波堤や海岸等に設置される波高低減構造物には、構造物の前部(海側)に消波ブロックを積み上げて消波工を設けたもの(例えば、特許文献1を参照)や、所謂スリットケーソンからなるもの(例えば、特許文献2を参照)が知られている。
消波工による消波は、構造物の前部に消波ブロックを積み重ねて消波工を形成し、この消波工を波が通過する際にエネルギー損失を生じさせて消波する構造である。一方、スリットケーソンからなる波高低減構造物は、複数の縦向きスリット状の透水孔が形成された遮壁と、遮壁の後方に十分な空間からなる遊水部とを有し、波が透水孔を通過する際に波動のエネルギー損失を生じさせて消波する構造である。
このとき、遮壁を通過する際の流速が速いほど波動エネルギーの減衰が大きく、入射波が反射波と重なり合って遊水部の奥で腹となる重複波が形成され、該重複波の水平速度が最大となる節部の位置、即ち遮壁と遊水部の奥との間の距離が重複波の1/4波長となる位置に遮壁を設置することによって、最も消波効果が得られるようになっている。
海側から打ち寄せる波には、通常の波と共に長周期波が存在し、この長周期波は周期が数十秒〜数分の長い周期を有している。この長周期波は、港湾内に進入すると港湾の形状や岸壁の位置等の諸条件によって多重反射し、岸壁に接岸された船舶を大きく動揺させ、このため荷役作業等に支障を生じる場合があり、また、船舶を係留していた係留索が切断されてしまう等の被害が発生している。
特に、大型の船舶(数万〜数十万DWT)を破断強度の大きな合成繊維からなる係留索を用いて係留した場合、その係留索の固有振動数が数十秒〜数分であると、その係留索と長周期波の周期帯が一致するため、係留索と共振を起こし船体を大きく動揺させる。
このため、長周期波を消波ないし低減する対策が求められているが、長周期波は数百m〜数kmの長い波長を有するため、消波ブロックやスリットケーソンを用いた従来の上記消波対策によって十分な消波効果を得るためには、遊水部や消波工の奥行きが100m以上ある大規模な構造物とする必要があり、実現性に乏しいという問題があった。
一方、この長周期波を低減する手段として、図7、図8に示す構造を有する長周期波低減対策構造物も開発されている(特許文献3)。
図7、図8に示す構造物は、海側にスリット状の開口1を有する透水部2と、その背面側(陸側)に側部仕切り壁3を隔てて配置された遊水部4と、透水部2内に積上げられた砕石等からなる消波材層5とを備え、透水部2内の水位変動に伴って、側部仕切り壁の海側部における水位変動を抑制するようにしたものである。
特開2000−204528号公報 特開2002−146746号公報 特開2005−42528号公報
図7及び図8に示す海洋構造物の長周期波に対する消波低減手段は有効なものではあるが、何れも十分な消波低減効果を得るためには50m程度の奥行きが必要であり、これより小規模な構造にするのが難しいと云う問題がある。
本発明は、従来の長周期波に対する消波低減対策にみられた上記問題を解決したものであって、小規模でも長周期波の影響を十分に低減することができる構造物を提供することを目的とする。
上述の如き従来の問題を解決し、所期の目的を達成するための請求項1に記載する発明の特徴は、港湾内の船舶接岸岸壁や護岸などの海洋構造物の海側、又は防波堤などの港湾外郭構造物の港内側に遊水部を隔てて前面壁を設け、該前面壁に縦向きの通水口を開口させ、上記前面壁の少なくとも前面には、上記通水口毎に背面側に向かって後退する凹部を有し、該凹部の最奥部に上記通水口が形成され、周期が数十秒〜数分の長周期波の波高を低減する長周期波低減対策構造物であって、上記前面壁をケーソンにより構築したことにある。
請求項2に記載する発明の特徴は、請求項1の構成に加えて、上記通水口は、前面壁の前面側が狭く背面側が広いテーパ形状となっていることにある。
請求項3に記載する発明の特徴は、請求項1又は2の何れか1の請求項の構成に加えて、上記前面壁は、前記通水口を構成するための隙間を隔てケーソンを複数並べて設置することによって構成していることにある。
請求項4に記載する発明の特徴は、請求項1,2又は3の何れか1の請求項に記載の長周期波低減対策構造物が、桟橋、岸壁、護岸又は防波堤として用いられるものであることにある。
