JP4883452B2 - 越流式長周期波低減対策構造物 - Google Patents

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本発明は、主に船舶の荷役作業等が行われる港湾内において、岸壁、桟橋、護岸及び防波堤などの海洋構造物の港湾内側に設置し、長周期波を低減させるための長周期波低減対策構造物に関する
従来、防波堤や海岸等に設置される波高低減構造物には、構造物の前部(海側)に消波ブロックを積み上げて消波工を設けたもの(例えば、特許文献1を参照)や、所謂スリットケーソンからなるもの(例えば、特許文献2を参照)が知られている。
消波工による消波は、構造物の前部に消波ブロックを積み重ねて消波工を形成し、この消波工を波が通過する際にエネルギー損失を生じさせて消波する構造である。一方、図16示すようにスリットケーソン3からなる波高低減構造物は、複数の縦向きスリット状の透孔1aが形成された遮壁1と、遮壁1の後方に十分な空間からなる遊水部2とを有し、波が透孔1aを通過する際に波動のエネルギー損失を生じさせて消波する構造である。
このスリットケーソンでは、遮壁1の透孔1aを通過する際の流速が速いほど波のエネルギーの減衰が大きい。このスリットケーソン内では、図17に示すように、遮壁1の前面側からの入射波λ1が、遊水部2の最奥の反射面4にて反射された反射波λ2と重なり合って遊水室奥の反射面で腹となる重複波が形成され、該重複波の節a部分の水平速度が最大となる。
そこで、透孔1aの位置をこの水平速度が最大となる節a位置となるように遊水部2奥行きBを設定することによって波のエネルギーを最も減衰させることができ、スリットケーソンの前面に進行してくる波の波長Lの1/4となる位置(B/L=0.25)に遮壁を設置することによって、スリットを通過する上記重複波の水平速度が最大となり、最も高い消波効果が得られることが知られている。
一方、海側から打ち寄せる波には、通常の波と共に長周期波が存在し、この長周期波は周期が数十秒〜数分の長い周期を有している。この長周期波は、港湾内に進入すると港湾の形状や岸壁の位置等の諸条件によって多重反射し、岸壁に接岸された船舶を大きく動揺させ、このため荷役作業等に支障を生じる場合があり、また、船舶を係留していた係留索が切断されてしまう等の被害が発生している。
特に、大型の船舶(数万〜数十万DWT)を破断強度の大きな合成繊維からなる係留索を用いて係留した場合、船の動揺の固有周期が数十秒〜数分であると、船の動揺の固有周期と長周期波の周期帯が一致するため、両者が共振を起こし船体を大きく動揺させる。
このため、長周期波を消波ないし低減する対策が求められているが、長周期波は数百m〜数kmの長い波長を有するため、消波ブロックやスリットケーソンを用いた従来の上記消波対策によって十分な消波効果を得るためには、遊水部や消波工の奥行きが100m以上ある大規模な構造物とする必要があり、実現性に乏しいという問題があった。
この長周期波を低減する手段として、図18、図19に示す構造を有する長周期波低減対策構造物も開発されている(特許文献3)。
図18に示す構造物は、海側及び陸側にそれぞれスリット状の透水孔が形成された遮壁1,4を配した所謂両面スリットケーソン3を備え、そのスリットケーソン3の奥側に裏込材として大型の雑石を積層させた雑石層5を設けた構造となっている。
また、図19に示す構造物は、海側にスリット状の開口1aを有する透水部6と、その奥側(陸側)に側部仕切り壁7を隔てて配置された遊水部2と、透水部5内に積み上げられた砕石等からなる消波材層8とを備え、透水部6内の水位変動に伴って、側部仕切り壁7に形成された透水孔7aを通して透水部6と遊水部2との間で水が出入りし、透水部6の海側部における水位変動を抑制するようにしたものである。
特開2000−204528号公報 特開2002−146746号公報 特開2005−42528号公報
図18及び図19に示す海洋構造物の長周期波に対する波高低減手段は有効なものではあるが、何れも十分な波高低減効果を得るためには50m程度の奥行きが必要であり、これより小規模な構造にするのが難しいと云う問題がある。
本発明は、従来の長周期波に対する波高低減対策にみられた上記問題を解決したものであって、小規模でも長周期波の影響を十分に低減することができる構造物を提供することを目的とする。
上述の如き従来の問題を解決し、所期の目的を達成するための請求項1に記載する発明の特徴は、船舶の荷役作業等が行われる港湾内において周期が数十秒〜数分の長周期波を低減させるための長周期波低減対策構造物であって、海側が広がった平面視がV字状に配置された一対の導流壁を有し、その両導流壁の上縁は、海側端部が最も高く、奥側に至るに従って低くなるように傾斜させた越流部を備えるとともに、前記導流壁の背面側に遊水部を備え、かつ該遊水部には海側に通じる流出口が連通され、海側からの寄せ波時に波が前記越流部を越えて遊水部に入り、前記流出口から徐々に海側に排出されるようにしてなる越流式長周期波低減対策構造物にある。
請求項2に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、導流壁間に海側が低く、奥に行くに従って高く傾斜させたスロープを備えたことにある。
請求項3に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、前記一対の導流壁のV字状奥側端部間に間隔を設け、該間隔を前記流出口としたことにある。
本発明においては、海側が広がったV字状に配置された一対の導流壁を有し、該導流壁間の上縁を前記V字状の奥側を、奥に行くにしたがって低く傾斜させた越流部を備えるとともに、前記導流壁の背面側に遊水部を備え、かつ該遊水部内にはその内側に入り込んだ水が海側に徐々に流出する流出口を備え、海側からの寄せ波時に波が前記越流部を越えて遊水部に入り、前記流出口から徐々に海側に排出されるようにすることにより、寄せ波時には、導水壁間に入った波は、奥に至るにしたがって徐々に間隔が狭まるために水位が上昇し、導水壁の奥部の越流部を乗り越えて背面両側部の遊水部落下し、渦や乱れの発生によって波のエネルギーを損失させ、長周期波に対して有効な波高低減効果が得られる。
また、V字状の導流壁間に海側が低く、奥に行くに従って高く傾斜させたスロープを備えることにより、導流壁奥で水位が高くなり易く、越流が起こり易くなるとともに、越流量が増大し、消波効果が増大する。
更に、一対の導流壁のV字状奥側端部間に間隔を設けることにより、越流だけでなく、導流壁間奥のスリット状の開口部から渦を発生させて遊水部に流入させる作用が生じ、これによって消波性能が高まる。また、水位が上昇した遊水部の水を徐々に流出させる流出口の役割も兼ねている。
次に、本発明に係る長周期波低減対策構造物の実施形態を図面に基づいて説明する。 図1〜図3は本発明の第一実施例を示している。この例の構造物Aは、前面壁11、両側壁12,12および背面壁13によって長方形の箱状をした周壁を有している。前面壁11には立て向きのスリット状をした通水口14,14......が前後に貫通して形成されており、この前面壁11を長周期波が寄せてくる海側に向けて設置している。
周壁の内側には、前面壁11の背面側に平面視がV字状配置の1対の導流壁20,20が設置されている。この導流壁20,20は、V字状の開口部側端が海側に向けて設置され、その先端が前面壁1の背面に接し、V字状の奥側が背面壁13に接するように配置されているとともに、両導流壁20,20の上縁は、海側端部が最も高く、奥側に至るに従って低くなるように傾斜させることによって、奥側を越流部21としている。この傾斜は直線の他、図3中に仮線で示すような凹曲線であっても良い。
各導流壁20の背面と、背面壁13、側面壁12及び前面壁11の両端の一部によって囲まれる部分が遊水部15となっており、この遊水部15には海側に通じる流出口14aが連通されている。この例では遊水部15を構成している前面壁11の端部の通水口が流出口14aとなっている。この流出口14aは遊水部15の内側に入り込んだ水が海側に徐々に流出する大きさとなっている。即ち、図2に示すように、流出口は14aは、流入用の通水口14,14......の数に比べて少なく、開口面積は流入側の通水口14,14......の総開口面積に比べて小さくなっている。
このように構成される構造物Aの大きさは、例えば導水壁20,20の角度αが約60度、前面壁11と背面壁13との間隔(奥行き)Dを20m、導水壁20,20の前端部分の高さH1を10m、同後端部分の高さH2を前背左右面壁からなる周壁の高さH2を6m、通水口14の幅b及び間隔cを1.0mとし、前面壁11を導水壁20の海側端部外側に前記流出口14aが1つ設置される長さとし、背面壁13をこれと同じ長さとしている。また、流出口14aを含む各通水口14の上下両端と前面壁11の上下縁との間隔dを1.5mとしている。