本発明に係る構造物は、通水口の背後にこれと連通した遊水部を備えた海洋構造物であるので、前面壁に押し寄せる波が通水口に導かれて遊水部に流入する際に渦が発生し、波のエネルギー損失が生じ、有効な消波低減効果が得られる。
更に、この構造物は、プレキャストコンクリート製ケーソンによって上記前面壁および上記遊水部の周壁を構築しているため、施工現場において直接に長周期波低減対策を有する構造物を構築することができ、例えば岸壁、護岸又は防波堤などについて、既存構造物に対して追加的に設置できる。
本発明では、通水口毎に海側に面する前面壁が背面向かって後退する凹部を形成し、その最奥部に上記通水口を設けることにより、前面壁に押し寄せる波が前面壁に導かれて通水口に寄せ集められ、遊水部に流入する波のエネルギー損失が増大し、長周期波に効果的な消波効果が得られる。
更に、本発明では、岸壁、護岸又は防波堤として用いることにより、何れも小規模でも長周期波を効果的に低減ないし消波することができ、海洋構造物に接岸する船舶の動揺を好適に抑制し、船舶への荷役作業等を容易に行うことができる。
また、構造が簡単で、規模も小さくすることができるので、既存の港湾にも対応することができる。従って、岸壁、護岸又は防波堤として好適に適用することができる。
次に、本発明に係る長周期波低減対策構造物の実施形態を図1〜図6に基づいて説明する。
図1は本発明に係る長周期波対策構造物の一例の概略を示しており、この長周期波構造物は、陸側の後壁10と海側の前面壁11との間に遊水部12を設け、前面壁11に縦長のスリット状をした通水口13を有している。
後壁10は、例えば既存又は新設の港湾内の船舶接岸岸壁や防波堤、護岸などの海洋構造物によって構成させることができ、またこの他、既存の海洋構造物とは別に壁体を設置することによって構成させても良い。
前面壁11には、その前面、即ち主として港内側である海側の面に、通水口13毎に、その通水口13が最奥部となるように凹ませた凹部14が形成されている。この凹部14は、通水口13の両側を、隣り合う通水口13,13間の中央位置から通水口13に向けて後方側に直線的に後退させたテーパ状に形成されており、その最奥部に通水口13が設けられた構造となっている。
通水口13は、前面が即ち海側が最も狭く、背面即ち遊水部側が広くなったテーパ状に形成されている。
前面壁11は、複数のコンクリート製ケーソン20,20......をもって構成している。このケーソン20は、図1、図3に示すように、水底に造成した基礎地盤21上に、後壁10と略平行配置に並べて設置されており、隣り合うケーソン20,20間の隙間を前述した通水口13としている。
尚、前面壁11は、図1に示すように隣り合う通水口13,13間を1つのケーソン20で構成する他、図5に示すように、通水口13,13間を複数に分割したケーソン20a,20aをもって構成させても良い。
ケーソン20は、図2に示すように、前面及び背面の底部にフーチング22,22が水平方向に張り出して一体成型されており、前面側は、水底方向中央位置23が前面側に突出し、該中央位置から両縁側に到る面を、背面側に後退させたテーパ面24,24としている。尚、必ずしもテーパ面である必要はなく、背面と平行な角度の面であってもよい。また、フーチング22,22は無くてもよい。
このケーソン20の背面は平らに形成され、両側面は、背面側がケーソン背面中央側に傾斜させたテーパ面25,25となっており、互いに隣り合うケーソン20,20間におけるテーパ面25,25によって通水口13が構成されるようになっているものであり、通水口13は、ケーソン20の前面側縁部25a,25a間がもつとも狭く、背面側縁部25b,25bに到るに従って広がった楔状の空間となっている。
このケーソン20の本体部は、中空に成型され、内部に複数の仕切り26,26......によって縦長の複数の空間に仕切られている。この空間内に、栗石や中詰め砂等の中詰め材27を充填して水平波力に対抗できる重量としている。中詰め材充填後、これが漏洩しないように、中詰め材27の上部に場所打ちコンクリート28を打設してケーソン上面を閉鎖する。尚、予め上記場所打ちコンクリート28に相当する頂版にて閉鎖した中空のケーソンを使用し、中詰め材注入孔より砂質材を水搬によって充填してもよい。