この構造物Aは、コンクリート製品製作ヤードにて成型したものを搬入して設置しても良く、設置現場にて場所打ちコンクリートにより構築してもよい。
このように構成される構造物Aを、港湾における長周期波低減対策が必要な場所に前面壁11を海側に、背面壁13陸側に向け図4に示すように、横方向に多数並べて設置する。設置に際しては、導水壁20の奥側の端部、即ち最も低い側の端部が低潮位時においても水没する程度の高さに設置する。
このように構造物Aを設置すること、海側から前面壁11側に進入してくる長周期波(寄せ波)は、前面壁11の通水口14を通って導水壁20,20間に入り、奥に至るにしたがって徐々に間隔が狭まるために図5(a)に示すように水位が上昇し、図5(b)に示すように導水壁20,20の奥部の越流部11を乗り越えて背面両側部の遊水部15,15に入る。越流による渦や乱れの発生によって波のエネルギーが消費される。
次いで遊水部15内の水位が上昇した後、引き波に伴って遊水部内の水は図5(c)に示すように流出口14aから排出される。この時、遊水部15との位相差と流出口14aからの排出時に発生する渦によって長周期波のエネルギーを低減する。
尚、前面壁11を設け、これにスリット状の通水口14を設けているため、この通水口14内を通過時に発生する渦によっても長周期波のエネルギーが低減される。
この第一実施例は、個別の構造物Aを並べて設置している場合を示しているが、図6に示すように横方向に多数連続させた状態に構築する場合には、前面壁11と背面壁13との間に仕切り壁16を形成し、前述と同様の導流壁20,20を前背面壁11,13と一体に構築するようにしてもよい。また、この場合仕切り壁16は必ずしも必要ではなく、図7に示すように、V字配置の1対の導流壁20,20を1ユニットとし、そのユニット間を遊水部15としてもよい。
図8〜図9は本発明の第二実施例を示している。この構造物BはV字状配置の導流壁20,20間に、底版22を設置してスロープ23を形成したものである。その他の部分は第一実施例と同様であるため、共通部分には同一符号を付して重複説明を省略する。
この例における底版22は、前端縁を導流壁20,20の最下部間の高さとし、後端側が同導流壁20,20の後端部の上端高さにいたるように傾斜されて形成され、その上面をスロープ23としている。
このように構成される構造物Bを第一実施例の構造物Aと同様に設置すると、寄せ波は、導流壁20,20間が奥側に向かって狭まるとともにスロープが奥に向かって高くなっていることにより水位が上昇し、導流壁20,20を越えて遊水部へ流れ込み易くなる。これによって寄せ波時における波のエネルギーが消費される。引き波時のエネルギー消費の仕組みは前述した構造物Aと同じである。
尚第二実施例では、スロープ23の存在によって寄せ波時の越流部の水位をより大きく高めることができ、遊水部への落下の際のエネルギー消費程度がより大きい。
また、図4に示すように、横方向に多数並べた状態で設置すること、図6に示すように仕切り壁16を介して連設状態とすること、図7に示すように仕切り壁を使用しないで設置することは、それぞれ第一実施例の変形例と同様ようである。
図10〜図11は、本発明の第三実施例を示している。この例の構造物Cは、前面壁11の両端の通水口を流出口とするのではなく、両導水壁20,20の奥側端部間にスリット状の間隙を設け、これを流入口を兼用させた流出口17としているものであり、背面壁13と導水壁20,20との間に流出口17に通じる空隙を設けている。
この実施例では、寄せ波時に第一実施例と同様に、波が越流部21を超えて遊水部15へ落下する際にエネルギーが消費される他、導水壁20,20最奥端の狭い流出口17が、寄せ波時には、図12に示すように開口が絞られた流入口となり、その間隙を通る波の流速が高くなり、渦が発生することによっても波のエネルギーが消費される。
遊水部15内の水位が上昇後、引き波に伴い、越流部や構造物前面の水位が低下し、水位差により遊水部15内に入り込んだ水が、導水壁20,20間の流出口17から流速を高めて排出されることにより、同様に波のエネルギーが消費される。
また、図4に示すように、横方向に多数並べた状態で設置すること、図6に示すように仕切り壁16を介して連設状態とすること、図7に示すように仕切り壁を使用しないで設置することは、それぞれ第一実施例の変形例と同様である。