また、隣り合う通水口13,13間を複数のケーソンをもって構成させる場合には、図4、5に示すように、前述したケーソン20を、その水平方向中央位置で縦割り状に2分割した形状に形成した、互いに対称形状のケーソン20a,20aを使用する。尚、ケーソン20と同じ部分には同じ符号を付して重複説明を省略する。
上述した例では、後壁10が、直線状である場合を示しているが、護岸などの海陸境界が、湾曲している場合には、図6に示すようにその湾曲に合わせて屈曲された後壁10に合わせて前面壁11を屈曲させて設置する。
この場合、図6に示すように、ケーソン20又は複数分割されたケーソン20a,20aを1単位とし、その単位ケーソン間において互いの設置角度を後壁10の屈曲に合わせて設置する。このようにすることにより、前述した通水口12の水平断面形状である楔状の傾斜角度が変化するが、直線配置と同じ形状のケーソンをそのまま使用することができる。
この長周期波低減対策構造物は、前面壁11に押し寄せる波がスリット状の細い通水口13に導かれて遊水部12に流入する際に波のエネルギー損失が生じるので、有効な消波低減効果を得ることができる。
また、1つの通水口13に対応させて、前面壁11の前面が背面側に向かって後退する凹部14が形成されており、その最奧側の位置に上記通水口13が設けられていることによって、前面壁11に向かって進行してきた波が前面壁11に沿って流れ、通水口13に寄せ集められるので、遊水部12に流入する波のエネルギー損失が増大し、通常波域から長周期波域に渡って効果的な消波効果が得られる。
また、長周期波低減対策構造物を、船舶が接岸できる桟橋に使用する場合には、後壁10と前面壁11に跨らせて天版を設置することができる。この場合、遊水部12内に必要数の支柱を立設し天版を支持させるようにしても良く、更に、前面壁11の前面側上部に前垂れ状の板状部材からなる接岸壁部設置しても良い。この場合接岸壁部は、その下端と水底面との間に長周期波が移動可能な間隔を持たせた状態で設置する。
本発明に係る長周期波低減対策構造物の一例の概略を示す平面図である。 図1に示す実施例に使用しているケーソンの平面図である。 同上のケーソンの設置状態を示す縦断面図である。 同上のケーソンの他の例を示す平面図である。 同上の部分縦断斜視図である。 本発明に係る長周期波低減対策構造物の他の例の概略を示す斜視図である。 長周期波低減対策構造物の従来例を示す部分切欠き斜視図である。 同縦断面図である。
10 後壁
11 前面壁
12 遊水部
13 通水口
14 凹部
20 ケーソン
20a ケーソン
21 基礎地盤
22 フーチング
23 水底方向中央位置
24 テーパ面
25 テーパ面
25a 前面側縁部
25b 背面側縁部
26 仕切り
27 中詰め材
28 場所打ちコンクリート

Claims (4)

  1. 港湾内の船舶接岸岸壁や護岸などの海洋構造物の海側、又は防波堤などの港湾外郭構造物の港内側に遊水部を隔てて前面壁を設け、該前面壁に縦向きの通水口を開口させ、上記前面壁の少なくとも前面には、上記通水口毎に背面側に向かって後退する凹部を有し、該凹部の最奥部に上記通水口が形成され、周期が数十秒〜数分の長周期波の波高を低減する長周期波低減対策構造物であって
    上記前面壁をケーソンにより構築したことを特徴としてなる長周期波低減対策構造物。
  2. 上記通水口は、前面壁の前面側が狭く背面側が広いテーパ形状となっている請求項1に記載の長周期波低減対策構造物。
  3. 上記前面壁は、前記通水口を構成するための隙間を隔てケーソンを複数並べて設置することによって構成してなる請求項1又は2の何れか1の請求項に記載の長周期波低減対策構造物。
  4. 桟橋、岸壁、護岸又は防波堤として用いられる請求項1,2又は3の何れか1の請求項に記載の長周期波低減対策構造物。
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