次に、本発明に係る長周期波低減対策構造物の性能実験について説明する。
1.実験方法
図13(a)(b)に示す断面水槽を用い、縮尺1/50で、二次元水理模型実験を行った。尚、同図に示す寸法は現地スケールを示している。
図1、図9、図10に示す第一、第二及び第三実施例に示す構造物A,B,Cの模型を使用し、前面の水位測定のために、図13に示すようにNo1〜7の容量式波高計7台と、流速計1台を設置し実験を行った。サンプリング周波数は20Hzとし、造波開始から300秒間のデータを収録した。
反射率は、波高計No.3〜6で測定された時系列の水位波形を適宜用いて、合田ら(1976)による入反射分離推定法により算出した。
反射率を算定する際には、波が到達してから造波板による再反射波が解析に用いる波高計に到達するまでの時間を考慮し解析した。
入射波条件は第1表に示すように、波高0.5mの規則はであって、周期10,30,50sの3種類とした。
第1表
Figure 0004883452


2.実験結果
構造物A〜Cで実験を行った結果、長周期波の周期と反射率の関係は図14に示す如くであった。この結果から、周期30sで反射率が0.6前後、周期50sで反射率が0.8前後であり、長周期波に有効な構造であることが確認できた。
上述した各実施例では、導流壁20,20の前面側に前面壁11を設け、これにスリット状の通水口14を開口させたものを示しているが、この前面壁11は必ずしも必要ではなく、図15に示すように、前面壁を設けずに流出口14aを設けたものであっても良い。尚、図15は第一実施例において前面壁を除去したものを示しているが、第二、第三実施例においても同様である。
本発明にかかる長周期波低減対策構造物の第一実施例を示す正面図である。 図1中のF−F線断面図である。 図2中のG−G線断面図である。 図1に示す実施例の構造物を並べて設置した状態を示す平面図である。 図1に示す第一実施例の波のエネルギー消費メカニズムを示す説明図であり、(a)は寄せ波時断面図、(b)は同平面図、(c)は引き波時の平面図である。 本発明にかかる第一実施例の変形例を示す平面図である。 本発明にかかる第一実施例の他の変形例を示す平面図である。 本発明にかかる長周期波低減対策構造物の第二実施例を示す横断面図である。 図8中のI―I線断面図である。 本発明にかかる長周期波低減対策構造物の第三実施例を示す横断面図である。 図10中のJ−J線断面図である。 図11に示す第三実施例における寄せ波時のエネルギー消費メカニズムを示す説明図である。 本発明にかかる長周期波低減対策構造物の実験おいて使用した水槽を示すもので(a)は全体の縦断面図、(b)は計測機器設置位置の配置を示す拡大図である。 同上の実験による結果を示すグラフである。 本発明にかかる第一実施例の他の変形例を示す横断面図である。 従来のスリットケーソンを縦断して示す斜視図である。 同スリットケーソンの波のエネルギー消費メカニズムを示す説明図である。 長周期波低減対策構造物の従来例を示す縦断面図である。 長周期波低減対策構造物の他の従来例を示す縦断面図である。
α 導流壁間の角度
A,B,C 構造物
11 前面壁
12 側壁
13 背面壁
14 通水口
14a 流出口
15 遊水部
16 仕切り壁
17 流出口
20 導流壁
21 越流部
22 底版
23 スロープ

Claims (3)

  1. 船舶の荷役作業等が行われる港湾内において周期が数十秒〜数分の長周期波を低減させるための長周期波低減対策構造物であって、
    海側が広がった平面視がV字状に配置された一対の導流壁を有し、その両導流壁の上縁は、海側端部が最も高く、奥側に至るに従って低くなるように傾斜させた越流部を備えるとともに、前記導流壁の背面側に遊水部を備え、かつ該遊水部には海側に通じる流出口が連通され、海側からの寄せ波時に波が前記越流部を越えて遊水部に入り、前記流出口から徐々に海側に排出されるようにしてなる越流式長周期波低減対策構造物。
  2. 前記導流壁間に海側が低く、奥に行くに従って高く傾斜させたスロープを備えてなる請求項1に記載の越流式長周期波低減対策構造物。
  3. 前記一対の導流壁のV字状奥側端部間に間隔を設け、該間隔を前記流出口としてなる請求項1に記載の越流式長周期波低減対策構造物。
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